説明

紫外線吸収能を有するポリマー材料

【課題】アルカリや金属イオンの存在下でも黄変を生じることなく、紫外線を遮断するのに十分な量の紫外線吸収剤が添加されたポリマー材料を提供する。
【解決手段】フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤(A)と、有機酸アニオン(B)と、および有機酸アニオン(B)との塩を形成する第4級アンモニウム基を構成成分として含むカチオン系ポリマー(C)とを、マトリックスとなるポリマー(D)に複合させてなり、紫外線吸収剤(A)とカチオン系ポリマー(C)との配合比が紫外線吸収剤(A)のフェノール性水酸基1当量に対するカチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基が10〜0.1当量となるポリマー材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収効果を有し、黄変現象のないポリマー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光に含まれる波長が250〜400nmの紫外線は、有機ポリマーを構成する原子中の電子を励起させることで、ラジカルを発生させ、これに起因する連鎖反応によりポリマーの主鎖や側鎖を切断することが知られている。紫外線によるこのような光劣化、酸化反応を防止するため、紫外線吸収剤が種々の分野で使用されている。例えば、日焼け止め製剤、スキンケア製品などの化粧品やプラスチックレンズ、フィルムなどのプラスチック、およびゴムのような高分子化合物の分野など、その用途は幅広い。
【0003】
一方、蛍光灯などの人工の光源から発せられる光にも紫外線が含まれているが、昆虫類は紫外線に向かって進む走行性があり、夜間には紫外線を含む光を放射する白色蛍光灯などに誘引され、群がってくる。この現象は、食品類を扱う食品加工、流通施設では大きな問題であり、食品の異物混入事例の3割は昆虫の混入と言われている。このように、紫外線の遮断は重要な課題となっている。
【0004】
このような用途に用いられる紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が一般に広く用いられているが、それらの多くはフェノール性水酸基を有するためアルカリや金属イオンによって着色し、黄変することが知られている。特に、透明な材料や白色の基材に適用する場合には、黄変が目立たない程度に紫外線吸収剤の使用量を制限する必要があり、結果として十分な紫外線遮断性能を発現させることができなかった。
【0005】
紫外線吸収剤の黄変トラブルに関して、特開2002−275416号公報(特許文献1)には、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンとイソシアノ基を有するアルコキシシランとを触媒を用いて反応させることにより、ベンゾフェノンのパラ位の水酸基を封鎖して水酸基のフェノラート化を防止する黄変抑制手段が開示されている。しかし、この方法では、ベンゾフェノンのオルト位の水酸基は封鎖されずに残っており、強アルカリや金属触媒による黄変の可能性は解消されていなかった。また、水酸基がパラ位にないベンゾフェノン系紫外線吸収剤では黄変を抑制することができないという問題がある。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤においても、その多くがフェノール性水酸基を有するため、黄変が問題となっているが、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤に関しては、その黄変を解決する方法が示されていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−275416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アルカリや金属イオンの存在下でも黄変を生じることなく、紫外線を遮断するのに十分な量の紫外線吸収剤が添加されたポリマー材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤が、アルカリや金属イオンの影響で黄変するという問題点を解決するために、紫外線吸収剤の発色機構に関して鋭意研究を重ねた結果、紫外線吸収剤に第4級アンモニウムカチオン、特に第4級アンモニウム基を構成成分として含むカチオン系ポリマー(ポリアンモニウム)を共存させることにより、強アルカリや金属イオンの存在下でも紫外線吸収剤の黄変を阻止することができることを見出し、この知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の[1]〜[6]からなる。
[1]フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤(A)と、有機酸アニオン(B)と、および有機酸アニオン(B)との塩を形成する第4級アンモニウム基を構成成分として含むカチオン系ポリマー(C)とを、マトリックスとなるポリマー(D)に複合させてなるポリマー材料であって、紫外線吸収剤(A)とカチオン系ポリマー(C)との配合比が紫外線吸収剤(A)のフェノール性水酸基1当量に対するカチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基が10〜0.1当量となるものである、ポリマー材料。
【0010】
[2]フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤(A)がベンゾトリアゾール基、ベンゾフェノン基およびトリアジン環から選ばれる少なくとも1種を有し、第4級アンモニウム基を構成成分として含むカチオン系ポリマー(C)が主鎖および/または側鎖にアルキルアンモニウム基および/または第4級アンモニウム基を含む五員環または六員環構造を有するカチオン系ポリマーであり、紫外線吸収剤(A)がマトリックスとなるポリマー(D)に対して0.1〜5重量%の量で含有されている、上記[1]に記載のポリマー材料。
【0011】
[3]フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤(A)が下記一般式(1)、(2)、(3)および(4)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、第4級アンモニウム基を構成成分として含むカチオン系ポリマー(C)が下記一般式(5)および(6)で表されるポリマーから選ばれる少なくとも1種を含む、上記[1]または[2]に記載の紫外線吸収剤組成物。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、RおよびRは同一であっても相異なっていてもよく、それぞれH、炭素数1〜12の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基または炭素数7〜10のアルキルアリル基もしくはアリルアルキル基を表し、RはH、−O−CO−Ph(ここで、Phはフェニル基を表す)または−OC2m+1(ここで、mは2〜10の整数を表す)を表し、RはHまたはClを表す)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、RはHまたは炭素数1〜8の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を表し、RおよびRは同一であっても相異なっていてもよく、それぞれHまたは−OHを表す)
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、Rは炭素数2〜6の直鎖状または分枝鎖状のアルキレン基を表し、R、R10、R11およびR12は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれHまたは−OHを表す)
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、R13は炭素数2〜8の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を表し、R14およびR15は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれHまたは−OC2m+1(ここで、mは2〜8の整数を表す)を表し、R16およびR17は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれHまたは−OHを表す)
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、R18およびR19は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7の直鎖状または分枝鎖状のアルキレン基、2−ヒドロキシプロピレン基、ビス−エチレン−エーテル基またはビス−プロピレンウレア基を表し、R20はH、炭素数2〜7の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基、2−ヒドロキシプロピル基、エトキシエチル基または−CNHC(O)NHCを表し、Xはフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸メチルイオンまたは硫酸エチルイオンを表し、nは15〜1,500の整数を表す)
【0022】
【化6】

【0023】
(式中、R21およびR22は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれH、−C(CH−C(NH)(NH)、−OSOHまたは−OHを表し、Xはフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸メチルイオンまたは硫酸エチルイオンを表し、nは30〜2,000の整数を表す)
【0024】
[4]有機酸アニオン(B)が下記一般式(7)、(8)および(9)で表される化合物のアニオンから選ばれる少なくとも1種である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の紫外線吸収剤組成物。
【0025】
【化7】

【0026】
(式中、R23およびR24は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれ炭素数6〜10の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンまたはアルカノールアンモニウムイオンを表す)
【0027】
【化8】

(式中、R25およびR26は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれ−F、−CFまたは−Cを表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンまたはアルカノールアンモニウムイオンを表す)
【0028】
【化9】

【0029】
(式中、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンまたはアルカノールアンモニウムイオンを表す)
【0030】
[5]マトリックスとなるポリマー(D)が、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリビニルブチラールおよびポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリマー材料。
【0031】
[6]マトリックスとなるポリマー(D)が、無色および/または透明である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリマー材料。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、紫外線を遮断するのに十分な高い濃度で紫外線吸収剤が添加されていても、アルカリや金属イオンによる紫外線吸収剤の黄変を抑制することができ、良好な耐光性、紫外線遮断性を有する無色および/または透明なポリマー材料を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、詳細に説明する。
まず、本発明のポリマー材料は、フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤(以下「紫外線吸収剤」という)(A)と、有機酸アニオン(B)と、有機酸アニオン(B)との塩を形成する第4級アンモニウム基を構成成分に含むカチオン系ポリマー(以下、「カチオン系ポリマー」という)(C)とを、マトリックスとなるポリマー(D)に複合させてなるポリマー材料であって、紫外線吸収剤(A)とカチオン系ポリマー(C)との配合比が、紫外線吸収剤(A)のフェノール性水酸基1当量に対するカチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基が10〜0.1当量となるものである。
【0034】
本発明に用いる紫外線吸収剤(A)には特に制限はないが、フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤であって、ベンゾフェノン基、ベンゾトリアゾール基およびトリアジン環から選ばれる少なくとも1種を含む紫外線吸収剤が特に有効である。本発明のポリマー材料には、これらの紫外線吸収剤が2種以上併用されていてもよい。
【0035】
紫外線吸収剤の吸収波長が400nm近傍の可視光に近い領域にあるものは、吸収波長がわずかにシフトするだけで可視光領域に入るため、黄変し易い性質がある。本発明のポリマー材料は、このような紫外線吸収剤に対しても黄変を防止することができる。
【0036】
紫外線吸収剤(A)の使用量は、特に制限されるものではないが、マトリックスとなるポリマー(D)に対して0.1〜5重量%であるのが好ましい。この使用量がマトリックスポリマーに対して0.1重量%未満であると、得られるポリマー材料の紫外線遮断効果が十分でなくなる可能性がある。一方、5重量%を超えると、紫外線吸収剤(A)がポリマー材料からブリードアウトしてしまい、ポリマー材料の表面が汚染されたり、ポリマー材料自体の強度が低下したりする恐れがある。
【0037】
本発明に用いる有機酸アニオン(B)としては、特に制限はないが、疎水性の高い置換基を有する有機酸アニオンが好ましく、前記一般式(7)、(8)および(9)で表される化合物のアニオンから選ばれる少なくとも1種であるのが特に好ましい。
【0038】
一般式(7)で示される化合物において、R22、R23は、炭素数6〜10の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基である。炭素数が6未満の場合には、有機酸の疎水性が弱まり、マトリックスとなるポリマーへの相溶性が低下する可能性がある。炭素数が10を超える場合には、カチオン系ポリマーとの反応によるポリアンモニウム塩が溶媒を含んだ状態でも高粘度となり、取り扱いが困難となること、さらにアルキル基が大きくなることで、紫外線吸収剤の相対比率が下がり、結果として紫外線吸収効果が低下する傾向にある。特に好ましいのは、疎水性の高い2個の分枝鎖状のアルキル基を有するものである。
【0039】
一般式(8)で示されるスルホニルイミド型化合物は、撥水撥油性のあるフッ素あるいはパーフルオロ基を置換基とするものであり、一般式(9)で示される化合物は、嵩高い4個のフェニル基が中央の原子を囲んでいるものである。
【0040】
一般式(7)、(8)および(9)で示される化合物において、好ましいM+としては、水素イオン、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン、モノエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、モノイソプロパノールアンモニウムイオン、ジイソプロパノールアンモニウムイオン、トリイソプロパノールアンモニウムイオン等のアルカノールアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン等のアルキルアンモニウムイオンが挙げられる。
【0041】
本発明に用いるカチオン系ポリマー(C)としては、特に制限はないが、このポリマーの主鎖および/または側鎖にアルキルアンモニウム基および/または第4級アンモニウム基を含む五員環または六員環構造を有するカチオン系ポリマーであるのが好ましく、前記一般式(5)および(6)で表されるポリマーから選ばれる少なくとも1種を含むものであるのが特に好ましい。
【0042】
一般式(5)で示されるポリマーにおいて、R18、R19の炭素数は2〜7である。炭素数が2未満の場合は合成が困難であり、炭素数が7を超えるとアンモニウム基の存在密度が低下し、黄変抑制の効果が低下する傾向にある。
【0043】
これらの一般式(5)、(6)で表されるカチオン系ポリマーは、ポリマーの分子量に対して、第4級アンモニウム塩となる窒素原子の割合が高く(カチオンの密度が高い)、黄変抑制の効果をより顕著に発現させる。
【0044】
紫外線吸収剤(A)とカチオン系ポリマー(C)との配合比は、紫外線吸収剤(A)のフェノール性水酸基1当量に対するカチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基が10〜0.1当量となるものである。カチオン系ポリマー(C)の割合が当量比で10を超えると、紫外線吸収剤の含有割合が少なくなるため、得られるポリマー材料の紫外線吸収効果が低下し、カチオン系ポリマー(C)の当量比が0.1未満では、アルカリや金属イオンに対する黄変抑制効果が低下する可能性がある。
【0045】
紫外線吸収剤(A)とカチオン系ポリマー(C)の配合比に関しては、特に好ましくは紫外線吸収剤(A)のフェノール性水酸基1当量に対するカチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基が5.0〜0.5当量である。両者の配合比がこの範囲内であれば、紫外線吸収効果とアルカリと金属イオンに対する黄変抑制効果とが両立する。
【0046】
カチオン系ポリマー(C)は、特開昭55−30450号公報、特開昭56−31088号公報、特開2001−278716号公報、特開2000−154497号公報に開示の方法で合成することができる。
【0047】
一般式(7)で示される化合物は、スルホコハク酸型アニオン界面活性剤として公知の化合物である。
【0048】
一般式(8)で示される化合物としてのフルオロアルカンスルホニルイミド塩、一般式(9)で示される化合物としてのテトラフェニルボロン酸塩も、ナトリウム、リチウムまたはアルカノールアミン等との中和塩として一般に販売されており、入手可能である。
【0049】
有機酸アニオン(B)とカチオン系ポリマー(C)とからなるポリアンモニウム塩は、水または適当な有機溶剤などの溶液中におけるイオン交換反応を利用して、容易に得ることができる。
【0050】
有機酸アニオン(B)とカチオン系ポリマー(C)との塩の形成方法には特に制限はないが、有機酸アニオン(B)とカチオン系ポリマー(C)との配合比は、カチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基1当量に対する有機酸アニオン(B)が0.5〜1.0当量となるものであることが好ましい。有機酸アニオン(B)の割合が0.5当量未満である場合、紫外線吸収剤の黄変抑制効果が十分に発揮されない可能性がある。有機酸アニオン(B)の割合がカチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基1当量に対して0.8〜1.0当量であるのがさらに好ましく、この場合に紫外線吸収剤の黄変を十分に抑制する効果が得られる。しかも、有機酸アニオン(B)の割合が0.8〜1.0当量の範囲内にあれば、紫外線吸収剤(A)のフェノール性水酸基1当量に対するカチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基が10〜0.1当量の範囲内において0.1当量に近い低い比率となっても、紫外線吸収剤の黄変を十分に抑制することができる。
【0051】
なお、有機酸アニオン(B)は、カチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基1当量に対して1.0当量を超える量で添加されていても構わないが、1.5当量を超えると、得られるポリマー材料の加水分解を引き起こしたり、有機酸アニオン(B)化合物が単独でブリードや析出を起こす可能性が高くなる。
【0052】
マトリックスとなるポリマー(D)としては、特に制限はないが、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニルなどのビニルポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミドなどの縮合系高分子、ポリウレタンなどの付加縮合系高分子、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などの種々のポリマーが挙げられる。なかでも、分子骨格にベンゼン核を持たないポリマーであって、ポリマー自体に紫外線の吸収能がほとんどなく、ポリマー合成時に金属触媒の使用を要するもの、強アルカリ成分が侵入しやすいものは、紫外線吸収剤の黄変トラブルを生じやすい。一方、本発明のポリマー材料は、金属イオンや強アルカリ成分の存在下であっても黄変することなく、紫外線吸収効果を十分に発揮することができる。例えば、マトリックスとなるポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリエステルなどが特に好ましいが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
本発明のポリマー材料は、紫外線吸収剤(A)と、有機酸アニオン(B)と、有機酸アニオン(B)との塩を形成するカチオン系ポリマー(C)を含有するポリマー材料であり、紫外線吸収剤(A)とカチオン系ポリマー(C)の配合比が、紫外線吸収剤(A)のフェノール性水酸基1当量に対するカチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基が10〜0.1当量であるものであるが、その製造方法には特に制限はなく、例えば、有機酸アニオン(B)とカチオン系ポリマー(C)との反応によるポリアンモニウム塩と紫外線吸収剤(A)とを混合し、さらにこの組成物をマトリックスとなるポリマー(D)に混合または溶解することにより製造することができる。マトリックスとなるポリマー(D)の種類や特性に応じて、最適の加工方法を選ぶことができる。
【0054】
例えば、ポリビニルアルコールの変成体の1種であるポリビニルブチラールに添加し、複合させるのであれば、各成分を適当な溶媒、例えば、テトラヒドロフラン(THF)に溶解した状態で処理することができる。溶媒としては、THFに特に限定されるものではなく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、N,N−ジメチホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド、N−メチル−2−ピロリドンなどの極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレンなどのハロゲン系溶媒などを用いることができる。溶媒は、本発明のポリマー材料の構成成分を全て溶解するものである必要はなく、有機酸アニオン(B)とカチオン系ポリマー(C)との中和塩と、マトリックスとなるポリマー(D)とを溶解していればよく、紫外線吸収剤(A)は微粒子状に分散された状態にあってもよい。
【0055】
マトリックスとなるポリマー(D)の特性によっては、加熱した溶融状態で、各成分を混合または溶解し、ポリマー材料を作成してもよい。
【0056】
また、アクリル樹脂をマトリックスとして用いて本発明のポリマー材料を製造する場合には、アクリル樹脂の原料となる液状のアクリル酸エステル系モノマーに各成分(A)、(B)、(C)を溶解させ、この溶液に適当な重合開始剤を添加し、ラジカル重合によってマトリックスとなるアクリル樹脂を合成する方法を用いてもよい。
【0057】
本発明のポリマー材料には、さらに可塑剤、キレート剤、顔料、充填剤、耐電防止剤、難燃剤、滑剤、加工助剤などが併用されていてもよい。
【0058】
ところで、本発明のポリマー材料が、アルカリや金属イオンに対して顕著な黄変抑制効果を示す機構に関しては、明確な理由は不明であるものの、発明者は以下の要因を推定している。
【0059】
本発明で用いるカチオン系ポリマー(C)はポリアンモニウムであるが、ポリアンモニウムなどの高分子電解質は、高分子としての性質と電解質としての性質を併せ持つため、低分子の塩(電解質)とは性質が大きく異なることが知られている。高分子電解質の場合対イオン(カチオン系ポリマーの場合はアニオン)の活量が著しく低くなる可能性が高く、対イオンの大半が高分子鎖近傍に吸着する場合がある。
【0060】
紫外線吸収剤(A)のフェノール性水酸基は、アルカリの存在下で脱プロトン反応によりフェノラートアニオンとなる。この脱プロトン化により吸収波長は長波長側にシフトし、可視光領域でも吸収を示すようになる。この結果、黄変と呼ばれる着色が発生する。黄変を抑制するには、フェノール性水酸基の脱プロトン化を抑制することが必要になるが、ここにポリアンモニウムイオン(カチオン系ポリマー:高分子電解質)がカチオン系対イオンとして存在すると、上記のように、アニオン系対イオンとしてのフェノール性水酸基の活量を著しく低減し、結果として脱プロトン化を抑制すると考えられるのである。
【0061】
カチオン系ポリマー(C)と塩を形成する有機酸アニオン(B)も、メカニズムは不明であるが、何らかの形で紫外線吸収剤(A)のフェノール性水酸基の活量低減に貢献していると考えられる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
合成例1
カチオン系ポリマー:ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)プロピル(ジメチルイミニオ)エチレンジクロリド](化合物1:主骨格構造を下記に示す)(日華化学(株)製ニッカノンRB−300、重量平均分子量約20,000)
有機酸アニオン化合物:ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(NaBEHS)(化合物2)
50mlのビーカーに化合物1を9.1g採取し、15重量%水溶液(10ミリモル当量)に希釈した。4.7g(10ミリモル)の化合物2を1:1水−アセトン50mlに加え、ここに化合物1の水溶液を追加し、攪拌しながら加熱した。固形成分が認められなくなった後も加熱を続けてアセトンを揮発させた。これを放置して室温まで冷却した。この時、ゼラチン状物質の沈降が認められた。その上澄みを捨て、純水を50ml加え、攪拌しながら加熱し、その後冷却し、上澄みを捨てた。この操作を2回繰り返した後、ろ過を行った。この白濁したゼラチン状物質を120℃にて乾燥し、含水率1%以下とした。以下、この樹脂を(対イオンはビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸アニオン)をポリアンモニウム塩Aとする。
【0064】
【化10】

【0065】
【化11】

【0066】
合成例2
カチオン系ポリマーとして、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン共重合体(試薬:Aldrich、重量平均分子量約20,000)(化合物3:主骨格構造を下記に示す)を合成例1の化合物1と同じ当量分で用いた以外は、合成例1と同様にして樹脂を合成した。これをポリアンモニウム塩Bとする。
【0067】
【化12】

【0068】
合成例3
カチオン系ポリマーとして、ポリ塩化ジメチルジアリルアミン(日東紡:PAS−H−5L、重量平均分子量約40,000)(化合物4:主骨格構造を下記に示す)を合成例1の化合物1と同じ当量分で用いた以外は、合成例1と同様にして樹脂を合成した。これをポリアンモニウム塩Cとする。
【0069】
【化13】

【0070】
合成例4
カチオン系ポリマーとして、ポリ−[(ジメチルイミノ)−1,3−プロパンジイルウレア−1,3−プロパンジイル(ジメチルイミノ)−1,2−エタンジイルオキシ−1,2−エタンジイルジクロリド](化合物5:主骨格構造を下記に示す)(試薬:Aldrich、重量平均分子量約10,000)を合成例1の化合物1と同じ当量分で用いた以外は、合成例1と同様にして樹脂を合成した。これをポリアンモニウム塩Dとする。
【0071】
【化14】

【0072】
合成例5
カチオン系ポリマーとして、ポリ(トリメチルアンモニウムエチルメタクリレートメチルサルフェート)(化合物6:主骨格構造を下記に示す)(日華化学(株)製ネオフィックスRS、重量平均分子量約100,000)を合成例1の化合物1と同じ当量分で用いた以外は、合成例1と同様にして樹脂を合成した。これをポリアンモニウム塩Eとする。
【0073】
【化15】

【0074】
合成例6
有機酸アニオン化合物として、トリフルオロメタンスルホニルイミドリチウム(化合物7)を合成例1の化合物2と同じ当量分で用いた以外は、合成例1と同様にして樹脂を合成した。これをポリアンモニウム塩Fとする。
【0075】
【化16】

【0076】
合成例7
有機酸アニオン化合物として、テトラフェニルボレートナトリウムを合成例1の化合物2と同じ当量分で用いた以外は、合成例1と同様にして樹脂を合成した。これをポリアンモニウム塩Gとする。
【0077】
合成例8
カチオン系ポリマーの代わりに、塩化ベンジルジメチルドデシルアンモニウム(化合物8)を用い、有機カチオンと有機酸アニオンとの塩を合成した。
【0078】
すなわち、ビス−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム10ミリモル(4.45g)(化合物2)と塩化ベンジルジメチルドデシルアンモニウム10ミリモル(3.40g)とを容量100mlビーカーの中でアセトン15mlと純水15mlとの混合溶媒に溶解させた。得られた混合溶液(反応液)を大気中にて室温(25℃)で5時間放置したところ、この反応液は水相と油相とに分離した。さらに、60℃の熱風乾燥炉中で4時間放置してアセトンを完全に揮発させた後、分液ロートを用いて水相を除去した。次いで、得られた油相に純水50mlを添加して水洗した後、水相を除去した。この精製過程を2回行った後、得られた油相に対して減圧下(約40mmHg)、90℃で4時間減圧乾燥を施し、液状化合物を得た。この液状化合物を化合物Hとする。
【0079】
【化17】

【0080】
紫外線遮断性試験および黄変性試験
以下の組成により、ポリビニルブチラールをマトリックスとするポリマー材料を調製した。
ポリビニルブチラール:2g
紫外線吸収剤:4mg
ポリアンモニウム塩(有機酸とカチオン系ポリマーの塩):20mg
水酸化テトラブチルアンモニウム:20mg
テトラヒドロフラン:40ml
【0081】
上記組成の溶液を内径76mmのシャーレに注ぎ、24時間放置し、その後120℃で1時間乾燥して、ポリビニルブチラールをマトリックスとするポリマー材料(フィルム)を作成した。フィルムの厚みは約0.5mmであった。
得られたフィルムに対して、日本分光(株)製のV‐530紫外可視吸光光度計にて、280〜500nmにおける透過度を測定した。
【0082】
黄変性は、400nm、450nmの透過度にて評価した。
紫外線遮断性は、300nm、350nmにおける透過度にて評価した。
以下の各実施例において、特に条件の変更に関する記述がない場合は、上記の組成を標準条件とし、黄変性および紫外線遮断性の評価を行った。
【0083】
実施例1 ポリアンモニウム塩A/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
合成例1で得たポリアンモニウム塩Aと、紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(BTOctOH)(化合物9)を用い、標準条件での黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0084】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は88%
450nmでの透過度は91%
350nmにおける紫外線遮断性および400nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0085】
【化18】

【0086】
実施例2 ポリアンモニウム塩A/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
合成例1で得たポリアンモニウム塩Aの添加量を20mgから10mgに変えた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0087】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は80%
450nmでの透過度は90%
350nmにおける紫外線遮断性および400nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0088】
実施例3 ポリアンモニウム塩B/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
ポリアンモニウム塩として合成例2で得たポリアンモニウム塩Bを用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0089】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は86%
450nmでの透過度は90%
350nmにおける紫外線遮断性および400nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0090】
実施例4 ポリアンモニウム塩C/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
ポリアンモニウム塩として合成例3で得たポリアンモニウム塩Cを用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0091】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は85%
450nmでの透過度は92%
350nmにおける紫外線遮断性および400nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0092】
実施例5 ポリアンモニウム塩D/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
ポリアンモニウム塩として合成例4で得たポリアンモニウム塩Dを用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0093】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は75%
450nmでの透過度は89%
350nmにおける紫外線遮断性は良好であり、400nmにおける黄変抑制性はやや良好であり、450nmにおける黄変抑制性は良好であった。
【0094】
実施例6 ポリアンモニウム塩E/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
ポリアンモニウム塩として合成例5で得たポリアンモニウム塩Eを用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0095】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は71%
450nmでの透過度は85%
350nmにおける紫外線遮断性は良好であり、400nmにおける黄変抑制性はやや良好であり、450nmにおける黄変抑制性は良好であった。
【0096】
実施例7 ポリアンモニウム塩F/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
ポリアンモニウム塩として合成例6で得たポリアンモニウム塩Fを用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0097】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は90%
450nmでの透過度は93%
350nmにおける紫外線遮断性および400nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0098】
実施例8 ポリアンモニウム塩G/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
ポリアンモニウム塩として合成例7で得たポリアンモニウム塩Gを用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0099】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は88%
450nmでの透過度は90%
350nmにおける紫外線遮断性および400nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0100】
実施例9 ポリアンモニウム塩A/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤10
紫外線吸収剤として2−(3’−t−ブチル−2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−5−クロロ−ベンゾトリアゾール(ClBTMeBuOH)(化合物10)を用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0101】
なお、上記の紫外線吸収剤は化合物元来の吸光特性が可視光領域近傍に接近しているので、黄変抑制効果をより正確に評価するため、370nmと420nmにおける透過度も併せて測定した。
【0102】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
370nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は6%
420nmでの透過度は87%
450nmでの透過度は91%
370nmにおける紫外線遮断性および420nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0103】
【化19】

【0104】
実施例10 ポリアンモニウム塩A/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤11
紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチルフェニルエチル)フェノール(化合物11)を用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0105】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は97%
450nmでの透過度は99%
350nmにおける紫外線遮断性および400nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0106】
【化20】

【0107】
実施例11 ポリアンモニウム塩A/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤12
紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル(化合物12)を用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0108】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は86%
450nmでの透過度は92%
350nmにおける紫外線遮断性および400nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0109】
【化21】

【0110】
実施例12 ポリアンモニウム塩A/ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤13
紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−ドデシル−4−メチルフェノール(化合物13)を用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0111】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は80%
450nmでの透過度は90%
350nmにおける紫外線遮断性は良好であり、400nmおよび450nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0112】
【化22】

【0113】
実施例13 ポリアンモニウム塩A/ベンゾフェノン型紫外線吸収剤14
紫外線吸収剤として2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン(化合物14)を用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0114】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は2%
400nmでの透過度は83%
450nmでの透過度は91%
350nmにおける紫外線遮断性は良好であり、400nmおよび450nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0115】
【化23】

【0116】
実施例14 ポリアンモニウム塩A/ベンゾフェノン型紫外線吸収剤15
紫外線吸収剤として2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(化合物15)を用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0117】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は78%
450nmでの透過度は88%
350nmにおける紫外線遮断性は良好であり、400nmにおける黄変抑制性はやや良好であり、450nmにおける黄変抑制性は良好であった。
【0118】
【化24】

【0119】
実施例15 ポリアンモニウム塩A/トリアジン型紫外線吸収剤16
紫外線吸収剤として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(化合物16)を用いた以外は実施例1と同様にして、黄変性と紫外線遮断性の試験を行った。
【0120】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は85%
450nmでの透過度は90%
350nmにおける紫外線遮断性は良好であり、400nmおよび450nmにおける黄変抑制性はともに良好であった。
【0121】
【化25】

【0122】
比較例1 ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
紫外線吸収剤BTOctOH(化合物9)の添加量を1mgとし、これを単独でポリビニルブチラールに配合して作成したフィルムにおける透過度を測定した。
【0123】
300nmでの透過度は16%
350nmでの透過度は17%
400nmでの透過度は94%
450nmでの透過度は95%
300nmおよび350nmにおける紫外線遮断性は、ともに不十分であった。
【0124】
比較例2 ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
紫外線吸収剤BTOctOH(化合物9)の添加量を2mgとし、これを単独でポリビニルブチラールに配合して作成したフィルムにおける透過度を測定した。
【0125】
300nmでの透過度は1%
350nmでの透過度は2%
400nmでの透過度は92%
450nmでの透過度は94%
300nmおよび350nmにおいて紫外線はほぼ遮断されているものの、実施例1および比較例1と比較すると少量の紫外線の透過が認められた。
【0126】
比較例3 ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
紫外線吸収剤BTOctOH(化合物9)の添加量を4mgとし、これを単独でポリビニルブチラールに配合して作成したフィルムにおける透過度を測定した。
【0127】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は91%
450nmでの透過度は93%
300nmおよび350nmにおける紫外線遮断性は、ともに十分良好であった。
【0128】
比較例4 ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤9
紫外線吸収剤BTOctOH(化合物9)4mg、水酸化テトラブチルアンモニウム20mgを添加し、ポリアンモニウム塩を添加せずにポリビニルブチラールフィルムを作成し、透過度を測定した。
【0129】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は1%
400nmでの透過度は30%
450nmでの透過度は88%
350nmにおいて紫外線はほぼ遮断されているものの、400nmにおいて大きな吸収(透過度の低下)が観察され、顕著な黄変が発生した。450nmにおける透過度も高いレベルではなかった。
【0130】
比較例5 ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤10
紫外線吸収剤ClBTMeBuOH(化合物10)4mg、水酸化テトラブチルアンモニウム20mを添加して作成したポリビニルブチラールフィルムにおける透過度を測定した。
【0131】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は0%
370nmでの透過度は0%
400nmでの透過度は4%
420nmでの透過度は42%
450nmでの透過度は54%
370nmにおける紫外線遮断性は良好であるが、420nmにおいて著しい吸収(透過度の低下)が観察され、さらには450nmにおける透過度は低く、顕著な黄変が見られた。
【0132】
比較例6 トリアジン型紫外線吸収剤9
紫外線吸収剤として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(化合物16)4mg、水酸化テトラブチルアンモニウム20mを添加して作成したポリビニルブチラールフィルムにおける透過度を測定した。
【0133】
300nmでの透過度は0%
350nmでの透過度は1%
400nmでの透過度は0%
450nmでの透過度は0%
500nmでの透過度は70%
400nmおよび450nmにおける透過度は0であって、可視光領域内で激しい吸収を示し、500nmにおける透過度は70%であり、顕著な黄変が発生した。
【0134】
以上の実施例および比較例から明らかなように、フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤(A)と有機酸アニオン(B)とカチオン系ポリマー(C)とを含む本発明のポリマー材料は、アルカリ成分または金属イオンの存在下であっても黄変を生じないため、紫外線吸収効果を有する無色および/または透明の樹脂として得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によればアルカリや金属イオンによる紫外線吸収剤の黄変を抑制する、無色および/または透明のポリマーを提供することができるので、本発明は産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤(A)と、有機酸アニオン(B)と、および有機酸アニオン(B)との塩を形成する第4級アンモニウム基を構成成分として含むカチオン系ポリマー(C)とを、マトリックスとなるポリマー(D)に複合させてなるポリマー材料であって、紫外線吸収剤(A)とカチオン系ポリマー(C)との配合比が紫外線吸収剤(A)のフェノール性水酸基1当量に対するカチオン系ポリマー(C)の第4級アンモニウム基が10〜0.1当量となるものである、ポリマー材料。
【請求項2】
フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤(A)がベンゾトリアゾール基、ベンゾフェノン基およびトリアジン環から選ばれる少なくとも1種を有し、第4級アンモニウム基を構成成分として含むカチオン系ポリマー(C)が主鎖および/または側鎖にアルキルアンモニウム基および/または第4級アンモニウム基を含む五員環または六員環構造を有するカチオン系ポリマーであり、紫外線吸収剤(A)がマトリックスとなるポリマー(D)に対して0.1〜5重量%の量で含有されている、請求項1に記載のポリマー材料。
【請求項3】
フェノール性水酸基を有する紫外線吸収剤(A)が下記一般式(1)、(2)、(3)および(4)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、第4級アンモニウム基を構成成分として含むカチオン系ポリマー(C)が下記一般式(5)および(6)で表されるポリマーから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載のポリマー材料。
【化1】

(式中、RおよびRは同一であっても相異なっていてもよく、それぞれH、炭素数1〜12の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基または炭素数7〜10のアルキルアリル基もしくはアリルアルキル基を表し、RはH、−O−CO−Ph(ここで、Phはフェニル残基を表す)または−OC2m+1(ここで、mは2〜10の整数を表す)を表し、RはHまたはClを表す)
【化2】

(式中、RはHまたは炭素数1〜8の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を表し、RおよびRは同一であっても相異なっていてもよく、それぞれHまたは−OHを表す)
【化3】

(式中、Rは炭素数2〜6の直鎖状または分枝鎖状のアルキレン基を表し、R、R10、R11およびR12は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれHまたは−OHを表す)
【化4】

(式中、R13は炭素数2〜8の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を表し、R14およびR15は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれHまたは−OC2m+1(ここで、mは2〜8の整数を表す)を表し、R16およびR17は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれHまたは−OHを表す)
【化5】

(式中、R18およびR19は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7の直鎖状または分枝鎖状のアルキレン基、2−ヒドロキシプロピレン基、ビス−エチレン−エーテル基またはビス−プロピレンウレア基を表し、R20はH、炭素数2〜7の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基、2−ヒドロキシプロピル基、エトキシエチル基または−CNHC(O)NHCを表し、Xはフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸メチルイオンまたは硫酸エチルイオンを表し、nは15〜1,500の整数を表す)
【化6】

(式中、R21およびR22は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれH、−C(CH−C(NH)(NH)、−OSOHまたは−OHを表し、Xはフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸メチルイオンまたは硫酸エチルイオンを表し、nは30〜2,000の整数を表す)
【請求項4】
有機酸アニオン(B)が下記一般式(7)、(8)および(9)で表される化合物のアニオンから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー材料。
【化7】

(式中、R23およびR24は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれ炭素数6〜10の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンまたはアルカノールアンモニウムイオンを表す)
【化8】

(式中、R25およびR26は同一であっても相異なっていてもよく、それぞれ−F、−CFまたは−Cを表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンまたはアルカノールアンモニウムイオンを表す)
【化9】

(式中、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンまたはアルカノールアンモニウムイオンを表す)
【請求項5】
マトリックスとなるポリマー(D)が、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリビニルブチラールおよびポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリマー材料。
【請求項6】
マトリックスとなるポリマー(D)が、無色および/または透明である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリマー材料。

【公開番号】特開2009−191137(P2009−191137A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32230(P2008−32230)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【出願人】(507157045)公立大学法人福井県立大学 (22)
【Fターム(参考)】