細胞でコーティングされた移植可能デバイス
本発明は、一般的に、細胞でコーティングされた移植可能医学的デバイスに、そして特に、血液と接触する表面が内皮前駆細胞(EPC)でコーティングされている移植可能医学的デバイスに関する。好ましい態様において、医学的デバイスは、チタンまたはチタン合金に基づく医学的デバイスである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年8月12日に提出された米国仮出願第61/272,054号に優先権を請求し、該出願の全内容は本明細書に援用される。
技術分野
本発明は、一般的に、細胞でコーティングされた移植可能医学的デバイスに、そして特に、血液と接触する表面が内皮前駆細胞(EPC)でコーティングされている移植可能医学的デバイスに関する。好ましい態様において、医学的デバイスは、チタンまたはチタン合金に基づくデバイスである。
【背景技術】
【0002】
心不全は、最も迅速に増加している健康上の問題の1つを構成し、毎年、新規に診断される患者は55万人を超える(Hunt, J. Am. Coll. Cardiol. 46(6):e1−e82(2005))。医学的治療に不応性の重症心不全を有する患者は、心臓移植によって補助されるのが最適である。しかし、臓器に対する要求は需要をはるかに超えており、米国では毎年、2,200未満のドナー臓器しか入手可能でない。患者が連続静脈内強心剤(inotropic support)に頼るようになった時点では、翌年内の生存率はわずか6%でありうる(Hershbergerら, J. Card. Fail. 9(3):180−187(2003))
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Hunt, J. Am. Coll. Cardiol. 46(6):e1−e82(2005)
【非特許文献2】Hershbergerら, J. Card. Fail. 9(3):180−187(2003)
【発明の概要】
【0004】
本発明は、一般的に、細胞でコーティングされた移植可能医学的デバイスに関する。より具体的には、本発明は、血液と接触する表面がEPCでコーティングされている移植可能医学的デバイス(例えば、チタンまたはチタン合金に基づくデバイス)に関する。
【0005】
本発明の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1
【図2】図2
【図3】図3
【図4】図4
【図5】図5
【図6】図6
【図7】図7
【図8】図8
【図9】図9
【図10】Bardによるステント用のFluency送達系の例。Aは、一緒に近傍に横たわるニチノールステント支柱の位置を示し、Dは、マクロ孔を装備していてもよい内部カテーテルを示し、Eは、格納可能な外部鞘を示す。これは、マイクロ孔を装備していてもよく、Kは、内部カテーテル管腔にフラッシュするポートを示す。すべての系はこうしたポートを有し、そしてEPC溶液は、このポートを通じて送達可能である。
【図11】EPCを含有する溶液を、送達系の遠位ポート(図10のKを参照されたい)を通じて内部カテーテル鞘内に導入可能である。
【図12】外部鞘がマイクロ孔(直径約10μm)で修飾された送達系。10ミクロンの最小横断面寸法が孔を通じた流動を制限する。孔が楕円形である場合、短径がこの必要条件を満たすならば、より大きな長径を有することも可能になりうる。
【図13】図13Aおよび13B。EPCでコーティングされたニチノールステントのバルーン拡張。図13A、非焼結。図13B、焼結。
【図14】Tiチューブ植え付けチャンバー。
【図15】MCADの主な構成要素の図(HeartMateIIIなどのLVADの例を示すが、一般的な原理は、部分的循環補助デバイスを含む、他の機械的補助デバイスにも等しく適用可能である)。
【図16】全LVADを完全に取り囲むハードシェル・エンケーシング。
【図17】軸の周囲を回転する、LVADを保持するエンケーシング。
【図18】植え付けデバイスチャンバー内部に配置される、エンケーシングされたLVAD。
【図19】密封回転装置。
【図20】密封回転装置をLVADに(例えばチュービングで)連結してもよいし、そしてまた密封回転装置を、ドライブライン周囲の区画(エンケーシングによって形成される)に連結してもよい。
【図21】チュービングを通じて、異なる区画に連結された密封回転装置を伴う、植え付けデバイスチャンバー内部に配置されるLVAD。
【図22】チュービングを通じて、異なる区画に連結された密封回転装置を伴う、植え付けデバイスチャンバー内部に、外側から吊されたLVAD。
【図23】回転電気コネクター(別名スリップリング)の付加。
【図24】モーターへのLVADの軸の連結。
【図25】密封回転装置を離れる際に、チュービングを閉鎖するかまたは開放する、自動電気チュービングクランプの付加。
【図26】図26A〜26D。異なってプレコーティングされた8時間後に、チタン表面上に広がるEPC。(図26A)FN含有および血清含有(fn1s1)。(図26B)FN含有だが血清不含(fn1s0)。(図26C)FN不含だが血清含有(fn0s1)。(図26D)FNもまた血清も不含(fn0s0)。
【図27】EPC拡散データ。
【図28】2μm2試料面積の原子間力顕微鏡画像。
【図29】図29
【図30】図30
【図31】図31
【図32】図32
【図33】図33
【図34】図34
【図35】図35
【図36】図36
【図37】図37
【図38】図38
【図39】移植用の化合物純粋Tiチューブの組み立ておよび調製。
【図40】TiチューブへのEPC含有溶液の装填。
【図41】TiチューブへのEPCの植え付け。
【図42】EPCの集密(confluent)表面の生成。
【図43】パルス吸収材、容器および心肺バイパスポンプからなる流動ループ中のTiチューブ。
【図44】EPCでコーティングされたTiチューブの移植。
【図45】血栓症によって閉塞した対照Ti移植物の管腔。
【図46】対照Ti移植物の血餅が詰まった管腔。
【図47】EPCでコーティングされたTi移植物の血餅を含まない管腔。
【図48】蛍光顕微鏡は、移植前に植え付けられた密度で、蛍光標識された細胞が存在することを示す(40x)。
【図49】in vivoでのEPCの拡散(200x)。
【図50】ステント中の穴の側面図。穴は、送達系の外部鞘を完全に貫通し、そして近接しており、したがって、圧力が減少する。
【図51】Zygol 3D光学プロファイラー、Zygo New View 500を用いて、Tiチューブ内表面の粗度を決定した。白色光干渉法を用いて、Ti表面の3Dトポグラフィーマップを生じた。Ti試料あたり3つの画像を得て、そして平均粗度(Ra)=350μMを計算した。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、少なくとも部分的に、チタン(Ti)またはチタン合金に基づく移植可能医学的デバイスの血液と接触する表面を、EPCでコーティングすると、血栓形成が減少し、そして生体適合性が増加するという認識から生じる。患者自身の血液由来のEPCを用いることによって、免疫拒絶が回避されうる。
【0008】
本発明は、細胞でコーティングされた移植可能医学的デバイスに、該医学的デバイスをコーティングする方法に、そして細胞でコーティングされた医学的デバイスの使用に基づく治療法(血管疾患を治療する方法を含む)に関する。医学的デバイスの血液と接触する表面をコーティングするのに用いる細胞は、EPCであってもよく、好適には、例えば末梢血、臍帯血または胎盤由来の自家EPCであってもよい。血液と接触する表面上にEPCが存在すると、医学的デバイス移植部位での再狭窄および血栓症の発生が減少する。EPC(別に内皮コロニー形成細胞(ECFC)として知られる)が好ましいが、本発明には、内皮細胞(例えば血液由来内皮細胞)一般の使用が含まれる。例えば、本発明には、骨髄由来内皮細胞、脂肪組織由来内皮細胞、微小血管由来内皮細胞、血管由来内皮細胞、心臓由来内皮細胞、ヒト脳由来内皮細胞および皮膚由来内皮細胞の使用が含まれる。本発明にはまた、胚性/胎児幹細胞ならびに内皮細胞特性/表現型を採用するように遺伝子改変された細胞の使用も含まれる。
【0009】
本発明にしたがって、細胞(例えばEPC)でコーティング可能な医学的デバイスには、医学的状態の予防または療法または診断のため、哺乳動物内に一時的にまたは永続的に導入されるデバイス、ならびに生理学的パラメーターを無線監視するデバイスが含まれる。こうしたデバイスには、限定されるわけではないが、MCAD(例えば、流入および流出カニューレおよびアダプターを含む、左心室補助デバイス(LVAD))、人工心臓、血管ステント、大動脈フィルターまたは肺塞栓症に対して防御する他のデバイス、非血管ステント(例えば胃腸、肺または胆管)、血管グラフトまたは血液透析グラフト、歯科移植物、整形外科移植物、再建装具(reconstructive prosthesis)、心臓装具(例えば人工心臓弁)、生物学的心臓弁装具(例えばブタなどの動物由来のもの−異種移植片をEPCでコーティングして、これらをより生体適合性にし、そしてより血栓性でなくすることも可能である)、限定されるわけではないが、pHおよび血液酸素化、血圧、血糖レベル(糖尿病における血糖管理の適用のため)を含むパラメーターを測定する移植可能無線バイオセンサー、移植可能インスリンポンプ、移植可能人工肺、移植可能人工腎臓またはろ過系、人工または組織操作膀胱および/または尿管、他の移植可能人工臓器、移植可能電気デバイス(例えばペースメーカー)、または無線マイクロエレクトロニクス機械系(MEMS)が含まれる。医学的デバイスは、例えばチタンまたはチタン合金で作製されてもよく、これには、形状記憶合金(例えばニチノール(NiTi)、アルミニウムおよびバナジウム合金(Ti6Al4V)および(Ti6Al4V ELI)、ならびにニオブ合金(Ti6Al7Nb)、鉄合金(Ti5Al2.5Fe)、限定されるわけではないが、Nb、Ta、Zr、Mo、Fe、Siを含有するチタン合金が含まれる)が含まれる。デバイスは他の金属、例えばステンレススチールでも作製可能である。
【0010】
本発明で使用するのに適したEPCは、確立されたプロトコル(Yoderら, Blood 109(5):1801−1809(2007))にしたがって、患者末梢血から単離可能である。自動化細胞分取系を利用して、大規模に、迅速でそして効率的な細胞単離を達成してもよい。小滴に基づく細胞分取は、研究目的に用いられてきた光学細胞分取の1つの型を構成する(Herzenbergら, Clin Chem 48:1819−27(2002))。これによって、蛍光標識EPC特異的マーカー(例えばCD31+、CD34+、CD14−、CD45−)に基づいて、細胞、例えばEPCを分取することが可能になる。光学細胞分取は、多数の蛍光タグからのシグナルと同時に、細胞のサイズおよび形態を同時に分析することを可能にし、したがって、細胞を許容するかまたは拒絶するかに関する決定を行いうる。
【0011】
療法設定に適用可能な自動化細胞分取の別の方法は、磁気抗体の使用に基づく。所定のバイオマーカーを持つ細胞を磁場によって溶液から取り除くことも可能である。この方法は、多数のマーカーを同時に検出することを可能にしない(Dainiakら, Adv Biochem Eng Biotechnol 106:1−18(2007))。高速光学細胞分取デバイス、例えば、109細胞/時間の速度で、封入された使い捨て容器中に、迅速切り換えマイクロ流体バルブを用いて、細胞を光学的に分取するCytonome(Cytonome, Inc. マサチューセッツ州ボストン)によって製造されるGigasortの利用を伴う(DiGiustoら, Cytotherapy 9:613−29(2007))。標準的な培養方法論を用いて、単離されたEPCを培養中で拡大してもよい。
【0012】
また、上記と同じ方法を用いて、本発明で使用するのに適したEPCを臍帯血から単離し(Meadら, Curr Protoc Stem Cell Biol Chapter 2:Unit 2C1(2008))、そして培養中で拡大してもよい。別のアプローチは、Reinischら(Blood 113(26):6716−6725(2009))によって記載されるように、プールしたヒト血小板溶解物でEPCを単離することである。
【0013】
単離された細胞(例えばEPC)を遺伝子操作するかまたは分子修飾して、例えば、直接または間接的に血栓形成、再狭窄または血小板付着を阻害するか、あるいは細胞生存度を増進するかまたは抗炎症特性を有する、因子またはタンパク質を発現させてもよい。例えば、遺伝子、偽遺伝子、突然変異体遺伝子、例えばドミナントネガティブ遺伝子、あるいは遺伝子サイレンシング構築物、例えばshRNAまたはマイクロRNAまたはマイクロを含むベクター(例えばウイルスベクター、例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、AAVキメラベクターまたはレトロウイルスベクターまたは偽型ウイルスベクター)を構築してもよい。一連の慣用的なクローニング法を用いて、適切な発現カセットを構築してもよい。ウイルスベクターを通じた遺伝子送達の使用が好ましいが、非ウイルス方法論、例えば、リポソーム試薬、リポプレックスまたはポリプレックスを通じたプラスミドまたはコスミドDNA送達、エレクトロポレーション、ソノポレーション(sonoporation)、水力学的遺伝子送達、「遺伝子銃」の使用、ならびにnucleofector技術およびナノ粒子送達もまた使用可能である。
【0014】
細胞(例えばEPC)を好適に操作して、抗凝固および抗炎症分子としての特性を考慮して、トロンボモジュリン(TM)を過剰発現させる。TMは、血液凝固における最も重要な抗凝固フィードバックループの1つに関与し、これによって、トロンビンのタンパク質分解活性が抑制されて、さらなるトロンビン生成が防止される。さらに、TMが活性化プロテインC生成を誘導することで、内皮細胞に対する抗炎症および抗アポトーシス機能が発揮される(DahlbackおよびVilloutreix, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 25(7):1311−1320(2005))。TMが好ましいが、本発明には、限定されるわけではないが、トロンビン−TM複合体によるPC活性化速度を増加させる、内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)(Fukudomeら, J Biol Chem 269:26486−91(1994));L−アルギニン誘導体一酸化窒素を合成し、そしてしたがって強力な血小板接着および凝集阻害剤として働き、そしてサイトカインおよび内毒素が誘導する組織因子の発現を減少させる、内皮一酸化窒素シンターゼ(Yangら, Circulation 101:2144−8(2002));抗トロンビンおよびヘパリン補因子IIとの相互作用を通じて、血栓形成促進性タンパク質と対抗する、ヘパリン様分子(Sternら, J Exp Med 162:1223−35(1985));凝固促進性トロンビン分子を阻害することによって作用する、ヘパリン補因子IIの亜種(Shirkら, Arterioscler Thromb Vasc Biol 16:1138−46(1996));プラスミノーゲンをプラスミンに変換し、そしてしたがってフィブリン分解を可能にする、プラスミノーゲン活性化因子(例えば組織プラスミノーゲン活性化因子およびウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子);組織因子と組み合わされて活性化された凝固因子VIIaを阻害する、組織因子経路阻害剤(Osterudら, Thromb Haemost 73:873−5(1995));負に荷電した膜リン脂質に高いアフィニティを持つ非グリコシル化タンパク質として、凝固因子を置き換え、そして血小板接着を阻害することによって作用する、アネキシンV(Heら, J Biol Chem 283:19192−200(2008));環状アデノシン一リン酸を上方制御することによって、血小板凝集を阻害する、プロスタサイクリン(PGI2)(Willisら, Lancet 2:682−3(1986));トランスフォーミング増殖因子ベータ1などの、抗炎症タンパク質(Smithら, J Immunol 157:360−8(1996));インターロイキン−10(Mulliganら, J Immunol 151:5666−74(1993));インターロイキン−4(Mulliganら, J Immunol 151:5666−74(1993));高密度リポタンパク質(Cockerillら, Circulation 103:108−12(2001));ZPIと複合体を形成し、そしてリン脂質表面に結合して、ここで、活性化された因子IX、XおよびXIを阻害する、プロテインZ(Corralら, Br. J. Haematol. 137:99−108(2007))、ならびに抗凝固経路、線維素溶解経路および抗炎症経路に関与する、他のタンパク質、因子および受容体を含む、他のポリペプチド/タンパク質を発現するように遺伝子操作されている細胞(例えばEPC)が含まれる。
【0015】
細胞(例えばEPC)の遺伝子操作は、好適な遺伝子の過剰発現または付加に限定されず、限定されるわけではないが、プラスミンへのプラスミノーゲンの変換の作用を阻害する、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子1(Rijkenら, J Thromb Haemost 7:4−13(2009));活性化されたまたは損傷を受けた内皮細胞上で発現される可能性もあり、そして外因性凝固経路の活性化に中心的な役割を果たす、組織因子(Osterudら, Thromb Haemost 73:873−5(1995));血小板活性化因子受容体(Derianら, Expert Opin Investig Drugs 12:209−2(2003));炎症促進性インターロイキン;および凝固タンパク質の接着を増進する、細胞表面リン脂質、ならびに凝固、抗線維素溶解および炎症促進経路に関与する他のタンパク質、因子および受容体をコードするものを含む、不都合な遺伝子の阻害、下方制御および「ノックアウト」も含まれる。
【0016】
所望の遺伝子(単数または複数)を含む外因性DNAまたはRNA発現カセットのトランスフェクションによって、細胞が遺伝的に改変されたならば、標準的組織培養技術を用いて細胞を増殖させてもよい。標準的技術を用いて、所望の遺伝子を発現しそして分泌する細胞のアリコットを、液体窒素中で凍結させて保存してもよい。使用前に、標準的組織培養プロトコルを用いて、凍結した細胞を融解しそして再増殖させてもよい。
【0017】
本発明はまた、移植可能デバイスの血液と接触する表面を、細胞(例えばEPC)でコーティングする方法に、そしてこうした方法で使用するのに適したデバイスにも関する。細胞拡散速度を増加させるため、移植可能デバイスの血液と接触する表面を、フィブロネクチン、コラーゲン、ビトロネクチン、ラミニン、フィブリンなどの細胞外マトリックスタンパク質、またはヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラチン硫酸などのプロテオグリカン、もしくはヒアルロン酸などの非プロテオグリカン多糖含有分子を含む、分子、タンパク質もしくは構築物を含有する任意の構成要素、あるいはその任意の組み合わせでプレコーティングしてもよい。血液と接触する表面はまた、ゼラチンまたはゼラチンマトリックスまたはゼラチンの泡、例えばGelfoam(Pharmacia and Upjohn、Pfizer)、セルロース、ミクロフィブリル性コラーゲン、トロンビン、例えば組換えヒトトロンビン(Recothrom、ZymoGenetics)、フィブリン・シーラント、例えばTisseel(Baxter)、またはフィブリンゲル、フィブリン糊、線維素溶解で阻害されるフィブリン糊、接着糊またはシーラント、ヒドロゲルでプレコーティングされてもよい。血液と接触する表面はまた、血清タンパク質または他の血液構成要素、または増殖因子またはホルモン、例えば血小板由来増殖因子BB、塩基性線維芽細胞増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、またはトランスフォーミング増殖因子ベータ1でプレコーティングされていてもよい。プレコーティングはまた、合成ポリマー、例えばリジン、オルニチンもしくはアルギニンのポリマー、またはポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸、またはL−グルタミン酸処理構築物、またはグルタルアルデヒドで保持される細胞マトリックス、または生物分解性結合剤もしくはコーティング、例えばポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)、または生物分解性ポリエステル、例えばポリヒドロキシアルカノエート、ポリソルベート、またはポリアミノ酸、例えばポリ−L−リジン、またはキトサン、フェチュイン、または陽イオン性シリカ微小ビーズ、他のタイプのマイクロビーズもしくは炭素沈着表面コーティング、プラズマ放電表面修飾による改変を伴うもしくは伴わないポリエチレンテレフタレート、または共有付着アビジン、ビオチニル化、またはRGDペプチド配列含有分子、RGDペプチドに架橋された構造もしくは構築物もしくはペプチド、または1もしくはそれより多いEPC特異的インテグリン結合部位もしくは相乗結合部位、例えばアミノ酸配列DRVPHSRNに特異的な分子、またはEPCに特異的な抗体、ペプチドもしくはアプタマー、あるいは上記の任意の組み合わせを用いて達成されてもよい。前述の分子を、下層にある表面、例えばチタン/チタン合金表面に物理吸着(physiosorbed)または共有結合させてもよく、後者の表面には、シリル化(例えばアミノシラン架橋剤へのスチールの連結)、ビオチン化、ドーパミンへの共有結合等を含む、多様な方法が利用可能である。上述のタンパク質、分子、ポリマー、構造および人工構築物に加えて、他の細胞タイプを用いて、血液と接触するデバイス表面をプレコーティングして、限定されるわけではないが、線維芽細胞、平滑筋細胞、幹細胞、中皮細胞、間葉系細胞、前駆細胞、筋細胞、または他の細胞タイプを含むEPCに適したマトリックスを提供してもよい。拒絶を回避するため、自家細胞で移植可能デバイスをプレコーティングすることが望ましい。例えば、この目的のため、線維芽細胞は、患者皮膚の試料から容易に採取可能である。
【0018】
実施例4は、チタン表面をFNでプレコーティングした際の、EPC拡散に対する効果を記載する。例えば冠動脈スチールステント、例えばBiodivYisoTMAS(Biocompatibles Cardiovascular Inc. カリフォルニア州)、BeStentTM(Medtronic Inc. ミネソタ州)、CYPHERTM(Cordis Corporation、フロリダ州)、NiRflexTM(Medinol Ltd. イスラエル)、TAXUSTMEXPRESS2TM(Boston Scientific Corporation)、LiberteTMMonrailTM(Boston Scientific Corporation、メリーランド州)、またはRithronXR(Biotronik GmbH、ドイツ)ステント、あるいはコバルトクロム合金ステント、例えばMULTILINK−VISIONTM(Guidant Corporation、カリフォルニア州)ステントをコーティングするため、スチールにEPCを付着させるために、316Lステンレススチールにプレコーティングを適用してもよい。ステントを非展開状態のままで、細胞植え付け前に、プレコーティングマトリックスタンパク質(または他の構成要素)を、EPCと同じ方式で(以下の実施例に記載するように、ガイドワイヤ鞘中、マクロ孔を通じて)マクロ孔を通じてステント内に挿入してもよい。あるいは、金属支柱(ステントの場合)にすでに吸着させたかまたは別の方式で連結したマトリックスタンパク質を伴って、ステントをプレパッケージングしてもよい。後者の場合、パッケージ中、液体中または湿った環境中で、例えばDPBS中で、ステントまたは他のデバイスを維持してもよい。
【0019】
表面化学的性質に加えて、表面ミクロトポグラフィーもまた、細胞(例えばEPC)が、血液と接触する表面に、どの程度よく吸着し、そして付着するかにおいて、重要な役割を果たしうる(Boyanら, Biomaterials 17:137−146(1996))。実施例5に記載する研究は、細胞拡散および接着には、滑らかなチタン表面が好適であることを示す。チタンフィラメント蒸発、電子ビーム蒸発、およびスパッター沈着を含む、確立された方法を用いて、他の金属表面を滑らかなチタン表面に変換することも可能である。
【0020】
非常に滑らかな表面が好適でありうるが、移植可能デバイスの血液と接触する他のありうる表面には、限定されるわけではないが、表面への酸エッチング、プラズマ電解酸化、レーザーアブレーション、ビードブラスティング、サンドブラスティング、ならびにナノ粒子、例えば二酸化チタン、金、鉄、および酸化アルミニウムの付着を含む、多様な技術を用いて生成可能な、より粗い表面が含まれる。他の技術には、金属デバイス表面の化学的官能化後のナノ粒子付着が含まれ;金属および/または無機ナノ粒子をデバイス表面に固定して、表面を粗くするのに使用可能な、多様な反応基を伴う、多様な金属表面(Ti、Ni、Taまたはスチール)に付着可能なシランが、商業的に入手可能である。これらの反応基は:逆の電荷、金属−リガンド相互作用、および/または化学的に、例えばEDC/NHS反応(酸官能化粒子を、アミン含有表面に付着させうる)を通じた方式を含む多様な方式で、ナノ粒子と相互作用可能である。
【0021】
さらに、原子移動ラジカル重合を用いて、表面開始重合を通じて、表面に粗いポリマーコーティングを付加してもよい。ナノ構造が金属表面で直接形成されるのに加えて、成形表面コーティング(shaping surface coating)を通じてもまた生成可能である。この目的のため、「トップダウン」リソグラフィー法を用いてもよく、そしてこれには:光学リソグラフィー、X線リソグラフィー、電子ビーム直接書き込みリソグラフィー、極紫外線リソグラフィー、荷電粒子リソグラフィー、ナノインプリントリソグラフィー、走査プローブリソグラフィー、例えばディップペン・ナノリソグラフィー、原子間力顕微鏡ナノリソグラフィー、および磁気リソグラフィー(magentolithography)が含まれる。「ボトムアップ」法もまた適用可能であり、そしてこれには、ラングミュア・ブロジェット薄膜、ならびに静電自己集合、支持体上への陰イオン性および陽イオン性多価電解質の交互吸着が含まれる。この目的のために使用可能な別の「ボトムアップ」法は、自己集合単層(SAM)の生成である。SAMは、物理的蒸着技術、電着、無電解析出、または溶液からの吸着を通じて産生可能である。合成化学反応は、塩基性構築ブロックを生成し、そしてより弱い分子間引力がブロックをともに結合させ、そしてナノスケール構造を形成する。
【0022】
本発明で使用するのに適した細胞コーティングデバイスおよび方法を、以下の実施例に記載する。実施例に記載する方法に加えて、ステントまたは他の管状構造あるいは中空のまたは空洞のデバイスを植え付ける他の方法は、磁力、静電力、遠心力および/または重力依存性定着の使用に基づいてもよい。
【0023】
細胞植え付け法として磁力を用いる場合、ステント管腔を、磁化された細胞(例えばEPC)で満たしてもよい。細胞は、Itoら(Tissue Eng 11:1553−61(2005))およびInoら(Biotechnol Bioeng 102:882−90(2009))の方法にしたがって、磁鉄鉱陽イオン性リポソーム、例えば10nm磁鉄鉱ナノ粒子を含有する陽イオン性リポソームで磁化可能である。コーティングしようとするステントが強磁性物質、例えば純粋316Lステンレススチールで作製されている場合、磁気ナノ粒子が充填された細胞を誘引するように、磁化することも可能である。強磁性ステントを、図11に例示するような非展開型で植え付けてもよい。さらに、標準的技術を用いて、強磁性ステントを移植し、望ましい位置で展開し、そして次いで、ステント送達デバイスを通じて、磁気細胞(例えばEPC)を導入することによって、in vivoで植え付けてもよい。非強磁性ステント、例えばニチノールステントに植え付けるため、単数/複数の磁石をステント/ステント送達デバイスの外部周囲に配置して、磁場を生成し、そして細胞をステント内表面上周囲に導いてもよい。送達デバイス内部でステントを非展開型のままで、このプロセスを達成可能である。
【0024】
細胞植え付け法として静電力を用いる場合、鞘内の非展開状態の金属ステントを、負荷電細胞(例えばEPC)を誘引するように、電池の正極に連結することによって、正電圧に保持してもよい。細胞植え付け期間中、正荷電を維持してもよい。さらに、ステント送達系のガイドワイヤを、植え付けプロセス中、負(反発性)荷電に保持してもよい。
【0025】
細胞植え付け法として遠心力を用いる場合、管腔内に導入された細胞溶液中の細胞(例えばEPC)がステント支柱の内表面に対して外向きの遠心力に供されるように、ステントを長軸周囲で回転させてもよい。この目的のため、非展開ステントを含有する鞘に、軸周囲に360度回転可能なジョイントを装備して、そして送達デバイスの遠端で、ステントを回転させ、そしてそれによって必要な遠心力を発揮するモーターに連結してもよい。あるいは、非展開ステントを含有する鞘を送達デバイスから外して、そして電気モーターで回転させた後、植え付け後に鞘にふたたび連結してもよい。クイックスナップ設計またはスクリュー設計を通じて、こうした再連結を達成してもよい。クイックスナップ設計では、ステントを拘束する鞘に、オス・コネクターを与えてもよく、これが、内表面および外表面上に継ぎ目のない移行で、コネクターのメス端内にスライドする。連結された後、両端がともにロックされるように、このクイックスナップ設計を修正してもよい。これによって、血管系内での遠位鞘のいかなる偶発的な喪失も防止される。同じ目的のため、スクリューイン設計を用いてもよい。この場合、組み立て後、スクリュー部分が軸受部分内に「ロック」されることを可能にする安全特徴として、どちらかの端にあらかじめ装填されたフックまたはタブが付加されうる。
【0026】
ステントはまた、重力のみを通じても植え付け可能である。これはふたたび、上述のように、全送達デバイスと組み合わせたか、または別個に、360度ジョイントを通じて送達デバイスに連結されたか、あるいは送達系から完全に切断された、ステント含有鞘の回転を必要とする。この方法に理想的な回転速度は、細胞(例えばEPC)がランダムに分布していると仮定して、細胞の平均定着時間を計算することによって概算可能である。半径Rのステント中央に位置する、密度ρmおよび粘度μの培地に浸された密度ρcのEPCの場合、定着速度vsは、vs=(2/9)x(R2/μ)x(ρc−ρm)g、式中、gは重力定数である、と表されうる。
【0027】
以下の実施例に示すように、EPCは、血管中で見られるものより有意に高い剪断ストレス下で、チタンに接着したままである。さらに、ヒト動脈内部の内皮によって経験されるものに匹敵する剪断条件(15ダイン/cm2)に曝露された後、EPCは、その主軸を流動方向と一致させて整列する。したがって、チタン(またはチタン合金)表面上にコーティングされたEPCは、天然内皮と類似の形態学的特性で裏打ちを形成するようリモデリングする。さらに、チタンまたはチタン合金上に植え付けられたEPCは、剪断ストレスによる刺激に対する反応として、正常で健康な内皮から予期されるように、一酸化窒素を産生する。EPCでチタンまたはチタン合金表面をコーティングすると、血小板接着が有意に減少し、これは重要な抗血栓特性である。
【0028】
本発明と一致して、心不全を患い、そしてMCAD移植の候補と同定されている患者は、EPCを採取するため、単純な採血を経てもよい。EPC(上述のように遺伝子操作されていてもよい)を培養中で拡大し、そして凍結保存してもよい。例えば、適切な植え付けデバイス内にMCADを導入し、EPC溶液を植え付けデバイスに添加し、そしてそれによってMCADに自動的に植え付けてもよい。手術時、EPCでコーティングされたMCADを、EPCを単離した患者内に移植してもよい。
【0029】
本発明を用いて、心臓血管ステント留置術の主な合併症である「ステント内狭窄」に取り組むことも可能である。ステントを血管系内に移植した後、20%〜80%が再閉塞する。本発明は、移植直前に、ステント内部上に内皮裏打ちを生成する患者自身のEPCをステントに植え付ける方法を提供する。冠動脈または末梢血管疾患を患う患者は、単純な採血を経ることも可能であり、そして標準的技術を用いてEPCを単離してもよい。標準的技術を用いて、EPC(上述のように遺伝子操作されていてもよい)を培養中で拡大して、そして凍結保存してもよい。ステントを移植数分以内に植え付けてもよく;凍結EPCを融解し、そしてステントを約10分以内に植え付けてもよい。このアプローチは、任意の血管、例えば冠動脈、末梢動脈および静脈、ならびに脳の血管中の任意のステントに適用可能である。
【0030】
本発明は、チタンまたはチタン合金移植可能デバイスに関連して詳細に記載されているが、細胞(例えばEPC)コーティング法はまた、透析を通じてのみ生存している、末期腎不全を患う患者が直面する問題に取り組むためにも使用可能である。しばしば、血液透析のためのアクセス部位を提供するため、患者動脈および静脈間のブリッジとして透析グラフト(典型的にはPTFEで作製される)が移植される。しかし、これらの人工的グラフトは、徐々に詰まる可能性もあり、そして血餅を取り除くかまたは新規グラフトを外科的に移植するには侵襲処置が必要である。本発明を用いて、グラフト内部を、例えばEPC(例えば遺伝子操作されたEPC)で裏打ちすることによって、グラフト血栓症のリスクを減少させることも可能である。EPCを患者血液から単離し、そして培養中で増殖させそして使用まで凍結してもよい。透析グラフト内部には、移植直前数分以内に植え付けてもよい。
【0031】
本発明の医学的デバイスを用いて治療可能な被験体は、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ウシ、げっ歯類またはサルを含む哺乳動物である。
本発明の特定の側面を、以下の限定されない実施例中に、より詳細に記載する。
【実施例】
【0032】
実施例2
本発明の細胞(例えばEPC)コーティング方法論を適用可能なステント送達系には、例えば、BardによるFluencyステント送達系、およびev3によるProtegeステント送達系が含まれる。例として図10に示すのは、Bardによるステント用のFluency送達系である。この原理的な設計は、限定されるわけではないが、冠動脈、胆管、血管および気管気管支ステントを含む、異なるステント製造者に渡って、非常に類似である。
【0033】
図11に示すように、細胞含有溶液を送達系の遠位ポート(K)(例えば図10中を参照されたい)から内部カテーテル鞘内に導入してもよい。内部カテーテルをマクロ孔(約1mm直径)で修飾し、そして細胞溶液が内部カテーテルおよび搭載されたステント(例えばニチノールステント)の内表面間の空間内に送り込まれるように、カテーテル先端の穴に蓋をしてもよい。図11には示されていないが、ステントが内部カテーテル上にあり、そしてカテーテルの外部鞘によって拘束されている。細胞溶液が、内部カテーテルおよびステントの内表面間の空間内に送り込まれるにつれて、溶質がマイクロ孔を通じて周囲に出て行き、そして細胞(例えばEPC)が自己拡張ステント(ニチノール)内表面上に引き込まれるように、マイクロ孔で外部鞘を修飾する(図12を参照されたい)ことによって、溶媒引き込みが生じる。ステントが植え付けられたら、キャップを取り外し、そしてガイドワイヤ上で血管内に挿入することによって、標準的方式で送達系を用いてもよい。ガイドワイヤは狭窄血管を通過し、そしてワイヤが内部カテーテル内をスライドする間、ステント送達系を血管内に導くように、「モノレール」として働く。
【0034】
実施例8に詳細に記載される別のそして好ましいアプローチは、ステント送達系のサイドポート(図10(L))を利用することによって、内部カテーテル鞘およびステント間の空間内に細胞溶液を直接導入することである。こうした送達系の特定の例は、Cordis PRECISEニチノールステント系(5.5F Precise、カタログ番号P05040XC)(4x40mm非拘束ステント)であり、これは以下の実施例8で修飾され、そしていわゆるTuohy Borst Y連結(この特定の設計において)を通じてステントおよび内部カテーテル鞘間の空間のアクセスを可能にする。細胞溶液をこの空間内に導入することによって、図11に例示するように内部カテーテル鞘内に、ドリルで穴(マクロ孔)を開ける必要がなくなる。
【0035】
ニチノールステントは、そのユニークな「記憶」特性のため、自己拡張性である。したがって、ステンレススチールステントの場合のように、「バルーン拡張」は必須ではない。しかし、特定の状況下で、ステントをさらに開放し、そして血管の輪郭によりよく適応するために、自己拡張性ステント(例えばニチノールステント)がバルーン拡張される。バルーン拡張中、細胞の損傷を防止するため、修飾ステント設計を使用してもよい。
【0036】
修飾ステント設計は、ニチノールまたは他の自己拡張性チタン合金ステントにも適用可能である。これらの設計原理は、他のステント、例えば純粋316Lステンレススチールステント、例えばCordis Cardiology, Johnson and Johnson Company、ニュージャージー州ブリッジウォーターによるCypherステントにもまた適用可能である。
【0037】
修飾ステント設計にしたがって、ステントは、チタン・マイクロ孔を伴って焼結され、該孔は、「安全な溝」を提供可能であり、そして植え付けられた細胞(例えばEPC)がバルーン拡張中に損傷を受けないように保護しうる(図13を参照されたい)。これによって、ステントを膨らませても細胞に最小限の損傷しか与えずに済む。細胞を保護する他の方法には、限定されるわけではないが、細胞(例えばEPC)直径より大きいサイズの金微粒子の表面上での固定、および電子ビームを用いて、レジストで覆われた表面の領域を選択的に取り除き、金属表面にトランスファー可能であり、そして細胞のための「安全な溝」を提供可能な微小パターンを生じる、電子ビームリソグラフィーが含まれる。あるいは、ステント支柱の内表面上に、細胞を保護しうる小さいくぼみを与える方式で、ステント支柱を修飾してもよい。エッチング、研磨、機械的スクラッチング、焼成、高温でFeCl3中に浸すことによる孔食、塩素溶液中の金属への陽極電位の適用である電気化学孔形成、放電加工(EDM)およびレーザーアブレーションを含む多様な方法を用いて、これらの溝を生成してもよい。レーザーアブレーションならびにEDMが後者の方法の中で好ましい技術である。EDMにおいて、電極またはワイヤおよびステント金属間で放電が起こり、そして電極またはワイヤのそれぞれのサイズが表面において生じる溝の直径を決定し、そしてこれは、数100μmの範囲内であるはずである。
【0038】
実施例3
チタンチューブ内表面上にEPCを植え付けるため、チューブ、ポンプまたは任意の他の中空デバイスの内表面上がどのように細胞の集密層で裏打ち可能であるかを示すのに役立つ、特別な植え付けデバイス/バイオリアクターを設計した。植え付けデバイス/バイオリアクターは、細胞培地が満たされた植え付けチャンバー(改造したピペットボックス)内部でチタンチューブを回転させる(図14を参照されたい)。モーター(Synchronous Timingモーター、Herbach and Rademan、ニュージャージー州モレスタウン)を、ステンレススチール軸を介し、赤いゴムストッパーを通じて、ポリスルホンディスクに連結する。ステンレススチール突起は、回転ポリスルホンディスクへのオートクレーブ可能なシラスティックチュービング片内に装填された、Tiチューブを保護するのを可能にした。Tiチューブ内部にEPC溶液を保持するため、シラスティックチュービングの末端は、丸い透析膜(Spectra/Por Biotechセルロースエステル透析膜、MWCO 1x106、Spectrum Laboreatorises、カリフォルニア州ランチョドミンゲス)で塞ぎ、これはOリングで覆われたアルミニウム挿入物に対してネジ止めされたポリスルホン隔壁フィッティング内部に保持される。全植え付けチャンバーに細胞培地を満たし、回転するチタンチューブが、細胞植え付けプロセス中、完全に浸るようにする。チタンチューブのどちらかの端の透析膜は、気体および培地交換を可能にする。植え付けチャンバーはまた、細胞植え付けプロセス中、例えば漏れのために、培地レベルが低下した場合には警報を誘発する、滅菌可能浮きプローブも装備する。さらに、滅菌温度プローブ(Mon−a−therm、Tyco Healthcare、カリフォルニア州プレザントン)を通じて、温度を監視する。ラミナフローフード(sterilGARD、メイン州サンフォード)下でチャンバー全体を組み立て、そして次いで、37℃および5%CO2の水ジャケット・インキュベーターに入れる。植え付けチャンバー上部を半透膜(AeraSeal、EXCEL Scientific、カリフォルニア州ライトウッド)で覆い、インキュベーター内部で気体交換が生じうるが、細菌混入が不可能であるようにする。
【0039】
植え付けプロセス中の最適回転速度は、植え付けようとするチューブ、ポンプまたは他の任意の中空デバイスの直径と線形関係で変化する。具体的には、上述のチタンチューブの寸法(12mm直径)に関しては、最適植え付け条件は、およそ0.6〜2x106細胞/ml、好ましくはおよそ1x106細胞/mlの植え付け密度で、2時間の期間に渡って、1時間あたり10回転(rph)の速度であると決定されている(また、上記により詳細に記載する等式vs=(2/9)x(R2/μ)x(ρc−ρm)gに基づく細胞定着時間に関する原理を参照されたい)。その後、シラスティックチュービングのいずれかの末端上のポリスルホンキャップを外し、そしてチューブの反対の一端のノズルを通じてデバイスに(流入)、0.5〜1ダイン/cm2のおよその剪断ストレスで、55時間の期間に渡って灌流し、その間ずっと、チタンチューブを10rphで回転させ続ける。流出は、インキュベーター外に置かれたポンプ(Masterflex、Cole−Parmer、イリノイ州バーノンヒルズ)に培地を戻す。これらの条件は、これらのチューブ内のEPCの完全に集密な裏打ちを信頼性を持って生成するために理想的であると決定された。
【0040】
MCADを、HeartMateIIIに関して以下に詳細に記載するように、細胞(例えばEPC)でコーティングしてもよい。このMCADは、例示目的のみのために用いられる。以下に提供する原理は、製造者とは独立に、任意のLVADまたは人工心臓を細胞でコーティングする際に適用可能である。
【0041】
図15は、LVADの主な構成要素の模式図である。示すのは、内部モーター/ポンプを外部環境に連結するワイヤを収納するドライブラインである。LVADが完全に移植されたら、ドライブラインは、持ち運び可能電池または壁面コンセントに連結可能であるように、患者皮膚を貫通する。やはり示すのは流入および流出カニューレである。流入カニューレは、心臓に連結され、そして血液がMCAD内に流入するのを可能にする。流出カニューレは、MCADを大動脈に連結し、そしてしたがって、血液が循環内にポンピングされるのを可能にする。
【0042】
図16に示すように、ハードシェル「エンケーシング」は、全LVADを完全に取り囲む。このエンケーシングは、細胞でコーティングしようとするLVADに、ぴったり取り付けられる。示す設計は、異なる(非EPC)細胞タイプ(例えば線維芽細胞)でのドライブライン(および/または他の部分)外部の同時細胞植え付けを可能にする。これは、より迅速な組織内殖の利点を有し、それによってドライブライン感染のリスクが減少する。エンケーシングは、デバイス内部を満たすのに用いられる溶液とは異なる細胞溶液で満たすことも可能な中空の周囲を提供する。成形に応じて、この異なる細胞溶液は、ドライブライン、またはLVADの他の部分と接触してもよい。また、これは、MCADの無菌「ラッピング」も提供する。このエンケーシングは、透明なプラスチックであってもよく、開封し、そして細胞(例えばEPC)でコーティングしたLVADを取り出した後、廃棄してもよい。
【0043】
図17は、LVADを保持するエンケーシングが、軸上をどのように回転可能であるかを示す。軸中央のホルダーは、軸へのエンケーシングの取り付けを可能にし、そしてエンケーシングを取り除き、そしてLVADを移植しようとする際に、開封可能である。軸の右側に、動的密封回転装置を示す。この回転装置を以下により詳細に記載する。簡潔には、内部シリンダーが軸と一緒に回転することを可能にするが、固定された外部セルを有する。軸の左側は中空であり、そして内部に回転電気コネクターを配置することを可能にする(以下を参照されたい)。
【0044】
図18は、植え付けデバイスチャンバー内部に配置される、エンケーシングされたLVADを示す。示す植え付けデバイスチャンバーは、植え付けデバイスチャンバーのどちらかの壁上での軸の吊り下げを可能にし、そしてまた、動的密封回転装置の外部シェルの固定も可能にする。植え付けデバイスチャンバーは、エンケーシングおよびすべての部分を含むLVADを完全に封入する。該デバイスは、組み立て後に滅菌可能であり、そして使用時にのみ開封される。植え付けデバイスチャンバーは、透明で丈夫な材料、例えばPlexiglasで構築されてもよい。
【0045】
図19は、密封回転装置の例を示す(示すのは、GPシリーズ4部回転装置、Dynamic Sealing Technologies、ミネソタ州アンドーバーである)。この例において、内部シリンダー中の4つの開口部は、個々のチャネル内部の流体が別個に維持され、そして外部マントル中の個々の開口部に対応するように、回転装置内部の4つのチャネルに対応する。密封回転装置の目的は、異なる流体区画(LVAD内部およびドライブラインを取り巻く外部)の灌流を可能にすることである。数時間かかりうる、最初のEPC植え付け期間の後、廃棄物を排除し、そして細胞に栄養素および酸素を提供するため、LVADを培地で灌流してもよい。回転装置シリンダー中の4つの別個の開口部は360度の回転を可能にし、一方、マントル中の対応する4つの開口部は固定されていてもよい。これらのチャネルのうち2つを用いて、LVADを灌流してもよく、一方は流入そしてもう一方は流出である。他の2つを用いて、ドライブライン周囲の流体区画を灌流してもよい。
【0046】
図20は、密封回転装置をLVAD(例えばチュービングを含む)にどのように連結可能であり、そしてまた、ドライブライン(エンケーシングによって形成される)周囲の区画にどのように連結可能であるかを示す。これによって、異なる区画(LVAD内部およびLVAD外部、特にドライブライン)の、2つの異なる細胞溶液(例えば内部に関してはEPC、そして例えば、外部に関しては線維芽細胞)での同時灌流を可能にする。いくつかのLVADにおいては、ドライブラインを取り除いてもよい。ドライブラインを別個のチャンバー中に植え付け、そして灌流してもよい。
【0047】
図21は、植え付けデバイスチャンバー内部に配置されるLVADを示し、そして密封回転装置が、チュービングを通じて、異なる区画にどのように連結可能であるかを示す。
図22は、チュービングを通じて、異なる区画に連結された密封回転装置を伴う、植え付けデバイスチャンバー内部に吊されたLVADを外側から示す。
【0048】
図23は、回転電気コネクター(別名スリップリング)の付加を示す。この回転電気コネクターは、植え付けデバイスチャンバー内部の部分が、LVADおよびドライブラインとともに回転し、そして電気連結の外部部分が適所に固定されるように、ドライブラインに連結可能である。この設計は、LVADへの電力連結を可能にし、そしてLVADが植え付け後にそれ自体を灌流することを可能にする。LVAD内表面に接着したEPCは、その機械的受容体を通じて、LVAD移植後に経験するであろう剪断ストレスを正確に感知可能であり、そしてしたがって、ex vivoでプレコンディショニング可能である。EPCは、プレコンディショニング期中に、特定のLVADによって生成される剪断力に最適に耐えるように、細胞骨格を再編成することによって、反応する。また、外部ポンプを用いて、チャンバー内部のLVADを灌流してもよい。
【0049】
図24は、LVADの軸がモーターにどのように連結可能であるかを示す。植え付けデバイスチャンバー中の密封回転装置を離れるチュービングを、2つの異なる細胞溶液用の2つの容器に連結してもよい。ドライブライン周囲の区画の灌流を可能にする外部ポンプ(例えばローラーポンプ)を示す。LVADがそれ自体を灌流しない場合、上に示すように、第二のポンプを用いて、チャンバー内部のLVADを灌流してもよい。
【0050】
図25は、密封回転装置を離れる際に、チュービングを閉鎖するかまたは開放する自動電気チュービングクランプの付加を示す。植え付けプロセス(引力によって仲介される)終了後、チュービングを自動的に開放し、そしてポンプ(ならびにLVAD)を開始するコンピュータに、電気チュービングクランプを連結してもよい。コンピュータはまた、最初の細胞植え付けプロセス中に、モーターの回転速度を制御可能である。回転速度は、デバイスの形状に応じて、1回転内で多様であってもよい。チュービングの開放は、栄養素、廃棄物を交換し、そして細胞に酸素を提供するため、細胞が植え付けられた区画の灌流を可能にしうる。2つの容器は、CO2分圧を制御し、そして培地を37℃の温度に維持するインキュベーター中に収納可能である。
【0051】
自給式植え付けデバイス/バイオリアクターが、LVAD植え付けと関連して上に詳細に記載されているが、植え付けられるであろうデバイスを回転させ、そして細胞接着が達成された後、該デバイスを培地または他の溶液で灌流して(細胞植え付けと同時にまたはその直後に)、細胞に栄養分を与え、そして流動するように条件付ける(その間ずっと、無菌にし、そして自給式のままにする)この方法を用いて、LVAD以外の中空のまたは多孔性の構造/デバイスに植え付けてもよい。こうした自給式植え付けデバイスおよび/またはバイオリアクターを用いて、LVAD表面、および他の表面上にEPCを植え付けてもよく、そしてまた、植え付けられたEPCが完全に集密な単層に増殖するのを可能にしてもよいが、好ましいアプローチは、それぞれの表面に迅速に、例えば数分以内に、手術室テーブル上でまたはカテーテル検査室で、移植直前に植え付け、そして完全に集密な単層が樹立されるまで待たないものである。この目的のため、EPCを上述のように植え付けてもよく、自給式植え付けデバイスおよび/またはバイオリアクターを用いて、重力に基づく植え付けプロセスを利用し、回転植え付けデバイスを用い、そしてこうして植え付けられた表面が集密に到達する前に移植する。こうした迅速植え付けプロセスの特定の例に関しては、実施例7を参照されたい。
【0052】
これらのアプローチを用いて、例えば血管グラフト、透析グラフト、人工血管、組織操作移植可能中空デバイス、人工腸管、組織操作腸、歯科移植物、人工/組織操作気管または気管支樹部分、大動脈グラフト、心臓弁、シャント、胆管、膵管、涙管、脳脊髄液含有シャント、人工臓器の操作に必要な管またはチューブ、ステント、移植可能チューブ、ポンプ、バイオセンサー、移植可能チュービングおよび他の移植可能中空チューブ、構造またはデバイスに植え付けてもよい。
【0053】
実施例4
広い表面(例えばMCADのもの)をEPCの集密な裏打ちで覆おうとする場合に好適でありうるように、チタン表面上でのEPC拡散速度を増加させるため、培地組成を変化させた(血清飢餓EPC培地を用いることによる)効果、および細胞外マトリックスタンパク質(例えばフィブロネクチン(FN))で表面をプレコーティングする効果の評価を行った。チタンおよびチタン合金は、マトリックス分子、例えばFNのコンホメーションおよび配向に影響を及ぼし、そしてより小さいΔD/Δfおよびより大きいフットプリントによって示されるように、これらがよりコンパクトなコンホメーションを、そしてそれとともに、RGDインテグリン結合部位の異なる立体化学配置を取るようにする(Hemmersamら, J. Colloid Interface Sci. 320:110−116(2008))。血清飢餓およびFNプレコーティングはどちらも、植え付け後の最初の数時間の間、EPC拡散を加速しうることが見出された。
【0054】
より長い期間に渡るどちらかの効果を評価するため、血清リッチ培地中のFNプレコーティング・チタン試料(fn1s1)(図26A)を、血清飢餓培地中のFNプレコーティング・チタン試料(fn1s0)(図26B)、血清リッチ培地中の裸の非コーティング・チタン試料(fn0s1)(図26C)および血清飢餓培地中の裸の非コーティング・チタン試料(fn0s0)(図26D)に比較した。ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)中、1cm2表面積あたり3μgのヒトFN(Sigma−Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を室温で3時間チタンに物理吸着させることによってプレコーティングを達成した。EPCをセル・トラッカー・オレンジで蛍光標識し、そして6,500細胞/cm2の密度で植え付けた。8時間インキュベーションした後、すべてのEPCを画像化し、そして個々の面積をLeicaソフトウェア(Leica、Image−Pro Plusバージョン6.3、メリーランド州ベセスダ)で測定した。総計1,662の個々のEPC面積を、同じ条件下、連続4回の実験で定量化した。4回の異なる実験条件に関して、平均表面積を計算した。多重線形回帰モデルを行い、ここで、実験条件、実験数、および2つの間の相互作用が予測変数であり、そして表面積が結果であった。分散分析を調べ、そしてp<0.05を統計的有意性として認めた。実験数および相互作用に関して調節する間、FNでプレコーティングしたEPCは、他の実験条件に比較した際、8時間後、チタン上で有意により迅速に拡散した(図27および表2)。SASバージョン8.2(ノースカロライナ州キャリー)でデータ分析を行った。
【0055】
表2
異なるプレコーティング上でのEPC拡散の統計分析
多重線形回帰モデルを行い、ここで、実験条件、実験数、および2つの間の相互作用が予測変数であり、そして表面積が結果であった。
【0056】
【表1】
実施例5
上記実験で用いるチタン試料の表面粗度の研究を行った。細胞拡散および接着に関する最適な結果は、非常に滑らかな表面で達成された。
【0057】
チタン試料の表面粗度/粒子サイズを分析し、そして定量化するため、これらをAFM測定に供した。最初に、試料をSDSでリンスし、窒素流下で乾燥させ、そして次いで、スチール試料ディスク上にマウントした。AFMトポグラフィー画像を空中で行い、そして低く適用された垂直抗力(<1nM)下で得て、そしてMultiMode原子間力顕微鏡(Digital Instruments、カリフォルニア州サンタバーバラ)を用いて、V型窒化ケイ素カンチレバー(Nanoprobe、Veeco、バネ定数0.12N/m;先端半径20〜60nm)を用い、接触モードで収集した。2μm2面積に渡って測定した平均表面粗度は、およそ11nmであることが見出された(図28)。図29は、チタン試料の表面トポグラフィーの三次元画像を示す。
【0058】
実施例7
以下のように、平均粗度350μM(図51を参照されたい)の化合物純粋チタン(Ti)チューブを組み立て、そして移植用に調製した。Tiチューブを3つの長軸方向部分にあらかじめ切り、そして王水(1:3のモル比の濃硝酸および濃塩酸)中に5分間浸し、その後、石鹸溶液(Alconox粉末、1:100に希釈)中で5分間、超音波処理し、その後、脱イオン水中で5分間、超音波処理することによって清浄化した。脱イオン水でさらに30回リンスした後、ラミナフローフード下で、Ti部分を風乾した。酸化チタン・パーセントが高い純粋チタン表面に対して、EPC接着が最適である(X線光電子分光法によって評価した際)ことが見出されているため、チタン表面から環境由来炭素および窒素混入物を除去するために、極めて注意深い清浄化が必要である。塵のない環境において(ラミナフローフード下)、Ti片周囲に医学等級ポリ塩化ビニル(PVC)熱収縮チュービングを熱収縮させることによって、こうして清浄になったTi部分をTiチューブに組み立て直した。3つの個々のTi部分を心棒上に置くことによって、組み立てを容易にした。ヒートガンを用いて、PVCチュービングをTi周囲に熱収縮させた(図39を参照されたい)。
【0059】
EPC含有溶液でTiチューブを満たすため、Tiチューブの各端をシラスティックチュービング(医学等級シリコンゴムチュービング、外径17mm、内径12.7mm)のおよそ1.5インチ部分内に挿入し、そして10mlシリンジのカットオフ端を1つのチュービング部分内に挿入した(図40中のTiチューブの左端に示す)。すべての部分を使用前にガス滅菌(酸化エチレン)した。植え付け時、10mlシリンジを血清不含EPC培地(EGM−2を含むEBM−2、Lonza/Clonetics)中の蛍光標識EPCで満たし、そしてチューブの反対側、未結合のチュービング端内に挿入した(図40中のTiチューブの右端に示す)。次いで、デバイスを垂直に保持して、そして10mlシリンジのピストンを押した際、EPC含有溶液をTiチューブ内に押し込みつつ、空気をTiチューブのもう一方の端を通じて、より具体的には、シラスティックチュービング中に挿入されたカットオフシリンジ先端を通じて逃した。Tiチューブの全管腔がEPC含有溶液で満たされたならば、カットオフシリンジ先端のルアーロックをストップコックで閉鎖した。Tiチュービングのシラスティックチュービング部分内に挿入された10mlシリンジを取り除かずに、全デバイスを滅菌カバー内に入れ(滅菌グローブを用いた)、そして(非滅菌)植え付けデバイス内に挿入した。血清(アルブミン)は、植え付けの最初の数分中、金属表面へのEPC結合を妨害するため、血清不含培地の使用は、この植え付け工程に重要であることが見出された。
【0060】
迅速植え付け方法論にしたがい、移植直前の数分以内にデバイスに植え付ける。この目的のため、Tiチューブ(この時点で、EPC溶液で満たされ、そして滅菌カバー内にある)を、植え付けデバイスの回転ポリスルホンヘッドのF−16ステンレススチール突起内に挿入し(図41)、そして37℃のインキュベーター内に入れた。回転速度(および植え付け時間)は、植え付けようとするチタンチューブまたはデバイスのサイズ(半径)に応じる。この特定の例のため、Tiチューブ(内半径=6.4mm)を用いた。移植は、右腎の高さであり、そして内半径6.4mmのTiチューブを成功裡に下大動脈に適合させるため、右腎動脈および静脈を連結させる必要があった。(続く実験において、内半径4.7mmまたは3.0mmを有する、より小さいTiチューブを用いるであろう。)1時間あたり10回転の回転速度および30分の植え付け時間(または全部で5回転)で、最適な結果を達成した。例えば4.7mmの内半径を持つ、より小さいサイズのチューブに植え付けるため、22分の植え付け時間、および内半径=3mmのチューブには、例えば1時間あたり13〜14回転の回転速度を用いてもよく、15分間の期間には、1時間あたり例えば20回転の回転速度を用いてもよい。1ml EPC培地あたり1〜2x106細胞のEPC濃度で、最適な植え付け結果が達成された。さらに、これらの条件下でのEPCは、明記した期間中、密封された気体浸透性Tiチューブ内で、生存し、そして機能性であるままであることが見出された。
【0061】
図42および43に示すような流動循環において、流動への直接曝露を伴う短い植え付け期間の後、集密表面を生じる能力を、ex vivoで試験した。インキュベーター(5%CO2、37℃)内のパルス吸収材、容器、および心肺バイパスポンプ(未提示)からなる流動ループ内に挿入されたTiチューブを示す。流動は、すべての実験において、x48時間で維持された。次いで、Tiチューブを取り除き、熱収縮材料をメスで切り、そして3つのTi部分各々を蛍光顕微鏡で画像化して、集密内皮裏打ちを確認した。
【0062】
Tiチューブを体重60kgのヨークシャーブタ内に移植した。ブタは、血液と接触する表面の生体適合性を研究するための確立された動物モデルとして、長年に渡る歴史を有する(Ueberrueckら, J. Surg. Res. 124(2):305−311(2005))。さらに、ブタは、凝固生物学および炎症の研究のため、最も認められるモデルの1つである(Velik−Salchnerら, Thromb. Res. 117(5):597−602(2006)、Kangら, Thromb. Haemost. 89(2):256−263(2003)、Dal Nogareら, Am. Rev. Respir. Dis. 142(3):660−667(1990))。ブタの血液は、ヒト血液に比較して、わずかに過凝固性であるため、ブタは、原理研究の証明のための優れたモデルである(Velik−Salchnerら, Thromb. Res. 117(5):597−602(2006))。これらのブタにおいて、抗血栓表面を生成することが可能であるため、こうした技術はヒトでもまた成功すると予期されうる。
【0063】
下大動脈を単離し、そして移植部位の近位および遠位でクランプする前に、血管ループで固定した(図44を参照されたい)。静脈切開術を行い、そしてチタンチューブを挿入した。その後、静脈切開を連続した6−0Proline縫合で閉鎖し、そして血管クランプを除去することによって流動を確立した。対照ブタに裸の(非コーティング)Ti移植物を移植し、そして試験ブタにはEPC裏打ちTi移植物を移植した。
【0064】
ブタを正常な(ブタ)生理学的パラメーターで2時間維持した後、Tiチューブを外植した。これを行うため、IVCをデバイスの近位および遠位で交差クランプし、そして静脈の両端を重バサミ(heavy scissors)で切断した。周囲の静脈を含めてデバイスを一括して取り除き、そして手術室テーブル上で直ちに写真を撮影した。注目すべきことに、対照移植物(裸のTiのみ)の全管腔は血栓症によって閉鎖された(図45)。外植後、動物を安楽死させた。
【0065】
熱収縮チュービングをメスで切断することによって、Tiチューブを3つの長片に分解した。全管腔を満たす血餅を図46に示す。EPCで裏打ちしたデバイスを用いて、同じ処置を反復した。図47に示すように、EPCでコーティングしたデバイス中には血餅はなかった。試験動物および対照動物間のすべての実験条件は同一であった。
【0066】
3つのTi片をリン酸緩衝生理食塩水溶液で洗浄し、そして10%ホルマリン溶液中で固定した。蛍光顕微鏡によって、移植前に植え付けた密度と同じ密度で蛍光標識細胞が存在することが立証された(図48、40xでの画像)。さらに、細胞がin vivoで拡散し始めるのが観察され、これは表面積が増加し、そして丸さが減少することによって明らかである(図49、200xでの画像)。
【0067】
実施例8
EPCは、Ti表面に著しくよく接着し、集密単層に増殖し、そして生理学的剪断ストレス下で保持される。これらの発見、ならびに迅速な(2〜3分間)細胞植え付けを可能にする、修飾ニチノールステント送達系の開発を上述する。
【0068】
決定から実際の移植までが30日以上の時間間隔であることによって定義されるような選択的手術で、現在、〜70%はニチノールステントが用いられているため、ステント候補である、末梢動脈疾患患者の大部分では、EPCを単離し、そして培養することが可能である。さらに、採血あたりのEPCの収量は、採血数時間前にAMD3100を投与することによって有意に増加しうる(Shepherdら, Blood 108(12):3662−3667(2006))。AMD3100は、自家EPCを単離する成功率を10倍増加させ、少数の患者において軽度の副作用が報告されるのみである(Shepherdら, Blood 108(12):3662−3667(2006))。したがって、単回の末梢血の採血から90%を超える確実性でEPCを単離可能である。
【0069】
ステント送達系を製造し、画像化/再圧縮を最適化する。ニチノールステント送達系(Cordis PRECISE)のステント鞘内に多数の小さい穴をドリルで開けてもよい(図50)。各穴は、細胞より小さいが(10μm以下)、流体の通過を可能にし、上述のように、EPCがステント支柱上に迅速に植え付け可能であるようにする。355nm周波数三倍化Nd:YAGレーザーを用いて、鞘の全長に沿って100μmのピッチでプラスチック鞘にドリルで穴を開けてもよく、外周上、36の直線状の線として穴を開ける。Cell Tracker(Invitrogen)で標識し、そして蛍光顕微鏡で画像化することによって、ステント支柱上のEPCを視覚化してもよい。多数回の実験のため、修飾ステント送達系を再使用するために、送達系の遠位内部カテーテル先端を切断し、そしてステントを氷水に浸しながら、プラスチック漏斗(ピペット先端)に通過させることによって、ステントを再装填してもよい。
【0070】
圧駆動流動を通じて、EPCを非展開ステント上に植え付け可能であるように、ステント送達系を修飾してもよい。レーザーを用いて、プラスチック支持鞘中、ドリルで穴を開けてもよい。2〜3分以内にステントの完全な植え付けを達成するのに必要な流速、ならびに穿孔処理したステント鞘に渡る圧低下を計算し、そして非接着細胞を定量化することによって実験的に検証することも可能である。性能を改善するため、圧低下を調節し、そして/または鞘内により多くの穴を開けて調べてもよい。
【0071】
蛍光顕微鏡を用いて、展開ステント表面上のEPCの画像化を最適化してもよい。どの倍率および配置が、接着細胞に関して、曲がったステント支柱をスキャンするための最も包括的な方法を生じるかに関して、決定を行ってもよい。必要であれば、視野に関してステントを移動させそして回転させることが可能な、顕微鏡ステージ用のステントホルダーを構築してもよい。
【0072】
実験のため、修飾鞘を多数回再利用するため、Ti表面に関して先に記載したように、ステントを清浄化してもよく(Achneckら, Microsc. Res. Tech. 73(1):71−76(2010))、そして修飾ステント鞘内に再装填するため、ステントを再圧縮してもよい。拡張されたステントを再圧縮するために、ニチノールが氷水中で可鍛性になるという事実を利用してもよい。
【0073】
EPC植え付けを最適化し/ex vivoで、生理学的剪断ストレス下、細胞保持を評価する。確立されたプロトコルにしたがって、ヒトおよびブタの末梢血からEPCが成功裡に単離されてきている(Yoderら, Blood 109(5):1801−1809(2007))。これらの細胞は、光学顕微鏡および電子顕微鏡によって、内皮細胞(EC)形態を有し、そして免疫蛍光およびフローサイトメトリーによって典型的なECマーカーを示す。ニッケルが血液中に浸出しないように、表面上がTiのみである層で、ニチノールステントをコーティングするため、実験目的のためにTiスライドを製造した。CHA Industries Solution Eビーム蒸着系を用いて、ピラニア洗浄した(piranha cleaned)ガラススライド上に、100nmのTiを沈着させ、そしてX線光電子分光法(Wangら, Applied Surface Science 253:8507−8512(2007))を用いて、試料の原子組成がTi(酸化チタン)であることを確認した。Tiの原子間力顕微法によって、表面粗度がおよそ10nmであることが明らかになり、これはニチノールステントの電解研磨表面によく匹敵した(Thierryら, Biomaterials 23(14):2997−3005(2002))。
【0074】
EPCは、こうしたTi表面に非常によく接着し、そして全表面を完全に覆う集密層に増殖する。さらに、Ti上での寿命が長い(培養中で>1週間)ことを、AlamarBlueバイオアッセイで確認した。流動条件下でEPC接着を評価するため、多様な高さの流動チャンバー(Mathurら, J. Biomed. Mater. Res. A. 64(1):155−163(2003))を用いて、所定の流動実験に関してTiスライド上でいくつかの異なる剪断ストレスでのEPC保持を調べた。以下の式:τ=6μQ/wh2、式中、τはダイン/cm2での剪断ストレスであり、μは粘度であり、Qは流速であり、wはチャネルの幅であり、そしてhは高さである、を用いて、EPCに作用する壁剪断ストレスを計算した。蛍光標識EPCを、緩衝生理食塩水中で、Tiスライドとともに15分間だけインキュベーションして、細胞が定着し、そしてTi表面にかろうじて接着するのを可能にした。次いで、こうして植え付けられたスライドをフローチャンバー内に挿入し、そして非常に高い剪断ストレスに曝露する5分前および曝露した5分後に画像化した。
【0075】
結果は、生理学的動脈条件の最大20倍の剪断ストレス下で、EPCがTi表面に優れた接着を示すことを示す。したがって、迅速植え付け法でニチノールステントに植え付け可能であり、そしてEPCの接着を予期可能である。長期流動下でニチノールステント表面上のEPCの集密層の振る舞いを評価するため、EPCを植え付けたTiスライドを平行な平面流動チャンバーに入れ、そして動脈剪断ストレスでの連続流動に48時間曝露した。流動前および流動後に画像を得た。培地試料を収集して、先に記載されるように(Allenら, Nitric Oxide 20(4):231−237(2009))、Ionics/Sievers一酸化窒素分析装置で、化学発光によって代謝物、亜硝酸塩を測定することによって、一酸化窒素(NO)産生を決定した。EPC単層が生理学的剪断下で保持されることが見出された。さらに、EPCは自身を流動方向に整列させ、そして静置条件下よりも流動下で、有意により多いNOを産生することによって、その環境に適応した(p=0.0008)。
【0076】
さらなる実験において、上で決定した流速で、ステント送達系の側面ポートを通じて、蛍光標識EPCをフラッシュしてもよい。この植え付けプロセス(2〜3分間)後、側面ポートに生理食塩水をフラッシュして、非接着細胞を取り除いてもよい。フラッシュ溶液を収集して、非接着細胞を計数してもよい。その後、ステントを拡張し、そして画像化してもよい。Image Jソフトウェアを用いて、ステント支柱面積あたりの細胞密度を決定してもよい。接着細胞の最大数を達成するため、植え付け溶液中の最適EPC濃度を決定してもよい。鞘を画像化して、穴に固着した細胞が存在しないことを確認してもよい。均一な植え付けのために穴の数が不十分である場合、さらなる穴をステント鞘内にドリルで開けてもよい。
【0077】
剪断ストレス下での展開したステント上でのEPC保持を評価するため、上で決定した条件下で、EPCで修飾した鞘中に、ガス滅菌したステントを植え付けてもよい。植え付けたステントをシリコンチュービング内で展開して、そして流動循環内に挿入してもよい。ステントに接着したEPCを生理学的剪断に供してもよい。流動48時間後、上述のように、シリコンチュービングを切断することによって、ステントを取り除いて、そして画像化してもよい。
【0078】
上に引用するすべての文書および他の情報供給源はその全体が本明細書に援用される。
【図1A−1D】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年8月12日に提出された米国仮出願第61/272,054号に優先権を請求し、該出願の全内容は本明細書に援用される。
技術分野
本発明は、一般的に、細胞でコーティングされた移植可能医学的デバイスに、そして特に、血液と接触する表面が内皮前駆細胞(EPC)でコーティングされている移植可能医学的デバイスに関する。好ましい態様において、医学的デバイスは、チタンまたはチタン合金に基づくデバイスである。
【背景技術】
【0002】
心不全は、最も迅速に増加している健康上の問題の1つを構成し、毎年、新規に診断される患者は55万人を超える(Hunt, J. Am. Coll. Cardiol. 46(6):e1−e82(2005))。医学的治療に不応性の重症心不全を有する患者は、心臓移植によって補助されるのが最適である。しかし、臓器に対する要求は需要をはるかに超えており、米国では毎年、2,200未満のドナー臓器しか入手可能でない。患者が連続静脈内強心剤(inotropic support)に頼るようになった時点では、翌年内の生存率はわずか6%でありうる(Hershbergerら, J. Card. Fail. 9(3):180−187(2003))
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Hunt, J. Am. Coll. Cardiol. 46(6):e1−e82(2005)
【非特許文献2】Hershbergerら, J. Card. Fail. 9(3):180−187(2003)
【発明の概要】
【0004】
本発明は、一般的に、細胞でコーティングされた移植可能医学的デバイスに関する。より具体的には、本発明は、血液と接触する表面がEPCでコーティングされている移植可能医学的デバイス(例えば、チタンまたはチタン合金に基づくデバイス)に関する。
【0005】
本発明の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1
【図2】図2
【図3】図3
【図4】図4
【図5】図5
【図6】図6
【図7】図7
【図8】図8
【図9】図9
【図10】Bardによるステント用のFluency送達系の例。Aは、一緒に近傍に横たわるニチノールステント支柱の位置を示し、Dは、マクロ孔を装備していてもよい内部カテーテルを示し、Eは、格納可能な外部鞘を示す。これは、マイクロ孔を装備していてもよく、Kは、内部カテーテル管腔にフラッシュするポートを示す。すべての系はこうしたポートを有し、そしてEPC溶液は、このポートを通じて送達可能である。
【図11】EPCを含有する溶液を、送達系の遠位ポート(図10のKを参照されたい)を通じて内部カテーテル鞘内に導入可能である。
【図12】外部鞘がマイクロ孔(直径約10μm)で修飾された送達系。10ミクロンの最小横断面寸法が孔を通じた流動を制限する。孔が楕円形である場合、短径がこの必要条件を満たすならば、より大きな長径を有することも可能になりうる。
【図13】図13Aおよび13B。EPCでコーティングされたニチノールステントのバルーン拡張。図13A、非焼結。図13B、焼結。
【図14】Tiチューブ植え付けチャンバー。
【図15】MCADの主な構成要素の図(HeartMateIIIなどのLVADの例を示すが、一般的な原理は、部分的循環補助デバイスを含む、他の機械的補助デバイスにも等しく適用可能である)。
【図16】全LVADを完全に取り囲むハードシェル・エンケーシング。
【図17】軸の周囲を回転する、LVADを保持するエンケーシング。
【図18】植え付けデバイスチャンバー内部に配置される、エンケーシングされたLVAD。
【図19】密封回転装置。
【図20】密封回転装置をLVADに(例えばチュービングで)連結してもよいし、そしてまた密封回転装置を、ドライブライン周囲の区画(エンケーシングによって形成される)に連結してもよい。
【図21】チュービングを通じて、異なる区画に連結された密封回転装置を伴う、植え付けデバイスチャンバー内部に配置されるLVAD。
【図22】チュービングを通じて、異なる区画に連結された密封回転装置を伴う、植え付けデバイスチャンバー内部に、外側から吊されたLVAD。
【図23】回転電気コネクター(別名スリップリング)の付加。
【図24】モーターへのLVADの軸の連結。
【図25】密封回転装置を離れる際に、チュービングを閉鎖するかまたは開放する、自動電気チュービングクランプの付加。
【図26】図26A〜26D。異なってプレコーティングされた8時間後に、チタン表面上に広がるEPC。(図26A)FN含有および血清含有(fn1s1)。(図26B)FN含有だが血清不含(fn1s0)。(図26C)FN不含だが血清含有(fn0s1)。(図26D)FNもまた血清も不含(fn0s0)。
【図27】EPC拡散データ。
【図28】2μm2試料面積の原子間力顕微鏡画像。
【図29】図29
【図30】図30
【図31】図31
【図32】図32
【図33】図33
【図34】図34
【図35】図35
【図36】図36
【図37】図37
【図38】図38
【図39】移植用の化合物純粋Tiチューブの組み立ておよび調製。
【図40】TiチューブへのEPC含有溶液の装填。
【図41】TiチューブへのEPCの植え付け。
【図42】EPCの集密(confluent)表面の生成。
【図43】パルス吸収材、容器および心肺バイパスポンプからなる流動ループ中のTiチューブ。
【図44】EPCでコーティングされたTiチューブの移植。
【図45】血栓症によって閉塞した対照Ti移植物の管腔。
【図46】対照Ti移植物の血餅が詰まった管腔。
【図47】EPCでコーティングされたTi移植物の血餅を含まない管腔。
【図48】蛍光顕微鏡は、移植前に植え付けられた密度で、蛍光標識された細胞が存在することを示す(40x)。
【図49】in vivoでのEPCの拡散(200x)。
【図50】ステント中の穴の側面図。穴は、送達系の外部鞘を完全に貫通し、そして近接しており、したがって、圧力が減少する。
【図51】Zygol 3D光学プロファイラー、Zygo New View 500を用いて、Tiチューブ内表面の粗度を決定した。白色光干渉法を用いて、Ti表面の3Dトポグラフィーマップを生じた。Ti試料あたり3つの画像を得て、そして平均粗度(Ra)=350μMを計算した。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、少なくとも部分的に、チタン(Ti)またはチタン合金に基づく移植可能医学的デバイスの血液と接触する表面を、EPCでコーティングすると、血栓形成が減少し、そして生体適合性が増加するという認識から生じる。患者自身の血液由来のEPCを用いることによって、免疫拒絶が回避されうる。
【0008】
本発明は、細胞でコーティングされた移植可能医学的デバイスに、該医学的デバイスをコーティングする方法に、そして細胞でコーティングされた医学的デバイスの使用に基づく治療法(血管疾患を治療する方法を含む)に関する。医学的デバイスの血液と接触する表面をコーティングするのに用いる細胞は、EPCであってもよく、好適には、例えば末梢血、臍帯血または胎盤由来の自家EPCであってもよい。血液と接触する表面上にEPCが存在すると、医学的デバイス移植部位での再狭窄および血栓症の発生が減少する。EPC(別に内皮コロニー形成細胞(ECFC)として知られる)が好ましいが、本発明には、内皮細胞(例えば血液由来内皮細胞)一般の使用が含まれる。例えば、本発明には、骨髄由来内皮細胞、脂肪組織由来内皮細胞、微小血管由来内皮細胞、血管由来内皮細胞、心臓由来内皮細胞、ヒト脳由来内皮細胞および皮膚由来内皮細胞の使用が含まれる。本発明にはまた、胚性/胎児幹細胞ならびに内皮細胞特性/表現型を採用するように遺伝子改変された細胞の使用も含まれる。
【0009】
本発明にしたがって、細胞(例えばEPC)でコーティング可能な医学的デバイスには、医学的状態の予防または療法または診断のため、哺乳動物内に一時的にまたは永続的に導入されるデバイス、ならびに生理学的パラメーターを無線監視するデバイスが含まれる。こうしたデバイスには、限定されるわけではないが、MCAD(例えば、流入および流出カニューレおよびアダプターを含む、左心室補助デバイス(LVAD))、人工心臓、血管ステント、大動脈フィルターまたは肺塞栓症に対して防御する他のデバイス、非血管ステント(例えば胃腸、肺または胆管)、血管グラフトまたは血液透析グラフト、歯科移植物、整形外科移植物、再建装具(reconstructive prosthesis)、心臓装具(例えば人工心臓弁)、生物学的心臓弁装具(例えばブタなどの動物由来のもの−異種移植片をEPCでコーティングして、これらをより生体適合性にし、そしてより血栓性でなくすることも可能である)、限定されるわけではないが、pHおよび血液酸素化、血圧、血糖レベル(糖尿病における血糖管理の適用のため)を含むパラメーターを測定する移植可能無線バイオセンサー、移植可能インスリンポンプ、移植可能人工肺、移植可能人工腎臓またはろ過系、人工または組織操作膀胱および/または尿管、他の移植可能人工臓器、移植可能電気デバイス(例えばペースメーカー)、または無線マイクロエレクトロニクス機械系(MEMS)が含まれる。医学的デバイスは、例えばチタンまたはチタン合金で作製されてもよく、これには、形状記憶合金(例えばニチノール(NiTi)、アルミニウムおよびバナジウム合金(Ti6Al4V)および(Ti6Al4V ELI)、ならびにニオブ合金(Ti6Al7Nb)、鉄合金(Ti5Al2.5Fe)、限定されるわけではないが、Nb、Ta、Zr、Mo、Fe、Siを含有するチタン合金が含まれる)が含まれる。デバイスは他の金属、例えばステンレススチールでも作製可能である。
【0010】
本発明で使用するのに適したEPCは、確立されたプロトコル(Yoderら, Blood 109(5):1801−1809(2007))にしたがって、患者末梢血から単離可能である。自動化細胞分取系を利用して、大規模に、迅速でそして効率的な細胞単離を達成してもよい。小滴に基づく細胞分取は、研究目的に用いられてきた光学細胞分取の1つの型を構成する(Herzenbergら, Clin Chem 48:1819−27(2002))。これによって、蛍光標識EPC特異的マーカー(例えばCD31+、CD34+、CD14−、CD45−)に基づいて、細胞、例えばEPCを分取することが可能になる。光学細胞分取は、多数の蛍光タグからのシグナルと同時に、細胞のサイズおよび形態を同時に分析することを可能にし、したがって、細胞を許容するかまたは拒絶するかに関する決定を行いうる。
【0011】
療法設定に適用可能な自動化細胞分取の別の方法は、磁気抗体の使用に基づく。所定のバイオマーカーを持つ細胞を磁場によって溶液から取り除くことも可能である。この方法は、多数のマーカーを同時に検出することを可能にしない(Dainiakら, Adv Biochem Eng Biotechnol 106:1−18(2007))。高速光学細胞分取デバイス、例えば、109細胞/時間の速度で、封入された使い捨て容器中に、迅速切り換えマイクロ流体バルブを用いて、細胞を光学的に分取するCytonome(Cytonome, Inc. マサチューセッツ州ボストン)によって製造されるGigasortの利用を伴う(DiGiustoら, Cytotherapy 9:613−29(2007))。標準的な培養方法論を用いて、単離されたEPCを培養中で拡大してもよい。
【0012】
また、上記と同じ方法を用いて、本発明で使用するのに適したEPCを臍帯血から単離し(Meadら, Curr Protoc Stem Cell Biol Chapter 2:Unit 2C1(2008))、そして培養中で拡大してもよい。別のアプローチは、Reinischら(Blood 113(26):6716−6725(2009))によって記載されるように、プールしたヒト血小板溶解物でEPCを単離することである。
【0013】
単離された細胞(例えばEPC)を遺伝子操作するかまたは分子修飾して、例えば、直接または間接的に血栓形成、再狭窄または血小板付着を阻害するか、あるいは細胞生存度を増進するかまたは抗炎症特性を有する、因子またはタンパク質を発現させてもよい。例えば、遺伝子、偽遺伝子、突然変異体遺伝子、例えばドミナントネガティブ遺伝子、あるいは遺伝子サイレンシング構築物、例えばshRNAまたはマイクロRNAまたはマイクロを含むベクター(例えばウイルスベクター、例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、AAVキメラベクターまたはレトロウイルスベクターまたは偽型ウイルスベクター)を構築してもよい。一連の慣用的なクローニング法を用いて、適切な発現カセットを構築してもよい。ウイルスベクターを通じた遺伝子送達の使用が好ましいが、非ウイルス方法論、例えば、リポソーム試薬、リポプレックスまたはポリプレックスを通じたプラスミドまたはコスミドDNA送達、エレクトロポレーション、ソノポレーション(sonoporation)、水力学的遺伝子送達、「遺伝子銃」の使用、ならびにnucleofector技術およびナノ粒子送達もまた使用可能である。
【0014】
細胞(例えばEPC)を好適に操作して、抗凝固および抗炎症分子としての特性を考慮して、トロンボモジュリン(TM)を過剰発現させる。TMは、血液凝固における最も重要な抗凝固フィードバックループの1つに関与し、これによって、トロンビンのタンパク質分解活性が抑制されて、さらなるトロンビン生成が防止される。さらに、TMが活性化プロテインC生成を誘導することで、内皮細胞に対する抗炎症および抗アポトーシス機能が発揮される(DahlbackおよびVilloutreix, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 25(7):1311−1320(2005))。TMが好ましいが、本発明には、限定されるわけではないが、トロンビン−TM複合体によるPC活性化速度を増加させる、内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)(Fukudomeら, J Biol Chem 269:26486−91(1994));L−アルギニン誘導体一酸化窒素を合成し、そしてしたがって強力な血小板接着および凝集阻害剤として働き、そしてサイトカインおよび内毒素が誘導する組織因子の発現を減少させる、内皮一酸化窒素シンターゼ(Yangら, Circulation 101:2144−8(2002));抗トロンビンおよびヘパリン補因子IIとの相互作用を通じて、血栓形成促進性タンパク質と対抗する、ヘパリン様分子(Sternら, J Exp Med 162:1223−35(1985));凝固促進性トロンビン分子を阻害することによって作用する、ヘパリン補因子IIの亜種(Shirkら, Arterioscler Thromb Vasc Biol 16:1138−46(1996));プラスミノーゲンをプラスミンに変換し、そしてしたがってフィブリン分解を可能にする、プラスミノーゲン活性化因子(例えば組織プラスミノーゲン活性化因子およびウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子);組織因子と組み合わされて活性化された凝固因子VIIaを阻害する、組織因子経路阻害剤(Osterudら, Thromb Haemost 73:873−5(1995));負に荷電した膜リン脂質に高いアフィニティを持つ非グリコシル化タンパク質として、凝固因子を置き換え、そして血小板接着を阻害することによって作用する、アネキシンV(Heら, J Biol Chem 283:19192−200(2008));環状アデノシン一リン酸を上方制御することによって、血小板凝集を阻害する、プロスタサイクリン(PGI2)(Willisら, Lancet 2:682−3(1986));トランスフォーミング増殖因子ベータ1などの、抗炎症タンパク質(Smithら, J Immunol 157:360−8(1996));インターロイキン−10(Mulliganら, J Immunol 151:5666−74(1993));インターロイキン−4(Mulliganら, J Immunol 151:5666−74(1993));高密度リポタンパク質(Cockerillら, Circulation 103:108−12(2001));ZPIと複合体を形成し、そしてリン脂質表面に結合して、ここで、活性化された因子IX、XおよびXIを阻害する、プロテインZ(Corralら, Br. J. Haematol. 137:99−108(2007))、ならびに抗凝固経路、線維素溶解経路および抗炎症経路に関与する、他のタンパク質、因子および受容体を含む、他のポリペプチド/タンパク質を発現するように遺伝子操作されている細胞(例えばEPC)が含まれる。
【0015】
細胞(例えばEPC)の遺伝子操作は、好適な遺伝子の過剰発現または付加に限定されず、限定されるわけではないが、プラスミンへのプラスミノーゲンの変換の作用を阻害する、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子1(Rijkenら, J Thromb Haemost 7:4−13(2009));活性化されたまたは損傷を受けた内皮細胞上で発現される可能性もあり、そして外因性凝固経路の活性化に中心的な役割を果たす、組織因子(Osterudら, Thromb Haemost 73:873−5(1995));血小板活性化因子受容体(Derianら, Expert Opin Investig Drugs 12:209−2(2003));炎症促進性インターロイキン;および凝固タンパク質の接着を増進する、細胞表面リン脂質、ならびに凝固、抗線維素溶解および炎症促進経路に関与する他のタンパク質、因子および受容体をコードするものを含む、不都合な遺伝子の阻害、下方制御および「ノックアウト」も含まれる。
【0016】
所望の遺伝子(単数または複数)を含む外因性DNAまたはRNA発現カセットのトランスフェクションによって、細胞が遺伝的に改変されたならば、標準的組織培養技術を用いて細胞を増殖させてもよい。標準的技術を用いて、所望の遺伝子を発現しそして分泌する細胞のアリコットを、液体窒素中で凍結させて保存してもよい。使用前に、標準的組織培養プロトコルを用いて、凍結した細胞を融解しそして再増殖させてもよい。
【0017】
本発明はまた、移植可能デバイスの血液と接触する表面を、細胞(例えばEPC)でコーティングする方法に、そしてこうした方法で使用するのに適したデバイスにも関する。細胞拡散速度を増加させるため、移植可能デバイスの血液と接触する表面を、フィブロネクチン、コラーゲン、ビトロネクチン、ラミニン、フィブリンなどの細胞外マトリックスタンパク質、またはヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラチン硫酸などのプロテオグリカン、もしくはヒアルロン酸などの非プロテオグリカン多糖含有分子を含む、分子、タンパク質もしくは構築物を含有する任意の構成要素、あるいはその任意の組み合わせでプレコーティングしてもよい。血液と接触する表面はまた、ゼラチンまたはゼラチンマトリックスまたはゼラチンの泡、例えばGelfoam(Pharmacia and Upjohn、Pfizer)、セルロース、ミクロフィブリル性コラーゲン、トロンビン、例えば組換えヒトトロンビン(Recothrom、ZymoGenetics)、フィブリン・シーラント、例えばTisseel(Baxter)、またはフィブリンゲル、フィブリン糊、線維素溶解で阻害されるフィブリン糊、接着糊またはシーラント、ヒドロゲルでプレコーティングされてもよい。血液と接触する表面はまた、血清タンパク質または他の血液構成要素、または増殖因子またはホルモン、例えば血小板由来増殖因子BB、塩基性線維芽細胞増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、またはトランスフォーミング増殖因子ベータ1でプレコーティングされていてもよい。プレコーティングはまた、合成ポリマー、例えばリジン、オルニチンもしくはアルギニンのポリマー、またはポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸、またはL−グルタミン酸処理構築物、またはグルタルアルデヒドで保持される細胞マトリックス、または生物分解性結合剤もしくはコーティング、例えばポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)、または生物分解性ポリエステル、例えばポリヒドロキシアルカノエート、ポリソルベート、またはポリアミノ酸、例えばポリ−L−リジン、またはキトサン、フェチュイン、または陽イオン性シリカ微小ビーズ、他のタイプのマイクロビーズもしくは炭素沈着表面コーティング、プラズマ放電表面修飾による改変を伴うもしくは伴わないポリエチレンテレフタレート、または共有付着アビジン、ビオチニル化、またはRGDペプチド配列含有分子、RGDペプチドに架橋された構造もしくは構築物もしくはペプチド、または1もしくはそれより多いEPC特異的インテグリン結合部位もしくは相乗結合部位、例えばアミノ酸配列DRVPHSRNに特異的な分子、またはEPCに特異的な抗体、ペプチドもしくはアプタマー、あるいは上記の任意の組み合わせを用いて達成されてもよい。前述の分子を、下層にある表面、例えばチタン/チタン合金表面に物理吸着(physiosorbed)または共有結合させてもよく、後者の表面には、シリル化(例えばアミノシラン架橋剤へのスチールの連結)、ビオチン化、ドーパミンへの共有結合等を含む、多様な方法が利用可能である。上述のタンパク質、分子、ポリマー、構造および人工構築物に加えて、他の細胞タイプを用いて、血液と接触するデバイス表面をプレコーティングして、限定されるわけではないが、線維芽細胞、平滑筋細胞、幹細胞、中皮細胞、間葉系細胞、前駆細胞、筋細胞、または他の細胞タイプを含むEPCに適したマトリックスを提供してもよい。拒絶を回避するため、自家細胞で移植可能デバイスをプレコーティングすることが望ましい。例えば、この目的のため、線維芽細胞は、患者皮膚の試料から容易に採取可能である。
【0018】
実施例4は、チタン表面をFNでプレコーティングした際の、EPC拡散に対する効果を記載する。例えば冠動脈スチールステント、例えばBiodivYisoTMAS(Biocompatibles Cardiovascular Inc. カリフォルニア州)、BeStentTM(Medtronic Inc. ミネソタ州)、CYPHERTM(Cordis Corporation、フロリダ州)、NiRflexTM(Medinol Ltd. イスラエル)、TAXUSTMEXPRESS2TM(Boston Scientific Corporation)、LiberteTMMonrailTM(Boston Scientific Corporation、メリーランド州)、またはRithronXR(Biotronik GmbH、ドイツ)ステント、あるいはコバルトクロム合金ステント、例えばMULTILINK−VISIONTM(Guidant Corporation、カリフォルニア州)ステントをコーティングするため、スチールにEPCを付着させるために、316Lステンレススチールにプレコーティングを適用してもよい。ステントを非展開状態のままで、細胞植え付け前に、プレコーティングマトリックスタンパク質(または他の構成要素)を、EPCと同じ方式で(以下の実施例に記載するように、ガイドワイヤ鞘中、マクロ孔を通じて)マクロ孔を通じてステント内に挿入してもよい。あるいは、金属支柱(ステントの場合)にすでに吸着させたかまたは別の方式で連結したマトリックスタンパク質を伴って、ステントをプレパッケージングしてもよい。後者の場合、パッケージ中、液体中または湿った環境中で、例えばDPBS中で、ステントまたは他のデバイスを維持してもよい。
【0019】
表面化学的性質に加えて、表面ミクロトポグラフィーもまた、細胞(例えばEPC)が、血液と接触する表面に、どの程度よく吸着し、そして付着するかにおいて、重要な役割を果たしうる(Boyanら, Biomaterials 17:137−146(1996))。実施例5に記載する研究は、細胞拡散および接着には、滑らかなチタン表面が好適であることを示す。チタンフィラメント蒸発、電子ビーム蒸発、およびスパッター沈着を含む、確立された方法を用いて、他の金属表面を滑らかなチタン表面に変換することも可能である。
【0020】
非常に滑らかな表面が好適でありうるが、移植可能デバイスの血液と接触する他のありうる表面には、限定されるわけではないが、表面への酸エッチング、プラズマ電解酸化、レーザーアブレーション、ビードブラスティング、サンドブラスティング、ならびにナノ粒子、例えば二酸化チタン、金、鉄、および酸化アルミニウムの付着を含む、多様な技術を用いて生成可能な、より粗い表面が含まれる。他の技術には、金属デバイス表面の化学的官能化後のナノ粒子付着が含まれ;金属および/または無機ナノ粒子をデバイス表面に固定して、表面を粗くするのに使用可能な、多様な反応基を伴う、多様な金属表面(Ti、Ni、Taまたはスチール)に付着可能なシランが、商業的に入手可能である。これらの反応基は:逆の電荷、金属−リガンド相互作用、および/または化学的に、例えばEDC/NHS反応(酸官能化粒子を、アミン含有表面に付着させうる)を通じた方式を含む多様な方式で、ナノ粒子と相互作用可能である。
【0021】
さらに、原子移動ラジカル重合を用いて、表面開始重合を通じて、表面に粗いポリマーコーティングを付加してもよい。ナノ構造が金属表面で直接形成されるのに加えて、成形表面コーティング(shaping surface coating)を通じてもまた生成可能である。この目的のため、「トップダウン」リソグラフィー法を用いてもよく、そしてこれには:光学リソグラフィー、X線リソグラフィー、電子ビーム直接書き込みリソグラフィー、極紫外線リソグラフィー、荷電粒子リソグラフィー、ナノインプリントリソグラフィー、走査プローブリソグラフィー、例えばディップペン・ナノリソグラフィー、原子間力顕微鏡ナノリソグラフィー、および磁気リソグラフィー(magentolithography)が含まれる。「ボトムアップ」法もまた適用可能であり、そしてこれには、ラングミュア・ブロジェット薄膜、ならびに静電自己集合、支持体上への陰イオン性および陽イオン性多価電解質の交互吸着が含まれる。この目的のために使用可能な別の「ボトムアップ」法は、自己集合単層(SAM)の生成である。SAMは、物理的蒸着技術、電着、無電解析出、または溶液からの吸着を通じて産生可能である。合成化学反応は、塩基性構築ブロックを生成し、そしてより弱い分子間引力がブロックをともに結合させ、そしてナノスケール構造を形成する。
【0022】
本発明で使用するのに適した細胞コーティングデバイスおよび方法を、以下の実施例に記載する。実施例に記載する方法に加えて、ステントまたは他の管状構造あるいは中空のまたは空洞のデバイスを植え付ける他の方法は、磁力、静電力、遠心力および/または重力依存性定着の使用に基づいてもよい。
【0023】
細胞植え付け法として磁力を用いる場合、ステント管腔を、磁化された細胞(例えばEPC)で満たしてもよい。細胞は、Itoら(Tissue Eng 11:1553−61(2005))およびInoら(Biotechnol Bioeng 102:882−90(2009))の方法にしたがって、磁鉄鉱陽イオン性リポソーム、例えば10nm磁鉄鉱ナノ粒子を含有する陽イオン性リポソームで磁化可能である。コーティングしようとするステントが強磁性物質、例えば純粋316Lステンレススチールで作製されている場合、磁気ナノ粒子が充填された細胞を誘引するように、磁化することも可能である。強磁性ステントを、図11に例示するような非展開型で植え付けてもよい。さらに、標準的技術を用いて、強磁性ステントを移植し、望ましい位置で展開し、そして次いで、ステント送達デバイスを通じて、磁気細胞(例えばEPC)を導入することによって、in vivoで植え付けてもよい。非強磁性ステント、例えばニチノールステントに植え付けるため、単数/複数の磁石をステント/ステント送達デバイスの外部周囲に配置して、磁場を生成し、そして細胞をステント内表面上周囲に導いてもよい。送達デバイス内部でステントを非展開型のままで、このプロセスを達成可能である。
【0024】
細胞植え付け法として静電力を用いる場合、鞘内の非展開状態の金属ステントを、負荷電細胞(例えばEPC)を誘引するように、電池の正極に連結することによって、正電圧に保持してもよい。細胞植え付け期間中、正荷電を維持してもよい。さらに、ステント送達系のガイドワイヤを、植え付けプロセス中、負(反発性)荷電に保持してもよい。
【0025】
細胞植え付け法として遠心力を用いる場合、管腔内に導入された細胞溶液中の細胞(例えばEPC)がステント支柱の内表面に対して外向きの遠心力に供されるように、ステントを長軸周囲で回転させてもよい。この目的のため、非展開ステントを含有する鞘に、軸周囲に360度回転可能なジョイントを装備して、そして送達デバイスの遠端で、ステントを回転させ、そしてそれによって必要な遠心力を発揮するモーターに連結してもよい。あるいは、非展開ステントを含有する鞘を送達デバイスから外して、そして電気モーターで回転させた後、植え付け後に鞘にふたたび連結してもよい。クイックスナップ設計またはスクリュー設計を通じて、こうした再連結を達成してもよい。クイックスナップ設計では、ステントを拘束する鞘に、オス・コネクターを与えてもよく、これが、内表面および外表面上に継ぎ目のない移行で、コネクターのメス端内にスライドする。連結された後、両端がともにロックされるように、このクイックスナップ設計を修正してもよい。これによって、血管系内での遠位鞘のいかなる偶発的な喪失も防止される。同じ目的のため、スクリューイン設計を用いてもよい。この場合、組み立て後、スクリュー部分が軸受部分内に「ロック」されることを可能にする安全特徴として、どちらかの端にあらかじめ装填されたフックまたはタブが付加されうる。
【0026】
ステントはまた、重力のみを通じても植え付け可能である。これはふたたび、上述のように、全送達デバイスと組み合わせたか、または別個に、360度ジョイントを通じて送達デバイスに連結されたか、あるいは送達系から完全に切断された、ステント含有鞘の回転を必要とする。この方法に理想的な回転速度は、細胞(例えばEPC)がランダムに分布していると仮定して、細胞の平均定着時間を計算することによって概算可能である。半径Rのステント中央に位置する、密度ρmおよび粘度μの培地に浸された密度ρcのEPCの場合、定着速度vsは、vs=(2/9)x(R2/μ)x(ρc−ρm)g、式中、gは重力定数である、と表されうる。
【0027】
以下の実施例に示すように、EPCは、血管中で見られるものより有意に高い剪断ストレス下で、チタンに接着したままである。さらに、ヒト動脈内部の内皮によって経験されるものに匹敵する剪断条件(15ダイン/cm2)に曝露された後、EPCは、その主軸を流動方向と一致させて整列する。したがって、チタン(またはチタン合金)表面上にコーティングされたEPCは、天然内皮と類似の形態学的特性で裏打ちを形成するようリモデリングする。さらに、チタンまたはチタン合金上に植え付けられたEPCは、剪断ストレスによる刺激に対する反応として、正常で健康な内皮から予期されるように、一酸化窒素を産生する。EPCでチタンまたはチタン合金表面をコーティングすると、血小板接着が有意に減少し、これは重要な抗血栓特性である。
【0028】
本発明と一致して、心不全を患い、そしてMCAD移植の候補と同定されている患者は、EPCを採取するため、単純な採血を経てもよい。EPC(上述のように遺伝子操作されていてもよい)を培養中で拡大し、そして凍結保存してもよい。例えば、適切な植え付けデバイス内にMCADを導入し、EPC溶液を植え付けデバイスに添加し、そしてそれによってMCADに自動的に植え付けてもよい。手術時、EPCでコーティングされたMCADを、EPCを単離した患者内に移植してもよい。
【0029】
本発明を用いて、心臓血管ステント留置術の主な合併症である「ステント内狭窄」に取り組むことも可能である。ステントを血管系内に移植した後、20%〜80%が再閉塞する。本発明は、移植直前に、ステント内部上に内皮裏打ちを生成する患者自身のEPCをステントに植え付ける方法を提供する。冠動脈または末梢血管疾患を患う患者は、単純な採血を経ることも可能であり、そして標準的技術を用いてEPCを単離してもよい。標準的技術を用いて、EPC(上述のように遺伝子操作されていてもよい)を培養中で拡大して、そして凍結保存してもよい。ステントを移植数分以内に植え付けてもよく;凍結EPCを融解し、そしてステントを約10分以内に植え付けてもよい。このアプローチは、任意の血管、例えば冠動脈、末梢動脈および静脈、ならびに脳の血管中の任意のステントに適用可能である。
【0030】
本発明は、チタンまたはチタン合金移植可能デバイスに関連して詳細に記載されているが、細胞(例えばEPC)コーティング法はまた、透析を通じてのみ生存している、末期腎不全を患う患者が直面する問題に取り組むためにも使用可能である。しばしば、血液透析のためのアクセス部位を提供するため、患者動脈および静脈間のブリッジとして透析グラフト(典型的にはPTFEで作製される)が移植される。しかし、これらの人工的グラフトは、徐々に詰まる可能性もあり、そして血餅を取り除くかまたは新規グラフトを外科的に移植するには侵襲処置が必要である。本発明を用いて、グラフト内部を、例えばEPC(例えば遺伝子操作されたEPC)で裏打ちすることによって、グラフト血栓症のリスクを減少させることも可能である。EPCを患者血液から単離し、そして培養中で増殖させそして使用まで凍結してもよい。透析グラフト内部には、移植直前数分以内に植え付けてもよい。
【0031】
本発明の医学的デバイスを用いて治療可能な被験体は、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ウシ、げっ歯類またはサルを含む哺乳動物である。
本発明の特定の側面を、以下の限定されない実施例中に、より詳細に記載する。
【実施例】
【0032】
実施例2
本発明の細胞(例えばEPC)コーティング方法論を適用可能なステント送達系には、例えば、BardによるFluencyステント送達系、およびev3によるProtegeステント送達系が含まれる。例として図10に示すのは、Bardによるステント用のFluency送達系である。この原理的な設計は、限定されるわけではないが、冠動脈、胆管、血管および気管気管支ステントを含む、異なるステント製造者に渡って、非常に類似である。
【0033】
図11に示すように、細胞含有溶液を送達系の遠位ポート(K)(例えば図10中を参照されたい)から内部カテーテル鞘内に導入してもよい。内部カテーテルをマクロ孔(約1mm直径)で修飾し、そして細胞溶液が内部カテーテルおよび搭載されたステント(例えばニチノールステント)の内表面間の空間内に送り込まれるように、カテーテル先端の穴に蓋をしてもよい。図11には示されていないが、ステントが内部カテーテル上にあり、そしてカテーテルの外部鞘によって拘束されている。細胞溶液が、内部カテーテルおよびステントの内表面間の空間内に送り込まれるにつれて、溶質がマイクロ孔を通じて周囲に出て行き、そして細胞(例えばEPC)が自己拡張ステント(ニチノール)内表面上に引き込まれるように、マイクロ孔で外部鞘を修飾する(図12を参照されたい)ことによって、溶媒引き込みが生じる。ステントが植え付けられたら、キャップを取り外し、そしてガイドワイヤ上で血管内に挿入することによって、標準的方式で送達系を用いてもよい。ガイドワイヤは狭窄血管を通過し、そしてワイヤが内部カテーテル内をスライドする間、ステント送達系を血管内に導くように、「モノレール」として働く。
【0034】
実施例8に詳細に記載される別のそして好ましいアプローチは、ステント送達系のサイドポート(図10(L))を利用することによって、内部カテーテル鞘およびステント間の空間内に細胞溶液を直接導入することである。こうした送達系の特定の例は、Cordis PRECISEニチノールステント系(5.5F Precise、カタログ番号P05040XC)(4x40mm非拘束ステント)であり、これは以下の実施例8で修飾され、そしていわゆるTuohy Borst Y連結(この特定の設計において)を通じてステントおよび内部カテーテル鞘間の空間のアクセスを可能にする。細胞溶液をこの空間内に導入することによって、図11に例示するように内部カテーテル鞘内に、ドリルで穴(マクロ孔)を開ける必要がなくなる。
【0035】
ニチノールステントは、そのユニークな「記憶」特性のため、自己拡張性である。したがって、ステンレススチールステントの場合のように、「バルーン拡張」は必須ではない。しかし、特定の状況下で、ステントをさらに開放し、そして血管の輪郭によりよく適応するために、自己拡張性ステント(例えばニチノールステント)がバルーン拡張される。バルーン拡張中、細胞の損傷を防止するため、修飾ステント設計を使用してもよい。
【0036】
修飾ステント設計は、ニチノールまたは他の自己拡張性チタン合金ステントにも適用可能である。これらの設計原理は、他のステント、例えば純粋316Lステンレススチールステント、例えばCordis Cardiology, Johnson and Johnson Company、ニュージャージー州ブリッジウォーターによるCypherステントにもまた適用可能である。
【0037】
修飾ステント設計にしたがって、ステントは、チタン・マイクロ孔を伴って焼結され、該孔は、「安全な溝」を提供可能であり、そして植え付けられた細胞(例えばEPC)がバルーン拡張中に損傷を受けないように保護しうる(図13を参照されたい)。これによって、ステントを膨らませても細胞に最小限の損傷しか与えずに済む。細胞を保護する他の方法には、限定されるわけではないが、細胞(例えばEPC)直径より大きいサイズの金微粒子の表面上での固定、および電子ビームを用いて、レジストで覆われた表面の領域を選択的に取り除き、金属表面にトランスファー可能であり、そして細胞のための「安全な溝」を提供可能な微小パターンを生じる、電子ビームリソグラフィーが含まれる。あるいは、ステント支柱の内表面上に、細胞を保護しうる小さいくぼみを与える方式で、ステント支柱を修飾してもよい。エッチング、研磨、機械的スクラッチング、焼成、高温でFeCl3中に浸すことによる孔食、塩素溶液中の金属への陽極電位の適用である電気化学孔形成、放電加工(EDM)およびレーザーアブレーションを含む多様な方法を用いて、これらの溝を生成してもよい。レーザーアブレーションならびにEDMが後者の方法の中で好ましい技術である。EDMにおいて、電極またはワイヤおよびステント金属間で放電が起こり、そして電極またはワイヤのそれぞれのサイズが表面において生じる溝の直径を決定し、そしてこれは、数100μmの範囲内であるはずである。
【0038】
実施例3
チタンチューブ内表面上にEPCを植え付けるため、チューブ、ポンプまたは任意の他の中空デバイスの内表面上がどのように細胞の集密層で裏打ち可能であるかを示すのに役立つ、特別な植え付けデバイス/バイオリアクターを設計した。植え付けデバイス/バイオリアクターは、細胞培地が満たされた植え付けチャンバー(改造したピペットボックス)内部でチタンチューブを回転させる(図14を参照されたい)。モーター(Synchronous Timingモーター、Herbach and Rademan、ニュージャージー州モレスタウン)を、ステンレススチール軸を介し、赤いゴムストッパーを通じて、ポリスルホンディスクに連結する。ステンレススチール突起は、回転ポリスルホンディスクへのオートクレーブ可能なシラスティックチュービング片内に装填された、Tiチューブを保護するのを可能にした。Tiチューブ内部にEPC溶液を保持するため、シラスティックチュービングの末端は、丸い透析膜(Spectra/Por Biotechセルロースエステル透析膜、MWCO 1x106、Spectrum Laboreatorises、カリフォルニア州ランチョドミンゲス)で塞ぎ、これはOリングで覆われたアルミニウム挿入物に対してネジ止めされたポリスルホン隔壁フィッティング内部に保持される。全植え付けチャンバーに細胞培地を満たし、回転するチタンチューブが、細胞植え付けプロセス中、完全に浸るようにする。チタンチューブのどちらかの端の透析膜は、気体および培地交換を可能にする。植え付けチャンバーはまた、細胞植え付けプロセス中、例えば漏れのために、培地レベルが低下した場合には警報を誘発する、滅菌可能浮きプローブも装備する。さらに、滅菌温度プローブ(Mon−a−therm、Tyco Healthcare、カリフォルニア州プレザントン)を通じて、温度を監視する。ラミナフローフード(sterilGARD、メイン州サンフォード)下でチャンバー全体を組み立て、そして次いで、37℃および5%CO2の水ジャケット・インキュベーターに入れる。植え付けチャンバー上部を半透膜(AeraSeal、EXCEL Scientific、カリフォルニア州ライトウッド)で覆い、インキュベーター内部で気体交換が生じうるが、細菌混入が不可能であるようにする。
【0039】
植え付けプロセス中の最適回転速度は、植え付けようとするチューブ、ポンプまたは他の任意の中空デバイスの直径と線形関係で変化する。具体的には、上述のチタンチューブの寸法(12mm直径)に関しては、最適植え付け条件は、およそ0.6〜2x106細胞/ml、好ましくはおよそ1x106細胞/mlの植え付け密度で、2時間の期間に渡って、1時間あたり10回転(rph)の速度であると決定されている(また、上記により詳細に記載する等式vs=(2/9)x(R2/μ)x(ρc−ρm)gに基づく細胞定着時間に関する原理を参照されたい)。その後、シラスティックチュービングのいずれかの末端上のポリスルホンキャップを外し、そしてチューブの反対の一端のノズルを通じてデバイスに(流入)、0.5〜1ダイン/cm2のおよその剪断ストレスで、55時間の期間に渡って灌流し、その間ずっと、チタンチューブを10rphで回転させ続ける。流出は、インキュベーター外に置かれたポンプ(Masterflex、Cole−Parmer、イリノイ州バーノンヒルズ)に培地を戻す。これらの条件は、これらのチューブ内のEPCの完全に集密な裏打ちを信頼性を持って生成するために理想的であると決定された。
【0040】
MCADを、HeartMateIIIに関して以下に詳細に記載するように、細胞(例えばEPC)でコーティングしてもよい。このMCADは、例示目的のみのために用いられる。以下に提供する原理は、製造者とは独立に、任意のLVADまたは人工心臓を細胞でコーティングする際に適用可能である。
【0041】
図15は、LVADの主な構成要素の模式図である。示すのは、内部モーター/ポンプを外部環境に連結するワイヤを収納するドライブラインである。LVADが完全に移植されたら、ドライブラインは、持ち運び可能電池または壁面コンセントに連結可能であるように、患者皮膚を貫通する。やはり示すのは流入および流出カニューレである。流入カニューレは、心臓に連結され、そして血液がMCAD内に流入するのを可能にする。流出カニューレは、MCADを大動脈に連結し、そしてしたがって、血液が循環内にポンピングされるのを可能にする。
【0042】
図16に示すように、ハードシェル「エンケーシング」は、全LVADを完全に取り囲む。このエンケーシングは、細胞でコーティングしようとするLVADに、ぴったり取り付けられる。示す設計は、異なる(非EPC)細胞タイプ(例えば線維芽細胞)でのドライブライン(および/または他の部分)外部の同時細胞植え付けを可能にする。これは、より迅速な組織内殖の利点を有し、それによってドライブライン感染のリスクが減少する。エンケーシングは、デバイス内部を満たすのに用いられる溶液とは異なる細胞溶液で満たすことも可能な中空の周囲を提供する。成形に応じて、この異なる細胞溶液は、ドライブライン、またはLVADの他の部分と接触してもよい。また、これは、MCADの無菌「ラッピング」も提供する。このエンケーシングは、透明なプラスチックであってもよく、開封し、そして細胞(例えばEPC)でコーティングしたLVADを取り出した後、廃棄してもよい。
【0043】
図17は、LVADを保持するエンケーシングが、軸上をどのように回転可能であるかを示す。軸中央のホルダーは、軸へのエンケーシングの取り付けを可能にし、そしてエンケーシングを取り除き、そしてLVADを移植しようとする際に、開封可能である。軸の右側に、動的密封回転装置を示す。この回転装置を以下により詳細に記載する。簡潔には、内部シリンダーが軸と一緒に回転することを可能にするが、固定された外部セルを有する。軸の左側は中空であり、そして内部に回転電気コネクターを配置することを可能にする(以下を参照されたい)。
【0044】
図18は、植え付けデバイスチャンバー内部に配置される、エンケーシングされたLVADを示す。示す植え付けデバイスチャンバーは、植え付けデバイスチャンバーのどちらかの壁上での軸の吊り下げを可能にし、そしてまた、動的密封回転装置の外部シェルの固定も可能にする。植え付けデバイスチャンバーは、エンケーシングおよびすべての部分を含むLVADを完全に封入する。該デバイスは、組み立て後に滅菌可能であり、そして使用時にのみ開封される。植え付けデバイスチャンバーは、透明で丈夫な材料、例えばPlexiglasで構築されてもよい。
【0045】
図19は、密封回転装置の例を示す(示すのは、GPシリーズ4部回転装置、Dynamic Sealing Technologies、ミネソタ州アンドーバーである)。この例において、内部シリンダー中の4つの開口部は、個々のチャネル内部の流体が別個に維持され、そして外部マントル中の個々の開口部に対応するように、回転装置内部の4つのチャネルに対応する。密封回転装置の目的は、異なる流体区画(LVAD内部およびドライブラインを取り巻く外部)の灌流を可能にすることである。数時間かかりうる、最初のEPC植え付け期間の後、廃棄物を排除し、そして細胞に栄養素および酸素を提供するため、LVADを培地で灌流してもよい。回転装置シリンダー中の4つの別個の開口部は360度の回転を可能にし、一方、マントル中の対応する4つの開口部は固定されていてもよい。これらのチャネルのうち2つを用いて、LVADを灌流してもよく、一方は流入そしてもう一方は流出である。他の2つを用いて、ドライブライン周囲の流体区画を灌流してもよい。
【0046】
図20は、密封回転装置をLVAD(例えばチュービングを含む)にどのように連結可能であり、そしてまた、ドライブライン(エンケーシングによって形成される)周囲の区画にどのように連結可能であるかを示す。これによって、異なる区画(LVAD内部およびLVAD外部、特にドライブライン)の、2つの異なる細胞溶液(例えば内部に関してはEPC、そして例えば、外部に関しては線維芽細胞)での同時灌流を可能にする。いくつかのLVADにおいては、ドライブラインを取り除いてもよい。ドライブラインを別個のチャンバー中に植え付け、そして灌流してもよい。
【0047】
図21は、植え付けデバイスチャンバー内部に配置されるLVADを示し、そして密封回転装置が、チュービングを通じて、異なる区画にどのように連結可能であるかを示す。
図22は、チュービングを通じて、異なる区画に連結された密封回転装置を伴う、植え付けデバイスチャンバー内部に吊されたLVADを外側から示す。
【0048】
図23は、回転電気コネクター(別名スリップリング)の付加を示す。この回転電気コネクターは、植え付けデバイスチャンバー内部の部分が、LVADおよびドライブラインとともに回転し、そして電気連結の外部部分が適所に固定されるように、ドライブラインに連結可能である。この設計は、LVADへの電力連結を可能にし、そしてLVADが植え付け後にそれ自体を灌流することを可能にする。LVAD内表面に接着したEPCは、その機械的受容体を通じて、LVAD移植後に経験するであろう剪断ストレスを正確に感知可能であり、そしてしたがって、ex vivoでプレコンディショニング可能である。EPCは、プレコンディショニング期中に、特定のLVADによって生成される剪断力に最適に耐えるように、細胞骨格を再編成することによって、反応する。また、外部ポンプを用いて、チャンバー内部のLVADを灌流してもよい。
【0049】
図24は、LVADの軸がモーターにどのように連結可能であるかを示す。植え付けデバイスチャンバー中の密封回転装置を離れるチュービングを、2つの異なる細胞溶液用の2つの容器に連結してもよい。ドライブライン周囲の区画の灌流を可能にする外部ポンプ(例えばローラーポンプ)を示す。LVADがそれ自体を灌流しない場合、上に示すように、第二のポンプを用いて、チャンバー内部のLVADを灌流してもよい。
【0050】
図25は、密封回転装置を離れる際に、チュービングを閉鎖するかまたは開放する自動電気チュービングクランプの付加を示す。植え付けプロセス(引力によって仲介される)終了後、チュービングを自動的に開放し、そしてポンプ(ならびにLVAD)を開始するコンピュータに、電気チュービングクランプを連結してもよい。コンピュータはまた、最初の細胞植え付けプロセス中に、モーターの回転速度を制御可能である。回転速度は、デバイスの形状に応じて、1回転内で多様であってもよい。チュービングの開放は、栄養素、廃棄物を交換し、そして細胞に酸素を提供するため、細胞が植え付けられた区画の灌流を可能にしうる。2つの容器は、CO2分圧を制御し、そして培地を37℃の温度に維持するインキュベーター中に収納可能である。
【0051】
自給式植え付けデバイス/バイオリアクターが、LVAD植え付けと関連して上に詳細に記載されているが、植え付けられるであろうデバイスを回転させ、そして細胞接着が達成された後、該デバイスを培地または他の溶液で灌流して(細胞植え付けと同時にまたはその直後に)、細胞に栄養分を与え、そして流動するように条件付ける(その間ずっと、無菌にし、そして自給式のままにする)この方法を用いて、LVAD以外の中空のまたは多孔性の構造/デバイスに植え付けてもよい。こうした自給式植え付けデバイスおよび/またはバイオリアクターを用いて、LVAD表面、および他の表面上にEPCを植え付けてもよく、そしてまた、植え付けられたEPCが完全に集密な単層に増殖するのを可能にしてもよいが、好ましいアプローチは、それぞれの表面に迅速に、例えば数分以内に、手術室テーブル上でまたはカテーテル検査室で、移植直前に植え付け、そして完全に集密な単層が樹立されるまで待たないものである。この目的のため、EPCを上述のように植え付けてもよく、自給式植え付けデバイスおよび/またはバイオリアクターを用いて、重力に基づく植え付けプロセスを利用し、回転植え付けデバイスを用い、そしてこうして植え付けられた表面が集密に到達する前に移植する。こうした迅速植え付けプロセスの特定の例に関しては、実施例7を参照されたい。
【0052】
これらのアプローチを用いて、例えば血管グラフト、透析グラフト、人工血管、組織操作移植可能中空デバイス、人工腸管、組織操作腸、歯科移植物、人工/組織操作気管または気管支樹部分、大動脈グラフト、心臓弁、シャント、胆管、膵管、涙管、脳脊髄液含有シャント、人工臓器の操作に必要な管またはチューブ、ステント、移植可能チューブ、ポンプ、バイオセンサー、移植可能チュービングおよび他の移植可能中空チューブ、構造またはデバイスに植え付けてもよい。
【0053】
実施例4
広い表面(例えばMCADのもの)をEPCの集密な裏打ちで覆おうとする場合に好適でありうるように、チタン表面上でのEPC拡散速度を増加させるため、培地組成を変化させた(血清飢餓EPC培地を用いることによる)効果、および細胞外マトリックスタンパク質(例えばフィブロネクチン(FN))で表面をプレコーティングする効果の評価を行った。チタンおよびチタン合金は、マトリックス分子、例えばFNのコンホメーションおよび配向に影響を及ぼし、そしてより小さいΔD/Δfおよびより大きいフットプリントによって示されるように、これらがよりコンパクトなコンホメーションを、そしてそれとともに、RGDインテグリン結合部位の異なる立体化学配置を取るようにする(Hemmersamら, J. Colloid Interface Sci. 320:110−116(2008))。血清飢餓およびFNプレコーティングはどちらも、植え付け後の最初の数時間の間、EPC拡散を加速しうることが見出された。
【0054】
より長い期間に渡るどちらかの効果を評価するため、血清リッチ培地中のFNプレコーティング・チタン試料(fn1s1)(図26A)を、血清飢餓培地中のFNプレコーティング・チタン試料(fn1s0)(図26B)、血清リッチ培地中の裸の非コーティング・チタン試料(fn0s1)(図26C)および血清飢餓培地中の裸の非コーティング・チタン試料(fn0s0)(図26D)に比較した。ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)中、1cm2表面積あたり3μgのヒトFN(Sigma−Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を室温で3時間チタンに物理吸着させることによってプレコーティングを達成した。EPCをセル・トラッカー・オレンジで蛍光標識し、そして6,500細胞/cm2の密度で植え付けた。8時間インキュベーションした後、すべてのEPCを画像化し、そして個々の面積をLeicaソフトウェア(Leica、Image−Pro Plusバージョン6.3、メリーランド州ベセスダ)で測定した。総計1,662の個々のEPC面積を、同じ条件下、連続4回の実験で定量化した。4回の異なる実験条件に関して、平均表面積を計算した。多重線形回帰モデルを行い、ここで、実験条件、実験数、および2つの間の相互作用が予測変数であり、そして表面積が結果であった。分散分析を調べ、そしてp<0.05を統計的有意性として認めた。実験数および相互作用に関して調節する間、FNでプレコーティングしたEPCは、他の実験条件に比較した際、8時間後、チタン上で有意により迅速に拡散した(図27および表2)。SASバージョン8.2(ノースカロライナ州キャリー)でデータ分析を行った。
【0055】
表2
異なるプレコーティング上でのEPC拡散の統計分析
多重線形回帰モデルを行い、ここで、実験条件、実験数、および2つの間の相互作用が予測変数であり、そして表面積が結果であった。
【0056】
【表1】
実施例5
上記実験で用いるチタン試料の表面粗度の研究を行った。細胞拡散および接着に関する最適な結果は、非常に滑らかな表面で達成された。
【0057】
チタン試料の表面粗度/粒子サイズを分析し、そして定量化するため、これらをAFM測定に供した。最初に、試料をSDSでリンスし、窒素流下で乾燥させ、そして次いで、スチール試料ディスク上にマウントした。AFMトポグラフィー画像を空中で行い、そして低く適用された垂直抗力(<1nM)下で得て、そしてMultiMode原子間力顕微鏡(Digital Instruments、カリフォルニア州サンタバーバラ)を用いて、V型窒化ケイ素カンチレバー(Nanoprobe、Veeco、バネ定数0.12N/m;先端半径20〜60nm)を用い、接触モードで収集した。2μm2面積に渡って測定した平均表面粗度は、およそ11nmであることが見出された(図28)。図29は、チタン試料の表面トポグラフィーの三次元画像を示す。
【0058】
実施例7
以下のように、平均粗度350μM(図51を参照されたい)の化合物純粋チタン(Ti)チューブを組み立て、そして移植用に調製した。Tiチューブを3つの長軸方向部分にあらかじめ切り、そして王水(1:3のモル比の濃硝酸および濃塩酸)中に5分間浸し、その後、石鹸溶液(Alconox粉末、1:100に希釈)中で5分間、超音波処理し、その後、脱イオン水中で5分間、超音波処理することによって清浄化した。脱イオン水でさらに30回リンスした後、ラミナフローフード下で、Ti部分を風乾した。酸化チタン・パーセントが高い純粋チタン表面に対して、EPC接着が最適である(X線光電子分光法によって評価した際)ことが見出されているため、チタン表面から環境由来炭素および窒素混入物を除去するために、極めて注意深い清浄化が必要である。塵のない環境において(ラミナフローフード下)、Ti片周囲に医学等級ポリ塩化ビニル(PVC)熱収縮チュービングを熱収縮させることによって、こうして清浄になったTi部分をTiチューブに組み立て直した。3つの個々のTi部分を心棒上に置くことによって、組み立てを容易にした。ヒートガンを用いて、PVCチュービングをTi周囲に熱収縮させた(図39を参照されたい)。
【0059】
EPC含有溶液でTiチューブを満たすため、Tiチューブの各端をシラスティックチュービング(医学等級シリコンゴムチュービング、外径17mm、内径12.7mm)のおよそ1.5インチ部分内に挿入し、そして10mlシリンジのカットオフ端を1つのチュービング部分内に挿入した(図40中のTiチューブの左端に示す)。すべての部分を使用前にガス滅菌(酸化エチレン)した。植え付け時、10mlシリンジを血清不含EPC培地(EGM−2を含むEBM−2、Lonza/Clonetics)中の蛍光標識EPCで満たし、そしてチューブの反対側、未結合のチュービング端内に挿入した(図40中のTiチューブの右端に示す)。次いで、デバイスを垂直に保持して、そして10mlシリンジのピストンを押した際、EPC含有溶液をTiチューブ内に押し込みつつ、空気をTiチューブのもう一方の端を通じて、より具体的には、シラスティックチュービング中に挿入されたカットオフシリンジ先端を通じて逃した。Tiチューブの全管腔がEPC含有溶液で満たされたならば、カットオフシリンジ先端のルアーロックをストップコックで閉鎖した。Tiチュービングのシラスティックチュービング部分内に挿入された10mlシリンジを取り除かずに、全デバイスを滅菌カバー内に入れ(滅菌グローブを用いた)、そして(非滅菌)植え付けデバイス内に挿入した。血清(アルブミン)は、植え付けの最初の数分中、金属表面へのEPC結合を妨害するため、血清不含培地の使用は、この植え付け工程に重要であることが見出された。
【0060】
迅速植え付け方法論にしたがい、移植直前の数分以内にデバイスに植え付ける。この目的のため、Tiチューブ(この時点で、EPC溶液で満たされ、そして滅菌カバー内にある)を、植え付けデバイスの回転ポリスルホンヘッドのF−16ステンレススチール突起内に挿入し(図41)、そして37℃のインキュベーター内に入れた。回転速度(および植え付け時間)は、植え付けようとするチタンチューブまたはデバイスのサイズ(半径)に応じる。この特定の例のため、Tiチューブ(内半径=6.4mm)を用いた。移植は、右腎の高さであり、そして内半径6.4mmのTiチューブを成功裡に下大動脈に適合させるため、右腎動脈および静脈を連結させる必要があった。(続く実験において、内半径4.7mmまたは3.0mmを有する、より小さいTiチューブを用いるであろう。)1時間あたり10回転の回転速度および30分の植え付け時間(または全部で5回転)で、最適な結果を達成した。例えば4.7mmの内半径を持つ、より小さいサイズのチューブに植え付けるため、22分の植え付け時間、および内半径=3mmのチューブには、例えば1時間あたり13〜14回転の回転速度を用いてもよく、15分間の期間には、1時間あたり例えば20回転の回転速度を用いてもよい。1ml EPC培地あたり1〜2x106細胞のEPC濃度で、最適な植え付け結果が達成された。さらに、これらの条件下でのEPCは、明記した期間中、密封された気体浸透性Tiチューブ内で、生存し、そして機能性であるままであることが見出された。
【0061】
図42および43に示すような流動循環において、流動への直接曝露を伴う短い植え付け期間の後、集密表面を生じる能力を、ex vivoで試験した。インキュベーター(5%CO2、37℃)内のパルス吸収材、容器、および心肺バイパスポンプ(未提示)からなる流動ループ内に挿入されたTiチューブを示す。流動は、すべての実験において、x48時間で維持された。次いで、Tiチューブを取り除き、熱収縮材料をメスで切り、そして3つのTi部分各々を蛍光顕微鏡で画像化して、集密内皮裏打ちを確認した。
【0062】
Tiチューブを体重60kgのヨークシャーブタ内に移植した。ブタは、血液と接触する表面の生体適合性を研究するための確立された動物モデルとして、長年に渡る歴史を有する(Ueberrueckら, J. Surg. Res. 124(2):305−311(2005))。さらに、ブタは、凝固生物学および炎症の研究のため、最も認められるモデルの1つである(Velik−Salchnerら, Thromb. Res. 117(5):597−602(2006)、Kangら, Thromb. Haemost. 89(2):256−263(2003)、Dal Nogareら, Am. Rev. Respir. Dis. 142(3):660−667(1990))。ブタの血液は、ヒト血液に比較して、わずかに過凝固性であるため、ブタは、原理研究の証明のための優れたモデルである(Velik−Salchnerら, Thromb. Res. 117(5):597−602(2006))。これらのブタにおいて、抗血栓表面を生成することが可能であるため、こうした技術はヒトでもまた成功すると予期されうる。
【0063】
下大動脈を単離し、そして移植部位の近位および遠位でクランプする前に、血管ループで固定した(図44を参照されたい)。静脈切開術を行い、そしてチタンチューブを挿入した。その後、静脈切開を連続した6−0Proline縫合で閉鎖し、そして血管クランプを除去することによって流動を確立した。対照ブタに裸の(非コーティング)Ti移植物を移植し、そして試験ブタにはEPC裏打ちTi移植物を移植した。
【0064】
ブタを正常な(ブタ)生理学的パラメーターで2時間維持した後、Tiチューブを外植した。これを行うため、IVCをデバイスの近位および遠位で交差クランプし、そして静脈の両端を重バサミ(heavy scissors)で切断した。周囲の静脈を含めてデバイスを一括して取り除き、そして手術室テーブル上で直ちに写真を撮影した。注目すべきことに、対照移植物(裸のTiのみ)の全管腔は血栓症によって閉鎖された(図45)。外植後、動物を安楽死させた。
【0065】
熱収縮チュービングをメスで切断することによって、Tiチューブを3つの長片に分解した。全管腔を満たす血餅を図46に示す。EPCで裏打ちしたデバイスを用いて、同じ処置を反復した。図47に示すように、EPCでコーティングしたデバイス中には血餅はなかった。試験動物および対照動物間のすべての実験条件は同一であった。
【0066】
3つのTi片をリン酸緩衝生理食塩水溶液で洗浄し、そして10%ホルマリン溶液中で固定した。蛍光顕微鏡によって、移植前に植え付けた密度と同じ密度で蛍光標識細胞が存在することが立証された(図48、40xでの画像)。さらに、細胞がin vivoで拡散し始めるのが観察され、これは表面積が増加し、そして丸さが減少することによって明らかである(図49、200xでの画像)。
【0067】
実施例8
EPCは、Ti表面に著しくよく接着し、集密単層に増殖し、そして生理学的剪断ストレス下で保持される。これらの発見、ならびに迅速な(2〜3分間)細胞植え付けを可能にする、修飾ニチノールステント送達系の開発を上述する。
【0068】
決定から実際の移植までが30日以上の時間間隔であることによって定義されるような選択的手術で、現在、〜70%はニチノールステントが用いられているため、ステント候補である、末梢動脈疾患患者の大部分では、EPCを単離し、そして培養することが可能である。さらに、採血あたりのEPCの収量は、採血数時間前にAMD3100を投与することによって有意に増加しうる(Shepherdら, Blood 108(12):3662−3667(2006))。AMD3100は、自家EPCを単離する成功率を10倍増加させ、少数の患者において軽度の副作用が報告されるのみである(Shepherdら, Blood 108(12):3662−3667(2006))。したがって、単回の末梢血の採血から90%を超える確実性でEPCを単離可能である。
【0069】
ステント送達系を製造し、画像化/再圧縮を最適化する。ニチノールステント送達系(Cordis PRECISE)のステント鞘内に多数の小さい穴をドリルで開けてもよい(図50)。各穴は、細胞より小さいが(10μm以下)、流体の通過を可能にし、上述のように、EPCがステント支柱上に迅速に植え付け可能であるようにする。355nm周波数三倍化Nd:YAGレーザーを用いて、鞘の全長に沿って100μmのピッチでプラスチック鞘にドリルで穴を開けてもよく、外周上、36の直線状の線として穴を開ける。Cell Tracker(Invitrogen)で標識し、そして蛍光顕微鏡で画像化することによって、ステント支柱上のEPCを視覚化してもよい。多数回の実験のため、修飾ステント送達系を再使用するために、送達系の遠位内部カテーテル先端を切断し、そしてステントを氷水に浸しながら、プラスチック漏斗(ピペット先端)に通過させることによって、ステントを再装填してもよい。
【0070】
圧駆動流動を通じて、EPCを非展開ステント上に植え付け可能であるように、ステント送達系を修飾してもよい。レーザーを用いて、プラスチック支持鞘中、ドリルで穴を開けてもよい。2〜3分以内にステントの完全な植え付けを達成するのに必要な流速、ならびに穿孔処理したステント鞘に渡る圧低下を計算し、そして非接着細胞を定量化することによって実験的に検証することも可能である。性能を改善するため、圧低下を調節し、そして/または鞘内により多くの穴を開けて調べてもよい。
【0071】
蛍光顕微鏡を用いて、展開ステント表面上のEPCの画像化を最適化してもよい。どの倍率および配置が、接着細胞に関して、曲がったステント支柱をスキャンするための最も包括的な方法を生じるかに関して、決定を行ってもよい。必要であれば、視野に関してステントを移動させそして回転させることが可能な、顕微鏡ステージ用のステントホルダーを構築してもよい。
【0072】
実験のため、修飾鞘を多数回再利用するため、Ti表面に関して先に記載したように、ステントを清浄化してもよく(Achneckら, Microsc. Res. Tech. 73(1):71−76(2010))、そして修飾ステント鞘内に再装填するため、ステントを再圧縮してもよい。拡張されたステントを再圧縮するために、ニチノールが氷水中で可鍛性になるという事実を利用してもよい。
【0073】
EPC植え付けを最適化し/ex vivoで、生理学的剪断ストレス下、細胞保持を評価する。確立されたプロトコルにしたがって、ヒトおよびブタの末梢血からEPCが成功裡に単離されてきている(Yoderら, Blood 109(5):1801−1809(2007))。これらの細胞は、光学顕微鏡および電子顕微鏡によって、内皮細胞(EC)形態を有し、そして免疫蛍光およびフローサイトメトリーによって典型的なECマーカーを示す。ニッケルが血液中に浸出しないように、表面上がTiのみである層で、ニチノールステントをコーティングするため、実験目的のためにTiスライドを製造した。CHA Industries Solution Eビーム蒸着系を用いて、ピラニア洗浄した(piranha cleaned)ガラススライド上に、100nmのTiを沈着させ、そしてX線光電子分光法(Wangら, Applied Surface Science 253:8507−8512(2007))を用いて、試料の原子組成がTi(酸化チタン)であることを確認した。Tiの原子間力顕微法によって、表面粗度がおよそ10nmであることが明らかになり、これはニチノールステントの電解研磨表面によく匹敵した(Thierryら, Biomaterials 23(14):2997−3005(2002))。
【0074】
EPCは、こうしたTi表面に非常によく接着し、そして全表面を完全に覆う集密層に増殖する。さらに、Ti上での寿命が長い(培養中で>1週間)ことを、AlamarBlueバイオアッセイで確認した。流動条件下でEPC接着を評価するため、多様な高さの流動チャンバー(Mathurら, J. Biomed. Mater. Res. A. 64(1):155−163(2003))を用いて、所定の流動実験に関してTiスライド上でいくつかの異なる剪断ストレスでのEPC保持を調べた。以下の式:τ=6μQ/wh2、式中、τはダイン/cm2での剪断ストレスであり、μは粘度であり、Qは流速であり、wはチャネルの幅であり、そしてhは高さである、を用いて、EPCに作用する壁剪断ストレスを計算した。蛍光標識EPCを、緩衝生理食塩水中で、Tiスライドとともに15分間だけインキュベーションして、細胞が定着し、そしてTi表面にかろうじて接着するのを可能にした。次いで、こうして植え付けられたスライドをフローチャンバー内に挿入し、そして非常に高い剪断ストレスに曝露する5分前および曝露した5分後に画像化した。
【0075】
結果は、生理学的動脈条件の最大20倍の剪断ストレス下で、EPCがTi表面に優れた接着を示すことを示す。したがって、迅速植え付け法でニチノールステントに植え付け可能であり、そしてEPCの接着を予期可能である。長期流動下でニチノールステント表面上のEPCの集密層の振る舞いを評価するため、EPCを植え付けたTiスライドを平行な平面流動チャンバーに入れ、そして動脈剪断ストレスでの連続流動に48時間曝露した。流動前および流動後に画像を得た。培地試料を収集して、先に記載されるように(Allenら, Nitric Oxide 20(4):231−237(2009))、Ionics/Sievers一酸化窒素分析装置で、化学発光によって代謝物、亜硝酸塩を測定することによって、一酸化窒素(NO)産生を決定した。EPC単層が生理学的剪断下で保持されることが見出された。さらに、EPCは自身を流動方向に整列させ、そして静置条件下よりも流動下で、有意により多いNOを産生することによって、その環境に適応した(p=0.0008)。
【0076】
さらなる実験において、上で決定した流速で、ステント送達系の側面ポートを通じて、蛍光標識EPCをフラッシュしてもよい。この植え付けプロセス(2〜3分間)後、側面ポートに生理食塩水をフラッシュして、非接着細胞を取り除いてもよい。フラッシュ溶液を収集して、非接着細胞を計数してもよい。その後、ステントを拡張し、そして画像化してもよい。Image Jソフトウェアを用いて、ステント支柱面積あたりの細胞密度を決定してもよい。接着細胞の最大数を達成するため、植え付け溶液中の最適EPC濃度を決定してもよい。鞘を画像化して、穴に固着した細胞が存在しないことを確認してもよい。均一な植え付けのために穴の数が不十分である場合、さらなる穴をステント鞘内にドリルで開けてもよい。
【0077】
剪断ストレス下での展開したステント上でのEPC保持を評価するため、上で決定した条件下で、EPCで修飾した鞘中に、ガス滅菌したステントを植え付けてもよい。植え付けたステントをシリコンチュービング内で展開して、そして流動循環内に挿入してもよい。ステントに接着したEPCを生理学的剪断に供してもよい。流動48時間後、上述のように、シリコンチュービングを切断することによって、ステントを取り除いて、そして画像化してもよい。
【0078】
上に引用するすべての文書および他の情報供給源はその全体が本明細書に援用される。
【図1A−1D】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物内に移植可能な医学的デバイスであって、血液と接触する表面上に内皮細胞を含む、前記デバイス。
【請求項2】
中空の管状構造を有する、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
ステントである、請求項2記載のデバイス。
【請求項4】
機械的循環補助デバイスである、請求項1記載のデバイス。
【請求項5】
左心室補助デバイスである、請求項4記載のデバイス。
【請求項6】
チタンまたはチタン合金に基づくデバイスである、請求項1記載のデバイス。
【請求項7】
前記細胞が、抗凝固または抗炎症特性を有するタンパク質を発現するように遺伝子操作されている、請求項1記載のデバイス。
【請求項8】
前記細胞が内皮前駆細胞である、請求項1記載のデバイス。
【請求項9】
前記細胞が血液由来内皮前駆細胞である、請求項8記載のデバイス。
【請求項10】
前記細胞が、末梢血、臍帯血または胎盤血由来である、請求項9記載のデバイス。
【請求項11】
血液と接触する前記表面上にコーティングをさらに含み、前記コーティングが前記細胞の拡散を増加させる剤を含み、前記コーティングが、血液と接触する前記表面および前記細胞の間に配置される、請求項1記載のデバイス。
【請求項12】
心不全を患う患者を治療する方法であって、前記患者において、血液循環が増加し、そしてそれによって前記治療が達成される方式で、請求項4記載のデバイスを、前記患者内に移植する工程を含む、前記方法。
【請求項13】
局所流動狭窄と関連する疾患または障害を患う患者を治療する方法であって、前記流動狭窄の部位内に、請求項2記載のステントを、前記治療が達成されるような条件下で導入する工程を含む、前記方法。
【請求項14】
前記流動狭窄部位が血管中に存在する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記ステントがチタンまたはチタン合金に基づくステントである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記ステントがニチノールステントである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記血管が動脈または静脈である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
前記動脈または静脈が、前記患者の心臓、脳または末梢循環中に存在する、請求項17記載の方法。
【請求項1】
哺乳動物内に移植可能な医学的デバイスであって、血液と接触する表面上に内皮細胞を含む、前記デバイス。
【請求項2】
中空の管状構造を有する、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
ステントである、請求項2記載のデバイス。
【請求項4】
機械的循環補助デバイスである、請求項1記載のデバイス。
【請求項5】
左心室補助デバイスである、請求項4記載のデバイス。
【請求項6】
チタンまたはチタン合金に基づくデバイスである、請求項1記載のデバイス。
【請求項7】
前記細胞が、抗凝固または抗炎症特性を有するタンパク質を発現するように遺伝子操作されている、請求項1記載のデバイス。
【請求項8】
前記細胞が内皮前駆細胞である、請求項1記載のデバイス。
【請求項9】
前記細胞が血液由来内皮前駆細胞である、請求項8記載のデバイス。
【請求項10】
前記細胞が、末梢血、臍帯血または胎盤血由来である、請求項9記載のデバイス。
【請求項11】
血液と接触する前記表面上にコーティングをさらに含み、前記コーティングが前記細胞の拡散を増加させる剤を含み、前記コーティングが、血液と接触する前記表面および前記細胞の間に配置される、請求項1記載のデバイス。
【請求項12】
心不全を患う患者を治療する方法であって、前記患者において、血液循環が増加し、そしてそれによって前記治療が達成される方式で、請求項4記載のデバイスを、前記患者内に移植する工程を含む、前記方法。
【請求項13】
局所流動狭窄と関連する疾患または障害を患う患者を治療する方法であって、前記流動狭窄の部位内に、請求項2記載のステントを、前記治療が達成されるような条件下で導入する工程を含む、前記方法。
【請求項14】
前記流動狭窄部位が血管中に存在する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記ステントがチタンまたはチタン合金に基づくステントである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記ステントがニチノールステントである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記血管が動脈または静脈である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
前記動脈または静脈が、前記患者の心臓、脳または末梢循環中に存在する、請求項17記載の方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A−8D】
【図9】
【図29】
【図30A】
【図30B】
【図30C】
【図30D】
【図30E】
【図30F】
【図31A】
【図31B】
【図32A】
【図32B】
【図32C】
【図32D】
【図32E】
【図32F】
【図33A】
【図33B】
【図33C】
【図33D】
【図33E】
【図34】
【図35】
【図36A】
【図36B】
【図36C】
【図36D】
【図37】
【図38A】
【図38B】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図51】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A−8D】
【図9】
【図29】
【図30A】
【図30B】
【図30C】
【図30D】
【図30E】
【図30F】
【図31A】
【図31B】
【図32A】
【図32B】
【図32C】
【図32D】
【図32E】
【図32F】
【図33A】
【図33B】
【図33C】
【図33D】
【図33E】
【図34】
【図35】
【図36A】
【図36B】
【図36C】
【図36D】
【図37】
【図38A】
【図38B】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図51】
【公表番号】特表2013−501574(P2013−501574A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524701(P2012−524701)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/002235
【国際公開番号】WO2011/019401
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(511043965)デューク ユニバーシティー (9)
【氏名又は名称原語表記】DUKE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/002235
【国際公開番号】WO2011/019401
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(511043965)デューク ユニバーシティー (9)
【氏名又は名称原語表記】DUKE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
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