説明

細胞におけるターゲットタンパク質候補の発現を検出および/または定量する方法、ならびに小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定する方法

本発明は、細胞におけるターゲットタンパク質候補の発現を検出および/または定量する方法、ならびに小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定する方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞におけるターゲットタンパク質候補の発現を検出および/または定量する方法、ならびに小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多局面の細胞およびタンパク質の機能の、特に哺乳動物の細胞およびタンパク質の機能の分子的基盤は、多くの場合に分かりにくいままであり、タンパク質機能を細胞ベースで視覚的にスクリーニングする状況でゲノム手段の活用を可能にする方法の必要性がある。これは、関心がもたれる細胞生物系の周辺および内部で作動するタンパク質ネットワークを同定するために、ならびに化学的遺伝アプローチ(Eggert and Mitchison, 2006)および類似のハイスループットスクリーニングアプローチにより同定された小分子モデュレーターのターゲットを同定するために有益である。タンパク質機能を細胞ベースでハイコンテントスクリーニングするときの目下の障害は、これらのターゲットの同定である(Peterson et al., 2006)。
【0003】
その上、多くの場合に、細胞でのターゲットタンパク質の発現を確実に定量的に検出することは困難でさえある。従来技術におけるいくつかのアプローチは、核酸アレイの使用、ならびに外部薬剤および発病状態がそのアレイ内の核酸の発現プロファイルに及ぼす影響に対する効果を焦点とした。多くの場合に、このアプローチは、せいぜい定性的にすぎない。その上、このような核酸アレイ実験の結果は、莫大な量のデータを発生し、そのデータの大部分は、直接には、それ以上の解析になじみにくいおそれがある。その上、この種の実験は、核酸の発現を見通すだけであり、タンパク質の発現に関するどのような推論も間接的でしかない。したがって、細胞におけるタンパク質の発現を検出および/または定量する、実施および分析が容易な方法を提供する必要性が当技術分野に存在する。
【0004】
小分子は、動的な生物学的過程を高い時間分解能で研究するための価値ある手段である。小分子は、治療薬の発見もまた触媒することができる。薬学的に活性な小分子は、純粋なタンパク質のin vitroアッセイにおけるタンパク質の比活性の変化について、または細胞ベースのアッセイにおける所望の表現型について化学ライブラリーをスクリーニングすることによって発見することができる。従来、細胞ベースのアッセイは、通例、単一の経路または過程の活性に及ぼす効果について、典型的にはプレートリーダーで測定される読み取りとしての発光または蛍光シグナルを用いて報告するために確立されてきた。細胞イメージングアッセイでは、細胞野は、異なる高分子に結合した蛍光タグおよび自動顕微鏡法を使用して視覚化することができる。このようなデータは、所望の、および予想外の表現型変化に関連する大量の情報を潜在的に有するが、このアプローチは、ときに「ハイコンテントスクリーニング」と呼ばれる。有用化合物を発見および特徴付けするための学界および産業界におけるこの方法の潜在性は高いが、特にターゲットの同定およびデータ解析のレベルで多数の難題が残る。
【0005】
小分子イメージングスクリーニングは、典型的にはいくつかの工程を伴う。まず第一に、通常はオプティカルボトムマルチウェルプレートを小分子で処理したものに細胞を蒔き、適切な時間インキュベーションする。次に、小分子蛍光プローブ、抗体を用いた免疫蛍光、および/または細胞における蛍光タンパク質(例えばGFP)−タグタンパク質の発現のうち何らかの組合せによって、関心がもたれるタンパク質を蛍光性にする。後者の方法は、生細胞および固定された細胞の両方に適用することができる。第二の工程では、蛍光イメージを自動顕微鏡法により捕捉し、それに対して次に画像を解析し、所望の、所望でない、または予想外の表現型を有するウェルを同定して表現型変化の尺度を提供する。小分子スクリーニング法では、表現型変化を引き起こす生化学的ターゲットを同定することが最終的に必要である。特に表現型変化が一つより多くの高分子の撹乱に起因する場合に、これは厄介なことがある。
【0006】
結果的に、実施が容易であって、簡便な分析になじみやすい、小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定する改良法を提供する必要性が従来技術に存在する。したがって、複雑な生化学アッセイの必要なしに、ターゲットの同定、すなわち小分子モデュレーターに関する高分子ターゲットの同定を可能にする方法を提供することが本発明の目的であった。その上、従来技術に存在するもののような労働集約的な生化学的方法を回避する、ターゲットを同定するためのゲノムワイドのアプローチとして役立ちうる方法を提供することが、本発明の目的である。一揃いの潜在的ターゲット核酸(好ましくはcDNA)の発現またはそれらの発現抑制を通じて、小分子モデュレーターの活性をモデュレーションする遺伝子を同定することによって、小分子モデュレーターに関する高分子ターゲットの同定を可能にする方法を記載する。具体的には、小分子の分子ターゲットは、それらが小分子の表現型を復帰する能力または増強する能力を通じて同定される。この方法は、複雑な生化学アッセイを必要とせずにターゲットを同定できるようにすることから、従来技術に存在する労働集約的な生化学的方法とは対照的に、ターゲットの同定のためのゲノムワイドのアプローチとして役立つ(Peterson et al 2006)。
【0007】
本発明の目的は、以下の工程:
−マーカータンパク質をコードする第一の核酸をベクターに導入する工程、
−発現が検出および/または定量される予定の該ターゲットタンパク質候補をコードする第二の核酸を、該第一および第二の核酸が作動可能に連結されるように該ベクターに導入することによって、該マーカータンパク質の発現が該ターゲットタンパク質候補の発現の指標となる工程、
−該ベクターを細胞に導入する工程、
−該マーカータンパク質の発現を検出および/または定量する工程、
−該マーカータンパク質の該発現を該ターゲットタンパク質候補の発現に関連づけることによって、該ターゲットタンパク質候補の発現を検出および/または定量する工程
を含む、細胞におけるターゲットタンパク質候補の発現を検出および/または定量する方法によって解決される。
【0008】
一態様では、該第一および第二の核酸は、以下の配置:
a)該第一の核酸は、第一のプロモーターのコントロール下にあり、該第二の核酸は、該第一のプロモーターと離れて位置する第二のプロモーターのコントロール下にあり、該第一および第二のプロモーターは、配列が同一であるか、または同一の活性を有する、
b)該第一の核酸は、第一のプロモーターのコントロール下にあり、該第二の核酸は、該第一のプロモーターと離れて位置する第二のプロモーターのコントロール下にあり、該第一および第二のプロモーターは、配列が同一ではなく、該プロモーターのそれぞれの活性は予測可能である、
c)該第一および該第二の核酸は、単一のプロモーターのコントロール下にあり、該第一および該第二の核酸は、配列内リボソーム進入部位(IRES)を有するヌクレオチドのストレッチによって相互に分離されている
の一つによって該ベクター内で作動可能に連結される。
【0009】
一態様では、該マーカータンパク質は、蛍光タンパク質、抗体のフラグメント、エピトープ、酵素、単量体性アビジン、ペプチドビオチン模倣体、直接結合を通じて検出することができるペプチド、または光学的に検出可能なシグナルが生成するように化学的フルオロフォアもしくは類似構造を有する有機分子との化学結合もしくは反応を通じて検出することができるペプチドである。
【0010】
一態様では、該IRESは、ウイルス由来のIRES、細胞性mRNA由来のIRES、特にポリオ、EMCVおよびFMDVなどのピコルナウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)などのフラビウイルス、古典的ブタ熱ウイルス(CSFV)などのペスチウイルス、マウス白血病ウイルス(MLV)などのレトロウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)などのレンチウイルス、およびコオロギ麻痺病ウイルス(CRPV)などの昆虫RNAウイルス由来のIRES、ならびに細胞性mRNA、例えばeIF4GおよびDAP5などの翻訳開始因子、c−MycおよびNF−κB抑制因子(NRF)などの転写因子、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子2(FGF−2)、血小板由来成長因子B(PDGF−B)などの成長因子、アンテナペディアなどのホメオティック遺伝子、X連鎖アポトーシス阻害因子(XIAP)およびApaf−1などの生存タンパク質、ならびにBiPなどの他の細胞性mRNA由来のIRESより選択される。
【0011】
一態様では、
−該第一および第二のプロモーターの配列が同一の場合に、これらのプロモーターは、CMV、EF1、SV40、ヒトH1およびU6プロモーターを含む群より選択され、
−該第一および第二のプロモーターが同一の活性を有する場合に、これらのプロモーターのそれぞれは、CMV、EF1、SV40、ヒトH1およびU6プロモーターを含む群より独立して選択され、
−該第一および第二のプロモーターの配列が同一ではなく、該プロモーターの活性が予測可能な場合に、該プロモーターのそれぞれは、CMV、EF1、SV40、ヒトH1およびU6プロモーターを含む群より独立して選択され、
−該単一のプロモーターは、CMV、EF1、SV40、ヒトH1およびU6プロモーターを含む群より選択され、該IRESは、配列番号:1〜15を含む群より選択される配列を有する核酸を含む群より選択される。好ましい態様では、該単一のプロモーターはCMVプロモーターであり、該IRESはEMCV由来である。特に好ましい態様では、該プロモーターはCMV前初期(IE)プロモーター(pCMVIE)であり、IRESはEMCV由来であり、好ましくはEMCV由来の該IRESは、配列番号:9、14および15より、さらに好ましくは14および15より、最も好ましくは14より選択される配列を有する核酸である。
【0012】
一実施形態では、該細胞への該ベクターの該導入は、トランスフォーメーション、トランスフェクション、エレクトロポレーション、ウイルストランスダクション、トランスダクション、バリスティックデリバリーによって起こる。
【0013】
好ましくは、該検出および/または定量は、定量測定が可能な任意の光学的検出法、特に空間分解能を有する光学的検出、顕微鏡法、蛍光標示式細胞分取、UV−Vis分光法、蛍光またはリン光測定、生物発光測定によって起こり、ここでさらに好ましくは、該顕微鏡法は、光学顕微鏡法、明視野顕微鏡法、偏光顕微鏡法、蛍光顕微鏡法、特に共焦点蛍光顕微鏡法、エバネッセント光励起顕微鏡法、蛍光相関分光法、蛍光寿命顕微鏡法、蛍光相互相関顕微鏡法、光退色後蛍光回復顕微鏡法、ラインスキャンイメージング、ポイントスキャンイメージング、構造化照明、デコンボリューション顕微鏡法、光子計数イメージングを含む群より選択される。
【0014】
一態様では、該ターゲットタンパク質候補および該マーカータンパク質は、別々のタンパク質として該細胞に発現される。
【0015】
本発明の目的は、以下の工程を含む、小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定する方法によってもまた解決される:
−小分子モデュレーターに曝露された場合にシグナルを生成することができる種類の第一の細胞を提供する工程であって、該シグナルが、空間的に分解することができ、かつ所望により好ましくは顕微鏡法によって定量することができるシグナルである工程、
−該第一の細胞を小分子モデュレーターに曝露し、該小分子モデュレーターに対する応答として該第一の細胞によって生成される第一のシグナルを空間的に分解および所望により定量する工程、
−該第一の細胞と同種類の第二の細胞を提供する工程、
−該第二の細胞に、請求項1〜9のいずれかに記載の方法を行う工程、
−該ベクターを該第二の細胞に導入した後で該第二の細胞に請求項1〜9のいずれか記載の方法を行う間に、該小分子モデュレーターに該第二の細胞を曝露し、かつ該小分子モデュレーターに対する応答として該第二の細胞によって生成される第二のシグナルを空間的に分解および所望により定量する工程、
−該第一のシグナルを該第二のシグナルと比較し、該第一のシグナルと該第二のシグナルとの間に差がある場合に、該差を該第二の細胞における該ターゲットタンパク質候補の発現に帰することによって、該ターゲットタンパク質候補を該小分子モデュレーターのターゲットタンパク質として同定する工程。
【0016】
好ましくは、該第一のシグナルおよび第二のシグナルは、顕微鏡法によって検出、空間的に分解、および所望により定量することができる光学的シグナルであり、ここで、さらに好ましくは、該第一のシグナルおよび第二のシグナルは蛍光シグナルである。
【0017】
一態様では、該マーカータンパク質の発現は、空間的に分解することができ、かつ該第一および第二のシグナルと識別することができる第三のシグナルを生成し、ここで、好ましくは、該第三のシグナルは、顕微鏡法によって検出、空間的に分解、および所望により定量することができる。
【0018】
好ましい態様では、該第三のシグナルは蛍光シグナルであり、該第一および第二のシグナルは蛍光シグナルであり、かつ該第三のシグナルは、該第一および第二のシグナルとスペクトルが別個である。
【0019】
一態様では、該第一のシグナルおよび該第二のシグナルは、それらのそれぞれの量によってのみ相互に識別することができる。
【0020】
好ましくは、本発明に記載の方法は、所与の小分子モデュレーターについて一つより多い、好ましくは複数のターゲットタンパク質候補を用いて行われ、ここでさらに好ましくは、この方法は、所与の小分子モデュレーターについて、生物のゲノムの全ての可能なターゲットタンパク質候補を用いて行われる。
【0021】
一態様では、本発明に記載の方法は、一つより多い、好ましくは複数の小分子モデュレーターを用いて行われる。
【0022】
本発明の目的は、以下の工程を含む、小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定する方法によってもまた解決される:
−小分子モデュレーターに曝露された場合にシグナルを生成することができる種類の第一の細胞を提供する工程であって、該シグナルが、好ましくは顕微鏡法によって空間的に分解することができ、かつ所望により定量することができるシグナルである工程、
−該第一の細胞を小分子モデュレーターに曝露し、該小分子モデュレーターに対する応答として該第一の細胞によって生成される第一のシグナルを空間的に分解および所望により定量する工程であって、いくつかの異なる濃度の該小分子モデュレーターでこの工程を行って、該ターゲットタンパク質候補の発現阻害の不在下で最大半量の活性濃度である、該小分子モデュレーターの第一の最大半活性濃度(half-maximum active concentration)(AC50)を決定する工程、
−該第一の最大半活性濃度を決定する工程、
−該第一の細胞と同じ種類の第二の細胞を提供する工程、ならびに
−該第二の細胞におけるターゲットタンパク質候補の発現を阻害するように選択された低分子干渉RNA(siRNA)を該第二の細胞に導入する工程であって、好ましくは、該第二の細胞におけるターゲットタンパク質候補の発現を阻害するように選択された低分子干渉RNA(siRNA)を該第二の細胞にトランスフェクションする工程、
−該小分子モデュレーターに該第二の細胞を曝露し、該小分子モデュレーターに対する応答として該第二の細胞によって生成される第二のシグナルを空間的に分解および所望により定量する工程であって、いくつかの異なる濃度の該小分子モデュレーターでこの工程を行って、該ターゲットタンパク質候補の発現阻害の存在下で、最大半量の活性濃度である該小分子モデュレーターの第二の最大半活性濃度(AC50)を決定する工程、
−第二の最大半活性濃度を決定する工程、
−該第一の最大半活性濃度を該第二の最大半活性濃度と比較し、該第一の最大半活性濃度と該第二の最大半活性濃度との間に差がある場合には、該差を該ターゲットタンパク質候補の発現阻害に起因するとみなすことによって、該ターゲットタンパク質候補を該小分子モデュレーターのターゲットタンパク質として同定する工程。
【0023】
好ましくは、該第一および第二の最大半量の活性濃度は、最大半阻害濃度(IC50)であって、該小分子モデュレーターは阻害剤である。
【0024】
別の態様では、該第一および第二の最大半量の活性濃度は最大半賦活濃度(EC50)であって、該小分子モデュレーターは賦活剤である。
【0025】
いくつかの態様では、本明細書に使用される用語「最大半活性濃度(AC50)」という用語は、別の比率の活性もまた表しうることに留意すべきである。例えば、これは、「90%最大活性濃度(AC90)」または60%、70%もしくは80%など(AC60、AC70、AC80など)の識別的な値として使用することができる別のパーセント値を表すことがある。またこの場合、このパーセントは、さらにまた「ICx」および「ECx」という用語にもあてはまり、ここで、「x」は、最大活性濃度の前記パーセントを表し、ここで、「IC」はこの場合に小分子モデュレーターが阻害剤であることを意味し、「EC」は、その小分子モデュレーターが賦活剤であることを意味する。好ましい態様では、「最大半活性濃度」は、最大値の50%以上の活性を有する濃度、すなわち「AC≧50」である。
【0026】
遺伝子サイレンシングは、当業者に周知であり、複数の方法によって達成することができる(Echeverri & Perrimon Nature, Reviews Genetics 2006に総説)。
【0027】
好ましくは、該第一のシグナルおよび該第二のシグナルは、顕微鏡法により検出、空間的に分解することができ、かつ所望により定量することができる光学的シグナルである。
【0028】
さらに好ましくは、該第一のシグナルおよび該第二のシグナルは蛍光シグナルである。
【0029】
本発明者らは、一揃いの潜在的ターゲットcDNAの発現またはそれらの発現抑制を通じて、小分子モデュレーターの活性をモデュレーションする遺伝子を同定することによって、小分子モデュレーターに関する高分子ターゲットの同定を可能にする方法を何とか考案した。具体的には、小分子の分子ターゲットは、それらが小分子の表現型を復帰または強化する能力を通じて同定される。この方法は、複雑な生化学アッセイを必要とせずにターゲットを同定できるようにすることから、従来技術に存在する労働集約的な生化学法とは対照的に、ターゲットの同定のためのゲノムワイドアプローチとして役立つ(Peterson et al 2006)。
【0030】
特に、該第一および該第二の核酸が単一のプロモーターのコントロール下にあり、該第一および該第二の核酸が、配列内リボソーム進入部位(IRES)を有するヌクレオチドのストレッチによって相互に分離されている態様において、本発明者らは、ハイコンテントスクリーニングに特に有用なシステムを何とか考案したが、それは、該第一の核酸の発現レベルが、該第二の核酸の発現レベルとマッチするからである。本明細書に使用される「核酸の発現レベル」という用語は、該核酸に対応するmRNAまたはタンパク質の発現レベルを表すことを意味する。この「IRESの態様」では、該第一の核酸と該第二の核酸との間に、それぞれからの発現および発現レベルの1:1関係がある。これとは対照的に、二つの異なるプロモーターの使用を伴う他のアプローチには、いくつかの問題を付随するおそれがある。例えば、プロモーターの干渉現象が起こりうることから、両方の核酸が確実に共発現する保証はない。したがって、二つの核酸が単一のプロモーターのコントロール下にあり、配列内リボソーム進入部位を有するヌクレオチドのストレッチによって相互に分離されているアプローチに比べて、このような「二重プロモーターのアプローチ」は、本発明に包含されるとはいえ、小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定する方法に使用される場合に好ましくない。二重プロモーターのアプローチでは、例えば、関心がもたれる遺伝子を発現する転写ユニットとは異なる転写ユニットに耐性遺伝子が存在すると、耐性細胞によって関心がもたれる遺伝子が実際に発現されることは保証できないであろう。例えば、関心がもたれる遺伝子が細胞増殖に阻害効果を有するか、またはその遺伝子が細胞毒性効果を有する場合に、別個の転写ユニットへの淘汰圧は、関心がもたれる遺伝子の対抗選択を防止することができないことから、耐性遺伝子のみを発現する耐性クローンが導かれる。「IRESのアプローチ」は、これらの問題のいずれも有さないことから、これは、この特定の態様の長所の一つである。
【0031】
さらに、siRNAを含む本発明の別の局面に関して、本発明者らは、ターゲット遺伝子のサイレンシングにおける最大半活性濃度(AC50)の変化を測定することによって、小分子モデュレーターのターゲットタンパク質が同定される方法を考案した。本発明者らに公知の、ハイコンテントスクリーニングまたはハイスループットスクリーニングの全ての従来技術の方法では、AC50におけるこのような変化は測定されなかったし、たとえ測定されたとしても、ただ一点の濃度であった。このような一点の濃度測定が高濃度レベルで行われると、これによって、通常は高率の偽陽性が生じる。すなわち、このような方法は全くターゲットに特異的ではない。同様に、一部の小分子モデュレーターは、それらの「適正な」AC50濃度をかなり超えて使用されることがあるが、この場合は、毒性効果が観察されるおそれがあり、ターゲットの検出は不可能となろう。さらに、このような一濃度の測定では、実際に使用される濃度が低すぎることがあるが、この場合、効果を検出することができないため、ターゲットの同定が回避されるおそれがある。本発明者らは、AC50のタイトレーション実験を行うことによって、AC50の変動を表現型におけるタイトレーション可能な変化と組み合わせる方法を考案した。適切なターゲットだけがAC50を変動させ、それによって他の遺伝子と識別することができるが、一点の濃度測定では、ことによると他の遺伝子もまた誤ってターゲットとして現れたおそれがあろう。それゆえに、siRNAを用いて小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定する方法にAC50の測定を行うことによって、本発明者らは、特に信頼性のあるハイコンテントスクリーニングの方法を考案した。
【0032】
本明細書に使用される「ターゲットタンパク質候補」という用語は、発現を検出および/または定量することを望む任意のタンパク質を表すことを意味する。好ましくは、そのようなタンパク質は、続いて小分子化合物の作用に関するターゲットであると疑われる。「小分子化合物」および「小分子モデュレーター」という用語は、同義的に相互交換可能に使用される。本明細書に使用される「ターゲットタンパク質候補」は、小分子モデュレーターに関するターゲットであると疑われるが、そのような疑いはまだ立証されていない。「ターゲットタンパク質候補」が小分子モデュレーターに関する実際のターゲットとして同定された場合に、このような「ターゲットタンパク質候補」は、検討された小分子モデュレーターの「ターゲットタンパク質」となる。
【0033】
本明細書に使用される「作動可能に連結される」という用語は、二つの核酸によってコードされるそれぞれのタンパク質の発現が相互に比例関係になるような、これらのコード核酸の相互の配置を表すことを意味する。それゆえに、一方の核酸によってコードされる一つのタンパク質の発現の検出および/または定量から、もう一方の核酸によってコードされる第二のタンパク質の発現の存在および/または量を推定することができる。その最も単純な形態では、このような比例関係は、直線関係のことがあるが、本発明は必ずしもそれに限定されない。
【0034】
本明細書に使用される「配列内リボソーム進入部位」または「IRES」は、コード配列内のヌクレオチドのストレッチであって、mRNAのレベルのこのようなコード配列内で翻訳を開始させるストレッチを表すことを意味する。このようなIRESによって開始される翻訳の結果として生じるタンパク質は、IRESが位置するmRNA配列からのタンパク質とは異なる。通常、翻訳が、真核生物においてmRNA分子の5’末端でのみ開始することができるのは、開始複合体を集合させるために5’キャップの認識が必要だからである。IRES部位は5’キャップの構造を模倣すると現在考えられている。そのようなIRES配列は、RNAウイルスで最初に発見されたが、続いていくつかの生物で同定された。IRES部位は、RNAの5’非翻訳領域に位置し、キャップ非依存的にRNAを翻訳させる。いくつかのIRES部位が同定されているが、これらは、キャップ非依存的にmRNA内で翻訳を開始する前記能力を特徴とする。IRES部位は、広範囲に総説されている(Martinez-Salas et al., Journal of General Virology, 2001, Vol. 82, 973-984およびJackson, R.J., Translational Control of Gene Expression, 2000, Sonenberg et al. Eds., pp. 127-184, Cold Spring Harbor NY)。さらに、同定されたIRES部位に関する定期的に更新されたデータベースが、http://www.iresite.orgに存在する。
【0035】
本発明に記載の方法に使用される特に好ましいIRES部位は、ピコルナウイルス、フラビウイルス、ペスチウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、および昆虫RNAウイルスなどのウイルスRNA由来のIRES、ならびに翻訳開始因子、転写因子、成長因子、ホメオティック遺伝子、および生存タンパク質などの細胞性mRNA由来のIRES部位である。特に好ましいIRES部位は、EMCVおよびHCVなどのピコルナウイルスおよびフラビウイルス由来のIRES部位である。本発明に使用するための好ましいIRES部位は、ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)のアンテナペディア、ホメオティック遺伝子であるアンテナペディアおよびウルトラバイソラックス、ヒトc−mycガン遺伝子、ヒトv−myc骨髄球症ウイルス関連ガン遺伝子、ヒトミエリン転写因子2(MYT2)、ヒトアポトーシスプロテアーゼ活性化因子1(Apaf−1)、ヒトコクサッキーウイルスB2型20株、脳心筋炎ウイルス(EMCV)、コオロギ麻痺病ウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス1、ブタコレラウイルス(古典的ブタ熱ウイルス)、および肝炎GBウイルスB(GBV−B)由来のIRES部位である。
【0036】
さらに具体的には、EMCV由来のIRES部位が特に好ましく、ここで好ましくは、EMCV由来の該IRESは、配列番号:9、14および15、さらに好ましくは14および15、最も好ましくは14より選択される配列を有する核酸である。
【0037】
本発明の基本的な一つの考えは、二シストロンmRNAとして真核生物mRNA分子に二つのタンパク質をコードする二つの核酸の間のIRES部位の配置である。このようなIRES部位は、この場合mRNA分子の5’末端に結合した5’キャップ構造に依存せずに下流のタンパク質コード領域の翻訳を推進することができる。この構成では、両タンパク質は、細胞中で産生され、それらの発現は一体となって共役する。第一のシストロンに位置する第一のタンパク質は、キャップに依存する開始アプローチにより合成されるが、第二のタンパク質の翻訳開始は、二つのタンパク質コード領域の間のシストロン間スペーサー領域に位置するIRES部位によって指令される。
【0038】
トランスフォーメーション、トランスフェクション、エレクトロポレーション、ウイルストランスダクション、トランスダクションおよび/またはバリスティックデリバリーなどの、細胞に核酸を導入するための工程は、当業者に公知であり、例えばSambrook and Russell, 2006に総説されている。
【0039】
本明細書に使用される「小分子モデュレーター」は、タンパク質ではない分子を表すことを意味し、その分子量は10000を超えない。分子が「小分子モデュレーター」であるかどうかの判定では、いわゆるリピンスキーの法則を考慮することも役立つことがある。Christopher Lipinskyは、ネガティブなドラッグデザインのための法則を探し、吸収または浸透の不足が原因で、成功する見込みのない化合物を排除するための、設定パラメーターが五つの法則を公式化した。よって、リピンスキーの法則によると、分子が、
1. H−結合ドナー(通常はNHとOHの合計)が5個より多い、
2. H−結合アクセプター(通常はNとOの合計)が10個より多い、
3. 分子量(MW)>500、
4. 計算値logP>、および
5. 弱い阻害(<100nM)
を有する場合に、その分子は小分子薬物またはモデュレーターとして有効に作用する見込みが低い(Lipinsky et al., 1997, experimental and computational approaches to estimate solubility and permeability in drug discovery and development settings. ADV. Drug Delivery REV.23 (1-3))。(P=疎水性環境と親水性環境との間の分子の分配係数)。しかし、これらのリピンスキーの法則を離れて、本明細書に使用される「小分子モデュレーター」は、>500であるが、10000を超えない分子量もまた有することがある。さらに具体的には、本明細書に使用される「小分子モデュレーター」は、しかしながら分子量が10000を超えないオリゴペプチドまたはオリゴヌクレオチドもまた表すことがある。
【0040】
小分子は、本明細書においてタンパク質の活性ならびに/または細胞の代謝および/もしくは表現型に影響を及ぼす場合に、「モデュレーター」とも呼ばれる。実験的には、タンパク質の小分子モデュレーターは、多くの場合に、化学ライブラリーに適用されたハイスループットスクリーニング法を使用して同定される。このようなライブラリーは、固相および液相のいずれかの状態で開発することができ、天然化合物およびその誘導体、または合成分子からなりうる(Hall et al., 2001, J. Comb. Chem., 3: 125-150)。化学ライブラリーは、多くの場合に、前駆化合物の官能基および分子骨格の両方が連続的に変化するコンビナトリアルケミストリーを利用して作製される(Burke et al., 2003, Science, 302:613-618; Schreiber, 2000, Science, 287:1964-1969)。ハイスループットスクリーニングは、特に創薬、農薬および食品研究の分野で有用であると証明された。
【0041】
本発明に記載の方法を行うときにしばしば使用される方法は、顕微鏡法である。数種類の顕微鏡法が存在し、当業者に公知である。「顕微鏡法」という用語には、光学顕微鏡、共焦点顕微鏡および自動顕微鏡スクリーニング法が含まれるが、それに限定されるわけではない。特に好ましい形態の顕微鏡法は、蛍光顕微鏡法、特に共焦点蛍光顕微鏡、光学顕微鏡法、蛍光寿命顕微鏡法、蛍光相互相関顕微鏡法および偏光顕微鏡法である。顕微鏡法の限界は、分解により決定されるその分解能によって与えられる。典型的には、解像限界は、使用する特定の種類の顕微鏡法に応じて300nm〜10μm、好ましくは300nm〜1μmである。この文脈において、本明細書に使用される「シグナルを空間的に分解する」という用語は、300nm〜10μm、好ましくは300nm〜1μmという低い限界までの空間中のシグナルの分解を表すことを意味し、典型的にはAbbe限界によって定義される。本出願では、ときに「…種類の第一の細胞を提供する」および「…種類の第二の細胞を提供する」と言及される。これらの工程のそれぞれにおいて、特定の種類の一つより多い細胞を提供することができ、それゆえに、本発明に記載の方法の実行が単一の細胞だけの使用に限定されないことは、当業者に明らかであろう。実際に、本発明に記載の方法により行われる多くの実験は、特定の種類の複数の細胞が存在する細胞培養で行われるものである。ゆえに、「…種類の第一の細胞を提供する」および「…種類の第二の細胞を提供する」は、「…種類の第一群の細胞を提供する」および「…種類の第二群の細胞を提供する」で代用してもよい。
【0042】
本明細書に使用される「siRNA」という用語は、遺伝子発現をサイレンシングおよび/または遺伝子の発現を妨害するために使用することのできるRNAのストレッチを表すことを意味する。よって、siRNAは、ときに「低分子干渉RNA」とも呼ばれる。このようなsiRNAは、いくつかの方法で細胞に導入することができるが、その一つは、このようなsiRNAを細胞にトランスフェクションすることである。しかし、別の態様では、このような遺伝子サイレンシングは、まず細胞にそれを導入すること、および適切なベクター、例えばプラスミドによってショートヘアピン型RNAが細胞内で実際に発現するように、細胞の中にそれを発現させることによって実現することができる。
【0043】
本明細書に使用される「最大半活性濃度」または「AC50」という用語は、小分子モデュレーターがその最大半量活性を示す濃度を表すことを意味する。例えば、このような小分子モデュレーターは阻害剤のことがあり、この場合、活性は阻害である。結果として、このような小分子阻害剤の最大半量活性濃度は「最大半阻害濃度」または「IC50」である。小分子モデュレーターが賦活剤の場合に、このような最大半活性濃度は「最大半賦活濃度」または「EC50」である。
【0044】
本明細書に使用される「最大半活性濃度(AC50)」という用語は、いくつかの態様において別の比率の活性もまた表しうることに留意すべきである。例えば、この用語は「90%最大活性濃度(AC90)」または60%、70%もしくは80%などの、識別値として使用することができる別のパーセント値(AC60、AC70、AC80など)を表すことがある。またこの場合、このパーセントは、今度は「ICx」および「ECx」という用語にも適用され、ここで、「x」は最大活性濃度の前記パーセントを示し、「IC」はこの場合の小分子モデュレーターが阻害剤であることを意味し、「EC」は小分子モデュレーターが賦活剤であることを意味する。好ましい態様では、「最大半活性濃度」は、最大値の50%以上の活性を有する濃度、すなわち「AC≧50」である。
【0045】
本発明者らは、細胞ベースのアッセイに及ぼすタンパク質発現の影響を検討することによって、小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定することが可能なことを見出し、ここで、細胞ベースのアッセイは、小分子モデュレーターへの細胞の曝露に基づき、その曝露の結果として、細胞によりシグナルが生成される。このような細胞ベースのアッセイの結果は、ターゲットタンパク質候補の発現(または発現の不在)の程度に依存して測定される。発現が人工的に誘導または増加またはサイレンシングされるターゲットタンパク質候補の発現または発現の不在が、細胞ベースのアッセイの結果に検出可能な影響を及ぼす場合に、そのターゲットタンパク質候補は、その細胞ベースのアッセイに使用される小分子モデュレーターに関するターゲットである。
【0046】
以下に、図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】細胞の共焦点レーザ走査顕微鏡写真を示す図であり、この細胞で、緑色蛍光タンパク質および赤色蛍光タンパク質はIRES部位によって作動可能に連結され、それらの各々の発現をIRESベクター中の第二の挿入部の発現の尺度として使用することができた。 A欄(上部左角)は、トランスフェクションされた細胞のGFP蛍光の共焦点像を、B欄(上部右角)は同じ細胞でのRFR蛍光の共焦点像を、C欄(下部左角)は、GFP:RFP比ついての任意の疑似色目盛りを表示した、AおよびBにおける画像の比画像を示す。 画素あたりのGFP強度とRFP強度との間の相関をD欄(下部右角)に示すが、RFP蛍光に対してX軸にGFP強度をプロットした。本明細書に記載するように、Dにおける強度間の相関は、0.92±0.023(n=5)である。
【図2】エンドセリンAレセプター−GFP細胞系(GFP=緑色蛍光タンパク質)への三つのIRESベクターのトランスフェクションおよび発現の効果を示す図である。 「etar」は、エンドセリンAレセプター:IRES:RFPベクター(RFP=赤色蛍光タンパク質)をトランスフェクションされた安定細胞系であり、「etbr」は、代わりにエンドセリンBレセプター:IRES:RFPベクターをトランスフェクションされた同じ細胞系であり、「kOPr」は、同じ細胞系であるが、κオピオイドレセプター:IRES:RFPベクターをトランスフェクションされている(図2a);図2Bは、同じ種類であるが、今回はκオピオイドレセプター−GFP細胞系で形成した実験を示す。
【図3】それぞれ内部に異なるG−α−タンパク質成分、すなわちG−αs、G−αiおよびG−αq(Gs、GiおよびGq)を有した三つのIRESベクターのトランスフェクションの結果を示す図である。
【図4】ターゲットタンパク質の同定のためのIRESアプローチの使用を示す図である。 図4Aは、アゴニストに誘導される、エンドセリンAレセプターのインターナリゼーションに及ぼす化合物Go6976の効果の結果を示す;(DMSO=ジメチルスルホキシド、ET−1=エンドセリン1);図4Bは、プロテインキナーゼc−αまたはプロテインキナーゼc−βのいずれかを保持するIRES:RFP構築物を用いたエンドセリンAレセプター−GFP細胞のトランスフェクション実験の結果を示す;図4cは、図4Bと同じ結果を示すが、今回は各濃度で対照に対して基準化されたエンドソーム数を用いた(Go=Go6976)。
【図5】ハイスループット免疫蛍光アッセイにおけるNF−κ−Bの核−細胞質輸送の定量を示す図である。
【図6】細胞に特異的siRNAまたは非特異的スクランブルsiRNAをトランスフェクションし、レプトマイシン感受性のNFκ−B輸送を測定した並行実験の結果を示す図である。
【図7】実施例1における赤色蛍光タンパク質および緑色蛍光タンパク質を用いた実験で使用した構築物の概略図である。
【図8】IRES部位によって連結した二つのタンパク質挿入部の二シストロン性発現に使用することができる市販のベクターの一例を示す図である。 例えば、Clontech Laboratories, Inc., USAから市販されている市販のベクターpIRES2-DsRed-Express-Vectorを使用することができる。または、GFPまたはRFPなどの測定可能/検出可能なタンパク質がIRESの上流に挿入される場合に、DsRed-Express-Gene、すなわち赤色蛍光タンパク質を、関心がもたれる任意の他の遺伝子で代用してもよい。Clontech Laboratories, Inc., USAのpIRESベクターのような、IRES部位の上流および下流に複数のクローニング部位を有する程度までの市販のベクターがある。
【図9】機構的に関連する代替siRNAが、図6と同条件でサイレンシングされる場合の、NfκBの核搬入に対するレプトマイシンBのIC50に及ぼすsiRNAの効果を示す図である。
【0048】
さらに、以下の配列が参照されるが、ここで、配列番号:1は、NM_206445 Drosophila melanogasterアンテナペディアCG1028−RJ転写体変異体J(Antp)のmRNA由来IRESである。IRES名:Antp−D(1323−1574、252bp)、Oh S. K., Scott M. P., Sarnow P. (1992) Homeotic gene Antennapedia mRNA contains 5'-noncoding sequences that confer translational initiation by internal ribosome binding. Genes. Dev. 6(9): 1643-1653に参照されている。
【0049】
配列番号:2は、名:Antp−DE(1323−1730、408bp)のIRESであり、Oh S. K., Scott M. P., Sarnow P. (1992) Homeotic gene Antennapedia mRNA contains 5'-noncoding sequences that confer translational initiation by internal ribosome binding. Genes. Dev. 6(9):1643-1653およびYe X., Fong P., Iizuka N., Choate D., Cavener D. R. (1997) Ultrabithorax and Antennapedia 5' untranslated regions promote developmentally regulated internal translation initiation. Mol. Cell. Biol. 17(3): 1714-1721に参照されている。
【0050】
配列番号:3は、名:Antp−CDE(1−1730、1730bp)のIRESであり、Oh S. K., Scott M. P., Sarnow P. (1992) Homeotic gene Antennapedia mRNA contains 5'-noncoding sequences that confer translational initiation by internal ribosome binding. Genes. Dev. 6(9): 1643-1653およびYe X., Fong P., Iizuka N., Choate D., Cavener D. R. (1997) Ultrabithorax and Antennapedia 5' untranslated regions promote developmentally regulated internal translation initiation. Mol. Cell. Biol. 17(3): 1714-1721に参照されている。
【0051】
配列番号:4は、c−mycガン遺伝子をコードするV00568ヒトmRNA由来のIRESである。IRES名:c−myc(1−395、395bp)、Stoneley M., Paulin F. E., Le Quesne J. P., Chappell S. A., Willis A. E. (1998) C-Myc 5' untranslated region contains an internal ribosome entry segment. Oncogene. 16(3):423-428に参照されている。
【0052】
配列番号:5は、NM_005378ホモ・サピエンス(Homo sapiens)v−myc神経芽腫由来骨髄細胞腫症ウイルス関連ガン遺伝子(トリ)(MYCN)のmRNA由来IRESであり、IRES名:N−myc(989−1308、319bp)、Jopling C. L., Willis A. E. (2001) N-myc translation is initiated via an internal ribosome entry segment that displays enhanced activity in neuronal cells. Oncogene. 20(21):2664-2670に参照されている。
【0053】
配列番号:6は、AF006822 Homo sapiensミエリン転写因子2(MYT2)mRNAの完全cds由来のIRESであり、IRES名:MYT2_997−1152(997−1152、156bp)、Kim J. G., Armstrong R. C., Berndt J. A., Kim N. W., Hudson L. D. (1998) A secreted DNA−binding protein that is translated through an internal ribosome entry site (IRES) and distributed in a discrete pattern in the central nervous system. Mol. Cell. Neurosci. 12(3): 119-140に参照されている。
【0054】
配列番号:7は、AF013263 Homo sapiensアポトーシスプロテアーゼ活性化因子1(Apaf−1)mRNAの完全cds由来のIRESである。IRES名:Apaf−1(345−577、233bp)、Cold−well M. J., Mitchell S. A., Stoneley M., MacFarlane M., Willis A. E. (2000) Initiation of Apaf-1 translation by internal ribosome entry. Oncogene. 19(7):899-905に参照されている。
【0055】
配列番号:8は、AY752946ヒトコクサッキーウイルスB3型20株完全ゲノム由来のIRESである。IRES名:CVB3(1−750、750bp)、Jang G. M., Leong L. E., Hoang L. T., Wang P. H., Gutman G. A., Semler B. L. (2004) Structurally distinct elements mediate internal ribosome entry within the 5'-noncoding region of a voltage-gated potassium channel mRNA. J. Biol. Chem. 279(46):47419-47430およびJimenez J., Jang G. M., Semler B. L., Waterman M. L. (2005) An internal ribosome entry site mediates translation of lymphoid enhancer factor-1. RNA. 11(9): 1385-1399に参照されている。
【0056】
配列番号:9は、NC_001479脳心筋炎ウイルス完全ゲノム由来のIRESである。IRES名:EMCV(257−832、576bp)、Wang Z., Weaver M., Magnuson N. S. (2005) Cryptic promoter activity in the DNA sequence corresponding to the pim-1 5'-UTR. Nucleic Acids Res. 33(7):2248-2258に参照されている。
【0057】
配列番号:10は、NC_003924コオロギ麻痺病ウイルス完全ゲノム由来のIRESであり、IRES名:CrPV_5NCR(1−708、708bp)、Wilson J. E., Powell M. J., Hoover S. E., Sarnow P. (2000) Naturally occurring dicistronic cricket paralysis virus RNA is regulated by two internal ribosome entry sites. Mol. Cell. Biol. 20(14):4990-4999に参照されている。
【0058】
配列番号:11は、NC_001461ウシウイルス性下痢ウイルス1完全ゲノム由来のIRESであり、IRES名:BVDV1_1−385(1−385、385bp)、Chon S. K., Perez D. R., Donis R. O. (1998) Genetic analysis of the internal ribosome entry segment of bovine viral diarrhea virus. Virology. 251 (2):370-382に引用されている。
【0059】
配列番号:12は、ポリタンパク質をコードするZ46258ブタコレラウイルス(古典的ブタ熱ウイルス)「中国」株(C株;EP0351901B1)由来のIRESである。IRES名:CSFV(1−373、373bp)、Rijnbrand R., Bredenbeek P. J., Haasnoot P. C, Kieft J. S., Spaan W. J., Lemon S. M. (2001) The influence of downstream protein-coding sequence on internal ribosome entry on hepatitis C virus and other flavivirus RNAs. RNA. 7(4):585-597に参照されている。
【0060】
配列番号:13は、NC_001655肝炎GBウイルスB完全ゲノム由来のIRESであり、RES名:GBV−B(1023−1467、445bp)、Rijnbrand R., Abell G., Lemon S. M. (2000) Mutational analysis of the GB virus B internal ribosome entry site. J. Virol. 74(2):773-783に参照されている。
【0061】
配列番号:14は、以下の実施例に使用されるEMCV由来のIRESである。
【0062】
そして、配列番号:15は、ww.iresite.orgに公開されたようなEMCV由来のIRESである。
【0063】
その上、以下の実施例が参照されるが、この実施例は、本発明を限定するためでなく例示のために示されるものである。
【実施例】
【0064】
実施例1
タンパク質機能の細胞ベースのアッセイおよびタンパク質の発現定量
アゴニストによって誘導されるレセプターのインターナリゼーション
アゴニストによって誘導されるGタンパク質共役レセプターのインターナリゼーションなどのタンパク質機能の細胞ベースのアッセイを考案し、適用することによって、タンパク質の所望の活性をハイコンテント(可視)アッセイで測定または可視化できるようにする。典型的には、アゴニストに誘導されるレセプターのインターナリゼーションに関して、このアッセイは、レセプターがインターナリゼーションしている細胞を細胞集団の一部として視覚的に同定することを含むことがある。これは、例えばコンピューター援用画像認識によって定量することができる。このアッセイは、レセプターとの融合タンパク質を使用することもあり、この融合タンパク質は、細胞に発現し、緑色蛍光タンパク質(GFP)のように顕微鏡で直接可視化することができる。これは、内因性細胞性レセプターが、免疫ラベルなどの間接法によって、または蛍光アゴニストを使用して可視化されるアッセイのこともある。アッセイ細胞系は、典型的には安定トランスフェクションされている。一態様では、レセプターアッセイは、488nMの励起および適切な発光フィルターを使用して可視化される。
【0065】
この概念は、タンパク質の発現(ターゲット)がアッセイに及ぼす影響を検討するための以下のアプローチを提示する。ターゲットは、アッセイに使用されるものとスペクトルが異なる、転写的に関連するレポーターを用いて発現される。これは、ターゲットの発現とレポーターの発現との間に線形に近い相関があるように設計される。これを達成するための方法には、配列内リボソーム進入部位、ターゲットおよびレポーターを推進する二つの同一活性のプロモーター、または活性が推定可能な二つのプロモーターの使用が含まれる。最も単純な場合には、レポーターの発現は、ターゲットの発現を測定するための測定/発現の物差しである。本明細書で、本発明者らは、配列内リボソーム進入部位の使用を説明する。
【0066】
実験は以下のように行う。ターゲット::レポーター構築物を標準的なプロトコールに準じてアッセイ細胞に一過性トランスフェクションする(陽イオン性脂質:DNA複合体のトランスフェクション、リン酸カルシウム仲介性トランスフェクション、ポリマーベースのトランスフェクション法、Sambrook and Russell, Molecular Cloning 3rd edition chapter 16, CSH press, 2001に記載されているようなデンドリマーなど)。これらの方法は、あまり効率的ではないため、幅のあるレポーター発現が検出される。これは、測定可能なレベルでターゲットを発現している、幅のある細胞を提供することから、次に、発現の影響は、異なるレベルでターゲットを発現している細胞でアッセイを可視化することによって決定することができる。したがって、顕微鏡法の細胞ベースの分解能が単一細胞の同定を可能にするため、細胞トランスフェクションによくみられる欠点が、有益性を得るために使用されることになる。したがって、アッセイは、単一の実験画像の中で、トランスフェクションされなかった細胞、およびトランスフェクションされ、幅のある濃度でターゲットを発現している細胞において測定される。
【0067】
IRESおよび赤色蛍光タンパク質(dsREDは単量体性赤色蛍光タンパク質を発現し、以後RFPと呼ぶ)が下流になるように、配列内リボソーム進入ベクターに緑色蛍光タンパク質のコピーを挿入した。(図7)HEK293細胞にこのベクターを一過性トランスフェクションしたが、ここで、挿入部の発現はpCMVプロモーターによってコントロールされ(図8もまた参照)、次に、励起(488/532nm)および二つのフルオロフォアの発現を別々に定量するために適した検出光学を使用して、一視野あたり>25細胞の緑色および赤色蛍光タンパク質の蛍光強度を共焦点レーザ走査顕微鏡法によって測定した(図1)。決定された相関係数は、トランスフェクションされた細胞の共焦点画像におけるGFP強度とRFP強度との間で0.91±0.023(n=5)であったが、これは、RFPまたはGFPの発現を、IRESベクターにおける他のそれぞれの挿入部の発現尺度として使用することができることを示す。
【0068】
一連のcDNAを、a)Gタンパク質共役レセプター、b)小型Gタンパク質またはc)プロテインキナーゼをコードするIRES:RFPベクターにクローニングした。これらに、および全てのその後の実験に使用したIRESの配列は、EMCV由来のIRESである配列番号:14である。最初、エンドセリンAレセプターと緑色蛍光タンパク質のc−末端コピーとの融合タンパク質を安定的に発現している細胞系に、IRESベクターを一過性発現させた。IRESベクターをトランスフェクション後にRFP発現細胞をモニターすることによると、この系列へのトランスフェクション効率は、細胞の50%のオーダーであった。これらのベクターは、IRESおよびRFPに対して5’にエンドセリンBレセプター、κオピオイドレセプターまたはエンドセリンAレセプターのいずれかをコードするcDNAを含んだ。次に、アゴニストによって誘導されるエンドセリンAレセプターのインターナリゼーションに及ぼす異種/外部レセプターの発現の効果を測定した。40nMエンドセリン1で細胞を刺激した2時間後に、自動共焦点顕微鏡を使用して細胞を撮像した。次に、細胞系に安定発現したGFPラベル化エンドセリンAレセプターの画像を使用して、レセプターのエンドサイトーシスが起こった細胞画分を決定し、RFPの画像を使用して、IRESベクターをトランスフェクションされた細胞におけるGFPラベル化エンドセリンAレセプターのエンドサイトーシスの程度を同じ画像で決定した。
【0069】
これは、1回の盲検の手動計数と、市販の画像解析パッケージ(Metamorph offline, Molecular Devices, CA)のカスタムジャーナルを使用した自動画像解析との両方を使用して行った。細胞を対照(非RFP発現細胞)または発現細胞(RFP産生細胞)として同定し、発現細胞は、さらに画像中のRFPの積分強度/画素に基づき、低、中および高発現細胞に分類した。レセプターのインターナリゼーションを示す細胞数を自動的に計数してこれらの四つの分類区分に入れ、各分類区分における細胞の合計数に対する割合として表現した。
【0070】
a)三つのIRESベクターを、エンドセリンAレセプター−GFP細胞系に別々にトランスフェクションし、エンドセリンAレセプター:IRES:RFP、エンドセリンBレセプター:IRES:RFP、およびκオピオイドレセプター:IRES:RFPとした。同じ画像中の対照細胞と比べた場合に、ETAR:IRES:RFPの発現は、ETAR−GFPのインターナリゼーションに最小限の効果を及ぼしたが、エンドセリンBレセプターおよびκオピオイドレセプターは、共にETAR−GFPのインターナリゼーションを有意に減少させた(図2A)。これは、ある経路に関与するタンパク質のスクリーニングのために、タンパク質の発現が本質的に実行可能な方法であったことを示した。
【0071】
b)この方法がアッセイにわたって選択性を有したことを実証するために、κオピオイドレセプター−GFP細胞系を使用してこの方法を繰り返したが、このとき、IRESベクターを使用して発現されたいずれのレセプターについても、アゴニストによって誘導されるオピオイドレセプターのインターナリゼーションに関するアッセイに有意差は判定されなかった(図2B)。
【0072】
発現の有用性をさらに決定するために、ヘテロ三量体Gタンパク質の三つのGαタンパク質成分であるGαs、Gαi、およびGαqを発現させるためのIRES:RFPベクターを構築した。ETAR−GFP細胞系に発現したときに、二つのGタンパク質(Gαs、Gαi)はインターナリゼーションを有意に減少させたが、Gqは、RFP単独を発現している対照細胞と比べても有意な効果を有さなかった(図3A)。これは、発現解析戦略がレセプターおよび小型シグナル伝達タンパク質に関して機能することを実証している。
【0073】
c)プロテインキナーゼCアイソフォームであるプロテインキナーゼCαまたはプロテインキナーゼCβのいずれかをIRES:RFPに対して5’に挿入したものを含む一連のベクターを、エンドセリンAレセプター−GFP融合タンパク質の安定細胞系にトランスフェクションした。図4に示すように、IRES前部の5’挿入部を有さず、RFPのみを発現するIRES:RFPベクターをトランスフェクションされた細胞と比べたとき、これらのプロテインキナーゼCアイソフォームの発現は、アゴニストによって誘導されるエンドセリンAレセプター融合タンパク質のインターナリゼーションに有意な変化を引き起こさなかった。
【0074】
実施例2
小分子モデュレーターに関するターゲットタンパク質の同定
本発明者らは、化合物に関するターゲットタンパク質を同定するためにもまたIRESアプローチを使用することができたと判定した。
【0075】
プロテインキナーゼC阻害剤であるマイクロモル濃度の化合物Go6976に細胞を曝露した場合に、アゴニストによって誘導されるエンドセリンAレセプターのインターナリゼーションは>85%遮断される(図4A)(Martiny-Baron et al., 1993)。
【0076】
プロテインキナーゼCは多数のアイソフォームを有することから、エンドセリンAレセプターのインターナリゼーションアッセイにおいて、プロテインキナーゼCαまたはプロテインキナーゼCβアイソフォームがGo6976のターゲットでありうるかどうかを決定するために、プロテインキナーゼCαまたはプロテインキナーゼCβのいずれかを保持するIRES:RFP構築物をETAR−GFP細胞にトランスフェクションした。
【0077】
標準法を用いて細胞をトランスフェクションした(Sambrook and Russell, 2006の総説のように)。特に、Roche(登録商標)Fugene6、ターゲットシステムであるターゲフェクト、およびその変形であるリポフェクタミンなどの市販の方法およびプロトコールを使用したリポフェクションである。次に、トランスフェクションされた細胞とトランスフェクションされていない細胞との両方を含む細胞を、漸増する濃度範囲のGo6976に曝露し、細胞をアゴニストであるエンドセリン1で刺激した。エンドセリンAレセプター活性の尺度としての細胞1個あたりのエンドソーム数は、RFPを発現しているトランスフェクションされた細胞集団を、トランスフェクションされていないその対照隣接細胞に比べた半自動画像解析によって測定した。
【0078】
自動共焦点顕微鏡法を使用して実験濃度範囲のGo6976にわたり同じ視野で、PKCα:IRES:RFPをトランスフェクションされた細胞におけるプロテインキナーゼCα発現の効果を、対照のトランスフェクションされていない細胞と比較した。典型的には、1%血清の培地中で一連の濃度範囲のGo6976に細胞をまず120分間曝露し、次に、その培地を、同濃度のGo6976を含有するが、アゴニスト(アゴニストのEC50の10倍:40nM)を補充した培地に交換した。インキュベーション後に、自動ハイスループット共焦点顕微鏡を使用して細胞を撮像した(Evotec Technologies, Hamburg製のOperaなど)。エンドセリンAレセプター−GFPの分布を確定する画像を、スペクトルが別のRFP発現細胞の画像と同様に取得した。一つの細胞視野あたり二つのカラー画像を整列させて、口径食、機械的アライメント誤差(XY変位1〜3μmのオーダー;Metamorph Offline, Molecular devices corporation)を補正した。非RFP発現細胞は、画像中の対照集団として確定し、RFP発現細胞を区分けし、次に、細胞1個あたりの平均RFP強度に基づき低、中、および高(下位20%、中間、上位20%)発現細胞に分けた。
【0079】
予想通り、Go6976の濃度が増加するほど、対照細胞における細胞1個あたりのエンドソーム数が有意に減少した(図4B左)。PKCα:IRES:RFPを発現している細胞において、類似の減少が観察され(図4B左)、これは、プロテインキナーゼCαが化合物Go6976の効果を後退させなかったことを示した。対照的に、PKCβ:IRES:RFPをトランスフェクションされた細胞におけるプロテインキナーゼCβの発現の効果は異なった。漸増するGo6976濃度は対照細胞におけるエンドソーム数を減少させたが、PKCβ:IRES:RFP発現細胞では最高濃度のGo6976でさえもエンドソームが産生した(図4B)。したがって、このアッセイにおいて、プロテインキナーゼCβは、Go6976のターゲットとして同定されるが、それは、この化合物が「機能獲得」を提供し、Go6976の表現型および効果を後退させるからである。
【0080】
Go6976のターゲットとしてのプロテインキナーゼCβの同定は、各濃度でエンドソーム数を対照に対して基準化すると、強く実証される(図4C)。図4Cに明らかなように、このシステムを使用したプロテインキナーゼCαの発現および分析はGo6976の効果を後退させないが、プロテインキナーゼCβの発現は表現型を後退させることから、このアッセイにおけるG66976のターゲットである。
【0081】
実施例3
siRNAを使用した小分子モデュレーターに関するターゲットタンパク質の同定
転写因子である核因子κBの核輸送
薬物ターゲットに関する「機能獲得型」スクリーニングとしての、遺伝子発現を含む上記方法に加えて、本発明者らは、RNA干渉がタンパク質の発現を減少するために使用され、次に、このタンパク質が問題となる薬物のターゲットであるかどうかを、アッセイの50%阻害を与えるために必要な化合物のAC50/IC50濃度の変化によって決定する方法もまた実証する。これは「機能喪失型」スクリーニングである。
【0082】
原理証明としての核輸送の場合に、転写因子である核因子κBの移行を、内因性発現したNF−κB複合体のハイスループット免疫蛍光検出を使用して測定した。簡潔には、Hela細胞をPBSで2回洗浄し、次に、PBSに溶かした4%(w/v)パラホルムアルデヒドで10分間固定し、次に、PBSで洗浄した。透過処理を0.1%TX−100 PBSで10分間行い、細胞をPBS中で洗浄し、次に、ウサギ抗NF−κBを10%ヤギ血清−PBSで1:200希釈したものと共に4℃で一晩インキュベーションした。プレートを軌道回転式撹拌装置(orbital rotator)上でPBSで10分間3回洗浄した。1:1000のAlexa−488ヤギ抗ウサギ二次抗体を細胞と共に室温で60分間インキュベーションし、細胞を軌道式撹拌装置上でPBSで10分間3回洗浄してから、PBSに溶かした5μM DRAQ5(DRAQ5=核染色試薬)を37℃で10分間添加した。
【0083】
レプトマイシンBを使用して核輸送を遮断し、2ng/mLすなわち4.4nMのIC50を導いた(図5)。核搬出タンパク質であるエクスポーチン1/CRM1の発現は、エクスポーチン1の配列をターゲティングする小型抑制RNAのトランスフェクションによって減少したことから、NFκBの輸送に及ぼすレプトマイシンBの効果を上記のように評価した。ベンチマークとしてGFP発現安定細胞系におけるGFPのサイレンシングを並行して用いて、siRNAを使用したエクスポーチン1/CRM1のノックダウンを50%と推定した(図示せず)。エクスポーチン1/CRM1ノックダウン細胞におけるレプトマイシンについてのIC50は、ヒト遺伝子との相同性が未知のスクランブルsiRNAをトランスフェクションされた対照細胞の10分の1未満に有意に減少した(図6)。したがって、CRM1/エクスポーチン1は、文献から予測されるようにレプトマイシンBに関するターゲットとして同定され(Fornerod et al., 1997)、ターゲットを同定するこの方法が実行可能であり、ゲノム全体のスクリーニングにさらに広く関連して機能するであろうと立証している。
【0084】
さらに具体的には、図5は、ハイスループット免疫蛍光アッセイによるNF−κBの核−細胞質輸送の定量を示すが、(a)0(左欄)、1ng/mL(中央欄)または20ng/mLレプトマイシンBで40分間処理し、その後固定し、抗NF−κB抗体およびAlexa488二次抗体で検出し、10μM Draq5で核染色したHeLa細胞の核に細胞質NF−κBが蓄積する。スケールバーは20μmである。(b)核局在画像のシミュレーション。赤は核を、緑はNF−κBの局在を表し、ここで、NF−κBの細胞質分布は、XZ(上列)およびXY(中列)の左から右へのシミュレーション画像系列において徐々に変化して核の上に達する。下列は、左から右にかけて0、1、5、10、20ng/mLレプトマイシンBで処理後の細胞をラベルしたものを示すが、NF−κBを緑色にラベルして、核染色にオーバーレイしたものである。スケールバーは5μMである。(c)シミュレーション画像(上欄)および細胞画像(下欄)での核搬入の定量、(d)0〜20ng/mLレプトマイシンBとのインキュベーション、NF−κBの検出およびマイクロタイタープレートでの核染色後のNF−κBの核局在に関する、レプトマイシンについてのEC50の測定。レプトマイシンBに関してあてはめたEC50は2.4ng/mLであり、これは、1.9〜3ng/mLの95%信頼区間に入り、R2は0.9957であり、5回より多いアッセイを表すものである。全ての画像は自動共焦点で取得した。
【0085】
図6は、ハイスループット免疫蛍光アッセイによるNF−κBの核−細胞質輸送の定量を示す。細胞にcrm1特異的siRNAまたはスクランブルsiRNAのいずれかをトランスフェクションし、レプトマイシンに感受性のNFκB輸送を24時間後に測定した。LMB曲線をgraphpad prismを使用してあてはめ、この曲線はR2>0.95を有した。全ての画像を自動共焦点で取得した。(LMB=レプトマイシンB)。
【0086】
実施例4
図9は、機構的に無関係の代替siRNAが、実施例3に上記したものと同条件でサイレンシングされる場合に、NFκBの核搬入に対するレプトマイシンBのIC50に及ぼすsiRNAの効果を示す。実施例3と同様に、転写因子である核因子κBの移行を、内因性発現したNF−κB複合体のハイスループット免疫蛍光検出を使用して測定した。簡潔には、Hela細胞をPBSで2回洗浄し、次にPBSに溶かした4%(w/v)パラホルムアルデヒドで10分間固定し、次にPBSで洗浄した。透過処理を0.1%TX−100 PBSで10分間行い、細胞をPBS中で洗浄し、次にウサギ抗NF−κBを10%ヤギ血清−PBSで1:200希釈したものと共に4℃で一晩インキュベーションした。プレートを軌道回転式撹拌装置に載せてPBSで10分間3回洗浄した。1:1000のAlexa-488ヤギ抗ウサギ二次抗体を細胞と共に室温で60分間インキュベーションし、細胞を軌道式撹拌装置に載せてPBSで10分間3回洗浄してから、PBSに溶かした5μM DRAQ5(DRAQ5=核染色試薬)を37℃で10分間添加した。
【0087】
レプトマイシンBを使用して核輸送を遮断し、IC50を測定した。サイレンシング実験では、スクランブルsiRNAまたは緑色蛍光タンパク質もしくはプロテインキナーゼCアイソフォームをターゲティングするsiRNAを使用した。対照スクランブルsiRNA、緑色蛍光タンパク質、またはプロテインキナーゼCアイソフォームを使用した、発現のサイレンシングを示す。
【0088】
図9のデータは、この実験を行って達成された特異性を実証している。一連の他のcDNAのサイレンシングは表現型を与えず、IC50に効果を有さない。図9の実験は、実施例3に記載されたものと同じサイレンシング条件で行った。
【0089】
【表1】

【0090】
明細書、特許請求の範囲および/または添付の図面に開示した本発明の特徴は、別々に、およびその任意の組合せの両方で、本発明をその様々な形態で実現するための材料でありうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞におけるターゲットタンパク質候補の発現を検出および/または定量する方法であって、以下の工程:
マーカータンパク質をコードする第一の核酸をベクターに導入する工程、
発現を検出および/または定量する予定の該ターゲットタンパク質候補をコードする第二の核酸を、該第一および第二の核酸が作動可能に連結するように該ベクターに導入することによって、該マーカータンパク質の発現が該ターゲットタンパク質候補の発現の指標となる工程、
該ベクターを細胞に導入する工程、
該マーカータンパク質の発現を検出および/または定量する工程、
該マーカータンパク質の該発現を該ターゲットタンパク質候補の発現と関連させることによって、該ターゲットタンパク質候補の発現を検出および/または定量する工程
を含む方法。
【請求項2】
第一および第二の核酸が、以下の配置:
a)該第一の核酸が、第一のプロモーターのコントロール下にあり、そして該第二の核酸が、該第一のプロモーターと離れて位置する第二のプロモーターのコントロール下にあり、そして該第一および第二のプロモーターが、配列において同一であるか、または同一の活性を有する、
b)該第一の核酸が、第一のプロモーターのコントロール下にあり、そして該第二の核酸が、該第一のプロモーターと離れて位置する第二のプロモーターのコントロール下にあり、そして該第一および第二のプロモーターが、配列において同一でなく、該プロモーターのそれぞれの活性が予測可能である、
c)該第一および第二の核酸が、単一のプロモーターのコントロール下にあり、そして該第一および第二の核酸が、配列内リボソーム進入部位(IRES)を有するヌクレオチドのストレッチによって相互に分離されている
の一つによってベクター内で作動可能に連結される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
マーカータンパク質が蛍光タンパク質、抗体のフラグメント、エピトープ、酵素、アビジン、ペプチド性ビオチン模倣体、直接結合によって検出することができるペプチド、または化学フルオロフォアもしくは光学的に検出可能なシグナルが生成されるような類似構造を有する有機分子との化学結合または化学反応によって検出することができるペプチドである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
IRESが、ウイルス由来のIRES、細胞性mRNA由来のIRES,特にポリオ、EMCVおよびFMDVなどのピコナウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)などのフラビウイルス、古典的ブタ熱ウイルス(CSFV)などのペスチウイルス、マウス白血病ウイルス(MLV)などのレトロウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)などのレンチウイルス、およびコオロギ麻痺病ウイルス(CRPV)などの昆虫RNAウイルス由来のIRES、ならびに細胞性mRNA、例えばeIF4GおよびDAP5などの翻訳開始因子、c−MycおよびNF−κB抑制因子(NRF)などの転写因子、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子2(FGF−2)、血小板由来成長因子B(PDGF−B)などの成長因子、アンテナペディアなどのホメオティック遺伝子、X連鎖アポトーシス阻害因子(XIAP)、およびApaf−1などの生存タンパク質、ならびにBiPなどの他の細胞性mRNA由来のIRESより選択される、請求項2〜3のいずれか記載の方法。
【請求項5】
第一および第二のプロモーターが配列において同一である場合に、これらが、CMV、EF1、SV40、ヒトH1およびU6プロモーターを含む群より選択され、
該第一および第二のプロモーターが、同一の活性を有する場合に、これらのそれぞれが、CMV、EF1、SV40、ヒトH1およびU6プロモーターを含む群より独立して選択され、
該第一および第二のプロモーターが、配列において同一でなく、そして該プロモーターの活性が予測可能である場合に、該プロモーターのそれぞれが、CMV、EF1、SV40、ヒトH1およびU6プロモーターを含む群より独立して選択され、
単一のプロモーターが、CMV、EF1、SV40、ヒトH1およびU6プロモーターを含む群より選択され、そしてIRESが、配列番号:1〜15を含む群より選択される配列を有する核酸より選択される、
請求項2〜4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
細胞へのベクターの導入が、トランスフォーメーション、トランスフェクション、エレクトロポレーション、ウイルストランスダクション、トランスダクション、バリスティックデリバリーによって起こる、請求項1〜5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
検出および/または定量が、定量測定可能な任意の光学的検出方法、特に空間的分解、顕微鏡法、蛍光標示式細胞分取、UV−Vis分光法、蛍光またはリン光測定、生物ルミネセンス測定を用いた光学的検出によって起こる、請求項1〜6のいずれか記載の方法。
【請求項8】
顕微鏡法が、光学顕微鏡法、明視野顕微鏡法、偏光顕微鏡法、蛍光顕微鏡法、特に共焦点蛍光顕微鏡法、エバネッセント光励起顕微鏡法、蛍光相関分光法、蛍光寿命顕微鏡法、蛍光相互相関顕微鏡法、光退色後蛍光回復顕微鏡法、ラインスキャンイメージング、ポイントスキャンイメージング、構造化照明、デコンボリューション顕微鏡法、光子計数イメージングを含む群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ターゲットタンパク質候補およびマーカータンパク質が、別々のタンパク質として細胞に発現される、請求項1〜8のいずれか記載の方法。
【請求項10】
小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定する方法であって、以下の工程:
小分子モデュレーターに曝露された場合にシグナルを生成することができる種類の第一の細胞を提供する工程であって、該シグナルが、空間的に分解することができ、所望により好ましくは顕微鏡法により定量することができるシグナルである工程、
該第一の細胞を小分子モデュレーターに曝露し、空間的に分解し、かつ所望により該小分子モデュレーターに対する応答として該第一の細胞によって生成される第一のシグナルを定量する工程、
該第一の細胞と同種類の第二の細胞を提供する工程、および
該第二の細胞に、請求項1〜9のいずれか記載の方法を行う工程、
該第二の細胞に、請求項1〜9のいずれか記載の方法を行う間に、該第二の細胞に該ベクターを導入した後に、該第二の細胞を該小分子モデュレーターに曝露し、空間的に分解し、かつ所望により該小分子モデュレーターに対する応答として該第二の細胞によって生成される第二のシグナルを定量する工程、
該第一のシグナルを該第二のシグナルと比較し、該第一のシグナルと該第二のシグナルとの間に差がある場合に、該差を該第二の細胞におけるターゲットタンパク質候補の発現に帰することによって、該ターゲットタンパク質候補を該小分子モデュレーターのターゲットタンパク質として同定する工程
を含む方法。
【請求項11】
第一のシグナルおよび第二のシグナルが、顕微鏡法により検出、空間的に分解および所望により定量することができる光学的シグナルである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
第一のシグナルおよび第二のシグナルが蛍光シグナルである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
マーカータンパク質の発現が、空間的に分解され、そして第一および第二のシグナルと識別することができる第三のシグナルを生成する、請求項10〜12のいずれか記載の方法。
【請求項14】
第三のシグナルが、顕微鏡法により検出、空間的に分解および所望により定量することができる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
第三のシグナルが蛍光シグナルであり、第一および第二のシグナルが蛍光シグナルであり、そして該第三のシグナルが該第一および第二のシグナルとスペクトル的に別個である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
第一のシグナルおよび第二のシグナルが、それらのそれぞれの量によってのみ相互に識別することができる、請求項11〜15のいずれか記載の方法。
【請求項17】
所与の小分子モデュレーターについて、一つより多い、好ましくは複数のターゲットタンパク質候補を用いて行われる、請求項10〜16のいずれか記載の方法。
【請求項18】
所与の小分子モデュレーターについて、生物のゲノムの全ての可能なターゲットタンパク質候補を用いて行われる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
一つより多い、好ましくは複数の小分子モデュレーターを用いて行われる、請求項10〜18のいずれか記載の方法。
【請求項20】
小分子モデュレーターのターゲットタンパク質を同定する方法であって、以下の工程:
小分子モデュレーターに曝露された場合にシグナルを生成することができる種類の第一の細胞を提供する工程であって、該シグナルが、空間的に分解および所望により好ましくは顕微鏡法によって定量することができるシグナルである工程、
該第一の細胞を小分子モデュレーターに曝露し、空間的に分解し、かつ所望により該小分子モデュレーターに対する応答として該第一の細胞によって生成される第一のシグナルを定量する工程であって、この工程を該小分子モデュレーターのいくつかの異なる濃度で行い、該ターゲットタンパク質候補の発現阻害の不在下で最大半活性濃度である、該小分子モデュレーターの第一の最大半活性濃度(AC50)を決定する工程、
該第一の最大半活性濃度を決定する工程、
該第一の細胞と同じ種類の第二の細胞を提供する工程、ならびに
該第二の細胞におけるターゲットタンパク質候補の発現を阻害するように選択された低分子干渉RNA(siRNA)を該第二の細胞に導入し、好ましくは該第二の細胞におけるターゲットタンパク質候補の発現を阻害するように選択された低分子干渉RNA(siRNA)を使用して該第二の細胞をトランスフェクションする工程、
該第二の細胞を該小分子モデュレーターに曝露し、空間的に分解し、かつ所望により該小分子モデュレーターに対する応答として該第二の細胞によって生成される第二のシグナルを定量する工程であって、該小分子モデュレーターのいくつかの異なる濃度でこの工程を行い、該ターゲットタンパク質候補の発現阻害の存在下で最大半量活性濃度である、該小分子モデュレーターの第二の最大半活性濃度(AC50)を決定する工程、
該第二の最大半活性濃度を決定する工程、
該第一の最大半活性濃度を該第二の最大半活性濃度と比較して、該第一の最大半活性濃度と該第二の最大半活性濃度との間に差があるならば、該差を該ターゲットタンパク質候補の発現阻害に帰することによって、該小分子モデュレーターのターゲットタンパク質として該ターゲットタンパク質候補を同定する工程
を含む方法。
【請求項21】
第一および第二の最大半活性濃度が、最大半阻害濃度(IC50)であり、該小分子モデュレーターが阻害剤である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
該第一および第二の最大半活性濃度が、最大半賦活濃度(EC50)であり、そして該小分子モデュレーターが賦活剤である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
該第一のシグナルおよび該第二のシグナルが、顕微鏡法により検出、空間的に分解および所望により定量することができる光学的シグナルである、請求項20〜22のいずれか記載の方法。
【請求項24】
第一のシグナルおよび第二のシグナルが蛍光シグナルである、請求項23記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−504507(P2010−504507A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528647(P2009−528647)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008211
【国際公開番号】WO2008/034622
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(509080129)インスティチュート・パスツール・コリア (6)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR KOREA
【出願人】(593218462)インスティチュート・パスツール (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【Fターム(参考)】