説明

紙料中の疎水性有機粒子の測定方法

本発明は、疎水性有機粒子を蛍光染料でマーキングし、引き続きこれらの粒子を励起して発光させ、マーキングされた粒子が放つ光を検知し、蛍光強度から粒子の質量濃度を測定する、紙料の濾液中の疎水性有機粒子濃度の測定方法、ならびに、シーブ上で脱水された紙料の濾液中にある疎水性有機粒子の総濃度を測定するための本方法の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙料の濾液中の疎水性有機粒子の測定方法に関する。
【0002】
紙の製造の際には、粒径分布とその量の点から、例えば紙料中の妨害物粒子を分析することが重要となる。妨害物粒子は一般的に疎水性であり、かつ粘着性である。これらの妨害物粒子は例えばリサイクルされた古紙に由来し、かつ製紙工程においては抄紙機内での沈殿につながる。紙の製造への妨害物の否定的な効果を抑制、もしくは除去するために、紙料に固着剤を加える。これにより、妨害物はセルロース繊維と結合し、かつ抄紙機内での沈殿が充分に避けられる。この時、その都度必要となる固着剤の量は、妨害物粒子に対して紙料または白水の分析により算出する。
【0003】
紙料中の妨害物粒子の粒径分布を測定するための様々な方法は、公知である。R.Wilken und J.Strauss,"Grundlegende Untersuchungen ueber klebende Verunreinigen im wiederverwendeten Altpapier",Mitteilungen aus dem Papiertechnischen Institut der Stiftung,11〜12巻(1984),292ppに概観が記載されているような従来の試験方法、例えばX線マイクロ分析、赤外線分光分析、またはゲル浸透クロマトグラフにより、妨害物粒子の種類、すなわちそれらの化学的組成を実験室で測定可能である。濃度と粒径分布についての定性的な情報を得ることもできる。しかしながらこれらの方法は、比較的時間と労力が掛かり、および従って妨害物の変化、および製造サイクルの間に妨害物が紙料に結合してしまうことに対する付加の影響を直接監視するためには適していないという欠点を総体的に有する。
【0004】
妨害物粒子の粒径分布の他の測定方法は、Kroehl,P.Lorencak,A.Gierulski,H.Eipel und D.Horn,"A new laser−optical method for counting colloidally dispersed pitch",Nordic PuIp and Paper Research Journal,第9巻(1994),No.1,26pp.に記載されている。この方法では、妨害物粒子を蛍光染料で着色し、そして流体力学的絞り込みにより個別化する。引き続き、個別化された妨害物粒子を有する試料にレーザー光線を照射し、そしてこれらの粒子が放出する蛍光光線を記録する。蛍光シグナルの強度から、粒径分布を導くことができる。
【0005】
WO92/11534は、紙料中のロジン粒子の数と大きさを測定するための方法を開示しており、この際まず紙料懸濁液を調製し、この液から濾過によりロジン粒子を分離し、これらのロジン粒子を蛍光染料でマーキングし、その後個別化して、励起により発光させ、これらの信号を検知して、そしてこれらの信号を評価して、ロジン粒子のカウント、および大きさの測定をする。蛍光染料としては、N−(n−ブチル)−4−(n−ブチルアミノ)ナフタル酸イミドを使用する。
【0006】
EP−A0856731より、唯一の試料中の蛍光粒子(Ti)の少なくとも2つの粒子タイプ(Ak)の粒径分布の測定方法が公知であり、この際試料中の粒子(Ti)を個別化し、そして所与の照射方向に沿って試料中に光を照射し、
あらゆる粒子(Ti)について少なくとも1の散乱光強度値(S(Ti))と少なくとも1の蛍光光線強度値(F(Ti))とを測定し、
散乱光強度値(S(Ti))、蛍光光線強度値(F(Ti))、およびペアの値(S(Ti)、F(Ti))の頻度により定義されている三次元空間(R)における範囲(Bk)でのペアの値(S(Ti)、F(Ti))の位置に基づいて、粒子(Ti)をその都度の粒子タイプ(Ak)に分類し、この際あらゆる範囲(Bk)は粒子タイプ(Ak)のための空間(R)においてペアの値(S(Ti)、F(Ti))の頻度の少なくとも1つの局大値を有し、
あらゆる粒子タイプ(Ak)に対する蛍光光線強度値(F(Ti))の相対的な頻度を測定し、
あらゆる粒子タイプ(Ak)に対する蛍光光線強度値(F(Ti))の相対的な頻度から、あらゆる粒子タイプ(Ak)に対する相対的な粒径分布を計算し、
それぞれの粒子タイプ(Ak)に対する相対的な粒径分布を、散乱光強度値(S(Ti))、蛍光光線強度値(F(Ti))、およびペアの値(S(Ti)、F(Ti))の頻度により定義されている三次元空間(R)における範囲(Bk)の位置を用いて相互に標準化し、そしてこうしてすべての粒子タイプ(Ak)の粒子(Ti)に対して共通の相対的な粒径分布を得る。
【0007】
この方法はとりわけ、紙料中、または製紙機械の白水中の疎水性妨害物粒子の粒径分布の測定のために使用され、そして共通の相対粒径分布に相応または割り当てられている制御信号を生成すること、およびこの制御信号に基づいて固着剤の必要量を供給することによって固着剤の紙料への供給を制御するために使用される。
【0008】
WO06/122921は、サイズ剤の濃度、粒径、および紙料中の天然の、および/または合成のサイズ剤の粒径分布を測定するための方法であり、この際サイズ剤粒子を含む試料を蛍光染料で着色し、試料中の粒子を個別化し、光を照射し、そして試料が放つ散乱光、および/または蛍光光線を検知し、そして受け取った信号を評価する。この方法は、試料中の、または製紙工程の間の製紙機械の白水中の反応性サイズ剤の粒径分布を測定するために用いられる。
【0009】
上記方法においては、測定すべき粒子が常に個別化される。しかしながら、個々の粒子のカウントは煩雑である。
【0010】
本発明の対象は、紙料の濾液中にある疎水性粒子の質量濃度を測定するためのさらなる方法を提供することである。
【0011】
本発明によればこの課題は、疎水性有機粒子を蛍光染料でマーキングし、引き続きこれらの粒子を励起させて発光させ、マーキングされた粒子が放つ光を検知し、そして粒子の質量濃度を蛍光強度から測定する、紙料の濾液中の疎水性有機粒子の濃度を測定する方法により解決される。
【0012】
疎水性有機粒子とは例えば、紙料中に存在する微粒子状の妨害物、例えば粘着性物質、ホワイトピッチ、およびロジン、ならびにサイズ剤である。妨害物は基本的に分散された疎水性物質、例えば紙塗工剤のバインダーの残留物、または接着剤である。妨害物の粒径は例えば、0.5〜100μmである。
【0013】
適切なサイズ剤は、天然の、および/または合成のサイズ剤、例えば反応性サイズ剤、ロジンサイズ剤、変性ロジンサイズ剤、またはサイズ効果のあるポリマー分散液である。これらのサイズ剤は水に分散されており、かつ例えば0.5〜100μm、好適には1μm〜20μmの範囲の粒径を有する化合物である。
【0014】
紙のために最も重要な反応性サイズ剤は、アルキルジケテン(AKD)とアルケニルコハク酸無水物である。これらは紙、板紙、および厚紙の製造においてビーターサイズ剤として使用される。これらの物質は、基本的にC14〜C22アルキルジケテン、例えばステアリルジケテン、パルミチルジケテン、ベヘニルジケテン、オレイルジケテン、およびこれらのジケテンの混合物である。これらは例えば、カチオン性デンプンとアニオン性分散剤の存在下、剪断応力の作用下で水中での乳化により製造する(US3,223,544、およびUS3,130,118参照)。アニオン性分散剤と比較してカチオン性デンプンが過剰に存在することにより、こうして製造されるAKD分散液はカチオン性電荷を有する。
【0015】
アルキルジケテンはまた、他のサイズ剤と一緒に用いることもできる。そこで例えばWO94/05855より、分解されたカチオンデンプンと紙用サイズ剤である微粒子状の水性ポリマー分散液との混合物にアルキルジケテンを分散させることが公知である。生成する混合物は、紙用サイズ剤として使用される。さらに、例えば唯一の安定剤としてのアニオン性分散剤の存在下、AKDを水に分散させることにより得られる、アニオン性に調整した水性のAKD分散液は公知である(WO00/23651参照)。
【0016】
ポリマーサイズ剤は例えば、JP−A58/115196、EP−B0257412、およびEP−B0276770に記載されている。これらは基本的に、デンプン、または分解されたデンプンの存在下で製造されるコポリマーの水性分散液である。適切なコポリマーは例えば、スチレン、および/またはアクリロニトリル、およびアクリル酸エステルから成るコポリマーである。
【0017】
同様にアルケニルコハク酸無水物は、紙および紙製品の製造においてビーターサイズ剤として工業的に使用される。このようなサイズ剤の例は、イソマーの4−、5−、6−、7−、および8−ヘキサデセニルコハク酸無水物、デセニルコハク酸無水物、オクテニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、およびn−ヘキサデセニルコハク酸無水物である(C.E.Farley und R.B. Wasser,The Sizing of Paper,Second Edition,(3),Sizing With Alkenyl Succinic Anhydride,TAPPI PRESS,1989,ISBN 0−89852−051−7参照)。
【0018】
適切な天然のサイズ剤は、ロジンサイズ剤、ならびに化学変性したロジンサイズ剤である(E.Strazdins,Chapter 1,"Chemistry and Application of Rosin Size"in W.F.Reynolds(Ed.),"The Sizing of Paper",Second Edition,Tappi Press(Atlanta,USA),1989,1〜31p(ISBN 0−89852−051−7参照)。
【0019】
疎水性粒子の一体的な定量測定は例えば、蛍光分光光度計で行う。試験のために、Hitachi製の分光光度計(Hitachi F4010)を使用する。固有の低い吸光度を有する透明な試料を、好適には90°の配置で測定し、この際励起光は、試験すべき試料が入っているセルの壁面に対して直角に入射する。放射される光は、励起光に対して90°の角度で測定する。濁った溶液と分散液を試験するために前面配置(Frontface−Anordnung)を選択し、この際励起光は例えば45°の角度でセルに当て、そして反射光は励起光に対して90°で試料から放射させて分析する。反射光は遮断する。
【0020】
妨害物、および/またはサイズ剤を含むこれらの試料を、少なくとも1つの蛍光染料で着色する。適切な染料の例は:
N−(n−ブチル)−4−(n−ブチルアミノ)ナフタル酸イミド(Fluorol 7GA)、
Colour Index(C.I.)no.40662(Celluflor)の染料、
C.I.no.45400(Eosin B)の染料、
3,3−エトキシジカルボシアニンヨウ化物、
8−ヒドロキシ−1,3,6−ピレントリスルホン酸の三ナトリウム塩、
6−ニトロ−1,3,3−トリメチル−[2H]−1−ベンゾピラン−2,2−インドール(Merocyanin 540)、
2−[6−(ジエチルアミノ)−3−ジエチルイミノ−3H−キサンテン−9−イル)安息香酸(Rhodamine B)
である。
【0021】
特に好ましく使用される蛍光染料は、N−(n−ブチル)−4−(n−ブチルアミノ)ナフタル酸イミドである。
【0022】
紙料の濾液中にはさらに、セルロース繊維、場合により無機顔料が存在する。これらの物質は蛍光染料により着色されないので、測定を妨害することはない。妨害物とサイズ剤を蛍光染料でマーキングするために必要となる作用時間は例えば、2〜14分、好ましくは2〜5分である。分析方法を単純化するため、および再現可能な結果を得るために、染色の持続時間のための一定の作用時間を、例えば5分間に定めることが有利である。
【0023】
様々な試料を着色するために好適には、エタノール中の少なくとも1の蛍光染料溶液を使用する。エタノールに溶解されている蛍光染料の濃度は、例えば10〜40mg/lである。妨害物の濃度、および/またはサイズ剤の濃度は、例えば0〜20mg/lである。
【0024】
様々なポリマー粒子(紙用塗工着色のためのバインダー、例えばAcronal(登録商標)S360D、およびStyronal(登録商標)D718として知られる、市販のポリマー分散液をこの目的のために使用した)に対する試験により、ポリマー粒子の質量濃度と、測定された蛍光強度との間に直線的な相関関係が得られる。0〜0.1g/lという妨害物、および/またはサイズ剤の濃度範囲では、少なくとも1つの蛍光染料による上記のマーキングにより、そしてこうしてマーキングされた粒子の蛍光強度の測定により、妨害物の、および/またはサイズ剤の定量的な質量分析を行うことができる。すなわち上記の濃度範囲では、ポリマー粒子の質量濃度と蛍光強度との間に直線的な相関関係が存在する。この方法で、ポリマー粒子の総質量の定量分析を素早く得られる。しかしながら、異なる粒子間の区別はできない。
【0025】
本発明による測定方法はとりわけ、工程化学物質の有効性を測定するための短時間での試験に適している。従ってこの測定方法は、シーブ上で脱水された紙料の濾液中の疎水性有機粒子の総濃度の測定のために用いる。とりわけ、製紙工程におけるオンラインでの測定法として適している。
【0026】
この測定法により例えば、進行中の製紙工程における妨害物制御剤、および/またはサイズ剤の添加の制御が可能になる。公知の妨害物制御剤は、例えば60〜95%の加水分解度の、例えば加水分解されたポリビニルホルムアミドである。これを地合構成の前に、紙料に固着剤として添加する。進行中の製紙工程で白水を分析すれば、その中で本発明による測定方法を用いて妨害物の濃度を測定することができ、かつ部分的に加水分解されたポリビニルホルムアミドの紙料への供給を、白水が可能な限り低い妨害物含分を有するように調整することができる。これらの妨害物は例えば、部分的に加水分解されたポリビニルホルムアミドを添加することによりセルロース繊維に結合させる。
【0027】
実施例
TMPパルプ8g/l、Styronal(登録商標)D718(スチレンとブタジエンベースのバインダーの水性分散液)0.16g/lから成る粘着システムを、この混合物500mlをビーカーに装入し、そして加水分解度が83%、かつK値が61の加水分解されたポリビニルホルムアミド5mlを固着剤として加えることによってモデル物質として調製した。このK値は、H.Fikentscher,Cellulose−Chemie,第13巻,58−64p、および71−74p(1932)に従って、5%の食塩水中で温度25℃、ポリマー濃度0.5質量%で測定した。固着剤を紙に5分間作用させた後、この混合物を動的排水ポット(Dynamic−Drainage−Jar)内で脱水して地合構成し、濾液の最初の100mlを集めた。蛍光染料N−(n−ブチル)−4−(n−ブチルアミノ)ナフタル酸イミド(Fluorol(登録商標)7GA)のエタノール溶液1mlを濾液25mlに添加し、この試料を完全に混合し、そして5分間の染色時間後、蛍光分光光度計(Hitachi F4010)を用いて前面配置で試験した。励起ギャップと放射ギャップのギャップ幅は、5nmであった。入射光は波長が442nmであり、そして蛍光強度は500nmで測定した。評価は、Styronal(登録商標)D718 0〜0.05g/lの濃度に相応する粘着システムに対して事前に記録した検量線に基づいて行う。濾液中の粘着性物質の割合として、0.01g/lというStyronal(登録商標)D718の濃度を測定した。この値は、TMPパルプに対してStyronal(登録商標)D718の歩留まり93.7%に相応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙料の濾液中にある疎水性有機粒子濃度の測定方法において、前記疎水性有機粒子を蛍光染料でマーキングし、引き続きこれらの粒子を励起して発光させ、マーキングされた粒子が放つ光を検知し、そしてこの蛍光強度から粒子の質量濃度を測定することを特徴とする、測定方法。
【請求項2】
蛍光染料としてN−(n−ブチル)−4−(n−ブチルアミノ)ナフタル酸イミドを使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シーブ上で脱水された紙料の濾液中の疎水性有機粒子の総濃度を測定するための、請求項1または2に記載の方法の使用。
【請求項4】
製紙工程中でのオンラインの測定方法としての、請求項1または2に記載の方法の使用。
【請求項5】
進行中の製紙工程での妨害物制御剤、および/またはサイズ剤の添加の制御のために、前記測定方法を使用することを特徴とする、請求項4に記載の使用。

【公表番号】特表2010−520444(P2010−520444A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551203(P2009−551203)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052400
【国際公開番号】WO2008/104576
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】