説明

系統保護システム

【課題】汎用ネットワークを用いて、事故区間を適時に特定し、適切な系統遮断信号により事故の除去をする。
【解決手段】回線を介して接続された複数の変電所のそれぞれに、保護リレーと遮断器を設置する。保護リレーは、前方事故検出信号又は保護要素の動作条件を組み合わせたロジック信号を生成する。保護リレーは、生成した情報を子局に伝送する。
子局は、汎用ネットワークを経由して、プルグラマブル・ロジック・コントローラ機能を有する演算ユニットに保護リレーから子局に伝送された信号に、保護リレーのアドレス情報と時刻情報を付加した情報を加えて伝送する。演算ユニットは、各変電所の子機から伝送された保護リレーからのロジック信号、アドレス情報及び時刻情報に基づいて、変電所間を接続する回線の事故を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、送電用変電所や配電用変電所などの変電所に設置された複数の保護リレーから、ネットワークを介して伝送された情報に基づいて、事故区間の特定を行う系統保護システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電流差動リレーは、送電線や配電線の保護に広く適用されている。この電流差動リレーは、複数の保護リレー間で、専用の通信装置と専用回線を介して電気量データを相互伝送し、この電気量データに基づいて保護演算を行うことで事故区間を特定する。また、距離リレーや方向過電流リレーは、保護リレーの設置点から見た事故点の方向を判定できる。そこで、これらのリレーを適用したシステムでは、事故検出情報をキャリア信号として変電所両端で送受信することで、事故区間を特定する。
【0003】
前記の保護リレーシステムは、保護リレー専用の通信装置や専用回線を適用することで精度の高い事故区間の特定を行うことを特徴とする。一方、高価な通信設備を適用せずに、方向判定や事故点までの距離を演算することで保護リレーや方向過電流リレーの動作により事故を除去する技術もある。また、系統によっては、電流データのみで動作する過電流リレーや、電圧データのみで動作する不足電圧リレーなど、保護リレーの設置点だけの情報で事故を除去する保護システムが適用されている場合もある。この場合、保護システムが適切に事故区間を特定できない可能性があり、事故が広範囲に波及する恐れがある。
【0004】
また、小型発電機や太陽光発電などの分散電源を多用した系統のように、その構成が頻繁に変化する電力系統では、系統に設置された各種機器の動作条件により事故電流や遮断器の開閉状態が変化する。そのため、この種の電力系統では、適切な系統保護が行えない場合もある。
【0005】
これらの問題に対し、配電系統の保護システムにおいて、潮流方向と過電流リレーの動作情報を用いた論理判断により、保護対象ゾーン内の事故を精度良く判定する技術が従来から提案されている。
【0006】
この従来技術は、配電ループ系統における分散電源に対応した事故判定システムである。このシステムは、既存の保護リレーと計測技術にて得られる事故検出情報と電力潮流方向情報を、ネットワークを介して事故判定装置に伝送し、事故判定装置においてはこれらの情報を元に簡易なロジックで事故区間を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−262597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のような電流差動リレーやキャリア信号を用いた保護リレーシステムでは、保護リレー専用の通信設備を用いることから高速で高精度の事故区間の特定が行えるが、高価な通信設備と保護リレーシステムが必要である。
【0009】
一方、通信設備を用いない方向判定や事故点までの距離を演算する保護リレーを適用したシステムでは、通信を適用したシステムに比べて事故区間の特定精度が低く、高速で適切な事故遮断が行えない可能性がある。
【0010】
更に、事故検出情報と電力潮流方向情報をもとにネットワークを介して事故区間の特定を行う従来技術は、保護対象が配電ループ系統に特化しており、変電所と保護リレーの設置状況が異なる高圧送電系統に適用することはできない。
【0011】
本発明の目的は、設置点から事故点の方向を判別できる保護リレーと、プルグラマブル・ロジック・コントローラ(以下、PLCという)機能を有する演算ユニットを、汎用ネットワークを用いて接続することにより、事故区間の特定及び系統遮断信号の伝送を専用の通信設備を使用することなく可能とした、系統保護システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態の系統保護システムは、以下のような特徴を有する。
【0013】
(1)回線を介して接続された複数の変電所のそれぞれに、設置点から事故点の方向を判別することのできる保護リレーと、この保護リレーによって開放される遮断器を設置する。
(2)保護リレーは、前方事故検出信号又は保護要素の動作条件を組み合わせたロジック信号を生成する。
(3)保護リレーはメタルケーブルで子局に接続され、保護リレーで生成された信号が保護リレーから子局に伝送される。
(4)子局は、汎用ネットワークを経由して、PLC機能を有する演算ユニットに接続され、保護リレーから子局に伝送された信号に保護リレーのアドレス情報と時刻情報を付加した情報が子局から汎用ネットワークを経由して演算ユニットに伝送される。
(5)演算ユニットは、各変電所の子機から伝送された保護リレーからのロジック信号、アドレス情報及び時刻情報に基づいて、対向する変電所間の回線の事故を判定して遮断信号を生成し、この遮断信号を子局経由で保護リレーに伝送し、この遮断信号より遮断器を開放する。
【0014】
前記実施形態は、以下のような構成とすることも可能である。
(6)演算ユニットには、複数系統の保護リレーからの前方事故、後方事故検出情報、又はそれら保護リレーの動作条件を組み合わせたロジック信号のそれぞれが、複数の前記子局を経由して供給される。これら供給された情報に基づいて、演算ユニットは後備保護あるいは隣接回線を含めた系統保護機能を発揮する。
(7)演算ユニットは、遮断器の開閉状態の信号を保護リレー経由で取り込み、この遮断器の開閉状態の信号と、前記ロジック情報、アドレス情報及び時刻情報に基づいて内部事故を判定するだけでなく、遮断器不良検出機能を有した後備保護、あるいは隣接回線を含めた広範囲な系統保護機能を有することもできる。
(8)子局を、保護リレーに内蔵する。この場合、子局を内蔵した保護リレーに、演算ユニットを内蔵することもできる。
(9)子局と演算ユニットとが時刻情報の関連付けを行う。この関連付けは、外部からの時刻信号による時刻同期によるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態または第3実施形態の系統保護システムを示す系統図である。
【図2】第2実施形態または第3実施形態の系統保護システムを示す系統図である。
【図3】第4実施形態の系統保護システムを示す系統図である。
【図4】第5実施形態の系統保護システムを示す系統図である。
【図5】第6実施形態の系統保護システムを示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.第1実施形態
(構成)
【0017】
図1に示すように、第1実施形態の系統保護システムには、第1と第2の2つの系統の母線10a,10bが設置される。母線10a,10bは、例えば、離れて設置される2つの変電所にそれぞれ設置され、これら母線10a,10bは回線20によって接続される。すなわち、離れて設置される2つの変電所は、回線20を介して対向して配置される。
【0018】
母線10a,10bにはそれぞれ計器用変成器31a,31bが設けられ、回線20の各母線との接続部分には計器用変流器30a,30bが設置される。各計器用変流器・変成器30a〜31bは、母線10a,10bや回線20の電圧を計測する計器用変圧器あるいは回線20の電流を計測する計器用変流器である。
【0019】
第1系統に設けられた計器用変流器・変成器30a,31aには、第1系統用の保護リレー40aが接続され、第2系統に設けられた計器用変流器・変成器30b,31bには、第2系統用の保護リレー40bが接続される。各保護リレー40a,40bとしては、例えば、距離リレーあるいは方向過電流リレーなど、設置点から見た事故点の方向を判別できるものを使用する。各保護リレー40a,40bは、各計器用変流器・変成器30a〜31bからの計測アナログ電気量をデジタルデータに変換し、各計器用変流器・変成器30a〜31bの設置点から見た事故点の方向も判別する。
【0020】
各系統の保護リレー40a,40bには、それぞれ回線遮断用の遮断器50a,50bが接続される。各系統の遮断器50a,50bは、それぞれの系統の保護リレー40a,40bからの信号で開放され、回線20の電流を遮断する。更に、回線20には発電機60が接続され、この発電機60を切り離すために、回線20に遮断器50gが設けられる。この発電機用の遮断器50gは、図示されていない保護リレーからの信号で開放される。
【0021】
本実施形態では、前記第1系統と第2系統の保護リレー40a,40bにおいて、回線20を介して接続される相手方の保護リレーの方向(両保護リレーの対向する方向)を、前方とする。すなわち、第1系統の保護リレー40aは、第2系統の保護リレー40bの方向を前方とし、一方、第2系統の保護リレー40bは、第1系統の保護リレー40aの方向を前方とする。
【0022】
各系統の保護リレー40a,40bには、メタルケーブルを介して子局70a,70bが接続され、この子局70a,70bはネットワーク90を介して演算ユニット80に接続される。
【0023】
前記ネットワーク90は、例えば、イーサネット(登録商標)、電話回線、携帯電話回線、無線LAN(Local Area Network)あるいは企業内LANであるWAN(Wide Area Network)などの汎用ネットワークである。
【0024】
前記子局70a,70bは、保護リレー40a,40bから前方事故検出情報、又は保護要素の動作条件を組み合わせたロジック信号をメタルケーブルを介して1/0のバイナリ信号(接点)情報として受信する。この保護要素の動作条件を組み合わせたロジック信号とは、例えば、零相電流の大きさや相互の位相角などを組み合わせたものである。また、ロジック信号とは、電圧値又は電流値に応じて前方事故の検出出力であり、例えば、前方事故検出状態を「1」とし、前方事故未検出状態を「0」とするようなバイナリ情報である。
【0025】
子局70a,70bは、受信したロジック信号に対して、子局が所有する各保護リレー40a,40bの設置場所情報などを認識するためのアドレスと、保護リレーからの事故検出時の時刻情報を付加して、演算用の情報を生成する。各子局70a,70bは、ネットワーク90を介し、自己が生成した演算用の情報を前記演算ユニット80へ伝送する。
【0026】
演算ユニット80は、ネットワーク90と接続される場所、例えば、変電所や事務所などに設置されたパソコンなどの汎用の計算機によって構成される。この演算ユニット80は、PLCを有する。すなわち、演算ユニット80のPLCは、入出力、AND/ORロジック、タイマーなどを組み合わせることで、シーケンス的なロジックをソフトウェアで構築する。そして、このソフトウェアは、各子局70a,70bから受信した演算用の情報を順次解析し、その解析結果に基づいて対向する変電所間で内部事故が発生したか否かを判定する。
【0027】
(作用)
次に、本実施形態の作用について説明する。
例えば、第1系統と第2系統を接続する回線20で事故が発生した場合、回線20の電気量の変化が第1系統の計器用変流器・変成器30aと31aで検出される。この検出された電気量の変化に関する情報は、計器用変流器・変成器30aと31aから保護リレー40aに伝達される。
【0028】
保護リレー40aは、計器用変流器・変成器30aと31aからの電気量の変化に基づいて、例えば前方事故の検出を行い、その検出結果に応じたロジック信号を生成する。その後、保護リレー40aは、事故情報を示す信号を、メタルケーブルを介して子局70aに伝送する。この場合、保護リレー40aの検出した前方事故検出情報に限らず、例えば、距離リレーや方向過電流リレー等の保護要素の動作出力信号を、ロジック信号とすることもできる。
【0029】
ロジック信号を受信した子局70aは、前記ロジック信号に、保護リレー40aの設置場所情報などを認識するためのアドレスと事故検出時の時刻情報を付加して演算用の情報を生成し、これをネットワーク90を介して、演算ユニット80へ伝送する。演算ユニット80では、前記情報に基づいて、予め定められたアドレスを有する装置から送られた情報か否かを判別する。
【0030】
同様に、第2系統の計器用変流器・変成器30bと31bにおいて、回線20の電気量の変化が検出され計測される。この検出後の作用は、回線20の電気量の変化が計器用変流器・変成器30aと31bで検出された場合と同様であり説明は省略する。
【0031】
前記のようにして、第1系統と第2系統における電気量の変化に基づく保護リレー40a,40bからのロジック信号、保護リレー40a,40bの設置場所情報などを認識するためのアドレスと事故検出時の時刻情報を付加した情報が演算ユニット80に伝送される。演算ユニット80は、これらの情報を予めPLCに設定されたソフトウェアの入力信号に割り付けることで、対向する変電所間での内部事故であるか否かを判定する。この割り付けは、例えば、演算ユニット80のPLCに設定されたソフトウェアにおいて、予め事故情報や保護要素の動作条件がロジックで入力されており、この事故情報と各子局70a,70bからの前記情報とを比較判定し、事故の内容を特定することである。
【0032】
各子局70a,70bから受信した情報が内部事故を示すものと、演算ユニット80が判定すると、この演算ユニット80から遮断信号が、ネットワーク90及び子局70a,70bを経由して、保護リレー40a,40bに伝送される。遮断器50a,50bは、この保護リレー40a,40bからの遮断信号で開放され、回線20の電流が遮断される。このようにしてこの内部事故は除去される。
【0033】
この場合、演算ユニット80は、上記の割り付けと共に、例えば、次のような判定を行うこともできる。すなわち、保護リレー40aと保護リレー40bからの事故情報を、予め設定した時間内に同時に受信し、且つ、この事故情報のアドレスが、事前に認識されている保護リレー40a,40bのアドレスと一致していることを検出した場合に、内部事故として判定する。
【0034】
(効果)
第1実施形態の系統保護システムは、次のような効果を有する。
【0035】
本実施形態は、保護リレーからの情報をネットワーク90を介して子局及び演算ユニットに送受信することより、既存の保護リレーの機能をもとに、簡易な伝送装置と汎用パソコンなどで適用可能な演算ユニットを用いることができる。その結果、保護リレー専用の高価な通信装置と専用回線を用いることなく、安価で簡易なシステムの構築ができる。
【0036】
本実施形態は、保護リレーからの動作信号(例えば、前方事故検出情報などの事故検出情報)、又は保護要素の動作条件を組み合わせたロジック信号を受け、それら情報に所定のアドレス情報と時刻信号を付加する子局70a,70bを備えている。そのため、この子局からの情報と保護リレーからの事故情報とを総合することにより、変電所間の事故情報の検出に加えて、内部事故の判定を行うことができる。
【0037】
2.第2実施形態
(構成)
図2は、第2実施形態の基本的な構成を示す系統図である。この第2実施形態の系統保護システムは、第1実施形態を複数の変電所に跨る広範囲の系統保護や後備保護に適用したものである。
【0038】
本実施形態では、図2に示すように、第2系統の母線10bが、回線20aを介して第1系統の母線10aに接続されると共に、回線20bを介して第3系統の母線10cに接続される。
【0039】
そのため、本実施形態では、第2系統においては、第1と第3系統用の保護リレー40b1,40b2が設けられる。また、これらの保護リレー40b1,40b2には、第2系統の母線10bの電気量を測定する計器用変流器・変成器31b、回線20a,20bの電気量を測定する計器用変流器・変成器30b1,30b2、及び回線20a,20bを遮断する遮断器50b1,50b2が接続される。これら2つの保護リレー40b1,40b2は、第1系統と同様に、子局70bを経由して、演算ユニット80に接続される。
【0040】
同様に、第3系統に設けられた保護リレー40cには、回線20bの電気量を測定する計器用変流器・変成器30c、第3系統の母線10cの電気量を測定する計器用変流器・変成器31c、及び回線20bを遮断する遮断器50cが設けられる。また、この保護リレー40cは、子局70cを経由して、演算ユニット80に接続される。
【0041】
(作用)
前記のような構成を有する第2実施形態では、変電所にある複数の保護リレーからの前方事故あるいは後方事故の検出情報、あるいは保護要素の動作条件を組み合わせたロジック信号を、変電所毎に設置された子局70a〜70cにて受信する。このロジック信号に対して、子局70a〜70cで保護リレー40a,40b1,40b2,40cのアドレスと時刻情報を付加し、演算ユニット80に汎用ネットワークを経由して伝送する。演算ユニット80においては、受信したアドレス及び時刻情報に基づいて、該当する保護リレーを判定し、PLCに対して予め設定されたロジックの入力信号に割り付けることで、複数の変電所に跨る広範囲の系統保護や後備保護を行う。
【0042】
例えば、広範囲な系統保護機能として、第2系統の母線10bでの事故時、保護リレー40b1,40b2が後方での事故を検出した場合、第2系統の母線10bの事故と判断し、遮断器50b1,50b2を開く信号を出す母線保護システムを構築できる。
【0043】
また、後備保護機能の例として、第2系統と第3系統を結ぶ回線20bで事故が起きた際に、第2系統の保護リレー40b2の故障か子局70bの故障が原因で、保護リレー40b2から演算ユニット80が事故検出信号を受信できないことがある。このような場合に、本実施形態は、次のような処理を行う。
【0044】
すなわち、第1系統の保護リレー40aからの前方事故検出信号と第3系統の保護リレー40cからの前方事故検出信号、及びこれらの保護リレーのアドレス情報と時刻情報に基づいて、演算ユニット80は第1系統の遮断器50aと第3系統の遮断器50cを開く信号を出力する。この場合、遮断器50a,50cの遮断タイミングは、前記の故障などがなければ保護リレー40b2,40cからの前方事故検出信号により遮断器50b2,50cを遮断させる時間よりも、一定時間遅延させた時間に設定する。
【0045】
その他、各系統の母線電圧より保護リレー40a〜40cで各系統の周波数を演算する事で低周波状態を検出し、子局70a、70b経由で前述の低周波状態を演算ユニット80に伝送し、演算ユニット80にて予め定めた閾値と負荷設定量による演算ロジックの結果、各母線に接続された負荷回線を遮断することで系統安定化制御を行う事もできる。なお、負荷のみが接続された回線では方向を判別する方向リレーや距離リレーを用いなくとも、電流情報だけで動作する過電流リレーによる動作条件、あるいはその動作条件を組み合わせたロジック信号も適用できる。
【0046】
(効果)
以上説明した第2実施形態は、演算ユニット80が、ネットワーク90を介し、複数の子局と複数の保護リレーと情報を送受信することより、保護リレーや子局に故障が発生した場合でも、正常に稼動している他の保護リレーや子局を用いて遮断器を開放し、母線や回線の事故を保護することができる。その結果、第2実施形態によれば、隣接回線を含む複数の変電所に跨る広範囲の系統保護や後備保護を行うことができる。
【0047】
3.第3実施形態
(構成)
本実施形態の系統保護システムは、上述の第2実施形態において、保護リレー40a〜40cが遮断器50a〜50cの開閉状態を示す信号を取得する機能を有することを特徴とする。本実施形態では、保護リレー40a〜40cが取得した遮断器の開閉状態の信号と、保護リレー40a〜40cにおいて検出する前記事故情報などと共に、子局70a〜70cを経由して、演算ユニット80に伝送される。
【0048】
(作用)
本実施形態の作用について図2を用いて説明する。例えば、第2系統と第3系統を結ぶ回線20bにおいて事故が発生した場合、保護リレー40b2,40cから前方事故情報又は保護要素の動作条件を組み合わせたロジック信号に加えて遮断器閉情報が演算ユニット80に伝送される。
【0049】
そのため、演算ユニット80は、保護リレー40b2,40c経由で遮断器50b2に遮断信号を伝送した後も、保護リレー40b2から得られる遮断器50b2の開閉情報を受信している。演算ユニット80が受信した開閉情報により事前に設定された所定時間内に遮断器50b2が開かないことを検出し、かつ、演算ユニット80が保護リレー40b1からの後方事故検出信号や保護リレー40aからの前方事故検出信号が継続していることを検出した場合は、次のような処理を行う。すなわち、演算ユニット80は、遮断器50aまたは遮断器50b1を開く信号を保護リレー40aまたは保護リレー40b1に伝送し、遮断器50aまたは50b1を開くことで、回線20bにおける事故を除去する。これにより、本実施の形態において、後備保護システムを構成することができる。
【0050】
また、演算ユニット80が、遮断器50b2の閉情報を受信した後、保護リレー40aや40b1からの事故情報や保護要素の動作条件を組み合わせたロジック信号を受信することなしに、演算ユニット80から遮断器50b1を開く信号を伝送することもできる。その結果、本実施形態により、遮断器の不動作に対応できる継電機能を有する後備保護システムを構成することが可能になる。
【0051】
このように本実施形態は、遮断器50aや50b1を開く信号を演算ユニット80からネットワークを経由して伝送することのできる転送遮断機能を有する。これにより、本実施形態を広範囲な系統保護システムとして使用できる。
【0052】
(効果)
以上説明した第3実施形態は、遮断器の開閉状態の信号を保護リレー経由で取り込むことができる機能を有することで、事故区間の特定に加え、遮断器不良の検出を行うことができる。すなわち、遮断器自体の故障時に最小の区間で事故が除去できない場合でも、隣回線の遮断器をネットワークを経由した情報で遮断する。このように本実施形態では、予め設定されたロジックの入力信号をPLCを有する演算ユニット80で処理するという簡単な構成により、後備保護又は隣接回線を含めた広範囲な系統保護を行うことができる。
【0053】
4.第4実施形態
図3に示すように、第4実施形態の系統保護システムにおいては、第2実施形態若しくは第3実施形態の子局70a〜70cが保護リレー40a〜40bに内蔵された子局内蔵保護リレー100a〜100cが使用される。従って、保護リレーと子局との信号の送受信は、メタルケーブルを使用することなく、保護リレーの部品の一部として子局を組み込むことが可能である。本実施の形態において、それ以外の構成並びに各機器の機能、作用は前記各実施の形態と同様である。
なお、この子局が保護リレーに内蔵される構成は、第1実施形態に用いても良い。
【0054】
以上説明した本実施形態は、前記各実施形態の効果に加え、変電所毎に設置された子局の機能が各保護リレーに内蔵されることで、保護リレーからの情報を子局に伝達する必要がないため、設置作業の簡素化や伝送処理の効率化を図ることができる。
【0055】
5.第5実施形態
図4に示すように、第5実施形態の系統保護システムは、第4実施形態の系統保護システムの構成に加えて、時刻分配器120を有する。この時刻分配器120は、GPS衛星130から時刻同期用信号を供給される。
【0056】
時刻分配器120は、GPS衛星130からの時刻同期用信号を、子局内蔵保護リレー100〜100cと演算ユニット80とに伝送し、これらの装置間で時刻同期が行われる。
【0057】
すなわち、子局内蔵保護リレー100a〜100cと演算ユニット80とが、時刻情報の関連付けを行っており、この関連付けが外部からの時刻信号による前記時刻同期により行われる。なお、この時刻同期信号を演算ユニット80に伝送して、この演算ユニット80を時刻サーバーとしてこの時刻同期信号を子局内蔵保護リレー100a〜100cに伝送し、同期させても良い。
【0058】
なお、この時刻分配器120を有する構成は、第1〜第3実施形態の構成に用いても良い。また、本実施形態は、時刻分配器120を除き第4実施形態の構成と同様であり、系統保護システムとして第4実施形態と同様の作用を有する。
【0059】
本実施形態は、時刻分配器120を有することで、GPS衛星からの正確な時刻情報に基づいて各装置の時刻同期を行うことができ、より正確な時間協調に基づいた系統保護システムの構築ができる。また、このような時刻同期により、精度の高い時間協調を事故検出ロジックに適用することができる。
【0060】
6.第6実施形態
図5に示すように、第6実施形態は、第5実施形態の子局内蔵保護リレー100aに演算ユニット80が内蔵された演算ユニット子局内蔵保護リレー110を使用することを特徴とする。
【0061】
なお、子局と演算ユニットが保護リレー又は全てに内蔵されているこの構成は、図3に示す第4実施形態に用いても良い。また、本実施形態の作用は、子局内蔵保護リレー100と演算ユニット80を一体化した以外は、第4,第5実施形態と同様である。
【0062】
本実施形態は、変電所毎に設置された子局の機能が各保護リレーに内蔵され、且つ、変電所や事務所に設定された演算ユニットが、この保護リレーの一又は全てに内蔵されることで、保護リレーからの情報を子局及び演算ユニットに伝送する必要がない。これにより、本実施形態では、設置作業の簡素化や伝送処理の効率化を図ることができる。
【0063】
7.他の実施形態
補機の実施形態は、前記のものに限定されるものではなく、以下のような構成も含有する。
【0064】
(1)前記各実施形態では、1回線で各々接続された2つの変電所間での内部事故検出機能や、3つの変電所間での拡張・後備保護機能を示したが、これに限定されない。系統保護システムは、例えば、多回線で接続された系統やループ系統においても構築しても良い、また、多変電所間にて電圧階級の高低に依存しない各装置のアドレス設定などの柔軟なシステムを構築しても良い。
【0065】
(2)第1から第6実施形態では、母線は1系統としているがこれに限定されない。1つの変電所において複数の系統の母線を有する構成でも良い。
【0066】
(3)第5、第6実施形態では、時刻分配器は、GPS衛星からの時刻に基づいているがこれに限定されない。時刻配信用の電波塔からの信号なども利用できる。
【0067】
(4)上記の実施形態は、本明細書において一例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図するものではない。すなわち、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことが可能である。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
10a〜10c…母線
20a,20b…回線
30a〜30c,31a〜31c…計器用変流器・変成器
40a〜40c…保護リレー
50a〜50d…遮断器
60…発電機
70a〜70b…子局
80…演算ユニット
90…ネットワーク
100a〜100c…子局内蔵保護リレー
110…演算ユニット子局内蔵保護リレー
120…時刻分配器
130…GPS衛星


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回線を介して接続された複数の変電所のそれぞれに、設置点から事故点の方向を判別することのできる保護リレーと、この保護リレーによって開放される遮断器が設置され、
前記保護リレーは、前方事故検出信号又は保護要素の動作条件を組み合わせたロジック信号を生成し、
前記保護リレーは、メタルケーブルで子局に接続され、保護リレーで生成された情報が保護リレーから子局に伝送され、
前記子局は、汎用ネットワークを経由して、プルグラマブル・ロジック・コントローラ機能を有する演算ユニットに接続され、保護リレーから子局に送信された信号に保護リレーのアドレス情報と時刻情報を付加した情報が子局から汎用ネットワークを経由して演算ユニットに伝送され、
前記演算ユニットは、各変電所の子局から伝送された保護リレーからのロジック信号、アドレス情報及び時刻情報に基づいて、変電所間を接続する回線内部の事故を判定して遮断信号を生成し、この遮断信号を子局経由で保護リレーに伝送し、この遮断信号より遮断器を開放することを特徴とする系統保護システム。
【請求項2】
演算ユニットには、複数系統の保護リレーからの前方事故、後方事故検出情報、又はそれら保護リレーの動作条件を組み合わせたロジック信号のそれぞれが、複数の前記子局を経由して供給され、これら供給された情報に基づいて演算ユニットが後備保護あるいは隣接回線を含めた広域な系統保護機能を有することを特徴とする請求項1に記載の系統保護システム。
【請求項3】
前記演算ユニットは、前記遮断器の開閉状態の信号を前記保護リレー経由で取り込み、当該信号を前記情報に加えた情報に基づいて内部事故判定に加え、遮断器不良検出機能を有した後備保護、あるいは隣接回線を含めた広範囲な系統保護機能を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の系統保護システム。
【請求項4】
前記子局は、前記保護リレーに内蔵されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の系統保護システム。
【請求項5】
前記子局と前記演算ユニットとが時刻情報の関連付けを行い、当該関連付けが外部からの時刻信号による時刻同期であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の系統保護システム。
【請求項6】
演算ユニットは、前記子局が前記保護リレーに内蔵されている当該保護リレーの一又は全てに内蔵されていることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の系統保護システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−90445(P2013−90445A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228857(P2011−228857)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】