説明

紫外線吸収剤、並びに縮合環化合物およびその製造方法

【課題】紫外光耐久性を向上でき、長波紫外線吸収能を長時間維持できる紫外線吸収剤の提供。
【解決手段】下記一般式で表される紫外線吸収剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮合環化合物およびその製造方法、並びに該化合物からなる紫外線吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から紫外線吸収剤を種々の樹脂などと共用して紫外線吸収性を付与することが行われている。紫外線吸収剤として無機系紫外線吸収剤と有機系紫外線吸収剤を用いる場合がある。無機系紫外線吸収剤(例えば、特許文献1〜3等を参照。)では、耐候性や耐熱性などの耐久性に優れている反面、吸収波長が化合物のバンドギャップによって決定されるため選択の自由度が少なく、400nm付近の長波紫外線(UV−A)領域まで吸収できるものはなく、長波紫外線を吸収するものは可視域まで吸収を有するため着色を伴ってしまう。
これに対して、有機系紫外線吸収剤は、吸収剤の構造設計の自由度が高いために、吸収剤の構造を工夫することによって様々な吸収波長のものを得ることができる。
【0003】
これまでにも様々な有機系紫外線吸収剤を用いた系が検討されており、長波紫外線領域まで吸収する場合には、極大吸収波長が長波紫外線領域にあるものを用いるか、濃度を濃くするかの2通りが考えられている。しかし、特許文献4及び5等に記載された極大吸収波長が長波紫外線領域にあるものは耐光性が悪く、吸収能が時間とともに減少していってしまう。
【0004】
これに対してベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤は比較的耐光性も良く、濃度や膜厚を大きくすれば長波長領域まで比較的クリアにカットできる(例えば特許文献6及び7等を参照。)。また、ベンゾオキサジノン系の紫外線吸収剤も知られている(例えば特許文献8、9参照)。しかし、通常これらの紫外線吸収剤を樹脂等に混ぜて塗布する場合、膜厚は数十μm程度が限界である。この膜厚では長波長領域までカットしようとするとかなり高濃度に紫外線吸収剤を添加する必要がある。しかしながら、単に高濃度に添加しただけでは紫外線吸収剤の析出や長期使用によるブリードアウトが生じるという問題があった。また、ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤の中には、皮膚刺激性や生体内への蓄積性を有するものがあり、使用にあたっては細心の注意が必要であった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−339033号公報
【特許文献2】特開平5−345639号公報
【特許文献3】特開平6−56466号公報
【特許文献4】特開平6−145387号公報
【特許文献5】特開2003−177235号公報
【特許文献6】特開2005−517787号公報
【特許文献7】特開平7−285927号公報
【特許文献8】特開昭62−11744号公報
【特許文献9】特開2003−40726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の問題点を解決するものであり、共用する高分子材料の紫外光耐久性を向上させることだけでなく、該高分子材料を紫外線フィルタとして用いることによって他の安定でない化合物の分解を抑制することもできる、長波紫外線吸収能を長時間維持した紫外線吸収剤として用いることができる化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、縮合環化合物について詳細に検討した結果、光堅牢性が高く、これまでカバーすることができなかった長波長領域の紫外線を吸収できる従来知られていない構造を有する化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の課題は、以下の方法によって達成された。
<1>下記一般式(1)で表される化合物からなる紫外線吸収剤。
【化1】

(式中、R1a、R1b、R1c、R1d、R1e、R1f、R1g及びR1hは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表し、Aは、1価の置換基を表す。)
【0009】
<2>前記一般式(1)におけるAが、下記一般式(2)で表される基である、<1>項に記載の紫外線吸収剤。
【化2】

(式中、Z1は、環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。)
【0010】
<3>前記一般式(2)で表される基が、下記一般式(3)、(4)又は(5)のいずれかで表される基である、<2>項に記載の紫外線吸収剤。
【化3】

(前記一般式(3)〜(5)中、R2a、R2b、R2c、R2d、R2e及びR2fは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表し、Z2及びZ3は、それぞれ環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、Z4は、複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。)
【0011】
<4>前記一般式(3)、(4)又は(5)のいずれかで表される基が、下記一般式(6)、(7)又は(8)のいずれかで表される基である、<3>項に記載の紫外線吸収剤。
【化4】

(前記一般式(6)〜(8)中、R3a、R3b、R3c、R3d、R3e、R3f、R3g、R3h、R3i、R3j、R3k、R3l、R3m、R3n、R3o、R3p及びR3qは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。)
【0012】
<5>溶液中260nm以上における最大吸収波長の吸光度を1となるように調液したとき、350nmにおける吸光度が0.2以上である、<1>〜<4>のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤。
<6>溶液中260nm以上における最大吸収波長の吸光度を1となるように調液したとき、395nmにおける吸光度が0.05以下である、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤。
<7>熱質量測定にて280℃、30分加熱の前後における質量減少率が20%以下である、<1>〜<6>のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤。
【0013】
<8>下記一般式(9)、(10)又は(11)のいずれかで表される化合物。
【化5】

(前記一般式(9)〜(11)中、R4a、R4b、R4c、R4d、R4e、R4f、R4g、R4h、R4i、R4j、R4k、R4l、R4m及びR4nは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表し、Z5及びZ6は、それぞれ環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、Z7は、複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。)
【0014】
<9>前記一般式(9)、(10)又は(11)におけるAが、下記一般式(12)、(13)又は(14)のいずれかで表される基である、<8>項に記載の化合物。
【化6】

(前記一般式(12)〜(14)中、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、R5g、R5h、R5i、R5j、R5k、R5l、R5m、R5n、R5o、R5p及びR5qは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。)
【0015】
<10>置換あるいは無置換のアントラニル酸と置換あるいは無置換の無水イサト酸とを反応させる工程、並びに前記工程で得られた反応中間体に下記一般式(15)、(16)又は(17)のいずれかで表される化合物を反応させる工程を含む、<8>又は<9>項に記載の化合物の製造方法。
【化7】

(前記一般式(15)〜(17)中、X1、X2及びX3は、それぞれハロゲン原子を表す。R6a、R6b、R6c、R6d、R6e及びR6fは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表し、Z8及びZ9は、それぞれ環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、Z10は、複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の化合物は、高い光堅牢性を有する紫外線吸収剤として用いることができる。また、本発明の紫外線吸収剤は、プラスチック、繊維などの高分子成形品に含有させることで高分子成形品の光安定性を高めることができる。さらに、本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は、優れた紫外線吸収能を活用して、紫外線に弱い内容物を保護するフィルタや容器として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の紫外線吸収剤は、前記一般式(1)で表される化合物からなる。
【0018】
本発明の紫外線吸収剤は、溶液中260nm以上における最大吸収波長の吸光度を1としたとき、350nmにおける吸光度が0.2以上であることが好ましい。また、395nmにおける吸光度が0.05以下であることが好ましい。350nmにおける吸光度は、より好ましくは0.25以上であり、更に好ましくは0.3以上であり、特に好ましくは0.35以上である。また、395nmにおける吸光度は、より好ましくは0.03以下であり、更に好ましくは0.02以下であり、特に好ましくは0.01以下である。吸光度の測定は、例えば島津製作所製分光光度計UV−3600(商品名)を用いて行うことができる。
【0019】
本発明における溶液中260nm以上における最大吸収波長の吸光度を1としたときの吸光度について説明する。本発明における分光最大吸収波長を測定するための溶液とは、本発明の化合物を有機もしくは無機の溶媒または水を単独あるいはそれぞれの混合物を用いて溶解したものである。
【0020】
有機溶媒の例としては、例えば、アミド系溶媒(例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン)、スルホン系溶媒(例えばスルホラン)、スルホキシド系溶媒(例えばジメチルスルホキシド)、ウレイド系溶媒(例えばテトラメチルウレア)、エーテル系溶媒(例えばジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル)、ケトン系溶媒(例えばアセトン、シクロヘキサノン)、炭化水素系溶媒(例えばトルエン、キシレン、n−デカン)、ハロゲン系溶媒(例えばテトラクロロエタン、クロロベンゼン、クロロナフタレン)、アルコール系溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、シクロヘキサノール、フェノール)、ピリジン系溶媒(例えばピリジン、γ−ピコリン、2,6−ルチジン)、エステル系溶媒(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル)、カルボン酸系溶媒(例えば酢酸、プロピオン酸)、ニトリル系溶媒(例えばアセトニトリル)、スルホン酸系溶媒(例えばメタンスルホン酸)、アミン系溶媒(例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン)が挙げられる。無機溶媒の例としては、例えば、硫酸、リン酸が挙げられる。
【0021】
溶解性を考慮すると、好ましくはアミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒、ウレイド系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、ハロゲン系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ニトリル系溶媒である。濃度は、分光吸収の最大吸収波長が確認できる濃度であればよく、好ましくは1×10-7〜1×1013mMの範囲である。温度は、特に限定しないが、好ましくは0℃〜80℃である。
【0022】
また、本発明の紫外線吸収剤は、熱質量測定での280℃、30分加熱の前後における質量減少率が20%以下であることが好ましく、より好ましくは18%以下であり、より好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。熱質量測定は、例えば熱質量分析計(TG/DTA6200、商品名、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて行うことができる。
【0023】
以下、前記一般式(1)で表される化合物について説明する。
前記一般式(1)におけるR1a、R1b、R1c、R1d、R1e、R1f、R1g及びR1hは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。
1価の置換基(以下Rとする)の例としては、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)の直鎖又は分岐のアルキル基(例えばメチル、エチル)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリール基(例えばフェニル、ナフチル)、シアノ基、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアシル基、カルボキシル基、炭素数2〜20(好ましくは2〜10)のアルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、炭素数7〜20(好ましくは7〜10)のアリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)の置換又は無置換のカルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、炭素数2〜20(好ましくは2〜10)のアルキルカルボニル基(例えばアセチル)、炭素数7〜20(好ましくは7〜10)のアリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)の置換または無置換のアミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)のスルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、炭素数2〜20(好ましくは2〜10)のイミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のイミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、チオール基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルコキシ基(例えばメトキシ)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールオキシ基(例えばフェノキシ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアシルオキシ基(例えばアセトキシ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)の置換または無置換のスルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルチオ基(例えばメチルチオ)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールチオ基(例えばフェニルチオ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、4〜7員環(好ましくは5〜6員環)のヘテロ環基(例えばピリジル、モルホリノ)、4〜7員環(好ましくは5〜6員環)のヘテロ環オキシ基(例えばピリジルオキシ)、4〜7員環(好ましくは5〜6員環)のヘテロ環チオ基(例えばピリジルチオ)などを挙げることができる。また、置換基は更に置換されていても良く、置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。その際、置換基の例としては、上述の1価の置換基Rを挙げることができる。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。
【0024】
前記一般式(1)におけるR1a、R1b、R1c、R1d、R1e、R1f、R1g及びR1hとして好ましくは、水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、より好ましくは水素原子または炭素数1〜10のアルコキシ基である。さらに好ましくは水素原子であり、特に好ましくは、R1a、R1b、R1c、R1d、R1e、R1f、R1g及びR1hのすべてが水素原子を表す場合である。
【0025】
前記一般式(1)におけるAは、1価の置換基を表す。当該置換基としては上述の1価の置換基Rの例が挙げられる。前記一般式(1)におけるAは、前記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【0026】
前記一般式(2)におけるZ1は、環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。非金属原子としては、例えば、ホウ素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子などを挙げることができる。形成される環は、4〜7員環が好ましく、5〜6員環がより好ましい。これらの環は縮環していても良い。また、これらの環は置換基を有していても良い。置換基としては上述の1価の置換基Rの例が挙げられる。
【0027】
1により形成される環としては、例えば、シクロヘキサン、シクロペンタンなどの脂肪族炭化水素環、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族炭化水素環、ピリジン、ピロール、ピリダジン、チオフェン、イミダゾール、フラン、ピラゾール、オキサゾール、トリアゾール、チアゾ−ルまたはこれらのベンゾ縮環体などのヘテロ環が挙げられる。好ましくは芳香族炭化水素環、ヘテロ環である。より好ましくは芳香族炭化水素環であり、耐光性に優れている点から、特に好ましくはナフタレン環である。
【0028】
前記一般式(2)で表される基は、前記一般式(3)〜(5)のいずれかで表される基であることが好ましい。
前記一般式(3)〜(5)において、R2a、R2b、R2c、R2d、R2e及びR2fは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。置換基としては上述の1価の置換基Rの例を挙げることができる。R2a、R2b、R2c、R2d、R2e及びR2fとして好ましくは、水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、より好ましくは水素原子またはヒドロキシ基である。さらに好ましくは水素原子であり、特に好ましくは、R2a、R2b、R2c、R2d、R2e及びR2fのすべてが水素原子を表す場合である。
【0029】
前記一般式(3)又は(4)におけるZ2及びZ3は、それぞれ環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。非金属原子としては例えば、ホウ素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子などを挙げることができる。形成される環は、4〜7員環が好ましく、5〜6員環がより好ましい。これらの環は縮環していても良い。また、これらの環は置換基を有していても良い。置換基としては上述の1価の置換基Rの例が挙げられる。
【0030】
2又はZ3により形成される環としては、例えば、シクロヘキサン、シクロペンタンなどの脂肪族炭化水素環、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族炭化水素環、ピリジン、ピロール、ピリダジン、チオフェン、イミダゾール、フラン、ピラゾール、オキサゾール、トリアゾール、チアゾ−ルまたはこれらのベンゾ縮環体などのヘテロ環が挙げられる。好ましくは芳香族炭化水素環、ヘテロ環である。より好ましくは芳香族炭化水素環であり、特に好ましくはベンゼン環である。
【0031】
前記一般式(5)におけるZ4は、複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。非金属原子としては例えば、ホウ素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子などを挙げることができる。形成される環は、4〜7員環が好ましく、5〜6員環がより好ましい。これらの環は縮環していても良い。また、これらの環は置換基を有していても良い。置換基としては上述の1価の置換基Rの例が挙げられる。
【0032】
4により形成される複素環としては、例えば、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,3,5−トリアジン、フラン、チオフェン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インダゾール、ベンズイソオキサゾール、ベンズイソチアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、キノリン、イソキノリン、チノリン、キナゾリン、フタルアジン、キノキサリン、アクリジン、フェナントリジン、プテリジン、カルバゾール、β−カルボリン、ピュリン、クマリン、ジベンゾフラン、フェノチアゾール、1,10−フェナントロリン、フラボンなどが挙げられる。複素環として好ましくはチオフェン、フラン、ピロール、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドールである。より好ましくはチオフェン、フラン、インドールである。耐光性に優れている点から、特に好ましくは、チオフェンである。複素環の結合位置はいずれでも良い。例えば複素5員環化合物チオフェンでの結合位置は、2位および3位が挙げられる。また、複素6員環化合物ピリジンでの結合位置は、2位、3位および4位が挙げられる。
【0033】
前記一般式(3)〜(5)のいずれかで表される基のうち、好ましくは前記一般式(3)又は(5)で表される基であり、特に好ましくは前記一般式(3)で表される基である。
【0034】
また、前記一般式(3)〜(5)のいずれかで表される基は、それぞれ前記一般式(6)〜(8)のいずれかで表される基であることが好ましい。
前記一般式(6)〜(8)において、R3a、R3b、R3c、R3d、R3e、R3f、R3g、R3h、R3i、R3j、R3k、R3l、R3m、R3n、R3o、R3p及びR3qは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。置換基としては上述の1価の置換基Rの例を挙げることができる。
【0035】
3a、R3b、R3c、R3d、R3e、R3f、R3g、R3h、R3i、R3j、R3k、R3l、R3m、R3n、R3o、R3p及びR3qとして好ましくは、水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、より好ましくは水素原子またはヒドロキシ基である。さらに好ましくは水素原子であり、特に好ましくは、R3a、R3b、R3c、R3d、R3e、R3f、R3g、R3h、R3i、R3j、R3k、R3l、R3m、R3n、R3o、R3p及びR3qのすべてが水素原子を表す場合である。
【0036】
次に、本発明の前記一般式(9)〜(11)のいずれかで表される化合物について説明する。
前記一般式(9)〜(11)において、R4a、R4b、R4c、R4d、R4e、R4f、R4g、R4h、R4i、R4j、R4k、R4l、R4m及びR4nは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。置換基としては上述の1価の置換基Rの例を挙げることができる。R4a、R4b、R4c、R4d、R4e、R4f、R4g、R4h、R4i、R4j、R4k、R4l、R4m及びR4nとして好ましくは、水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、より好ましくは水素原子または炭素数1〜10のアルコキシ基である。さらに好ましくは水素原子であり、特に好ましくは、R4a、R4b、R4c、R4d、R4e、R4f、R4g、R4h、R4i、R4j、R4k、R4l、R4m及びR4nのすべてが水素原子を表す場合である。
【0037】
前記一般式(9)又は(10)におけるZ5及びZ6は、それぞれ環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。非金属原子としては例えば、ホウ素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子などを挙げることができる。形成される環は、4〜7員環が好ましく、5〜6員環がより好ましい。これらの環は縮環していても良い。また、これらの環は置換基を有していても良い。置換基としては上述の1価の置換基Rの例が挙げられる。
【0038】
5又はZ6により形成される環としては、例えば、シクロヘキサン、シクロペンタンなどの脂肪族炭化水素環、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族炭化水素環、ピリジン、ピロール、ピリダジン、チオフェン、イミダゾール、フラン、ピラゾール、オキサゾール、トリアゾール、チアゾ−ルまたはこれらのベンゾ縮環体などのヘテロ環が挙げられる。好ましくは芳香族炭化水素環、ヘテロ環である。より好ましくは芳香族炭化水素環であり、特に好ましくはベンゼン環である。
【0039】
前記一般式(11)におけるZ7は、複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。非金属原子としては例えば、ホウ素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子などを挙げることができる。形成される環は、4〜7員環が好ましく、5〜6員環がより好ましい。これらの環は縮環していても良い。また、これらの環は置換基を有していても良い。置換基としては上述の1価の置換基Rの例が挙げられる。
【0040】
7により形成される複素環としては、例えば、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,3,5−トリアジン、フラン、チオフェン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インダゾール、ベンズイソオキサゾール、ベンズイソチアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、キノリン、イソキノリン、チノリン、キナゾリン、フタルアジン、キノキサリン、アクリジン、フェナントリジン、プテリジン、カルバゾール、β−カルボリン、ピュリン、クマリン、ジベンゾフラン、フェノチアゾール、1,10−フェナントロリン、フラボンなどが挙げられる。複素環として好ましくはチオフェン、フラン、ピロール、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドールである。より好ましくはチオフェン、フラン、インドールである。特に好ましくは、チオフェンである。複素環の結合位置はいずれでも良い。例えば複素5員環化合物チオフェンでの結合位置は、2位および3位が挙げられる。また、複素6員環化合物ピリジンでの結合位置は、2位、3位および4位が挙げられる。
【0041】
前記一般式(9)〜(11)のいずれかで表される化合物のうち、好ましくは前記一般式(9)又は(11)で表される化合物であり、特に好ましくは前記一般式(9)で表される化合物である。
【0042】
また、前記一般式(9)〜(11)におけるAは、それぞれ前記一般式(12)〜(14)で表される基であることが好ましい。
前記一般式(12)〜(14)において、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、R5g、R5h、R5i、R5j、R5k、R5l、R5m、R5n、R5o、R5p及びR5qは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。置換基としては上述の1価の置換基Rの例を挙げることができる。
【0043】
5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、R5g、R5h、R5i、R5j、R5k、R5l、R5m、R5n、R5o、R5p及びR5qとして好ましくは、水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、より好ましくは水素原子またはヒドロキシ基である。さらに好ましくは水素原子であり、特に好ましくは、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、R5g、R5h、R5i、R5j、R5k、R5l、R5m、R5n、R5o、R5p及びR5qのすべてが水素原子を表す場合である。
【0044】
前記一般式(12)〜(14)のいずれかで表される基のうち、好ましくは前記一般式(12)又は(14)で表される基であり、特に好ましくは前記一般式(12)で表される基である。
【0045】
以下に、前記一般式(1)、(9)〜(11)のいずれかで表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。なお、本明細書において、Meはメチル基を、Etはエチル基を、Acはアセチル基を表す。
【0046】
【化8】

【0047】
【化9】

【0048】
【化10】

【0049】
【化11】

【0050】
【化12】

【0051】
【化13】

【0052】
前記一般式(1)、(9)〜(11)のいずれかで表される化合物は、構造とその置かれた環境によって互変異性体を取り得る。本発明においては代表的な形の一つで記述しているが、本発明の記述と異なる互変異性体も本発明の化合物に含まれる。
【0053】
前記一般式(1)、(9)〜(11)のいずれかで表される化合物は、同位元素(例えば、2H、3H、13C、15N、17O、18Oなど)を含有していてもよい。
【0054】
前記一般式(1)、(9)〜(11)のいずれかで表される化合物は、例えば特開2000−264879号公報の4ページ左43行目〜右8行目の実施例、特開2003−155375の4ページ右欄5行目〜30行目の実施例、「Bioorganic & Medicinal Chemistry」,2002年,10巻,2297−2302ページなどを参考にして合成することができる。
【0055】
例えば、例示化合物(1)は、アントラニル酸、無水イサト酸およびシクロヘキサンカルボニルクロリドから合成できる。例示化合物(8)は、アントラニル酸、無水イサト酸およびサリチル酸から合成できる。例示化合物(25)は、アントラニル酸、無水イサト酸およびアントラキノン−2−カルボニルクロリドから合成できる。例示化合物(31)は、アントラニル酸、無水イサト酸および2−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸から合成できる。例示化合物(43)は、アントラニル酸、無水イサト酸および無水トリメリット酸クロリドから合成できる。例示化合物(70)は、アントラニル酸、無水イサト酸およびキナルジン酸から合成できる。例示化合物(81)は、5−ヒドロキシアントラニル酸、無水イサト酸および2−ナフトイルクロリドから合成できる。例示化合物(84)は、2−アミノテレフタル酸、無水イサト酸および2−ナフトイルクロリドから合成できる。
【0056】
また、前記一般式(1)、(9)〜(11)のいずれかで表される化合物は、置換あるいは無置換のアントラニル酸と置換あるいは無置換の無水イサト酸とを反応させる工程、並びに前記工程で得られた反応中間体に前記一般式(15)、(16)又は(17)のいずれかで表される化合物を反応させる工程を含む方法によって製造することができる。この方法によれば、高収率で高純度の化合物を製造することができる。
【0057】
前記一般式(15)〜(17)において、X1、X2及びX3は、それぞれハロゲン原子を表す。例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、より好ましくは塩素原子または臭素原子であり、特に好ましくは塩素原子である。
【0058】
前記一般式(15)〜(17)におけるR6a、R6b、R6c、R6d、R6e及びR6fは、それぞれ前記一般式(9)〜(11)におけるR4a、R4b、R4c、R4d、R4e及びR4fと同義であり、好ましい場合も同じである。
【0059】
前記一般式(15)〜(17)におけるZ8、Z9及びZ10は、それぞれ前記一般式(9)〜(11)のZ5、Z6及びZ7と同義であり、好ましい場合も同じである。
以下に、前記一般式(15)〜(17)のいずれかで表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0060】
【化14】

【0061】
また、前記一般式(1)で表される化合物の構造を繰り返し単位内に含むポリマーも、本発明の紫外線吸収剤に好適に使用できる。ポリマーは、ホモポリマーであってもよいし、2種類以上の繰り返し単位からなるコポリマーであってもよい。さらに他の繰り返し単位を含むコポリマーであってもよい。なお、紫外線吸収剤構造を繰り返し単位内に含むポリマーについては、特公平1−53455号、特開昭61−189530号の各公報および欧州特許第27242号明細書などに記載がある。ポリマーを得る方法についてはこれら特許文献の記述を参考にすることができる。
【0062】
前記一般式(1)又は(9)〜(11)のいずれかで表される化合物は紫外線吸収剤として好適に用いることができる。
【0063】
本発明の前記一般式(1)で表される化合物からなる紫外線吸収剤の使用形態は、いずれでも良い。例えば、液体分散物、溶液、高分子材料などが挙げられる。
【0064】
本発明の前記一般式(1)で表される化合物からなる紫外線吸収剤は、分散媒体に分散された分散物の状態で使用できる。以下、本発明の紫外線吸収剤を含む紫外線吸収剤分散物について説明する。
本発明の紫外線吸収剤を分散する媒体はいずれのものであってもよい。例えば、水、有機溶剤、樹脂、樹脂の溶液などが挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0065】
本発明に用いられる分散媒体の有機溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタンなどの炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテルなどのエーテル系、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系、メチルエチルケトンなどのケトン系、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのアミン系、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸系、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン系、テトラヒドロフラン、ピリジンなどのヘテロ環系、などが挙げられる。これらを任意の割合で組み合わせて使用することもできる。
【0066】
本発明に用いられる分散媒体の樹脂としては、任意の各種成形体、シート、フィルム等の製造に使用されている熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、スチレン−アクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、エチレン−ビニルアルコール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、液晶ポリエステル樹脂(LCP)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等が挙げられ、これらは一種または二種以上のポリマーブレンドあるいはポリマーアロイとして使用される。また、これらの樹脂は、ナチュラル樹脂にガラス繊維、炭素繊維、半炭化繊維、セルロース系繊維、ガラスビーズ等のフィラーや難燃剤等を含有させた熱可塑性成形材料としても使用される。また、必要に応じて任意の樹脂用の添加剤、例えば、ポリオレフィン系樹脂微粉末、ポリオレフィン系ワックス、エチレンビスアマイド系ワックス、金属石鹸等を単独であるいは組み合わせて使用することもできる。
【0067】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられ、これらはナチュラル樹脂のほかガラス繊維、炭素繊維、半炭化繊維、セルロース系繊維、ガラスビーズ等のフィラーや難燃剤を含有させた熱硬化性成形材料としても使用することができる。
【0068】
本発明の紫外線吸収剤を含む分散物には、分散剤、泡防止剤、保存剤、凍結防止剤、界面活性剤などを合わせて用いることもできる。その他に任意の化合物を合わせて含んでいてもよい。例えば、染料、顔料、赤外線吸収剤、香料、重合性化合物、ポリマー、無機物、金属などが挙げられる。
【0069】
本発明の紫外線吸収剤を含む分散物を得るための装置として、大きな剪断力を有する高速攪拌型分散機、高強度の超音波エネルギーを与える分散機などを使用できる。具体的には、コロイドミル、ホモジナイザー、毛細管式乳化装置、液体サイレン、電磁歪式超音波発生機、ポールマン笛を有する乳化装置などがある。本発明で使用するのに好ましい高速攪拌型分散機は、ディゾルバー、ポリトロン、ホモミキサー、ホモブレンダー、ケデイーミル、ジェットアジターなど、分散作用する要部が液中で高速回転(500〜15,000rpm。好ましくは2,000〜4,000rpm)するタイプの分散機である。本発明で使用する高速攪拌型分散機は、ディゾルバーないしは高速インペラー分散機とも呼ばれ、特開昭55−129136号公報にも記載されているように、高速で回転する軸に鋸歯状のプレートを交互に上下方向に折り曲げたインペラーを着装して成るものも好ましい一例である。
【0070】
疎水性化合物を含む乳化分散物を調製する際には、種々のプロセスに従うことができる。例えば、疎水性化合物を有機溶媒に溶解するときは、高沸点有機物質、水非混和性低沸点有機溶媒または水混和性有機溶媒の中から任意に選択された一種、又は二種以上の任意の複数成分混和物に溶解し、次いで界面活性化合物の存在化で、水中あるいは親水性コロイド水溶液中に分散せしめる。疎水性化合物を含む水不溶性相と水性相との混合方法としては、攪拌下に水性相中に水不溶性相を加えるいわゆる順混合法でも、その逆の逆混合法でもよい。
【0071】
また、本発明の紫外線吸収剤は、液体状の媒体に溶解された溶液の状態で使用できる。以下、本発明の紫外線吸収剤を含む紫外線吸収剤溶液について説明する。
本発明の紫外線吸収剤を溶解する液体はいずれのものであってもよい。例えば、水、有機溶剤、樹脂、樹脂の溶液などが挙げられる。有機溶剤、樹脂、樹脂の溶液の例としては、上述の分散媒体として記載したものが挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0072】
本発明の紫外線吸収剤を含む溶液は、その他に任意の化合物を合わせて含んでいてもよい。例えば、染料、顔料、赤外線吸収剤、香料、重合性化合物、ポリマー、無機物、金属などが挙げられる。本発明の紫外線吸収剤以外は必ずしも溶解していなくてもよい。
【0073】
本発明の紫外線吸収剤を含む溶液における前記紫外線吸収剤の含有量は、使用目的と使用形態によって異なるため一義的に定めることはできないが、使用する目的に応じて任意の濃度であってよい。好ましくは溶液の全量に対して0.001〜30質量%であり、より好ましくは0.01〜10質量%である。あらかじめ高濃度で溶液を作製しておき、所望の時に希釈して使用することもできる。希釈溶媒としては上述の溶媒から任意に選択できる。
【0074】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料の調製には、その高分子組成物が用いられる。本発明に用いられる高分子組成物は、後述する高分子物質に本発明の紫外線吸収剤を添加してなる。
本発明の紫外線吸収剤は、様々な方法で高分子物質に含有させることができる。本発明の紫外線吸収剤が高分子物質との相溶性を有する場合は、本発明の紫外線吸収剤を高分子物質に直接添加することができる。高分子物質との相溶性を有する補助溶媒に、本発明の紫外線吸収剤を溶解し、その溶液を高分子物質に添加してもよい。本発明の紫外線吸収剤を高沸点有機溶媒やポリマー中に分散し、その分散物を高分子物質に添加してもよい。
【0075】
高沸点有機溶媒の沸点は、180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。高沸点有機溶媒の融点は、150℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。高沸点有機溶媒の例には、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、安息香酸エステル、フタル酸エステル、脂肪酸エステル、炭酸エステル、アミド、エーテル、ハロゲン化炭化水素、アルコール及びパラフィンが含まれる。リン酸エステル、ホスホン酸エステル、フタル酸エステル、安息香酸エステル及び脂肪酸エステルが好ましい。
本発明の紫外線吸収剤の添加方法については、特開昭58−209735号、同63−264748号、特開平4−191851号、同8−272058号の各公報および英国特許第2016017A号明細書を参考にできる。
【0076】
本発明の紫外線吸収剤を含む溶液における前記紫外線吸収剤の含有量は、使用目的と使用形態によって異なるため一義的に定めることはできないが、使用する目的に応じて任意の濃度であってよい。好ましくは高分子材料中0.001〜10質量%であり、より好ましくは0.01〜5質量%である。
【0077】
また、本発明の紫外線吸収剤は、高分子材料に好ましく用いられる。以下、本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料について説明する。
本発明においては、本発明の紫外線吸収剤のみで実用的には十分な紫外線遮蔽効果が得られるものの、更に厳密を要求する場合には隠蔽力の強い白色顔料、例えば酸化チタンなどを併用してもよい。また、外観、色調が問題となる時、あるいは好みによって微量(0.05質量%以下)の着色剤を併用することができる。また、透明あるいは白色であることが重要である用途に対しては蛍光増白剤を併用してもよい。蛍光増白剤としては市販のものや特開2002−53824号公報記載の一般式[1]や具体的化合物例1〜35などが挙げられる。
【0078】
続いて、本発明に用いられる高分子物質について説明する。高分子物質としては、天然あるいは合成ポリマーのいずれであってもよい。ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ(1−ブテン)、ポリ4−メチルペンテン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリシクロペンテン、ポリノルボルネンなど)、ビニルモノマーのコポリマー(例えば、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/メチルペンテンコポリマー、エチレン/ヘプテンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキサンコポリマー、エチレン/シクロオレフィンコポリマー(例えば、エチレン/ノルボルネンのようなシクロオレフィンコポリマー(COC:Cyclo-Olefin Copolymer))、プロピレン/ブタジエンコポリマー、イソブチレン/イソプレンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキセンコポリマー、エチレン/アルキルアクリレートコポリマー、エチレン/アルキルメタクリレートコポリマーなど)、アクリル系ポリマー(例えば、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリルなど)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ポリエーテル(例えば、ポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなど)、ポリアセタール(例えば、ポリオキシメチレン)、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、ポリカーボネート、ポリケトン、ポリスルホンポリエーテルケトン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、セルロースエステル(例えば、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース)、ポリシロキサン、天然ポリマー(例えば、セルロース、ゴム、ゼラチンなど)、などが例として挙げられる。
【0079】
本発明に用いられる高分子物質は、合成ポリマーである場合が好ましく、ポリオレフィン、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリカーボネート、セルロースエステルがより好ましい。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン)、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、トリアセチルセルロースが特に好ましい。
本発明に用いられる高分子物質は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0080】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は、上記の高分子物質および紫外線吸収剤に加えて、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、加工安定剤、老化防止剤、相溶化剤等の任意の添加剤を適宜含有してもよい。
【0081】
本発明の化合物は、有機材料を光・酸素または熱による損傷に対して安定化させるのに特に適している。中でも本発明の化合物は光安定剤、とりわけ紫外線吸収剤として用いることに最も適している。以下、本発明の化合物の紫外線吸収剤としての用途について説明する。
本発明の紫外線吸収剤によって安定化されるものは、染料、顔料、食品、飲料、身体ケア製品、ビタミン剤、医薬品、インク、油、脂肪、ロウ、表面コーティング、化粧品、写真材料、織物及びその色素、プラスチック材料、ゴム、塗料、高分子材料、高分子添加剤などが挙げられる。
本発明の紫外線吸収剤を用いる場合、その態様はいずれの方法であってもよい。本発明の紫外線吸収剤を単独で用いても、組成物として用いても良いが、組成物として用いることが好ましい。中でも、本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料であることが好ましい。以下、本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料について説明する。
【0082】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は前記高分子物質を用いてなる。本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は、前記高分子物質のみから形成されたものでもよく、また、前記高分子物質を任意の溶媒に溶解して形成されたものでもよい。
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は、合成樹脂が使用される全ての用途に使用可能であるが、特に日光又は紫外線を含む光に晒される可能性のある用途に特に好適に使用できる。具体例としては、例えばガラス代替品とその表面コーティング材、住居・施設・輸送機器等の窓ガラス、採光ガラス及び光源保護ガラス用のコーティング材、住居・施設・輸送機器等のウインドウフィルム、住居・施設・輸送機器等の内外装材及び内外装用塗料及び、該塗料によって形成させる塗膜、アルキド樹脂ラッカー塗料及び該塗料によって形成される塗膜、アクリルラッカー塗料及び該塗料によって形成される塗膜、蛍光灯、水銀灯等の紫外線を発する光源用部材、精密機械、電子電気機器用部材、各種ディスプレイから発生する電磁波等の遮断用材、食品、化学品、薬品等の容器又は包装材、ボトル、ボックス、ブリスター、カップ、特殊包装用、コンパクトディスクコート、農工業用シート又はフィルム材、印刷物、染色物、染顔料等の退色防止剤、ポリマー支持体用(例えば、機械及び自動車部品のようなプラスチック製部品用)の保護膜、印刷物オーバーコート、インクジェット媒体被膜、積層艶消し、オプティカルライトフィルム、安全ガラス/フロントガラス中間層、エレクトロクロミック/フォトクロミック用途、オーバーラミネートフィルム、太陽熱制御膜、日焼け止めクリーム、シャンプー、リンス、整髪料等の化粧品、スポーツウェア、ストッキング、帽子等の衣料用繊維製品及び繊維、カーテン、絨毯、壁紙等の家庭用内装品、プラスチックレンズ、コンタクトレンズ、義眼等の医療用器具、光学フィルタ、バックライトディスプレーフィルム、プリズム、鏡、写真材料等の光学用品、金型膜、転写式ステッカー、落書き防止膜、テープ、インク等の文房具、標示板、標示器等とその表面コーティング材等を挙げることができる。
【0083】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料の形状としては、平膜状、粉状、球状粒子、破砕粒子、塊状連続体、繊維状、管状、中空糸状、粒状、板状、多孔質状などのいずれの形状であってもよい。
【0084】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は、本発明の紫外線吸収剤を含有しているため、優れた耐光性(紫外光堅牢性)を有しており、紫外線吸収剤の析出や長期使用によるブリードアウトが生じることがない。また、本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は、優れた長波紫外線吸収能を有するので、紫外線吸収フィルタや容器として用いることができ、紫外線に弱い化合物などを保護することもできる。例えば、前記高分子物質を押出成形又は射出成形などの任意の方法により成形することで、本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料からなる成形品(容器等)を得ることができる。また、別途作製した成形品に前記高分子物質の溶液を塗布・乾燥することで、本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料からなる紫外線吸収膜がコーティングされた成形品を得ることもできる。
【0085】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料を紫外線吸収フィルタや紫外線吸収膜として用いる場合、高分子物質は透明であることが好ましい。透明高分子材料の例としては、セルロースエステル(例、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリスチレン(例、シンジオタクチックポリスチレン)、ポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン)、ポリメチルメタクリレート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド及びポリオキシエチレンなどが挙げられる。好ましくはセルロースエステル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル樹脂であり、より好ましくはポリカーボネート、ポリエステルである。さらに好ましくはポリエステルであり、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートである。本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は透明支持体として用いることもでき、透明支持体の透過率は80%以上であることが好ましく、86%以上であることがさらに好ましい。
【0086】
本発明において、異なる構造を有する二種類以上の前記一般式(1)で表される化合物を併用してもよいし、前記一般式(1)で表される化合物とそれ以外の構造を有する一種類以上の紫外線吸収剤とを併用してもよい。二種類(好ましくは三種類)の紫外線吸収剤を併用すると、広い波長領域の紫外線を吸収することができる。また、二種類以上の紫外線吸収剤を併用すると、紫外線吸収剤の分散状態が安定化するとの作用もある。前記一般式(1)以外の構造を有する紫外線吸収剤としては、いずれのものでも使用できる。紫外線吸収剤の構造として知られているトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、メロシアニン系、シアニン系、ジベンゾイルメタン系、桂皮酸系、シアノアクリレート系、安息香酸エステル系などの化合物が挙げられる。例えば、ファインケミカル、2004年5月号、28〜38ページ、東レリサーチセンター調査研究部門発行「高分子用機能性添加剤の新展開」(東レリサーチセンター、1999年)96〜140ページ、大勝靖一監修「高分子添加剤の開発と環境対策」(シーエムシー出版、2003年)54〜64ページなどに記載されている紫外線吸収剤が挙げられる。
【0087】
前記一般式(1)以外の構造を有する紫外線吸収剤として好ましくは、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系、シアノアクリレート系、トリアジン系の化合物である。より好ましくはベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系の化合物である。特に好ましくはベンゾトリアゾール系の化合物である。
【0088】
ベンゾトリアゾール系化合物の有効吸収波長は約270〜380nmで、代表例としては2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(2−(オクチルオキシカルボニル)エチル)フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ドデシル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−(ジメチルベンジル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクチルオキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス(2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール)2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)−5’−メチルベンジル)フェニル)ベンゾトリアゾール等を挙げることができる。
【0089】
ベンゾフェノン系化合物の有効吸収波長は約270〜380nmで、代表例としては2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノントリヒドレート、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ジエチルアミノ−2’−ヘキシルオキシカルボニルベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、1,4−ビス(4−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシフェノキシ)ブタン等を挙げることができる。
【0090】
サリチル酸系化合物の有効吸収波長は約290〜330nmで、代表例としてはフェニルサリシレート、p−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレートなどを挙げることができる。
【0091】
シアノアクリレート系化合物の有効吸収波長は約270〜350nmで、代表例としては2−エチルヘキシル 2−シアノ−3、3−ジフェニルアクリレート、エチル 2−シアノ−3、3−ジフェニルアクリレート、ヘキサデシル 2−シアノ−3−(4−メチルフェニル)アクリレート、2−シアノ−3−(4−メチルフェニル)アクリル酸塩、1,3−ビス(2’−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ)−2,2−ビス(((2’−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ)メチル)プロパン等を挙げることができる。
【0092】
トリアジン系化合物の有効吸収波長は約270〜380nmで、代表例としては2−(4−ヘキシロキシ−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(4−オクチロキシ−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジ(2,5−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジ(4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジ(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−(3−(2−エチルヘキシロキシ)−2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジ(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−(3−ドデシロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジ(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジ(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−6−(4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジ(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン等を挙げることができる。
【0093】
また、前記一般式(1)又は(9)〜(11)のいずれかで表される化合物は、蛍光増白剤として好適に用いることができる。一般に、蛍光増白剤は約320〜約410nmの波長の光を吸収して、約410〜約500nmの波長の光を放射する性質を有する化合物よりなる。これらの蛍光増白剤で染められた織物は本来の黄色い反射光のほかに、新たに蛍光増白剤により発光される約410〜約500nmの波長の青色光が付加されるため反射光は白色になり、かつ、蛍光効果による分だけ可視光のエネルギーが増加するため結果として増白されたことになる。
【0094】
以下、前記一般式(1)又は(9)〜(11)のいずれかで表される化合物からなる蛍光増白剤について説明する。蛍光増白剤の使用形態は、いずれでも良い。例えば、液体分散物、溶液、高分子材料などが挙げられる。
【0095】
蛍光増白剤は、分散媒体に分散された分散物の状態で使用できる。蛍光増白剤を含む分散物の分散媒体、調製プロセス、蛍光増白剤含有量および分散装置は、上述の紫外線吸収剤の場合と同じである。
【0096】
また、蛍光増白剤は、液体状の媒体に溶解された溶液の状態で使用できる。蛍光増白剤を含む溶液における蛍光増白剤の添加方法、含有量および溶液は、上述の紫外線吸収剤の場合と同じである。
【0097】
また、蛍光増白剤は、高分子材料に好ましく用いられる。蛍光増白剤を含む高分子材料の高分子物質、添加剤、形状、用途は、上述の紫外線吸収剤の場合と同じである。
【0098】
蛍光増白剤のみでは短波長域が十分にカットしきれない場合には紫外線吸収剤を併用することが好ましい。
併用する紫外線吸収剤としては、いずれのものでも使用できる。例としては、前記一般式(1)で表される化合物からなる紫外線吸収剤や、上述の紫外線吸収剤の例を挙げることができる。これらの紫外線吸収剤は1種または2種以上を併用することができる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
実施例1
(例示化合物(19)の調製)
無水イサト酸50g及びアントラニル酸46gに水500mlを加えた。この混合物を還流下に1時間反応させた。室温まで冷却後、濾過、水洗浄し、得られた固体をエタノールとクロロホルムで再結晶することにより合成中間体Aを70g得た(収率91%)。
【0101】
【化15】

【0102】
合成中間体A50gにトルエン1−メチル−2−ピロリドン200mlを加えた。この溶液に2−ナフトイルクロリド40gを添加し、室温で1時間反応させた後、無水酢酸300mlを加え、還流下に2時間反応させた。室温まで冷却後、濾過、水とアセトンで洗浄することで例示化合物(19)を70g得た(収率91%)。
MS:m/z 392
1H NMR(重DMSO):δ7.35−7.39(1H),δ7.61−7.64(1H),δ7.67−7.76(4H),δ7.96−8.00(1H),δ8.08−8.13(3H),δ8.18−8.23(3H),δ8.67(1H),δ8.79−8.81(1H),δ12.78(1H)
λmax=274nm(EtOAc)
【0103】
実施例2
(例示化合物(30)の調製)
前記合成中間体A50gにトルエン1−メチル−2−ピロリドン200mlを加えた。この溶液に1−ナフトイルクロリド40gを添加し、室温で1時間反応させた後、無水酢酸300mlを加え、還流下に2時間反応させた。室温まで冷却後、濾過、水とアセトンで洗浄することで例示化合物(30)を70g得た(収率91%)。
MS:m/z 392
1H NMR(重DMSO):δ7.01−7.03(1H),δ7.37−7.41(1H),δ7.60−7.65(3H),δ7.70−7.77(2H),δ7.84−7.87(1H),δ8.04−8.10(2H),δ8.14−δ8.16(2H),δ8.19−8.21(1H),δ8.42−8.44(1H),δ8.72−8.74(1H),δ12.57(1H)
λmax=283nm(EtOAc)
【0104】
実施例3
(例示化合物(46)の調製)
前記合成中間体A50gにトルエン1−メチル−2−ピロリドン200mlを加えた。この溶液に2−テノイルクロリド30gを添加し、室温で1時間反応させた後、無水酢酸300mlを加え、還流下に2時間反応させた。室温まで冷却後、濾過、水とアセトンで洗浄することで例示化合物(46)を60g得た(収率88%)。
MS:m/z 348
1H NMR(重DMSO):δ7.33−7.37(2H),δ7.67−7.71(2H),δ7.76−7.78(1H),δ7.97−8.04(3H),δ8.15−8.17(1H),δ8.20−8.21(1H),δ8.57−8.60(1H),δ12.35(1H)
λmax=279nm(EtOAc)
【0105】
実施例4
(例示化合物(68)の調製)
インドール−2−カルボン酸30gのトルエン1ml混合物にオキサリルクロライド40gを滴下した。DMFを数滴添加後、室温で30分、80℃で10分攪拌した。この反応液を前記合成中間体A50gの1−メチル−2−ピロリドン200ml溶液に添加し、室温で1時間反応させた後、無水酢酸300mlを加え、還流下に2時間反応させた。室温まで冷却後、濾過、水とアセトンで洗浄することで例示化合物(68)を60g得た(収率81%)。
MS:m/z 381
1H NMR(重DMSO):δ7.12−7.16(1H),δ7.26−7.30(1H),δ7.33−7.37(2H),δ7.49−7.51(1H),δ7.68−7.74(2H),δ7.78−7.83(2H),δ8.06−8.10(1H),δ8.17−8.19(1H),δ8.21−8.23(1H),δ8.67−8.69(1H),δ12.00(1H),δ12.51(1H)
λmax=285nm(EtOAc)
【0106】
<最大吸収波長および吸光度の測定>
調製した例示化合物(19)、例示化合物(30)、例示化合物(46)および例示化合物(68)からなる紫外線吸収剤について、島津製作所製分光光度計UV−3600(商品名)を用いて、最大吸収波長および吸光度を測定した。吸光度は、前記の各紫外線吸収剤3.2mg(例示化合物19、30、68の場合)又は2.9mg(例示化合物30の場合)を酢酸エチル100mlに溶解させて、溶液中260nm以上における最大吸収波長の吸光度を1となるようにして試料No.1〜4を調製し、各試料について測定波長350nm及び395nmのそれぞれにおける吸光度を測定した。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
<熱質量測定>
各試料の熱質量減少率について、熱質量分析計(TG/DTA6200、商品名、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用い、次のように求めた。例示化合物(19)10mgを秤量してサンプルセルに入れ、窒素ガス雰囲気下に毎分30℃で280℃まで昇温し、その後280℃で30分保持させた時の質量減少率を計算した。同様にして、例示化合物(30)、例示化合物(46)、例示化合物(68)の質量減少率を計算した。結果を表2に示す。
【0109】
【表2】

【0110】
<フィルム耐久性評価>
テトラヒドロフランにポリスチレンまたはメタクリル酸メチルポリマーを10〜30質量%溶解し、バインダー溶液を調製した。次にバインダー溶液に例示化合物(19)を0.01〜10質量%溶解させ、塗布液を調製した。同様にして、例示化合物(30)、例示化合物(46)、例示化合物(68)、並びに下記比較化合物AおよびBについて、それぞれ塗布液を調製した。厚さ100μmのPETフィルムを基材とし、その上に上記塗布液をコーターにより塗布し、1時間自然乾燥させ、膜厚5〜200μmの被膜を形成して、評価用フィルムを作製した。
作製したフィルムについて、蛍光灯を1ヶ月間点灯した後、フィルム表面の外観を目視によって観察した。その結果、例示化合物(19)、例示化合物(30)、例示化合物(46)又は例示化合物(68)を使用したフィルムの表面は、該化合物のブリードアウトは見られなかった。一方、下記比較化合物A又はBを使用したフィルムの表面は、該化合物がブリードアウトして白くなっており汚れていた。
【0111】
<溶液耐光性評価>
例示化合物(19)1mgを酢酸エチル100mlに溶解し、試料溶液を調製した。同様にして、例示化合物(30)、例示化合物(46)及び例示化合物(68)、並びに下記比較化合物A、B、C及びDについて、それぞれ試料溶液を調製した。試料溶液はそれぞれ1cm石英セルにて日立分光光度計UV−4100(商品名)を用いて吸光度を測定した。この試料溶液を封入したセルに対して、キセノンランプで照度17万ルクスになるように光照射し、2日間照射後の各化合物の残存量をそれぞれ測定した。残存量は次式に従い計算した。
残存量(%)=100×(照射後の吸光度)/(照射前の吸光度)
なお、吸光度はそれぞれの化合物の溶液中260nm以上における最大吸収波長で測定した値である。結果を表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
【化16】

【0114】
表3の結果から明らかなように、本発明の紫外線吸収剤は、UV−A領域に吸収を有する既存の紫外線吸収剤である比較化合物A、B、C及びDと比較して、試料溶液中の残存率が高く、光照射によって分解しにくいことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物からなる紫外線吸収剤。
【化1】

(式中、R1a、R1b、R1c、R1d、R1e、R1f、R1g及びR1hは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表し、Aは、1価の置換基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)におけるAが、下記一般式(2)で表される基である、請求項1記載の紫外線吸収剤。
【化2】

(式中、Z1は、環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。)
【請求項3】
前記一般式(2)で表される基が、下記一般式(3)、(4)又は(5)のいずれかで表される基である、請求項2記載の紫外線吸収剤。
【化3】

(前記一般式(3)〜(5)中、R2a、R2b、R2c、R2d、R2e及びR2fは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表し、Z2及びZ3は、それぞれ環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、Z4は、複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。)
【請求項4】
前記一般式(3)、(4)又は(5)のいずれかで表される基が、下記一般式(6)、(7)又は(8)のいずれかで表される基である、請求項3記載の紫外線吸収剤。
【化4】

(前記一般式(6)〜(8)中、R3a、R3b、R3c、R3d、R3e、R3f、R3g、R3h、R3i、R3j、R3k、R3l、R3m、R3n、R3o、R3p及びR3qは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。)
【請求項5】
溶液中260nm以上における最大吸収波長の吸光度を1となるように調液したとき、350nmにおける吸光度が0.2以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤。
【請求項6】
溶液中260nm以上における最大吸収波長の吸光度を1となるように調液したとき、395nmにおける吸光度が0.05以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤。
【請求項7】
熱質量測定にて280℃、30分加熱の前後における質量減少率が20%以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤。
【請求項8】
下記一般式(9)、(10)又は(11)のいずれかで表される化合物。
【化5】

(前記一般式(9)〜(11)中、R4a、R4b、R4c、R4d、R4e、R4f、R4g、R4h、R4i、R4j、R4k、R4l、R4m及びR4nは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表し、Z5及びZ6は、それぞれ環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、Z7は、複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。)
【請求項9】
前記一般式(9)、(10)又は(11)におけるAが、下記一般式(12)、(13)又は(14)のいずれかで表される基である、請求項8記載の化合物。
【化6】

(前記一般式(12)〜(14)中、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、R5g、R5h、R5i、R5j、R5k、R5l、R5m、R5n、R5o、R5p及びR5qは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。)
【請求項10】
置換あるいは無置換のアントラニル酸と置換あるいは無置換の無水イサト酸とを反応させる工程、並びに前記工程で得られた反応中間体に下記一般式(15)、(16)又は(17)のいずれかで表される化合物を反応させる工程を含む、請求項8又は9に記載の化合物の製造方法。
【化7】

(前記一般式(15)〜(17)中、X1、X2及びX3は、それぞれハロゲン原子を表す。R6a、R6b、R6c、R6d、R6e及びR6fは、それぞれ互いに独立して水素原子または1価の置換基を表し、Z8及びZ9は、それぞれ環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、Z10は、複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。)

【公開番号】特開2009−185217(P2009−185217A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28228(P2008−28228)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】