説明

紫外線吸収組成物

【課題】高い可視光線透過性を有すると共に優れた紫外線遮蔽率を有する紫外線吸収組成物を提供する。
【課題の解決手段】酸化亜鉛と酸化鉄およびバインダーを含有し、酸化亜鉛および酸化鉄の表面がポリリン酸化合物によって吸着されていることを特徴とする紫外線吸収組成物であり、好ましくは、酸化亜鉛100重量部に対して酸化鉄を0.05〜1.0重量部含有し、酸化亜鉛の一次粒子径が30nm以下、酸化鉄の一次粒子径が100nm以下であり、ポリリン酸化合物がリン酸ポリエステルであって、薄膜を形成したときに、膜厚2μmにおいて、紫外線遮蔽率90%以上および可視光透過率が89%以上である紫外線吸収組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に配合されたときに、高い可視光線透過性を有すると共に優れた紫外線遮蔽率を有する紫外線吸収組成物に関する。本発明の紫外線吸収組成物は車輌窓ガラスなどの紫外線吸収膜の形成材料として好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性透明樹脂によって形成されたパネルなどは高い透明性を有するので、建築資材や各種の窓ガラス材料として広く使用されている。一方、窓ガラス等を通じて室内に透過する紫外線によって物品の劣化や変色、変質等を生じる場合があり、これを防止するために、熱可塑性樹脂に紫外線吸収剤を配合して紫外線を遮蔽することが知られている。
【0003】
例えば、特開2006−77075号公報(特許文献1)には、酸化チタンや酸化亜鉛などの紫外線吸収剤を熱可塑性樹脂に分散させた樹脂組成物であって、酸化チタンや酸化亜鉛等の紫外線吸収剤が、アルコキシ基またはヒドロキシル基と有機官能基を有するシランカップリング剤、チタンカップリング剤によって表面処理されており、紫外線吸収剤に対する表面処理剤の量が0.05〜10%であり、樹脂中の紫外線吸収剤の含有量が0.01〜30重量%である樹脂組成物が記載されている。
【0004】
上記樹脂組成物は、その実施例に記載されているように、紫外線透過率(Tuv)が9.2以下であり約88%以上の紫外線遮蔽効果を有するが、可視光透過率(Tv)は88.1%以下であり、紫外線遮蔽効果が90%以上であって可視光透過率が89%以上のものは示されていない。
【0005】
また、特開2007−153691号公報(特許文献2)には、樹脂組成物をガラス板で挟み込んでなる合わせガラスであって、上記樹脂組成物がリン含有化合物および赤外線吸収剤を含有する車両用合わせガラスが記載されている。この合わせガラスは、その実施例に記載されているように、日射透過率を抑制したものであり、一部の紫外線透過率が低く、紫外線遮蔽効果を有するが、可視光透過率が大幅に低く、紫外線遮蔽効果および可視光透過率が何れも高いものはない。
【特許文献1】特開2006−77075号公報
【特許文献2】特開2007−153691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の上記課題を解決したものであり、高い可視光線透過性を有すると共に優れた紫外線遮蔽率を有する紫外線吸収組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した紫外線吸収組成物に関する。
〔1〕酸化亜鉛と酸化鉄およびバインダーを含有し、酸化亜鉛および酸化鉄の表面がポリリン酸化合物によって吸着されていることを特徴とする紫外線吸収組成物。
〔2〕酸化亜鉛100重量部に対して酸化鉄を0.05〜1.0重量部含有する上記[1]に記載する紫外線吸収組成物。
〔3〕ポリリン酸化合物が次式[1]によって示されるリン酸ポリエステルである上記[1]または上記[2]に記載する紫外線吸収組成物。
【化1】

〔R1:アルキル基またはアルキルアリル基、R2:水素またはR(CH2CH2O)基、Rはアルキル基またはアルキルアリル基、n:エチレンオキサイド付加モル数、n=68以下、分子量3000以下、酸価40以上〕
〔4〕酸化亜鉛または酸化鉄に対するポリリン酸化合物の吸着量がおのおの0.1〜20重量%である上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する紫外線吸収組成物。
〔5〕酸化亜鉛の一次粒子径が30nm以下であり、酸化鉄の一次粒子径が100nm以下である上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する紫外線組成物。
〔6〕薄膜を形成したときに、膜厚2μmにおいて、紫外線遮蔽率90%以上および可視光透過率が89%以上である上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する紫外線吸収組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の紫外線吸収組成物は、優れた紫外線吸収効果を有すると共に高い可視光線透過率を有している。従って、車両用窓ガラスの合わせガラスに用いる透明樹脂組成物の材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の紫外線吸収組成物は、酸化亜鉛と酸化鉄およびバインダーを含有し、酸化亜鉛および酸化鉄の表面がポリリン酸化合物によって吸着されていることを特徴とする紫外線吸収組成物である。
【0010】
酸化亜鉛および酸化鉄は紫外線吸収剤として用いられる。酸化亜鉛および酸化鉄はポリリン酸化合物によって表面処理されており、酸化亜鉛および酸化鉄の表面はポリリン酸化合物によって吸着されている。
【0011】
上記ポリリン酸化合物は、次式[1]によって示されるリン酸ポリエステルが好ましい。
【化1】


〔R1:アルキル基またはアルキルアリル基、R2:水素またはR(CH2CH2O)基、Rはアルキル基またはアルキルアリル基、n:エチレンオキサイド付加モル数、n=68以下、分子量3000以下、酸価40以上〕
上記[1]式のリン酸ポリエステルとしては、例えば、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルなどが挙げられる。
【0012】
酸化亜鉛および酸化鉄に対するポリリン酸化合物の吸着量は、酸化亜鉛ないし酸化鉄の重量に対しておのおの0.1〜20重量%が好ましい。ポリリン酸化合物(上記リン酸ポリエステル等)の吸着量が上記範囲量よりも少ないと本発明の効果を得るのが難しく、上記吸着量が上記範囲量より多くても本発明の効果はあまり変わらない。
【0013】
酸化亜鉛の一次粒子径は30nm以下が適当であり、20nm以下が好ましい。また、酸化鉄の一次粒子径は100nm以下が適当であり、80nm以下が好ましい。これらの一次粒子径が上記範囲より大きいと、ヘーズが生じ、かつ可視光線透過率が低下する。
【0014】
酸化亜鉛と酸化鉄の割合は、酸化亜鉛100重量部に対して、酸化鉄0.05〜1.0重量部が好ましい。酸化鉄の含有量が0.05重量部よりも少ないと紫外線遮蔽率を97%以上に高めることができない。一方、酸化鉄の含有量が多くなると可視光線透過率が低下するので、酸化鉄の含有量は1.0重量部以下が適当であり、90%以上の可視光透過率を得るには酸化鉄の含有量は0.5重量部以下が好ましい。
【0015】
本発明の紫外線吸収組成物において、酸化亜鉛および酸化鉄と共に含有されるバインダーの種類はアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、シリカゾルゲル液など、粘着性を有し、かつ紫外線吸収組成物が配合される樹脂を損なわないものであれば良い。紫外線吸収組成物中のバインダー含有量は概ね30重量%以下であれば良い。
【0016】
本発明の紫外線吸収組成物は以下のようにして調製することができる。
(イ)酸化亜鉛粉末をリン酸ポリエステル等のポリリン酸化合物と共にアルコール溶液に加え、ビーズミルによって攪拌して酸化亜鉛粉末を分散させ、酸化亜鉛粉末分散液を形成する。
(ロ) 酸化鉄粉末をリン酸ポリエステル等のポリリン酸化合物と共にアルコール溶液に加え、ビーズミルによって攪拌して酸化鉄粉末を分散させ、酸化鉄粉末分散液を形成する。
(ハ)上記酸化亜鉛粉末分散液と酸化鉄粉末分散液とをバインダーと共にアルコール溶液に加えて混合することによって、本発明の紫外線吸収組成物が得られる。
【0017】
本発明の紫外線吸収組成物は優れた紫外線遮蔽率と共に高い可視光線透過率を有する薄膜を形成することができる。具体的には、例えば、本発明の紫外線吸収組成物を用いて薄膜を形成したときに、膜厚2μmにおいて、紫外線遮蔽率90%以上および可視光透過率が89%以上の薄膜を得ることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
〔紫外線吸収組成物の調製〕
酸化亜鉛粉末および酸化鉄粉末を、おのおのリン酸ポリエステルと共にアルコール溶液に加え、ビーズミルによって攪拌して分散させ、酸化亜鉛粉末分散液と、酸化鉄粉末分散液を形成した。この酸化亜鉛粉末分散液と酸化鉄粉末分散液とをバインダーと共にアルコール溶液に加えて混合し、表1に示す紫外線吸収組成物を調製した。
【0019】
〔薄膜の紫外線透過率・可視光透過率〕
表1の紫外線吸収組成物をPET樹脂に塗布し、膜厚2μmの薄膜を形成し、この薄膜の紫外線遮蔽率と可視光透過率を分光光度計(日立社製品U-4000)を用いて測定した。この結果を表1に示した。(紫外線遮蔽率は紫外線透過率の逆数)
【0020】
比較例1として、酸化鉄を含有しない以外は本発明の紫外線吸収組成物と同様に調製した組成物を用いて実施例と同様の薄膜を形成した。さらに、比較例2として、酸化亜鉛および酸化鉄をリン酸ポリエステルによって表面処理せずに用いた以外は本発明の紫外線吸収組成物と同様に調製した組成物を用いて実施例と同様の薄膜を形成した。これらの薄膜について紫外線遮蔽率と可視光透過率を分光光度計(日立社製品U-4000)を用いて測定した。この結果を表1〜表2に示した。
【0021】
表1〜表2に示すように、本発明のNo.1〜No.7は何れも、紫外線遮蔽率が97%以上であって可視光透過率が89%以上であり、No.1〜No.6は可視光透過率が何れも90%以上である。一方、比較例1は紫外線遮蔽率が97%以下であり、比較例2はポリオキシエチレンラウリルエーテル系の分散材を用いた例であり、紫外線遮蔽率と可視光透過率の何れも高いものはない。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛と酸化鉄およびバインダーを含有し、酸化亜鉛および酸化鉄の表面がポリリン酸化合物によって吸着されていることを特徴とする紫外線吸収組成物。
【請求項2】
酸化亜鉛100重量部に対して酸化鉄を0.05〜1.0重量部含有する請求項1に記載する紫外線吸収組成物。
【請求項3】
ポリリン酸化合物が次式[1]によって示されるリン酸ポリエステルである請求項1または請求項2に記載する紫外線吸収組成物。
【化1】

〔R1:アルキル基またはアルキルアリル基、R2:水素またはR(CH2CH2O)基、Rはアルキル基またはアルキルアリル基、n:エチレンオキサイド付加モル数、n=68以下、分子量3000以下、酸価40以上〕
【請求項4】
酸化亜鉛または酸化鉄に対するポリリン酸化合物の吸着量がおのおの0.1〜20重量%である請求項1〜請求項3の何れかに記載する紫外線吸収組成物。
【請求項5】
酸化亜鉛の一次粒子径が30nm以下であり、酸化鉄の一次粒子径が100nm以下である請求項1〜請求項4の何れかに記載する紫外線組成物。
【請求項6】
薄膜を形成したときに、膜厚2μmにおいて、紫外線遮蔽率90%以上および可視光透過率が89%以上である請求項1〜請求項5の何れかに記載する紫外線吸収組成物。

【公開番号】特開2010−155937(P2010−155937A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335445(P2008−335445)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】