説明

糖化タンパク質の分析装置および方法

【課題】 高精度で糖化ヘモグロビン量を算出する
【解決手段】 糖化ヘモグロビンを含む検体をアスペルギルス属タンパク質分解酵素で処理した後、フルクトシル L-バリンに作用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼとフルクトシルアミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により増減する電気化学的活性物質を検知する機構を用いて、検体中のフルクトシルバリン濃度を電気化学的に検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速かつ高精度に糖化ヘモグロビン量を測定する分析方法および装置に関し、健康管理、臨床診断等に資するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の長期間の血糖コントロールの指標に糖化ヘモグロビンが広く用いられている。糖化ヘモグロビンとはヘモグロビンに糖が非酵素的に結合した糖化タンパク質の一種である。糖化ヘモグロビンの中でも特に、HbA1cと呼ばれる画分はヘモグロビンAのβ鎖N末端のバリン残基にグルコースがシッフ塩基を形成してアルジミン(不安定型)となり、さらにアマドリ転移を受けてケトアミン化合物を生成したものである。なおアルジミン構造をとるものを不安定糖化ヘモグロビン、ケトアミン構造をとる場合を安定糖化ヘモグロビンと呼ぶ。なお、アマドリ転移後の前記β鎖のN末端はフルクトシルバリン残基となる。
【0003】
この反応過程に酵素の関与はなく、血漿中のグルコース濃度に応じてその量が増加し、いわゆる血漿中の血糖値が平均的に長期間高い値を示すとHbA1cは高値となる。安定型糖化ヘモグロビンはその赤血球の寿命が尽きるまで消滅しない。一般にヘモグロビン分子の生体内での寿命は2ヶ月程度とされており、その結果、HbA1cの値は過去1〜2ヶ月間の平均血糖値を反映するとされている。そのためHbA1cは長期間の血糖値の平均値の指標として用いられる。一般に血糖値は、検査前の生活態度、食事等により変動しやすい特性を有するが、HbA1cは長期間の平均値であるため、糖尿病の確定診断、治療のための判断材料として用いるのに適しているとされている。
【0004】
そのため、すでに糖化ヘモグロビンについて多種多様の測定方法が提案されている。その代表的なものとして、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)、免疫法、酵素法が挙げられる。
【0005】
HPLC法は、現在最も多用される方法である。分離カラムによりヘモグロビンを分画し、HbA1cに相当する保持容量に溶出したピークと、全ピーク面積の比率からHbA1cの存在比率を算出する。いわば相対面積法をとるため、注入容量の精度をある程度無視できるなどの利点がある。しかし装置が大型かつ複雑であり、メンテナンス負荷が大きい等の問題がある。また、不安定型HbA1cと安定型HbA1cが区別できないため、あらかじめ不安定型HbA1cを除去後に分離分析を行わなければならないという欠点を有する(特許文献1)。同時に先天的なヘモグロビンの変異がある場合は、分離パターンが変化して異常値を示す場合がある。また他の生体成分が偶然HbA1cのピークと重複することによる誤差を含む可能性がある。
【0006】
免疫法はHbA1cのβ鎖のN末端付近の構造に対応した抗体を利用することにより、より高精度な分析を、より簡単な機構で達成できる可能性を有する。しかし一般的な免疫分析のように血清を対象とするのではなく、全血を溶血させた検体を対象とするため、非特異反応や、反応を検知するために用いる比色計を汚染し、必ずしも満足できる精度が得られないことが指摘されている。
【0007】
一方で酵素法は、糖化タンパク質から糖化アミノ酸を何らかの手法で切り出した後、生じた糖化アミノ酸量を糖化アミノ酸オキシダーゼ等の酵素を用いて検出するものである。酵素の選択性を利用することにより、より高精度の分析を実施できる可能性があるが、いまだ未解決の問題点は多い。
【0008】
まず第1の問題点としては、できる限り迅速に糖化アミノ酸残基を切り出すタンパク質分解酵素が必要となる。同時に活性の高いタンパク質分解酵素は、ヘモグロビンのみならず糖化アミノ酸オキシダーゼすら分解する可能性があり、ヘモグロビンを選択的に分解する方法が模索されている。
【0009】
第2の問題点は、免疫法などでも同様な課題が残っているが、全血を対象として分析を実施するため、多くの妨害成分が共存する中から、糖化アミノ酸、特にフルクトシルバリンを選択的に測定することが必要となる。
【0010】
第3に定量的にフルクトシルバリンが生成されれば問題ないが、一部が分解された系で定量を行おうとすると、ヘモグロビンの全量を推定する別途の定量方法を考案する必要がある。
【0011】
糖化アミノ酸を測定する方法は特許文献2に記載されているが、糖化タンパク質から糖化アミノ酸を切り出す方法は記載されていない。
【0012】
糖化タンパク質から糖化アミノ酸を切り出すタンパク分解酵素が検討され、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼと組み合わせて糖化アミノ酸を測定する方法が報告されている(特許文献3)。しかし、本発明者らが種々検討した結果、記載されているタンパク分解酵素の中から短時間で充分なフルクトシルバリン量を生成する酵素を見出せなかった。
【0013】
さらに、糖化アミノ酸にフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを作用させた際に生じる過酸化水素を定量する方法として、POD等と組み合わせて比色また、全血等のヘム鉄を含む試料をそのまま装置に適用すると、系が非常に汚れ、良好な再現性が得られないことを本発明者らは見出した。
【0014】
従来、糖化ヘモグロビンを効率的に分解し得るタンパク分解酵素は見出されていない。
【0015】
またヘモグロビンを含有する試料を分析する際に、付随的に発生する妨害成分、あるいは酸化還元能力の高いヘム鉄による分析妨害など、全血試料を分析する際に問題になる種々の要因を除去する有効な方法は開示されていない。
【0016】
さらに、検体中に含まれるヘモグロビン総量を検知し、糖化ヘモグロビンの比率を簡便かつ正確に算出する方法および装置は従来開示されていない。
【特許文献1】特公平5−59380号
【特許文献2】特公平5−33997号
【特許文献3】特開平11−196897号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、糖化ヘモグロビンを効率的に分解し得るタンパク分解酵素を提供することを目的とする。
【0018】
また本発明は、ヘモグロビンを含有する試料を分析する際に付随する分析妨害要因を除去し、高精度で糖化ヘモグロビン量を検出する方法ならびに装置を提供することを目的とする。
【0019】
さらに本発明は、検体中に含まれるヘモグロビン総量を簡便かつ正確に検知し、糖化ヘモグロビンの比率を算出する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、フルクトシル L-バリンに作用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを固定化した固定化体と、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により増減する電気化学的活性物質を検知する機構を用いて、フルクトシルバリン濃度を電気化学的に検知し、フルクトシルバリン量から糖化ヘモグロビンを算出するにあたり、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固体化体と試料が接触する前に、糖化ヘモグロビンを含む検体をアスペルギルス属タンパク質分解酵素で処理することを特徴とする糖化ヘモグロビンの分析方法を開示する。
【0021】
また、アスペルギルス属タンパク質分解酵素が、アスペルギルス オリゼが生産するアルカリ性タンパク質分解酵素であることが望ましい。
【0022】
さらに、糖化ヘモグロビンを含む検体を処理する際に、検体を陰イオン界面活性剤含有緩衝液と混合し、その混合された検体をアスペルギルス属タンパク質分解酵素が好ましくは化学的に固定化された担体と接触させ、緩衝液流とともに分解処理された試料を得ることが望ましい形態である。
【0023】
フルクトシルアミノ酸と、少なくとも1種類の遊離アミノ酸を検知し、フルクトシルアミノ酸量と特定の遊離アミノ酸濃度の比率を算出し、該比率より糖化ヘモグロビン量を算出することが簡便かつ高精度に糖化ヘモグロビンの全ヘモグロビンに対する比率を算出する有効な方法である。
【0024】
ヘム鉄を含む試料を分析する際に、付随する種々の妨害要因を除去するには、糖化ヘモグロビンを含む検体をアスペルギルス属タンパク質分解酵素で処理し、該処理液を透析し、透析後の液をフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体に接触させることにより解決しえる。
【0025】
これらの分析は、フルクトシル L-バリンに作用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを固定化した固定化体と、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により増減する電気化学的活性物質を検知する電気化学検出機構を備え、前記フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体と電気化学検出機構に緩衝液を送液する第1の送液機構を有し、第2の送液機構と糖化ヘモグロビンを含有する検体を注入する機構と、該注入機構の下流にアスペルギルス属由来のタンパク質分解酵素を化学的に結合したカラム状リアクターを置き、該カラム状リアクターを通過した後に低分子化合物を透過する半透膜を介して、第1と第2の送液機構により送液される液を一定時間併走させ、半透膜を透過した物質を第1の送液機構の下流に配置された前記フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体に接触させることを特徴とする糖化ヘモグロビンの分析装置により実現される。
【0026】
また、フルクトシル L-バリンに作用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを固定化した固定化体と、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により増減する電気化学的活性物質を検知する電気化学検出機構を備え、前記フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体と電気化学検出機構に緩衝液を送液する第1の送液機構を有し、第2の送液機構と糖化ヘモグロビンを含有する検体を注入する機構と、該注入機構の下流にアスペルギルス属由来のタンパク質分解酵素を化学的に結合したカラム状リアクターを置き、該カラム状リアクターを通過した後に低分子化合物を透過する半透膜を介して、第1と第2の送液機構により送液される液を一定時間併走させ、半透膜を透過した物質を第1の送液機構の下流に配置された前記フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体に接触させるとともに、第1の送液機構の下流に少なくとも1種類の遊離アミノ酸検知機構を併設することが望ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、血液検体中の安定糖化ヘモグロビンを簡便且つ正確に定量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の構成及び好ましい形態についてさらに詳しく説明する。
【0029】
本発明に使用しうるプロテアーゼは、糖化ヘモグロビンまたはそのフラグメントからN末端の糖化アミノ酸を生じる作用が大きいものであれば良い。本発明者らが鋭意検討した結果アスペルギルス属タンパク質分解酵素、特にアスペルギルス オリゼ由来のプロテアーゼがその作用が大きかった。また、ヒトヘモグロビンはpH5.0以下では沈殿してしまうので、プロテアーゼが効果的に作用するにはヘモグロビンが十分に溶解できるpH範囲に至適を持つプロテアーゼがより好ましい。プロテアーゼとしては、中性プロテアーゼとアルカリ性プロテアーゼが好ましく使用でき、最も好ましくはアスペルギルス オリゼ由来のアルカリ性プロテアーゼである。アスペルギルス オリゼ由来のアルカリ性プロテアーゼはpH 7以上9以下で活性を有する。
【0030】
本明細書において、「アスペルギルス属タンパク質分解酵素」あるいは「アスペルギルス属微生物由来のプロテアーゼ」とは、アスペルギルス属の微生物が産生するプロテアーゼ自体であってもよく、該プロテアーゼのアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸を置換、付加、欠失、挿入させることで得られる改変体であって、アスペルギルス属タンパク質分解酵素のように、フルクトシルバリン濃度を高めることができる改変体は広く包含される。
【0031】
さらに、アルペルギルス属微生物由来のプロテアーゼは不溶性担体に高密度に固定化することによって、わずかな時間で効率的にヘモグロビンを分解できることがわかった。アスペルギルス属微生物由来のプロテアーゼの不溶性担体への固定化量は1〜20mg/カラム、より好ましく5〜10mg/カラムである。
【0032】
プロテアーゼ固定化カラムの作用によって糖化ヘモグロビンを断片化すると、糖化アミノ酸及びアミノ酸が生成する。この糖化アミノ酸及びアミノ酸を順次フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ及び該アミノ酸オキシダーゼ(順序は問わない)で過酸化水素に変換し、各々のオキシダーゼにより生成した過酸化水素を電気化学的に検出すれば、試料中の糖化アミノ酸及びアミノ酸濃度が各々測定できる。

臨床診断指標としての糖化ヘモグロビン量は、全ヘモグロビン中で特定部位が糖化された画分の比率で表現される。そのため、分析に用いる試料中のヘモグロビン濃度が判明すれば、その試料から検出されるフルクトシル L-バリン量との比率をとればよいことになる。ヘモグロビン濃度を測る方法としては、500ナノメーター付近の吸光度から求める方法、試料中の鉄イオン量を測定する方法、あるいは分解により生じた特定のアミノ酸あるいはペプチド量を測定する方法などが例示できる。中でも比色法とアミノ酸をアミノ酸酸化酵素で分析する方法は簡単な機構で目的を達成できる。

フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの由来としては、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、フサリウム属(Fusarium)、ギベレラ属(Gibberella)、ペニシリウム属(Penicillium)、バチルス属(Bacillus)などが挙げられる。
【0033】
糖化ヘモグロビンN末端の糖化アミノ酸であるフルクトシルバリンを検出には、ε-アミノ基が糖化された糖化リジンには実質的に作用せず、α-アミノ基が糖化された糖化アミノ酸に作用する酵素が好ましい。このような作用を有する酵素は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが好ましい。これは血清中に含まれるアルブミンが糖化されたものから、ε-アミノ基が糖化されたリジンが遊離してくる場合や、ヘモグロビンに含まれるリジン糖化物が測定結果に正の誤差を生じる可能性があるためである。
【0034】
フルクトシルアミノ酸とともに生成するアミノ酸を測定するには、該アミノ酸を基質とするアミノ酸オキシダーゼにより過酸化水素に変換し、フルクトシルアミノ酸と同様に電気化学的に検出すればよい。本発明のプロテアーゼが作用して生成するアミノ酸としては、β鎖N末端から順にバリン、ヒスチジン、ロイシン、スレオニン、プロリン、グルタミン酸、リジン、セリンと続いており、該アミノ酸オキシダーゼを使用すればよい。例として、L−グルタミン酸オキシダーゼやL-リジンオキシダーゼなどの利用が耐熱安定性、感度の点から望ましい。
【0035】
これらのフルクトシルアミノ酸オキシダーゼやアミノ酸オキシダーゼも固定化して使用すると、繰り返し使用することができ、より好ましい。
本発明で使用するアスペルギルス属微生物由来のプロテアーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼ等の酵素固定化方法としては、物理吸着法、イオン結合法、包括法、共有結合法などタンパク質の固定化方法として公知の方法を利用できるが、中でも共有結合法が長期安定性に優れ望ましい。タンパク質を共有結合させる方法としては、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド基を有する化合物を用いるか、多官能基性アシル化剤を利用する方法、スルフヒドリル基を架橋させる方法など各種の方法を利用できる。酵素固定化体の形状としては、膜状に固定化し白金、金、カーボンなどからなる電極上にのせることもできるし、不溶性担体に固定化し担体をカラムリアクターに充填して用いることもできる。
【0036】
さらに固定化の際に他種の酵素あるいはゼラチンや血清アルブミンなどのタンパク質、ポリアリルアミンやポリリジンなどの合成高分子を共存させ、酵素固定化体の特性、すなわち膜強度、基質透過特性などを変更することもできる。酵素を不溶性担体に固定化する場合の担体としては、ケイソウ土、活性炭、アルミナ、酸化チタン、架橋処理デンプン粒子、セルロール系高分子、キチンおよびキトサン誘導体などの公知の担体を利用できる。
【0037】
過酸化水素は公知の方法により直接、間接的に測定することができる。しかし、天然に存在するヘモグロビン糖化物の糖化率は約5%と低いので、プロテアーゼ分解によって生じたフルクトシルバリン由来の過酸化水素量が通常よりも少ないことが十分に予想される。過酸化水素の高感度計測には、アンペロメトリー等の電気化学的な手法を用いるのが良い。
固定化された酵素に試料を一定時間接触させて反応を進行させるには、試料液を一定時間撹拌しながら反応を起こさせるバッチ方式でも可能であるが、より高精度の測定を実施するためにフロー方式の測定を用いることが望ましい。本発明ではより高精度の測定を行えるフロー方式の装置を開示する。
図2に示される、本発明の1つの好ましい実施形態は、第1緩衝液の流れを形成する機構(1,2)と、試料を注入する機構(3,4,6)と、該試料注入機構の下流にプロテアーゼ固定化体(25)、半透膜(26)の順に配置する。第2緩衝液の流れを形成する機構(21,22)と、該半透膜の2次側の下流に電気化学的活性物質濃度を検知できる電極(15,17)を配置し、フルクトシルアミノ酸検出用電極系(14,15)とアミノ酸検出用電極系(16,17)を構成する。さらにフルクトシルアミノ酸検出用電極系は、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体(14)を配置して、その下流に電気化学的活性物質濃度を検知できる電極(15)を配置し、アミノ酸検出用電極系は分析目的に合致したアミノ酸オキシダーゼ固定化体(16)と電気化学的活性物質濃度を検知できる電極(17)を配置したことを特徴とする糖化ヘモグロビン測定装置である。
【0038】
プロテアーゼ分解後の試料中の低分子成分分離機構で用いる膜(26)は、プロテアーゼ分解の過程で共存すると考えられるペンタペプチドやヘキサペプチドやさらに大きなペプチド類が透過し難いもしくは透過せず、フルクトシルバリン及びアミノ酸が透過できるものであれば良い。用いる膜としては、再生セルロース製、アセチルセルロース製、ポリフッ化ビニリデン製などの透析膜が例示できる。透析膜の分子量分画は平衡透析を行った際に透過する最小分子量で表示される。一方分析用途に利用する場合は、透析の初速度の差で分離する場合が多く、必ずしも分画を希望する分子量と透析膜の性能表示が一致するとは限らない。本発明の目的には分画分子量300以上50万以下のものが利用できる。より好ましくは1000以上10万以下、さらに望ましくは1万以上2万以下のものが良い。
【0039】
また妨害成分を除くという観点から、プロテアーゼ分解後に限外ろ過膜で検体を処理してから分析に供することもできる。
【0040】
界面活性剤には、ヘモグロビンをプロテアーゼでアミノ酸及び糖化アミノ酸に分解する際に、2つの働きがある。溶血作用とヘモグロビン分子構造を変化させる作用である。ヘモグロビンは赤血球内に大部分が存在し、適切な濃度の界面活性剤存在下ではヘモグロビンが赤血球外に出てくる。また、ヘモグロビンは通常折りたたまれた状態で存在するが、適切な濃度の界面活性剤中では緩んだ状態で存在し、プロテアーゼによる分解が容易になると推測される。界面活性剤としては、非イオン系のポリオキシエチレンアルキルエーテル類[例えばポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100)、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル等]やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類[例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ツイーン20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(ツイーン40)等]、陰イオン系のポリオキシエチレンアルキルエーテル類やアルキル硫酸塩[ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等)]、陽イオン系、両性イオン系があるが、陰イオン系界面活性剤が先に述べた2つの効果が高く、望ましい。その濃度は0.01〜10%、好ましくは0.05〜5%である。
【0041】
具体的な測定装置として、図1にフロー型、1流路の測定装置を示す。緩衝液槽(1)より緩衝液Aをポンプ(2)により送液する。試料(5)にニードル(6)を挿入し、バルブ(9)を閉じ、バルブ(10)を開けて、シリンジポンプ(11)を引くことにより検体を計量バルブ(3)の計量ループ(4)に引き込む。次に計量バルブ(3)を切り替え、緩衝液によりループ(4)内に溜まった検体を押し出す。過剰の検体は一旦バルブ(9)を開けてバルブ(10)を閉じ、洗浄液(8)をシリンジポンプ(11)に引き込んだ後、バルブ(9)を閉じバルブ(10)を開けて洗浄液を押し出すことにより、廃棄ポット(7)に押し出され、廃液ボトル(20)に貯留される。注入された試料は緩衝液の流れにのって恒温槽(12)内に設置された混合用配管(13)を通り、温度調整と緩衝液との混合が行われ、第1の固定化酵素カラム(14)を通り、そこで生成した過酸化水素が過酸化水素電極(15)で検知される。次に試料は第2の固定化酵素カラム(16)を通り、下流の過酸化水素電極(17)により検知される。背圧コイル(18)をとおり廃液は廃液ボトル(19)に溜まる。血液試料(5)は、直接分析装置内に供給されてもよいが、試料(5)は予めプロテアーゼで処理された後装置内に供給されてもよい。分析装置内に血液試料を直接供給する場合には、例えばプロテアーゼと一緒に供給し、緩衝液の流路内においてプロテアーゼ処理されてもよい。
【0042】
過酸化水素電極(15)および(17)の電流値の変化を検知することにより物質濃度を定量する。
図2は透析モジュールを組み込んだフロー型のフルクトシルアミノ酸測定装置である。緩衝液槽(21)より緩衝液Bをポンプ(22)により送液し、試料(5)にニードル(6)を挿入し、バルブ(9)を閉じ、バルブ(10)を開けて、シリンジポンプ(11)を引くことにより検体を計量バルブ(3)の計量ループ(4)に引き込む。次に計量バルブ(3)を切り替え、緩衝液によりループ(4)内に溜まった検体を押し出す。過剰の検体は一旦バルブ(9)を開けてバルブ(10)を閉じ、洗浄液(8)をシリンジポンプ(11)に引き込んだ後、バルブ(9)を閉じバルブ(10)を開けて洗浄液を押し出すことにより、廃棄ポット(7)に押し出され、廃液ボトル(20)に貯留される。注入された試料は緩衝液Bの流れにのって恒温槽(12)内に配置されたプロテアーゼの固定化酵素カラム(25)を通り、試料中のタンパク質からフルクトシルアミノ酸及びアミノ酸を生成する。プロテアーゼの作用した試料はさらに下流に設置された透析モジュール(26)に運ばれ、膜厚さ20μm、分子量分画12000〜14000の再生セルロース膜で試料中の低分子成分のみがフルクトシルアミノ酸及びアミノ酸検出機構(14,15,16,17)に導かれる。緩衝液槽(1)より緩衝液Aがポンプ2により送液されているので、透析モジュール(26)で透析された試料中の低分子成分は第1の固定化酵素カラム(14)と過酸化水素電極(15)を通過し、第1の固定化酵素カラム(14)で生成した過酸化水素が検知される。第1の検出機構(14,15)を通過した検体を含む緩衝液は、第2の固定化酵素カラム(16)と過酸化水素電極(17)を通過し、第2の固定化酵素カラム(16)で生成した過酸化水素を検知する。透析モジュール(26)の透析膜を通過しなかった試料中の高分子成分は廃液ボトル(19)に溜まる。
【0043】
この装置に流す緩衝液は特に限定されないが、固定化酵素(14、16、25)の活性が高くなるようなpH(例えばpH7〜9)になるように選択され得る。具体的な緩衝液Bとしては、例えば、50mMのリン酸、0.1%のドデシル硫酸ナトリウムを含み、pHが8.0で流量が0.8ml/分である。或いは、緩衝液Aは100mMのリン酸、50mMの塩化カリウム、1mMのアジ化ナトリウムを含み、pHが8.0で流速が0.8ml/分である。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて、本発明の内容をさらに詳細に説明するが、もちろん本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
(1)フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラムの製造
耐火レンガ(80〜100メッシュ)150mgをよく乾燥し、10%γ−アミノプロピルトリエトキシシランの無水トルエン溶液に1時間浸漬した後、よくトルエンで洗浄し、乾燥する。こうしてアミノシラン化処理した担体を5%グルタルアルデヒドに1時間浸漬した後、よく蒸留水で洗浄し、最後にpH7.0、100mMのリン酸ナトリウム緩衝液で置き換え、この緩衝液をできるだけ除いておく。このホルミル化した耐火レンガにpH7.0、100mMリン酸ナトリウム緩衝液にフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(キッコーマン製)を18ユニット/mlの濃度で溶解した溶液400μlを接触させ、0〜4℃で1日放置し固定化する。この酵素固定化担体を内径3.5mm、長さ30mmのカラムに充填しフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラムとする。
【0045】
(2)過酸化水素電極の製造
直径2mmの白金線の側面を熱収縮テフロン(登録商標)で被覆し、その線の一端をやすりおよび1500番のエメリー紙で平滑に仕上げる。この白金線を作用極、1cm角型白金板を対極、飽和カロメル電極を参照極として、0.1M硫酸中、+2.0Vで10分間の電解処理を行う。その後白金線をよく水洗した後、40℃で10分間乾燥し、10%γ−アミノプロピルトリエトキシシランの無水トルエン溶液に1時間浸漬後、洗浄する。牛血清アルブミン(シグマ社製、Fraction V)20mgを蒸留水1mlに溶解し、その中にグルタルアルデヒドを0.2%になるように加える。この混合液を手早く先に用意した白金線上に5μlのせ、40℃で15分間乾燥硬化する。これを過酸化水素電極とする。
【0046】
また参照電極としてはAg/AgCl参照電極を用い、対極には導電性の配管を用いた。
(3)測定装置1
図1はフロー型の1流路の測定装置である。緩衝液槽(1)より緩衝液Aをポンプ(2)により送液し、計量バルブ(3)を用いて試料5μlを注入する。第1の固定化酵素カラム(14)にはフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラム、その下流に過酸化水素電極(15)を配置し、第2の固定化酵素カラム(16)と第2の過酸化水素電極(17)は配置しない。注入された試料は緩衝液の流れにのって恒温槽(12)内に設置された混合用配管(13)を通り、温度調整と緩衝液との混合が行われ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラム(14)と過酸化水素電極(15)を通り、試料中のフルクトシルバリンから過酸化水素を生成し電流値の変化を検知する。
【0047】
この測定装置に使用する緩衝液Aの組成は、100mMのリン酸と50mMの塩化カリウムと1mMのアジ化ナトリウムを含み、pHが8.0である。
【0048】
緩衝液の流速は1.0ml/分、恒温槽の温度は37℃であった。
【0049】
(4)測定装置2
図2は透析モジュールを組み込んだフロー型のフルクトシルアミノ酸測定装置である。緩衝液槽(21)より緩衝液Bをポンプ(22)により送液し、計量バルブ(3)を用いて試料100μlを注入する。プロテアーゼの固定化酵素カラム(25)、第2の固定化酵素カラム(16)、過酸化水素電極(17)は配置せず、第1の固定化酵素カラム(17)にはフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラムを配置する。注入された試料は緩衝液Bの流れにのって恒温槽(12)内に設置された透析モジュール(26)に運ばれ、膜厚さ20μm、分子量分画12000〜14000の再生セルロース膜で試料中の低分子成分のみがフルクトシルアミノ酸検出機構(14,15)に導かれる。緩衝液槽(1)より緩衝液Aがポンプ(2)により送液されているので、透析モジュール(26)で透析された試料中の低分子成分はフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラム(14)と過酸化水素電極(15)を通過し、試料中のフルクトシルアミノ酸から生成した過酸化水素が検知される。
【0050】
この装置に流す緩衝液の組成は、緩衝液Aが100mMのリン酸、50mMの塩化カリウム、1mMのアジ化ナトリウムを含み、pHが8.0で流速が0.8ml/分である。緩衝液Bは50mMのリン酸、0.1%のドデシル硫酸ナトリウムを含み、pHが8.0で流速が0.8ml/分である。
【0051】
恒温槽の温度は37℃であった。
(5)フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラムの特性
(3)の測定装置1を用いてフルクトシルグリシンを5μl注入し、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼカラムの特性を調べた結果を以下に示す。
pH特性
緩衝液のpHを7.0、7.5、8.0、8.5、9.0としたときのフルクトシルグリシンの酸化反応の活性の測定結果を図3に示す。pH8.0〜9.0で高い活性を示した。
基質特異性
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラムの基質特異性を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
安定性
緩衝液のpHを8.0、緩衝液の流速を1.0ml/分、恒温槽温度を37℃の条件下で、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラムは1ヶ月以上初期の活性を維持しており、安定であった。
【0054】
使用したフルクトシルアミノ酸固定化カラムはε-フルクトシルリジンには実質的に作用せず、α位が糖化されたフルクトシルグリシンとフルクトシルバリンに選択的に作用する。また、至適pHがアルカリ域であるので、タンパク質の糖化アミノ酸の測定に用いるタンパク質分解酵素はアルカリ域で活性の高いものが望ましい。
【0055】
(6)半透膜による低分子成分の分離
ヒトヘモグロビンをタンパク分解酵素で分解して生じたアミノ酸及び糖化アミノ酸をアミノ酸電極またはフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化酵素カラムと過酸化水素電極を用いて測定する際、タンパク分解酵素で分解後に半透膜で低分子成分のみを分離すると、ヒトヘモグロビン中のアミノ酸及び糖化アミノ酸を再現性良く測定できる。
【0056】
(7)ヒトヘモグロビンのプロテアーゼ分解
ヒトヘモグロビンをタンパク質分解酵素で分解して生じたフルクトシルアミノ酸の測定に、アルカリ域に至適を持つフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラムを使用するので、アルカリ域で活性の高いアスペルギルス オリゼが産生するアルカリ性タンパク分解酵素ウマミザイムG(アマノエンザイム製)を使用する。
【0057】
プロテアーゼ処理液は、ヒトヘモグロビン(シグマ社製)を秤量し、2%ドデシル硫酸ナトリウム入り20mMリン酸緩衝液pH8.0に溶解し、1mg/mlウマミザイムGを加えて調製する。プロテアーゼ処理液中のヒトヘモグロビン濃度は30mg/mlである。
【0058】
このようにして調製したプロテアーゼ処理液を、37℃で8、17,25、33、42,51分間反応させた後、(4)の測定装置2にプロテアーゼ処理液を100μl注入して試料中のフルクトシルバリンを測定する。
【0059】
各反応時間でのフルクトシルバリン濃度は図4のように推移する。ヒトヘモグロビンをプロテアーゼ処理しなかった場合にはフルクトシルバリンは全く検出されなかったが、プロテアーゼで所定時間処理することでヘモグロビンからフルクトシルバリンが遊離していることがわかる。本プロテアーゼはヒトヘモグロビンに効果的に作用している。
比較例1
起源、至適pHがウマミザイムと異なるプロテアーゼを用いてヒトヘモグロビンの分解を検討した。
【0060】
使用したタンパク分解酵素は、ウマミザイムG(Aspergillus oryzae)、プロテアーゼA「アマノ」G(Aspergillus oryzae)、プロテアーゼN「アマノ」G(Bacillus subtilis)、ブロメラインF(Ananas comosus M.)、ペプチダーゼR(Rhizopus oryzae)、プロテアーゼP「アマノ」3G(Aspergillus melleus)で(以上すべて天野エンザイム製)、プロテイナーゼK(Tritirachium album、シグマ社製)、プロテアーゼXIV(Streptomyces griseus、シグマ社製)、スミチームMP(Aspergillus sp.、新日本化学工業製)である。
【0061】
実施例1(6)と同様にしてヒトヘモグロビンを上記の各種タンパク分解酵素1mg/mlのプロテアーゼ処理液を調製し、37℃で30分反応後、実施例1の(4)の測定装置2にプロテアーゼ処理液を100μl注入した。結果を表2に示す。表中の○は40pA以上のフルクトシルアミノ酸の検出値が得られたもの、△は25pA程度のフルクトシルアミノ酸が検出されたもの、×は検出値が20pA未満ものを表している。
【0062】
【表2】

【0063】
アスペルギルス オリゼ由来のタンパク分解酵素では大きな検出値が得られたが、その他の酵素ではフルクトシルアミノ酸が検出されなかった。これはヒトヘモグロビンの分解にはアスペルギルス オリゼ由来のタンパク分解酵素が有効であることを示している。さらに、アスペルギルス オリゼ由来のタンパク分解酵素の中でも至適pHが中性のものよりアルカリ性の方が大きな検出値を与えることから、ヒトヘモグロビンの分解にはアルカリ性のアルペルギルス オリゼ由来タンパク分解酵素が最適と言える。

実施例2
実施例1で示したように、アスペルギルス オリゼ由来のタンパク分解酵素を使用すればヒトヘモグロビンを分解することができ、半透膜を介した測定装置でヒトヘモグロビンから生じたアミノ酸及び糖化アミノ酸を検出することができる。さらに、処理を簡略化し、分析時間を短縮するため、本タンパク分解酵素を高密度に担体上に固定化したカラムを用いた分析を行った。詳細を以下に示す。
【0064】
(1)フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラムの製造
実施例1と同様にフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(キッコーマン社製)固定化カラムを作製した。
【0065】
(2)リジンオキシダーゼ固定化カラムの製造
実施例1(1)フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラムの製造方法と同様にして耐火レンガ(30〜60メッシュ)150mgをホルミル化する。そしてこの耐火レンガにpH7.0、100mMリン酸ナトリウム緩衝液にリジンオキシダーゼを50ユニット/mlの濃度で溶解した溶液50μLを接触させ、0〜4℃で1日放置し固定化する。この酵素固定化担体を内径3.5mm、長さ30mmのカラムに充填しリジンオキシダーゼ固定化カラムとする。
【0066】
(3)ウマミザイムG固定化カラムの製造
トヨナイト200(平均粒径170μm、東洋電化工業製)300mgを10%γ−アミノプロピルトリエトキシシランの20%エタノール溶液に1時間浸漬した後、よく蒸留水で洗浄し、乾燥する。こうしてアミノシラン化処理した担体を5%グルタルアルデヒドに1時間浸漬した後、よく蒸留水で洗浄し、最後にpH7.0、100mMのリン酸ナトリウム緩衝液で置き換え、この緩衝液をできるだけ除いておく。このホルミル化したトヨナイト200にpH7.0、100mMリン酸ナトリウム緩衝液にウマミザイムG(アマノエンザイム製)を100mg/mlの濃度で溶解した溶液800μlを接触させ、0〜4℃で1日放置し固定化する。この酵素固定化担体を内径3.5mm、長さ30mmのカラムに充填しウマミザイムG固定化カラムとする。
【0067】
(4)過酸化水素電極の製造方法
実施例1と同様に過酸化水素電極を作製した。
【0068】
(5)測定装置
図2のプロテアーゼの固定化酵素カラム(25)にウマミザイムG固定化カラムを、第1の固定化酵素カラム(14)にフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラムを、第2の固定酵素カラム(16)にリジンオキシダーゼ固定化カラムを組み込み、フロー型のフルクトシルアミノ酸とL−リジンを同時測定可能な装置とする。緩衝液槽(21)より緩衝液Bをポンプ(22)により送液し、計量バルブ(3)を用いて試料100μlを注入する。注入された試料は緩衝液Bの流れにのって恒温槽(12)内に配置されたウマミザイムG固定化カラムに運ばれて、ウマミザイムGの作用により糖化アミノ酸及びアミノ酸を生成する。ウマミザイムGが作用した試料は緩衝液Bの流れによってさらに下流に設置された透析モジュール(26)に運ばれ、膜厚さ20μm、分子量分画12000〜14000の再生セルロース膜で試料中の低分子成分のみがフルクトシルアミノ酸及びアミノ酸検出機構に導かれる。緩衝液槽(1)より緩衝液Aがポンプ(2)により送液されているので、透析モジュール(26)で透析された試料中の低分子成分はフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化カラム(14)と過酸化水素電極(15)を通過し、試料中のフルクトシルアミノ酸から生成した過酸化水素を検知する。次にフルクトシルアミノ酸検出機構(14,15)を通過した試料を含む緩衝液は、リジンオキシダーゼ固定化カラム(16)と過酸化水素電極(17)を通過し、試料中のリジンから生成した過酸化水素を検出する。
【0069】
この装置に流す緩衝液は、緩衝液Aが100mMのリン酸、50mMの塩化カリウム、1mMのアジ化ナトリウムを含み、pHが8.0で流速が0.8ml/分である。緩衝液Bは50mMのリン酸、0.1%のドデシル硫酸ナトリウムを含み、pHが8.0で流速が0.8ml/分である。
【0070】
恒温槽の温度は37℃であった。
【0071】
(6)ヒトヘモグロビン中のフルクトシルアミノ酸とアミノ酸の測定
ヒトヘモグロビン溶液を(5)の測定装置で100μlを注入し、試料中のフルクトシルバリン濃度とリジン濃度を同時に測定する。
【0072】
ヒトヘモグロビン溶液は、ヒトヘモグロビン(シグマ社製)をヘモグロビン濃度が30mg/mlとなるように所定量を秤量し、2%ドデシル硫酸ナトリウム入り20mMリン酸緩衝液pH8.0に十分に溶解して調製する。
【0073】
30mg/mlのヒトヘモグロビン溶液中のフルクトシルバリン濃度とリジン濃度を(5)の測定装置で測定すると、フルクトシルバリンは15.1μM、リジンは12.6μMであった。
【0074】
溶液酵素と反応させた実施例1では15μM程度のフルクトシルバリンを生成するのに約20分の反応時間が必要であったが、本測定装置ではウマミザイムG固定化カラムと試料の接触時間(10秒程度)で15μM程度のフルクトシルバリンを生成する。高密度にウマミザイムGを固定化することで、効率よくヒトヘモグロビンを分解できた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、血液検体中の安定糖化ヘモグロビンを簡便且つ正確に定量することができ、しかも測定装置の汚染を避けることができ、糖尿病の検査を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】測定装置の概略図
【図2】透析を行う測定装置の概略図
【図3】固定化酵素のpH 特性
【図4】溶液タンパク分解反応のタイムコース
【符号の説明】
【0077】
1 緩衝液槽
2 緩衝液送液ポンプ
3 計量バルブ
4 計量ループ
5 試料管
6 試料吸引ニードル
7 廃棄ポット
8 洗浄液槽
9 バルブ
10 バルブ
11 シリンジポンプ
12 恒温槽
13 混合用配管
14 第1の固定化酵素カラム
15 過酸化水素電極
16 第2の固定化酵素カラム
17 過酸化水素電極
18 背圧コイル
19 廃液ボトル
20 廃液ボトル
21 緩衝液槽
22 緩衝液送液ポンプ
23 ダンパー
24 恒温化用配管
25 プロテアーゼの固定化酵素カラム
26 透析モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルクトシル L-バリンに作用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを固定化した固定化体と、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により増減する電気化学的活性物質を検知する機構を用いて、検体中のフルクトシルバリン濃度を電気化学的に検知するにあたり、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固体化体と試料が接触する前に、糖化ヘモグロビンを含む検体をアスペルギルス属タンパク質分解酵素で処理することを特徴とする糖化ヘモグロビンの分析方法。
【請求項2】
アスペルギルス属タンパク質分解酵素が、アスペルギルス オリゼが生産するアルカリ性タンパク質分解酵素またはその改変体であることを特徴とする請求項1記載の糖化ヘモグロビンの分析方法。
【請求項3】
糖化ヘモグロビンを含む検体を陰イオン界面活性剤含有緩衝液と混合し、その後にアスペルギルス属タンパク質分解酵素が固定化された担体と接触させることにより処理することを特徴とする請求項1記載の糖化ヘモグロビンの分析方法。
【請求項4】
フルクトシルアミノ酸と、少なくとも1種類の遊離アミノ酸を検知し、フルクトシルアミノ酸量と特定の遊離アミノ酸濃度の比率を算出し、該比率より糖化ヘモグロビン量を算出することを特徴とする請求項1記載の糖化ヘモグロビンの分析方法。
【請求項5】
糖化ヘモグロビンを含む検体をアスペルギルス属タンパク質分解酵素で処理し、該処理液を透析し、透析後の液をフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体に接触させることを特徴とする請求項1記載の糖化ヘモグロビンの分析方法。
【請求項6】
フルクトシル L-バリンに作用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを固定化した固定化体(14)と、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により増減する電気化学的活性物質を検知する電気化学検出機構(15)と、糖化ヘモグロビンを含有する検体を注入する機構(3,4,6)を備えた糖化ヘモグロビンの分析装置であって、検体を注入する機構の下流にアスペルギルス属由来のタンパク質分解酵素を結合したカラム状リアクター(25)を備えることを特徴とする糖化ヘモグロビンの分析装置。
【請求項7】
フルクトシル L-バリンに作用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを固定化した固定化体(14)と、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により増減する電気化学的活性物質を検知する電気化学検出機構(15)と、糖化ヘモグロビンを含有する検体を注入する機構(3、4、6)を備えた糖化ヘモグロビンの分析装置であって、第1の送液機構(1、2)の下流に少なくとも1種の遊離アミノ酸検知機構(16、17)を併設することを特徴とする請求項6に記載の糖化ヘモグロビンの分析装置。
【請求項8】
フルクトシル L-バリンに作用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを固定化した固定化体(14)と、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により増減する電気化学的活性物質を検知する電気化学検出機構(15)を備え、前記フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体(14)と電気化学検出機構(15)に緩衝液を送液する第1の送液機構(1,2)を有し、第2の送液機構(21,22)と、該送液機構の下流にアスペルギルス属由来のタンパク質分解酵素を結合したカラム状リアクター(25)を置き、該カラム状リアクター(25)を通過した後に低分子化合物を透過する半透膜(26)を介して、第1と第2の送液機構により送液される液を一定時間併走させ、半透膜を透過した物質を第1の送液機構(1,2)の下流に配置された前記フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体(14)に接触させることを特徴とする糖化ヘモグロビンの分析装置。
【請求項9】
フルクトシル L-バリンに作用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを固定化した固定化体(14)と、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの触媒する反応により増減する電気化学的活性物質を検知する電気化学検出機構(15)を備え、前記フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体(14)と電気化学検出機構に緩衝液を送液する第1の送液機構(1,2)を有し、第2の送液機構(21,22)と糖化ヘモグロビンを含有する検体を注入する機構(3,4,6)と、該注入機構の下流にアスペルギルス属由来のタンパク質分解酵素を化学的に結合したカラム状リアクター(25)を置き、該カラム状リアクター(25)を通過した後に低分子化合物を透過する半透膜(26)を介して、第1と第2の送液機構により送液される液を一定時間併走させ、半透膜(26)を透過した物質を第1の送液機構(1,2)の下流に配置された前記フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ固定化体(14)に接触させるとともに、第1の送液機構(1,2)の下流に少なくとも1種類の遊離アミノ酸検知機構(16,17)を併設すること特徴とする請求項7記載の糖化ヘモグロビンの分析装置。
【請求項10】
糖化ヘモグロビンを測定するためアスペルギルス属タンパク質分解酵素の糖化ヘモグロビンを含む検体を処理するための使用。
【請求項11】
フルクトシルアミノ酸と、試料の光吸収から求めたヘモグロビン量の比率をとり、該比率より糖化ヘモグロビン量を算出することを特徴とする請求項1記載の糖化ヘモグロビンの分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−304742(P2006−304742A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134591(P2005−134591)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】