説明

糸条水洗装置および糸条の水洗方法

【課題】糸条に大きな損傷を与えることなく、また水洗に使用する水の量を大幅に削減して、糸条に付着する汚れなどを糸条から水洗除去できる糸条水洗技術を提供する。
【解決手段】排出堰で仕切られた複数の水洗槽と、各水洗槽の槽内に位置する槽内ローラーと、糸条を前段の水洗槽から引き上げ、後段の水洗槽に導入するための、排出堰上に位置する、槽外平ローラーとを備えるとともに、最後段の水洗槽に水を供給する水供給手段と、最前段の水洗槽から水を排出する水排出手段と、前記槽外ローラーに向けて後段の水洗槽の洗浄水を散布する洗浄水散布手段とを備えてなる、糸条水洗装置、および、それを用いた糸条の水洗方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条水洗装置および糸条の水洗方法に関する。更に詳しくは、電解質水溶液を用いて電解処理した後の炭素繊維糸条から電解質を水洗除去するに適した糸条水洗装置および糸条の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸条に付着した汚れなどを除去するために、水を使って洗浄する、いわゆる水洗することはよく行われることである。このような汚れなどの付着した糸条の水洗方法としては、従来、(1)糸条を水槽内に浸漬させて洗浄するディップ方式、(2)糸条に直接水を吹きかけ洗浄するシャワー方式、(3)水洗槽に浸漬させたローラーが振動することや、超音波等により洗浄水に流速を与え糸条を洗浄する方式が知られているが、それぞれの方式には、次のような問題があった。
(1)ディップ方式:洗浄速度が遅いため、所望の洗浄効果を得るためには、十分な洗浄長を取らなければならず、多段処理することが必要であり、設備の大型化、それに伴う洗浄水の量が多くなるという問題があった。
(2)シャワー方式:所望の洗浄効果を得るための設備は、ディップ方式に比べ小さくてすむが、糸条に直接シャワー水が当たるため、脆い糸条に適用した場合には、糸条の単繊維切れ、すなわち糸条の毛羽発生の可能性があり、シャワー水量のコントロールが難しかった。
(3)その他の方式:糸条の洗浄効果は大きいが、振動による糸条への衝撃が大きく、脆い糸条に適用した場合には、糸条の毛羽発生という問題があった。
【0003】
たとえば、繊維強化複合材料として用いられる炭素繊維を製造する場合、複合材料におけるマトリックス樹脂との接着性を高める目的で、薬液中で炭素繊維糸条を表面酸化処理することが行われる。薬液中での表面酸化処理としては、炭素繊維糸条を陽極として、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸などの無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、マレイン酸等の有機酸、またはこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩等の電解質の水溶液中で電解酸化する場合や、過マンガン酸塩、次亜塩素酸塩等の酸化剤の水溶液中で酸化処理する手段が採られるので、このような表面酸化処理された後の炭素繊維糸条の表面には、用いた薬液に含まれる電解質や酸化剤が残存しており、これらを水洗等により炭素繊維表面から除去する必要がある。特に、炭素繊維表面に薬液が微量でも残存すると、複合材料の機械的性質、耐熱性、耐酸化性を低下させることが多いため、極力完全に薬液を除去することが重要である。
【0004】
炭素繊維糸条の電解処理後の水洗効率を向上し、洗浄水の使用量を削減するための技術として、例えば特許文献1では、炭素繊維糸条とローラーとの接触面積を減らすため直線的に炭素繊維を搬送させ、洗浄水を溝付きローラー上で噴霧する方法において、溝付きローラーの下に受けを設け、受けた洗浄水を前段の噴霧ノズルに供給する技術が提案されている。しかしながら、使用する洗浄水の量は、従来のディップ方式や単純なシャワー方式に比べると削減できるものの、溝付きローラーを使用しているため、炭素繊維束の内部まで十分に洗浄できず、洗浄効果を得るためには多段処理が必要であるため、削減できる洗浄水は少なく経済的な製造手段とは言い難かった。
【特許文献1】特許第261980 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、糸条に大きな損傷を与えることなく、また水洗に使用する水の量を大幅に削減して、糸条に付着する汚れなどを糸条から水洗除去できる糸条水洗技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の糸条水洗装置は、前記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、排出堰で仕切られた複数の水洗槽と、各水洗槽の槽内に位置する槽内ローラーと、糸条を前段の水洗槽から引き上げ、後段の水洗槽に導入するための、排出堰上に位置する、槽外平ローラーとを備えるとともに、最後段の水洗槽に水を供給する水供給手段と、最前段の水洗槽から水を排出する水排出手段と、前記槽外ローラーに向けて後段の水洗槽の洗浄水を散布する洗浄水散布手段とを備えてなる、糸条水洗装置である。
【0007】
また、本発明の糸条の水洗方法は、前記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、糸条を第1の水洗槽に搬入し、該水洗槽の内部で折り返して槽外に引き上げ、さらに槽外平ローラーで折り返して、第2の水洗槽に導入し、該水洗槽の内部で折り返して引き上げる糸条の洗浄方法であって、最後段の水洗槽には水を供給し、最前段の水洗槽からは水を排出しつつ、第2の水洗槽の洗浄水を、槽外平ローラーに向けて走行する糸条に散布して第1の水洗槽に供給する、糸条の水洗方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に説明するとおり、糸条に大きな損傷を与えることなく、また水洗に使用する水の量を大幅に削減して、効率的に糸条に付着する汚れなどを糸条から水洗除去できる。特に、糸条として、表面酸化処理後の炭素繊維糸条を用いた場合に、本発明の効果が一層顕著に発現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、特に炭素繊維糸条のような脆い糸条から汚れなどを除去するにあたって、糸条に損傷を与えずに、水の使用量を極力少なくできるかについて鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。以下、本発明を図面を用いてより詳細に説明する。
【0010】
本発明の糸条水洗装置の一実施態様を図1に示す。水洗槽1は排出堰2で仕切られ2槽並列に並べられている。前工程から誘導される糸条3を前工程から水洗槽内に搬送する搬入ローラー4、各水洗槽の槽内に配置された槽内ローラー5、炭素繊維糸条を前段の水洗槽から後段の水洗槽に導入する、排出堰の上方に配置された槽外ローラー6、最後段の水洗槽から糸条を引き上げ、次工程に搬送する搬出ローラー7を備えている。ここで、槽外ローラーとしては、平ローラーを用いる。そして、最後段の水洗槽には水を供給する水供給手段として水供給口8、最前段の水洗槽には水を排出する水排出手段として水排出口9が設けられ、後段の水洗槽の水は、循環ポンプ10で汲み出され洗浄水経路11を通り、前段の槽外ローラー6の上方に配置された洗浄水散布手段である散布ノズル12から槽外ローラー6に洗浄水を散布できるようになっている。
【0011】
ここでいう搬入ローラー4、搬出ローラー7の形状は、特に規定されるものでないが、作業性、操業性の点から糸条間ピッチを規制した方が良いため溝付ローラーを用いるのがよい。搬入ローラー4や搬出ローラー7に平状のローラー、いわゆる平ローラーを使用してもよいが、隣接糸が干渉しやすく、毛羽発生の原因や、干渉した糸条の管理が難しくなることがある。干渉を防ぐため糸条間ピッチを広げると設備が大型化するため、好ましくない。
【0012】
本発明において、槽外ローラー6は平ローラーでなければならない。ここでいう平ローラーとは、隣接する糸条がそれぞれローラー軸中心から等距離を走行させることができ、糸条群が走行する領域が円筒になっているローラーである。平ローラーの真円度は、通常、0.1mm以下である。平ローラー上で糸条を拡げることにより、糸条の内部まで洗浄することができる。槽外ローラー6に溝付ローラーを使用すると、溝内で糸条が収束するため、糸条内の洗浄が難しくなり、所望の洗浄を得るためには、洗浄水を増やす必要がある。なお、槽内ローラー5は必ずしも平ローラーである必要はないが、本発明の効果をより顕著に発現させる上では、前記した槽外ローラーと同様の平ローラーを用いるのが良い。
【0013】
1つの槽内に配置する槽内ローラー5の本数に特に制限はないが、ローラー本数を多くすると、洗浄水との接触長があがるため洗浄効果が期待できるが、ローラー数増加にともない糸条のローラーへの巻き付きの可能性が増えるとともに、巻き付き時の処置が難しくなるため、1本か2本が適当である。
【0014】
槽外ローラー6、槽内ローラー5と糸条の抱き角については、特に制限するものではないが、抱き角が180°より大きくなると巻き付きの可能性が増加し、180°より小さくなると槽のサイズを大きくする必要があるため、図1に示すように実質的に180°とするのが好ましい。
【0015】
また、槽内ローラーと、槽外ローラーは、金属ローラーにセラミックスやプラスチックでコーティングしたローラーが通常用いられるが、耐食金属ローラーそのままでも使用することができる。槽内ローラー5や槽外ローラー6の直径は特に制限は無いが、φ100mm以上が好ましい。更に好ましくはφ100mm以上φ300mm以下である。φ100mm未満の場合、ローラーと糸条の接触長が小さくなるため、後述する製法に記載したが、ローラー上で十分に糸条が拡幅されず、洗浄効果が低下することがある。一方、φ300mmを超えると、接触長が向上するものの、装置自体が大型化してしまい経済的でない。
【0016】
槽外ローラー6の位置は排出堰2の上方に配置する必要がある。排出堰2の上方に配置することで、前段の汚れの大きい水が後段に混入することを軽減できる。前段の汚れた水が後段に進入すると後段の水の汚れレベルが前段に近づくため、後段槽内での洗浄効果が小さくなる。さらに後段の槽の水を循環ポンプ10を用いて、洗浄水経路11を通って槽外ローラー6上に散布ノズルを通して散布することにより、洗浄水を効率的に使用でき、洗浄効率が向上する。
【0017】
また、排出堰が、その高さを可変とする高さ調節手段を有すると、後述するように、水洗槽内での糸条の浸漬時間を制御できるばかりか、前段から後段への流入を抑止できるようになる。なお、かかる高さ調節手段としては、例えば、幅は機幅と実質的に同じとして、所定の高さ、例えば100mm程度にカットした板状の堰部材を複数段高さ方向に積み重ねればよい。堰部材の厚み・材質としては、特に制限はないが、水洗槽の水圧に対する耐性や取り扱い性を考えると、厚さ5〜10mmのSUS板を用いるのが適当である。堰部材を積み重ねるには、水洗槽内部の排出堰の高さ方向にレールを敷いて上部から堰部材をレールに沿って落とし込み積み重ねる方法や、水洗槽の側面から押し入れる方法などを採用することができる。また、堰部材の縁に防水性のあるシリコンやウレタン材のゴムを貼り付けておくと堰部材同士または堰部材と他の部材との間の水の流出入を防止できる。
【0018】
散布ノズル12と槽外ローラー6との間隔は、好ましくは50mm〜500mm、より好ましくは60〜120mmが適切である。かかる間隔が小さすぎるとノズルから糸条までの距離が短くなるため、散布範囲が狭くなり多数本の糸条を並列して走行させたような場合、ノズルからの水量が多くなるため経済的に不利である一方、かかる間隔が大きすぎると、散布範囲が広域に及ぶため、槽外ローラー上の糸条へ降りかかる水量が減り洗浄効果が小さくなることがある。また、広域に及んだ散布範囲の単位面積あたりの散布水量を保とうとするとノズルからの散布水圧を高くする必要があり、糸へダメージを与えてしまう。また、散布ノズル12の設置位置は図2に示すように、槽外ローラー6と糸条3の接している散布範囲13であればいずれの位置でもかまわないが、槽外ローラー6の中心より後段の槽側に設置すると、後述する製法に記載したとおり、電解液等の濃度が移動して洗浄効果が低下してしまうため、槽外ローラー6の中心より前段の槽側に設置するのが好ましい。さらに、搬入ローラー4、搬出ローラー7も、槽外ローラー6と同様に水を散布できる構造とすると、本発明の効果を奏する上でより好ましい。なお、図1では、水洗槽が2層の場合を例示したが、水洗効率を高めるために、図3のように、排出堰で仕切られた3層以上の水洗槽を並べ、各排出堰の上方に槽外平ローラーを設けても良い。
【0019】
水供給口8は、後段の槽の槽内ローラー5と搬出ローラー7との間に設置するとよい。水供給口8から供給された水が槽内ローラー5と、搬出ローラー7の間を走行する糸条にあたることにより、洗浄効果があがる。供給方法として特に制限はないが、機幅方向の糸条に均一にあたるように、槽内に整流板等を設置してもよい。なお、洗浄水の水排出口9は、前段の水洗槽のいずれの位置に設置してもよい。
【0020】
次に、電解質水溶液を用いて電解酸化処理した後の炭素繊維糸条から、電解質を除去する場合を例にとって、本発明方法を説明する。炭素繊維糸条としては、アクリル系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などが用いられ、炭素繊維糸条を陽極として、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸などの無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、マレイン酸等の有機酸、またはこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩等の電解質の水溶液中で電解酸化処理を行う。このようにして電解酸化処理された後の炭素繊維糸条を前記した水洗装置に導入する。糸条3は、搬入ローラー4で導かれ、前段の第1の水洗槽に浸漬され、槽内ローラー5で折り返されて、槽外ローラー6で折り返され、後段の第2の水洗槽に浸漬され槽内ローラー5で折り返されて、搬出ローラー7で引き上げられて後、次工程へと導かれる。水としては、イオン交換水、蒸留水、井戸水等が用いられるが、炭素繊維の場合、金属成分が残存することを避ける観点からはイオン交換水や蒸留水を用いるのが良い。
【0021】
本発明では、槽外ローラーとして平ローラーを用いているため、糸条がローラー上で十分に拡幅され、その拡幅された状態で水が散布されるために、糸条の単繊維間に水が十分に行き渡り、効率よく洗浄ができる。例えば、槽外ローラーの形状を溝ローラーとすると溝内で糸条が集束してしまうため、糸条の単繊維間にまで水が行き渡らず、十分な洗浄が困難になり、十分な洗浄を行おうとすると、大量の水を用いなければならない。槽外ローラー上での糸条の拡幅は、炭素繊維糸条のフィラメント数1000本あたり0.4〜0.6mmが好ましい。例えばフィラメント数12000本の炭素繊維糸条の場合、4.8mm〜7.2mmとなる。
【0022】
糸条を拡幅し過ぎると、拡幅によるローラーとの擦過により単繊維切れが起こる場合があったり、隣接糸条との接触や干渉をさけるため、糸条間距離を多くすることにより、ローラーの長さが大きくなり、装置が大型化するため経済的でない。洗浄水の散布手段は、糸条に滴下、シャワー、噴霧、如雨露と、特に方法にとらわれないが、炭素繊維糸条のように脆い繊維糸条への損傷を極力低減する観点からは、滴下が特に好ましい。
【0023】
洗浄水を、空中を走行している炭素繊維糸条に直接散布すると、炭素繊維糸条へのダメージがあり、糸条の単繊維切れ、すなわち糸条に毛羽が発生することが多いが、槽外ローラー6に接触した状態の炭素繊維糸条に散布することにより、ダメージは防げる。図2にその一例を示す。散布ノズル12は散布範囲13に水が散布される位置に設置するのが適切である。散布範囲13は、炭素繊維糸条がローラーと接している部分であり、この部分の範囲なら、いずれの位置に散布してもよいが、前段の槽の水の進入を防ぐためには、槽外ローラー6の中心より、前段の水洗槽側に設置したほうがよい。なお、図2では、1例として炭素繊維糸条が槽外ローラーと抱き角180°で接した例を示したが、ローラー配置により抱き角を変更した場合には、炭素繊維糸条と槽外ローラーが接している範囲内で水を散布すれば良い。
【0024】
洗浄水の水量は、後段の第2の水洗槽における洗浄水の電気伝導度を、前段の第1の水洗槽における洗浄水の電気電導度に対して、好ましくは1/50〜1/5、より好ましくは1/20〜1/10となるように調節する。洗浄水の電気伝導度はJIS−K−0400−13−10(1999)により測定することができる。前段の水洗槽における洗浄水の電気伝導度と後段の水洗槽における洗浄水の電気伝導度との比が5倍未満の場合、槽外ローラー6上に散布する再利用水は、前段の電気伝導度と差が小さいため、槽外ローラー上での十分な洗浄はできず後段に前段の汚れた水が進入し後段の水が汚れ、後段の水洗槽内での洗浄効果も小さくなる。その結果、所望の洗浄効果を得るためには、水洗槽を必要以上に多段に設けなければならず、使用する洗浄水の水量が多くなることがある。逆に前段の水洗槽における洗浄水の電気伝導度と後段の水洗槽における洗浄水の電気伝導度との比が50倍より大きい場合、洗浄という面では問題ないが、洗浄を必要とする炭素繊維束に対して水の使用量がはるかに大きく、効率の良い洗浄とはならないことがある。
【0025】
より具体的には、本発明では、次のようにして、後段の水洗槽への水の供給量と、前後段の水洗槽の洗浄水を再利用することで、洗浄水の使用量をコントロールする。例えば、後段の電気伝導度が、前段の電気伝導度に対して1/5より大きくなった場合、後段の洗浄効果をあげるため、水供給口8から前段と後段の電気伝導度比が5倍以上になるまで水を供給する。この際、単純に後段から前段への再利用水の供給量を増加させて洗浄量を稼いでもよいが、排出堰2の高さを高くし後段の液面を上げることで、糸条の浸漬時間を長くして洗浄効果を挙げることができる。
【0026】
図3に水洗槽を3段とした例を示すが、排出堰の高さが可変であることにより、自由に水洗槽の液面高さを調節できるため、前段の液面を後段の液面より低くすることにより前段から後段への水の流入を抑止できるばかりか、浸漬時間をコントロールすることができる。水洗槽第2と第3の間の堰高さを水洗槽第1と第2より高くすることで前段の液面が後段の液面より低くなるため、第3槽からあふれ出た水は第2槽へ流れ、第2槽からあふれ出た水は第1槽へ順次流れていくため、後段の槽において前段の槽の水と後段の槽の水が混ざることがない。堰高さ固定の場合でも同様に高さに差をつけると、後段の槽において前段の水と混ざることを防止できるが、糸条の浸漬時間が、堰と糸速依存するため、浸漬時間のコントロールができなくなり所望の洗浄が難しくなる。後段の槽において前段の水が後段の槽の水と混ざるとやがて前後段の電気伝導度が均一化されてしまうことになる。前段の槽の水と後段の槽の水が混ざるのを防ぐため散布ノズル12から散布する水量を増加させると、糸へダメージが否めない。水供給口8からの水の供給量と調整することに加えて、排出堰2の高さを変えることで、前段から後段へ水の流入を防ぐことができるばかりか、水洗槽内での糸条の浸漬時間を制御できるので、各水洗槽の電気伝導度を効率よく制御することができるようになる。なお、後段の電気伝導度が、前段の電気伝導度に対して1/50より小さい場合であっても、単純に、水供給口8からの水の供給量を減らすことに加え、各水洗槽間の堰高さを下げ浸漬時間を短くすれば、ある程度の洗浄効果をあげることができる。
【実施例】
【0027】
本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本実施例において、糸条の電解質含有量は、次のようにして測定した。すなわち、電解液の付着した糸条約5gを採取し、100mlの純水をいれた三角フラスコに投入し、糸条が純水になじむまで十分に振ったあと、密閉状態で24時間保持した後、三角フラスコ内の水の電気伝導度を測定したものである。なお、本実施例では電気伝導度の測定に、東亜ディーケーケー(株)社製電気伝導度計CM−30Gを用いた。
(実施例1)
炭化処理されたばかりの炭素繊維糸条(100糸条、1条は直径7μm×24000本からなる単繊維束)に硫酸水溶液を用いて電解酸化表面処理を施すことにより得られた、電解質含有量が2.7%である糸条3を、水洗槽を4槽並べた以外は図3と同様に配置した水洗装置を用いて、搬送速度20m/分で槽外ローラー6上で1糸条あたり10mmに拡幅させ水洗した。水供給口8からはイオン交換水を10リットル/分の流量で水洗槽1に供給した。散布ノズル12と槽外ローラー6との間隔は100mmに設定し、1つの槽外ローラーに散布する洗浄水の量を10リットル/分となるように、散布ノズル12から洗浄水を槽外ローラー上の炭素繊維糸条に滴下した。水排出口9からの排出流は、6リットル/分であった(供給量との差分は水洗槽外への糸の持ち出し)。槽内ローラーと槽外ローラーには、径φ200mm、真円度0.05mm、耐食金属製の平ローラーを使用した。水洗槽浸漬総時間は26秒で各段の水洗槽浸漬時間は、1段から4段までそれぞれ、5,6,7,8秒であった。排出堰の高さは、高さ200mm、厚さ7mmにカットしたSUS板を堰部材として使用し、水洗槽内部の排出堰の高さ方向にレールを敷いて上部から堰部材をレールに沿って落とし込み積み重ねることにより、1段と2段との間が1m、2段と3段との間が1.2m、3段と4段との間が1.4mとなるように調整した。なお、堰部材の縁にはシリコン材のゴムを貼り付けた。この時、洗浄前の糸条の電解質含有量は2.7%、水洗槽第1槽の洗浄液の電気伝導度は500μS/cm、水洗槽第2槽の電気伝導度は40μS/cm、水洗槽第3槽の電気伝導度は4μS/cm、水洗槽第4槽の電気伝導度は0.3μS/cm、洗浄後の糸条の電解質含有量は10ppmであり、十分な洗浄効果がえられた。
(比較例1)
全ての槽外ローラーに溝ローラーを使用した以外は実施例1と同様にして炭素繊維糸条を洗浄した。槽外溝ローラーは炭素繊維糸条が溝から外れないように深さ3mm、ピッチ5mmとした。洗浄前の糸条の電解質含有量は2.7%、水洗槽第1槽の洗浄液の電気伝導度は400μS/cm、水洗槽第2の洗浄液の電気伝導度は200μS/cm、水洗槽第3の電気伝導度は80μS/cm、水洗槽第4槽の電気伝導度は40μS/cmで、洗浄後の糸条の電解質含有量は400ppmであり、十分な洗浄効果は得られなかった。
(比較例2)
水供給口8からのイオン交換水の流量を100リットル/分に、ノズルからの散布量を80リットル/分に変更した以外は比較例1と同様にして炭素繊維糸条を洗浄した。洗浄前の電解液の含有量は2.7%、水洗槽第1槽の洗浄液の電気伝導度は500μS/cm、水洗槽第2の洗浄液の電気伝導度は200μS/cm、水洗槽第3の電気伝導度は70μS/cm、第4槽の電気伝導度は30μS/cm、洗浄後の電解液の含有量は300ppmと洗浄効果が小さかった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の糸条水洗装置の一例を示す概略縦断面図である。
【図2】図1に示す糸条水洗装置において、槽外ローラーと洗浄水散布手段との位置関係を示す概略縦断面図である。
【図3】本発明の糸条水洗装置の他の一例を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 :水洗槽
2 :排出堰
3 :糸条
4 :搬入ローラー
5 :槽内ローラー
6 :槽外ローラー
7 :搬出ローラー
8 :水供給口
9 :水排出口
10 :循環ポンプ
11 :洗浄水経路
12 :散布ノズル
13 :散布範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出堰で仕切られた複数の水洗槽と、各水洗槽の槽内に位置する槽内ローラーと、糸条を前段の水洗槽から引き上げ、後段の水洗槽に導入するための、排出堰上に位置する、槽外平ローラーとを備えるとともに、最後段の水洗槽に水を供給する水供給手段と、最前段の水洗槽から水を排出する水排出手段と、前記槽外ローラーに向けて後段の水洗槽の洗浄水を散布する洗浄水散布手段とを備えてなる、糸条水洗装置。
【請求項2】
前記洗浄水散布手段と槽外ローラーとの間隔が50mm〜500mmである、請求項1記載の糸条水洗装置。
【請求項3】
前記排出堰は、その高さを可変とする高さ調節手段を有する、請求項1または2に記載の糸条水洗装置。
【請求項4】
糸条を第1の水洗槽に搬入し、該水洗槽の内部で折り返して槽外に引き上げ、さらに槽外平ローラーで折り返して、第2の水洗槽に導入し、該水洗槽の内部で折り返して引き上げる糸条の洗浄方法であって、最後段の水洗槽には水を供給し、最前段の水洗槽からは水を排出しつつ、第2の水洗槽の洗浄水を、槽外平ローラーに向けて走行する糸条に散布して第1の水洗槽に供給する、糸条の水洗方法。
【請求項5】
糸条が、電解質水溶液を用いて電解酸化処理した後の炭素繊維糸条である、請求項4に記載の糸条の水洗方法。
【請求項6】
第2の水洗槽における洗浄水の電気伝導度を、第1の水洗槽における洗浄水の電気電導度に対して1/50〜1/5とする、請求項5に記載の糸条の水洗方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−231433(P2007−231433A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52459(P2006−52459)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】