説明

紫外線硬化型インクジェット用インク組成物、記録物、及びインクジェット記録方法

【課題】硬化性、密着性、及び耐擦性に優れた紫外線硬化型インクジェット用インク組成物、並びにこれを用いた記録物及びインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】重合性化合物と、光重合開始剤と、色材と、エポシキ基含有ポリマーを含み、前記重合性化合物として下記一般式(I)で表される化合物を含む紫外線硬化型インクジェット用インク組成物である。
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型インクジェット用インク組成物、記録物、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被記録媒体に、画像データ信号に基づき画像を形成する記録方法として、種々の方式が利用されてきた。このうち、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。
【0003】
近年、耐水性、耐溶剤性、及び耐擦過性などの良好な画像を被記録媒体の表面に形成するため、インクジェット方式の記録方法において、紫外線を照射すると硬化する紫外線硬化型インクジェット用インク組成物が使用されている。
【0004】
一方で、近年、半導体チップ(集積回路(IC)チップ)等をパッケージしてなる電子部品(ICパッケージ)が様々な機器に使用されており、そのような電子部品には文字、記号、ロゴマーク等を印刷するマーキングを施すのが通常である。そのため、電子部品に適したマーキングを施す印刷技術が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、電子部品に対しインクジェット方式で付着させたインクに紫外線を照射して、当該電子部品上にインクを定着させるというマーキング方法が開示されている。特許文献2には、ベアチップを多数個取りする基板の周縁部の捨て基板部に、インクジェット方式でロット番号等を印字するというマーキング方法が開示されている。
【0006】
また、例えば、特許文献3には、二酸化チタンを含むインクが最大インク膜厚10〜30μmで硬化するように、照射される紫外線の積算光量及び照度を特定範囲にした、プリント配線板製造におけるインクジェット記録方法が開示されている。特許文献4には、インクジェットプリンターから、着色剤、光重合開始剤、及びエポキシ試薬を含有する紫外線硬化性インクをプリント回路基板上に噴射してマーキングを提供する工程と、当該マーキングを少なくとも2秒間後に紫外線に暴露する工程と、を含む、インクジェット印刷方法が開示されている。
【0007】
また、例えば、特許文献5には、ICパッケージ上にコーティングを行い、その上にマーキングを施したモールドICパッケージが開示されている。特許文献6には、複数のICチップを有するウエハーのうち、不良ICチップの箇所のみにマーキングする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−274335号公報
【特許文献2】特開2000−332376号公報
【特許文献3】特開2006−21479号公報
【特許文献4】特表2007−527459号公報
【特許文献5】実用新案登録第2539839号明細書
【特許文献6】特開2003−273172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜6に開示された技術はいずれも、インクの硬化性、硬化物の基材への密着性、及び硬化物の耐擦性のうち少なくともいずれか一つに劣るか又は改善の余地がある。そのため、従来のマーキング方法は、精密な電子部品に適用し難いという問題が生じる。
【0010】
そこで、本発明は、インク保存性、硬化性、密着性、及び耐擦性に優れた紫外線硬化型インクジェット用インク組成物、並びにこれを用いた記録物及びインクジェット記録方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、特定の重合性化合物と、光重合開始剤と、色材と、エポシキ基含有ポリマーを含む紫外線硬化型インクジェット用インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)が、電子部品のパッケージ基材又は半導体基材に好適に記録(マーキング)することができ、かつ、インクの保存性、硬化性、硬化物の基材への密着性、及び硬化物の耐擦性のいずれにも優れたインク組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
重合性化合物と、光重合開始剤と、色材と、エポシキ基含有ポリマーを含み、前記重合性化合物として下記一般式(I)で表される化合物を含む紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
[2]
該インク組成物に対して、前記エポシキ基含有ポリマーを0.2〜10質量%含む、上記[1]に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
[3]
前記エポキシ基含有ポリマーは、スチレン系ポリマー、スチレンーアクリル系コポリマー及びアクリル系ポリマーである上記[2]に記載の紫外線硬化型インク組成物。
[4]
該インク組成物に対して、前記式(I)で表される化合物を、1〜40質量%含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
[5]
上記[1]〜[4]のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を被記録媒体上に吐出する吐出工程と、吐出された該インク組成物に、360〜420nmの範囲に発光ピーク波長を有する紫外線発光ダイオードから紫外線を照射して、該インク組成物を硬化させるインクジェット記録方法。
[6]
前記記録媒体は、エポキシ樹脂からなるパッケージ基材又は半導体基材である上記[5]に記載の記録方法。
[7]
上記[6]に記載される記録方法と、100℃以上で加熱する工程を含む、パッケージ基材又は半導体基材への硬化方法。
[8]
上記[7]に記載される硬化方法により得られた、パッケージ基材。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本明細書において、「パッケージ基材」とは、半導体チップ等を封入する保護基材を意味する。「半導体基材」とは、半導体チップ等であって直接基材にもなるウエハーを含む意味である。以下では、パッケージ基材又は半導体基材を「パッケージ基材等」ともいう。また、「記録物」とは、基材上にインクが記録されて硬化物が形成されたものをいう。
なお、本明細書における硬化物は、硬化膜や塗膜を含む、硬化された物質を意味する。
【0015】
本明細書において、「硬化性」とは、光に感応して硬化する性質をいう。「密着性」とは、塗膜が素地から剥離しにくい性質をいい、特に実施例では直角の格子パターンが硬化物に切り込まれ、パッケージ基材等の素地まで貫通する際の当該性質をいう。「耐擦性」とは、硬化物を引っ掻いた時に、硬化物がパッケージ基材等から剥がれにくい性質をいう。
【0016】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0017】
[紫外線硬化型インクジェット用インク組成物]
本発明の一実施形態は、紫外線硬化型インクジェット用インク組成物に係る。当該インク組成物は、重合性化合物と、光重合開始剤と、色材と、を含む。また、上記インク組成物は、所定の条件で紫外線照射される。さらに、上記インク組成物は、被記録媒体としてのパッケージ基材又は半導体基材に記録するという用途に適するという特徴を有する。
【0018】
以下、本実施形態のインク組成物に含まれるか、又は含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
【0019】
〔重合性化合物〕
本実施形態のインク組成物に含まれる重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により光照射時に重合されて、記録されたインクを硬化させることができる。
【0020】
〔分子中にビニル基及び(メタ)アクリル基を共に有する化合物〕
本実施形態のインク組成物は、下記一般式(I)で表される化合物(以下、「モノマーA」という。)を含んでもよい。
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
【0021】
上記モノマーAは、分子中にビニル基及び(メタ)アクリル基を共に有する化合物であり、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と換言することができる。
インク組成物がモノマーAを含有することにより、インクの硬化性などを良好なものとすることができる。
【0022】
上記の一般式(I)において、R2で表される2価の有機残基としては、炭素数2〜20の直鎖状、分枝状又は環状のアルキレン基、構造中にエーテル結合及びエステル結合の少なくとも一方による酸素原子を有する炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜11の置換されていてもよい2価の芳香族基が好適である。これらの中でも、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2〜6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2〜9のアルキレン基が好適に用いられる。
【0023】
上記の一般式(I)において、R3で表される炭素数1〜11の1価の有機残基としては、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基、炭素数6〜11の置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1〜2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6〜8の芳香族基が好適に用いられる。
【0024】
上記の有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0025】
上記の一般式(I)で表されるモノマーAの具体例としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1−ジメチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。
【0026】
上記したものの中でも、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸5−ビニロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0027】
これらの中でも、低粘度で、引火点が高く、かつ、硬化性に優れるため、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルが好ましく、さらに、臭気が低く、皮膚への刺激を抑えることができ、かつ、反応性及び密着性に優れるため、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルがより好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及び(メタ)アクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられ、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及びアクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられる。
【0029】
モノマーAは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
モノマーAの質量分率は、インク組成物を100質量%としたときに、10〜40質量%であることが好ましい。モノマーAの質量分率が上記範囲内であると、硬化したインクにおける耐擦性などを良好なものとすることができる。
【0031】
上記一般式(I)で表されるモノマーAの製造方法としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法B)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法C)、(メタ)アクリル酸無水物と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法D)、(メタ)アクリル酸エステル類と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル交換する方法(製法E)、(メタ)アクリル酸とハロゲン含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法F)、(メタ)アクリル酸アルカリ(土類)金属塩とハロゲン含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法G)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類とカルボン酸ビニルとをビニル交換する方法(製法H)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類とアルキルビニルエーテル類とをエーテル交換する方法(製法I)が挙げられる。
これらの中でも、本実施形態に所望の効果を一層発揮することができるため、製法Eが好ましい。
【0032】
〔上記以外の重合性化合物〕
上記以外の重合性化合物(以下、「その他の重合性化合物」という。)としては、従来公知の、単官能、2官能、及び3官能以上の多官能といった種々のモノマー及びオリゴマーが使用可能である。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0033】
また、他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N−ビニル化合物を含んでいてもよい。そのようなN−ビニル化合物として、例えば、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、及びアクリロイルモルホリン、並びにそれらの誘導体が挙げられる。
【0034】
これらの中でもN−ビニルカプロラクタムを含有することが好ましい。インク組成物が重合性化合物としてN−ビニルカプロラクタムを含有することにより、インクの硬化性、硬化物の基材への密着性、及び硬化物の耐擦性を良好なものとすることができる。
【0035】
N−ビニルカプロラクタムの質量分率は、インク組成物を100質量%としたときに、5〜20質量%であることが好ましく、7〜15質量%であることがより好ましい。N−ビニルカプロラクタムの質量分率が上記範囲内であると、インクの硬化性、硬化物の基材への密着性、及び硬化物の耐擦性に優れたものとなる。
【0036】
その他の重合性化合物のうち、(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましく、2官能以上である多官能の(メタ)アクリレートがより好ましく、多官能のアクリレートがさらに好ましい。
【0037】
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらの中でも、粘度及び臭気を低減させるため、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートのうち少なくとも一方が好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、フェノキシエチルアクリレートがさらに好ましい。
【0038】
上記(メタ)アクリレートのうち、多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート、並びに、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のジペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、及びトリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等のトリペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールノナ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールノナ(メタ)アクリレート、及びテトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート等のテトラペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、ペンタペンタエリスリトールウンデカ(メタ)アクリレート及びペンタペンタエリスリトールドデカ(メタ)アクリレート等のペンタペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、並びにこれらのエチレンオキサイド(EO)付加物及びプロピレンオキサイド(PO)付加物のうち少なくともいずれか等、3官能以上の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0039】
これらの中でも、その他の重合性化合物は、上記のとおり、多官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。多官能(メタ)アクリレートの中でも、上記のペンタエリスリトール骨格を有する多官能(メタ)アクリレートが好ましく、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかがより好ましく、ペンタエリスリトールトリアクリレート及びペンタエリスリトールテトラアクリレートのうち少なくともいずれかがさらに好ましく、ペンタエリスリトールトリアクリレートが特に好ましい。上記の場合、硬化したインクにおける耐擦性を一層良好なものとすることができる。
【0040】
上記その他の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
〔エポキシ基含有ポリマー〕
本実施形態のインク組成物は、エポキシ基含有ポリマーを含むことにより、基材への密着性を向上させることができる。
【0042】
前記エポキシ基含有ポリマーは、当該ポリマー中にエポキシ基を有するポリマー、より具体的には、当該ポリマーの主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにエポキシ基を有するポリマーである限り、特に限定されない。前記エポキシ基含有ポリマーの具体例は、当該ポリマー中にエポキシ基が存在する、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、スチレン−アクリル系コポリマー、ロジン変性ポリマー、テルペン系ポリマー、変性テルペンポリマー、ポリエステル、ポリアミド、塩化ビニルポリマー、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、並びにセルロースアセテートブチレート及びヒドロキシプロピルセルロース等の繊維素系ポリマー、ポリビニルブチラール、ポリアクリルポリオール、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、並びに水素添加石油ポリマーがあり得る。
【0043】
上記で列挙したものの中でも、インク組成への溶解性、及び他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性の観点から、当該ポリマー中にエポキシ基が存在する、スチレン系ポリマー、スチレン−アクリル系コポリマー及びアクリル系ポリマーからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。より好ましくは、当該ポリマー中にエポキシ基が存在する、スチレン系ポリマー及びアクリル系ポリマーのうち少なくともいずれかである。
【0044】
上記のスチレン系ポリマーの市販品として、特に限定されないが、例えば、マープルーフ(登録商標)G−0115S(粉体、重量平均分子量11,000、ガラス転移温度69℃、エポキシ当量1,000g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−0130S−P(粉末、重量平均分子量9,000、ガラス転移温度69℃、エポキシ当量530g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−0250S(粉体、重量平均分子量20,000、ガラス転移温度74℃、エポキシ当量310g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−1005S(粉体、重量平均分子量100,000、ガラス転移温度96℃、エポキシ当量3,300g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−1005SA(粉体、重量平均分子量100,000、ガラス転移温度98℃、エポキシ当量3,300g/eq)、及びマープルーフ(登録商標)G−1010S(粉体、重量平均分子量100,000、ガラス転移温度93℃、エポキシ当量1,700g/eq)(以上、日油社(NOF CORPORATION)製)が挙げられる。
【0045】
また、上記のアクリル系ポリマーの市販品として、特に限定されないが、例えば、マープルーフ(登録商標)G−0150M(粉体、重量平均分子量8,000〜10,000、ガラス転移温度71℃、エポキシ当量310g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−0150M―LM(液体、MEK40%含有、重量平均分子量10,000、ガラス転移温度71℃、エポキシ当量520g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−2050M(粉体、重量平均分子量200,000〜250,000、ガラス転移温度74℃、エポキシ当量340g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−2050M―LM(液体、MEK70%含有、重量平均分子量200,000〜250,000、ガラス転移温度74℃、エポキシ当量1,100g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−01100(粉体、重量平均分子量12,000、ガラス転移温度47℃、エポキシ当量170g/eq)、及びマープルーフ(登録商標)G−017581(ブロック、重量平均分子量10,000、ガラス転移温度0℃以下、エポキシ当量240g/eq)(以上、日油社製)が挙げられる。
【0046】
また、エポキシ基含有ポリマーは、前記エポキシ基含有ポリマー1分子あたり、好ましくは2以上のエポキシ基を有する。また、インク組成中に含有されるエポキシ基の数を増やし、効果を高める観点から、エポキシ当量が後述する好ましい範囲の値を採ることがよい。
【0047】
本実施形態のインク組成物は、その総量に対して0.3〜10質量%のエポキシ基含有ポリマーを含む。前記エポキシ基含有ポリマーの含有量が0.3質量%以上である場合、インク組成物の密着性が向上する。一方、前記エポキシ基含有ポリマーの含有量が10質量%以下である場合、インク組成物の保存性が良好になる。
【0048】
より具体的に、上記インク組成物は、その総量に対して、好ましくは0.5〜7質量%、より好ましくは0.7〜5質量%、さらに好ましくは1〜3質量%のエポキシ基含有ポリマーを含む。
【0049】
前記エポキシ基含有ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは200,000以下であり、より好ましくは100,000以下であり、さらに好ましくは20,000以下であり、さらにより好ましくは5,000〜20,000である。当該分子量が200,000以下である場合、モノマーに対する溶解性に優れ、かつ、より高分子量のポリマーと比較した場合、モノマーに溶解した場合の粘度上昇が少ない。ここで、本明細書における重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定される。
【0050】
これに加えて、前記エポキシ基含有ポリマーのエポキシ当量は、好ましくは2,000g/eq以下であり、より好ましくは1,500g/eq以下であり、さらに好ましくは1,000g/eq以下であり、さらにより好ましくは100〜1,000g/eqである。当該エポキシ当量が2,000g/eq以下である場合、前記エポキシ基含有ポリマーの添加の際に、同じ質量中に含まれるエポキシ基の個数が相対的に増えるため、エポキシ基に由来する密着性改善効果が現れやすい。ここで、本明細書におけるエポキシ当量は、例えば、JIS K7236に規定される方法により測定される。
【0051】
なお、本明細書における「オリゴマー」とは、二個〜数十個程度のモノマーが反応することにより合成され、比較的少ない数の繰り返し単位を持ち、かつ、一以上の放射線重合性基を有する分子を意味する。本明細書における「ポリマー」とは、一種以上のモノマー及びオリゴマーのうち少なくとも一方の繰り返し単位を有し、モノマー数としては数百個以上の大きな繰り返し単位を持つ分子を意味する。なお、前記ポリマーは、その構造中にさらなる放射線重合性基を有する分子と有さない分子のいずれも含む。
【0052】
〔光重合開始剤〕
本実施形態のインク組成物は、光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、安全性に優れ、且つ光源にかかるコストを抑えることができるため、紫外線の照射による光重合によって、被記録媒体の表面に存在するインクを硬化させて画像を形成するために用いられる。光重合開始剤としては、光のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記重合性化合物の重合を開始させるものであれば、制限はないが、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0053】
本実施形態のインク組成物は、インクの硬化性を良好なものとすることができるため、上記光ラジカル重合開始剤としてアシルホスフィンオキサイド化合物(以下、「アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤」ともいう。)を必須に含む。
【0054】
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、以下に限定されないが、例えば、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドが挙げられる。
【0055】
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤の市販品としては、例えば、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド)が挙げられる。
【0056】
また、本実施形態のインク組成物に含まれる光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤からなることが好ましいが、これ以外の光重合開始剤を含んでもよい。
【0057】
光ラジカル重合開始剤のうちアシルホスフィンオキサイド化合物以外のものとしては、例えば、芳香族ケトン類、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0058】
これらの中でも、アシルホスフィンオキサイド化合物との併用によってインクの硬化性を一層良好なものとするため、チオキサントン化合物が好ましい。
【0059】
アシルホスフィンオキサイド化合物以外の光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、及び2,4−ジエチルチオキサントンが挙げられる。
【0060】
アシルホスフィンオキサイド化合物以外の光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製)、Speedcure TPO(Lambson社製)、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co.,Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)が挙げられる。
【0061】
光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
光重合開始剤の質量分率は、インク組成物を100質量%としたときに、7〜12質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。質量分率が上記範囲内であると、インクの硬化性(紫外線硬化速度)、硬化物の基材への密着性、及び硬化物の耐擦性に優れたものとすることができ、かつ、光重合開始剤の溶け残りや光重合開始剤に由来する着色を避けることができる。
【0063】
〔重合禁止剤〕
本実施形態のインク組成物は、硬化前における重合性化合物の重合反応を抑えるため、重合禁止剤を含有してもよい。重合禁止剤として、以下に限定されないが、例えば、p−メトキシフェノール、クレゾール、t−ブチルカテコール、ジ−t−ブチルパラクレゾール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、α−ナフトール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ブチルフェノール)、及び4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のフェノール化合物、p−ベンゾキノン、アントラキノン、ナフトキノン、フェナンスラキノン、p−キシロキノン、p−トルキノン、2,6−ジクロロキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジカプロキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジアシロキシ−p−ベンゾキノン、ヒドロキノン、2,5−ジーブチルヒドロキノン、モノ−t−ブチルヒドロキノン、モノメチルヒドロキノン、及び2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン等のキノン化合物、フェニル−β−ナフチルアミン、p−ベンジルアミノフェノール、ジ−β−ナフチルパラフェニレンジアミン、ジベンジルヒドロキシルアミン、フェニルヒドロキシルアミン、及びジエチルヒドロキシルアミン等のアミン化合物、ジニトロベンゼン、トリニトロトルエン、及びピクリン酸などのニトロ化合物、キノンジオキシム及びシクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物、フェノチアジン等の硫黄化合物が挙げられる。
【0064】
〔色材〕
本実施形態のインク組成物は、色材を必須に含む。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0065】
[顔料]
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インク組成物の耐光性を良好なものとすることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0066】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0067】
上記無機顔料の中でも、好ましい白色を呈するため、酸化チタンが好ましい。
【0068】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0069】
更に詳しくは、ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとして、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(以上、キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(Degussa)社製)が挙げられる。
【0070】
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が挙げられる。
【0071】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0072】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144
、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0073】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、
60、65、66、C.I.バット ブルー 4、60が挙げられる。
【0074】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
【0075】
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
上記の顔料を使用する場合、その平均粒子径は300nm以下が好ましく、50〜250nmがより好ましい。平均粒子径が上記の範囲内にあると、インク組成物における吐出安定性や分散安定性などの信頼性に一層優れるとともに、優れた画質の画像を形成することができる。ここで、本明細書における平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
【0077】
[染料]
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。
前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I
.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0078】
上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
色材の質量分率は、優れた隠蔽性及び色再現性が得られるため、インク組成物を100質量部としたときに、1〜20質量部であることが好ましい。
【0080】
特に、色材のうち酸化チタンの質量分率は、黒地基材上での隠蔽性確保のため、インク組成物を100質量部としたときに、12〜18質量部であることが好ましく、14〜16質量部であることがより好ましい。
【0081】
〔分散剤〕
本実施形態のインク組成物が顔料を含む場合、顔料分散性をより良好なものとするため、分散剤をさらに含んでもよい。分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち一種以上を主成分とするものが挙げられる。高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ、ノベオン(Noveon)社から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse 36000等)、BYK社製のディスパービックシリーズ、楠本化成社製のディスパロンシリーズが挙げられる。
【0082】
〔界面活性剤〕
本実施形態のインク組成物は、硬化したインクにおける耐擦性を良好にすることができるため、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(以上、BYK社製商品名)を挙げることができる。
【0083】
〔その他の添加剤〕
本実施形態のインク組成物は、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、重合促進剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
【0084】
[被記録媒体]
本実施形態の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物は、後述するインクジェット記録方法を利用して、被記録媒体上に吐出されること等により、記録物が得られる。この被記録媒体としては、パッケージ基材又は半導体基材が好ましい。すなわち、上記インク組成物は、被記録媒体としてのパッケージ基材等に記録するという用途に適している。なぜなら、パッケージ基材等にマーキングする際に用いられるインクには、優れた硬化性、密着性、及び耐擦性が求められるからである。
なお、上記で定義したように、パッケージ基材は、半導体チップ等を封入する保護基材を意味し、半導体基材は、半導体チップ等であって直接基材にもなるウエハーも含む意味である。そして、上記の半導体チップ等を封入して製造されたものが電子部品(ICパッケージ)となる。この電子部品を一以上集積して構成されたものが電子機器となる。
【0085】
パッケージ基材の規格としては、例えば、PGA(Pin Grid Array)、DIP(Dual Inline Package)、SIP(Single Inline Package)、ZIP(Zigzag Inline Package)、DO(Diode Outline)パッケージ、及びTO(Transistor Outline)パッケージ等の挿入形パッケージ、並びにP−BGA(Plastic Ball grid array)、T−BGA(Tape Ball grid array)、F−BGA(Fine Pitch Ball grid array)、SOJ(Small Outline J−leaded)、TSOP(Thin Small Outline Package)、SON(Small Outline Non−lead)、QFP(Quad Flat Package)、CFP(Ceramic Flat Package)、SOT(Small Outline Transistor)、PLCC(Plastic leaded chip carrier)、LGA(Land grid array)、LLCC(Lead less chip carrier)、TCP(Tape carrier package)、LLP(Leadless Leadframe Package)、及びDFN(Dual Flatpack Non−lead)等の表面実装形パッケージが挙げられる。
【0086】
パッケージ基材の市販品として、例えば、東芝セミコンダクター社(Toshiba Sem‐-Conductor Co.,Ltd.)製の汎用ロジックICパッケージ(SOP14−P−300−1.27A)、ルネサスエレクトロニクス社(Renesas Electronics Corporation)製の表面実装型パッケージ(UPA2350B1G)、シャープ社(Sharp Corporation)製の面実装型パッケージ(P−LFBGA048−0606)、及びローム社(ROHM Co.,Ltd.)製のシリアルEEPROM(BR24L01A)が挙げられる。
【0087】
パッケージ基材の材質としては、電子部品本体へのインクの浸透を防ぐため、非吸収性材質が挙げられる。この非吸収性材質の具体例としては、以下に限定されないが、金、銀、銅、アルミニウム、鉄−ニッケル系合金、ステンレス、及び真鋳などの金属、並びに半導体(例えばシリコン)、炭化物、窒化物(例えば窒化珪素)、及びホウ化物などの無機物質、並びにシリコン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、及びポリメチルメタアクリレート(PMMA)等の有機物質が挙げられる。
【0088】
中でも、インクとの密着性に優れるため、パッケージ基材としては、シリコン又はエポキシ樹脂がより好ましい。このように、シリコン又はエポキシ樹脂からなるパッケージ基材を電子部品の封止材として用いることで、パッケージ基材の外面に、上記実施形態のインク組成物を好適に記録(マーキング)することができる。
【0089】
一方、半導体基材(ウエハー)の市販品として、例えば、信越化学工業社(Shin‐Etsu Chemical Co.,Ltd)製の300mmシリコンウエハー、SUMCO社製のSOIウエハー、及びコバレントマテリアル社(Covalent Materials Corporation)製のポリッシュトウエハーが挙げられる。半導体基材の材質としては、例えばシリコン、ゲルマニウム、及びセレンが挙げられる。
【0090】
なお、上記電子機器として、例えば、USBメモリ、メモリーカード、SDメモリーカード、メモリースティック(MEMORY STICK(登録商標))、スマートメディア(Smart Media(登録商標))、xDピクチャーカード、及びコンパクトフラッシュ(登録商標)等のフラッシュメモリーカードが挙げられる。
【0091】
ここで、パッケージ基材等へのマーキング方法を説明する。
【0092】
まず、半導体基材としてウエハー上にマーキングする場合、ダイシング(dicing)前のウエハー上にマーキングしてもよいし、あるいはウエハー上に回路を形成した後、チップ状にダイシングした半導体チップ上にマーキングしてもよい。後者の場合、IC(集積回路)が形成されたシリコンウエハーは、回路形成工程中、ウエハー表面に酸化ケイ素膜を形成するのが一般的である。酸化ケイ素膜を形成する方法として、例えば、厚さの制御に優れた方法の一つである高周波スパッタリング法が挙げられる。この方法を利用して、ターゲット材料である二酸化ケイ素をシリコンウエハー上にスパッタリングすることができる。
【0093】
次に、パッケージ基材へマーキングする場合、半導体チップを封入後のパッケージ基材上にマーキングしてもよく、半導体チップの封入前のパッケージ基材上にマーキングしてもよい。
【0094】
電子部品は、半導体チップのパッドとリードフレームとをボンディングし、チップ全体を封止剤と共にパッケージ基材に封入することにより作製する。当該封止剤として、以下に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びシリコ−ン樹脂が挙げられる。このようにして作製された電子部品上(外面)にマーキングを行うことができる。
【0095】
なお、当該インク組成物を非吸収性の被記録媒体に適用した場合、紫外線を照射した後に乾燥工程を設けること等が必要となり得る。
【0096】
このように、本実施形態によれば、インクの硬化性、硬化物の基材への密着性、及び硬化物の耐擦性に優れた紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を提供することができる。
【0097】
[記録物]
本発明の一実施形態は、記録物に係る。当該記録物は、上記実施形態のインク組成物が、被記録媒体としてのパッケージ基材等に記録されたものであり、パッケージ基材等と、そのパッケージ基材等に記録された上記インク組成物の硬化物とを備える。上記記録物は、インク組成物の硬化性に優れると共に、パッケージ基材等とその上に付着し硬化したインク組成物(硬化物)との密着性に優れ、かつ、当該硬化物が耐擦性に優れるという特徴を有する。
【0098】
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録方法に係る。当該インクジェット記録方法は、上記実施形態のインク組成物をパッケージ基材等(被記録媒体)上に吐出する吐出工程と、上記吐出工程により吐出されて付着したインク組成物に、所定範囲に発光ピーク波長を有する紫外線を照射して、当該インク組成物を硬化する硬化工程を含むものである。このようにして、パッケージ基材等上で紫外線照射された硬化物が形成される。以下、上記の各工程を詳細に説明する。
【0099】
〔吐出工程〕
上記吐出工程においては、従来公知のインクジェット記録装置を用いることができる。インク組成物の吐出の際は、インク組成物の粘度を、50mPa・s以下とするのが好ましく、5〜30mPa・sとするのがより好ましい。インク組成物の粘度が、インク組成物の温度を室温として、あるいは、インク組成物を加熱しない状態として上記のものであれば、インク組成物の温度を室温として、あるいはインク組成物を加熱せずに吐出させればよい。一方、インク組成物を所定の温度に加熱することによって粘度を好ましいものとして吐出させてもよい。このようにして、良好な吐出安定性が実現される。
【0100】
〔硬化工程〕
次に、上記硬化工程においては、パッケージ基材等上に吐出されて付着したインク組成物が、紫外線の照射によって硬化する。
具体的には、紫外線の照射によって、重合性化合物の重合反応が開始する。また、インク組成物に含まれる光重合開始剤が紫外線の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進される。このとき、インク組成物において光重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が紫外線を吸収して励起状態となり、光重合開始剤と接触することによって光重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0101】
本実施形態において用いられる紫外線源は、紫外線発光ダイオード(UV−LED)である。従来、インクの硬化手段としてはメタルハライドランプが一般的である。しかし、近年、省スペース及び省エネルギーを実現するため、パッケージ基材等にマーキング(記録)するための紫外線硬化型インク組成物は、LED光源により硬化されることが望まれている。また一方で、メタルハライドランプによる硬化の場合、ランプから放出される熱により、硬化時におけるパッケージ基材等表面の温度が170℃近傍まで上昇するため、半導体チップ等をパッケージしてなる電子部品の製造工程において改良の余地がある。そこで、上記のとおり、紫外線源としてUV−LEDを用いることにより、パッケージ基板表面の温度上昇を抑制することができる。さらに、UV−LEDは、小型、高寿命、高効率、及び低コストであるため、紫外線硬化型インクジェット用光源として好適である。
【0102】
ここで、上記実施形態のインク組成物は、360〜420nmの範囲、好ましくは365〜395nmの範囲に発光ピーク波長を有するUV−LEDから紫外線を照射することにより硬化可能である。また、照射エネルギーは、800mJ/cm2以下が好ましい。
【0103】
上記の場合、上記実施形態のインク組成物の組成に起因して低エネルギー且つ高速での硬化が可能となる。照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて算出される。上記実施形態のインク組成物の組成によって照射時間を短縮することができ、この場合、記録速度が増大する。他方、上記実施形態のインク組成物の組成によって照射強度を減少させることもでき、この場合、装置の小型化やコストの低下が実現する。その際の紫外線照射にUV−LEDを用いることが好適であることを本発明者らは見出したのである。このようなインク組成物は、上記波長範囲の紫外線照射により分解する光重合開始剤を含むことにより得られ、上記波長範囲の紫外線照射により重合を開始する重合性化合物を含むと、より低エネルギー且つ高速での硬化が可能となる。なお、発光ピーク波長は、上記の波長範囲内に1つあってもよいし複数あってもよい。複数ある場合であっても上記発光ピーク波長を有する紫外線の全体の照射エネルギーを上記の照射エネルギーとする。
【0104】
〔加熱工程〕
また、上記硬化工程を通じてインク組成物が硬化されて得られる硬化物に、加熱処理を施してもよい。この加熱処理を行うことにより、硬化反応の際に光重合開始剤が開裂して低分子量化したもの及び未反応の重合性化合物など、低分子成分をインクの硬化物から揮発させることができる。その結果、硬化物の基材への密着性及び硬化物の耐擦性を一層良好なものとすることができる。
【0105】
上記加熱処理における加熱温度は、150〜200℃であり、170〜190℃であることが好ましい。加熱温度が150℃以上であると、密着性及び耐擦性を優れたものとすることができる。他方、加熱温度が200℃以下であると、密着性及び耐擦性を安定して良好なものとすることができる。
【0106】
このように、本実施形態によれば、インクの硬化性、硬化物の基材への密着性、及び硬化物の耐擦性のいずれにも優れた紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を用いた記録物及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0108】
[使用原料]
下記の実施例及び比較例において使用した原料は、以下の通りである。
〔光重合開始剤〕
・IRGACURE 819(BASF社製商品名、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、表1では819と略記した。)
・DAROCURE TPO(BASF社製商品名、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド、表1ではTPOと略記した。)
・IRGACURE OXE01(BASF社製商品名、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、オキシムエステル化合物、表1ではOXE01と略記した。)
・IRGACURE 651(BASF社製商品名、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、ベンジルジメチルケタール化合物、表1では651と略記した。)
・IRGACURE 379(BASF社製商品名、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、α−アミノアルキルフェノン化合物、表1では379と略記した。)
・IRGACURE 369(BASF社製商品名、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、α−アミノアルキルフェノン化合物、表1では369と略記した。)
【0109】
〔顔料〕
・Tipaque(登録商標) CR−60−2(石原産業社(ISHIHARA SANGYO KAISHA, LTD.)製商品名、酸化チタン、平均粒径0.21μm、表1では酸化Tiと略記した。)
【0110】
〔分散剤〕
・Solsperse 36000(Noveon社製商品名)〔重合禁止剤〕
・p−メトキシフェノール(関東化学社製商品名、表1ではMEHQと略記した。)
【0111】
〔界面活性剤〕
・BYK−3500(ビックケミー(BYK-Chemie)社製商品名、ポリシロキサン、両末端、表1ではBYK3500と略記した。)
【0112】
〔重合性化合物〕
・VEEA(アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、日本触媒社(Nippon Shokubai Co.,Ltd.)製商品名、表1ではVEEAと略記した。)
・V−CAP(N−ビニルカプロラクタム、ISP社製商品名、表1ではNVCと略記した。)
・ビスコート#192(フェノキシエチルアクリレート、大阪有機化学工業社製商品名、表1ではPEAと略記した。)
・SR−444(ペンタエリスリトールトリアクリレート、サートマー社(Sartomer Co.)製商品名、表1ではPETAと略記した。)
【0113】
〔エポキシ基含有ポリマー〕
・スチレン系ポリマー 重量平均分子量9,000 エポキシ当量530 マープルーフG−0130S−P(日油社製、表1ではM−0130と略記した。)
・アクリル系ポリマー 重量平均分子量8,000〜10,000 エポキシ当量310 マープルーフG−0150M(日油社製、表1ではM−0150と略記した。)
・スチレン系ポリマー 重量平均分子量20,000 エポキシ当量310 マープルーフG−0250S(日油社製、表1ではM−0250と略記した。)
・アクリル系ポリマー 重量平均分子量100,000 エポキシ当量3300 マープルーフG−1005S(日油社製、表1ではM−1005Sと略記した。)
【0114】
〔基材〕
・基材(パッケージ基材):エポキシ樹脂面1(シャープ社製、面実装型パッケージ、型番「P−LFBGA048−0606」)
【0115】
[実施例1〜11、比較例1〜5]
〔顔料分散液の作製〕
インク組成物の作製に先立ち、顔料分散液を作製した。上記の顔料を60質量%、分散剤を5質量%、重合性化合物としてのVEEA(比較例4はフェノキシエチルアクリレート)を35質量%の割合で、それぞれ混合し、1時間スターラーで撹拌した。撹拌後の混合液をビーズミルで分散し、顔料分散液を得た。なお、分散条件は、直径0.65mmのジルコニアビーズを70%の充填率で充填し、周速を9m/sとし、分散時間を2〜4時間とした。
【0116】
〔インク組成物の作製〕
下記表1に記載の成分を、表1に記載の組成(単位:質量%)となるように添加し(表1中、顔料とVEEAの一部とは上記顔料分散液として添加)、これを常温で1時間混合撹拌して完全に溶解させた。これを、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過して、各紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を得た。
【0117】
【表1】

【0118】
[評価項目]
各実施例及び比較例で調製した紫外線硬化型インクジェット用インク組成物について、以下の方法によりインク保存性、硬化性、密着性、及び耐擦性を評価した。
【0119】
〔硬化性〕
インクジェットプリンター PX−G5000(セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製商品名)を用いて、上記の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物をそれぞれのノズル列に充填した。常温、常圧下で、上記基材1上に、記録解像度720dpi×720dpi及び液滴重量7ngの条件で、ベタパターン画像を印刷した。なお、このベタパターン画像は、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録した画像である。
上記の印刷と共に、キャリッジの横に搭載した紫外線照射装置内のUV−LEDから、照射強度が400mW/cm2であり、且つ波長が395nmである紫外線を600mJ/cm2照射してベタパターン画像を硬化させた。なお、指触試験により画像(塗膜表面)のタック感がなくなった時点で硬化したものと判断した。
評価は、硬化の際に要した紫外線の照射エネルギーを算出することにより行った。照射エネルギー[mJ/cm2]は、光源から照射される被照射表面における照射強度[mW/cm2]を測定し、これと照射継続時間[s]との積から求めた。照射強度の測定は、紫外線強度計UM−10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING,INC.)製)を用いて行った。
評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。評価結果を下記表2に示す。
◎:300mJ/cm2未満
○:300mJ/cm2以上500mJ/cm2未満
×:500mJ/cm2以上
【0120】
【表2】

【0121】
〔密着性〕
上記基材に、上記硬化性の評価項目と同様のベタパターン画像の印刷を行い、次いで上記硬化性の評価項目と同様の紫外線をベタパターン画像が硬化するまで行った。
【0122】
そして、JIS K−5600−5−6(ISO2409)(塗料一般試験法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法))に準じて、パッケージ基材等とベタパターン画像との密着性の評価を行った。ここで、上記クロスカット法について説明する。
切込み工具として単一刃切り込み工具(一般に市販されているカッター)と、単一刃切り込み工具を用いて等間隔に切り込むためのガイドと、を用意した。
まず、塗膜に対して垂直になるように切込み工具の刃を当てて、記録物に6本の切り込みを入れた。この6本の切込みを入れた後、90°方向を変え、既に入れた切り込みと直交するよう、さらに6本の切り込みを入れた。
次に、約75mmの長さになるよう透明付着テープ(幅25±1mm)を取り出し、塗膜に形成された格子状にカットした部分にテープを貼り、塗膜が透けて見えるように十分指でテープを擦った。次に、テープを、擦り終わってから60°に近い角度で、0.5〜1.0秒で確実に塗膜から剥離した。
【0123】
評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。評価結果を表1に示す。
◎:どの格子の目にも剥がれが殆ど見られない(JIS K−5600−5−6におけるランク0又はランク1)。
○:格子の一部に剥がれが認められる(JIS K−5600−5−6におけるランク2又はランク3)。
×:格子の50%以上に剥がれが認められる(JIS K−5600−5−6におけるランク4又はランク5)。
【0124】
〔耐擦性〕
上記硬化性の評価項目と同様のベタパターン画像の印刷及び硬化を、上記基材について行った。そして、荷重変動型摩擦磨耗試験システム(トライボギアTYPE−HHS2000〔商品名〕、新東科学社製)を用いて硬化膜(塗膜)の剥がれ度合いを確認した。条件は、荷重を100gfに設定し、Φ0.2mmのサファイア針で、加熱処理後のベタパターン画像(ただし、加熱しない系については硬化後のベタパターン画像)を引っ掻き、塗膜の剥がれた程度を確認した。
評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。評価結果を表2に示す。
◎:塗膜面にキズ、剥離がない。
○:塗膜面に傷がつく。剥離がない。
×:塗膜面に傷がつき、塗膜が剥離する。
【0125】
上記表2より、エポキシポリマーを添加することでエポシキ樹脂が添加されていない場合よりも硬化物の特性が優れる。(実施例1〜4と比較例2、3)また、エポキシ樹脂が多すぎる場合にはインク保存性が劣る。(比較例1)また、VEEAの含有量が少なすぎる場合や多すぎる場合には硬化性、密着性のバランス特性が劣る(比較例4、5)。
【0126】
また、光重合開始剤の種類について、考察すると、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤は、他の種類の光重合開始剤に比べて、硬化時に使用したUV−LEDの発光ピーク波長における光開裂効率が高い。そのため、未反応で残存する光重合開始剤の量を抑えることができる。これに加えて、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤は加熱処理によって反応系外に排出されやすい。したがって、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤を用いるとインク塗膜の膜特性に優れることとなる(実施例1〜8と実施例9〜11の比較)。
【0127】
なお、実施例9〜11で得られた硬化物付き基材を150℃で30分加熱処理を行ったところ、密着性が◎に向上した。これは加熱処理により未硬化物が除去されたか、硬化が促進されたためと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と、光重合開始剤と、色材と、エポシキ基含有ポリマーを含み、前記重合性化合物として下記一般式(I)で表される化合物を含む紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
【請求項2】
該インク組成物に対して、前記エポシキ基含有ポリマーを0.2〜10質量%含む、請求項1に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
【請求項3】
前記エポキシ基含有ポリマーは、スチレン系ポリマー、スチレンーアクリル系コポリマー及びアクリル系ポリマーである請求項2に記載の紫外線硬化型インク組成物。
【請求項4】
該インク組成物に対して、前記式(I)で表される化合物を、1〜40質量%含む、請求項1〜3のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を被記録媒体上に吐出する吐出工程と、吐出された該インク組成物に、360〜420nmの範囲に発光ピーク波長を有する紫外線発光ダイオードから紫外線を照射して、該インク組成物を硬化させるインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記記録媒体は、エポキシ樹脂からなるパッケージ基材又は半導体基材である請求項5に記載の記録方法。
【請求項7】
請求項6に記載される記録方法と、100℃以上で加熱する工程を含む、パッケージ基材又は半導体基材への硬化方法。
【請求項8】
請求項7に記載される硬化方法により得られた、パッケージ基材。

【公開番号】特開2012−158638(P2012−158638A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17624(P2011−17624)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】