説明

精錬モニタリング装置及び方法

【課題】精錬容器内の溶融金属を分析するに当たり、スラグによる妨害や分析羽口の凝固による分析中断の問題を解決し、連続的な精錬モニタリングを可能とする。
【解決手段】精錬容器の側壁の耐火物14を貫通し、その一端が精錬容器外部に開口し、他端が精錬容器内部に開口していて、精錬時、精錬容器の内部側の開口部が溶融金属湯面5より低い位置にありかつ、精錬容器の外部側の開口部が溶融金属湯面5よりも高い位置にあるように分析用羽口1を設け、この分析羽口内に形成される精錬容器内部の湯面5と同じレベルの分析湯面Mにレーザを照射して、発光を観測する。分析用羽口1内において、スラグに覆われていない分析湯面Mが簡便に確保でき、羽口の地金付着も発生しなくなり、安定して連続的なレーザ発光分析が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属精錬工程において、溶融金属中の化学成分をリアルタイムに測定するためのものである。特に、鉄鋼の精錬における、転炉(1次精錬)やRH等の2次精錬のモニタリングに適用可能なものである。
【背景技術】
【0002】
以下、鉄の精錬を例として説明する。製鋼の精錬において、成分を連続的に測定することが必要になる。転炉では、O2をランスから上吹き込み、さらに炉底から吹き込むことを実施して、脱炭すると同時に脱P、脱S等を進めている。脱炭するにはO2の吹込みを継続することが有効であるが、炭素濃度が銑鉄の4%から下がって0.3%以下になってくると、吹き込まれたO2が鉄分の酸化に使用されることになり、鉄分ロス(FeOの生成)が増加する。吹錬を終了するときは、狙いとするC濃度や温度になることが必要であるが、FeOが生成する状況ではC濃度を的中させることはできない。さらに、増加したFeOは耐火物と反応して、耐火物の溶損が進み、コストの増大を引き起こす。上記の成分の不的中や耐火物の溶損という課題に対して、吹錬中の成分を連続的に測定する必要がある。一方、スポット的に成分を測定する方式としては、サブランス方式があり、吹錬が終了する直前で溶鋼の中からサンプルを取り、発光分析でC濃度を決定するが、情報の量が極めて少なく、高い精度で狙いとするC濃度や温度にすることは難しい上に、鉄分ロス(FeO)を少ないように制御をすることは極めて難しい。以上のような現在の状況に対して、連続的に成分を測定する技術が求められている。
【0003】
次に、2次精錬技術に関しては、例えば、大量生産の脱ガス装置(RH)における場合を述べる。RHの主要な目標は脱炭である。脱ガス処理でのC成分の挙動を把握することは重要であり、特に目標とするC濃度になった時点で処理を終了することで、真空化する際の蒸気の無駄な使用を避けて、コスト削減が可能となる。このためには、連続成分測定が必要になり、従来、次の2つの方法が一般的に採用されている。
【0004】
一つは、処理中の排気ガス中のCO濃度を測定し、処理開始時点のC濃度から排出された炭素量を差し引いて、処理中の炭素を推定しているが、必ずしも精度が高くない。他の方法は、取鍋の表面に近い溶鋼のサンプルを採取して、迅速に発光分析装置で分析する方法で、Cとその他のMn等の成分分析が可能であるが、サンプルをバッチで採取する上に、脱ガス装置とは離れた場所の分析装置で処理するので、脱ガス処理における成分変化に迅速に追従できないのが欠点である。
【0005】
以上のように、製鋼の大量生産を支える転炉と脱ガス装置では、処理中の刻々とした成分変化を把握することができず、解決されねばならない課題であった。
【0006】
これらの対応策として、レーザを溶鋼に照射して溶鋼に含有される成分に応じた励起発光を成分の分析に活用する方式の開発が進められてきた。この方式では、溶鋼にレーザを照射する技術で二つの方式がある。方法(I)は、溶鋼の上からレーザを照射する方法であり、他の方法(II)は、溶鋼を保持している耐火物に羽口を穿ち、その羽口から溶鋼にレーザを照射する方法である。
【0007】
方法(I)としては、例えば、特許文献1〜3に開示されており、また、方法(II)としては、特許文献4に開示されている。
【特許文献1】特開2002-174631号公報
【特許文献2】特開平8-219993号公報
【特許文献3】特開平7-190933号公報
【特許文献4】特開昭60-231141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の方法(I)では、溶鋼の上にはスラグがあり、そのスラグを除去して溶鋼に直接にレーザを照射する必要がある。しかし、一般的には、取鍋内ではスラグの厚みが約100mm程度あり、転炉内ではガスを含んでではあるが約1mの厚みがあり、これを排除して裸の湯面を出すことが困難であった。
【0009】
方法(II)は、溶鋼内にスラグは存在しないので、上記方法(1)の課題はないが、溶鋼内に羽口は設置されているので、大量の溶鋼が内部に差し込んで固まらないように、羽口にガスを流して溶鋼の静圧分以上の圧力をかける必要がある。吹き込むガスは、通常はArやN2のような不活性ガスを選択するが、羽口の先端がガスの顕熱により冷却されて、地金が成長し付着し易い。この地金が付着したために、羽口の入り口側から溶鋼側を見ると、羽口の断面積に相当するだけの溶鋼面を見ることができず、羽口の入り口側内部からレーザを溶鋼に照射しても十分な照射面積が得られなくなる。その結果、十分な励起発光を得ることができないので、溶鋼に含有される成分を正確に判定することができないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記方法(I)及び(II)のそれぞれの方式に固有の実用上の問題点を解決し、スラグが排除されていて、かつ、地金付着が無い、十分な面積の分析湯面を安定して確保し、安定して精度の良いレーザ発光分析による精錬モニタリングのための装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 精錬容器の側壁の耐火物を貫通し、その一端が精錬容器外部に開口し、他端が精錬容器内部に開口していて、精錬時、精錬容器の内部側の開口部が溶融金属湯面より低い位置にあり、かつ、精錬容器の外部側の開口部が溶融金属湯面よりも高い位置にあるように分析用羽口が設けられた精錬容器と、精錬時、前記分析用羽口内部に形成される溶融金属の湯面にレーザを照射して溶融金属の一部を気化及び原子化するためのアブレーションレーザ発振器と、分析目的元素を共鳴励起するための選択励起レーザ発振器と、前記湯面上に発生した発光を伝送するための光ファイバーと、分光分析装置と、レーザ誘起蛍光を計測するための光量検出器とを少なくとも備えることを特徴とする精錬モニタリング装置。
(2) 前記分析用羽口内部にガス導入口と、ガス排出口と、電磁バルブを備えた観測用ノズルが挿入されている (1)に記載の精錬モニタリング装置。
(3) 前記観測用ノズルの少なくとも最も内側がステンレス製の管である(2)に記載の精錬モニタリング装置。
(4) 前記分析用羽口が、精錬容器外部側の内径よりも精錬容器内部側の内径が大きくなるテーパーを有する(1)〜(3)のいずれかに記載の精錬モニタリング装置。
(5) 前記精錬容器が転炉であり、前記溶融金属が溶銑又は溶鋼の一方又は両方である(1)〜(4)のいずれかに記載の精錬モニタリング装置。
(6) 前記精錬容器が2次精錬脱ガス真空槽であり、前記溶融金属が溶鋼である(1)〜(4)のいずれかに記載の精錬モニタリング装置。
(7) 精錬容器の側壁の耐火物を貫通し、その一端が精錬容器外部に開口し、他端が精錬容器内部に開口していて、精錬時、精錬容器内部側の開口部が溶融金属湯面より低い位置にありかつ、精錬容器外部側の開口部が溶融金属湯面よりも高い位置にあるように設けられた分析用羽口内部に形成される溶融金属の湯面に、溶融金属の一部を気化及び原子化するためのアブレーションレーザを照射して発生した発光を分光分析することによって、溶融金属中の化学成分濃度を測定することを特徴とする精錬モニタリング方法。
(8) 精錬容器の側壁の耐火物を貫通し、その一端が精錬容器外部に開口し、他端が精錬容器内部に開口していて、精錬時、精錬容器内部側の開口部が溶融金属湯面より低い位置にありかつ、精錬容器外部側の開口部が溶融金属湯面よりも高い位置にあるように設けられた分析用羽口内部に形成される溶融金属の湯面に、アブレーションレーザを照射して前記溶融金属の一部を蒸発・原子化した後、分析目的元素の共鳴波長の一つに一致する波長の選択励起レーザを照射して発生させた発光光量を光量検出器によって電気シグナルに変換し、該電気シグナル強度を電送して測定することによって、溶融金属中の化学成分濃度を測定することを特徴とする精錬モニタリング方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、スラグに覆われていない分析湯面が簡便に確保でき、羽口の地金付着も発生しなくなり、安定して連続的なレーザ発光分析が可能となった。これにより、精錬時間の短縮が図られ、ガスや水蒸気、耐火物等の変動コストを削減することに寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
まず、スラグの排除に関する課題について述べる。スラグを排除するためには、堰を溶鋼内に設置にする方法が有効である。この考え方を取り入れて、分析用羽口1の形状を図1のようにして、羽口のDの箇所(精錬容器内部側の分析用羽口1の開口部よりも上方に位置する精錬容器内側面)が堰の役目を果して、分析用羽口1内にスラグのない湯面Mを作ることができる。湯面Mの位置は、溶鋼(溶融金属6)の湯面レベル5と同じ1次メニスカスの位置である。
【0014】
次に、羽口の凝固・閉塞に対する方策として、大量にガスを吹き込まなくても良いようにするには、溶鋼6の静圧がかからない状態、即ち、分析位置における溶鋼水頭圧を0にすることが必要である。その状態は、図1に示すように、羽口1の中のメニスカス位置が精錬容器本体内部の湯面5と同じ位置になることである。
【0015】
上記のように、図1に示すような羽口構造とすることで、スラグ排除と羽口閉塞の両課題を解決することができる。即ち、本発明の精錬容器には図1に示すように、側壁の耐火物14を斜めに貫通した分析用羽口1が設けられており、この分析用羽口1の精錬容器内側の開口部は、精錬時、溶融金属6の湯面5より低い位置に設けられている。このようにすることによって、精錬すべき溶融金属6が精錬容器に注入されたとき、分析用羽口1の途中にスラグに覆われていない分析湯面Mが形成される。
【0016】
操業上からの問題点は、溶融金属6の湯表面位置が変化することで、二つの場合がある。先ず、毎回のチャージで溶融金属量は変動することであり、溶融金属6の変化量、即ち、メニスカスの変化に応じることができるように羽口の長さが決定される。
【0017】
次に、精錬容器の耐火物が溶損するから、同じ溶融金属量でも湯表面位置、メニスカスは、下降する側に変化していくことが起きる。これに対応するには、羽口レンガの設定位置を精錬容器の使用回数の増加に応じて変化させるようにする。即ち、羽口を交換して配置する方式が有効で、精錬容器の使用回数が少ない、耐火物の溶損が少ないときは、位置H(高目の位置)に羽口を設定し、精錬容器の使用回数が多い、耐火物の溶損が大きくなったときは、位置L(低目の位置)に羽口を設定することを実行することで、これに対処することができる。
【0018】
羽口内部のメニスカス部分で地金が固まらないようにするためには、羽口1の溶融金属側(精錬容器の内部側)はやや広目になるように、テーパーがついていることが望ましく、このことによって、常に高温の溶融金属6が羽口1の中に入り込むようになる。このためには、羽口1の全長に亘ってテーパーがついている必要はなく、羽口1の中でメニスカスが形成され得る部分がテーパーを有していればよい。羽口全長の内、テーパーを有す部分の長さをL(mm)、最大羽口内径と最小羽口内径との差をΔd(mm)としたとき、Δd/Lを1/50以上3/50以下とすることが望ましい。ここで、Δdは、10mm以上30mm以下が適当である。
【0019】
本発明の分析用羽口1では、溶融金属6が重力によって精錬容器から漏れ出ることは無いので、底吹き羽口等の場合のように、溶融金属6の静圧に逆らうほどの大流量のガスを羽口1に吹き込む必要はない。しかし、分析目的元素に炭素等が含まれる場合は、空気からの汚染を防止するために、Ar等の不活性ガスで羽口内部を置換する必要が生ずる。分析用羽口1内には、観測用ノズル7が挿入されており、電磁バルブ10を開いてガス吹込み口12から導入されたガスは、観測用ノズル7の溶融金属側開口部から羽口内部の分析湯面Mに向けて吹出され、羽口7内を満たした後、排気口13から精錬容器外側へ抜けて行く。観測用ノズル7の溶融金属側開口部は、溶融金属注入量の変動や精錬時の湯面変動を考慮し、分析湯面Mから上方の適当な距離、例えば、100〜300mmの距離に位置させることが望ましい。
【0020】
溶融金属6の装入や出湯中は、羽口内部に不活性ガスが吹き込まれていて、スラグや溶融金属6が差し込まないようにする。このときは、排気側の電磁バルブ11を閉じ、ガス導入側の電磁バルブ10を開けて、所要量の流量でAr等のガスを吹き込めばよい。
【0021】
精錬容器の壁の中での円周方向の配置は、溶銑の装入や溶融金属6の出鋼における湯面5の位置を考慮することに加えて、羽口1の交換を考慮して決める必要がある。今、精錬容器として転炉の場合を、図2を参照しながら考える。先ず、トラニオン位置100,101は、転炉の傾動装置があるので、羽口交換が極めて困難であり、実機では採用できない。そこで、出鋼側102もしくは装入側103のどちらが有利かを考察する。出鋼側102に羽口1を設定すると、羽口1は出鋼中に高温の溶鋼と直接接触する可能性があるので、採用し難い。一方、装入側103は、羽口1は低温の溶銑との接触になるが、転炉を垂直方向から45°程度傾けて溶銑を装入する際に溶銑が羽口内部に侵入しないようにする必要があるので、羽口位置は、トラニオン位置と装入側位置の中間位置、より詳しくはトラニオンを含む水平面内でトラニオンから35〜45°装入側の位置を採用することが有効であることが判明した。
【0022】
また、RH真空槽に設ける羽口1の位置は、上昇管側は、スプラッシュが吹き上がり、湯面変動が大きいので、より湯面が安定している下降管側に設けるのが良い。
【0023】
次に、分析湯面Mにレーザを照射して、発光を観測する方法について述べる。
アブレーションレーザ発振器28から発振されたレーザは、ミラー22によって反射され、光学窓9を透過して観測ノズル7内を通り、分析湯面Mに照射される。ここで、レーザは、レンズ23によって、分析湯面M上で焦点を結ぶように集光される。レーザのエネルギーによって、分析湯面Mにレーザ誘起プラズマ8が生成し、このプラズマ8から放出される原子の発光は、観測ノズル7内をレーザとは逆向きに進行して光学窓9を透過後、ミラー20によって反射され、レンズ24によって光ファイバー26の受光端25に集光されて、光ファイバー26によって分光分析装置27に導かれ、分光分析装置27により、測定される分析目的元素の固有波長の線スペクトル強度から、予め求めておいた検量線を用いて、この元素の濃度が求められる。
【0024】
アブレーションレーザパルスから10〜150μsの遅延時間をおいて、選択励起レーザ29から選択励起レーザパルスが発振され、ミラー21によって反射された後、光学窓9を透過して観測ノズル7内を通り、分析湯面Mに照射される。選択励起レーザは、分析目的元素に共鳴する波長にチューニングして照射される。レーザ誘起蛍光は、観測ノズル7内をレーザとは逆向きに進行して光学窓9を透過後、ミラー19によって反射され、光量検出器30にて光量に比例する強さの電気シグナルに変換され、この電気シグナルは電線31によって測定装置32に電送され、測定、記録が行われる。このようにして測定された電気シグナル強度から、予め求めておいた検量線を用いて、この元素の濃度が求められる。
【0025】
分析羽口1は、厚さ約1mの炉壁を斜めに貫通するため、長さが2mにも及び、その内部の観測ノズル7も1〜1.5mの長さとなる。このため、分析湯面M上の発光を直接観測する立体角は小さい。そこで、発光が通過する観測ノズルとしては、ステンレス管を用いることで、発光観測効率が向上することを本発明者等は見出した。これは、発光がステンレス管内壁で反射されつつ、通過するため、直接観測される立体角よりも大きな立体角で放出される発光も検出されるためであると考えられる。このような反射特性を有し、高温で安定して用いることができ、かつ、安価な材料としてステンレス管が最適である。尚、ステンレス管の内面が電解研磨等が施されていて、粗度が小さければ、より好適である。
【0026】
アブレーションレーザは、パルスレーザであり、分析湯面上でのエネルギー密度及び尖頭出力密度は、それぞれ、凡そ5J/cm2以上、0.3GW/cm2以上となるように、集光して照射されなければならない。この目的に使用されるレーザとしては、QスイッチパルスNd:YAGレーザが最も一般的であり、パルス時間半値全幅5〜15ns、パルスエネルギー100〜1000mJ、パルス繰り返し10〜50Hzのものが一般に市販されている。
【0027】
選択励起レーザとしては、チタンサファイアレーザ、色素レーザ、オプティカルパラメーター発振器(OPO)等が使用可能である。
【0028】
レーザ発光を伝送するための光ファイバー26としては、溶融石英をコアとした光ファイバーが適している。
【0029】
アブレーションレーザ発振器28及び選択励起レーザ発振器29は、精錬容器から独立して離れた位置に設置し、空間伝播又は光ファイバー伝播によって、分析用羽口1の入り口まで伝送することができる。あるいは、レーザ発振器28,29を分析用羽口1と一体化して設置しても良い。
【0030】
分光分析装置27は、光ファイバー長5〜20mによって接続可能な場所に固定すれば良い。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
150t転炉40の装入側に、図1に示した分析用羽口1を取り付けた。その概観を図3に示す。図3に示す分析用羽口1は、溶融金属側の500mm長さにわたってテーパーを有しており、溶融金属側の内径を40mm、溶融金属側の開口部から500mm鉄皮側の内径を30mmとした。溶融金属側の開口部は、炉底から約1800mmとし、精錬時に羽口の内部に分析湯面Mが生ずるようにした。炉正立時(精錬時)には、鉛直方向と羽口1の中心線とのなす角が約30°であった。図2に示すように、炉正立時の水平方向における羽口1の取り付け位置は、トラニオンから約40°の位置に取り付けた。
【0032】
羽口内部には、内側が内径7.5mmのステンレス管であり、その周囲はムライト管で包囲した観測用ノズル7を装入した。
【0033】
溶銑装入時は、電磁バルブ11を閉じ、電磁バルブ10を開けて、Arガスを羽口内に吹き込むことによって、溶銑の羽口内への浸入を防止した。
【0034】
溶銑を装入後、炉40を正立させ、電磁バルブ11を開けて、観測用ノズル7にArガスを100〜200NL/minの流量で吹込み、観測用ノズル内部及び分析湯面Mの表面の雰囲気をパージした。
【0035】
QスイッチパルスNd:YAGレーザ(パルスエネルギー200mJ、パルス繰返し10Hz)を羽口内の分析湯面Mに照射し、次いで、炭素(C)の共鳴波長193.09nmにチューニングした波長可変レーザ(チタンサファイアレーザ)を照射することによって発生した発光を光量検出器30で測定し、電気シグナルを電線31で電送して、測定装置32で観測、記録した。測定装置としてはオシロスコープを用いた。
【0036】
また、QスイッチパルスNd:YAGレーザを照射することによって発生した発光を20m長の光ファイバー26で分光分析装置27に伝送し、分光分析することによって、マンガン(Mn)の発光強度をモニタリングした。
【0037】
C濃度は、予め測定した既知C濃度と光量検出器30の出力電圧との関係(検量線)を用いて求めた。Mn濃度は、予め測定した既知Mn濃度とMn発光ピーク強度との関係(検量線)を用いて求めた。
【0038】
図5に、吹錬途中から上述の方法によって測定されたC、Mn濃度の推移を示す。図5の太い実線と細い実線は、それぞれ本発明の方法によって、30秒間隔で測定されたC及びMn濃度を示す。また、●、○は、それぞれ、サンプリングした溶鋼をスパーク発光分析法で分析して得た、C、Mn濃度を示す。
【0039】
図5に示されるように、本発明の精錬モニタリング装置、方法を用いれば、分析用羽口1が溶融金属の凝固によって閉塞して分析が妨げられることがないので、連続的に溶融金属中成分濃度を測定することが可能であった。
【0040】
(実施例2)
RH真空槽41の下降管側に、図1に示した分析用羽口1を取り付けた。その概観を図4に示す。分析用羽口1は、溶融金属側の500mm長さにわたってテーパーを有しており、溶融金属側の内径を40mm、溶融金属側の開口部から500mm鉄皮側の内径を30mmとした。溶融金属側の開口部の高さ(図4におけるH1)は、約150mmとし、溶鋼還流時に羽口の内部に擬似湯面Mが生ずるようにした。
【0041】
羽口内部には、内側が内径7.5mmのステンレス管であり、その周囲はムライト管で包囲した観測用ノズル7を装入した。
【0042】
電磁バルブ10及び11は共に閉じた状態で、真空槽の上昇管と下降管を取鍋42中の溶鋼に浸漬し、真空引きを開始し、溶鋼を還流させ真空精錬を開始した。
【0043】
QスイッチパルスNd:YAGレーザ(パルスエネルギー200mJ、パルス繰返し10Hz)を羽口内の分析湯面Mに照射し、次いで、Cの共鳴波長193.09nmにチューニングした波長可変レーザ(チタンサファイアレーザ)を照射することによって発生した発光を光量検出器30で測定し、電気シグナルをオシロスコープで観測、記録した。
【0044】
C濃度は、予め測定した既知C濃度と光量検出器の出力電圧との関係(検量線)を用いて求めた。
【0045】
図6に、上述の方法によって測定されたC濃度の推移(実線)を示す。図6中の●は、サンプリングした溶鋼を燃焼赤外線吸収法によって定量したC濃度を示す。
【0046】
図6から、本発明の精錬モニタリング装置、方法を用いれば、取鍋湯面のスラグや分析用羽口1での溶融金属の凝固による閉塞によって分析が妨げられることがないので、連続的に溶融金属中成分濃度を測定することが可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の分析用羽口及び分析装置の構成を表す図
【図2】転炉の水平方向の分析用羽口取り付け位置を説明する図
【図3】転炉に本発明の分析用羽口及び分析装置を取り付けた装置構成図
【図4】RH真空槽に本発明の分析用羽口及び分析装置を取り付けた装置構成図
【図5】本発明により転炉精錬におけるMn、Cの濃度を連続的に測定した結果を示す図
【図6】本発明によりRH真空脱ガスにおけるCの濃度を連続的に測定した結果を示す図
【符号の説明】
【0048】
1 : 分析用羽口
2 : 精錬容器鉄皮
3 : 精錬容器耐火物内壁面
4 : 精錬容器内側
5 : 溶融金属湯面
6 : 溶融金属
7 : 観測ノズル
8 : レーザ誘起プラズマ
9 : 光学窓
10,11 : 電磁バルブ
12 : ガス導入口
13 : 排気口
14 : 精錬容器側壁耐火物
19 : レーザ誘起蛍光反射ミラー
20 : レーザ発光反射ミラー
21 : 選択励起レーザ反射ミラー
22 : アブレーションレーザ反射ミラー
23 : レンズ
24 : レーザ発光集光レンズ
25 : 光ファイバー受光端
26 : 光ファイバー
27 : 分光分析装置
28 : アブレーションレーザ発振器
29 : 選択励起レーザ発振器
30 : 光量検出器
31 : 電送線
32 : 測定装置
33 : スラグ
40 : 転炉
41 : RH真空槽
42 : 取鍋
43 : 上昇管
44 : 下降管
100,101 : トラニオン側
102 : 出鋼側
103 : 装入側
104,105 : 分析用羽口取り付け位置
M : 分析湯面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬容器の側壁の耐火物を貫通し、その一端が精錬容器外部に開口し、他端が精錬容器内部に開口していて、精錬時、精錬容器の内部側の開口部が溶融金属湯面より低い位置にあり、かつ、精錬容器の外部側の開口部が溶融金属湯面よりも高い位置にあるように分析用羽口が設けられた精錬容器と、精錬時、前記分析用羽口内部に形成される溶融金属の湯面にレーザを照射して溶融金属の一部を気化及び原子化するためのアブレーションレーザ発振器と、分析目的元素を共鳴励起するための選択励起レーザ発振器と、前記湯面上に発生した発光を伝送するための光ファイバーと、分光分析装置と、レーザ誘起蛍光を計測するための光量検出器とを少なくとも備えることを特徴とする精錬モニタリング装置。
【請求項2】
前記分析用羽口内部にガス導入口と、ガス排出口と、電磁バルブを備えた観測用ノズルが挿入されている請求項1に記載の精錬モニタリング装置。
【請求項3】
前記観測用ノズルの少なくとも最も内側がステンレス製の管である請求項2に記載の精錬モニタリング装置。
【請求項4】
前記分析用羽口が、精錬容器外部側の内径よりも精錬容器内部側の内径が大きくなるテーパーを有する請求項1〜3のいずれかに記載の精錬モニタリング装置。
【請求項5】
前記精錬容器が転炉であり、前記溶融金属が溶銑又は溶鋼の一方又は両方である請求項1〜4のいずれかに記載の精錬モニタリング装置。
【請求項6】
前記精錬容器が2次精錬脱ガス真空槽であり、前記溶融金属が溶鋼である請求項1〜4のいずれかに記載の精錬モニタリング装置。
【請求項7】
精錬容器の側壁の耐火物を貫通し、その一端が精錬容器外部に開口し、他端が精錬容器内部に開口していて、精錬時、精錬容器内部側の開口部が溶融金属湯面より低い位置にありかつ、精錬容器外部側の開口部が溶融金属湯面よりも高い位置にあるように設けられた分析用羽口内部に形成される溶融金属の湯面に、溶融金属の一部を気化及び原子化するためのアブレーションレーザを照射して発生した発光を分光分析することによって、溶融金属中の化学成分濃度を測定することを特徴とする精錬モニタリング方法。
【請求項8】
精錬容器の側壁の耐火物を貫通し、その一端が精錬容器外部に開口し、他端が精錬容器内部に開口していて、精錬時、精錬容器内部側の開口部が溶融金属湯面より低い位置にありかつ、精錬容器外部側の開口部が溶融金属湯面よりも高い位置にあるように設けられた分析用羽口内部に形成される溶融金属の湯面に、アブレーションレーザを照射して前記溶融金属の一部を蒸発・原子化した後、分析目的元素の共鳴波長の一つに一致する波長の選択励起レーザを照射して発生させた発光光量を光量検出器によって電気シグナルに変換し、該電気シグナル強度を電送して測定することによって、溶融金属中の化学成分濃度を測定することを特徴とする精錬モニタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−292169(P2008−292169A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135052(P2007−135052)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】