説明

紫外線吸収剤を含有する水性分散物の製造方法

【課題】紫外線吸収剤を高濃度で含有し、かつ、高い透明性を有する紫外線吸収剤の水性分散物を提供すること。
【解決手段】紫外線吸収剤を有機溶媒に溶解し油相液を調製する工程(A)と、前記工程(A)において得られた油相液と水相液とを混合する工程(B)と、乳化により水媒体中に油滴を生成させる工程(C)とを含む水性分散物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収剤を含有する水性分散物の製造方法に関し、より詳細には、紫外線吸収剤を高濃度で含有する水性分散物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境面などの問題から、自動車や建材用の塗料、プラスチック製品用のコーティング剤、インクなどの分野において水性化が進んでいる。これらの塗料やコーティング剤には、形成された被膜の耐候性を高めるために、紫外線吸収剤が添加される場合がある。ところが、紫外線吸収剤の多くは、通常、油性の有機化合物からなるために、水性塗料に単に紫外線吸収剤を配合しても、紫外線吸収剤が水性塗料に良好に分散せず、形成される被膜が十分な耐候性を発現しないという問題があった。
また、これら油性の紫外線吸収剤を水性分散したものは分散された紫外線吸収剤の粒子が粗大であるために、被膜を形成したときの透明性が十分に得られず、透明性が要求される用途には使用しにくいという問題があった。
【0003】
自動車や建材用の水性塗料やコーティング剤において、近年、ますます高耐光性の要求が高まっていることから、高濃度の水性分散物が求められている。更に、自動車のクリアコートや、プラスチック製の窓、太陽電池用のフロントシートなどでは、被膜に高い透明性が求められている。
しかし、従来の紫外線吸収剤水性分散物は、塗料などに活用する場合に高濃度で使用すると、分散物中の油滴の粒径が大きいために、透明性が損なわれる(特許文献1、2)。
また、塗膜形成成分である樹脂を重合する工程で紫外線吸収剤を添加する方法で分散物を製造する方法が知られているが(特許文献3)、この方法では適宜コーティング液に混合して使用できる分散物を得ることはできなかった。
更に、紫外線吸収剤のなかでも、化合物のモル吸光係数が高く効果的に紫外線を吸収する化合物の多くは、分子内に可溶化基を有していないために樹脂や溶剤への溶解性が低く、従来の方法では高濃度の分散物を得られないという問題もあった(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−261759号公報
【特許文献2】特開2002−201420号公報
【特許文献3】特許第3056427号公報
【特許文献4】特表2007−505179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、紫外線吸収剤を高濃度で含有し、かつ、高い透明性を有する紫外線吸収剤の水性分散物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、下記手段により本発明の上記課題が達成されることを見出した。
【0007】
[1]
紫外線吸収剤を有機溶媒に溶解し油相液を調製する工程(A)と、
前記工程(A)において得られた油相液と水相液とを混合する工程(B)と、
前記工程(B)において得られた油相液と水相液との混合物を乳化により水媒体中に油滴を生成させる工程(C)と
を含む水性分散物の製造方法。
[2]
更に、脱溶媒工程(D)によって、乳化物を実質的に有機溶媒を含まない分散物へ変換する工程を含む上記[1]に記載の水性分散物の製造方法。
[3]
前記工程(A)における有機溶媒が、主溶媒と補助溶媒とを含む2種類以上の有機溶媒の混合物であって、該補助溶媒が水溶性溶媒であり、該補助溶媒を有機溶媒の全体量に対して5質量%以上30質量%未満の範囲で含有する、上記[1]又は[2]に記載の水性分散物の製造方法。
[4]
前記工程(A)で使用する主溶媒に対する紫外線吸収剤の25℃における溶解度が5質量%以下である、上記[3]に記載の水性分散物の製造方法。
[5]
前記工程(C)において、ディゾルバー、超音波分散機、又は高圧ホモジナイザーを用いる、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の水性分散物の製造方法。
[6]
前記工程(B)における水相液に水溶性高分子化合物を含む、上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の水性分散物の製造方法。
[7]
前記工程(C)において、低分子分散剤を含まない状態で乳化させる、上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の水性分散物の製造方法。
[8]
上記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の方法により製造された水性分散物。
[9]
上記[8]に記載の水性分散物に、更にバインダー成分及び硬化剤のうち少なくとも一方を混合させる工程(E)を含む塗料の製造方法。
[10]
前記バインダー成分がアクリルシリコーン系バインダーである上記[9]に記載の塗料の製造方法。
[11]
上記[9]又は[10]に記載の方法で製造された塗料。
[12]
上記[11]に記載の塗料から得られる被膜。
[13]
上記[11]に記載の塗料を基材に塗布して得られる被膜を有する部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、紫外線吸収剤を高濃度で含有し、かつ、高い透明性を有する紫外線吸収剤の水性分散物の製造方法を提供することができる。この方法によって製造された水性分散物は、自動車や建材用の塗料、プラスチック製品用の水性コーティング剤、インクなどの耐光性向上のために有用な材料であると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について更に詳しく説明する。
【0010】
本発明の水性分散物の製造方法は、
紫外線吸収剤を有機溶媒に溶解し油相液を調製する工程(A)と、
前記工程(A)において得られた油相液と水相液とを混合する工程(B)と、
前記工程(B)において得られた油相液と水相液との混合物を乳化により水媒体中に油滴を生成させる工程(C)と
を含む。
【0011】
[工程(A)]
本発明の水性分散物の製造方法における工程(A)では、紫外線吸収剤を有機溶媒に溶解し油相液を調製する。ここで、油相液とは有機溶媒媒体とし、紫外線吸収剤及び必要に応じて添加剤を溶解させた液体である。
【0012】
<紫外線吸収剤>
本発明で用いられる紫外線吸収剤は、例えば、大勝靖一監修「高分子添加剤の開発と環境対策」(シーエムシー出版、2003年)第2章、東レリサーチセンター調査研究部門編集「高分子用機能性添加剤の新展開」(東レリサーチセンター、1999年)2.3.1、などに記載されている紫外線吸収剤が挙げられる。例えば、紫外線吸収剤の構造として知られているトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、メロシアニン系、シアニン系、ジベンゾイルメタン系、桂皮酸系、アクリレート系、安息香酸エステル系シュウ酸ジアミド系などの化合物が挙げられる。また、紫外線吸収剤としては、例えば、ファインケミカル、2004年5月号、28〜38ページ、東レリサーチセンター調査研究部門発行「高分子用機能性添加剤の新展開」(東レリサーチセンター、1999年)96〜140ページ、大勝靖一監修「高分子添加剤の開発と環境対策」(シーエムシー出版、2003年)54〜64ページなどに記載されている。
本発明で用いられる紫外線吸収剤は、好ましくは、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系、アクリレート系、又はトリアジン系の化合物であり、より好ましくはベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、又はトリアジン系の化合物であり、更に好ましくはベンゾトリアゾール系、又はトリアジン系の化合物であり、特に好ましくはトリアジン系の化合物である。
【0013】
本発明で用いられる紫外線吸収剤としては下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0014】
{一般式(1)で表される化合物}
【0015】
【化1】

【0016】
[R1a、R1b、R1c、R1d及びR1eは、互いに独立して、水素原子又はヒドロキシ基を除く1価の置換基を表し、置換基のうち少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基を表す。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは、互いに独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。]
【0017】
1a、R1b、R1c、R1d、R1eは、互いに独立して、水素原子又はヒドロキシ基を除く1価の置換基を表し、置換基のうち少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基を表す。
1a、R1b、R1c、R1d、R1eが表す置換基のうち1〜3個がハメット則のσp値が正である置換基を表すことが好ましく、1〜2個がハメット則のσp値が正である置換基を表すことがより好ましい。
【0018】
前記一般式(1)における1価の置換基(以下置換基Aともいう)としては、例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルキル基(例えばメチル、エチル)、炭素数6〜20のアリール基(例えばフェニル、ナフチル)、シアノ基、カルボキシル基、置換又は無置換のアルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、置換又は無置換のカルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、置換又は無置換のアルキルカルボニル基(例えばアセチル)、アリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、置換又は無置換のアミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、置換スルホアミノ基)、アシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、イミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、イミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基(例えばメトキシ)、置換又は無置換のアリールオキシ基(例えばフェノキシ)、アシルオキシ基(例えばアセトキシ)、アルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、アリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、置換又は無置換のスルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ)、チオシアネート基、置換又は無置換のアルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、アリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、炭素数6〜20のヘテロ環基(例えばピリジル、モルホリノ)などを挙げることができる。
これらが置換基を有する場合の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アリールオキシ基、スルファモイル基、チオシアネート基、又はアルキルスルホニル基を挙げることができる。
また、置換基は更に置換されていても良く、置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。その際、置換基の例としては、上述の1価の置換基Aを挙げることができる。
また置換基同士で結合して環を形成しても良い。
【0019】
置換基同士で結合して形成される環としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピリダジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環、ゲルモール環、ホスホール環等が挙げられる。
【0020】
前記一般式(1)における1価の置換基としては、ハロゲン原子、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルキル基、シアノ基、カルボキシル基、置換又は無置換のアルコキシカルボニル基、置換又は無置換のカルバモイル基、置換又は無置換のアルキルカルボニル基、ニトロ基、置換又は無置換のアミノ基、ヒドロキシ基、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換又は無置換のアリールオキシ基、置換又は無置換のスルファモイル基、チオシアネート基、又は置換又は無置換のアルキルスルホニル基が好ましく、OR(Rは、水素原子又は1価の置換基を表す。)、アルキル基、アミド基がより好ましく、OR、アルキル基が更に好ましい。
は、水素原子又は1価の置換基を表し、1価の置換基としては前記置換基Aを挙げることができる。中でも炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基を表すことが好ましい。炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基が更に好ましく、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、t−ヘキシルを挙げることができ、メチル又はエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
【0021】
前記一般式(1)におけるハメット則のσp値が正である置換基のσ値は、好ましくは0.1〜1.2の範囲である。ハメット則のσp値が正である置換基として、例えばCOOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基及びSOMを好適に挙げることができ、なかでもCOORが好ましい。なお、R、Rは、水素原子又は1価の置換基を表し、Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。
【0022】
前記一般式(1)において、R1h又はR1nが、水素原子であることが好ましく、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが、水素原子であることがより好ましい。また、pKaは、−5.0〜−7.0の範囲であることが好ましい。
以下に、本発明の好ましい態様について、更に説明する。
【0023】
本発明における好ましい第一の態様として、R1a、R1c、R1eのうち少なくとも1つが、ハメット則のσp値が正である置換基を表す態様を挙げることができる。
1cがハメット則のσp値が正である置換基を表すことがより好ましい。
1cがハメット則のσp値が正である置換基であり、R1a、R1b、R1d、R1eは水素原子を表すことが更に好ましい。
1cがハメット則のσp値が正である置換基を表す場合、電子求引性基によりLUMOが安定化されるため、励起寿命が短くなり、耐光性が向上するため好ましい。これにより一般式(1)で表される化合物は、特に耐光性に優れ、該化合物を含む塗料用組成物は耐光性向上に優れたものとなる効果を有する。
また、好ましい第ニの態様として、R1a、R1c及びR1eが、水素原子を表し、R1b及びR1dが、互いに独立して、水素原子又はハメット則のσp値が正である置換基を表し、少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基である態様を挙げることができる。
これにより、一般式(1)で表される化合物は、特に溶剤溶解性が優れ、該化合物を含む塗料用組成物を適用した塗膜からの析出防止に優れたものとする効果を有する。
溶剤溶解性とは、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエンなどの有機溶剤への溶解性を意味し、塗料用組成物を適用した塗膜からの析出防止の点で、使用する溶剤に対し、10質量%以上溶解することが好ましく、30質量%以上溶解することがより好ましい。
【0024】
<好ましい第一の態様>
第一の態様においては、前記一般式(1)におけるハメット則のσp値が正である置換基として、好ましくは、σ値が0.1〜1.2の電子求引性基である。σ値が0.1以上の電子求引性基の具体例としては、COOR(Rは、水素原子又は1価の置換基を表し、水素原子、アルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基がより好ましい。)、CONR(Rは、水素原子又は1価の置換基を表す。)、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOM(Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。)、アシル基、ホルミル基、アシルオキシ基、アシルチオ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、ジアルキルホスフィニル基、ジアリールホスフィニル基、ホスホリル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アシルチオ基、スルファモイル基、チオシアネート基、チオカルボニル基、イミノ基、N原子で置換したイミノ基、カルボキシ基(又はその塩)、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基(例えばトリフルオロメチル基)、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルコキシ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアリールオキシ基、アシルアミノ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキルアミノ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキルチオ基、σ値が0.2以上の他の電子求引性基で置換されたアリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アゾ基、セレノシアネート基などが挙げられる。ハメットのσp値については、Hansch,C.;Leo,A.;Taft,R.W.Chem.Rev.1991,91,165−195に詳しく記載されている。
【0025】
前記一般式(1)におけるハメット則のσp値が正である置換基として、より好ましくは、COOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOMである[R、Rは、互いに独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す]。この中でもCOOR又はシアノ基がより好ましく、COOR、であることが更に好ましい。優れた耐光性と溶解性を有するためである。
【0026】
、Rとしては水素原子又は1価の置換基を表し、1価の置換基としては前記置換基Aを挙げることができる。中でも炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基が好ましく、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基がより好ましい。炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、t−ヘキシル、n−オクチル、t−オクチル、i−オクチルを挙げることができ、メチル又はエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
【0027】
前記一般式(1)で表される化合物において、R1cがCOOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOMのいずれかであることが好ましく、COOR又はシアノ基よりが好ましく、シアノ基が更に好ましい。
【0028】
また、本発明において、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが1価の置換基を表す場合は、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pのうち少なくとも1つが、前記ハメット則のσp値が正である置換基を表すことがより好ましく、R1g、R1h、R1i及びR1jのうち少なくとも1つが、前記ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基を表すことがより好ましく、R1hが前記ハメット則のσp値が正である置換基を表すことが更に好ましい。R1c及びR1hが前記ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基を表すことが特に好ましい。優れた耐光性を有するためである。
本発明において、R1h又はR1nがそれぞれ独立に水素原子、COOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOMのいずれかであることが好ましく、R1h又はR1nが水素原子であることがより好ましく、R1h及びR1nが水素原子であることが更に好ましく、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが水素原子を表すことが特に好ましい。優れた耐光性を示すためである。
【0029】
前記一般式(1)で表される化合物において、R1cがハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基であって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは水素原子を表すことが好ましく、R1cがCOOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOMのいずれかであって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは水素原子であることがより好ましい。優れた耐光性を示すためである。
【0030】
前記一般式(1)で表される化合物はpKaが−5.0〜−7.0の範囲であることが好ましい。更に−5.2〜−6.5の範囲であることがより好ましく、−5.4〜−6.0の範囲であることが特に好ましい。
【0031】
<好ましい第ニの態様>
好ましい第ニの態様として、R1a、R1c及びR1eが、水素原子を表し、R1b及びR1dが、互いに独立して、水素原子又はハメット則のσp値が正である置換基を表し、少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基である態様を挙げることができる。
1a、R1c及びR1eが、水素原子を表し、R1b及びR1dが、互いに独立して、水素原子又はハメット則のσp値が正である置換基を表し、少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基である第ニの態様においては、前記一般式(1)におけるハメット則のσp値が正である置換基として、より好ましくは、COOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、又はSOMである[R、Rは、互いに独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す]。R、Rの1価の置換基としては、前述のように前記置換基Aを挙げることができる。
前記一般式(1)におけるハメット則のσp値が正である置換基として、より好ましくは、COOR又はシアノ基であり、COORであることが更に好ましい。ハメット則のσp値が正である置換基がシアノ基である場合、優れた耐光性を示すためである。また、ハメット則のσp値が正である置換基がCOORである場合、優れた溶解性を示すためである。
は水素原子又はアルキル基を表すことが好ましく、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基がより好ましく、炭素数1〜15の直鎖又は分岐鎖アルキル基が更に好ましい。
【0032】
は、溶媒に対する溶解性の観点からは、炭素数5〜15の分岐鎖アルキル基がより好ましい。
分岐鎖アルキル基は2級炭素原子又は3級炭素原子を有し、2級炭素原子又は3級炭素原子を1〜5個含むことが好ましく、1〜3個含むことが好ましく、1又は2個含むことが好ましく、2級炭素原子及び3級炭素原子を1又は2個含むことがより好ましい。また、不斉炭素を1〜3個含むことが好ましい。
は、溶媒に対する溶解性の観点からは、2級炭素原子及び3級炭素原子を1又は2個含み、不斉炭素を1又は2個含む炭素数5〜15の分岐鎖アルキル基であることが特に好ましい。
これは、化合物構造の対称性がくずれ、溶解性が向上するためである。
【0033】
一方、紫外線吸収能の観点からは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基がより好ましい。
炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、t−ヘキシル、n−オクチル、t−オクチル、i−オクチルを挙げることができ、メチル又はエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
【0034】
また、本発明において、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが1価の置換基を表す場合は、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pのうち少なくとも1つが、前記ハメット則のσp値が正である置換基を表すことがより好ましく、R1g、R1h、R1i及びR1jのうち少なくとも1つが、前記ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基を表すことがより好ましく、R1hが前記ハメット則のσp値が正である置換基を表すことが更に好ましい。R1b又はR1d、及びR1hが前記ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基を表すことが特に好ましい。優れた耐光性を有するためである。
本発明において、R1h又はR1nがそれぞれ独立に水素原子、COOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOMのいずれかであることが好ましく、R1h又はR1nが水素原子であることがより好ましく、R1h及びR1nが水素原子であることが更に好ましく、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが水素原子を表すことが特に好ましい。優れた耐光性を示すためである。
【0035】
前記一般式(1)で表される化合物において、R1b又はR1d、がハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基であって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは水素原子を表すことが好ましく、R1b又はR1d、がCOOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOMのいずれかであって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは水素原子であることがより好ましい。優れた耐光性を示すためである。
【0036】
前記一般式(1)で表される化合物はpKaが−5.0〜−7.0の範囲であることが好ましい。更に−5.2〜−6.5の範囲であることがより好ましく、−5.4〜−6.0の範囲であることが特に好ましい。
【0037】
前記一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれに限定されない。なお、下記の具体例中Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、Buはt−ブチル基を表し、Phはフェニル基を表し、−C13はn−ヘキシルを表す。
【0038】
【化2】

【0039】
【化3】

【0040】
【化4】

【0041】
【化5】

【0042】
【化6】

【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
【化10】

【0047】
【化11】

【0048】
前記一般式(1)で表される化合物は、構造とその置かれた環境によって互変異性体を取り得る。本発明においては代表的な形の一つで記述しているが、本発明の記述と異なる互変異性体も本発明の化合物に含まれる。
【0049】
前記一般式(1)で表される化合物は、同位元素(例えば、H、H、13C、15N、17O、18Oなど)を含有していてもよい。
【0050】
前記一般式(1)で表される化合物は、任意の方法で合成することができる。
例えば、公知の特許文献や非特許文献、例えば、特開平7−188190号公報、特開平11−315072、特開2001−220385号公報、「染料と薬品」第40巻12号(1995)の325〜339ページなどを参考にして合成できる。具体的には、例示化合物(16)はサリチルアミドと3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイル クロリドと2−ヒドロキシベンズアミジン塩酸塩とを反応させることにより合成できる。また、サリチルアミドとサリチル酸と3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンズアミジン塩酸塩とを反応させることによっても合成できる。
【0051】
本発明における一般式(1)で表される紫外線吸収剤は、有機材料を光、酸素又は熱による損傷に対して安定化させるのに特に適している。中でも前記一般式(1)で表される化合物は、光安定剤、とりわけ紫外線吸収剤として好適に用いることができる。
【0052】
前記一般式(1)で表される化合物は特定の位置にハメット則のσp値が正である置換基を有するため、電子求引性基によりLUMOが安定化されるため、励起寿命が短くなり、優れた耐光性を有するという特徴を有する。紫外線吸収剤として用いた際にも、一般式(1)で表される化合物以外のトリアジン系化合物を用いた場合は、長時間使用した場合は分解して黄変する場合もあるが、前記一般式(1)で表される化合物は優れた耐光性を有するため長時間使用した場合でも分解せず黄変することがないという効果が得られる。
【0053】
前記一般式(1)で表される化合物の極大吸収波長は、特に限定されないが、好ましくは250〜400nmであり、より好ましくは280〜380nmである。半値幅は好ましくは20〜100nmであり、より好ましくは40〜80nmである。
【0054】
本発明において規定される極大吸収波長及び半値幅は、当業者が容易に測定することができる。測定方法に関しては、例えば日本化学会編「第4版実験化学講座7分光II」(丸善,1992年)180〜186ページなどに記載されている。具体的には、適当な溶媒に試料を溶解し、石英製又はガラス製のセルを用いて、試料用と対照用の2つのセルを使用して分光光度計によって測定される。用いる溶媒は、試料の溶解性と合わせて、測定波長領域に吸収を持たないこと、溶質分子との相互作用が小さいこと、揮発性があまり著しくないこと等が要求される。上記条件を満たす溶媒であれば、任意のものを選択する。該溶媒としては有機溶媒又は無機溶媒を用いることができ、有機溶媒としては、例えばアミド系溶媒(例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチルー2−ピロリドン)、スルホン系溶媒(例えばスルホラン)スルホキシド系溶媒(例えばジメチルスルホキシド)、ウレイド系溶媒(例えばテトラメチルウレア)、エーテル系溶媒(例えばジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル)、ケトン系溶媒(例えばアセトン、シクロヘキサノン)、炭化水素系溶媒(例えばトルエン、キシレン、n−デカン)、ハロゲン系溶媒(例えばテトラクロロエタン,クロロベンゼン、クロロナフタレン)、アルコール系溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、シクロヘキサノール、フェノール)、ピリジン系溶媒(例えばピリジン、γ―ピコリン、2,6−ルチジン)、エステル系溶媒(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル)、カルボン酸系溶媒(例えば酢酸、プロピオン酸)、ニトリル系溶媒(例えばアセトニトリル)、スルホン酸系溶媒(例えばメタンスルホン酸)、アミン系溶媒(例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン)等を用いることができる。無機溶媒としては、例えば硫酸、リン酸等を用いることができる。
前記一般式(1)の化合物の溶解性の点から、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒、ウレイド系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒、エステル系溶媒が好ましい。
本発明における化合物の極大吸収波長及び半値幅は、酢酸エチル(EtOAc)を溶媒として、濃度約5×10−5mol・dm−3の溶液を調製し、光路長10mmの石英セルを使用して測定した値を使用することができる。
【0055】
測定のための前記一般式(1)の化合物の濃度は、分光吸収の極大波長が確認できる濃度であれば特に制限されず、好ましくは1×10−7〜1×1013mol/Lの範囲である。
測定のための温度は特に制限されず、好ましくは0℃〜80℃である。
分光吸収測定装置としては、特に制限されず、通常の分光吸収測定装置(例えば、日立ハイテクノロジーズ(株)製U−4100スペクトロフォトメーター)を用いることができる。
【0056】
スペクトルの半値幅に関しては、例えば日本化学会編「第4版実験化学講座3 基本操作III」(丸善、1991年)154ページなどに記載がある。なお、上記成書では波数目盛りで横軸を取った例で半値幅の説明がなされているが、本発明における半値幅は波長目盛りで軸を取った場合の値を用いることとし、半値幅の単位はnmである。具体的には、極大吸収波長における吸光度の1/2の吸収帯の幅を表し、吸収スペクトルの形を表す値として用いられる。半値幅が小さいスペクトルはシャープなスペクトルであり、半値幅が大きいスペクトルはブロードなスペクトルである。ブロードなスペクトルを与える紫外線吸収化合物は、極大吸収波長から長波側の幅広い領域にも吸収を有するので、黄色味着色がなく長波紫外線領域を効果的に遮蔽するためには、半値幅が小さいスペクトルを有する紫外線吸収化合物の方が好ましい。
【0057】
時田澄男著「化学セミナー9 カラーケミストリー」(丸善、1982年)154〜155ページに記載されているように、光の吸収の強さすなわち振動子強度はモル吸光係数の積分に比例し、吸収スペクトルの対称性がよいときは、振動子強度は極大吸収波長における吸光度と半値幅の積に比例する(但しこの場合の半値幅は波長目盛りで軸を取った値である)。このことは遷移モーメントの値が同じとした場合、半値幅が小さいスペクトルを有する化合物は極大吸収波長における吸光度が大きくなることを意味している。このような紫外線吸収化合物は少量使用するだけで極大吸収波長周辺の領域を効果的に遮蔽できるメリットがあるが、波長が極大吸収波長から少し離れると急激に吸光度が減少するために、幅広い領域を遮蔽することができない。
【0058】
前記一般式(1)で表される化合物は、極大吸収波長におけるモル吸光係数が20000以上であることが好ましく、30000以上であることがより好ましく、50000以上であることが特に好ましい。20000以上であれば、前記一般式(1)で表される化合物の質量当たりの吸収効率が十分得られるため、紫外線領域を完全に吸収するための前記一般式(1)で表される化合物の使用量を低減できる。これは皮膚刺激性や生体内への蓄積を防ぐ観点、及びブリードアウトが生じにくい点から好ましい。なお、モル吸光係数については、例えば日本化学会編「新版実験化学講座9 分析化学[II]」(丸善、1977年)244ページなどに記載されている定義を用いたものであり、上述した極大吸収波長及び半値幅を求める際に合わせて求めることができる。
【0059】
本発明においては、異なる構造を有する二種類以上の前記一般式(1)で表される化合物を併用してもよいし、前記一般式(1)で表される化合物とそれ以外の構造を有する一種類以上の紫外線吸収剤を併用してもよい。二種類(好ましくは三種類)の紫外線吸収剤を併用すると、広い波長領域の紫外線を吸収することができる。
【0060】
<有機溶媒>
本発明における工程(A)で使用することができる有機溶媒としては、例えば、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒、ウレイド系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒、及びエステル系溶媒が好ましく挙げられ、アミド系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、炭化水素系溶媒、及びエステル系溶媒がより好ましく、ケトン系溶媒、及びエステル系溶媒が更に好ましい。
アミド系溶媒としては、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチルー2−ピロリドンなどが挙げられる。
スルホン系溶媒としては、例えばスルホランなどが挙げられる。
スルホキシド系溶媒としては、例えばジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
ウレイド系溶媒としては、例えばテトラメチルウレアなどが挙げられる。
エーテル系溶媒としては、例えばジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテルが挙げられ、テトラヒドロフランが特に好ましい。
ケトン系溶媒としては、例えばメチルエチルケトン(MEK)、アセトン、シクロヘキサノンが挙げられ、メチルエチルケトンが特に好ましい。
ハロゲン系溶媒としては、例えばテトラクロロエタン、クロロベンゼン、クロロナフタレンなどが挙げられる。
炭化水素系溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、n−デカンなどが挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられ、酢酸エチルが特に好ましい。
【0061】
工程(A)で用いる有機溶媒は、2種類以上の有機溶媒の混合物であってもよい。
工程(A)で用いる有機溶媒は、主溶媒と補助溶媒とを含む2種類以上の有機溶媒の混合物であってもよい。ここで主溶媒とは、混合溶媒のうちで含有質量比が最も大きい有機溶媒であり、補助溶媒とは、主溶媒以外に使用している有機溶媒である。
主溶媒としては、後に述べる工程(B)において、水相液の水と溶媒が混ざり合い油相液の紫外線吸収剤が析出してしまうことを抑制するという観点から、25℃における水に対する溶解度が、20質量%以下であるものが好ましく、0.1質量%以上20質量%以下であるものがより好ましく、ケトン系溶媒、又はエステル系溶媒が好ましい。
補助溶媒としては、極性の高い紫外線吸収剤にたいする溶解度を向上させることが出来るという観点から、水溶性溶媒であることが好ましく、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒がより好ましく、テトラヒドロフランが特に好ましい。ここで、水溶性溶媒とは、25℃における水に対する溶解度が20質量%より大きい溶媒を指し、好ましくは水に対する溶解度が50質量%よりおおきい溶媒である。
【0062】
工程(A)においては、通常、乳化における油相に溶解させる化合物として使用が困難な、主溶媒に対する溶解度が低い紫外線吸収剤も好ましく用いることができる。例えば、主溶媒に対する紫外線吸収剤の25℃における溶解度が10質量%以下であるものを用いることができ、5質量%以下であるものも好ましく用いることができる。このように主溶媒に対する溶解度が低い紫外線吸収剤であっても用いることができる理由としては、主溶媒と水溶性溶媒である補助溶媒を用いることで、紫外線吸収剤の溶解度を高くすることができるからである。
【0063】
主溶媒と補助溶媒とを含む2種類以上の有機溶媒の混合物であって、該補助溶媒が水溶性溶媒であり、該補助溶媒を有機溶媒の全体量に対して5質量%以上30質量%未満の範囲で含有することがより好ましく、5質量%以上20質量%未満の範囲で含有することが更に好ましい。水溶性の補助溶媒の含有量が上記範囲であると、乳化時に油相の溶媒が水相に溶解し、油滴が生成できない問題や、油相液の溶媒が水相溶解することにより油相の紫外線吸収剤の溶解度が下がって、紫外線吸収剤が析出することがないため好ましい。
【0064】
工程(A)で紫外線吸収剤を溶剤に溶解させる温度は、紫外線吸収剤の溶解度を向上させるという理由から40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、40℃以上80℃以下であることが更に好ましい。溶剤の沸点以上の温度で還流させながら溶解させることも好ましく行なうことができる。
【0065】
油相液には適宜分散助剤などの添加剤を添加することも好ましく行なわれる。添加剤として好ましくはノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0066】
[工程(B)]
工程(B)では、工程(A)で得られた油相液を別途調製した水相液と混合する。工程(B)における油相液と水相液との混合は、いかなる方法で行なってもよく、例えば、ディゾルバーやスターラーを用いた攪拌混合、振とうなどが挙げられる。ここで、水相液とは水を溶媒とし、分散剤などを溶解させた均一な液体である。
【0067】
水相液としては、高分子分散剤としての水溶性高分子化合物の水溶液が好ましく用いられる。水溶性高分子化合物として好ましくは、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等のような水溶性樹脂を用いることが出来る。また、特に好ましくはポリビニルアルコール、又はゼラチンを用いることができ、最も好ましくはポリビニルアルコールである。
【0068】
水相液における水溶性高分子化合物の濃度は5質量%〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。水相液における水溶性高分子化合物の濃度が30質量%以下であれば水相液の粘度が上昇しすぎないため好ましく、5質量%以上であれば分散安定性が向上するため好ましい。
【0069】
水相液には適宜分散助剤などの添加剤を添加することも好ましい。添加剤として好ましくは界面活性剤が挙げられる。
【0070】
工程(B)における水相液と油相液の混合比率は、分散が均一に速やかに進行することから、(水相液の質量/油相液の質量)が10/1〜1/10であることが好ましく、5/1〜1/2であることがより好ましく、5/1〜1.5/1であることが更に好ましい。
【0071】
工程(B)における水相液と油相液との混合時の温度は、油相からの紫外線吸収剤の析出を防ぐ観点から、25℃〜80℃が好ましく、25℃〜60℃であることがより好ましく、40℃〜60℃が更に好ましい。
【0072】
[工程(C)]
工程(C)では前記工程(B)において得られた油相液と水相液との混合物を乳化により水媒体中に微細な油滴を生成させる。ここで、水媒体とは水を媒体として、分散剤などを溶解させた液であり、油滴とは前記油相液中の有機溶媒と紫外線吸収剤を主成分としてなる液滴であり、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定などにより、径を測定することができる。
微細な油滴を生成させるための装置として、大きな剪断力を有する高速撹拌型分散機、高強度の超音波エネルギーを与える分散機などを使用できる。具体的には、コロイドミル、ホモジナイザー、毛細管式乳化装置、液体サイレン、電磁歪式超音波発生機、ポールマン笛を有する乳化装置などが挙げられる。
本発明で使用するのに好ましい高速撹拌型分散機は、ディゾルバー、ポリトロン、ホモミキサー、ホモブレンダー、ケデイーミル、ジェットアジターなど、分散作用する要部が液中で高速回転(好ましくは500〜20,000rpm、より好ましくは2,000〜20,000rpm)するタイプの分散機である。本発明で使用する高速撹拌型分散機は、ディゾルバーないしは高速インペラー分散機とも呼ばれ、特開昭55−129136号公報にも記載されているように、高速で回転する軸に鋸歯状のプレートを交互に上下方向に折り曲げたインペラーを着装してなるものも好ましい一例である。
本発明で使用することができる高速撹拌型分散機として、特に好ましくは、ディゾルバー、高圧ホモジナイザー、又は超音波分散機である。
【0073】
ディゾルバーは(商品名:エクセルオートホモジナイザーED−11、製造元:日本精機製作所)を用いることができる。
乳化時はスケールに応じて様々な形状、翼径の羽根を用いることができ、羽根の周速は好ましくは3.14m/s〜50m/sである。
【0074】
高圧ホモジナイザーとしては、(商品名:マイクロフルイダイザーM−110EH−XP、製造元:みづほ工業)を用いることができる。
【0075】
超音波分散機としては、(商品名:超音波ホモジナイザーUS−300T、製造元:日本精機製作所)を用いることができる。
【0076】
工程(C)で生成した油滴の平均粒子径は市販の粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。粒子径分布測定装置としては、例えばLA−920(堀場製作所製、商品名)を用いることができる。
工程(C)で得た乳化物における油滴の平均粒子径(メジアン径)は乳化物の透明性の観点から、400nm以下であることが好ましく、より好ましくは100〜350nmであり、更に好ましくは100〜150nmである。
【0077】
工程(C)においては、分散剤を用いてもよい。分散剤としては、低分子のもの、及び高分子のものいずれも用いることができる。低分子の分散剤としては低分子界面活性剤が好ましく用いられる。低分子界面活性剤は平均分子量が10000以下の化合物であることが好ましく、より好ましくは2000以下であり、1100以下であることが更に好ましく、100〜1100であることが特に好ましく、最も好ましくは300〜1100である。
【0078】
例えば、使用される高分子分散剤にアニオン性化合物が含まれている場合には、低分子界面活性剤として、アニオン性低分子界面活性化合物、又はノニオン性低分子界面活性化合物、あるいはアニオン性低分子界面活性化合物とノニオン性低分子界面活性化合物との組み合わせを用いることが好ましい。また、高分子分散剤がカチオン性化合物を含む場合には、低分子界面活性剤として、カチオン性低分子界面活性化合物、又はノニオン性低分子界面活性化合物、あるいはカチオン性低分子界面活性化合物とノニオン性低分子界面活性化合物との組み合わせを用いることが好ましい。上記好ましい条件を満たす限り、2種以上の低分子界面活性剤を併用しても何ら問題はない。
【0079】
アニオン性低分子界面活性化合物の種類には、特に限定がないが、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、及びラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸等のアルキルアリールスルホン酸、及びその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、などのポリエーテル硫酸塩、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、及びスルホコハク酸ジオクチルナトリウム等のスルホコハク酸塩、ラウリルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸、及びポリオキシエチレンフェニルエーテルリン酸等の有機リン酸化合物及びその塩、などを用いることができる。
【0080】
カチオン性低分子界面活性剤化合物としては、例えば塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム等のハロゲン化アルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化トリ(ポリオキシエチレン)ステアリルアンモニウム等のハロゲン化アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、塩化ステアリルペンタエトキシアンモニウム、並びに、クロロ−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース等を用いることができる。
【0081】
ノニオン性低分子界面活性剤化合物としては、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ミリスチン酸ジエタノールアミド、ミスチリン酸ジエタノールアミド、及びポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のアルキロールアマイド、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、及びポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸エチレングリコール、及びジステアリン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル、モノカプリル酸デカグリセリン、モノステアリン酸グリセリン、モノカプリル酸ソルビタン、モノラウリル酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、ジステアリン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、及びトリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソリビット、及びテトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(ブロック体)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、及びエチレンジアミンテトラポリオキシエチレンポリオキシプロピレン等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、並びにポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルポリマーなどがある。
【0082】
高分子分散剤としては、1100以上の平均分子量を有するものが好ましい。例えば、下記化合物を挙げることができる。これらの高分子分散剤の平均分子量は1800以上であることが好ましく、2,000〜1,000,000であることがより好ましい。
また、本発明に用いられる高分子分散剤は、その1分子当り2個以上のイオン基(アニオン基又はカチオン基)を有するものであってもよい。
【0083】
高分子界面活性化合物の例
(1)アクリル酸重合物のアルカリ金属塩、アミン塩及びアンモニア塩
(2)無水マレイン酸とアクリル酸との共重合物、及びこれらのアルカリ金属塩、アミン塩、及びアンモニア塩
(3)イタコン酸とアクリル酸との共重合物、及びこれらのアルカリ金属塩、アミン塩及び、アンモニア塩
(4)ポリオキシプロピレン(以下、POPと略す)−ポリオキシエチレン(以下、POEと略す)ブロックポリマー
(5)カチオンモノマーとノニオンモノマーとの共重合物(例えばアルキルビニルピリジニウムとアルキルビニルアルコールのアルキレンオキシド付加物との共重合物)
(6)ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩
(7)メラミン−スルホン酸ホルマリン縮合物
(8)スルホン化スチレン−無水マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩
(9)ポリエポキシコハク酸のナトリウム塩
(10)ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物
(11)ポリビニルアルコール
(12)脂肪酸デキストリン
(13)カルボキシメチルセルロース
(14)エチレンジアミン−POP・POEブロックポリマー
(15)アルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸アルキルアクリルアミド若しくはアクリロニトリルとの共重合体
(16)リニア多糖類の陽イオン性誘導体とオレフィン単量体のグラフト共重合体
(17)ポリ4−ビニルピリジン型陽イオン界面活性剤
【0084】
これらの高分子界面活性化合物は、2種以上の混合物を用いてもよいが、その際、同種イオン性のもの、又は同種イオン性のものとノニオン性のものとの組み合わせを用いることが好ましい。
【0085】
また、高分子分散剤としては、下記の水溶性樹脂を用いることができる。例えば、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等のような水溶性樹脂である。
【0086】
工程(C)においては、低分子分散剤を含まない状態で乳化させることができる。低分子低分散剤を含まないことで、得られる水性分散物を塗料などの用途に使用する場合はブリードアウトによる透明性の低下が起こりにくいという理由から好ましい。
【0087】
工程(C)を経て得られる水性分散物とは、水を媒体として、紫外線吸収剤を溶解した油滴が均一に分散している液である。水性分散物における紫外線吸収剤の濃度は1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0088】
[工程(D)]
本発明においては、前記工程(C)の後に、更に脱溶媒工程(D)により、油相液に用いた有機溶媒を留去し、乳化物を実質的に有機溶媒を含まない分散物とする工程を含むことが好ましい。ここで、有機溶媒を実質的に含まないとは、例えば、有機溶媒の分散物における含有量が1質量%以下であることを言う。溶媒の残存量はガスクロマトグラフィーなどの通常の手法で測定することができる。
脱溶媒工程(D)としては種々の方法を用いることができるが、減圧濃縮が好ましい。
【0089】
脱溶媒工程(D)を経て得た分散物における油滴の平均粒子径(メジアン径)は分散物の透明性の観点から、400nm以下であることが好ましく、より好ましくは100〜350nmであり、更に好ましくは100〜150nmである。
【0090】
脱溶媒工程(D)を経て得られた分散物における紫外線吸収剤の濃度は1質量%〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは、5質量%〜20質量%であり、更に好ましくは8質量%〜15質量%である。
【0091】
[工程(E)]
本発明では前記工程(A)、工程(B)、及び工程(C)、更に必要に応じて工程(D)を経て得られた水性分散物に、更にバインダー成分及び硬化剤のうち少なくとも一方を混合させる工程(E)を行い、塗料を調製することができる。好ましくはバインダー成分及び硬化剤の両方を含有する塗料である。
バインダー成分としては水系バインダーとして用いられるいかなるものも好ましく用いられるが、特に、フッ素系バインダー及びアクリルシリコーン系バインダーが好ましく用いられ、アクリルシリコーン系バインダーがより好ましい。
フッ素系バインダーとしては、例えば、オブリガートSW0011F(AGC社製、商品名)を用いることができる。
アクリルシリコーン系バインダーとしては例えばセラネートWSA−1070(DIC社製、商品名)を用いることができる。
塗料におけるバインダー成分の濃度は、5〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは、5〜30質量%であり、更に好ましくは5〜20質量%である。
【0092】
硬化剤としては、エポキシ系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、イソシアネート系硬化剤が好ましく用いられる。
エポキシ系硬化剤としては、例えばデナコールEX−614B(ナガセケムテックス社製)を好ましく用いることができる。
カルボジイミド系硬化剤としては、例えば(商品名、カルボジライトV−02−L2、日清紡社製)を好ましく用いることができる。
また、DIC社製 ウォーターゾールWSA−950なども好ましく用いることができる。
塗料における硬化剤の濃度は、0.5〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜3質量%であり、更に好ましくは0.5〜2質量%である。
【0093】
得られた塗料における紫外線吸収剤の濃度は、1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは、1〜5質量%であり、更に好ましくは2〜5質量%である。
【0094】
本発明の塗料は、用途に応じて、鉄鋼、非鉄金属、軽金属、木、ガラス、コンクリート、樹脂、ゴム、皮革、紙、皮膚などの任意の基材に塗設し、被膜を形成し、所望の部材とすることができる。なお、380nm以上の波長に感応する基材上に塗設することで、本発明の塗料用組成物の性能を有効に活用することができる。
被膜は、用途に応じて、任意の厚みで塗設することができるが、最終的な被膜の厚みとして、好ましくは0.1〜10000μm、より好ましくは0.1〜2000μmであり、更に好ましくは1〜1000μm、更に好ましくは5〜1000μmであり、更に好ましくは5〜200μmである。これら塗料を塗布する方法は任意であるが、ワイヤーバーによる塗布、ドクターブレードによる塗布、スプレー法、ディッピング法、ローラーコート法、フローコーター法、流し塗り法、電着コート法、粉末流動塗装法、はけによる塗布などがある。
塗布後の乾燥は、塗料成分によって異なるが、自然乾燥、加熱乾燥(概ね室温〜180℃で1〜90分程度)を行うことができる。
なお、バインダー成分が、熱硬化型である場合は、加熱(一般的には100℃以上10分)することにより、紫外線や電子線硬化などの光硬化型である場合は、所望の光や電子線を照射することで、塗膜を硬化させる。
被膜の表面硬度は、用途に応じて異なるが、JIS K5400に規定の鉛筆硬度で2B〜6Hであることが好ましく、B〜4Hであることが更に好ましい。本発明の塗料用組成物による被膜は、どのような形態で塗設されてもよく、いわゆる下塗り、中塗りなどとして被膜を形成してもよい。好ましくは上塗り塗装として被塗装体を紫外線の悪影響から守るために塗設される。
【実施例】
【0095】
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0096】
本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0097】
合成例1(例示化合物(m−2)の調製)
サリチル酸300gをトルエン600mLに懸濁させ、塩化チオニル258gとDMF7mLを加え、50℃で2時間攪拌した(溶液A)。サリチルアミド299.0gにアセトニトリル900mLとDBU(ジアザビシクロウンデセン(1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene))660gを添加し溶解させた溶液に、調製した溶液Aを5℃条件下で滴下し、その後、室温下で24時間攪拌した。この反応液に35%塩酸300mLを添加し、室温で2時間攪拌した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Aを504g得た(収率90%)。
【0098】
【化12】

【0099】
合成中間体A140gにトルエン1400mLとp−トルエンスルホン酸一水和物10.5gを添加し、150℃で6時間攪拌した。60℃まで冷却後、この反応液にトリエチルアミン14mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Bを122g得た(収率94%)。
【0100】
【化13】

【0101】
イソフタロニトリル401gにメタノール8000mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液309gを加え、室温で3時間攪拌した。この反応液に塩化アンモニウム428gを加え、室温で24時間攪拌した。この反応液をロータリーエバポレーターで濃縮し、得られた固体をメタノールと酢酸エチルで洗浄して、水で再結晶することにより合成中間体Cを310g得た(収率55%)。
【0102】
【化14】

【0103】
合成中間体C42gにメタノール1000mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液44gを加えた。この懸濁液に室温下で合成中間体Bを50g添加し、室温で2時間、60℃で2時間攪拌した。この反応液に35%塩酸2mLを加え、得られた固体をメタノールと水で洗浄することにより例示化合物(m−2)を74g得た(収率96%)。MS:m/z 367(M+)H NMR(CDCl):δ7.07−7.14(4H),δ7.56−7.60(2H),δ7.75−7.79(1H),δ7.96−7.98(1H),δ8.51−8.53(2H),δ8.67−8.69(1H),δ8.80(1H),δ12.76(1H)λmax=354nm(EtOAc)
【0104】
化合物(m−21)の合成
(例示化合物(m−21)の調製)
例示化合物(m−2)25gに3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール200gと硫酸13gを添加し、還流条件下で16時間攪拌した。室温まで冷却後、得られた固体をメタノールと水で洗浄して例示化合物(m−21)を32g得た(収率91%)。MS:m/z 512(M+)H NMR(CDCl):δ0.88−0.93(9H),δ1.07−1.08(3H),δ1.14−1.92(1H),δ1.32−1.37(1H),δ1.67−1.88(3H),δ4.40−4.45(2H),δ6.99−7.06(4H),δ7.48−7.53(2H),δ7.64−7.68(1H),δ8.29−8.32(1H),δ8.46−8.57(3H),δ9.08(1H),δ12.86(2H)λmax=354nm(EtOAc)
化合物(m−21)の25℃における酢酸エチルへの溶解度は3質量%であった。
【0105】
(実施例1)
工程(A):油相液の調製
酢酸エチル18gに対して、前記化合物(m−21)を2g添加し、50℃に加熱し10分間攪拌し、化合物(m−21)を溶解させた。
【0106】
工程(B):油相液と水相液の混合
(ゼラチン水溶液の調製)
200mLのガラス容器を用いて、60℃にした蒸留水80gに対して,マグネチックスターラーで攪拌しながらゼラチン20gを少量ずつ添加した。温度を60℃に保ち、マグネチックスターラーで1時間攪拌し、20質量%のゼラチン水溶液を調製した。
(PVA水溶液の調製)
200mLのガラス容器を用いて、80℃にした蒸留水85gに対して,マグネチックスターラーで攪拌しながらPVA−205((株)クラレ社製、商品名)を15gを少量ずつ添加した。マグネチックスターラーで攪拌しながら温度を95℃まで上昇させた。温度を95℃に保ち、30分間攪拌し、15質量%のPVA水溶液を調製した。また、同様にして、5質量%の水溶液を調製した。
(油送液と水相液の混合)
工程(A)で得られた油相液と、20質量%ゼラチン水溶液とを質量比1/2.1、温度40℃で混合し、SUS容器を用いて、ディゾルバーで500rpmで5分間攪拌し、均一な液とした。
【0107】
工程(C):微小油滴の生成
工程(B)で得られた均一な液を、50℃で、更に10分間超音波分散(注1)し、乳化物1を得た。超音波分散は、超音波ホモジナイザーUS−300T(日本精機製作所製)を用いて行なった。得られた乳化物1の油滴の平均粒子径を測定したところ、メジアン径121nmであった。
【0108】
脱溶媒工程(D)
工程(C)で得られた乳化物1からエバポレーターを用いて有機溶媒を留去し分散物1を得た。残留した有機溶媒の量をガスクロマトグラフィーによって測定したところ、0.7質量%以下であった。分散物1の油滴の平均粒子径を測定したところ、メジアン径121nmであった。
【0109】
(実施例2〜11)
工程(A)の油相液の組成、工程(B)で使用した水相液の組成、油相液と水相液の量、工程(C)の分散条件を下記表1のように変更した以外は実施例1と同様にして、乳化物2〜11及び分散物2〜11を製造した。なお、下記表1における各成分の量は質量部を表す。
【0110】
【表1】

【0111】
(注1) 超音波分散は、超音波ホモジナイザーUS−300T(日本精機製作所製)を用いた。
(注2) ディスパー1は、攪拌機マゼラZ−1110(東京理化器械社製)(翼径5cm)を用いた。
(注3) 高圧ホモジナイザーはマイクロフルイダイザーM−110EH−XP、製造元:みづほ工業を用いた。
(注4) ディスパー2は、エクセルオートホモジナイザーED−11(日本精機製作所社製)(翼径5cm)を用いた。
【0112】
表1において、TINUVIN−1577はチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製であり、下記構造の化合物である。
【0113】
【化15】

【0114】
(実施例12)
UVフィルター1〜13の作成
作成した乳化物及び分散物を用いて、表2の組成で充分に攪拌混合し、塗布液を作成した。得られた塗布液をガラス基板に、ワイヤーバーを用いて塗布、乾燥し、UVフィルター1〜13を作成した。ワイヤーバーは中央テクノ製のワイヤーバーを使用した。
【0115】
(比較例1)
UVフィルター14の作成
分散液としてTINUVIN−477 DW(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製の紫外線吸収剤含有水性分散物、メジアン径137nm)を用いた以外は同様にして、表2の組成でUVフィルターを作成した。なお、下記表2における各成分の量は質量部を表す。
【0116】
塗布膜の厚さをミツトヨ社製 マイクロメータMDC−25MJを用いて測定した。
塗布膜1は7μmであった。塗布膜7は13μmであった。塗布膜8は7μmであった。塗布膜12は10μmであった。塗布膜14は15μmであった。
【0117】
(耐光性試験)
作成したUVフィルターの裏面にPETフィルムを貼り付け試験サンプルとして,メタルハライドランプ照射装置(岩崎電気社製 アイスーパーUVテスターW151)を用いて,900W/m、63℃、相対湿度50%の条件で200時間の暴露試験を行った。
試験後のサンプルについて、PETフィルム劣化防止の観点で、PETフィルムの着色度合いを評価した。また、UVカット性能保持の観点で、暴露後のUVフィルター性能を評価した。
PETフィルムの着色劣化度合いについては、PETフィルムの黄色度を測定し、10未満を◎、10以上20未満を○、20以上を×と評価した。
暴露後UVフィルター性能については、380nmの透過率を測定し、透過率が10%未満を○、10%以上を×と評価した。
黄色度及び透過率の測定は、日立ハイテク社製分光光度計U−4100(商品名)にて測定した。
【0118】
【表2】

【0119】
バインダー1 セラネートWSA−1070 (DIC社製,固形分40質量%)
バインダー2 セラネートWSA−1070 (DIC社製,固形分40質量%)15.6gに蒸留水27gを加えた液
硬化剤−1 日清紡社製 カルボジライトV−02−L2 10gに蒸留水30gを加えた水溶液
硬化剤−2 DIC社製 ウォーターゾールWSA−950
塗布助剤 ナロアクティーCL−95(三洋化成社製)の1%水溶液
【0120】
以上のように、本発明の水性分散物は、内容物や成形体(基材)を紫外線から保護するための劣化保護用途、例えば、薬品・食品等を包装する材料やガラス瓶等に紫外線吸収層を形成するためのコーティング剤の材料として利用可能である。また、染料等の色素の退色防止用コーティング剤や、シリコーン系やアクリル系のハードコート層に添加し、UVカット性を付与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線吸収剤を有機溶媒に溶解し油相液を調製する工程(A)と、
前記工程(A)において得られた油相液と水相液とを混合する工程(B)と、
前記工程(B)において得られた油相液と水相液との混合物を乳化により水媒体中に油滴を生成させる工程(C)と
を含む水性分散物の製造方法。
【請求項2】
更に、脱溶媒工程(D)によって、乳化物を実質的に有機溶媒を含まない分散物へ変換する工程を含む請求項1に記載の水性分散物の製造方法。
【請求項3】
前記工程(A)における有機溶媒が、主溶媒と補助溶媒とを含む2種類以上の有機溶媒の混合物であって、該補助溶媒が水溶性溶媒であり、該補助溶媒を有機溶媒の全体量に対して5質量%以上30質量%未満の範囲で含有する、請求項1又は2に記載の水性分散物の製造方法。
【請求項4】
前記工程(A)で使用する主溶媒に対する紫外線吸収剤の25℃における溶解度が5質量%以下である、請求項3に記載の水性分散物の製造方法。
【請求項5】
前記工程(C)において、ディゾルバー、超音波分散機、又は高圧ホモジナイザーを用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性分散物の製造方法。
【請求項6】
前記工程(B)における水相液に水溶性高分子化合物を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性分散物の製造方法。
【請求項7】
前記工程(C)において、低分子分散剤を含まない状態で乳化させる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性分散物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により製造された水性分散物。
【請求項9】
請求項8に記載の水性分散物に、更にバインダー成分及び硬化剤のうち少なくとも一方を混合させる工程(E)を含む塗料の製造方法。
【請求項10】
前記バインダー成分がアクリルシリコーン系バインダーである請求項9に記載の塗料の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の方法で製造された塗料。
【請求項12】
請求項11に記載の塗料から得られる被膜。
【請求項13】
請求項11に記載の塗料を基材に塗布して得られる被膜を有する部材。

【公開番号】特開2012−111882(P2012−111882A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263019(P2010−263019)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】