糸張力装置
【課題】 費やす時間が僅かで、且つ異なる糸種でも使用できるような高い柔軟性を有する糸張力装置を提供する。
【解決手段】 記載される糸張力装置1は、入口ガイド5と出口ガイド6とそれらの間に糸ドラム3とを有し、糸ドラム3が回転軸線22と動作領域14とを有し、この動作領域上で入口ガイド5と出口ガイド6との間を糸道が周方向に延びている。このため、動作領域14が軸線方向で、特性の異なる第1及び第2区域15,16に区分されている。
【解決手段】 記載される糸張力装置1は、入口ガイド5と出口ガイド6とそれらの間に糸ドラム3とを有し、糸ドラム3が回転軸線22と動作領域14とを有し、この動作領域上で入口ガイド5と出口ガイド6との間を糸道が周方向に延びている。このため、動作領域14が軸線方向で、特性の異なる第1及び第2区域15,16に区分されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入口ガイドと出口ガイドとそれらの間に設けられる糸ドラムとを有する糸張力装置であって、該糸ドラムが回転軸線と動作領域とを有し、入口ガイドと出口ガイドとの間を結ぶ糸道が前記動作領域上を周方向に延びているものに関する。
【背景技術】
【0002】
このような糸張力装置は、例えば特許文献1により公知である。糸張力装置は、クリール内に配置されるボビンから引き出される糸に、それに後続する後工程にとって望ましい張力を与えるために用いられる。そのため、糸ドラムは、例えば制動され、又は糸の移動速度とは異なる速度で駆動することができるようになっている。糸が糸道を通る場合、その糸は糸ドラムの動作領域内で前記糸ドラムに当接し、相応に制動又は加速され、所望する張力が糸に生じるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第4324412号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
糸が異なると、一般的に糸の特性も異なる。そのため、或る種の糸で良好に協動する糸ドラムであっても別の種の糸では機能しなくなることがある。それ故、糸ドラムは、用いられる糸の種類に応じて交換できるようになっている。このように構成される場合、操作員は、使用される糸の種類に応じて、それに適した糸ドラムを使用することになる。
【0005】
一般的に、クリール内において1つのボビン位置に対して1つの糸張力装置が必要である。1つのクリールに数百箇所のボビン位置が設けられていることは十分にあり得る。1つの糸ドラムを取り替えるために必要な時間が例えば僅か15秒であるとしても、1つのクリールに800のボビン位置がある場合、全ての糸ドラムを取替えるのに200分、つまり3時間以上必要となる。
【0006】
そこで本発明の課題は、費やす時間が僅かで、且つ異なる糸種でも使用できるような高い柔軟性を有する糸張力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、入口ガイドと出口ガイドとそれらの間に糸ドラムとを有する糸張力装置であって、該糸ドラムが回転軸線と動作領域とを有し、前記入口ガイドと前記出口ガイドとの間を結ぶ糸道が前記動作領域上を周方向に延びているものにおいて、前記動作領域は、軸線方向において、特性の異なる少なくとも2つの区域に区分されていることによって解決される。
【0008】
本発明によれば、1つの糸ドラムで複数の異なる糸種を処理することができる。作業員は、糸張力装置に通される糸をその糸種に応じて動作領域の対応する区域に配置すればよい。糸を取替える時に、糸を処理することはいずれにしても必要な作業であるので、軸線方向において区分される糸種に応じた区域に糸を配置することは、実質的に作業員の付加的な労力とはならない。従って、作業員の労力を増やすことなく、同じ糸張力装置で異なる糸種を処理することができる。
【0009】
前記発明において、前記区域のうち第1区域は、平滑な当接面を有することが好ましい。この構成によれば、平滑な当接面が傷みやすい糸の張力を調整する場合に使用される。痛みやすい糸は、平滑な当接面であっても、十分な摩擦力が得られ、前記当接面に接合する。場合によっては、糸を糸ドラムの周りに複数の巻層で巻きつけることによって、接合時の糸に作用する摩擦力を強めることができる。
【0010】
前記構成において、前記平滑な当接面は、回転軸線とで鋭角を成すことが好ましい。つまり、当接面は、円錐状に形成されている。この構成によれば、各巻層の糸が互いに交差しないように糸道を形成することができる。
【0011】
前記発明において、前記区域のうち第2区域は、V形の溝を有することが好ましい。この構成によれば、このV形の溝に糸を挿入することで、糸ドラムとそれに巻き付けられる糸との摩擦力を強めることができる。
【0012】
前記構成において、前記溝を規定する少なくとも1つの壁を有し、該壁には、歯と歯溝が交互に配置されていることが好ましい。このような構成は「クリップ車(Criprad)」とも称される。
【0013】
前記構成によれば、クリップ車は、糸ドラムと糸との間に良好な摩擦力を生じさせることができるという利点を有する。しかし、クリップ車では、汚れ、例えば残留仕上げ剤が沈積することがある。そのため、痛みやすい糸類の場合、フィラメントが露出し得るということがある。
【0014】
前記構成において、前記溝は、2つの板の間に形成されており、前記第1区域側の板が前記第2区域と前記第1区域との境界を成すことが好ましい。
【0015】
前記構成によれば、第1区域側の板が第1及び第2区域の間に境界を成す。そのため、作動中に糸が第1区域から第2区域又はその逆へと移動することを防ぐために、その他の構成を必要としない。むしろ、第1区域と第2区域との間の境界は、第2区域を形成することによって生成される。
【0016】
前記発明において、入口ガイド及び/又は出口ガイドは、糸ドラムに対して相対的に、前記第1区域に対応する第1位置と前記第2区域に対応する第2位置との間で調整可能であることが好ましい。
【0017】
前記構成によれば、前記調整により、入口ガイド及び/又は出口ガイドの位置が回転軸線と平行な方向に調整され、糸ドラムの位置が回転軸線と平行な方向に調整される。これにより、進入時及び/又は退出時に、糸を対応する正しい区域に割当てられることを実現できる。そのことから各糸に作用する張力を小さく抑えることができる。
【0018】
前記発明において、少なくとも1つの可動糸案内エレメントを備えた糸案内機構を有し、前記糸案内機構は、糸ドラムと入口ガイド及び/又は出口ガイドとの間に配置されていることが好ましい。
【0019】
前記構成によれば、糸案内エレメントは、例えば、ばねからばね力を受ける。糸案内エレメントでもって、なかんずく、糸を糸ドラムに巻回する力を変化させることができる。
【0020】
前記構成において、糸案内エレメント及び糸ドラムの位置は、回転軸線と平行な方向に相対的に変更可能である。
【0021】
前記構成によれば、糸案内エレメントを通過するときにも糸に対して許容されている張力以上の張力が加わらないようにすることができる。糸案内エレメント単独で位置を調整する場合の他に、糸案内機構全体も糸ドラムに対して相対的に位置を調整することができ、これによっても糸ドラム及び糸案内機構の少なくとも一方の位置を調整することができる。
【0022】
前記発明において、前記糸道に前記入口ガイドの後方に制振機構が配置されており、該制振機構は、その位置を糸ドラムに対して回転軸線と平行な方向に相対的に変更可能であることが好ましい。
【0023】
前記構成によれば、糸がボビンの頭頂から引き出されて「バルーン(Ballon)」を生じる場合、制振機構により、糸ドラムの周りを周回する糸の張力を均一にすることができる。前記制振機構の位置を回転軸線と平行な方向に調整可能であることによって、糸張力装置により糸を処理する際に、所望の方向、好ましくは1つの平面内で糸道が形成されるようにすることができる。しかしながら、円錐状に傾いた平滑面を介して糸が案内されるとき、糸の入口及び出口は、回転軸線と平行な方向に相互に離隔させておくことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる糸張力装置によれば、費やす時間が僅かで、且つ異なる糸種でも使用できるような高い柔軟性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】糸張力装置の側面図である。
【図2】図1に示す糸張力装置の平面図である。
【図3】糸ドラムの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、好ましい実施例に基づいて図面と合せて本発明を説明する。
【0027】
図1により示される糸張力装置1は、基部2を有し、この基部2上に糸ドラム3が回転可能に支承されている。糸ドラム3は、発電機としても作動可能な電気モータ4と相対回転不能に結合されている。基部2上には、入口ガイド5と出口ガイド6が配置されている。
【0028】
糸7は、入口ガイド5に通され、糸ドラム3に巻かれ、そして出口ガイド6に通される。入口ガイド5と糸ドラム3との間には、制振機構8が配置されている。制振機構8は、2つの円錐形に形成される皿体9,10によって形成されており、皿体9,10は、その小径となっている先端側同士を対向させて積み重ねられている。制振機構8は、糸7の振動を減衰する。糸7の振動は、例えば詳しくは図示しないボビンの頭頂から糸7を引き出すことによって生じるものである。制振機構8は、糸7がボビンの頭頂から引き出されて「バルーン(Ballon)」を生じても、糸ドラム3の周りを周回する糸の張力を均一にすることができる。
【0029】
糸ドラム3と出口ガイド6との間には、糸案内機構11が配置されている。糸案内機構11は、可動する糸案内エレメント12を備えている。糸案内エレメント12は、両方向矢印13の方向、つまり糸7の走行方向を実質的に横切るように移動することができる。糸案内エレメント12は、詳しくは図示しないばねによって、糸に一定の予張力を与えることができる。
【0030】
図1及び図3から分かるように、糸ドラム3は、動作領域14を有し、この動作領域14には第1区域15と第2区域16とがある。
【0031】
第1区域15は、糸7を巻きつけるための平滑な当接面を有し、僅かに円錐状に傾いている(図1参照)。即ち、当接面は、側方から見て糸ドラム3の回転軸線22と鋭角を成している。第1区域15の小径の方の末端(頭頂側)には、蓋板17が設けられている。この蓋板17は、半径方向において第1区域15よりも外方に多少張り出している。これにより、第1区域15に巻き付けられた糸7が第1区域15の頭頂から引き出されてしまうことを防ぐことができる。
【0032】
このように第1区域15を形成すると、傷みやすい糸の張力を調整する場合に平滑な当接面を使用することができる。痛みやすい糸は、平滑な当接面であっても、十分な摩擦力が得られ、前記当接面に接合する。場合によっては、糸7を糸ドラム3の周りに複数の巻層で巻きつけることによって、接合時の糸に作用する摩擦力を強めることができる。また、当接面が回転軸線22とで鋭角を成して円錐状に形成されているので、各巻層の糸7が互いに交差しないように糸道を形成することができる。
【0033】
第2区域16は、半径方向内方に凹むV型の溝18を有する。図3から分かるように、第2区域16には、溝18を規定する少なくとも1つの壁19(例えば、上側の壁)が形成されており、この壁19には、歯20と歯溝21とが交互に配置されている。この第2区域16は、「クリップ車」として形成されている。糸7が第2区域16に巻かれると、糸7が比較的良好な摩擦力を受けながらクリップ車に接合する。
【0034】
V形の溝18に糸7を挿入することで、糸ドラム3とそれに巻き付けられる糸7との間で作用する摩擦力を強めることができる。また、第2区域16をクリップ車として形成することで、汚れ、例えば残留仕上げ剤が沈積するためにフィラメントが露出し得るという欠点があるが、糸ドラム3と糸との間で良好な摩擦力を生じさせることができるという利点を有する。
【0035】
溝18は、2つの板23、24の間に形成されている。第1区域15側の板23は、第2区域16の板24側の端部よりも多少大きな直径を有している。板23は、第2区域16の上方において第1区域15との境界を成す。つまり、糸7が第1区域15から第2区域16に、又はその逆方向に滑ってしまうことはない。
【0036】
糸ドラム3は、基部2側の面(図3において、底面)に孔25が形成された延長部30を有している。この孔25には、モータ4の回転軸を嵌着することができる。モータ4の回転軸を嵌着することによって、糸ドラム3を相対回転不能にモータ4に結合することができる。
【0037】
両方向矢印26〜29で示すように、糸張力装置1の個々の構成エレメント、具体的には糸ドラム3、入口ガイド5、出口ガイド6、制振機構8及び糸案内機構11は、回転軸線22と平行な方向に動かすことができるようになっており、これにより各構成エレメントの位置を調整することができる。以下の説明を簡略にするために、以下では、両方向矢印26〜29の方向における調整については、単に「軸線方向調整」という場合がある。このような軸線方向調整のときであっても、位置をその他の方向に変更することができる。
【0038】
図1に示すように、第1区域15を介してではなく、第2区域16を介して糸7を案内したい場合、最も単純な方法として、糸ドラム3の軸線方向の位置を調整する。これにより図1に示す実施例において、糸ドラム3は基部2から更に多少離間することができる。そして、残りの構成エレメントをその位置に留めておき、出口ガイド6と糸案内機構11とを基部2に更に接近させることが好ましい。
【0039】
このように、糸案内機構11及び糸ドラム3の位置の軸線方向調整ができるように構成することで、糸案内エレメント12を通過するときにも糸に対して許容以上の張力が加わらないようにすることができる。なお、糸案内機構11全体を糸ドラム3に対して相対的に位置を調整することができる場合だけでなく、糸案内エレメント12単独で位置を調整するように構成してもよい。
【0040】
第2区域16を介して糸7を案内したい場合、他の方法として、入口ガイド5と出口ガイド6と制振機構8を両方向矢印26〜28の方向において、基部2により一層接近させる方法もある。この方法及び前術の方法である両方の軸線方向調整を組合せることも当然に可能である。
【0041】
また、制振機構8の位置の軸線方向調整ができることによって、糸張力装置1により糸を処理する際に、所望の方向、好ましくは1つの平面内で糸道が形成されるようにすることができる。しかし、円錐状に傾いた平滑面を介して糸7が案内されるとき、糸7の入口及び出口は、回転軸線22と平行な方向に相互に離隔させておくことができる。
【0042】
糸ドラム3が、図示した両方の区域15,16と異なる区域を有することも当然可能である。しかし、大抵、2つの異なる区域があればよい。
【0043】
本実施形態の糸張力装置1によれば、1つの糸ドラム3で複数の異なる糸種を処理することができる。作業員は、糸張力装置1に通される糸を、その糸種に応じて第1及び第2区域15,16のうち対応する区域15,16に配置すればよい。糸7を取替える時に、糸7を処理することはいずれにしても必要な作業であるので、軸線方向において区分される糸種に応じた区域15,16に糸7を配置することは、実質的に作業員の付加的労力とはならない。従って、作業員の労力を増やすことなく、同じ糸張力装置1で異なる糸種を処理することができる。即ち、糸張力装置1では、費やす時間が僅かで、且つ異なる糸種でも使用できるような高い柔軟性を達成することができる。
【0044】
なお、本発明は、実施の形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 糸張力装置
2 基部
3 糸ドラム
5 入口ガイド
6 出口ガイド
7 糸
8 制振機構
11 糸案内機構
12 糸案内エレメント
14 動作領域
15 第1区域
16 第2区域
18 溝
19 壁
20 歯
21 歯溝
22 回転軸線
23 板
【技術分野】
【0001】
本発明は、入口ガイドと出口ガイドとそれらの間に設けられる糸ドラムとを有する糸張力装置であって、該糸ドラムが回転軸線と動作領域とを有し、入口ガイドと出口ガイドとの間を結ぶ糸道が前記動作領域上を周方向に延びているものに関する。
【背景技術】
【0002】
このような糸張力装置は、例えば特許文献1により公知である。糸張力装置は、クリール内に配置されるボビンから引き出される糸に、それに後続する後工程にとって望ましい張力を与えるために用いられる。そのため、糸ドラムは、例えば制動され、又は糸の移動速度とは異なる速度で駆動することができるようになっている。糸が糸道を通る場合、その糸は糸ドラムの動作領域内で前記糸ドラムに当接し、相応に制動又は加速され、所望する張力が糸に生じるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第4324412号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
糸が異なると、一般的に糸の特性も異なる。そのため、或る種の糸で良好に協動する糸ドラムであっても別の種の糸では機能しなくなることがある。それ故、糸ドラムは、用いられる糸の種類に応じて交換できるようになっている。このように構成される場合、操作員は、使用される糸の種類に応じて、それに適した糸ドラムを使用することになる。
【0005】
一般的に、クリール内において1つのボビン位置に対して1つの糸張力装置が必要である。1つのクリールに数百箇所のボビン位置が設けられていることは十分にあり得る。1つの糸ドラムを取り替えるために必要な時間が例えば僅か15秒であるとしても、1つのクリールに800のボビン位置がある場合、全ての糸ドラムを取替えるのに200分、つまり3時間以上必要となる。
【0006】
そこで本発明の課題は、費やす時間が僅かで、且つ異なる糸種でも使用できるような高い柔軟性を有する糸張力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、入口ガイドと出口ガイドとそれらの間に糸ドラムとを有する糸張力装置であって、該糸ドラムが回転軸線と動作領域とを有し、前記入口ガイドと前記出口ガイドとの間を結ぶ糸道が前記動作領域上を周方向に延びているものにおいて、前記動作領域は、軸線方向において、特性の異なる少なくとも2つの区域に区分されていることによって解決される。
【0008】
本発明によれば、1つの糸ドラムで複数の異なる糸種を処理することができる。作業員は、糸張力装置に通される糸をその糸種に応じて動作領域の対応する区域に配置すればよい。糸を取替える時に、糸を処理することはいずれにしても必要な作業であるので、軸線方向において区分される糸種に応じた区域に糸を配置することは、実質的に作業員の付加的な労力とはならない。従って、作業員の労力を増やすことなく、同じ糸張力装置で異なる糸種を処理することができる。
【0009】
前記発明において、前記区域のうち第1区域は、平滑な当接面を有することが好ましい。この構成によれば、平滑な当接面が傷みやすい糸の張力を調整する場合に使用される。痛みやすい糸は、平滑な当接面であっても、十分な摩擦力が得られ、前記当接面に接合する。場合によっては、糸を糸ドラムの周りに複数の巻層で巻きつけることによって、接合時の糸に作用する摩擦力を強めることができる。
【0010】
前記構成において、前記平滑な当接面は、回転軸線とで鋭角を成すことが好ましい。つまり、当接面は、円錐状に形成されている。この構成によれば、各巻層の糸が互いに交差しないように糸道を形成することができる。
【0011】
前記発明において、前記区域のうち第2区域は、V形の溝を有することが好ましい。この構成によれば、このV形の溝に糸を挿入することで、糸ドラムとそれに巻き付けられる糸との摩擦力を強めることができる。
【0012】
前記構成において、前記溝を規定する少なくとも1つの壁を有し、該壁には、歯と歯溝が交互に配置されていることが好ましい。このような構成は「クリップ車(Criprad)」とも称される。
【0013】
前記構成によれば、クリップ車は、糸ドラムと糸との間に良好な摩擦力を生じさせることができるという利点を有する。しかし、クリップ車では、汚れ、例えば残留仕上げ剤が沈積することがある。そのため、痛みやすい糸類の場合、フィラメントが露出し得るということがある。
【0014】
前記構成において、前記溝は、2つの板の間に形成されており、前記第1区域側の板が前記第2区域と前記第1区域との境界を成すことが好ましい。
【0015】
前記構成によれば、第1区域側の板が第1及び第2区域の間に境界を成す。そのため、作動中に糸が第1区域から第2区域又はその逆へと移動することを防ぐために、その他の構成を必要としない。むしろ、第1区域と第2区域との間の境界は、第2区域を形成することによって生成される。
【0016】
前記発明において、入口ガイド及び/又は出口ガイドは、糸ドラムに対して相対的に、前記第1区域に対応する第1位置と前記第2区域に対応する第2位置との間で調整可能であることが好ましい。
【0017】
前記構成によれば、前記調整により、入口ガイド及び/又は出口ガイドの位置が回転軸線と平行な方向に調整され、糸ドラムの位置が回転軸線と平行な方向に調整される。これにより、進入時及び/又は退出時に、糸を対応する正しい区域に割当てられることを実現できる。そのことから各糸に作用する張力を小さく抑えることができる。
【0018】
前記発明において、少なくとも1つの可動糸案内エレメントを備えた糸案内機構を有し、前記糸案内機構は、糸ドラムと入口ガイド及び/又は出口ガイドとの間に配置されていることが好ましい。
【0019】
前記構成によれば、糸案内エレメントは、例えば、ばねからばね力を受ける。糸案内エレメントでもって、なかんずく、糸を糸ドラムに巻回する力を変化させることができる。
【0020】
前記構成において、糸案内エレメント及び糸ドラムの位置は、回転軸線と平行な方向に相対的に変更可能である。
【0021】
前記構成によれば、糸案内エレメントを通過するときにも糸に対して許容されている張力以上の張力が加わらないようにすることができる。糸案内エレメント単独で位置を調整する場合の他に、糸案内機構全体も糸ドラムに対して相対的に位置を調整することができ、これによっても糸ドラム及び糸案内機構の少なくとも一方の位置を調整することができる。
【0022】
前記発明において、前記糸道に前記入口ガイドの後方に制振機構が配置されており、該制振機構は、その位置を糸ドラムに対して回転軸線と平行な方向に相対的に変更可能であることが好ましい。
【0023】
前記構成によれば、糸がボビンの頭頂から引き出されて「バルーン(Ballon)」を生じる場合、制振機構により、糸ドラムの周りを周回する糸の張力を均一にすることができる。前記制振機構の位置を回転軸線と平行な方向に調整可能であることによって、糸張力装置により糸を処理する際に、所望の方向、好ましくは1つの平面内で糸道が形成されるようにすることができる。しかしながら、円錐状に傾いた平滑面を介して糸が案内されるとき、糸の入口及び出口は、回転軸線と平行な方向に相互に離隔させておくことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる糸張力装置によれば、費やす時間が僅かで、且つ異なる糸種でも使用できるような高い柔軟性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】糸張力装置の側面図である。
【図2】図1に示す糸張力装置の平面図である。
【図3】糸ドラムの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、好ましい実施例に基づいて図面と合せて本発明を説明する。
【0027】
図1により示される糸張力装置1は、基部2を有し、この基部2上に糸ドラム3が回転可能に支承されている。糸ドラム3は、発電機としても作動可能な電気モータ4と相対回転不能に結合されている。基部2上には、入口ガイド5と出口ガイド6が配置されている。
【0028】
糸7は、入口ガイド5に通され、糸ドラム3に巻かれ、そして出口ガイド6に通される。入口ガイド5と糸ドラム3との間には、制振機構8が配置されている。制振機構8は、2つの円錐形に形成される皿体9,10によって形成されており、皿体9,10は、その小径となっている先端側同士を対向させて積み重ねられている。制振機構8は、糸7の振動を減衰する。糸7の振動は、例えば詳しくは図示しないボビンの頭頂から糸7を引き出すことによって生じるものである。制振機構8は、糸7がボビンの頭頂から引き出されて「バルーン(Ballon)」を生じても、糸ドラム3の周りを周回する糸の張力を均一にすることができる。
【0029】
糸ドラム3と出口ガイド6との間には、糸案内機構11が配置されている。糸案内機構11は、可動する糸案内エレメント12を備えている。糸案内エレメント12は、両方向矢印13の方向、つまり糸7の走行方向を実質的に横切るように移動することができる。糸案内エレメント12は、詳しくは図示しないばねによって、糸に一定の予張力を与えることができる。
【0030】
図1及び図3から分かるように、糸ドラム3は、動作領域14を有し、この動作領域14には第1区域15と第2区域16とがある。
【0031】
第1区域15は、糸7を巻きつけるための平滑な当接面を有し、僅かに円錐状に傾いている(図1参照)。即ち、当接面は、側方から見て糸ドラム3の回転軸線22と鋭角を成している。第1区域15の小径の方の末端(頭頂側)には、蓋板17が設けられている。この蓋板17は、半径方向において第1区域15よりも外方に多少張り出している。これにより、第1区域15に巻き付けられた糸7が第1区域15の頭頂から引き出されてしまうことを防ぐことができる。
【0032】
このように第1区域15を形成すると、傷みやすい糸の張力を調整する場合に平滑な当接面を使用することができる。痛みやすい糸は、平滑な当接面であっても、十分な摩擦力が得られ、前記当接面に接合する。場合によっては、糸7を糸ドラム3の周りに複数の巻層で巻きつけることによって、接合時の糸に作用する摩擦力を強めることができる。また、当接面が回転軸線22とで鋭角を成して円錐状に形成されているので、各巻層の糸7が互いに交差しないように糸道を形成することができる。
【0033】
第2区域16は、半径方向内方に凹むV型の溝18を有する。図3から分かるように、第2区域16には、溝18を規定する少なくとも1つの壁19(例えば、上側の壁)が形成されており、この壁19には、歯20と歯溝21とが交互に配置されている。この第2区域16は、「クリップ車」として形成されている。糸7が第2区域16に巻かれると、糸7が比較的良好な摩擦力を受けながらクリップ車に接合する。
【0034】
V形の溝18に糸7を挿入することで、糸ドラム3とそれに巻き付けられる糸7との間で作用する摩擦力を強めることができる。また、第2区域16をクリップ車として形成することで、汚れ、例えば残留仕上げ剤が沈積するためにフィラメントが露出し得るという欠点があるが、糸ドラム3と糸との間で良好な摩擦力を生じさせることができるという利点を有する。
【0035】
溝18は、2つの板23、24の間に形成されている。第1区域15側の板23は、第2区域16の板24側の端部よりも多少大きな直径を有している。板23は、第2区域16の上方において第1区域15との境界を成す。つまり、糸7が第1区域15から第2区域16に、又はその逆方向に滑ってしまうことはない。
【0036】
糸ドラム3は、基部2側の面(図3において、底面)に孔25が形成された延長部30を有している。この孔25には、モータ4の回転軸を嵌着することができる。モータ4の回転軸を嵌着することによって、糸ドラム3を相対回転不能にモータ4に結合することができる。
【0037】
両方向矢印26〜29で示すように、糸張力装置1の個々の構成エレメント、具体的には糸ドラム3、入口ガイド5、出口ガイド6、制振機構8及び糸案内機構11は、回転軸線22と平行な方向に動かすことができるようになっており、これにより各構成エレメントの位置を調整することができる。以下の説明を簡略にするために、以下では、両方向矢印26〜29の方向における調整については、単に「軸線方向調整」という場合がある。このような軸線方向調整のときであっても、位置をその他の方向に変更することができる。
【0038】
図1に示すように、第1区域15を介してではなく、第2区域16を介して糸7を案内したい場合、最も単純な方法として、糸ドラム3の軸線方向の位置を調整する。これにより図1に示す実施例において、糸ドラム3は基部2から更に多少離間することができる。そして、残りの構成エレメントをその位置に留めておき、出口ガイド6と糸案内機構11とを基部2に更に接近させることが好ましい。
【0039】
このように、糸案内機構11及び糸ドラム3の位置の軸線方向調整ができるように構成することで、糸案内エレメント12を通過するときにも糸に対して許容以上の張力が加わらないようにすることができる。なお、糸案内機構11全体を糸ドラム3に対して相対的に位置を調整することができる場合だけでなく、糸案内エレメント12単独で位置を調整するように構成してもよい。
【0040】
第2区域16を介して糸7を案内したい場合、他の方法として、入口ガイド5と出口ガイド6と制振機構8を両方向矢印26〜28の方向において、基部2により一層接近させる方法もある。この方法及び前術の方法である両方の軸線方向調整を組合せることも当然に可能である。
【0041】
また、制振機構8の位置の軸線方向調整ができることによって、糸張力装置1により糸を処理する際に、所望の方向、好ましくは1つの平面内で糸道が形成されるようにすることができる。しかし、円錐状に傾いた平滑面を介して糸7が案内されるとき、糸7の入口及び出口は、回転軸線22と平行な方向に相互に離隔させておくことができる。
【0042】
糸ドラム3が、図示した両方の区域15,16と異なる区域を有することも当然可能である。しかし、大抵、2つの異なる区域があればよい。
【0043】
本実施形態の糸張力装置1によれば、1つの糸ドラム3で複数の異なる糸種を処理することができる。作業員は、糸張力装置1に通される糸を、その糸種に応じて第1及び第2区域15,16のうち対応する区域15,16に配置すればよい。糸7を取替える時に、糸7を処理することはいずれにしても必要な作業であるので、軸線方向において区分される糸種に応じた区域15,16に糸7を配置することは、実質的に作業員の付加的労力とはならない。従って、作業員の労力を増やすことなく、同じ糸張力装置1で異なる糸種を処理することができる。即ち、糸張力装置1では、費やす時間が僅かで、且つ異なる糸種でも使用できるような高い柔軟性を達成することができる。
【0044】
なお、本発明は、実施の形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 糸張力装置
2 基部
3 糸ドラム
5 入口ガイド
6 出口ガイド
7 糸
8 制振機構
11 糸案内機構
12 糸案内エレメント
14 動作領域
15 第1区域
16 第2区域
18 溝
19 壁
20 歯
21 歯溝
22 回転軸線
23 板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口ガイド(5)と出口ガイド(6)とそれらの間に設けられる糸ドラム(3)とを有する糸張力装置(1)であって、該糸ドラム(3)が回転軸線(22)と動作領域(14)とを有し、前記入口ガイド(5)と前記出口ガイド(6)との間を結ぶ糸道が前記動作領域上を該糸ドラムの周方向に延びているものにおいて、
前記動作領域(14)は、軸線方向において、特性の異なる少なくとも2つの区域(15,16)に区分されていることを特徴とする糸張力装置。
【請求項2】
前記区域のうち第1区域(15)は、平滑な当接面を有することを特徴とする、請求項1記載の糸張力装置。
【請求項3】
前記平滑な当接面は、前記回転軸線(22)と鋭角を成すことを特徴とする、請求項2記載の糸張力装置。
【請求項4】
前記区域のうち第2区域(16)は、V形の溝(18)を有することを特徴とする、請求項1記載の糸張力装置。
【請求項5】
前記第2区域(16)は、前記溝(18)を規定する少なくとも1つの壁(19)を有し、
該壁(19)には、歯(20)と歯溝(21)が交互に配置されていることを特徴とする、請求項4記載の糸張力装置。
【請求項6】
前記溝(18)は、2つの板(23、24)の間に形成されており、前記第1区域(15)側の板(23)が前記第2区域(16)と前記第1区域(15)との境界を成すことを特徴とする、請求項4又は5記載の糸張力装置。
【請求項7】
前記入口ガイド(5)及び/又は出口ガイド(6)は、糸ドラム(3)に対して相対的に、第1区域(15)に対応する第1位置と第2区域(16)に対応する第2位置との間で調整可能であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の糸張力装置。
【請求項8】
少なくとも1つの可動糸案内エレメント(12)を備えた糸案内機構(11)を有し、
前記糸案内機構(11)は、糸ドラム(3)と入口ガイド(5)及び/又は出口ガイド(6)との間に配置されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項記載の糸張力装置。
【請求項9】
前記糸案内エレメント(12)及び前記糸ドラム(3)の位置は、回転軸線(22)と平行な方向に相対的に変更可能であることを特徴とする、請求項8記載の糸張力装置。
【請求項10】
前記糸道に前記入口ガイド(5)の下流に制振機構(8)が配置されており、
該制振機構(8)は、その位置を糸ドラム(3)に対して回転軸線(22)と平行な方向に相対的に変更可能であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項記載の糸張力装置。
【請求項1】
入口ガイド(5)と出口ガイド(6)とそれらの間に設けられる糸ドラム(3)とを有する糸張力装置(1)であって、該糸ドラム(3)が回転軸線(22)と動作領域(14)とを有し、前記入口ガイド(5)と前記出口ガイド(6)との間を結ぶ糸道が前記動作領域上を該糸ドラムの周方向に延びているものにおいて、
前記動作領域(14)は、軸線方向において、特性の異なる少なくとも2つの区域(15,16)に区分されていることを特徴とする糸張力装置。
【請求項2】
前記区域のうち第1区域(15)は、平滑な当接面を有することを特徴とする、請求項1記載の糸張力装置。
【請求項3】
前記平滑な当接面は、前記回転軸線(22)と鋭角を成すことを特徴とする、請求項2記載の糸張力装置。
【請求項4】
前記区域のうち第2区域(16)は、V形の溝(18)を有することを特徴とする、請求項1記載の糸張力装置。
【請求項5】
前記第2区域(16)は、前記溝(18)を規定する少なくとも1つの壁(19)を有し、
該壁(19)には、歯(20)と歯溝(21)が交互に配置されていることを特徴とする、請求項4記載の糸張力装置。
【請求項6】
前記溝(18)は、2つの板(23、24)の間に形成されており、前記第1区域(15)側の板(23)が前記第2区域(16)と前記第1区域(15)との境界を成すことを特徴とする、請求項4又は5記載の糸張力装置。
【請求項7】
前記入口ガイド(5)及び/又は出口ガイド(6)は、糸ドラム(3)に対して相対的に、第1区域(15)に対応する第1位置と第2区域(16)に対応する第2位置との間で調整可能であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の糸張力装置。
【請求項8】
少なくとも1つの可動糸案内エレメント(12)を備えた糸案内機構(11)を有し、
前記糸案内機構(11)は、糸ドラム(3)と入口ガイド(5)及び/又は出口ガイド(6)との間に配置されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項記載の糸張力装置。
【請求項9】
前記糸案内エレメント(12)及び前記糸ドラム(3)の位置は、回転軸線(22)と平行な方向に相対的に変更可能であることを特徴とする、請求項8記載の糸張力装置。
【請求項10】
前記糸道に前記入口ガイド(5)の下流に制振機構(8)が配置されており、
該制振機構(8)は、その位置を糸ドラム(3)に対して回転軸線(22)と平行な方向に相対的に変更可能であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項記載の糸張力装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2010−126363(P2010−126363A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51603(P2009−51603)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(591008465)カール マイヤー テクスティルマシーネンファブリーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフツング (45)
【氏名又は名称原語表記】KARL MAYER TEXTILMASCHINENFABRIK GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(591008465)カール マイヤー テクスティルマシーネンファブリーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフツング (45)
【氏名又は名称原語表記】KARL MAYER TEXTILMASCHINENFABRIK GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】
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