説明

紙および製紙分野における添加剤としてのマイケル付加による付加物

数種のマイケル付加による、α,β−不飽和アルキルカルボニル化合物、例えばアミド、エステルおよび酸、具体的にはアクリルアミドとのビニルアミン付加物を提供する。加えて、これらのマイケル付加による付加物の製造方法も説明する。これらの付加物は、一般的に、製紙において有用であり、さらに、製紙機を用いて板紙製品を作製するための乾燥強度を付与する物質として特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、電子求引性基に共役した不飽和結合を有する様々な化合物とのマイケル付加によるビニルアミン付加物、および、ビニルアミン付加物の製造方法に関する。具体的には、本発明は、マイケル付加による、α,β−不飽和アルキルカルボニル化合物、例えばα,β−不飽和アルキルカルボニル化合物、例えばアミド、エステルおよび酸、具体的にはアクリルアミドとのポリビニルアミン付加物に関する。さらに本発明は、製紙用の乾燥強度を付与する物質、および/または、歩留まり向上剤/水切れ助剤(脱水促進剤)としての、これらの付加物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ポリビニルアミンは、多くの工業および製薬用途で用いられている。製紙産業において、ポリビニルアミンは、乾燥および/または湿潤強度を付与する物質、加えて歩留まり/水切れ助剤として用いられてきた。ポリビニルアミンは、分岐のない直鎖状の主鎖構造を有しており、炭素2個の単位ごとに1個の第一級アミン基を有する。このようなポリマーは、高密度の第一級アミンのために、広範なpH範囲の水系中で高いカチオン性を有する。従ってこれらは、様々な工業用途に適した強い水素結合を形成する能力を有する。
【0003】
ポリビニルアミンは、典型的には、N−ビニルホルムアミド単量体のフリーラジカル重合、それに続く直接的な塩基または酸触媒による加水分解(それにより第一級アミンが脱保護され、ギ酸が放出される)によって製造されてきた。また、N−ビニルホルムアミド単位およびビニルアミン単位を含むN−ビニルホルムアミドの部分的に加水分解された水溶性のホモポリマーも、米国特許第4,421,602号で開示されたように製造されてきた。米国特許第2,721,140号は、高い湿潤強度を有する紙を製造するための添加剤としてのポリビニルアミンの使用を開示している。また米国特許第4,421,602号は、製紙プロセスにおいて、パルプ繊維の凝集効率、微細な物質の歩留まり、および、水切れ速度を高めるための、ポリビニルアミン、および、50%加水分解されたポリビニルホルムアミドの使用も開示している。米国特許第5,961,782号は、架橋性のクレーピング用接着剤の調合物を作製するためのポリビニルアミンの使用を開示している。米国特許第6,159,340号は、紙および板紙製造において乾燥および湿潤強度を付与する物質としての、ポリビニルアミンおよび50%加水分解されたポリビニルホルムアミドの製紙における使用を開示している。米国特許第6,616,807号および6,797,785号は、製紙産業における水切れ助剤、凝集剤、および、歩留まり向上剤としてのポリビニルアミンの使用を開示している。ポリビニルアミンおよびその誘導体の独特な特性、および、広範囲の用途にもかかわらず、その他のポリビニルアミン代替物が未だに模索されている。
【0004】
米国特許第4,774,285号で開示されているように、N−ビニルホルムアミド単量体を追加のビニル単量体(例えば酢酸ビニル)と共重合させ、それに続いて加水分解を受けさせてもよく、それによりビニルアミンおよびビニルアルコールの水溶性コポリマーが製造される。これらの水溶性コポリマーは、製紙用の湿潤および乾燥強度を付与する物質として使用可能である。さらに、米国特許第5,630,907号は、ビニルアミン単位およびアクリル酸単位を含むコポリマー組成物、および、それらの用途を開示している。米国特許第6,797,785号は、逆乳化重合による、ビニルアミン単位、および、ジアリルジメチルアンモニウム(塩化物)(「DADMAC」)単位、または、アクリルアミド単位を含むコポリマー組成物、および、このようなコポリマーの、製紙産業のための凝集剤および凝固剤としての使用を開示している。EP0251182は、製紙の際に、水切れ助剤、歩留まり剤として、さらにウェットエンド添加剤として使用して紙製品の乾燥紙力を増強するための、ビニルアミン単位およびアクリロニトリル単位を含むコポリマーを開示している。一般的に、このようなコポリマー組成物は、C−C結合を介して直鎖状にランダムに一緒に結合したビニルアミン単位および追加のビニル単位を含み、このような組成物は、ポリマー主鎖中のビニルアミン単位の密度が低いため、ポリビニルアミンと比較して低いカチオンの電荷密度を示す。
【0005】
物理特性および適用性を変化させたポリビニルアミン類似体を製造するための代替的アプローチは、第一級アミンを改変することによるポリビニルアミンの誘導体化である。例えば、米国特許第5,292,441号は、廃水浄化のための凝集剤としての四級化したポリビニルアミンの使用を開示しており、この四量体化したポリビニルアミンは、ポリビニルアミンと、塩化メチル、硫酸ジメチル、または、塩化ベンジルのような四級化剤との反応によって得られる。米国特許第5,994,449号は、エピハロヒドリンと、ポリ(ビニルアミン−コ−ビニルアルコール)コポリマー、および、ポリアミノアミドの混合物と反応生成物である樹脂組成物、および、この組成物のクレーピング用接着剤としての使用を開示している。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、マイケル付加反応によるポリビニルアミンの改変を対象とする。マイケル付加は、求核剤を、電子求引性基に共役したα,β−不飽和結合、具体的にはα,β−不飽和カルボニル化合物に共役付加することを含む化学反応であって、それにより、鎖が伸長した生成物が生じる。この付加反応の1つの興味深い利点は、反応によって放出される副産物が生じないことである。結果として、マイケル付加反応は、有機合成で広く用いられてきており、さらに多くの状況においてポリマー化学にも適用されている。
【0007】
発明の要約
本発明は、ビニルアミン、例えばビニルアミンホモポリマー(ポリビニルアミン)、ビニルアミンコポリマー、または、ビニルアミンターポリマーの、電子求引基に共役したα,β−不飽和結合を有する化合物、具体的にはα,β−不飽和アルキルカルボニル化合物とのマイケル付加による生成物に関する。この組成物において、不飽和アルキルカルボニル化合物は、ビニルアミン(好ましくはポリビニルアミン)の第一級アミンが不飽和部分に求核付加してN−C結合を形成することによって、ビニルアミン主鎖に付加されており、ここで不飽和の二重結合はその後、飽和状態になる。一般的に、本発明は、以下の一般式で示されるマイケル付加による付加物に関する:
【0008】
【化1】

【0009】
式中、
は、カルボキシル、カルボキサミド、ヒドロキシル、アルキルアミン、アルカノキシル、アルケニル、アルキニル、ニトロ、および、シアノ基からなる群より選択され、Xは、いずれかのいずれかの電子求引性基またはアミンを含み、
およびRは、同一でもよいし、または異なっていてもよく、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボニル、カルボキシル、および、カルボキサミド基からなる群より選択され、
m、nおよびqは、正の整数であり、ポリマー中にランダムに分布するその反復単位の数を示しており、
m+qは、2,000〜20,000の範囲であり、
m/(m+q)は、2/100〜95/100の範囲であり、および、
nは、0〜18,000の正の整数である。nが0である場合、マイケル付加に用いられるポリマーは、ポリビニルアミンホモポリマーである。
【0010】
具体的には、アクリルアミドまたはマレイン酸ジメチルは、マイケル付加によってビニルアミンに付加され、その付加された化合物のビニルアミンに対するモル比は、その反復単位に基づいて様々である。ポリビニルアミンの場合、ポリビニルアミンの反復単位は全て、低い分子量43を有する(1個の第一級アミンを含む)。1個の化合物を反復単位それぞれに付加することによって、ポリビニルアミンの総重量は増えるが、水性媒体中でのポリマーの物理的なサイズおよび分子構造にはほとんど影響がない。付加反応の後、ポリビニルアミンの第一級アミンの多く(全てではないが)が、付加された化合物の反復単位に対するモル比に応じて第二級アミンに変換される。アクリルアミドが用いられる場合、3−アルキルアミノ−プロピオンアミド官能基が形成され、直鎖状のポリマー主鎖から分岐が生じる。分岐状のアミド基は、水性媒体中のポリビニルアミンの物理特性を変化させ、分子間および分子内の相互作用を強化し、その水への結合能力を低下させる。化学的に言えば、第一級アミンは第二級アミンに変換されるため、ポリマーのカチオンの電荷密度を低下させる。実質的に、これらの物理特性および化学特性における変化は、最終的に、適用性、例えばパルプ繊維への接着親和性、架橋を形成する能力、および、他のポリマーとの相互作用などに影響を与える。
【0011】
ビニルアミンのマイケル付加反応は、一般的に、反応媒体中で、典型的には水中で行われ、その際のビニルアミンの固体含量は約10〜20%である。この付加反応は、アミンが遊離であり、反応に利用可能な場合、アルカリ条件下で行われる。この反応は、一般的に、いかなる触媒も用いることなく高温で約2〜5時間行われる。
【0012】
アクリルアミドまたはマレイン酸ジメチルとのマイケル付加によるビニルアミン付加物は、製紙用添加剤として用いられる場合、抄紙機を用いて作製された紙製品に、ポリビニルアミンに比べて改善された、または、それと等しい乾燥強度を付与する。このような物質は、乾燥パルプに基づき約0.01%〜約0.5%の処理レベルで有効である。また、このような生成物は、パルプ繊維に優れた水切れ性および歩留まり特性も付与する。
【0013】
本発明の組成物は、最も広範には、電子求引性基に共役したα,β−不飽和結合を有する化合物を、ビニルアミン、例えばビニルアミンホモポリマー(ポリビニルアミン)、ビニルアミンコポリマー、または、ビニルアミンターポリマー、好ましくはポリビニルアミンのアミン基に付加することによって作製することができる。本組成物は、式Aの一般式で示される反復単位を含み、
式中、
およびRは、H、いずれかのアルキル、アルケニル、アルキニル、カルボニル、カルボキシル、または、カルボキサミドであり、
Yは、カルボニル、カルボキシル、カルボキサミド、スルホンアミド、スルホンイミド、スルホニル、または、ホスホニル基であり、
は、H、OH、NH、SH、ならびに、いずれかの短鎖(C〜C)、および、長鎖(C〜C22)アルキル基であり、
Zは、ニトロ、シアノ、または、当分野で知られているその他の電子求引性基であり、
は、上述した通りであり、qおよびmは、それぞれビニルアミンの反復単位、および、反応したビニルアミンの反復単位を示し、さらに、q+mまたはrの合計は、約2,000〜約20,000の範囲のいずれかの数値であり、m/(m+q)は、約2/100〜約95/100であり;nは、0〜18,000の正の整数である。nが0である場合、マイケル付加に用いられるポリマーは、ポリビニルアミンホモポリマーである。
【0014】
しかしながら、最も好ましくは、一般式Aで示されるカルボニル基に共役した共役二重結合を有する化合物との、ポリビニルアミンのマイケル付加物の組成物であり、ここで式中、
は、H、カルボン酸、カルボキシラートメチルエステルであり、
は、H、または、メチルであり、Yは、カルボキサミド、または、カルボニルであり、
は、H、NH、または、OHであり、m+q、は、約2000〜約10,000の範囲のいずれかの数値であり、および、
m/(m+q)は、約1/20〜約95/100であり;nは、0である。
【0015】
【化2】

【0016】
本発明に包含される組成物の好ましい群において、付加反応にはアクリルアミドが用いられる。アクリルアミドの、繰り返しのビニルアミン単位に対するモル比は、好ましくは、約0.05より大きいが、約1未満である。このモル比が約1である場合、ビニルアミンの全ての第一級アミンが、アクリルアミドと反応することになる。少なくとも1個の繰り返しビニルアミン単位が、アクリルアミド、または、その他の電子求引性基に共役したα,β−不飽和基を有する化合物と反応して、一般式Aで示された構造を形成する。より好ましくは、アクリルアミドの、ポリビニルアミン中の繰り返しのビニルアミン単位に対するモル比は、約0.2より大きく約0.9未満である。最も好ましくは、アクリルアミドの反復単位に対するモル比は、約0.67であり、この比率において、この新規の組成物は板紙製品に望ましい適用性を付与する。
【0017】
場合によっては、以下の反応スキームで示されるように、マイケル付加による付加物をさらに反応させて、追加の官能性を有するポリビニルアミン誘導体を製造することが望ましい。代表的な例として、式Bで示されるマイケル付加による付加物(式中Rは、H、または、COOCHであり、Rは、Hまたはメチルであり、Rは、OCH、または、NHである)はさらに、酸または塩基性条件下で部分的または完全に加水分解させて、式B(式中Rは、HまたはCOOHであり、Rは、Hまたはメチルであり、Rは、OHである)で示されるような両性ポリマー組成物を製造することもできる。
【0018】
また、カルボキサミド基を有する化合物(例えばアクリルアミド)とのポリビニルアミンのマイケル付加は、アルカリ条件下でナトリウムの過ハロゲン化物を用いたホフマン転位によっても新規の組成物に転換することができる。この新規のポリマーは、式Cで示される一般式を有しており、ここで式中Rは、Hまたはアルキル基であり、Rは、Hまたはメチルであり、Yは、NHである。このアプローチにおいて、追加の第一級アミノ基が形成され、ポリビニルアミン主鎖から伸長する。
【0019】
さらにこのようなマイケル付加によるアクリルアミドとのビニルアミン付加物は、アルデヒドまたはジアルデヒドと反応して、アミン基から分岐したN−(1−置換ヒドロキシメチレン)プロピオンアミド基を有する改変されたポリビニルアミンを製造することができる。このタイプの新規のポリマーは、式Dで示される一般式を有しており、ここで式中Rは、HまたはCHOHRであり、Rは、CHO、または、いずれかのアルキル基もしくは置換アルキル基であり、Rは、Hまたはメチルである。グリオキサールのようなジアルデヒド化合物が用いられる場合、反応性の官能基が、ビニルアミドとアクリルアミドとのマイケル付加物に導入される。グリオキサル化されたマイケル付加物は、製紙用途のための一時的な湿潤強度を付与する物質として用いてもよいし、または、強化された乾燥強度を付与する物質として用いてもよい。
【0020】
具体的に言えば、マイケル付加によって、アクリルアミドまたはマレイン酸ジメチルが、付加された化合物のビニルアミンに対する様々なモル比で(その反復単位に基づく)ビニルアミンに付加される。ポリビニルアミンの場合、ポリビニルアミンの反復単位は全て、低い分子量43を有する(1個の第一級アミンを含む)。1個の化合物を反復単位それぞれに付加することによって、ポリビニルアミンの総重量は増えるが、水性媒体中でのポリマーの物理的なサイズおよび分子構造にはほとんど影響がない。付加反応の後、ポリビニルアミンの第一級アミンの多く(全てではないが)が、付加された化合物の反復単位に対するモル比に応じて第二級アミンに変換される。アクリルアミドが用いられる場合、3−アルキルアミノ−プロピオンアミド官能基が形成され、直鎖状のポリマー主鎖から分岐が生じる。分岐状のアミド基は、水性媒体中のポリビニルアミンの物理特性を変化させ、分子間および分子内の相互作用を強化し、その水への結合能力を低下させる。化学的に言えば、第一級アミンは第二級アミンに変換されるため、ポリマーのカチオンの電荷密度を低下させる。実質的に、これらの物理特性および化学特性における変化は、最終的に、適用性、例えばパルプ繊維への接着親和性、架橋を形成する能力、および、他のポリマーとの相互作用などに影響を与える。
【0021】
ビニルアミンのマイケル付加反応は、一般的に、反応媒体中で、典型的には水中で行われ、その際のビニルアミンの固体含量は約10〜20%である。この付加反応は、アミンが遊離であり、反応に利用可能な場合、アルカリ条件下で行われる。この反応は、一般的に、いかなる触媒も用いることなく高温で約2〜5時間行われる。
【0022】
アクリルアミドまたはマレイン酸ジメチルとのマイケル付加によるビニルアミン付加物は、製紙用添加剤として用いられる場合、抄紙機を用いて作製された紙製品に、ポリビニルアミンに比べて改善された、または、それと等しい乾燥強度を付与する。このような物質は、乾燥パルプに基づき約0.01%〜約0.5%の処理レベルで有効である。また、このような生成物は、パルプ繊維に優れた水切れ性および歩留まり特性も付与する。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明の組成物は、電子求引性基に共役したα,β−不飽和結合を有する化合物を、ビニルアミン、例えばビニルアミンホモポリマー(ポリビニルアミン)、ビニルアミンコポリマー、または、ビニルアミンターポリマー、好ましくはポリビニルアミンのアミン基に付加することによって作製することができる。本組成物は、式Aの一般式で示される反復単位を含み、ここで式中、
およびRは、水素、または、いずれかのアルキル、アルケニル、アルキニル、カルボニル、カルボキシル、または、カルボキサミドであり、Yは、カルボニル、カルボキシル、カルボキサミド、スルホンアミド、スルホンイミド、スルホニル、または、ホスホニル基であり、
は、H、OH、NH、SH、ならびに、いずれかの短鎖(C〜C)および長鎖(C〜C22)アルキル基であり、Zは、ニトロ、シアノ、または、当分野で知られているその他の電子求引性基であり、mおよびnは、それぞれビニルアミンの反復単位、および、反応したビニルアミンの反復単位を示し、n+mの合計は、約2,000〜約20,000の範囲のいずれかの数値であり、n/(m+n)は、約2/100〜約95/100である。
【0024】
しかしながら、最も好ましくは、一般式Aで示される、カルボニル基に共役した共役二重結合を有する化合物とのポリビニルアミンのマイケル付加物の組成物であり、ここで式中、
は、H、カルボン酸、カルボキシラートメチルエステルであり、
は、Hまたはメチルであり、Yは、カルボキサミド、または、カルボニルであり、
は、H、NH、または、OHであり、m+nは、約2000〜約10,000の範囲のいずれかの数値であり、n/(m+n)は、約1/20〜約95/100であり;Xは、上記で示した通りであり;nは、m/m+である。
【0025】
本発明に包含される組成物の好ましい群において、付加反応にはアクリルアミドが用いられる。アクリルアミドの、繰り返しのビニルアミン単位に対するモル比は、好ましくは、約0.05より大きいが、約1未満である。モル比が約1である場合、ビニルアミンの全ての第一級アミンは、アクリルアミドと反応することになる。少なくとも1個の繰り返しビニルアミン単位が、アクリルアミド、または、その他の電子求引性基に共役したα,β−不飽和基を有する化合物と反応して、一般式Aで示された構造を形成する。より好ましくは、アクリルアミドの、ポリビニルアミン中の繰り返しのビニルアミン単位に対するモル比は、約0.2より大きく約0.9未満である。最も好ましくは、アクリルアミドの反復単位に対するモル比は、約0.67であり、この比率において、この新規の組成物は板紙製品に望ましい適用性を付与する。
【0026】
場合によっては、以下の反応スキームで示されるように、マイケル付加による付加物をさらに反応させて、追加の官能性を有するポリビニルアミン誘導体を製造することが望ましい。代表的な例として、式Bで示されるマイケル付加による付加物(式中Rは、H、または、COOCHであり、Rは、Hまたはメチルであり、Rは、OCH、または、NHである)はさらに、酸または塩基性条件下で、部分的または完全に加水分解させて、式B(式中Rは、HまたはCOOHであり、Rは、Hまたはメチルであり、Rは、OHである)で示されるような両性ポリマー組成物を製造することもできる。
【0027】
また、カルボキサミド基を有する化合物(例えばアクリルアミド)とのポリビニルアミンのマイケル付加は、アルカリ条件下でナトリウムの過ハロゲン化物を用いたホフマン転位によっても新規の組成物に転換することができる。このポリマーは、式Cで示される一般式を有しており、ここで式中Rは、Hまたはアルキル基であり、Rは、Hまたはメチルであり、Yは、NHである。このアプローチにおいて、追加の一級アミノ基が形成され、ポリビニルアミン主鎖から伸長する。
【0028】
さらにこのようなマイケル付加によるアクリルアミドとのビニルアミン付加物は、アルデヒドまたはジアルデヒドと反応して、アミン基から分岐したN−(1−置換ヒドロキシメチレン)プロピオンアミド基を有する改変されたポリビニルアミンを製造することができる。このタイプの新規のポリマーは、式Dで示される一般式を有しており、ここで式中Rは、HまたはCHOHRであり、Rは、CHO、または、いずれかのアルキル基もしくは置換アルキル基であり、Rは、Hまたはメチルである。グリオキサールのようなジアルデヒド化合物が用いられる場合、反応性の官能基が、ビニルアミドとアクリルアミドとのマイケル付加物に導入される。グリオキサル化されたマイケル付加物は、製紙用途のための一時的な湿潤強度を付与する物質として用いてもよいし、または、強化された乾燥強度を付与する物質として用いてもよい。
【0029】
マイケル付加による、例えばアクリルアミドとのビニルアミンポリマー付加物を製造するための合成は、典型的には水中で行われるが、有機溶媒を利用してもよいし、または、そのままの状態で行ってもよい。付加物の生成物は、精製を行って得てもよいし、または、精製しなくてもよい。一般的に、アクリルアミドは、ビニルアミン水溶液、好ましくはポリビニルアミン水溶液に、約30℃〜約50℃で、約9.0〜約11.0のpHで、約20〜30分間にわたり徐々に添加される。添加後、この反応は、好ましくは約7〜約14、より好ましくは約9.0〜約12.0、最も好ましくは約11.0〜約11.5のpHで、好ましくは約10℃〜約90℃、より好ましくは約30℃〜約80℃、最も好ましくは約50℃〜約70℃の範囲の反応温度で、完全に反応するのに十分な時間で、一般的に約15分〜約12時間、より好ましくは約1時間〜約8時間、最も好ましくは約3〜約5時間で行うことができる。この反応は、高温で促進することができる。しかしながら、高温での強アルカリ性条件下では、アミンと反応する前にアクリルアミドがアクリル酸に加水分解されないように注意しなければならない。アクリル酸の二重結合は、アミン求核剤に対してほとんど反応性がないが、これはなぜなら、アルカリ性のpH下でのカルボン酸のイオン化が、共役した二重結合を安定化させるためである。
【0030】
一般的に、ビニルアミンのポリマーの分子量は、マイケル付加反応の反応効率にほとんど影響を与えない。製紙用途のためのマイケル付加による付加物を製造するために、ビニルアミンの分子量は、好ましくは約10,000〜約1,000,000ダルトンの範囲であり、より好ましくは約50,000〜約500,000ダルトンの範囲であり、最も好ましくは約200,000〜約400,000ダルトンの範囲である。この反応は、水中の固体含量が、好ましくは約1%〜約50%、より好ましくは約5%〜約25%、最も好ましくは約10%〜約20%で行われる。
【0031】
本発明のマイケル付加による付加物の分子量は、強度を付与する物質としての製紙におけるそれらの使用にとって重要である。付加反応にアクリルアミドが用いられる本発明に包含される組成物の好ましい群において、生成物の分子量(Mw)は、好ましくは約100,000〜約1,000,000ダルトンの範囲であり、より好ましくは約200,000〜約600,000ダルトンの範囲であり、最も好ましくは約250,000〜約450,000ダルトンの範囲である。この好ましい分子量範囲において、マイケル付加による付加物は、分子間で架橋を形成して付加物の凝集を引き起こさないように十分に低く、且つ、パルプ繊維に保持される程度に十分高い。
【0032】
典型的には、アクリルアミドのビニルアミンの第一級アミンへの付加は、約12%のビニルアミン固体を含む水中で行われる。生成物の粘度は、約12%の固体を含む時点の約2020cpsから、マイケル付加後の約15%の固体を含む時点で460cpsに減少する。この有意な粘度減少は、マイケル付加物の分子間および分子内の相互作用が強化されることによって引き起こされ、従って、未反応のポリビニルアミンの第一級アミンに比べて、第二級アミンの水との結合能力は減少する。本付加物の組成物は、Hおよび13C−NMR解析で確認した。最終産物のH−NMRスペクトルは、2.3および2.8ppmにおいて、N−プロピオンアミドの飽和エチレンのプロトンを示す2種の新しい幅広のシグナルを提示した。5.5〜6.5ppmの領域でプロトンシグナルは観察されなかったが、これは、全てのアクリルアミドが、ビニルアミンポリマーのアミン基に共有結合で結合したことを示唆している。13C−NMR解析で180ppmにおける1つの単一ピークが示され、これは、飽和アミドの炭素を示している。アクリルアミド単量体の液体クロマトグラフィー解析で、30〜70ppmの残留したアクリルアミドが示され、これは、最終産物を1〜5%メタ重亜硫酸ナトリウムで処理することによって完全に分解させることができる。pH7.0において、マイケル付加による付加物の電荷密度は、4.7meq/gであるが、未反応のビニルアミンは、pH7.0において10.0meq/gである。またこの結果は、ビニルアミン中の第一級アミンが改変されていることも示している。
【0033】
ブルックフィールド粘度(BV)は、DV−II粘度計(ブルックフィールド・ビスコシティ・ラボ(Brookfield Viscosity Lab),ミドルボロ,マサチューセッツ州)を用いて測定する。装置に、選択されたスピンドル(第27号)を連結させ、これを30RPMの速度に設定する。反応溶液を所定の固体含量で製造する。この溶液に、ブルックフィールド粘度のスピンドルを、いかなる気泡も捕らえないように慎重に挿入して、24℃で3分間、上述の速度で回転させる。単位は、センチポアズである。
【0034】
本明細書において説明されるマイケル付加による付加物の分子量の測定値を得るために、ゲル透過クロマトグラフィーを用いた。ウォーターズ(Waters)の515シリーズのクロマトグラフィー装置を用いたゲル透過カラム(CATSEC4000+1000+300+100)で、移動相として、流速1.0ml/分で溶液の混合物(50:50のHO:アセトニトリル中の1%NaNO/0.1%トリフルオロ酢酸)を用いて解析を達成した。検出器は、ヒューレット・パッカード(Hewlett Packard)の1047A示差屈折計であった。カラム温度は40℃に設定し、検出器の温度は35℃に設定した。市販の限定的な分子量標準であるポリ(2−ビニルピリジン)に対する平均分子量を計算した。次に、生成物の混合物の数平均(Mn)および重量平均分子量(Mw)の推測値をコンピューターで作製した。
【0035】
マイケル付加によるビニルアミン付加物は、多様な電子求引性基に共役した不飽和結合を有する化合物を用いて製造することができる。考慮される適切な化合物および好ましい化合物の例としては、これらに限定されないが、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N−(2−メチルプロパンスルホン酸)アクリルアミド、N−(グリコール酸)アクリルアミド、N−[3−(プロピル)トリメチルアンモニウム塩化物]アクリルアミド、アクリロニトリル、アクロレイン、アクリル酸メチル、アクリル酸アルキル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸アルキル、アクリル酸アリール、メタクリル酸アリール、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]−トリメチルアンモニウム塩化物、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、2−アクリル酸ヒドロキシエチル、3−スルホプロピルアクリラート、2−ヒドロキシエチルメタクリラート、メタクリル酸グリシジル、ペンタフルオロフェニルアクリラート、ジアクリル酸エチレン、ジメタクリル酸エチレン、ヘプタフルオロブチルアクリラート、ポリ(メタクリル酸メチル)、アクリロイルモルホリン、3−(アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリラート、マレイン酸ジアルキル、イタコン酸ジアルキル、フマル酸ジアルキル、2−シアノエチルアクリラート、カルボキシエチルアクリラート、フェニルチオエチルアクリラート、1−アダマンチルメタクリラート、ジメチルアミノネオペンチルアクリラート、2−(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリラート、および、ジメチルアミノエチルメタクリラートが挙げられる。
【0036】
本明細書において説明されるマイケル付加による付加物は、付加された化合物の電子求引基の性質に応じて多数の用途で用いることができる。アクリルアミドで作製された付加物は、乾燥または湿潤紙力増強樹脂として用いることができ、これはなぜなら、追加のアミド基が分子間または分子内の相互作用を強化するためである。付加されたアミド基は、さらに加水分解させてカルボン酸にしてもよいし、または、ホフマン転位によって第一アミドに変換してもよい。プロピオンアミド基の加水分解によって得られたカルボン酸を含む付加物は、両性構造を有し、これも、例えば製紙産業において、強度を付与する物質、または、歩留まり向上剤および水切れ助剤として用いてもよいし、水処理のための凝集剤として用いてもよい。また、ホフマン転位によって得られたエチルアミン基を含む付加物も、強度を付与する物質、歩留まり/水切れ助剤として、および、水処理における凝固剤として、および、その他の多数の類似の工業用途で用いることができる。
【0037】
二官能価または多官能価のα,β−不飽和カルボニル化合物は、マイケル付加反応によりビニルアミンを架橋するのに用いることができる。このような二官能価または多官能価の化合物の例は、エチレングリコールジアクリラート、メチレンビスアクリルアミド、1,4−ブタンジオールジアクリラート、ビスフェノールジアクリラート、ポリエチレングリコールジアクリラート、ヘキサンジオールジアクリラート、1,10−デカンジオールジアクリラート、ジシクロペンテニルアクリラート、ジシクロペンテニルメタクリラート、カルボキシエチルアクリラート、ポリエトキシメタクリラートメタクリラート、フェニルチオエチルアクリラート、1−アダマンチルメタクリラート、ジメチルアミノネオペンチルアクリラート、2−(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリラート、ジメチルアミノエチルメタクリラート、多官能価のアクリルアミド、多官能価のアクリラート、多官能価のメタクリラート、多官能価のマレアート、および、多官能価のフマラートである。架橋された付加物は、製紙において強度を付与する物質、歩留まり向上剤として、または、建設用途での接着剤として、樹脂特性を最適化するための可塑剤または調節剤として用いることができる。
【0038】
N−(長鎖アルキル)アクリルアミド、または、いずれかの疎水性官能基を有するα,β−不飽和カルボニル化合物は、マイケル付加によってビニルアミンに付加することができ、それにより、疎水性修飾したビニルアミン誘導体が製造される。このような疎水性の付加物は、製紙プロセスにおける歩留まり向上剤、堆積を制御する物質として、廃水処理における凝集剤として、様々な工業用途のための可塑剤、増粘剤および被覆材料として用いることができる。
【0039】
また、上述のα,β−不飽和アルキルカルボニル基を含む化合物は、マイケル付加によって、ビニルアミンとその他の単量体とのコポリマーまたはターポリマーの第一級アミンに付加してもよい。また、その他の第一級アミンを含むポリマー、ポリエチレンイミン(PEI)も、上述のα,β−不飽和アルキルカルボニル基を有する化合物を用いて本発明で開示されたマイケル付加反応に適用することができる。
【0040】
組成物の好ましい群において、マイケル付加による、アクリルアミドおよび/またはマレイン酸ジメチルとのポリビニルアミン付加物は、紙製品のための乾燥強度を付与する物質として用いられ、それにより、パルプ繊維の水切れを促進し、さらに、製紙プロセスの際のパルプ繊維による微細な物質や充填剤の歩留まりを高めることができる。
【0041】
製紙用途などの様々な用途で有効なカチオン性ポリマーとなるように、本発明のマイケル付加による付加物に含まれるポリマー主鎖に残存する未反応の第一級アミンは、少なくとも2%(モル濃度に基づき)であることが好ましい。理論に拘束されることは望まないが、未反応の第一級アミンは、ポリマー主鎖に沿って均一に分布しており、マイケル付加反応によって形成された第二級アミンと釣り合うようになっているため、複数の水素結合と電荷の相互作用によってパルプ繊維との有効な相互作用が提供されると考えられる。
【0042】
以下の実施例で、本発明の実施態様を明らかにする。当然ながらこれらの実施例は、単に例証として示される。従って、示された実施例や本明細書において説明されたものに加えて、本発明の様々な改変が、当業者であれば前述の説明から十分理解できるものと予想される。本発明は、具体的な手段、材料および実施態様を参照して説明されるが、当然のことながら、本発明は、開示されたものに限定されず、添付の請求項の範囲内のいずれかの等価体を包含する。以下の実施例において、全ての部およびパーセンテージは、特に他の指定がない限り重量に基づく。
【実施例】
【0043】
実施例1.ポリビニルアミンとアクリルアミドとのマイケル付加による付加物
ポリビニルアミン溶液(ハーコボンド(Hercobond(R))6363乾燥紙力増強樹脂1000g,12%の活性な固体(ハーキュリーズ社(Hercules Incorporated)より入手可能)を、2Lの反応フラスコに添加し、50%NaOHを用いてpH11.3〜11.5に調節した。反応物の温度を徐々に40〜45℃に高めながら、アクリルアミド溶液(160g,50%)を室温で20分間一滴ずつ添加した。得られた混合物を70℃で5時間撹拌し、この反応混合物のpHを50%NaOHを用いて11.0〜11.5に維持した。続いてこの反応混合物を25〜30℃に冷却し、pHを、濃塩酸を用いて8.0〜9.0に調節した。得られた溶液に、メタ重亜硫酸ナトリウム(1g)を添加した。この混合物を室温で10分間撹拌した。得られた生成物は、15.2%の固体含量、pH8.5、460cpsのブルックフィールド粘度を示した。単量体解析用に特別に設計された標準的な液体クロマトグラフィー法でも、残留したアクリルアミドは検出されなかった。ポリマーの電荷密度を測定したところ、4.7meq/g(pH7.0)であった。Hおよび13C−NMR解析でその構造を確認し、付加されたアクリルアミドに対するビニルアミン単位のモル比は、H−NMRの積分に基づき60〜40と決定された。H−NMR(DO,300Hz)ppm2.50〜3.10(幅広,3HX1.2,−CH−N−および−N−CH−C−CON−),2.20〜2.40(幅広,2HX0.66,C−N−C−CH−CON−),1.20〜1.85(幅広,2H,主鎖メチレン−CH−);13C−NMR(DO,75.5Hz):ppm180(−CONH−),55(主鎖−C−NH−),48(主鎖−C−NH),44(主鎖メチレン),37(N−プロピオンアミドのエチレン)。
【0044】
実施例2.アクリルアミドを用いた両性ポリビニルアミンとプロピオン酸
ポリビニルアミン溶液(ハーコボンド(R)6363乾燥紙力増強樹脂,500g,12%の活性な固体,ハーキュリーズ社より入手可能)を、1Lの反応フラスコに添加し、50%NaOHを用いてpH11.3〜11.5に調節した。反応物の温度を40℃に徐々に高めながら、アクリルアミド溶液(80g,50%)を室温で20分間一滴ずつ添加し、得られた混合物を70℃で5時間撹拌し、反応混合物のpHを、50%NaOHを用いて11.0〜11.5に維持した。この反応物に、NaOH溶液(50%,9g)を添加した。得られた混合物を75℃で3時間撹拌し、異なる時間に水を添加して、材料の粘度を減少させた。続いてこの材料を25〜30℃に冷却し、pHを、濃塩酸を用いて8.0〜9.0に調節した。この生成物は、12.2%の固体含量を有していた。その構造を13C−NMR解析で確認したところ、ポリビニルアミン中のビニルアミン単位、アクリルアミド、および、アクリル酸の比率は60:32:8であった。13C−NMR(DO,75.5Hz):ppm180(−CONH−)およびppm183(−COOH−)の積分値の比率は、4:1に等しい。
【0045】
実施例3.マレイン酸ジメチルおよびアクリルアミドを用いたマイケル付加によるポリビニルアミン付加物
ポリビニルアミン溶液(ハーコボンド(R)6363乾燥紙力増強樹脂,500g,12%の活性な固体,ハーキュリーズ社より入手可能)を、1Lの反応フラスコに添加し、50%NaOHを用いてpH9.5に調節した。マレイン酸ジメチル(11g)を、10分間、室温で一滴ずつ添加し、続いてアクリルアミド(50%,76g)を添加した。得られた混合物を24℃で1時間撹拌し、この反応混合物のpHを、25gの50%NaOHを添加することによって11.2〜11.5に調節した。得られた混合物を50℃で3時間撹拌し、さらに70℃で2時間撹拌し、異なる時間に水を添加して、材料の粘度を減少させた。冷却した後、pHを9.0に調節して、12.3%の固体含量を有する生成物を得た。ポリビニルアミン中のビニルアミン単位、マレイン酸、および、アクリルアミドの比率は、50:15:35と決定された。
【0046】
実施例4.マレイン酸ジメチルおよびアクリルアミドを用いたマイケル付加によるポリビニルアミン付加物
ポリビニルアミン溶液(ハーコボンド(R)6363,500g,12%の活性な固体)を、1Lの反応フラスコに添加し、50%NaOHを用いてpH9.5に調節した。マレイン酸ジメチル(30g)を、10分間、室温で一滴ずつ添加し、続いてアクリルアミド(50%,60g)を添加した。得られた混合物を24℃で1時間撹拌し、この反応混合物のpHを、25gの50%NaOHを添加することによって11.2〜11.5に調節した。得られた混合物を50℃で3時間撹拌し、さらに70℃で2時間撹拌し、異なる時間に水を添加して、材料の粘度を減少させた。冷却した後、pHを9.0に調節して、5.5%の固体含量を有する生成物を得た。ポリビニルアミン中のビニルアミン単位、マレイン酸、および、アクリルアミドの比率は、50:25:25と決定された。
【0047】
実施例5.マイケル付加によるアクリル酸メチルとのポリビニルアミン付加物、および、加水分解された生成物
ポリビニルアミン溶液(ハーコボンド(R)6363乾燥紙力増強樹脂,100g,12%の活性な固体,ハーキュリーズ社より入手可能)を、250mLの反応フラスコに添加し、50%NaOHを用いてpH9.5に調節した。pHを9.0〜9.5に維持しながら、アクリル酸メチル(6g)を20分間で室温で一滴ずつ添加した。得られた混合物を24℃、pH9.5で2時間撹拌し、この反応混合物のpHを、50%NaOH溶液を用いて11.0に調節した。得られた混合物を50℃で3時間撹拌した。冷却した後、pHを9.0に調節した。
【0048】
実施例6.付加物の化学および物理特性
4種のマイケル付加による付加物を実施例1〜4で説明されているようにして合成した。最初の3つのケース(以下の表Iを参照)において、付加物の粘度は、初発のポリビニルアミンと比較して減少した。しかしながら、実施例4の付加物の粘度だけが増加した。約8〜11のpHで30日後でも、粘度は実質的に不変のままだった。付加物の電荷密度は減少し、これは付加された官能基に応じて、さらに生成物が両性であるか、またはカチオン性であるかに応じて様々であった。付加物の残留したアクリルアミドは30〜70ppmであったが、最終産物を1%のNで処理した後は検出されなくなった。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例7.製紙用途での評価
上記実施例で製造されたマイケル付加によるポリビニルアミン付加物から作製された紙の乾燥強度を、基準の製品である、ハーキュリーズ社より入手可能なハーコボンド(R)6363乾燥紙力増強樹脂(ポリビニルアミン)、および、ハーコボンド(R)6350乾燥紙力増強樹脂(50%N−ビニルホルムアミド、および、50%ポリビニルアミンを含む N−ビニルホルムアミドのホモポリマー,ハーキュリーズ社より入手可能)から作製された紙の乾燥強度と比較した。さらに、乾燥強度を、強度を付与する物質を含まない紙(ブランク)とも比較した。
【0051】
段ボール用の紙を製紙機を用いて作製した。製紙用パルプは、50ppmの硬度、25ppmのアルカリ度、2.5%のGPCD15F、および、1996uS/cmの伝導率を有する100%再利用材料のJSSC/JAXであった。この系のpHは7.0であり、パルプの水切れ度は、52℃の素材温度で351CSFであった。基本重量は、100lbs/連(24X36−500)であった。乾燥強度増強剤として機能化したマイケル付加による付加物を、乾燥製紙用パルプに対して0.1重量%のレベルで製紙機のウェットエンドに添加した。この紙を80℃で0.5時間硬化させた。乾燥強度の作用を測定するために、乾燥状態での引張強度試験、乾燥状態での延伸試験、乾燥状態での引裂試験、リングクラッシュ試験、および、ミューレン破裂試験を用いた。
【0052】
以下の表IIに、乾燥強度の試験結果を示す。樹脂組成物の性能は、添加剤なしで作製された紙の乾燥強度と比較した増加分のパーセンテージとして示した。
【0053】
【表2】

【0054】
また、ポリビニルアミン付加物の水切れ効率および凝集剤の特性も、カナダ水切れ度試験方法を用いて、ハーコボンド(R)6363およびハーコボンド(R)6350乾燥紙力増強樹脂、ならびにブランクと比較した。また、ろ液の濁り度も測定して、ポリマーの凝集特性を推測した。表IIIに、評価の結果を要約する。
【0055】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

[式中、Xは、カルボキシル、カルボキサミド、ヒドロキシル、アミン、アルキルアミン、アルカノキシル、アルケニル、アルキニル、ニトロ、および、シアノ基からなる群より選択され、Xは、電子求引性基またはアミンを含み、RおよびRは、同一でもよいし、または異なっていてもよく、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボニル、カルボキシル、および、カルボキサミド基からなる群より選択され、m、nおよびqは、正の整数であり、ポリマー中にランダムに分布するその反復単位の数を示しており、m+qは、2,000〜20,000の範囲であり、m/(m+q)は、2/100〜95/100の範囲であり、nは、0〜18,000の正の整数である]
を含む、マイケル付加による付加物。
【請求項2】
が、カルボキシル、カルボキサミド、アミン、アセトキシル、アルケニル、アルキニル、ニトロ、および、シアノ基からなる群より選択することができる、請求項1に記載のマイケル付加による付加物。
【請求項3】
が、式:
Y−R
をさらに含み、ここで式中、Yは、カルボニル、カルボキシル、カルボキサミド、スルホンアミド、スルホンイミド、スルホニル、ホスホニル、および、NH基からなる群より選択され、ここでRは、H、OH、NH、SH、短鎖(C〜C)アルキル、および、長鎖(C〜C22)アルキル基からなる群より選択される、請求項1に記載のマイケル付加による付加物。
【請求項4】
Yが、CONH基であり、Rが、CHOHCHO、または、Hである、請求項3に記載のマイケル付加による付加物。
【請求項5】
およびRが、H、メチル、および、カルボキシルからなる群より選択され、Yが、カルボキシル、および、カルボキサミドからなる群より選択され、Rが、H、OH、および、メチルからなる群より選択され、m+nが、1,000〜10,000の範囲であり、n/(m+n)が、2/10〜8/10の範囲である、請求項3に記載のマイケル付加による付加物。
【請求項6】
が、H、または、カルボキシルであり、Rが、Hであり、m+nが、1,500〜7,000の範囲であり、n/(m+n)が、2/10〜8/10の範囲である、請求項5に記載のマイケル付加による付加物。
【請求項7】
a)ビニルアミンを得る工程、
b)ビニルアミンを反応媒体中に溶解させる工程、
c)溶解したビニルアミンと、電子求引性基に共役した不飽和結合を少なくとも1個有する化合物とを、アルカリ条件下で、10℃〜90℃の反応温度で2〜5時間反応させ、マイケル付加による付加物を製造する工程、
を含む、マイケル付加による付加物の製造方法。
【請求項8】
前記ビニルアミンが、約100,000〜約1,000,000ダルトンの範囲の分子量(Mw)を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ビニルアミンが、反応媒体中で、約1〜約50%(固体)の範囲である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記反応媒体が、水、または、有機溶媒を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記溶解したビニルアミンを、電子求引性基に共役した不飽和結合を少なくとも1個有する化合物と約15分〜約12時間反応させる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電子求引性基に共役した不飽和結合を有する化合物が、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N−(2−メチルプロパンスルホン酸)アクリルアミド、N−(グリコール酸)アクリルアミド、N−[3−(プロピル)トリメチルアンモニウム塩化物]アクリルアミド、アクリロニトリル、アクロレイン、アクリル酸メチル、アクリル酸アルキル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸アルキル、アクリル酸アリール、メタクリル酸アリール、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]−トリメチルアンモニウム塩化物、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、2−アクリル酸ヒドロキシエチル、3−スルホプロピルアクリラート、2−ヒドロキシエチルメタクリラート、メタクリル酸グリシジル、ペンタフルオロフェニルアクリラート、ジアクリル酸エチレン、ジメタクリル酸エチレン、ヘプタフルオロブチルアクリラート、ポリ(メタクリル酸メチル)、アクリロイルモルホリン、3−(アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリラート、マレイン酸ジアルキル、イタコン酸ジアルキル、フマル酸ジアルキル、2−シアノエチルアクリラート、カルボキシエチルアクリラート、フェニルチオエチルアクリラート、1−アダマンチルメタクリラート、ジメチルアミノネオペンチルアクリラート、2−(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリラート、および、ジメチルアミノエチルメタクリラートからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記電子求引性基に共役した不飽和結合を有する化合物が、エチレングリコールジアクリラート、1,4−ブタンジオールジアクリラート、ビスフェノールジアクリラート、ポリエチレングリコールジアクリラート、ヘキサンジオールジアクリラート、1,10−デカンジオールジアクリラート、ジシクロペンテニルアクリラート、ジシクロペンテニルメタクリラート、カルボキシエチルアクリラート、ポリエトキシメタクリラートメタクリラート、フェニルチオエチルアクリラート、1−アダマンチルメタクリラート、ジメチルアミノネオペンチルアクリラート、2−(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリラート、ジメチルアミノエチルメタクリラート、多官能価のアクリルアミド、多官能価のアクリラート、多官能価のメタクリラート、多官能価のマレアート、および、多官能価のフマラートからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記電子求引性基に共役した不飽和結合を有する化合物が、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸メチル、マレイン酸ジメチルからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
紙製品のための乾燥紙力増強樹脂としての、請求項7に記載の方法によって製造されたマイケル付加による付加物の使用方法。
【請求項16】
紙製品のための湿潤紙力増強樹脂としての、請求項7に記載の方法によって製造されたマイケル付加による付加物を含む使用方法。
【請求項17】
クレーピング用接着剤としての、請求項7に記載の方法によって製造されたマイケル付加による付加物の使用方法。
【請求項18】
接着剤としての、請求項7に記載の方法によって製造されたマイケル付加による付加物の使用方法。
【請求項19】
製紙用の水切れ助剤または歩留まり向上剤としての、請求項7に記載の方法によって製造されたマイケル付加による付加物の使用方法。
【請求項20】
水処理用の凝集剤としての、請求項7に記載の方法によって製造されたマイケル付加による付加物の使用方法。
【請求項21】
水処理用の凝固剤としての、請求項7に記載の方法によって製造されたマイケル付加による付加物の使用方法。
【請求項22】
製紙プロセスおよび水処理用の堆積を制御する物質としての、請求項7に記載の方法によって製造されたマイケル付加による付加物の使用方法。
【請求項23】
電子求引性基に共役した不飽和結合を少なくとも1個有する単量体と反応するビニルアミンのコポリマーまたはターポリマーを含み:ここで、該少なくとも1個の電子求引基に共役した不飽和結合を有する単量体は、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、アクリロニトリル、アクロレイン、アクリル酸メチル、アクリル酸アルキル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸アルキル、アクリル酸アリール、メタクリル酸グリシジル、ペンタフルオロフェニルアクリラート、ジアクリル酸エチレン、ジメタクリル酸エチレン、マレイン酸ジアルキル、イタコン酸ジアルキル、および、フマル酸ジアルキル、および、フマル酸ジアルキルからなる群より選択される、マイケル付加による付加物。

【公表番号】特表2009−537704(P2009−537704A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511088(P2009−511088)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/011915
【国際公開番号】WO2007/136756
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(591020249)ハーキュリーズ・インコーポレーテッド (75)
【氏名又は名称原語表記】HERCULES INCORPORATED
【Fターム(参考)】