説明

紙幣識別装置

【課題】紙幣挿入口から紙幣搬送路に挿入された紙幣の搬送速度をその紙幣搬送路上において部分的に低速に制御することで、紙幣詰まりを減少させる紙幣識別装置を提供する。
【解決手段】紙幣の投入口5と、投入口5に連なって本体内部に向けて延設された紙幣の搬送通路15と、搬送通路15に沿って紙幣を搬送する搬送手段7,10と、搬送通路15上に設けられ、搬送通路15を搬送される紙幣を識別する識別手段25と、これらを制御する制御部と、を備え、制御部は予め定められた通常搬送速度で搬送手段を駆動する紙幣識別装置1において、制御部は少なくとも投入口5に投入された紙幣を搬送手段7,10により取り込む際の搬送速度を通常搬送速度に比べて低速に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動販売機等に搭載され、投入された紙幣を識別して受け入れる紙幣識別装置に関し、特に投入紙幣の詰まりを防止するようにした紙幣識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にこの種の紙幣識別装置は、紙幣の投入口から投入された紙幣を紙幣の搬送通路の途上に設置された識別手段により真偽を識別した後、真券でない場合には紙幣の投入口に返却する一方、真券の場合には返却に備えて一時保留したうえで待機し、返却指令により一時保留された紙幣を返却し、収納指令(商品販売信号)により一時保留された紙幣を紙幣収納部に収納するように構成されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、このような紙幣識別装置であって、紙幣搬送路上で紙幣の詰まりが生じた場合は、その紙幣の詰まり方向を紙幣詰まり方向記憶手段に記憶し、紙幣搬送路に詰まった紙幣を取り除く際に、その紙幣をその紙幣詰まり方向記憶手段に記憶された紙幣の詰まり方向と逆の方向に搬送するように構成されるものがある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3000328号公報
【特許文献2】特許第3225990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の紙幣識別装置は、紙幣の投入口に投入された紙幣を搬送手段(例えば、紙幣の幅方向両端に設置された搬送ローラやベルト)により取り込んで搬送通路に沿って搬送するための駆動源として駆動モータが用いられ、この駆動モータにより紙幣が紙幣の搬送通路に沿って一定の搬送速度(識別手段による紙幣の識別が可能で、紙幣を詰まりなく搬送可能な、なるべく速い速度)で搬送されるように構成されている。すなわち、駆動モータは、紙幣が投入口に投入された当初からこの一定の搬送速度で搬送通路に沿って搬送されるように駆動され、また、紙幣を返却する際にも紙幣がこの一定の搬送速度で搬送されるように駆動される。このように駆動モータが紙幣の取り込み当初から、紙幣が一定の搬送速度で搬送されるように駆動されることから、紙幣の取り込みの際に次のような課題を有する。すなわち、紙幣が搬送通路に取り込まれる場合、この一定の搬送速度で瞬時に取り込まれるから、利用者が紙幣の幅方向の片側を掴んでいる場合には紙幣の幅方向両端に設置された搬送ローラによる取り込みに差を生じることから紙幣の姿勢が正規の姿勢から傾いた姿勢に崩れ、傾いた姿勢の状態で搬送通路に沿って搬送されてしまう。そして、これにより紙幣詰りを生じるという課題を有する。
【0006】
また、従来の紙幣識別装置は、搬送通路の途上に設置された識別手段として一般的に磁気センサーが用いられており、この磁気センサーにはセンサー押え板が対向配置され、センサー押え板との間に紙幣を挟み込むように構成されている。このため、搬送通路を搬送中の紙幣には磁気センサーとセンサー押え板とが搬送抵抗となるとともに磁気センサーとセンサー押え板とに挟み込まれる紙幣に皴や濡れ等があると紙幣詰りを生じることがある。
【0007】
このような紙幣詰りが生じた場合、紙幣識別装置は、駆動モータを一旦停止させた後、一時的に紙幣が逆方向に搬送されるように回転させ、さらに紙幣が順方向に搬送されるように回転させる(リトライ動作と呼ぶ)。そして、この動作を、先の一定の搬送速度で数回実行して紙幣詰りを解消するように構成されている。しかしながら、この動作の際に識別手段としての磁気センサーとセンサー押え板に挟み込まれる紙幣の搬送抵抗が想定したよりも大きいと、搬送手段がスリップして良好なリトライ動作を実行できずに紙幣詰りを解消することができないことがあるという課題を有する。
【0008】
本発明は、このような問題に対応するため、可及的に紙幣詰りを防止することができる信頼性の高い紙幣識別装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、紙幣の投入口と、前記投入口に連なって本体内部に向けて延設された紙幣の搬送通路と、前記搬送通路に沿って紙幣を搬送する搬送手段と、前記搬送通路上に設けられ、前記搬送通路を搬送される紙幣を識別する識別手段と、これらを制御する制御部と、を備え、前記制御部は予め定められた通常搬送速度で搬送手段を駆動する紙幣識別装置において、前記制御部は少なくとも前記投入口に投入された紙幣を前記搬送手段により取り込む際の搬送速度を前記通常搬送速度に比べて低速に制御するものである。
【0010】
これによれば、紙幣が前記投入口に取り込まれる際に、前記搬送通路を低速に搬送されるから、例えば前記搬送手段が前記搬送通路の両側に設けられる搬送ローラやベルトから成る場合も、紙幣の搬送開始時におけるその一方(片側)の搬送ローラやベルトによる先行搬送により生じる紙幣の傾きを小さくすることができる。したがって、前記搬送通路の入口部分において、紙幣が傾かないように搬送することができる。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、紙幣の投入口と、前記投入口に連なる湾曲部を有し本体内部に向けて延設された紙幣の搬送通路と、前記搬送通路に沿って紙幣を搬送する搬送手段と、前記搬送通路上に設けられ、前記搬送通路を搬送される紙幣を識別する識別手段と、これらを制御する制御部と、を備え、前記制御部は予め定められた通常搬送速度で搬送手段を駆動する紙幣識別装置であって、前記識別手段により識別された紙幣を返却指令により返却する紙幣識別装置において、前記制御部は紙幣を返却する際、その紙幣が前記識別手段を通過するとき、前記搬送手段の搬送速度を前記通常搬送速度に比べて低速に制御するものである。
【0012】
これによれば、前記投入口に投入され前記本体内部に向けて搬送される紙幣が、その途中で前記投入口に向けて返却搬送される場合に、前記識別部を通貨するとき前記搬送路上を低速に搬送されるから、その搬送抵抗を低減することができる。
【0013】
また、請求項3に係る発明は、紙幣の投入口と、前記投入口に連なって本体内部に向けて延設された紙幣の搬送通路と、前記搬送通路に沿って紙幣を搬送する搬送手段と、前記搬送通路上に設けられ、前記搬送通路を搬送される紙幣を識別する識別手段と、これらを制御する制御部と、を備え、前記制御部は予め定められた通常搬送速度で搬送手段を駆動する紙幣識別装置であって、前記制御部は紙幣詰りが生じた際に紙幣の搬送を一旦停止した後逆方向に搬送したうえで再度従前の搬送方向に搬送するリトライ動作を行う紙幣識別装置において、前記制御部は、前記リトライ動作の際の搬送手段による搬送速度を前記通常搬送速度に比べて低速に制御するものである。
【0014】
これによれば、例えば前記投入口に向けて前記搬送路上を返却される紙幣がその途中で詰まったとき、前記制御部は前記搬送手段の搬送速度を通常搬送速度に比べて低速に制御し、その紙幣を前記本体内部に向けて一旦逆に搬送し、再び前記投入口に向けて低速で返却搬送するから、前記本体内部に向けた逆搬送時の紙幣のスリップを少なくし、さらに前記投入口に向かう紙幣の搬送抵抗を低減することができる。したがって、その紙幣の詰まりを容易に解消し、前記投入口に向けて紙幣を返却し易くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように請求項1に係る発明によれば、搬送手段が搬送通路の両側に設けられる搬送ローラやベルトから成る場合も、紙幣の取り込み時における搬送速度が通常搬送速度よりも低速であるので、その一方側の搬送ローラやベルトによる紙幣の先行搬送により生じる傾きを小さくすることができるから、搬送通路の入口部分において、紙幣が傾かないように搬送することができる。したがって、可及的に紙幣詰まりを減少させる紙幣識別装置を提供することができる。
【0016】
また、請求項2に係る発明によれば、投入口に向けて返却搬送される紙幣が、識別手段を通過するとき搬送路上を低速に搬送されることで、その搬送抵抗を低減することができるから、識別手段での紙幣詰まりを低減することができる。これにより紙幣詰まりの少ない紙幣識別装置を提供することができる。
【0017】
また、請求項3に係る発明によれば、搬送通路の途上において紙幣が詰まったときに実行されるリトライ動作においては、搬送手段による搬送速度が通常搬送速度よりも低速であることから、識別手段による搬送抵抗が生じた際にも搬送手段によるスリップを少なくし、搬送抵抗を低減してリトライ動作を実行することができる。したがって、リトライ動作を行うことにより、その紙幣の詰まりを解消し確実に搬送することができる信頼性の高い紙幣識別装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の紙幣識別装置を示す外観斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の紙幣識別装置を模式的に示す側断面図である。
【図3】本発明の実施形態の紙幣識別装置を構成する識別部の内部開放状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態の紙幣識別装置を構成する識別部の紙幣搬送路に紙幣を投入する状態を模式的に示す側断面図である。
【図5】本発明の実施形態の紙幣識別装置に投入された紙幣が識別部の紙幣搬送路に設けられる磁気センサーに到達する状態を模式的に示す側断面図である。
【図6】本発明の実施形態の紙幣識別装置に投入され識別判定された紙幣が、紙幣搬送路上を紙幣投入口に向けて返却される状態を模式的に示す側断面図である。
【図7】本発明の実施形態の紙幣識別装置に投入された紙幣が、紙幣投入口に向けて返却されるときに詰まりが生じた場合に、制御手段により行われる紙幣の詰まり解消動作を説明する側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は自動販売機等に搭載される本発明の実施形態の紙幣識別装置を示す外観斜視図、図2は本発明の実施形態の紙幣識別装置を模式的に示す側断面図、図3は本発明の実施形態の紙幣識別装置を構成する識別部の内部開放状態を示す斜視図である。図に示すように、本発明の紙幣識別装置1は、フレーム部2に識別部3および収納部4を設けて構成される。このフレーム部2は、例えば自動販売機の正面の扉に内側から取り付けられるもので、紙幣を収納、排出するための紙幣投入口(投入口)5を有している。
【0020】
紙幣投入口5から投入された紙幣は、縦に並べて配置された搬送ローラ(搬送手段)7,10とその外周に当接して設けられたテンションローラ8,9,11,12により狭持され識別部3に設けられる逆U字状の湾曲部を有する紙幣搬送路(搬送通路)15を搬送される。また、識別部3には、その紙幣搬送路15を挟んで対向する位置に配置される複数の光学センサー21a,21b,22a,22b,23a,23b,24a,24b(図3参照)およびその紙幣搬送路15に面して配置された磁気センサー(識別手段)25が設けられている。なお、光学センサー21a,21b,22a,22b,23a,23b,24a,24bは、紙幣搬送路15を挟んで対向する位置関係に配置された発光部21a,22a,23a,24aと受光部21b,22b,23b,24bとからなる透過型光学センサーである。これらの光学センサー21a,21b,22a,22b,23a,23b,24a,24b,及び磁気センサー25は、搬送されてくる紙幣の特定の識別ライン(トレースライン)上にある紙幣の特徴を検出し、検出されたデータを処理して紙幣の金種および真贋を判定する。なお、この判定処理の途中または判定処理が終了した後で投入された紙幣を正しく識別できなかった場合は、投入された紙幣を紙幣投入口5に返却する。
【0021】
収納部4は、識別部3による判定の結果、投入された紙幣を正しく識別できた場合には、その紙幣を識別部3の紙幣搬送路15の延長上にある一時保留部である紙幣搬送路(本体内部に相当)16に取り込んで一時保留したうえで、収納指令(商品販売信号)により取り込んだ紙幣をプッシャ17と呼ばれる機構によって、紙幣搬送路16から紙幣収納庫18に押し込むようにし、これによって紙幣収納庫18に積層状態で収納し、あるいは返却指令により一時保留された紙幣を紙幣投入口5に返却する。
【0022】
また、識別部3は、紙幣の詰まり、識別エラー等に対処するために、その内部を開放し、紙幣搬送路15を露出させて詰まった紙幣の除去あるいは清掃などの保守ができるように、図3に示したように、固定側ユニット3aに対して開放側ユニット3bを開閉できる構造になっている。搬送ローラ7,10は、紙幣搬送路15の幅方向中心から左右対称位置に一対が設けられ、対向する一対のテンションローラ8,9,11,12とで紙幣を狭持する。搬送ローラ7,10とテンションローラ8,9,11,12により狭持された紙幣は摩擦係合により紙幣搬送路15を搬送される。
【0023】
識別部3に設けられる磁気センサー25は、紙幣搬送路15の幅方向中心から左右対称位置に一対が設けられている。ここで、磁気センサー25は、紙幣に印刷された磁気インクの紙幣搬送方向の磁気インク印刷パターンを検出して紙幣の識別を行うため、紙幣の磁気インク印刷パターンの特徴を好適に検出できる位置に配置される。また、紙幣の磁気特性を好適に検出するため、紙幣を磁気センサー25に押し当てるように、センサー押え板27が磁気センサー25と対向する位置に配置されている。このセンサー押え板27は図示しない付勢バネにより磁気センサー25に向けて押圧され、その間に紙幣を挟み込むように構成されている。このため、識別センサーとしての磁気センサー25およびセンサー押え板27は紙幣搬送の際の搬送抵抗となる。
【0024】
また、磁気センサー25と同一のトレースライン上に光学センサー21a,21bが配置されている。この光学センサー21a,21bは、磁気センサー25と同様に紙幣搬送路15の幅方向中心から左右対称に一対設けられ、紙幣搬送路15を搬送される紙幣の光透過特性に基づく発光素子21aから受光素子21bへの入光量の変化を検知して紙幣の光学的特長を検出する。このように、光学センサー21a,21bと磁気センサー25が同一のトレースライン上をトレースすることにより、同一のトレースラインについて光学的特長と磁気的特長とを検出することができるから、これらにより、より精度の高い真贋判定が可能となる。
【0025】
これらの搬送ローラ7,10、磁気センサー25、光学センサー21a,21bは紙幣の搬送方向に略一直線上に配置され、各々が左右に一対ずつ設けられている。さらに磁気センサー25および光学センサー21a,21bは縦に並んだ搬送ローラ7,10の間に配置されていることにより、磁気センサー25及び光学センサー21a,21b上の紙幣は、紙幣の端部を除けば、これらの搬送ローラ7,10およびこれに対応するテンションローラ9,12とにより狭持された状態でこれらの光学センサー21a,21b,及び磁気センサー25上を通過する。これにより、皺、折り目などがある紙幣でも好適にこれらのセンサー配置領域を搬送可能にしている。
【0026】
また、光学センサー21a,21bに隣接して、その紙幣搬送路15の幅方向内側に一対の光学センサー22a,22bが配置され、さらに一対の磁気センサー25の略中央に光学センサー23a,23bが配置され、さらにまた、その光学センサー23a,23bに隣接し収納部4の方向に位置をずらして光学センサー24a,24bが配置されている。これらの光学センサー22a,22b,23a,23b,24a,24bも必要に応じて、搬送されてくる紙幣の光学的特徴を検出し、その検出データを処理して紙幣の金種および真贋を判定するものである。
【0027】
なお、これらの各種センサーで真贋判定された紙幣の抜き取り防止のため、各種センサーによる真贋判定後、シャッター31が紙幣搬送路15に臨みシャッター嵌合孔部32と嵌合する。これらのシャッター31およびシャッター嵌合孔部32は、投入紙幣の後端に付された糸状または帯状の紙幣引抜具を検出するため、紙幣搬送方向に傾けて複数設けられ、それらが紙幣幅方向に重複するよう配設されている。また、シャッター31およびシャッター嵌合孔部32の傾きを紙幣搬送路15の中心から幅方向に対称にしたことで、搬送される紙幣がシャッター31およびシャッター嵌合孔部32との接触抵抗により片側に偏ることを防止している。
【0028】
次に、紙幣投入口5から紙幣が投入された場合の各部の動作について説明する。図4は本発明の実施形態の紙幣識別装置1を構成する識別部3の紙幣搬送路15に紙幣を投入する状態を模式的に示す側断面図である。図に示すように、紙幣投入口5に続いて設けられる逆U字状の湾曲部を有する紙幣搬送路15には、紙幣投入口5近くのテンションローラ11の手前側に、紙幣の投入を検知する紙幣検知レバー13が設けられている。この紙幣検知レバー13は、支軸13aを中心に回動自在に設けられ、その一端13bが紙幣搬送路15に出没自在に設けられている。なお、この紙幣検知レバー13の一端13bは、常時は紙幣搬送路15を遮ってその内側に突出するように付勢され、紙幣が紙幣投入口5から投入されるとそれによって紙幣搬送路15から押し退けられて没入する。また、この紙幣検知レバー13の近傍には、その動作を検知する紙幣投入検知センサー29が設けられている。また、搬送ローラ7に対向して設けられるテンションローラ8の手前には、紙幣搬送路15上の紙幣の位置を検知する位置センサー20a,20bが設けられている。なお、この位置センサー20a,20bは、紙幣搬送路15を挟んで対向する位置関係に配置された発光部20aと受光部20bとからなる透過型光学センサーである。
【0029】
このように構成される本発明の紙幣識別装置1において、フレーム部2に設けられる紙幣投入口5から紙幣が投入されると、それによって紙幣検知レバー13の一端13bが紙幣搬送路15から押し退けられて没入する。そうすると、その動作が紙幣投入検知センサー29によって検知され、これにより図示しない駆動モータが起動されて搬送ローラ7,10が紙幣の取り込み方向に回転駆動される。このとき、駆動モータは、図示しない制御手段(制御部)により通常の回転速度(通常搬送速度に相当)に比べて低速に制御されて始動される。そして、この駆動モータの低速の状態は、投入紙幣が位置センサー20a,20bにより検知されるまで続き、その後に駆動モータは通常の回転速度に制御される。すなわち、紙幣の先端が紙幣投入口5に投入されてから、位置センサー20a,20bにより検知されるまで紙幣は通常の搬送速度(識別手段による紙幣の識別が可能で、紙幣を詰まりなく搬送可能な、なるべく高速な速度(通常搬送速度)であって、本実施形態の場合200mm/s)に比べて低速(本実施形態の場合100mm/s)で搬送される。したがって、紙幣搬送路15の幅方向の左右に配置される一対の搬送ローラ10とテンションローラ11のいずれか一方に紙幣の先端が狭持されて先行搬送される場合も、それによって生じる紙幣の傾きを小さくすることができる。すなわち、紙幣搬送路15に投入される紙幣を傾かないように搬送することができる。なお、紙幣の搬送速度を低速から通常の搬送速度に切換えるタイミングは、位置センサー20a,20bに替えて、駆動モータの回転量を検出して紙幣の送り込み量を検知する手段等を設けることによっても制御可能である。なお、紙幣の投入が検知されたときシャッター31は図示しない駆動手段により紙幣搬送路15から没入される。
【0030】
続いて、紙幣投入口5に投入された紙幣は、搬送ローラ7とテンションローラ8,9とに狭持され、逆U字状の湾曲部を有する紙幣搬送路15を搬送される。そして、紙幣の先端が紙幣搬送路15に配設された磁気センサー25に到達すると、センサー押え板27により磁気センサー25に向けて押圧されながら、紙幣搬送路15を搬送される(図5参照)。なお、紙幣が紙幣搬送路15の湾曲部や、磁気センサー25上をセンサー押え板27に挟まれて通過するときは、その搬送抵抗が比較的に大きい。
【0031】
さらに紙幣が搬送されてその後端が紙幣搬送路15に配設されたシャッター31を通過し、次いで磁気センサー25および光学センサー21a,21b,22a,22b,23a,23b,24a,24bを通過すると、その紙幣の金種および真贋が判定される。なお、紙幣搬送路15を本体内部に向けて搬送される紙幣が途中で詰まった場合(例えば、所定時間が経過しても、紙幣検知レバー13、位置センサー20a,20b、光学センサー21a,21b,22a,22b,23a,23b,24a,24b、磁気センサー25等を紙幣が通過しない場合等に詰まり状態が検知される)は、図5に示すように紙幣投入口5に向けて返却搬送される。
【0032】
また、紙幣が本体内部に向けて搬送され、その紙幣の後端がシャッター31を通過すると、シャッター31が紙幣搬送路15を遮るように突出され、紙幣の紙幣投入口5からの引抜が防止される。ここで、紙幣が真券と判定されると、さらに紙幣を識別部3の下方に設けられた紙幣搬送路16に搬送し、一時保留したうえで収納指令があれば紙幣搬送路16から紙幣収納庫18にこれを押し込んで積層状態で収納する。一方、ここで紙幣が贋物と判定されてその受け入れが拒否された場合、若しくは一時保留された紙幣を返却する場合、シャッター31が紙幣搬送路15から没入され、さらに搬送ローラ7,10が紙幣の取り込み方向と逆の方向に回転駆動され、紙幣が紙幣投入口5に向けて返却される(図6参照)。なお、この場合、紙幣が磁気センサー25上をセンサー押え板27に挟まれて通過するときや、紙幣搬送路15の湾曲部を通過するときは、制御手段により、その搬送速度が通常の搬送速度に比べて低速に制御される。これにより、紙幣返却時における磁気センサー25や湾曲部の通過のときの紙幣の搬送抵抗を小さくすることができ、その地点における紙幣詰まりが防止される。(なお、紙幣搬送路15上の紙幣の位置は、紙幣検知レバー13、位置センサー20a,20b、光学センサー21a,21b,22a,22b,23a,23b,24a,24b、磁気センサー25等の検知結果に基づいて制御手段により決定される。)
また、紙幣が紙幣投入口5に向けて返却されるときに詰まった場合は、制御手段により紙幣の搬送速度を通常の搬送速度に比べて低速に制御し、図7に示すようにその紙幣を本体内部に向けて一旦逆に搬送し、再び紙幣投入口5に向けて低速で搬送する。これにより、本体内部に向けた逆搬送時の紙幣のスリップを少なくし、さらに再び紙幣投入口5に向けて搬送される紙幣の搬送抵抗を低減することができるから、その紙幣の詰まりを解消し、紙幣投入口5に向けて紙幣を返却し易くすることができる。なお、このような動作(リトライ動作)を一度実施しても紙幣詰まりが解消しないときは、その動作を繰り返す(図7の例では3回)ようにして、紙幣の詰まりをより確実に解消することができる。
【0033】
以上のように、本発明の紙幣識別装置1においては、搬送ローラ10とその外周に当接して設けられたテンションローラ11が紙幣搬送路15の幅方向の両側に設けられるが、紙幣の搬送開始時において、その搬送速度を低速に制御することでその一方側の搬送ローラ10とテンションローラ11による紙幣の先行搬送により生じる紙幣の傾きを小さくすることができるから、紙幣搬送路15の入口部分において、紙幣が傾かないように搬送することができる。したがって、可及的に紙幣詰まりを減少させる紙幣識別装置を提供することができる。
【0034】
また、紙幣投入口5に向けて返却搬送される紙幣が、磁気センサー25および紙幣搬送路15の湾曲部を通過するとき低速に搬送されることで、その搬送抵抗を低減することができるから、磁気センサー25および紙幣搬送路15の湾曲部での紙幣詰まりを低減することができる。これにより紙幣詰まりの少ない紙幣識別装置を提供することができる。
【0035】
また、紙幣投入口5に向けて紙幣搬送路15上を返却搬送される紙幣が詰まったとき、例えばそのリトライ動作において、その紙幣の本体内部に向けた逆搬送時のスリップを少なくし、さらに紙幣投入口5に向かう搬送抵抗を低減することができるからリトライ動作を確実に実行することができ、紙幣の詰まりを容易に解消し、投入口に向けて紙幣を返却し易くすることができる。したがって、リトライ動作機能を発揮してその紙幣を確実に紙幣挿入口5に戻すことができる信頼性の高い紙幣識別装置を提供する。
【0036】
なお、本発明は、言うまでもなく本実施の形態に示す装置にのみ限定されず、その趣旨の包含する範囲で応用変更が可能である。例えば、搬送ローラ7,10を駆動する駆動モータの回転速度の制御は、インバータ方式であっても、また入力電圧を直接制御する方式であっても良い。また、識別部3や、その内部に設けられる紙幣搬送路15、搬送ローラ7,10及びテンションローラ8,9,11,12、シャッター31、センサー押え板27等の構成、形状等、あるいは、磁気センサー25、光学センサーの配置構成等は、この実施形態に示すものに限定されるものではない。さらに、リトライ動作は紙幣の返却動作時に限らず、紙幣を取り込んで識別する際にも行うことができ、この場合には利用者が返却された紙幣を再度投入する手間をなくすことができる。
【符号の説明】
【0037】
1 紙幣識別装置
5 紙幣投入口(投入口)
7 搬送ローラ(搬送手段)
8 テンションローラ
9 テンションローラ
10 搬送ローラ(搬送手段)
11 テンションローラ
12 テンションローラ
15 紙幣搬送路(搬送通路)
16 紙幣搬送路(本体内部)
20a 位置センサー(発光部)
20b 位置センサー(受光部)
25 磁気センサー(識別手段)
27 センサー押え板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣の投入口と、前記投入口に連なって本体内部に向けて延設された紙幣の搬送通路と、前記搬送通路に沿って紙幣を搬送する搬送手段と、前記搬送通路上に設けられ、前記搬送通路を搬送される紙幣を識別する識別手段と、これらを制御する制御部と、を備え、前記制御部は予め定められた通常搬送速度で搬送手段を駆動する紙幣識別装置において、前記制御部は少なくとも前記投入口に投入された紙幣を前記搬送手段により取り込む際の搬送速度を前記通常搬送速度に比べて低速に制御することを特徴とする紙幣識別装置。
【請求項2】
紙幣の投入口と、前記投入口に連なる湾曲部を有し本体内部に向けて延設された紙幣の搬送通路と、前記搬送通路に沿って紙幣を搬送する搬送手段と、前記搬送通路上に設けられ、前記搬送通路を搬送される紙幣を識別する識別手段と、これらを制御する制御部と、を備え、前記制御部は予め定められた通常搬送速度で搬送手段を駆動する紙幣識別装置であって、前記識別手段により識別された紙幣を返却指令により返却する紙幣識別装置において、前記制御部は紙幣を返却する際、その紙幣が前記識別手段を通過するとき、前記搬送手段の搬送速度を前記通常搬送速度に比べて低速に制御することを特徴とする紙幣識別装置。
【請求項3】
紙幣の投入口と、前記投入口に連なって本体内部に向けて延設された紙幣の搬送通路と、前記搬送通路に沿って紙幣を搬送する搬送手段と、前記搬送通路上に設けられ、前記搬送通路を搬送される紙幣を識別する識別手段と、これらを制御する制御部と、を備え、前記制御部は予め定められた通常搬送速度で搬送手段を駆動する紙幣識別装置であって、前記制御部は紙幣詰りが生じた際に紙幣の搬送を一旦停止した後逆方向に搬送したうえで再度従前の搬送方向に搬送するリトライ動作を行う紙幣識別装置において、前記制御部は、前記リトライ動作の際の搬送手段による搬送速度を前記通常搬送速度に比べて低速に制御することを特徴とする紙幣識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−48428(P2011−48428A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193921(P2009−193921)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000237710)富士電機リテイルシステムズ株式会社 (1,851)
【Fターム(参考)】