説明

紙容器貼合せ用フィルムおよびこれを備える紙容器ならびにその製造方法

【課題】 加工性、成形性、透明性、経時安定性、耐溶剤性、寸法安定性、電子レンジ耐熱性、および光沢度に優れた紙容器貼り合わせ用フィルムを提供する。
【解決手段】 実質的に非配向構造のポリエステル層Bと、この層に接して両側に設けられた配向構造のポリエステル層Aとからなり、ポリエステル層Aの合計厚み(a)とポリエステル層Bの厚み(b)の比(a/b)が0.01〜0.60であり、総厚み(a+b)が20〜100μmであることを特徴とする、紙容器貼り合せ用ポリエステルフィルムによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品等を入れる紙容器に貼合せて用いる紙容器貼合せ用フィルムに関する。詳しくは、食品を冷凍もしくは冷蔵保存し食するときに電子レンジで加熱する態様で用いる紙容器に貼合せて用いる紙容器貼合せ用フィルムおよびこれを用いた紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品包装分野(例えば、トレー、インスタント食品容器等)、薬品包装分野(例えば、カプセル、錠剤等のPTP薬品包装等)、ラミネート成形分野(例えば、家具、屋内外装飾品、電化製品、自動車部品等の、フィルムと紙、木材、金属、もしくは樹脂とのラミネート品の成形加工品等)、IC、半導体分野、磁気記録用カード材料分野(例えば、キャッシュカード、IDカード、クレジットカード等)、農業分野(例えば、グリーンハウス等)など幅広い分野に、プラスチックのフィルム(シートも含む。以下同じ)が用いられている。
【0003】
これらの用途に用いられる材料は、一般に平面形態のみならず、曲面、凹凸面等の非平面の表面形態である製品が多い為、加工性・成形性に優れた硬質ポリ塩化ビニル樹脂製のフィルムが主として用いられている。また、ポリエステル系の材料としてはA-PET(商品名)と呼ばれる無配向ポリエチレンテレフタレートフィルムがよく用いられており、成形性に優れている。しかしながらA-PETは、長時間使用すると脆化現象が発生し、不透明化、伸度低下等の問題がある。この欠点を解消しようとする目的で、特開平8−279150号公報には、無配向加熱結晶化ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いる方法が提案されている。
【0004】
また、惣菜、弁当などの内容物を入れる容器としての素材は、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル等が成形加工性などの点で好ましく用いられてきたが、焼却などにより、燃焼した際の有毒ガス発生の問題があり、近年の環境性ニーズにより新しい素材が求められてきている。
【0005】
また、食用惣菜を電子レンジで直接加熱することのできる電子レンジ耐熱性に優れた紙容器も、矩形状底板の各辺から起立する側板を有し、それぞれ隣接する側端部で接着片にて接着固定される形状で提案されている(特開平7−277318号公報)。一方で、紙容器内面側の複雑な仕切り形状に対して、加熱下あるいは余熱下で紙容器に沿って真空吸引成形されることを特徴とするフィルムも提案されている(特開2004−268441号公報)。
【0006】
【特許文献1】特開平8−279150号公報
【特許文献2】特開平7−277318号公報
【特許文献3】特開2004−268441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の材料は、加工性・成形性に優れ、前記用途に多く用いられているが、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂は耐熱性・耐薬品性に劣るため、電子レンジ加熱下で変形してしまう問題がある。加えて、ポリ塩化ビニル樹脂は、使用後焼却すると塩素による有毒物質が生成しやすく、環境汚染の問題を発生させる。また、A−PETなどの無配向加熱結晶化ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いる方法により、電子レンジ耐熱性は非ポリエステル系フィルム対比改善されるが、耐薬品性や製品表面の光沢度の面で劣る。更に、1,4−シクロへキサンジメタノール誘導体共重合ポリエステルは、成形性、経時変化は良好であるものの、インク等を使用して印刷したとき、フィルム表面のポリマーがインクの溶剤等で溶解して裏移りしやすい等、有機溶剤への耐久性に乏しく、また加工した製品がカール、変形しやすい等の点で寸法安定性が不十分である。
【0008】
本発明は、かかる問題点を改善することを目的する。本発明の課題は、加工性、成形性、透明性、経時安定性、耐溶剤性、寸法安定性、電子レンジ耐熱性、および光沢度に優れた紙容器貼り合わせ用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、実質的に非配向構造のポリエステル層Bと、この層に接して両側に設けられた配向構造のポリエステル層Aとからなり、ポリエステル層Aの合計厚み(a)とポリエステル層Bの厚み(b)の比(a/b)が0.01〜0.60であり、総厚み(a+b)が20〜100μmであることを特徴とする、紙容器貼合せ用フィルムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工性、成形性、透明性、経時安定性、耐溶剤性、寸法安定性、電子レンジ耐熱性、および光沢度に優れた紙容器貼り合わせ用フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリエステル層A]
ポリエステル層Aはポリエステルの配向構造を有する層であり、この配向構造は延伸により形成される。延伸は一軸延伸、二軸延伸のいずれでもよい。このポリエステルA層を構成するポリエステルとしては、主たるジカルボン酸単位がテレフタル酸単位、もしくはテレフタル酸およびイソフタル酸単位からなり、主たるグリコール単位がエチレングリコール単位からなるポリエステルが好ましい。
【0012】
このポリエステルは、必要に応じて、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2−ビフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸,アゼライン酸,セバシン酸等の他のカルボン酸単位を含有していてもよく、また、例えばプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の他のグリコール単位を含有していてもよい。
【0013】
ポリエステル層Aのポリエステルの融点は、例えば200〜270℃であり、ポリエステル層Bを構成するポリエステルの融点より好ましくは少なくとも15℃高く、さらに好ましくは少なくとも20℃高い、特に好ましくは少なくとも30℃高い。
【0014】
フィルム、加工製品の寸法安定性、耐変形性、耐カール性の面より、ポリエステル層Aのポリエステルのガラス転移温度は、好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。なお、ガラス転移温度は、ポリエステルを一度溶融して後、急冷、固化したサンプルを、示差熱熱量計で20℃/分の速度で昇温したときの構造変化(比熱変化)温度をいう。
【0015】
ポリエステル層Aのポリエステルの融点は、ポリエステル層Bのポリエステルの融点より好ましくは少なくとも15℃高く、さらに好ましくは少なくとも20℃高く、特に好ましくは少なくとも30℃高い。ポリエステル層Aとポリエステル層Bとの融点差が15℃未満であると熱処理の際にポリエステル層Bが充分に溶融しないため、実質的な無配向構造への変化が不充分となってしまう。そして、この場合、熱処理温度がポリエステル層Aの融点に近すぎて、ポリエステル層Aの溶融が一部起き始めるため、フィルム製造時においてはフィルムの切断発生、またロール状に巻き取った物が融着してしまう等のトラブルが起きやすくなる。
【0016】
なお、易滑性を得る観点からポリエステル層Aは、好ましくは不活性粒子を含有する。不活性粒子の平均粒子径は、好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.1〜2μmである。平均粒径が0.05μm未満であるとフィルムに十分な滑性が付与されず好ましくなく、5μmを超えるとフィルムの透明性が失われてしまい好ましくない。
【0017】
不活性粒子の形状は、好ましくは球形の粒子である。球状の不活性粒子を選択することにより、光線の散乱を低減し、高い光線透過率を得ることができる。不活性粒子としてはAl、Si、Ca、Mgのいずれか1種以上の元素を含むものが好ましい。
【0018】
[ポリエステル層B]
ポリエステル層Bは実質的に非配向構造のポリエステルの層である。この非配向構造はフィルムの延伸により一旦形成された配向構造を結晶の融点以上の温度で加熱処理することにより形成される。このポリエステル層Bを構成するポリエステルは、例えば180〜250℃、好ましくは190〜250℃であり、ポリエステル層Aを構成するポリエステルの融点より好ましくは少なくとも15℃低い融点を有する。なお、融点は、ポリエステルを一度溶融した後、急冷、固化したサンプルを、示差熱熱量計で20℃/分の速度で昇温したときの溶融吸熱ピーク温度である。したがって、本発明のフィルムを分析した場合、層Aと層Bのポリエステルのピークが検出され、2つあるいはそれ以上ピークが検出される。
【0019】
フィルム、加工製品の寸法安定性、耐変形性、耐カール性の面より、ポリエステル層Bのポリエステルのガラス転移温度は、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。特に、夏期における車中での保管等高温に製品等が曝される用途では、80℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。なお、ガラス転移温度は、ポリエステルを一度溶融して後、急冷、固化したサンプルを、示差熱熱量計で20℃/分の速度で昇温したときの構造変化(比熱変化)温度をいう。
【0020】
層Bを構成するポリエステルとして、主たるジカルボン酸単位がテレフタル酸および/もしくは2,6−ナフタレンジカルボン酸および/もしくはイソフタル酸単位からなるコポリエステルが好ましい。
【0021】
このコポリエステルの具体例としては、1)テレフタル酸単位およびナフタレンジカルボン酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位を主とするグリコール単位からなるコポリエステル、2)テレフタル酸単位およびイソフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位を主とするグリコール単位からなるコポリエステル、3)テレフタル酸単位およびナフタレンジカルボン酸単位およびイソフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位を主とするグリコール単位からなるコポリエステルを挙げることができる。
【0022】
就中、コポリエステルとして好ましいものは、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸90〜60モル%、ナフタレンジカルボン酸5〜20モル%、イソフタル酸5〜20モル%とジオール成分としてエチレングリコールとからなるコポリエステルである。
【0023】
ポリエステル層Bのガラス転移温度は好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。特に、夏期における車中での保管等高温に製品等が曝される用途では、80℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0024】
[層構成]
本発明のフィルムの層構成は、通常、ポリエステル層Aとポリエステル層Bからなる。例えば、ポリエステル層Aが表層であり、ポリエステル層Bが内層である、A/B/A(ここで、/は層の構成を示す)タイプの3層構成、A/B/A/B/Aタイプの5層構成、さらにこれらの順序による7層、9層、2n+1(nは自然数)構成等マルチ多層構成が挙げられる。また、必要に応じて、ポリエステル層Aが2層以上の場合、1以上の層を違うポリマーで構成することができる。ポリエステル層Bが2層以上の場合も同様である。例えば、ポリエステル層Aが2種のポリマー(A1、A2)、ポリエステル層Bが2種のポリマー(B1、B2)からなるとき、A1/B1/A2タイプの3層構成、A1/B1/A2/B2/A1タイプの5層構成等を挙げることができる。これら層構成のうち、3層、5層が好ましく、特に3層が好ましい。
【0025】
本発明のフィルムは、実質的に非配向構造のポリエステル層Bと、この層に接して両側に設けられた配向構造のポリエステル層Aとからなる。換言すれば、1軸以上の延伸配向構造を有するポリエステル層Aと、1軸以上の延伸配向構造を熱処理により非配向構造としたポリエステル層Bとの積層構造を有し、かつ表層がポリエステル層Aからなる、少なくとも3層の多層フィルムである。ポリエステル層Bを非配向構造とするための熱処理は、ポリエステル層Bの両面にポリエステル層Aを積層した状態で、ポリエステル層Aのポリエステルの融点より低くかつポリエステル層Bのポリエステルの融点より高い温度で行う。これにより、ポリエステル層B中のポリエステルは一時溶融状態になる為、層Bのポリマー配向構造は1軸以上の延伸配向構造から実質的に無配向な構造になる。
【0026】
この熱処理は、好ましくは、共押出製膜法における延伸処理後の熱固定処理時の温度を、ポリエステル層Aのポリエステルの融点より低くかつポリエステル層Bのポリエステルの融点より高い温度に設定することで有効に行うことができる。
【0027】
本発明における多層ポリエステルフィルムは、1軸以上の延伸配向構造を有するポリエステル層Aが最表層を構成することが必要である。実質的に非配向構造であるポリエステル層Bが最表層を構成すると、フィルム表面に文字、画像等をインキで印刷する際、溶剤等でフィルムが一部溶解して裏移りしやすい等の有機溶剤への耐久性が劣り、特に製品化後の表面光沢度が低下し、さらにはフィルム製造の際、工程内の各種ロール等にフィルムが粘着しやすい等の問題がある。
【0028】
本発明のフィルムにおいて、1軸以上の延伸配向構造を有するポリエステル層Aの総厚み(a)と、実質的に非配向構造であるポリエステル層Bの総厚み(b)の比(a/b)は0.01〜0.60、好ましくは0.02〜0.43、さらに好ましくは0.05〜0.17である。この厚み比は、例えば層構成がA1(厚み:a1)/B(厚み:b)/A2(厚み:a2)の3層からなる場合、層Aと層Bの総厚み比(a/b)、すなわち(a1+a2)/(b)が0.01〜0.60であることを意味し、また層構成がA1(厚み:a1)/B1(厚み:b1)/A2(厚み:a2)/B2(厚み:b2)/A3(厚み:a3)の5層からなる場合、層Aと層Bの総厚み比(a/b)、すなわち(a1+a2+a3)/(b1+b2)が0.01〜0.60であることを意味する。この総厚み比(A/B)が0.01に満たないと、ポリエステル層Aの最表層厚みが小さいため、フィルム製造時の厚み制御が難しく、ポリエステル層Bが一部表層に露出しやすいという問題を生じ、また、フィルムの寸法安定性が不充分であると同時に、電子レンジ耐熱性が劣る。他方、総厚み比が0.60を超えると、実質的に非晶構造であるポリエステル層Bの存在割合が少ないため、ポリエステルフィルムを加熱あるいは余熱下で紙容器に沿って真空吸引成形加工する際の応力に対して成形性が不十分となる。
【0029】
フィルムの総厚みは20〜100μm、好ましくは25〜80μm、さらに好ましくは30〜60μmである。総厚みが100μmを超えるとフィルムを加熱あるいは余熱下で紙容器に沿って真空吸引成形加工する際の応力に対して成形性が不十分となる。総厚みが20μm未満であると製膜時フィルム破断および厚み斑の問題が発生する。
【0030】
[ポリオレフィン]
本発明のフィルムはポリオレフィン樹脂を0.1〜30重量%含有していてもよい。ポリオレフィン樹脂は、ポリエステル層A、ポリエステル層Bのいずれか一方に含有されてもよく、両方に含有されていてもよい。ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテンを挙げることができる。
【0031】
本発明のフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに各種の添加剤を含有してもい。この添加剤として、ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールブロックコポリマーといったエラストマー樹脂、顔料、染料、熱安定剤、難燃剤、発泡剤、紫外線吸収剤を例示することができる。例えば、隠蔽性、マット調表面などを要求されるカード、包装分野などにおいては、隠蔽性に優れた粒子、例えば酸化チタン、硫酸バリウムを含有させてもよい。
【0032】
[製造方法]
ポリエステル層Aおよびポリエステル層Bを構成するポリエステルは、周知の方法で製造することができる。その具体的な例としては、1)ポリエステル製造の反応工程で、1種または複数のジカルボン酸エステル形成性誘導体と1種または複数のグリコ−ルを反応させる方法、2)2種以上のポリエステルを、単軸あるいは2軸押出し機を用い、溶融混合してエステル交換反応(再分配反応)させる等の方法が挙げられる。なお、これらの工程において、必要に応じて、粒子、ポリオレフィン、その他各種添加剤をポリエステル中に含有させることもできる。
【0033】
本発明のフィルムは、共押出製膜法で製造するのが好ましい。その具体例を3層フィルム(A/B/A)の場合について説明すると、先ず、ポリエステル層A用に調製したポリエステルのチップを乾燥、溶融する。これと並行して、ポリエステル層B用に調製したポリエステルのチップを乾燥、溶融する。続いて、これら溶融ポリマーをダイ内部で3層に積層し、例えばフィードブロックを設置したダイ内部で3層に積層したのち、冷却ドラム上にキャスティングして未延伸多層フィルムにし、続いて、該多層フィルムを縦軸および/または横軸に1軸以上の方向に延伸して1軸以上の延伸配向構造を有する多層延伸フィルムを得る。なお、5層以上の場合も、同様にすることができる。延伸処理はポリエステル層Aが所望の配向構造を形成する条件で行い、例えば層Aを構成するポリエステルのTg(ガラス転移温度)−10℃からTg+50℃の温度(Tc)で、縦方向に2.5倍以上、好ましくは3〜6倍延伸し、次いでTg+10からTg+50℃の温度で、横方向に2.5倍以上、好ましくは3〜6倍延伸するのが好ましい。この延伸は面積倍率で8倍以上、さらには9倍以上であることが好ましい。
【0034】
以上の様にして得られる多層延伸フィルムに、さらに熱処理を実施する。この熱処理温度は、ポリエステル層Bの融点より高い温度であることが肝要であり、この熱処理により、ポリエステル層Bが溶融して、1軸以上の延伸処理で形成された延伸配向構造が、実質的に無配向構造に変化する。熱処理温度は、ポリエステル層Bの融点より5℃以上高い温度で、かつポリエステル層Aの融点より10℃以上低い温度が好ましい。なお、この熱処理によって、ポリエステル層Aには、例えば熱固定処理の効果をもたらす。この熱処理方法は特に限定されないが、例えば、フィルム製造時において延伸後直ちに工程内で熱処理する方法、フィルム製造完了後フィルムをロール状に巻き取った後熱処理する方法などが挙げられる。
【0035】
本発明の紙容器貼合せ用フィルムは、紙容器に沿って配置し、加熱下もしくは余熱下に紙容器に沿って真空吸引成形することにより、フィルム層を表層に備える紙容器を得ることができる。得られる紙容器において、紙容器貼合せ用フィルムの厚みは好ましくは1〜100μmである。1μm未満であると紙容器に貼合せて用い電子レンジで内容物を加熱したとき、クラックやピンホールが発生することがあり好ましくない。100μmを超えると真空吸引成形が困難な場合があり好ましくない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例および比較例において用いた特性の測定方法ならびに評価方法は、次のとおりである。
【0037】
(1)真空吸引成形評価
市販のアズワン(株)取り扱い製品・ビフネルロートAF3(φ105mm)を用い、このロート上口部に評価用フィルムを両面テープで隙間無く貼付け、フィルム上方100mmにセットした1200W工業用ドライヤーにて約60秒、フィルム表面付近温度が100℃となるまで加熱した。その後、東京理化器械(株)アスピレーターA−3Sを用いて、ロート下部より減圧調整弁を用いて、50mmHgの真空度下でフィルムを10秒間吸引成形し、評価用サンプルを作成した。成形性は、例えば、最も引張り成形されるロート端底部分の追従性およびフィルム厚みを測定することで評価した。
○:フィルムがロート端底部分まで十分に追従するよう成形されており、該端底部分のフィルム厚みが、元のフィルム厚みの10%以上に保たれている。
△:フィルムがロート端底部分まで十分に追従するよう成形されているが、該端底部分のフィルム厚みが薄く、元のフィルム厚みの10%未満である。
×:フィルムがロート端底部分まで十分に追従成形されず、あるいは追従成形されていても該端底部分でのフィルム破断などが確認される。
【0038】
(2)電子レンジ耐熱性評価
上記(1)の真空吸引成形評価で得られたフィルム容器に、オリーブ油50ccを入れ、1500W電子レンジにて3分間加熱した後のフィルム容器の様子を観察し、下記評価基準で電子レンジ耐熱性を評価した。
○:大きな変化なし。
△:変形などの変化あり。
×:破れる、もしくは溶融する。
【0039】
(3)光沢度評価
ミノルタ(株)製GM−268を用い、入射角60度にて測定した。
【0040】
(4)フィルム厚み
外付けマイクロメーターで100点測定し、平均値を求めてフィルムの厚みとした。
【0041】
(5)各層の厚み
サンプルを三角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋した。そして、包埋されたサンプルをミクロトーム(ULTRACUT−S)で縦方向に平行な断面を50nm厚の薄膜切片にした後、透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧100kVにて観測撮影し、その写真から各層の厚みを測定し、平均厚み、相対標準偏差を求めた。
【0042】
(6)融点
サンプル約10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差熱量計(デュポン社製・V4.OB2000型DSC)に装着し、25℃から20℃/分の速度で300℃まで昇温させ、300℃で5分間保持した後取出し、直ちに氷の上に移して急冷した。このパンを再度示差熱量計に装着し、25℃から20℃/分の速度で昇温させて融点(Tm)(単位:℃)を測定した。
【0043】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチルとエチレングリコール、および表1に記載の共重合成分とを原料として、テトラブトキシチタンをエステル交換触媒、二酸化ゲルマニウムを重合触媒、正リン酸を安定剤として用い、常法により固有粘度(o-クロロフェノール、35℃)0.69の共重合ポリエステルAおよびBを製造した。
【0044】
上記のポリエステルAとポリエステルBとを表1に示す比率(wt%)でチップ状態でブレンドしたものを120℃で6時間乾燥した後、押出機ホッパーに供給して溶融温度275℃で溶融し、ダイ内部でA/B/Aの3層に溶融ポリマーを積層し、表面温度20℃の冷却ドラム上に押出して急冷し未延伸フィルムを得た。
【0045】
続いて、この未延伸フィルムを縦方向に110℃で3.0倍、横方向に120℃で3.2倍に逐次2軸延伸した後、235℃で熱固定し、3層フィルムを得た。この3層フィルムの厚み構成は、PETからなる両面の表層ポリエステル層Aが2μm、内層ポリエステル層Bが46μmの合計50μmであり、加熱下での真空吸引成形性、電子レンジ耐熱性およびフィルム光沢度いずれも良好な結果を得た。
【0046】
[実施例2〜7、比較例1〜8]
表1に示した組成のポリエステルを用い、実施例1と同様に実施して、3層フィルムを得た。得られた3層フィルムの特性は表1に示す通りであり、本発明の条件を満たす実施例2〜7はいずれも良好な結果を得た。一方、本発明の条件を満たさない比較例1〜7では、いずれも所定の真空度下における成形性の面で不良となり、成形性良好である比較例8においては、配向フィルムの構成を含まないために電子レンジ耐熱性が悪く、かつフィルムの光沢度が不十分なものであった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の紙容器貼合せ用フィルムは、真空吸引成形して紙容器に積層することにより、食品等の内容物を入れる容器、時には冷凍もしくは冷蔵保存され、食するときに電子レンジで加熱される容器として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に非配向構造のポリエステル層Bと、この層に接して両側に設けられた配向構造のポリエステル層Aとからなり、ポリエステル層Aの合計厚み(a)とポリエステル層Bの厚み(b)の比(a/b)が0.01〜0.60であり、総厚み(a+b)が20〜100μmであることを特徴とする、紙容器貼合せ用フィルム。
【請求項2】
ポリエステル層Aを構成するポリエステルの融点がポリエステル層Bを構成するポリエステルの融点よりも15℃以上高い、請求項1記載の紙容器貼合せ用フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の紙容器貼合せ用フィルムを1〜100μmの厚みで表層に備える紙容器。
【請求項4】
請求項1または2に記載の紙容器貼合せ用フィルムを、紙容器に沿って配置し、加熱下もしくは余熱下に紙容器に沿って真空吸引成形することによりフィルム層を表層に備える紙容器を得ることを特徴とする、紙容器の製造方法。

【公開番号】特開2006−305754(P2006−305754A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127699(P2005−127699)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】