説明

紙の製造方法

本発明は、セルロース系繊維を含有する懸濁物から紙を製造する方法であって、懸濁物及び/又はセルロース懸濁物から作製され形成された紙に、i)窒素含有有機化合物を単独で加える、及び/又はこれとともに、ii)酸無水物の水性分散物、及びiii)少なくとも1つのシェーディング染料を加えるステップと、ワイヤ上で懸濁物の排水を行って紙を形成するステップとを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙に関し、特に、窒素含有有機化合物、酸無水物の水性分散物、及び少なくとも1つのシェーディング染料(shading dye)がセルロース懸濁物に加えられる紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙分野では、セルロース系繊維、並びに場合により填料及び添加剤を含有する、紙料と呼ばれる水性懸濁物が、ヘッドボックス中に供給され、そこから紙料は形成ワイヤ上に放出される。形成ワイヤを介して紙料から排水され、それによって紙のウェブがワイヤ上に形成され、そのウェブは抄紙機の乾燥セクション中でさらなる脱水及び乾燥が行われる。ここで得られた水は、通常は白水と呼ばれ、微粒子例えば細繊維、填料、及び添加剤などを含有し、製紙プロセスにおいて通常は再利用される。審美的影響、例えば、特性、例えば白色性(whiteness)、白色度(brightness)、及び/又は印刷適正が重要である紙、以降、より上質の紙又は上質紙と呼ぶ紙を製造する場合、填料及び添加剤の量及び数が、より低品質の紙の場合よりも増加することが多い。抄紙機の運転性能の改善及び/又は品質の向上のために、性能付与化合物(performance chemical)が懸濁物又は紙のウェブに加えられる場合、これらは互いの性能に影響を与え得る。
【0003】
一般に、より上質の紙、例えば白色上質紙は、水性液体による濡れ及び浸透に対してある程度の抵抗性が必要とされる。従って、典型的には、サイズ剤、例えばセルロース反応性サイズ剤が、セルロース懸濁物及び/又は紙のウェブに加えられる。セルロース反応性サイズ剤、例えば、中性から弱アルカリ性の紙料には、ケテンダイマー系サイズ剤及び酸無水物が多くの場合使用される。サイズ剤の速硬性が必要とされる製紙プロセスでは、酸無水物が多くの場合使用される。速硬性、すなわち紙の疎水性が高速で得られることが、コート紙グレードの場合に多くの場合必要とされる。さらに、酸無水物でサイジングした紙では、例えば、印刷機械中の反応性サイズ剤関連の誘導体の凝集の減少傾向に関して、例えばケテンダイマー物質でサイジングした紙と比較して、印刷プロセスにおいてより良い運転性能が実現される。さらに、形成された紙の審美的性質、例えば色及び白色性に対して影響を与える性能付与化合物が懸濁物中に存在する製紙プロセスにおいて酸無水物が使用される場合、完成した紙中で染料の不均一な分布が生じることがあり、これは色斑として感知される。
【0004】
米国特許出願公開第2003/0188393号明細書は、シェーディング染料を使用しながら紙の白色度を制御する方法に言及している。
【0005】
国際公開第2007/073321号パンフレットは、セルロース反応性サイズ剤の水性分散物、その分散物の調製方法、及びその分散物を懸濁物に加えるステップを含む紙の製造方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0188393号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/073321号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、シェーディング染料がセルロース懸濁物中に存在し、酸無水物がサイズ剤として使用される場合には、人の肉眼によって着色斑として感知される顔料(染料)の不規則な分散が、白色紙中、例えば白色上質紙中に観察され得る。紙中の着色斑の存在は、初期の製造中に発生し得る。しかし、着色斑は経時により増加する傾向にある。白色性を増加させるために、典型的にはシェーディング染料がセルロース懸濁物に加えられる。従って、本発明の目的の1つは、紙中の着色斑の存在を減少又は解消することである。さらに別の目的は、少なくとも1つのシェーディング染料を含むセルロース懸濁物に酸無水物を加えるステップを含む紙の製造方法で得られた紙中の着色斑の存在を減少又は解消することである。さらに別の目的は、少なくとも1つのシェーディング染料を含むセルロース懸濁物に酸無水物を加えるステップを含む紙の製造方法で得られた紙中のシェーディング染料の不規則な分布を減少又は解消することである。さらなる目的は以下で明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、紙の製造方法、その方法によって得ることができる紙、及び本明細書においてさらに定義される窒素含有有機化合物の使用に関する。
【0009】
特に、本発明は、セルロース系繊維を含有する水性懸濁物から紙のウェブを製造する方法であって、懸濁物及び/又は懸濁物から作製した紙のウェブに、i)窒素含有有機化合物、ii)酸無水物の水性分散物;及びiii)少なくとも1つのシェーディング染料を加えるステップと、ワイヤ上で懸濁物の排水を行って紙を形成するステップとを含む方法に関する。本発明はさらに、約180g/mol未満のモル質量を有するアミン又はその第4級アンモニウム化合物である窒素含有有機化合物の、懸濁物から紙を製造する方法における紙中の染料の分散を改善するための添加剤としての使用に関し、この懸濁物は少なくとも1つのシェーディング染料を含む。本発明の一実施形態によると、窒素含有有機化合物は、酸無水物を含む水性分散物中に含まれる。
【0010】
また、本発明は、本明細書に開示される方法により得ることができる紙、並びに酸無水物及び/又はその誘導体と、窒素含有有機化合物と、少なくとも1つのシェーディング染料とを含む紙に関し、本発明の紙の顔料の凝集を目視することはできない。
【0011】
少なくとも1つのシェーディング染料を含み、水性分散物を加えることによってサイジングが行われるセルロース懸濁物に窒素含有有機化合物が加えられる場合に、シェーディング染料が紙中により均一に分散すると考えられる。
【0012】
紙の製造に使用されるシェーディング染料を含むセルロース懸濁物の酸無水物によるサイジングによって、顔料が凝集した紙が得られ、それによって着色、多くの場合に青みがかった色の斑点が見られることが観察されている。驚くべきことに、窒素含有有機化合物を加えることによって、形成された紙中の染料の凝集が抑制される。さらに、窒素含有有機化合物を加えることによって、白色顔料の凝集も減少する。
【0013】
本明細書において使用される場合、紙は、印刷向きの紙、例えば事務用紙、及びグラフィック用紙を意味し、一般には単純に印刷用紙と呼ばれている。通常、紙は白色であるが、用語「紙」は、あらゆる種類の色の紙を含むことができる。しかし、本発明は、白色紙、例えば白色印刷用紙の製造に好都合である。一実施形態によると、紙、好適には白色紙は、最大約350g/mの坪量を有する。一実施形態によると、用語「紙」は板及び板紙は含まない。さらに、本発明による紙は、板及び板紙の最上層として使用することができる。
【0014】
白色性は本発明により製造された紙の問題の1つであるので、パルプと呼ばれることも多いセルロース系繊維は、好ましくは約8未満(ISO 302)、約4未満、約3未満、又は約2未満のκ(カッパー価)を有するべきである。セルロース系繊維は、それらの繊維が紙の製造に使用できる限りは、あらゆるパルプ化法によって得ることができる。パルプ化法としては、機械的、熱的、半機械的、半化学的、及び化学的なパルプ化法が挙げられる。一般に、化学的プロセスは、亜硫酸法及び硫酸塩法であり、後者はクラフトパルプ化法とも呼ばれる。化学的なパルプ化法によって得られたセルロース系繊維、好適にはクラフト法で得られた繊維が好ましい。通常、セルロース系繊維は、リグニンの含有率を低下させるため、及び繊維の白色度を高くするための漂白も行われる。高い白色度及び低含有率のリグニンを有するセルロース系繊維を得るために、繊維原材料は、一般に化学(クラフト)パルプ化法にかけられ、続いて漂白される。通常、漂白シーケンスは、洗浄段階及びアルカリ抽出によって中断される数回の漂白作業を含む。漂白化合物としては、例えば二酸化塩素、過酸化物、例えば過酸化水素、酸素、オゾン、及び過酢酸が挙げられる。好ましいセルロース系繊維は、化学的に脱リグニンされた繊維であり、続いて、元素塩素を使用しない(element chlorine free)(ECF)漂白シーケンス、又は塩素を全く使用しない(total chlorine free)(TCF)漂白シーケンスを使用して漂白される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一実施形態によると、本発明に使用されるセルロース系繊維は、約83を超える(ISO 3688)、約88を超える、又は約90を超える白色度を有する。セルロース系繊維は、約4未満のκ(カッパー価)及び約88を超える白色度を有することができる。
【0016】
上記パルプ化法に使用される繊維原材料としては、木材、例えば広葉樹、針葉樹、農業残渣、例えばわら、一年生植物(麻、ジュート、ケナフ、竹など)、再生繊維又は二次繊維、並びにあらゆる種類の脱墨繊維を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
例えば白色性、白色度に関して紙の品質をさらに改善するために、いくつかの非繊維成分をセルロース懸濁物及び/又は脱水した紙のウェブに加えることができる。セルロース懸濁物及び完成した紙は、無機填料、例えばカオリン、チャイナクレー、二酸化チタン、石膏、タルク、炭酸カルシウム、例えばチョーク、大理石粉末、及び沈降炭酸塩を含有することができる。一実施形態によると、セルロース懸濁物は、乾燥セルロース懸濁物及び場合による填料を基準にして約5重量%を超える、例えば約10重量%を超える無機填料を含有する。
【0018】
本発明によると、少なくとも1つのシェーディング染料がセルロース懸濁物中に存在する。シェーディング染料は、紙の白色性をさらに改善する化合物である。白色性は、人の肉眼によって白色と感知される色の感覚である。物理的に言えば、基材上に衝突するすべての(人の肉眼にとっての)可視光が全く強度を損なうことなく反射された場合に、その基材が白色であると感知される。可視光は、人の肉眼によって検出することが可能な電磁スペクトルの部分を意味する。可視電磁放射線の特定の波長を吸収することなく光の全スペクトルを反射する物質及び化合物はほとんどない。雲及び降ったばかりの雪は光の大部分を反射し、一部の顔料、特に二酸化チタンもそのような性質を有する。しかし、通常は一部の光が物体によって吸収され、一般にスペクトルの青色範囲の光が、黄色がかった外観になる。紙の白色性を改善するため、例えば黄色を減少させるために、シェーディング染料を製造プロセス中に加えることができる。蛍光性白色化剤(FWA)、例えば蛍光増白剤(optical brightening agent)(OBA)をセルロース懸濁物に加えることでも、特に紙の白色度を改善することができる。OBA及びFWAは、吸収した光の大部分を放出するので、添加剤の混色過程を介して紙の白色度を改善する蛍光分子である。他方、シェーディング染料は、典型的には減法混色によって白色性を増加させる化合物である。
【0019】
本明細書において使用される場合、シェーディング染料は、感知される紙の白色性を増加させる一群の化合物であるが、増白剤、すなわち放射線を放出する化合物(蛍光化合物)は含まない。
【0020】
シェーディング染料は、天然及び合成の無機化合物及び合成有機化合物から選択することができる。好ましい化合物のグループの1つは合成有機化合物である。好適には、合成有機化合物の構造が共役二重結合構造を含む。前記共役二重結合は、ある程度自由に振動してもよい。典型的には、合成有機化合物は、1つ又はそれ以上の同種又は異種の発色団(電子受容基)、例えばエチレン基、ケト基、チオケト基、アゾ基、及び炭素−窒素基を含む。
【0021】
紙の白色性を改善する化合物は、アゾ染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、ポリメチン染料、アリール−カルボニウム染料、フタロシアニン(phtalocyanine)染料、及びニトロ染料からなる群より選択することができる。
【0022】
通常、アゾ基含有化合物は部分A−N=N−Dを含有し、式中、A及びDは多くの場合芳香族部分である。A−N=N−D部分は、環構造の一部、例えばヒドラゾン類の一部であってよく、またアゾ基含有化合物は金属錯体を形成することができる。アゾ含有化合物は最大4個のアゾ基を有することができる。
【0023】
ケト基を含む合成有機化合物としては、アントラキノン部分を有する化合物、例えば9,10−キノンが挙げられる。9,10−キノンは、1位〜4位及び5位〜8位のいずれかの位置、特に1位、4位、5位、及び8位において電子供与基で置換されていてもよい。
【0024】
インジゴイド化合物は構造要素−CO−CX=CY−CO−を含み、式中、X、YはO、S、Se、又はNHから選択される。インジゴ(1)及び置換インジゴ化合物がインジゴイド化合物の例である。
【化1】

【0025】
ポリメチン化合物は、一般構造(2)を含む。ポリメチン化合物は、基A及びBの性質に依存するが、カチオン性、中性、又はアニオン性であってよい。
【0026】
[A=CR−(X=Y)−B](2)、式中、X及びYは独立にC又はNであってよく、xは整数であり、zは+n、0又は−nである(nは整数である)。シアニン類(CIベーシックレッド(basic red)12)及びヘミシアニン類(CIベーシックバイオレット(basic violet)7)は、X及びYの両方が炭素原子であるカチオン性ポリメチンの例である。ジアザヘミシアニン(CIベーシックブルー(basic blue)41)、アザカルボシアニン(CIベーシックイエロー(basic yellow)11)、及びジアザカルボシアニン(CIベーシックイエロー28)は、X及びYが窒素である、又は窒素と炭素との組み合わせであるポリメチンの例である。中性ポリメチン化合物の例としてはメロキシアニン(meroxyanine)を挙げることができ、アニオン性ポリメチンの例としてはオキソノールを挙げることができる。
【0027】
アリール−カルボニウム化合物としては、一般構造(3)
【化2】

を含む化合物のグループが挙げられ、式中、m及びnは0又は1であり、XはC又はNであり、YはO、S、又はNRであり、A及びBは独立にO、S、又はNRであり、Rはアルキル基又はアリール基である。
【0028】
紙の白色性を改善する別の化合物としては、フタロシアニン化合物及びニトロ含有化合物を挙げることができる。後者は典型的には、2つ又はそれ以上の芳香環、通常はベンゼン又はナフタレンを含み、少なくとも1個のニトロ基及び電子供与基、例えばNH又はOHを含有する。
【0029】
シェーディング染料は、可視スペクトル内の光(電磁放射線)を吸収し、電磁放射線をあまり(significantly)放出することがないか、反射される放射線以外の電磁放射線を放出しないかである染料である。従って、シェーディング染料は、基材の可視スペクトルにおいて、反射される放射線の強度を増加させない、すなわちこれらの染料は放射線(光)を放出しない、又は放射線をあまり放出しない。従って、シェーディング染料は減法(subtractive)染料と呼ぶことができる。シェーディング染料(減法性(subtracting)染料)は、黄色が得られる波長領域に対する補色主波長を吸収する。シェーディング染料は、感知される紙の白色性が増加するような方法で可視スペクトル中の放射線を吸収する非蛍光化合物(染料)として定義することができる。シェーディング染料は典型的には、可視スペクトルの青色部分(約380nm〜約495nm)、及び/又は可視スペクトル(約590nm〜約750nm)のオレンジ−赤色部分の光を吸収する。シェーディング染料は、可視スペクトル中の電磁放射線、すなわち約380nmから最大約750nm、好ましくは約380nm〜約500nmの範囲内、及び/又は約580nm〜約750nmの範囲内を吸収する共役系を含む有機分子、すなわち共役有機分子と呼ぶことができる)。本明細書において使用される場合、共役系は、隣接して平行に配列した原子のp軌道間の電子の非局在系を意味する。
【0030】
染料の好ましい種類の1つは、ビスコフィル(viscofil)(登録商標)の名称の染料である。シェーディング染料の別の好ましいグループの1つは、フタロシアニン化合物(フタロシアニン部分を含む有機化合物)であり、例えば、可溶化基、例えばスルホン酸官能基を場合により含む金属フタロシアニン化合物、例えばフタロシアニン−スルホン酸の塩、例えば銅フタロシアニンのナトリウム塩又はアンモニウム塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。スルホン酸の有機アミン塩もフタロシアニン型化合物に含めることができる。フタロシアニン型化合物は、中心の水素及び/又は金属陽イオンに配位結合することができる。配位結合される一般的な金属陽イオンは銅及びコバルトである。他のフタロシアニン染料としては、金属フタロシアニンと有機アミンとの誘導体が挙げられる。染料のさらに別の好ましい種類はトリフェノジオキサジン類であり、一般にはジオキサジン類と呼ばれる。好ましいジオキサジン類としては、ジハライドトリフェノジオキサジン、例えば9,10−ジクロロトリフェノジオキサジン、並びにアセチルアミノ基又はベゾイルアミノ(bezoylamino)基、エトキシ基、ハライド原子、又はHNCOCH基を含むトリフェノジオキサジン類が挙げられる。好ましいシェーディング染料も、ジオキサジン類及びフタロシアニン部分を含む有機化合物からなる群より選択される。
【0031】
シェーディング染料の例は、クラリアント(Clariant)(登録商標)のビスコフィル(登録商標)染料、及びラックスネス(Laxness)(登録商標)のレバニル(levanyl)(登録商標)染料であり、例えばビスコフィル(登録商標):オレンジ(Orange)GG、オレンジS−RL、レッド(Red)R 30、レッドBL、レッドF5RK、ボルド(Bordo)BB、バイオレット(Violet)BLN、ブルー(Blue)B2G、ブルーBLF、レバニル(登録商標)バイオレット(Violet)23が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらなるシェイング(shaing)染料は、カルタゾール(cartasol)(登録商標)F、カルタゾール(登録商標)K、カルタゾール(登録商標)M、カルタ(carta)(登録商標)染料、カルタ(登録商標)粉末染料、カルタジン(cartazine)(登録商標)、ディレサル(diresul)(登録商標)P、カルタレン(cartaren)(登録商標)、フレクソニル(flexonyl)(登録商標)、カルタクロム(cartacrom)(登録商標)、ホスタティント(hostatint)(登録商標)である。
【0032】
本発明の一実施形態によると、セルロース懸濁物は、少なくとも1つの蛍光性化合物、例えばOBA、例えば紫外光を(例えば300〜430nmにおいて日光から)吸収し、吸収したエネルギーの大部分を約400nmから最大約500nmの範囲内の青色蛍光として放出する蛍光性有機化合物を含むこともできる。OBAの例は、ロイコフォア(Leucophor)(登録商標)の名称で販売されるOBAである。
【0033】
シェーディング染料及びOBAは、セルロース懸濁物に加えることができ、及び/又はセルロースのシート又は紙のウェブの表面に塗布することができる。これらは、混合チェストからヘッドボックスを含めた位置までのセルロース懸濁物、及び/又はヘッドボックス後の形成された紙のウェブのいずれの時点でも加えることができる。シェーディング染料及び/又はOBA、酸無水物の分散物、並びに窒素含有有機化合物を加える順序適切である場合には、シェーディング染料及び/又はOBA、並びに窒素含有有機化合物を含む酸無水物分散物を加える順序は、変化させることができるし、任意の順序であってよい。
【0034】
加えられるシェーディング染料の総量は、乾燥セルロース懸濁物及び場合による填料を基準にして、通常は最大約400g/t、好適には約300g/t未満である。シェーディング染料は、混合チェストに加えることができる。形成された紙中に存在する場合、OBAは、乾燥セルロース懸濁物を基準にして、典型的には最大約30kg/t、好適には最大約20kg/tの量で懸濁物中に加えられる。一般には、OBAは、レベルボックスを含めた位置までのセルロース懸濁物に加えられる。シェーディング染料及びOBAの両方が使用される場合、シェーディング染料はOBAを加える前に加えることができる。例えばシェーディング染料は、混合チェストに加えることができ、OBAはレベルボックスに加えることができる。
【0035】
窒素含有有機化合物は、アミン類、例えば第1級、第2級、及び第3級のアミン類;並びにそれらの第4級アンモニウム化合物から選択することができる。好適な窒素含有有機化合物は、モノアミン類、ジアミン類、及びポリアミン類、並びにそれらの第4級アンモニウム化合物をさらに含む。好適な第4級アンモニウム化合物としては、上記種類のアミンのプロトン化、アルキル化、アリール化、及びアルカリール化されたものが挙げられ、これらは、アミンと、例えば、酸、例えば塩酸、並びにメチルクロライド、ジメチルサルフェート、及びベンジルクロライドとの反応によって形成することができる。一実施形態によると、窒素含有有機化合物は、1個又はそれ以上のヒドロキシル基を場合により有するアミン又はその第4級アンモニウムである。好ましくは、1個又はそれ以上のヒドロキシル基は、窒素含有化合物の1個又はそれ以上の置換基の末端部分に存在し、すなわちヒドロキシル基末端アミン又はその第4級アンモニウム化合物である。
【0036】
好適な窒素含有有機化合物の例としては、以下のアミン及びそれらの第4級アンモニウムが挙げられる:ジエチレントリアミン、メチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、ピロリジン、グアニジン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−メトキシエチルアミン、アミノエチルエタノールアミン、アラニン、及びリジン。好適な窒素含有有機化合物のさらなる例としては、コリンヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドが挙げられる。好ましい窒素含有有機化合物としては、トリエタノールアミン及びその第4級アンモニウム化合物が挙げられる。
【0037】
窒素含有有機化合物のモル質量は、広い範囲内で変動してよい。本明細書において使用される場合、窒素含有有機化合物は、非ポリマー化合物、すなわち繰り返し構造単位を含まない化合物を意味する。典型的には、窒素含有有機化合物のモル質量は最大約500g/mol、例えば最大約400g/mol、又は最大約180g/molである。
【0038】
本発明の一実施形態では、アミン又はその第4級アンモニウム化合物のモル質量は、約180g/mol未満、例えば最大約170g/mol、又は最大約160g/molである。モル質量は通常少なくとも約30g/molである。本明細書に記載される場合、アミンの第4級アンモニウムのモル質量は、第4級アンモニウム化合物のカチオン性部分のモル質量を意味し、第4級アンモニウム化合物のアニオン性部分は上記モル質量には含まれないことを意味する。1個又はそれ以上のヒドロキシル基を有するアミン及びその第4級アンモニウムから選択される窒素含有有機化合物の場合、モル質量はさらに高くてもよく、例えば約500g/mol未満、通常約300g/mol未満であってよいが、このような化合物の場合、前述のモル質量も好適となる。
【0039】
窒素含有有機化合物は、セルロース懸濁物に対して、別々に/単独で加えることもできるし、例えば酸無水物の水性分散物中に含まれる他の添加剤、例えば酸無水物サイズ剤とともに加えることもできる。単独で加えられる場合、窒素含有有機化合物は、水性セルロース懸濁物及び/又は形成された紙のウェブに、典型的には、マシンチェストからヘッドボックスを含めた位置までのいずれかの位置、及び/又はヘッドボックス後の紙のウェブのいずれかの位置で加えることができる。単独で加えられる場合の窒素含有有機化合物の量は、乾燥セルロース懸濁物及び場合による填料を基準にして、約0.0004重量%から最大約0.1重量%まで、例えば約0.0008重量%から最大約0.01重量%までとすることができる。
【0040】
一実施形態によると、窒素含有有機化合物はサイズ剤とともに加えられる。
【0041】
一実施形態によると、窒素含有有機化合物は酸無水物を含む水性分散物中に含まれる。
【0042】
本発明のさらに別の一実施形態によると、酸無水物及び窒素含有有機化合物を含む水性分散物は、アニオン性高分子電解質をさらに含む。
【0043】
本発明によるアニオン性高分子電解質は、有機化合物及び無機化合物から選択することができ、天然又は合成の供給源から得ることができる。アニオン性高分子電解質は、同種でも異種でもよい2個又はそれ以上のアニオン性基を有する。好適なアニオン性基、すなわち水相中でアニオン性である、又はアニオン性になる基の例としては、シラノール基、アルミノシリケート基、ホスフェート基、ホスホネート基、サルフェート基、スルホネート基、スルホン酸、及びカルボン酸基、並びにそれらの塩、通常はアンモニウム塩又はアルカリ金属(一般にナトリウム)塩が挙げられる。アニオン性高分子電解質は、水溶性で、例えば線状及び分岐のアニオン性高分子電解質、或いは水分散性の、例えば架橋した、及び/又は粒子状のアニオン性高分子電解質であってよい。一実施形態によると、水分散性で粒子状のアニオン性高分子電解質はコロイド状であり、すなわちコロイドの範囲内の粒度を有する。コロイド粒子は、好適には1〜100nm、例えば2〜70nm、又は2〜40nmの粒度を有する。水分散性で粒子状のアニオン性高分子電解質は、凝集粒子及び/又は非凝集粒子を含有することができる。
【0044】
好適な有機アニオン性高分子電解質の例としては、アニオン性多糖、例えばデンプン、グアーガム、セルロース、キチン、キトサン、グリカン、ガラクタン、グルカン、キサンタンガム、マンナン、及びデキストリンが挙げられる。好適な有機アニオン性高分子電解質のさらなる例としては、合成アニオン性ポリマー、例えば縮合ポリマー、例えばポリウレタン、並びにナフタレン系及びメラミン系のポリマー、例えば縮合ホルムアルデヒドナフタレンスルホネート、及びメラミン−スルホン酸を主とするポリマー、並びにビニル付加ポリマーであって、エチレン系不飽和モノマー、例えばアニオン性モノマー又はアニオン性となる可能性のあるモノマー、例えばアクリル酸、メタシル酸(methacylic acid)、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、ビニルスルホン酸、スルホン化スチレン、並びにヒドロキシアルキルアクリレート及びメタクリレートのホスフェートから調製され、場合により、非イオン性エチレン系不飽和モノマー、例えばアクリルアミド、アルキルアクリレート、スチレン、及びアクリロニトリル、並びにこのようなモノマーの誘導体、ビニルエステルなどと共重合されるビニル付加ポリマーが挙げられる。
【0045】
さらなる好適な有機アニオン性高分子電解質の例としては、1つ又はそれ以上のエチレン系不飽和のアニオン性モノマー又はアニオン性となる可能性のあるモノマーと、場合により、1つ又はそれ以上の別のエチレン系不飽和モノマーとを含むモノマー混合物を、1つ又はそれ以上の多官能性架橋剤の存在下で重合させることによって得られる水溶性分岐ポリマー及び水分散性架橋ポリマーが挙げられる。モノマー混合物中に多官能性架橋剤が存在することで、水分散性である、分岐ポリマー、わずかに架橋したポリマー、及び高度に架橋したポリマーの調製が可能となる。好適な多官能性架橋剤の例としては、少なくとも2つのエチレン系不飽和結合を有する化合物、例えばN,N−メチレン−ビス−(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−ビニル(メタ)アクリルアミド、ジビニル−ベンゼン、トリアリルアンモニウム塩、及びN−メチルアリル(メタ)アクリルアミド;エチレン系不飽和結合と反応性基とを有する化合物、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、アクロレイン、及びメチロール(メタ)アクリルアミド;並びに少なくとも2個の反応性基を有する化合物、例えばジアルデヒド、例えばグリオキサール、ジエポキシ化合物、及びエピクロロヒドリンが挙げられる。
【0046】
通常、有機アニオン性高分子電解質は、0.01〜1.4、例えば0.1〜1.2、又は0.2〜1.0のアニオン性置換度(DSA)を有する。アニオン性高分子電解質は、全体的にアニオン電荷を有するのであれば、1個又はそれ以上のカチオン性基を有することができる。アニオン性高分子電解質のモル質量は広い範囲内で変動させることができ、通常、モル質量は200g/molを超え、例えば500g/molを超え、上限は通常1000万g/mol、例えば200万g/molである。
【0047】
好適な無機アニオン性高分子電解質の例としては、アニオン性ケイ素含有材料、例えば、ケイ酸及びスメクタイト型クレーから調製されるアニオン性シリカ系材料が挙げられる。通常、これらのアニオン性高分子電解質は、陰性のシラノール基、アルミノシリケート基、又はヒドロキシル基を有する。好適な無機アニオン性高分子電解質の例としては、ポリケイ酸、ポリシリケート、ポリアルミニウムシリケート、コロイダルシリカ系粒子、例えばシリカ、アルミニウム化(アルミニウム改質)シリカ、及びアルミニウムシリケート、ポリシリケートミクロゲル、ポリアルミニウムシリケートミクロゲル、シリカゲル、及び沈降シリカの粒子、スメクタイトクレー、例えばモンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、バイデライト(beidelite)、ノントロナイト、及びサポナイトが挙げられる。好ましいアニオン性高分子電解質としては、シリカ系材料、例えばコロイダルシリカ系粒子が挙げられる。
【0048】
酸無水物は、当分野において公知のあらゆる酸無水物系サイズ剤であってよい。好適には、サイズ剤は疎水性酸無水物である。好適な疎水性酸無水物は、以下の式(I)を特徴とすることができ、式中、R及びRは独立に、好適には8〜30個の炭素原子を含有する飽和又は不飽和の炭化水素基から選択されるか、或いはR及びRを−C−O−C−部分と合わせたものが、最大30個の炭素原子を有する炭化水素基で場合によりさらに置換されている5〜6員環を形成することができる。
−(C=O)−O−(C=O)−R
【0049】
好適な酸無水物の例としては、アルキル及びアルケニルコハク酸無水物、例えばイソオクタデセニルコハク酸無水物、イソオクタデシルコハク酸無水物、n−ヘキサデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、デセニルコハク酸無水物、オクテニルコハク酸無水物、トリイソブテニルコハク酸無水物、1−オクチル−2−デセニル−コハク酸無水物、及び1−ヘキシル−2−オクテニル−コハク酸無水物が挙げられる。好適な酸無水物の例としては、米国特許第3,102,064号明細書、同第3,821,069号明細書、同第3,968,005号明細書、同第4,040,900号明細書、同第4,522,686号明細書、及び米国再発行特許発明第29,960号明細書に開示される化合物がさらに挙げられ、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0050】
セルロース反応性サイズ剤は、1つ又はそれ以上の酸無水物、例えば1つ又はそれ以上のアルキル及び/又はアルケニルコハク酸無水物を含むことができる。通常、本発明の酸無水物は室温において液体である。
【0051】
分散物は、好適には、アニオン性高分子電解質及び窒素含有有機化合物を含む、分散剤又は分散剤系を含有する。組み合わせて使用する場合、これらの化合物は、酸無水物サイズ剤の分散剤として有効であるが、アニオン性高分子電解質及び窒素含有有機化合物は、単独で使用する場合には分散剤としての効果がない場合がある。好ましくは、分散物はアニオン性であり、すなわち分散剤又は分散剤系は全体的にアニオン電荷を有する。
【0052】
窒素含有有機化合物が酸無水物の分散物中に含まれる実施形態に関して、酸無水物は、水性分散物の重量を基準にして、約0.1〜約50重量%、例えば0.1〜約30重量%、又は約1〜約20重量%の量で存在することができる。場合によるアニオン性高分子電解質は、酸無水物の重量を基準にして、通常最大約100重量%、通常0.1〜15重量%、好適には0.5〜10重量%、例えば1〜7重量%の量で存在する。窒素含有有機化合物は、最大20重量%、通常0.1〜15重量%、例えば0.5〜10重量%、又は1〜7重量%の量で存在することができる。酸無水物、アニオン性高分子電解質、及び窒素含有有機化合物に加えて、場合により追加の化合物が分散物中に存在することができる。このような化合物の例としては、モノ−、ジ−、及びポリ−アニオン及び非イオン界面活性剤、並びに分散剤、安定剤、エクステンダー、及び防腐剤、例えば、加水分解された酸無水物、例えば加水分解された前述のアルキル及びアルケニル酸無水物、好ましくは加水分解されたアルケニルコハク酸無水物、例えばカルボン酸及び/又はカルボン酸エステル誘導体の形態の加水分解された酸無水物、アニオン性界面活性剤のようなホスフェートエステル、例えばエトキシル化ホスフェートエステル、アルキルサルフェート、スルホネート、及びホスフェート、アルキルアリールサルフェート、スルホネート、及びホスフェート、例えばナトリウムラウリルスルホネート及びエトキシル化リン酸化イソトリデシルアルコールが挙げられる。このような追加の化合物が存在する場合、その分散物中の含有率は、酸無水物の重量を基準として、0.1〜15重量%、例えば1〜10重量%、又は2〜7重量%とすることができる。水も分散物中に存在し、分散物100重量%までの分散物の残分を構成することができる。
【0053】
窒素含有有機化合物と、酸無水物と、場合によりアニオン性高分子電解質とを含む水性分散物は、前述のように定義される酸無水物と、アニオン性高分子電解質と、窒素含有有機化合物とを含有する混合物を形成するステップと、その混合物を水の存在下で分散させるステップとによって製造される。分散物の成分は、任意の順序で混合することができるが、好ましくはアニオン性高分子電解質と窒素含有有機化合物を混合し、適切な濃度まで水で希釈し、次に、その中に酸無水物を分散させる。一実施形態によると、アニオン性高分子電解質と、窒素含有有機化合物と、酸無水物を含有する分散物とをデンプンと混合した後、セルロース懸濁物及び/又は紙のウェブに加える。酸無水物分散物とあらかじめ混合されるデンプンは、保持システムの一部を形成することができる。この混合物は、十分な分散度が得られる好適な分散装置、例えば、比較的小さい剪断力が得られるスタティックミキサーを使用することによって分散させることができる。得られた分散物は、直径0.1〜10μmの液滴サイズを通常有する酸無水物の液滴を含有する。
【0054】
窒素含有有機化合物を含む酸無水物の水性分散物は、セルロース懸濁物に加えることができ、すなわちマシンチェスト及びヘッドボックスを含めたそれらの間のいずれかの位置で加えることができるし、或いはセルロースのウェブ又はシートに、例えばサイズプレスにおいて加えることもできる。一実施形態によると、水性酸無水物分散物は、ヘッドボックスに到達する前のセルロース懸濁物に加えられる。
【0055】
セルロース懸濁物に加えられる、或いはセルロースのシート又はウェブに塗布される酸無水物サイズ剤の量は、乾燥セルロース懸濁物及び場合による填料を基準にして、約0.01重量%から最大約1重量%、例えば約0.05重量%から最大約0.5重量%とすることができる。
【0056】
本発明の方法、並びに窒素含有化合物及び水性サイジング分散物の使用は、高い導電率を有する水性セルロース懸濁物から紙を製造する場合にも有用である。ワイヤ上で脱水した懸濁物の導電率は、0.3mS/cm〜10mS/cmの範囲内となることができる。本発明によると、導電率が少なくとも2.0ms/cm、例えば少なくとも3.5ms/cm、又は少なくとも5.0ms/cm、例えば少なくとも7.5ms/cmである場合に良好な結果を得ることができる。導電率は、標準的な装置、例えば、クリスチャン・ベルナー(Christian Berner)より供給されるWTW LF 330測定器によって測定することができる。上記値は、好適には、抄紙機のヘッドボックス中に供給される、又はヘッドボックス中に存在するセルロース懸濁物の導電率を測定することによって、或いは、懸濁物を脱水することで得られる白水の導電率を測定することによって求められる。高い導電率値は、紙料の形成に使用される材料、紙料中に投入される種々の添加剤、プロセスに供給される真水などに由来し得る塩(電解質)が高含有率であることを意味する。さらに、白水が広範囲にわたって再循環されるプロセスにおいては、プロセス中に循環する水中の塩がかなり蓄積され得るので、塩の含有率が通常は高くなる。
【0057】
本発明は、本明細書に規定される方法から得ることができる紙、及び酸無水物及び/又はその誘導体、窒素含有有機化合物、及び少なくとも1つのシェーディング染料;並びに場合により少なくとも1つの蛍光増白剤を含む紙にも関し、この紙の顔料の凝集を目視することはできない。本発明の紙は、あらゆる従来の用途に使用することができる。しかし、本発明の紙は、典型的には印刷用紙又はコピー用紙、或いは紙の良好な印刷適正を要するあらゆる他の使用に使用することができる。
【0058】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これらの実施例は本発明の限定を意図するものではない。特に明記しない限り、部数及び%は、それぞれ重量部及び重量%と関連している。
【実施例】
【0059】
実施例1
200mg/l 塩化カルシウムを含有する190g 水中のイソヘキサデセニル及びイソオクタデセニルコハク酸無水物を含むオレフィンフラクションを基準にして、10g ASAを分散させることによって、アルケニルコハク酸無水物(ASA)の水性分散物を調製した。すべての分散物は、オスタライザー(Osterizer)実験執拗ミキサーを使用して調製した。最初に水相をミキサーに加えた。ASA及び場合によるアミン含有シリカゾル(分散物no.2)を加えた後、その組成物を高速で2分間分散させた。
【0060】
10g ASA(EKA SA 420)を、200mg/l 塩化カルシウムを含有する190g 水の存在下0℃の温度で分散させることによって、ASA分散物no.1を調製した(ASA含有率5重量%)。
【0061】
10g ASA(EKA SA 820 SF)を、200mg/l 塩化カルシウムを含有する190g 水中、12℃の温度において、8.0重量%のSiO含有率を有しSiOに対して50(有効42.5%)重量%のトリエタノールアミン(TEA)を含有するシリカゾル5gの存在下で分散させることによって、ASA分散物no.2を調製した(ASA含有率5重量%、トリエタノールアミン含有率0.1重量%、有効0.085重量%)。
【0062】
10gの100%加水分解したASAを、200mg/l 塩化カルシウムを含有する190g 水中に12℃の温度で分散させることによって、ASA分散物no.3を調製した(ASA含有率5重量%)。
【0063】
以上のように調製したすべてのASA分散物に、3.3gの青色シェーディング染料(未希釈のビスコフィル(登録商標)ブルーBLF、クラリアント(登録商標))及び28.6gの紫色シェーディング染料(未希釈のレバニル(登録商標)バイオレットBN−LF、ランクセス(Lanxess)(登録商標))を加えた。ASA分散物(5%)が30kg ASA/t 乾燥繊維の添加に対応する場合、シェーディング染料の添加は、それぞれ100g/t(青色)860g/t(赤色/紫色)の添加に相当する。混合後、シェーディング染料を含有する分散物を20分間静置した。
【0064】
実施例2
5g/lの繊維濃度を有する80%の針葉樹繊維及び20%の広葉樹繊維(全繊維を基準)、7%の重質炭酸カルシウム(GCC)、2mS/cm(塩化カルシウムの添加によって)の導電率、pH7.9、及び1.75kg/t 蛍光増白剤(OBA)(ロイコフォア(Leuchophore)、UKO)を有する水性セルロース懸濁物に、実施例1のシェーディング染料で構成されるASA分散物を加える方法により、紙のシートを作製した。分散物は、乾燥セルロース懸濁物を基準としたASAとして計算して30kg/tの量で加えた。0.047のD.S.を有する5kg/tのカチオンデンプン(パールボンド(Perlbond)970)と7kg/t ポリアルミニウムクロライド(PAC)とを含む保持システムを使用した。ASA分散物を水性セルロース懸濁物に加えた後、形成されたセルロース懸濁物を10秒間混合した後、KCLシートフォーマーを使用してシートを形成した。次に、これらのシートを3.5barで8分間プレスした後、乾燥させた。この実施例では、特に明記しない限り、すべての量は乾燥セルロース懸濁物を基準としている。紙のシートの色斑に関する評価。それぞれの紙を、それぞれ8×8cmの等しい4つの部分に分割し、それらに1〜4の番号を付けた。7人の個人(人々)に、それぞれの紙の区画内の青色及び白色の斑点の数を数える作業を行わせ、合計を記録した。各シートについて記録した斑点の平均数を以下の表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例3
この実施例では、特に明記ししない場合には、すべての量は乾燥セルロース懸濁物を基準としている。実規模試験において、100〜280g/mの坪量の印刷及び筆記用の紙を、マルチシリンダー乾燥プロセスを有するフォードリニア・ブルーダーハウス(Fourdrinier Bruderhaus)を含む製紙方法を使用して製造した。完成紙料の懸濁物は、50% バージン繊維、15〜20% 乾燥損紙、17% 乾燥損紙、及び3〜12% GCC又は沈降炭酸カルシウム(PCC)填料を含有した。完成紙料組成物のpH範囲は6.8〜7.4の間であった。プロセスのウェットエンドで、以下の成分を加えた:
【0067】
【表2】

【0068】
a)従来技術による
酸無水物サイジング分散物(Eka ASA 420)をデンプン流中に供給した後、懸濁物に加えた。窒素含有有機化合物分散物中にもセルロース懸濁物中にも存在しなかった。
b)本発明による
酸無水物サイズ剤EKA SA 820SFを、8.0重量%のSiO含有率を有しSiOを基準にして50重量%(有効42.5重量%)のトリエタノールアミン(TEA)を含有するシリカゾル流中に、2:1の重量比で乳化させた後、得られた分散物をカチオン性デンプン流中に加え、その後で懸濁物に加えた。
【0069】
EKA ASA 420サイジング分散物を使用すると、5日後までに紙中に青色斑点が目視で観察された。
【0070】
Eka SA 820 SFと、8.0重量%のSiO含有率を有しSiOを基準にして50重量%(有効42.5重量%)のトリエタノールアミン(TEA)を含有するシリカゾルとを含むサイジング分散物を使用すると、125日の連続実験後に紙に青色斑点は目視で観察されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維を含有する水性懸濁物から紙を製造する方法であって、前記懸濁物及び/又は前記懸濁物から作製された紙のウェブに、i)窒素含有有機化合物、ii)酸無水物の水性分散物;及びiii)少なくとも1つのシェーディング染料を加えるステップと、ワイヤ上で前記懸濁物の排水を行って紙を形成するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記シェーディング染料が、可視スペクトル内の電磁放射線を吸収し、電磁放射線をあまり放出することがないか、電磁放射線を放出することがないかである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電磁放射線が約380nmから最大約750nmの前記スペクトル内で吸収される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
電磁放射線が約380nmから最大約495nm及び/又は約590nmから最大約750nmの前記スペクトル内で吸収される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記染料が、ジオキサジン類、及び少なくとも1つのフタロシアニン部分を含む有機化合物からなる群より選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記窒素含有有機化合物が最大約500g/molのモル質量を有する、請求項1から5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記窒素含有有機化合物が、アミン又はその第4級アンモニウム化合物である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記窒素含有有機化合物が、最大約180g/molのモル質量を有するアミン又はその第4級アンモニウム化合物である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記窒素含有有機化合物が、酸無水物を含む前記水性分散物中に含まれる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
酸無水物を含む前記水性分散物がアニオン性高分子電解質をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アニオン性高分子電解質がコロイダルシリカ系粒子を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記コロイド粒子が約1〜約100nmの粒度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記セルロース系繊維が約8未満のカッパー価を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記セルロース系繊維が約83を超える白色度を有する、請求項1から13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記セルロース懸濁物の導電率が少なくとも約2.0mS/cmである、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記懸濁物が少なくとも1つの蛍光増白剤をさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる紙。
【請求項18】
酸無水物及び/又はその誘導体、窒素含有有機化合物、並びに少なくとも1つのシェーディング染料を含む紙であって、顔料の凝集が目視により観察されない、紙。
【請求項19】
前記顔料が青味を帯びている、請求項18に記載の紙。
【請求項20】
懸濁物から紙を製造する方法における、前記紙中の染料の分布を改善するための添加剤としての、約180g/mol未満のモル質量を有するアミン又はその第4級アンモニウム化合物である窒素含有有機化合物の使用であって、前記懸濁物が少なくとも1つのシェーディング染料を含む、使用。
【請求項21】
前記窒素含有有機化合物が、酸無水物を含む水性分散物中に含まれる、請求項20に記載の使用。

【公表番号】特表2011−511172(P2011−511172A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543517(P2010−543517)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050813
【国際公開番号】WO2009/095364
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】