説明

素因を加味した敏感肌の鑑別方法及びその改善のためのアドバイスの提示方法

【課題】 敏感肌形成における、生活行動的要因を明らかにし、敏感肌をより確実に改善する技術を提供する。
【解決手段】 角層細胞の形状などによって、敏感肌であると鑑別された人に対して、次の(A群)に示す生活習慣を提示し、その人の生活習慣として合致すると認識する生活習慣を選択してもらい、該選択された生活習慣に、(B群)に示す生活習慣が含まれる程度を調べ、含まれる生活習慣が敏感肌の要因となっていると判別する。(A群)バランスの悪い食事・不規則な食事、食べすぎ・飲み過ぎ、ストレスが多い、睡眠不足、運動不足、喫煙、紫外線に当たる機会が多い、冷暖房の中にいることが多い、疲れやすい、冷えが気になる、肩こりが気になる、足がむくみやすい、貧血ぎみ、便秘がち、生理不順ぎみ(B群)ストレスが多い、睡眠不足、疲れやすい、冷えが気になる、生理不順ぎみ

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敏感肌の素因をふまえた鑑別方法及び該敏感肌を改善するためのアドバイスの提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化粧料の分野で大きな課題となっていることは、敏感肌に対する対応である。例えば、IPDLにて請求項の記載に「敏感肌」を掲げた化粧料分類(A61K7/00)の公開特許公報を検索すると、平成18年1月26日の時点で129件の公報がヒットすることからも重要な課題となっていることが明らかである。生理的に敏感肌か否かを鑑別する手段としては、角層細胞(古くは角質細胞)の形状を指標とし、標準的な角層細胞の形状と比較し、投影面積が小さく、扁平性が低く、幼若な角層細胞が多く検出される場合には、敏感肌であると鑑別する技術が既に知られている。(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)これらの技術により、その人が敏感肌であるか否かはかなり正確に鑑別できるようになってきているが、敏感肌に移行する要因は多くのものが知られており、例えば、高濃度の排ガス被曝を含む、長時間の化学物質への曝露、ストレスの過剰負荷、防腐剤などの経口的による摂取、絶対水蒸気圧の極端な低さ等が既に知られている要因としてあげられる。これらの要因に鑑みるに、敏感肌が生活環境、生活スタイルと結びつく可能性が存するように考えられるが、この様な因子分析を行い、これを反映させて生体の状況を改善しようとする例は少なく、生活行動をモニターし、疾病の管理を行う技術程度ののものしか知られていない(例えば、特許文献4、特許文献5を参照)。
【0003】
その一方、化粧料などの分野では、肌の状態は化粧料だけではなく、体調の管理からも改善すべきとの認識が高揚しており、化粧料と食品とを併用して肌状態を改善させようとするホリスティック的な思想が萌芽している(例えば、特許文献6を参照)。しかしながら、肌の状態に、どの程度生活行動が関与しているかの知見は得られていないし、得ようともされていない。これは、敏感肌においては化粧料の使用は禁忌とされており、敏感肌が化粧料の対照となりにくいのも一因であると考えられる。
【0004】
【特許文献1】特開2001−108674号公報
【特許文献2】特開2000−116623号公報
【特許文献3】特開平11−304798号公報
【特許文献4】特開2004−4018号公報
【特許文献5】特開2002−329007号公報
【特許文献6】特開2004−91396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこの様な状況下為されたものであり、敏感肌をより確実に改善するために、敏感肌形成における、生活行動的要因を明らかにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、敏感肌をより確実に改善するために、敏感肌形成における、生活行動的要因を明らかにするべく、鋭意研究努力を重ねた結果、「バランスの悪い食事・不規則な食事、食べすぎ・飲み過ぎ、ストレスが多い、睡眠不足、運動不足、喫煙、紫外線に当たる機会が多い、冷暖房の中にいることが多い、疲れやすい、冷えが気になる、肩こりが気になる、足がむくみやすい、貧血ぎみ、便秘がち、生理不順ぎみ」に列挙される性かす習慣の内、「ストレスが多い、睡眠不足、疲れやすい、生理不順ぎみ」を充足する人に敏感肌が現れやすいことを疫学的調査から明らかにし、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)敏感肌の人における、その要因の鑑別方法であって、敏感肌であると鑑別された人に対して、次の(A群)に示す生活習慣を提示し、その人の生活習慣として合致すると認識する生活習慣を選択してもらい、該選択された生活習慣に、(B群)に示す生活習慣が含まれる程度を調べ、含まれる生活習慣が敏感肌の要因となっていると判別することを特徴とする、敏感肌の人における、その要因の鑑別方法。
(A群)
バランスの悪い食事・不規則な食事、食べすぎ・飲み過ぎ、ストレスが多い、睡眠不足、運動不足、喫煙、紫外線に当たる機会が多い、冷暖房の中にいることが多い、疲れやすい、冷えが気になる、肩こりが気になる、足がむくみやすい、貧血ぎみ、便秘がち、生理不順ぎみ
(B群)
ストレスが多い、睡眠不足、疲れやすい、冷えが気になる、生理不順ぎみ
(2)前記敏感肌であることが、角層細胞の形状より鑑別されるものであることを特徴とする、(1)に記載の敏感肌の人における、その要因の鑑別方法。
(3)(1)又は(2)に記載の鑑別方法により、生活習慣が敏感肌の要因となっていると鑑別された敏感肌の人に対して、敏感肌であると鑑別した理由の表示とともに、ストレスの軽減措置、睡眠時間の十分な取得と質の向上の措置及び規則正しい生活の実施をアドバイスとして提示することを特徴とする、敏感肌の改善のためのアドバイスの提示方法。
(4)前記敏感肌であると鑑別した理由の表示が、被鑑別者の角層細胞の形状の、平均的な角層細胞の形状との比較であることを特徴とする、(3)に記載の敏感肌の改善のためのアドバイスの提示方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、敏感肌形成における、生活行動的要因を明らかにし、敏感肌をより確実に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の敏感肌の人における、その要因の鑑別方法は、予め敏感肌と判別された被験者に対し、次に示すA群に列挙された生活行動様式の内、B群に列挙された生活行動様式をどの程度充足するかを指標とする。即ち、被験者にA群の行動様式を提示し、自分の行動様式に該当するものを選択してもらい、そのうちB群に示す行動様式がどの程度含まれているかを調べ、含まれている項目数が多いほど、行動様式が敏感肌に及ぼしている蓋然性が高いと判別する。又、同時にその行動様式が敏感肌の素因の一つであるとも判別する。
【0009】
(A群)
バランスの悪い食事・不規則な食事、食べすぎ・飲み過ぎ、ストレスが多い、睡眠不足、運動不足、喫煙、紫外線に当たる機会が多い、冷暖房の中にいることが多い、疲れやすい、冷えが気になる、肩こりが気になる、足がむくみやすい、貧血ぎみ、便秘がち、生理不順ぎみ
【0010】
(B群)
ストレスが多い、睡眠不足、疲れやすい、冷えが気になる、生理不順ぎみ
【0011】
ここで、被験者が敏感肌であるか否かは行動様式とは別に判別するが、その敏感肌か否かの判別法は、従前知られている方法を用いることができる。敏感肌か否かの判別法としては、大きく分けて、1)自己認識や皮膚の特性などをアンケートなどの形式で回答してもらい、その結果より判別する方法と、2)皮膚或いは皮膚構成部品の性状の観察より判別する方法とが存する。これらの何れを用いても、高い確率で敏感肌を判別できるが、後者を用いる方がより正確に、客観的に判別できる。
【0012】
前者としては、次のような設問を設定し、「はい」もしくは「いいえ」で答えてもらい、「はい」の回答確率が高い場合には敏感肌であると判別できる。
・化粧品を使用すると皮膚が赤くなることが多い。
・時々湿疹が出る。
・指で腕をかくと蚯蚓腫れになる。
・冬場に皮膚がかさついて粉を吹いたようになる。
・冷たい風に当たる蕁麻疹がでる。
・脇腹などにぶつぶつがでやすい。
・皮膚の柔らかい部分に発疹がでる。
・顔などが何もしなくてもひりひりとすることがある。
【0013】
後者としては、角層細胞を粘着テープなどで採取し、これを染色し、その形状より判別する方法、顔の皮膚をビデオマイクロカメラなどで撮影し、拡大して炎症の有無、吹き出物の有無、皮膚の落屑とその兆候の有無などを詳細に観察し判別する方法、極希薄な塩酸などの起炎性物質を綿棒などに含浸させてそっと触れ、刺激を感じる閾値を求めるスティギング試験などが存し、これらの中では、その精度、客観性及びとれる情報の多さから、角層細胞の形状より判別することが好ましい。
【0014】
角層細胞の形状より、敏感肌を判別する方法としては、例えば、特開平10−142224号公報に記載されているように、粘着媒体で角層細胞を皮膚より採取し、ゲンチアナバイオレットやブリリアントグリーンなどの染色液で染色し、顕微鏡下、重層剥離の程度や角層細胞の面積、角層面積の分散値、角層細胞の体積、角層細胞の扁平度合い、有核細胞の有無などを計測し、予め平均的な標本集団を用いて設定されたこれらの標準的な形状と比較して、その乖離度が大きいほど、肌の敏感度合いが高いと判別することが例示できる。即ち、角層細胞の投影面積において、平均的な値に比して小さければ小さいほど角層細胞は幼若な状態で採取されていると判別され、肌の敏感度合いは高いと判別されるし、採取された角層細胞の投影面積のばらつきが標準的な値に比べて大きいほど、成熟していない角層細胞が採取される蓋然性が高く、肌の敏感度合いは高いと判別されるし、角層細胞の体積がおおきく、扁平度合いが小さいほど、成熟していない角層細胞が採取されており、肌の敏感度合いは高いと判別できるし、有核細胞の出現度合いが高いほど成熟していない蓋然性が高いと判別でき、肌の敏感度合いは高いと判別できる。
【0015】
斯くして判別された、敏感肌の人における、その要因と、肌の敏感度合いとを考え合わせることにより、敏感肌の人における、生活行動様式の寄与度合いを知ることができる。即ち、この2者を組み合わせることにより、生活行動様式が素因となっている敏感肌の人と、生活行動様式以外の素因を持った敏感肌の人に、敏感肌を大別することができ、生活行動様式が素因となっている敏感肌の人には、素因となっている生活行動様式の改善をアドバイスすることにより、肌の過敏性を改善することができ、これにより、皮膚外用剤による処置の効果を高めることができる。又、生活行動様式が素因となっていない敏感肌の人には、皮膚外用剤による処置に注力するようアドバイスし、徒に生活様式の改変を迫り、心理的ストレスを与えることを回避できる。斯くの如くに素因別のアドバイスを行うことにより、アドバイスの的確性を向上することができる。
【0016】
この様なアドバイスを提示するに際しては、まず、被験者の角層細胞の形状を示し、その比較として、平均的な角層細胞の形状を示し、この比較において、被験者が敏感肌と判別されるのか否かを説明し、敏感肌であった場合には、生活行動様式において被験者が該当事項と判断した様式の中に、敏感肌の素因となる行動様式があるかないかの判別結果を示し、素因が存在した場合には、いくつ素因となる行動様式が存在し、その行動様式が何であるかを明示し、その該当する行動様式の改善を勧めるアドバイスを提示し、素因となる行動様式が存在しない場合には、その被験者の敏感肌は行動様式によらないものであり、純然たる皮膚科的処置を勧めるアドバイスを提示することが好ましい。この様な皮膚科学的処置としては、皮膚科医の診断を受け、プレドニゾロンやデキサメタゾンなどのステロイド製剤による治療を受けることが例示できる。又、生活行動様式が素因となる人は、素因となる生活行動を様式を改め、皮膚状態が改善した後は、例えば、ポリメタクリロイルリジンなどの皮膚バリア機能を補完する成分を含有する化粧料を投与したりすることにより、更に皮膚状態を改善し、肌が過敏になるのを防ぐこともできる。この為、この様な人には、生活行動様式を変えて、皮膚状態が改善した場合にはこの様な化粧料を使用することを勧めるアドバイスを行うことも好ましい。更に、並行してローヤルゼリーなどのような抗疲労作用を有する成分の経口摂取、ヨモギ、ショウキョウなどの血行改善成分の経口投与により、身体の冷えや生理不順に対応することも、前記の処置と相乗効果があるので好ましい。
【0017】
以下に、実施例をあげて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないのはいうまでもない。
【実施例1】
【0018】
30代の女性を1231名無作為に集め、頬部より角層細胞を粘着ディスクを用いて採取し、ゲンチアナバイオレット染色を行い、角層細胞の面積を計測し、その平均値を求めた。データベースとして持っている30代の女性2231453名の角層細胞の平均値598±113μm2、個人の角層細胞面積のばらつきの平均値128±56の値と比較して、平均角層細胞面積が150以上小さく、且つ、ばらつきが70以上大きい人を敏感肌の人と判定し選抜し、この人たちの生活行動様式と、30代の女性1231名全員の生活行動様式とをアンケートで調べ、重回帰分析を行い、敏感肌の人に特徴的な生活行動様式を選び出した。生活行動様式の調査は、A群に示す生活行動様式を提示し、自分の行動様式に該当すると思われるものをチェックして答えてもらった。選択個数は自由とした。結果を表1に示す。これより、A群に示す生活行動様式の内、B群に示す生活行動様式を取ることが、敏感肌の人に特徴的であることがわかる。尚、敏感肌の人の人数は、351名で一般的にいわれている、「30%前後の人が敏感肌である。」という内容を支持するものであった。
【0019】
(A群)
バランスの悪い食事・不規則な食事、食べすぎ・飲み過ぎ、ストレスが多い、睡眠不足、運動不足、喫煙、紫外線に当たる機会が多い、冷暖房の中にいることが多い、疲れやすい、冷えが気になる、肩こりが気になる、足がむくみやすい、貧血ぎみ、便秘がち、生理不順ぎみ
【0020】
(B群)
ストレスが多い、睡眠不足、疲れやすい、冷えが気になる、生理不順ぎみ
【0021】
【表1】

【0022】
更に、この結果をもとの母集団にフィードバックして、行動様式の選択における敏感肌の人の割合を調べた。この結果を表2〜に30代の敏感肌の人全体に対する百分率として示す。この結果より、敏感肌の人には、この5項目を充足する人たちと、全く充足しない人たちが存在することがわかる。又、充足する人は単独項目でも、2つ以上の重なり項目でもほぼ同じレベルの出現率を示すので、この5つの行動は重なって選択されている蓋然性が高い。
【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
【表7】

【実施例2】
【0029】
実施例1の30代の敏感肌のパネラーで生活行動様式が敏感肌の素因となっている人10名を選別し、5名づつ2群に分け、1群は図1に示すシートを提示して、被験者が角層細胞の形状より敏感肌と判断され、生活行動様式が該敏感肌の素因となっている旨を説明し、生活行動様式を改めるようにアドバイスを行い、残る1群はそのまま何もせずにおき、その1ヶ月後、再度角層細胞を採取し、敏感肌か否かの判別を行った。アドバイス群は3名が角層細胞面積、角層細胞面積のばらつきともに正常域になっていたが、無処置群は全員が敏感肌のままであった。これより、敏感肌であり、その素因として生活行動様式が考えられる旨のアドバイスが敏感肌改善に大変有効であったことがわかる。更にこのことは、敏感肌の人を、素因として生活行動様式を含む人たちと、含まない人たちに大別し、それぞれにあったアドバイスをすることの有用性を証するものでもある。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、敏感肌の改善のためのアドバイスの提示に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例2のアドバイスに用いたシートの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敏感肌の人における、その要因の鑑別方法であって、敏感肌であると鑑別された人に対して、次の(A群)に示す生活習慣を提示し、その人の生活習慣として合致すると認識する生活習慣を選択してもらい、該選択された生活習慣に、(B群)に示す生活習慣が含まれる程度を調べ、含まれる生活習慣が敏感肌の要因となっていると判別することを特徴とする、敏感肌の人における、その要因の鑑別方法。
(A群)
バランスの悪い食事・不規則な食事、食べすぎ・飲み過ぎ、ストレスが多い、睡眠不足、運動不足、喫煙、紫外線に当たる機会が多い、冷暖房の中にいることが多い、疲れやすい、冷えが気になる、肩こりが気になる、足がむくみやすい、貧血ぎみ、便秘がち、生理不順ぎみ
(B群)
ストレスが多い、睡眠不足、疲れやすい、冷えが気になる、生理不順ぎみ
【請求項2】
前記敏感肌であることが、角層細胞の形状より鑑別されるものであることを特徴とする、請求項1に記載の敏感肌の人における、その要因の鑑別方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鑑別方法により、生活習慣が敏感肌の要因となっていると鑑別された敏感肌の人に対して、敏感肌であると鑑別した理由の表示とともに、ストレスの軽減措置、睡眠時間の十分な取得と質の向上の措置及び規則正しい生活の実施をアドバイスとして提示することを特徴とする、敏感肌の改善のためのアドバイスの提示方法。
【請求項4】
前記敏感肌であると鑑別した理由の表示が、被鑑別者の角層細胞の形状の、平均的な角層細胞の形状との比較であることを特徴とする、請求項3に記載の敏感肌の改善のためのアドバイスの提示方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−209368(P2007−209368A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29083(P2006−29083)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】