説明

紫外線発光蛍光体

【課題】真空紫外線から近紫外線領域の波長で励起した際に優れた紫外線発光を示し、光源として真空紫外線以外の紫外線領域の光源を選択することを可能とする。
【解決手段】一般式Ba3-xMxLn6-yGdy(SiO4)6 (M=Mg,Ca,Srのうち1種以上,0≦x≦0.2,Ln=Sc,Y,La,Ce,Prのうち1種,0<y≦6)で示される紫外線発光蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を発光する紫外線発光蛍光体に関する。更に詳しくは、特に200〜260nmの紫外線を励起源とした場合に優れた発光特性をもつ新規な紫外線発光蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に蛍光体は、紫外線、電子線、X線などの電磁波による励起によって紫外域から赤外域までの光を発光する物質である。そして、蛍光体の種類によって、様々な分光分布を持たせることができるため、適当な励起光源との組み合わせにより様々な発光素子が開発されている。
【0003】
使用頻度の高い蛍光体は光の三原色である赤色、緑色、青色を発光する蛍光体であり、多くの蛍光体が開発・実用化されている。
このような蛍光体は励起源に何を用いるかにより選択される。例えば、波長360nm付近の励起によるブラックライト用、Hgの波長254nm輝線の励起による三波長蛍光灯用や冷陰極管ランプ用、波長400から450nm付近の励起による白色LED用、または147nmや172nm励起に適した真空紫外線用の蛍光体が、前記励起源と組み合わされて使用されている。
【0004】
種類は少ないが紫外線を発光する紫外線発光蛍光体も開発されている。紫外線はその波長から近紫外線(波長200-380nm)、遠紫外線(波長10-200nm:一般に真空紫外線と呼ばれており、以下「真空紫外線」という。)、極端紫外線(波長10nm以下)に分けられる。近紫外線はさらにUV-A(波長315-380nm)、UV-B(波長280-315nm)、UV-C(波長200-280nm)に分けられる。これらの紫外線は殺菌、脱臭、汚れ防止、露光用や皮膚治療など、用途に応じて選択され利用されている。
【0005】
前記紫外線発光蛍光体としては、YBO3:Gd,Pr(特許文献1参照),YF3:Gd(特許文献2参照),YBxOy:Gd(特許文献2参照),(Y1-xGdx)Al3(BO3)4(特許文献2参照),(Y1-xGdx)Al3-yScy(BO3)4(特許文献3参照),Sr1-xGdxAl12-yMgyO19(特許文献4参照),Sr(Al,Mg)12O19:Pr(特許文献5参照),Ca(2-w-x-y-z)CexAyPrzP2O7(特許文献6参照),(La1-x-y-zGdxYy)PO4:Cez(特許文献7参照)などが報告されている。
【0006】
これらの紫外線発光蛍光体のうち、YAl3(BO3)4からなる母体で構成されている(Y1-xGdx)Al3(BO3)4と(Y1-xGdx)Al3-yScy(BO3)4は優れた紫外線発光を示す。しかし、YAl3(BO3)4は真空紫外線領域に強い吸収を持つため、真空紫外線による励起では優れた紫外線発光を示すが、真空紫外線領域外、特に紫外線領域では強い紫外線発光を示さない(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3683143号
【特許文献2】特許第4266706号
【特許文献3】特許第4109995号
【特許文献4】特開2007-238938
【特許文献5】特開2006-342336
【特許文献6】特開2007-277550
【特許文献7】特表2006-525404
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jpn.J.Appl.Phys.Vol.42(2003)pp.5656-5659
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
紫外線発光蛍光体を励起させるために用いる光源として一般に使用される光源はXeガスを用いた真空紫外線であるが、真空紫外線領域はエネルギーが強いことから蛍光体の経年劣化に悪影響を及ぼすため、この点の解決が望まれている。
【0010】
本発明者は、紫外線発光蛍光体を励起させるために用いる光源として、発光する紫外線よりも短い波長の光源、つまり真空紫外線領域から紫外線領域の波長が選択可能であることに着目し、新規な紫外線発光蛍光体を得るべくさまざまな種類の化合物を合成し、その紫外線発光特性を評価した。
【0011】
その結果、付活剤としてGdを用い、組成としてバリウム-ランタン-ケイ素系の複合酸化物が、真空紫外線領域から近紫外線領域の波長の励起により優れた紫外線発光を示すことを知見した。本発明はこの知見に基づいて完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、一般式Ba3-xMxLn6-yGdy(SiO4)6 (M=Mg,Ca,Srのうち1種以上,0≦x≦0.2,Ln=Sc,Y,La,Ce,Prのうち1種,0<y≦6)で示される紫外線発光蛍光体である。
【0013】
また、本発明は、一般式Ba3-xMxLn3-y-ZGdyPrz(SiO4)6(M=Mg,Ca,Srのうち1種以上,0≦x≦0.2,Ln=Sc,Y,La,Ceのうち1種,0<y<6, 0<z<6 )で示される紫外線発光蛍光体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる紫外線発光蛍光体は真空紫外線から近紫外線領域の波長で励起した際に優れた紫外線発光を示すため、光源として真空紫外線以外の紫外線領域の光源を選択することが可能となる。
したがって、紫外線発光蛍光体の経年劣化に悪影響を与えない効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明にかかる紫外線発光蛍光体の構成について説明する。紫外線発光蛍光体を作製するには構成する元素を含む種々の化合物を出発原料として用いることができる。乾式で混合する際には溶解しない化合物を、また、湿式で混合する際には溶媒に溶解するような化合物を用いることもできる。
【0016】
付活剤であるガドリニウムの量yは0<y≦6の間が好ましく、より好ましくは0.3<y<3である。
【0017】
バリウムの一部をアルカリ土類金属のマグネシウム、カルシウムやストロンチウムで置換することも可能である。このときの置換量xは0≦x≦0.2であることが好ましい。置換量が0.2モルを超えると、結晶系が変わり、X線回折により異相も確認される。その結果、紫外線発光特性も低下してしまう。
【0018】
また、ガドリニウムの一部をスカンジウム、イットリウム、セリウムやプラセオジムのうち1種以上で置換することも可能である。
【0019】
そのうち、ガドリニウムの一部をプラセオジムで置換するとさらに紫外線発光特性が良くなる。この際、ガドリニウムとプラセオジム以外にスカンジウム、イットリウムやセリウムで置換することも可能である。
【0020】
次に、本発明にかかる紫外線発光蛍光体の作製方法について説明する。上記の原料を所要量秤量し、混合する。混合方法は公知の方法を採用することができ、例えば湿式混合や乾式混合を挙げることができる。また、ゾル−ゲル法、共沈法などの化学反応を利用して原料を調製することもできる。
【0021】
この原料混合物をアルミナるつぼ等の耐熱容器に入れて、大気中、例えば1200℃〜1400℃で1〜50時間焼成することにより、本発明にかかる紫外線発光蛍光体を得ることができる。なお、均質な紫外線発光蛍光体粉末を得るために、得られた紫外線発光蛍光体を粉砕して再焼成を繰り返すこともできる。次いで必要に応じ、粉砕、水洗、乾燥、篩い分けを行い、紫外線発光蛍光体を目的の粒度に調整する。
【0022】
本発明にかかる紫外線発光蛍光体を励起して発光できる励起源としては、真空紫外線から近紫外線領域まで可能であるが、そのなかでも、特に200〜260nmの領域で優れた紫外線発光特性を示す。
【実施例】
【0023】
次に本発明を下記の実施例を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
原料としてBaCO3、La2O3、Gd2O3、SiO2をBa:La:Gd:Siのモル比が3:5.4:0.6:6になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、電気炉にて大気中1350℃で5時間保持し焼成した。この焼成物を温水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の紫外線発光蛍光体Ba3La5.4Gd0.6(SiO4)6を得た。
【0024】
実施例2
原料としてBaCO3、La2O3、Gd2O3、SiO2をBa:La:Gd:Siのモル比が3:4.8:1.2:6になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、電気炉にて大気中1350℃で5時間保持し焼成した。この焼成物を温水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の紫外線発光蛍光体Ba3La4.8Gd1.2(SiO4)6を得た。
【0025】
実施例3
原料としてBaCO3、La2O3、Gd2O3、SiO2をBa:La:Gd:Siのモル比が3:3:3:6になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、電気炉にて大気中1350℃で5時間保持し焼成した。この焼成物を温水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の紫外線発光蛍光体Ba3La3Gd3(SiO4)6を得た。
【0026】
実施例4
原料としてBaCO3、La2O3、Gd2O3、SiO2をBa:La:Gd:Siのモル比が3:1.2:4.8:6になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、電気炉にて大気中1350℃で5時間保持し焼成した。この焼成物を温水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の紫外線発光蛍光体Ba3La1.2Gd4.8(SiO4)6を得た。
【0027】
実施例5
原料としてBaCO3、CaCO3、La2O3、Gd2O3、SiO2をBa:Ca:La:Gd:Siのモル比が2.8:0.2:5.4:0.6:6になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、電気炉にて大気中1350℃で5時間保持し焼成した。この焼成物を温水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の紫外線発光蛍光体Ba2.8Ca0.2La5.4Gd0.6(SiO4)6を得た。
【0028】
実施例6
原料としてBaCO3、SrCO3、La2O3、Gd2O3、SiO2をBa:Sr:La:Gd:Siのモル比が2.8:0.2:5.4:0.6:6になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、電気炉にて大気中1350℃で5時間保持し焼成した。この焼成物を温水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の紫外線発光蛍光体Ba2.8Sr0.2La5.4Gd0.6(SiO4)6を得た。
【0029】
実施例7
原料としてBaCO3、La2O3、Gd2O3、Pr2O3、SiO2をBa: La:Gd:Pr:Siのモル比が3:4.6:1.2:0.2:6になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、電気炉にて大気中1350℃で5時間保持し焼成した。この焼成物を温水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の紫外線発光蛍光体Ba3La4.6Gd1.2Pr0.2(SiO4)6を得た。
【0030】
比較例1
原料としてY2O3、Gd2O3、Al2O3、H3BO3をY:Gd:Al:Bのモル比が0.8:0.2:3:4になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、大気中1150℃で20時間保持し焼成した。この焼成物を湯水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の蛍光体Y0.8Gd0.2Al3(BO3)4を得た。
【0031】
実施例1〜7および比較例1で得られた蛍光体を、分光光度計(Hitachi F-6500)により、近紫外線領域200〜260nmで励起した際のGdに起因する312nmの紫外線発光を測定した。具体的には、励起波長200、206、222、234、246、256nmで、励起した際の発光強度を比較した。その結果を表1に示す。表1の値は、比較例1を各々の波長で励起した際の312nmの発光強度を100%として規格化している。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、励起波長によって各実施例における紫外線発光蛍光体の発光強度が異なるが、励起波長200〜234nm(おそらくは200〜240nm)の領域では実施例1〜7のいずれの紫外線発光蛍光体も比較例1の蛍光体とくらべると発光強度が高く、低い方で略4倍、高い方では140倍という極めて高い発光強度を有する紫外線発光蛍光体が提供できる。
また、実施例2,3,4および実施例7の紫外線発光蛍光体は、励起波長246〜256nmの領域でも比較例1の蛍光体とくらべると発光強度が高い。
したがって、紫外線発光蛍光体の組成とこれを励起させるために用いる励起波長(光源)とを適宜組み合わせることによって、真空紫外線以外の紫外線領域の光源を選択することが可能となる。
【0034】
また、実施例7はGdの一部をPrで置換したものである。Prの置換により紫外線領域での吸収が改善することが知られているが、表1に示すように実施例7の紫外線発光蛍光体は比較例1の蛍光体よりも励起波長200〜260nmの領域の全てにおいて発光特性が優れ、特に222nm〜234nmの領域で顕著に優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Ba3-xMxLn6-yGdy(SiO4)6 (M=Mg,Ca,Srのうち1種以上,0≦x≦0.2,Ln=Sc,Y,La,Ce,Prのうち1種,0<y≦6)で示される紫外線発光蛍光体。
【請求項2】
一般式Ba3-xMxLn3-y-ZGdyPrz(SiO4)6(M=Mg,Ca,Srのうち1種以上,0≦x≦0.2,Ln=Sc,Y,La,Ceのうち1種,0<y<6, 0<z<6 )で示される紫外線発光蛍光体。

【公開番号】特開2011−207934(P2011−207934A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74515(P2010−74515)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業、「プラズマチューブアレイを用いたフレキシブル紫外光源の研究開発」産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000207089)大電株式会社 (67)
【出願人】(599117211)株式会社ユメックス (22)
【Fターム(参考)】