説明

糖化ヘモグロビンの定量測定

本発明は、ヘモグロビン分子を含有した血液試料内の糖化ヘモグロビン(HbA1c)を定量測定するための方法に関する。この方法において、ヘモグロビン分子は血液試料から抽出され、粗い金属表面上に吸着され、さらに、表面増強ラマン散乱(SERS)測定にさらされる。本発明は、血液内のHbA1c濃度を測定するための汎用法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖化ヘモグロビンの定量測定に関する。
【背景技術】
【0002】
真性糖尿病に苦しむ人々は、血液中のグルコース濃度を生涯モニターされる必要がある。しかし、直接的なグルコース検出は、例えば運動又は起こったばかりの食物摂取による非常に速い変動にさらされた短期間のマーカーであるため、長期的な管理に対して非常に信頼できる指標ではない。
【0003】
ヘモグロビンは、血液を介して赤血球内で酸素を輸送する蛋白質である。ヘモグロビンは、4つの蛋白質鎖、2つのアルファ鎖及び2つのベータ鎖から構成され、それぞれが、鉄原子を含有した環状ヘム群を有している。その鉄原子に可逆的に結合した酸素が血液を介して輸送される。
【0004】
ヘモグロビンの大部分である約97%がHbAと呼ばれる種類のものであり、「正常な」ヘモグロビンと名付けられる。HbAはHbA1cに修飾することができ、HbA1cは、グルコース分子及びHbA分子がグルコシル化として知られるプロセスにおいて反応する場合に形成される。グリコシル化は非酵素的な不可逆反応であり、グリケーションとも呼ばれる場合がある。HbA1cは、従って、「グリコシル化ヘモグロビン」「糖化ヘモグロビン」又は「グリコヘモグロビン」と呼ばれる。
【0005】
血糖値が高い時間が長い程グリコシル化は起こる一方で、血糖値が高い程ヘモグロビンのグリコシル化は起こることが実証された。従って、HbA1cレベルは、主として時間平均血糖値に依拠し、糖尿病を患った人々にとって特に興味深い血糖管理の反映を提供している。
【0006】
ヘモグロビン分子は、アポトーシスが起こるまで血流で残存する。従って、HbA1c濃度は、6から8週間前からのグルコースが統合された値を表す。従って、HbA1c濃度は、血糖濃度が直接測定される場合に観察することができる非常に速い変動は受けず、従って、糖尿病患者に対する長期のグルコース管理のモニタリングにおいて価値ある指標として考慮される。HbA1cの量は、通常、全ヘモグロビンの割合として表現される。
【0007】
HbA1cを測定することができるいくつかの方法があり、それらは、HbA分子からのHbA1c分子の分離に基づいている。その分離は、電荷の差、すなわち、イオン交換クロマトグラフィー、(陽イオン交換クロマトグラフィーに基づいた)高速液体クロマトグラフィー、電気泳動、若しくは、等電点電気泳動、又は、構造的な差(アフィニティークロマトグラフィー若しくはイムノアッセイ)、又は、化学分析(光度測定若しくは分光測光)に基づくことができる。
【0008】
しかし、そのような方法は種々の研究室に渡って標準化することができず、参照方法だけでなく参照材料も依然として開発中である。結果として、種々の研究室により行われた測定は比較することが難しい。さらに、特定の研究室により行われた測定を解釈することができるよう、この研究室により提供された参照範囲を知る必要がある。加えて、HbA1cの濃度は、通常とても低いため、測定することが困難である。
【0009】
参考文献の国際公開2005/064314号は、HbA1c検出に対してラマン散乱の使用を開示しているが、ラマン散乱はHbAとHbA1cを適切に識別することに対して非常に敏感というわけではないため、そのような方法を改善する必要性が存在している。一般的に、健康な人々の血液におけるHbA1c濃度はたったの0.3から0.6mMの範囲内であるのに対して、ラマン散乱はミリモル濃度範囲内の分析物の検出を可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、信頼できる測定を得ることを可能にする、血液試料内の糖化ヘモグロビンを定量測定するための汎用法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明は、ヘモグロビン分子を含有した血液試料内の糖化ヘモグロビン(HbA1c)を定量測定するための方法に関し、当該方法は:
前記血液試料から前記ヘモグロビン分子を抽出するステップ、
粗い金属表面上に前記ヘモグロビン分子を吸着させるステップ、及び、
前記吸着した分子の表面増強ラマン散乱により得られたスペクトルを分析するステップ、
を含む。
【0012】
本発明の利点は、測定が信頼できるものであるということである。実際に、表面増強ラマン散乱を用いた正常なヘモグロビンからの糖化ヘモグロビンの区別は、分子の異なる化学構造による振動スペクトルにおける変化に基づいている。従来技術の方法の大部分が、電荷の差、又は、類似の特性を有した他の分子に対して前記分子の感受性を高くする結合特性に関する。さらに、表面増強により、本発明の方法を用いて得られた信号は、信頼できる測定に対して十分である。
【0013】
本発明の別の利点は、血液試料の迅速な分析を可能にすることである。実際、本発明の方法は、時間のかかる操作である糖化ヘモグロビンからの正常なヘモグロビンの分離を必要としないため、測定をかなり速く実行することができる。結果として、従来技術の方法は、通常、2回医師を訪れることを必要としているけれども、血液を試料採取し測定するために医師を訪れる患者は、この同じ訪問中に医師からフィードバックを受けることができる。
【0014】
本発明の別の利点は、ヘモグロビン分子の特別な位置で結合したものだけでなく、ヘモグロビンに結合したいかなるグルコース分子も表面増強ラマン散乱は検出し、従って、測定がより正確であるということである。
【0015】
本発明の別の実施形態によると、ラマン散乱は、共鳴ラマン散乱によりさらに増強される。得られた信号は、従って、さらに増強される。
【0016】
この実施形態において、前記ラマン散乱測定がレーザーを用いて行われる場合、該レーザーの波長は、例えば400から600nmの正常なヘモグロビン(HbA)の吸収帯において選ぶことができる。
【0017】
本発明の特定の実施形態によると、HbAの濃度及びHbA1cの濃度は同時に決定される。これは、スペクトルがそれら両方に対する情報を生じるため可能である。ヘモグロビン異常を検出することも可能であり、それは、ヘモグロビンスペクトルにおける他の変化により示すことができる。どちらの要因も、HbA1c測定の結果に影響を及ぼすことができ、従って、所望であれば、HbA1c測定におけるエラー源にならないように考慮に入れることができる。
【0018】
本発明の実施形態において、当該方法は、あり得る以下のステップ:
(a)前記血液試料内の血漿から血液細胞を分離するステップ(S1);
(b)前記ヘモグロビン分子を放出するために血液細胞を溶解するステップ(S2);
(c)前記ヘモグロビン分子に凝集された銀コロイドを添加するステップ(S3);
(d)前記銀コロイド上に吸着された前記ヘモグロビン分子の表面増強ラマン散乱を測定するステップ(S4);
(e)ラマンスペクトルを得るために、測定されたデータを分析するステップ(S5);
(f)前記スペクトルから糖化ヘモグロビン(HbA1c)濃度を演繹するステップ(S6);
を含む。
【0019】
本発明の別の実施形態において、当該方法は、ステップ(a)とステップ(b)の間に、生理食塩水を用いてステップ(a)で得られた細胞分画をインキュベートし、シッフ塩基を有した化学変化を起こしやすい糖化ヘモグロビン(pre−HbA1c)を取り除くことに本質があるさらなるステップを含む。
【0020】
本発明は、ヘモグロビン分子を含有した血液試料内の糖化ヘモグロビン(HbA1c)を定量測定するための装置にも関し:
前記血液試料から前記ヘモグロビン分子を抽出するための手段、
粗い金属表面上に前記ヘモグロビン分子を吸着させるための手段、及び、
前記吸着した分子の表面増強ラマン散乱により得られたスペクトルを分析するための手段、
を含む。
【0021】
一実施形態によると、前記血液試料からヘモグロビン分子を抽出するための手段は、血漿から血液細胞を分離するための第1のモジュール、並びに、前記血液細胞から糖化ヘモグロビン分子及び正常なヘモグロビン分子を抽出するための第2のモジュールを含む。
【0022】
一実施形態によると、前記粗い金属表面上にヘモグロビン分子を吸着させるための手段は、前記抽出された分子を凝集剤に接触させるための第1の供給源及び手段、並びに、前記抽出された分子を銀コロイド粒子に接触させるための第2の供給源及び手段を含む。
【0023】
一実施形態によると、前記吸着した分子の表面増強ラマン散乱により得られたスペクトルを分析するための手段は、表面増強ラマン散乱信号の検出のために、測定チャンバ、光源、及び、検出ユニットを含む。
【0024】
一実施形態によると、前記検出は自動化される。
【0025】
本発明の前記及び他の態様は、添付の図面を参考にして以下の説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の方法の実施形態を実施するための装置の例を表した概略的なブロック図である。
【図2】正常なヘモグロビン(点線)及び糖化ヘモグロビン(実線)のSERRSスペクトルを概略的な方法でグラフを用いて例証している。
【図3】本発明の方法の実施形態における主要なステップを表したブロック図である。
【図4】本発明の実施形態による、糖化ヘモグロビン(HbA1c)の自動化された定量測定のための統合された装置の例を表した概略的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、表面増強ラマン散乱(SERS)によりHbA1cの濃度を測定することを求めている。ヘモグロビン分子は、血液試料から抽出されて粗い金属表面に吸着され、次に、SERS信号を得るためにレーザー等の光源のビームにかけられる。
【0028】
ラマン分光法は、以下の現象に基づいている。分析物と呼ばれる化合物が適切な光源で照らされると、少数の光子は分子の振動による「ラマン散乱」として知られる現象から生じる変化したエネルギーレベルで現れるけれども、大多数の反射した光子が入射光のエネルギーと同じエネルギー(周波数)で放出される(レイリー散乱)。この試料の分子による光の散乱(後方散乱とも呼ばれる)が検出され、分子特異的な振動スペクトルが得られる。スペクトルの各ピークは、要素に対する特定のはずみ(bound)に一致する。結果として、ラマン散乱の強度はこれら分子の濃度に依拠しているけれども、結果として生じるラマンスペクトルは、試料内の光吸収分子の化学的組成物及び構造の特徴である。化合物によって異なるラマン応答を示し、各スペクトルは従って特定の分析物に対して独特であるため、ラマン分光法は信頼できる技術である。
【0029】
SERS信号を得るための基本的なアプローチは、標的分析物を適した粗い金属表面上に吸着させることである。本明細書における「粗い金属表面」という表現は、コロイド金属ナノ粒子の懸濁液又は固体の金属基板を示しており、以下で見られるように、本発明の一実施形態において、400から600nmの波長を有した光によりヘモグロビンのラマン励起は行われるため、前記金属は、例えば、金、銀、又は銅、好ましくは銀であり得る。本発明の一実施形態によると、コロイド懸濁液として調製された銀ナノ粒子が使用される。最大の増強を得るために、後に説明されるように、コロイド粒子は別々のクラスターに凝集されるべきである。
【0030】
標的分析物を有した表面は、次に、レーザービームを照射され、散乱がラマン分光法を用いて収集される。吸着された分子と粗い金属表面との相互作用により、ラマン散乱信号は、標準又は共鳴ラマン散乱と比較して数十倍増強される。
【0031】
前記信号は、共鳴において標的分析物の最大吸収周波数(すなわち、それに近い周波数)を有した光源の励起波長を使用することによってさらに増強することさえできる。これは、SERSを用いて同時に行われた共鳴ラマン散乱(RRS)に一致し、そのような技術は、表面増強共鳴ラマン散乱(SERRS)と呼ばれる。SERRSを用いて、ラマン信号を1014倍まで増強することができる。SERRSにおいて、ラマンスペクトルを生じるために使用される光源は、分析物の吸収帯に実質的に調和された、レーザー等の干渉性の光源であるべきで、分析物の吸収最大波長に、又は、分析物の吸収スペクトルにおける第2のピークに近い波長であり得る。
【0032】
以下、SE(R)RSが参照された場合には、SERS又はSERRSを理解するべきである。
【0033】
他の光学検出方法と比較して、散乱光が、上記のように、いかなるラマン活性化合物(すなわち、分極率が変化し得るいかなる分子)に対しても特有である一方で、分子特異的な振動ピークから成り、表面増強効果により非常に増強されるという利点を、SE(R)RSは示している。当該方法は非常に感受性が高く、ピコモルの範囲の濃度の分析物における検出さえも可能にしている。
【0034】
本発明の、血液試料内の糖化ヘモグロビン(HbA1c)を定量測定するための方法における実施形態は、次に、図3を参考にしてより詳細に記述される。
【0035】
第1のステップ(S1)において、例えばここでは細胞を適した膜で保有することによる等、血漿から赤血球を分離することにより赤血球が血液試料から単離される。そのような分離に適した、例えば、Pall Corporation(登録商標)のBTS−SP membrane(ポリスルホン非対称膜)、又は、Osmonics社(登録商標)のPlasmaSep(登録商標)ポリカーボネートトラックエッチ膜等、いかなる膜も使用することができる。
【0036】
第2のステップ(S2)において、細胞に含有された(糖化及び非糖化)ヘモグロビン分子の放出を得るために、血液細胞の溶解が行われる。本発明の実施形態において、前記溶解は、水又は低浸透圧のバッファーにおける血液細胞のインキュベーションにより得られ、それは、水の取込みにより細胞を膨張させて最終的に破裂させ、その内容物が細胞膜から溶液内に排出される。
【0037】
第3のステップ(S3)において、銀コロイドが、HbA及びHbA1c分子を含有した溶液に添加される。本発明の一実施形態において、銀コロイドは、(Munro et al.(1995),Langmuir,11:3712−3720により記載されているように調製された)クエン酸還元された銀コロイドである。一般的に、前記銀コロイドは、40〜60nmの直径を有したナノ粒子から成る。
【0038】
一つずつのナノ粒子よりも有意に高いラマン散乱の増強を与えるクラスターを形成するために、銀コロイドは凝集剤により凝集される。前記凝集剤は、例えば、塩化ナトリウム若しくは硝酸ナトリウム等の無機塩、又は、スペルミン等のアミンであり得る。実際、クエン酸還元された銀コロイドは、特にHbA1c分子並びにHbA分子等、溶液内に存在する適した表面電荷と粒子全てを結合させることができる。
【0039】
第4のステップ(S4)において、凝集された銀ナノ粒子のコロイド並びに(HbAタイプ及びHbA1cタイプの)ヘモグロビン分子を含有した溶液は、SE(R)RS測定により分析される。
【0040】
本発明の実施形態に従ったSE(R)RSによるHbA1c濃度の測定のための装置1が、次に、図1を参考にして記述される。装置1は、光源2、ここではレーザー2、ビームスプリッター3、レンズ4、測定チャンバ5、(記述されたステップS1からS3が行われる)試料調製のためのモジュール6、フィルター7、及び、ラマン分光計8を含む。いかなる標準のラマン分光計も、SE(R)RSを得るために使用することができる。
【0041】
レーザー2は、おそらく帯域フィルターを用いてスペクトルで精製することができる励起ビームを放出する。レーザービームは、ビームスプリッター3及び集束レンズ4を介して試料調製に向けられる。散乱光は、この同じレンズ4に集められ、光に対して直角の経路を課するビームスプリッター3により方向づけられる。レイリー散乱光が光ビームから取り除かれるフィルター7を光は通り抜けるので、ビームはラマン散乱光のみ、従ってラマン信号のみを含有する。前記ラマン信号は、ラマン分光計8により検出される。ラマン分光計8は、検出器上のそのスペクトル要素内にラマン散乱光を空間的に分解又は分散する格子を含有する。検出器は、従来技術からのいかなる種類のものでもありえ、例えば、電荷結合素子検出器(CCD)であり得る。
【0042】
本発明の特定の実施形態に従ったSE(R)RSによるHbA1c濃度の自動化された定量測定のための統合装置21が、次に、図4を参考にして記述される。図1の装置1の要素に類似した、装置21の要素は、同じ参照番号を用いて示される。
【0043】
装置21は、血漿から血液細胞を分離するための第1のモジュール9、血液細胞から糖化ヘモグロビン分子及び正常なヘモグロビン分子を抽出するための第2のモジュール10、前記抽出された分子を凝集剤に接触させるための第1の供給源及び手段11、並びに、前記抽出された分子を銀コロイド粒子に接触させるための第2の供給源及び手段12、測定チャンバ5、光源2、及び、SE(R)RS信号の検出のための検出ユニット13を含む。
【0044】
より正確には、分析されることになる血液試料は、血液細胞が血漿から分離される、すなわち、上記の第1のステップ(S1)が実行される第1のモジュール9内に入れられる。この分離は、Pall Corporation(登録商標)のBTS−SP membrane(ポリスルホン非対称膜)、又は、Osmonics社(登録商標)のPlasmaSep(登録商標)ポリカーボネートトラックエッチ膜等の適した膜の使用により達成することができる。別の実施形態では、遠心分離力を使用して血液細胞を堆積させる。
【0045】
後に、血液細胞は、血液細胞の溶解によるヘモグロビン分子の抽出のための適したバッファーを含有する第2のモジュール10に移される。従って、モジュール10は、上記の第2のステップ(S2)を実行するよう配置される。一実施形態において、正常なヘモグロビン分子も糖化ヘモグロビン分子も放出する細胞の溶解は、10mM Tris[pH7.6]、5mM MgCl2、10mM NaCl等の低浸透圧のバッファーを用いたインキュベーションにより実現することができる。あるいは、例えばRBC溶解バッファー(eBiosciences社(登録商標))又は赤血球溶解バッファー(Qiagen(登録商標))等、商業的に入手可能な溶解バッファーを使用することができる。
【0046】
抽出されたヘモグロビン分子は、凝集剤(例えばスペルミン)及び銀コロイド粒子が供給源11及び12から添加される、すなわち、上記の第3のステップ(S3)が実行される測定チャンバ5に移される。
【0047】
凝集された銀コロイドの表面上へのヘモグロビン分子の吸着後、溶液は光源2からのレーザー光で励起され、SE(R)RS信号は検出ユニット13により検出される。検出ユニット13は、一般的に、図1の装置にあるようにフィルター及びラマン分光計を含む。
【0048】
モジュール9、10、及び、供給源11、12は、試料調製のためのモジュール6を構成する。このモジュール6は、他の要素を含むことができる。詳細には記述されていない図1の試料調製のためのモジュール6は、類似のモジュール及び供給源を含むことができ、さもなければ、図1の装置1は手動で操作されるため、種々の適した要素を含むことができる。図1の装置1と図4の装置21の主要な差は、図4の装置21が自動化されていることである。図4の装置21上で実行される方法全てを、コンピュータによりモニターすることができる。
【0049】
図4には示されていないけれども、装置21は、図1のレンズ4に類似のレンズも含むことができる。
【0050】
装置21は、測定されたSE(R)RS信号から糖化ヘモグロビンの量を計算する、適したソフトウェアを有したコンピュータ等、データ分析のための手段も含むことができる。
【0051】
統合装置21は、自動化された様式で本発明の方法を実行することを可能にしている。
【0052】
他の装置を使用して、本発明の方法を実行することができる。
【0053】
装置が何であれ、当該方法がSERS信号を得るという目的で行われた場合に、レーザー2の波長は、分析物(例えば514nm)よりも使用されるレーザーに依拠することが好ましいということに次に注目することができる。当該方法がSERRS信号を得るという目的で行われた場合には、レーザー2の波長は、上記のように分析物の吸収帯内にあることが好ましい。すなわち、レーザーの波長は、HbA1c吸収スペクトルの最大値の1つに近い、又は、ほぼその値である。HbA1cの吸収スペクトルはHbAの吸収スペクトルとほぼ同じであるため、HbA1cに対する増強を得るために、周知であるHbAの吸収スペクトルの波長を使用することが可能である。
【0054】
HbAは、412nmあたり、543nm、さらに577nmあたりで吸収帯を示す。Agコロイドに対するSE(R)RSの好ましい実用的な励起波長は、例えば543nm又は577nm、若しくは、ほぼその値等、520と600nmの間にある。他の金属に対して、好ましい波長は、例えば赤色の波長範囲内でより多くのプラズモン共鳴を有する金に対しては、550から650nmの波長(例えば632.8nm(HeNeレーザー))を使用することがより実用的である等、異なる場合がある。
【0055】
レーザー2を用いた励起は、いかなる場合においても、測定チャンバ5に含有された糖化ヘモグロビン分子からのSE(R)RS信号も正常なヘモグロビン分子からのSE(R)RS信号も刺激する。本発明の特定の実施形態によると、HbAの濃度は、同じSE(R)RSスペクトルに基づき、HbA1cの濃度と同時に測定される。そのような場合において、測定の方法はSERRSであるべきであり、HbA分子並びにHbA1c分子からのラマン信号が、HbA最大吸収波長に近い励起周波数の使用により増強された共鳴であるため、レーザーの波長は、HbAの最大吸収波長に近い値又はほぼその値で有利に選ばれる。
【0056】
第5のステップ(S5)において、測定されたデータは分析される。SE(R)RSスペクトルを得る及び/又は分析するための装置は、コンピュータ等、ある形状のデータプロセッサを含むことができる。SE(R)RS信号が検出器8によって捕獲されると、その周波数及び強度のデータが分析のためのこのコンピュータまで送られる。
【0057】
得られたSE(R)RSスペクトルは、例えば、図2のスペクトルの種類のものであり得る。このスペクトルは、横座標にラマンシフト、及び、縦座標にSE(R)RS信号強度を有したグラフ上で表されており、図2のグラフは、SERRS信号を表している。
【0058】
実線15のスペクトルは糖化ヘモグロビンHbA1cに一致する一方で、点線14のスペクトルは正常なヘモグロビンHbAに一致する。構造の差により、HbA1cから得られた信号は、HbAによる信号と比較して、いくらか追加のスペクトル特徴を含有しており、その特徴は、2つの追加のピーク16、17として図2上で観察することができる。これは、2つのスペクトルを識別することを可能にしている。グルコースとヘモグロビンの間の各はずみは異なるピークを与えるが、HbAスペクトルとは異なる1つのピークが、実際、スペクトルを識別するのに十分である。
【0059】
第6のステップ(S6)において、HbA1c濃度(又はレベル)は、測定されたスペクトルの分析から演繹される。より正確には、この濃度はSE(R)RS信号強度から演繹される。HbA濃度も測定される上記の特定の実施形態において、多変量法が、試料内の糖化ヘモグロビンの濃度も正常なヘモグロビンの濃度も決定するために実行される。
【0060】
本発明の別の実施形態によると、当該方法は、第1のステップ(S1)と第2のステップ(S2)の間、すなわち、赤血球の溶解前にさらなるステップを含み、該ステップは、生理食塩水を用いて(血液に膜を通過させることにより得られた)細胞分画をインキュベートし、シッフ塩基を有した化学変化を起こしやすい糖化ヘモグロビン、すなわちpre−HbA1cを取り除くことに本質がある。このステップは任意である。このステップが行われない場合、SE(R)RS信号は、従って、pre−HbA1c分子のラマン散乱を取り込み、これは、HbA1c濃度の最終結果において考慮に入れるべきである。しかし、これを考慮に入れることは、明確なスペクトル特徴を与えるシッフ塩基により、SE(R)RSにおいてpre−HbA1cは容易に区別することができるため、それほど複雑ではない。このステップが行われる場合、pre−HbA1c分子は取り除かれたため、ラマン散乱は、従って、pre−HbA1c分子による影響を受けない。
【0061】
HbA1cに対する正常な範囲は、通常、全ヘモグロビン濃度の約4から6%の間にある。正しく管理された糖尿病患者の濃度は、7又は8%まで高くありえ、管理されていない糖尿病の場合、15から20%まで達するおそれがある。めったに20%を超えることはない。HbA1c濃度における各1%の変化は、平均血糖において約25から35mg/dLの変化を表しており、その結果、長期の血糖症状態に対する基準を与えている。
【0062】
さらに、前記測定は、本発明の特定の実施形態に関して説明されたように、所望であれば測定することができる正常なヘモグロビンの量に対する情報も生じる。さらに、前記測定は、ヘモグロビン異常を示すことができるヘモグロビンスペクトルにおける他の変動を同定する。それらの異常は、本発明の方法においては考慮に入れることができるけれども、HbA1cを決定する従来技術の方法においてはエラーの原因である可能性がある。
【0063】
本発明の1つの実施形態において、本発明の方法を実行する前に、既知の濃度のHbA1cを有した試料に対して検査を行い、HbA1cの放出ピークをスポットすること、及び、後の測定が比較される参照を有することを可能にする。
【0064】
本発明は、図面及び前記の説明において詳細に例示及び記述されてきたけれども、そのような図解及び説明は、説明的又は例証的であり、拘束性はないと考慮されることになる。本発明は、開示された実施形態に限定されない。
【0065】
開示された実施形態に対する他の変更は、請求された発明を実行する際に、図面、明細書、及び付随の特許請求項の範囲の調査から当業者により理解及びもたらすことができる。特許請求項の範囲において、「含む」という用語は、他の要素又はステップを除外せず、不定冠詞はその複数形を除外しない。1つのプロセッサ又は他のユニットは、特許請求の範囲において説明されたいくつかの項目の機能を満たすことができる。特定の測定が互いに異なる従属項において説明されているという単なる事実は、これらの測定されたものの組合せを役立つよう使用することができないと示しているわけではない。コンピュータプログラムは、他のハードウェア若しくはその一部と共に供給される、光学的記憶メディア又は固体状態のメディア等、適したメディア上に貯蔵/分布することができるが、インターネット又は他の有線若しくは無線の通信システムを介して等、他の形状で分布することもできる。特許請求の範囲におけるいかなる参照番号も、範囲を限定するとして解釈するべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビン分子を含有した血液試料内の糖化ヘモグロビン(HbA1c)を定量測定するための方法であって:
前記血液試料から前記ヘモグロビン分子を抽出するステップ、
粗い金属表面上に前記ヘモグロビン分子を吸着させるステップ、及び、
前記血液試料内の糖化ヘモグロビンを定量測定するために、前記吸着した分子の表面増強ラマン散乱により得られたスペクトルを分析するステップ、
を含む方法。
【請求項2】
前記ラマン散乱が、共鳴ラマン散乱によりさらに増強される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ラマン散乱測定がレーザーを用いて行われ、該レーザーの波長が正常なヘモグロビン(HbA)の吸収帯において選ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
正常なヘモグロビン(HbA)の濃度及び糖化ヘモグロビン(HbA1c)の濃度が同時に決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(a)前記血液試料内の血漿から血液細胞を分離するステップ(S1);
(b)前記ヘモグロビン分子を放出するために血液細胞を溶解するステップ(S2);
(c)前記ヘモグロビン分子に凝集された銀コロイドを添加するステップ(S3);
(d)前記ヘモグロビン分子の表面増強ラマン散乱を測定するステップ(S4);
(e)ラマンスペクトルを得るために、測定されたデータを分析するステップ(S5);
(f)前記スペクトルから糖化ヘモグロビン(HbA1c)濃度を演繹するステップ(S6);
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)とステップ(b)の間に、生理食塩水を用いてステップ(a)で得られた細胞分画をインキュベートし、シッフ塩基を有した化学変化を起こしやすい糖化ヘモグロビン(pre−HbA1c)を取り除くことに本質があるさらなるステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ヘモグロビン分子を含有した血液試料内の糖化ヘモグロビン(HbA1c)を定量測定するための装置であって:
前記血液試料から前記ヘモグロビン分子を抽出するための手段、
粗い金属表面上に前記ヘモグロビン分子を吸着させるための手段、及び、
前記吸着した分子の表面増強ラマン散乱により得られたスペクトルを分析するための手段、
を含む装置。
【請求項8】
前記血液試料からヘモグロビン分子を抽出するための手段が、血漿から血液細胞を分離するための第1のモジュール、並びに、前記血液細胞から糖化ヘモグロビン分子及び正常なヘモグロビン分子を抽出するための第2のモジュールを含む、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記粗い金属表面上にヘモグロビン分子を吸着させるための手段が、前記抽出された分子を凝集剤に接触させるための第1の供給源及び手段、並びに、前記抽出された分子を銀コロイド粒子に接触させるための第2の供給源及び手段を含む、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記吸着した分子の表面増強ラマン散乱により得られたスペクトルを分析するための手段が、表面増強ラマン散乱信号の検出のために、測定チャンバ、光源、及び、検出ユニットを含む、請求項7に記載の装置。
【請求項11】
自動化される、請求項7に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−507798(P2010−507798A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534019(P2009−534019)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054300
【国際公開番号】WO2008/050291
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】