説明

紡糸装置、不織布製造装置及び不織布の製造方法

【課題】簡素な装置で、繊維径の小さい繊維からなる不織布を製造できる紡糸装置、この紡糸装置を備えた不織布製造装置、及び前記不織布製造装置を用いる不織布の製造方法を提供すること。
【解決手段】紡糸装置は横断面が円形の液吐出ノズルと横断面が円形のガス吐出ノズルの外壁面が当接し、ガス吐出ノズルのガス吐出部が液吐出部よりも上流側となる位置にあり、液吐出部から吐出された紡糸液とガス吐出部から吐出されたガスとは、液吐出ノズルの壁厚とガス吐出ノズルの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にあり、しかも吐出された紡糸液の中心軸と吐出されたガスの中心軸は平行である。本発明の不織布製造装置及び不織布製造方法は前記紡糸装置を用いる装置及び方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紡糸装置、この紡糸装置を備えた不織布製造装置、及び前記不織布製造装置を用いる不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布を構成する繊維の繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れているため、不織布を構成する繊維の繊維径は小さいのが好ましい。このような繊維径の小さい繊維からなる不織布の製造方法として、紡糸液をノズルから吐出するとともに、吐出した紡糸液に電界を作用させて紡糸液を延伸し、細径化した後に捕集体上に直接捕集して不織布とする、いわゆる静電紡糸法が知られている。この静電紡糸法によれば、平均繊維径1μm以下の繊維からなる不織布を製造することができる。この静電紡糸法は紡糸液に電界を作用させるために、ノズル又は捕集体に高電圧を印加する必要があるため、装置が複雑になるばかりでなく、エネルギー的に無駄であった。
【0003】
このような点を改良できる紡糸装置として、図2に示すような「圧縮ガス流を用いることによってナノファイバの不織マットを形成する装置は、平行な間隔を設けた第1(12)、第2(22)及び第3(32)部材を含み、各々は、供給端部(14,24,34)及び対向出口端部(16,26,36)を有する。第2部材(22)は第1部材(12)に隣接する。第2部材(22)の出口端部(26)は、第1部材(12)の出口端部(16)を越えて延びる。第1(12)及び第2(22)部材は、第1供給スリット(18)を画成する。第3部材(32)は、第1部材(12)の第2部材(22)から反対側で第1部材(12)に隣接して位置する。第1(12)及び第3(32)部材は第1ガススリット(38)を画成し、第1(12)、第2(22)及び第3(32)部材の出口端部(16,26,36)はガスジェット空間(20)を画成する。圧縮ガス流を用いることによってナノファイバの不織マットを形成する方法も含まれる。」ことが提案されている(特許文献1)。この装置は高電圧を印加する必要がないため、前述の問題点を解決できるものである。しかしながら、この装置においては平板状の第1、第2及び第3部材を平行に設けていることから、シート状の紡糸液に対して圧縮ガスを作用させることになり、繊維形状になりにくく、液滴を多く含むものとなり、繊維形状にできたとしても太い繊維しか形成できないものであると考えられた。
【0004】
同様の紡糸装置として、「センターチューブ、センターチューブに同心状かつ離間して位置する第1供給チューブ、第1供給チューブに同心状かつ離間して位置する中間ガスチューブ、中間ガスチューブに同心状かつ離間して位置する第2供給チューブを備え、センターチューブと第1供給チューブは第1環状コラムを形成し、中間ガスチューブと第1供給チューブは第2環状コラムを形成し、中間ガスチューブと第2供給チューブは第3環状コラムを形成し、第1ガスジェット空間がセンターチューブと第1供給チューブの下流側端部に形成され、第2ガスジェット空間が中間ガスチューブと第2供給チューブの下流側端部に形成されるように位置している、圧縮ガスを用いるナノファイバー製造装置。」が提案されている(特許文献2)。この製造装置も高電圧を印加する必要がないため、前述の問題点を解決できるものである。しかしながら、この装置においても、環状に吐出された紡糸液に対してガスジェットを作用させるため、繊維形状になりにくく、液滴を多く含むものであった。
【0005】
【特許文献1】特表2005−515316号公報(要約、表1など)
【特許文献2】米国特許第6520425号公報(要約、図2など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、簡素な装置で、繊維径の小さい繊維からなる不織布を製造できる紡糸装置、この紡糸装置を備えた不織布製造装置、及び前記不織布製造装置を用いる不織布の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「紡糸液を吐出できる液吐出部と、前記液吐出部よりも上流側に位置し、ガスを吐出できるガス吐出部とを有する、次の条件を満足する紡糸装置。(1)液吐出部を端部とする液用柱状中空部(Hl)を有する(2)ガス吐出部を端部とするガス用柱状中空部(Hg)を有する(3)液用柱状中空部(Hl)を延長した液仮想柱状部(Hvl)とガス用柱状中空部(Hg)を延長したガス仮想柱状部(Hvg)とは近接している(4)液用柱状中空部(Hl)の吐出方向中心軸とガス用柱状中空部(Hg)の吐出方向中心軸とが平行である(5)ガス用柱状中空部(Hg)の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外周と液用柱状中空部(Hl)の切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる」である。
【0008】
本発明の請求項2にかかる発明は、「請求項1に記載の紡糸装置に加えて、繊維の捕集体を備えていることを特徴とする不織布製造装置。」である。
【0009】
本発明の請求項3にかかる発明は、「請求項2に記載の不織布製造装置を用い、紡糸装置のガス吐出部から流速100m/sec.以上のガスを吐出することを特徴とする、不織布の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1にかかる発明は、液吐出部から吐出された紡糸液とガス吐出部から吐出されたガスとは近接しており、平行であり、しかも紡糸液にはガスおよび随伴気流による剪断力が1本の直線状に作用するため、細径化した繊維を紡糸できるものである。なお、紡糸液に高電圧を印加する必要がなく、また、紡糸液及びガスを加熱する必要もないため、簡素かつエネルギー的に有利な装置である。
【0011】
本発明の請求項2にかかる発明は捕集体を備えているため、細径化した繊維を捕集し、不織布を製造することができる。
【0012】
本発明の請求項3にかかる発明は、流速100m/sec.以上のガスを吐出すると、液滴の発生を抑制し、効率的に細径化した繊維を含む不織布を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の紡糸装置について、紡糸装置の先端部を拡大した斜視図である図1(a)、及び図1(a)におけるC平面切断図である図1(b)をもとに説明する。
【0014】
本発明の紡糸装置は紡糸液を吐出できる液吐出部Elを一方の端部に有する液吐出ノズルNl1本と、ガスを吐出できるガス吐出部Egを一方の端部に有するガス吐出ノズルNg1本の外壁面が当接し、ガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egが液吐出部Elよりも上流側となる位置にある。なお、液吐出ノズルNlは液吐出部Elを端部とする液用柱状中空部Hlを有しており、ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egを端部とするガス用柱状中空部Hgを有している。また、前記液用柱状中空部Hlを延長した液仮想柱状部Hvlと前記ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgとは、液吐出ノズルNlの壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にある。しかも前記液用柱状中空部Hlの吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行である関係にある。更には、図1(b)にガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面Cで切断した切断図を示すように、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外形、液用柱状中空部Hlの切断面の外形ともに円形であり、これら外周間の距離が最も短い直線Lを、1本だけ引くことができる状態にある。
【0015】
そのため、図1のような紡糸装置の液吐出ノズルNlに紡糸液を供給し、ガス吐出ノズルNgにガスを供給すると、紡糸液は液用柱状中空部Hlを通り液吐出部Elから液用柱状中空部Hlの軸方向に吐出されると同時に、ガスはガス用柱状中空部Hgを通りガス吐出部Egからガス用柱状中空部Hgの軸方向に吐出される。この吐出されたガスと吐出された紡糸液とは近接した状態にあり、ガスの吐出方向と紡糸液の吐出方向とは平行関係にあり、しかも平面C上、吐出されたガスと吐出された紡糸液とは最も近い点が1点、つまり、紡糸液は1本の直線状にガスおよび随伴気流による剪断作用を受けるため、細径化しながら液用柱状中空部Hlの軸方向に飛翔し、同時に紡糸液の溶媒が揮発して繊維化する。このように、図1の紡糸装置は紡糸液に高電圧を印加する必要がなく、紡糸液及びガスを加熱する必要もないため、簡素かつエネルギー的に有利な装置である。
【0016】
液吐出ノズルNlは紡糸液を吐出できるものであれば良く、液吐出部Elの形状は特に限定するものではないが、液吐出部Elの形状は、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくいように、円形であるのが好ましい。なお、液吐出部Elの形状が多角形である場合には、多角形の1つの角をガス吐出ノズルNg側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用が1本の直線状となり、液滴を生じにくくなる。つまり、ガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる状態となり、吐出された紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
【0017】
また、液吐出部Elの大きさも特に限定するものではないが、0.03〜20mmであるのが好ましく、0.03〜0.8mmであるのがより好ましい。0.03mmよりも小さいと、粘度の高い紡糸液を吐出するのが困難になる傾向があり、20mmを超えると、吐出された紡糸液全体に剪断作用を働かせることが困難となり、液滴を生じやすくなる傾向があるためである。
【0018】
なお、液吐出ノズルNlは金属製であっても樹脂製であってもよく、その素材は特に限定するものではない。また、金属製又は樹脂製のチューブを用いることもできる。更に、図1においては、円柱状の液吐出ノズルNlを図示しているが、先端が傾斜を持って切断された鋭角ノズルを使用することもできる。この鋭角ノズルの場合、紡糸液の粘度が高い場合に有効である。このような鋭角ノズルを使用する場合、尖った側をガス吐出ノズル側とすると、ガス及び随伴気流の剪断作用を受けやすく、安定して繊維化できる。
【0019】
ガス吐出ノズルNgはガスを吐出できるものであれば良く、ガス吐出部Egの形状は特に限定するものではないが、ガス吐出部Egの形状は、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を働きやすくするために、円形であるのが好ましい。なお、ガス吐出部Egの形状が多角形である場合には、多角形の1つの角を液吐出ノズルNl側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用が働きやすくなる。つまり、ガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる状態となり、吐出された紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
【0020】
また、ガス吐出部Egの大きさも特に限定するものではないが、0.03〜79mmであるのが好ましく、0.03〜20mmであるのがより好ましい。0.03mmよりも小さいと、吐出された紡糸液全体に剪断作用を働かせることが困難になる傾向があり、安定して繊維化することが困難になる傾向があるためで、79mmを超えると剪断作用を働かせるために十分な風速が必要で、多量のガスが必要となって不経済であるためである。なお、ガス吐出部Egの大きさは液吐出部Elの大きさと同じか、より大きいのが好ましい。ガス及び随伴気流の剪断作用が働きやすいためである。
【0021】
なお、ガス吐出ノズルNgは金属製であっても樹脂製であっても良く、その素材は特に限定しない。また、ガス吐出ノズルに替えて金属製や樹脂製のチューブを用いることもできる。
【0022】
ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egが液吐出部Elよりも上流側(紡糸液の供給側)となる位置に配置されているため、液吐出部周辺へ紡糸液が巻き上がるのを防止できる。そのため、液吐出部を汚すことなく、長時間の紡糸が可能である。なお、ガス吐出部Egと液吐出部Elとの距離は特に限定するものではないが、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。10mmを超えると紡糸液に対するガス及び随伴気流の剪断力が不十分となり、繊維化しにくくなる傾向があるためである。ガス吐出部Egと液吐出部Elとの距離の差の下限は特に限定するものではなく、ガス吐出部Egと液吐出部Elとが一致していなければ良い。
【0023】
液用柱状中空部Hlは紡糸液の通過経路であり、紡糸液の吐出時における形状を形作り、ガス用柱状中空部Hgはガスの通過経路であり、ガスの吐出時における形状を形作る。
【0024】
なお、液用柱状中空部Hlを延長した液仮想柱状部Hvlは液吐出部Elから吐出された紡糸液の吐出直後の飛翔経路であり、ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgはガス吐出部Egから吐出されたガスの吐出直後の噴出経路である。この液仮想柱状部Hvlとガス仮想柱状部Hvgとの距離は液吐出ノズルNlの壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当しているが、この距離は2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。2mmを超えるとガス及び随伴気流の剪断力が作用しにくく、繊維化しにくくなる傾向があるためである。
【0025】
この液仮想柱状部Hvlとガス仮想柱状部Hvgのいずれも内部充実した柱状である。例えば、円柱状の液仮想部を中空円柱状のガス仮想部で覆った状態、又は円柱状のガス仮想部を中空円柱状の液仮想部で覆った状態であると、ガス仮想柱状部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、液仮想部の切断面の外周とガス仮想部の切断面の内周、又はガス仮想部の切断面の外周と液仮想部の切断面の内周との距離が最も短い直線を無数に引くことができる結果、様々な点にガス及び随伴気流の剪断力が作用し、繊維化が不十分となり、液滴が多くなるためである。この「仮想柱状部」はノズルの内壁面を延長して形成される部分である。
【0026】
更に、液用柱状中空部Hlの吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行で、吐出された紡糸液に対して1本の直線状にガス及び随伴気流を作用させることができるため、安定して繊維を形成することができる。例えば、円柱状の液用中空部を中空円柱状のガス中空部で覆った状態、又は円柱状のガス中空部を中空円柱状の液用中空部で覆った状態であるように、これら中心軸が一致すると、ガス及び随伴気流の剪断力を1本の直線状に作用させることができず、繊維化が不十分となり、液滴が多くなる。また、これら中心軸が交差又はねじれの位置にあると、ガス及び随伴気流による剪断力が作用しないか、作用したとしても不均一であることから、安定して繊維を形成することができない。この「平行」であるとは、液用柱状中空部Hlの吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが同一平面上に位置することができ、しかも平行であることを意味する。また、「吐出方向中心軸」とは吐出部の中心と仮想柱状部の横断面における中心とを結んでできる直線である。
【0027】
本発明の紡糸装置はガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる(図1(b))。このようなガス用柱状中空部から吐出されたガス及び随伴気流は、液用柱状中空部から吐出された紡糸液に対して、1本の直線状に作用し、剪断作用を発揮することができるため、液滴を生じることなく、安定して紡糸することができる。例えば、前記直線を2本引くことができる場合には、一方の点で作用する場合と他方の点で作用する場合とが交互になるなど、安定して剪断作用を発揮することができない結果、液滴を発生し、安定して紡糸することができない。
【0028】
なお、図1(a)には図示していないが、液吐出ノズルNlは紡糸液貯蔵装置(例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなど)に接続されており、ガス吐出ノズルNgはガス供給装置(例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなど)に接続されている。
【0029】
図1においては、1組の紡糸装置しか描いていないが、2組以上の紡糸装置を配置することができる。2組以上の紡糸装置を配置することによって、生産性を高めることができる。
【0030】
また、図1においては、液吐出ノズルNlとガス吐出ノズルNgとを固定した状態にあるが、前述のような関係を満たす限り、図1の態様に限定されない。例えば、段差を有する基材に対して液用柱状中空部Hlとガス用柱状中空部Hgを穿孔したものであっても良い。また、液吐出ノズルNlの液吐出部El及び/又はガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egの位置を自由に調整できる機構を備えていることもできる。
【0031】
本発明の不織布製造装置は前述のような紡糸装置に加え、繊維の捕集体を備えているため、繊維を捕集して不織布を製造することができる。
【0032】
この捕集体は繊維を直接集積できるものであれば何でも良く、例えば、不織布、織物、編物、ネット、ドラム、ベルト或いは平板を捕集体として使用できる。なお、本発明においてはガスを吐出しているため、ガスを吸引して捕集体上に繊維を集積しやすく、また集積した繊維が乱れないように、通気性の捕集体を使用し、捕集体の紡糸装置側とは反対面側に吸引装置を設置するのが好ましい。
【0033】
このような捕集体は紡糸装置のガス吐出部Egと対向して位置していると、確実に繊維を捕集し、不織布を製造することができるため好適である。特には、ガスの吐出方向中心軸Agと直角であるように捕集体の捕集面が位置するように捕集体を配置するのが好ましい。なお、ガスの吐出方向中心軸Agと平行であるように捕集体の捕集面が位置するように捕集体を配置したとしても、繊維の飛翔力が消失する重力方向下方、又は飛翔方向を変更させるガス流を作用させる場合には、捕集体に繊維を集積することができる。したがって、紡糸装置のガスの吐出方向中心軸Agは重力と交差する方向に向けることもできる。
【0034】
なお、捕集体を紡糸装置のガス吐出部Egと対向して配置する場合、捕集体と紡糸装置の液吐出部Elとの距離は、紡糸液の吐出量やガス流速によって変化するため特に限定するものではないが、50〜1000mmであるのが好ましい。50mm未満であると、紡糸液の溶媒が十分に蒸発しない状態で集積され、集積された後に繊維形状を保つことができず、不織布が得られない場合があるためである。また、1000mmを超えると、ガスの流れが乱れ、繊維が切れて飛散しやすくなる傾向があるためである。
【0035】
本発明の不織布製造装置は前述のような捕集体に加えて、紡糸装置と捕集体を収納できる紡糸容器を備えているのが好ましい。このような紡糸容器を備えていることによって、紡糸液から揮発した溶媒の飛散を防ぎ、場合によっては溶媒を回収して再利用することができる。また、紡糸容器に紡糸装置と捕集体を収納した場合には、前述の繊維を吸引するための吸引装置とは別に紡糸容器に排気装置を接続するのが好ましい。紡糸を行っていると、紡糸容器内における溶媒蒸気濃度が次第に高くなり、溶媒の蒸発が抑制されるため、繊維径のバラツキが発生しやすく、また繊維化されにくくなる傾向があるが、紡糸容器内のガスを排気し、紡糸容器内の溶媒濃度を一定に保つことによって、繊維径のバラツキを小さくし、安定して繊維化することができる。また、温湿度を調整した気体の供給装置を接続することも、紡糸容器内における溶媒蒸気濃度を安定させ、繊維径のバラツキを小さくするために好ましい。
【0036】
本発明の不織布の製造方法は前記不織布製造装置を用い、紡糸装置のガス吐出部Egから流速100m/sec.以上のガスを吐出する方法である。ガス吐出部Egから流速100m/sec.以上のガスを吐出することによって、液滴の発生を抑え、細径化した繊維を含む不織布を効率的に製造することができる。好ましくは流速150m/sec.以上のガスを吐出し、より好ましくは流速200m/sec.以上のガスを吐出する。なお、ガス流速の上限は捕集体上に集積した繊維を乱すことのない流速であれば良く、特に限定するものではない。このような流速のガスを吐出するには、例えば、圧縮機からガス用柱状中空部Hgにガスを供給すれば良い。なお、ガスの種類は特に限定するものではないが、空気、窒素ガス、アルゴンガスなどを使用することができ、これらの中でも空気であると経済的である。また、これらのガスに紡糸液に対して親和性のある溶媒の蒸気や親和性のない溶媒の蒸気を含ませることもできる。このような溶媒の蒸気量を調整することによって、紡糸液からの溶媒蒸発速度や紡糸液の固化速度を制御でき、紡糸の安定性を高めたり、繊維径を調整することができる。
【0037】
本発明の製造方法に使用できる紡糸液は所望ポリマーを溶媒に溶解させたものであれば良く、特に限定するものではない。例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、或いはポリプロピレンなどを、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどの溶媒に溶解させたものを使用することができる。
【0038】
なお、紡糸時の紡糸液の粘度は10〜10000mPa・sの範囲であるのが好ましく、20〜8000mPa・sの範囲であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く繊維になりにくい傾向があり、粘度が10000mPa・sを超えると、紡糸液が延伸されにくく、繊維となりにくい傾向がある。したがって、常温で粘度が10000mPa・sを超える場合であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部Hlを加熱することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。逆に、常温で粘度が10mPa・s未満であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部Hlを冷却することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。なお、この「粘度」は、粘度測定装置を用い、紡糸時と同じ温度で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。
【0039】
なお、液吐出部Elからの紡糸液の吐出量は紡糸液の粘度やガス流速によって変化するため特に限定するものではないが、0.1〜100cm/時間であるのが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
(紡糸液の調製)
ポリアクリロニトリル(アルドリッチ製)を、N,N−ジメチルホルムアミドに濃度10mass%となるように溶解させた紡糸液(粘度(温度:25℃):970mPa・s)を用意した。
【0042】
(不織布製造装置の準備)
図1のような次の構成からなる製造装置を用意した。
(1) 紡糸液貯蔵部:シリンジ
(2) 空気供給装置:圧縮機
(3) 液吐出ノズルNl:金属製
(3)−1 液吐出部El:0.4mm径(断面積:0.13mm)の円形
(3)−2 液用柱状中空部Hl:0.4mm径の円柱状
(3)−3 ノズル外径:0.7mm
(3)−4 ノズル本数:1本
(4) ガス吐出ノズルNg:金属製
(4)−1 ガス吐出部Eg:0.4mm径(断面積:0.13mm)の円形
(4)−2 ガス用柱状中空部Hg:0.4mm径の円柱状
(4)−3 ノズル外径:0.7mm
(4)−4 ノズル本数:1本
(4)−5 位置:ガス吐出部Egが液吐出部Elよりも5mm上流側に、ノズルの外壁面が当接するように配置
(5) 液仮想柱状部Hvlとガス仮想柱状部Hvgの距離:0.6mm
(6) 液吐出方向中心軸Alとガス吐出方向中心軸Ag:平行
(7) ガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線の本数:1本
(8) 捕集体:ネット(30メッシュ)
(8)−1 液吐出部Elとの距離:300mm
(9) 繊維吸引装置:ブロア
(10) 紡糸容器:容積1mのアクリル容器
(10)−1 気体供給装置:精密空気発生装置((株)アピステ製、1400−HDR)
【0043】
(不織布の製造)
次の条件で繊維を捕集体(ネット)上に集積させ、目付5g/mの不織布を製造した。
(イ)液吐出ノズルNlからの吐出量:3cm/時間
(ロ)空気吐出流速:200m/sec.
(ハ)ネットの移動速度:0.65mm/sec.
(ニ)繊維吸引条件:30cm/sec.
(ホ)気体供給条件:25℃、27%RH、1m/min.
【0044】
(比較例1)
(紡糸液の調製)
実施例1と同じ紡糸液を用意した。
【0045】
(不織布製造装置の準備)
次の構成からなる製造装置を用意した。
(1) 紡糸液貯蔵部:ステンレスタンク
(2) 空気供給装置:圧縮機
(3) 液吐出ノズルNl:金属製
(3)−1 液吐出部:0.7mm径(断面積:0.38mm)の円形
(3)−2 液用柱状中空部:0.7mm径の円柱状
(3)−3 ノズル外径:1.1mm
(3)−4 ノズル本数:1本
(4) ガス吐出ノズルNg:金属製
(4)−1 ガス吐出部:2.1mm径(断面積:3.46mm)の円形
(4)−2 ガス用柱状中空部:2.1mm径の円柱状
(4)−3 ノズル外径:2.5mm
(4)−4 ノズル本数:1本
(4)−5 位置:ガス吐出部が液吐出部よりも2mm上流側の位置で、液吐出ノズルと同心円状に配置、結果として、ガス吐出部は内径1.1mm、外径2.1mmの中空円形状となる(図3参照)
(5)液仮想柱状部とガス仮想柱状部の距離:0.4mm
(6)液吐出方向中心軸とガス吐出方向中心軸:一致
(7)ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部の切断面の内周と液用柱状中空部の切断面の外周との距離が最も短い直線の本数:無数
(8)捕集体:ネット(30メッシュ)
(8)−1 液吐出部との距離:300mm
(9) 繊維吸引装置:ブロア
(10) 紡糸容器:容積1mのアクリル容器
(10)−1 気体供給装置:精密空気発生装置((株)アピステ製、1400−HDR)
【0046】
(不織布の製造)
次の条件で紡糸し、不織布を製造しようとしたが、ほとんど繊維形状とならず、不織布を製造することができなかった。
(イ)液吐出ノズルからの吐出量:3cm/時間
(ロ)空気吐出流速:200m/sec.
(ハ)ネットの移動速度:0.65mm/sec.
(ニ)繊維吸引条件:30cm/sec.
(ホ)気体供給条件:25℃、27%RH、1m/min.
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(a) 紡糸装置の先端部を拡大した斜視図 (b) 平面Cでの切断図
【図2】従来の紡糸装置の断面図
【図3】比較例1において使用した液吐出ノズルとガス吐出ノズルの配置を表す横断面平面図
【符号の説明】
【0048】
Nl 液吐出ノズル
Ng ガス吐出ノズル
El 液吐出部
Eg ガス吐出部
Hl 液用柱状中空部
Hg ガス用柱状中空部
Hvl 液仮想柱状部
Hvg ガス仮想柱状部
Al 吐出方向中心軸(液)
Ag 吐出方向中心軸(ガス)
C ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面
外周間の距離が最も短い直線
12 第1部材
22 第2部材
32 第3部材
14、24、34 供給端部
16、26、36 対向出口端部
18 第1供給スリット
38 第1ガススリット
20 ガスジェット空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸液を吐出できる液吐出部と、前記液吐出部よりも上流側に位置し、ガスを吐出できるガス吐出部とを有する、次の条件を満足する紡糸装置。
(1)液吐出部を端部とする液用柱状中空部(Hl)を有する
(2)ガス吐出部を端部とするガス用柱状中空部(Hg)を有する
(3)液用柱状中空部(Hl)を延長した液仮想柱状部(Hvl)とガス用柱状中空部(Hg)を延長したガス仮想柱状部(Hvg)とは近接している
(4)液用柱状中空部(Hl)の吐出方向中心軸とガス用柱状中空部(Hg)の吐出方向中心軸とが平行である
(5)ガス用柱状中空部(Hg)の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外周と液用柱状中空部(Hl)の切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる
【請求項2】
請求項1に記載の紡糸装置に加えて、繊維の捕集体を備えていることを特徴とする不織布製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載の不織布製造装置を用い、紡糸装置のガス吐出部から流速100m/sec.以上のガスを吐出することを特徴とする、不織布の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−287138(P2009−287138A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139948(P2008−139948)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】