説明

紙送り装置の防音構造

【課題】低周波数領域の騒音を比較的簡単に抑制可能な紙送り装置の防音構造を提供することを課題とする。
【解決手段】紙送り装置の防音構造1は、基部2と、基部2に配置され音源M1、M2を有する紙送り用の機構部3と、基部2を覆い機構部3を収容し外部に表出するカバー4と、を備える。カバー4の内部には、機構部3に占有されていない自由空間S1が確保されている。自由空間S1には、自由空間S1の容積を100%として、60%以上100%未満の充填率で、多孔質の吸音部材5が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ファクシミリ、コピー機、プリンタ、あるいはこれらの複合機などに用いられる紙送り装置の防音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、共鳴器と吸音部材とが併設されたOA(オフィス・オートメーション)機器の駆動装置が開示されている。同文献記載の駆動装置のケース内面には、シート状の吸音部材が貼り付けられている。また、ケース内部には、共鳴器も配置されている。同文献記載の駆動装置によると、周波数800Hz以上の騒音を、吸音部材により抑制することができる。並びに、周波数800Hz以下の騒音を、共鳴器により抑制することができる。すなわち、騒音の周波数領域のうち、吸音部材が高周波数領域を、共鳴器が低周波数領域を、それぞれ分担している。
【0003】
また、特許文献2には、共鳴器が配置されたADF(オート・ドキュメント・フィーダ)が開示されている。同文献記載のADFによると、ADF内に送風されるエアの騒音を抑制することができる。また、特許文献3には、印字カバーの内側にシート状の吸音部材が貼り付けられたプリンタが開示されている。同文献記載のプリンタによると、印字により発生する騒音を抑制することができる。
【特許文献1】特開平9−230658号公報
【特許文献2】特開平9−50152号公報
【特許文献3】特開平5−309913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ADFのうち機器外部に表出する紙送り装置に、共鳴器を配置する場合、スペースの確保が困難になる。すなわち、共鳴器の寸法(例えば、共鳴通路長、共鳴空間体積など)は、ヘルムホルツの共鳴理論に合致するように、設定する必要がある。このため、共鳴器の寸法選択の自由度は低い。
【0005】
一方、紙送り装置は、デザイン的な制約から薄型である場合が多い。このため、紙送り装置の内部空間は、本来狭小である。並びに、紙送り装置の内部には、モータやギヤなど、さまざまな部品が配置されている。したがって、紙送り装置の内部空間における部品密度は、比較的高い。このように、共鳴器の寸法にはヘルムホルツの共鳴理論上の制約があるため、紙送り装置に共鳴器を配置する場合、スペースの確保が困難になる。
【0006】
この点、紙送り装置にシート状の吸音部材を貼り付ける方法は、比較的簡単に採用することができる。しかしながら、特許文献1の段落[0042]にも記載されているように、吸音部材の場合、低周波数領域の騒音を抑制しにくい。
【0007】
本発明の紙送り装置の防音構造は、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、低周波数領域の騒音を比較的簡単に抑制可能な紙送り装置の防音構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明の紙送り装置の防音構造(以下、適宜「防音構造」と略称する。)は、基部と、該基部に配置され音源を有する紙送り用の機構部と、該基部を覆い該機構部を収容し外部に表出するカバーと、を備えてなり、該カバーの内部には、該機構部に占有されていない自由空間が確保されている紙送り装置の防音構造であって、さらに、前記自由空間には、該自由空間の容積を100%として、60%以上100%未満の充填率で、多孔質の吸音部材が充填されていることを特徴とする(請求項1に対応)。
【0009】
ここで、自由空間とは、カバー内部(カバーと基部とにより囲われる空間)において、機構部が配置されていない空間をいう。機構部には、例えば、駆動源となるモータ、動力伝達手段となるギヤ、リンク機構などが含まれる。また、電源線、信号線などの配線類、ハーネス、配線類を束ねる結束部材なども、機構部に含まれる。また、組付後の状態でカバーあるいは基部に開口部がある場合、当該開口部は閉塞しているものと仮定して、自由空間の容積を画定する。
【0010】
本発明の防音構造は、吸音部材を用いて、低周波数領域を含む紙送り装置の騒音を、抑制するものである。前述したように、紙送り装置に吸音部材を貼り付ける場合、低周波数領域の騒音を抑制しにくい。この原因について本発明者が検討したところ、以下のような結論を得た。
【0011】
すなわち、吸音部材と音源との間に空間(空気層)が介在する場合、当該空気層において低周波数領域の騒音が共鳴してしまう。このため、低周波数の共鳴透過音が発生し、当該共鳴透過音が紙送り装置の外部にまで漏出してしまう。したがって、従来のADF等の場合、低周波数領域の騒音を抑制しにくいことが判った。
【0012】
この点に鑑みて、本発明の防音構造の自由空間には、自由空間の容積を100%として、60%以上100%未満の充填率で、多孔質の吸音部材が充填されている。本発明の防音構造によると、吸音部材の充填率が比較的高い。このため、低周波数領域の騒音が共鳴するための空気層を比較的小さくすることができる。したがって、低周波数の共鳴透過音が発生するのを抑制することができる。すなわち、低周波数領域の騒音を抑制することができる。
【0013】
また、前述したように、吸音部材は、本来、高周波数領域の騒音を抑制するために用いられる。このため、本発明の防音構造によると、低周波数から高周波数に至る幅広い周波数領域の騒音を、吸音部材により抑制することができる。
【0014】
ここで、充填率を60%以上としたのは、60%未満の場合、空気層が比較的大きくなるからである。すなわち、充分に低周波数領域の騒音を抑制することができないおそれがあるからである。一方、充填率を100%未満としたのは、100%の場合、吸音部材と機構部とが全面的に当接することになるからである。すなわち、機構部の振動が、吸音部材を介して、カバーに伝播する可能性が高くなるからである。
【0015】
(1−1)好ましくは、上記(1)の構成において、前記吸音部材の密度は、0.10g/cm以上である構成とする方がよい。本構成によると、吸音部材の遮音性が向上する。さらに好ましくは、吸音部材の密度は、0.12g/cm以上、または0.15g/cm以上とする方がよい。こうすると、さらに吸音部材の遮音性が向上する。
【0016】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記機構部の表面と対向する前記吸音部材の表面は、該機構部の表面の形状に沿った形状を呈している構成とする方がよい(請求項2に対応)。
【0017】
前述したように、紙送り装置の内部空間は狭小である。また、内部空間における部品密度は高い。このため、吸音部材の充填率を高くするのは困難である。この点、本構成によると、吸音部材の表面が、向かい合う機構部の表面に沿った形状を呈している。このため、比較的簡単に充填率を向上させることができる。
【0018】
また、機構部は、複数の部品が組み合わさって構成されている場合が多い。このため、機構部の表面の形状は、複雑である場合が多い。したがって、吸音部材の表面を機構部の表面の形状に沿った形状にすると、吸音部材の表面積を大きくすることができる。よって、吸音部材の吸音性が向上する。
【0019】
また、吸音部材の表面を機構部の表面の形状に沿った形状にすると、組付の際、吸音部材を機構部が所定の組付位置に案内することができる。このため、吸音部材の位置決めが容易である。
【0020】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記吸音部材は、注型成形により作製される構成とする方がよい(請求項3に対応)。本構成によると、形状が複雑な場合であっても、比較的簡単に吸音部材を作製することができる。このため、充填率の高い吸音部材を作製しやすくなる。また、吸音部材の表面を、機構部の表面の形状に沿った形状にしやすくなる。
【0021】
(3−1)好ましくは、上記(3)の構成において、前記吸音部材は、前記カバーと一体に作製される構成とする方がよい。つまり、本構成は、注型成形の際、型内に予めカバーを配置してから、原料を注入し、吸音部材を成形するものである。本構成によると、部品点数が少なくなる。このため、防音構造の組付が容易になる。
【0022】
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記吸音部材は、ウレタン発泡体製である構成とする方がよい(請求項4に対応)。本構成によると、比較的安価であるにもかかわらず、吸音性に優れた吸音部材を配置することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、低周波数領域の騒音を比較的簡単に抑制可能な紙送り装置の防音構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の紙送り装置の防音構造の実施の形態について説明する。
【0025】
<第一実施形態>
[防音構造の配置]
まず、本実施形態の防音構造の配置について説明する。図1に、本実施形態の防音構造が用いられるコピー機の斜視図を示す。なお、以下の図に示す方位は、前方から後方を見た場合を基準に定義する。図1に点線ハッチングで示すように、本実施形態の防音構造1は、コピー機90上部の後縁付近に配置されている。具体的には、防音構造1は、ADFの騒音を抑制するために配置されている。
【0026】
[防音構造の構成]
次に、本実施形態の防音構造1の構成について説明する。図2に、本実施形態の防音構造の斜視図を示す。なお、図2は、図1の矢印IIの方向(左後ろ上方)から防音構造1を見たものである。図3に、本実施形態の防音構造の分解斜視図を示す。図4に、図3のIV−IV方向断面図を示す。ただし、図4に示すのは、図3の防音構造が合体した場合の断面図である。図2〜図4に示すように、本実施形態の防音構造1は、基部2と、機構部3と、カバー4と、吸音部材5と、を備えている。
【0027】
基部2は、樹脂または金属(鋼板など)製であって、左右方向に長い矩形板状を呈している。機構部3には、モータM1、M2などが配置されている。モータM1、M2は、本発明の音源に含まれる。機構部3により、図1の原稿トレイ91に搭載されたコピー用紙(図略)を、コピー機90内部に取り込むことができる。
【0028】
カバー4は、樹脂製であって、左右方向に長い矩形箱状を呈している。カバー4は、下方に開口している。カバー4の後面には、開口部40が開設されている。カバー4は、基部2の表面20に伏設されている。基部2とカバー4とにより区画される閉空間には、機構部3が収容されている。当該閉空間のうち、機構部3に占有されていない部分が、自由空間S1(図4に一点鎖線枠で示す。)に該当する。
【0029】
吸音部材5は、ウレタン発泡体製である。吸音部材5は、自由空間S1に配置されている。吸音部材5の上面はカバー4の上底面と、吸音部材5の後面はカバー4の後面と、吸音部材5の前面はカバー4の前面と、それぞれ全面的に当接している。
【0030】
吸音部材5の下面50は、基部対向部500と、機構部対向部501と、を備えている。基部対向部500は、下面50の主に外縁付近に配置されている。基部対向部500は、略平面状を呈している。基部対向部500は、基部2の表面20に当接している。
【0031】
機構部対向部501は、下面50の主に内側に配置されている。機構部対向部501は、機構部3の表面30の形状に沿った形状を呈している。機構部対向部501は、表面30と、上下方向に対向している。具体的には、表面30の凸部には機構部対向部501の凹部が、表面30の凹部には機構部対向部501の凸部が、それぞれ対向している。モータM1、M2は、音源でもあり熱源でもある。このため、図4に示すように、モータM1、M2の周囲には、放熱空間S2が区画されている。すなわち、モータM1、M2には、吸音部材5が当接していない。
【0032】
[防音構造の製造方法]
次に、本実施形態の防音構造1の製造方法について簡単に説明する。吸音部材5は、カバー4と一体的に発泡成形により作製される。まず、予め成形したカバー4を、金型のキャビティの型面に沿うように固定する。次に、液状の発泡ポリウレタン原料(ポリウレタンと、発泡剤、滑剤、充填剤、着色剤、難燃剤、各種安定剤などから選ばれる所望の添加剤と、を所定の割合で配合したもの)を、キャビティ内に注ぎ込む。続いて、金型を型締めする。ここで、金型のキャビティの型面のうち、カバー4が配置されていない型面は、図3の吸音部材5の下面50と型対称の形状を呈している。この状態で、発泡ポリウレタン原料を発泡成形する。発泡ポリウレタン原料が固化したら、金型を型開きする。そして、一体化されたカバー4と吸音部材5とを、金型から取り出す。その後、予め機構部3が配置された基部2の表面20に、当該カバー4を伏設する。このようにして、本実施形態の防音構造1は製造される。
【0033】
[作用効果]
次に、本実施形態の防音構造1の作用効果について説明する。例えば、図4に示すように、モータM1を駆動する際、騒音は、モータM1→放熱空間S2→吸音部材5→カバー4を経由して、外部に漏出する。しかしながら、自由空間S1における吸音部材5の充填率は、自由空間S1の容積(開口部40は閉塞していると仮定する。)を100%として、60%以上100%未満になるように設定されている。このため、放熱空間S2において、モータM1やその他の駆動源を含む機構部(ギヤ、ソレノイド、ベルト等)の低周波数(300Hz〜800Hz程度)の騒音が共鳴しにくい。したがって、低周波数の共鳴透過音が発生するのを抑制することができる。すなわち、低周波数領域の騒音を抑制することができる。また、モータM1と吸音部材5とは当接していない。このため、モータM1の熱が、モータM1周囲に籠もるのを抑制することができる。
【0034】
また、モータM1を駆動する際、騒音は、モータM1→基部2→吸音部材5→カバー4を経由して、外部に漏出する。この場合は、モータM1が一次音源であるのに対して、基部2が二次音源になる。しかしながら、基部2の表面20とカバー4との間には吸音部材5が充填されている。この点においても、低周波数領域の騒音を抑制することができる。
【0035】
また、吸音部材5は、本来、800Hz以上の高周波数領域の騒音を抑制するのに有効である。このため、モータM1、M2以外の音源から発生する高周波数領域の騒音も、吸音部材5により抑制することができる。すなわち、本実施形態の防音構造1によると、低周波数から高周波数に至る幅広い周波数領域の騒音を、抑制することができる。
【0036】
また、吸音部材5の下面50の機構部対向部501は、機構部3の表面30の形状に沿った形状を呈している。このため、比較的簡単に自由空間S1における吸音部材5の充填率を向上させることができる。また、機構部対向部501は起伏に富んでおり、複雑な形状を呈している。このため、機構部対向部501の表面積は大きい。したがって、吸音部材5の吸音性は高い。また、機構部対向部501が表面30の形状に沿った形状を呈しているため、組付の際、吸音部材5を機構部3が所定の組付位置に案内することができる。このため、吸音部材5延いてはカバー4の位置決めが容易である。
【0037】
また、吸音部材5は、注型成形の一つである発泡成形により作製される。このため、充填率の高い吸音部材5を容易に作製することができる。また、機構部対向部501の面形状を作り込みやすくなる。また、発泡成形の際、吸音部材5はカバー4と一体化される。このため、本実施形態の防音構造1は、部品点数が少ない。また、組付が容易である。また、吸音部材5は、ウレタン発泡体製である。このため、比較的安価であるにもかかわらず、吸音性に優れた吸音部材5を配置することができる。
【0038】
<第二実施形態>
本実施形態の防音構造と第一実施形態の防音構造との相違点は、吸音部材として積層された多数の吸音シートが配置されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図5に、本実施形態の防音構造の短手方向断面図を示す。なお、図4と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0039】
図5に示すように、吸音部材5は、多数の吸音シート51が積層されて形成されている。吸音シート51は、ウレタン発泡体製である。隣接する吸音シート51同士は、接着剤(図略)により接着されている。同様に、カバー4内面と吸音シート51も、接着剤(図略)により接着されている。
【0040】
本実施形態の防音構造1は、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の防音構造と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の防音構造1によると、注型成形を用いずに、自由空間S1に吸音部材5を充填することができる。すなわち、市販の吸音シート51を用いることができる。このため、汎用性が高い。
【0041】
<充填率について>
次に、上記第一、第二実施形態の防音構造における吸音部材5の充填率について説明する。図6に、本発明の防音構造の短手方向断面図(モデル図)を示す。なお、図4と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0042】
図6に示すように、機構部3は、部品31a〜31cを備えている。部品31aには配線310aが、部品31bには配線310bが、それぞれ接続されている。一方、カバー4には、開口部41が開設されている。配線310a、310bは、開口部41を介して、カバー4外部に延出している。また、配線310a、310bは、結束部材32により束ねられている。
【0043】
基部2とカバー4とにより区画される閉空間のうち、機構部3に占有されていない部分が、自由空間S1(図6に一点鎖線枠で示す。)に該当する。すなわち、部品31aと部品31bとの間の隙間や、部品31bと部品31cとの間の隙間も、自由空間S1に含まれる。また、自由空間S1を画定する際、開口部41は、閉塞しているものと仮定する。
【0044】
また、配線310a、310bのうち自由空間S1内の部分(図6中、点線ハッチングで示す部分。)、および結束部材32は、機構部3に含まれる。すなわち、配線310a、310b、結束部材32は、自由空間S1に含まれない。以上のようにして画定された自由空間S1の容積を100%として、60%以上100%未満の充填率で、吸音部材5が自由空間S1に充填されている。
【0045】
<その他>
以上、本発明の紙送り装置の防音構造の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0046】
上記実施形態においては、金型を開いた状態で、発泡ポリウレタン原料をキャビティに注入したが、金型を閉じた状態で、発泡ポリウレタン原料をキャビティ内に注入してもよい。
【0047】
また、吸音部材5の材質も特に限定しない。例えば、発泡ゴム、不織布のプレス成形品などを用いることができる。
【0048】
また、上記実施形態においては、平板状の基部2に断面略C字状のカバー4を伏設したが、断面略C字状の基部に平板状のカバーを伏設してもよい。また、共に断面略C字状のカバーと基部とを、互いの開口同士が当接するように配置してもよい。すなわち、基部とカバーとにより閉空間が形成できればよい。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の紙送り装置の防音構造について行った実験について説明する。
【0050】
<実験1>
実験1においては、上記第一実施形態の防音構造1に準じたサンプルを用いて、1/3オクターブバンド分析を行った。
【0051】
[サンプル]
実施例1のサンプルは、第一実施形態の防音構造1(図3参照)に対して、吸音部材5の密度を、0.10g/cmとしたものである。実施例2のサンプルは、第一実施形態の防音構造1(図3参照)に対して、吸音部材5の密度を、0.12g/cmとしたものである。実施例3のサンプルは、第一実施形態の防音構造1(図3参照)に対して、吸音部材5の密度を、0.15g/cmとしたものである。比較例1のサンプルは、第一実施形態の防音構造1(図3参照)に対して、吸音部材5を除去したものである。
【0052】
[測定方法]
騒音の取り込みは、コピー機90(図1参照)の防音構造1の周囲9カ所に設置したマイクにより行った。マイクからカバー4外面までの距離は、10mmとした。なお、測定方法については、JIS Z 8733に準ずるものとする。
【0053】
[測定結果]
図7に、1/3オクターブバンド分析の結果をグラフで示す。図7中、横軸は1/3オクターブバンド周波数を、縦軸は音響パワーレベルを、それぞれ示す。音響パワーレベルが高いほど(図7の縦軸の上に行くほど)、騒音が大きいことを示す。
【0054】
また、オクターブバンドとは、1kHzを基準に定比幅を有したフィルタにより分割された周波数領域のことをいう。なお、オクターブバンド分析における周波数領域の分け方は、JIS C 1513に規定されている。
【0055】
図7に示すように、実施例1〜3によると、比較例1に対して、全周波数領域に亘って、約2dB程度音響パワーレベルが低いことが判る。すなわち、騒音抑制効果が高いことが判る。
【0056】
また、特に300Hz〜800Hzという低周波数領域において、比較例1に対して、音響パワーレベルが低いことが判る。言い換えると、低周波数領域の騒音を抑制する効果が高いことが判る。
【0057】
また、実施例同士を比較すると、実施例1よりも実施例2の方が音響パワーレベルが低いことが判る。また、実施例2よりも実施例3の方が音響パワーレベルが低いことが判る。すなわち、吸音部材5の密度が、0.10g/cm(実施例1)→0.12g/cm(実施例2)→0.15g/cm(実施例3)と大きくなるのに比例して、騒音抑制効果が高くなることが判る。また、密度の影響は、300Hz〜800Hzという低周波数領域において顕著であることが判る。つまり、低周波数領域の騒音を効果的に抑制(遮蔽)するためには、吸音部材5の密度を大きくすることが有効であることが判る。
【0058】
<実験2>
実験2においては、実験1同様に、上記第一実施形態の防音構造1に準じたサンプルを用いて、1/3オクターブバンド分析を行った。なお、実験2においては、自由空間における吸音部材の充填率が異なるサンプルを用いて実験を行った。
【0059】
[サンプル]
実施例4のサンプルは、第一実施形態の防音構造1(図3参照)である。実施例4のサンプルの、自由空間S1(図4参照)の容積を100%とした場合の吸音部材5の充填率は、70%である。比較例2のサンプルは、第一実施形態の防音構造1(図3参照)に対して、吸音部材5を除去したものである。比較例3のサンプルは、第一実施形態の防音構造1(図3参照)の発泡成形により作製される吸音部材5の代わりに、厚さ3mmの板状の吸音シートをカバー4の裏面に一枚だけ貼り付けたものである。すなわち、第二実施形態の防音構造1(図5参照)の吸音シート51を、一枚だけ配置したものである。比較例3のサンプルの、自由空間S1の容積を100%とした場合の吸音シートの充填率は、20%である。なお、比較例3のサンプルの吸音シートの密度と、実施例4の吸音部材5の密度とは、同じである。測定方法は、実験1同様である。このため、説明を割愛する。
【0060】
[測定結果]
図8に、1/3オクターブバンド分析の結果をグラフで示す。図8中、横軸は1/3オクターブバンド周波数を、縦軸は音響パワーレベルを、それぞれ示す。音響パワーレベルが高いほど(図8の縦軸の上に行くほど)、騒音が大きいことを示す。
【0061】
図9に、図8から実施例4、比較例3を抽出し縦軸を加工したグラフを示す。図9中、横軸は1/3オクターブバンド周波数を、縦軸は騒音抑制効果(音響パワーレベル)を、それぞれ示す。図9の縦軸の上に行くほど、騒音抑制効果が大きいことを示す。
【0062】
図8に示すように、実施例4(太線)によると、比較例2(点線)、比較例3(細線)に対して、全周波数領域に亘って、音響パワーレベルが低いことが判る。すなわち、騒音抑制効果が高いことが判る。また、図9に示すように、吸音部材5の充填率が高いほど、騒音抑制効果が高いことが判る。すなわち、実施例4のように、吸音部材の充填率が60%以上100%以下の範囲内であれば、充分な騒音抑制効果が得られることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第一実施形態の防音構造が用いられるコピー機の斜視図である。
【図2】同防音構造の斜視図である。
【図3】同防音構造の分解斜視図である。
【図4】図3のIV−IV方向断面図である。
【図5】第二実施形態の防音構造の短手方向断面図である。
【図6】本発明の防音構造の短手方向断面図(モデル図)である。
【図7】実験1の1/3オクターブバンド分析の結果を示すグラフである。
【図8】実験2の1/3オクターブバンド分析の結果を示すグラフである。
【図9】図8から実施例4、比較例3を抽出し縦軸を加工したグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1:防音構造。
2:基部、20:表面。
3:機構部、30:表面、31a〜31c:部品、310a:配線、310b:配線、32:結束部材。
4:カバー、40:開口部、41:開口部。
5:吸音部材、50:下面、500:基部対向部、51:吸音シート、501:機構部対向部。
90:コピー機、91:原稿トレイ。
M1:モータ(音源)、M2:モータ(音源)、S1:自由空間、S2:放熱空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、該基部に配置され音源を有する紙送り用の機構部と、該基部を覆い該機構部を収容し外部に表出するカバーと、を備えてなり、該カバーの内部には、該機構部に占有されていない自由空間が確保されている紙送り装置の防音構造であって、
さらに、前記自由空間には、該自由空間の容積を100%として、60%以上100%未満の充填率で、多孔質の吸音部材が充填されていることを特徴とする紙送り装置の防音構造。
【請求項2】
前記機構部の表面と対向する前記吸音部材の表面は、該機構部の表面の形状に沿った形状を呈している請求項1に記載の紙送り装置の防音構造。
【請求項3】
前記吸音部材は、注型成形により作製される請求項1または請求項2に記載の紙送り装置の防音構造。
【請求項4】
前記吸音部材は、ウレタン発泡体製である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の紙送り装置の防音構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−222837(P2009−222837A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65345(P2008−65345)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】