説明

紙の製造方法

【課題】本発明の課題は、ドライヤーパートでの乾燥負荷が低減された抄紙技術を提供することである。
【解決手段】本発明によって、タルクとロゼッタ型炭酸カルシウムを填料として併用した紙料から紙を抄造する工程と、抄造した紙にポンド式サイズプレスによって表面処理液を塗工する工程と、表面処理液を塗工した紙を多筒式シリンダードライヤーによって乾燥する工程と、を含む紙の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙の製造方法に関する。より詳しくは、乾燥負荷が軽減された紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に紙は、パルプ繊維を水中に懸濁させた繊維懸濁液から製造される。紙の製造においては、木材チップや古紙から得たパルプ原料に、填料や、必要に応じて、サイズ剤、紙力増強剤、歩留剤等の各種薬品を添加して紙料を調成し、この紙料をヘッドボックスからワイヤー上に噴射し、ワイヤーパートで脱水しながら湿紙(ウェブ)が形成され、プレスパートで搾水され、さらにドライヤーパートで湿紙を乾燥することによって製造される。特に、湿紙を乾燥させるためにドライヤーパートでは大きな熱が必要となるため、多大なエネルギーが消費される。
【0003】
したがって、乾燥しやすい湿紙を得ることができれば、ドライヤーパートでの乾燥負荷が低減され、コスト削減はもちろん、省エネルギー化や近年の環境意識の高まりにも合致することになる。ドライヤーパートでの乾燥負荷を低減できれば、同じ抄速で比較した場合、より少ないエネルギーで紙を乾燥させることができ、また、同じエネルギーで比較した場合、より高速で紙を乾燥させることができるため生産性が向上する。
【0004】
一般に、乾燥負荷軽減をするためには、原料であるパルプのフリーネス(濾水度)を高くして、紙料の脱水性を高めることが知られている。非特許文献1には、叩解の度合いを表す指標としてパルプからの水切れの度合いを評価するフリーネス(濾水度)があり、叩解を強くするに従って値が小さくなることが記載されており、非特許文献2には、叩解を進めると水切れが悪くなり、抄紙工程で抄造しにくくなることが記載されている。すなわち、フリーネス(濾水度)を高くするということは、繊維間の空隙を大きくして水が抜けて行きやすくすることであり、これによりワイヤーパート、プレスパートでできるだけ脱水を行い、ドライヤーパートでの乾燥負荷を減らすことができる。また、非特許文献3には、水分の除去に要する費用に関して、プレスでの圧搾とドライヤーでの過熱蒸発とでは、後者の方がコストがかかることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】紙パルプ製造技術シリーズ11 製造技術入門 紙パルプ技術協会(第35頁)
【非特許文献2】紙パルプ製造技術シリーズ11 紙料の調成 紙パルプ技術協会(第12頁)
【非特許文献3】紙パルプ製造技術シリーズ6 紙の抄造 紙パルプ技術協会(第263頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、ドライヤーパートでの乾燥負荷を減らすことで、紙の製造を効率良く行うことができる。しかし、濾水性を高くする従来の方法によってドライヤーパートでの乾燥負荷を低減することができるものの、この方法では、繊維間の空隙が大きくなるため、同時に水が入りやすくなる。一般に、紙の表面強度やサイズ性を向上させる目的などで、湿紙をプレドライヤーによって乾燥させた後、サイズプレスにおいて表面処理液(サイズ液)を紙に塗工し、アフタードライヤーによってさらに乾燥させることが行われる。サイズプレスによって紙を表面処理する場合、濾水度に優れた紙料を用いるとワイヤーパートでの脱水が効率的に行われるものの、サイズプレスでの吸液量が増えてしまい、結局のところ、ドライヤーパート、特にアフタードライヤーにかかる乾燥負荷が増大してしまう。
【0007】
特にサイズプレスとしてポンド式サイズプレスを用いる場合、表面処理液のポンド(液だめ)を紙が通過するため、表面処理液が紙の内部まで浸透しやすく、アフタードライヤーでの乾燥負荷が極めて増大し、上述の課題が顕著になる。
【0008】
したがって、紙料の濾水度を高めて繊維間の空隙を大きくすることによって脱水性を向上するという従来の手法では、サイズプレスを行う場合の乾燥負荷軽減を十分に達成することができない。
【0009】
また、ドライヤーパートでの乾燥負荷軽減のために、特別な装置を導入するといった設備面からの対応も考えられるが、そのような対応では大きな設備投資が必要となる。
以上のような状況に鑑み、本発明の課題は、原料である紙料を工夫することによって、サイズプレスを行う場合であっても、乾燥負荷の増大を抑制しながら抄紙する技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく本発明者が鋭意検討したところ、内添填料としてロゼッタ型炭酸カルシウムとタルクとを併用することによって、ドライヤーパートでの乾燥負荷を軽減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の紙の製造方法においては、タルクとロゼッタ型炭酸カルシウムを填料として併用した紙料から紙を抄造する工程、抄造した紙にポンド式サイズプレスによって表面処理液を塗工する工程、表面処理液を塗工した紙を多筒式シリンダードライヤーによって乾燥する工程、を含む方法によって、紙を製造する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポンド式サイズプレスで紙に表面処理液を塗工する場合であっても、特別な装置を導入せずに、ドライヤーパートにおける乾燥負荷軽減を図り、操業効率を大きく改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る抄紙方法は、タルクとロゼッタ型炭酸カルシウムを填料として併用した紙料から紙を抄造する工程と、抄造した紙にポンド式サイズプレスによって表面処理液を塗工する工程と、表面処理液を塗工した紙を多筒式シリンダードライヤーによって乾燥する工程とを有する。本発明の抄紙方法によれば、ドライヤーパートにおける乾燥負荷を低減することができ、効率的に紙を製造することが可能になる。別の観点からは、本発明は、紙の製造における乾燥負荷の低減方法と把握することもできる。
【0014】
紙料の調成
本発明においては、紙料に添加する填料としてタルクとロゼッタ型炭酸カルシウムを併用する。本発明において、タルクとロゼッタ型炭酸カルシウムを併用すると紙の乾燥負荷が低減する理由の詳細は明らかでなく、本発明は以下の推測に拘束されるものではないが、単にパルプのフリーネスを上げるだけの従来技術では脱水性は向上するもののサイズプレスでの吸液量が大きくなりドライヤー負荷が大きくなるのに対し、本発明のように特定の填料を組み合わせて使用することによって、紙料の脱水性を向上させつつ、さらに、サイズプレスでの吸液量が大きくなりすぎることが抑制され、結果として、ドライヤーパートでの乾燥負荷が低減されるものと推測される。
【0015】
本発明においては内添填料としてタルクを使用する。タルクは、含水ケイ酸マグネシウム(3MgO・4SiO・HO)を主成分とし、シリカ層の間にシリカ・水酸化マグネシウムの層がある層状構造を有する。滑石とも呼ばれ、主な産地は中国、韓国、米国、オーストラリアなどである。製紙分野では、タルクを内添填料として用いると、不透明性や平滑性、印刷適正などを向上させる効果があるとされる。本発明においてタルクの平均粒径は特に制限されないが、歩留りの観点からは0.5μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。また、紙の平滑性の観点からは、タルクの平均粒径は、40μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。本発明においてタルクの使用量は特に制限されないが、併用するロゼッタ型炭酸カルシウムに対して、ロゼッタ型炭酸カルシウム:タルクの比が50:50〜99:1が好ましく、60:40〜90:10がより好ましい。タルクの使用量を多くしすぎると紙の不透明度が低下するおそれがある一方、タルクの使用量が少なすぎると本発明の効果が小さくなるためである。
【0016】
本発明においては、タルクとともにロゼッタ(rosette)型炭酸カルシウムを内添填料として併用する。製紙用途に用いられる炭酸カルシウムの形状としては、針状、柱状、紡錘状、球状、立方体状、ロゼッタ型などが知られているが、本発明ではロゼッタ型炭酸カルシウムを使用する。ロゼッタ型炭酸カルシウムとは、カルサイト系炭酸カルシウムまたはアラゴナイト系炭酸カルシウムの一次粒子がいがぐり状に凝集した形状を有し、他の形態の炭酸カルシウムと比較して高い比表面積と吸油性を示す特徴がある。本発明で用いるロゼッタ型炭酸カルシウムの平均粒径は特に制限されないが、紙の不透明度を向上させて裏抜けを効果的に抑制する観点から、1〜10μmが好ましく、1.5〜7μmがより好ましく、2〜5μmがさらに好ましい。なお、ロゼッタ型炭酸カルシウムの一次粒子の形状や平均粒径は特に限定されず、針状、紡錘状、米粒状、柱状、平板状などの一次粒子を使用することができ、一次粒子の平均粒径は0.01〜10μmが好ましく、0.1〜5.0μmがより好ましい。また、ロゼッタ型軽質炭酸カルシウムの吸油量は、特に制限されないが、紙の印刷適性を効果的に向上させる観点から、50〜300ml/100gであることが好ましく、90〜150ml/100gであることが特に好ましい。
【0017】
ロゼッタ型炭酸カルシウムは、1種類を単独で、または複数種類のロゼッタ型炭酸カルシウムを混合して使用することもできる。市販のロゼッタ型炭酸カルシウムの例としては、アルバカーHO、アルバカー5970、アルバカーLO等の製品(いずれもSpecialty Minerals社)を好ましく挙げることができる。ロゼッタ型炭酸カルシウムの製法は特に制限されないが、炭酸カルシウム製造工程において、二酸化炭素の供給方法を調整したり、縮合リン酸やその塩などの添加剤を添加したりすることによって、炭酸カルシウムの一次粒子をロゼッタ型に凝集させて一般に製造される。
【0018】
上述したように本発明ではタルクとロゼッタ型炭酸カルシウムを併用するが、他の公知の填料を紙料にさらに配合することができる。配合する填料の種類は、特に限定されず、酸性抄紙あるいは中性抄紙において一般に使用される填料を使用することができる。例えば、本発明においては、クレー、シリカ、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化チタン、ベントナイトなどの無機填料;尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料;を単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、製紙スラッジや脱墨フロス等を原料とした再生填料も使用することができる。
【0019】
紙料への填料の配合量としては、不透明度等の点から、パルプ重量に対して2〜30重量%が好ましい。また、紙中填料率(紙中灰分)は10重量%以上であることが望ましく、40重量%以下であることが望ましい。特に、填料の配合率が高く、紙中填料率の高い紙を抄造する場合、脱水性の低下が深刻な問題となるところ、本発明によれば乾燥負荷を低減することができ好適である。
【0020】
本発明に用いる紙料は、パルプ原料を含んでなる。使用するパルプ原料に特に制限はなく、木材パルプの他に、リンターパルプ、麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、ワラなどの非木材パルプ、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどの合成繊維などを使用することができる。具体的には、機械パルプ(MP)、脱墨パルプ(DIP、古紙パルプとも呼ばれる)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)など、印刷用紙の抄紙原料として一般的に使用されているものを好適に使用することができ、適宜、これらの1種類または2種類以上を配合して使用される。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)などが挙げられる。脱墨パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙や、コピー紙や感熱紙、ノーカーボン紙などを含むオフィス古紙を原料とする脱墨パルプであれば良く、特に限定はない。
【0021】
本発明の紙料には、本発明の効果を阻害しない範囲で、種々の内添薬品を添加してよい。内添薬品としては、これに制限されるものではないが、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン性澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの内添紙力増強剤;ロジン系サイズ剤、AKD系サイズ剤、ASA系サイズ剤、石油系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤などの内添サイズ剤;硫酸バンド、歩留向上剤、紫外線防止剤、退色防止剤、濾水性向上剤、凝結剤、染料および蛍光染料などを添加してもよい。
【0022】
抄紙工程
本発明においては、上記のように調成された紙料が適宜希釈され、必要に応じてスクリーンやクリーナーで紙料から異物を除去した後に、抄紙機のヘッドボックスから抄紙ワイヤー上に噴射される。本発明は種々の抄紙機や抄紙法に適用することができ、中性抄紙でも酸性抄紙でもよいが、ロゼッタ型炭酸カルシウムを使用するため中性抄紙であることが好ましい。具体的には、本発明においては、抄紙時の紙料pHが5.0〜9.0であることが好ましく、6.0〜8.0であることがより好ましい。
【0023】
また、本発明で用いる抄紙機のヘッドボックスは特に制限されず、種々の形式のヘッドボックスを使用することができる。一般に、ヘッドボックスは、抄紙機全幅にわたり、原料を安定した状態でワイヤー上に噴射する装置であり、例えば、ステップデフューザー型ヘッドボックス、ハイタービュレンス型ヘッドボックス、アクデーフロー型ヘッドボックス、モジュールジェット型ヘッドボックスなどを挙げることができる。中でも、本発明においては濃度希釈型ヘッドボックス(あるいは濃度制御型ヘッドボックスとも呼ばれる)である、モジュールジェット型ヘッドボックスを好適に用いることができる。
【0024】
また、本発明で用いる抄紙機に特に限定はなく、例えば、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ギャップフォーマー抄紙機等で適宜抄紙できる。ツインワイヤー抄紙機としては、ギャップフォーマー、オントップフォーマーなどが挙げられる。
【0025】
本発明は、抄紙機のワイヤーパートの構成に制限されず、種々の構成を有するワイヤーパートに適用することができる。一般に、抄紙機のワイヤーパートには、種々の脱水エレメントや脱水装置が配置され、脱水が促進される。具体的には、フォイルブレード、サクションボックスなどが用いられ、オントップツインワイヤーの場合には上部脱水装置なども設置される。これらの脱水エレメントや脱水装置の条件によっても、微細繊維の歩留りは変化するが、本発明においては、これらの脱水エレメントや脱水装置の種類と配置には特に限定はなく、通常の操業範囲の中で、これらの脱水エレメントを適宜、選定および配置することができる。
【0026】
ワイヤーパートにおいては、ワイヤーの種類によってもパルプや填料の歩留りが変化するが、本発明で使用するワイヤーの目開きや織り方については特に限定はなく、適宜、市販のワイヤーを使用することができる。
【0027】
一般に、抄紙機のワイヤーパートでシート状に形成された湿紙(ウェブ)は、プレスパートに送られて搾水される。本発明においては、抄紙機のプレスパートのプレス形式には限定はなく、公用の装置を用いることができるが、シュープレスを2段以上で用いることが好ましい。また、プレス条件も特に限定はなく、通常の操業範囲で適宜設定できる。
【0028】
サイズプレス工程
本発明においては、ポンド式サイズプレスによって紙に表面処理液を塗工する。ポンド式サイズプレスとは、表面処理液のポンド(液だめ)にウェブを通過させることによって表面処理液を紙表面に塗工するタイプのサイズプレスであり、例えば、プレドライヤーとアフタードライヤーの間に設置される。一般に、サイズプレスには、本発明で用いるポンド式サイズプレスの他に、ゲートロール型やロッドメタリング型のサイズプレスが知られているが、これらのサイズプレスは、ポンドに直接紙を通過させることはせず、ロールやロッドなどを媒体として紙の表面近傍にのみ表面処理液を塗工することができるので、アフタードライヤーでの乾燥負荷は比較的小さい。しかし、ポンド式サイズプレスでは、ポンド中の表面処理液と紙が直接接触するため、サイズプレスでの吸液量が増えてしまい、ドライヤーパート、特にアフタードライヤーにかかる乾燥負荷が増大してしまう。本発明によれば、このようなポンド式サイズプレスを使用して紙を製造する場合であってもドライヤーパートの乾燥負荷を軽減することができる。
【0029】
本発明においてポンド式サイズプレスでクリア塗工する表面処理液は、バインダーやサイズ剤を含んでいてよい。クリア塗工する表面塗工剤の種類や組成は、特に限定されないが、表面強度の強化を目的としたバインダーとしては、生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、酵素変性澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉などの澱粉;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体;ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコールなどの変性アルコール;スチレンブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミドなどの水溶性高分子物質を単独または併用することができる。中でも表面強度向上効果にすぐれるヒドロキシエチル化澱粉またはヒドロキシプロピル化澱粉の塗布が最も好ましい。また、紙に吸水抵抗性を付与するためのサイズ剤としては、スチレンアクリル酸、スチレンマレイン酸、オレフィン系化合物、アクリル(メタ)アクリレート系化合物、ロジン系サイズ剤、AKDやASAなどの反応性サイズ剤など一般的な表面サイズ剤を併用塗布することができる。
【0030】
水溶性高分子物質と表面サイズ剤を含む表面処理剤を塗布する場合、水溶性高分子物質と表面サイズ剤との混合比率は公用の範囲で行えば良く、特に限定はない。また、水溶性高分子物質および/または表面サイズ剤の塗布量も用途に応じて調整すればよく、特に限定はない。
【0031】
乾燥工程
本発明においては、上記のように表面処理液を塗工した紙を多筒式シリンダードライヤーによって乾燥する。多筒式シリンダードライヤーとは、円筒状のシリンダードライヤーが複数並んで構成され、複数のシリンダードライヤーに紙が接触しながら通過する間に紙の乾燥が行われる。一般に、紙の乾燥には、本発明の多筒式シリンダードライヤーの他に、1本の大径ドライヤー(ヤンキーともいう)に湿紙を押し付けながら乾燥するヤンキードライヤー、ティシューなどの衛生用紙の乾燥に用いられるエアスルードライヤー、赤外線ドライヤーなどが知られているが、多筒式シリンダードライヤーはその処理速度が比較的速いため、大量生産を行う場合に好適である。
【0032】
多筒式シリンダードライヤーでの乾燥能力は、ドライヤシリンダの本数と蒸気圧によって制御することができる。ドライヤシリンダを加熱する加熱蒸気の蒸気圧を高くすると、高い温度で湿紙を早く乾燥させることができる。また、多筒式シリンダードライヤーを通過する紙の速度を落としてドライヤーと紙との接触時間を長くすることによって、紙を十分に乾燥させることもできるが、これでは、紙の生産効率が低下してしまう。
【0033】
一般に乾燥負荷の高い湿紙(乾燥しにくい湿紙)を乾燥させるには、加熱蒸気の蒸気圧を高くするか、抄速を低下することによって対応することが考えられるが、本発明によれば、紙の製造における乾燥負荷を低減することができるので、一定蒸気圧であれば抄速を上げることができ、また、一定抄速であれば加熱蒸気の蒸気圧を節約することができるため、いずれにしても生産性が大きく向上する。
【0034】
表面処理
このように製造された紙は、必要に応じてカレンダーで表面処理されたり、ワインダーで巻取りに加工してもよい。これらの処理は特に制限されず、公知の方法で処理することができる。カレンダー装置としては、例えば、金属ロールから成る通常のカレンダーやソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダーなどの公用の装置を適宜選定し、品質目標値に応じて、これらの装置の制御可能な範囲内で条件を設定すればよい。
【0035】
上記のように製造された紙は、顔料塗工を施さずにそのまま非塗工紙として用いることもできるし、さらに顔料塗工を施して塗工紙とすることもできる。顔料塗工を行う場合、その塗工方式や顔料塗工層の組成などは特に制限されない。顔料としては、例えば、カオリン、クレー、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト等の無機顔料;プラスチックピグメント等の有機顔料を適宜選択して使用できる。接着剤としてはスチレン・ブタジエン系ラテックス、ポリビニルアルコール等の合成接着剤;澱粉類、セルロース誘導体等を便宜選択して使用できる。顔料と接着剤の割合は公用の範囲で行えば良く、特に限定はない。塗工装置としては、例えば、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、リバースロールコーター、カーテンコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、ゲートロールコーター等を使用できる。
【0036】

本発明の製造方法で得られた紙は、例えば、上質または中質印刷用紙、新聞用紙、アート紙やキャストコート紙等のコート原紙、情報記録用紙等の各種用途に用いることができる。印刷用紙の場合、印刷方式はオフセット印刷、凸版印刷などの限定はないが、本発明は、中性抄紙や高速抄紙に好適に適用できることから、本発明により製造する紙は、新聞用紙などのオフセット印刷用紙であることが好ましい。
【0037】
本発明で製造される紙の坪量についても限定はないが、本発明は、坪量の高い厚物の抄造により好ましく適用できる。紙の坪量が大きくなると、乾燥すべき水分量が坪量に比例して増えるため、乾燥負荷が大きくなるところ、本発明によれば乾燥負荷を効率的に低減できるため、厚物の抄造に本発明に適用すると本発明の効果を大きく享受することができる。具体的には、本発明は、好ましくは坪量が80g/m以上、より好ましくは坪量が100g/m以上、さらに好ましくは坪量が120g/m以上の紙を製造する場合に好適に適用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。本明細書中、部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を示し、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0039】
紙の製造
広葉樹晒クラフトパルプ(CSF500ml)100部を離解して調製したパルプスラリーに、填料を対パルプ固形分で10%、内添紙力増強剤として対パルプ固形分1%のカチオン変性澱粉を添加して紙料を調製した。填料配合(重量基準)は、ロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(白色度97.0%、吸油量120ml/100g、平均粒子径2.0μm、比表面積2.5m/cc)85部に対してタルク(白色度83.8%、吸油量53ml/100g、平均粒子径12.6μm、比表面積0.62m/cc)を15部併用した。
【0040】
後述する構成のマシンにより、この紙料から種々の坪量を有する紙を製造した。具体的には、上記紙料をモジュールジェット型ヘッドボックスに送り、ヘッドボックスからツインワイヤー型の抄紙ワイヤー上に紙料を噴射して抄紙し、プレスパートで搾水、プレドライヤーで乾燥後、ボンド式サイズプレスを用いて、ヒドロキシエチル化澱粉及びカチオン性表面サイズ剤(スチレン/アクリル酸エステル共重合体)を含む表面塗工剤(ヒドロキシエチル化澱粉の固形分濃度10%、表面サイズ剤の固形分濃度0.10%)をフェルト面、ワイヤー面の両面に均等に塗工し(塗工量2g/m:両面合計)、アフタードライヤーで紙の水分率を5%まで乾燥して、坪量が90g/m、120g/m、140g/m、160g/mとなるように紙を製造した。
【0041】
本実施例では、シリンダードライヤーを加熱する蒸気の蒸気圧を一定にした上で、完成品の紙の水分率を5%に設定して紙を製造した。したがって、乾燥しやすく、紙の水分率が目標水分率に達しやすい場合は、抄速を高くすることができ、乾燥しにくく、紙の水分率が目標水分率に達しにくい場合は、抄速が低くなる。
【0042】
マシン構成
本実施例で用いたマシンは、ヘッドボックス、ワイヤーパート、プレスパート、プレドライヤー、サイズプレス、アフタードライヤーで構成され、その詳細は以下の通りである。
・ヘッドボックス:モジュールジェット型
・ワイヤーパート:ツインワイヤー式
・プレスパート:3プレス
・プレドライヤー:多筒式シリンダードライヤー(シリンダー数28本)
・サイズプレス:ポンド式サイズプレス
・アフタードライヤー:多筒式シリンダードライヤー(シリンダー数24本)
試験結果
上記条件で抄紙した結果を以下の表に示す。表から明らかなように、本発明に従ってロゼッタ型炭カルとタルクを併用すると、平均抄速が約10m/min以上向上した。すなわち、本発明によってドライヤーパートでの乾燥負荷が軽減された結果、より高速での操業が可能になり、より効率的に紙を製造できた。
【0043】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タルクとロゼッタ型炭酸カルシウムを填料として併用した紙料から紙を抄造する工程、
抄造した紙にポンド式サイズプレスによって表面処理液を塗工する工程、
表面処理液を塗工した紙を多筒式シリンダードライヤーによって乾燥する工程、
を含む、紙の製造方法。
【請求項2】
坪量が80g/m以上の紙の製造方法である、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2012−172287(P2012−172287A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37989(P2011−37989)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】