説明

糖衣液

【課題】本発明は、沈殿や結晶成長等が生じない安定な糖衣液と、当該糖衣液を用いて表面に凸凹やザラツキのない良好な外観を有する糖衣物を提供することを目的とする。
【解決手段】還元パラチノース100重量部に対し500〜30重量部の水を含む含水エタノールに、糖衣液に対して5〜67重量%の還元パラチノースを加え、還元パラチノースを固体粒子として分散させて糖衣液を製造する。本発明の糖衣液は、沈殿や結晶成長等が生じない安定な糖衣液である。又、良質な塗膜を形成する為、優れた外観の糖衣物を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品や食品等のコーティングに使用する糖衣液及び当該糖衣液を用いて表面をコーティングした糖衣物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に糖衣物は、医薬品や食品等の可食性の芯材を、蔗糖を主体とする糖衣層で被覆したものであり、回転する糖衣パン等に投入された芯材の表面全体に、蔗糖溶液を掛けた後に送風乾燥を行い、蔗糖結晶を析出させる作業を繰り返し、蔗糖の結晶層により芯材を被覆する方法である。
【0003】
ところで、糖衣物に利用されてきた蔗糖は、近年、う蝕性や高カロリー等が問題となっている為、消費者の健康志向に伴い、代替原料として、抗う蝕性、低カロリー等の糖アルコールが使用されるようになってきている。
【0004】
しかし、糖アルコールは全般に微妙な温度変化で急激に結晶析出する性質がある為、糖衣工程において糖アルコールの結晶化の速度を任意に制御することができず、結晶の大きさがバラついて芯材表面に大きな凸凹が生じ、外観が著しく悪くなる。又、室温で放置すると糖アルコールの結晶が大きく成長し、結晶が沈澱して均一な糖衣液が得られないことがある。
【0005】
そこで、糖アルコールの結晶化を防止すべく、種々の方法が提案されている。例えば、エリスリトールと所定量の糖又はマルチトールを含有する糖衣液(特許文献1)、エリスリトール水溶液中に所定量のポリビニルアルコールを共存させる方法(特許文献2)である。しかし、何れの方法も糖アルコールの結晶化を完全に防止することはできない。
【0006】
又、糖アルコールの糖衣液を掛けた後、60メッシュオンの粉末が60重量%以上である粉末状糖アルコールを振りかけて送風乾燥する作業を繰り返し、糖衣液に粉末状糖アルコールが結着した層を形成させて糖アルコールの結晶化を制御する方法が提案されている(特許文献3)。しかし、この方法は糖衣工程が極めて煩雑になるという問題がある。
【0007】
更に、糖アルコールの水溶液に粉末糖アルコールを分散させた糖衣液も使用されているが、水溶液中で糖アルコールを固体粒子で存在させるためには、糖アルコールを飽和させる必要がある。従って、単なる水溶液よりも、固体粒子の沈殿及び固体粒子を核とする糖アルコールの結晶成長等が顕著となる。又、糖衣液が高粘度となり、噴霧しにくい等の問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平9−278671号公報
【特許文献2】特開第2004−107282号公報
【特許文献3】特開平11−127785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、糖衣工程において沈殿や結晶成長等が生じない安定な糖衣液と、当該糖衣液を用いて表面に凸凹やザラツキのない良好な外観を有する糖衣物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、還元パラチノースに対して特定の割合の水を含む含水エタノールに、還元パラチノースを固体粒子として分散することにより、安定な糖衣液と、良好な外観を有する糖衣物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明に係る還元パラチノースとは、パラチノースの水素添加により得られる二糖類糖アルコールで、α―glucopyranosyl−1,6−D−sorbitolとα―glucopyranosyl−1,6−D−mannitolの等モル混合物である。還元パラチノースは低カロリーであり、耐吸湿性、耐熱性、及び耐酸性に優れ、さわやかな甘味を有する為、医薬品や食品原料としてきわめて有用である。反面、糖アルコール中で最も水に溶けにくく、溶解度が温度により急激に変化する為、従来の糖衣方法では結晶化を制御しにくいという欠点がある。
【0012】
本発明の糖衣液における還元パラチノースの配合量は、好ましくは5〜67重量%、特に好ましくは7〜60%重量である。固体粒子の還元パラチノースは、糖衣液中で分散させる必要がある為、その粒子径は小さいほうが望ましい。具体的には150μm以下が好ましく、特に好ましくは100μm以下である。
【0013】
本発明に係る糖衣液には含水エタノールを用いる。含水エタノール中の水分量は、還元パラチノース100重量部に対して500〜30重量部、より好ましくは350〜60重量部である。尚、含水エタノールの配合量は、還元パラチノースやその他成分の配合量により適宜調整する。
【0014】
本発明に係る糖衣液には、必要に応じて他の成分を配合することもできる。例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、シェラック、及びツェイン等の皮膜形成剤、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ラクチトール、及び還元デンプン糖化物等の糖アルコール、炭酸カルシウム、無水ケイ酸、リン酸カルシウム、二酸化チタン、及びタルク等の顔料、各種タール系色素、コチニール色素、カラメル色素、及びカカオ色素等の色素、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、及びソーマチン等の甘味料、ハッカ油、ケイヒ油、オレンジ油、及びレモン油等の香料、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びレシチン等の界面活性剤、アスコルビン酸、リボフラビン、ピリドキシン、ナイアシン、及びトコフェロール等のビタミン、バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、グリシン、グルタミン等のアミノ酸等である。
【0015】
本発明に係る糖衣液は、還元パラチノース100重量部に対し500〜30重量部の水を含む含水エタノールに、還元パラチノースを固体粒子として分散させることにより製造することができる。
還元パラチノースをハンマーミル、ピンミル等で粉砕して微粉末としたものを含水エタノールに加えて攪拌分散する方法、還元パラチノースを含水エタノールに加えてホモミキサー、コロイドミル、ハイスピードミキサー、サンドミル等で粉砕分散する方法等の既存の分散方法を採用することができる。
還元パラチノースは常温において分散できるが、含水エタノールの温度が40〜70℃の範囲で分散するのがより好ましい。
【0016】
本発明の糖衣液は、医薬品や食品における錠剤、カプセル、飴、ガム、チョコレート等の糖衣に用いることができるが、特に錠剤に適している。糖衣は、糖衣パン、コーティングマシーン等の既存の機械を用い、糖衣液を添加或いは噴霧して送風乾燥する一般的な糖衣方法を採用することができる。糖衣量は、可食性芯材の味・臭いのマスキング或いは色調の隠蔽等の目的に応じ、最適量を適宜調整する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の糖衣液は、還元パラチノースの固体粒子が均一に分散し、常温に静置しても沈殿や結晶成長等が生じず、又、当該糖衣液を用いた糖衣物は表面に還元パラチノースの微細な結晶が緻密に結着し、良好な外観を有する。
還元パラチノースの固体粒子が含水エタノール中で均一に分散する理由は定かではないが、還元パラチノースの固体粒子同士が含水エタノール中で緩やかな三次元構造を形成し、その沈降を抑制していると推定される。
【実施例】
【0018】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
エタノール135g及び水45gを含む50℃の含水エタノールに還元パラチノース20gを加え、ホモミキサーで回転数5000rpm5分間攪拌して実施例1の糖衣液を調製した。尚、還元パラチノース100重量部に対する含水エタノール中の水は225重量部である。
【0020】
実施例1の還元パラチノールをエリスリトール又はマルチトールに換え、同組成の30℃の含水エタノールを用いて比較例1及び2の糖衣液を調製した。又、実施例1の還元パラチノールをソルビトール又はキシリトールに換え、エタノール162g及び精製水18gを含む40℃の含水エタノールを用いて比較例3及び4の糖衣液を調製した。
【0021】
各糖衣液は100メッシュ(目開き150μm)で篩過して室温に24時間静置した後、その状態を評価した。各糖衣液の組成及び結果を表1に示す。
【0022】
比較例1〜4の糖衣液は、調製後直ちにエリスリトールやマルチトール等の糖アルコールが沈殿した。又、比較例2以外は静置により糖アルコールの結晶が成長した。一方、実施例1の糖衣液は、還元パラチノースの微細な個体粒子が均一に分散し、静置しても沈殿や結晶の成長は認められなかった。
【0023】
尚、実施例1及び比較例1〜4と同一組成の糖衣液において、還元パラチノースは80℃、エリスリトール及びマルチトールは50℃、ソルビトール及びキシリトールは60℃で調製したものは各糖アルコールが完全に溶解し、室温に24時間静置すると何れにおいても結晶が析出して沈澱が生じた。
【0024】
【表1】

【0025】
(実施例2〜10)
還元パラチノース100重量部に対して含水エタノール中の水が500〜30重量部及び還元パラチノースの含有量5〜67%重量の範囲において、50℃の含水エタノールに還元パラチノースを加えてホモミキサーで回転数5000rpm5分間攪拌し、実施例2〜10の糖衣液を調製した。
【0026】
同様の方法で、還元パラチノース100重量部に対して含水エタノール中の水が1250重量部及び還元パラチノースが2重量%、還元パラチノース100重量部に対して含水エタノール中の水が20重量部及び還元パラチノースが15重量%、並びに還元パラチノース100重量部に対して含水エタノール中の水が27重量部及び還元パラチノースが75重量%の糖衣液を調製して比較例5、6、及び7とした。
【0027】
各糖衣液の組成、分散時の状態、流動性、及び塗膜の仕上がりを表2に示す。塗膜は、各糖衣液を厚さ200μmのドクターブレードを用いて薄膜とし、室温で24時間自然乾燥したものを評価した。
【0028】
比較例5の糖衣液は、還元パラチノースが分散時に完全に溶解し、室温に静置すると結晶が析出して沈澱が生じた。比較例6と比較例7の糖衣液は、塗膜表面にザラツキが認められた。又、比較例7の糖衣液は流動性が悪く、糖衣液として不適格であった。
【0029】
これに対し、還元パラチノース100重量部に対する含水エタノール中の水が500〜30重量部、還元パラチノースの含有量が5〜67%重量である実施例2〜10の糖衣液は、還元パラチノースの分散、流動性、及び塗膜の仕上がりの何れにおいても良好であった。特に、還元パラチノース100重量部に対して含水エタノール中の水が350〜60重量部、還元パラチノースの含有量が7〜60%重量である実施例3〜8の糖衣液は、流動性に優れ、その塗膜が極めて滑らかであった。
【0030】
【表2】

【0031】
(実施例11〜15)
エタノール130g及び水40gを含む20〜70℃の含水エタノールに還元パラチノース30gを加え、ホモミキサーで回転数5000rpm5分間攪拌して実施例11〜15の糖衣液を調製した。尚、還元パラチノース100重量部に対する含水エタノール中の水は133重量部である。
同じ組成・方法において、80℃の含水エタノールを用いて調製し、比較例8の糖衣液とした。
【0032】
各糖衣液について、前述の実施例2〜10と同様の方法・評価基準等において分散時の状態、流動性、及び塗膜の仕上り状態について評価した。各糖衣液の組成及び結果を表3に示す。
【0033】
分散時の温度が80℃の比較例8は、分散時に還元パラチノースが完全に溶解し、室温に静置すると結晶が析出して沈殿が生じた。これに対し、20〜70℃で還元パラチノースを分散した実施例11〜15は、還元パラチノースの分散及び塗膜の仕上がりが良好であった。特に、温度が40〜70℃である実施例13、14、及び15の糖衣液は、その塗膜が極めて滑らかであった。
【0034】
【表3】

【0035】
(実施例16及び17)
エタノール136g及び水34gを含む50℃の含水エタノールに還元パラチノース30gを加え、ホモミキサーで回転数5000rpm5分間攪拌し、140メッシュ(目開き106μm)で篩過して実施例16の糖衣液を調製した。還元パラチノースの固体粒子は均一に分散し、沈殿は認められなかった。尚、還元パラチノース100重量部に対する含水エタノール中の水は113重量部である。
【0036】
エタノール10g及び水160gを含む50℃の含水エタノールに還元パラチノース30gを加え、同様の方法で比較例9の糖衣液を調製した。還元パラチノースは完全に溶解し、透明な糖衣液となった。尚、還元パラチノース100重量部に対する含水エタノール中の水は533重量部である。
【0037】
実施例16及び比較例9の糖衣液を用い、錠剤をコーティングして実施例17及び比較例10の糖衣錠を作成した。錠剤の処方及びコーティング条件を以下に、糖衣錠のコーティング量及び外観等を表4に示す。
【0038】
錠剤
[処方] 配合量(重量%)
(1)霊芝エキス 20.0
(2)還元パラチノース 50.0
(3)コーンスターチ 29.0
(4)ステアリン酸マグネシウム 1.0
[製造方法]成分1〜3を混合して造粒し、成分4を加えて混合した後、打錠機で成形して300mg/錠、直径9mm、錠厚4.5mmの錠剤を得る。
【0039】
コーティング条件
(1)糖衣パン :直径15cm
(2)錠剤仕込み量 :50g
(3)コーティング方法 :噴霧
(4)パン回転数 :50rpm
(5)送風温度 :60℃
【0040】
比較例10の糖衣錠は、表面に還元パラチノースの大きな結晶が付着して凸凹やザラツキを有し、外観が大変悪いものであった。一方、実施例17の糖衣錠は、還元パラチノースの微細な結晶で全体が均一に被覆されて表面が滑らかであり、良好な外観であった。
【0041】
【表4】

【0042】
以上のように、本発明に係る実施例の糖衣液は還元パラチノースの固体粒子が均一に分散し、比較例のように沈殿や結晶成長を生じない。又、良質な塗膜を形成する為、優れた外観の糖衣物を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の糖衣液は、結晶化速度の制御が困難な還元パラチノースを用いるにもかかわらず、沈殿や結晶成長等が生じない安定な糖衣液である。又、表面に凸凹やザラツキのない良質な糖衣物を製造することができる。よって、医薬品や食品等における低カロリー、低吸湿性の糖衣物製造にきわめて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元パラチノースの固体粒子が含水エタノールに分散している糖衣液において、還元パラチノースを5〜67重量%含有し、且つ還元パラチノース100重量部に対し含水エタノール中の水が500〜30重量部であることを特徴とする糖衣液。
【請求項2】
還元パラチノースの含有量が7〜60重量%、還元パラチノース100重量部に対する含水エタノール中の水が350〜60重量部である請求項1記載の糖衣液。
【請求項3】
還元パラチノースの固体粒子の粒子径が150μm以下である請求項1又は2の何れか記載の糖衣液。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の糖衣液を用いてコーティングした糖衣物。
【請求項5】
還元パラチノースを含有する糖衣液において、還元パラチノース100重量部に対し500〜30重量部の水を含む含水エタノールに、糖衣液に対して5〜67重量%の還元パラチノースを加え、還元パラチノースを固体粒子として分散させることを特徴とする糖衣液の製造方法。
【請求項6】
40〜70℃で還元パラチノースを分散させることを特徴とする請求項5記載の糖衣液の製造方法。

【公開番号】特開2011−182753(P2011−182753A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54017(P2010−54017)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】