説明

糖衣食品およびその製造方法

【課題】 従来の糖衣食品が有する緻密な食感とは異なる新規な食感を有する糖衣食品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 糖衣食品が、センター核となる可食物が糖衣層により被覆された食品であって、寒天0.1〜1.0重量%および砂糖90重量%以上から構成される該糖衣層を、該センター核に対して重量で0.5倍以上有し、かつ該糖衣層を構成する砂糖結晶の平均粒径が50〜400μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖衣食品およびその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、寒天と砂糖結晶によるザクザクとした食感を有する、新規な糖衣食品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、菓子類、錠剤等に利用される糖衣食品は、以下のように製造される。すなわち、まず被覆物となる食品(以下、センター核という)に、糖衣層の主成分である糖類、および他の糖類や澱粉等の結合剤を含む水溶液を、スプレー等でセンター核全体に行き渡らせ、この後、必要であれば炭酸カルシウム等の微粉末混合物を散布して、センター核相互間の結着を防ぎ、次に温風を送って糖衣層を乾燥させる工程を複数回繰り返す。その後、場合により、色素を含む水溶液をスプレーし、温風での乾燥を行う工程を繰り返して糖衣層を着色したり、さらに、着色した糖衣層の表面にワックス等で艶を出したりすることもある(特許文献1参照)。また、センター核が比較的大きな物や歪な物に対しては、下掛け、中掛け、上掛けの3段階の糖衣工程を経て作られるのが一般的である(特許文献2参照)。このようにして製造される糖衣食品は、糖衣層の表面が滑らかであり、得られる食感は糖類の細かな結晶による緻密なものであった。
【0003】
ところで、近年、食品の世界では食の多様化に伴い、食品のおいしさを構成する感覚として、味や香りに加えて食感が重要視されており、新規な食感を有する食品は「新食感」と評され、多方面のジャンルで食品市場を賑わせている。
【0004】
そこで、新規な食感を有する糖衣食品を提供することを目的に、本発明者らは、クランチ性を有する糖衣した食品(特許文献3参照)や喫食する際に形状による刺激が感じられる突起を有する糖衣食品(特許文献4参照)、ツルツルとした舐め心地に特徴のある潤滑な食感を有する糖衣物(特許文献5参照)など、糖衣食品に関する技術を開示している。しかしながら、これらの発明はいずれも、水溶液として溶解させた糖類を再び結晶化させることで糖衣層を形成しているため、糖衣層を構成する糖類の結晶が比較的細かく、緻密な食感であることは否めない。
【0005】
また、双目糖などの大きな結晶状態である糖類で糖衣層を構成する試みについては、センター核の表面に1層程度であれば容易に可能であるが、複数層の厚みを持たせた糖衣層に関する報告は未だなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−252871号公報
【特許文献2】特開平9−313109号公報
【特許文献3】特許第3765419号公報
【特許文献4】特開2006−129824号公報
【特許文献5】特開2010−4776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、新規な食感を有する糖衣食品を提供することであり、中でもザクザクとした食感を有する糖衣食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、センター核となる可食物を、寒天と砂糖結晶から構成される糖衣層により被覆することによって、ザクザクとした新規な食感を有する糖衣食品が得られることを発見した。また、寒天水溶液を散布して湿潤状態にしたセンター核の表面に、砂糖を主成分とする粉末を散布する工程を複数回繰り返した後、静置して乾燥させることにより、前記糖衣食品が得られることを発見した。さらに、前記粉末にリン酸三カルシウムを混合することで、より効率よく前記糖衣食品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、センター核となる可食物が糖衣層により被覆された食品であって、寒天0.1〜1.0重量%および砂糖90重量%以上から構成される該糖衣層を、該センター核に対して重量で0.5倍以上有し、かつ該糖衣層を構成する砂糖結晶の平均粒径が50〜400μmであることを特徴とする糖衣食品に関する。
【0010】
また、本発明は、可食物であるセンター核の表面に、濃度が0.5〜5.0重量%の寒天水溶液を散布する工程、その寒天水溶液で湿潤状態になっているセンター核の表面に、砂糖を主成分とする粉末を散布する工程、これら2工程を前記の順序で複数回繰り返した後、水分値が3.0%以下になるまで静置して乾燥させる工程を含むことを特徴とする、糖衣食品の製造方法に関する。
【0011】
さらに、本発明は、前記粉末にリン酸三カルシウムが0.1〜1.5重量%含まれていることを特徴とする、糖衣食品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、可食物であるセンター核の表面に、寒天と砂糖結晶によるザクザクとした食感を有する、新規な糖衣食品を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明の糖衣食品は、被糖衣物となるセンター核と、該センター核を被覆する糖衣層を備える。糖衣層中には、寒天を0.1〜1.0重量%、砂糖を90重量%以上含有し、糖衣層を構成する砂糖の結晶の平均粒径が50〜400μmである。また、本発明の糖衣食品は、センター核に対して、糖衣層を重量で0.5倍以上含有する。
【0015】
センター核は、可食物であればどのようなものでもよく、例えば、打錠物、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、チョコレート、ガム、スナックなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらの大きさ、形状についても、特に限定されるものではない。
【0016】
糖衣層における寒天の含有量は、0.1〜1.0重量%、より好ましくは0.1〜0.5重量%である。寒天の含有量が0.1重量%未満であると、砂糖結晶同士が結着しないために糖衣層が剥がれやすくなってしまい、1.0重量%を超えると、糖衣層が均一に形成される前に砂糖結晶同士が固結してしまうため、均一な糖衣層が形成されなくなってしまう。
【0017】
本発明で使用される寒天は、マクサ、オバクサ、ヒラクサなどの紅藻類テングザ属のほか、オゴノリ属、イギス属、カウレイト属を原料として、その化学的構成や平均分子量に関係なく、従来の製法、すなわち抽出、ろ過、凝固、乾燥などの工程を経て製造されたものであれば、いずれも使用可能である。
【0018】
また、糖衣層における砂糖の含有量は、90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。砂糖の含有量が90重量%未満であると、砂糖結晶同士が強く結着しないため、糖衣層が非常にもろく、剥がれやすくなってしまう。
【0019】
さらに、糖衣層を構成する砂糖の結晶の平均粒径は、50〜400μmである。糖衣層を構成する砂糖の結晶の平均粒径を、50〜400μmとすることによって、ザクザクとした食感を得ることが可能となる。糖衣層を構成する砂糖の結晶の平均粒径が、50μ未満の場合は、従来の糖衣食品と同様に滑らかで緻密な食感となり、400μmを超えると砂糖結晶同士の結着性が低下するため、糖衣層が剥がれやすくなってしまう。
【0020】
なお、本発明では、糖衣層を構成する砂糖の結晶の平均粒径は、糖衣層の断面を電子顕微鏡により50倍で観察し、任意に選択した5つの砂糖結晶の長辺と短辺の平均粒径とする。
【0021】
本発明で使用される砂糖は、グラニュー糖や白双糖、中双糖などを用いることができる。使用する砂糖の粒径は、約0.2〜3mmの双目糖が好ましく、より好ましくは粒径が約0.2〜0.6mmのグラニュー糖である。双目糖、特にグラニュー糖を使用することによって、糖衣層を構成する砂糖の結晶の平均粒径を50〜400μmにコントロールすることが容易となる。
【0022】
本発明の糖衣食品は、センター核に対して糖衣層が重量で0.5倍以上含有することが好ましく、より好ましくは0.7倍以上の重量である。0.5倍未満であると、糖衣層の食感を充分に感じることが困難となる。
【0023】
本発明の糖衣食品によれば、寒天と砂糖結晶によるザクザクとした新規な食感を有する糖衣食品を得ることが可能となる。
【0024】
次に本発明の糖衣食品の製造方法について説明する。
本発明の糖衣食品の製造方法は、
(1)寒天水溶液を散布する寒天水溶液散布工程
(2)粉末を散布する粉末散布工程
(3)乾燥させる乾燥工程
を備える。
【0025】
(1)寒天水溶液散布工程
寒天水溶液散布工程では、被糖衣物となるセンター核の表面に、寒天水溶液を散布する。
【0026】
具体的には、センター核となる可食物を回転釜(レボリングパン)に投入し、回転させながら、濃度が0.5〜5.0重量%である寒天水溶液を、センター核の表面に均一に掛かるように散布する。寒天水溶液の濃度は0.5〜5.0重量%であり、より好ましくは0.5〜2.5重量%である。寒天水溶液の濃度を0.5〜5.0重量%に調製することで、糖衣層を構成する砂糖結晶同士が均一に結着し、ザクザクとした食感の均一な糖衣層を形成することが可能となる。寒天水溶液の濃度が0.5重量%未満の場合は、砂糖結晶同士が結着しないために糖衣層が剥がれやすくなってしまい、寒天水溶液の濃度が5.0重量%を超えると糖衣層が均一に形成される前に砂糖結晶同士が団結してしまうため、均一な糖衣層が形成されなくなり、好ましくない。
(2)粉末散布工程
粉末散布工程では、前述の寒天水溶液散布工程後に、センター核の表面に砂糖を主成分とする粉末を散布する。
【0027】
具体的には、前述の寒天水溶液散布工程によって、寒天水溶液で湿潤状態になっているセンター核の表面に、砂糖を主成分とする粉末を散布する。すなわち、センター核が寒天水溶液によって湿潤状態になっている間に、粉末が散布される。
【0028】
粉末は、砂糖を主成分として、調味料、酸味料、香料、着色料、増粘剤などの添加物を適宜添加することが可能である。
【0029】
また、粉末中には、リン酸三カルシウムを0.1〜1.5重量%含有することが可能である。粉末中に、リン酸三カルシウムが0.1〜1.5重量%含有されることにより、糖衣層の乾燥が適度に促進され、均一な糖衣層をより効率よく形成することができる。リン酸三カルシウムの含有量が、0.1重量%未満であると、十分な効果が見られず、また、1.5重量%を超えると、味に苦みが感じられるので好ましくない。
そして、前述の寒天水溶液散布工程および粉末散布工程が、寒天水溶液散布工程、粉末散布工程の順序で複数回繰り返される。
【0030】
(3)乾燥工程
乾燥工程では、寒天水溶液散布工程および粉末散布工程を前記の順序で複数回繰り返した後に、粉末を散布したセンター核を乾燥させる。
【0031】
具体的には、これらの2工程を前記の順序で複数回繰り返した後、糖衣されたセンター核をレボリングパンから取り出し、水分値が3.0%以下になるまで湿度60%以下の雰囲気中で静置して乾燥させる。水分値が3.0%を超えると糖衣層がソフトな食感となり、好ましくない。乾燥については、回転釜を回転させながら温風を送って乾燥させる従来の方法で行った場合、糖衣層が一部に偏ってしまい、均一な糖衣層が形成されなくなってしまう。
なお、糖衣食品の水分値は、減圧測定法で測定することができる。
【0032】
本発明の糖衣食品の製造方法によれば、寒天と砂糖結晶によるザクザクとした食感を有する新規な糖衣食品を得ることが可能となる。
【実施例】
【0033】
次に実施例、比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらにより何ら制限されるものではない。なお、実施例および比較例の記載中、特に限定しない限り、「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」を表す。
【0034】
(実施例1)
(1)寒天水溶液の作製
表1に示す実施例1の配合にて寒天を水に溶解し、100℃まで加熱して寒天水溶液を得た。
【0035】
【表1】

【0036】
(2)粉末の作製
表2に示す実施例1の配合にて粉末を得た。
【0037】
【表2】

【0038】
(3)糖衣食品の作製
センター核として、底面の直径10mm、高さ7.5mm、単重0.5gのグミキャンディ100gをレボリングパンに投入し、回転数15rpmで回転させながら、寒天水溶液8gをグミキャンディの表面に均一に掛かるように散布した。その後、グミキャンディが、寒天水溶液によって湿潤状態になっている間に、粉末40gを散布して付着させた。これらの工程を5回繰り返した後、グミキャンディに対して0.75倍の重量の糖衣層を形成させた。次に、糖衣されたグミキャンディをレボリングパンから取り出し、バットに広げて水分値が2.8%になるまで湿度60%以下の雰囲気中で静置して乾燥させて糖衣食品を得た。得られた糖衣食品は、糖衣層を構成する砂糖結晶の平均粒径が50〜400μmである、寒天と砂糖結晶によるザクザクとした新しい食感を有する糖衣食品であった。
【0039】
(実施例2〜5)
寒天水溶液の組成を表1に示す実施例2〜5の配合とし、粉末の組成を表2に示す実施例2〜5の配合とする以外は、実施例1と同様に糖衣食品を作製した。得られた糖衣食品は、糖衣層を構成する砂糖結晶の平均粒径が50〜400μmであり、実施例1と同様に、ザクザクとした新しい食感を有する糖衣食品であった。
【0040】
(比較例1、2)
寒天水溶液の組成を表3に示す比較例1、2の配合とし、粉末の組成を表4に示す比較例1、2の配合とする以外は、実施例1と同様に糖衣食品の作製を行ったが、砂糖結晶同士が結着しないために乾燥によって糖衣層が剥がれてしまい、均一な糖衣層を形成することができなかった。
【0041】
(比較例3)
寒天水溶液の組成を表3に示す比較例3の配合とし、粉末の組成を表4に示す比較例3の配合とする以外は、実施例1と同様に糖衣食品の作製を行ったが、粉末を散布した際に砂糖結晶同士が固結してしまい、均一な糖衣層を形成することができなかった。
【0042】
(比較例4)
寒天水溶液の組成を表3に示す比較例4の配合とし、粉末の組成については、表4に示す比較例4の配合とした。糖衣層の重量をグミキャンディに対して0.3倍とする以外は、実施例1と同様に糖衣食品の作製を行った。得られた糖衣食品は、糖衣層を構成する砂糖結晶の平均粒径が50〜400μmであった。また、糖衣層が薄いためにザクザクした食感が充分に感じられず、グミキャンディの表面に砂糖結晶が付着しただけの食品であった。
【0043】
(比較例5)
寒天水溶液の組成を表3に示す比較例5の配合とし、混合粉末の組成については、表4に示す比較例5の配合とした。水分値を3.2%とする以外は、実施例1と同様に糖衣食品の作製を行った。得られた糖衣食品は、糖衣層を構成する砂糖結晶の平均粒径が50〜400μmであった。また、糖衣層の水分値が高いため、ザクザクした食感が充分に感じられず、ソフトな食感の糖衣食品であった。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
実施例および比較例の砂糖の結晶の平均粒径、糖衣層のセンター核に対する重量比、糖衣層の重量比、乾燥工程終了時の水分値を表5に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
以上の結果より、実施例1〜5の糖衣食品は、ザクザクとした新しい食感を有していた。しかし、比較例1〜3においては、均一な糖衣層が得られず、比較例4〜5においては、実施例のようなザクザクとした新しい食感を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センター核となる可食物が糖衣層により被覆された食品であって、寒天0.1〜1.0重量%および砂糖90重量%以上から構成される該糖衣層を、該センター核に対して重量で0.5倍以上有し、かつ該糖衣層を構成する砂糖結晶の平均粒径が50〜400μmであることを特徴とする糖衣食品。
【請求項2】
可食物であるセンター核の表面に、濃度が0.5〜5.0重量%の寒天水溶液を散布する工程、その寒天水溶液で湿潤状態になっているセンター核の表面に、砂糖を主成分とする粉末を散布する工程、これら2工程を前記の順序で複数回繰り返した後、水分値が3.0%以下になるまで静置して乾燥させる工程を含むことを特徴とする、糖衣食品の製造方法。
【請求項3】
前記粉末にリン酸三カルシウムが0.1〜1.5重量%含まれている、請求項2に記載の糖衣食品の製造方法。

【公開番号】特開2012−75339(P2012−75339A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220718(P2010−220718)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】