説明

紡糸巻取装置

【課題】巻取ボビンの通過する領域を狭い範囲に収めて、設計上の自由度を向上させた紡糸巻取装置を提供する。
【解決手段】ターレット21の回動軸23から第4ローラ位置LFまでの距離が、ターレット21の回動軸23から第1ローラ位置LSまでの距離より長く、ターレット21の回動軸23から第2ローラ位置L1までの距離より短い、かつ、ターレット21の回動軸23から第3ローラ位置L2までの距離が、ターレット21の回動軸23から第1ローラ位置LSまでの距離より長く、ターレット21の回動軸23から第2ローラ位置L1までの距離より短い、とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸された糸を巻取ボビンを切り替えながら巻き取る紡糸巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紡糸巻取装置は、ターレットに2本のボビンホルダが設けられており、一方のボビンホルダに装着した巻取ボビンに糸が巻き取られる。巻き取り中の巻取ボビンにはコンタクトローラを圧接させている。他方のボビンホルダには、満巻となった巻取ボビン(パッケージ)が玉揚げされた後、新たな巻取ボビンが装着される。新たな巻取ボビンへの切り替えと、満巻となった巻取ボビン(パッケージ)の玉揚げの際には、ターレットが略半回転する。巻取ボビンの切り替えが完了すると、新たな巻取ボビンへの糸の巻き取りが開始される。満巻のパッケージの玉揚げは玉揚げ装置により行われる。
【0003】
特許文献1には、紡糸された糸を巻取ボビンに巻き取る際、コンタクトローラの位置を略一定に保つようにターレットの回動を制御する紡糸巻取装置が開示されている。特許文献1の紡糸巻取装置では、コンタクトローラの位置を略一定に保つため、新たな巻取ボビンに切り替えられた直後からターレットの回転角度が刻々と変化する。ターレットの回転角度が常時変化するため、満巻となったパッケージの位置も常時変化する。このため、玉揚げの際にパッケージの動きに玉揚げ装置を追従させなければならず、玉揚げ装置の構造が複雑になるという問題がある。また、自動で玉揚げを行う自動玉揚げ装置では、パッケージの動きに追従して玉揚げを行うことは困難である。
【0004】
特許文献2には、新たな巻取ボビンに切り替えた後、満巻となったパッケージの玉揚げを完了するまではターレットの回動を行わない紡糸巻取装置が開示されている。特許文献2の紡糸巻取装置では、パッケージの玉揚げを完了するまでは、コンタクトローラを上昇させてパッケージの巻き太りに対応させている。このため、パッケージの玉揚げの際にパッケージの位置は変化せず、玉揚げが容易となる。パッケージの玉揚げが完了した後は、巻取ボビンの巻き太りに対応してコンタクトローラの位置とターレットの回転角度を制御し、巻取ボビンが満巻になった時点でコンタクトローラが下限付近まで下降する。
【0005】
ところで、紡糸巻取装置には、該紡糸巻取装置を構成する部材が巻取ボビンに干渉しない設計が求められる。しかし、特許文献1の紡糸巻取装置では、新たな巻取ボビンに切り替えられた直後からターレットの回転角度が刻々と変化するため、ターレットの回動に伴って移動する巻取ボビンの軌跡が広い範囲にまで及ぶことになる。特許文献2の紡糸巻取装置でも、満巻となったパッケージの玉揚げが完了した後、巻取ボビンの巻き太りに対応してターレットの回転角度が刻々と変化するため、ターレットの回動に伴って移動する巻取ボビンの軌跡が広い範囲にまで及ぶことになる。従って、巻取ボビンが通過する領域に紡糸巻取装置を構成する部材が配置されると、該部材が巻取ボビンと干渉することになる。このため、このような紡糸巻取装置では、設計上の自由度が制限されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2798508号公報
【特許文献2】特許第4024377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものである。本発明の目的は、巻取ボビンが通過する領域を狭い範囲に収めて、設計上の自由度を向上させた紡糸巻取装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
次に、この課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、第1の発明は、
紡糸された糸を巻取ボビンを切り替えながら巻き取る紡糸巻取装置であって、
機体と、
巻取ボビンを保持する2本のボビンホルダを備えるとともに、前記機体に対して回動するターレットと、
巻取ボビンの巻き太り及び前記ターレットの回動に対応して、巻取ボビンに圧接した状態を保ちつつ、前記ターレットの回動軸からの距離を変動させるように移動するコンタクトローラと、
第1ターレット回動条件及び第2ターレット回動条件を設定する設定部と、
糸の巻き取り状態を検知する検知部と、
前記検知部により検知した糸の巻き取り状態が、前記第1ターレット回動条件、又は前記第2ターレット回動条件に達したかどうかを判定する判定部と、
前記ターレットの回動と前記コンタクトローラの移動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記コンタクトローラを第1ローラ位置に配置するとともに、前記ターレットを第1ターレット位置に配置した状態で巻取ボビンへの糸の巻き取りを開始し、
前記判定部が糸の巻き取り開始から前記第1ターレット回動条件に達したと判定するまでの第1期間に、前記コンタクトローラを前記第1ローラ位置から巻取ボビンの巻き太りに対応させて第2ローラ位置まで移動させるとともに、前記ターレットを前記第1ターレット位置で停止させた状態で維持させ、
前記判定部が前記第1ターレット回動条件に達したと判定してから前記第2ターレット回動条件に達したと判定するまでの第2期間に、前記ターレットを前記第1ターレット位置から第2ターレット位置まで回動させるとともに、前記コンタクトローラを前記ターレットの回動及び巻取ボビンの巻き太りに対応させて前記第2ローラ位置から第3ローラ位置まで移動させ、
前記判定部が前記第2ターレット回動条件に達したと判定してから巻取ボビンが満巻に達するまでの第3期間に、前記コンタクトローラを前記第3ローラ位置から巻取ボビンの巻き太りに対応させて第4ローラ位置まで移動させるとともに、前記ターレットを前記第2ターレット位置から第3ターレット位置まで移動させ、
前記ターレットの回動軸から前記第4ローラ位置までの距離が、前記ターレットの回動軸から前記第1ローラ位置までの距離より長く、前記ターレットの回動軸から前記第2ローラ位置までの距離より短い、かつ、前記ターレットの回動軸から前記第3ローラ位置までの距離が、前記ターレットの回動軸から前記第1ローラ位置までの距離より長く、前記ターレットの回動軸から前記第2ローラ位置までの距離より短い、紡糸巻取装置とする。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、
前記ターレットの回動軸から前記第4ローラ位置までの距離は、前記ターレットの回動軸から前記第3ローラ位置までの距離より長い、紡糸巻取装置とする。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
巻取ボビンが満巻に達してから次の巻取ボビンの巻き取りを開始するまでの第4期間に、前記コンタクトローラは、第4ローラ位置から第1ローラ位置に移動する、紡糸巻取装置とする。
【0012】
第4の発明は、第1から第3の発明において、
前記コンタクトローラの巻き取り開始位置である前記第1ローラ位置は、前記ターレットの回動軸から前記第1ローラ位置までの距離が最小停止距離より短くなるように設定され、かつ、前記ターレットの回動軸から前記コンタクトローラまでの距離が、糸の巻き取りを開始してから最初に前記最小停止距離を越えるまでは、保護装置を作動させないようにする、紡糸巻取装置とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
第1の発明によれば、ターレットの回動軸から第4ローラ位置までの距離が、ターレットの回動軸から第1ローラ位置までの距離より長く、ターレットの回動軸から第2ローラ位置までの距離より短くなる。更に、ターレットの回動軸から第3ローラ位置までの距離が、ターレットの回動軸から第1ローラ位置までの距離より長く、ターレットの回動軸から第2ローラ位置までの距離より短くなる。このため、ターレットの回動に伴って移動する巻取ボビンの通過する領域が狭い範囲内で収まる。従って、紡糸巻取装置を構成する部材が巻取ボビンに干渉しない空間を確保することができ、設計上の自由度を向上させることが可能となる。
【0015】
第2の発明によれば、ターレットの回動軸から第4ローラ位置までの距離が、ターレットの回動軸から第3ローラ位置までの距離より長くなる。このため、ターレットの回動に伴って移動する巻取ボビンの通過する領域が更に狭い範囲内で収まる。従って、紡糸巻取装置を構成する部材が巻取ボビンに干渉しない空間を確保することができ、設計上の自由度を更に向上させることが可能となる。
【0016】
第3の発明によれば、コンタクトローラが、第4ローラ位置から第1ローラ位置に移動される。このため、コンタクトローラの位置を第1ローラ位置に戻すことができ、新たな巻取ボビンへの糸の巻き取りを開始することが可能となる。
【0017】
第4の発明によれば、ターレットの回動軸から第1ローラ位置までの距離が、最小停止距離より短くなるように設定されている。また、この場合には、保護装置を作動させないようにしている。このため、コンタクトローラを第1ローラ位置から第2ローラ位置まで移動させる時間を長く確保することができ、パッケージの玉揚げのための時間をより長く確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1に係る紡糸巻取装置11の正面図。
【図2】紡糸巻取装置11の正面図。
【図3】紡糸巻取装置11の正面図。
【図4】紡糸巻取装置11の正面図。
【図5】紡糸巻取装置11のブロック図。
【図6】紡糸巻取装置11の制御を示す図。
【図7】巻取ボビンBの軌跡Tを示す図。
【図8】本発明の実施例2に係る紡糸巻取装置11の制御を示す図。
【図9】従来の紡糸巻取装置の制御を示す図。
【図10】巻取ボビンBの軌跡T´を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、発明の実施の形態について図を用いて説明する。
【0020】
本発明の実施例1に係る紡糸巻取装置11について、図1から図7を用いて説明する。紡糸巻取装置11は、紡糸された糸Yを巻取ボビンBを切り替えながら巻き取ってパッケージ18を形成するものである。以下の説明では、巻取チューブ17及びパッケージ18を総称して巻取ボビンBとする場合がある。即ち、糸層が形成されていない巻取ボビンBが巻取チューブ17であり、糸層が形成された巻取ボビンBがパッケージ18である。
【0021】
図1、図5に示すように、紡糸巻取装置11は、主として機体12、ターレット21、スライドボックス31、制御部51を備えている。ターレット21とスライドボックス31は機体12に設けられている。ターレット21は、機体12に対して回転するものである。ターレット21はターレット駆動装置24によって回動軸23を中心に回動可能である。ターレット21には、巻取ボビンBを装着する2本のボビンホルダ25が回動軸23に対して対称となる位置に突設されている。ターレット21をターレット駆動装置24によって略半回転させることで、ボビンホルダ25の一方が上方の巻取位置に、他方が下方の玉揚げ及び待機位置となるように、2本のボビンホルダ25の位置を交代させることができる。
【0022】
ターレット21に設けられた2本のボビンホルダ25は、それぞれボビンホルダ駆動装置26に接続されており、回転可能である。各ボビンホルダ駆動装置26は制御部51に電気的に接続されている。
【0023】
制御部51は、公知のマイクロコンピュータとして構成されており、演算装置としてのCPUや、ROM、RAM等の記憶手段を備えている。制御部51は、後記説明する各種センサが発生する信号に基いて、各種駆動装置の駆動を制御する。
【0024】
スライドボックス31は、機体12に対して昇降自在に設けられるものであり、コンタクトローラ35とトラバース装置41が設けられている。スライドボックス31は、コンタクトローラ35の接圧調整手段である昇降駆動装置33によって機体12に対して支えられている。昇降駆動装置33はエアシリンダ等で構成される。昇降駆動装置33の作動により、スライドボックス31は機体12に対して上向きの力を受け、コンタクトローラ35が巻取ボビンBに所定の接圧で接触する。昇降駆動装置33は制御部51に電気的に接続され、駆動が制御される。
【0025】
コンタクトローラ35は、糸Yの巻き取り中に巻取ボビンBに従動して回転し、トラバース装置41によって綾振された糸Yを受け継いで、巻取ボビンBの外周に糸Yを受け渡すものである。また、コンタクトローラ35は、スライドボックス31が昇降することにより、巻取ボビンBの巻き太り及びターレット21の回動に対応して、巻取ボビンBに圧接した状態を保ちつつ移動する。コンタクトローラ35の移動方向はスライドボックス31と同じく上下方向である。コンタクトローラ35が移動することにより、ターレット21の回動軸23からコンタクトローラ35までの距離が変動する。コンタクトローラ35の位置の検知は、位置センサ37によりスライドボックス31の位置を検知することにより行う。
【0026】
コンタクトローラ35の回転速度は回転センサ38により検知され、これにより巻取ボビンBの外周速度が検知される。検知信号は制御部51に送られる。そして回転センサ38が検知するコンタクトローラ35の回転速度が一定となるように、ボビンホルダ駆動装置26の駆動を制御する。具体的には、回転センサ38の検知した値が巻取速度に応じた所定の値を下回れば制御部51がボビンホルダ駆動装置26の回転速度を増加させる。逆に、検知した値が所定の値を上回れば制御部51がボビンホルダ駆動装置26の回転速度を減少させるように制御する。
【0027】
トラバース装置41は、コンタクトローラ35に対して、糸Yの進行方向の上流側に配置され、スライドボックス31に対して位置が固定されている。トラバースガイド22が、図1の上方から供給される糸Yと係合した状態でトラバース範囲を往復動することによって、下流方向に送られる糸Yを綾振運動させる。
【0028】
紡糸巻取装置11は更に、設定部53、検知部55、判定部57、保護装置59を備えている。
【0029】
設定部53は、糸Yの巻き取りを開始した後、ターレット21の回動を開始させる第1ターレット回動条件を設定できる。本実施例1では、第1ターレット回動条件として巻取ボビンBの巻径=D1を設定する。しかし、第1ターレット回動条件は、巻取ボビンBの巻径に限らない。第1ターレット回動条件は、ある巻取ボビンBの巻き取りを開始してからの時間や、ある巻取ボビンBに巻き取った糸Yの長さとしてもよい。第1ターレット回動条件は、玉揚げに要する時間を考慮して決定する。
【0030】
また、設定部53は、第1ターレット回動条件を経過した後、ターレット21の回動条件を変更させる第2ターレット回動条件を設定できる。本実施例1では、第2ターレット回動条件として巻取ボビンBの巻径=D2を設定する。しかし、第2ターレット回動条件は、巻取ボビンBの巻径に限らない。第2ターレット回動条件は、第1ターレット回動条件を経過してからの時間や、ある巻取ボビンBに巻き取った糸Yの長さとしてもよい。第2ターレット回動条件は、巻取ボビンBの軌跡Tを考慮して決定する(図7参照)。
【0031】
検知部55は、糸Yの巻き取り状態を検知するものである。検知部55は、糸Yの巻き取り状態として巻き取り中の巻取ボビンBの巻径や、巻き取り中の巻取ボビンBの巻き取り経過時間、巻き取り中の巻取ボビンBに巻き取った糸Yの長さを検知する。これらの検知は、回転センサ38や、図示しないセンサやタイマ等の信号に基づいて行われる。糸Yの巻き取り状態は、判定部57において、前述した第1ターレット回動条件及び第2ターレット回動条件と比較されるため、少なくとも第1ターレット回動条件及び第2ターレット回動条件と比較できるような糸Yの巻き取り状態を検知する。
【0032】
判定部57は、検知部55により検知した糸Yの巻き取り状態が、第1ターレット回動条件、又は第2ターレット回動条件に達したかどうかを判定する。糸Yの巻き取り状態が第1ターレット回動条件、又は第2ターレット回動条件に達したかどうかの判定は、制御部51に送信される。ここで第1ターレット回動条件に達したにもかかわらず玉揚げが完了していない場合は、糸Yの巻き取りを停止させる。なお、第1ターレット回動条件は巻径や時間等の条件の設定ではなく、玉揚げの完了としても構わない。即ち、例えば巻取ボビンBが排出され、新たな巻取チューブ17が挿入、ボビンホルダ25に把持されたことをトリガーとして、回動動作を開始するようにしてもよい。
【0033】
保護装置59は、コンタクトローラ35の位置が所定の範囲から逸脱した場合に糸Yの巻き取りを停止して、紡糸巻取装置11の損傷を未然に防ぐものである。コンタクトローラ35は、スライドボックス31とともに機体12に対して昇降するが、スライドボックス31の昇降範囲には機械的な上限位置と下限位置があり、これを越えてスライドボックス31を昇降させることはできない。図6に示すように、スライドボックス31が機械的な上限位置にある場合において、ターレット21の回動軸23からコンタクトローラ35までの距離を最大限界距離L(max2)とする。スライドボックス31が機械的な下限位置にある場合において、ターレット21の回動軸23からコンタクトローラ35までの距離を最小限界距離L(min2)とする。
【0034】
糸Yの巻き取り中に、コンタクトローラ35が、前述の最大限界距離L(max2)又は最小限界距離L(min2)となる位置に達してしまうと、糸Yの巻き取りを続けることができないばかりか、紡糸巻取装置11を損傷させてしまう。そこで保護装置59は、ターレット21の回動軸23からコンタクトローラ35までの距離が、最大限界距離L(max2)又は最小限界距離L(min2)に達する前に糸Yの巻き取りを停止させる。
【0035】
具体的には、コンタクトローラ35が上昇して、最大限界距離L(max2)に達する前に保護装置59が作動する位置を最大停止位置とする。そしてコンタクトローラ35が最大停止位置にある場合における、ターレット21の回動軸23からコンタクトローラ35までの距離を最大停止距離L(max1)とする。また、コンタクトローラ35が下降して、最小限界距離L(min2)に達する前に保護装置59が作動する位置を最小停止位置とする。そしてコンタクトローラ35が最小停止位置にある場合における、ターレット21の回動軸23からコンタクトローラ35までの距離を最小停止距離L(min1)とする。そして更に、ターレット21の回動軸23からコンタクトローラ35までの距離が最小停止距離L(min1)より長く、所定の最大停止距離より短い範囲をコンタクトローラ35の可動範囲とする。コンタクトローラ35の位置が可動範囲から逸脱した場合には、保護装置59が作動して糸Yの巻き取りを停止させる。
【0036】
次に、本実施例1に係る紡糸巻取装置11が糸Yを巻き取る場合において、ターレット21の回動とコンタクトローラ35の移動の制御について説明する。また、比較のために特許文献2に記載された制御を行った場合についても説明する。
【0037】
まず、図9、図10を用いて、特許文献2に記載された制御を行った場合について説明する。図9に示す第1ローラ位置LS´は、糸Yの巻き取り開始時におけるコンタクトローラ35の位置を示し、第2ローラ位置L1´は、第1ターレット回動条件時におけるコンタクトローラ35の位置を示し、第3ローラ位置LF´は、満巻時におけるコンタクトローラ35の位置を示している。また、図10に示す巻取ボビンBS´は、糸Yの巻き取り開始時における巻取ボビンBを示し、巻取ボビンB1´は、第1ターレット回動条件時における巻取ボビンBを示し、巻取ボビンBF´は、満巻時における巻取ボビンBを示している。更に、図10に示す複数の想像線(二点鎖線)は、巻取ボビンBS´から巻取ボビンBF´となる過程での巻取ボビンBの外縁を示している。
【0038】
特許文献2の制御では、糸Yの巻き取り開始時に、コンタクトローラ35を第1ローラ位置LS´に配置し、第1ローラ位置LS´から巻取ボビンBの巻き太りに対応させて第2ローラ位置L1´まで移動させる。
【0039】
続いてターレット21を巻取ボビンBの巻き太りとコンタクトローラ35の移動に対応して回動させ、コンタクトローラ35を第2ローラ位置L1´から巻き取り終了位置である第3ローラ位置LF´まで移動させる。第3ローラ位置LF´は、巻き取り終了時の巻径=DFに対応している。特許文献2に記載された制御では、第3ローラ位置LF´は第1ローラ位置LS´と同一に設定されている。
【0040】
このような制御を行う従来の紡糸巻取装置では、第1ターレット回動条件の経過後、巻取ボビンBの巻き太りに対応してターレット21の回転角度が刻々と変化するため、ターレット21の回動に伴って移動する巻取ボビンBの軌跡T´が広い範囲にまで及ぶことになる。具体的に説明すると、巻取ボビンBは、巻き太りながら移動するため、図7に示す空間Aに相当する領域を通過する。コンタクトローラ35の近傍には、紡糸巻取装置11を構成する部材が配置されるため、該部材が巻取ボビンBに干渉しないようにすると、設計上の自由度が制限される。
【0041】
次に、図6、図7を用いて、本実施例1に係る紡糸巻取装置11の制御について説明する。図6に示す第1ローラ位置LSは、糸Yの巻き取り開始時におけるコンタクトローラ35の位置を示し、第2ローラ位置L1は、第1ターレット回動条件時におけるコンタクトローラ35の位置を示し、第3ローラ位置L2は、第2ターレット回動条件時におけるコンタクトローラ35の位置を示し、第4ローラ位置LFは、満巻時におけるコンタクトローラ35の位置を示している。また、図7に示す巻取ボビンBSは、糸Yの巻き取り開始時における巻取ボビンBを示し、巻取ボビンB1は、第1ターレット回動条件時における巻取ボビンBを示し、巻取ボビンB2は、第2ターレット回動条件時における巻取ボビンBを示し、巻取ボビンBFは、満巻時における巻取ボビンBを示している。更に、図7に示す複数の想像線(二点鎖線)は、巻取ボビンBSから巻取ボビンBFとなる過程での巻取ボビンBの外縁を示している。
【0042】
まず、ターレット21は、第1ターレット位置に配置される。また、コンタクトローラ35は、第1ローラ位置LSに配置される。そして、紡糸巻取装置11は、巻取ボビンBへの糸Yの巻き取りを開始する(図1参照)。第1ローラ位置LSは、糸Yの巻き取り開始時の巻径=DS=巻取チューブ17の径に対応する。
【0043】
糸Yの巻き取り開始から判定部57が第1ターレット回動条件に達したと判定するまでの期間を第1期間P1とする。第1期間P1において、コンタクトローラ35は、第1ローラ位置LSから巻取ボビンBの巻き太りに対応して第2ローラ位置L1まで移動される(図2参照)。このとき、ターレット21は、第1ターレット位置で停止している。第2ローラ位置L1は、第1ターレット回動条件としての巻取ボビンBの巻径=D1に対応する。
【0044】
判定部57が第1ターレット回動条件に達したと判定してから第2ターレット回動条件に達したと判定するまでの期間を第2期間P2とする。第2期間P2において、ターレット21は、第1ターレット位置から第2ターレット位置まで回動される(図3中矢印参照)。コンタクトローラ35は、第2ローラ位置L1からターレット21の回動及び巻取ボビンBの巻き太りに対応して第3ローラ位置L2まで移動される(図3参照)。第3ローラ位置L2は、第2ターレット回動条件としての巻取ボビンBの巻径=D2に対応する。
【0045】
判定部57が第2ターレット回動条件に達したと判定してから巻取ボビンBが満巻に達するまでの期間を第3期間P3とする。第3期間P3において、ターレット21を第2ターレット位置から第3ターレット位置まで移動させるとともに、コンタクトローラ35を第3ローラ位置L2からターレット21の回動及び巻取ボビンBの巻き太りに対応させて第4ローラ位置LFまで移動させる(図4参照)。ここで、第2ターレット位置と第3ターレット位置をごく近い位置、あるいは同一の位置とすることで、第3期間P3において、ターレット21が第2ターレット位置で実質停止するようにすることもできる。第4ローラ位置LFは、巻き取り終了時の巻取ボビンBの巻径=DFに対応する。
【0046】
また、本実施例1では、ターレット21の回動軸23から第4ローラ位置LFまでの距離は、ターレット21の回動軸23から第1ローラ位置LSまでの距離より長く、ターレット21の回動軸23から第2ローラ位置L1までの距離より短いとされる。更に、ターレット21の回動軸23から第3ローラ位置L2までの距離は、ターレット21の回動軸23から第1ローラ位置LSまでの距離より長く、ターレット21の回動軸23から第2ローラ位置L1までの距離より短いとされる。
【0047】
このような制御により、本紡糸巻取装置11は、巻取ボビンBが所定の巻径(実施例1ではD1)になるとターレット21を第2ターレット位置まで回動させ、第2ターレット位置と第3ターレット位置の間で巻取ボビンBを巻き太らせるため、ターレット21の回動に伴って移動する巻取ボビンBの通過する領域が狭い範囲で収まることになる。具体的に説明すると、巻取ボビンBは、第2ターレット位置と第3ターレット位置の間で巻取ボビンBを巻き太らせるため、図7に示す空間Aを通過しない。従って、紡糸巻取装置11を構成する部材が巻取ボビンBに干渉しない空間Aを確保することができ、設計上の自由度を向上させることが可能となる。
【0048】
更に、本実施例1に係る紡糸巻取装置11の制御は、ターレット21の回動軸23から第4ローラ位置L3までの距離が、ターレット21の回動軸23から第3ローラ位置L2までの距離より長いとされる。
【0049】
このような制御により、本紡糸巻取装置11は、巻取ボビンBが所定の巻径(実施例1ではD1)になるとターレット21を第2ターレット位置まで大きく回動させ、第2ターレット位置と第3ターレット位置の間で巻取ボビンBを巻き太らせるため、ターレット21の回動に伴って移動する巻取ボビンBの通過する領域が更に狭い範囲で収まることになる。従って、紡糸巻取装置11を構成する部材が巻取ボビンBに干渉しない空間Aを大きく確保することができ、設計上の自由度を更に向上させることが可能となる。
【0050】
また、巻取ボビンBが満巻に達してから次の巻取ボビンBの巻き取りを開始するまでの期間を第4期間P4とする。第4期間P4において、コンタクトローラ35は、第4ローラ位置LFから第1ローラ位置LSに移動する。このような動作をするのは、コンタクトローラ35が巻取ボビンBに当接しない状態になるとスライドボックス31の自重によって下降し、最小限界距離L(min2)まで移動するためである。コンタクトローラ35に巻取ボビンBが当接すると、コンタクトローラ35は巻取ボビンBに持ち上げられ、最小限界距離L(min2)から第1ローラ位置LSに移動する。第4期間P4においては、コンタクトローラ35の位置が、最小停止距離L(min1)を下回ったことを検知しても、保護装置59は作動しないように設定している。
【0051】
このような制御により、本紡糸巻取装置11は、コンタクトローラ35の位置を第1ローラ位置LSに戻すことができ、新たな巻取ボビンBへの糸Yの巻き取りを開始することが可能となる。
【0052】
次に、図8を用いて、本発明の実施例2に係る紡糸巻取装置11について説明する。実施例1では、ターレット21の回動軸23から第1ローラ位置LSまでの距離が最小停止距離L(min1)より長くなるように設定されている(図6参照)。このように設定している理由は、コンタクトローラ35の位置が、最小停止距離L(min1)を下回って可動範囲から逸脱すると保護装置59が作動して糸Yの巻き取りを停止させるためである。また、保護装置59を設けている理由は、コンタクトローラ35の位置が機械的な下限位置である最小限界距離L(min2)となる位置に達すると、正常な巻き取りができなくなり、紡糸巻取装置11を損傷させてしまうためである。
【0053】
しかしながら、第1ローラ位置LSは、糸Yの巻き取り開始時における巻取ボビンBの巻径=DS=巻取チューブ17の径に対応しており、糸Yの巻き取りを開始する時点とその直後では、巻取ボビンBに糸Yはほとんど巻き取られておらず、巻取ボビンBの巻径に大きなばらつきは生じていない。このため、糸Yの巻き取りを開始する時点とその直後では、コンタクトローラ35の位置を最小限界距離L(min2)に接近させても、紡糸巻取装置11を損傷させてしまうおそれはほとんどない。
【0054】
また、コンタクトローラ35の位置を最小限界距離L(min2)に接近させることで、コンタクトローラ35の位置が第2ローラ位置L1に達するまでの時間を長くすることができ、パッケージ18の玉揚げのための時間を長くできるという利点もある。
【0055】
このため、実施例2では、ターレット21の回動軸23から第1ローラ位置LSまでの距離が最小停止距離L(min1)より短くなるように設定した。また、保護装置59が作動して糸Yの巻き取りを停止させないよう、ターレット21の回動軸23からコンタクトローラ35までの距離が、糸Yの巻き取りを開始してから最初に最小停止距離L(min1)を越えるまでは、保護装置59を作動させないようにした。
【0056】
このような制御により、本紡糸巻取装置11は、コンタクトローラ35を第1ローラ位置LSから第2ローラ位置L1まで移動させる時間を長く確保することができ、パッケージ18の玉揚げのための時間をより長く確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
11 紡糸巻取装置
12 機体
17 巻取チューブ
18 パッケージ
21 ターレット
22 トラバースガイド
23 回動軸
24 ターレット駆動装置
25 ボビンホルダ
26 ボビンホルダ駆動装置
31 スライドボックス
33 昇降駆動装置
35 コンタクトローラ
37 位置センサ
38 回転センサ
41 トラバース装置
51 制御部
53 設定部
55 検知部
57 判定部
59 保護装置
B 巻取ボビン
Y 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸された糸を巻取ボビンを切り替えながら巻き取る紡糸巻取装置であって、
機体と、
巻取ボビンを保持する2本のボビンホルダを備えるとともに、前記機体に対して回動するターレットと、
巻取ボビンの巻き太り及び前記ターレットの回動に対応して、巻取ボビンに圧接した状態を保ちつつ、前記ターレットの回動軸からの距離を変動させるように移動するコンタクトローラと、
第1ターレット回動条件及び第2ターレット回動条件を設定する設定部と、
糸の巻き取り状態を検知する検知部と、
前記検知部により検知した糸の巻き取り状態が、前記第1ターレット回動条件、又は前記第2ターレット回動条件に達したかどうかを判定する判定部と、
前記ターレットの回動と前記コンタクトローラの移動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記コンタクトローラを第1ローラ位置に配置するとともに、前記ターレットを第1ターレット位置に配置した状態で巻取ボビンへの糸の巻き取りを開始し、
前記判定部が糸の巻き取り開始から前記第1ターレット回動条件に達したと判定するまでの第1期間に、前記コンタクトローラを前記第1ローラ位置から巻取ボビンの巻き太りに対応させて第2ローラ位置まで移動させるとともに、前記ターレットを前記第1ターレット位置で停止させた状態で維持させ、
前記判定部が前記第1ターレット回動条件に達したと判定してから前記第2ターレット回動条件に達したと判定するまでの第2期間に、前記ターレットを前記第1ターレット位置から第2ターレット位置まで回動させるとともに、前記コンタクトローラを前記ターレットの回動及び巻取ボビンの巻き太りに対応させて前記第2ローラ位置から第3ローラ位置まで移動させ、
前記判定部が前記第2ターレット回動条件に達したと判定してから巻取ボビンが満巻に達するまでの第3期間に、前記ターレットを前記第2ターレット位置から第3ターレット位置まで移動させるとともに、コンタクトローラを第3ローラ位置からターレットの回動及び巻取ボビンの巻き太りに対応させて第4ローラ位置まで移動させ、
前記ターレットの回動軸から前記第4ローラ位置までの距離が、前記ターレットの回動軸から前記第1ローラ位置までの距離より長く、前記ターレットの回動軸から前記第2ローラ位置までの距離より短い、かつ、前記ターレットの回動軸から前記第3ローラ位置までの距離が、前記ターレットの回動軸から前記第1ローラ位置までの距離より長く、前記ターレットの回動軸から前記第2ローラ位置までの距離より短い、ことを特徴とする紡糸巻取装置。
【請求項2】
前記ターレットの回動軸から前記第4ローラ位置までの距離は、前記ターレットの回動軸から前記第3ローラ位置までの距離より長い、ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸巻取装置。
【請求項3】
巻取ボビンが満巻に達してから次の巻取ボビンの巻き取りを開始するまでの第4期間に、前記コンタクトローラは、第4ローラ位置から第1ローラ位置に移動する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の紡糸巻取装置。
【請求項4】
前記コンタクトローラの巻き取り開始位置である前記第1ローラ位置は、前記ターレットの回動軸から前記第1ローラ位置までの距離が最小停止距離より短くなるように設定され、かつ、前記ターレットの回動軸から前記コンタクトローラまでの距離が、糸の巻き取りを開始してから最初に前記最小停止距離を越えるまでは、保護装置を作動させないようにする、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の紡糸巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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