説明

糖化免疫グロブリンによる疾患の判定方法

【課題】検体中の糖化免疫グロブリンを正確に測定してIgA型多発性骨髄腫等の疾患を正確に判定することができる判定方法を提供すること。
【解決手段】検体中の糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンの部位を、免疫グロブリンと結合可能な物質と結合させ、次いで、その結合した糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定することにより、糖化免疫グロブリンを正確に測定することができ、IgA型多発性骨髄腫等の疾患を正確に判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の糖化免疫グロブリンのレベルを測定することによる悪性IgA型M蛋白血症等の疾患の判定方法、糖化免疫グロブリンを測定するためのキット、検体中の免疫グロブリン分子中のキヌレニン残基のレベルを測定することによる悪性IgA型M蛋白血症等の疾患の判定方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンは、H鎖(heavy chain)とL鎖(light chain)がS−S結合した二量体構造である。H鎖はγ(IgG)、α(IgA)、μ(IgM)、δ(IgD)、ε(IgE)の5種類のクラスがあり、L鎖は各免疫グロブリンに共通するκ型とλ型の2種類のタイプが知られている。
免疫グロブリンは、通常、抗原構造の多様性に応じて、それぞれに対応する抗体産生細胞から、抗原結合部である可変部構造が異なる抗体が分泌されるため、電気泳動上γ分画を中心に不均一な幅広いピーク(多クローン性)を形成する。ところが、抗体産生細胞が腫瘍性、反応性に増殖すると、一つのクローン細胞から一つのクラス、タイプ、構造的に均一性の高い可変部を有する免疫グロブリン、すなわちmonoclonal蛋白(M蛋白)が産生されてくる。この場合、電気泳動上は荷電均一性が高いため、単一のシャープなピークを示す。このようなM蛋白が認められるM蛋白血症(M−proteinemia)には、悪性M蛋白血症と、良性M蛋白血症(MGUSとも言われる)とがある(非特許文献1)。
悪性M蛋白血症の場合、一部が多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症等の腫瘍性疾患と関係する。良性M蛋白血症の場合、元気な中高年にも認められることがあり、そのような疾患とほとんど無関係である。そのため、M蛋白が検出された場合、そのM蛋白が腫瘍性増殖による悪性M蛋白血症なのか、反応性増殖で出現する良性M蛋白血症かを鑑別しなければならない。なお、良性M蛋白血症MGUSはM蛋白血症の約3/4を占める。しかし、悪性と良性とを明確に鑑別できる手段は現時点でみつかっていない。
【0003】
一方、糖尿病診断のパラメーターである糖化蛋白のフルクトサミンの測定において、免疫グロブリン、特にIgA型M蛋白の存在が影響していることが報告されている(非特許文献2および非特許文献3)が、糖化された免疫グロブリンが悪性M蛋白血症と良性M蛋白血症の鑑別に利用できるかどうかについては明らかでない。
【非特許文献1】Annual Review 血液,2005年,207−223頁
【非特許文献2】臨床検査 vol. 47 no.10、2003年10月、1066−1068頁
【非特許文献3】J Electrophoresis 2006; 50:19
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、疾患、好適にはIgA型多発性骨髄腫等の疾患を正確に判定する方法を提供することにある。更に、本発明の課題は、検体中の糖化免疫グロブリンの測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる状況において、本発明者らは、悪性IgA型M蛋白血症患者から採取したIgA・アルブミン複合体について詳細に検討したところ、悪性IgA型M蛋白血症患者から採取したIgA・アルブミン複合体のみに特異的に、糖付加し易いキヌレニン残基を有するペプチドが観察され、従って、検体中の糖化免疫グロブリンのレベルの測定により、悪性IgA型M蛋白血症等の疾患を判定できるかどうかについて更に研究を重ねた結果、検体中の糖化IgA等の糖化免疫グロブリンを測定する方法を新たに開発し、その測定方法を用いて糖化免疫グロブリンのレベルを測定することにより、悪性のIgA型M蛋白血症か良性のIgA型M蛋白血症かなどについて簡単に判定できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0006】
従って、本発明は、検体中の糖化免疫グロブリンのレベルを測定し、そのレベルの大小から、疾患の有無および/または程度を判定する判定方法に関する。
更に、本発明は、検体中の糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンの部位を、免疫グロブリンと結合可能な物質と結合させ、次いで、その結合した糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定することを特徴とする糖化免疫グロブリンの測定方法に関する。
更に、本発明は、上記測定方法により、検体中の糖化免疫グロブリンのレベルを測定し、そのレベルの大小から、疾患の有無および/または程度を判定する判定方法に関する。
更に、本発明は、検体中の糖化免疫グロブリンを測定するためのキットであって、
i)糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンの部位と結合可能な物質;および
ii)該物質に結合した糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定するための試薬、
を含むキットに関する。
更に、本発明は、検体に存在する免疫グロブリン中のキヌレニン残基のレベルを測定し、そのレベルの大小から、疾患の有無および/または程度を判定する判定方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、IgA型多発性骨髄腫等の疾患を正確に判定することができる。更に、本発明により、検体中の糖化免疫グロブリンを正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、検体中の糖化免疫グロブリンのレベルを測定し、そのレベルの大小から、疾患の有無および/または程度を判定する判定方法である。
本発明において、検体とは、血清、血漿、尿等の生体試料、あるいはそれらの希釈液、またはそれらのモデル試料等を例示できる。
本発明において、糖化免疫グロブリンとは、免疫グロブリン部位と、その免疫グロブリン等の蛋白と結合している糖部位とを有するものであれば、特に限定しない。例えば、糖化免疫グロブリンは、免疫グロブリンとアルブミン等の免疫グロブリン以外の蛋白質とが結合している蛋白質(例えば糖化免疫グロブリン・アルブミン複合体)が糖化されたものも含む。本発明において糖化免疫グロブリン中の免疫ブロブリンとしては、IgA、IgG、IgM、IgD、IgE、及びそれら免疫グロブリン全体を例示できるが、疾患として悪性のIgA型多発性骨髄腫等の悪性のIgA型M蛋白血症であるかどうかを判定するためには、IgAが好適である。この場合、健常人や良性の糖化IgA値は、低値であり、悪性のIgA型M蛋白血症患者の糖化IgA値は、高値を示すので、この疾患を判定することができる。
【0009】
本発明において、検体中の糖化免疫グロブリンのレベルを測定するには、例えば、検体中の糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンの部位を、免疫グロブリンと結合可能な物質と結合させ、次いで、その結合した糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定することにより達成することができる。
本発明において、免疫グロブリンと結合可能な物質としては、免疫グロブリンと特異的に結合する物質であれば特に限定しないが、抗免疫グロブリン抗体、プロテインG、プロテインA等が好ましい。測定対象として糖化免疫グロブリンが、糖化IgA、糖化IgG、糖化IgM、糖化IgD、糖化IgEの場合、免疫グロブリンと結合可能な物質としては、それぞれ、抗IgA抗体、抗IgG抗体、抗IgM抗体、抗IgD抗体、抗IgE抗体を用いることが好ましい。ここで、このような抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれをも使用することができるが、特異性の点からモノクローナル抗体が好ましい。
【0010】
検体中の糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンの部位を、免疫グロブリンと結合可能な物質と結合させるには、例えば、プレート等の固相支持体に、抗ヒトIgA抗体等の免疫グロブリンと特異的に結合する物質を加え、感作する。次いで、その固相支持体を洗浄液で洗浄し、ブロッキング剤(例えば、BSAを含むPBS)を添加する。得たれるプレート等の固相支持体を低温で保存して抗体感作プレート等の抗体感作固相支持体を作成する。その固相支持体を使用前に洗浄液にて洗浄し、次いで、その支持体に糖化免疫グロブリンを含む可能性のある検体を加えて、抗体等と糖化免疫グロブリンとを反応させることにより、検体中の糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンの部位を、免疫グロブリンと結合可能な物質と結合させることができる。
【0011】
本発明において、その結合した糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定するには、例えば、その結合した糖化免疫グロブリンに酵素を作用させグルコースを遊離させ、そのグルコースを測定することことにより実施することができる。すなわち、その結合した糖化免疫グロブリン(好ましくは糖化IgA)の糖の部位のレベルを測定するには、例えば、糖化免疫グロブリン中の糖部位と免疫グロブリン部位との結合部位を、その結合部位を切断する酵素によって切断し、切断されて生成するグルコース等の糖のレベルを測定することにより達成することができる。
この場合、抗体等に結合した糖化免疫グロブリン中の糖部位と免疫グロブリン部位との結合部位を切断するには、例えば、グルコシダーゼ等のその結合部位を加水分解する酵素を用いる。加水分解酵素を用いる場合、その酵素の作用によってグルコースが遊離するので、例えば、そのグルコースを測定する。グルコースを測定するには、既知の方法により測定でき特に限定されないが、i)グルコースオキシダーゼを作用させて、生成する過酸化水素にトリンダー試薬とペルオキシダーゼを作用させて色素を生成させて測定する方法、ii)グルコースを、ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、NADを作用させてNADHの増加量を測定する方法、iii)グルコースをヘキソキナーゼでグルコース−6−リン酸に誘導し、そのグルコース−6−リン酸に、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、酸化型または還元型チオNAD(P)類及び還元型または酸化型NAD(P)類の二種類の補酵素を含有する試薬を作用させて、サイクリング反応を形成させ、該反応によって変化する補酵素の量を測定することによりグルコース量を測定する方法(例えば、特開平4−335898、特開平10−225300参照)を例示できる。そのうち、測定感度の点から、上記iii)の酵素サイクリングさせてグルコースを測定する方法が好ましい。この場合、例えば、第一試薬にグルコシダーゼ、ヘキソキナーゼ、マグネシウムイオン、チオNADおよびグルコース−6−リン酸脱水素酵素を含ませ、第二試薬にキレート剤およびNADHを含ませ、前記の抗体感作固相支持体に第一試薬を加え反応させ、次いで第二試薬を加えて酵素サイクリング反応をさせて固相に結合した糖化免疫グロブリンを測定することができる。
【0012】
本発明では、検体中の糖化免疫グロブリンを測定するためにキットを利用することができる。このようなキットとしては、i)糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンの部位と結合可能な物質;および ii)該物質に結合した糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定するための試薬を含むキットがある。キットにおいて使用する、糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンの部位と結合可能な物質としては、上記したと同様の物質が挙げられ、糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定するための試薬についても、上記したと同様に、グルコースを測定するための試薬などが挙げられる。これらのキットには、通常使用される、緩衝液、界面活性剤などが必要に応じて含まれていてもよい。
【0013】
本発明においては、検体中の免疫グロブリン・アルブミン複合体(例えばIgA・アルブミン複合体)等の免疫グロブリン(例えばIgA)中のキヌレニン残基のレベルを測定することにより、疾患、例えば、悪性のIgA型M蛋白血症等の疾患の有無および度合いを判定することができる。以下にIgA・アルブミン複合体のキヌレニン残基のレベルを測定する方法について例として説明する。
患者検体より精製したIgA・アルブミン複合体をトリプシン処理して分解し、得られるペプチドを逆相クロマトグラフィ(HPLC)にて分析し、さらにIgA・アルブミン複合体のみで検出されるペプチドの解析すると、キヌレニン残基を有するペプチドが得られる。そのペプチドの量からキヌレニン残基のレベルを測定することができる。
この場合、例えば、はじめに健常人のIgA、アルブミンを別々に精製し、1:1の割合で混合後、これを試験管内でトリプシン分解する。その後、分解されたペプチドを逆相HPLCによって分画し基本的なペプチドマップを作成する。全く同様の操作によって精製IgA・アルブミン複合体をトリプシン分解処理し、先に健常人で作成したペプチドマップと比較し、IgA−アルブミン複合体のみに認められるピークを検出し解析する。そのピークについて、N末端アミノ酸配列分析を行ないキヌレニン残基を含むペプチド(例えば、Gly−Leu−Glu−キヌレニン−Val)を検出する。このように、検体中のIgA、特にIgA−アルブミン複合体のキヌレニン残基を測定することにより、悪性のIgA型M蛋白血症の判定ができる。
【0014】
本発明の別な形態によれば、キヌレニンを含むIgA中に存在する、例えば8個以上のアミノ酸配列であって、かつ、Glu−キヌレニン−Valのアミノ酸配列を含むペプチド(以下キヌレニン含有ペプチド)をエピトープとする抗体(抗キヌレニン含有IgA抗体)、好ましくはモノクローナル抗体を用いてIgA中のキヌレニン残基のレベルを測定することができる。
この場合、例えば、抗IgA抗体と抗キヌレニン含有IgA抗体の2つを組み合わせて用いることにより、IgA中のキヌレニン残基のレベルを測定することができる。例えば、まず、抗IgA抗体を、プレート等の固相支持体に加え、放置する。結合後、タンパク質の非特異的吸着部位をブロックするために、常法に基づき、BSAのようなタンパク質でブロッキングを行なう。次いで、このように固相に結合された抗IgA抗体と、検体とを反応させ、検体中のキヌレニン含有IgAを抗原抗体反応により、前記固相に結合された抗IgA抗体を介して固相に結合させる。次いで、洗浄後、固相に結合されたキヌレニン含有IgAと、抗キヌレニン含有IgA抗体とを抗原抗体反応させる。キヌレニン含有IgA抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、測定の精度を高めるためにモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0015】
次いで、洗浄後、キヌレニン含有IgAを介して固相に結合された抗キヌレニン含有IgA抗体を測定する。これは、従来より免疫分析の分野において周知の種々の方法により行なうことができる。例えば、抗キヌレニン含有IgA抗体を酵素、蛍光色素又は放射製物質等で標識しておき、該標識を測定することにより行なうことができる。また、キヌレニン含有IgA抗体に特異的に反応する標識化抗体をさらに反応させ、該標識を測定することによっても行なうことができる。
【0016】
以下、本発明を、参考例および実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら参考例および実施例に限定されるものではない。
【0017】
参考例1
悪性のIgA型M蛋白血症患者からのIgA・アルブミン複合体の精製
悪性のIgA型M蛋白血症の多発性骨髄腫患者血清からのIgA・アルブミン複合体の精製は、文献(J.Electrophoresis,50巻,19−23頁、2006年)に記載の以下の方法により行った。
pH7.2,0.1mol/Lリン酸緩衝液で平衡化したJacalin−Agarose (フナコシ)カラム(0.9×15cm)に、悪性のIgA型蛋白血症の患者血清を添加し、未結合分画を溶出させた後、0.8 mol/Lガラクトース−pH7.2,0.1mol/Lリン酸緩衝液にて結合したIgA分画を溶出させた。その分画をpH 8.0,0.2mol/Lトリス−塩酸緩衝液に透析後,ミニコンB15にて濃縮し、さらにその試料をイオン交換体であるDEAE−Sephacel(Amersham Pharmacia Biotech)にアプライし、0から0.5 mol/LまでのNaCl直線型濃度勾配にて溶出させ、IgA−アルブミン複合体を精製した。
【0018】
実施例1
IgA中のキヌレニン残基の有無による、悪性のIgA型M蛋白血症の判定
患者検体より精製したIgA−アルブミン複合体、正常ヒトIgA、ヒトアルブミンをトリプシン処理後、分解し、得られるペプチドを逆相クロマトグラフィ(HPLC)にて分析し、IgA−アルブミン複合体のみで検出されるペプチドの解析したところ、IgA−アルブミン複合体の場合にのみ、キヌレニン残基を有するペプチドを得た。
【0019】
以下にその経過を簡単に述べる。はじめに健常人のIgA、アルブミンを別々に精製し、1:1の割合で混合後、これを試験管内でトリプシン分解した。その後、分解されたペプチドを逆相HPLCによって分画し基本的なペプチドマップを作成した。全く同様の操作によって参考例1で得た精製IgA・アルブミン複合体をトリプシン分解処理し、先に健常人で作成したペプチドマップと比較し、IgA・アルブミン複合体のみに認められるピークを検出し解析した。
【0020】
図1は、逆相HPLCによる、i)精製IgA・アルブミン複合体、およびii)精製した正常IgAとアルブミンとの混合物のペプチドマップを比較したものである。IgA・アルブミン複合体に特異的と思われるピークが確認されたが、そのピークについて、N末端アミノ酸配列分析を行ったところ、fraction 66(矢印)で酸化トリプトファンを含むペプチドが検出された。配列表の配列番号1にそのアミノ酸配列を示す。酸化トリプトファンはキヌレニンとも呼ばれる物質である。これらの結果、検体中のIgA、特にIgA−アルブミン複合体のキヌレニン残基を測定することにより、悪性のIgA型M蛋白血症の判定ができることが判明した。
【0021】
なお、このキヌレニンは,アルツハイマー病の脳内に蓄積が認められたり、目の水晶体の老化における白濁に関与していることが知られる物質であるが、血清中のIgAから証明されたのは初めてである。また、キヌレニンは、3−OHキヌレニン、さらに3−OHキヌレニングルコシド、O−β−D−グルコシドへと糖付加しやすい部位であることが知られている。ところで、糖化を認めたIgA型M蛋白例では全例IgA・アルブミン複合体が出現することも知られている(臨床検査,47巻,1066−1068頁)。従って、悪性のIgA型M蛋白血症では、キヌレニン残基を含むIgA−アルブミン複合体が生成し、キヌレニン残基を経由してIgAが糖化され、糖化IgA−アルブミン複合体が生成すると考えられる。
【0022】
実施例2
糖化IgAの測定
本発明者らは、実施例1において示したとおり、IgA・アルブミン複合体の糖化にキヌレニンの関与を初めて証明したことから、糖化IgA量の測定は疾患(IgA型多発性骨髄腫など)の新規マーカーとして活用できると考え、以下のような糖化IgA測定系等の糖化免疫グロブリン測定系を構築した。この測定系は、検体中の糖化免疫グロブリン(例えば、糖化IgA)中の免疫グロブリン(例えば、IgA)の部位を、免疫グロブリンと結合可能な物質と結合させ、次いで、その結合した糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定する測定系である。
【0023】
例えば、糖化IgAの測定では抗ヒトIgA抗体結合プレートを作製し、α−グルコシダーゼを含む酵素サイクリング法により免疫酵素測定法(EIA)と同様の手技で測定を行うことができる。詳しくは96穴プレート(Nunc)に抗ヒトIgA抗体(Dakocytomation)を100μg/100μLで加えた。4℃で1日間、感作した後、200μLの洗浄液(0.05% Tween 20を含むPBS)で3回洗浄し、ブロッキング剤(1.5%BSAを含むPBS)300μLを添加した。再び4℃で2日間保存して抗体感作プレートとした。プレートは使用前に洗浄液にて200μLで1回洗浄し、ここにインフォームド・コンセントを行ったボランティア及び患者検体50μLと50mMトリス緩衝液(pH7.4)50μLを加えて室温、1時間反応させた。反応終了後、洗浄液300μLで3回洗浄し、100μlの下記第一試薬をプレートに加えて更に37℃、1時間反応させ、続いて50μlの下記第二試薬を加えて、一定時間の後に発色値を405nmにて比色した。
【0024】
第一試薬組成
トリスヒドロキシアミノメタン 100mM pH 6.60
イミダゾール 100mM
EDTA・2Na 2mM
酢酸マグネシウム四水和物 10mM
N−アセチルシステイン 25mM
チオNAD(Thio−NAD) 1mM
ヘキソキナーゼ(HK) 3000U/L
グルコース−6−リン酸脱水素酵素
(G6PDH) 50000U/L
α−グルコシダーゼ 500U/L
第二試薬組成
トリスヒドロキシアミノメタン 400mM pH 9.00
EDTA・2Na 2mM
ATP 8mM
β−NADH 20mM
【0025】
これらの反応では、下記第一試薬中のα−グルコシダーゼが、プレートに結合した糖化IgAのグリコシド結合を加水分解することによって、IgAに結合していたグルコース(糖)が得られる。次いで、このグルコースをグルコース−6−リン酸等に変換し、そのグルコース−6−リン酸を、特開平4−335898号公報に記載の酵素サイクリング法で測定する。その吸光度の測定値が、グルコース濃度、最終的に検体中の糖化IgAの量を反映しているという原理に基ずくものである。その測定原理を図2に、また、標準液のグルコース濃度と吸光度との関係を表1に示す。
【表1】

【0026】
実施例3
糖化IgA測定系を利用したIgA型多発性骨髄腫の判定
実施例2で確立した糖化IgA測定系を利用して患者検体測定を行った。検体はIgA型多発性骨髄腫(M蛋白質、悪性)6例、IgA型多発性骨髄腫(M蛋白質、良性)4例、IgG,M型多発性骨髄腫(M蛋白質、悪性)2例、IgG,M型多発性骨髄腫(M蛋白質、良性)2例、糖尿病11例、健常人6例である。測定結果を表2に示す。表2に示す結果から、糖化IgAを測定することにより、多発性骨髄腫等の疾患、特にIgA型多発性骨髄腫(悪性のM蛋白血症)の判定ができることが示された。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により、検体中の糖化免疫グロブリンを正確に測定することができ、本発明の糖化免疫グロブリンの測定方法により、検体中の糖化免疫グロブリンのレベルを測定してIgA型多発性骨髄腫等の疾患を正確に判定することができる。更に、本発明により、検体中の免疫グロブリン中のキヌレニン残基を測定して、IgA型多発性骨髄腫等の疾患を正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、逆相HPLCによる、悪性IgA型M蛋白血症患者の精製IgA・アルブミン複合体、および精製した正常IgAとアルブミンとの混合物のペプチドマップを比較したものである。
【図2】図2は、グルコースを酵素サイクリング法で測定する、測定原理を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の糖化免疫グロブリンのレベルを測定し、そのレベルの大小から、疾患の有無および/または程度を判定する判定方法。
【請求項2】
糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンがIgAである、請求項1の判定方法。
【請求項3】
疾患が悪性のIgA型M蛋白血症である、請求項1または2の判定方法。
【請求項4】
疾患がIgA型多発性骨髄腫である請求項1から3のいずれかの判定方法。
【請求項5】
糖化免疫グロブリンが糖化免疫グロブリン・アルブミン複合体である、請求項1から4のいずれかの判定方法。
【請求項6】
検体中の糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンの部位を、免疫グロブリンと結合可能な物質と結合させ、次いで、その結合した糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定することを特徴とする糖化免疫グロブリンの測定方法。
【請求項7】
糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンがIgAである請求項6の測定方法。
【請求項8】
その結合した糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定することが、糖化免疫グロブリンに酵素を作用させグルコースを遊離させ、そのグルコースを測定することである請求項6または7の測定方法。
【請求項9】
グルコースをヘキソキナーゼでグルコース−6−リン酸に誘導し、そのグルコース−6−リン酸に、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、酸化型または還元型チオNAD(P)類及び還元型または酸化型NAD(P)類の二種類の補酵素を含有する試薬を作用させて、サイクリング反応を形成させ、該反応によって変化する補酵素の量を測定することによりグルコース量を測定する、請求項8の測定方法。
【請求項10】
糖化免疫グロブリンが糖化免疫グロブリン・アルブミン複合体である、請求項6から9のいずれかの測定方法。
【請求項11】
免疫グロブリンと結合可能な物質が抗免疫グロブリン抗体、プロテインCまたはプロテインAである請求項6から10のいずれかの測定方法。
【請求項12】
請求項6から11のいずれかの測定方法により、検体中の糖化免疫グロブリンのレベルを測定し、そのレベルの大小から、疾患の有無および/または程度を判定する判定方法。
【請求項13】
疾患が悪性のIgA型M蛋白血症である、請求項12の判定方法。
【請求項14】
悪性のIgA型M蛋白血症がIgA型多発性骨髄腫である請求項13の判定方法。
【請求項15】
検体中の糖化免疫グロブリンを測定するためのキットであって、
i)糖化免疫グロブリン中の免疫グロブリンの部位と結合可能な物質;および ii)該物質に結合した糖化免疫グロブリンの糖の部位のレベルを測定するための試薬、
を含むキット。
【請求項16】
検体中の免疫グロブリン中のキヌレニン残基のレベルを測定し、そのレベルの大小から、疾患の有無および/または程度を判定する判定方法。
【請求項17】
免疫グロブリンが免疫グロブリン・アルブミン複合体である、請求項16の判定方法。
【請求項18】
免疫グロブリンがIgAである請求項16または17の判定方法。
【請求項19】
疾患が悪性のIgA型M蛋白血症である、請求項16から18のいずれかの判定方法。
【請求項20】
悪性のIgA型M蛋白血症がIgA型多発性骨髄腫である請求項19の判定方法。
【請求項21】
免疫グロブリン中のキヌレニン残基のレベルを、Glu−キヌレニン−Valのアミノ酸配列を含むペプチドをエピトープとする抗体により測定する、請求項16から20のいずれかの判定方法。
【請求項22】
免疫グロブリン中のキヌレニン残基のレベルを、抗免疫グロブリン抗体と、Glu−キヌレニン−Valのアミノ酸配列を含むペプチドをエピトープとする抗体とにより測定する、請求項21の判定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−14420(P2009−14420A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174706(P2007−174706)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】