説明

糖衣カプセルおよびその製造方法

【課題】 耐衝撃性に優れた糖衣カプセルを提供すること。
【解決手段】 水分含有量8重量%未満であるシームレスカプセル、このシームレスカプセルを被覆する油脂層、および、この油脂層を被覆する糖衣層、を有する、糖衣カプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスカプセルが糖衣層によって被覆された構造を有する、糖衣カプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
カプセル化された種々の薬品、食品、嗜好品などは、その摂取の手軽さから現在広く用いられている。そして液状の充填物を内包するカプセルとしては、シームレスカプセルが、その生産性の高さなどから広く用いられている。
【0003】
一方で、嗜好品などにおいては、所望の風味、食感、色彩などを付与するため、または外的圧力および乾燥から保護するために、表面に糖衣層を形成する技術が用いられている。この糖衣層の形成には、通常は、糖衣パンまたは回転釜などと呼ばれる装置が使用される。具体的には、まず回転釜の回転容器内に、チューイングガム等の被糖衣物を投入し、次いで、これの回転容器を回転させながら、糖衣蜜(糖質を含む溶液)を投入する。この糖衣蜜が被糖衣物の表面全体を被覆した時点で、粉体原料を投入するかまたは風を送るなどして糖衣蜜を乾かす。こうして、被糖衣物の外側に糖衣層が形成される。
【0004】
ところが、このような通常の糖衣層形成方法を用いて、シームレスカプセル上に糖衣を形成したところ、形成された糖衣は非常に剥がれやすく、そして耐衝撃性に劣るものしか得られないことが判明した。これは、シームレスカプセルの皮膜が乾燥工程を経て形成されるものであることに由来することが推測される。
【0005】
特開昭57−77044号公報(特許文献1)には、充填物を含有した軟ミニカプセルを、粉末被覆層および上掛け被覆層で覆ったコーティング軟ミニカプセルが記載されている。しかしながらこの方法は、軟ミニカプセルの組成によっては、粉末被覆層の上に形成された糖衣層が衝撃により剥がれやすいという欠点がある。
【0006】
特公平7−55898号公報(特許文献2)には、糖衣固形製剤の製造に際し、純度90w/w%以上の高純度マルチトールとともに糖衣補強剤を含有した水溶液によって芯剤をコーティングし、次いで、これを乾燥してマルチトールを晶出させることを特徴とする糖衣固形製剤の製造方法が記載されている。この方法によって、糖衣の破損・ひび割れなどが改善できると記載されている。そしてこの製造方法においては、糖衣を糖衣補強剤としてプルランが用いられている。
【0007】
特開2000−166477号公報(特許文献3)には、ゲル化剤を使用して製造したセンターゼリーに油脂あるいは油脂と糖質を被覆する工程と、ゲル化剤を含有する糖衣を被覆する工程よりなる、ゼリー菓子の製造方法が記載されている。しかしながらこの方法は、ゼリー菓子の製品同士の結着を防止するため、またはゼリー菓子製品の水分飛散を抑えるために、油脂を被覆する点において、本発明とは目的が相違する。
【0008】
特開2002−45118号公報(特許文献4)には、水分8質量%以上の固形食品の表面全体に油脂層が形成され、かつ、プルランと糖アルコールを含有する糖衣層がこの薄膜層全体を覆うように形成されていることを特徴とする糖衣固形食品が記載されている。しかしながら本願発明は、被糖衣物が乾燥工程などを経て調製されたシームレスカプセルである点において、この発明とは異なるものである。
【0009】
【特許文献1】特開昭57−77044号公報
【特許文献2】特公平7−55898号公報
【特許文献3】特開2000−166477号公報
【特許文献4】特開2002−45118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、耐衝撃性に優れた糖衣カプセルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
水分含有量8重量%未満であるシームレスカプセル、
このシームレスカプセルを被覆する油脂層、および
この油脂層を被覆する糖衣層、
を有する、糖衣カプセルを提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0012】
このような糖衣カプセルの1態様として、
上記シームレスカプセルが、カプセル充填液、およびこのカプセル充填液を内包するカプセル皮膜、を有し、
このカプセル皮膜が、タンパク質、海藻由来多糖類、植物及び植物種子由来多糖類、微生物由来多糖類、繊維素粘質物および澱粉加水分解物からなる群から選択される1種またはそれ以上を含む、糖衣カプセルが挙げられる。
【0013】
このような糖衣カプセルの他の1態様として、
上記シームレスカプセルが、カプセル充填液、このカプセル充填液とカプセル皮膜とを隔離する液状物、およびこれらを内包するカプセル皮膜、を有し、
このカプセル皮膜が、タンパク質、海藻由来多糖類、植物及び植物種子由来多糖類、微生物由来多糖類、繊維素粘質物および澱粉加水分解物からなる群から選択される1種またはそれ以上を含む、糖衣カプセルが挙げられる。
【0014】
糖衣カプセルに対する上記油脂層の皮膜率は1〜95重量%であるのが好ましい。
【0015】
また、糖衣カプセルに対する上記糖衣層の皮膜率は0.1〜55重量%であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、これまで糖衣層の形成が困難であったシームレスカプセルの上にも、耐衝撃性に優れる糖衣層を形成することが可能となる。シームレスカプセルは、液状の充填液を内容物とするカプセルを大量生産することが可能であるという利点を有している。そして本発明によって、このような利点を有するシームレスカプセルのさらなる利用用途が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に至る過程を、従来技術の問題を交えて簡単に説明する。上記したとおり、シームレスカプセル上に通常の糖衣層形成方法を用いて糖衣を形成する場合は、形成された糖衣は非常に剥がれやすく、そして耐衝撃性に劣るものしか得られないことが判明した。そして本発明者らは、実験を重ねることによってこの原因を突き止めた。それは、シームレスカプセルの皮膜は乾燥工程を経て形成されるものであり、そのためシームレスカプセルの皮膜上に糖衣蜜を接触させた場合、糖衣蜜に含まれる水分をカプセル皮膜が吸収し、そして皮膜が膨潤するためであること見いだした。糖衣形成時にカプセル皮膜が膨潤することによって、その体積が増大することなる。そして体積が増大したカプセル皮膜上に糖衣層が形成されることとなる。そして糖衣形成時に膨潤したカプセル皮膜は、経時により水分を放出して体積が縮小することとなり、その結果、カプセル皮膜上に形成された糖衣層とカプセル皮膜との間に空隙が生じることとなる。この空隙の存在によって、糖衣層の耐衝撃性が著しく低下することとなる。
【0018】
本発明者らは、上記問題を解決する手段として、シームレスカプセルと糖衣層との間に油脂層を設けることを試みたところ、糖衣層の耐衝撃性を大幅に改善することができることを見いだした。以下、本発明について詳しく説明していく。
【0019】
本発明の糖衣カプセルは、水分含有量8重量%以下であるシームレスカプセル、このシームレスカプセルを被覆する油脂層、およびこの油脂層を被覆する糖衣層、を有するものである。
【0020】
シームレスカプセル
図1は、本発明の糖衣カプセルの1態様を説明する模式図である。図1に示される本発明の糖衣カプセル(10)は、カプセル充填液(2)およびこのカプセル充填液を内包するカプセル皮膜(4)を有するシームレスカプセル(9)を、油脂層(6)が被覆し、さらにその上を糖衣層(8)が被覆している。
【0021】
また、図2は、本発明の糖衣カプセルの他の1態様を説明する模式図である。図2に示される本発明の糖衣カプセル(20)は、カプセル充填液(12)、このカプセル充填液とカプセル皮膜とを隔離する液状物(11)およびこれらを内包するカプセル皮膜(14)を有するシームレスカプセル(19)を、油脂層(16)が被覆し、さらにその上を糖衣層(18)が被覆している。
【0022】
シームレスカプセルのカプセル皮膜を形成する基材として、一般的に用いられる、皮膜を形成する基材を用いることができる。このような基材として、例えば、ゼラチン、アルブミン等のタンパク質類、海藻由来多糖類、植物及び植物種子由来多糖類、微生物由来多糖類、繊維素粘質物、澱粉加水分解物などが挙げられる。海藻由来多糖類の具体例としては、アルギン酸及びその誘導体、寒天、カラギーナン等を挙げることができる。植物及び植物種子由来多糖類の具体例としては、ペクチン、グルコマンナン、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、サイリュームシードガム等を挙げることができる。微生物由来多糖類の具体例としては、キサンタンガム、プルラン、ジェランガム、カードラン等を挙げることができる。繊維素粘質物の具体例としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、結晶セルロース等を挙げることができる。なお上記具体例は何れも限定されるものではない。さらに基材として、アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、キチン、キトサン、セラックなどを用いることもできる。基材として、これらの1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明に用いられるシームレスカプセルのカプセル皮膜は、上記の皮膜を形成する基材の他に、必要に応じて可塑剤を含んでもよい。可塑剤として、例えば水溶性多価アルコールまたはその水溶性誘導体を用いることができる。水溶性多価アルコールまたはその水溶性誘導体の具体例としては、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビット、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、酸化エチレン−酸化プロピレン共重合体、オリゴサッカロイド、シュガーエステル、グリセリド、ソルビタンエステル類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの可塑剤は、カプセル皮膜の総重量に対して5〜40重量%含まれるのが好ましく、10〜30重量%含まれるのがより好ましい。
【0024】
またカプセル皮膜に、色素(β−カロチンなど)、呈味成分(甘味料、酸味料または苦味料など)、防腐剤および香料等の添加物を必要に応じて含めてもよい。
【0025】
本発明において、シームレスカプセル中に封入される充填液は特に限定されず、親油性または親水性の液状物、これらの液状物とこれに不溶の粉末との懸濁液、またはこれら液状物の混合液が挙げられる。これらの充填液は、例えば、通常の機能性食品や機能性飲料に含まれる種々の親油性または親水性有効成分、例えば各種ビタミン、ミネラル、香料、エキス類などを含むことができる。親水性液状物として、例えば、水(精製水、イオン交換水等も含まれる)、水溶性アルコール、多価アルコール(グリセリン、マンニトール、ソルビトールなど)およびこれらの混合物などが含まれる。親油性液状物として、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、植物油脂(ヤシ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ゴマ油、ナタネ油、グレープ種子油、およびこれらの混合物など)およびこれらの混合物などが含まれる。
【0026】
カプセル充填液が親油性液状物または親油性液状物とこれに不溶の粉末との懸濁液である場合は、シームレスカプセルの構造を、図1に示すような、カプセル充填液(2)およびカプセル皮膜(4)からなる2層構造のシームレスカプセル(9)とすることができる。
【0027】
また、カプセル充填液が親水性液状物または親水性液状物とこれに不溶の粉末との懸濁液である場合は、シームレスカプセルの構造を、図2に示すような、カプセル充填液(12)、カプセル充填液とカプセル皮膜とを隔離する液状物(11)およびカプセル皮膜(14)からなる3層構造のシームレスカプセル(19)とすることができる。
【0028】
図2に示されるような、シームレスカプセルが3層構造である場合、カプセル充填液とカプセル皮膜とを隔離する液状物として、例えば、上記した親油性液状物などが含まれる。この隔離する液状物に、上記のような有効成分や香料等が含まれてもよい。
【0029】
シームレスカプセルの大きさ、カプセル充填液の種類等は、使用目的や用途に応じて適宜選択することができる。
【0030】
このようなシームレスカプセルの製造方法としては、例えば、特開昭58−22062号公報及び特開昭59−131355号公報に開示される、同心多重ノズルを用いる方法(滴下法)が挙げられる。
【0031】
シームレスカプセルの製造において、予め、カプセル皮膜液、カプセル充填液、そして必要に応じて液状物を調製する。本発明のカプセルの皮膜の調製に使用されるカプセル皮膜液は、上記したカプセル皮膜を形成する基材の少なくとも1種、そして必要に応じた可塑剤および他の添加剤などを、水性媒体に分散させて調製する。水性媒体として、精製水、イオン交換水などを用いるのが好ましい。
【0032】
カプセル皮膜液は、カプセル皮膜を形成する基材を、カプセル皮膜液の総重量に対して15〜35重量%の量で含む。この量は好ましくは20〜30重量%であり、25〜28重量%であるのがより好ましい。基材が35重量%を超える量で含まれると、カプセル皮膜液が高粘度となり、カプセルの形成が困難となる。また、15重量%より少ない量で含まれると、形成されたカプセルの物理的強度が低くなり、使用に困難が生じる恐れがある。
【0033】
カプセル皮膜液の粘度は0℃〜65℃の温度範囲で5mPa・s〜300mPa・s、好ましくは10mPa・s〜200mPa・s、で使用される。またカプセル充填液の粘度は0℃〜80℃の温度範囲で5mPa・s〜300mPa・s、好ましくは10mPa・s〜200mPa・s、で使用される。液状物の粘度は0℃〜90℃の温度範囲で5mPa・s〜300mPa・s、好ましくは10mPa・s〜200mPa・s、で使用される。
【0034】
本発明に用いられる2層構造のシームレスカプセルの製造方法を、図3を用いて説明する。親油性液状物であるカプセル充填液、そして例えばゼラチンなどをカプセル皮膜基剤とするカプセル皮膜液を予め調製する。同心二重ノズルを用いて、カプセル充填液(23)をB方向から内側ノズル(22)へ、カプセル皮膜液(25)をA方向から外側ノズル(24)へそれぞれ供給する。これらを各環状孔先端部から同時に押出し、この2相複合ジェットを冷却液(27)中へ放出することにより、本発明に用いることができるシームレスカプセル(9)を得ることができる。
【0035】
冷却液として、例えば中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、植物油脂(ヤシ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ゴマ油、ナタネ油、グレープ種子油、およびこれらの混合物など)、流動パラフィンおよびこれらの混合物を使用することができる。
【0036】
この冷却液は、典型的には20℃以下であり、好ましくは15〜5℃である。また、ノズルから押出される各液の温度は、特に限定されるものではないが、典型的には50〜65℃、好ましくは55〜60℃である。
【0037】
2層構造のシームレスカプセルは、直径0.1〜20mm、好ましくは直径0.5〜17mm、及び皮膜率1〜90%、好ましくは10〜50%の範囲内で形成することができる。ここで皮膜率とは、糖衣カプセルの総重量に対するシームレスカプセル皮膜重量の割合である。またシームレスカプセルの直径は、乾燥後の直径を示す。
【0038】
3層構造のシームレスカプセルについてもまた、内側ノズル(22)のさらに内側に新たにノズルを設けた同心三重ノズルを用いること以外は、上記および図3に示される方法と同様の方法を用いて、調製することができる。
【0039】
3層構造のシームレスカプセルは、直径0.1〜20mm、好ましくは直径0.5〜17mm、及び皮膜率1〜90%、好ましくは10〜50%の範囲内で形成することができる。
【0040】
なお、同様の手法を用いて4層またはそれ以上の構造を有するシームレスカプセルを調製することもできる。
【0041】
なお、本発明においては、水分含有量8重量%未満であるシームレスカプセルを糖衣の対象とする。このようなシームレスカプセルは、カプセル皮膜の膨潤性が高いため、糖衣形成が特に困難であり、そして本発明においてはこのようなシームレスカプセルに対して糖衣層を形成することを課題とするからである。さらに本発明においては、水分含有量5重量%未満であるシームレスカプセルを糖衣の対象とする。なお、シームレスカプセルの水分含有量は、シームレスカプセルの総重量に対する水分量をいう。
【0042】
油脂層
こうして得られるシームレスカプセルの表面上に、表面を被覆する油脂層を設ける。油脂層の形成は、油脂および/または油脂加工品を用いて形成することができる。油脂層の形成に用いることができる油脂および/または油脂加工品としては、食品に対して用いることができるものであれば特に限定されないが、例えばヤシ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ゴマ油、ナタネ油、グレープ種子油、パーム油、オリーブ油、ウォールナッツ油、ククイナッツ油、スイートアーモンド油、ココアバター、シアバター、マンゴーバター、アボガドバター、牛脂、豚脂、鯨油、魚油、馬油などの油脂、そしてバター、マーガリン、ショートニング、チョコレートなどの油脂加工品が挙げられる。これらを単独で使用してもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。また本発明の糖衣カプセルを、容易に摂取できる嗜好品とする場合は、ココアバター、バター、チョコレートなどの油脂または油脂加工品を用いるのがより好ましい。
【0043】
油脂層の形成に用いる油脂および油脂加工品として、融点が20〜80℃であるものが好ましく用いられ、融点が25〜70℃であるものがより好ましく用いられ、そして融点が30〜50℃であるものが特に好ましく用いられる。このような油脂および油脂加工品は製造適応性に優れるからである。
【0044】
油脂層には、油脂および/または油脂加工品に加えて、糖質を用いてもよい。用いることができる糖質は食品用途に使用される糖質であれば特に限定されず、例えばショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、ソルビトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチノース、キシリトール、マルチトール、フラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、ポリデキストロースなどが挙げられる。これらの糖質を用いる場合は、油脂および/または油脂加工品100重量部に対して0.001〜140重量部、より好ましくは30〜65重量部の量で用いることができる。
【0045】
油脂層には、必要に応じて酸味料を加えてもよい。油脂層に酸味料を加えることによって、得られる糖衣カプセルにさらなる機能性および良好な風味を与えることができる。用いることができる酸味料として、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、レモンなどの柑橘類の果肉・果汁などを用いることができる。油脂層には必要に応じてさらに、色素(β−カロチンなど)、防腐剤および香料等の添加物を含めてもよい。これらの酸味料を加える場合は、油脂および/または油脂加工品100重量部に対して0.001〜50重量部、より好ましくは0.001〜35重量部の量で用いることができる。
【0046】
こうして上記した、油脂および油脂加工品の少なくとも1種、またはこれと糖質および/または酸味料との混合物を用いて、回転釜などの装置を用いて、シームレスカプセルの表面上に油脂層を設けることができる。回転釜を用いる場合は、用いる油脂および/または油脂加工品の融点以上に加熱して用いるのが好ましい。他の方法として、油脂および油脂加工品の少なくとも1種、またはこれと糖質および/または酸味料との混合物を、シームレスカプセルにスプレーして被覆することによって、油脂層を設けることもできる。
【0047】
こうして油脂層が設けられたシームレスカプセルを、冷却または乾燥させることによって、形成された油脂層が硬化することとなる。乾燥方法としては、例えば粉体を加えて油脂層の表面全体に行き渡らせる方法が挙げられる。ここで用いることができる粉体として、上記の糖質または酸味料などからなる粉末が挙げられる。
【0048】
こうして形成される油脂層は、糖衣カプセルに対する皮膜率が1〜95重量%であるのが好ましい。この皮膜率は5〜60重量%であるのがより好ましく、20〜35重量%であるのがさらに好ましい。糖衣カプセルに対して上記割合で油脂層を設けることによって、糖衣層の耐衝撃性を良好に改善することができる。なおこの油脂層は、カプセル皮膜の膨潤を防止する遮断層としての役割のみでなく、緩衝層としても作用する。
【0049】
糖衣層
油脂層が形成されたシームレスカプセルの表面をさらに覆うように、糖衣層を形成して、本発明の糖衣カプセルを得ることができる。糖衣層の形成は、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、α−トレハロース、パラチノース、マルチトール、イソマルチトール、ソルビトール、バニトール、ラクチトール、エリスリトール、マルトトリイトール、キシリトール、フラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、ポリデキストロースなどの糖質または糖アルコールを含んだ糖衣層形成溶液を用いることができる。これらを1種単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。必要に応じて、糖衣層形成溶液に、ゼラチン、ペクチン、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、プルランなどのゲル化剤を含めてもよい。また糖衣層形成溶液に、色素(β−カロチンなど)、呈味成分(甘味料、酸味料または苦味料など)、防腐剤および香料等の添加物を必要に応じて含めてもよい。
【0050】
糖衣層形成溶液の溶媒としては、水、または水とアルコールとの混合物などを用いることができる。糖衣層形成溶液は、溶液に対して上記の糖質または糖アルコールを30〜80重量%含むのが好ましく、40〜70%含むのがより好ましい。糖衣層形成溶液は、これらの成分を加えて混合することにより調製することができる。混合時において、例えば30〜80℃に加熱してもよい。
【0051】
こうして得られた糖衣層形成溶液を用いて、糖衣層を、油脂層全体を覆うように形成する。この糖衣層の形成は、例えば回転容器などを有する、糖衣パンまたは回転釜を用いて形成することができる。回転容器とは、それ自体が回転可能であり、かつ、糖衣させる対象であるシームレスカプセルを充填可能なものであればいずれのものであってもよい。回転容器は、例えば、駆動モータに接続され鉛直線に対して、例えば10〜60°傾斜させて配置された回転駆動軸に取り付けられた上方開口型の有底容器であるのが好ましい。このような回転容器を有する糖衣パンとしては、例えば、富士薬品機械社製のFY−TS−220を用いることができる。このような糖衣パンは、例えば、糖衣層形成溶液供給装置、例えばスプレーノズルを備えていてもよく、更に、加熱装置、冷却装置、乾燥装置(送風装置等)を備えていてもよい。
【0052】
糖衣層形成溶液は、例えば1回でまたは2〜100回あるいはそれ以上に分けて供給することができる。ここで、回転容器を回転させながらこの回転容器内で糖衣層を形成する工程は、糖衣層形成溶液を、油脂層全体を覆うように供給した後、風を吹きつけることなく行うのが好ましい。また、この糖衣層の仕上げ工程においては、回転容器の回転を止めるか、あるいは、回転容器からシームレスカプセルを取り出して、例えば、10〜30℃で、湿度20〜60%の雰囲気下に3〜60時間程度静置して乾燥させることが好ましい。また、この乾燥は、糖衣層の水分含量が1〜5%となるまで行うのが好ましい。
【0053】
こうして糖衣層を形成した後、さらに艶出しなどの処理を行ってもよい。艶出し処理としては、回転容器内に艶出しワックスを供給して、回転容器を回転させながら糖衣層表面にワックスをコーティングすることによって行うことができる。
【0054】
こうして形成される糖衣層は、糖衣カプセルに対する皮膜率が0.1〜55重量%であるのが好ましい。この皮膜率は5〜55重量%であるのがより好ましく、30〜45重量%であるのがさらに好ましい。糖衣カプセルに対して上記割合で油脂層を設けることによって、糖衣層の耐衝撃性を良好に改善することができる。
【実施例】
【0055】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は重量部を表わす。
【0056】
実施例1
2層構造のシームレスカプセルの調製
ゼラチン80部、グリセリン20部および水300部を均一になるまで混合して、カプセル皮膜液とした。また、ストロベリーフレーバー10部および中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)90部を均一になるまで混合して、カプセル充填液とした。次に、これらを、図3に例示されるような構造を有するシームレスカプセル製造機(森下仁丹製)を用いて、同心二重ノズルからカプセル充填液(23)およびカプセル皮膜液(25)を同時に押し出して複合ジェットを調製した。これを10℃の冷却液中に放出して、2層構造のシームレスカプセルを得た。得られたシームレスカプセルの乾燥後の粒径は5mm、シームレスカプセルに対するカプセル皮膜の皮膜率は10重量%、およびシームレスカプセルの水分含有量は3重量%であった。
【0057】
糖衣カプセルの調製
ヤシ硬化油(不二製油株式会社製、メラノF−21)100部を用いて、得られたシームレスカプセルの表面上に油脂層を形成し、次いで、L−アスコルビン酸 31.5部およびレモン風味の粉末香料1部の混合粉末を、油脂層の表面に被覆して乾燥させた。
【0058】
ショ糖60部および水40部を加温溶解して、糖衣層形成溶液を調製した。この溶液を用いて、シームレスカプセル上の油脂層の全表面を被覆する糖衣層を形成し、糖衣カプセルを得た。得られた糖衣カプセルについて、油脂層の皮膜率は23.6重量%であり、糖衣層の皮膜率は31.7重量%であった。
【0059】
摩損度の測定
内径287mmおよび深さ38mmのプラスチック製ドラム有する2連式の摩損度試験器(萱垣医理科工業株式会社製・摩損度計、なお富山産業株式会社製・FRIABILATOR TFT−120を用いることもできる)を用いて摩損度の測定を行った。このドラムの中に、得られた糖衣カプセル50個を入れて、回転スピード25rpmで10分間処理した。処理後の糖衣カプセルについて、糖衣層の破損または糖衣層上にひびわれが生じた糖衣カプセルの個数を測定し、試験した糖衣カプセル総数に対する%を算出した。結果を表1に示す。
【0060】
比較例1
実施例1により調製した2層構造のシームレスカプセルに、実施例1において調製した糖衣層形成溶液を用いて、油脂層を設けることなく、シームレスカプセルの表面上に糖衣層を形成した。得られた糖衣カプセルについて、糖衣層の皮膜率は53.4重量%であった。次いで、実施例1と同様に摩損度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0061】
実施例2
3層構造のシームレスカプセルの調製
ゼラチン80部、グリセリン20部および水300部を均一になるまで混合して、カプセル皮膜液とした。梅エキス20部、グリセリン50部および水30部を均一になるまで混合して、カプセル充填液とした。また、融点30度の油脂(ヤシ硬化油)を、カプセル充填液とカプセル皮膜とを隔離する液状物とした。
【0062】
次に、これらを、同心三重ノズルを有するシームレスカプセル製造機(森下仁丹製)を用いて、内側から順にカプセル充填液、液状物およびカプセル皮膜液を同時に押し出して複合ジェットを調製した。これを8℃の冷却液中に放出して、3層構造のシームレスカプセルを得た。得られたシームレスカプセルの乾燥後の粒径は5mm、シームレスカプセルに対するカプセル皮膜の皮膜率は10重量%、カプセルに対する液状物の比率は40重量%、およびシームレスカプセルの水分含有量は7重量%であった。
【0063】
糖衣カプセルの調製
テンパ油脂(ヤシ硬化油、メラノSS−200)150部を用いて、得られたシームレスカプセルの表面上に油脂層を形成した。
【0064】
ショ糖60部および水40部を加温溶解して、糖衣層形成溶液を調製した。この溶液を用いて、シームレスカプセル上の油脂層の全表面を被覆する糖衣層を形成し、糖衣カプセルを得た。得られた糖衣カプセルについて、油脂層の皮膜率は22.2重量%であり、糖衣層の皮膜率は43.0重量%であった。次いで、実施例1と同様に摩損度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0065】
比較例2
実施例2により調製した3層構造のシームレスカプセルに、実施例2において調製した糖衣層形成溶液を用いて、油脂層を設けることなく、シームレスカプセルの表面上に糖衣層を形成した。得られた糖衣カプセルについて、糖衣層の皮膜率は39重量%であった。次いで、実施例1と同様に摩損度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
上記結果より、実施例の糖衣カプセルは、比較例のものと比べて耐衝撃性に優れるものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によって、これまで糖衣層の形成が困難であったシームレスカプセルの上にも、耐衝撃性に優れる糖衣層を形成することが可能となる。本発明によって、液状物を内容物とし、大量生産可能なシームレスカプセル自体を、嗜好品または食品として利用する手段が広がることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の糖衣カプセルの1態様を説明する模式図である。
【図2】本発明の糖衣カプセルの他の1態様を説明する模式図である。
【図3】本発明で用いることができる2層構造のシームレスカプセルの製造装置のノズル部の1態様を示す模式的縦断面図である。
【符号の説明】
【0070】
2…カプセル充填液、
4…カプセル皮膜、
6…油脂層、
8…糖衣層、
9…シームレスカプセル、
10…糖衣カプセル、
11…液状物、
12…カプセル充填液、
14…カプセル皮膜、
16…油脂層、
18…糖衣層、
19…シームレスカプセル、
20…糖衣カプセル、
22…内側ノズル、
23…カプセル充填液、
24…外側ノズル、
25…カプセル皮膜液、
27…冷却液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含有量8重量%未満であるシームレスカプセル、
該シームレスカプセルを被覆する油脂層、および
該油脂層を被覆する糖衣層、
を有する、糖衣カプセル。
【請求項2】
前記シームレスカプセルが、カプセル充填液、および該カプセル充填液を内包するカプセル皮膜、を有し、
該カプセル皮膜が、タンパク質、海藻由来多糖類、植物及び植物種子由来多糖類、微生物由来多糖類、繊維素粘質物および澱粉加水分解物からなる群から選択される1種またはそれ以上を含む、
請求項1記載の糖衣カプセル。
【請求項3】
前記シームレスカプセルが、カプセル充填液、該カプセル充填液とカプセル皮膜とを隔離する液状物、およびこれらを内包するカプセル皮膜、を有し、
該カプセル皮膜が、タンパク質、海藻由来多糖類、植物及び植物種子由来多糖類、微生物由来多糖類、繊維素粘質物および澱粉加水分解物からなる群から選択される1種またはそれ以上を含む、
請求項1記載の糖衣カプセル。
【請求項4】
糖衣カプセルに対する前記油脂層の皮膜率が1〜95重量%である、請求項1〜3いずれかに記載の糖衣カプセル。
【請求項5】
糖衣カプセルに対する前記糖衣層の皮膜率が0.1〜55重量%である、請求項1〜4いずれかに記載の糖衣カプセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−129715(P2006−129715A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319199(P2004−319199)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000191755)森下仁丹株式会社 (30)
【Fターム(参考)】