説明

糖液から固形物を製造する方法及び固形物

【課題】
本発明は、糖液の固形物を製造する方法及び糖液の固形物を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させてイソマルツロース含有糖液を得、当該糖液からイソマルツロース含有固形物を製造する方法を提供する。当該方法は、前記糖液中においてメディアン径5〜60μmのイソマルツロース結晶を晶出させること、ここで前記メディアン径はレーザー回折式粒度分布測定により測定したものである、そして前記イソマルツロース結晶を有する糖液を熱風温度50〜95℃でスプレードライすることを含む。また、本発明は、イソマルツロース70〜90質量%及び非結晶の糖液を含有する固形物を提供する。当該固形物は球状であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖液から固形物を製造する方法及び固形物に関する。
【背景技術】
【0002】
イソマルツロースは、Protaminobacter rubrum、Serratia plymuthica、Erwinia rhapontici、又はKlebsiella sp.などが生成する酵素α-グルコシルトランスフェラーゼをショ糖に作用させることにより、ショ糖のα-1,2結合がα−1,6結合に転移した二糖である。
【0003】
ショ糖液に上記酵素を作用させて得られた糖液の糖組成は、イソマルツロースが60〜90質量%、トレハルロースが5〜35質量%、並びにグルコース及び果糖がそれぞれ0.2〜5質量%である。この糖液を濃縮して、イソマルツロースの結晶を生成させ(結晶化工程)、当該生成された結晶を遠心分離により採取すること(遠心分離工程)によって結晶化されたイソマルツロースが得られる。このように、結晶化されたイソマルツロースは、上記糖液を結晶化工程及び遠心分離工程に付すことにより得られる。当該結晶化されたイソマルツロースは、結晶パラチノース(商標)IC(三井製糖株式会社、イソマルツロース純度99.0%以上)として販売されている。一方、遠心分離工程により得られた蜜分の糖組成は、トレハルロースが53〜59%及びイソマルツロースが11〜17%である。当該蜜分は、パラチノース(商標)シロップ−ISN(三井製糖株式会社)として販売されている。
【0004】
イソマルツロースの水への溶解度は低く、そのためイソマルツロースの結晶は析出しやすい。一方、トレハルロースは結晶化せず、液状である。よって、上記糖液からトレハルロースを除いて、イソマルツロース製品の固形製品又は粉末製品として販売するために、上記遠心分離工程は必須である。また、上記遠心分離工程において、上記結晶化されたイソマルツロースと上記蜜分は一定の割合で生成するが、需要と供給のバランスが一致しないことによって、蜜分が余る場合がある。
【0005】
下記特許文献1は、糖類配合物の製造法を記載し、当該方法は、ショ糖をパラチノースに変換する細菌の酵素により蔗糖をパラチノースに変換するに際し、副生するぶどう糖、果糖の含量を温度変化によって制御し、生成糖類を全量固形化することを特徴とする(特許請求の範囲)。全量固形化する手段としては、固結粉砕法、噴霧乾燥法、ドラム型真空乾燥法、泡沫乾燥法などを使用することができる(第2頁左下欄第10〜13行)。当該噴霧乾燥法は濃縮した糖液または白下状となった糖液と、すでに粉末化した本発明の糖類配合物とを別々に遠心力によって薄膜状となし、この2層を交叉衝突せしめ固化作用気体で造粒固化する方法である(第2頁左下欄第17行〜同右下欄第1行)。
【0006】
下記特許文献2は、ラクトース及びデンプンからなる顆粒を記載する(請求項1)。当該顆粒は、ラクトース及びデンプンの懸濁液をスプレー乾燥する工程を含むことを特徴とする方法によって得られる(段落0036)。スプレー乾燥を行うためには、デンプン懸濁液を冷水中に調製し、これにラクトース一水和物を添加する(段落0037)。該混合物は、通常は15乃至25℃の温度を有しており、これを当業者には知られた通常のスプレー乾燥機において、およそ160℃の入口温度を選択し、出口における空気及びスプレー乾燥された生成物の温度がおよそ65℃になるような流速を選択してスプレー乾燥する(段落0037)。
【0007】
下記特許文献3は、澱粉を酸または酵素により加水分解し、常法により精製または精製せずして濃縮し、結晶種を加えまたは加えずして予め晶出せしめたマスキットを噴霧乾燥して粉末ブドウ糖を製造する点を特徴とする粉末ブドウ糖の製造法を記載する(特許請求の範囲)。
【0008】
下記特許文献4は、マルトース・ぶどう糖等の糖化液の白下(マスキット:massecuite)をスプレー乾燥する工程を経て一・二糖類粉末を製造する方法において、スプレー乾燥工程後、蜜膜(付着母液)のBX値(Brix:糖濃度):82±2に対応する平衡関係湿度(平衡RH)に雰囲気関係湿度(雰囲気RH)を調節する熟成工程を経ることを特徴とする一・二糖類粉末の製造方法を記載する(請求項1)。
【0009】
下記特許文献5〜7は、オリゴ糖含有液をスプレードライする方法を記載する。
【0010】
特許文献5は、マルトース及びマルトトリオース以上の分子量を有するオリゴ糖を有するオリゴ糖を含む水溶液からオリゴ糖を主成分とする糖(以下、オリゴ糖と略称する)粉末の製造する方法を記載する(請求項1)。当該方法は、濃縮工程で得られた濃縮水溶液を噴霧状態で熱風と接触させてオリゴ糖を粉末化する乾燥工程を含む(請求項1)。当該乾燥工程における熱風の導入温度は、80〜200℃、好ましくは100〜160℃である(第5頁左下欄第5〜6行)。
【0011】
特許文献6は、粉末マルトースの製造法を記載する(請求項1)。当該方法は、低加水分解液の澱粉液化液を酵素的に加水分解して得たマルトース含有量90%以上でマルトトリオース含量が2.5%以下の高純度マルトース液を固形分65〜80%に濃縮した後、種晶を加えて25±5℃で、一次結晶を結晶析出率50±5%まで析出させ、必要によりマルトース溶液の適量を加えて結晶析出温度における粘度が70000センチポイズ以下とし、噴霧乾燥して水分5.5〜7.5%、関係湿度50〜70%で絶対湿度45〜185g水/kg渇き空気を満たす高温高湿条件の雰囲気に曝して結晶化、乾燥させる熟成工程を経ることを特徴とする(請求項1)。
【0012】
特許文献7は、10℃〜110℃のガラス転移温度を有する少なくとも1つの本来は吸湿性の生成物、並びに低温流体、特に食品品質の低温流体、又は低温流体の混合物、特に二酸化炭素、窒素、及び液体空気から選択されるものを含有する水溶液の、噴霧化担体なしでの噴霧乾燥段階を含む、非吸湿性の粉末組成物の製造方法を記載する(請求項1)。当該方法において、前記水溶液が、前記本来は吸湿性の生成物を含有する初期水溶液に前記低温流体を溶解することにより得られる(請求項1)。
【0013】
下記特許文献8〜11は、糖アルコール含有液をスプレードライすることを記載する。
【0014】
特許文献8は、共噴霧乾燥によって得ることのできる、10質量%未満のマニトール含量を有する、2以上のポリオールから実質的になる組成物を記載する(請求項1)。当該組成物は、2以上のポリオールを水に溶解し、得られる水溶性混合物を120〜300℃の温度を有する空気流中に噴霧することにより得られる(請求項2)。
【0015】
特許文献9は、圧縮成形製剤の製造において、圧縮によって活性成分が分解もしくは変性することを防止するためまたは圧縮によって機能性粒子の機能が変化することを防止するための、糖アルコールを含有する噴霧乾燥粉末の使用を記載する(請求項1)。下記特許文献10は、キシリトール含有量が90質量%を超え、かつ、1つ以上の他のポリオール含有量が10質量%未満であって、噴霧乾燥又は流動床造粒によって製造されることを特徴とする、直接圧縮可能な錠剤化助剤を記載する(請求項1)。
【0016】
特許文献11は、結晶マルチトール及びそれを含有する含蜜結晶を製造する方法を記載する(請求項1)。当該方法は、1)固形分中にマルトースが81〜90質量%含まれる濃度30〜75質量%のシロップを接触水素化して相当する糖アルコールシロップを得る第一工程、2)糖アルコールシロップを、陽イオン交換樹脂を充填した塔に供給してクロマト分離し、固形分中にマルチトールが92〜99.9質量%含まれるマルチトール高含有シロップ画分を得る第二工程、3)マルチトール高含有シロップ画分を濃縮した後、得られたシロップの一部を種結晶の存在下で結晶化して結晶マルチトールを回収する工程及び、得られたシロップの残余を種結晶の存在下で噴霧乾燥又は冷却混練することにより結晶マルチトールを含有する含蜜結晶を得る工程から成る第三工程、の各工程を逐次経由することを特徴とする(請求項1)。
【0017】
特許出願第2011−27216号明細書は、ショ糖液にショ糖からイソマルツロースを生成する酵素を作用させてイソマルツロース含有糖液を得、当該糖液から固形化物を製造する方法を記載する。当該方法は、当該糖液を加熱して、当該糖液の固形分濃度を77〜96質量%に調整すること、上記で得た調製物を65〜120℃に保ちながら、せん断力を与えて結晶核を作る処理に付すこと、そして上記で得た処理物を冷やすことを含む(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開昭56−117796号公報
【特許文献2】特開2002−142690号公報
【特許文献3】特開昭39−4834号公報
【特許文献4】特開2004−283026号公報
【特許文献5】特開昭61−93129号公報
【特許文献6】特開昭60−92299号公報
【特許文献7】特表2009−530356号公報
【特許文献8】特表平9−507863号公報
【特許文献9】国際公開第2002/070013号
【特許文献10】特表2001−519378号公報
【特許文献11】特開平9−19300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記したように酵素α-グルコシルトランスフェラーゼをショ糖液に作用させて得られたイソマルツロース含有糖液に含まれる糖類の組成は、イソマルツロースが60〜90質量%、トレハルロースが5〜35質量%、並びにグルコース及びフルクトースがそれぞれ0.2〜5質量%である。トレハルロースは非結晶性(液状)である。よって、遠心分離工程を経ない場合、主としてトレハルロースからなる非結晶の糖液の存在の故に、当該イソマルツロース含有糖液から固形物を得ることは困難である。従って、従来、当該イソマルツロース含有糖液そのものは、固形化又は粉末化したイソマルツロース製品として販売できなかった。従来の固形化又は粉末化したイソマルツロース製品として、上記結晶パラチノースIC(三井製糖株式会社)が挙げられる。この製品はイソマルツロース結晶である。イソマルツロース結晶を得る為には、上記のとおり、結晶化工程及び遠心分離工程を経る必要があった。特に、当該イソマルツロース結晶を上記非結晶の糖液から分離する為に遠心分離工程は必須であった。しかし、酵素α-グルコシルトランスフェラーゼをショ糖液に作用させて得られたイソマルツロース含有糖液は糖類のうち約80質量%がイソマルツロースであるので、当該糖液それ自体を固形化又は粉末化できれば、イソマルツロース純度は従来製品より低いものの、イソマルツロース製品として販売できる。そこで、本発明は、上記遠心分離工程を経ずに、固形製品又は粉末製品として販売可能なイソマルツロース製品を製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記非結晶の糖液を含む固形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させてイソマルツロース含有糖液を得、当該糖液からイソマルツロース含有固形物を製造する方法を提供する。当該方法は、前記糖液中にメディアン径5〜60μmのイソマルツロース結晶を晶出させること、そして前記イソマルツロース結晶を有する糖液を熱風温度50〜95℃でスプレードライすることを含む。また、本発明は、イソマルツロース70〜90質量%及び非結晶の糖液を含有する固形物を提供する。当該固形物は球状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法により、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られる糖液を、従来の遠心分離工程を経ずに固形化することができる。すなわち、本発明により、当該糖液を遠心分離せずに、トレハルロース等の非結晶の物質を含む当該糖液それ自体を全量固形化できる。その結果、イソマルツロース高含有の固形物が得られる。
また、本発明の製造方法により得られたイソマルツロース含有固形物はべとつかずさらさらしており、特には粉末状である。その結果、当該固形物は、イソマルツロースの固形製品、特には粉末製品として販売することが可能である。
また、本発明の方法により得られたイソマルツロース含有固形物は白い。この白さによって、当該固形物を他の食品に添加したときに当該他の食品に色の変化をもたらさない。よって、当該固形物は、イソマルツロース製品として好ましい。
【0022】
本件出願人のうち三井製糖株式会社が出願した特許出願第2011−27216号明細書は、ショ糖液にショ糖からイソマルツロースを生成する酵素を作用させてイソマルツロース含有糖液を得、当該糖液から固形化物を製造する方法を記載する。当該方法によって得られる固形化物は球状でない。一方、本発明の方法により得られたイソマルツロース含有固形物は球状である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の製造方法により得られたイソマルツロース含有固形物のデジタルマイクロスコープ写真である。
【図2】本発明の製造方法により得られたイソマルツロース含有固形物のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明において「イソマルツロース(isomaltulose)」とは、グルコースがフラクトースにα-1,6-グルコシル結合することによって構成された二糖をいう。イソマルツロースはパラチノース(palatinose)(商標)とも呼ばれる。以降、パラチノースともいう。
【0025】
本発明において、「ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素」とは、ショ糖からイソマルツロースを生成することができる酵素であれば任意のものであってよい。当該酵素は、例えばα-グルコシルトランスフェラーゼである。α-グルコシルトランスフェラーゼは、例えばProtaminobacter rubrum、Serratia plymuthica、Erwinia rhapontici、又はKlebsiella sp.に由来するものである。
【0026】
本発明において「イソマルツロース含有糖液」とは、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られた糖液であって、イソマルツロースを含む液をいう。当該ショ糖液は、当該酵素によりイソマルツロースを生成する為の原料となるものであればよい。例えば、当該ショ糖液は、製糖工程で得られるローリカー、ブラウンリカー、炭酸リカー及びファインリカーなどでありうる。当該ショ糖液は、上記酵素による反応の最適化の為に、ショ糖を5〜60質量%、特には10〜50質量%含みうる。当該ショ糖液はショ糖以外の糖を含んでもよいが、当該ショ糖液に含まれる全ての糖類の合計質量に対して、ショ糖が97質量%以上であることが好ましい。当該ショ糖液に上記酵素を作用させることは、例えば特開昭57−39794号公報に記載の方法により行なわれうるが、当該方法に限られない。当該ショ糖液に、上記酵素を作用させてイソマルツロース含有糖液が得られる。ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られた糖液(以下、「イソマルツロース含有糖液」ともいう)は、イソマルツロース以外の糖類を含む。イソマルツロース以外の糖類として、例えばトレハルロース、フルクトース、グルコース、スクロース、イソマルトース、イソメレチトースなど、上記酵素の作用の結果得られる酵素反応液に含まれる糖を挙げることができる。さらに、イソマルツロース含有糖液はミネラル及び/又はアミノ酸を含みうる。当該イソマルツロース含有糖液は、さらに他の成分を含みうる。当該他の成分は、例えば当該イソマルツロース含有糖液に含まれる成分の濃度を各バッチ毎に一定にする為に添加されものである。本発明の方法において、当該イソマルツロース含有糖液中の各糖類の濃度及び組成は、高速液体クロマトグラフィー等の当技術分野の通常の方法により測定されうる。
【0027】
当該イソマルツロース含有糖液は、当該イソマルツロース含有糖液に含まれる糖類のうち、70〜90質量%、好ましくは72〜89質量%、より好ましくは74〜88質量%、さらにより好ましくは75〜85質量%がイソマルツロースである。当該イソマルツロースの割合の計算において、分母は、当該イソマルツロース含有糖液に含まれるイソマルツロース、トレハルロース、フルクトース、グルコース、スクロース及びイソマルトースの合計質量である。糖類の質量は無水物として計算される。イソマルツロースの割合が低すぎる場合、糖液の固形化ができない。イソマルツロースの割合は上記上限より高くてもよいが、通常は、製造効率の観点から、上記酵素を作用させた結果得られる糖液中のイソマルツロース割合に従い上記上限の割合までとする。
当該イソマルツロース含有糖液に含まれる糖類の合計質量に対するトレハルロースの質量割合は、例えば8〜25質量%、特には9〜20質量%、より特には10〜18質量%でありうる。当該イソマルツロース含有糖液に含まれる糖類に対するグルコースの割合は、例えば0.1〜5質量%、特には0.2〜4質量%、より特には0.3〜3質量%でありうる。当該イソマルツロース含有糖液に含まれる糖類に対するフルクトースの割合は、例えば0.1〜5質量%、特には0.2〜4質量%、より特には0.3〜3質量%でありうる。これらの割合の計算においても、分母は、イソマルツロースの質量割合と同様に、当該糖液に含まれるイソマルツロース、トレハルロース、フルクトース、グルコース、スクロース、イソマルトースの合計質量である。これらの糖類の質量は無水物として計算される。これらのイソマルツロース以外の一つ又は複数の糖類の割合が、以下で述べる固形物の形状の達成及び/又は乾燥の達成に寄与していると考えられる。また、本発明において、特にはイソマルツロース及びトレハルロースの割合の組み合わせが固形物の形状の達成及び/又は乾燥の達成に寄与していると考えられる。
当該イソマルツロース含有糖液の形態はいかなる形態のものであってよく、例えば、イソマルツロース及びイソマルツロース以外の糖類は液中に溶解していてよく、又は、液中に縣濁若しくは分散していてもよく、又は液中に沈殿していてもよい。例えば、糖液は、イソマルツロース及びイソマルツロース以外の糖類を含む水である。
【0028】
本発明において「イソマルツロース含有固形物」は、イソマルツロースと非結晶の糖液とを含む。本発明のイソマルツロース含有固形物において、イソマルツロースは特には固形である。さらに、本発明の固形物はイソマルツロース結晶も含む。当該非結晶の糖液は主にトレハルロースであると考えられる。当該非結晶の糖液はさらに、トレハルロース以外の糖類を含みうる。上記非結晶の糖液中に含まれる糖類のうち、イソマルツロース以外の糖類は結晶化していないと考えられる。例えば、トレハルロースは非結晶性である。グルコース、フルクトース、及びショ糖などの含有率が低い糖類は蜜分として存在し、結晶にならないと考えられる。当該非結晶の糖液は特にはトレハルロース、フルクトース、グルコース、スクロース、イソマルトース及び/又はイソメレチトースを含む糖液である。なお、当該非結晶の糖液はイソマルツロースも含みうる。当該イソマルツロース含有固形物に含まれる糖類の組成及び質量割合は、上記で述べたイソマルツロース含有糖液に含まれる糖類の組成及び質量割合と同じである。例えば、イソマルツロース(イソマルツロース結晶を含む)の質量割合は当該固形物の全質量に対して、特には70〜90質量%、より特には72〜89質量%、さらにより特には74〜88質量%又は75〜85質量%である。また、当該非結晶の糖液は、本発明のイソマルツロース含有固形物中において、その全部が液状であってよく、又は、その一部が液状であり且つそれ以外が固体状であってもよい。特には、当該非結晶の糖液のうち、当該非結晶の糖液の質量に対して、トレハルロースが40質量%〜99質量%、特には45〜80質量%、より特には50〜70質量%でありうる。特には、当該非結晶の糖液のうち、当該非結晶の糖液の質量に対して、イソマルツロースが3質量%〜30質量%、特には5〜25質量%、より特には7〜20質量%でありうる。
【0029】
本発明において上記固形物の形状は特には球状の粒子でありうる。本発明において球状粒子とは、必ずしも該粒子の形状が真球である必要はなく、実質的に球状であればよい。実質的に球状とは、楕円形の球状体や粒子表面の凹凸を有する球状体を含む。当該粒子の多くは、粒子の直径が主に0.3〜300μmであるが、当該範囲より大きいものもありうる。当該球状粒子のメディアン径は、レーザー回折式粒度分布測定をしたときに、好ましくは60〜300μm、より好ましくは80〜200μmである。また、複数の当該球状粒子が付着した形状もとりうる。
また、本発明の固形物は空隙を有する。当該空隙は、固形物を水に溶解すると泡が発生することから確認される。当該空隙によって、本発明の固形物の高い溶解速度が得られると考えられる。
また、当該球状粒子において、固形のイソマルツロースにより、非結晶の糖液が内部に包まれていると考えられる。
【0030】
以下では、本発明の方法を詳細に説明する。
【0031】
本発明の方法において、イソマルツロース含有糖液中にメディアン径5〜60μm、好ましくは6〜55μm、より好ましくは8〜50μmのイソマルツロース結晶を晶出させる。当該メディアン径はレーザー回折式粒度分布測定により測定されたものである。測定のために、例えばSALD−2000J(株式会社島津製作所)を用いることができる。
【0032】
本発明において、上記イソマルツロース含有糖液中に晶出されるイソマルツロース結晶のメディアン径が上記範囲にある場合に、当該イソマルツロース含有糖液の固形化、特には粉末化が達成される。メディアン径が上記範囲より大きい場合、スプレードライをしても、マスキット中の結晶と非結晶の糖液とが分離し、当該分離の結果、スプレードライにより得られた産物において、非結晶の糖液が固形のイソマルツロース(特にはイソマルツロース結晶)により包まれず、固形のイソマルツロースが非結晶の糖液により取り囲まれる。そして、得られた産物は吸湿性が高く、非常にべたべたしたりまたは固結しやすい。また、メディアン径が上記範囲より小さい場合、結晶の表面積が大きすぎる。その結果、表面張力によって非結晶の糖液が動きにくくなり、すなわち粘度が高くなる。当該粘度の高さの故に、スプレードライをすることができない。
【0033】
本発明においてイソマルツロース結晶を晶出させることは、当技術分野の当業者に既知の技術により適宜行なわれうる。特には、上記イソマルツロース含有糖液のBrixの調整を行い、そして当該糖液についてエージングを行なうことにより、イソマルツロース結晶が上記糖液中に晶出する。以下で、1)Brixの調整及び2)エージングについて詳述する。
【0034】
1)Brixの調整
ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られたイソマルツロース含有糖液のBrixは、通常約20〜60°、特には30〜50°である。この糖液をそのままエージング工程に付して、イソマルツロース結晶を晶出させてもよいが、結晶の晶出工程の効率化の観点から、上記イソマルツロース含有糖液のBrixを調整することが好ましい。すなわち、上記イソマルツロース含有糖液のBrixを50〜80°、好ましくは53〜75°、より好ましくは55〜70°、さらにより好ましくは60〜70°に調整する。上記Brixの場合に、エージング工程における晶出の効率化が図られるとともに、晶出時間が短縮される。Brixの調整は、晶出工程の効率化の観点から、好ましくは加熱により行なわれるが、他の方法により行なわれてもよい。当該加熱は、当技術分野の通常の方法により行なわれてよい。例えば、上記糖液を容器に入れて、攪拌しながら加熱機によって加熱することができる。当該加熱機の例として、濃縮缶、結晶缶、効用缶及び薄膜式濃縮機などを挙げることができる。本発明において、当該加熱により、糖液の温度が特には100〜115℃、より特には102〜111℃、さらにより特には103〜108℃にすることで、上記Brixに調整されうる。当該加熱は常圧で行なわれてよい。また、より速やかなBrixの達成の為に、減圧下で行なわれてもよい。当該加熱を減圧下で行なう場合、例えば、当該糖液を100mmHgで50〜60℃、特には52〜59℃に、より特には53〜57℃に加熱することにより、上記Brixが得られる。
【0035】
2)エージング
本発明において、エージングとは、当該糖液を或る時間或る温度範囲に維持することをいう。当該エージング(助晶ともいう)によって、糖液中においてイソマルツロース結晶が成長する。エージングは助晶機中で行なわれてよく、または冷蔵庫中で行なわれてもよい。助晶機の例として、冷却水により冷却するためのジャケット又はコイルを有する攪拌機付タンク、たて型クリスタライザー、リボンミキサーなどを挙げることができる。エージングの時間は例えば20〜40℃で12〜48時間である。エージングの前に、結晶の目数を増やす工程(起晶ともいう)が行なわれてもよい。当該起晶は例えば、前記Brixを調整した糖液に少量の、例えば0.01〜0.5%DS(固形分質量割合)のメディアン径50μm以下の種晶を添加し、8000〜20000rpmの高速回転ホモジナイザーで攪拌することにより行なわれる。その結果、添加した種晶より多くの結晶が生じる。エージングにおいて、当該生じた結晶を核として結晶が成長する。また、当該起晶の代わりに、前記Brixを調整した糖液に、0.1〜5%DSのメディアン径25μm以下の種晶を添加し、攪拌機により200〜1500rpmで攪拌して結晶を分散させてもよい。エージングにおいて、分散した結晶を核として結晶が成長する。上記種晶は、例えば市販のイソマルツロース結晶をハンマーミルにより粉砕したものでよい。当該ハンマーミルとして、例えば不二パウダル株式会社製のサンプルミルKIIW−1を挙げることができるが、これに限定されない。また、当該種晶は、例えばイソマルツロース結晶を含むスラリーでもよい。
【0036】
上記エージング処理によって得られる晶出率は、糖液のBrixにより異なるが、例えば糖液の固形分のうちの約半分の質量の固形分が晶出すればよく、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%である。晶出率の測定は、結晶を含む糖液を1.5ml容エッペンドルフチューブに1g入れ、遠心分離機(株式会社佐久間製作所製のM150IV)により16,000rpmで1分間遠心分離を行い、上清を捨てて残った結晶の残存量から算出される。
【0037】
上記エージング処理後の糖液の粘度は、スプレードライヤによりスプレードライされることができる粘度であればよく、特には4000mPa・s以下であり、より特には2000mPa・s以下、さらにより特には1000mPa・s以下である。当該粘度は、例えば回転式粘度計によって測定される。この粘度によって、続くスプレードライ工程において、例えば目詰まりが回避されることにより、好ましい噴霧が達成される。上記エージング処理後の糖液の液比重は、好ましくは1〜1.7g/ml、より好ましくは1.05〜1.65g/ml、さらにより好ましくは1.1〜1.6g/mlである。当該液比重は、例えば比重ビン(ゲーリュサック型)によって測定される。当該液比重により、続くスプレードライ工程において好ましい噴霧が達成される。
【0038】
本発明において、イソマルツロース結晶を晶出させた上記糖液をスプレードライすることによって本発明のイソマルツロース含有固形物が得られる。当該スプレードライにおける熱風温度は、50〜95℃、好ましくは53〜93℃、より好ましくは55〜90℃である。当該温度範囲より低い温度では、十分な乾燥ができず、固形化が不十分となる。当該温度範囲によって、上記粒子構造が達成され、その結果べたつきのない、さらさらした固形物、特には粉末が得られる。当該温度範囲より高い温度では、得られる産物の色が褐色になり、褐色の産物は他の食品に添加したときに当該他の食品に色の変化をもたらすので、イソマルツロース製品として好ましくない。また、褐色化にともない臭いが生じ、固形物を製品として販売できない。この褐色化は、糖が焦げること(カラメル化)によると思われる。すなわち、当該温度範囲によって、白色のイソマルツロース含有固形物が得られる。
【0039】
本発明においてスプレードライの熱風温度とは、スプレードライヤの乾燥室へ入れられる熱風の入口温度である。当該熱風温度は、スプレードライヤに一般的に取り付けられている温度センサーにより測定される。当該温度センサーの取り付け部分は一般に、乾燥室と熱風供給配管との接続部分近傍である。
【0040】
本発明において、スプレードライにおける熱風温度以外の条件は、適宜定められてよいが、特には以下のとおりである。スプレードライの為の機械は、通常のスプレードライヤあるいはスプレードライヤと同等のスプレードライ機能を有する他の機械であってもよい。スプレードライヤの乾燥室サイズφ(内径)は、例えば300〜5000mmでありうる。乾燥室サイズはイソマルツロース含有固形物の生産規模によって定められうる。噴霧方式の例として、ノズル方式及びアトマイザー方式を挙げることができるが、糖液の粘度の観点及び糖液が固形分を含むという観点から、特にはアトマイザー方式が好ましい。アトマイザー方式の例として、加圧式、回転式及び複合式などを挙げることができるが、用いられる糖液によるポンプやノズルの詰まりを回避する為に、回転式が好ましい。アトマイザーディスクとしてピン型ディスクを挙げることができるが、他の型のディスクであってもよい。ディスク径及びアトマイザー回転数は、スプレードライヤーの乾燥室サイズによって適宜定められる。糖液の供給速度は好ましくは2〜15kg/Hr、より好ましくは2.5〜14kg/Hr、さらにより好ましくは3〜13kg/Hrでありうる。供給速度が低い場合は製造スピードが遅くなり、一方供給速度が高すぎる場合は糖液の詰まり又はスプレードライ産物において不充分な乾燥状態を生じうる。マスキット供給用チューブは、例えば内径が3〜8mm及び外径が6〜14mmのシリコンチューブでありうる。マスキットは当該チューブを介してスプレードライヤに供給される。供給の為のポンプとして、例えばローラーポンプを挙げることができる。スプレードライにおいて、排風温度は例えば、30〜70℃、特には35〜60℃でありうる。排風温度はスプレードライ条件(例えば熱風温度、マスキット供給量など)によって定まる値である。排風温度は、排風口近傍の温度センサーにより測定されうる。
【0041】
本発明の方法により得られたイソマルツロース含有固形物は溶解速度が非常に高い。200ml容積ビーカーに蒸留水80gを入れ、20℃のウォーターバス中で当該蒸留水を20℃に保ち、マグネチックスターラーで400rpmで攪拌しながら20gの上記固形物を入れた場合、当該固形物が溶解するまでの時間が、150秒以下、特には130秒以下、より特には110秒以下、さらにより特には100秒以下でありうる。結晶パラチノースIC及び粉末パラチノースICPの上記溶解速度はそれぞれ約262秒及び約235秒である。すなわち、市販のパラチノース製品と比べて、上記固形物の溶解速度は非常に高い。当該溶解速度の高さにより、当該イソマルツロース含有固形物は、例えば食品製造において添加する場合において、作業性が良い。
【0042】
本発明の方法により得られたイソマルツロース含有固形物のかさ比重は、下記実施例に記載の測定方法に従った場合に、1.2g/ml以下、より特には1.1g/ml以下、さらにより特には1.0g/ml以下でありうる。結晶パラチノースIC及び粉末パラチノースICPの上記かさ比重は一分析例としてそれぞれ0.817g/ml及び0.41g/mlである。
【0043】
本発明の方法により得られたイソマルツロース含有固形物の水分含有量は、下記実施例に記載の測定方法に従った場合に、0.5質量%〜4質量%、特には0.6質量%〜3.5質量%、より特には0.7質量%〜3質量%でありうる。結晶パラチノースIC及び粉末パラチノースICPについての上記水分含有量はそれぞれ0.16質量%及び0.23質量%である。当該水分含有量に結晶水は含まれない。
【0044】
また、本発明は、イソマルツロース70〜90質量%及び非結晶の糖液を含有する固形物であって、球状であることを特徴とする前記固形物を提供する。当該固形物は、上記の製造方法により得られる。
【0045】
下記に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものでない。
下記の実施例において、原料となる糖液のBrixは、パラチノース結晶ICの固形分及びパラチノースISKの固形分から計算により求めた値である。パラチノースISKは固形分が75質量%である。該固形分は、屈折率に基づき測定した固形分百分率(レフブリックス)である。当該測定は、レフブリックス計により行なわれた。パラチノース結晶は5%の結晶水を含むので、当該結晶水を除いた値を固形分とした。すなわち、パラチノースIC(固形分95%)、パラチノースISK(固形分75%)及び水を任意の質量割合で混合した場合、各固形分と混合比率から計算して得られた固形分が、原料となる糖液のBrixである。
下記の実施例において、他に示されない限り、粒径はメディアン径である。当該粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、SALD−2000J)により測定された。
【実施例1】
【0046】
(イソマルツロース含有固形物の製造)
ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られるイソマルツロース含有糖液のモデル液として、結晶パラチノースIC(三井製糖株式会社)、パラチノースシロップISK(三井製糖株式会社)及び水を、IC:ISK:水=51:18:26の配合割合(質量に基づく)で混合し、固形分を溶解させたモデル液を調製した。当該モデル液の糖組成を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
イソマルツロース製造における酵素反応液は、脱塩され、そしてパラチノース結晶の分離工程に付され、そして、分離された結晶分がパラチノースIC(三井製糖株式会社)であり、分離された蜜分がパラチノースシロップISK(三井製糖株式会社)である。すなわち、上記配合割合でパラチノースIC(三井製糖株式会社)とパラチノースシロップISK(三井製糖株式会社)とを混合した液は、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られるイソマルツロース含有糖液のモデル液として使用できる。当該モデル液のBrixは約65°であった。
【0049】
当該モデル液に1質量%のパラチノース粉砕物(メディアン径13μm、ハンマーミルでパラチノース結晶を粉砕したもの)を種晶として添加し、20℃で一晩エージングを行なって、イソマルツロース結晶を晶出させた。結晶を晶出させたモデル液(以下、「マスキット」ともいう)に含まれるイソマルツロース結晶の粒径は15〜50μmであり、メディアン径は32.19μmであった。当該マスキットの粘度及び液比重はそれぞれ100mPa・s及び1.28g/mlであった。粘度は回転式粘度計により測定された。液比重は比重ビン(ゲーリュサック型)により測定された。当該マスキットをスプレードライした。当該スプレードライにおいて使用したスプレードライヤは、株式会社プリス社製のP260である。当該スプレードライヤの詳細は以下のとおりである;本体内径:2600mm、噴霧型式:回転型アトマイザー方式、ディスク:ピン型(φ100mm)、装置サイズ:φ2600mm、マスキット供給チューブ:φ6×φ10シリコンチューブ×1本(チューブ内径6mm、チューブ外径10mm)、ポンプの種類:RPSE2型ローラーポンプ(中段設置)。アトマイザーの回転数は12000rpmであった。当該スプレードライヤへのマスキット供給量は4.419kg/時であった。熱風温度(入口温度ともいう)は85℃であった。排風温度は67〜68℃であった。上記スプレードライの結果、イソマルツロース含有固形物(以下、「実施例1の固形物」ともいう)が得られた。
【0050】
図1に、当該固形物のデジタルマイクロスコープ写真を示す。当該写真中の目盛りは、1目盛りが10μmである。当該固形物は球状の粒子であった。また、当該固形物の粒径は約22〜500μmであった。当該固形物のメディアン径は約131μmであった。当該固形物は、ノッカー又はエアーを用いて回収可能であり、集められた当該固形物はべたつかずサラサラとした粉末であった。また、当該固形物の色は白色であった。当該固形物の構造についてのモデル図を図2に示す。図2に示すとおり、当該固形物は、マスキット中のイソマルツロース結晶が集合した球状粒子であると考えられる。また、当該球状粒子において、固形のイソマルツロースを介して当該イソマルツロース結晶が結合されるとともに、非結晶の糖液が内部に包まれていると考えられる。
【実施例2】
【0051】
マスキット供給量が9.036kg/時であること以外は実施例1と同じ方法でイソマルツロース含有固形物(以下、「実施例2の固形物」ともいう)を得た。排風温度は66℃であった。
【0052】
当該固形物は球状の粒子であった。また、当該固形物の粒径は約28〜500μmであった。当該固形物のメディアン径は約130μmであった。当該固形物は、エアーを用いて回収可能であり、集められた当該固形物はべたつかずサラサラとした粉末であった。当該固形物の色は白色であった。
【実施例3】
【0053】
熱風温度が90℃であること及びマスキット供給量が9.036kg/時であること以外は、実施例1と同じ方法でイソマルツロース含有固形物(以下、「実施例3の固形物」ともいう)を得た。排風温度は68〜69℃であった。
【0054】
当該固形物は球状の粒子であった。また、当該固形物の粒径は約28〜600μmであった。当該固形物のメディアン径は約124μmであった。当該固形物は、エアーを用いて回収可能であり、集められた当該固形物はべたつかずサラサラとした粉末であった。当該固形物の色は白色であった。
【実施例4】
【0055】
実施例1で製造したモデル液1000gに対して、エージング前に10gのパラチノース結晶をシードとして添加したこと以外は、実施例1と同じ方法でマスキットを調製した。当該シードは、パラチノースICをハンマーミル(不二パウダル株式会社、SAMPLE−MILL KIIW−I)により粉砕したものである。当該マスキットの原液粘性及び液比重はそれぞれ90mPa・s及び1.304g/mlであった。
当該マスキットを用いたこと、熱風温度が90℃であること及びマスキット供給量が9.036kg/時であること以外は、実施例1と同じ方法でイソマルツロース含有固形物(以下、「実施例4の固形物」ともいう)を得た。排風温度は69〜71℃であった。
【0056】
当該固形物は球状の粒子であった。当該固形物の粒径は約34〜500μmであった。当該固形物のメディアン径は約164μmであった。当該固形物は、エアーを用いて回収可能であり、集められた当該固形物はべたつかずサラサラとした粉末であった。当該固形物の色は白色であった。
【実施例5】
【0057】
パラチノースIC(三井製糖株式会社)及びパラチノースシロップISK(三井製糖株式会社)を65:24の質量割合で混合した。当該混合物の糖組成を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
当該混合物に水を添加し、加熱しながらパラチノースICを溶解して、Brixを60.4°に調整した。次に、当該混合物を25℃に冷却した。冷却後、0.1%DS(固形分割合)の実施例1で用いたパラチノース粉砕物を当該混合物に添加し、そして助晶機(ホモジナイザー、IKA社製、ULTRA−TURRAX)中において11000rpmの攪拌速度で攪拌しながら20℃で2時間エージングしてマスキットを得た。当該マスキット中のイソマルツロース結晶粒子を光学顕微鏡で顕鏡したところ粒径は25〜98μmであった。当該マスキット中のイソマルツロース結晶のメディアン径は32.5μmであった。
【0060】
当該マスキットをスプレードライヤ(平野工業株式会社、SA−5)によりスプレードライした。当該スプレードライヤの詳細は以下のとおりである;本体内径:2000mm、噴霧型式:遠心型アトマイザー方式、ディスク:ピン型(φ100mm)、乾燥室サイズ:φ2000mm、マスキット供給チューブ:φ5×φ8シリコンチューブ×1本(チューブ内径5mm、チューブ外径8mm)、ポンプの種類:ローラーポンプ(型式RP−2000)。アトマイザーの回転数は14000rpmであった。当該スプレードライヤへのマスキット供給量は4kg/時であった。熱風温度は60℃であった。排風温度は41℃であった。上記スプレードライの結果、イソマルツロース含有固形物(以下、「実施例5の固形物」ともいう)が得られた。
【0061】
当該固形物は球状の粒子であった。当該固形物を光学顕微鏡で観察したところ粒径は22〜500μmであった。当該固形物のメディアン径は約131μmであった。当該固形物を集めたものは、べたつかずさらさらとした粉末であった。当該固形物の色は白色であった。
【実施例6】
【0062】
Brixを59.8°に調整したこと以外は実施例5と同じ方法でマスキットを得た。当該マスキット中のイソマルツロース結晶粒子を光学顕微鏡で顕鏡したところ粒径は3〜25μmであった。当該マスキット中のイソマルツロース結晶のメディアン径は17.7μmであった。
【0063】
当該マスキットを、熱風温度を80℃にしたこと以外は実施例5に記載されたスプレードライ処理と同じスプレードライ処理に付した。なお、排風温度は46℃であった。当該スプレードライ処理の結果、イソマルツロース含有固形物(以下、「実施例6の固形物」ともいう)が得られた。
【0064】
当該固形物は球状の粒子であった。当該固形物を光学顕微鏡で観察したところ粒径は28〜600μmであった。当該固形物のメディアン径は約130μmであった。当該固形物の色は白色であった。当該固形物を集めたものは、べたつかずさらさらとした粉末であった。
【実施例7】
【0065】
Brixを59.6°に調整したこと以外は実施例5と同じ方法でマスキットを得た。当該マスキット中のイソマルツロース結晶粒子を光学顕微鏡で顕鏡したところ粒径は20〜67μmであった。当該マスキット中のイソマルツロース結晶のメディアン径は25.7μmであった。
【0066】
当該マスキットを、実施例5に記載されたものと同じスプレードライ処理に付した。なお、排風温度は37℃であった。当該スプレードライ処理の結果、イソマルツロース含有固形物(以下、「実施例7の固形物」ともいう)が得られた。
【0067】
当該固形物は球状の粒子であった。当該固形物を光学顕微鏡で観察したところ粒径は28〜600μmであった。当該固形物のメディアン径は約124μmであった。当該固形物の色は白色であった。当該固形物を集めたものは、べたつかずさらさらとした粉末であった。
【実施例8】
【0068】
Brixを60.6°に調整したこと、攪拌速度を16000rpmとしたこと及び冷却温度を10℃としたこと以外は実施例5と同じ方法でマスキットを得た。当該マスキット中のイソマルツロース結晶粒子を光学顕微鏡で顕鏡したところ粒径は1〜25μmであった。当該マスキット中のイソマルツロース結晶のメディアン径は15.4μmであった。
【0069】
当該マスキットを、実施例5に記載されたものと同じスプレードライ処理に付した。なお、排風温度は42℃であった。当該スプレードライ処理の結果、イソマルツロース含有固形物(以下、「実施例8の固形物」ともいう)が得られた。
【0070】
当該固形物は球状の粒子であった。当該固形物を光学顕微鏡で観察したところ粒径は34〜500μmであった。当該固形物のメディアン径は約164μmであった。当該固形物の色は白色であった。当該固形物を集めたものは、べたつかずさらさらとした粉末であった。
【0071】
(比較例1)
Brixを51.2°に調整したこと及び攪拌速度を120rpmとしたこと以外は実施例5と同じ方法でマスキットを得た。当該マスキット中のイソマルツロース結晶粒子を光学顕微鏡で顕鏡したところ粒径は150〜156μmであった。当該マスキット中のイソマルツロース結晶のメディアン径は120.2μmであった。
【0072】
当該マスキットを、熱風温度を65℃としたこと以外は実施例5に記載されたものと同じスプレードライ処理に付した。なお、排風温度は41℃であった。当該スプレードライ処理の産物は、さらさらとした粉末でなく、スプレードライヤ内に付着し、べたついたものであった。すなわち、当該産物はイソマルツロース結晶と非結晶の糖液とが分離したものであり、当該マスキットを全量固形化することはできなかった。当該産物は、そのべたつきの故に、そのまま販売することが困難である。
【0073】
(比較例2)
Brixを60.1°に調整したこと及び攪拌速度を120rpmとしたこと以外は実施例5と同じ方法でマスキットを得た。当該マスキット中のイソマルツロース結晶粒子を光学顕微鏡で顕鏡したところ粒径は105〜156μmであった。当該マスキット中のイソマルツロース結晶のメディアン径は133.1μmであった。
【0074】
当該マスキットを、熱風温度を65℃としたこと以外は実施例5に記載されたものと同じスプレードライ処理に付した。なお、排風温度は41℃であった。当該スプレードライ処理の産物は、さらさらとした粉末でなく、スプレードライヤ内に付着し、べたついたものであった。すなわち、当該産物はイソマルツロース結晶と非結晶の糖液とが分離したものであり、当該マスキットを全量固形化することはできなかった。当該産物は、そのべたつきの故に、そのまま販売することが困難である。また、当該産物のうち固形化した部分の多くは、団結した団粒を形成した。
【0075】
(比較例3)
Brixを60.2°に調整したこと及び攪拌速度を120rpmとしたこと以外は実施例5と同じ方法でマスキットを得た。当該マスキット中のイソマルツロース結晶粒子を光学顕微鏡で顕鏡したところ粒径は45〜207μmであった。当該マスキット中のイソマルツロース結晶のメディアン径は103.6μmであった。
【0076】
当該マスキットを、実施例5に記載されたものと同じスプレードライ処理に付した。なお、排風温度は41℃であった。当該スプレードライ処理の産物は、さらさらとした粉末でなく、スプレードライヤ内に付着し、べたついたものであった。すなわち、当該産物はイソマルツロース結晶と非結晶の糖液とが分離したものであり、当該マスキットを全量固形化することはできなかった。当該産物は、そのべたつきの故に、そのまま販売することが困難である。また、当該産物のうち固形化した部分の多くは、団結した団粒を形成した。
【0077】
以下の表3は、実施例5〜8及び比較例1〜3における実験条件及び結果の一覧である。以下表の結果の行において、○はイソマルツロース含有糖液が全量固形化されたことを示す、×はイソマルツロース含有糖液が全量固形化されなかったことを示す。また、実施例5〜8において得られた固形物はいずれもべとつかずさらさらした粉末であった。
【0078】
【表3】

【実施例9】
【0079】
実施例1の固形物及び実施例5の固形物並びに市販のパラチノース2種類(結晶パラチノースIC(三井製糖株式会社、以下「IC」ともいう)及び粉末パラチノースICP(三井製糖株式会社、以下「ICP」ともいう))を用意した。これら4種類の試料について、溶解速度、かさ比重及び水分含有量を測定した。
【0080】
1)溶解速度
200ml溶ビーカーに蒸留水80mlをいれ、ウォーターバスにて20℃に保ち、マグネチックスターラーにより400rpmで攪拌しながら上記試料20gを入れ、完全に溶解するまでの時間(秒)を測定した。結果を以下の表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
実施例1及び実施例5の固形物の溶解速度は、結晶パラチノースICと比較して、溶解速度が非常に速いものであった。また、実施例1及び実施例5の固形物の溶解速度は、パラチノースICPとほぼ同程度の溶解速度であった。また、実施例1及び実施例5の固形物は、水に溶解したときに泡を生じた。この泡は、これら固形物が有する空隙に由来する。一方、IC及びICPを溶解しても、泡は生じなかった。
【0083】
2)かさ比重
かさ比重は、ABD粉体特性測定器(筒井理化学器械株式会社)を用いて測定した。測定方法は当該測定器に付属の説明書に従った。すなわち、当該測定器のホッパーからサンプル容器(100ml容量)へ試料を山盛りに充填し、容器上部ですり切り、すり切った後の質量を測定した。かさ比重を求める為の計算式は以下のとおりである:かさ比重(g/ml)=試料質量測定値(g)÷100(ml)。測定結果は以下の表5とおりである。
【0084】
【表5】

【0085】
実施例1及び実施例5の固形物のかさ比重は、結晶パラチノースICと比較して小さかった。
【0086】
3)水分含有量
水分含有量は、試料を75℃で3時間減圧乾燥したときの質量変化に基づき測定した。測定結果を表6に示す。
【0087】
【表6】

【実施例10】
【0088】
40質量%のショ糖液に、Protaminobacter rubrumから得られたα-グルコシルトランスフェラーゼを反応させてイソマルツロース含有糖液を得、そして当該イソマルツロース含有糖液を脱塩した。当該酵素反応及び脱塩は、中島良和、「パラチノースの製法と用途」、澱粉科学、日本澱粉学会、1982年、第35巻、第2号、p.131〜139、に記載された方法に従った。この脱塩液のBrixは38.2°であった。当該脱塩液の糖組成は表7の通りであった。
【0089】
【表7】

【0090】
当該脱塩液を、冷却トラップ(UT−50型、東京理科機械株式会社製)、ダイアフラム型真空ポンプ(DIVAC2.2L、東京理科機械株式会社製)を接続したロータリーエバポレーター(N−11、東京理科器械株式会社製)の10Lフラスコに入れ、85℃に加熱しながらBrixを63°に調整した濃縮液を得た。得られた濃縮液を撹拌しながら25℃に放冷した。25℃になった濃縮液7kgに70gのパラチノース粉砕物(メディアン径15μm、ハンマーミルで結晶パラチノースを粉砕したもの)を添加し、25℃で一晩エージングすることにより15〜50μmの結晶を析出させてマスキットを得た。当該マスキット中の結晶のメディアン径は35.2μmであった。当該エージング後のマスキットの粘度及び比重はそれぞれ、120mPa・s及び1.305g/mlであった。
スプレードライヤ(株式会社プリス、小型スプレードライヤ R160)を用いて、熱風温度90℃、アトマイザー回転数16000rpm、スプレードライヤへの糖液供給量1.13kg/hで、当該マスキットをスプレードライした。排風温度は67〜71℃であった。スプレードライの結果、イソマルツロース含有固形物(以下、「実施例10の固形物」ともいう)が得られた。当該イソマルツロース含有固形物はメディアン径が約124.4μmであった。当該固形物は球状であった。また、当該固形物を集めたものは、べたつかずさらさらした粉末であった。
【0091】
試験例1:ハードキャンディの製造と評価
【0092】
なべに実施例10の固形物7質量部及び水3質量部を入れ、それらを混合後、火にかけた。液温が160℃になった時点でなべを火からおろし、当該液を型に入れ、そして固めて、ハードキャンディを得た。
【0093】
実施例10の固形物の代わりに同量のパラチノース(結晶パラチノースIC、三井製糖株式会社)を用いたこと以外は、上記方法でハードキャンディを製造した。
【0094】
実施例10の固形物を用いたハードキャンディは、パラチノースハードキャンディと同様に透明であった。砂糖単独でハードキャンディを製造した場合、煮詰める工程又は固める工程において結晶が析出し、透明なハードキャンディが得られない。一方、パラチノース及び本発明による固形物によりキャンディを製造した場合、透明なキャンディが得られることが示された。
【0095】
試験例2:ヨーグルトドリンクの製造と評価
【0096】
(ヨーグルトドリンクの製造)
ヨーグルトドリンクを、下記表8に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。実施例の固形物及びパラチノースの配合量は、砂糖の甘味度と合わせる為に、砂糖配合量の1/0.45倍とした。製造手順は以下のとおりである。(1)ヨーグルトに脱脂粉乳を加え、ダマにならないよう混ぜた。(2)(1)で得られた混合物に牛乳を加えて混ぜ、そして各糖類を加えてよく混ぜた。(3)(2)で得られた混合物に30質量%クエン酸を添加してpHを4.5に調整し、ヨーグルトドリンクを得た。
【0097】
【表8】

【0098】
(外観の評価)
色彩色差計(CR-400、コニカミノルタ株式会社)を用いて、試験区1〜3のヨーグルトドリンクを測定した結果を表9に示す。表9中の値は、国際照明委員会(CIE)の規定するCIE色差式L*a*b*に従うものである。L*、a*、及びb*はそれぞれ、エルスター、エースター、及びビースターと読む。
【0099】
【表9】

【0100】
表9に示されるとおり、試験区1〜3のヨーグルトドリンクの間で、色の違いはほとんどみられなかった。すなわち、実施例10の固形物を用いた場合、砂糖及びパラチノースを用いた場合と同等の外観を有するヨーグルトドリンクが製造される。なお、試験区1及び3のヨーグルトドリンクの粘度は、試験区2のものよりも高かった。これは糖類の配合量がより多いことによる。
【0101】
(味の評価)
上記のとおり試験区1〜3の甘味度を揃えたが、試験区2のヨーグルトドリンクの甘味が最も強く、試験区3のヨーグルトドリンクの甘味が最も弱かった。試験区1のヨーグルトドリンクの甘味は、試験区2のものよりも弱いが、しっかり感じられるものであった。
酸味については、試験区1のヨーグルトドリンクが最も強く、試験区2のものが最も弱かった。
試験区3のヨーグルトドリンクと試験区1のものとを味の点で比較すると、試験区3のものは単調な味ですっきりしているのに対し、試験区1のものは甘さに厚みがあり濃厚な味であった。
【0102】
試験例3:ホイップクリームの製造と評価
【0103】
(ホイップクリームの製造)
ホイップクリームを、下記表10に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。実施例10の固形物及びパラチノースの配合量は、砂糖の甘味度と合わせる為に、砂糖配合量の1/0.45倍とした。ホイップクリームは、生クリームに各種糖類を加え、ハンドミキサーで泡立て製造した。泡立ては、九分立てになった時点で止めた。
【0104】
【表10】

【0105】
食感及び味質において、試験区1〜3のホイップクリームの間で差は認められなかった。また、試験区2のホイップクリームよりも、試験区1及び3のものの方が、泡立ち始めるのが早かった。
【0106】
試験例4:チョコレートの製造と評価
【0107】
(チョコレートの製造)
チョコレートを、下記表11に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。甘味を補う為に、試験区1及び2では、試験区3の砂糖配合量の半分だけを、それぞれ実施例10の固形物又はパラチノースで置き換えた。チョコレートは、以下のとおりに製造した。まず、各種糖類を粉砕機で粉砕した。粉砕した各種糖類を刻んだブラックチョコレートと合わせた。湯煎にかけてブラックチョコレートを溶かした。ブラックチョコレートが溶けたら、40〜45℃で5分間、空気が入らないようによく混ぜた。糖類が均一に混ざったら、56℃まで温め、ボウルを冷水につけて28℃まで下げた。再び湯煎にかけて31℃まで温度をあげ、型に流し入れ、冷却して、チョコレートを得た。
【0108】
【表11】

【0109】
(味の評価)
試験区2のチョコレートと比較して試験区1のものは甘味に厚みがあり、香りや風味も良かった。甘味については、試験区3のチョコレートの甘味が最も強く、試験区2のものが最も弱かった。
苦味については、試験区3のチョコレートの苦味が、試験区1及び2のものよりも強かった。また、試験区2のチョコレートは甘味が弱い分苦味だけが強く感じるのに対し、試験区1のものは甘味も苦味も強く、且つ、カカオの風味も感じられた。
【0110】
試験例5:抹茶スポンジの製造と評価
【0111】
(スポンジの製造)
スポンジを、下記表12に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。甘味を補う為に、試験区1及び2では、試験区3の砂糖配合量の半分だけを、それぞれ実施例10の固形物又はパラチノースで置き換えた。スポンジは、以下のとおりに製造した。まず、薄力粉及び抹茶を混合しふるった。バターを溶かした。全卵に糖類を入れて、湯煎で30℃に保ちながらハンドミキサーで12分間泡立てた。泡立てた卵液に、上記薄力粉及び抹茶の混合物を、3回に分けて入れさっくり混ぜた。さらに、溶かしバターを加え、練らないように混ぜてスポンジ生地を得た。スポンジ生地を、クッキングペーパーを敷いた天板に流し、200℃で15分間焼いて、抹茶スポンジを得た。
【0112】
【表12】

【0113】
得られた抹茶スポンジのうち、試験区1のスポンジが、甘さが控えめでさっぱりしていた。
【0114】
試験例6:バトンショコラの製造と評価
【0115】
(バトンショコラの製造)
バトンショコラを、下記表13に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。甘味を補う為に、試験区1及び2では、試験区3の砂糖配合量の半分だけを、それぞれ実施例10の固形物又はパラチノースで置き換えた。バトンショコラは、以下のとおりに製造した。まず、バターをクリーム状に練って、当該練ったバターに各種糖類を加えてさらに混ぜた。当該バターに、全卵を少しずつ加えた。さらに、篩った粉(小麦粉、アーモンドパウダー、ココアパウダーの混合物)を加えて生地を得た。当該生地を、絞り袋で天板に絞り出し、170℃で15分間焼いて、バトンショコラを得た。
【0116】
【表13】

【0117】
試験区1のバトンショコラは、試験区2のものよりもさっぱりしていなかったが、試験区3のものよりもさっぱりしていた。また、試験区1のバトンショコラが、最もビター感が強かった。
【0118】
試験例7:にんじんゼリーの製造と評価
【0119】
(にんじんゼリーの製造)
にんじんゼリーを、下記表14に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。製造方法は以下のとおりである。まず、にんじんを適当に切って、水及びレモンと合わせ、それらをミキサーにかけて(15秒×3回)、にんじんジュースを得た。別途、ゲル化剤と実施例10の固形物、パラチノース、又は砂糖とをよく混合しておいた。当該混合物と上記ジュースとを鍋に入れてよく混ぜ、火にかけて沸騰してから3分間煮た。当該煮た液を型に充填し、そして冷却して、にんじんゼリーを得た。
【0120】
【表14】

【0121】
試験区1及び試験区2のゼリーは、試験区3のものよりも、にんじんの青臭みが少なかった。従来、パラチノースが、臭みのマスキングの為に添加されている。実施例の粒状物によっても、パラチノースと同様にマスキング効果が得られることが示された。
【0122】
試験例8:イチゴジャムの製造と評価
【0123】
(イチゴジャムの製造)
イチゴジャムを、下記表15に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。砂糖と実施例4−2の粒状物の割合を変えて、結晶が析出しないBrix60°のイチゴジャムを検討した。なお、結晶析出を防ぐ為に、いずれの試験区においても、トレハルロースシロップ(ミルディア75、三井製糖株式会社)を全糖類質量の2質量割合配合した。
【0124】
【表15】

【0125】
試験区3のジャムは冷蔵保存1ヶ月後に結晶が析出したが、試験区1及び2のジャムは冷蔵保存1ヶ月後でも結晶は析出せず、3日間冷凍してから解凍しても結晶析出はみられなかった。
甘味を評価したところ、試験区3のジャムは、試験区1のジャムほどの甘さは無いが、しっかりとした甘さが感じられた。また、実施例10の固形物の配合が多いジャムほど甘味がすっきりしており酸味が強かった。試験区3のジャムは、甘さと酸味のバランスがよく、イチゴの味が強かった。
【0126】
試験例9:チューインガムの製造と評価
【0127】
パラチノース又は実施例10の固形物を用いてチューインガムを製造した。製造方法は、以下のとおりである。まず、チューインガムベース30質量部に、酵素糖化水飴(コーソシラップH85C、Brix85°、日本コーンスターチ株式会社)15質量部を加え、45℃に保温したニーダー(ベンチニーダーPNV-1、株式会社入江商会)を用いて5分間混練した。得られた混合物に、甘味料としてパラチノース(粉末パラチノースICP、三井製糖株式会社)54質量部又は実施例10の固形物54質量部を数回に分けて加え、さらに1質量部のグリセロール(純正化学 食品添加物)を加えて15分間混練した。次いで、1質量部の香料(ペパーミントオイル、高田香料株式会社)を加えて5分間混練した。そして次に、取り粉として粉末パラチノース(粉末パラチノースICP、三井製糖株式会社)を用い、混練物を圧延して板ガム状に成型し(厚さ2mm、幅2cm、長さ7cm)、アルミ箔に包み、チューインガムを得た。
得られたガムを、製造の1週間後に観察したところ、実施例10の固形物を使用したチューインガムは、パラチノースを使用したものよりもやわらかかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させてイソマルツロース含有糖液を得、当該糖液からイソマルツロース含有固形物を製造する方法であって、
前記糖液中においてメディアン径5〜60μmのイソマルツロース結晶を晶出させること、ここで前記メディアン径はレーザー回折式粒度分布測定により測定したものである、そして
前記イソマルツロース結晶を有する糖液を熱風温度50〜95℃でスプレードライすること
を含む前記方法。
【請求項2】
前記晶出の前に、前記糖液のBrixを50〜80°に調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イソマルツロース70〜90質量%及び非結晶の糖液を含有する固形物であって、球状であることを特徴とする前記固形物。
【請求項4】
前記非結晶の糖液が固形のイソマルツロースにより包まれている、請求項3に記載の固形物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−5790(P2013−5790A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259313(P2011−259313)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(501190941)三井製糖株式会社 (52)
【出願人】(591014097)サンエイ糖化株式会社 (15)
【Fターム(参考)】