説明

粘膜乾燥状態に関する検討

本発明は、医学的状態の診断および/または治療に関する。本発明は、被験体における粘膜乾燥状態を診断する、新規な方法に関する。この状態は、ドライアイであってもよい。本発明は、粘膜乾燥状態の治療効果をモニターする方法、粘膜乾燥状態を治療する方法、および/または粘膜乾燥状態用の診断キットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学的状態に関する。特に、本発明は、粘膜乾燥状態に関する。
【背景技術】
【0002】
シェーグレン症候群は、口内乾燥症およびドライアイの特定の形態を特徴とする自己免疫性炎症性疾患である。これは、涙腺の涙を分泌する能力に影響し、ドライアイ、口内乾燥症の原因となる唾液腺機能障害、および他の粘膜(mucous membrane)、例えば、気管支上皮、膣、および他の粘膜(mucosa)などの乾燥をもたらす。
【0003】
涙および唾液のこの喪失は、眼の特徴的変化(水性涙欠乏症(aqueous tear deficiency)または乾性角結膜炎と呼ばれる)および歯の悪化、経口感染の増大、えん下困難および口痛を伴った口の特徴的変化をもたらし得る。しかし、粘膜乾燥は、非シェーグレン症候群下に分類される他の原因にもよる場合がある。この原因は、ある特定の種類の薬物の使用、炎症または感染、または甲状腺機能低下症による場合がある。粘膜乾燥状態は、いずれの原因によるものであっても、哺乳動物などの動物及びヒトの両方に影響し得る。
【0004】
眼については、眼の眼窩内に位置する涙腺は、少量の涙液を持続的に分泌し、これは、非常に小さな管を通じて、目の表面上に放出される。ドライアイ症候群は、涙液膜の異常性を伴った涙液の喪失として定義することができる。ドライアイの他覚的徴候はほとんどなく、重要なことに、個別基準で変動する不快感が、患者によって最も認められ、患者が援助を求める動機を与える局面である[1]。重篤な場合については、眼球表面損傷および視覚喪失は珍しくない。
【0005】
ドライアイ(乾性眼)症候群は、大勢の人々に影響を及ぼし、その罹患率は一般人口の11〜22%もの高さであり、西側諸国よりアジアで罹患率が高いと推定される[1]。年齢55歳を超える人および女性においてより一般的であるが、アジアでは、ドライアイは、45歳を超える人における要因である[2]。罹患率は、視覚表示装置の使用者およびコンタクトレンズ着用者においても著しく高い。
【0006】
ドライアイ症候群の原因は多様であるが、基本的に、眼球表面および特に角膜上の液体の喪失による。角膜は、眼の最も重要な光学要素であり、ドライアイにより、良好な視覚および患者の生活の質が低下する。涙液層と呼ばれる、眼球表面上の液体層は、数ミクロンの厚さであるが、以下のような層、すなわち、1−最外側の脂質層、2−中間の水層および3−内側のムチン層を有する。ドライアイ症候群は、2つの主な部類、すなわち、涙分泌欠損および過剰な涙蒸発に分類される。涙液膜の脂質層の機能障害は、涙の過剰蒸発をまねく。しかし、ビタミンAの欠乏によって多くの場合引き起こされるムチン層欠損は、開発途上国を除いてまれである。
【0007】
ドライアイのための製薬会社による治療上の開発について、非シェーグレンドライアイは、これがこれらの患者の大部分を構成するため、第一標的である。現在、1つの実際の治療薬、すなわち、Allergan(登録商標)からのRestasis(登録商標)だけが市場に出ている。この薬物開発の不足の理由は、ドライアイ及び治療効果の客観的尺度の欠如に主に起因する。
【0008】
ドライアイ症候群の診断は、自覚症状、シルマー試験(涙液の量の評価)、涙液層破壊時間(涙液膜の質の評価)、およびフルオレセイン染色、ローズベンガル染色、涙液メニスカス高測定、細胞診(impression cytology)などを含む、あまり一般的ではない臨床試験に一般に基づく。研究により、臨床試験と症状との間で、および異なる臨床試験の間でさえ、相関は乏しいことが示されている[3、4]。これはまた、治療剤の評価のシナリオを困難にする[5]。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、ドライアイなどの粘膜乾燥状態を判定および診断する、新規の改善された方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の問題に対処し、特に医学的状態の診断および治療のための方法を提供する。概して、本発明は、被験体における粘膜乾燥状態を診断するための新規な方法を提供する。
【0011】
一態様では、本発明は、被験体における粘膜乾燥状態を診断する方法であって、当該被験体からの試料を準備するステップ、および、当該試料中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量を、少なくとも1つの基準値と比較するステップ(ここで、当該少なくとも1種のバイオマーカーが、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質、プロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺(Von Ebner’s gland)タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、及び、任意のそれらの誘導体またはそれらのフラグメント、からなる群から選択される)を含む方法に関する。
【0012】
別の態様では、本発明は、被験体における粘膜乾燥状態の重症度を判定する方法であって、当該被験体からの試料を準備するステップ、ならびに、当該試料中のα−1−酸−糖タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、ラクトフェリン、リゾチーム、および/または、任意のそれらの誘導体もしくはそれらのフラグメント、の相対的発現量を、少なくとも1つの基準値と比較するステップを含む方法を提供する。
【0013】
別の態様では、本発明は、被験体における粘膜乾燥状態に対する治療効果をモニターする方法であって、当該被験体から試料を準備するステップ、および、当該試料中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量を、少なくとも1つの基準値と比較するステップ(当該少なくとも1種のバイオマーカーが、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質、プロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、及び、任意のそれらの誘導体またはそれらのフラグメント、からなる群から選択される)を含む方法を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、被験体における粘膜乾燥状態を治療する方法であって、当該被験体からの試料を準備するステップ、当該試料中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量を比較するステップ(ここで、当該少なくとも1種のバイオマーカーが、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質およびプロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および、任意のそれらの誘導体またはそれらのフラグメント、からなる群から選択される)、および、当該バイオマーカー群の中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量の差異を低減させるステップを含む方法を提供する。
【0015】
上記態様では、粘膜乾燥状態はドライアイであってもよい。比較するステップは、粘膜乾燥状態の徴候を呈していない、もしくは粘膜乾燥状態の症状を経験していない、少なくとも1つの被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較とすることができ、および/または比較するステップは、粘膜乾燥状態の徴候を呈していない、もしくは粘膜乾燥状態の症状を経験していない、統計的に有意な数の被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較とすることができる。試料は液体であってもよい。バイオマーカーの発現量は、少なくとも1種のバイオマーカーの存在量に反映し、またはこの存在量によって測定することができる。比較するステップは、質量分析法によるものとすることができる。被験体は、ヒトまたは哺乳動物とすることができる。
【0016】
粘膜乾燥状態を治療するための方法において、少なくとも1種のバイオマーカーは、α−1−酸−糖タンパク質1とすることができ、発現量の差異を低減させるステップは、被験体における炎症を低減させることを含む。少なくとも1種のバイオマーカーは、プロラクチン誘導タンパク質とすることができ、発現量の差異を低減させるステップは、プロラクチンおよび/またはアンドロゲンの投与によって、被験体におけるプロラクチン誘導タンパク質の発現量を増加させることを含む。少なくとも1種のバイオマーカーは、S100A8およびS100A9とすることができ、発現量の差異を低減させるステップは、被験体におけるS100A8およびS100A9の上方制御および/または複合体形成を低減させることを含む。
【0017】
別の態様では、本発明は、ドライアイの状態を診断するためのバイオマーカーのパネルであって、少なくとも1つの基準値を有する、α−エノラーゼ、プロラクチン誘導タンパク質、α−1−酸−糖タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、ラクトフェリン、リゾチーム、フォンエブナー腺タンパク質、高プロリン4タンパク質、および/またはそれらの誘導体もしくはフラグメントを含むパネルを提供する。このパネルは、状態のより詳細なプロファイルを提供することができ、わずか数個の他のバイオマーカーからの結果と比較して、診断および予後の両方の情報が得られる。バイオマーカーのパネルは、固体支持体上またはゲル中に存在することができる。
【0018】
別の態様では、本発明は、粘膜乾燥状態を診断するための診断キットであって、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質およびプロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および、それらの誘導体またはフラグメント、からなる群から選択される、少なくとも1種のバイオマーカーに反応することのできる、少なくとも1種の化学物質を含む診断キットを提供する。当該少なくとも1種の化学物質は、バイオマーカーのいずれか1つに特異的な、少なくとも1種の抗体とすることができる。当該少なくとも1種の化学物質は、固体支持体上またはゲル中に存在することができる。少なくとも1種のバイオマーカーは、α−エノラーゼとすることができ、少なくとも1種の化学物質は、2−ホスホグリセレートである。この診断キットは、キットの使用に関係する情報をさらに含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書において言及する書誌参考文献は、参考文献のリストの形式で便宜上列記され、実施例の最後に加えられている。そのような書誌参考文献の全内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0020】
定義
バイオマーカー−バイオマーカーは、特定の疾患状態の存在および重症度に関係する、解剖的、生理的、生化学的、または分子的パラメーターである。バイオマーカーは、理学的検査、実験室アッセイおよび医学画像法を包含した、様々な方法によって検出可能であり、測定可能である。本発明の下では、タンパク質、タンパク質誘導体、またはタンパク質フラグメントを、バイオマーカーとして使用することができる。
【0021】
粘膜の乾燥、粘膜乾燥状態−これを経験している被験体が不快感を感じるような、粘膜を水和、潤滑、または洗浄する体液の自然産生または残留性の減少。
【0022】
ドライアイ−涙液産生の減少、産生される涙液の残留性欠如または喪失により、患者が眼の不快感を経験する、様々な原因による医学的状態。
【0023】
バイオマーカーの発現−バイオマーカーの定性的または定量的指標は、患部細胞または患部組織におけるその遺伝子、遺伝子転写物または遺伝子産物の発現から求めることができる。バイオマーカーの定量的指標は、測定されるその遺伝子、遺伝子転写物または遺伝子産物の存在量に反映する。発現量または存在量の差異は、異なるバイオマーカー間、または異なる被験体における同じバイオマーカー間で求めることができる。バイオマーカーの相対的発現量または存在量も、バイオマーカー間、または異なる被験体における同じバイオマーカー間で求めることができる。
【0024】
粘膜(mucosa)/粘膜(mucous membrane)−すべての身体通路、例えば、瞼の裏側、眼球、および呼吸器管、消化管および尿管、ならびに粘液を分泌する細胞および付随する腺を有する組織などを裏打ちする膜。
【0025】
タンパク質−特定の順序のアミノ酸の1本または複数本の鎖からなる生体分子。タンパク質は、アイソフォームなどの誘導体を有する場合がある。タンパク質アイソフォームは、いくつかの小さな差異を有するタンパク質のバージョン、通常スプライスバリアントまたはある翻訳後修飾の産物である。本発明の下では、タンパク質は、そのタンパク質が、1または複数の使用される方法によって検出、同定および/または定量化されるのに十分に大きい誘導体およびフラグメントを網羅する。
【0026】
正常範囲−バイオマーカーの正常範囲は、特定の医学的状態を経験していない、または特定の医学的状態と診断されていない被験体における、バイオマーカーの発現または発現量の範囲である。したがって、この正常範囲からのバイオマーカーの任意の変動(増加または減少)は、医学的状態を示す。本条件下で、バイオマーカーの発現または発現量の正常範囲からの統計的に有意な変動は、粘膜乾燥状態、例えばドライアイの状態などを示す。本発明の下では、正常範囲からの変動は、対照試料を試験試料と並行して試験にかけることによって求めることができる。あるいは、正常基準範囲は、統計的に有意な数の対照試料から予め求めることができ、得られる値は、この正常基準範囲と比較することができる。
【0027】
一態様では、本発明は、被験体における粘膜乾燥状態を診断する方法であって、この被験体からの試料を準備するステップ、および、当該試料中の、少なくとも1種のバイオマーカーの発現量を、少なくとも1つの基準値と比較するステップ(ここで、当該少なくとも1種のバイオマーカーが、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質、プロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および、任意のそれらの誘導体またはそれらのフラグメント、からなる群から選択される)ステップを含む方法に関する。別の態様では、本発明は、被験体における粘膜乾燥状態の重症度を判定する方法であって、当該被験体からの試料を準備するステップ、ならびに当該試料中のα−1−酸−糖タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、ラクトフェリン、リゾチーム、および/または、任意のそれらの誘導体もしくはそれらのフラグメントの相対的発現量を、少なくとも1つの基準値と比較するステップを含む方法を提供する。
【0028】
別の態様では、本発明は、被験体における粘膜乾燥状態に対する治療効果をモニターする方法であって、この被験体からの試料を準備するステップ、および、当該試料中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量を比較するステップ(ここで、当該少なくとも1種のバイオマーカーが、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質およびプロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および、任意のそれらの誘導体またはそれらのフラグメント、からなる群から選択される)を含む方法を提供する。
【0029】
別の態様では、本発明は、被験体における粘膜乾燥状態を治療する方法であって、当該被験体からの試料を準備するステップ、当該試料中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量を比較するステップ(ここで、当該少なくとも1種のバイオマーカーが、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質およびプロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および、任意のそれらの誘導体またはそれらのフラグメント、からなる群から選択される)、および、当該バイオマーカー群中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量の差異を低減させるステップを含む方法を提供する。
【0030】
上記態様では、粘膜乾燥状態は、ドライアイであってもよい。比較するステップは、粘膜乾燥状態の徴候を呈さず、もしくは粘膜乾燥状態の症状を経験していない、少なくとも1つの被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較とすることができ、および/または比較するステップは、粘膜乾燥状態の徴候を呈さない、もしくは粘膜乾燥状態の症状を経験していない、統計的に有意な数の被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較とすることができる。試料は液体であってもよい。バイオマーカーの発現量は、少なくとも1種のバイオマーカーの存在量に反映し、またはこの存在量によって測定することができる。比較するステップは、質量分析法によるものとすることができる。被験体は、ヒトまたは哺乳動物とすることができる。
【0031】
粘膜乾燥状態を治療するための方法下で、少なくとも1種のバイオマーカーは、α−1−酸−糖タンパク質1とすることができ、発現量の差異を低減させるステップは、被験体における炎症を低減させることを含む。少なくとも1種のバイオマーカーは、プロラクチン誘導タンパク質とすることができ、発現量の差異を低減させるステップは、プロラクチンおよび/またはアンドロゲンの投与によって、被験体におけるプロラクチン誘導タンパク質の発現量を増加させることを含む。少なくとも1種のバイオマーカーは、S100A8およびS100A9とすることができ、発現量の差異を低減させるステップは、被験体におけるS100A8およびS100A9の上方制御および/または複合体形成を低減させることを含む。
【0032】
別の態様では、本発明は、ドライアイの状態を診断するためのバイオマーカーのパネルであって、α−エノラーゼ、プロラクチン誘導タンパク質、フォンエブナー腺タンパク質、高プロリン4タンパク質、および、それらの誘導体またはフラグメントを含むパネルを提供する。このパネルは、状態のより詳細なプロファイルを提供することができ、わずか数個の他のバイオマーカーからの結果と比較して、診断および予測の両方の情報が得られる。バイオマーカーのパネルは、固体支持体上またはゲル中に存在することができる。
【0033】
別の態様では、本発明は、粘膜乾燥状態を診断するための診断キットであって、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質およびプロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および、それらの誘導体またはフラグメントからなる群から選択される、少なくとも1種のバイオマーカーに反応することのできる、少なくとも1種の化学物質を含む診断キットを提供する。この少なくとも1種の化学物質は、バイオマーカーのいずれか1つに特異的な、少なくとも1種の抗体とすることができる。この少なくとも1種の化学物質は、固体支持体上またはゲル中に存在することができる。少なくとも1種のバイオマーカーは、α−エノラーゼとすることができ、少なくとも1種の化学物質は、2−ホスホグリセレートである。この診断キットは、キットの使用に関係する情報をさらに含むことができる。
【0034】
本発明の下では、粘膜乾燥に関係するバイオマーカーの群の少なくとも1種のバイオマーカーの検出、同定、および/または定量化により、粘膜乾燥状態の診断に関する基盤が提供される。具体的には、被験体の涙液中での、バイオマーカーの群の少なくなくとも1種のバイオマーカーの検出、同定、および/または定量化により、任意の原因によるドライアイの状態を診断するための基盤が提供される。
【0035】
バイオマーカーのこの群の任意の1種または複数種のバイオマーカーは、1つまたは複数の適当な方法によって、検出、同定、および/または定量化することができる。これらのバイオマーカーの発現量の正常範囲からの任意の変動は、被験体が状態を訴えていてもいなくても、ドライアイの状態を示す。
【0036】
これらのバイオマーカーの1種または複数種の発現量を測定するために、被験体から涙液を得、バイオマーカーを検出、同定、および/または定量化する。免疫反応(例えば、酵素結合免疫吸着測定法)および酵素反応などの他の生化学反応などの多くの方法が、本発明下の技術分野において利用可能である。そのような反応は、色変化またはある特定の波長の光の吸光度もしくは透過の差異などの測光手段によって、バイオマーカーを検出することを含むことができる。
【0037】
使用するのに適した別の方法は、当業者に周知の質量分析法(MS)である。最近のMSシステムは、イオン化、検出および分析手段を含む。試料の分析に関して、このシステムは、検出手段から得られるデータを、既知の標準と比較することによって、試料中の成分を同定することができ、またはこのシステムは、同じ試料内の異なる成分を比較することによって、結果を導出することができる。
【0038】
本発明の下では、定量的プロテオミクス法である、ナノスケールでの2次元液体クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析法(ナノLC−ナノ−ESI−MS/MS)を伴ったiTRAQ技術[6]を、統計分析と組み合わせ、涙分泌の喪失を伴ったドライアイ症候群と診断された患者の涙液中のバイオマーカーを、検出、同定、および定量化するのに使用した。ナノLC−ナノ−ESI−MS/MSは、当技術分野で周知であり、複雑なタンパク質混合物を分離するために開発された[20]。この分離は、以前は、1次元または2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(1Dまたは2D PAGE)を使用して実施されたが不十分であった。
【0039】
検出されたバイオマーカーを、ドライアイの診断に使用するのに十分な信頼度を獲得するために、MSデータの分析に厳密な判定基準が設定され、その後統計分析を行うことによって、状態の重症度の指標が提供される。
【0040】
粘膜乾燥状態の診断に関して、本発明の下でのバイオマーカーの生物学的機能は、以下の通りである。
【0041】
α−エノラーゼ:α−エノラーゼ(ae)は、多くの細胞において豊富に発現される、主要な糖分解酵素の1つである。しかし、さらに最近では、α−エノラーゼは、造血細胞(好中球、B細胞、T細胞、単球)、上皮細胞、神経細胞などの細胞において、表面タンパク質として、細胞表面上にも見出された[7]。その生来の糖分解機能に加えて、α−エノラーゼは、多機能性タンパク質として認識されてきた。非常に最近の研究では、α−エノラーゼは、いくつかの疾患プロセス、例えば、多くの自己免疫障害、癌、全身性真菌症、および歯科疾患において重要な役割を果す場合があることが示されている。しかし、涙液中にα−エノラーゼが存在するのを報告するのは、これが最初である。
【0042】
α−1−酸糖タンパク質1:α1−酸糖タンパク質1(AGP)は、41〜43kDaの分子量を有する、大幅にグリコシル化されたタンパク質(45%)である[8]。これはまた、リポカリンファミリーに属する。これは、炎症反応に関係する。その合成は、糖質コルチコイド、インターロイキン−1、およびインターロイキン−6によって制御される。その抗炎症効果が注目された。AGPは、炎症誘発効果および抗炎症効果の両方を呈する。これらの2つの免疫調節効果は、AGPが、免疫応答および炎症の調節に重要な役割を果すことを示すことができる。涙液中にα1−酸糖タンパク質1を検出したのを報告するのも、これが最初である。
【0043】
S100A8およびS100A9:S100A8およびA9は、S100カルシウム結合タンパク質ファミリーに属する。S100A8、A9およびA12は、炎症誘発タンパク質の新規なグループを形成することを示す証拠が増えている[9]。炎症性疾患では、S100A8およびS100A9の両方の過剰発現が、一般に見られる。これらは炎症部位で分泌される。ドライアイの涙中では、S100A8のみの過剰発現が以前に報告されている[10]。これらの2つのタンパク質は、複合体を形成することができ、これは、高濃度で存在する場合、アポトーシスを誘発する。
【0044】
S100A4:S100A4は、S100カルシウム結合タンパク質ファミリーのメンバーである。S100A4の最もよく知られている役割は、細胞形状変化を引き起こす、その能力である。さらに最近では[11]、S100A4は、in vivoで角膜血管新生を刺激することができることが示された。S100A4はまた、成長因子シグナル伝達およびアポトーシス細胞死に明らかに関与することから、成長の恒常性に関与していると思われる。S100A4の発現が、おそらく細胞外基質を再構築し、細胞外基質中に生じる接着媒介巨大分子(adhesion−mediating macromolecule)の再配置を促進することによって、細胞の接着性を変化させるというかなりの証拠が存在する[12]。
【0045】
S100A11:これは、S100カルシウム結合タンパク質ファミリーの別のメンバーである。S100A11は、アポトーシスに関与すると思われる[13]。
【0046】
ラクトフェリンおよびリゾチーム:これらは、周知の豊富なヒト涙タンパク質である。これらはともに、眼球表面上で抗菌活性を有する。以前の研究では、ドライアイを有する患者において、これら2つの涙タンパク質の下方制御が観察された[14、10]。
【0047】
フォンエブナー腺タンパク質:涙特異的プレアルブミン(tear specific prealbumin)(TSPA)または涙リポカリンとも呼ばれる、フォンエブナー腺タンパク質[15]は、主要な涙タンパク質の1つであり、主要な脂質結合タンパク質として作用する。これは、上皮表面の一般的な保護因子とみなされている。
【0048】
プロラクチン誘導タンパク質:プロラクチン誘導タンパク質(PIP)は、いくつかの外分泌組織、例えば、涙腺、唾液腺、汗腺などにおいて一般に発現され、乳癌にも関係し得る[16]。非常に最近の研究により、プロラクチン誘導タンパク質は、眼瞼炎患者の涙中で下方制御されることが示されたが、ドライアイとの関連を報告するのはこれが最初となるであろう[17]。
【0049】
高プロリン4タンパク質:これも、最近、豊富な涙タンパク質の1つとしてみなされている[18、10]。高プロリンタンパク質4は、涙腺において豊富に発現され、そこでこれは、腺房細胞中に見出される[19]。これは、腺房細胞の機能を反映する可能性がある。これは、ドライアイ患者において下方制御されることが示された[10]。
【0050】
本発明の方法を使用して、ドライアイなどの粘膜乾燥状態の診断がされたら、当該方法をその状態のための治療効果をモニターする方法としても使用することが可能になるであろう。被験体に、治療方法を処方し、本発明の1種または複数種のバイオマーカーの発現量を定期的に求めることによって、間隔を置いてモニターすることができる。そのような粘膜乾燥状態の治療の種類および継続期間、ならびに治療効果をモニターする間隔および継続期間は、医師などの当業者に分かるであろう。本発明の方法は、薬物治験での新規な治療効果をモニターするためにも使用することができる。
【0051】
本発明は、本発明の1種または複数種のバイオマーカーの変動の原因に対抗することにより、1種または複数種のバイオマーカーの発現量を正常範囲に戻すことによって、粘膜乾燥状態を治療する方法も提供する。
【0052】
本発明は、診断のため、および粘膜乾燥状態をプロファイルするためのバイオマーカーのパネルも提供する。いくつかのバイオマーカーの発現量は、医学的状態によって変化する場合があるが、バイオマーカーのパネルにより、状態のより詳細で正確な診断が提供される。パネル上のバイオマーカーが測定される場合、パネル上の互いのバイオマーカーの相対的発現量または存在量により、状態の重症度を示すことができる。
【0053】
本発明は、ドライアイなどの粘膜乾燥状態の診断のための診断キットも提供する。このキットは、1種または複数種のバイオマーカーと反応することのできる少なくとも1種の化学物質を含み、その結果反応を検出することができる。例えば、化学物質は、1種のバイオマーカーに特異的に結合する抗体とすることができる。あるいは、化学物質は、バイオマーカーのための基質とすることができる。これらの化学物質は、固体支持体またはゲルなどの支持体上に存在することができる。この診断キットにより、定性的および/または定量的結果を得ることができ、医学的状態を診断することが可能になる。
【0054】
これまでに本発明を概ね説明してきたので、本発明は、以下の実施例を参照することによって、より容易に理解されるであろう。この実施例は、例示の目的で提供され、本発明を限定することは意図されていない。
【0055】
方法
(実施例1)
【0056】
患者
ドライアイ症候群と臨床的に診断された合計28人の患者および他の眼の疾患を有していない20人の対照被験者を採用した。すべての参加被験者からインフォームドコンセントを得、全体の手順は、Singapore Eye Research Institute(SERI)の治験審査委員会によって承認され、また、ヘルシンキ宣言の教義に従った。臨床検査は、自覚症状、シルマー試験(麻酔なし)、涙液層破壊時間(TBUT)試験、および他の一般的な眼科検査、例えば視力、ならびに眼瞼縁およびマイボーム腺評価などを包含した。ドライアイについての一般的な感情症状は、焼灼感、痒み感および刺痛感、異物感、乾燥感、視覚のぼやけ、羞明(まぶしがり)、疼痛および重い目または疲れ目を包含する。患者は、シルマー試験、TBUT、および自覚症状に基づいて、ドライアイを有すると分類された。
(実施例2)
【0057】
採取および涙タンパク質溶出
すべての患者の涙液は、シルマー細片(Schirmer strip)を使用して採取した。この試験のために、麻酔なしで5分間、下の瞼の中に薄い(紙の)涙用細片を置く。続いて採取した涙をこの細片から溶出した。涙の低減により、キャピラリー法を使用して涙を採取することが非現実的になったので、これを行うことができることは重要であった。採取後、シルマー細片は、分析するまで−80℃に直ちに凍結させた。シルマー細片の最初の10mmを切断して小片にし、150μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に3時間浸漬することによって、シルマー細片から涙タンパク質を溶出した。次いで、全涙タンパク質の濃度を、各試料について、Micro BCA Protein Assay Kit(Pierce Biotechnology,Inc.)を使用して測定した。
(実施例3)
【0058】
研究デザインおよびiTRAQ(相対的および絶対的定量化iTRAQのためのアイソバリックタグ(isobaric tag))試料調製
iTRAQ技術により、4つの試料を同時に標識することが可能になるので、各セットにおいて2つの対照(C)および2つのドライアイ試料(DE)を使用した(合計14セット)。これらの14セット中、個々の対照試料を9セットにおいて使用し、プールした対照試料(5つの対照からプールした試料1種、および、3つの対照からプールした試料1種)を、別の5セットの実験において使用した。各試料からの30μgをiTRAQ実験に使用した。iTRAQ手順は、Applied Biosystems(Foster City、CA)によって提供されたプロトコルに従った。ここでは、iTRAQ試薬キットからの、20μlの溶解緩衝液(トリエチルアンモニウムビカーボネート)および1μlの変性剤(2%のSDS)を、試料に加えた。次いで、2μlの還元試薬(トリス−(2−カルボキシエチル)ホスフィン)を次いで加え、試料を60℃で1.5時間インキュベートした。次ステップで、1μlのシステイン遮断試薬(cysteine blocking reagent)(メチルメタンチオスルホネート)を加え、室温で20分間インキュベートした。次いで試料を、トリプシンを用いて、37℃で一晩消化した。iTRAQ試薬114および115を対照試料に加え、一方、iTRAQ試薬116および117をドライアイ試料に加えた。次いで、試料を室温で3時間インキュベートした。各iTRAQ試薬で標識した試料の内容物を合わせ、SpeedVac濃縮機を使用して乾燥させた。試験のために、10μlのローディング緩衝液(水中0.1%のギ酸、2%のアセトニトリル)を加えることによって試料を再構成した後、2Dナノ−LC−ナノ−ESI−MS/MS分析を実施した。
(実施例4)
【0059】
2次元ナノ−LC−ナノ−ESI−MS/MS分析
ナノ−ESI−MS/MS(Applied Biosystems、Q−Star XL、MDS Sciex、Concord、Ontario、カナダ)と一体となった2次元ナノLC(DIONEX、LC Packings、Sunnyvale、CA)を分析のために使用した。ペプチドの2次元LC分離は、最も一般的な構成であり、強陽イオン交換(SCX)とそれに続く逆相(RP)クロマトグラフィーからなる。第1の次元で使用したSCXカラムは、DIONEX、LC Packingsからのもの(内径300μm×10cm 多孔度 10S SCX)であった。
【0060】
ペプチド混合物の溶出は、すべて30μl/分の流速で、10段階の漸増塩濃度(10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、75mM、100mM、250mM、500mMおよび1000mMの酢酸アンモニウムの20μlの注入)を使用して、および0.1%ギ酸/ACN(95:5、v:v)のローディング溶媒を使用して実施した。第2の次元で使用したRPカラムは、自己充填PicoFrit(外径360μm、内径75μm、50cm、New Objectives、Woburn、MA)から自己充填した、10cm×内径75μmのマイクロキャピラリーLCカラムであった。このキャピラリーカラムに、自作のカラム充填装置を使用して、Phenomenex(Torrance、CA)からのLuna C18、3μm、100Åを充填した。このキャピラリーカラムは、スプレーチップ(15μmの開口)が組み込まれていた。このチップは、ナノスプレーインターフェース(Protana、Odense、デンマーク)と直接連結して、ABIのQ−TOF質量分析計中につながることができる。
【0061】
SCX分離の後、脱塩のために、30μL/分で、Famos自動サンプラー(DIONEX、LC Packings)からトラップカートリッジ(DIONEX、LC PackingsからのC18、0.3×5mm)に試料を添加した。アセトニトリル/水(0.1%のギ酸を含む、2/98、v/v)で5分洗浄した後、システムを切り替えて(Switchos、DIONEX、LC Packings)、RP分析用キャピラリーカラムに合わせた。最終溶媒(ultimate solvent)送達システム(DIONEX、LC Packings)を使用して、約300nL/分の流速での、85分にわたる20%から95%のアセトニトリル(0.1%のギ酸)の直線勾配を使用することによって、トリプシン消化物を分析した。ナノスプレーおよび他の計測装置の主要なパラメーターの設定は、以下の通りであった:イオンスプレー電圧(IS)=2200V、カーテンガス(CUR)=20、クラスター分離電位(declustering potential)(DP)=60V、集束電位(FP)=265V、衝突ガス設定(CAD)=窒素ガスについて5、DP2=15。
【0062】
すべてのデータは、Analyst QSソフトウェア(Applied Biosystems)とともに情報依存取得(IDA)モードを使用して取得した。IDAパラメーターについては、300〜1200の質量範囲において、1秒の飛行時間(TOF)質量分析法(MS)サーベイスキャン、その後に、100〜1500の質量範囲において、2回のそれぞれ3秒のプロダクトイオンスキャンが続いた。「すべて強調する」機能を、IDA実験において使用した。切り替え判定基準は、2から4の荷電状態および20カウント/秒超の表示しきい値(expression threshold)で、質量−電荷比(m/z)=350超およびm/z=1200未満のイオンに対して設定した。前者の標的イオンは、60秒間排除した。IDA衝突エネルギー(CE)パラメータースクリプトを、CEを自動的に制御するために使用した。
(実施例5)
【0063】
データ分析
iTRAQ実験についてのデータ分析は、ProGroup View 1.0(Applied Biosystems)とともにProQUANT 1.0を使用して実施し、IPI(International Protein Index)のヒトデータベースv3.15と対照して探索した。ProQUANT探索でのペプチド同定のために設定した質量許容誤差は、それぞれ、MSについて0.15DaおよびMS/MSについて0.10Daであった。信頼度設定のためのカットオフは75であった。他の探索パラメーターは、システイン固定修飾(cysteine fixed modification)としてのMMTS(メチルメタンチオスルホネート)、トリプシン切断部位の切断ミス1(1 missed trypsin cleavage site)、ゾーン修飾(zone modification)でのメチオニンへの酸化、ならびに、リジンおよびチロシンへのiTRAQ修飾を伴った独自アミノ酸を包含する。
【0064】
次いで、Pro Quantによって生じた結果を、Pro Group Viewer 1.0(Applied Biosystems)により分析し、集計することによって、ProGroupレポートを作成した。タンパク質同定の判定基準は、以下の通りであった。(a)2超のProtScore(99%超の信頼度)を有するタンパク質は、すべて容認した。(b)ProtScore=2(99%の信頼度)を有するタンパク質、一般に99%の信頼度を有する1個のペプチドは、手作業でMS/MSスペクトルを確認して容認した。示差的な表現のために、別個に標識した試料の組合せの間に起こり得るピペット誤差を補正するために、バイアス補正因子を適用した。
【0065】
iTRAQ技術を使用した、タンパク質の相対的定量化は、MS/MSスペクトルからのm/z114、115、116および117Daのピーク面積の比に基づく。2つの対照(C1およびC2)は、114および115でタグを付け、2つのドライアイ試料(DE1およびDE2)は、116および117でタグを付けたので、相対的定量的結果は、DE1:C1、DE2:C1、DE1:C2、DE2:C2、C1:C2およびC2:C1として表すことができる。定量的結果については、報告する比に加えて、Pro Groupにより、p値および誤差因子(EF)も得られる。より小さなp値(0から1のスケールで)は、実際の生物学的差異から生じる発現の変化(単一でない比、例えば、病的試料対正常試料)について、より高い信頼度を多くの場合意味する。EFは、任意の報告された比について95%の不確実性範囲を表す。
(実施例6)
【0066】
統計分析
(a)比の平均の計算
14セットのiTRAQデータから、特定のタンパク質についての比の平均を得るために、EFを関与させることによる、加重平均計算を使用した。最初に、比を対数空間[log(比)]に変換した。次いで、加重値としてEFの対数の逆数を使用した。対数空間での加重平均は、以下の式を使用して計算した。
加重値平均(対数空間)=合計[log(比)×加重値]/合計(加重値)
式中、加重値=1/log EF
最後に、これを対数空間から元に戻すことによって、「比の加重値平均」を求める。
【0067】
(b)t検定によって有意な変化を見出すこと
この比を2つのグループ、すなわち、ドライアイグループ(DE1:C1、DE2:C1、DE1:C2、DE2:C2)および対照グループ(C1:C2およびC2:C1)に分けた。14セットのiTRAQ実験からのデータを合わせ、スチューデントt検定を実施してp値を計算することよって、ドライアイグループと対照グループの間の変化が有意であるかどうかを評価した(0.05未満のpは、有意な変化であると考えられた)。
【0068】
(c)バイオマーカーパネルの選択
t検定後、10種のバイオマーカー候補を、その0.05未満のp値に基づいて選択した。高プロリンタンパク質4も、文献[10]で報告されていたので、バイオマーカーとして採用した。線形分類器を使用して、これらのバイオマーカー候補の最良の組合せを決定することによって、バイオマーカーパネルを形成した。最初に、個々のバイオマーカー候補について、受信者動作特性(ROC)曲線を得た。1位に格付けされたバイオマーカー候補(α−エノラーゼ)を採用し、ドライアイの症例の同定のために使用した。α−エノラーゼによって陰性と分類された試料のために、残っている10種のバイオマーカー候補のうちの任意の最大8種の組合せを使用する線形分類器を構築した。バイオマーカーの最適なパネルの選択は、異なる数のバイオマーカー候補の性能曲線(図1)によって決定した。結果として、3種のタンパク質(p0、p1およびp2)の線形結合
y=log2比_p0 + a1・log2比_p1 + a2・log2比_p2
を、ドライアイの症例と正常な場合をさらに区別するために使用した。パラメーターa1およびa2は、ROC精度(ROC曲線下面積)の最適化に基づいて求めた。
(実施例7)
【0069】
結果
涙タンパク質同定
タンパク質同定のための非常に厳密な判定基準(2超のProtScore、99%超の信頼度)を使用して、14セットのiTRAQ実験から、合計64種の涙タンパク質を同定した。このしきい値を用いて、一般に、高信頼度を有する2個以上のペプチドを、タンパク質同定のために使用した。ProGroup Viewでは、各ペプチドは、2.0以下しかProtScoreに寄与することができない(99.0%以下の高さの信頼度に等価)。表1に、各タンパク質について、全ProtScoreおよび同定されたペプチドの数を含む、タンパク質同定リストを示す。
【0070】
【表1−1】

【0071】
【表1−2】

【0072】
【表1−3】

(実施例8)
【0073】
iTRAQ技術によってドライアイ患者を正常な対照と比較した、涙タンパク質の相対的定量化および潜在的なバイオマーカーの発見
全体的に、統計分析により、合計で10種のタンパク質が、ドライアイグループと正常な対照グループとの間で異なって発現され、ドライアイ患者において、6種のタンパク質が上方制御され、4種のタンパク質が下方制御されたことが示された。これら14セットからの10種のドライアイバイオマーカーについての比、p値およびEFを以下に示す。
【0074】
6種の上方制御されたタンパク質、すなわち、α−エノラーゼ、α−1−酸糖タンパク質1、S100A8(カルグラニュリンA)、S100A9(カルグラニュリンB)、S100A4およびS100A11(カルギザリン)が見つかり、4種の下方制御されたタンパク質、すなわち、プロラクチン誘導タンパク質(PIP)、フォンエブナー腺タンパク質(涙特異的プレアルブミン、リポカリン)、ラクトフェリンおよびリゾチームが見つかった(図2を参照されたい)。表2に、対照グループおよびドライアイグループについての、上記10種のタンパク質の加重平均比およびp値を要約する。これらの10種のバイオマーカーの中で、α−エノラーゼ、α−1−酸糖タンパク質1、S100A9、S100A4、S100A11およびプロラクチン誘導タンパク質は、これまで一度も報告されていなかった。図3〜5は、プロラクチン誘導タンパク質、α−エノラーゼおよびα−1−酸糖タンパク質1についての3つの代表的なMS/MSスペクトルを示し、これらにより、同定および定量的情報の両方が得られる。
【0075】
【表2】

【0076】
図3Aは、m/z=701.10での、プロラクチン誘導タンパク質に由来する、1個の3価に帯電したペプチドイオン、TYLISSIPLQGAFNYJ(Jは、iTRAQで修飾されたリジン残基を表す)のMS/MSスペクトルを示す。100〜1200Daの質量範囲において、bイオンシリーズおよびyイオンシリーズの両方が観察された。111.0から120.0DaにMS/MSスペクトルを拡大すると、m/z=114.1、115.1、116.1および117.1Daで、4つのiTRAQレポーターイオンが得られる。一般に、2つの対照試料を標識するのに、iTRAQ試薬114および115を使用し、2つのドライアイ試料を標識するのに、iTRAQ試薬116および117を使用した。タンパク質の相対量は、m/z=114.1、115.1、116.1および117.1Daでのレポーターイオンのピーク面積の比に基づいた。図3Bから、ドライアイの涙中のプロラクチン誘導タンパク質の下方制御が、はっきりと観察された。図4Aおよび5Aは、それぞれ、α−エノラーゼに由来する、1個の3価に帯電したペプチドイオン(m/z=877.40DaでのSGETEDFIADLWGLCTGQIJ)およびα−1−酸糖タンパク質1に由来する、1個の4価に帯電したペプチドイオン(m/z=475.00DaでのYVGGQEHFAHLLILR)のMS/MSスペクトルを示す。同様に、MS/MSスペクトルの拡大により(図4Bおよび5B)、ドライアイの涙液中でのα−エノラーゼおよびα−1−酸糖タンパク質1の過剰発現が明らかになった。
(実施例9)
【0077】
ドライアイバイオマーカーおよびバイオマーカーパネルについてのROC曲線
最初に、各バイオマーカー候補について、個々にROC曲線を作成した。ROC曲線では、DE:C比についての様々なカットオフ値の真陽性率(感度)対偽陽性率(1−特異度)がプロットされる。ROC曲線下面積も計算した。この面積は精度である。ROC曲線は、異なる試験の実績を比較するのに有用である。上方制御されたタンパク質の中で、最良の個々のバイオマーカー候補は、85%の精度でα−エノラーゼであり(図6A)、一方、プロラクチン誘導タンパク質は、81%の精度で、下方制御されたタンパク質の筆頭である(図6B)。
【0078】
線形分類を使用して、バイオマーカーの最良の組合せが、状態をプロファイルするためのバイオマーカーのパネルとして有用であることが判明した。このバイオマーカーパネルは、4種のタンパク質、すなわち、α−エノラーゼ(ae)、プロラクチン誘導タンパク質(PIP)、フォンエブナー腺タンパク質(vEgp)および高プロリンタンパク質4(pr4)を含有する。方法は2段階アプローチである。
【0079】
最初に、α−エノラーゼの比(DE:C)が1.70を超える場合、ドライアイ試料が予想されるであろう。この判定基準を満たさない試料については、ドライアイの症例をさらに同定するために、以下の式が使用されることになる。
y=log2比(pr4)−log2比(PIP)−0.8log2比(vEgp)
yについてのカットオフ値は、0.2から1.8の範囲である。
【0080】
このアプローチを使用することによって、ドライアイを正確に診断するための精度を、98%に上昇させることができる。高プロリンタンパク質4は、単一のバイオマーカーとして使用される場合、性能が非常に劣ることに注意すべきである。しかし、プロラクチン誘導タンパク質およびフォンエブナー腺タンパク質と併用すると、高プロリンタンパク質4は、著しく精度を上昇させることできる。
(実施例10)
【0081】
重度、中度、および軽度のドライアイを分類するのに使用することのできる、潜在的なバイオマーカー
臨床試験の1つ、すなわち、涙液層破壊時間(TBUT)の結果に基づいて、その結果を3つのグループ、すなわち、重度(TUBT<2秒)、中度(TBUT=2〜5秒)、および軽度(TBUT=5〜10秒)にさらに分類した。興味深いことに、上記10種のバイオマーカーの中で、α−1−酸糖タンパク質1、S100A8およびS100A9のみが、ドライアイの重症度を差別化する傾向を示すことを見出した(図7A〜7D)。例えば、α−エノラーゼについては、均一な分布が観察された。しかし、より高いレベルのα−1−酸糖タンパク質1、S100A8およびS100A9は、ドライアイの重症度に関係した(より短い涙液層破壊時間)。
(実施例10A)
【0082】
涙試料中の1種または複数種のバイオマーカーの絶対レベルを提供する方法
iTRAQおよび内標準としての合成ペプチドを使用することによる、涙液中のドライアイのタンパク質バイオマーカー候補の絶対的定量化。これは、正常な対照被験体およびドライアイ患者からの涙液中の、S100A11タンパク質を定量化するアプローチの例を構成する。1つの対照試料および1つのドライアイ試料を標識するのに、それぞれiTRAQ試薬114および115を使用し、一方、2つの既知の濃度(0.5pmol/μlおよび1.25pmol/μl)の、アミノ酸配列(TEFLSFMNTELAAFTJ)を有する合成S100A11ペプチドフラグメントを標識するのに、iTRAQ試薬116および117を使用した。試料調製および2D LC−MS/MS分析は、実施例3および実施例4における手順と同じ手順に従った。図8は、対照、ドライアイ、および2つの異なる濃度の内標準に対応した、114、115、116、および117のピーク強度を示すMS/MSスペクトルを示す。レポーターイオン、すなわち、114、115、116および117のピーク面積を比較することによって、対照の涙およびドライアイの涙中のS100A11タンパク質の絶対濃度を、それぞれ、全タンパク質1μg当たり10.7ngおよび全タンパク質1μg当たり25.4ngと計算することができる。このアプローチを使用して、既知量の異なる内標準を加えることによって、一分析で、すべてのバイオマーカーの絶対的定量化を行うことができる。この種類の情報は、ドライアイのための抗体ベースの試験に使用することができるであろう。
(実施例11)
【0083】
治療
α−1−糖タンパク質1の発現量を減少させることによる、ドライアイの治療
本発明の下では、α−1−糖タンパク質1(AGP)の上方制御によるドライアイの原因は、AGP発現が関与する炎症のいずれかを低減または減少させるための、1つまたは複数の方法によって治療することができる。当業者は、AGPの発現量を低減させるための適当な抗炎症治療を選択することができ、したがって、状態を治療する、または少なくともその症状を軽減することができるであろう。
(実施例12)
【0084】
プロラクチン誘導タンパク質の発現量を増加させることによる、ドライアイ状態の治療
本発明の下では、プロラクチン誘導タンパク質(PIP)の下方制御によるドライアイの原因は、PIPの発現量を増加させるための1つまたは複数の方法によって治療することができる。これは、プロラクチンおよび/またはアンドロゲンの投与によって行われ、したがって、状態を治療する、または少なくともその症状を軽減することができる。
(実施例13)
【0085】
S100A8およびS100A9の発現量を減少させることによる、ドライアイ状態の治療
本発明の下では、S100A8およびS100A9の上方制御によるドライアイの原因は、S100A8およびS100A9の産生が関与する炎症のいずれかを低減または減少させるための、1つまたは複数の方法によって治療することができる。当業者は、S100A8およびS100A9を低減させるための適当な治療方法を選択することができ、したがって、状態を治療する、または少なくともその症状を軽減することができるであろう。
(実施例14)
【0086】
診断キット
α−エノラーゼについての診断キット
ドライアイ状態用の診断キットは、本発明の少なくとも1種のバイオマーカーと反応することのできる、少なくとも1種の化学物質を含むことができる。このような診断キットは、エノラーゼの酵素的定量のために、D−グリセリン酸2−ホスフェート(D−GA2P)[21]または2−ホスホグリセレート(2−PG)[22]などのエノラーゼ用の基質を含むことができる。この酵素反応は、マイクロアレイまたはナノアレイ中で、測光法で測定することもできる[22]。
【0087】
本発明は、哺乳動物などの動物用の獣医薬においても使用することができることが、当業者に明らかであろう。
【0088】
本発明を実行するための具体的な実施例を提供してきたが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当業者によって、様々な改変および改良を行うことができることが理解されよう。
【0089】
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【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】分類を誤った症例の割合と使用したバイオマーカーの数との関係を表す図である。
【図2】10種の潜在的なドライアイバイオマーカーについての、ドライアイグループ(比、DE:C、116:114および117:114)と対照グループ(比、C2:C1、115:114)の比較を表す図である。スチューデントt検定を実施した。p値を、各グラフ上に示す。
【図3】iTRAQを使用した、タンパク質の同定および相対的定量化を表す図である。(A)m/z=701.10での、プロラクチン誘導タンパク質に由来する、3価に帯電したペプチドイオン、TYLISSIPLQGAFNYJ(Jは、iTRAQで修飾されたリジン残基を表す)のMS/MSスペクトル。(B)111.0から120.0DaにMS/MSスペクトルを拡大すると、m/z=114.1、115.1、116.1および117.1Daで、4つのiTRAQレポーターイオンのシグナル強度が得られる。2つの対照試料を標識するのに、iTRAQ114および115を使用し、2つのドライアイ試料を標識するのに、iTRAQ116および117を使用した。相対的定量化は、レポーターイオンのピーク面積の比に基づく。
【図4】(A)α−エノラーゼに由来する、1個の3価に帯電したペプチドイオンのMS/MSスペクトル(m/z=877.40DaでのSGETEDFIADLWGLCTGQIJ)を表す図であり、(B)ドライアイ試料と対照試料との間の、α−エノラーゼについての相対的定量化を表す図である。
【図5】(A)α−1−酸糖タンパク質1に由来する、1個の4価に帯電したペプチドイオンのMS/MSスペクトル(m/z=475.00DaでのYVGGQEHFAHLLILR)を表す図であり、(B)ドライアイ試料と対照試料との間の、α−1−酸糖タンパク質1についての相対的定量化を表す図である。
【図6】(A)α−エノラーゼを唯一のバイオマーカーとして使用した場合のROC曲線を表す図である。精度(ROC曲線下面積)は、85%である。(B)プロラクチン誘導タンパク質を唯一のバイオマーカーとして使用した場合のROC曲線を表す図である。精度(ROC曲線下面積)は、81%である。(C)バイオマーカーパネルを使用した場合のROC曲線を表す図である。精度(ROC曲線下面積)は、98%である。
【図7】(A)α−エノラーゼ、(B)α−1−酸糖タンパク質1、(C)S100A9および(D)S100A8についての、各患者の涙液層破壊時間(TBUT)によって比(DE:C)を再編した図である。3つのサブグループを区別するために異なる色コードを使用した。 図7A、α−エノラーゼについて (1)黄色の上の7本のバーの組:軽度(TBUT=5〜10秒) (2)橙色の中央の8本のバーの組:中度(TUBT=2〜5秒) (3)赤色の下の10本のバーの組:重度(TBUT<2秒) 図7B、α−1−酸糖タンパク質1について (1)黄色の上の6本のバーの組:軽度(TBUT=5〜10秒) (2)橙色の中央の4本のバーの組:中度(TUBT=2〜5秒) (3)赤色の下の9本のバーの組:重度(TBUT<2秒) 図7C、S100A9について (1)黄色の上の7本のバーの組:軽度(TBUT=5〜10秒) (2)橙色の中央の6本のバーの組:中度(TUBT=2〜5秒) (3)赤色の下の10本のバーの組:重度(TBUT<2秒) 図7D、S100A8について (1)黄色の上の7本のバーの組:軽度(TBUT=5〜10秒) (2)橙色の中央の8本のバーの組:中度(TUBT=2〜5秒) (3)赤色の下の8本のバーの組:重度(TBUT<2秒)
【図8】涙中の1種のドライアイタンパク質バイオマーカー(S100A11)の絶対的定量化のためのiTRAQ実験の、レポートイオン領域(114、115、116および117)のMS/MSスペクトルを表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における粘膜乾燥状態を診断する方法であって、
前記被験体からの試料を準備するステップ、および、
前記試料中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量を、少なくとも1つの基準値と比較するステップ(ここで、前記少なくとも1種のバイオマーカーが、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質、プロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および、任意のそれらの誘導体またはそれらのフラグメント、からなる群から選択される)
を含む方法。
【請求項2】
前記粘膜乾燥状態がドライアイである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記比較するステップが、前記粘膜乾燥状態の徴候を呈していない、または前記粘膜乾燥状態の症状を経験していない、少なくとも1つの被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較である、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記比較するステップが、前記粘膜乾燥状態の徴候を呈していない、または粘膜乾燥状態の症状を経験していない、統計的に有意な数の被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が液体である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記発現量が、前記少なくとも1種のバイオマーカーの存在量である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記比較するステップが質量分析法によるものである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記比較するステップがiTRAQによるものである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
被験体における粘膜乾燥状態の重症度を判定する方法であって、
前記被験体からの試料を準備するステップ、および、
前記試料中のα−1−酸−糖タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、ラクトフェリン、リゾチーム、および/または、任意のそれらの誘導体もしくはそれらのフラグメント、の相対的発現量を、少なくとも1つの基準値と比較するステップ
を含む方法。
【請求項10】
前記粘膜乾燥状態がドライアイである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記比較するステップが、前記粘膜乾燥状態の徴候を呈していない、または前記粘膜乾燥状態の症状を経験していない、少なくとも1つの被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較である、請求項9から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記比較するステップが、前記粘膜乾燥状態の徴候を呈していない、または粘膜乾燥状態の症状を経験していない、統計的に有意な数の被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較である、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記試料が液体である、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記相対的発現量が、前記少なくとも1種のバイオマーカーの相対的存在量である、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記比較するステップが質量分析法によるものである、請求項9から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記比較するステップがiTRAQによるものである、請求項9から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
被験体における粘膜乾燥状態に対する治療効果をモニターする方法であって、
前記被験体からの試料を準備するステップ、および、
前記試料中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量を、少なくとも1つの基準値と比較するステップ(ここで、前記少なくとも1種のバイオマーカーが、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質、プロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および、任意のそれらの誘導体またはそれらのフラグメント、からなる群から選択される)
を含む方法。
【請求項18】
前記粘膜乾燥状態がドライアイである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記比較するステップが、前記粘膜乾燥状態の徴候を呈していない、または前記粘膜乾燥状態の症状を経験していない、少なくとも1つの被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較である、請求項17から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記比較するステップが、前記粘膜乾燥状態の徴候を呈していない、または粘膜乾燥状態の症状を経験していない、統計的に有意な数の被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較である、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記試料が液体である、請求項17から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記相対的発現量が、前記少なくとも1種のバイオマーカーの相対的存在量である、請求項17から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記比較するステップが質量分析法によるものである、請求項17から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記比較するステップがiTRAQによるものである、請求項17から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
被験体における粘膜乾燥状態を治療する方法であって、
前記被験体からの試料を準備するステップ、
前記試料中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量を、少なくとも1つの基準値と比較するステップ(ここで、前記少なくとも1種のバイオマーカーが、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質およびプロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および、任意のそれらの誘導体またはそれらのフラグメント、からなる群から選択される)、および、
バイオマーカーの前記群中の少なくとも1種のバイオマーカーの発現量の差異を低減させるステップ
を含む方法。
【請求項26】
前記粘膜乾燥状態がドライアイである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記比較するステップが、前記粘膜乾燥状態の徴候を呈していない、または前記粘膜乾燥状態の症状を経験していない、少なくとも1つの被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較である、請求項25から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記比較するステップが、前記粘膜乾燥状態の徴候を呈していない、または前記粘膜乾燥状態の症状を経験していない、統計的に有意な数の被験体から決定された少なくとも1つの基準値との比較である、請求項25から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記試料が液体である、請求項25から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記相対的発現量が、前記少なくとも1種のバイオマーカーの相対的存在量である、請求項25から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記比較するステップが質量分析法によるものである、請求項25から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記比較するステップがiTRAQによるものである、請求項25から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1種のバイオマーカーがα−1−糖タンパク質1であり、前記発現量の差異を低減させるステップが、前記被験体における炎症を低減させることを含む、請求項25から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1種のバイオマーカーがプロラクチン誘導タンパク質であり、前記発現量の差異を低減させるステップが、プロラクチンおよび/またはアンドロゲンの投与によって、前記被験体におけるプロラクチン誘導タンパク質の発現量を増加させることを含む、請求項25から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1種のバイオマーカーがS100A8および/またはS100A9であり、前記発現量の差異を低減させるステップが、前記被験体における100A8および/またはS100A9の上方制御および/または複合体形成を低減させることを含む、請求項25から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記被験体がヒトである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記被験体が哺乳動物である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
ドライアイの状態を診断するためのバイオマーカーのパネルであって、α−1−酸−糖タンパク質、α−エノラーゼ、プロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および/または、それらの誘導体もしくはフラグメント、を含むパネル。
【請求項39】
前記パネルが固体支持体上またはゲル中に存在する、請求項38に記載のバイオマーカーのパネル。
【請求項40】
粘膜乾燥状態を診断するための診断キットであって、α−エノラーゼ、α−1−酸−糖タンパク質、プロラクチン誘導タンパク質、S100A8、S100A9、S100A4、S100A11、フォンエブナー腺タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、高プロリン4タンパク質、および、それらの誘導体またはフラグメント、からなる群から選択される、少なくとも1種のバイオマーカーに反応することのできる、少なくとも1種の化学物質を含む診断キット。
【請求項41】
前記少なくとも1種の化学物質が、前記バイオマーカーの任意の1つに特異的な、少なくとも1種の抗体である、請求項40に記載の診断キット。
【請求項42】
前記少なくとも1種の化学物質が固体支持体上またはゲル中に存在する、請求項40から41のいずれか一項に記載の診断キット。
【請求項43】
前記少なくとも1種のバイオマーカーがα−エノラーゼであり、前記少なくとも1種の化学物質が2−ホスホグリセレートである、請求項40に記載の診断キット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図2H】
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【図2I】
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【図2J】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−535620(P2009−535620A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507645(P2009−507645)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際出願番号】PCT/SG2007/000118
【国際公開番号】WO2007/126391
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(508320723)シンガポール ヘルス サービシーズ ピーティーイー リミテッド (3)
【出願人】(508320734)エイジェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (7)
【Fターム(参考)】