説明

紡績糸およびそれを用いた編地

【課題】風合いや柔軟性、着用感を兼ね備えた、細繊度のアクリル系ステープルファイバーを主原料とした紡績糸を提供する。
【解決手段】繊度が1dtex以下のアクリル系ステープルファイバーが60質量%以上含まれている紡績糸であって、撚り数が25〜40回/インチ、紡績糸間の動摩擦係数が1.0〜1.4である紡績糸。(動摩擦係数の測定は、JIS L 1095に基づいて実施し。)紡績糸の太さがメートル番手で1/85〜1/150であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風合いがソフトで腰があり、光沢性に優れたアクリル系ステープルファイバーからなる紡績糸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、よりソフトな風合いの衣料製品が要求されており、細繊度のアクリル系繊維を主原料とした製品開発が進みつつある。例えばインナー用途では、繊度が1dtex以下のアクリル系繊維を主原料とした紡績糸を用いた肌着がある。
その一方で、風合いを改善するために、従来から種々の方法で製造した紡績糸が提案されている。
例えば、高沸水収縮率のアクリル系ステープルファイバーを高混率に含む糸に、強撚を施した涼感を有する紡績糸がある(特許文献1)。しかしながら、高沸水収縮率のステープルファイバーを使用することで、撚りが集積し涼感は向上するが、風合いが硬くなり柔軟性が損なわれるといった問題があった。
また、熱収縮率の異なる2種類の繊維から構成した芯鞘構造を有するバルキー紡績糸がある(特許文献2)。しかしながら、バルキー紡績糸の風合いは柔らかくなるが、嵩高になることで生地の厚みが増して重くなり着用感を損なうといった問題があった。
【特許文献1】特開平8−3835号公報
【特許文献2】特開2000−27044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来は、風合いや柔軟性、着用感を兼ね備えた、細繊度のアクリル系ステープルファイバーを主原料とした紡績糸が得られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の通りである。
(1) 繊度が1dtex以下のアクリル系ステープルファイバーが60質量%以上含まれている紡績糸であって、
撚り数が25〜40回/インチ、
紡績糸間の動摩擦係数が1.0〜1.4である紡績糸。(動摩擦係数の測定は、JIS L 1095に基づいて実施した。)
(2) 紡績糸の太さがメートル番手で1/85〜1/150である(1)記載の紡績糸。
(3) (1)又は(2)に記載の紡績糸からなる編地。
(4) 前記アクリル系ステープルファイバーは、アルコールアルキレンオキサイド付加物型界面活性剤をアクリル繊維に対して0.1〜0.4質量%で付着させており、且つアルコールアルキレンオキサイド付加物型界面活性剤に含まれるオキシアルキレン基の付加数が30〜300である(1)記載の紡績糸。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、以上のような実情を鑑み、風合いや柔軟性、着用感を兼ね備えた、細繊度のアクリル系ステープルファイバーを主原料とした紡績糸を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明におけるアクリル系ステープルファイバーとは、アクリロニトリルとアクリロニトリルに共重合可能な不飽和単量体からなる短繊維である。ここで、アクリロニトリルに共重合可能な不飽和単量体とは、特に限定されないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸およびこれらの誘導体、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルベンゼンスルホン酸ソーダ、メタクリルスルホン酸ソーダ、アクリルアミドメチルスルホン酸ソーダ、ビニルベンゼンスルホン酸ソーダ、メタクリルスルホン酸ソーダ、アクリルアミドメチルスルホン酸ソーダが挙げられる。
【0007】
本発明において、繊度が1dtex以下のアクリル系ステープルファイバーが60質量%以上含まれている紡績糸において、紡績糸の太さは、1/85〜1/150好ましくは1/100〜1/140であることが重要である。繊度が1dtexを超えると風合いが硬くなることから好ましくない。アクリル系ステープルファイバーが60質量%未満の場合、アクリル系ステープルファイバーの特徴であるソフトで腰のある風合いが損なわれることから好ましくない。紡績糸の太さが、1/85未満の場合は、糸が太く、生地が厚くなり着用感が悪化する。1/150を超える場合は、紡績性が著しく低下して、好ましくない。
【0008】
紡績糸の平均糸強力は80G以上であることが好ましい。80Gに満たない場合、紡績や編立、染色といった後工程で、繊維が切れやすくなり、その結果、生地表面に毛羽や毛玉が発生しやすくなるので好ましくない。
また紡績糸の撚り数が25〜40回/インチ、糸同士の動摩擦係数が1.0〜1.4であることが必要である。撚り数が25回/インチ未満の場合は、風合いはソフトになるが光沢感が優れず好ましくない。40回/インチを超える場合は、糸表面が平滑になるので光沢感は向上するが、風合いが硬くさらに繊維が損傷して糸強力が低下しやすくなるので好ましくない。糸同士の動摩擦係数が1.0未満の場合、繊維同士の摩擦も低くなっているので繊維が滑りやすく、糸強力が低下しやすくなるので好ましくない。動摩擦係数が1.4を超えると、繊維同士の摩擦が高くなっているので、紡績の粗紡工程や精紡工程で糸を延伸するときに、繊維同士が滑らずに、繊維自体が延伸されやすい。その結果、乾熱収縮や沸水収縮といった後工程で熱を付与したときの収縮が大きくなり、その結果風合いが硬くなるので好ましくない。
【0009】
糸同士の動摩擦係数を1.0〜1.4にするには、平滑性能と制電性能を含んだアルコールアルキレンオキサイド付加物型界面活性剤を、アクリル系ステープルファイバーに対して0.1〜0.4質量%で付着させることが重要である。ここでアルコールアルキレンオキサイド付加物型界面活性剤をアクリル繊維に対して付着させるには、油剤を入れた浴槽に糸を浸漬する方法や、糸に対して油剤を吹き付ける方法などがあるが特に限定するものではない。
【0010】
アルコールアルキレンオキサイド付加物型界面活性剤の一般式としては、
・O(AO)OCR2 ・・・・・(1)
3・O(AO)OH ・・・・・(2)
4・O(AO)O・R5 ・・・・・(3)
が挙げられる。
式中、R、R3、R4は、炭素数2〜20のアルコール残基であり、R2は炭素数2〜18の脂肪族モノカルボン酸残基であり、R5は、炭素数2〜16のアルコール残基である。Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nは30〜300である。
、R3、R4のアルコール類残基構成するアルコールとしては炭素数2〜20の直鎖または分岐を有する飽和または不飽和アルコール(オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラクリルアルコール、トリデシルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール)が挙げられる。これらのうち好ましいのは炭素数が2〜20の直鎖でかつ飽和のアルコールである。
2のカルボン酸類残基を構成するカルボン酸としては炭素数2〜18の飽和または不飽和脂肪族モノカルボン酸(カブリル酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、エルシン酸、ベヘニン酸、オレイン酸など)が使用できる。
5のアルコール類残基構成するアルコールとしては炭素数2〜16の直鎖または分岐を有する飽和または不飽和アルコール(オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラクリルアルコール、トリデシルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなど)が挙げられる。これらのうち好ましいのは炭素数が2〜16の直鎖でかつ飽和のアルコールである。
n個のAO(オキシアルキレン基)は同一でも異なっていてもよく、異なっている場合、その付加形式はブロック、ランダムいずれでもよい。
nは30〜300であることが必要である。nが30未満の場合は制電性が不十分であり、糸同士の動摩擦係数が大きくなり、紡績工程を通過するときに問題を生じやすい。またnが300を超える場合は、界面活性剤が高粘度になることから、紡糸工程や紡績工程でローラー延伸するときに糸が巻付きやすくなることから好ましくない。
また本発明に付着させる油剤として、アルコールアルキレンオキサイド付加物型界面活性剤がアクリル繊維に対して0.1〜0.4質量%付着させることが重要であるが、本発明の主旨から逸脱しないかぎり任意の成分を混合して使用することが可能である。任意の成分としては潤滑剤(例えば鉱物油、シリコーン油など)、乳化剤(例えばアミド系活性剤、フェノール付加物)が挙げられ、これらの種類について特に限定はない。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、各特性値の測定は、以下の方法に従った。
(糸同士の動的摩擦係数)
JIS L 1095 9.11摩擦係数 に記載されている方法に基づいて実施した。摩擦係数試験機(エイコー測器社製、製品名:TWP−3)を使用して紡績糸の動的摩擦係数を測定した。

(紡績通過性)
糸欠点検知機(IPI)で測定されたネップ数から判断した。
○ : ネップ数が50ケ/1000m未満 × : ネップ数が50ケ/1000m以上
(風合い)
紡績糸を、スムース編、22ゲージで編み立て、カチオン染料の10%owfを用いて100℃60分で染色した生地を、10名の判定員により繊維表面を手で触ったときの感触からソフトで良好かガサガサで不良かを判断した。
○ : 判定員全員が良好と判断
× : 判定員の内1名以上が不良と判断
(光沢性)
紡績糸を、スムース編、22ゲージで編み立て、カチオン染料の10%omfを用いて100℃60分で染色した生地を、10名の判定員により繊維表面を観察したときに光沢性が良好か不良かを目視で判断した。
○ : 判定員全員が良好と判断
× : 判定員の内1名以上が不良と判断
(総合評価)
紡績通過性、風合い、光沢性の評価結果で○が付いた数を足し合せた。
【0012】
(実施例1〜3、比較例1〜6)
表1に示したアクリル系ステープルファイバーは、ポリアクリルニトリルを主成分とするポリマーをジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液を調整し、この原液を湿式紡糸法にて紡糸することで得られた繊維を、油剤付与、乾燥、捲縮付与し、引き続き、300kPa蒸気中での緩和した後、室温に放置冷却してからクリンプしてカットしたものである。アクリル系ステープルファイバーを、0.9dtexのレーヨン原綿と所定の割合で混綿して紡績加工し、あわせて紡績通過性を評価した。
紡績糸を、スムース編、22ゲージで編み立て、カチオン染料の10%owfを用いて100℃、60分で染色した生地用いて、風合いと光沢性を評価した。
【0013】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度が1dtex以下のアクリル系ステープルファイバーが60質量%以上含まれている紡績糸であって、
撚り数が25〜40回/インチ、
紡績糸間の動摩擦係数が1.0〜1.4である紡績糸。
(動摩擦係数の測定は、JIS L 1095に基づいて実施した。)
【請求項2】
紡績糸の太さがメートル番手で1/85〜1/150である請求項1記載の紡績糸。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紡績糸からなる編地。
【請求項4】
アクリル系ステープルファイバーに対してアルコールアルキレンオキサイド付加物型界面活性剤を0.1〜0.4質量%付着し、
且つアルコールアルキレンオキサイド付加物型界面活性剤に含まれるオキシアルキレン基の付加数が30〜300である請求項1記載の紡績糸。

【公開番号】特開2010−236127(P2010−236127A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85093(P2009−85093)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】