説明

糖衣錠の製造方法

【課題】従来のショ糖配合糖衣錠に比べて、糖衣層が薄くても充分な強度を有するため錠剤の小型化が可能で、製造時間が短く、錠剤内の水分値が低いため水に不安定な成分の配合にも適する糖アルコール配合糖衣錠を製造するに際し、錠剤表面を滑らかにし、その外観をより美しくするための、マルチトール配合糖衣液処方、並びに、該マルチトール配合糖衣液でコーティングする際の製造条件等を提供する。
【解決手段】固形分濃度が糖衣液全体の50〜80質量%であって、固形分全体に対して90〜100質量%のマルチトールを含有する糖衣液をコーティングするに際し、(a)該糖衣液をコーティングする前に被覆対象となる錠剤の1質量部に対して0.01〜0.2質量部のマルチトール含有粉末を添加・混合し、(b)間欠注液法によって該錠剤をコーティングすることを特徴とする糖衣錠の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチトールを配合した糖衣液及び該糖衣液でコーティングされた錠剤等に関し、医薬品、医薬部外品及び食品の分野において利用される。
【背景技術】
【0002】
従来の糖衣錠は、素錠に対し、ショ糖を主とする糖衣を素錠の70〜110質量%も施して製造していたが、錠剤の大型化、製造時間の長期化、製剤の高水分化に起因する薬物の経時的な安定性の低下等の問題があった。
【0003】
これに対して、特開2002−179559号公報には、不快な臭いをマスキングし、ウィスカーの発生防止に有用で、シュガーレス化が可能であり、かつ、製造時間も短く、錠剤の小型化が可能で、錠剤の低水分化による薬物の安定化が可能な「素錠重量の5〜60%の、糖質、賦形剤および結合剤を含む糖衣層を有する薄層糖衣錠」が開示されている(特許文献1参照)。ここでは、糖質として糖と糖アルコールが挙げられ、さらに、糖アルコールとしてエリスリトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール及びマルチトール等が挙げられている。
【0004】
しかしながら、糖アルコールを配合した糖衣液をもって錠剤等のコーティングを行う場合、糖アルコールの種類によって、その結合力や結晶化の速度等が異なるため、糖アルコールの種類に依らない画一的な糖衣液処方及び製造条件で所望の糖衣錠を製造することは難しく、糖アルコールの種類に応じた糖衣液処方及び製造条件の設定が必要となる。
【0005】
特に、糖アルコールを配合した糖衣液をもって従来の糖衣錠が有する美しい外観を実現するためには、糖衣コーティングの仕上げの段階でどのような糖アルコールを採択し、それをどのような基剤成分と組合せ、どのような条件でコーティングしていくか、ということが問題となり、個々の糖アルコールの物性をもとに実験等を通じて確立していく他ないというのが実状である。
【0006】
ここに、マルチトール(maltitol)は、グルコースとソルビトールが結合した糖アルコールであり、ショ糖の半分のカロリーで80〜90%の甘味を示し、低エネルギー甘味料として利用される他、非う触性、難発酵性、褐変防止作用もあるため、ダイエット食品や虫歯予防ガム、菓子類などにも利用されている。このマルチトールは、エリスリトールなどと比較して結晶化速度が小さいため、マルチトール配合糖衣液は連続スプレーコーティングには適さず、糖衣コーティングのすべてをマルチトールベースの糖衣処方で行うとすれば、従来のショ糖ベースの糖衣処方と同様に作業時間が長大になり、製造コストの負担が大きくなる。その代わり、すぐに結晶化しないというショ糖類似の性質は製造時間よりも出来上がりの状態が問題となる糖衣コーティングの仕上げ段階の基剤としては有望で、製造条件等を工夫することにより結晶化速度をコントロールすれば、錠剤表面が滑らで美麗な糖衣錠を製造することができると考えられる。
【0007】
【特許文献1】特開2002−179559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のショ糖配合糖衣層を有する糖衣錠に比べて、糖衣層が薄くても充分な強度を有するため錠剤の小型化が可能で、製造時間が短く、錠剤内の水分値が低いため水に不安定な成分の配合にも適する糖アルコール配合糖衣層を有する糖衣錠を製造するに際し、錠剤表面を滑らかにし、その外観をより美しくするための、マルチトール配合糖衣液処方、並びに、該マルチトール配合糖衣液でコーティングする際の製造条件等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはかかる課題を解決するべく鋭意検討した結果、マルチトールを配合した糖衣液にプルランを配合し、糖衣コーティングをする前の錠剤に少量のマルチトール粉末を添加し、糖衣コーティングの際の製造方法として連続スプレー法ではなく、間欠注液法を採択することにより、極めて美麗な表面を有する糖衣錠を製造しうることを見出した。
【0010】
かかる知見により得られた本発明の態様は、固形分濃度が糖衣液全体の50〜80質量%であって、固形分全体に対して90〜100質量%のマルチトールを含有する糖衣液をコーティングするに際し、(a)該糖衣液をコーティングする前に被覆対象となる錠剤の1質量部に対して0.01〜0.2質量部のマルチトール含有粉末を添加・混合し、(b)間欠注液法によって該錠剤をコーティングすることを特徴とする糖衣錠の製造方法である。
【0011】
本発明の他の態様は、固形分濃度が糖衣液全体の50〜80質量%であって、固形分全体に対して90〜100質量%のマルチトールを含有する糖衣液をコーティングするに際し、(a)該糖衣液をコーティングする前に被覆対象となる可食性物品の1質量部に対して0.01〜0.2質量部のマルチトール含有粉末を添加・混合し、(b)間欠注液法によって該可食性物品をコーティングすることを特徴とする糖衣で被覆された可食性物品の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、充分な錠剤強度があり、小型で、製造時間が短く、錠剤内の水分値が低いため水に不安定な成分の配合にも適しているだけでなく、錠剤表面が滑らかで美麗な外観を呈する糖アルコール配合糖衣層を有する糖衣錠等及びその製造方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の「糖衣液」は、固形分濃度が50〜80質量%であって、固形分全体の90〜100質量%のマルチトールを含有し、さらに、必要に応じて配合される公知の添加剤を固形分全体の0〜10質量%の範囲で含有する水溶液である。
【0014】
「マルチトール」は、ショ糖代替の甘味剤であり、本発明の糖衣液における含有(配合)量は、固形分全体に対して、90〜100質量%である。
【0015】
本発明の糖衣液は前記マルチトール等を配合した水溶液の形態をとり、水を必須成分とするが、水に不溶の成分を溶解させたり、製造時の乾燥効率等を考慮して、適宜にエタノール等の有機溶媒を少量配合させてもよい。
【0016】
本発明の糖衣液の固形分濃度は50〜80質量%である。50質量%未満であると水分が多すぎて乾燥効率が落ち、製造時間が長くなるため好ましくない。一方、80質量%を超えると糖衣液を被覆対象である錠剤等に均一に塗布することできず、重量偏差等を生じることがあるので好ましくない。
【0017】
必要に応じて配合される公知の添加剤としては、プルラン、炭酸カルシウム、タルク等の賦形剤、酸化チタン等の遮光剤、各種色素が挙げられる。特に、プルラン等の結合剤はマルチトールの結合力を高め、錠剤の強度を上げるために有効である。これらを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に糖衣液に配合することができる。
【0018】
本発明の糖衣液は、例えば、水に所定量のマルチトール及び必要に応じて配合される公知の添加剤を溶解又は分散させることによって調製される。
【0019】
「被覆対象となる錠剤」は、コーティングが施されていない素錠であってもよいが、本発明は糖衣コーティングにおける仕上げの段階で用いられ、コーティングされた錠剤表面をより滑らかにし、美麗な糖衣錠を製造するための方法であるから、被覆対象となる錠剤はすでに他の糖アルコール配合の糖衣液によってある程度被覆されている錠剤であることが好ましい。すなわち、エリスリトール、キシリトール及びマンニトールは同じ糖アルコールであっても結晶化速度が大きく、製造時間等を短縮するためにコーティング初期から中期にかけての糖衣基剤としては好適であるが、製造条件等を工夫しても多少の錠剤表面の荒れが残り、仕上げ用の糖衣基剤としては不適な面がある。そこで、本発明の被覆対象となる錠剤はエリスリトール等他の糖アルコール配合糖衣液で被覆された錠剤、例えば、「素錠に対して“5〜50質量%のエリスリトール、キシリトール及びマンニトールの少なくとも1種”を含有することを特徴とする糖衣層で被覆された糖衣錠」であることが好ましい。
【0020】
このような糖衣錠は、例えば、素錠に対して、固形分濃度が20〜50質量%で、固形分全体に対して(a)40〜88質量%のエリスリトール、キシリトール及びマンニトールの少なくとも1種、(b)1〜30質量%の乳酸カルシウム及び0.001〜5質量%のクエン酸の少なくとも1種、(c)10〜40質量%の炭酸カルシウム及びタルク、並びに(d)0.5〜12質量%のプルランを含有する糖衣液を連続スプレーすることによって製造される。
【0021】
ここで、「素錠」は糖衣コーティングを施す前の錠剤を意味し、コーティングのし易さやコーティング後の錠剤の大きさ、強度等を考慮すると、通常の円形錠剤の場合、錠径が7〜11mmであって、粉体を圧縮成型して素錠を製造する際の打錠用杵としては、糖衣面又は2段R面と称される丸味がかったものを用いるのが好ましい。また、ラグビーボール型や三角形等の変形錠剤であっても構わない。
【0022】
「被覆対象となる可食性物品」も錠剤の場合と同様に、糖衣コーティングを施す前の状態よりも糖アルコール配合の糖衣層で被覆されている状態が好ましく、具体的には、「素の可食性物品に対して“5〜50質量%のエリスリトール、キシリトール及びマンニトールの少なくとも1種”を含有することを特徴とする糖衣層で被覆された可食性物品」であることが好ましい。その製造方法は錠剤の場合に準じる。
【0023】
ここで、「素の」とはコーティングが施される前の状態を意味する。
【0024】
また、「可食性物品」とは、糖衣コーティングを施すことができる食品であれば特に限定はないが、一般的にシュガーレスコーティングを施された状態で市販されているガム、特に粒ガムが好ましい。
【0025】
本発明の糖衣錠等の製造においては、本発明のマルチトール配合糖衣液でコーティングをする前に錠剤等に「マルチトール含有粉末」を添加し、混合して、コーティング前の錠剤等にできるだけ均一にマルチトール含有粉末をまぶして(分散させて)おくことが必要である。これによって、糖衣液中のマルチトールの結晶化が促進され、製造時間の短縮が図られる。
【0026】
マルチトール含有粉末は、固形状のマルチトール単独でも構わないが、分散性を向上させるため、これに軽質無水ケイ酸等の公知の添加剤を添加し、混合又は混合粉砕したものであってもよい。マルチトールは特に粒度等に限定はなく、市販されているものをそのままの状態で、あるいは、粉砕等により細かくして使用することができる。
【0027】
マルチトール含有粉末の添加(配合)量は、錠剤等の大きさ、すなわち、添加・混合の対象となる錠剤等の比表面積等によって異なってくるが、通常、錠剤1質量部に対しては0.01〜0.2質量部であり、可食性物品の1質量部に対しても0.01〜0.2質量部である。
【0028】
本発明のマルチトール配合糖衣液のコーティング方法としては、連続スプレー法ではなく、間欠注液法が好ましい。
【0029】
この「間欠注液法」とは、糖衣液を間断なく連続的にスプレーするのではなく、糖衣液を一定時間スプレーした後にスプレーした糖衣液が被覆対象である錠剤等の間に広がるようにポーズという時間を設け、さらに被覆対象である錠剤等を覆った水分を含む糖衣液を乾燥させるための乾燥時間を設けるというスプレー方法であり、従来のショ糖配合糖衣液のコーティングに用いられてきた方法である。マルチトールは結晶化速度が小さいため、連続スプレー法では錠剤同士が付着する等の問題を生じ、何より仕上げは効率よりも見映えが要求されるので連続スプレー法は適さないのである。
【実施例】
【0030】
以下に、参考例及び試験例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0031】
参考例1 実験材料
本検討に用いた材料は次の通りである。
【0032】
エリスリトール、プルラン、マルチトール、炭酸カルシウム、その他の試薬及び原料は日本薬局方または薬添規適合品を使用した。
【0033】
参考例2 素錠の組成及び製造法
以下の各試験に用いる素錠の組成(1錠中)は次の通りである。
L−メチオニン 15.00 mg
VB1−硝酸塩 5.00 mg
乳糖 94.25 mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 10.00 mg
結晶セルロース 25.00 mg
ステアリン酸マグネシウム 0.75 mg
合計 150.00 mg
【0034】
ステアリン酸マグネシウムを除く上記成分を27,000錠分秤量し、分級・混合後、これにステアリン酸マグネシウム27,000錠分(20.25g)を添加・混合して、打錠用粉末を調製した。得られた打錠用粉末をコレクト12(菊水製作所製)を用い、7mm径2段R面の杵で打錠し、1錠重量150mgの錠剤を製した。
【0035】
参考例3 連続スプレーコーティング条件
コーティングにはドリアコーター500型(DRC−500、パウレック社製)を使用した。また、連続スプレー条件は下表1の通りである。スプレー液速度については、品温が設定範囲に収まる範囲内で最大限上昇させた。
【0036】
【表1】

【0037】
参考例4 間欠注液法条件
コーティング機には、ドリアコーター500型(DRC−500、パウレック社製)を使用した。参考例3の連続スプレー後の錠剤に対して、液添加→ポーズ→乾燥のサイクルを繰り返し糖衣コーティングを行った。液添加量は8g/kg錠剤を目安に加減し、無風で展延させるポーズ時間は、初期5サイクルまでは180秒/サイクルで一定とし、その後、表面状態に合わせて30〜360秒/サイクルまで変化させた。乾燥は180秒を最低とし、錠剤にベトツキが見られる場合は、そのベトツキがなくなった時点から180秒加えて乾燥を実施した(180〜900秒/サイクルとする。乾燥時の給気温度は40℃以下とし、錠剤品温が35℃から25℃の範囲で徐々に低下するように調節し、目標糖衣率まで糖衣コーティング行った。
【0038】
参考例5 表面滑度の測定法
本発明において、表面滑度の測定には次の機器を用い、測定する錠剤を固定し、そのR面部分の表面を次の条件で測定した。滑度は1錠について3回測定し平均値で滑度を求め、これを3錠分行い、その平均値を求めて表面滑度とした。
【0039】
機器:表面粗さ計(TR200、TIME社製)
条件:カットオフ0.25×5mm、レンジ±40μm、Raモード
【0040】
なお、表面滑度の評価は次の基準で行った。
◎:非常に美麗な錠剤表面
○:許容できる錠剤表面
△:わずかに表面荒れが見られる錠剤表面
×:ひどい表面荒れの錠剤表面
【0041】
参考例6 臭いマスキングの評価法
前記素錠には臭いのある成分としてL−メチオニンが配合されている。本発明における臭いの測定は、糖衣錠100錠をPSビン(5K)に入れ、密閉し、50℃1カ月保存後、蓋を開け、直接臭いを鼻で嗅いで行った。
【0042】
なお、臭いの評価は次の基準で行った。
◎:まったく臭わない
〇:許容できる
△:僅かに許容できない
×:許容できない
【0043】
参考例7 落下強度試験法
強度を測定する糖衣錠剤10錠を1錠ずつ1mの高さからガラス管を用いてガラスビンへ落下させ、ヒビと剥離を目視で確認した。
糖衣に亀裂が生じていればヒビと判定し、素錠が見えるまでの割れが生じたものは剥離と判定した。1回目の落下での剥離は4ポイント、2回目の落下での剥離は3ポイント、3回目の落下での剥離は2ポイントとする。ヒビは3回目の落下時のみ確認し、1錠につき1ポイントとする。これらのポイントを加算し落下ポイントとし、これを3セット(10錠×3回)実施した平均値を求めて落下強度ポイントとした。
なお、落下強度の評価は次の基準で行った。
◎:落下強度ポイント10未満で充分な強度
〇:落下強度ポイント10〜15未満で妥当な強度
△:落下強度ポイント15〜20未満でやや弱い強度
×:落下強度ポイント20以下で強度不足
参考例8 防湿性の評価法
糖衣錠剤を40℃75%RH条件下に曝し、1週間後の重量変化によって防湿性を段階的に評価した。
【0044】
実施例1
(1)まず、下表2に記載の処方の糖衣液2,314g(27,000錠分)を調製した。具体的には、エリスリトール502.2g、炭酸カルシウム243g及びプルラン64.8gを精製水1,504gに溶解又は懸濁させ、該液をホモジナイザー(商品名:クレミックス,エムテクニック社製)で分散し、エリスリトールを主配合した糖衣液を調製した。この糖衣液を参考例3に記載の連続スプレー法によって、参考例2で調製した素錠4kg(27,000錠)にコーティングし、糖衣層として30mgまで付着させた。
【0045】
【表2】

【0046】
(2)マルチトール配合糖衣液処方の調製
下表3に記載の処方の糖衣液を調製した。具体的には、40℃に加温した精製水646gにマルチトール1,164g、プルラン36gを溶解させ、マルチトール配合糖衣液1,846gを調製した。
【0047】
【表3】

【0048】
(3)マルチトール配合糖衣液によるコーティング
まず、前記(1)で調製した糖衣錠4.8kg(27,000錠分)をドリアコーター500型に仕込み、5rpmで1分間回転させているところに、篩過したマルチトール粉末4.8gを添加し、錠剤表面に付着させた。
その後、(2)で調製した糖衣液を参考例4の間欠注液法によって錠剤に噴霧し、糖衣層として1錠あたり30mgまで付着させた。
【0049】
比較例1
マルチトールの粉末を添加せずに、実施例1に準拠し、糖衣錠を製した。
【0050】
比較例2
間欠注液法による糖衣コーティングの前ではなく、間欠注液法の1サイクル目のポーズ時間(糖衣液添加直後)に、錠剤4.8kgに対し篩過したマルチトール粉末4.8gを添加し、湿った錠剤表面に付着させた。後は実施例1に準拠して糖衣錠を製した。
【0051】
試験例1
実施例1、比較例1及び2で調製した糖衣錠の特徴を比較した。結果を表4及び図1に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
表4及び図1より、マルチトールは種晶が存在しない条件下では結晶化が遅く、乾燥時間が長くかかるために製造効率が悪かった。さらに、均一に層が形成できない不良錠も多く発生した。そこで、種晶を間欠注液法による仕上げ前に先に添加することで、不良錠の発生を抑制できた。さらに液を展延させるポーズの時間を短縮することで、結晶化の時間も短縮することができた。またエッジへの被覆率も向上し、錠剤表面が荒れることもなかった。これらの現象は、マルチトールの結晶性が、種晶の無い状態からの結晶化、いわゆる一次核化はし難く、種晶のある状態での結晶成長、つまり二次核化は容易であるといった物性によるものと考えられ、砂糖やエリスリトールとは異なる性質であった。これらの改善により結果的にポーズ時間と乾燥時間が短縮され、作業効率が向上した。
【0054】
試験例2
実施例1において得られた錠剤の物性を比較した結果を表5に示す。
【0055】
【表5】

【0056】
表5より、表面滑度についても、Ra=0.70であり、既存の糖衣錠の平滑さの目安となるRa=0.8以下を達成した。臭いバリア性については、ポーズを短く実施した方がエッジへの被覆が良好であり、その分臭いバリア性も良好となった。
【0057】
実施例2〜6
前記実施例1(1)で調製した糖衣錠4.8kg(27,000錠分)をドリアコーター500型に仕込み、5rpmで1分間回転させているところに、篩過したマルチトール粉末2.4gを添加し、錠剤表面に付着させた。
【0058】
その後、下表6に示す各糖衣液を参考例4の間欠注液法によって錠剤に噴霧し、糖衣層として1錠あたり15〜45mgまで付着させた。また、得られた糖衣錠について、乾燥減量を1%に調整し、40℃75%RHの条件下に7日間曝した際の重量変化を測定し、水分増加率を求めた。その結果を図2及び3に示す。
【0059】
【表6】

【0060】
これらの結果から、エリスリトールを主としたスプレー層を連続スプレー法にてコーティングした後、マルチトールを主とした仕上げ層を間欠注液法にてコーティングすることで、外観、落下強度、臭いバリア性、製造効率に優れたシュガーレス薄層糖衣錠を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、医薬品や医薬部外品の分野において、美しい外観や優れた臭いのマスキング能を有し、さらに、糖衣層が薄く小型化で、製造時間が短く、錠剤内の水分値が低いため水に不安定な成分の配合にも適するシュガーレス薄層糖衣錠を提供することが可能となり、また、食品の分野においても、美しい外観等を有し、製造コストが低減された粒ガム等の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】間欠注液法初期サイクルにおける乾燥時間を比較したグラフである。
【図2】40℃75%RH下に7日間曝した際の水分増加率を示すグラフである。
【図3】40℃75%RH下に7日間曝した際の水分増加率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分濃度が糖衣液全体の50〜80質量%であって、固形分全体に対して90〜100質量%のマルチトールを含有する糖衣液をコーティングするに際し、(a)該糖衣液をコーティングする前に被覆対象となる錠剤の1質量部に対して0.01〜0.2質量部のマルチトール含有粉末を添加・混合し、(b)間欠注液法によって該錠剤をコーティングすることを特徴とする糖衣錠の製造方法。
【請求項2】
被覆対象となる錠剤が、素錠に対して“5〜50質量%のエリスリトール、キシリトール及びマンニトールの少なくとも1種”を含有することを特徴とする糖衣層で被覆された糖衣錠である請求項1記載の糖衣錠の製造方法。
【請求項3】
固形分濃度が糖衣液全体の50〜80質量%であって、固形分全体に対して90〜100質量%のマルチトールを含有する糖衣液をコーティングするに際し、(a)該糖衣液をコーティングする前に被覆対象となる可食性物品の1質量部に対して0.01〜0.2質量部のマルチトール含有粉末を添加・混合し、(b)間欠注液法によって該可食性物品をコーティングすることを特徴とする糖衣で被覆された可食性物品の製造方法。
【請求項4】
被覆対象となる可食性物品が、素の可食性物品に対して“5〜50質量%のエリスリトール、キシリトール及びマンニトールの少なくとも1種”を含有することを特徴とする糖衣層で被覆された可食性物品である請求項3記載の糖衣で被覆された可食製物品の製造方法。
【請求項5】
糖衣で被覆された可食性物品が粒ガムである請求項3又は4記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−57338(P2009−57338A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227214(P2007−227214)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】