説明

糸貯留装置、これを備える繊維機械及び紡績機

【課題】糸貯留装置において、糸貯留ローラから下流側へ解舒される糸の張力変動を低減できる構成を提供する。
【解決手段】糸貯留装置12は、紡績糸10を巻付け可能な糸貯留ローラ21と、下流側ガイド26と、を備える。下流側ガイド26が有する案内溝91は、糸貯留ローラ21からの紡績糸10の糸道を当該糸貯留ローラ21の回転軸線92上の点に収束させる。案内溝91を通過した糸道である下流糸道94は、前記回転軸線92に対して傾斜しつつ延びている。前記回転軸線92を含む垂直な仮想平面に、糸貯留ローラ21と案内溝91との間の糸道の軌跡である円錐面と、前記下流糸道94と、を投影した場合を考える。前記円錐面が仮想平面に形成する三角形において、前記回転軸線92を挟む2つの辺96,97のそれぞれと、下流糸道94が仮想平面に形成する直線と、がなす角度P,Qが、何れも90度以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、糸を貯留するための糸貯留ローラを備える糸貯留装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維機械の一種として、紡績した糸を巻き取ってパッケージを形成する空気式紡績機(高速紡績機)が知られている。この種の紡績機では、紡出された紡績糸をパッケージ側の糸と糸継ぎする糸継作業を行う場合等に、パッケージ側の巻取りを停止させるように制御している。
【0003】
しかしながら、糸継作業のために巻取りを停止させているときも、紡績装置側からは糸が次々に送られてくるため、これを放置すると糸の弛み及び滞留が生じてしまう。そこで、電動モータにより回転駆動される弛み取りローラと、この弛み取りローラに対して相対回転自在な糸掛け部材と、を備える糸貯留装置によって、上記の糸の弛み及び滞留を防止する構成が従来から提案されている。
【0004】
この種の糸貯留装置は、例えば特許文献1に開示されている。この糸弛み取り装置(糸貯留装置)は、弛み取りローラ(糸貯留ローラ)と、弛み取りローラの上流側と下流側とに配置されるガイド部材と、糸掛け部材と、を有している。
【0005】
糸掛け部材が備えるフライヤーは、伝達力調節機構により弛み取りローラに対し同心回転可能に取り付けられており、この伝達力調節機構により、フライヤーの弛み取りローラに対する回転抵抗の大きさを調節することができる。フライヤーは、当該フライヤーに対する負荷が一定値以下の時は弛み取りローラと一体回転し、フライヤーに対する負荷が一定値を越えると弛み取りローラとは独立に回転するように構成されている。
【0006】
以上の構成で、伝達力調節機構で設定される値よりも大きい負荷が作用すると、フライヤーが、巻取方向に回転を続けている弛み取りローラとは独立して回転するようになり、弛み取りローラに巻き取られて貯留している糸が、次第に弛み取りローラから巻き出される。糸掛け部材のフライヤーは、糸と接触することにより適度な抵抗を与えて糸張力を適正化し、パッケージの巻取状態を均一化する機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−277945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の構成は、糸貯留ローラから下流側へ解舒される糸のテンション変動が非常に大きくなり、糸伸度に影響を与え、場合によっては糸に過大な張力が掛かって糸が伸びていることがあった。従って、より小さいテンション変動で糸を糸貯留ローラから解舒できる構成が望まれていた。
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、糸貯留ローラを備える糸貯留装置において、糸貯留ローラから下流側へ糸が解舒されるときのテンション変動を低減できる構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の第1の観点によれば、繊維機械に用いられる以下の構成の糸貯留装置が提供される。即ち、この糸貯留装置は、糸貯留ローラと、下流側案内部と、を備える。前記糸貯留ローラは、糸を巻き付けるためのものである。前記下流側案内部は、前記糸貯留ローラの下流側で糸を通過させる糸通過部を有する。前記糸通過部は、前記糸貯留ローラから解舒された糸の糸道を、当該糸貯留ローラの回転軸線上の点に収束させるように配置される。前記糸通過部より下流側の糸道である下流糸道は、前記糸道が収束する点から、前記糸貯留ローラの回転軸線に対して傾斜しつつ延びている。前記糸貯留ローラの回転軸線を含むとともに前記繊維機械の設置面に垂直である仮想平面に、前記糸貯留ローラの端部から糸が解舒されて前記糸通過部へ至る糸道の軌跡としての円錐面と、前記下流糸道と、を平行投影した場合に、前記円錐面が前記仮想平面に形成する三角形において前記糸貯留ローラの回転軸線を挟む2つの辺のそれぞれと、前記下流糸道が前記仮想平面に形成する直線と、がなす角度が、何れも90度以上である。
【0012】
これにより、糸が糸貯留ローラから解舒されて糸通過部へ至るときに、当該糸が糸貯留ローラのどの位置から解舒されたとしても、糸道の収束点において当該糸道が鋭く屈曲されない構成とすることができる。従って、糸貯留ローラから解舒される糸の糸道が変化しても収束点での糸道の屈曲度合いが大きく変化しないので、糸張力の変動を抑制でき、過大なテンションによる糸品質の低下を防止することができる。
【0013】
本発明の第2の観点によれば、繊維機械に用いられる以下の構成の糸貯留装置が提供される。即ち、この糸貯留装置は、糸貯留ローラと、下流側案内部と、を備える。前記糸貯留ローラは、糸を巻き付けるためのものである。前記下流側案内部は、前記糸貯留ローラの下流側で糸道を案内する糸通過部を有する。前記糸通過部は、前記糸貯留ローラから解舒された糸の糸道を、当該糸貯留ローラの回転軸線上の点に収束させるように配置される。前記糸通過部より下流側の糸道は、前記糸道が収束する点から、前記糸貯留ローラの回転軸線に沿って延びた後、屈曲して更に下流側へ延びる。
【0014】
これにより、糸道が収束する点における糸の屈曲角度を常に一定とすることができるので、糸の張力変動を良好に抑制することができる。
【0015】
前記の糸貯留装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この糸貯留装置は、前記糸貯留ローラの上流側で糸道を案内する上流側案内部を備える。前記上流側案内部を通過する前の糸道と、当該上流側案内部と前記糸貯留ローラとの間の糸道と、がなす角度が90度以上である。
【0016】
これにより、上流側案内部において糸が鋭く屈曲されることがないので、糸品質の低下を一層抑制することができる。
【0017】
本発明の第3の観点によれば、前記の糸貯留装置を備える繊維機械が提供される。
【0018】
これにより、張力変動による糸の品質低下を防止できるので、高品質な製品を製造することができる。
【0019】
本発明の第4の観点によれば、前記の繊維機械としての紡績機における以下の構成が提供される。即ち、この紡績機は、紡績装置と、巻取装置と、を備える。前記紡績装置は、紡績糸を生成する。前記巻取装置は、前記紡績糸を巻き取ってパッケージを形成する。前記紡績装置から出た紡績糸は前記糸貯留ローラに貯留され、当該糸貯留ローラから解舒された紡績糸が前記パッケージに巻き取られるように構成されている。前記紡績装置から出た紡績糸が前記パッケージに巻き取られるまでの糸道の屈曲角度がすべて90度以上であり、前記糸通過部から前記パッケージまでの糸道がほぼ一直線状に構成されている。
【0020】
これにより、紡績装置で紡績されてからパッケージに巻き取られるまでの一連の工程において紡績糸の屈曲が抑制されるので、高品質なパッケージを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る紡績機を示す正面図。
【図2】紡績機の側面断面図。
【図3】糸貯留装置の斜視図。
【図4】糸貯留ローラから解舒された紡績糸の糸道を示す側面拡大図。
【図5】変形例の糸貯留装置の側面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る繊維機械としての紡績機1を示す正面図である。図2は、紡績機1の側面断面図である。なお、以下の説明において「上流」及び「下流」とは、紡績時の糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の紡績機1は、複数の紡績ユニット2と、糸継台車3と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、フレーム6と、を備える。紡績ユニット2は直線状に並べてフレーム6に配置されており、それぞれの紡績ユニット2が、所定長の紡績糸10を巻いたパッケージ45を形成できるように構成されている。フレーム6には、紡績ユニット2が並べられる方向に沿って配置されるレール41が設けられており、前記糸継台車3は前記レール41に沿って走行可能に構成されている。
【0024】
次に紡績ユニット2について説明する。図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、糸貯留装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は紡績機1のフレーム6の上端近傍に設けられており、スライバ15を延伸して繊維束8とするためのものである。紡績装置9は、前記ドラフト装置7によって送られてきた繊維束8に撚りを与えて紡績するように構成している。紡績装置9で生成された紡績糸10は糸送り装置11で送られて、後述のヤーンクリアラ52を通過した後、糸貯留装置12を更に通過して巻取装置13によって巻き取られ、これによりパッケージ45が形成される。
【0025】
ドラフト装置7は、図2に示すように、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18を装着したミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラを備えている。ドラフト装置7は、これらのドラフトローラによってスライバ15を延伸して繊維束8とするとともに、当該繊維束8を下流側の紡績装置9に送るように構成されている。
【0026】
紡績装置9の詳細な構成は図示しないが、本実施形態では、旋回気流を利用して繊維束8に撚りを与える空気式のものを採用している。なお、紡績装置9は、繊維束8を紡績するものであれば任意の方式を採用することができ、空気式に限定されるものではない。
【0027】
糸送り装置11は、紡績機1のフレーム6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触して設けられたニップローラ40と、を備える。デリベリローラ39とニップローラ40は、紡績装置9から紡出された紡績糸10をニップできるように構成されている。デリベリローラ39は、ニップローラ40との間に紡績糸10をニップした状態で図略の電動モータで回転駆動されることにより、紡績糸10を下流の糸貯留装置12側へ送り出すことができる。
【0028】
糸送り装置11の下流には、糸貯留装置12が設けられている。この糸貯留装置12は、紡績糸10に所定の張力を与えて紡績装置9から引き出す機能と、糸継台車3による糸継時などに紡績装置9から送り出される紡績糸10を滞留させて糸の弛みを防止する機能と、巻取装置13側の張力の変動が紡績装置9側に伝わらないように張力を調節する機能と、を有している。
【0029】
糸貯留装置12は、図2に示すように、糸貯留ローラ21と、糸掛け部材22と、上流側ガイド(上流側案内部)23と、電動モータ25と、下流側ガイド(下流側案内部)26と、を備えている。
【0030】
糸掛け部材22は、紡績糸10に係合する(引っ掛ける)ことが可能に構成されており、紡績糸10に係合した状態で糸貯留ローラ21と一体的に回転することで、当該糸貯留ローラ21の外周面に紡績糸10を案内できるように構成されている。
【0031】
糸貯留ローラ21は、その外周面に紡績糸10を巻き付けて貯留できるように構成されている。また、糸貯留ローラ21の近傍には電動モータ25が配置されており、糸貯留ローラ21は当該電動モータ25によって回転駆動されるようになっている。糸貯留ローラ21の回転軸線は、紡績機1の正面側が若干前下がりとなるように傾斜して配置されている。
【0032】
上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21のやや上流側に配置されている。この上流側ガイド23は、糸道を屈曲させ、糸貯留ローラ21の外周面に対して紡績糸10を適切に案内するように構成されている。
【0033】
下流側ガイド26は、糸貯留ローラ21のやや下流側に配置されている。この下流側ガイド26は、回転する糸掛け部材22によって振り回される紡績糸10の軌道を規制し、これより下流側の糸道(後述の下流糸道)を安定させて紡績糸10を案内するように構成されている。
【0034】
ヤーンクリアラ52は、紡績機1のフレーム6の前面側であって、前記糸送り装置11より若干下流側に配置される。そして、紡績装置9で紡出された紡績糸10は、巻取装置13で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を図略の制御部へ送信するように構成されている。
【0035】
前記制御部は、前記糸欠点検出信号を受信すると、直ちにカッタ57で紡績糸10を切断し、更にドラフト装置7や紡績装置9等を停止させる。また、制御部は糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させる。その後、紡績装置9等を再び駆動し、前記糸継台車3に糸継ぎを行わせて紡績及び巻取りを再開させるようになっている。ヤーンクリアラ52を通過した紡績糸10は、前記糸貯留装置12にいったん貯留された後、解舒されて巻取装置13へ送られる。
【0036】
巻取装置13は、クレードルアーム71と、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備える。このクレードルアーム71は、一端が支軸70まわりに揺動可能に支持されており、他端には、紡績糸10を巻き付けるためのボビン48を回転可能に支持できるように構成されている。巻取ドラム72は、前記ボビン48やそれに紡績糸10を巻き取って形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、トラバースガイド76を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取るようになっている。
【0037】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、前記レール41上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止するように構成されている。前記サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績装置9から送り出される糸端(上糸)を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内するように構成されている。一方、サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端(下糸)を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内するように構成されている。スプライサ43の詳細な構成については省略するが、旋回空気流によって糸端同士を撚り合わせることにより、上糸と下糸とを糸継ぎするように構成されている。
【0038】
次に、糸貯留装置12の詳細な構成について図3及び図4を参照して説明する。図3は、糸貯留装置12の斜視図である。図4は、糸貯留装置12の拡大側面図である。
【0039】
糸貯留ローラ21は耐摩耗性を有する材料で構成されたローラ部材であって、電動モータ25が備える図略のモータ軸に固定されている。この糸貯留ローラ21の外周面21aは、糸掛け部材22を有する側を先端、電動モータ25が配置されている側を基端とすると、基端から先端に向かって順に、基端側テーパ部61と、円筒部60と、先端側テーパ部64と、を備えている。
【0040】
円筒部60は、先端側が僅かに細くなる形状に構成されるとともに、両側のテーパ部61,64に対し段差なく連続する形状になっている。基端側テーパ部61及び先端側テーパ部64は、それぞれ端面側を大径側とする緩やかなテーパ状に構成されている。
【0041】
糸貯留ローラ21の外周面21aにおいて、基端側テーパ部61は、供給された紡績糸10を大径部分から小径部分に向かって円滑に移動させて、中間の円筒部60へ到達させるように案内する。従って、上流側から糸貯留ローラ21に供給される紡績糸10は、この基端側テーパ部61の案内作用によって、常に、基端側テーパ部61と円筒部60との接続部分近傍の位置から糸貯留ローラ21に巻き付き始める。なお、以下の説明では、紡績糸10が糸貯留ローラ21に巻き付き始める位置を単に「巻付開始位置」と称することがある。
【0042】
先端側テーパ部64は、紡績糸10を下流側に向かって解舒する際に、巻き付いている紡績糸10が一度に抜けてしまう輪抜け現象を防止すると同時に、紡績糸10を小径部分から端面側の大径部分へ順送りに巻き戻して、紡績糸10の円滑な引出しを確保する機能を有している。
【0043】
糸貯留ローラ21の先端側に配置される糸掛け部材22は、図3及び図4に示すように、前記糸貯留ローラ21と軸線を一致させて配置される。この糸掛け部材22は、フライヤー軸33と、その先端に固定されるフライヤー38と、を備えている。
【0044】
フライヤー軸33は、糸貯留ローラ21に対して相対回転可能に支持されている。一方、フライヤー軸33又は糸貯留ローラ21の何れか一方には永久磁石が取り付けられ、他方には磁気ヒステリシス材が取り付けられている。これらの磁気的手段により、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21に対し相対回転するのに抗するトルクが発生するように構成されている。この抵抗トルクにより、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21の回転に追従して回転し、結果として両者が一体的に回転できるように構成されている。一方、この抵抗トルクに打ち勝つような力が糸掛け部材22に加わった場合は、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21に対して相対的に回転することができる。
【0045】
また、前記フライヤー38は、前記糸貯留ローラ21の外周面21aに向かって適宜湾曲し、紡績糸10と係合する(紡績糸10を引っ掛ける)ことができる形状に構成されている。これによりフライヤー38は、紡績糸10を引っ掛けて、当該紡績糸10を糸貯留ローラ21の円筒部60へ案内することができる。
【0046】
この構成で、上流側から送られてきた紡績糸10は、所定の回転速度で回転している糸貯留ローラ21に糸掛け部材22を介して巻き付けられていく。上流側ガイド23から糸貯留ローラ21へ供給された紡績糸10は、円筒部60の所定位置(前述した巻付開始位置)に案内され、その位置に巻き付く。そして、円筒部60に巻き付けられた紡績糸10は、続いて巻き付けられる紡績糸10によって軸方向に押されるようにして、下流側(糸貯留ローラ21の先端側)に移動する。従って、紡績糸10は糸貯留ローラ21の基端側(基端側テーパ部61と円筒部60との接続部分)から巻き付けられ、糸貯留ローラ21の先端側から解舒されることになる。
【0047】
以上の構成で、図3のように糸貯留ローラ21に紡績糸10が巻き付いた状態で、フライヤー38に係合している紡績糸10を下流側に引っ張る力が与えられると、糸貯留ローラ21の先端部から紡績糸10を解舒するように糸掛け部材22を回転させようとする力が、フライヤー38に加わる。一方、糸掛け部材22が備えるフライヤー軸33は糸貯留ローラ21に対して相対回転することが可能であるが、フライヤー軸33と糸貯留ローラ21との間に介在する前記磁気的手段が、前記相対回転に抗する向きの抵抗トルクを付与する。
【0048】
従って、糸貯留装置12の下流側の糸張力(糸貯留装置12と巻取装置13と間の糸張力)が前記抵抗トルクに打ち勝つほど強ければ、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21と独立して回転することにより、糸貯留ローラ21の先端側からフライヤー38を介して紡績糸10が徐々に解舒される。一方で、糸貯留装置12の下流側の糸張力が前記抵抗トルクに打ち勝つほど強くない場合は、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21と一体的に回転する。この場合、糸掛け部材22は、回転する糸貯留ローラ21の先端側から紡績糸10が解舒されることを阻止するように働く。
【0049】
このように、糸貯留装置12は、下流側の糸の張力が上がると糸を解舒し、糸の張力が下がる(糸が弛みそうになる)と糸の解舒を止めるように動作することで、糸の弛みを解消して適切な張力を付与することができる。また、上記のように、糸貯留装置12から巻取装置13までの間における紡績糸10の張力変動を吸収するように糸掛け部材22が動作することで、その張力変動が、紡績装置9から糸貯留装置12までの間の紡績糸10に影響を及ぼすことを防止できる。
【0050】
次に、下流側ガイド26の構成及び配置について説明する。下流側ガイド26は図3等に示すように水平なプレート状の部材として構成されており、この下流側ガイド26には直線状の案内溝(糸通過部)91が形成されている。
【0051】
前記糸貯留ローラ21から解舒される紡績糸10は、この案内溝91の端部を通過することで、所定の糸道に案内される。この案内溝91の端部は、図3等に示すように、前下がり状に形成される糸貯留ローラ21の回転軸線92と、水平平板状の下流側ガイド26と、が交わる点に位置している。
【0052】
なお、糸貯留ローラ21に巻き付けられている前記紡績糸10が当該糸貯留ローラ21から解舒される位置は、回転している糸貯留ローラ21及びフライヤー38の位相に応じて様々に異なる。しかしながら紡績糸10は、どの位置から解舒されたとしても、案内溝91の端部を必ず通過することになる。上述のとおり案内溝91の端部は糸貯留ローラ21の回転軸線92上にあるので、糸貯留ローラ21の端部から案内溝91に至る糸道の軌跡は、糸貯留ローラ21の先端面を底面とし、前記案内溝91の端部を頂点とする円錐面93となる。
【0053】
なお、以下の説明では、この案内溝91の端部を、糸道の軌跡が収束する点という意味で「収束点」と称する場合がある。この収束点98は上述のとおり糸貯留ローラ21の回転軸線92上に位置し、また、前記糸道の軌跡である円錐面93の頂点と一致している。
【0054】
案内溝91を通過した紡績糸10は、その向きをほぼ直下方となるように変え、直線状の糸道(下流糸道94)を形成しながら、巻取装置13側へ向かって走行する。この下流糸道94の向きは、糸貯留ローラ21の回転軸線92に対して所定の角度で傾斜している。
【0055】
以上に説明した糸貯留装置12の構成において、図3に示すように、糸貯留ローラ21の回転軸線92を含むとともに紡績機1の設置面に垂直である仮想平面95を定義し、この仮想平面95に、前記円錐面93と、前記下流糸道94と、を平行投影した場合を考える。前記円錐面93を仮想平面95に投影した場合、当該仮想平面95には図4の2点鎖線に示すように、案内溝91の端部(前記収束点98)を頂点とする二等辺三角形が形成される。
【0056】
そして、この二等辺三角形において、糸貯留ローラ21の回転軸線92を挟んで位置する2つの辺96,97と、下流糸道94の仮想平面95への投影により形成される直線と、がなす角度P,Qは、何れも90度以上となっている(P≧90°、Q≧90°)。
【0057】
このレイアウトにより、紡績糸10が糸貯留ローラ21のどの位置から解舒されたとしても、案内溝91の端部(収束点98)において、糸道が鋭角的に屈曲されることがなくなる。従って、糸貯留ローラ21からの解舒位置に応じて収束点98での糸道の屈曲度合いが大きく変化することがないので、糸張力の変動を抑制して良好な品質のパッケージを形成することができる。
【0058】
なお、図3に示すように、上流側ガイド23においても下流側ガイド26と同様に、紡績糸10を通過させるための案内溝99が形成される。そして、紡績糸10は案内溝99を通過する前と後で向きを変え、案内溝99を通過した後の紡績糸10は、前述したように糸貯留ローラ21の円筒部60(巻付開始位置)に供給される。
【0059】
そして、本実施形態では、上流側ガイド23を通過する前の糸道と、上流側ガイド23と糸貯留ローラ21との間の糸道と、がなす角度(図3の角度R)が、90度以上となるように設定されている。これにより、糸貯留ローラ21より上流側での糸道の屈曲度合いを軽減できるので、糸品質の低下を抑制して高品質なパッケージ45を製造することができる。
【0060】
更に、紡績機1において紡績装置9から出た紡績糸10がパッケージ45に巻き取られるまでの糸道に着目すると、糸貯留装置12の上流側ガイド23及び下流側ガイド26での屈曲部分を含め、糸道の屈曲部分での屈曲角度はすべて90度以上となっている。また、下流側ガイド26の案内溝91からパッケージ45までの糸道は、例えば図2に示すように、ほぼ一直線状に形成されている。これにより、紡績装置9で紡績されてからパッケージ45に巻き取られるまでの一連の工程において紡績糸10の屈曲が低減されるので、高品質なパッケージ45を製造することができる。
【0061】
以上に説明したように、本実施形態の紡績機1が備える糸貯留装置12は、糸貯留ローラ21と、下流側ガイド26と、を備える。糸貯留ローラ21は、紡績糸10を巻き付けるためのものである。下流側ガイド26は、糸貯留ローラ21の下流側で紡績糸10を通過させる案内溝91を有する。案内溝91は、糸貯留ローラ21から解舒された紡績糸10の糸道を、当該糸貯留ローラ21の回転軸線92上の点に収束させるように配置される。案内溝91より下流側の糸道である下流糸道94は、糸道が収束する点(収束点98)から、糸貯留ローラ21の回転軸線92に対して傾斜しつつ延びている。そして、糸貯留ローラ21の回転軸線92を含むとともに紡績機1の設置面に垂直である仮想平面95に、糸貯留ローラ21の端部から紡績糸10が解舒されて案内溝91へ至る糸道の軌跡としての円錐面93と、下流糸道94と、を平行投影した場合に、円錐面93が仮想平面95に形成する三角形において糸貯留ローラ21の回転軸線92を挟む2つの辺96,97のそれぞれと、下流糸道94が仮想平面95に形成する直線と、がなす角度P,Qが、何れも90度以上である。
【0062】
これにより、紡績糸10が糸貯留ローラ21から解舒されて案内溝91へ至るときに、当該紡績糸10がどの位置から解舒されたとしても、案内溝91の端部(収束点98)において糸道が鋭く屈曲されない構成とすることができる。従って、糸貯留ローラ21から解舒される紡績糸10の糸道が変化しても収束点98での糸道の屈曲度合いが大きく変化しないので、糸張力の変動を抑制でき、過大なテンションによる糸品質の低下を防止できる。この結果、紡績機1において良好な品質のパッケージを形成することができる。
【0063】
また、本実施形態の糸貯留装置12は、糸貯留ローラ21の上流側で紡績糸10の糸道を案内する上流側ガイド23を備える。そして、上流側ガイド23を通過する前の糸道と、当該上流側ガイド23と糸貯留ローラ21との間の糸道と、がなす角度が90度以上となっている。
【0064】
これにより、上流側ガイド23において紡績糸10が鋭く屈曲されることがないので、一層高品質なパッケージ45を製造することができる。
【0065】
また、本実施形態の紡績機1は、上記の構成の糸貯留装置12を備えている。
【0066】
これにより、張力変動による紡績糸10の品質低下を防止できるので、高品質なパッケージ45を製造することができる。
【0067】
また、本実施形態の紡績機1は、紡績装置9と、巻取装置13と、を備える。紡績装置9は、紡績糸10を生成する。巻取装置13は、紡績糸10を巻き取ってパッケージ45を形成する。そして、紡績装置9から出た紡績糸10は糸貯留ローラ21に貯留され、当該糸貯留装置12から解舒された紡績糸10がパッケージ45に巻き取られるように構成されている。そして、紡績装置9から出た紡績糸10がパッケージ45に巻き取られるまでの糸道の屈曲角度がすべて90度以上であり、下流側ガイド26からパッケージ45までの糸道がほぼ一直線状に構成されている。
【0068】
これにより、紡績装置9で紡績されてからパッケージ45に巻き取られるまでの一連の工程において紡績糸10の屈曲が抑制されるので、高品質なパッケージ45を製造することができる。
【0069】
次に、糸貯留装置の変形例を説明する。図5は、変形例の糸貯留装置12xの側面拡大図である。なお、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0070】
図5に示すように、この変形例に係る糸貯留装置12xは、下流側案内部としての下流側ガイド26aと、第2ガイド26bと、を備えている。第2ガイド26bは、下流側ガイド26aの下流側に配置されている。
【0071】
下流側ガイド26aには、前述の実施形態と同様に、紡績糸10を通過させることが可能な案内溝91aが形成されている。また、第2ガイド26bにも同様に案内溝91bが形成されている。そして、2つの案内溝91a及び案内溝91bは互いに所定の間隔をあけて配置されるとともに、何れも、その端部が糸貯留ローラ21の回転軸線92上に位置するように形成されている。
【0072】
この構成で、糸貯留ローラ21の先端面から解舒された紡績糸10は、下流側ガイド26aに形成された案内溝91aの端部を通過し、更に、第2ガイド26bに形成された案内溝91bの端部を通過する。紡績糸10の糸道は下流側ガイド26aの端部で収束するので、この位置が収束点98となる。
【0073】
紡績糸10は、案内溝91a(前記収束点98)を通過した後においても、糸貯留ローラ21の回転軸線92に沿うように走行する。そして、第2ガイド26bの案内溝91bを通過する際に、ほぼ直下方となるように向きを変えて、巻取装置に向かって走行する。
【0074】
この構成では、紡績糸10が糸貯留ローラ21の先端面のどこから解舒されたとしても、収束点98における紡績糸10の屈曲角度Sを一定にすることができる。従って、糸貯留ローラ21から紡績糸10を解舒するときに発生する張力の変動を効果的に低減することができる。
【0075】
以上に説明したように、本変形例の糸貯留装置12xにおいては、下流側ガイド26aの案内溝91aより下流側の糸道である下流糸道94は、前記糸道が収束する点(収束点98)から、糸貯留ローラ21の回転軸線92に沿って延びた後、屈曲して更に下流側へ延びるように構成されている。
【0076】
これにより、収束点98における紡績糸10の屈曲角度Sを常に一定とすることができるので、紡績糸10の張力変動を良好に抑制することができる。
【0077】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0078】
下流側ガイド26は、案内溝91によって糸道を案内させる構成に限定されない。例えば、下流側ガイドが断面C字状の細長い案内部材を備え、この案内部材によって糸道を案内する構成に変更することができる。また、下流側ガイドが回転可能なガイドローラを備え、このガイドローラの外周面を糸が通過するように構成することができる。なお、上流側ガイド23についても同様であり、糸道を案内する構成を種々変更することができる。
【0079】
糸掛け部材22と糸貯留ローラ21は相対回転可能でなくても良い。例えば、糸貯留ローラに適宜の形状の切欠き部を形成し、この切欠き部を糸掛け部材として機能させることができる。
【0080】
糸掛け部材22と糸貯留ローラ21との間にトルクを加える方法は、上記のような磁気的な手段に限らず、例えば摩擦力でも良く、電磁気的な手段でも良い。
【0081】
糸送り装置11(デリベリローラ39及びニップローラ40)を省略して、紡績装置9から紡績糸10を一定の速度で引っ張る機能を糸貯留装置12の糸貯留ローラ21が兼ねるように変更することもできる。
【符号の説明】
【0082】
12 糸貯留装置
21 糸貯留ローラ
26 下流側ガイド(下流側案内部)
91 案内溝(糸通過部)
92 糸貯留ローラの回転軸線
95 仮想平面
96,97 三角形の辺
98 収束点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維機械に用いられる糸貯留装置であって、
糸を巻き付けるための糸貯留ローラと、
前記糸貯留ローラの下流側で糸を通過させる糸通過部を有する下流側案内部と、
を備え、
前記糸通過部は、前記糸貯留ローラから解舒された糸の糸道を、当該糸貯留ローラの回転軸線上の点に収束させるように配置され、
前記糸通過部より下流側の糸道である下流糸道は、前記糸道が収束する点から、前記糸貯留ローラの回転軸線に対して傾斜しつつ延びており、
前記糸貯留ローラの回転軸線を含むとともに前記繊維機械の設置面に垂直である仮想平面に、前記糸貯留ローラの端部から糸が解舒されて前記糸通過部へ至る糸道の軌跡としての円錐面と、前記下流糸道と、を平行投影した場合に、前記円錐面が前記仮想平面に形成する三角形において前記糸貯留ローラの回転軸線を挟む2つの辺のそれぞれと、前記下流糸道が前記仮想平面に形成する直線と、がなす角度が、何れも90度以上であることを特徴とする糸貯留装置。
【請求項2】
繊維機械に用いられる糸貯留装置であって、
糸を巻き付けるための糸貯留ローラと、
前記糸貯留ローラの下流側で糸道を案内する糸通過部を有する下流側案内部と、
を備え、
前記糸通過部は、前記糸貯留ローラから解舒された糸の糸道を、当該糸貯留ローラの回転軸線上の点に収束させるように配置され、
前記糸通過部より下流側の糸道は、前記糸道が収束する点から、前記糸貯留ローラの回転軸線に沿って延びた後、屈曲して更に下流側へ延びることを特徴とする糸貯留装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糸貯留装置であって、
前記糸貯留ローラの上流側で糸道を案内する上流側案内部を備え、
前記上流側案内部を通過する前の糸道と、当該上流側案内部と前記糸貯留ローラとの間の糸道と、がなす角度が90度以上であることを特徴とする糸貯留装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の糸貯留装置を備えることを特徴とする繊維機械。
【請求項5】
請求項4に記載の繊維機械としての紡績機であって、
紡績糸を生成する紡績装置と、
前記紡績糸を巻き取ってパッケージを形成するための巻取装置と、
を備え、
前記紡績装置から出た紡績糸は前記糸貯留ローラに貯留され、当該糸貯留ローラから解舒された紡績糸が前記パッケージに巻き取られるように構成されており、
前記紡績装置から出た紡績糸が前記パッケージに巻き取られるまでの糸道の屈曲角度がすべて90度以上であり、前記糸通過部から前記パッケージまでの糸道がほぼ一直線状に構成されていることを特徴とする紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−184758(P2010−184758A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28607(P2009−28607)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】