説明

細胞に導入した核酸の核移行量の定量方法

【課題】 細胞に導入した核酸の核移行量を正確に定量することができる方法を提供する。
【解決手段】 (a)目的の核酸とカチオン性物質とを含むカチオン性複合体を導入した細胞から核画分を分画し、(b)工程(a)で分画した核画分を洗浄し、核膜に付着しているカチオン性複合体を除去し、(c)工程(b)で洗浄した核画分に含まれる目的の核酸を定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞に導入した核酸の核移行量の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子治療に大きな期待が寄せられており、遺伝子導入技術の重要性が増加している。細胞への遺伝子導入技術は、生化学的又は物理的方法を利用するトランスフェクションと、ウイルスを利用するインフェクションとに大別される。インフェクションによる遺伝子導入は、特定の細胞(ウイルスが感染できる細胞)に対する遺伝子導入効率や遺伝子発現効率は高いものの、トランスフェクションによりも操作が複雑で多大な時間を要し、利用するウイルスによっては安全性が問題となる。このため、現在ではトランスフェクションによる遺伝子導入技術が汎用されており、トランスフェクションによる遺伝子導入技術としては、リン酸カルシウム共沈法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、陽電荷を有するDEAE−デキストラン、ポリブレン、カチオン性脂質との複合体形成法等が知られている。
【0003】
遺伝子導入技術の評価、開発、改良等にあたっては、導入遺伝子の核内移行量の定量的情報が極めて重要である。導入遺伝子の核内移行量の定量方法としては、細胞分画法が知られている。従来の細胞分画法では、細胞を破壊して核画分を得、核画分に含まれる遺伝子量を定量する。
【0004】
また、細胞に導入した核酸の標的オルガネラ全体おける局在量を正確に定量することができる方法として、(a)標的オルガネラを第一の蛍光色素で染色する工程、(b)ポリカチオン性物質と第二の蛍光色素で標識した核酸との複合体を細胞に導入する工程、(c)上記細胞と交差する平面上に存在する第一の蛍光色素が発する蛍光を検出し、上記平面上における標的オルガネラの存在領域を決定する工程、(d)上記平面上に存在する第二の蛍光色素が発する蛍光を検出し、標的オルガネラの存在領域のうち、第二の蛍光色素によって染色された領域の面積を算出する工程、(e)上記細胞と交差する複数の平面に対して工程(c)及び(d)を行う工程、並びに(f)上記複数の平面について算出された第二の蛍光色素による染色領域の面積を総和し、第二の蛍光色素による染色領域の総和面積を指標として、核酸の標的オルガネラにおける局在量を定量する工程を含む方法が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】国際公開WO2004/108962号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、細胞に導入した核酸の核移行量を正確に定量することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、細胞に導入した核酸の核移行量を定量する方法であって、下記工程(a)〜(c):
(a)目的の核酸とカチオン性物質とを含むカチオン性複合体を導入した細胞から核画分を分画する工程
(b)工程(a)で分画した核画分を洗浄し、核膜に付着しているカチオン性複合体を除去する工程、及び
(c)工程(b)で洗浄した核画分に含まれる目的の核酸を定量する工程
を含む方法を提供する。
【0007】
目的の核酸とカチオン性物質とを含むカチオン性複合体を導入した細胞における目的の核酸の核移行量を従来の細胞分画法により定量する場合、細胞を破壊して核画分を得る際に、細胞膜、各種オルガネラ等に付着していたカチオン性複合体が遊離し、核膜に付着してしまうため、目的の核酸の核移行量は、実際の核移行量よりも多く定量されてしまう。これに対して、核画分を洗浄して核膜に付着しているカチオン性複合体を除去し、洗浄後の核画分に含まれる目的の核酸を定量する場合、特許文献1記載の方法と同程度の正確性で、目的の核酸の核移行量を定量することができる。
【0008】
本発明の方法の好ましい態様では、工程(a)において、カチオン性複合体の核膜への付着を防止することができる条件下で細胞から核画分を分画する(以下「第1の態様」という)。第1の態様によれば、細胞から核画分を分画する際に、細胞膜、各種オルガネラ等から遊離したカチオン性複合体の核膜への付着を防止することができるので、目的の核酸の核移行量をより精度よく定量することができる。
【0009】
本発明の方法の好ましい態様では、工程(c)において、工程(b)で洗浄した核画分から核膜を除去して核膜非存在画分を得、核膜非存在画分に含まれる目的の核酸を定量する(以下「第2の態様」という)。第2の態様によれば、工程(b)における洗浄で除去されず、核膜に残存しているカチオン性複合体を除去することができるので、目的の核酸の核移行量をより精度よく定量することができる。
【0010】
第2の態様において、核膜に付着しているカチオン性複合体の核膜非存在画分への混入を防止することができる条件下で、工程(b)で洗浄した核画分から核膜を除去することが好ましい。これにより、核画分から核膜を除去する際に、核膜から遊離したカチオン性複合体の核膜非存在画分への混入を防止することができるので、目的の核酸の核移行量をより精度よく定量することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、目的の核酸とカチオン性物質とを含むカチオン性複合体を導入した細胞における目的の核酸の核移行量を正確に定量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
工程(a)
工程(a)は、目的の核酸とカチオン性物質とを含むカチオン性複合体を導入した細胞から核画分を分画する工程である。
【0013】
目的の核酸は、細胞に導入しようとする核酸であり、例えば、DNA、RNA、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)等から、細胞への導入目的等に応じて適宜選択することができる。目的の核酸の塩基長は特に限定されるものではなく、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドのいずれであってもよい。目的の核酸は一本鎖及び二本鎖のいずれの状態であってもよく、これらの混合状態であってもよい。目的の核酸は鎖状及び環状のいずれの状態であってもよく、これらの混合状態であってもよい。
【0014】
カチオン性物質は、その分子中にカチオン性基を有する物質を意味し、核酸と複合体を形成し得る限り特に限定されるものではない。カチオン性物質としては、例えば、カチオン性脂質;カチオン性脂質(例えば、Lipofectamine(Invitrogen社製))によって形成されるカチオン性リポソーム;カチオン性基を有する中性リポソーム;カチオン性基を有する高分子ミセル;ポリリジン、ポリアルギニン、リジンとアルギニンの共重合体等の塩基性アミノ酸の単独重合体若しくは共重合体又はこれらの誘導体(例えばステアリル化誘導体);ポリエチレンイミン等のポリカチオン性ポリマー;硫酸プロタミン等が挙げられる。カチオン性物質が有するカチオン性基の数は特に限定されるものではないが、好ましくは2個以上である。カチオン性基は正に荷電し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;イミノ基;グアニジノ基等が挙げられる。
【0015】
核酸とカチオン性物質とを含むカチオン性複合体は常法に従って調製することができる。核酸は負に荷電しており、カチオン性物質は正に荷電しているので、混合比を調節して両者を混合することによりカチオン性複合体を調製することができる。核酸含有量がほぼ均一である複合体を調製するにあたっては、カチオン性物質として、カチオン性脂質(例えば、Lipofectamine(Invitrogen社製))によって形成されるカチオン性リポソーム、ポリリジン、ステアリル化ポリリジン、ポリエチレンイミン、硫酸プロタミン等を使用することが好ましい。カチオン性複合体は、核酸及びカチオン性物質以外の成分を含有していてもよい。
【0016】
カチオン性複合体を細胞に導入する方法は特に限定されるものではない。カチオン性複合体は全体として正に帯電しており、負に帯電した細胞膜表面に静電気的に引き付けられるので、エンドサイトーシス等のメカニズムにより細胞内に導入させることができる。エンドサイトーシスを利用する場合には、カチオン性複合体を細胞に接触させることにより細胞に導入することができる。この他、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、ハイドロダイナミクス法等の公知の核酸導入法を利用することができる。
【0017】
カチオン性複合体を導入する細胞としては、通常、生物体から分離された状態で存在する細胞が使用されるが、現に生物体を構成している細胞を使用してもよい。カチオン性複合体を導入する細胞は真核細胞又は原核細胞のいずれであってもよい。カチオン性複合体を導入する細胞が由来する生物種は特に限定されるものではなく、動物、植物、微生物等のいずれであってもよいが、動物であることが好ましく、哺乳動物であることがさらに好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、モルモット等が挙げられる。カチオン性複合体を導入する細胞の種類は特に限定されるものではなく、例えば、体細胞、生殖細胞、幹細胞又はこれらの培養細胞等が挙げられる。
【0018】
細胞からの核画分の分画は常法に従って行うことができる。例えば、界面活性剤(例えば、IGEPAL等)を含有する緩衝液中で細胞を破壊して各種オルガネラを含む細胞内容物を得た後、遠心分離し、上清を除去することにより核画分を得ることができる。具体的には、IGEPAL溶液(組成:0.5% IGEPAL(v/v),10mM NaCl,3mM MgCl2,10mM Tris)中で細胞を穏やかにタッピングした後、3900rpmで5分間遠心分離し、上清を除去することにより、核画分を得ることができる。
【0019】
細胞からの核画分の分画は、カチオン性複合体の核膜への付着を防止することができる条件下で行うことが好ましい。これにより、細胞から核画分を分画する際に、細胞膜、各種オルガネラ等から遊離したカチオン性複合体の核膜への付着を防止することができるので、目的の核酸の核移行量をより精度よく定量することができる。カチオン性複合体の核膜への付着は、例えば、細胞を破壊して各種オルガネラを含む細胞内容物を得る際に使用する溶液(例えば、IGEPAL等の界面活性剤を含有する緩衝液)に、CellScrub緩衝液(Gene Therapy Systems社製)を加えておくことにより防止することができる。CellScrub緩衝液存在下において核画分を分画する際の遠心条件は、例えば10000rpmで2分間である。CellScrub緩衝液の代わりに又はCellScrub緩衝液とともに、ポリアスパラギン酸等のアニオン性物質を加えてもよい。アニオン性物質は、細胞膜、各種オルガネラ等から遊離したカチオン性複合体と静電的に結合することにより、カチオン性複合体の核膜への付着を防止することができる。
【0020】
細胞から核画分を分画する前に、細胞を洗浄し、細胞表面(例えば細胞膜)に付着しているカチオン性複合体を除去することが好ましい。これにより、細胞から核画分を分画する際に、細胞表面に付着していたカチオン性複合体の核膜への付着を防止することができるので、目的の核酸の核移行量をより精度よく定量することができる。細胞表面に付着しているカチオン性複合体は、例えば、細胞をCellScrub緩衝液等の洗浄液で洗浄することにより除去することができる。具体的には、細胞をCellScrub緩衝液等の洗浄液に懸濁し、振盪しながらインキュベートすることにより、細胞表面に付着しているカチオン性複合体を除去することができる。洗浄液としては、アニオン性物質(例えば、ポリアスパラギン酸等)を含有する緩衝液(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS))を使用してもよい。アニオン性物質は、細胞表面に付着しているカチオン性複合体と静電的に結合することにより、細胞表面からカチオン性複合体を除去することができる。
【0021】
工程(b)
工程(b)は、工程(a)で分画した核画分を洗浄し、核膜に付着しているカチオン性複合体を除去する工程である。
【0022】
核膜に付着しているカチオン性複合体は、例えば、核画分をCellScrub緩衝液等の洗浄液で洗浄することにより除去することができる。具体的には、核画分をCellScrub緩衝液等の洗浄液に懸濁した後、遠心分離(例えば10000rpmで2分間)し、上清を除去することにより、核膜に付着しているカチオン性複合体を除去することができる。洗浄液としては、アニオン性物質(例えば、ポリアスパラギン酸等)を含有する緩衝液(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS))を使用してもよい。アニオン性物質は、核膜に付着しているカチオン性複合体と静電的に結合することにより、核膜からカチオン性複合体を除去することができる。
【0023】
工程(b)において、核膜に付着しているカチオン性複合体を除去することにより、核画分に含まれる目的の核酸の量が、目的の核酸の核移行量を反映することとなるため、目的の核酸の核移行量を精度よく定量することが可能となる。
【0024】
工程(c)
工程(c)は、工程(b)で洗浄した核画分に含まれる目的の核酸を定量する工程である。
【0025】
核画分に含まれる核酸を定量する際、工程(b)で洗浄した核画分から核膜を除去して核膜非存在画分を得、核膜非存在画分に含まれる目的の核酸を定量することが好ましい。これにより、工程(b)における洗浄で除去されず、核膜に残存しているカチオン性複合体を除去することができるので、目的の核酸の核移行量をより精度よく定量することができる。
【0026】
核膜非存在画分は常法に従って得ることができる。例えば、核画分を界面活性剤で処理して核膜を破壊した後、遠心分離し、上清を除去することにより核膜非存在画分を得ることができる。具体的には、界面活性剤(例えば、0.5%のTriton X-100等)を含有する緩衝液(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)等)中で核画分を穏やかにタッピングした後、3900rpmで5分間遠心分離し、上清を除去することにより、核膜非存在画分を得ることができる。
【0027】
核画分からの核膜の除去は、核膜に付着しているカチオン性複合体の核膜非存在画分への混入を防止することができる条件下で行うことが好ましい。これにより、核画分から核膜を除去する際に、核膜から遊離したカチオン性複合体の核膜非存在画分への混入を防止することができるので、目的の核酸の核移行量をより精度よく定量することができる。核膜に付着しているカチオン性複合体の核膜非存在画分への混入は、例えば、核膜を破壊する際に使用する溶液(例えばTriton X-100を含有する緩衝液)に、CellScrub緩衝液を加えておくことにより防止することができる。CellScrub緩衝液の代わりに又はCellScrub緩衝液とともに、ポリアスパラギン酸等のアニオン性物質を加えてもよい。アニオン性物質は、核膜から遊離したカチオン性複合体と静電的に結合することにより、核膜非存在画分へのカチオン性物質の混入を防止することができる。
【0028】
核画分又は核膜非存在画分に含まれる核酸の定量は常法に従って行うことができる。核酸の定量は例えばPCRを利用して次のように行うことができる。
まず、核画分又は核膜非存在画分から総核酸を抽出する。この際、目的の核酸がDNAであれば、総DNAを抽出し、目的の核酸がRNAであれば、総RNAを抽出する。核酸の抽出は市販のキットを使用して行うことができる。
【0029】
次いで、PCRを行い、PCR増幅断片を定量し、PCR増幅断片の定量結果に基づいて目的の核酸を定量する。この際、目的の核酸がDNAであれば、目的の核酸を鋳型とし、目的の核酸にハイブリダイズ可能なプライマーセットを使用してPCRを行い、目的の核酸がRNAであれば、目的の核酸から合成されたcDNAを鋳型とし、当該cDNAにハイブリダイズ可能なプライマーセットを使用してPCRを行う。PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行う。
【0030】
PCR増幅断片の定量には、例えば、ラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法等を利用することができる。RIを用いた定量方法としては、例えば、(i) 反応液にRI標識したヌクレオチド(例えば32P標識されたdCTP等)を基質として加えておき、PCR増幅断片に取り込ませてPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii) RI標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(iii) PCR増幅断片を電気泳動した後、メンブランにブロッティングし、RI標識したプローブをハイブリダイズさせ、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。放射活性は、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレート等を用いて測定することができる。蛍光色素を用いた定量方法としては、(i) 二本鎖DNAにインターカレートする蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド(EtBr)、SYBR GreenI、PicoGreen等)を用いてPCR増幅断片を染色し、励起光の照射によって発せられる蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(ii) 蛍光色素で標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片を蛍光色素で標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。蛍光強度は、例えば、CCDカメラ、蛍光スキャナー、分光蛍光光度計等を用いて測定することができる。
【0031】
また、ABI PRISM 7700(Applied Biosystems社)等の市販の装置を利用して、核酸増幅過程をリアルタイムでモニターリングすることにより、PCR増幅断片の定量的な解析を行うことができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。
なお、実施例及び比較例では以下の略語を用いられる。
kan:カナマイシン
D'MEM:ダルベッコ変法イーグル培地(dulbecco's modified eagle medium)
FCS:ウシ胎子血清(fetal calf serum)
LB:LB培地
Hoechst33258:ビスベンズイミド H33258 (bisbenzimide H33258)
PBS:リン酸緩衝化生理食塩水(phosphatebuffered saline)
【0033】
〔実施例1〕細胞分画法によるプラスミドDNAの核移行量の定量
(1)プラスミドDNA(pEGFPLuc)の調製
E.coli DH5a/pEGFPLuc(Clontech社製)をkan含有LB(7ml)中に入れ、37℃で半日振とう培養した。この培養液5mlをkan含有LB(500 ml)中に入れたものを2本調製し、37℃で一晩振とう培養した。この培養液を4℃,6000rpmの条件下で15分間遠心した後、上清を除き、QIAGEN EndoFree Plasmid Mega Kit(QIAGEN社製)を用いて、プロトコールに従い、精製した。精製したプラスミドDNAは100倍希釈して、UVを測定し、収量を求めた(収量:528.6μg)。また、NocI処理による確認も行った。
【0034】
(2)HeLa細胞の培養
非動化したFCSを10%加えたD'MEMを培地としてHeLa細胞を37℃で培養した。
【0035】
(3)プラスミドDNAの蛍光標識
Label IT CX-Rhodamine Labeling Kit(PanVera, Medison, Wiscosine)を用いて、プロトコールに従い、プラスミドDNAを蛍光標識した。標識後、エタノール沈殿法によってプラスミドDNAを精製した。
【0036】
(4)トランスフェクション
Lipofectamine Plus Reagent(Invitrogen社製)を用いた。トランスフェクション時には、6 Well Cell Culture Cluster(Corning社製)用いた。トランスフェクション24時間前に2×105cellsを播き、非動化した10%FCSを含むD'MEM中でインキュベートした。トランスフェクション直前にFCSを除いたD'MEMと交換し、ここにプラスミドDNAをLipofectamine(Invitrogen社製)とともに加え、37℃で1時間インキュベートした。なお、Lipofectamineはカチオン性脂質であり、Lipofectamineよってカチオン性リポソームが形成され、これがプラスミドDNAと複合体を形成する。
【0037】
(5)細胞全体におけるプラスミドDNA量の定量
トランスフェクション後の細胞をトリプシン処理によりディッシュから剥がし、エッペンドルフチューブに回収した。遠心分離(4℃,1500rpm,5分)し、上清培地を除去した後、ペレットをCellScrub緩衝液(Gene Therapy Systems社製)250μlに懸濁し、振盪しながら4℃で30分間インキュベートし、細胞表面に付着しているプラスミドDNAを除去した。遠心分離(4℃,1800rpm,5分)し、上清を除去した後、GenElute Mammalian Genome DNA Miniprep kit(Sigma社製)を用いてペレットからプラスミドDNAを抽出した。ABI PRISM 7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)を使用したリアルタイムPCRにより、プラスミドDNAの初期鋳型量(細胞全体におけるプラスミドDNA量)を定量した。プラスミドDNAの初期鋳型量(コピー数)を一細胞あたりのβアクチン遺伝子のコピー数で補正することにより、一細胞あたりのプラスミドDNAのコピー数を算出した。結果を図1のカラム1に示す。
【0038】
なお、プラスミドDNA(pEGFPLuc)に対するプライマーとしては、配列番号1及び2記載の塩基配列からなるプライマーを使用し、βアクチン遺伝子に対するプライマーとしては、配列番号3及び4記載の塩基配列からなるプライマーを使用した。また、PCRは、95℃で10分間加熱した後、95℃で15秒間の加熱及び60℃で60秒間の加熱のサイクルを40サイクル繰り返すことにより行った。また、PCR増幅産物は、SYBR Green Realtime PCR Master Mix (TOYOBO社製)を用いて検出した。
【0039】
(6)核画分におけるプラスミドDNA量の定量
トランスフェクション後の細胞をトリプシン処理によりディッシュから剥がし、エッペンドルフチューブに回収した。遠心分離(4℃,1500rpm,5分)し、上清培地を除去した後、ペレットをCellScrub緩衝液(Gene Therapy Systems社製)250μlに懸濁し、振盪しながら4℃で30分間インキュベートし、細胞表面に付着しているプラスミドDNAを除去した。遠心分離(4℃,1800rpm,5分)し、上清を除去した後、ペレットをCellScrub緩衝液 375μlに懸濁し、4×IGEPAL溶液(組成:2% IGEPAL(v/v),40mM NaCl,12mM MgCl2,40mM Tris)125μlをゆっくり添加し、穏やかにタッピングし、細胞膜を破壊した。遠心分離(4℃,10000rpm,2分間)し、上清を除去した後、ペレット(核画分)にCellScrub緩衝液 375μl及び4×IGEPAL溶液 125μlを添加し、激しくボルテックスしながら懸濁し、遠心分離(4℃,10000rpm,2分間)した。この操作を2回行うことにより核画分の洗浄を行った。GenElute Mammalian Genome DNA Miniprep kit(Sigma社製)を用いて核画分からプラスミドDNAを抽出した。ABI PRISM 7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)を使用したリアルタイムPCRにより、プラスミドDNAの初期鋳型量(核画分におけるプラスミドDNA量)を定量した。プラスミドDNAの初期鋳型量(コピー数)を一細胞あたりのβアクチンのコピー数で補正することにより、一細胞あたりのプラスミドDNAのコピー数を算出した。結果を図1のカラム3に示す。なお、PCRに用いたプライマー、PCRの反応条件及びPCR増幅産物の検出方法は上記と同様である。
【0040】
CellScrub緩衝液を用いた核画分の洗浄を行うことなく、上記と同様に、核画分におけるプラスミドDNA量を定量した結果を図1のカラム2に示す。
【0041】
洗浄後の核画分にCellScrub緩衝液 375μl及びPBS(-) 100μlを添加し、ボルテックスしながら懸濁し、10% Triton X-100 25μlをゆっくり添加し(最終濃度:5%)、穏やかにタッピングし、核膜を消化した。遠心分離(4℃,3900rpm,5分間)し、上清を除去した後、ペレット(核膜非存在画分)をPBS(-) 500μlに懸濁し、遠心分離(4℃,10000rpm,2分間)し、上清を除去し、核膜非存在画分を洗浄した。GenElute Mammalian Genome DNA Miniprep kit(Sigma社製)を用いて核膜非存在画分からプラスミドDNAを抽出した。ABI PRISM 7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)を使用したリアルタイムPCRにより、プラスミドDNAの初期鋳型量(核膜非存在画分におけるプラスミドDNA量)を定量した。プラスミドDNAの初期鋳型量(コピー数)を一細胞あたりのβアクチンのコピー数で補正することにより、一細胞あたりのプラスミドDNAのコピー数を算出した。結果を図1のカラム4に示す。なお、PCRに用いたプライマー、PCRの反応条件及びPCR増幅産物の検出方法は上記と同様である。
【0042】
図1に示すように、CellScrub緩衝液を用いた核画分の洗浄を行わない場合(カラム2)、定量されたプラスミドDNAの核移行量は、細胞全体におけるプラスミドDNAの取り込み量の約70〜80%であった。比較例1に示すように、実際のプラスミドDNAの核移行量は、細胞全体におけるプラスミドDNAの取り込み量の約12〜20%であると考えられるので(比較例1参照)、CellScrub緩衝液を用いた核画分の洗浄を行わない場合(従来の細胞分画法)、細胞を破壊して核画分を得る際、細胞膜、各種オルガネラ等に付着していたプラスミドDNAが遊離し、核膜に付着してしまうため、プラスミドDNAの核移行量は、実際の核移行量よりも多く定量されてしまうことが明らかとなった。
【0043】
これに対して、図1に示すように、CellScrub緩衝液を用いた核画分の洗浄を行った場合(カラム3)、定量されたプラスミドDNAの核移行量は、細胞全体におけるプラスミドDNAの取り込み量の約15〜20%であった。このことから、CellScrub緩衝液を用いた核画分の洗浄を行った場合、プラスミドDNAの核移行量を正確に定量できることが明らかとなった。
【0044】
また、核膜非存在画分におけるプラスミドDNA量(カラム4)は、細胞全体におけるプラスミドDNAの取り込み量の約10〜15%であった。このことから、CellScrub緩衝液を用いて核画分を洗浄しても、核膜に付着した状態でプラスミドDNAが残存しており、核膜非存在画分におけるプラスミドDNA量を定量することにより、プラスミドDNAの核移行量をより正確に定量できることが明らかとなった。
【0045】
〔比較例1〕3重染色画像を利用した定量方法(国際公開WO2004/108962号パンフレット参照)によるプラスミドDNAの核移行量の定量
トランスフェクション後の細胞を一定時間インキュベートした後、Lysosensor DND-189(Molecular Probes社製)を用いてエンドソーム/リソソームを染色した。染色は、Lysosensor DND-189の原液1μlをFCS不含の1mlのD’MEMに加え、これを細胞に添加し、37℃で30分間インキュベートすることより行った。染色後D'MEM(+10%FCS)で細胞を洗浄し、Hoechst33258(WAKO純薬社製)を用いて核を染色した。染色は、Hoechst33258を1mg/mlとなるように滅菌水に溶かし、最終的に100μg/mlまでPBS(-)を用いて希釈し、さらに10%FCSを含むD'MEMを用いて20μg/mlに希釈した後、そのうち1mlを細胞に加え、室温で10分間インキュベートすることにより行った。D'MEM(+10%FCS)で細胞を3回洗浄した後、D'MEM(+10%FCS)を1ml加え、細胞を固定せずにCarl Zeiss LSM510 共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。
【0046】
共焦点レーザー顕微鏡を利用して、1つの細胞のZ軸方向(細胞の厚さの方向)に連続的なx−y断面画像を取得し、コンピューター解析ソフトであるアクアコスモスにより定量解析した。Rhodamineで標識したプラスミドDNAは、細胞質に存在するときは赤色を呈し、エンドソーム/リソソームに存在するときはLysosensor DND-189の緑色と混ざって黄色を呈し、核内に存在するときはHoechst33258の青色と混ざって桃色を呈した。ここで、90%以上が同一色に染色された領域をプラスミドDNAの存在領域と判断した。各々のオルガネラの存在領域のうち、プラスミドDNAの存在領域を特定し、1つのx−y断面画像において各オルガネラに含まれるプラスミドDNAの存在領域の面積を計算し、これを各オルガネラにおけるプラスミドDNAの局在量の指標とした。20個のx−y断面画像において各オルガネラに含まれるプラスミドDNAの存在領域の面積を総和し、各オルガネラにおけるプラスミドDNAの存在領域の総和面積の比率を求めることにより、各オルガネラにおけるプラスミドDNAの局在量の比率を求めた。その結果、プラスミドDNAの核移行量は、細胞全体におけるプラスミドDNAの取り込み量の約12〜20%であった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】プラスミドDNAの定量結果(1細胞あたりのコピー数)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞に導入した核酸の核移行量を定量する方法であって、下記工程(a)〜(c):
(a)目的の核酸とカチオン性物質とを含むカチオン性複合体を導入した細胞から核画分を分画する工程
(b)工程(a)で分画した核画分を洗浄し、核膜に付着しているカチオン性複合体を除去する工程、及び
(c)工程(b)で洗浄した核画分に含まれる目的の核酸を定量する工程
を含む方法。
【請求項2】
工程(a)において、カチオン性複合体の核膜への付着を防止することができる条件下で細胞から核画分を分画する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(c)において、工程(b)で洗浄した核画分から核膜を除去して核膜非存在画分を得、核膜非存在画分に含まれる目的の核酸を定量する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
核膜に付着しているカチオン性複合体の核膜非存在画分への混入を防止することができる条件下で、工程(b)で洗浄した核画分から核膜を除去する、請求項3記載の方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−197824(P2006−197824A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10997(P2005−10997)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】