累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法
【課題】当該レンズと他のレンズの特性の違いを客観的に評価することのできる累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法を提供すること。
【解決手段】レンズ選択の指標となる1以上の定量的な尺度を設定する一方、複数のレンズのレンズ面形状の変移状態を所定の特性評価指標に基づいてそれぞれ分析して各レンズ毎に数値化した1以上のレンズ特性データを算出し、得られたレンズ特性データに基づいて各レンズ毎に他のレンズとの相対的な評価値を決定し、その結果に基づいて他のレンズとの間の相対的な位置決定して図表化する。評価値は例えばレンズ特性データから共分散行列を導いて固有ベクトルを算出して得られる主成分上の位置とする。
【解決手段】レンズ選択の指標となる1以上の定量的な尺度を設定する一方、複数のレンズのレンズ面形状の変移状態を所定の特性評価指標に基づいてそれぞれ分析して各レンズ毎に数値化した1以上のレンズ特性データを算出し、得られたレンズ特性データに基づいて各レンズ毎に他のレンズとの相対的な評価値を決定し、その結果に基づいて他のレンズとの間の相対的な位置決定して図表化する。評価値は例えばレンズ特性データから共分散行列を導いて固有ベクトルを算出して得られる主成分上の位置とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は累進屈折力レンズの選択における指標となる尺度において当該レンズと他のレンズとの差を客観的に評価することのできる累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
累進屈折力レンズ製品には様々な種類のものがある。大きく分類すると、遠近タイプ(レンズ上方の遠用領域を広く設定した)、遠用領域を狭くした中近タイプ、更に近用領域を大きくして遠用性能を犠牲にした近々タイプがある。これら3つのタイプの特性はそれぞれ大きく異なったものであり、ユーザーの目的に応じて適したタイプの製品を選択すれば良い。しかし、同じタイプの製品同士ではその違いは非常に分かりにくい。特に最も一般的な遠近タイプの製品は種類が多いだけに、特性が似たもの同士の製品が多くある。
更に、初めて累進屈折力レンズの眼鏡を装用するユーザーにとっては上記の3つのタイプすらその違いは一見して分かりにくいものであった。そのため、累進屈折力レンズのレンズ特性を適切に評価する手法が求められていた。
ここに、評価手法として、実際に大勢の人がレンズをモニター装用したときの感じ方を主観的に評価して分析する方法によって行うことが考えられる。
しかし市場には非常に多くの商品があるので、発売される製品すべてに関して十分多くの人数でモニターして評価するには膨大な費用と手間がかかる。また、微妙な装用感の違いを誰にでもわかりやすい形で評価することは難しく、特に定量的な評価(数値評価)を行うことは難しい。せいぜい心理的な評価値を元にするしかなく、客観的な測定値として得ることはできない。また、多人数・長期間でのモニター評価にあたっては、装用者が入れ替わる(同じ人でも時間がたてば老視が進行するなどして眼の状態が変化する)という問題もある。従って、評価手法として客観性のある手法が求められていた。
客観性のある手法としては機械的な測定によるデータを用いることが適当であるといえる。例えば特許文献1に示されるようなマッピング測定装置を用いて測定した結果に基づいて評価することも不可能とはいえない。
【特許文献1】特開2006−267109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このようなマッピング測定装置では2つの製品の相対的な相違を定性的に説明することはできるものの、その違いがどれほど大きな違いなのかを簡単に分かりやすく説明することはできない。たとえば市場に存在する製品全体の中でこの2つは最も異なる両極的な存在なのか、それとももっと大きく異なる製品が多く存在するのかわからない。それを知るためには、他の製品も測定して多くのデータを比較する必要がある。
更に、例えそのように多くのマッピング測定データを比較したとしても、累進屈折力レンズ製品の製品開発等を専門に行う者でなければ、個々の製品の特性を的確に判断をすることは非常に難しい。また、得られたデータに基づいて製品の特性を説明する際に主観が入る余地もあり完全に客観性があるとはいえないこととなっていた。そのため、眼科医や眼鏡店も含め、累進屈折力レンズを取り扱う多くの人にも簡単に理解できるようなわかりやすい表現方法で、かつ客観的な数値にもとづいて累進屈折力レンズの特性を評価する方法が求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、当該レンズと他のレンズの特性の違いを客観的に評価することのできる累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために請求項1の発明では、レンズ上方に配置された比較的遠方を見るための第1の屈折領域と、同第1の屈折領域よりも下方に配置され同第1の屈折領域よりも大きな屈折力を有する第2の屈折領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進領域を備えた累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法であって、レンズ選択の指標となる1以上の定量的な尺度を設定する一方、複数のレンズのレンズ面形状の変移状態を所定の特性評価指標に基づいてそれぞれ分析して各レンズ毎に数値化した1以上のレンズ特性データを算出し、得られたレンズ特性データに基づいて各レンズ毎に他のレンズとの相対的な評価値を決定し、その結果を前記尺度との関係に基づいて表示するようにしたことをその要旨とする。
また請求項2の発明では、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記レンズ特性データは下記の数式のXiとしてベクトルの一次結合の形で近似されるとともに、前記評価値は下記の数式の係数kijで定められることをその要旨とする。
【0005】
【数2】
【0006】
また請求項3の発明では請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記尺度を評価値を決定するよりも前に設定しておくことをその要旨とする。
また請求項4の発明では請求項1〜3のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記評価値は前記レンズ特性データに基づいて共分散行列あるいは相関行列を導き、その行列式の固有ベクトルを算出して同固有ベクトルに応じた主成分を決定し、その主成分上の位置として求められることをその要旨とする。
また請求項5の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記尺度のうち1つはレンズ下方と遠用部側方の平均度数が強いことをその要旨とする。
また請求項6の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記尺度のうち1つは遠用部側方の非点収差が大きいことをその要旨とする。
また請求項7の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記尺度のうち1つは加入の立ち上がりが強くてレンズ下部では累退することであることをその要旨とする。
また請求項8の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記尺度のうち1つは中近用部側方に非点収差が集中するとともに遠用部側方の非点収差が小さいことであることをその要旨とする。
【0007】
また請求項9の発明では請求項1〜8のいずれかに記載の発明の構成に加え、尺度との関係に基づいて表示される前記各レンズは他のレンズとの間の相対的な位置が決定され図表化されて表示されることをその要旨とする。
また請求項10の発明では請求項9に記載の発明の構成に加え、第1の軸方向を所定の第1の尺度とするとともに、同第1の軸と交叉する第2の軸方向を所定の第2の尺度として両軸で表現される二次元平面上に表示させる一方、同第1の尺度と第2の尺度をそれぞれ異なるレンズ特性データに基づいて算出される主成分とするようにしたことをその要旨とする。
また請求項11の発明では請求項10に記載の発明の構成に加え、前記第1の尺度と前記第2の尺度は前記レンズ特性データとして非点収差データ又は平均度数データを採用した際の主成分であることをその要旨とする。
また請求項12の発明では請求項1〜11のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記レンズ特性データを算出するために分析領域に複数の要素のデータ取得位置を設定するとともに、各レンズのデータ取得位置に違いがある場合にはその位置の違いを修正するため、各レンズそれぞれの共通位置での要素の値を補間計算によって求めることをその要旨とする。
【0008】
上記のような構成においては、レンズ選択の指標となる1以上の定量的な尺度を設定する必要がある。尺度の設定タイミングとしては下記評価値を算出する前に行うケースもあれば評価値の算出結果に基づいて行うケースもありうる。
ここで尺度とは例えばレンズ面の度数、非点収差、乱視の軸方向、プリズムのようなレンズ特性を決定するための特性評価指標に基づいて決められるより具体的なレンズ形状の状態を評価する基準である。
例えば平均度数の尺度としては、
1)遠用領域の側方に加入が分散する。
2)遠用領域から中間領域にかけて加入の立ち上がりが強く、かつ近用部の下方では累退する。
3)レンズ全体の下半分の領域で、加入が加わった領域が広く分布する。
というような度数分布の状態の違いで評価される。
また、例えば非点収差の尺度としては、
1)遠用領域の側方に収差が分散する。
2)近用領域の側方に大きな収差集中がある。
3)遠用アイポイント近傍の収差が小さい。
というような非点収差分布の状態の違いで評価される。
作業者はレンズ特性を決定するための特性評価指標に応じた尺度を設定する。尺度は1つ以上いくつあっても基本的には構わない。
【0009】
次いで複数のレンズのレンズ面形状の変移状態を所定の特性評価指標に基づいて分析し、各レンズ毎に数値化したレンズ特性データを算出する。この工程を第1の算出工程とする。ここに「レンズ面形状の変移状態を所定の特性評価指標に基づいてそれぞれ分析する」とは例えばレンズ面の度数、非点収差、乱視の軸方向、プリズムのような特性評価指標を切り口として実際に測定しそのデータをそのままあるいは組み合わせたり変換してレンズの特性を分析することであり、その結果として各レンズ毎に数値化したレンズ特性データを算出するという意味である。
ここに、レンズ特性データを構成する要素はレンズ面の領域全域に均等にプロットして得ることが好ましい。その場合要素間をつなぐ領域については適宜補間計算することとなる。
また、レンズ特性データを算出するために分析領域に複数の要素のデータ取得位置を設定するとともに、各レンズの対応するデータ取得位置に測定誤差がある場合にはその測定誤差を修正する補間計算を行うことが正確なデータ入手のために好ましい。
次いで得られたレンズ特性データに基づいて各レンズ毎に他のレンズとの相対的な評価値を決定し、所定の前記尺度について同評価値の各レンズ毎の相対的な位置を算出する。この工程を第2の算出工程とする。つまり、レンズ特性データは各レンズの特性を表現するデータではあるものの、そのままでは他のレンズとどう形状が違うかが分かりにくい。そこで得られたレンズ特性データを加工して上記の尺度について各レンズに妥当な重み付けをして各レンズ毎に所定の尺度に対する評価値を決める。そして、その結果を表示する。表示手段としては各レンズは他のレンズとの間の相対的な位置を決定して図表化することが分かりやすいが、評価値の算出データを数値としてそのまま表示することも可能である。
【0010】
評価値は各レンズ毎のレンズ特性データに応じた差異が客観的に認められるような算出方法であれば特に制限はない。例えば、
【0011】
【数3】
【0012】
で表される評価値が考えられる。上記式は各レンズのレンズ特性データXiをベクトルの一次結合の形で近似する概念である。
同式においてベクトルを表す装飾文字Cは下記実施例1では(製品Piの平均度数+製品Pjの平均度数)/2や(製品Pkの非点収差+製品Plの非点収差)/2が対応し、実施例2では349の各列それぞれに1個の平均値を求めてなるベクトルが対応する。
また、同式においてベクトルを表す装飾文字Aは下記実施例1では(Piの平均度数−Pjの平均度数)ベクトルや(Pkの非点収差−Plの非点収差)ベクトルが対応し、実施例2では固有ベクトルの349の各要素に標準化前のデータ行列の349の各列それぞれの標準偏差をかけたものが対応する。
また、主成分分析を利用して評価値を算出することも可能である。つまりレンズ特性データに基づいて固有ベクトルを算出し、固有ベクトルに応じた主成分上の位置として評価値を求めるものである。
主成分分析を利用することで主成分が得られる。これは尺度と捉えることができる。主成分は複数得られるため所望の尺度に応じた主成分を選択することが可能である。より具体定期には、例えばレンズ特性データとして平均度数データを採用した際の主成分を同尺度に適用することが可能であり、例えばレンズ特性データとして非点収差データを採用した際の主成分を同尺度に適用することが可能である。
得られた主成分に対応する尺度として例えば「レンズ下方と遠用部側方の度数が強いこと」等が挙げられる。
他の好適な尺度としては、例えば「遠用部側方の収差が大きいこと」が挙げられる。
他の好適な尺度としては、例えば「加入の立ち上がりが強くてレンズ下部では累退すること」が挙げられる。
他の好適な尺度としては、例えば「中近用部側方に収差が集中するとともに遠用部側方の収差が小さいこと」が挙げられる。
【0013】
また、主成分分析を利用して評価値を算出し、得られた評価値の各レンズ毎の相対的な位置を算出し、その結果を図表上に表示する場合には第1の軸方向を所定の第1の尺度とするとともに、同第1の軸と交叉する第2の軸方向を所定の第2の尺度として両軸で表現される二次元平面上に表示させる一方、第1の尺度と第2の尺度をそれぞれ異なるレンズ特性データに基づいて算出される主成分とすることが好ましい。
具体的には例えば第1の尺度としてレンズ特性データとして非点収差データを採用した際の主成分とし、第1の軸方向に非点収差データに基づく評価値を配置し、第2の尺度としてレンズ特性データとして平均度数データを採用した際の主成分とし、第2の軸方向に平均度数データとするようなことが考えられる。
【発明の効果】
【0014】
上記各請求項の発明では、当該レンズと他のレンズの特性の違いを客観的に評価することができることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に従って具体的な実施例の説明をする。
まず図1及び図2に基づいて、レンズ特性分布表示方法を実行するための周辺装置の概略について説明する。
図1は本発明の特性分布表示方法を実現するための装置の概略ブロック図である。評価値算出用コンピュータ1には被験レンズの度数分布を測定する度数分布測定装置2が接続されている。尚、評価値算出用コンピュータ1と度数分布測定装置2はLAN接続のように必ずしも直接つながっていなくても良く、逆にコンピュータ1と度数分布測定装置2が一体化されていてもよい。また、度数分布測定したデータはLANに限らず、データ記憶装置等(フレキシブルディスクやUSBメモリといったメディアも含め)を使って評価値算出用コンピュータ1に渡されてもよい。
また、出力手段としてのモニター3と分析対象レンズ5のレンズデータを入力するための入力手段としてのキーボード7が接続されている。尚、出力手段としてはモニター3以外にプリンタや他の装置へデータを転送する出力手段等が挙げられる。また、入力手段としてはキーボード7以外にバーコードのような2次元コードやLAN接続された他のコンピュータやデータ記憶装置等の他の装置から転送されたデータを入力する手段等が挙げられる。
度数分布測定装置2は図2に示すように光源10、ビームスプリッタ11、スクリーン12、CCDカメラ13とを備えている。CCDカメラ13には解析装置14が接続されている。分析対象レンズ5は光源10とビームスプリッタ11の間に配置される。光源10は平行な光線をビームスプリッタ11方向に向かって照射する。ビームスプリッタ11には整然と配置された複数の透孔が形成され透孔を通過した光線(光束)はスクリーン12上に投影される。この投影された光点がマッピングポイントとされる。CCDカメラ13はスクリーン12上に投影されたマッピングポイントの映像を取り込む。
解析装置14は各透孔位置に対するCCDカメラ13によって取り込まれた光線の対応する透孔との位置変位に基づいて分析対象レンズ5の光学特性を計算する。解析装置14内部には記憶手段としてのメモリ15が配設され計算によって得られた分析対象レンズ5のレンズ特性データ(S度数データ、C度数データ、乱視軸データ、プリズムデータ)を記憶する。
【0016】
本実施例では具体的に分析対象レンズ5について次のようにして具体的なデータ入手を行った。
フィッティングポイントの2mm下方を中心とした直径50mm円を想定し、縦横2.5mmおきの格子点上の平均度数(S+C/2)と非点収差(Cの絶対値)を測定した。直径50mm円の内部および外側近傍の点を用い、使用する格子点は21×21=441点のうち349点とした。その結果、平均度数で349個、非点収差として同様に349個の合計698個のデータ値を得るようにする。
図3(a)及び(b)は遠用度数が0.00D(いわゆる上平レンズ)で加入度数2.00Dのある分析対象レンズ5のレンズ特性データとして平均度数と非点収差についてそれぞれ得られたデータ値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図である。
尚、スクリーン12上に投影されたマッピングポイントは各レンズのレンズ特性に応じて屈折させられているため実際には図4(a)に示すように不揃いで整然と配置されてはいない。そのためデータの設定位置に法則性がまったくないため取り扱いが不便である。そこで、各マッピングポイントについて図4(b)に示すように格子の交差位置に整然配置されるような補間計算を行う。補間計算は公知のスプライン補間や高次多項式によって実行される。
【0017】
(実施例1)
実施例1では上記度数分布測定装置2を使用して得られたデータ値に基づいて特性の異なる複数の累進屈折力レンズを図表化する方法について説明する。
<各レンズのデータ間距離の評価>
まず、各製品P1〜Pn(n:自然数)ついてそれぞれ上記のように平均度数と非点収差についてデータを得る。ここでは得られたデータを下記のように表記する。尚、各製品P1〜Pnとも遠用度数は0.00D(いわゆる上平レンズ)で加入度数は2.00Dで統一した。
製品P1の平均度数のデータ:P1X1,P1X2,P1X3・・・P1X349
製品P2の平均度数のデータ:P2X1,P2X2,P2X3・・・P2X349
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
製品Pnの平均度数のデータ:PnX1,PnX2,PnX3・・・PnX349
製品P1の非点収差のデータ:P1Y1,P1Y2,P1Y3・・・P1Y349
製品P2の非点収差のデータ:P2Y1,P2Y2,P2Y3・・・P2Y349
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
製品Pnの非点収差のデータ:PnY1,PnY2,PnY3・・・PnY349
【0018】
<尺度の決定>
次に製品P1〜Pnから平均度数と非点収差の尺度とするためのそれぞれ2つの製品を選択する。
ここでは平均度数については製品Piと製品Pjとの違いを第1の尺度とする。また、非点収差については製品Pkと製品Plとの違いを第2の尺度とする(i,j,k,lは自然数。但し、iとjは異なり、kとlは異なるものとする。)。
<評価値の決定>
平均度数については全製品についてPiとPjの対応する各要素の差をそれぞれ二乗し、得られた値をすべて加えたものの平方根を取ってデータ間の距離(いわゆるユークリッド距離)と定義する。
具体的には例えば、Pi=P1としPj=P2とした場合データ間距離は次のように得られる。
【0019】
【数4】
【0020】
そして、製品P1〜Pnと製品Pi及び製品Pjとの間で得られた各データ間距離に基づいて製品P1〜Pnが「製品Piとの距離」と「製品Pjとの距離」のどちらにどれほど近いかを算出する。たとえば、P1〜Pi間距離:P1〜Pj間距離=1:1であれば、製品P1は製品Piと製品Pjのちょうど中間的な特性を持つと考える。また、P2〜Pi間距離:P2〜Pj間距離=4:1であれば、製品P2は製品Pjに近いと考える。
【0021】
これはつまり、製品P1〜Pnが製品Piと製品Pjから所定の直線Lに対して下ろした垂線が直線Lと交叉する点mi,mjとの関係で直線L上のどこにあるかを決定すること、いいかえると製品P1〜Pnについてデータ間距離に基づいた固有の重み(スカラー量)を与え、第1の尺度のベクトル方向において重みに応じた位置に製品P1〜Pnを配置すると考えることができる。これを近似的な一般式とすると以下のように表すことができる。
Pnの平均度数 ≒
(Piの平均度数+Pjの平均度数)/2 + 係数An×(Piの平均度数−Pjの平均度数)ベクトル
同様に非点収差についても製品P1〜Pnと製品Pk及び製品Plの間で同様にデータ間距離を求め重みを付ける。一般式として以下のように表すことができる。
Pnの非点収差 ≒
(Pkの非点収差+Plの非点収差)/2 + 係数Bn×(Pkの非点収差−Plの非点収差)ベクトル
【0022】
図5は平均度数についての第1の尺度を横軸にとり、非点収差についての第2の尺度を縦軸に取った場合の製品P1〜Pnを平面的に配置した図表の一例である。図5における原点は平均度数についてはP1とP2の平均となり、非点収差についてはP3とP4の平均となる。第1の尺度には製品P1と製品P2それぞれの平均度数の差として定義されるベクトルを、第2の尺度には製品P3と製品P4それぞれの非点収差の差として定義されるベクトルを選択した。原点位置は横方向が製品P1と製品P2の評価値の中点、縦方向が製品P3と製品P4の評価値の中点である。
【0023】
(実施例2)
実施例2についても上記度数分布測定装置2を使用して得られたデータ値に基づいて特性の異なる複数の累進屈折力レンズを図表化する方法について説明する。実施例2では尺度を主成分分析を利用して求めるようにしている。
本実施例では表1に示すように計40種のレンズを分析対象レンズ5としてそれぞれ平均度数と非点収差についての349個のデータを採取した。得られたデータは図6に示すようなデータ行列として表現することが可能である。図6においては所定の行をj、列をkとする。
【0024】
【表1】
【0025】
<各レンズのデータの標準化>
まず、得られたデータ値の標準化を行う。以下、平均度数のデータについて具体的な計算例を説明するが非点収差についても同様の作業を行うものとする。
各レンズ毎に共通な位置の平均度数のデータ349組(1組が40個のデータからなる)を考え、349組それぞれの数値の平均と標準偏差を求める。具体的には各レンズの数値からまず平均を求め、個々のデータとの差を二乗して総和し、これを(40−1=39)で除して分散を求める。この値の平方根を標準偏差とする。一般式は下記の通りである。そして共通な位置の平均度数のデータ349組(1組が40個のデータからなる)に関して、各組40個のデータそれぞれから各組の平均値を減じて各組の標準偏差で割ることによってデータ行列を標準化する。
【0026】
【数5】
【0027】
<共分散行列の計算>
共分散行列のj行k列の要素は標準化されたデータ行列をもとに計算する。これは標準化されたデータ行列の、
1)1行のj列要素とk列要素を掛け合わせたもの
2)2行のj列要素とk列要素を掛け合わせたもの
3)i行のj列要素とk列要素を掛け合わせたもの
の合計を求めることで得られる。
一般的に書くと、図7に示すようにある行のj列要素とk列要素を掛け合わせたものを、全部の行について加え合わせることである。
この作業はコンピュータによる計算で例えば図8に示すようなアルゴリズムによって実行される。図8において、xd[][]という2次元配列は図7のデータ行列の要素を表す。a[][]という2次元配列は共分散行列の要素を表す。nnはデータ数であり、実施例では40となる。npはデータの要素数であり、実施例では349となる。
このアルゴリズムではj行k列の要素を図9に示すように図中矢印に沿って、上から順に求めていく。対角行列であるためj行k列の要素を求めるとき、同時にk行j列の要素を決定(同じ値)していることとなる。
【0028】
<固有値に基づく主成分の計算>
上記共分散行列の計算によって固有値を求める。また、非点収差についても同様に固有値を求める。本実施例における各主成分(第4主成分まで)ごとの平均度数と非点収差の固有値は次の表2の通りである。
【0029】
【表2】
【0030】
<尺度の決定>
主成分から平均度数と非点収差についてそれぞれ表3のような具体的ないくつかの尺度を演繹する。これらは平均度数と非点収差という特性における典型的な違いを尺度としたものであり、これら以外の尺度を使用することは自由である。
【0031】
【表3】
【0032】
更に、固有値に基づいて上記平均度数及び非点収差についてのそれぞれ349個のデータの固有ベクトルをそれぞれ求め、各レンズ毎に主成分に応じた主成分得点を計算する。本実施例2では、第1の尺度→第1主成分、第2の尺度→第2主成分、第3の尺度→第3主成分というような対応となっている。
図10は横軸を平均度数の第1の尺度とし縦軸を非点収差の第1の尺度とした例である。縦軸及び横軸の尺度は適宜変更することが可能である。図11は平均度数の第1の主成分の固有ベクトルの値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図であり、図12は非点収差の第1の主成分の固有ベクトルの値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図である。尚、図上数値は表記桁数を減らすために100倍して表記されている。
図10において縦軸方向は「上方ほど遠用に収差が分散する」という尺度において40種のレンズの他のレンズとの距離の差によって相対的な違いを表している。横軸方向は「遠用側方に度数が分散する」という尺度において40種のレンズの他のレンズとの距離の差によって相対的な違いを表している。図10においては第1及び第2の尺度に照らしてB社のレンズは破線で囲ったように互いに近い性質(あまり変化がない)の一群としてグループ化することが可能である。
【0033】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記実施例1や実施例2では1又は2の尺度を平面的に表現するように図表化した例を挙げたがこれ以上の数の尺度を同時に図表化するようにしても構わない。
上記実施例1では平均度数及び非点収差について別々に評価値を算出していたが、それぞれの要素349×2=698個の数列を1組として1つの評価値のみを得るようにしても構わない。
・実施例2では縦軸方向は「上方ほど遠用に収差が分散する」、横軸方向は「遠用側方に度数が分散するという尺度でレンズの特性分布を図表化したが、これ以外の尺度を縦軸及び横軸に配置するようにしてもよい。
・実施例2では縦軸方向は平均度数の尺度、横軸方向は非点収差の尺度を設定するような図表(つまり異なる特性評価指標に基づいた尺度での表示)としたが、両軸とも同じ特性評価指標に基づいた尺度で図表化してもよい。
・実施例2では得られた主成分から処方を演繹して求めていたが、このように一度処方が求まれば以後の累進屈折力レンズの処方としてこの結果を前もって想定した処方として使用することが可能である。
・実施例2の図10では2つの方向の尺度を1平面上に図表化する表示方法で特性分布を表したが、1つの尺度だけを図表化するような表示方法であっても構わない。
・上記実施例2では主成分分析の解法として共分散行列以外に相関行列を使用することも可能である。また、計算方法としてはバリマックス法やヤコビ法を使用することも可能である。
・上記各実施例ではレンズ特性として平均度数と非点収差を採用したが、他のレンズ特性を採用しても構わない。
・入手するデータの数や分析対象レンズ5上のデータの分布間隔や分布面積等の条件は適宜変更可能である。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を実行するための装置の概略ブロック図。
【図2】同じく度数分布測定装置の概念図。
【図3】(a)は分析対象レンズのレンズ特性データとして平均度数について得られたデータ値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図、(b)は同じく非点収差について得られたデータ値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図。
【図4】(a)はマッピングされた光点の拡大説明図であり、(b)はその光点を補間計算により整然と並び替えた状態の説明図。
【図5】平均度数についての第1の尺度を横軸にとり、非点収差についての第2の尺度を縦軸に取った場合の製品P1〜Pnを平面的に配置した散布図。
【図6】レンズと各レンズについて採取したデータの行列形式で表現することを説明する説明図。
【図7】標準化したデータ行列をもとに共分散行列を計算する方法を説明する説明図。
【図8】共分散行列の計算のアルゴリズムを説明する説明図。
【図9】共分散行列の要素を計算していく過程を説明する説明図。
【図10】横軸を平均度数の第1の尺度とし縦軸を非点収差の第1の尺度として評価値に基づく重みを与えられた各被験レンズを平面上に配置したレンズ特性図。
【図11】平均度数の第1の主成分の固有ベクトルの値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図。
【図12】非点収差の第1の主成分の固有ベクトルの値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図。
【技術分野】
【0001】
本発明は累進屈折力レンズの選択における指標となる尺度において当該レンズと他のレンズとの差を客観的に評価することのできる累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
累進屈折力レンズ製品には様々な種類のものがある。大きく分類すると、遠近タイプ(レンズ上方の遠用領域を広く設定した)、遠用領域を狭くした中近タイプ、更に近用領域を大きくして遠用性能を犠牲にした近々タイプがある。これら3つのタイプの特性はそれぞれ大きく異なったものであり、ユーザーの目的に応じて適したタイプの製品を選択すれば良い。しかし、同じタイプの製品同士ではその違いは非常に分かりにくい。特に最も一般的な遠近タイプの製品は種類が多いだけに、特性が似たもの同士の製品が多くある。
更に、初めて累進屈折力レンズの眼鏡を装用するユーザーにとっては上記の3つのタイプすらその違いは一見して分かりにくいものであった。そのため、累進屈折力レンズのレンズ特性を適切に評価する手法が求められていた。
ここに、評価手法として、実際に大勢の人がレンズをモニター装用したときの感じ方を主観的に評価して分析する方法によって行うことが考えられる。
しかし市場には非常に多くの商品があるので、発売される製品すべてに関して十分多くの人数でモニターして評価するには膨大な費用と手間がかかる。また、微妙な装用感の違いを誰にでもわかりやすい形で評価することは難しく、特に定量的な評価(数値評価)を行うことは難しい。せいぜい心理的な評価値を元にするしかなく、客観的な測定値として得ることはできない。また、多人数・長期間でのモニター評価にあたっては、装用者が入れ替わる(同じ人でも時間がたてば老視が進行するなどして眼の状態が変化する)という問題もある。従って、評価手法として客観性のある手法が求められていた。
客観性のある手法としては機械的な測定によるデータを用いることが適当であるといえる。例えば特許文献1に示されるようなマッピング測定装置を用いて測定した結果に基づいて評価することも不可能とはいえない。
【特許文献1】特開2006−267109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このようなマッピング測定装置では2つの製品の相対的な相違を定性的に説明することはできるものの、その違いがどれほど大きな違いなのかを簡単に分かりやすく説明することはできない。たとえば市場に存在する製品全体の中でこの2つは最も異なる両極的な存在なのか、それとももっと大きく異なる製品が多く存在するのかわからない。それを知るためには、他の製品も測定して多くのデータを比較する必要がある。
更に、例えそのように多くのマッピング測定データを比較したとしても、累進屈折力レンズ製品の製品開発等を専門に行う者でなければ、個々の製品の特性を的確に判断をすることは非常に難しい。また、得られたデータに基づいて製品の特性を説明する際に主観が入る余地もあり完全に客観性があるとはいえないこととなっていた。そのため、眼科医や眼鏡店も含め、累進屈折力レンズを取り扱う多くの人にも簡単に理解できるようなわかりやすい表現方法で、かつ客観的な数値にもとづいて累進屈折力レンズの特性を評価する方法が求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、当該レンズと他のレンズの特性の違いを客観的に評価することのできる累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために請求項1の発明では、レンズ上方に配置された比較的遠方を見るための第1の屈折領域と、同第1の屈折領域よりも下方に配置され同第1の屈折領域よりも大きな屈折力を有する第2の屈折領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進領域を備えた累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法であって、レンズ選択の指標となる1以上の定量的な尺度を設定する一方、複数のレンズのレンズ面形状の変移状態を所定の特性評価指標に基づいてそれぞれ分析して各レンズ毎に数値化した1以上のレンズ特性データを算出し、得られたレンズ特性データに基づいて各レンズ毎に他のレンズとの相対的な評価値を決定し、その結果を前記尺度との関係に基づいて表示するようにしたことをその要旨とする。
また請求項2の発明では、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記レンズ特性データは下記の数式のXiとしてベクトルの一次結合の形で近似されるとともに、前記評価値は下記の数式の係数kijで定められることをその要旨とする。
【0005】
【数2】
【0006】
また請求項3の発明では請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記尺度を評価値を決定するよりも前に設定しておくことをその要旨とする。
また請求項4の発明では請求項1〜3のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記評価値は前記レンズ特性データに基づいて共分散行列あるいは相関行列を導き、その行列式の固有ベクトルを算出して同固有ベクトルに応じた主成分を決定し、その主成分上の位置として求められることをその要旨とする。
また請求項5の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記尺度のうち1つはレンズ下方と遠用部側方の平均度数が強いことをその要旨とする。
また請求項6の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記尺度のうち1つは遠用部側方の非点収差が大きいことをその要旨とする。
また請求項7の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記尺度のうち1つは加入の立ち上がりが強くてレンズ下部では累退することであることをその要旨とする。
また請求項8の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記尺度のうち1つは中近用部側方に非点収差が集中するとともに遠用部側方の非点収差が小さいことであることをその要旨とする。
【0007】
また請求項9の発明では請求項1〜8のいずれかに記載の発明の構成に加え、尺度との関係に基づいて表示される前記各レンズは他のレンズとの間の相対的な位置が決定され図表化されて表示されることをその要旨とする。
また請求項10の発明では請求項9に記載の発明の構成に加え、第1の軸方向を所定の第1の尺度とするとともに、同第1の軸と交叉する第2の軸方向を所定の第2の尺度として両軸で表現される二次元平面上に表示させる一方、同第1の尺度と第2の尺度をそれぞれ異なるレンズ特性データに基づいて算出される主成分とするようにしたことをその要旨とする。
また請求項11の発明では請求項10に記載の発明の構成に加え、前記第1の尺度と前記第2の尺度は前記レンズ特性データとして非点収差データ又は平均度数データを採用した際の主成分であることをその要旨とする。
また請求項12の発明では請求項1〜11のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記レンズ特性データを算出するために分析領域に複数の要素のデータ取得位置を設定するとともに、各レンズのデータ取得位置に違いがある場合にはその位置の違いを修正するため、各レンズそれぞれの共通位置での要素の値を補間計算によって求めることをその要旨とする。
【0008】
上記のような構成においては、レンズ選択の指標となる1以上の定量的な尺度を設定する必要がある。尺度の設定タイミングとしては下記評価値を算出する前に行うケースもあれば評価値の算出結果に基づいて行うケースもありうる。
ここで尺度とは例えばレンズ面の度数、非点収差、乱視の軸方向、プリズムのようなレンズ特性を決定するための特性評価指標に基づいて決められるより具体的なレンズ形状の状態を評価する基準である。
例えば平均度数の尺度としては、
1)遠用領域の側方に加入が分散する。
2)遠用領域から中間領域にかけて加入の立ち上がりが強く、かつ近用部の下方では累退する。
3)レンズ全体の下半分の領域で、加入が加わった領域が広く分布する。
というような度数分布の状態の違いで評価される。
また、例えば非点収差の尺度としては、
1)遠用領域の側方に収差が分散する。
2)近用領域の側方に大きな収差集中がある。
3)遠用アイポイント近傍の収差が小さい。
というような非点収差分布の状態の違いで評価される。
作業者はレンズ特性を決定するための特性評価指標に応じた尺度を設定する。尺度は1つ以上いくつあっても基本的には構わない。
【0009】
次いで複数のレンズのレンズ面形状の変移状態を所定の特性評価指標に基づいて分析し、各レンズ毎に数値化したレンズ特性データを算出する。この工程を第1の算出工程とする。ここに「レンズ面形状の変移状態を所定の特性評価指標に基づいてそれぞれ分析する」とは例えばレンズ面の度数、非点収差、乱視の軸方向、プリズムのような特性評価指標を切り口として実際に測定しそのデータをそのままあるいは組み合わせたり変換してレンズの特性を分析することであり、その結果として各レンズ毎に数値化したレンズ特性データを算出するという意味である。
ここに、レンズ特性データを構成する要素はレンズ面の領域全域に均等にプロットして得ることが好ましい。その場合要素間をつなぐ領域については適宜補間計算することとなる。
また、レンズ特性データを算出するために分析領域に複数の要素のデータ取得位置を設定するとともに、各レンズの対応するデータ取得位置に測定誤差がある場合にはその測定誤差を修正する補間計算を行うことが正確なデータ入手のために好ましい。
次いで得られたレンズ特性データに基づいて各レンズ毎に他のレンズとの相対的な評価値を決定し、所定の前記尺度について同評価値の各レンズ毎の相対的な位置を算出する。この工程を第2の算出工程とする。つまり、レンズ特性データは各レンズの特性を表現するデータではあるものの、そのままでは他のレンズとどう形状が違うかが分かりにくい。そこで得られたレンズ特性データを加工して上記の尺度について各レンズに妥当な重み付けをして各レンズ毎に所定の尺度に対する評価値を決める。そして、その結果を表示する。表示手段としては各レンズは他のレンズとの間の相対的な位置を決定して図表化することが分かりやすいが、評価値の算出データを数値としてそのまま表示することも可能である。
【0010】
評価値は各レンズ毎のレンズ特性データに応じた差異が客観的に認められるような算出方法であれば特に制限はない。例えば、
【0011】
【数3】
【0012】
で表される評価値が考えられる。上記式は各レンズのレンズ特性データXiをベクトルの一次結合の形で近似する概念である。
同式においてベクトルを表す装飾文字Cは下記実施例1では(製品Piの平均度数+製品Pjの平均度数)/2や(製品Pkの非点収差+製品Plの非点収差)/2が対応し、実施例2では349の各列それぞれに1個の平均値を求めてなるベクトルが対応する。
また、同式においてベクトルを表す装飾文字Aは下記実施例1では(Piの平均度数−Pjの平均度数)ベクトルや(Pkの非点収差−Plの非点収差)ベクトルが対応し、実施例2では固有ベクトルの349の各要素に標準化前のデータ行列の349の各列それぞれの標準偏差をかけたものが対応する。
また、主成分分析を利用して評価値を算出することも可能である。つまりレンズ特性データに基づいて固有ベクトルを算出し、固有ベクトルに応じた主成分上の位置として評価値を求めるものである。
主成分分析を利用することで主成分が得られる。これは尺度と捉えることができる。主成分は複数得られるため所望の尺度に応じた主成分を選択することが可能である。より具体定期には、例えばレンズ特性データとして平均度数データを採用した際の主成分を同尺度に適用することが可能であり、例えばレンズ特性データとして非点収差データを採用した際の主成分を同尺度に適用することが可能である。
得られた主成分に対応する尺度として例えば「レンズ下方と遠用部側方の度数が強いこと」等が挙げられる。
他の好適な尺度としては、例えば「遠用部側方の収差が大きいこと」が挙げられる。
他の好適な尺度としては、例えば「加入の立ち上がりが強くてレンズ下部では累退すること」が挙げられる。
他の好適な尺度としては、例えば「中近用部側方に収差が集中するとともに遠用部側方の収差が小さいこと」が挙げられる。
【0013】
また、主成分分析を利用して評価値を算出し、得られた評価値の各レンズ毎の相対的な位置を算出し、その結果を図表上に表示する場合には第1の軸方向を所定の第1の尺度とするとともに、同第1の軸と交叉する第2の軸方向を所定の第2の尺度として両軸で表現される二次元平面上に表示させる一方、第1の尺度と第2の尺度をそれぞれ異なるレンズ特性データに基づいて算出される主成分とすることが好ましい。
具体的には例えば第1の尺度としてレンズ特性データとして非点収差データを採用した際の主成分とし、第1の軸方向に非点収差データに基づく評価値を配置し、第2の尺度としてレンズ特性データとして平均度数データを採用した際の主成分とし、第2の軸方向に平均度数データとするようなことが考えられる。
【発明の効果】
【0014】
上記各請求項の発明では、当該レンズと他のレンズの特性の違いを客観的に評価することができることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に従って具体的な実施例の説明をする。
まず図1及び図2に基づいて、レンズ特性分布表示方法を実行するための周辺装置の概略について説明する。
図1は本発明の特性分布表示方法を実現するための装置の概略ブロック図である。評価値算出用コンピュータ1には被験レンズの度数分布を測定する度数分布測定装置2が接続されている。尚、評価値算出用コンピュータ1と度数分布測定装置2はLAN接続のように必ずしも直接つながっていなくても良く、逆にコンピュータ1と度数分布測定装置2が一体化されていてもよい。また、度数分布測定したデータはLANに限らず、データ記憶装置等(フレキシブルディスクやUSBメモリといったメディアも含め)を使って評価値算出用コンピュータ1に渡されてもよい。
また、出力手段としてのモニター3と分析対象レンズ5のレンズデータを入力するための入力手段としてのキーボード7が接続されている。尚、出力手段としてはモニター3以外にプリンタや他の装置へデータを転送する出力手段等が挙げられる。また、入力手段としてはキーボード7以外にバーコードのような2次元コードやLAN接続された他のコンピュータやデータ記憶装置等の他の装置から転送されたデータを入力する手段等が挙げられる。
度数分布測定装置2は図2に示すように光源10、ビームスプリッタ11、スクリーン12、CCDカメラ13とを備えている。CCDカメラ13には解析装置14が接続されている。分析対象レンズ5は光源10とビームスプリッタ11の間に配置される。光源10は平行な光線をビームスプリッタ11方向に向かって照射する。ビームスプリッタ11には整然と配置された複数の透孔が形成され透孔を通過した光線(光束)はスクリーン12上に投影される。この投影された光点がマッピングポイントとされる。CCDカメラ13はスクリーン12上に投影されたマッピングポイントの映像を取り込む。
解析装置14は各透孔位置に対するCCDカメラ13によって取り込まれた光線の対応する透孔との位置変位に基づいて分析対象レンズ5の光学特性を計算する。解析装置14内部には記憶手段としてのメモリ15が配設され計算によって得られた分析対象レンズ5のレンズ特性データ(S度数データ、C度数データ、乱視軸データ、プリズムデータ)を記憶する。
【0016】
本実施例では具体的に分析対象レンズ5について次のようにして具体的なデータ入手を行った。
フィッティングポイントの2mm下方を中心とした直径50mm円を想定し、縦横2.5mmおきの格子点上の平均度数(S+C/2)と非点収差(Cの絶対値)を測定した。直径50mm円の内部および外側近傍の点を用い、使用する格子点は21×21=441点のうち349点とした。その結果、平均度数で349個、非点収差として同様に349個の合計698個のデータ値を得るようにする。
図3(a)及び(b)は遠用度数が0.00D(いわゆる上平レンズ)で加入度数2.00Dのある分析対象レンズ5のレンズ特性データとして平均度数と非点収差についてそれぞれ得られたデータ値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図である。
尚、スクリーン12上に投影されたマッピングポイントは各レンズのレンズ特性に応じて屈折させられているため実際には図4(a)に示すように不揃いで整然と配置されてはいない。そのためデータの設定位置に法則性がまったくないため取り扱いが不便である。そこで、各マッピングポイントについて図4(b)に示すように格子の交差位置に整然配置されるような補間計算を行う。補間計算は公知のスプライン補間や高次多項式によって実行される。
【0017】
(実施例1)
実施例1では上記度数分布測定装置2を使用して得られたデータ値に基づいて特性の異なる複数の累進屈折力レンズを図表化する方法について説明する。
<各レンズのデータ間距離の評価>
まず、各製品P1〜Pn(n:自然数)ついてそれぞれ上記のように平均度数と非点収差についてデータを得る。ここでは得られたデータを下記のように表記する。尚、各製品P1〜Pnとも遠用度数は0.00D(いわゆる上平レンズ)で加入度数は2.00Dで統一した。
製品P1の平均度数のデータ:P1X1,P1X2,P1X3・・・P1X349
製品P2の平均度数のデータ:P2X1,P2X2,P2X3・・・P2X349
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
製品Pnの平均度数のデータ:PnX1,PnX2,PnX3・・・PnX349
製品P1の非点収差のデータ:P1Y1,P1Y2,P1Y3・・・P1Y349
製品P2の非点収差のデータ:P2Y1,P2Y2,P2Y3・・・P2Y349
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
製品Pnの非点収差のデータ:PnY1,PnY2,PnY3・・・PnY349
【0018】
<尺度の決定>
次に製品P1〜Pnから平均度数と非点収差の尺度とするためのそれぞれ2つの製品を選択する。
ここでは平均度数については製品Piと製品Pjとの違いを第1の尺度とする。また、非点収差については製品Pkと製品Plとの違いを第2の尺度とする(i,j,k,lは自然数。但し、iとjは異なり、kとlは異なるものとする。)。
<評価値の決定>
平均度数については全製品についてPiとPjの対応する各要素の差をそれぞれ二乗し、得られた値をすべて加えたものの平方根を取ってデータ間の距離(いわゆるユークリッド距離)と定義する。
具体的には例えば、Pi=P1としPj=P2とした場合データ間距離は次のように得られる。
【0019】
【数4】
【0020】
そして、製品P1〜Pnと製品Pi及び製品Pjとの間で得られた各データ間距離に基づいて製品P1〜Pnが「製品Piとの距離」と「製品Pjとの距離」のどちらにどれほど近いかを算出する。たとえば、P1〜Pi間距離:P1〜Pj間距離=1:1であれば、製品P1は製品Piと製品Pjのちょうど中間的な特性を持つと考える。また、P2〜Pi間距離:P2〜Pj間距離=4:1であれば、製品P2は製品Pjに近いと考える。
【0021】
これはつまり、製品P1〜Pnが製品Piと製品Pjから所定の直線Lに対して下ろした垂線が直線Lと交叉する点mi,mjとの関係で直線L上のどこにあるかを決定すること、いいかえると製品P1〜Pnについてデータ間距離に基づいた固有の重み(スカラー量)を与え、第1の尺度のベクトル方向において重みに応じた位置に製品P1〜Pnを配置すると考えることができる。これを近似的な一般式とすると以下のように表すことができる。
Pnの平均度数 ≒
(Piの平均度数+Pjの平均度数)/2 + 係数An×(Piの平均度数−Pjの平均度数)ベクトル
同様に非点収差についても製品P1〜Pnと製品Pk及び製品Plの間で同様にデータ間距離を求め重みを付ける。一般式として以下のように表すことができる。
Pnの非点収差 ≒
(Pkの非点収差+Plの非点収差)/2 + 係数Bn×(Pkの非点収差−Plの非点収差)ベクトル
【0022】
図5は平均度数についての第1の尺度を横軸にとり、非点収差についての第2の尺度を縦軸に取った場合の製品P1〜Pnを平面的に配置した図表の一例である。図5における原点は平均度数についてはP1とP2の平均となり、非点収差についてはP3とP4の平均となる。第1の尺度には製品P1と製品P2それぞれの平均度数の差として定義されるベクトルを、第2の尺度には製品P3と製品P4それぞれの非点収差の差として定義されるベクトルを選択した。原点位置は横方向が製品P1と製品P2の評価値の中点、縦方向が製品P3と製品P4の評価値の中点である。
【0023】
(実施例2)
実施例2についても上記度数分布測定装置2を使用して得られたデータ値に基づいて特性の異なる複数の累進屈折力レンズを図表化する方法について説明する。実施例2では尺度を主成分分析を利用して求めるようにしている。
本実施例では表1に示すように計40種のレンズを分析対象レンズ5としてそれぞれ平均度数と非点収差についての349個のデータを採取した。得られたデータは図6に示すようなデータ行列として表現することが可能である。図6においては所定の行をj、列をkとする。
【0024】
【表1】
【0025】
<各レンズのデータの標準化>
まず、得られたデータ値の標準化を行う。以下、平均度数のデータについて具体的な計算例を説明するが非点収差についても同様の作業を行うものとする。
各レンズ毎に共通な位置の平均度数のデータ349組(1組が40個のデータからなる)を考え、349組それぞれの数値の平均と標準偏差を求める。具体的には各レンズの数値からまず平均を求め、個々のデータとの差を二乗して総和し、これを(40−1=39)で除して分散を求める。この値の平方根を標準偏差とする。一般式は下記の通りである。そして共通な位置の平均度数のデータ349組(1組が40個のデータからなる)に関して、各組40個のデータそれぞれから各組の平均値を減じて各組の標準偏差で割ることによってデータ行列を標準化する。
【0026】
【数5】
【0027】
<共分散行列の計算>
共分散行列のj行k列の要素は標準化されたデータ行列をもとに計算する。これは標準化されたデータ行列の、
1)1行のj列要素とk列要素を掛け合わせたもの
2)2行のj列要素とk列要素を掛け合わせたもの
3)i行のj列要素とk列要素を掛け合わせたもの
の合計を求めることで得られる。
一般的に書くと、図7に示すようにある行のj列要素とk列要素を掛け合わせたものを、全部の行について加え合わせることである。
この作業はコンピュータによる計算で例えば図8に示すようなアルゴリズムによって実行される。図8において、xd[][]という2次元配列は図7のデータ行列の要素を表す。a[][]という2次元配列は共分散行列の要素を表す。nnはデータ数であり、実施例では40となる。npはデータの要素数であり、実施例では349となる。
このアルゴリズムではj行k列の要素を図9に示すように図中矢印に沿って、上から順に求めていく。対角行列であるためj行k列の要素を求めるとき、同時にk行j列の要素を決定(同じ値)していることとなる。
【0028】
<固有値に基づく主成分の計算>
上記共分散行列の計算によって固有値を求める。また、非点収差についても同様に固有値を求める。本実施例における各主成分(第4主成分まで)ごとの平均度数と非点収差の固有値は次の表2の通りである。
【0029】
【表2】
【0030】
<尺度の決定>
主成分から平均度数と非点収差についてそれぞれ表3のような具体的ないくつかの尺度を演繹する。これらは平均度数と非点収差という特性における典型的な違いを尺度としたものであり、これら以外の尺度を使用することは自由である。
【0031】
【表3】
【0032】
更に、固有値に基づいて上記平均度数及び非点収差についてのそれぞれ349個のデータの固有ベクトルをそれぞれ求め、各レンズ毎に主成分に応じた主成分得点を計算する。本実施例2では、第1の尺度→第1主成分、第2の尺度→第2主成分、第3の尺度→第3主成分というような対応となっている。
図10は横軸を平均度数の第1の尺度とし縦軸を非点収差の第1の尺度とした例である。縦軸及び横軸の尺度は適宜変更することが可能である。図11は平均度数の第1の主成分の固有ベクトルの値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図であり、図12は非点収差の第1の主成分の固有ベクトルの値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図である。尚、図上数値は表記桁数を減らすために100倍して表記されている。
図10において縦軸方向は「上方ほど遠用に収差が分散する」という尺度において40種のレンズの他のレンズとの距離の差によって相対的な違いを表している。横軸方向は「遠用側方に度数が分散する」という尺度において40種のレンズの他のレンズとの距離の差によって相対的な違いを表している。図10においては第1及び第2の尺度に照らしてB社のレンズは破線で囲ったように互いに近い性質(あまり変化がない)の一群としてグループ化することが可能である。
【0033】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記実施例1や実施例2では1又は2の尺度を平面的に表現するように図表化した例を挙げたがこれ以上の数の尺度を同時に図表化するようにしても構わない。
上記実施例1では平均度数及び非点収差について別々に評価値を算出していたが、それぞれの要素349×2=698個の数列を1組として1つの評価値のみを得るようにしても構わない。
・実施例2では縦軸方向は「上方ほど遠用に収差が分散する」、横軸方向は「遠用側方に度数が分散するという尺度でレンズの特性分布を図表化したが、これ以外の尺度を縦軸及び横軸に配置するようにしてもよい。
・実施例2では縦軸方向は平均度数の尺度、横軸方向は非点収差の尺度を設定するような図表(つまり異なる特性評価指標に基づいた尺度での表示)としたが、両軸とも同じ特性評価指標に基づいた尺度で図表化してもよい。
・実施例2では得られた主成分から処方を演繹して求めていたが、このように一度処方が求まれば以後の累進屈折力レンズの処方としてこの結果を前もって想定した処方として使用することが可能である。
・実施例2の図10では2つの方向の尺度を1平面上に図表化する表示方法で特性分布を表したが、1つの尺度だけを図表化するような表示方法であっても構わない。
・上記実施例2では主成分分析の解法として共分散行列以外に相関行列を使用することも可能である。また、計算方法としてはバリマックス法やヤコビ法を使用することも可能である。
・上記各実施例ではレンズ特性として平均度数と非点収差を採用したが、他のレンズ特性を採用しても構わない。
・入手するデータの数や分析対象レンズ5上のデータの分布間隔や分布面積等の条件は適宜変更可能である。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を実行するための装置の概略ブロック図。
【図2】同じく度数分布測定装置の概念図。
【図3】(a)は分析対象レンズのレンズ特性データとして平均度数について得られたデータ値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図、(b)は同じく非点収差について得られたデータ値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図。
【図4】(a)はマッピングされた光点の拡大説明図であり、(b)はその光点を補間計算により整然と並び替えた状態の説明図。
【図5】平均度数についての第1の尺度を横軸にとり、非点収差についての第2の尺度を縦軸に取った場合の製品P1〜Pnを平面的に配置した散布図。
【図6】レンズと各レンズについて採取したデータの行列形式で表現することを説明する説明図。
【図7】標準化したデータ行列をもとに共分散行列を計算する方法を説明する説明図。
【図8】共分散行列の計算のアルゴリズムを説明する説明図。
【図9】共分散行列の要素を計算していく過程を説明する説明図。
【図10】横軸を平均度数の第1の尺度とし縦軸を非点収差の第1の尺度として評価値に基づく重みを与えられた各被験レンズを平面上に配置したレンズ特性図。
【図11】平均度数の第1の主成分の固有ベクトルの値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図。
【図12】非点収差の第1の主成分の固有ベクトルの値をマッピングした位置に重ね合わせた合成図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ上方に配置された比較的遠方を見るための第1の屈折領域と、同第1の屈折領域よりも下方に配置され同第1の屈折領域よりも大きな屈折力を有する第2の屈折領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進領域を備えた累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法であって、
レンズ選択の指標となる1以上の定量的な尺度を設定する一方、複数のレンズのレンズ面形状の変移状態を所定の特性評価指標に基づいてそれぞれ分析して各レンズ毎に数値化した1以上のレンズ特性データを算出し、得られたレンズ特性データに基づいて各レンズ毎に他のレンズとの相対的な評価値を決定し、その結果を前記尺度との関係に基づいて表示するようにしたことを特徴とする累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項2】
前記レンズ特性データは下記の数式のXiとしてベクトルの一次結合の形で近似されるとともに、前記評価値は下記の数式の係数kijで定められることを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【数1】
【請求項3】
前記尺度を評価値を決定するよりも前に設定しておくことを特徴とする請求項1又は2に記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項4】
前記評価値は前記レンズ特性データに基づいて共分散行列あるいは相関行列を導き、その行列式の固有ベクトルを算出して同固有ベクトルに応じた主成分を決定し、その主成分上の位置として求められることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項5】
前記尺度のうち1つはレンズ下方と遠用部側方の平均度数が強いことであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項6】
前記尺度のうち1つは遠用部側方の非点収差が大きいことであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項7】
前記尺度のうち1つは加入の立ち上がりが強くてレンズ下部では累退することであることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項8】
前記尺度のうち1つは中近用部側方に非点収差が集中するとともに遠用部側方の非点収差が小さいことであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項9】
尺度との関係に基づいて表示される前記各レンズは他のレンズとの間の相対的な位置が決定され図表化されて表示されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項10】
第1の軸方向を所定の第1の尺度とするとともに、同第1の軸と交叉する第2の軸方向を所定の第2の尺度として両軸で表現される二次元平面上に表示させる一方、同第1の尺度と第2の尺度をそれぞれ異なるレンズ特性データに基づいて算出される主成分とすることを特徴とする請求項9に記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項11】
前記第1の尺度と前記第2の尺度は前記レンズ特性データとして非点収差データ又は平均度数データを採用した際の主成分であることを特徴とする請求項10に記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項12】
前記レンズ特性データを算出するために分析領域に複数の要素のデータ取得位置を設定するとともに、各レンズのデータ取得位置に違いがある場合にはその位置の違いを修正するため、各レンズそれぞれの共通位置での要素の値を補間計算によって求めることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項1】
レンズ上方に配置された比較的遠方を見るための第1の屈折領域と、同第1の屈折領域よりも下方に配置され同第1の屈折領域よりも大きな屈折力を有する第2の屈折領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進領域を備えた累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法であって、
レンズ選択の指標となる1以上の定量的な尺度を設定する一方、複数のレンズのレンズ面形状の変移状態を所定の特性評価指標に基づいてそれぞれ分析して各レンズ毎に数値化した1以上のレンズ特性データを算出し、得られたレンズ特性データに基づいて各レンズ毎に他のレンズとの相対的な評価値を決定し、その結果を前記尺度との関係に基づいて表示するようにしたことを特徴とする累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項2】
前記レンズ特性データは下記の数式のXiとしてベクトルの一次結合の形で近似されるとともに、前記評価値は下記の数式の係数kijで定められることを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【数1】
【請求項3】
前記尺度を評価値を決定するよりも前に設定しておくことを特徴とする請求項1又は2に記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項4】
前記評価値は前記レンズ特性データに基づいて共分散行列あるいは相関行列を導き、その行列式の固有ベクトルを算出して同固有ベクトルに応じた主成分を決定し、その主成分上の位置として求められることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項5】
前記尺度のうち1つはレンズ下方と遠用部側方の平均度数が強いことであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項6】
前記尺度のうち1つは遠用部側方の非点収差が大きいことであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項7】
前記尺度のうち1つは加入の立ち上がりが強くてレンズ下部では累退することであることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項8】
前記尺度のうち1つは中近用部側方に非点収差が集中するとともに遠用部側方の非点収差が小さいことであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項9】
尺度との関係に基づいて表示される前記各レンズは他のレンズとの間の相対的な位置が決定され図表化されて表示されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項10】
第1の軸方向を所定の第1の尺度とするとともに、同第1の軸と交叉する第2の軸方向を所定の第2の尺度として両軸で表現される二次元平面上に表示させる一方、同第1の尺度と第2の尺度をそれぞれ異なるレンズ特性データに基づいて算出される主成分とすることを特徴とする請求項9に記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項11】
前記第1の尺度と前記第2の尺度は前記レンズ特性データとして非点収差データ又は平均度数データを採用した際の主成分であることを特徴とする請求項10に記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【請求項12】
前記レンズ特性データを算出するために分析領域に複数の要素のデータ取得位置を設定するとともに、各レンズのデータ取得位置に違いがある場合にはその位置の違いを修正するため、各レンズそれぞれの共通位置での要素の値を補間計算によって求めることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の累進屈折力レンズのレンズ特性分布表示方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−25432(P2009−25432A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186567(P2007−186567)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】
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