説明

糖尿病療法の支援のためのα−ケト酸を含有する栄養補助剤

糖尿病療法の支援のためのα−ケト酸を含有する栄養補助剤。本発明は、II型糖尿病(DM)の支援療法のためのα−ケト酸を含有する栄養補助剤として使用される調製物に関する。この調製物は、α−ケトイソカプロアート(KIC)、α−ケトイソバレラート(KIV)、α−ケト−β−メチルバレラート(KMV)及びα−ケトグルタラート(AKG)の群からの少なくとも1のα−ケト酸を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病、特にII型糖尿病の支援療法のためのα−ケト酸を含有する栄養補助剤として使用される調製物に関する。
【0002】
数々の研究が、II型DMの発生率を身体トレーニングにより低下させることができることを示している。身体トレーニングは、最良の予防的処置であり、かつ同時に、DMの治療のための最も重要な治療手段でもある。身体トレーニングがグルコース物質代謝の改善を、ひいては臨床的経過の改善をも生じることが判明している。
【0003】
身体トレーニングは筋肉順応を生じ、この場合に、特に筋肉損傷、筋肉再生、筋肉肥大又は筋肉繊維トランスフォーメーションを包含する一連の細胞プロセスが起きる。この細胞プロセスでは、エネルギー代謝又はタンパク質代謝が決定的な役割を果たす。根本的にはこの場合にアミノ酸が関与している。
【0004】
しかし、糖尿病患者では、身体トレーニングの実施の場合には、さらに筋肉萎縮に苦しむという事情が加わるためよりいっそう困難になる。筋肉萎縮の原因の1つは、エネルギー獲得のためのグルコースの提供分が減少しているために、タンパク質がエネルギー獲得のために分解され得ることにある。
【0005】
α−ケト酸は代謝において様々な機能を有する。分枝鎖状アミノ酸のケト酸類似体は、アミノ酸代謝において、特に骨格筋中及び肝臓中で重要な役割を果たす。筋肉タンパク質の1/3は、分枝鎖状アミノ酸からなり、これは体で形成されることができず、栄養によって吸収しなくてはならない。筋肉中では特に身体的負担をかけると、絶え間なくタンパク質が構築及び分解され、アミノ酸の分解の際には相応するα−ケト酸がこのアミノ基をキャリアーに移しながら形成される。得られるケト酸は、次いで、エネルギー獲得のために酵素により更に酸化されることができる。キャリアーは肝臓へと輸送され、ここでアンモニアを放出し、これは尿素に変換され、腎臓により排泄される。
【0006】
栄養目的のための、分枝鎖状アミノ酸から誘導されるα−ケト酸の使用は長い間知られている。したがって、特にα−ケトイソカプロアート(ケトロイシン)は、筋肉中でのタンパク質分解の減少のために、及び、タンパク質分解から生じる尿素形成の減少のために筋肉手術後に使用されることがある(US 4,677,121)。栄養不足、筋肉ジストロフィー又は尿毒症の際の又は二次的結果としてタンパク質分解を筋肉中で結果として生じる更なる疾病の際のケトロイシンの使用もまた、ここに記載されている。ケトロイシンの投与は、この場合に経静脈により行われる。
【0007】
機能性食品領域においては、特に分枝鎖状アミノ酸を、筋肉増強(Muskelaufbau)の支援のために、例えばスポーツマンが直接的に使用する(Shimomura, Y. et al., American Society for Nutrition)。しかし、アミノ酸を介して高められた窒素供給が強化したアンモニア放出を筋肉中で生じ、このことはやはり疲労の現象を生じることが知られている。
【0008】
筋肉パフォーマンスの改善のための又は負荷後の筋肉回復の支援のためのα−ケト酸の使用は、US 6,100,287に記載され、その際、相応するアニオン性ケト酸と対イオンとしてのカチオン性アミノ酸、例えばアルギニン又はリシンからの塩が使用される。これによって、ポリアミンも形成されるが、ポリアミンについて知られているのは、これがアポトーシス(プログラム化細胞死)を生じ得ることである。ポリアミンの分解生成物の排泄もまた、腎臓を介して行われ、腎臓はこれによって強く負荷される。つまり、アルギニン又はリシンの吸収は推奨されない。
【0009】
スポーツ活動の際に及びこの後に、健康及び能力(Leistungsfaehigkeit)を、糖尿病患者で、特にII型糖尿病患者で向上させ、かつ、さらに、糖尿病性物質代謝状態を正常化するのに役立つ栄養補助剤に関する要求が存在する。
【0010】
この課題は、α−ケトイソカプロアート(KIC)、α−ケトイソバレラート(KIV)、α−ケト−β−メチルバレラート(KMV)及びα−ケトグルタラート(AKG)の群からの少なくとも1のα−ケト酸を含有し、実質的に窒素不含であり、かつ好ましくは窒素含有化合物を含まない調製物を提供することにより解決される。この調製物は栄養補助剤であり、かつ、場合によっては追加的に更なるビタミン及びミネラル物質を含有する。
【0011】
実質的に窒素不含とは、この調製物の窒素含有量が、この全質量に対して6質量%未満、好ましくは3質量%未満、特に0.5質量%未満であることを意味する。
【0012】
α−ケト酸の他に、その塩も本発明による調製物中に含有されていてよい。適した塩はこの場合に、特に前述のα−ケト酸のアルカリ−又はアルカリ土類金属塩、特にNa+−、K+−、Ca2+−及びMg2+塩である。
【0013】
好ましい一実施態様は、α−ケトグルタラート及びα−ケトイソカプロラート又はα−ケトグルタラート及びα−ケトイソバレラート又はα−ケトグルタラート及びα−ケト−β−メチルバレラートからの組み合わせ、又は、全ての4つのα−ケト酸及び/又はその塩の組み合わせを有する調製物である。好ましくは、調製物中5:1〜1:5、特に3:1〜1:3、好ましくは2:1〜1:2のAKG対BCKA(分枝鎖状ケト酸)量比に調整される。この調製物により吸収されるα−ケト酸の一日量は、2000mg/kg体重の量を超えてはならない。好ましくは、AKGについて10mg/kg〜1000mg/kg体重、そして、BCKAsについて10mg/kg〜1000mg/kgの用量である。特に好ましい用量は、AKG、KIC、KIV及びKMVについて25mg/kg〜150mg/kg体重の範囲内にあり、但し、成体では、1.25g〜25gの吸収されるα−ケト酸についてのおおよその全量が生じる。
【0014】
さらに、この調製物には更なる添加剤が添加されることができる。特に強調されるのは、再生プロセスに必要とされる化合物、例えばビタミン、特にビタミンA、ビタミンB1、B2、B6及びB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、パントテン酸、ナイアシン、葉酸、ビオチン、コリン及びイノシトールである。さらに、酸化防止剤、例えばβ−カロチン、クエン酸カリウム、クエン酸、乳酸、トコフェロール、アスコルビン酸ナトリウム若しくは−カリウム又はアスコルビン酸が調製物中に含有されていることができる。ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、セレン、クロム、リン及びヨウ素の群からのミネラル物質及び微量元素が同様に添加物として可能である。前述の添加剤は、この場合に、食品領域のために通常の量で添加される。
【0015】
調製物とは、個々に焦点を当てた物質/物質群に関して、ここで関連する技術分野でヒトの助力下で能動的に製造したか又は調合され、定義されかつ再現可能な組成を有する製品と理解され、これによって身体に狙いを定めて1又は複数の所定の物質を供給することができる。このことは無論、当該物質が調製物中で正確に計量供給されていることを包含する。調製物は相応して計量供給された形で、カプセル、タブレット又は類似物の形で投与される。
【0016】
好ましくは調製物は例えば次のものを含有することができる(この量の記載はそのつど好ましい一日量を示す):
10〜500mg ナトリウム、
10〜500mg カリウム、
50〜500mg カルシウム、
10〜300mg マグネシウム、
1〜20mg 亜鉛、
5〜50mg 鉄、
0.1〜1mg ヨウ素、
5〜100μg セレン、
5〜100μg クロム、
100mgまでのビタミンB1
100mgまでのビタミンB2
100mgまでのビタミンB6
200μgまでのビタミンB12
5gまでのビタミンC、
500mgまでのビタミンE、
300mgまでのパントテン酸、
1gまでのナイアシン、
10mgまでの葉酸、
1mgまでのビオチン。
【0017】
更なる添加剤として、飽和又は不飽和脂肪酸、特にC6〜C22−脂肪酸が添加物として考慮される。例えば、ヒマワリ油、ゴマ油、ナタネ油、パーム油、ヒマシ油、ヤシ油、紅花油、ダイズ油、豚脂及び牛脂の群からの脂肪及び油の脂肪酸が、使用されることができる。さらに、保存剤、食品着色剤、甘味剤、風味強化剤及び/又は芳香剤も、この栄養補助剤中に、通常の、当業者に知られている量で含有されていることができる。この使用される添加剤がより大量に使用される場合には、この場合に、窒素不含添加剤が用いられる。特に好ましい栄養補助剤は、窒素含有添加剤を含有しない。
【0018】
請求される調製物は、例えば、粉末、タブレットの形で又は溶液又は懸濁液の形で使用されることができる。タブレット形では、このα−ケト酸又はその塩は好ましくは調製物中約30〜90体積パーセントでもって、好ましくは窒素不含添加剤、特に難吸収性炭水化物及び脂肪(油)の使用下で処方され、場合によってはアミノ酸、特にL−オルニチン又はL−アルギニンが含有されており、その際、この量は、この調製物の全量の挙げられた窒素含有量の範囲内に調整される。
【0019】
粉末又はタブレットの形の調製物の直接的投与が所望される場合には、通常のキャリアーの添加が好ましいことがある。適したキャリアーは、例えば直線状又は(超)分枝鎖状ポリエステル、ポリエーテル、ポリグリセリン、ポリグリコライド、ポリラクチド、ポリラクチド−コ−グリコライド、ポリタートレート及び多糖又はポリエチレンオキシドを基礎とするデンドリマー、ポリエーテル−デンドリマー、コーティングされたPAMAM−デンドリマー、例えばポリラクチド−コ−グリコライド−コーティング、又はポリアリールエーテルである。
【0020】
この粉末又はタブレットはさらに、例えばこの栄養補助剤の放出を腸管中で初めて可能にするために、被覆を備えていてよい。以下のカプセルシェル材料はこの場合に好ましく使用される:カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、シェラック、カラギーナン、アルギナート、ゼラチン、セルロースアセタート、フタラート、エチルセルロース、ポリグリセロール、ポリエステル又はEudragit(R)
【0021】
これに対して、調製物が栄養補助剤の溶液又は懸濁液の形で投与される場合には、乳化剤又はコロイドの添加が、全ての所望の成分を可能な限り良好に水溶液中に取り込むことができるようにするために、有用であり得る。適した添加剤は、例えばポリビニルアルコール、食用脂肪酸のグリセリド、その酢酸−、クエン酸−、乳酸−又は酒石酸エステル、ポリオキシエチレンステアラート、炭水化物エステル、プロピレングルコールエステル、食用脂肪酸のグリシンエステル又はソルビトールエステル又はラウリル硫酸ナトリウムである。
【0022】
本発明の更なる主題は、請求された調製物を含有する栄養剤(機能性食品)である。これは、例えば、調製物の吸収に特に適している飲料又はバー(Riegel)であってよい。この場合に、栄養剤は自体で好ましい一実施態様において同様に言うに値しない量の窒素含有化合物を含有するか、又は、それどころか窒素含有化合物を含有しない。
【0023】
この栄養剤は、この場合に、その調製の間に請求される調製物と混合されるか、又は後になって、栄養補助剤の処方物が栄養剤に、例えば粉末又はタブレットの形で、添加されることができる。例示的にここでは、ミネラルウォーター中への発泡タブレット又は粉末の溶解が挙げることができる。
【0024】
請求される調製物を用いて、特に、筋肉中のタンパク質分解及びアミノ酸分解により必要となる、筋肉中の窒素解毒又はアンモニア解毒が促進される。自由になるアミノ基がケト酸に移ることによって、この相応するアミノ酸が発生し、かつ、再度、筋肉増強のために提供され、かつ、肝臓及び腎臓を介したエネルギー消費的な窒素の解毒−及び排泄が減らされる。これに応じて、より少ない窒素含有分解生成物、例えば尿素が血液又は尿中で検出される。同時に、筋肉組織の能力は向上するか、又は筋肉増強が栄養補助剤によって支援され、というのも、トランスアミノ化によりこの投与されるケト酸が筋肉中で相応するアミノ酸へと移行することができ、これはここでアナボリックな反応のために提供されるからである。最後に、この筋肉組織のより迅速な再生が現れ、かつ、身体能力が改善される。
【0025】
アンモニア蓄積は必ず中枢神経系に対して高められた負荷又は疲労現象でもって作用を及ぼすことができるので、ケト酸のこの生物学的作用は精神身体的観点に対して作用することができ、この結果、身体トレーニングはより広い規模でかつより高い強度で、かつより短い再生時間で実施されることができる。このことは、特にII型糖尿病を有する患者にとって意味があり、というのも、この病状はしばしば欠失した身体運動及び減少した身体的負担と関連しており、このことは特に原因としてアンモニア蓄積を有することがあるからである。ケト酸の可能性のある生物学的機能によってアンモニア蓄積が身体トレーニング下で抑制されるか、又は少なくとも減少されることができ、この結果、患者はより活動的にかつより多くトレーニングできることが見出された。増加した身体トレーニングによって、より良好なグルコース物質代謝も期待できる。
【0026】
前述の観点から、本発明による調製物及びこれを含有する食品は、特に、糖尿病、特にII型糖尿病がスポーツ活動により支援的に治療されることが望まれる糖尿病患者に指向する。知られているところによればしばしば更に制限された窒素輸送又は制限された窒素排泄能に苦しむ老齢の人間によるこの製品の使用は、同様に特に好ましい。
【0027】
したがって、本発明の更なる主題は、糖尿病患者での糖尿病性物質代謝状態の正常化のための、筋肉増強のための、筋肉組織の能力の制限のための、負荷下で筋肉組織を細胞損傷から保護するための、及び、一般的な健康を向上するための、経口吸収可能な調製物及び製品、例えば機能性食品、タブレット、粉末その他の製造のためのケト酸の使用である。
【0028】
試験の実施
持続力(Ausdauerfaehigkeit)の改善の決定のために、個々の嫌気性−好気性−閾値(IAAS)を算出する。これは、走行ベルト試験(Laufbandtest)を用いた乳酸−パフォーマンス−曲線の測定に基づき行われる(トレーニング相−プロトコル:開始6km/h、増加2km/h、これは約25〜50ワット/分の増加に相応する、段階期間3分)。この場合に、トレーニング段階の前及び後に30秒間の休止時間において血液試料を取り出し、このグルコース値及び乳酸値をYSI Life Sciences社(Yellow Springs, USA)のYSI 2300 STAT plus Analyzerを用いて、そして、最大酸素吸収(VO2max値)を肺活量によりCosmed (Rom、イタリア)社のK4測定装置を用いて測定した。
【0029】
跳躍力改善の測定は、Kistler社(Winterthur、スイス)の跳躍力測定プレートを用いて確認できる。跳躍力試験を用いた爆発力の測定のために、装置に固有のプロトコル「Squat-Jump」及び「Count-Movement Jump」を使用する。この跳躍力を測定プレート上の接触時間及び跳躍高さに基づき測定し、かつ、体重と調整して計算する。
【0030】
筋肉細胞の損傷の測定のために、例えば身体的負荷の間に、尿酸レベルを血液及び尿中で又はクレアチンキナーゼ活性を血液中で測定する。クレアチンキナーゼ活性の増加は筋肉損傷の規模と相関し、かつ、酵素反応によりRoche Diagnostics社(Mannheim、ドイツ)のキットNr. 1087533の使用下で測定されることができる。尿酸レベルを光度測定によりBiocon Diagnostics社(Voehl / Marienhagen、ドイツ)の「Fluitest UA(R)」キットを用いて算出することができる。
【0031】
タンパク質物質代謝に対する請求した栄養補助剤の作用は、血液又は尿中の尿素測定により検出される。尿素レベルの測定は、尿素S試験組み合わせ(試薬キットNr. 777510、Boehringer社、Mannheim、ドイツ)の使用下で波長334nmでの光度測定による終点測定を用いて行うことができる
(Brunetti, A. and I. D. Goldfine. "RoIe of myogenin in myoblast differentiation and its regulation by fibroblast growth factor." J.Biol.Chem. 265.11 (1990): 5960-63. Fernandez, A. M., et al . "Muscle-specific inactivation of the IGF-I receptor induces compensatory hyperplasia in skeletal muscle." J. Clin. Invest 109.3 (2002): 347-55. Ragolia, L., Q. Zuo, and N. Begum. "Inhibition of myogenesis by depletion of the glycogen-associated regulatory subunit of protein phosphatase-1 in rat skeletal muscle cells." J.Biol.Chem. 275.34 (2000): 26102-08. Sun, Z., et al . "Muscular response and adaptation to diabetes mellitus." Front Biosci. 13 (2008): 4765-94)。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、プラセボ群(プラセボ)又はケト酸補給を有する群での研究期間の間の傾斜路試験の際に最大に達成される身体パフォーマンスを示す図である。
【図2】図2は、プラセボ群(プラセボ)又はケト酸補給を有する群での研究期間の間の多段階試験での個々の好気性−嫌気性−乳酸閾値での身体パフォーマンスを示す図である。
【図3】図3は、プラセボ群(プラセボ)又はケト酸補給を有する群での研究期間の間の血漿中グルコースレベル(平均値±標準偏差)を示す図である。
【図4】図4は、プラセボ群(プラセボ)又はケト酸補給を有する群での研究期間の間の血漿中HbA1cを示す図である。
【図5】図5は、プラセボ群(プラセボ)又はケト酸補給を有する群での研究期間の間の量的インスリン感受性検査指数(中央値)を示す図である。
【0033】
実施例
研究の実施:
身体トレーニングと組み合わせた分枝鎖状α−ケト酸(BCKAs)及びAKGの混合物の、グルコース−及びインスリン代謝、筋肉増強、筋力増加、窒素物質代謝の増加並びに一般的な健康の改善に対する作用を、II型糖尿病患者で試験するために、以下のヒト研究を実施した:
被験者:
それぞれ15人の被験者を有する2つの群を募集した。この30人の被験者を研究プランの組み入れ基準(Einschlusskriterium)に相応して評価し、かつ、臨床的又は人体計測的データに基づき任命した。引き続き、被験者を「ダブルブラインド」手法によりランダム化した(第1表)。性別分布、年齢及び身長に関してこの両群の間に統計学的に有意な差は存在しない。
【0034】
第1表:募集の際の被験者の人体計測データ
【表1】

【0035】
トレーニング:
身体トレーニングを2つの変法において実施した。一変法をスポーツ科学者又はドクトラントの指導下でSektion Sport und Rehabilitation der Uniklinik Ulmにおいて、又は資格を有するトレーナーの監督下でフィットネススタジオ/物理療法営業所において実施した。他の変法は、被験者自身により制御されるいわゆる「自由なトレーニング」であった。プロフェッショナルにより指導されるトレーニングは「研究義務のあるトレーニング」とみなされ、すなわち、1週間あたり3つのトレーニングユニット、「補助トレーニング」としての自由トレーニングである。この研究義務のあるトレーニングは、持続トレーニング(Ausdauertraining)及び力持続トレーニング(Kraftausdauertraining)からなり、その際、トレーニングユニットはそれぞれ15分間及び約5分間の中間休止を有する3回の繰り返しを有する持続トレーニング及び5分間にわたる力持続トレーニングを包含する。したがって、このトレーニング時間はトレーニングユニットあたり45分間を有する持続期間及び5分間を有する力持続トレーニングにわたる研究期間に相応し、したがって1週間あたり135分間の持続トレーニング及び15分間の力持続トレーニングに相応する。このトレーニングを6週間にわたり実施した。これに続き、トレーニングしていない1週間の再生相が続いた。
【0036】
1.1ケト酸−補給
7週間(6週間のトレーニング週及び1週間の再生週)の全研究相の間、この2つの被験者群は毎日その体重により定められた量のミックス2(以下記載の組成におけるケト酸)又はプラセボ−ミックスを摂取し、その際、被験者は全期間にわたり常に同じミックスを摂取した。我々は、栄養補助剤の以下の組成を選択した:
500mgタブレットあたりのケト酸:
【表2】

【表3】

【0037】
500mgタブレットあたりのコーティング:
【表4】

【0038】
Eudragit(R) EPOは、メタクリラート−コポリマー(Pharma Polymere, Nr. 9, Nov. 2002, 1-4頁)である。この剤により、匂いマスキング及び風味マスキングが達成される。
【0039】
500mgタブレットあたりのプラセボタブレットの組成(mg):
【表5】

加えて250mgの助剤:
C Gel LM 03411 6.25mg
C Pharma Gel 12012 12.5mg
Avicel PH101 141.2mg
Avicel PH200 80.7mg
Kolliidon 25 7.8mg
ステアリン酸マグネシウム 1.6mg。
【表6】

【0040】
各被験者は毎日、前述の混合物の、ケト酸群0.2g/体重kg/日を摂取した。研究において、AKGをナトリウム塩として、KCl、KIV及びKMVをカルシウム塩として投与した。プラセボ群の被験者は同じ量のエネルギー及び塩を摂取し、1.45プラセボタブレット/体重kg/日を摂取した。
【0041】
1.1.1 最大身体パフォーマンスに対する影響
図1には、傾斜路試験(Rampentest)の際の最大達成される身体パフォーマンスがまとめられる。この最大達成される身体パフォーマンスはトレーニングの開始前にKAS群においてはプラセボ群におけるのに比較していくらかより高いように見え、これはしかし統計学的に有意な差ではない(P>0.05)。全体して、身体トレーニングによるこの最大の能力の顕著な増加が、この研究期間の間に示された。全被験者で、この最大に達成される身体パフォーマンスはトレーニングプログラム後並びに再生後に顕著な増加が記録される(P<0.01又はP<0.05)。
【0042】
このトレーニングはプラセボにおいても、同様にKAS群においても、身体パフォーマンスの向上を生じた。このパフォーマンス増加は、しかし、KAS群においてより高く、かつより長く維持された。このより高いパフォーマンスにより、この身体トレーニングは改善されることができる。
【0043】
1.1.2 持続力に対する影響
持続力のために、個々の嫌気性−好気性−乳酸閾値で多段階試験で測定された身体パフォーマンスを評価のために考慮した。但し、このパラメーターは身体的に比較的弱い被験者では常に算出可能でなく、そのため、この症例数はさらに変動した(第2表)。
【0044】
第2表:個々の好気性−嫌気性−閾値でのパフォーマンス(ワット、平均値±標準偏差)
【表7】

【0045】
この結果は、この身体トレーニングにより被験者の身体パフォーマンスが全体として顕著に増加したことを示す(図2)。
【0046】
KAS群のパフォーマンス増大はプラセボ群よりもより強力であった。
【0047】
1.1.3 グルコース物質代謝に対する影響
図3には、血漿中のグルコース濃度についての結果が示される。
【0048】
血中グルコースレベルは、糖尿病患者での、グルコース物質代謝のためのコントロールパラメーターに該当する。このレベルは本研究において既にこの研究開始前に比較的良好に調節されていた。KAS群においてはこれはわずかにより劣悪に調節された。
【0049】
全体としてこのグルコースレベルはトレーニング前にわずかに高められることが示され、その際、これはKAS群においてはプラセボ群に比較してより高かったが、この差は統計学的に有意でなかった。
【0050】
この場合に、このグルコースレベルは身体トレーニングにより顕著に低められ、プラセボ群において16mg/dlだけ、KAS群において11.5mg/dlだけ低められた。1週間の再生の後にこのグルコースレベルはプラセボ群において再度わずかに増加し(P<0.05)、しかし、KAS群においては再度減少した(但し、P>0.05)。7週間の介在期間の後に、このプラセボ群は9mg/mlだけの減少を示し、これに対して、ケト群においては20mg/mlを超える。
【0051】
プラセボ群においては、トレーニングにより血中のグルコースレベルの顕著な低下を生じ、この結果、これは生理学的範囲にあり(図3)、かつ、再生相の後にはまだなお出発水準未満のままであった。この結果は、文献中に多数記載されるように、身体トレーニングが糖尿病患者でのグルコース物質代謝に対して好ましく作用することを顕著に示す。但し、グルコース物質代謝に対するこの身体トレーニングの好ましい作用は長い間持続されないようであり、この結果、血中グルコースレベルは再度著しく増加した。このことは、糖尿病患者のための治療的手段としての身体トレーニングはむしろ「持続療法」であるはずであることを示唆する。
【0052】
KAS群においては、再生相中のグルコースレベルはさらに減少し、この結果、このグルコースレベルは研究期間終了時になお有意に出発水準未満のままであった。この結果は、プラセボ群に対する比較において次のことを示す:1)血中のグルコースレベルのより大幅な低下、というのも、KAS群中の出発値は(病理学的に)より高かったからである:2)身体トレーニングのグルコース低下作用はKASによりより長期間維持されたままであった。特に、再生相におけるグルコースレベルの更なる低下は改善されたインスリン機能を示し、というのも、この相においてはトレーニングはほとんど実施されなかったからである。
【0053】
1.2 HbA1c
グルコース物質代謝のための長期パラメーターはHbA1cである(図4)。被験者ではこのHbA1c割合は研究開始前にはいくらか高められており、但し、KAS群においてはより顕著であった。トレーニングにより、両群において、これは有意にほぼ正常水準に低下した。したがって、HbA1cの低下の場合の「正味−利得」はKAS群において、プラセボ群におけるよりも顕著により高く、このことは、より大きな作用を説明する。
【0054】
まとめると、身体トレーニングは糖尿病患者でのグルコース物質代謝の顕著な改善を生じたと言える。KASは付加的にグルコースコントロールに対してより強く作用し、かつ、より長く維持される作用を有する。
【0055】
1.3 量的インスリン感受性検査指数(Quantitative Insulin Sensivity Check Index)(Quicki)
QUICKI(量的インスリン感受性検査指数)は、インスリン感受性のための広く知られたパラメーターであり、かつ、基礎インスリンレベル及びグルコースレベルに基づく。増加するQUICKIは改善されたインスリン感受性を示す。すなわち、所定のグルコースレベルでインスリンレベルがより低いほど、このインスリン感受性はより高い。この値は以下の式により算出される
【数1】

【0056】
この方法の説明は以下に見出される:
Wallace TM, Levy JC and Matthew DR. Use and Abuse of HOMA Modeling, Diabetes Care 27: 1487-1495, 2004。
【0057】
図5には、QUICKIがプラセボ群においてトレーニング後になお変更せず、再生相の後に初めて増加したことが示され、この変動は統計学的に有意ではなかった。このことは、インスリン感受性がプラセボ群においてトレーニング後に変更しないままであり、研究期間の終了時に増加したことを意味する(しかし、統計学的に有意でない)。KAS群においては、QUICKIはプラセボ群とは異なって挙動した。トレーニング後の著しい増加及び再生相における減少が存在したが、出発水準を超える。KAS群におけるいわゆるQUICKI値に関する著しい増加は、したがって、より改善されたインスリン感受性を暗示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ケトグルタラート、α−ケトイソカプロアート、α−ケトイソバレラート及びα−ケト−β−メチルバレラート及び/又はその塩の群から選択されるα−ケト酸及び/又はその塩1以上を含有し、栄養補助剤でありかつ実質的に窒素不含である調製物。
【請求項2】
前述のα−ケト酸の塩 アルカリ−又はアルカリ土類金属塩、特にNa+−、K+−、Ca2+−及びMg2+塩が含まれている請求項1記載の調製物。
【請求項3】
ケト酸をAKG/BCKAsの量比5:1〜1:5、特に好ましくは2:1〜1:2で含有する請求項1記載の調製物。
【請求項4】
α−ケト酸の全量に関して一日量0.5g〜50g、特に好ましくは1.25〜25gを含有する請求項1又は2記載の調製物。
【請求項5】
さらに、L−オルニチン、L−リシン、L−ヒスチジン又はL−アルギニンを含有し、その際、この調製物の全窒素含有量が<6質量%である請求項1から4のいずれか1項記載の調製物。
【請求項6】
アミノ酸を前述のα−ケト酸の塩として含有する請求項5記載の調製物。
【請求項7】
さらにクレアチンを含有する請求項1から6のいずれか1項記載の調製物。
【請求項8】
炭水化物、脂肪及び油、ビタミン、酸化防止剤、ミネラル及び微量元素、保存剤、食品着色剤、甘味剤、風味増強剤及び芳香剤の群から選択される更なる添加剤を含有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の栄養補助剤。
【請求項9】
処方のために更なる助剤を含有する請求項1から8のいずれか1項記載の栄養補助剤。
【請求項10】
コーティング助剤としてメタクリラート−コポリマー、特にEudragit(R) E POを含有する請求項1から9のいずれか1項記載の栄養補助剤。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項記載の栄養補助剤を含有する栄養剤。
【請求項12】
窒素解毒に関して物質代謝を同時に軽減しつつ、糖尿病療法の支援、筋肉組織の能力の向上のための、筋肉組織を細胞−及び組織損傷から保護するための、一般的な身体能力の向上のための、及び/又は、身体的負荷後の筋肉再生の支援のための、経口吸収可能な製品の製造のための請求項1から10のいずれか1項記載の栄養補助剤又は請求項11記載の栄養剤の使用。
【請求項13】
身体トレーニングの際の筋肉増強の支援のための製品の製造のための請求項1から10のいずれか1項記載の栄養補助剤又は請求項11記載の栄養剤の使用。
【請求項14】
II型糖尿病患者での身体トレーニングの支援のための製品の製造のための請求項1から10のいずれか1項記載の栄養補助剤又は請求項11記載の栄養剤の使用。
【請求項15】
身体的活動と組み合わせて、糖尿病性物質代謝状態の正常化及びHbc1aの減少を生じる製品の製造のための請求項1から10のいずれか1項記載の栄養補助剤又は請求項11記載の栄養剤の使用。
【請求項16】
身体的活動と組み合わせて、糖尿病性物質代謝状態の正常化を、特に血液グルコースレベルの低下によってもたらす製品の製造のための請求項1から10のいずれか1項記載の栄養補助剤又は請求項11記載の栄養剤の使用。
【請求項17】
インスリン感受性を増加させる製品の製造のための請求項1から10のいずれか1項記載の栄養補助剤又は請求項11記載の栄養剤の使用。
【請求項18】
哺乳類の糖尿病療法の支援のための請求項1から7のいずれか1項記載の栄養補助剤又は請求項8記載の栄養剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−522739(P2012−522739A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502570(P2012−502570)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053704
【国際公開番号】WO2010/112362
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】