説明

紡績装置

【課題】複数の空気紡績ユニットの圧力を一括管理する紡績装置を提供する。
【解決手段】精紡機1は、複数の紡績ユニット2と、圧力一括管理装置としてのユニットコントローラ32及び機台制御装置42と、を備えている。前記空気紡績ユニットのそれぞれは、内部に旋回空気流を発生させて繊維に撚りを与える旋回流発生室と、旋回流発生室内部の圧力を検知する圧力センサ63と、を備えている。前記ユニットコントローラ32は、受信部28と、圧力異常判定部37と、を備える。受信部28は、それぞれの圧力センサ63からの圧力値信号を受信可能である。前記圧力異常判定部37は、前記圧力値と所定の閾値とを比較することにより、それぞれの前記紡績ユニット2の圧力の異常の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の空気紡績ユニットを備えた紡績装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、空気紡績ノズルによって生成された旋回空気流によって繊維に撚りを与える紡績装置(紡績機)において、紡績のための中空室に連通する空気排出用空間の圧力を圧力センサによって検知する構成を開示する。特許文献1の紡績装置は、圧力の検出値が圧力センサに予め設定された閾値を超えると、繊維蓄積状態であると判断し紡績作業を停止させる。この構成により、紡績糸に欠陥を生じさせ易い状態を容易に検知できるとする。
【0003】
特許文献1の紡績装置は多数の空気紡績ユニットを備えており、前記圧力センサはそれぞれの空気紡績ユニットに備えられている。そして、上記の閾値は各圧力センサに予め設定されており、圧力検出値と閾値との比較による繊維蓄積状態の検出は各圧力センサが個別に行っている。
【特許文献1】特開2006−132035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の構成では各圧力センサごとに上記閾値の設定を行わなければならず、作業が煩わしかった。そのため、複数の紡績ユニットで閾値を一括して変更することや、ユニットの個体差を考慮した閾値の設定などを適宜行って製品の品質を向上させることが困難であった。また、特許文献1の構成では、圧力センサの検出値の変化の履歴や状態の把握を含めた装置全体の一括管理ができなかった。更には、上記閾値の設定及び繊維蓄積状態の検出を行うための構成が各圧力センサごと(紡績ユニットごと)に必要であったため、装置全体の部品点数が多く高コストであった。
【0005】
本願発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、紡績装置に備えられた複数の空気紡績ユニットの圧力を一括管理する紡績装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成の紡績装置が提供される。即ち、この紡績装置は、複数の空気紡績ユニットと、圧力一括管理装置と、を備える。前記空気紡績ユニットのそれぞれは、内部に旋回空気流を発生させて繊維に撚りを与える中空室と、前記中空室内部の圧力を検知する圧力センサと、を備える。前記圧力一括管理装置は、圧力検出値受信部と、圧力異常判定部と、を備える。前記圧力検出値受信部は、それぞれの前記圧力センサからの圧力値信号を受信可能である。前記圧力異常判定部は、前記圧力値と所定の閾値とを比較することにより、それぞれの前記空気紡績ユニットの圧力の異常の有無を判定する。
【0008】
この構成により、複数の空気紡績ユニットの圧力異常の発生を一括して検知できるので、各空気紡績ユニットの管理が容易になる。また、各空気紡績ユニットに異常判定のための構成を個別に設ける必要がないため、装置の構成が簡単になりコストを削減することができる。
【0009】
前記の紡績装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記圧力一括管理装置は、記憶部と、閾値設定部と、を備える。記憶部は、それぞれの前記空気紡績ユニット毎に前記閾値を記憶可能である。前記閾値設定部は、前記圧力センサが検出した圧力値に基づいて前記閾値を決定し、当該閾値を前記記憶部に記憶させる。
【0010】
この構成により、各空気紡績ユニット及び圧力センサの個体差に応じた適切な閾値を設定することが可能であるので、的確な異常検知を行うことができる。また前記閾値の設定及び閾値の記憶を圧力一括管理装置が一括して行うことで、各空気紡績ユニットの管理がより容易になる。
【0011】
前記の紡績装置においては、前記閾値設定部は、少なくとも1つの前記空気紡績ユニットを空運転させたときの圧力値を利用して、それぞれの空気紡績ユニットの前記閾値を設定することが好ましい。
【0012】
この構成により、各空気紡績ユニット間にある圧力の傾向を加味して閾値を設定できるため、全ての空気紡績ユニットに一律の閾値を用いる場合に比べ、より好適な閾値を設定することができる。
【0013】
前記の紡績装置においては、前記閾値設定部は、それぞれの前記空気紡績ユニットの所定の時点での紡績時の圧力値に所定の係数を乗じた値を、当該空気紡績ユニットの前記閾値として設定することが好ましい。
【0014】
この構成により、一元管理しながらも、空気紡績ユニット間の個体差によるバラツキを考慮し、個々の空気紡績ユニットに好適な閾値を設定することができる。これにより、より高精度の不良糸検出と誤検出の防止が可能となる。
【0015】
前記の紡績装置においては、前記閾値設定部は、少なくとも1つの前記空気紡績ユニットを空運転させたときの圧力値を利用してそれぞれの空気紡績ユニットの前記閾値を設定する第1モードと、それぞれの前記空気紡績ユニットの所定の時点での紡績時の圧力値に所定の係数を乗じた値を当該空気紡績ユニットの前記閾値として設定する第2モードと、を切換可能であることが好ましい。
【0016】
この構成により、オペレータが適宜設定を変更可能であるので、状況に応じて最適な閾値を設定することができる。これにより、より高精度な不良糸検出と誤検出の防止が可能となる。
【0017】
前記の紡績装置においては、前記圧力一括管理装置は、複数の前記空気紡績ユニットの前記圧力センサのキャリブレーションを行うことが可能なキャリブレーション実行部を備えることが好ましい。
【0018】
この構成により、複数の空気紡績ユニットの圧力センサを一括してキャリブレーションすることができる。従って、各空気紡績ユニットの管理がより容易になるとともに、圧力検出値の精度を常に一定に保つことができる。
【0019】
前記の紡績装置においては、前記圧力センサ又はその検出値に関連する情報を表示可能な情報表示部を備えることが好ましい。
【0020】
この構成により、複数の空気紡績ユニットの圧力に関する情報を一括的に又は集約して表示させることが容易になるので、オペレータは全体の状況を容易に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1に示す紡績装置としての精紡機1は、並設された多数の紡績ユニット(空気紡績ユニット)2を備えている。本実施形態では、紡績ユニット2を4つ一組として紡績ユニット群2Gが設けられている。また、各紡績ユニット群2Gには、後述するユニットコントローラ32が1つ設けられている。この精紡機1は、糸継台車3と、ブロアボックス4と、原動機ボックス5とを備えている。前記糸継台車3は、紡績ユニット2が並べられる方向に走行可能な構成となっている。
【0023】
原動機ボックス5は、機台制御装置42を備えている。この機台制御装置42は、制御パネル(情報表示部)38を備えている。そして、この制御パネル38はカラー液晶モニタ48を有しており、オペレータの適宜の操作により、各紡績ユニット2の稼動状況や糸品質に関する情報を文字、数値、表及びグラフ等を用いて表示させることができる。また、カラー液晶モニタ48の近傍には入力部47が設けられている。入力部47は複数の入力キーを備えており、オペレータがカラー液晶モニタ48に表示させる情報を選択するために用いられるほか、各紡績ユニット2に適宜の指示を送信したり各種の条件を設定することができるように構成されている。
【0024】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、ドラフト装置7と、紡績部9と、糸送り装置11と、巻取装置12と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1の筺体6の上部に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績部9で紡績するように構成している。紡績部9から排出された紡績糸10は糸送り装置11で送られた後、巻取装置12によって巻き取られ、パッケージ45を形成する。
【0025】
ドラフト装置7は、スライバ13を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ14、サードローラ15、エプロンベルト16を装架したミドルローラ17及びフロントローラ18の4つのローラを備えている。
【0026】
筺体6の適宜位置には電動モータからなるドラフトモータ31が設置されており、前記バックローラ14とサードローラ15は、このドラフトモータ31にベルトを介して連結される。このドラフトモータ31の駆動及び停止は、ユニットコントローラ32の制御部72によって制御される。なお、本実施形態の精紡機1では、ミドルローラ17やフロントローラ18を駆動するための電動モータも筺体6に設けられているが、ここでは図示を省略する。
【0027】
また糸送り装置11は、精紡機1の筺体6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触するように配置されるニップローラ40と、を備える。この構成で、紡績部9から排出された紡績糸10をデリベリローラ39とニップローラ40との間に挟んでデリベリローラ39を図示しない電動モータで回転駆動することにより、紡績糸10を巻取装置12側へ送るようになっている。
【0028】
なお、前記筺体6の正面には報知ランプ(報知手段)71が設置され、紡績部9の異常の有無をオペレータに知らせることができるようになっている。報知ランプ71は前記ユニットコントローラ32に接続されている。
【0029】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は図1に示すように、精紡機1本体の筺体6に設けられたレール41上を走行するように設けられている。ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、糸継台車3は当該紡績ユニット2まで走行し、停止する。サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績部9から排出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置12に回転自在に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。スプライサ43は、案内された糸端同士の糸継ぎを行うように構成されている。
【0030】
紡績部9は、図2及び図3に示すように、2つに分割されたブロック、即ち第1ブロック91及び第2ブロック92により構成される。繊維束8の走行方向において、第2ブロック92は第1ブロック91よりも下流側に設けられている。図3に示すように、第1ブロック91には空気紡績ノズル19が備えられ、第2ブロック92には中空ガイド軸体20が備えられている。空気紡績ノズル19は、フロントローラ18から送られてくる前記繊維束8を挿通させながらその繊維束8に旋回流を作用させるように構成されている。前記中空ガイド軸体20は、その先端部を、前記空気紡績ノズル19に軸線を一致させながら挿入するように配置されている。
【0031】
空気紡績ノズル19は、ニードルホルダ23と、ノズルブロック34と、を備える。前記第1ブロック91はノズル部ケーシング53を備え、このノズル部ケーシング53によって前記ノズルブロック34を支持している。前記ニードルホルダ23には案内孔21が形成され、この案内孔21に、上流側のドラフト装置7でドラフトされた繊維束8を導入するよう構成されている。また、ニードルホルダ23は、案内孔21から排出された繊維束8の流路上に配置されたニードル22を保持している。
【0032】
ニードルホルダ23より下流側の位置において、前記ノズルブロック34にテーパ孔54が形成されている。そして、このテーパ孔54に、前記中空ガイド軸体20の先端部24が、軸線を一致させつつ挿入されている。この先端部24はテーパ状に形成され、そのテーパ角は、テーパ孔54のテーパ角とほぼ等しくなっている。中空ガイド軸体20の先端面とニードルホルダ23との間には円形の紡績室26が形成され、この紡績室26に前記ニードル22の先端が突出されている。このニードル22の先端は、中空ガイド軸体20の先端面と対向するように配置されている。
【0033】
中空ガイド軸体20の先端部24は、前記テーパ孔54との間に所定の隙間を形成するよう配置される。これにより旋回流発生室(中空室)25が形成され、この旋回流発生室25は紡績室26に連通している。また、ノズル部ケーシング53には空気排出用空間55が形成され、この空気排出用空間55は旋回流発生室25と互いに連通している。この空気排出用空間55には、前記ブロアボックス4に配置されている図略の負圧源(吸引手段)が配管60を通じて接続されている。
【0034】
ノズルブロック34には、出口端が紡績室26に開口される複数の旋回流発生ノズル27が形成される。これら旋回流発生ノズル27はノズルブロック34に穿設された細長い孔からなり、この孔は紡績室26の接線方向に形成されるとともに、その長手方向は糸送り下流側に若干傾斜して設けられている。旋回流発生ノズル27は図示しない圧空源から供給された圧縮空気を紡績室26に噴射し、例えば平面視反時計回りの旋回流(図6参照)を紡績室26に発生させる。この旋回流は、前記旋回流発生室25に沿って螺旋状に下流側に流れた後、ノズル部ケーシング53に形成された空気排出用空間55から排出される。
【0035】
中空ガイド軸体20は筒体56を備えており、この筒体56の一端にテーパ状の前記先端部24が形成されている。この中空ガイド軸体20の軸心部に糸通路29が形成され、この糸通路29内を糸が通過した後、下流側の図示しない出口孔を介して紡績糸10が排出されるようになっている。
【0036】
筒体56には、その先端部24より下流側に拡径状の太径部58が形成され、この太径部58は前記空気排出用空間55に露出される。前記第2ブロック92は軸体保持部材59を備えており、この軸体保持部材59に前記太径部58が挿入された状態で固定される。
【0037】
前記軸体保持部材59は空気圧シリンダ80に連結されており、この空気圧シリンダ80を駆動することによって、図3の矢印に示すように、第2ブロック92を第1ブロック91から遠ざかる向きに移動させることができる。これは、紡績室26や旋回流発生室25に繊維が詰まったり空気排出用空間55に繊維が蓄積したりして、前記の負圧源によって吸引除去できなくなった場合に、軸体保持部材59をノズル部ケーシング53から離間させて(即ち、第2ブロック92を第1ブロック91から離間させて)、空気排出用空間55、旋回流発生室25、及び紡績室26を開放することで容易に除去できるようにするためである。前記空気圧シリンダ80はユニットコントローラ32によって制御されており、適宜の駆動信号によって作動させることができる。
【0038】
ノズル部ケーシング53には貫通状の圧力検出孔61が形成されている。この圧力検出孔61はチューブ62を介して圧力センサ63に接続される。この圧力センサ63は、空気排出用空間55及びこれに連通する旋回流発生室25内部の圧力値を検知するものである。また、前記圧力センサ63はユニットコントローラ32に対して圧力の検出値を送信するように構成されている。前記ユニットコントローラ32は、この圧力の検出値を監視することにより、空気排出用空間55及び旋回流発生室25内の繊維の蓄積を検出している(なお、繊維の蓄積の検出については後述する)。
【0039】
また、本実施形態の精紡機1は適宜の圧空源64を備えており、この圧空源64は、圧空チューブ65を介してクリーニングライン66に接続されている。このクリーニングライン66は、空気紡績ノズル19の例えば案内孔21の周辺に圧縮空気を噴射してクリーニングするためのラインである。前記圧空チューブ65には電磁弁67が設置されており、その開閉制御はユニットコントローラ32からの作動信号によって行われる。クリーニングライン66と前記チューブ62とは、継手68及び中継管69を通じて連結されている。中継管69の中途部にはオリフィス70が設置されている。
【0040】
次に、本実施形態の圧力一括管理装置の構成について、図4のブロック図を参照して説明する。図4に示すように、本実施形態では、4つの紡績ユニット2から構成される1つの紡績ユニット群2Gに対して、1つのユニットコントローラ32が設けられている。各ユニットコントローラ32は、受信部28と、キャリブレーション実行部30と、オフセット値記憶部33と、閾値設定部35と、記憶部36と、圧力異常判定部37と、を主に備えている。また、機台制御装置42は、前記制御パネル38を主に備えている。そして、前記ユニットコントローラ32は、機台制御装置42との間で情報の送受信が可能に構成されている。なお、図4には紡績ユニット群2G及びユニットコントローラ32は1つのみ図示されているが、実際の精紡機1は複数の紡績ユニット群2Gを備えており、ユニットコントローラ32は前記紡績ユニット群2Gに対応した数だけ備えられている。そして、それぞれのユニットコントローラ32が機台制御装置42と情報の送受信を行うことが可能に構成されている。
【0041】
受信部28は複数の圧力センサ63からのアナログ圧力値信号を受信することが可能であり、それぞれの圧力値信号をA/D変換して圧力異常判定部37等へ送信することができる。
【0042】
キャリブレーション実行部30は、適宜のタイミングで、又はオペレータが制御パネル38より入力した指示により、各紡績ユニット2が備える圧力センサ63のキャリブレーションを行う。また、ユニットコントローラ32は、前記キャリブレーションの際に決定されたオフセット値を記憶するオフセット値記憶部33を備える。このオフセット値記憶部33は例えばRAMによって構成されている。なお、キャリブレーション及びオフセット値の詳細については後述する。
【0043】
閾値設定部35は、圧力異常判定部37が圧力センサ63の圧力値を異常と判断する際の閾値を設定する。また、ユニットコントローラ32は、この閾値を記憶するための記憶部36を有する。この記憶部36は例えばRAMによって構成されている。なお、異常圧力判定及び閾値の設定については後述する。
【0044】
制御パネル38は前述のとおりカラー液晶モニタ48を備えており、このカラー液晶モニタ48に対し、例えば各圧力センサ63の圧力値、平均圧力値、オフセット値、閾値、及び異常通知など、ユニットコントローラ32が管理している情報を視覚的に表示することができる。
【0045】
本実施形態においては、上記のようにユニットコントローラ32と機台制御装置42とが連携して、各紡績ユニット2の圧力センサ63の管理(キャリブレーション、閾値設定、情報の表示など)が可能に構成されている。従って、ユニットコントローラ32及び機台制御装置42は、精紡機1の圧力一括管理装置として機能しているということができる。
【0046】
次に、圧力センサ63のキャリブレーションについて説明する。まず、オペレータは入力部47を操作し、キャリブレーションを実行する紡績ユニット2を指定する。このとき、オペレータは、複数ある紡績ユニット2の全てを指定することもできるし、一部のみを指定することもできる。オペレータによる指定がなされると、所定の信号がキャリブレーション実行部30に送信される。キャリブレーション実行部30は前記信号に応じて、指定された紡績ユニット2の圧力センサ63のキャリブレーションを実行する。
【0047】
具体的には、ユニットコントローラ32は空気圧シリンダ80を作動させ、第2ブロック92を第1ブロック91から退避させることにより、図5に示すように、空気排出用空間55、旋回流発生室25及び紡績室26を開放する。これにより圧力検出孔61が大気圧に開放され、圧力センサ63は大気圧における圧力値を検出する。このときの圧力値信号が各圧力センサ63のオフセット値となる。
【0048】
受信部28はそれぞれの圧力センサ63からの大気圧時の圧力値信号を受信し、A/D変換を行ってキャリブレーション実行部30に圧力値を送信する。キャリブレーション実行部30は、オフセット値記憶部33の各圧力センサ63に応じた記憶領域に、前記圧力値を各圧力センサ63のオフセット値として記憶する。
【0049】
取得された前記オフセット値が通常期待される大気圧時の検出値とかけ離れている場合には、キャリブレーション実行部30は圧力センサ63の異常(故障)と判断する。そして、ユニットコントローラ32は、当該圧力センサ63を有する紡績ユニット2の報知ランプ71を点灯させることによって、オペレータに圧力センサ63の異常(故障)を通知する。更に、キャリブレーション実行部30は制御パネル38に信号を送り、カラー液晶モニタ48にセンサ異常通知を表示する。このように、空気排出用空間55、旋回流発生室25及び紡績室26の開放時の圧力検出値を各圧力センサ63のキャリブレーションに用いることにより、他の部分の状態(例えば負圧源の故障など)の影響を受けず、確実に圧力センサ63の異常を検知できる。
【0050】
一方、パッケージ45の玉揚作業時や図略のヤーンクリアラが糸欠陥を検出したときは、一時的に紡績部9を停止させ、玉揚作業や糸継作業を行う。このように紡績部9が停止している時は紡績室26を開放することが可能であるため、上記のキャリブレーション及び異常検知が可能である。
【0051】
そこで本実施形態のキャリブレーション実行部30は、オペレータの指示により一括して圧力センサ63のキャリブレーションを行う場合に加え、各紡績ユニット2が紡績室26を開放可能なタイミングが到来した場合においても、自動的にそれぞれの圧力センサ63のキャリブレーション及び異常検知を行っている。このように各紡績ユニット2のそれぞれのタイミングで自動的にキャリブレーションを実行することにより、常に各圧力センサ63を適切な状態に保つことができる。
【0052】
以上により圧力センサ63のキャリブレーション作業及び動作確認作業が完了し、その後、ユニットコントローラ32は空気圧シリンダ80を作動させる。これにより、軸体保持部材59はノズル部ケーシング53側へ進出し、図3に示すように、前記紡績室26、旋回流発生室25、及び空気排出用空間55が再び閉鎖される。
【0053】
次に、本実施形態の精紡機1の紡績時の動作について説明する。先ず紡績の開始時に、ユニットコントローラ32は電磁弁67を所定時間だけ開いてクリーニングライン66に圧縮空気を供給し、空気紡績ノズル19の案内孔21周辺をクリーニングする。
【0054】
なおこのとき、圧空源64からの圧縮空気は中継管69を通じて圧力検出孔61へ供給され、圧力検出孔61から空気排出用空間55へ噴出される。この結果、圧力検出孔61に繊維(詳細は後述)が詰まっていた場合でも、それを圧力検出孔61から吹き飛ばすことができ、圧力センサ63が圧力検出孔61の開口部分の圧力を正確に測定できるようになっている。なお、圧力検出孔61内の圧力が大きく上昇して圧力センサ63の許容測定範囲を外れることのないように、上記圧縮空気の供給量はオリフィス70によって調整される。
【0055】
その後に紡績部9による紡績を開始するのであるが、紡績時において繊維束8ないし紡績糸10は、フロントローラ18から案内孔21、紡績室26及び糸通路29を通じて糸送り装置11に至る連続状態にあり、糸送り装置11により下流側への送り力が付与されることによって、糸に張力が付与される。
【0056】
ドラフト装置7のフロントローラ18から排出された繊維束8は、図6に示すように案内孔21から紡績室26に入って、旋回流発生ノズル27による旋回流の作用を受ける。これにより、繊維束8のうちの芯繊維となる長繊維に対して残りの短繊維の一端が分離されて開繊され、短繊維は旋回流発生室25内で振り回され、加撚される。なお、この撚りはフロントローラ18側へ伝播しようとするが、その伝播はニードル22によって阻止されるので、フロントローラ18から送り出される繊維束8が上記の撚りによって撚り込まれることがない。このように、ニードル22は撚り伝播防止手段をなしている。上記のように加撚された繊維は、大部分が巻付き繊維となる実撚り状の糸に順次生成され、糸通路29を通過し、図示しない出口孔から排出される。そして紡績糸10は、図1に示す糸送り装置11を経て巻取装置12に巻き取られる。
【0057】
なお、上記の短繊維の開繊及び加撚時に切れるなどして紡績糸10に撚り込まれなかった繊維は、旋回流発生ノズル27で生起された旋回流によって旋回流発生室25から空気排出用空間55へ送られ、負圧源の吸引によって、配管60を経由して排出される。
【0058】
一方、上記のように配管60を経由して排出されるべき繊維が、太径部58の周囲にループを形成し、図6の符号90のように空気排出用空間55に蓄積される場合がある。この原因としては例えば、空気排出用空間55の内部で何らかの部材に繊維が引っ掛かることで負圧源からの吸引流によっても排出されず、紡績が行われるにつれてその繊維に他の繊維が絡み合って徐々に成長することで太径部58の外周長を上回り、太径部58の外側を周回するようなループ状の繊維90にまで成長することが考えられる。あるいは、本実施形態ではメンテナンス作業の便宜及び圧力センサ63のキャリブレーションのために軸体保持部材59をノズル部ケーシング53から離反可能に構成しているが、メンテナンスあるいはキャリブレーション終了後に軸体保持部材59をノズル部ケーシング53へ近接させた図示のような所定位置に取り付ける際に、その接合部分に繊維を挟み込んでしまい、これが排出されずに他の繊維と絡み合って成長してループ状の繊維90になること等が考えられる。
【0059】
このように空気排出用空間55において繊維90がある程度成長して風綿状になると、旋回流発生室25から空気排出用空間55への空気の流出を阻害するので、旋回流発生室25の正常な旋回流が阻害され、弱糸の原因になってしまう。また、紡績時に開繊された短繊維が旋回流発生室25内で振り回される際に、太径部58の周囲に蓄積された繊維に接触してしまって撚り込みが阻害され、この意味でも弱糸の原因になってしまう。
【0060】
旋回流発生室25及び空気排出用空間55の圧力は、前記負圧源からの吸引流によって通常は適度の負圧に保たれているが、中空ガイド軸体20の周囲に繊維90が蓄積されてくると、その蓄積された繊維90によって吸引流が阻害されるために、圧力は徐々に上昇して大気圧に近づくことになる。そこで、本実施形態では、圧力センサ63によって前記圧力検出孔61の開口部分の圧力(旋回流発生室25に連通している空気排出用空間55の圧力)を監視することにより、上記の繊維90の蓄積を検出している。
【0061】
具体的には以下のとおりである。即ち、紡績作業時においては、受信部28によって受信された各圧力センサ63の検出値の変化を圧力異常判定部37が監視している。そして、検出値が予め設定された閾値を超えると、圧力異常判定部37は、弱糸が生じ易い状況であると判断し、当該紡績ユニット2に対し動作停止信号を自動的に送信する。
【0062】
すると、直ちにドラフトモータ31の駆動と紡績部9への繊維束8の供給が停止され、更に空気紡績ノズル19への圧空の供給が停止されて、紡績作業を停止する。そして報知ランプ71を点灯させて、空気排出用空間55内に繊維90が蓄積したことをオペレータに報知する。また、圧力異常判定部37は、制御パネル38に信号を送り、カラー液晶モニタ48に繊維蓄積通知を表示可能にする。
【0063】
これにより、空気排出用空間55に繊維90が蓄積したことをオペレータに素早く知らせることができ、空気排出用空間55内の繊維90の除去を促して、紡績ユニット2を紡績作業が可能な状態へ早期に復旧させることができる。
【0064】
また、圧力センサ63は所定の圧力検出範囲内で圧力値を出力するように構成されているが、本実施形態では、当該圧力検出範囲のうち中央の狭い部分だけで前記圧力検出孔61の部分の圧力変動を十分測定できるような圧力センサ63を使用している。従って、圧力センサ63の検出値が前記圧力検出範囲における下限値又は上限値を示した場合、それは圧力センサ63自身の故障を意味している。これを利用して、本実施形態の圧力異常判定部37は、圧力センサ63の検出値が前記圧力検出範囲の下限値又は上限値となっていないかを監視することによって、圧力センサ63の異常の有無を判断している。圧力異常判定部37が圧力センサ63の故障を検知すると、ユニットコントローラ32は報知ランプ71によってオペレータに通知する。更に、圧力異常判定部37は制御パネル38に信号を送り、カラー液晶モニタ48にセンサ故障通知を表示させる。
【0065】
以上のようにして、機台制御装置42の制御パネル(情報表示部)38は、各紡績ユニット2の繊維蓄積状況や圧力センサ63の故障等に関する情報を、一括して又は個別に表示することが可能である。特に、複数の紡績ユニット2の各種情報を一括して表示させることで、オペレータは装置全体の状況を容易に把握し、保全及び管理を的確に行うことができる。
【0066】
次に、前記閾値の設定について説明する。この閾値設定の方法としては、例えば全ての紡績ユニット2に対して所定の値を一律に設定することも可能である。しかし、各圧力センサ63及び紡績部9には個体差があるため、異常と判断すべき閾値をそれぞれ異ならせる方が判定精度の点で有利である。
【0067】
そこで、本実施形態の閾値設定部35は、前記閾値をそれぞれの各紡績ユニット2に対して個別に設定可能としている。また、本実施形態の閾値設定部35は、以下に説明する第1の閾値設定方法と第2の閾値設定方法の何れかによって閾値を設定することができる。
【0068】
まず第1の閾値設定方法について説明する。この方法は、各紡績ユニット2の空運転時の圧力値に基づいて閾値を設定する方法である。なお、ここでいう空運転とは、ドラフト装置7を停止させて繊維束8の供給を停止するとともに、圧空源から旋回流発生ノズル27への圧縮空気の供給を停止し、紡績部9による紡績を行っていない状態を意味する。なお、この空運転時においても、配管60に接続された前記負圧源による吸引は行われており、従って、旋回流発生室25内は負圧に保たれている。
【0069】
図7に、空運転時の各紡績ユニット2の圧力値の例として、80台の紡績ユニットを備える精紡機について測定したグラフを示す。図1に示すように紡績ユニット2は原動機ボックス5とブロアボックス4との間に横一列に並べて設置されているが、それぞれの紡績ユニット2について原動機ボックス5側から1、2、・・・というように番号を振ったものが図7の横軸の紡績ユニット番号である。図7に示すように、空運転時において、各紡績ユニット2の圧力センサ63の圧力値は、ブロアボックス4から遠ざかるほど(番号が若くなるほど)高いという一定の傾向を示している。これは負圧源がブロアボックス4内に配置されており、ブロアボックス4からの距離に応じた大きさの圧力損失が生じるためである。
【0070】
このように、空運転時における各紡績ユニット2の圧力値はそれぞれ異なっているため、この違いを加味して閾値設定を行うことで正確な弱糸検出及び異常圧力検出が可能となる。例えば、それぞれの紡績ユニット2の空運転時の圧力値に所定の係数(例えば0.5)を掛けた値や、前記圧力値を一定量(紡績中の圧力変動を考慮した値、例えば+1.0kPa)オフセットさせた値を、それぞれの紡績ユニット2の閾値として設定する。
【0071】
ところで、図7のグラフに示したように、各紡績ユニット2間の空運転時の圧力値には一定の傾向が見られる。そのため、例えば装置の据付時に全ての紡績ユニット2を空運転させ、図7のグラフの傾きに相当する値を機台制御装置42が備える圧力値記憶部73に記憶しておけば、1つの紡績ユニット2の空運転時の圧力値に基づいて、他の紡績ユニット2の空運転時の圧力値を計算することができる。
【0072】
そこで、本実施形態の精紡機1では、各紡績ユニット2に閾値を設定する際、全ての紡績ユニット2を空運転させて圧力値を検出することに代えて、最も負圧源に近い第80番の紡績ユニット2の圧力値のみを検出している。なお、圧力値を検出する紡績ユニット2は任意のものを選択することができ、例えば、負圧源から最も遠い紡績ユニット2(第1番の紡績ユニット2)を空運転させたときの圧力値を検出し記憶しておいても良い。
【0073】
この第1の閾値設定方法によって閾値を各紡績ユニットに設定するには、具体的には以下のようにする。まず、オペレータは、例えば前記第80番の紡績ユニット2の空運転時の圧力値を測定し、この圧力値に対して係数を乗じたり一定量オフセットさせた値を、当該第80番の紡績ユニット2の閾値として機台制御装置42の制御パネル38に入力する。
【0074】
前記機台制御装置42は、オペレータにより入力された前記閾値と、予め設定しておいた各紡績ユニット2の空運転時の圧力値のグラフの傾きに基づいた異常判定補正値を、ユニットコントローラ32の閾値設定部35に送信する。閾値設定部35は、受信した前記閾値と異常判定補正値に基づいて各紡績ユニット2の閾値を新たに算出し、記憶部36に格納する。
【0075】
これにより、元々ある各紡績ユニット2間の圧力の傾向を加味した閾値設定になるため、全ての紡績ユニット2に同じ閾値を設定する場合に比べて、より信頼性の高い閾値を設定することができる。また空運転時の圧力値を基準にするため、ノイズの影響を受けにくく、毎回安定した値を閾値として設定することができる。
【0076】
なお、上記のように先にオペレータによって第80番の紡績ユニット2の閾値を設定する方法に代えて、例えば以下のようにして各紡績ユニット2の閾値を計算しても良い。即ち、まず第80番の紡績ユニット2の空運転時の圧力値と前記グラフの傾きに基づいて、各紡績ユニット2の空運転時の圧力値を計算する。そして、各紡績ユニット2の前記計算値それぞれに対して係数を乗じたり一定量オフセットさせることにより、それぞれの紡績ユニット2の閾値を計算する。この方法によっても、上記の場合と同様に各紡績ユニット2間の圧力の傾向を加味した閾値設定を行うことができる。
【0077】
次に、第2の閾値設定の方法について説明する。この方法はそれぞれの前記空気紡績ユニット2の所定の時点での紡績時の圧力値に所定の係数を乗じた値を、当該空気紡績ユニット2の前記閾値として設定する方法である。
【0078】
図8は、24台の紡績ユニット2を有する精紡機についての、装置稼動時の各紡績ユニット2の圧力値をプロットしたグラフである。図8のように、装置稼動時においては空運転時のようなはっきりとした傾向はみられない。これは負圧源からの距離だけでなく、例えば旋回流発生ノズル27の向きの違いなど、紡績部9の個体差が大きく影響するためであると考えられる。このような装置稼動時に現れる各紡績ユニット2の個体差も加味して前記閾値を設定することにより、より正確な異常判定が可能である。
【0079】
ただし、上記のように装置稼動時の圧力値に基づいて閾値を決定する場合は、正常な状態(具体的に言えば、繊維90が蓄積しておらず、圧力センサ63が故障していない状態)の圧力に基づかなければ適切な閾値を決定できない。また各紡績ユニット2の間に空運転時のような一定の傾向が見られないため、それぞれの紡績ユニット2について圧力値を検出した上で閾値を決定する必要がある。
【0080】
そこで、本実施形態の閾値設定部35は、例えば紡績開始等の所定のタイミングで各紡績ユニット2の圧力値を検知し、所定の係数(例えば0.5〜0.6)を乗じた値を、記憶部36のそれぞれの紡績ユニット2に対応する記憶領域に記憶している。
【0081】
これにより、圧力センサ63や紡績部9の個体差を排除しつつ、一定の係数を乗算するという簡単な処理によって、各紡績ユニット2に好適な閾値を設定することができる。また、前記係数を全ての紡績ユニットで共通とすれば一括管理がより行い易くなる。これにより、高精度で管理し易い不良糸検出と誤検出の防止が可能である。
【0082】
また、本実施形態の閾値設定部35は、第1の閾値設定の方法と第2の閾値設定の方法をオペレータの指示により切換可能であるように構成されている。具体的には、オペレータは制御パネル38のカラー液晶モニタ48に閾値設定方法の切換設定用画面を表示させる。そして、入力部47を適宜操作することにより、閾値設定部35に対して閾値設定方法の切換を行う。これにより、紡績糸の種類及び装置の運転状況等に応じて何れか好適な方を選択することができる。
【0083】
以上に示したように、本実施形態の精紡機1は、複数の紡績ユニット2と、圧力一括管理装置としての機台制御装置42及びユニットコントローラ32と、を備えている。前記空気紡績ユニットのそれぞれは、内部に旋回空気流を発生させて繊維に撚りを与える旋回流発生室25と、旋回流発生室25内部の圧力を検知する圧力センサ63と、を備えている。前記ユニットコントローラ32は、受信部28と、圧力異常判定部37と、を備えている。受信部28は、それぞれの圧力センサ63からの圧力値信号を受信可能である。圧力異常判定部37は、前記圧力値と所定の閾値とを比較することにより、それぞれの紡績ユニット2の圧力の異常の有無を判定している。
【0084】
この構成により、複数の紡績ユニット2の圧力異常の発生を一括して検知できるので、各紡績ユニット2の管理が容易である。また、各紡績ユニット2に異常判定のための構成を個別に設ける必要がないため、装置の構成が簡単になりコストを削減することができる。
【0085】
また、本実施形態のユニットコントローラ32は、それぞれの紡績ユニット2毎に前記閾値を記憶可能な記憶部36と、圧力センサ63が検出した圧力値に基づいて前記閾値を決定し、当該閾値を記憶部36に記憶させる閾値設定部35と、を備えている。
【0086】
この構成により、各紡績ユニット2及び圧力センサ63の個体差に応じた適切な閾値を設定することが可能であるので、的確な異常検知を行うことができる。また前記閾値の設定及び閾値の記憶を、ユニットコントローラ32と機台制御装置42が連携して一括して行うことで、各紡績ユニット2の管理がより容易である。
【0087】
また、本実施形態の閾値設定部35は、少なくとも1つの紡績ユニット2を空運転させたときの圧力値を利用して、それぞれの紡績ユニット2の前記閾値を設定することができる(第1の閾値設定の方法)。
【0088】
この構成により、各紡績ユニット2間にある圧力の傾向を加味して閾値を設定できるため、全ての紡績ユニット2に一律の閾値を用いる場合に比べ、その紡績ユニット2に一層好適な閾値を設定することができる。
【0089】
また、本実施形態の閾値設定部35は、それぞれの紡績ユニット2の所定の時点での紡績時の圧力値に所定の係数を乗じた値を紡績ユニット2の前記閾値として設定することができる(第2の閾値設定の方法)。
【0090】
この構成により、一元管理を実現しながらも、紡績ユニット2間の個体差によるバラツキを考慮して、個々の紡績ユニット2に一層好適な閾値を設定することができる。これにより、より高精度の不良糸検出と誤検出の防止が可能となる。
【0091】
また、本実施形態の閾値設定部35は、前記第1の閾値設定の方法で閾値を設定するモードと、前記第2の閾値設定の方法で閾値を設定するモードと、を切換可能である。
【0092】
この構成により、閾値の設定方法がオペレータによって適宜変更可能であるので、状況に応じて最適な閾値を設定することができる。これにより、より高精度な不良糸検出と誤検出の防止が可能となる。
【0093】
また、本実施形態のユニットコントローラ32は、複数の紡績ユニット2の圧力センサ63のキャリブレーションを行うことが可能なキャリブレーション実行部30を備えている。
【0094】
この構成により、複数の紡績ユニット2の圧力センサ63を一括してキャリブレーションすることができる。また、適宜のタイミングで各紡績ユニット2の圧力センサ63を個別にキャリブレーションすることもできる。従って、各紡績ユニット2の管理がより容易になるとともに、圧力検出値の精度を常に一定に保つことができる。
【0095】
また、本実施形態の精紡機1は、圧力センサ63又はその検出値に関連する情報を表示可能な制御パネル(情報表示部)38を備えている。
【0096】
この構成により、複数の紡績ユニット2の圧力に関する情報を一括的に又は集約して表示させることが容易になるので、オペレータは精紡機1の全体の状況を容易に把握することができる。
【0097】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0098】
圧力センサ63のオフセット値としては1回の検出値でも良いが、旋回流発生室25の開放動作が行われた際に受信部28が圧力センサ63の圧力値のサンプリングを所定の回数行い、キャリブレーション実行部30が圧力値の平均値を計算し、この平均値をオフセット値として記憶してもよい。この場合、平均値を用いることにより信頼性の高い値を用いることができるので、より正確なキャリブレーションが可能となる。なお、サンプリングを行う周期や回数は、オペレータが入力部47を操作することにより、任意の数値を適宜設定することが可能である。
【0099】
第1の閾値設定の方法においては、空運転時の圧力値は複数回サンプリングを行い、閾値設定部35がその平均値を求め、この平均値に基づいて閾値を設定する方法に変更することができる。これにより、測定中のノイズに影響されずに適切な閾値を設定できる。また第2の閾値設定の方法においても、装置稼動時の圧力値の平均値に基づいて閾値を設定することにより同様の効果が得られる。空運転時よりも装置稼動時の方が圧力値の変動が大きいので、第2の閾値設定の方法は特に平均値を用いることが好適である。
【0100】
圧力異常判定部37は、閾値と比較する各紡績ユニット2の圧力値として、所定のサンプリング回数分の圧力値の平均値(例えば移動平均の値)を用いても良い。これにより、ノイズに影響されず正確な異常判定が可能となる。
【0101】
制御パネル38が情報を表示する方法はカラー液晶モニタに限らず、モノクロ液晶、LEDディスプレイなど適宜の手段によって表示することができる。
【0102】
閾値設定部35によって自動的に閾値を設定する構成に代えて、オペレータが個々の紡績ユニット2に対して個別に閾値を指定できる構成に変更できる。この場合、例えば、オペレータは制御パネル38のカラー液晶モニタ48に閾値設定方法の切換設定用画面を表示させる。そして、入力部47を適宜操作して数値を入力することにより、記憶部36の所定の記憶領域に所望の閾値を記憶させる。これにより、例えば特定の紡績ユニット2だけを別条件で稼動させるということが可能となる。
【0103】
また、機台制御装置42は、原動機ボックス5に備えられる構成に代えて、例えば精紡機1に外部接続されたPCとソフトウェアによって実現する構成に変更することができる。
【0104】
前記制御パネル38は、上記のほか精紡機1に関する各種の情報の閲覧及び設定に用いるように変更することができる。例えば、各紡績ユニット2の糸品質情報、過去の圧力値の履歴、圧力センサ63のサンプリング周期などの情報にアクセス可能な構成とすることが可能である。この構成では、例えばオペレータが履歴情報を確認することにより、特定の紡績ユニット2で繊維90が蓄積され易い状態になっているため、当該特定の紡績ユニット2にメンテナンスが必要であることを容易に認識することができる。
【0105】
圧力検出孔61の位置は、旋回流発生室25又は空気排出用空間55の壁面に開口するものであれば任意であり、例えば軸体保持部材59に設けることができる。
【0106】
空気排出用空間55に繊維が蓄積したと判定する条件(言い換えれば、空気排出用空間55の圧力上昇の判定条件)としては、圧力センサ63による検出値が上記の閾値を一瞬でも上回ったことを判定条件としても良いし、閾値を上回っている時間が所定時間を超えたことを判定条件としても良いし、様々な方法が考えられる。
【0107】
報知ランプ71の配設位置や消灯及び点灯の態様は任意であり、通常時は点灯させておき、空気排出用空間55に繊維が蓄積したと判定した時点で消灯させる制御であっても良い。また、報知ランプ71のほかにも報知手段としてブザー等色々な態様が考えられ、要はオペレータの視覚や聴覚等の五感に訴えて繊維蓄積状態を知らせることができるものであれば良い。
【0108】
圧力センサ63や圧力検出孔61は、中空ガイド軸体20を用いた紡績部9に限定されず、他の構成の紡績部に対しても適用することができる。
【0109】
第1ブロック91及び第2ブロック92を離間及び接触させるための構成は、空気圧シリンダ80に代えて、例えばカムと電動モータの組合せ、又はソレノイドによって行うように変更することができる。
【0110】
前記圧力測定値の平均値の計算式は、適宜のものを用いることができる。例えば、単純移動平均、加重移動平均、指数加重移動平均などを用いて計算することができる。
【0111】
空気圧シリンダ80は、第2ブロック92を第1ブロック91に対して離間及び接触させるように設けられているが、空気圧シリンダ80を第1ブロック91側に設け、第1ブロック91を第2ブロック92に対して離間及び接触させるように構成しても良い。
【0112】
また、機械的なダンパ等を、継手68と圧力センサ63との間、或いは圧力検出孔61と継手68との間のチューブ62に取り付けることにより、ノイズを除去しても良い。
【0113】
上記実施形態では、1つの紡績ユニット群2Gは4つの紡績ユニット2から構成されているが、各紡績ユニット群2Gに設けられる紡績ユニット2の台数は1台であっても良いし、その他任意の複数台であっても良い。
【0114】
上記実施形態では、圧力一括管理装置は、キャリブレーション実行部30と、閾値設定部35と、圧力異常判定部37とを主に備えるユニットコントローラ32と、制御パネル38を主に備える機台制御装置42と、から構成されている。即ち、圧力一括管理装置において、ユニットコントローラ32側に制御機能を持たせ、機台制御装置42側にモニタ機能及び設定機能を持たせるように機能が分担されている。しかし、圧力一括管理装置の構成としては、機能を分担させずに、例えば、機台制御装置42が上記実施形態のユニットコントローラ32の構成を備えるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の正面図。
【図2】同じく縦断側面図。
【図3】紡績部の縦断正面図。
【図4】圧力一括管理装置の装置ブロック図。
【図5】紡績部の開放時の縦断正面図。
【図6】紡績時における紡績部の様子を示す図。
【図7】本発明の一実施形態に係る紡績装置の各紡績ユニットが空運転を行っている時の圧力値を示すグラフ。
【図8】本発明の別の実施形態に係る紡績装置の各紡績ユニットが紡績を行っている時の圧力値を示すグラフ。
【符号の説明】
【0116】
2 紡績ユニット
28 受信部
30 キャリブレーション実行部
32 ユニットコントローラ
33 オフセット値記憶部
35 閾値設定部
36 記憶部
37 圧力異常判定部
38 制御パネル(情報表示部)
42 圧力一括管理装置
63 圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空気紡績ユニットと、圧力一括管理装置と、を備え、
前記空気紡績ユニットのそれぞれは、
内部に旋回空気流を発生させて繊維に撚りを与える中空室と、
前記中空室内部の圧力を検知する圧力センサと、
を備え、
前記圧力一括管理装置は、
それぞれの前記圧力センサからの圧力値信号を受信可能な圧力検出値受信部と、
前記圧力値と所定の閾値とを比較することによりそれぞれの前記空気紡績ユニットの圧力の異常の有無を判定する圧力異常判定部と、
を備えることを特徴とする紡績装置。
【請求項2】
請求項1に記載の紡績装置であって、
前記圧力一括管理装置は、
それぞれの前記空気紡績ユニット毎に前記閾値を記憶可能な記憶部と、
前記圧力センサが検出した圧力値に基づいて前記閾値を決定し、当該閾値を前記記憶部に記憶させる閾値設定部と、
を備えることを特徴とする紡績装置。
【請求項3】
請求項2に記載の紡績装置であって、
前記閾値設定部は、少なくとも1つの前記空気紡績ユニットを空運転させたときの圧力値を利用して、それぞれの空気紡績ユニットの前記閾値を設定することを特徴とする紡績装置。
【請求項4】
請求項2に記載の紡績装置であって、
前記閾値設定部は、それぞれの前記空気紡績ユニットの所定の時点での紡績時の圧力値に所定の係数を乗じた値を、当該空気紡績ユニットの前記閾値として設定することを特徴とする紡績装置。
【請求項5】
請求項2に記載の紡績装置であって、
前記閾値設定部は、
少なくとも1つの前記空気紡績ユニットを空運転させたときの圧力値を利用して、それぞれの空気紡績ユニットの前記閾値を設定する第1モードと、
それぞれの前記空気紡績ユニットの所定の時点での紡績時の圧力値に所定の係数を乗じた値を、当該空気紡績ユニットの前記閾値として設定する第2モードと、
を切換可能であることを特徴とする紡績装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の紡績装置であって、
前記圧力一括管理装置は、それぞれの前記圧力センサのキャリブレーションを行うことが可能なキャリブレーション実行部を備えることを特徴とする紡績装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の紡績装置であって、
前記圧力センサ又はその検出値に関連する情報を表示可能な情報表示部を備えることを特徴とする紡績装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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