説明

紡績装置

【課題】空気紡績部におけるノズル部を昇温調整し、糸強力並びに品質アップを図るようになした紡績装置を提供すること。
【解決手段】ドラフトローラRfの下流側に、空気紡績部Spを配置してなる紡績装置において、前記空気紡績部の空気流の作用を受けて紡績される繊維をガラス転移温度以上に昇温するに適した加熱手段1を設けたことを特徴とするものであり、空気紡績部におけるノズル部分の内部の空気を直接的に加熱する加熱源2を含むもの、或いは、空気紡績部におけるノズル部分に供給するエアの温度を昇温調整する温度調整器を含むものからなることを特徴とする紡績装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドラフト装置によりドラフトされた繊維束に対して、旋回空気流を作用させて加撚することにより紡績糸を製造する紡績装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ドラフト装置によりドラフトされた繊維束を、該ドラフト装置の下流側に配置してある空気紡績部に導入し、該空気紡績部における旋回空気流の作用により芯繊維にファイバーを捲き付けて紡績糸を製造する装置としては、例えば、特許文献1などにより公知である。このような紡績糸の製造装置によれば、例えば、ウールなどのようなしなやかさに欠け、弾性に富んだ長繊維の場合には、旋回空気流の作用だけでは繊維の捲き付きが不十分であり、所望の強力の紡績糸を製造することができなかった。
【0003】
そこで、特許文献2に開示されるもののように、羊毛繊維に代表される長繊維糸の製造にあたって、ドラフトされた繊維束に水蒸気を含んだ旋回空気流を作用させて紡績する方法がある。しかしながら、この方法では、水蒸気噴出ノズルから噴出される水蒸気により繊維束が加湿されることによって潜在歪が除去され、該水蒸気により繊維束が加熱されることによって潜在応力が除去されるというものであり、水蒸気がもたらす昇温温度範囲(特許文献2の記載によれば、65〜100℃が好ましいとある)において、相応の作用効果を奏するものにすぎず、特に、強力の点においては、まだ不十分なものであった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−193337号公報
【特許文献2】特開平8−127921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、鋭意研究開発の結果、ポリエステルなどの短繊維並びにウールなどの長繊維のいずれに対しても効果的に適用することができ、特に、長繊維の紡績に際しては、空気紡績部における旋回空気流の作用を受けて紡績される繊維をガラス転移温度以上に昇温することで、硬い繊維がしなやかになり、熱を与えながら撚りかけることで、繊維が捲き付きやすくなり、紡績糸の強力のアップを図り得るようになした長繊維紡績装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記する目的を達成するにあたって、具体的には、ドラフトローラの下流側に空気紡績部を配置してなる紡績装置において、空気紡績部の空気流の作用を受けて紡績される繊維をガラス転移温度以上に昇温する加熱手段を設けてなることを特徴とする紡績装置を構成するものである。
【0007】
さらに、この発明において請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の紡績装置であって、加熱手段が、空気紡績部におけるノズル部分の内部の空気を直接的に加熱する加熱源を含むものからなることを特徴とするものである。
【0008】
さらにまた、この発明において請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の紡績装置であって、加熱手段が、空気紡績部におけるノズル部分に供給するエアの温度を昇温調整する温度調整器を含むものからなることを特徴とするものである。
【0009】
さらにまた、この発明において請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の紡績装置であって、空気紡績部が、ノズル部材と中空スピンドル部材とを有するノズル−中空スピンドル型の空気紡績装置であることを特徴とするものである。
【0010】
さらにまた、この発明において請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の紡績装置であって、前記空気紡績部が、第1のノズルと第2のノズルとを直列状態に配置したものからなる第1ノズル−第2ノズル型の空気紡績装置であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明になる紡績装置によれば、空気紡績部の空気流の作用を受けて紡績される繊維をガラス転移温度以上に昇温する加熱手段を設けたものであって、昇温することで、硬い繊維がしなやかになり、熱を与えながら撚りかけることで、繊維が捲き付きやすくなり、それらによって、目的とする紡績糸の強力のアップ並びに品質のアップが図れるという作用効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明になる紡績装置について、図面に示す具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。図1および図2は、加熱手段として、空気紡績部におけるノズル部分の内部の空気を直接加熱する加熱源を設けたこの発明の第1の実施例を示すものであって、図1は、この発明になる紡績装置において、ノズル−中空スピンドル型の空気紡績部をドラフト装置に組み合わせた状態を示す概略的な側面図であり、図2は、当該第1の実施例になる空気紡績部の詳細を示すものであって、図2Aは、その概略的な平面視断面図であり、図2Bは、その概略的な側面視断面図であり、図2Cは、その主要部を拡大して示す概略的な側面視断面図である。
【0013】
一方、図3は、この発明の第2の実施例を示すものであって、加熱手段として、空気紡績部におけるノズル部分に対して、該ノズル部分に供給するエアの温度を昇温調整する温度調整器を組み合わせた状態を示すもので、ドラフト装置の下流側に、第1ノズル−第2ノズル型の空気紡績部を配置した構成例を示す概略的な側断面図である。
【0014】
先ず、この発明が適用される紡績装置について説明する。この紡績装置は、図5に示すように、 紡績ユニットUが、多数配列された構成となっており、スライバLがドラフト装置Dに送られ空気紡績部Spにより紡績糸Yに形成された後、該紡績糸YはニップローラRnおよびスラブキャッチャーZなどを経て巻き取り部Wに巻き取られる。参照符号Pは、糸継ぎを行なうピーシング装置であり、当該紡績装置の長手方向に沿って紡績装置の内部下方を走行するように構成されている。
【0015】
図1、図2および図4により、スライバLが紡績糸Yとなってパッケージに形成されるまでの工程を説明する。この発明の適用になる紡績装置では、ドラフト装置Dおよび該ドラフト装置Dにおけるフロントローラ対Rf2、Rf3の下流側に設けた空気紡績部Spとを含むものからなっている。
【0016】
これらの一例として、紡績機におけるドラフト装置Dは、繊維送り手段となる複数対のドラフトローラによって構成されている。このドラフトローラは、スライバLをドラフトするためのもので、例えば、フロントローラRf、エプロンeを有するセカンドローラRs、サードローラRt、バックローラRbにより構成されており、そのいずれもがトップローラRf2、Rs2、Rt2、Rb2と、ボトムローラRf3、Rs3、Rt3、Rb3との組み合わせでなっている。
【0017】
このトップローラRf2、Rs2、Rt2、Rb2と、ボトムローラRf3、Rs3、Rt3、Rb3とは、互いに接触していて、互いに逆方向に回転するものである。したがって、スライバLをそのトップローラRf2、Rs2、Rt2、Rb2と、ボトムローラRf3、Rs3、Rt3、Rb3との間に導き、トップローラRf2、Rs2、Rt2、Rb2と、ボトムローラRf3、Rs3、Rt3、Rb3によってスライバLをドラフトすることができるようになっていて、ドラフトされた繊維束がドラフト装置Dのフロントローラ対Rf2、Rf3から排出されるようになっている。
【0018】
このドラフト装置Dは、スライバガイドTを経て供給されるスライバLを所定の細さに引き延ばす装置であって、各ローラの回転速度を段々増加することによってドラフトを行う。所定の細さにドラフトされたスライバLは、後述する空気紡績部Spに供給され、該空気紡績部Spにおいて紡績糸Yに形成される。
【0019】
このドラフト装置Dの下流側には、空気紡績部Spが配置されている。この空気紡績部Spは、ドラフト装置Dから送り出される繊維束が内部を通過する際に、その内部において旋回空気流の発生を可能とするノズルを内蔵する構造のものからなっている。
【0020】
一例になる空気紡績部Spは、図1および図2各図に示すように、ドラフト装置Dにおけるフロントローラ対Rf2、Rf3の下流側に対向するように配置されるノズル部材31と、中空スピンドル部材32とを有する第1の構成例になるノズル−中空スピンドル型の空気紡績部Sp−1である。このノズル−中空スピンドル型の空気紡績部Sp−1は、ノズル部材31に設けてある空気噴射ノズル孔34から、中空スピンドル部材32の先端部32aに向けて噴射される圧縮空気により、ノズル部材31と回転または非回転の中空スピンドル部材32との間に形成される紡績室内に旋回気流を発生させて、紡績室内に導入される繊維を加撚し、芯繊維と該芯繊維の周囲に巻き付いた巻き付き繊維とからなる紡績糸を生成するとともに、生成された紡績糸を、中空スピンドル部材32の中空通路32bを経て、パッケージに巻き取るように構成されている。
【0021】
前記ノズル−中空スピンドル型の空気紡績部Sp−1の構造の詳細並びにその紡績原理について説明する。前記ドラフト装置DにおけるフロントローラRf2、Rf3から送出されるドラフトされた繊維束は、ニードルホルダー35の繊維導入孔に入り、その後、ノズル部材31と中空スピンドル部材32の先端部との間に形成された紡績室36内に入る。紡績室36内には、ノズル部材31に穿設された複数個の空気噴射ノズル孔34から噴出される空気により、旋回気流が形成されており、該旋回気流は、中空スピンドル部材32に沿って旋回しながら流れる。 ノズル部材31に穿設された空気噴射ノズル孔34からの噴出空気の作用により、ニードルホルダー35のフロントローラRf2、Rf3側の繊維導入孔の入口付近には、吸引空気流が発生しているので、フロントローラRf2、Rf3から送出されるドラフトされた繊維束は、ニードルホルダー35の繊維導入孔に吸い込まれる。
【0022】
ニードルホルダー35の繊維導入孔から出た繊維束は、中空スピンドル部材32の中空通路32bの入口に、その先端が接近して配置されているニードル37に巻き付きつつ、中空スピンドル部材32の中空通路32bに導入される。そして、ニードルホルダー35の繊維導入孔から出た繊維束を構成する繊維fの一部は、中空スピンドル部材32の中空通路32b内において生成されつつある紡績糸に、その先端がわが巻き込まれて中空スピンドル部材32の中空通路32bに導入され、また、ニードルホルダー35の繊維導入孔から出た繊維束を構成する繊維の一部は、その先端側が、中空スピンドル部材32の中空通路32b内において生成されつつある紡績糸に巻き込まれるとともに、その後端部が、紡績室に発生している旋回気流により、中空スピンドル部材32のの先端部に沿って周回しつつ、中空スピンドル部材32の外周壁面に沿って屈曲することとなる。
【0023】
さらに、生成過程にある紡績糸の移動に伴って、反転繊維の後端部が、中空スピンドル部材32の中空通路32bの入口に近づくと、反転繊維の後端部は、旋回気流によって、中空スピンドル部材32の中空通路32b内に位置する生成過程にある紡績糸の周囲を振り回されながら、その外周に巻き付き、 紡績糸が生成されることになる。このようにして、中空スピンドル部材32の中空通路32bに略直線状態で導入される繊維fにより構成される芯繊維と、この芯繊維の周囲に巻き付いた反転繊維f1により構成される巻き付き繊維とからなる実撚り状の紡績糸が製成されることになる。
【0024】
他の例になる空気紡績部Spは、図3に示すように、ドラフト装置Dにおけるフロントローラ対Rf2、Rf3の下流側に対向するように第1のノズル41と第2のノズル42を直列状態に配置した第1ノズル−第2ノズル型の空気紡績部Sp−2である。この第1ノズル−第2ノズル型の空気紡績部Sp−2は、その内部中心孔43において第1の旋回気流の発生を可能とする第1のノズル41と、その下流側に連続していて、その内部中心孔45において前記第1のノズル41における旋回気流と反対向きの旋回気流の発生を可能とする第2のノズル42とを備え、第1のノズル41における空気噴射ノズル孔44、および第2のノズル42における空気噴射ノズル孔46から噴出される逆向きの旋回気流によって内部を通過する繊維束に撚を加えるように構成したものからなっている。
【0025】
このような構成のものにおいて、この発明では、前記空気紡績部Sp−1のノズル部分31、あるいは、空気紡績部Sp−2のノズル部分41、42に対して、その温度を昇温するための加熱手段1が設けてある。この発明において、前記加熱手段1は、図1および図2に示す第1の実施例のものと、図3に示す第2の実施例のものとを含むものからなっている。図1および図2に示す第1の実施例になる加熱手段1は、空気紡績部Sp−1に対して、当該空気紡績部Sp−1おけるノズル部材31の内部の空気を直接的に加熱するための加熱源2が組み込まれている。図に示す実施例において、加熱源2としては、例えば、ハロゲンランプ3が用いられている。この実施例のものにおいて、前記加熱源2は、コントローラ4により加熱温度を適宜調節制御することができるようになっている。
【0026】
この発明において、図2に示す構成例により、下記の条件で試験を行った。
加熱源 東芝製ハロゲンランプ J12V75W−AXS 左右2灯
試験糸種 ウール100% Nm60
ノズル圧力 N1 : 0.5Mpa
紡績速度 : 200m/min
試験結果
Test No. 設定電圧 到達温度 備考
No.1 0V 25℃ 加熱なしの通常状態(室温)
No.2 15V 125℃ 電源電圧15Vとした場合
No.3 18V 160℃ 電源電圧18Vとした場合
結果として、図4Aおよび図4Bに示すとおり、温度160℃において、糸強力のアップが見られ、 結果的に期待通りの状態が得られた。
また、糸強力のCV%も若干小さくなる傾向にあり、バラツキは小さくなっている。
【0027】
一方、これに対して、図3に示す第2の実施例になる加熱手段1は、空気紡績部Sp−2におけるノズル部分に供給する噴射エアの温度を昇温調整する温度調整器5を含むものからなっている。
【0028】
好ましい実施例によれば、前記温度調整器5は、エア供給源としてのコンプレッサー6のエア供給ライン7に配置されており、前記空気紡績部におけるノズル部分に供給される噴射エアの温度を昇温調整するものからなっている。この温度調整器5によって、前記噴射エアは、例えば、200℃程度に昇温調整されるようになっている。
【0029】
この発明になる紡績装置では、上記する第1および第2の実施例になる加熱手段1によって、前記空気紡績部Spにおけるノズル部分を昇温させるように構成したものであり、この昇温温度をガラス転移温度以上に容易に設定することができることから、紡績中の繊維束の結晶構造を変化させ、即ち、繊維自身を柔軟な状態とすることで、捲き付き繊維の量が増加することと併せ、捲き付き状態が安定することで、目的とする糸強力のアップ並びに品質のアップが図れるというものである。
【0030】
この発明になる紡績装置では、例えば、ポリエステル100%などの合繊の短繊維紡績に対して適用することができ、特には、ウール100%などの長繊維紡績に対して極めて有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、ドラフト装置に対して、この発明の第1の実施例になる加熱手段を備えた空気紡績部を組み合わせた例を示す概略的な側面図である。
【図2】図2は、当該第1の実施例になる空気紡績部の詳細を示すものであって、図2Aは、その概略的な平面視断面図であり、図2Bは、その概略的な側面視断面図である。
【図3】図3は、この発明の第2の実施例になる加熱手段を備えた空気紡績部の一構成例を示す概略的な側面図である。
【図4】図4Aおよび図4Bは、試験結果を表したグラフである。
【図5】図5は、この発明が適用される紡績機の全体を示す正面図である。
【符号の説明】
【0032】
D ドラフト装置
Sp 紡績装置
L スライバ
Rf フロントローラ
Rs セカンドローラ
Rt サードローラ
Rb バックローラ
Rf2、Rs2、Rt2、Rb2 トップローラ
Rf3、Rs3、Rt3、Rb3 ボトムローラ
1 加熱手段
2 加熱源
3 ハロゲンランプ
4 コントローラ
5 温度調整器
6 コンプレッサー
7 エア供給ライン
Sp−1 ノズル−中空スピンドル型の空気紡績部
31 ノズル部材
32 中空スピンドル部材
33 中心孔
34 空気噴射ノズル孔
Sp−2 第1ノズル−第2ノズル型の空気紡績部
41 第1のノズル
42 第2のノズル
43 第1のノズルの内部中心孔
44 第1のノズルの空気噴射ノズル孔
45 第2のノズルの内部中心孔
46 第2のノズルの空気噴射ノズル孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフトローラの下流側に、空気紡績部を配置してなる紡績装置において、前記空気紡績部の空気流の作用を受けて紡績される繊維をガラス転移温度以上に昇温する加熱手段を設けてなることを特徴とする紡績装置。
【請求項2】
前記加熱手段が、前記空気紡績部におけるノズル部分の内部の空気を直接的に加熱する加熱源を含むものからなることを特徴とする請求項1に記載の紡績装置。
【請求項3】
前記加熱手段が、前記空気紡績部におけるノズル部分に供給するエアの温度を昇温調整する温度調整器を含むものからなることを特徴とする請求項1に記載の紡績装置。
【請求項4】
前記空気紡績部が、ノズル部材と中空スピンドル部材とを有するノズル−中空スピンドル型の空気紡績装置であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の紡績装置。
【請求項5】
前記空気紡績部が、第1のノズルと第2のノズルとを直列状態に配置したものからなる第1ノズル−第2ノズル型の空気紡績装置であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の紡績装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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