細胞の再プログラミング用組成物、及びその用途
本発明は、広義には、治療用組成物、及び対象細胞の数又は生物活性の欠乏により特徴づけられる病気、疾患、又は損傷の治療方法を提供する。本方法は、再プログラムされた細胞を生成するか或いは対象となる細胞、組織、又は器官の再生を促進させる組成物を提供する。そのような方法は、特定の細胞型が欠乏している、或いはその細胞型により産生されたポリペプチドが欠乏している被験者の治療に有用である。特に、本発明は、1型及び2型糖尿病、並びに関連の合併症に伴う高血糖を改善又は予防するための予防及び治療方法、並びに組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2006年7月19日出願の米国仮特許出願第60/832,070号の利益を主張するものであり、その内容全体を文献引用によって本願明細書に組み込んだものとする。
(連邦政府後援の研究によってなされた発明に対する権利に関する申立て)
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所により与えられた補助金:認可番号DK064054及びDK071831の援助によりなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
1型糖尿病(T1D)を治療する現状の方法は長期にわたる合併症の予防には効果を持たないため、研究者らは、正常血糖値に回復するためインスリン産生細胞(IPC)の使用を含む代替療法を模索している。機能的β細胞の移植によりT1Dは治療できるが、ドナー膵島の不足により膵島移植は妨げられており、移植片拒絶のリスクを軽減するため生涯にわたる免疫抑制療法が求められている。
【0004】
1型糖尿病を治療するため、研究者らは、幹細胞を膵β細胞(IPC)用のインスリン産生代用品に向けた分化を達成するよう信頼性の高い方策を積極的に追及している。組み換えDNA技術による遺伝的修飾は、幹細胞分化を所望の系統に向けるため、とりわけ、肝幹細胞から膵内分泌細胞への分化転換に対して非常に有望な手法である。この手法は、in vitro及びin vivo実験の両方で、肝細胞及び肝幹細胞からIPCを生成するのに使用されている。1型糖尿病の治療における細胞療法に潜在的な自己ドナー細胞として肝臓を用いることがこれらの研究により非常に有望であるが、ヒト臨床治療における遺伝子操作の使用は議論となることが分かっている。従って、遺伝子治療に頼らないインスリン産生細胞を産生する組成物及び方法が早急に求められている。
【発明の概要】
【0005】
以下に説明するように、本発明は、対象細胞(例:膵細胞)の数又は生物活性の欠乏により特徴づけられる病気、疾患、又は損傷(例:糖尿病)を治療又は予防するための治療を特徴とする。
【0006】
一態様において、本発明は、一般的に、成熟細胞をタンパク質導入ドメインに融合した又はこれを含む転写因子ポリペプチド又はそのフラグメントと接触させる工程と;成熟細胞で少なくとも1つのポリペプチド(例:膵転写因子ポリペプチド)の発現量を変化させる工程とを含み、それにより細胞を再プログラミングする、細胞(例:成熟細胞又は胚幹細胞)の再プログラミング方法を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、細胞(例:成熟細胞又は胚幹細胞)をタンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子又はそのフラグメントと接触させる工程と;細胞のインスリンの発現を増加させる工程とを含み、それによりインスリン産生細胞を生成する、インスリン産生細胞の生成方法を提供する。
【0008】
さらに別の態様では、本発明は、膵細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程を含み、それにより膵細胞の再生を誘導する、インスリン産生細胞の再生の誘導方法を提供する。
【0009】
さらに別の態様では、本発明は、肝由来細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程を含み、それによりインスリン産生細胞を生成する、インスリン産生細胞の生成方法を提供する。一実施形態では、肝由来細胞をin vitro又はin vivoで接触させる。別の実施形態では、融合タンパク質が特定の肝葉に向けられるように、融合タンパク質を門脈経由又はその分枝経由で提供する。さらに別の実施形態では、インスリン産生細胞は肝由来細胞の分化転換により生成される。
【0010】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の成熟細胞をタンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子又はそのフラグメントと接触させる工程と;成熟細胞のインスリンの発現を増加させる工程とを含み、それによりインスリン産生細胞を生成する、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0011】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の成熟膵細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;成熟膵細胞の再生を誘導する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、肝由来細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;インスリン産生細胞を生成する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する、それを必要とする被験者(例:1型又は2型糖尿病を有するヒト又は動物患者)の高血糖を改善する方法を提供する。一実施形態では、肝由来細胞は、肝細胞又は肝由来幹細胞である。さらに別の実施形態では、細胞は、前記融合タンパク質と接触する前に検出可能な量のインスリンを発現しない。さらに別の実施形態では、本方法は、被験者の血糖値を低下させる。さらに別の実施形態では、本方法は、被験者の血糖値を正常化する。さらに別の実施形態では、本方法は、Ngn3ポリペプチド、タンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質の有効量を投与する工程をさらに含む。
【0013】
別の態様では、本発明は、初期又は後期膵転写因子(例:Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、及びPax6)に少なくとも85%、90%、95%、或いは100%のアミノ酸相同性を有するポリペプチドと;タンパク質導入ドメイン(例:HIV−1 TAT PTDドメイン、ポリアルギニン配列、VP22ドメイン、又はアンテナペディアタンパク質導入ドメイン)、類似体、又はそのフラグメントとを含むか又はこれらから基本的になる融合ポリペプチドを提供し、細胞内の融合ポリペプチドの発現は、対応する対照細胞に対して少なくとも1つのポリペプチドの発現を変化させる。一実施形態では、融合ポリペプチドは、単純疱疹ウイルスVP16活性化ドメイン又はそのフラグメント若しくは類似体、精製用配列タグ(例:ヘキサヒスチジンタグ)、又は抗体と特異的に結合する抗原ドメイン(例:V5ドメイン)をさらに含む。さらに別の実施形態では、融合ポリペプチドは、ヒトPdx−1ポリペプチド又はそのフラグメントと;単純疱疹ウイルスVP16活性化ドメインと;タンパク質導入ドメイン又はその生物活性フラグメントとを含むか又はこれらから基本的になる。
【0014】
さらに別の態様では、融合ポリペプチドは、膵転写因子プロモーターと、検出可能なドメインとを含む。種々の実施形態では、プロモーターは、Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Mkx2.2、Nkx6.1、Isl1、及びPax6の任意の1つ以上から選択され;他の実施形態では;検出可能なドメインは、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、及びβ−ガラクトシダーゼの任意の1つ以上から選択される。他の実施形態では、ポリペプチドは、ヘキサヒスチジンタグ又はGSTなどの、ポリペプチドの精製を容易化するアミノ酸配列タグをさらに含む。
【0015】
他の態様では、本発明は、任意の前述の態様のポリペプチドをコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供する。一実施形態では、ベクターは、核酸配列に操作可能にリンクしたプロモーターを含む。一実施形態では、プロモーターは、細菌性細胞又は哺乳類細胞内で発現するように配置される。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。一実施形態では、細胞は原核細胞又は真核細胞である。他の実施形態では、細胞は、細菌性細胞、哺乳類細胞、昆虫細胞、及び酵母細胞の任意の1つ以上から選択される。
【0017】
さらに別の態様では、宿主細胞(例:哺乳動物、ヒト)は、任意の前述の態様の融合ポリペプチドを含む。さらに別の実施形態では、細胞は、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞の任意の1つ以上から選択される。他の実施形態では、宿主細胞は、Ngn3、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合ポリペプチドなどの第2の融合ポリペプチドをさらに含む。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様の宿主細胞を含む組織を提供する。
【0019】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様の宿主細胞を含む器官を提供する。
【0020】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様の宿主細胞を含む基質を提供する。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、細胞内で発現するように配置された任意の前述の態様の単離された核酸分子で形質転換した細胞を提供する工程と;核酸分子を発現する条件下で細胞を培養する工程と;ポリペプチドを単離する工程とを含む、任意の前述の態様の組み換えポリペプチドの産生方法を提供する。
【0022】
さらに別の態様では、本発明は、薬学的に許容される賦形剤中に任意の前述の態様のポリペプチド又は前述の態様の宿主細胞の有効量を含む医薬組成物を提供する。他の実施形態では、組成物は、Ngn3アミノ酸配列、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合ポリペプチドの有効量をさらに含む。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様のポリペプチド又は任意の前述の態様の宿主細胞と;被験者の高血糖(例:1型又は2型糖尿病に関連する高血糖)を改善するためポリペプチド又は細胞を使用するための取扱説明書とを含む包装された医薬品を提供する。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様の融合ポリペプチド又は任意の前述の態様の宿主細胞の有効量と、それを使用するための取扱説明書とを含む高血糖(例:1型又は2型糖尿病に関連する高血糖)の治療用キットを提供する。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAの任意の1つ以上である膵転写因子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを提供し、ポリペプチドは、哺乳類細胞内で発現するように配置されたプロモーターに操作可能にリンクしている。
【0026】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の細胞を前述の態様のAAVベクターと接触させる工程と;インスリンを発現するよう細胞を誘導する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0027】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の肝由来細胞を前述の態様のAAVベクターと接触させる工程と;インスリンを発現するよう細胞を誘導する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する方法を含む、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0028】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の細胞を前述の態様のAAVベクターと接触させる工程と、インスリンを発現するよう細胞を誘導する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する方法を含む、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0029】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の肝由来細胞を前述の態様のAAVベクターと接触させる工程と;インスリンを発現するよう細胞を誘導する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する方法を含む、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0030】
さらに別の態様では、本発明は、前述の態様のAAVベクター又はポリペプチド(例:融合ポリペプチド)を含む宿主細胞(例:成熟細胞、胚幹細胞、肝細胞又は膵細胞)を提供する。一実施形態では、細胞は、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞の1つ以上である。
【0031】
さらに別の態様では、本発明は、薬学的に許容される賦形剤中にアデノウイルスベクターの有効量を含む医薬組成物を提供する。
【0032】
さらに別の態様では、本発明は、被験者を、被験者の組織内でPdx1、INGAP、Reg3d、Reg3g、及び膵炎関連タンパク質−Papの任意の1つ以上の遺伝子の発現を誘導するのに有効な量のPdx1ポリペプチドと接触させる工程を含み、それにより糖尿病を治療する、被験者の糖尿病を治療する方法を提供する。一実施形態では、発現の増加は、Pdx1が約3〜4倍に増加する、INGAP発現が約14〜15倍に増加する、Reg3d発現が約7〜8倍に増加する、Reg3gが約6〜7倍に増加する、及び膵炎関連タンパク質−Papが30〜35倍に増加する、の任意の1つ以上のものである。さらに別の実施形態では、本方法は、Pdx1、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、IAPP、インスリンII、ソマトスタチン、NeuroD、Isl−1、及び膵外分泌遺伝子p48並びにアミラーゼの任意の1つ以上の発現を増加させる。さらに別の実施形態では、少なくとも2つ、3つ、4つ、又は5つの遺伝子の発現が増加する。さらに別の実施形態では、遺伝子全ての発現が増加する。
【0033】
さらに別の態様では、本発明は、被験者にPdx1タンパク質の有効量を投与する工程と、膵島β細胞の再生を誘導する工程とを含む、それを必要とする被験者内の膵島β細胞の再生を誘導する方法を提供する。一実施形態では、少なくとも約1〜5mg/kg体重のPDX1を投与する。別の実施形態では、PDX1を静脈又は腹膜系経由で投与する。別の実施形態では、本方法は、インスリン値を少なくとも約1〜20倍に増加する。別の実施形態では、PDX1投与は、Pdx1、INGAP、Reg3d、Reg3g、膵炎関連タンパク質−Pap、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、IAPP、インスリンII、ソマトスタチン、NeuroD、Isl−1、及び膵外分泌遺伝子p48並びにアミラーゼの任意の1つ以上の発現を増加する。
【0034】
さらに別の態様では、本発明は、AAVベクターを含む宿主細胞(例:成熟細胞、胚幹細胞、肝細胞又は膵細胞)のみならず、薬学的に許容される賦形剤中にそのようなベクター又は細胞の有効量を含む医薬組成物を提供する。
【0035】
任意の前述の態様の種々の実施形態では、細胞は、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞の任意の1つ以上である成熟細胞(例:肝細胞又は肝由来幹細胞)である。さらに別の実施形態では、細胞をin vitro又はin vivoで接触させる。任意の前述の態様のさらに別の実施形態では、変化とは、対応する対照細胞で検出可能に発現されないポリペプチド量が増加すること(例:5%、10%、25%、50%、75%、85%、95%、又はそれ以上)である。さらに別の実施形態では、再プログラムされた細胞はインスリンを発現する。任意の前述の態様の種々の実施形態では、転写因子は、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAの任意の1つ以上である。さらに別の実施形態では、細胞は、in vitro又はin vivoで接触させる胚細胞又は成熟膵細胞である。任意の前述の態様のさらに別の実施形態では、接触によりインスリン産生細胞の数を増加させる。他の実施形態では、接触により複製又は新生による再生を増加させる。さらに別の実施形態では、本方法は、細胞をNgn3、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程をさらに含む。さらに別の実施形態では、本方法は、ポリペプチドを得る工程をさらに含む。任意の前述の態様のさらに別の実施形態では、投与方法は、細胞でPdx1タンパク質の有効量が少なくとも約0〜4(例:0、1、2、3、又は4)日間であるように投与すること;Ngn3の有効量が少なくとも約2〜6(例:2、3、4、5、又は6)日間存在するように次のNgn3を投与すること;Pax4の有効量が少なくとも約4〜8(例:4、5、6、7、8)日間存在するように次のPax4を投与すること;Pdx1の有効量が細胞内で維持され、Pdx1の投与は、Pax4が細胞内に存在する間に行われるようにPdx1を持続的に投与すること、の任意の1つ以上の投与を含む1つ以上の膵転写因子の順次投与を提供する。
【0036】
任意の前述の態様のさらに別の実施形態では、融合タンパク質は、初期因子又は後期因子(例:Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、MafA)である膵転写因子(例:ヒト又はマウス)を含むか又はこれらから基本的になる。さらに別の実施形態では、任意の前述の態様の融合ポリペプチドは、参照配列と少なくとも85%、90%、又は95%同一であり、配列比較は、ポリペプチド又はペプチドフラグメントの全長に及ぶ。
【0037】
特に、本発明は、1型及び2型糖尿病に対するタンパク療法を提供する。本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明及び請求項から明らかになるであろう。
【0038】
(定義)
「膵臓及び十二指腸ホメオボックス−1(Pdx−1)ポリペプチド」とは、GenBank登録番号NP_032840、AAI11593で提供された配列、又はNM008814でコードされた配列に少なくとも85%の相同性を有し、尚且つ、DNA結合又は転写制御活性を有するタンパク質又はそのフラグメントを意味する。
【0039】
「膵臓及び十二指腸ホメオボックス−1(Pdx−1)核酸配列」とは、PDX−1をコードする核酸配列を意味する。例示のpdx−1核酸配列としては、BC111592及びNM_008814が挙げられる。
【0040】
「NeuroD1ポリペプチド」とは、GenBank登録番号NP_002491又はNP_035024で提供された配列に少なくとも85%の相同性を有し、尚且つ、DNA結合又は転写制御活性を有する神経発生分化1タンパク質又はそのフラグメントを意味する。
【0041】
「NeuroD1核酸分子」とは、NeuroD1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はそのフラグメントを意味する。例示のNeuroD1核酸分子としては、NM_002500及びNM_010894が挙げられる。
【0042】
「ニューロゲニン3ポリペプチド」とは、GenBank登録番号AAK15022又はAAI04328で提供された配列に少なくとも85%の相同性を有し、尚且つ、DNA結合又は転写制御活性を有するタンパク質又はそのフラグメントを意味する。
【0043】
「ニューロゲニン3核酸分子」とは、ニューロゲニン3ポリペプチド又はそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド又はそのフラグメントを意味する。例示のニューロゲニン3核酸分子としては、AF234829及びBC104327が挙げられる。
【0044】
「Pax4ポリペプチド」とは、GenBank登録番号AAI07151又はNP_035168で提供された配列に少なくとも85%の相同性を有し、尚且つ、DNA結合又は転写制御活性を有するタンパク質又はそのフラグメントを意味する。
【0045】
「Pax4核酸分子」とは、Pax4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はそのフラグメントを意味する。例示のPax4ポリペプチドとしては、NM_011038及びBC107150が挙げられる。
【0046】
「成熟細胞」とは、胚細胞又は生殖細胞由来でない体細胞を意味する。
【0047】
「再生を誘導すること」とは、細胞、組織、又は器官の生成を誘導することを意味する。再生の方法としては、限定的ではないが、新生、複製、細胞増殖、分化転換、又は対象細胞に類似の追加の細胞産生を伴う任意の他の方法が挙げられる。
【0048】
「タンパク質導入ドメイン」とは、細胞又は細胞小器官へのタンパク質侵入を容易化するアミノ酸配列を意味する。例示のタンパク質導入ドメインとしては、限定的ではないが、最小ウンデカペプチドタンパク質導入ドメイン(YGRKKRRQRRRを含むHIV−1 TATの47〜57残基に対応する)、細胞に直接侵入するのに十分な数のアルギニン(例:3、4、5、6、7、8、又は9個のアルギニン)を含むポリアルギニン配列、VP22ドメイン(Zenderら、Cancer Gene Ther.2002 Jun;9(6):489−96)、及びアンテナペディアタンパク質導入ドメイン(Noguchiら、Diabetes 2003;52(7):1732−1737)が挙げられる。Nat Biotechnol.2001 Dec;19(12):1173−6も参照されたい。
【0049】
「再プログラミングすること」とは、再プログラミングする前の細胞内(又は対応する対照細胞内)で産生しない再プログラムされた細胞内で少なくとも1つのタンパク質生成物を産生するような細胞に変化させることを意味する。一般に、再プログラムされた細胞は、再プログラムされた細胞が、再プログラミングする前の細胞(又は対応する対照細胞)で発現しない一連のタンパク質を発現するように、変化した転写又は翻訳プロファイルを有する。
【0050】
「肝由来細胞」とは、肝臓由来の任意の細胞を意味する。そのような細胞としては、肝細胞、肝幹細胞、肝細胞の初代培養又は不死化培養、又は肝臓から得られた任意の他の細胞が挙げられる。
【0051】
「膵転写因子」とは、膵組織内で発現した任意の転写因子を意味する。例示の膵転写因子としては、限定的ではないが、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2(マウスNM_010919、NP_035049;ヒトC075092、AAH75092)、Nkx6.1(マウスNP_659204、AF357883;ヒトP78426、NM_006168)、Isl1(マウスNM_021459、NP_067434;ヒトNM_002202、NP_002193)、Pax6(マウスBC036957、AAH36957;ヒトNP_000271、BC011953)、及びMafA(v−maf筋腱膜性線維腫症癌遺伝子相同体A)、ヒトNP_963883、NM_201589;マウスNP_919331、NM_194350)が挙げられる。
【0052】
「分化転換」とは、分化形質転換した細胞が、細胞で一般に発現しない少なくとも1つの対象タンパク質を発現するような細胞の変化を意味する。例えば、インスリン産生細胞表現型に分化形質転換した肝細胞は、インスリン又はグルカゴンを発現する。
【0053】
「VP16活性化ドメイン」とは、対象配列に付加した際に転写を増加させる単純疱疹ウイルス由来のアミノ酸配列を意味する。例示のVP16活性化ドメインは、例えば、Sadowski,I.,Ma,J.,Triezenberg,S.and Ptashne,M.(1988).GAL4−VP16 is an unusually potent transcriptional activator.Nature 335,563−564;及びTriezenberg,S.J.,Kingsbury,R.C.and McKnight,S.L.(1988).Functional dissection of VP16,the trans−activator of herpes simplex virus immediate early gene expression.Genes Dev.2,718−729に記載されている。1つの例示のVP16活性化ドメインを図18Gに強調表示している。
【0054】
「変化」とは、前述のような当該技術分野で公知の標準的方法により検出される遺伝子又はポリペプチドの発現量の変化(増減)を意味する。本明細書で使用する「変化」としては、発現量の10%変化、好ましくは25%変化、より好ましくは40%変化、及び最も好ましくは50%、或いは発現量のそれ以上の変化が挙げられる。
【0055】
「類似体」とは、参照ポリペプチド又は核酸分子の機能を有する構造的に関連したポリペプチド又は核酸分子を意味する。
【0056】
「化合物」とは、任意の小分子化合物、抗体、核酸分子、又はポリペプチド、若しくはそのフラグメントを意味する。
【0057】
本開示では、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「を含有する(containing)」、及び「有する(having)」等は、米国特許法で定義された意味とすることができ、尚且つ、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」等を意味することができる。同様にして、「から基本的になる(consisting essentially of)」又は「基本的になる(consists essentially)」は、米国特許法で定義された意味とする。用語はオープンエンドであり、記載されている基本特徴又は新規特徴が、記載されている以上のことで変化しない限りにおいて、記載されている以上のことを認めるものであるが、従来技術の実施形態は除外する。
【0058】
「検出可能な標識」とは、対象分子に結合した際に分光的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、又は化学的手段を介して後者を検出可能にする組成物を意味する。例えば、有用な標識としては、放射性同位体、電磁ビーズ、金属ビーズ、コロイド粒子、蛍光色素、電子密度の高い試薬、酵素(例えば、ELISAで一般に用いられる)、ビオチン、ジゴキシゲニン、又はハプテンが挙げられる。
【0059】
「標識核酸又はポリペプチド」は、核酸又はプローブに結合した標識の存在を検出することで核酸又はプローブの存在が検出できるように、リンカー又は化学結合経由で共有結合的に、或いはイオン結合、ファンデルワールス力、静電気引力、疎水的相互作用、又は水素結合経由で非共有結合的に標識に結合しているものである。
【0060】
「有効量」とは、未治療患者に対する病気の症状の改善に要する薬剤の量を意味する。病気の治療的処理に対して本発明を実施するのに用いる活性化合物(単数又は複数)の有効量は、投与方法、被験者の年齢、体重、及び全般的な健康状態に応じて変わる。最終的に、担当医又は担当獣医が適量及び投与計画を決定する。そのような量を「有効な」量と称する。
【0061】
「フラグメント」とは、ポリペプチド又は核酸分子の一部を意味する。この一部には、参照核酸分子又はポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%を含むのが好ましい。フラグメントには、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100、200、300、400、500、600、700、800、900、又は1000個のヌクレオチド又はアミノ酸を含んでもよい。
【0062】
「融合タンパク質」とは、天然には隣接しない少なくとも2つのアミノ酸配列を結合するタンパク質を意味する。
【0063】
「同一性」とは、対象配列と参照配列間のアミノ酸又は核酸配列同一性を意味する。配列同一性は、通常、配列解析ソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group,University of Wisconsin Biotechnology Center,1710 University Avenue,Madison,Wis.53705,BLAST,BESTFIT,GAP、又はPILEUP/PRETTYBOX programs)を用いて測定する。そのようなソフトウェアは、相同性の度合いを種々の置換、欠損、及び/又は他の修飾に割り当てることで同一又は類似の配列に適合させる。保存的置換としては、通常、以下の群内の置換を含む:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;及びフェニルアラニン、チロシン。同一性の度合いを決定する例示的手法では、密接に関連する配列を示すe−3〜e−100の確率スコアと共にBLASTプログラムを使用してもよい。
【0064】
「ハイブリダイズする」とは、ストリンジェンシーの種々の条件下で、相補的ポリヌクレオチド配列(例:表1及び表2に記載されている遺伝子)間又はその部分間に二本鎖分子を形成する対を意味する。(例:Wahl,G.M.and S.L.Berger(1987)Methods Enzymol.152:399;Kimmel,A.R.(1987)Methods Enzymol.152:507を参照されたい)
【0065】
例えば、ストリンジェント塩濃度は、通常、約750mM NaClと75mMクエン酸三ナトリウム未満であり、約500mM NaClと50mMクエン酸三ナトリウム未満であるのが好ましく、約250mM NaClと25mMクエン酸三ナトリウム未満であるのが最も好ましい。有機溶媒、例えば、ホルムアミドの非存在下で低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションを得ることができるのに対して、少なくとも約35%ホルムアミド、最も好ましくは少なくとも約50%ホルムアミドの存在下で高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションを得ることができる。ストリンジェント温度条件としては、通常、少なくとも約30℃、より好ましくは少なくとも約37℃、最も好ましくは少なくとも約42℃の温度が挙げられる。ハイブリダイゼーション時間、洗浄剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度、及びキャリアDNAの包含又は排除などの付加パラメータを変化させることは、当業者に公知である。必要に応じて、これらの種々の条件を組み合わせることで種々のレベルのストリンジェンシーが達成される。好適な実施形態では、750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウム、及び1%SDS中で30℃にてハイブリダイゼーションが生じる。さらに好適な実施形態では、500mM NaCl、50mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、35%ホルムアミド、及び100μg/ml変性サケ精子DNA(ssDNA)中で37℃にてハイブリダイゼーションが生じる。最も好適な実施形態では、250mM NaCl、25mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、50%ホルムアミド、及び200μg/ml ssDNA中で42℃にてハイブリダイゼーションが生じる。これらの条件における有用な変化は、当業者であれば容易に明らかとなるであろう。
【0066】
ほとんどの用途において、ハイブリダイゼーション後の洗浄工程もストリンジェンシーを変化させる。洗浄ストリンジェンシー条件は、塩濃度及び温度で定義できる。前述のように、塩濃度を低下させるか或いは温度を上昇させることで洗浄ストリンジェンシーを増すことができる。例えば、洗浄工程用のストリンジェント塩濃度は、約30mM NaClと3mMクエン酸三ナトリウム未満であるのが好ましく、約15mM NaClと1.5mMクエン酸三ナトリウム未満であるのが最も好ましい。洗浄工程用のストリンジェント温度条件としては、通常、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約42℃、最も好ましくは少なくとも約68℃の温度が挙げられる。好適な実施形態では、洗浄工程は、30mM NaCl、3mMクエン酸三ナトリウム、及び0.1%SDS中で25℃にて生じる。さらに好適な実施形態では、洗浄工程は、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウム、及び0.1%SDS中で42℃にて生じる。最も好適な実施形態では、洗浄工程は、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウム、及び0.1%SDS中で68℃にて生じる。これらの条件におけるさらなる変化は、当業者であれば容易に明らかとなるであろう。ハイブリダイゼーション技術は、当業者に公知であり、例えば、Benton and Davis(Science 196:180,1977);Grunstein and Hogness(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 72:3961,1975);Ausubelら(Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience,New York,2001);Berger and Kimmel(Guide to Molecular Cloning Techniques,1987,Academic Press,New York);及びSambrook ら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New Yorkに記載されている。
【0067】
「増減する」とは、正又は負の変化を意味する。そのような変化は、参照値の5%、10%、25%、50%、75%、85%、90%、又は100%である。
【0068】
「単離された核酸分子」とは、本発明の核酸分子が由来する生物の天然由来のゲノムにおいて、遺伝子の側面にある遺伝子を含まない核酸(例:DNA)を意味する。従って、この語は、例えば、ベクター;自己複製プラスミド又はウイルス;或いは原核生物又は真核生物のゲノムDNAに組み込まれる組み換えDNA;或いは、他の配列に独立した別の分子(例えば、PCR又は制限エンドヌクレアーゼ消化により産生されたcDNA又はゲノム若しくはcDNAフラグメント)として存在する組み換えDNAを含む。さらに、この語は、DNA分子から転写されるRNA分子のみならず、付加的ポリペプチド配列をコードする雑種遺伝子の一部である組み換えDNAをも含む。
【0069】
「単離されたポリペプチド」とは、それが天然に伴う成分から分離されている本発明のポリペプチドを意味する。一般に、ポリペプチドは、タンパク質、及びそれが天然で会合している天然由来の有機分子を含まない少なくとも60重量%である場合に単離される。一実施形態では、製剤は、少なくとも75%、85%、90%、95%、又は少なくとも99重量%の本発明のポリペプチドである。単離された本発明のポリペプチドは、例えば、天然源から抽出、そのようなポリペプチドをコードする組み換え核酸の発現;或いはタンパク質の化学的合成により得ることができる。純度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、或いはHPLC分析により測定できる。
【0070】
「マーカー」とは、病気又は疾患に伴って発現量又は活性が変化する任意のタンパク質又はポリヌクレオチドを意味する。
【0071】
「基質」とは、1つ以上の細胞の生存、繁殖、又は増殖をもたらす培地を意味する。一実施形態では、基質は、生分解性培地を含む細胞足場である。
【0072】
「自然発生する」とは、生物の細胞内で内因性発現することを意味する。
【0073】
「ポリペプチドを得る」などの「を得る」とは、ポリペプチドを合成、購入、或いは獲得することを意味する。
【0074】
「操作可能にリンクしている」とは、適切な分子(例:転写活性化因子タンパク質)が第2ポリヌクレオチドに結合した際に第1ポリヌクレオチドの転写を指示する第2ポリヌクレオチドに第1ポリヌクレオチドが隣接して位置していることを意味する。
【0075】
「ポリペプチド」とは、長さ又は翻訳後修飾に関わらない任意のアミノ酸鎖を意味する。
【0076】
「発現するように配置されている」とは、本発明のポリヌクレオチド(例:DNA分子)が、配列の転写及び翻訳を指示する(即ち、例えば、本発明の組み換えポリペプチド、又はRNA分子の産生を容易化する)DNA配列に隣接して位置していることを意味する。
【0077】
「プロモーター」とは、転写を指示するのに十分なポリヌクレオチドを意味する。例示のプロモーターとしては、翻訳開始部位の上流(例:すぐ上流)である100、250、300、400、500、750、900、1000、1250、及び1500個のヌクレオチドの長さの核酸配列が挙げられる。
【0078】
「被験者」とは、限定的ではないが、ヒト哺乳類、又はウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、又はネコなどの非ヒト哺乳類を含む哺乳類を意味する。
【0079】
本明細書で使用する「治療する」、「治療している」、「治療」等の用語は、それに伴う疾患及び/又は症状が軽減又は改善することを言う。除外するわけではないが、疾患又は病気の治療においては、それに伴う疾患、病気、又は症状を完全に取り除くことが必須ではないことが理解されるであろう。「改善する」とは、病気の発生又は進行を軽減する、抑制する、弱める、縮小する、止める、或いは安定させることを意味する。
【0080】
本明細書で使用する「予防する」、「予防している」、「予防」、「予防的治療」等の用語は、罹患していないが、疾患又は病気のリスクがあるか或いは疾患又は病気を発生しやすい被験者において疾患又は病気が発生する確率を低減することを言う。
【0081】
「参照」とは、標準又は対照条件を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1A】図1Aは、発生中の膵臓の内分泌分化における膵島転写因子の役割に対する簡略化モデルの概略図を示す。各転写因子の提案位置は、発現のタイミングと主たる機能的役割のタイミング、或いは両方に基づいている。
【図1B】図1Bは、タンパク質導入ドメイン(PTD)融合タンパク質の構造の概略図を示す。
【図2】クマシーブルー染色(図2A)、抗V5抗体(1:5000)を用いたウエスタンブロット(図2B)、及びPTDドメインの有無によらずクマシーブルー染色によるPTD−Ngn3−V5融合タンパク質を示す。細菌溶解物はレーン1及び2に存在し;Ni−NTA精製PTD−Ngn3−V5融合タンパク質はレーン3に存在しており、それらの位置を矢印で示している。
【図3】PTD−Ngn3融合タンパク質の分析を示す。図3Aは、融合タンパク質の細胞導入を分析する経時変化を示すウエスタンブロットである。図3Bは、融合タンパク質を形質導入した培養中の細胞を示す2枚の顕微鏡写真である。左側は位相差を、右側は蛍光を用いて細胞を示している。蛍光像は、PTD−Ngn3融合タンパク質の細胞間局在を示す。図3Cは、培養培地中のPTD−Ngn3の安定性を示す。図3Dは、Ngn3融合タンパク質がその生物学的機能を保持し、尚且つ、NeuroD及びPax4標的遺伝子の発現を誘導できることを示すウエスタンブロットである。
【図4】可溶性及び不溶性PTD−Ngn3融合タンパク質の精製を示す、クマシーブルーで染色したSDS−PAGEゲルである。
【図5A】Pdx1及びPTD−PDX1融合タンパク質を示す、クマシーブルーで染色したSDS−PAGEゲルである。
【図5B】Pdx1及びPTD−PDX1融合タンパク質を示すグラフである。図5Bは、可溶性PTD−Pdx1融合タンパク質の腹腔内注射により、糖尿病マウスが正常血糖に回復することを示す。
【図6】PTD−Pdx−1融合タンパク質を、腹腔内注射を受けた糖尿病マウス、PTD−GFP融合タンパク質を受けた対照糖尿病マウス、又は正常マウスにおける血糖負荷試験の効果を示すグラフである。PTD−Pdx1融合タンパク質の腹腔内注射により、糖尿病マウスが血糖負荷(四角/線)に応答する能力を回復した。
【図7A】90%の膵切除を実施したマウスの血糖値におけるPTD−Pdx−1タンパク質の腹腔内注射の効果を示す。図7Aは、PTD−Pdx1注射を受けたマウスが注射を受けた数日内で血糖値の低下を示したことを示すグラフである。融合タンパク質の注射を止めると、この効果は最終的には消えた。
【図7B】90%の膵切除を実施したマウスの血糖値におけるPTD−Pdx−1タンパク質の腹腔内注射の効果を示す。図7Bは、腹腔内注射経由で糖尿病マウスに送達したPTD−Pdx1 VP16が膵β細胞の再生を促進することを示す2枚の顕微鏡写真である。PTD−GFP(図7B−a)或いはPTD−Pdx1−VP16(図7B−b)を受けたマウスから採取した膵切片を抗pHH3(リン酸化ヒストンH3タンパク質、赤色)及び抗インスリン(緑色)抗体で2重免疫染色した。Dapi染色により核は青色に強調表示された。図7B−a及び図7B−bは、PTD−Pdx1−VP16又はPdx1注射を受けたマウスの膵臓の膵島(矢印)内、及び膵島外に多くの陽性に染色された有糸分裂細胞が存在することを示す。これに対し、PTD−GFP注射を受けたマウスの膵島(図7B−a、矢印)には有糸分裂(染色)細胞は全く見られず、膵島外にも細胞はまれであった。
【図8】PTD−Pdx1 VP16融合タンパク質の腹腔内注射により、ストレプトゾトシン(Stz)誘導糖尿病マウスの高血糖が改善したことを示すグラフである。
【図9】PTD−Pdx1−VP16融合タンパク質とPTD−Ngn3融合タンパク質の両方の腹腔内注射により、ストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスの高血糖が回復したことを示すグラフである。
【図10】PTD−Pdx1−VP16タンパク質の腹腔内注射により強健な膵β細胞の再生が促進したことを示す顕微鏡写真である。図10Aは、完全な膵切片でインスリン免疫染色により強調表示したインスリン陽性膵β細胞を示す。図10Bは、種々の大きさ(小さなものから大きなものまで)の膵島におけるインスリン免疫染色の高倍率図を示す。いくつかは単一のインスリン+細胞のみを示す。
【図11】顕微鏡写真である。図11Aは、膵島β細胞のインスリン染色を示す。図11Bは、PTD−Pdx1−VP16融合タンパク質の腹腔内注射を受けたマウスの肝臓にインスリン陽性細胞が存在することを示す。図11Cは、二次抗体対照を示す切片であり、これは、染色が特異的であることを示す。図11Dは、PTD−GFP対照融合タンパク質の腹腔内注射を受けたマウスからの肝切片にインスリン染色は現れていないことを示す。
【図12】注射後27日目にPTD−Pdx1−VP16とPTD−Ngn3の腹腔内注射を受けたマウスの肝切片におけるインスリン産生細胞(IPC)の4枚の顕微鏡写真を示す。インスリンを産生する種々の肝細胞が、肝切片(全体の1〜2%)に存在している。
【図13】Stz誘導糖尿病マウスの血糖値に対するAAV−膵転写因子の効果を示す。図13Aは、AAV−GFP注射(1×108個のウイルス粒子)を受けたマウスの肝切片におけるGFPタンパク質発現を示す。〜20%の肝細胞がGFPタンパク質を発現したが、分布は均一ではなかった。図13Bは、AAV−Ngn3(三角の線)、AAV−Pdx−1−VP16(ひし形の線)、又はAAV−Pdx−1−VP16及びNgn3(四角の線)の門脈注射を受けたマウスの血糖値を示すグラフである。AAV−Pdx−1−VP16とNgn3の両方の注射を受けたマウスでは相乗効果が観察された。
【図14】AAV−Pdx1−VP16(左側のパネル)とAAV−Ngn3(右側のパネル)の門脈注射(それぞれ1×108個のウイルス粒子)を受けたマウスの肝切片のインスリン陽性細胞を示す。ほとんどのIPCは、肝臓被膜下に分布している。
【図15】AAV−PV/AAV−Ngn3門脈注射(それぞれ1×108個のウイルス粒子)を受けたマウスの肝切片にインスリン陽性細胞が存在することを示す。左上は、膵島陽性対照である。
【図16】AAV−PV/AAV−Ngn3門脈注射を受けたマウスからの肝切片のグルカゴン免疫染色を示す4枚の顕微鏡写真である。
【図17A】膵転写因子の連続的な発現を示す概略図である。
【図17B】膵転写因子の連続的な発現を示す概略図である。
【図18A】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18B】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18C】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18D】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18E】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18F】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18G】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18H】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18I】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図19A】腹腔内注射後のrPdx1のin vivo動態及び組織分布を示す。図19Aは、Pdx1の血液中濃度の動態を示すウエスタンブロットである。rPdx1タンパク質(100μg/マウス)を正常Balb/cマウスに腹腔内注射した。血液試料を表示時間で採取し、20μl血清/レーンをSPDS−PAGEゲルにロードした。抗Pdx1抗体によるウエスタンブロットでrPdx1タンパク質を検出した。
【図19B】腹腔内注射後のrPdx1のin vivo動態及び組織分布を示す。図19Bは、Pdx1のin vivo組織分布における免疫組織化学分析を示す12枚のパネルを示す。rPdx1(100μg/マウス)腹腔内注射後1時間又は24時間で肝組織、膵組織、及び腎組織を採取し、10%ホルマリンに固定した。パラフィン切片を抗Pdx1抗体(1:2000)で免疫染色した。処理後1時間(上側の2列)及び24時間(下側の3列目)で光学顕微鏡により、肝臓(1、4、及び7)、膵臓(2、5、及び8)、及び腎臓(3、6、及び9)器官におけるPdx1タンパク質の典型的な分布パターンを視覚化した。正常マウスからの肝組織、膵組織、及び腎組織切片のPdx1免疫染色は、下段(10〜12)である。図1B−2の矢印は、強度の核Pdx1免疫染色で膵臓の小膵島を示す。
【図19C】本明細書に記載の結果を生成するのに用いた実験のタイムラインを示す概略図である。ここに実験のタイムラインの概要を示す。正常マウスの血糖、グルコース負荷したインスリン放出(15分)、腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT)、及び肝組織と膵組織のインスリンのベースラインを最初の試験で評価した。次いで、低用量ストレプトゾトシンを5×腹腔内注射することにより糖尿病になるようマウスを誘導した。空腹時血糖値を定期的にモニタリングし、2連続の読取りを2回実施し、250mg/dLを超える血糖値は糖尿病(高血糖症)と定義した。グルコース負荷したインスリン放出を数匹の糖尿病マウスで測定し、これらの糖尿病マウスにおける残余の膵β細胞の能力を評価し、グルコース急上昇負荷を取り扱った。連続して10日間、精製Pdx1又はPTD−GFP融合タンパク質(100μg/マウス/注射)のいずれかを糖尿病マウスに毎日腹腔内注射し、血糖値を示した頻度でモニタリングした。タンパク質注射の初回投与後14日ごろ、IPGTT測定と、15分のIPGTTで血液試料を採取した後、両群から数匹のマウスを屠殺した。重要器官から組織を採取し、3つの部分に分割した:1つは、遺伝子発現を検査するためRT−PCR用にスナップ凍結し;1つは、免疫組織学的研究用に10%ホルマリンで固定し;1つは、組織インスリンの抽出用に酸性エタノールに浸漬した。融合タンパク質の初回注射後30〜35日以内に、ほぼ正常血糖のマウスのほぼ全ての膵切除を実施し、血糖値をモニタリングした。タンパク質処理後40〜50日の間に全ての実験用マウスを屠殺し、上述のように組織を採取した。同様の動物実験を独立して6回実施し、種々の試料を採取した。
【図20A】血糖値におけるPdx1タンパク質のin vivo効果を示す。図20Aは、5×低用量(50μg/g体重)Stz腹腔内注射により糖尿病(2回読取りで空腹時血糖値が250〜300mg/dL)になるよう誘導されたBalb/cマウスの血糖値を示すグラフである。糖尿病マウスを実験用rPdx1又は対照GFP群に無作為化し、10日間連続(赤い水平バー)で100μgのPdx1又はGFPタンパク質の腹腔内注射をそれぞれ受けた。尾静脈穿刺で血糖測定器により血糖値を定期的にモニタリングした。初回注射後14〜15日目と40日目に数匹のマウスを屠殺した。初回注射後14日及び40日ごろに正常マウス、GFP処理マウス、又はrPdx1処理マウスにおいてIPGTTを実施した。選択した対照マウスとrPdx1処理マウスのほぼ全ての膵切除を処理後30日ごろに実施した。
【図20B】血糖値におけるPdx1タンパク質のin vivo効果を示す。図20Bは、腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT)の結果を示す2つのグラフである。マウスをIPGTT前に少なくとも8時間絶食させた。ボーラス用量のグルコース(1mg/g体重)を腹腔内注射し、正常マウス(下段の黒線)、rPdx1処理マウス(中段の灰色線)、又はGFP処理マウス(上段の灰色線)の血糖を0分、15分、30分、60分、及び120分で測定した。
【図20C】血糖値におけるPdx1タンパク質のin vivo効果を示す。図20Cは、血糖値を示すグラフである。
【図20D】血糖値におけるPdx1タンパク質のin vivo効果を示す。図20Dは、処理後14日及び40日で15分のIPGTT後のインスリン値を示す。マウス血糖値を上述のようにモニタリングした。15分のボーラス用量のグルコース(1mg/g体重)の腹腔内注射により負荷した正常マウス及び処理マウスから血液試料を採取した。マウス超高感度インスリンELISAキットによりインスリン値をアッセイした。各群には少なくとも5匹のマウスを含む。
【図21A】Pdx1タンパク質が膵島細胞の再生を促進することを示す。図21Aは、インスリン免疫組織化学を示す4枚のパネルである。GFP(左側)又はrPdx1(右側)で処理したマウスからのパラフィン包埋膵組織切片を抗インスリン抗体(1:1000)で免疫染色した。10×(上段パネル)又は40×(下段パネル)倍率で代表的な画像を撮影した。
【図21B】Pdx1タンパク質が膵島細胞の再生を促進することを示す。図21Bは、膵組織のインスリン/グルカゴン二重免疫染色を示す。GFP処理マウス及びrPdx1処理マウスの膵組織からのパラフィン切片をウサギ抗グルカゴン/PE(赤色)及びモルモット抗インスリン/FITC(緑色)両方で免疫染色し、蛍光顕微鏡下で視覚化した。全ての画像は40×倍率で撮影した。
【図21C】Pdx1タンパク質が膵島細胞の再生を促進することを示す。図21Cは、定量的リアルタイムRT−PCR分析を示す2つのグラフである。rPdx1又はGFP処理(100μg/日を10日間)後14日及び40日で糖尿病マウスの膵組織から全RNAを採取し、インスリン、Pdx1、INGAPrP、Reg3γ、及びPAPを含む5つの標的遺伝子の発現をリアルタイムRT−PCRにより検査した。β−アクチン遺伝子の発現に対して発現量を補正し、正常化した。結果は、各群で少なくとも3匹の個々のマウスを表している。相対的遺伝子発現における倍差(Fold difference)をrPdx1処理した膵臓における標的遺伝子発現(標準アクチンcDNAと比較して)の平均値CT値とGFP処理した膵臓試料におけるこれらの標的遺伝子(標準アクチンcDNAと比較して)の平均値CT値の比として算出した。省略形は:INGAPrP=islet neogenesis−associated protein related protein(膵島新生関連タンパク質関連タンパク質);Reg3γ=regenerating islet−derived 3 gamma(再生島誘導3ガンマ);PAP=pancreatitis−associated protein(膵炎関連タンパク質)である。
【図21D】Pdx1タンパク質が膵島細胞の再生を促進することを示す。図21Dは、アガロースゲルにおけるリアルタイムPCRバンドを示すアガロースゲルである。リアルタイムPCR産物をアガロースゲル中で走行させ、処理後14日目及び40日目に試料の大きさ及び特異性(ゲル中のシングルバンド)を確認した。
【図22A】Pdx1タンパク質がインスリン産生細胞に肝細胞分化転換を促進することを示す。図22Aは、インスリン免疫組織化学染色を示す9枚のパネルである。肝臓からのパラフィン切片を抗インスリン抗体(1:250)で一晩4℃でインキュベートした。40×の対物レンズを用いて写真画像を撮影した。処理後14日でrPdx1処理マウスの肝切片のインスリン陽性細胞を観察した。省略形は:B.D.=bile duct(胆管)、H.T.V.=hepatic terminal vein(肝分界静脈)である。B;黒色矢印は、単一の二核インスリン発現肝細胞の凝縮核クロマチンの特徴を示す。
【図22B】Pdx1タンパク質がインスリン産生細胞に肝細胞分化転換を促進することを示す。図22Bは、肝臓における膵遺伝子の発現を示す。正常マウス、GFP処理マウス、又はrPdx1処理マウスの肝臓から抽出したRNAの逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)の増幅をアガロースゲル電気泳動により分析した。マウスの膵臓から単離したRNAを陽性対照として用いた。Ngn3 RT−PCR分析において、成熟膵臓はこの遺伝子を発現しないため、Ngn3 cDNAプラスミド(*)を陽性対照として用いた。省略形は:No RT=no reverse transcription(逆転写なし)、D14又はD40=day 14 or day 40 post−first−protein injection(タンパク質初回注射後14日目又は40日目)である。
【図22C】Pdx1タンパク質がインスリン産生細胞に肝細胞分化転換を促進することを示す。図22C及び図22Dは、他の器官における膵遺伝子の発現を示すアガロースゲルである。処理後14日目にrPdx1処理糖尿病マウスの他の器官組織から全RNAを採取し、4つの主要な膵遺伝子(PDX1、インスリン、グルカゴン、及びアミラーゼ)の発現をRT−PCRにより検査した。全てのRT−PCR結果は、各特定群における少なくとも3匹の個々のマウスを表わしており、結果は、独立して3回繰り返した。
【図23A】膵組織及び肝組織インスリン測定値を示すグラフである。図23Aは、膵組織インスリン測定を示す。正常マウス(n=4)又は10日間連続して腹腔内注射経由でGFP(n=4)又はrPdx1(n=5)処理糖尿病マウスの別々の群をこの試験で用いた。注射後14日目又は40日目にマウスを屠殺し、肝臓又は膵臓全体の重量を測り、サンプリング変動が減少するのを防ぐため組織インスリンの抽出用に採取した。酸性エタノールで組織インスリンを抽出し、マウス超高感度インスリンELISAキットでELISAにより測定した。膵臓の組織インスリン含量は、膵組織の湿重量1ミリグラム当たりのインスリン量(ng)として表した。**=(p<0.05)であり、***=(p<0.001)である。
【図23B】膵組織及び肝組織インスリン測定値を示すグラフである。図23Bは、肝組織インスリン測定を示す。上述と同一の方法を用いて肝組織インスリンを抽出した。肝臓の組織インスリン含量は、肝組織の湿重量1グラム当たりのインスリン量(ng)として表した。14日目の肝臓インスリン含量は、正常マウス(n=4)又はGFP処理マウス(n=5)の肝臓よりも、14日目のrPdx1処理マウス(n=6)で有意に高い。**=(p<0.05)。***=(p<0.001)。
【図24A】マウスPdx1及びPTD−GFP融合タンパク質のクローニング、発現、精製、及び特性を示す。図24Aは、融合タンパク質の生成を示す。上段パネルは、マウスPdx1及びPTD−GFPの融合タンパク質の概略構造を表す。灰色のボックスは、Pdx1タンパク質のアンテナペディア様タンパク質導入ドメインを表す。マウスPdx1又はPTD−GFPをコードするcDNAフラグメントを発現プラスミドにクローン化した。タンパク質を発現させ、Niカラムにより精製した。下段パネルには、10%SDS−PAGEゲル中の精製タンパク質を示し、クマシーブリリアントブルーR溶液(左側のパネル)で染色した。レーン1は分子量マーカーを;レーン2はPdx1を;レーン3はPTD−GFPを表す。右側のパネルは、抗Pdx1抗体(レーン1)及び抗his−tag抗体(レーン2)を用いたウエスタンブロットによる融合タンパク質の確認である。rPdx1及びPTD−GFP融合タンパク質は、矢じり若しくは矢印により、それぞれ示したように確認される。
【図24B】マウスPDX1及びPTD−GFP融合タンパク質のクローニング、発現、精製、及び特性を示す。図24Bは、Pdx1タンパク質の細胞侵入の時間経過を示す。Pdx1(1μM)でWB細胞を表示時間でインキュベートし、PBSで3回洗浄した。細胞溶解物を分離し、ウサギ抗Pdx1(1:1000)又は抗アクチン(1:5000)抗体でウエスタンブロットによりプローブした。(B)細胞Pdx1タンパク質の相対量をデンシトメトリーにより定量化した。それらの密度値を得るためバンドを走査し、それらの対応するハウスキーピングタンパク質アクチンで値を標準化した。ピーク読取り値を100%と定義し、細胞Pdx1タンパク質の相対量の比較を得るため残りの値を最も高い読取り値で除算している。
【図24C】マウスPDX1及びPTD−GFP融合タンパク質のクローニング、発現、精製、及び特性を示す。図24Cは、rPdx1タンパク質の機能分析を示す。LV−pNeuroD−GFPレポーター遺伝子によりWB細胞を形質導入した。pNeuroD−GFP発現レポーター遺伝子WB細胞を発現するWB細胞を視覚化し、蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリー分析によりPdx1タンパク質又はLV−Pdx1のいずれかで処理後72時間にて定量化した。左側のパネルは、サイトスピンスライド上のpNeuroD−GFP発現細胞の蛍光画像を示す。右側上段パネルは、フロードットプロットを示す。下段パネルは、GFP発現細胞の割合を示すヒストグラムである。結果は、代表的な3つの独立した実験を表している。
【図25A】Pdx1組織分布を示す。正常Balb/cマウスにrPdx1タンパク質(1mg)を腹腔内注射し、注射後1時間又は24時間で屠殺した。正常マウス又はrPdx1注入マウスからの組織切片を抗Pdx1抗体(1:1000、rPdx1タンパク質に対して当研究所で作成)で免疫染色した。図25Aは、対照マウスからの6つの組織切片を示す。脳組織にバックグラウンド核染色があり、膵島はPdx1タンパク質の陽性核染色を示す。
【図25B】Pdx1組織分布を示す。正常Balb/cマウスにrPdx1タンパク質(1mg)を腹腔内注射し、注射後1時間又は24時間で屠殺した。正常マウス又はrPdx1注入マウスからの組織切片を抗Pdx1抗体(1:1000、rPdx1タンパク質に対して当研究所で作成)で免疫染色した。図25Bは、注射後24時間のrPdx1処理マウスからの6つの組織切片を示す。注射後24時間で、肝切片、膵切片、及び腎切片で微量のrPdx1タンパク質を検出した。脳、心臓、及び脾臓からの切片は、rPdx1注射なしの正常組織と同様のバックグラウンド染色を示す。
【図25C】Pdx1組織分布を示す。正常Balb/cマウスにrPdx1タンパク質(1mg)を腹腔内注射し、注射後1時間又は24時間で屠殺した。正常マウス又はrPdx1注入マウスからの組織切片を抗Pdx1抗体(1:1000、rPdx1タンパク質に対して当研究所で作成)で免疫染色した。図25Cは、注射後1時間でrPdx1処理(1mg)マウスからの組織切片を示す9枚のパネルである。腎切片(1〜2)の被膜細胞及び近位尿細管細胞で、膵切片(3〜4、7〜9)の外分泌膵腺房細胞の核及び細胞質で、尚且つ、肝切片(5〜6)の肝細胞の核で、強度のPdx1免疫反応性が検出された。
【図25D】Pdx1組織分布を示す。正常Balb/cマウスにrPdx1タンパク質(1mg)を腹腔内注射し、注射後1時間又は24時間で屠殺した。正常マウス又はrPdx1注入マウスからの組織切片を抗Pdx1抗体(1:1000、rPdx1タンパク質に対して当研究所で作成)で免疫染色した。図25Dは、注射後14日目のPdx1処理糖尿病マウスの外分泌膵腺房細胞間のインスリン陽性細胞を示す3枚のパネルである。
【図26】正常マウス肝臓におけるインスリンI、グルカゴン、Pdx1、アミラーゼ、及び西洋ワサビペルオキシダーゼの発現を示すアガロースゲルである。
【発明を実施するための形態】
【0083】
本発明は、広義には、対象細胞の数又は生物活性の欠乏により特徴づけられる病気、疾患、又は損傷を治療する治療用組成物及び治療方法を提供する。一実施形態では、本方法は、再プログラムされた細胞(例:成熟細胞又は胚幹細胞)を生成するための、或いは対象の細胞、組織、又は器官の再生を増加させるためのタンパク質組成物(例:タンパク質導入ドメインを含む融合ポリペプチド)を提供する。必要に応じて、本発明の治療用ポリペプチドの持続的発現をもたらす治療用核酸分子と組み合わせてこれらの組成物を投与する。そのような方法は、特定の細胞型又はその細胞型により産生されたポリペプチドが欠乏している被験者の治療に有用である。本発明は、少なくとも一部において、肝細胞をタンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子と接触させることにより、成熟肝細胞をインスリン産生細胞に再プログラミングすることでインスリン産生細胞を生成できるという観察に基づいている。さらに、本発明は、膵細胞の再生を誘導させる組成物及び方法を提供する。従って、本発明は、1型及び2型糖尿病及び関連の合併症に伴う高血糖を改善又は予防する、予防的及び治療的方法及び組成物をも提供する。
【0084】
(膵転写因子)
胚発生中の内分泌膵島細胞の分化及び成熟は、遺伝子調節の独特なパターンにより制御される複雑なプロセスである(図1Aを参照)。多数の膵転写因子(PTF)は、膵臓内に見つかった異なる細胞型の特定に重要な役割を果たすことが知られている。これらの転写因子において、膵及び十二指腸のホメオボックス遺伝子−1(Pdx−1)は、肝臓と膵臓とを区別する主要タンパク質をコードする可能性が最も高い。胚形成中、外分泌及び内分泌膵臓に向かって分化する全ての前駆細胞で発現するPdx−1(Soria Differentiation 2001;68(4−5):205−219;Huiら、Eur J Endocrinol 2002;146(2):129−141)は、正常な膵臓発生に重要な役割を果たす。実際、Pdx−1ノックアウトマウスには膵組織は存在しない。ヒトにおける機能的Pdx−1タンパク質の欠如は、膵臓の形成不全をもたらす。成人の場合、Pdx−1発現はβ細胞及び約20%のδ細胞に制限され、これは、インスリン遺伝子発現に重要な役割を果たす(Soria Differentiation 2001;68(4−5):205−219;Huiら、Eur J Endocrinol 2002;146(2):129−141)。
【0085】
他のPTFは、発生中の膵臓における内分泌細胞で選択的に発現し、内分泌細胞の運命決定に役割を果たすことができる。これらの膵転写因子は、ホメオドメインを含み、ニューロゲニン3(Ngn3)、Nkx2.2、及びNkx6.1を含む初期因子に分割することができ、これらは、より成熟した細胞に見られる内分泌前駆細胞及び後期因子(Pax4、Pax6、及びIsl−1)で共発現する(Soria Differentiation 2001;68(4−5):205−219;Wilsonら、Mech Dev 2003;120(l):65−80)。塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス(bHLH)転写因子Ngn3は、膵臓発生中に内分泌前駆細胞で一時的に発現し、Beta2/NeuroDを直接調節する。Ngn3は、多能性膵内胚葉前駆細胞で内分泌細胞の運命決定を制御する(Gradwohlら、Proc Natl Acad Sci USA 2000;97(4):1607−1611;Guら、Development 2002;129(10):2447−2457;Schwitzgebelら、Development 2000;127(16):3533−3542)。Beta2/NeuroDは、Ngn3の直接下流標的遺伝子であるbHLHタンパク質Beta2/NeuroDである。Beta2/NeuroDは、膵内分泌細胞で発現し、インスリン遺伝子転写を活性化させる。Pax4及びPax6は、発生中の腸及び成熟膵臓の両方で発現した2つのホメオドメインタンパク質であり、異なる細胞型の特定において機能する。Pax4は、インスリン産生β細胞及びソマトスタチン産生δ細胞の後期分化における主要因子である(Sosa−Pinedaら、Nature 1997;386(6623):399−402)。Pax4は、β細胞の発生中に一時的に発現し、自己調節により停止する(Sosa−Pinedaら、Nature 1997;386(6623):399−402)。マウス胚幹細胞にPax4を形質移入することで、Pdx−1形質移入細胞と比べてIPCの著しい上昇につながる(Blyszczukら、Proc Natl Acad Sci USA 2003;100(3):998−1003)。これに対し、Pax6は、グルカゴン産生α細胞の生成に必要である(St Ongeら、Nature 1997;387(6631):406−409)。Nkx2.2及びNkx6.1は、膵β細胞の発生中に機能し、類似の遺伝子発現パターンを有する(Sanderら、Genes Dev 1997;11(13):1662−1673)。Isl−1ノックアウトマウスには内分泌細胞が存在しないため、Isl−1は、膵島細胞の分化に必要である(Ahlgrenら、Nature 1997;385(6613):257−260)。
【0086】
Pdx1及びNgn3などの膵転写因子は、幹細胞又は前駆細胞が膵内分泌細胞に分化するコミットメントにおける上流制御として働き(Ahlgrenら、Nature 1997;385(6613):257−260)、尚且つ、Pax4は、内分泌前駆細胞が膵β細胞に分化する第二波のコミットメントとして働くため、これらの膵転写因子は、細胞(例:成熟細胞又は胚幹細胞)の再プログラミングに有用である。一実施形態では、インスリンを発現しない成熟細胞はインスリン産生細胞に転換される。例えば、本明細書で報告したように、膵転写因子は、肝由来細胞又は肝幹細胞からインスリン産生細胞を生成するのに使用される。一般に転写因子は、ある細胞から他へと転座する能力を持たないサイトゾルタンパク質として考えられていた。より最近では、いくつかの転写因子はパラクリンシグナリング分子として作用することが、証拠により示唆されている。そのような転写因子としては、一般に、タンパク質導入ドメインが挙げられる。PDX−1タンパク質が、膵管及び膵島細胞に形質導入できるアンテナペディア様タンパク質導入ドメインを含むことが最近報告された(Noguchiら、Diabetes 2003;52(7):1732−1737)。タンパク質工学を用いて、1つ以上のタンパク質導入ドメインを含む他の転写因子を提供することができる。
【0087】
(タンパク質導入ドメイン)
タンパク質導入ドメインは、細胞及び核膜にわたってタンパク質を転座できる短ペプチド配列であり、非定型の分泌腺や内在化経路によりサイトゾルへの侵入につながる(Joliotら、Nat Cell Biol 2004;6(3):189−196)。1988年には、Green氏とLoewenstein氏が、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)TATタンパク質、86アミノ酸タンパク質が、細胞に急速に侵入でき、細胞核にも侵入できることを発見した(Green and Loewenstein PM.Cell 1988;55(6):1179−1188)。この観察に基づいて、最小のウンデカペプチドタンパク質導入ドメイン(HIV−1 TATの47〜57残基に対応)がDowdy氏及び同僚らにより開発された(Schwarzeら、Science 1999;285(5433):1569−1572)。マウスへの腹腔内注射経由でNH2−末端TAT−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質(120kDa)をマウス組織にうまく送達するため、このウンデカペプチド配列を用いた(Schwarzeら、Science 1999;285(5433):1569−1572)。TAT−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質は生物活性を維持した。この一般的方法は、種々のタンパク質の形質導入にうまく用いられている。PTD含有ペプチド又はタンパク質は、100nM程度まで低い濃度で5分以内に細胞に取り込まれ、蛍光による直接標識か或いは抗体を用いた間接免疫蛍光により評価した。この取り込みは、エンドサイトーシス機構、膜貫通タンパク質チャネル、及びタンパク質受容体結合とは無関係である。さらに、タンパク質導入ドメイン媒介の転座は低温で起こり、強い細胞特異性を示さないことがin vitro研究により実証されている。
【0088】
(組み換えポリペプチド発現)
本発明は、広義には、対象細胞の数又は生物活性の欠乏に伴う糖尿病及び他の病気、疾患、又は損傷の治療に有用なタンパク質ベースの治療を提供する。一般に、タンパク質ベースの治療には、タンパク質導入ドメインに操作可能にリンクした転写因子を含み、タンパク質導入ドメインは、生物活性転写因子の細胞に侵入できる「分子パスポート」として作用できる。転写因子は、細胞を再プログラムするよう作用する。再プログラムされた細胞は、転写及び/又は翻訳プロファイルが変更されている、即ち、未処理の対照細胞に対して発現したものとは異なる一連のmRNA及び/又はポリペプチドを発現する。
【0089】
以下でさらに詳細に説明するように、実質的に任意の対象転写因子をタンパク質導入ドメインに融合することができ、タンパク療法に使用できる。そのような融合タンパク質は、in vitro又はin vivoで細胞に送達できるのが有利である。一実施形態では、本発明の融合タンパク質は、細胞が融合タンパク質を取り込むようにin vitroで細胞との接触に用いられる。細胞はその後、治療目的のために被験者に送達される。或いは、本発明の融合タンパク質は、細胞、組織、又は器官が融合タンパク質を取り込み、治療目的を達成するようin situで細胞、組織、又は器官に投与される。1つの有用な実施形態では、本発明の融合タンパク質は、タンパク質導入ドメインに操作可能にリンクした膵転写因子である。この融合タンパク質が肝細胞、肝幹細胞、又は他の体細胞(例:膵前駆細胞、膵幹細胞、膵島細胞、内分泌細胞、又は外分泌細胞)と接触する際に、細胞を再プログラムして、インスリン及び/又はグルカゴンを産生する。別の実施形態では、タンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子は、膵細胞(例:膵前駆細胞、膵幹細胞、膵島細胞、内分泌細胞、又は外分泌細胞)の再生能を増加させる。この再生能の増加は、一般に、高血糖症の被験者を正常血糖に回復させるように、インスリン産生の増加をもたらす。インスリン産生は、参照量(例:治療前に産生した量、又は未治療対象で産生した量)に対して少なくとも約1、2、3、4、5倍、又は少なくとも約10、12、15、又は20倍に増加させるのが望ましい。
【0090】
本発明の組み換え融合ポリペプチドは、当業者に公知の実質的に任意の方法を用いて産生される。一般に、組み換えポリペプチドは、適当な発現ビークル中でポリペプチドの全てまたは一部をコードする核酸分子又はそのフラグメントとともに、適当な宿主細胞の形質転換により産生される。分子生物学の分野の当業者であれば、組み換えタンパク質を提供するため任意の広範囲の発現系を使用できることが理解されるであろう。使用した正確な宿主細胞は、本発明にとって重要ではない。本発明のポリペプチドは、原核宿主(例:大腸菌)又は真核宿主(例:サッカロマイセス・セレヴィシエ、昆虫細胞、例:Sf21細胞、又は哺乳類細胞、例:NIH3T3、HeLa、又は好ましくはCOS細胞)で産生することができる。そのような細胞は、広範囲の供給源(例:American Type Culture Collection,Rockland,Md.;又は、例:Ausubelら、Current Protocol in Molecular Biology,New York:John Wiley and Sons,1997を参照されたい)から入手可能である。形質転換又は形質移入の方法及び発現ビークルの選択は、選択した宿主系による。形質転換及び形質移入の方法は、例えば、Ausubelら(上記)に記載されており;発現ビークルは、例えば、Cloning Vectors:A Laboratory Manual(P.H.Pouwelsら、1985,Supp.1987)に提供されるものから選択される。
【0091】
本発明のポリペプチドを産生するため種々の発現系が存在する。そのようなポリペプチドの産生に有用な発現ベクターとしては、限定的ではないが、染色体、エピソーム、及びウイルス由来のベクター、例えば、細菌プラスミド由来、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来、酵母エピソーム由来、挿入因子由来、酵母染色体因子由来のベクター;バキュロウイルス、パポバウイルス、例、SV40、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、及びレトロウイルスなどのウイルス由来のベクター;及びその組み合わせ由来のベクターが挙げられる。
【0092】
ポリペプチド産生用の1つの特定の細菌発現系は、大腸菌pET発現系(例:pET−28)(Novagen,Inc.,Madison,Wis)である。この発現系によれば、ポリペプチドをコードするDNAは、発現可能に設計された配向でpETベクターに挿入される。そのようなポリペプチドをコードする遺伝子は、T7調節シグナルの制御下であるので、ポリペプチドの発現は、宿主細胞におけるT7RNAポリメラーゼの発現を誘導することで達成される。これは、通常、IPTG誘導に応じてT7RNAポリメラーゼを発現する宿主株を用いて達成される。産生されると、組み換えポリペプチドは、その後、当該技術分野で公知の標準的方法、例えば、本明細書に記載の方法に従って単離される。
【0093】
ポリペプチド産生用の別の細菌発現系は、pGEX発現系(Pharmacia)である。この系は、機能遺伝子産物の短時間精製と短時間回収による融合タンパク質として遺伝子又は遺伝子フラグメントを多量発現するよう設計されているGST遺伝子融合系を用いる。対象タンパク質は、日本住血吸虫からのグルタチオンS−トランスフェラーゼタンパク質のカルボキシル末端に融合し、グルタチオンセファロース4Bを用いてアフィニティクロマトグラフィーにより細菌溶解物から容易に精製される。融合タンパク質は、グルタチオンで溶出することで緩やかな条件下で回収できる。融合タンパク質からグルタチオンS−トランスフェラーゼドメインを切断することは、このドメイン上流の部位特異的プロテアーゼの認識部位の存在により容易化される。例えば、pGEX−2Tプラスミドで発現したタンパク質は、トロンビンで切断され;pGEX−3Xで発現したものは、因子Xaで切断される。
【0094】
或いは、本発明の組み換えポリペプチドは、ピキア・パストリス、メチロトローフ酵母で発現する。ピキアは、唯一の炭素源としてメタノールを代謝することができる。メタノール代謝の第1ステップは、酵素、アルコールオキシダーゼによるメタノールのホルムアルデヒドへの酸化である。この酵素の発現は、AOX1遺伝子によりコードされ、メタノールにより誘導される。AOX1プロモーターは、誘導性ポリペプチド発現に使用でき、又は、GAPプロモーターは、対象遺伝子の構成的発現に使用できる。
【0095】
本発明の組み換えポリペプチドが発現すると、例えば、アフィニティクロマトグラフィーを用いて単離する。一例では、本発明のポリペプチドに対して生成した抗体(例:本明細書に記載のように産生)をカラムに結合させ、組み換えポリペプチドの単離に使用してもよい。アフィニティクロマトグラフィー前のポリペプチド内包細胞の溶解及び分画は、標準的方法(例:Ausubelら、上記を参照)により行うことができる。或いは、ニッケルカラムに結合するヘキサヒスチジンタグなどの配列タグを用いてポリペプチドを単離する。
【0096】
単離されると、組み換えタンパク質は、必要に応じて、例えば、高速液体クロマトグラフィーによりさらに精製することができる(例:Fisher,Laboratory Techniques In Biochemistry and Molecular Biology,eds.,Work and Burdon,Elsevier,1980を参照)。本発明のポリペプチド、特に短いペプチドフラグメントは、化学合成(例:Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.,1984 The Pierce Chemical Co.,Rockford,Ill.に記載の方法)によって産生することもできる。ポリペプチド発現及び精製のこれらの一般的技術は、有用なペプチドフラグメント又は類似体(本明細書に記載)の産生及び単離にも使用できる。
【0097】
(転写因子/タンパク質導入ドメイン融合ポリペプチ及び類似体)
細胞を再プログラムする能力、又は再生を誘導する能力を高めるように変性される転写因子/タンパク質導入ドメイン融合ポリペプチド又はそのフラグメントも本発明に含まれる。他の実施形態では、配列の変化によりタンパク質の溶解度又は収率が増加する。例えば、本発明は、肝由来細胞をインスリン産生細胞に再プログラムする能力を高めた変性膵転写因子融合タンパク質を提供する。他の例では、変性膵転写因子融合タンパク質は、膵細胞の再生能を増加させる。或いは、変化は、タンパク質導入ドメイン内であり、変化したドメインは、操作可能にリンクしたタンパク質の、核などの細胞又は細胞内コンパートメントへの輸送を増加させる。他の実施形態では、タンパク質導入ドメインにおける変化により、操作可能にリンクしたポリペプチドの生物活性の干渉を低下させる。
【0098】
本発明は、配列に変化を加えることで転写因子、又はタンパク質導入ドメインアミノ酸配列、若しくは核酸配列を最適化する方法を提供する。そのような変化としては、特定の突然変異、欠損、挿入、又は翻訳後修飾が挙げられる。本発明は、本発明の任意の天然ポリペプチドの類似体もさらに含む。類似体は、アミノ酸配列の違い、翻訳後修飾、或いは両方により本発明の天然ポリペプチドと異なり得る。本発明の類似体は、一般的に、本発明の天然アミノ酸配列の全てまたは一部と少なくとも85%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%、或いは99%の同一性を示す。配列比較の長さは、少なくとも5、10、15、又は20個のアミノ酸残基、好ましくは少なくとも25、50、又は75個のアミノ酸残基、より好ましくは100を超えるアミノ酸残基である。ここでも、同一性の度合いを決定する例示的手法では、密接に関連する配列を示すe−3〜e−100間の確率スコアとともに、BLASTプログラムを用いてもよい。修飾としては、ポリペプチドのin vivo及びin vitro化学誘導体化、例えば、アセチル化、カルボキシル化、リン酸化、又はグリコシル化が挙げられ;そのような修飾は、ポリペプチド合成又はプロセシング、或いは単離された修飾酵素で処理した後に起こる場合がある。類似体は、一次配列の変化により本発明の天然由来のポリペプチドと異なっていてもよい。これらには、自然変異及び誘導変異の両方の遺伝的変異を含む(例えば、Sambrook,Fritsch and Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2d ed.),CSH Press,1989,又はAusubelら、上記、に記載されている硫酸エタンメチルへの照射又は暴露によるランダム突然変異、或いは、部位特異的突然変異により生じる)。L−アミノ酸、例えば、D−アミノ酸、又は非天然由来若しくは合成アミノ酸、例えば、ベータ或いはガンマアミノ酸以外の残基を含む環化ペプチド、分子、及び類似体も含まれる。
【0099】
全長ポリペプチドに加えて、本発明は、本発明のポリペプチド又はペプチドドメインのいずれか1つのフラグメントも提供する。本明細書で使用する「フラグメント」という語は、少なくとも5、10、13、或いは15個のアミノ酸を意味する。他の実施形態では、フラグメントは、少なくとも20個の隣接アミノ酸、少なくとも30個の隣接アミノ酸、又は少なくとも50個の隣接アミノ酸であり、他の実施形態では、少なくとも60〜80、100、200、300個、又はそれ以上の隣接アミノ酸である。本発明のフラグメントは、当業者に公知の方法により生成できるか、或いは正常タンパク質プロセシング(例:新生ポリペプチドから生物活性に必要でないアミノ酸を除去、或いは代替mRNAスプライシング又は代替タンパク質プロセシングイベントによるアミノ酸の除去)によってもたらすこともできる。
【0100】
非タンパク質転写因子/タンパク質導入ドメイン融合類似体は、融合タンパク質機能活性を模倣するよう設計された化学構造を有する。そのような類似体は、本発明の方法に従って投与される。融合タンパク質類似体は、元の融合ポリペプチドの生理活性を超えていてもよい。類似体の設計方法は、当該技術分野で公知であり、類似体の合成は、得られた類似体が参照転写因子/タンパク質導入ドメイン融合ポリペプチドの再プログラミング又は再生能を増加させるように化学構造を修飾することでそのような方法に従って行うことができる。これらの化学修飾としては、限定的ではないが、代替R基の置換、及び参照融合ポリペプチドの特定炭素原子における飽和度の変化が挙げられる。融合タンパク質類似体はin vivo分解に比較的耐性があり、投与時により長い治療効果をもたらすことが好ましい。機能活性を測定するアッセイとしては、限定的ではないが、以下の実施例に記載のものが挙げられる。
【0101】
(試験化合物及び抽出物)
一般に、再プログラミング活性又は再生誘導活性をもつ融合ポリペプチドは、当該技術分野で公知の方法に従って、天然産物又は合成(又は半合成)抽出物の大型ライブラリ、又は化学ライブラリ、或いはポリペプチド若しくは核酸ライブラリから同定される。それらをコードするそのような候補ポリペプチド又は核酸分子は、タンパク質導入ドメインを含むよう修飾してもよい。修飾ポリペプチドは、その後、所望の活性に対してスクリーニングされる。創薬及び薬剤開発分野の当業者であれば、試験抽出物又は化合物の正確な供給源が本発明のスクリーニング手順(単数又は複数)にとって重要ではないことが分かるであろう。スクリーニングに用いる薬剤は、公知の化合物(例えば、他の病気又は疾患に使用される公知のポリペプチド治療)を含んでもよい。或いは、実質的に任意の数の未知の化学抽出物又は化合物は、本明細書に記載の方法を用いてスクリーニングできる。そのような抽出物又は化合物の例としては、限定的ではないが、植物抽出物、真菌抽出物、原核抽出物、又は動物性抽出物、発酵もろみ液、及び合成化合物のみならず、既存ポリペプチドの修飾も挙げられる。
【0102】
細菌、真菌、植物、及び動物抽出物の形態の天然ポリペプチドのライブラリは、Biotics(Sussex,UK)、Xenova(Slough,UK)、Harbor Branch Oceangraphics Institute(Ft.Pierce,Fla.)、及びPharmaMar,U.S.A.(Cambridge,Mass.)を含む多くの供給源から市販されている。そのようなポリペプチドは、当該技術分野で公知の方法及び本明細書に記載の方法を用いてタンパク質導入ドメインを含むよう修飾することができる。さらに、天然及び合成的に産生したライブラリは、必要に応じて、当該技術分野で公知の方法に従って、例えば、標準的抽出及び分画方法により生成される。分子ライブラリの合成方法の例は、当該技術分野、例えば、DeWittら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909,1993;Erbら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11422,1994;Zuckermannら、J.Med.Chem.37:2678,1994;Choら、Science 261:1303,1993;Carrellら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059,1994;Carellら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061,1994;及びGallopら、J.Med.Chem.37:1233,1994に記載されている。さらに、必要に応じて、任意のライブラリ又は化合物は、標準的な化学的方法、物理的方法、又は生化学的方法を用いて容易に修飾される。
【0103】
任意の数のポリペプチド、限定的ではないが、サッカリド−、脂質−、ペプチド−、及び核酸−ベース化合物を含む化合物の無作為又は有向合成(例:半合成、又は全合成)を生成するための多数の方法も利用可能である。合成化合物ライブラリは、Brandon Associates(Merrimack,N.H.)及びAldrich Chemical(Milwaukee,Wis.)から市販されている。或いは、候補化合物として使用される化合物は、当業者に公知の標準的な合成技術及び方法論を用いて容易に入手可能な出発原料から合成できる。本明細書に記載の方法により同定された化合物の合成に有用な合成化学変換及び保護基方法論(保護及び脱保護)は、当該技術分野で公知であり、例えば、R.Larock,Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers(1989);T.W.Greene and P.G.M.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,2nd ed.,John Wiley and Sons(1991);L.Fieser and M.Fieser,Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1994);及びL.Paquette,ed.,Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1995)、並びにそれらのその後の版に記載のものが挙げられる。
【0104】
化合物のライブラリは、溶液中に(例:Houghten,Biotechniques 13:412−421,1992)、又はビーズ上に(Lam,Nature 354:82−84,1991)、チップ上に(Fodor,Nature 364:555−556,1993)、細菌上に(Ladner,米国特許第5,223,409号)、胞子上に(Ladner,米国特許第5,223,409号)、プラスミド上に(Cullら、Proc Natl Acad Sci USA 89:1865−1869,1992)、或いはファージ上に(Scott and Smith,Science 249:386−390,1990;Devlin,Science 249:404−406,1990;Cwirlaら、Proc.Natl.Acad.Sci.87:6378−6382,1990;Felici,J.Mol.Biol.222:301−310,1991;Ladner,上記)存在していてもよい。
【0105】
さらに、創薬及び薬剤開発の当業者であれば、活性がすでに公知の材料の複製物若しくは反復の脱複製(例:分類的脱複製、生物学的脱複製、及び化学的脱複製、又はその任意の組み合わせ)又は脱離する方法を可能であればいつでも使用すべきであることは容易に理解されるであろう。
【0106】
粗抽出物が再プログラミング又は再生誘導活性を有することが分かった場合、観測結果に関与する分子成分を単離するためポジティブリード抽出物のさらなる分画が必要である。従って、抽出、分画、及び精製プロセスの目標は、細胞(例:成熟細胞又は胚幹細胞)を再プログラムする、又は再生を高める粗抽出物の化学物質を注意深く特性化し、同定することである。そのような異種抽出物を分別及び精製する方法は、当該技術分野で公知である。必要に応じて、治療に有用であることを示す化合物は、当該技術分野で公知の方法に従って化学的に修飾される。
【0107】
(治療方法)
本発明は、細胞数の欠乏(例:膵細胞数の減少)又は細胞生物活性の不足(例:インスリン産生の欠乏)に伴う病気及び疾患の治療を提供する。例えば、本発明は、膵細胞を産生するインスリン数又はインスリン活性の低下により十分な量のインスリンが不足している糖尿病患者を治療する組成物を提供する。細胞数の欠乏に伴う多くの病気は、細胞死の増加により特徴づけられる。そのような病気としては、限定的ではないが、神経変性疾患、発作、心筋梗塞、又は虚血損傷が挙げられる。外傷に伴う損傷は、損傷を受けている領域で細胞数の欠乏をももたらし得る。本発明の方法は、欠乏を補完できる細胞(例:心筋細胞、神経細胞、インスリン発現細胞)を生成することでそのような病気、疾患、又は損傷を改善する。そのような細胞は、細胞を対象細胞型に再プログラミングすること(例:肝細胞をインスリン産生細胞に再プログラミング)、或いは細胞、組織、又は器官の再生を促進させることで生成される。一般に、本発明は、細胞(例:脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞)をタンパク質導入ドメインに融合したか或いはそれを含む転写因子ポリペプチド又はそのフラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;細胞における少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれ以上のポリペプチドの発現量を変化させる工程とを含み、それにより細胞を再プログラミングする、細胞の再プログラミング方法を提供する。
【0108】
一実施形態では、細胞数の欠乏を改善するため、タンパク質導入ドメインを含む融合ポリペプチド又はポリペプチドをin situで細胞、組織、又は器官に投与する。或いは、ポリペプチドをin vitroで細胞に投与し、次いで、ポリペプチドを含む細胞(又はそれらをコードする核酸分子)を病気、疾患、又は損傷を改善するよう患者に投与する。十分なレベルのタンパク質が病気又は疾患を改善するため形質導入されるように、細胞に取り込むことができる形でポリペプチドをこれらの細胞に送達する。一実施形態では、治療用のポリペプチド又は融合ポリペプチドは、再生の増加或いは細胞の再プログラミングが望まれる部位に局所送達される。投与は、十分なレベルの細胞導入をもたらすのに十分な任意の手段であってよい。特定の形質導入レベルは達成すべき治療目的に応じて変わるが、組織の細胞の少なくとも2、5、10、又は15%が形質導入されるのが望ましい。他の実施形態では、少なくとも25%、35%、又は50%の細胞が形質導入される。さらに別の実施形態では、少なくとも75%、85%、95%、又はそれ以上の細胞が形質導入される。ポリペプチドのレベルは、少なくとも約5%、10%、25%、50%、75%、又はそれ以上を変化させるのが好ましい。
【0109】
種々の実施形態では、融合ポリペプチドは、手術条件下で持続注入又はミクロ注入によって、病気又は損傷の部位に局所注射により投与される(Wolffら、Science247:1465,1990)。他の実施形態では、融合ポリペプチドは、細胞の再生又は再プログラミングにより改善できる、細胞数が欠乏している患者の組織又は器官に全身的に投与される。
【0110】
別の手法では、患者の罹患組織への細胞導入は、ex vivoで本発明の融合ポリペプチドを培養可能細胞型(例:自己又は異種初代細胞又はその子孫細胞)に移すことで達成され、その後、病気又は損傷部位標的組織に細胞(又はその子孫)を注入する。いくつかの実施形態では、細胞は、それらの生存、繁殖、又は生物活性を提供する細胞基質に存在する。本発明に含まれる別の治療手法は、組み換え治療用融合ポリペプチド、生物活性フラグメント、又はその変異体の投与を伴う。
【0111】
本発明は、本明細書に記載の式の化合物を含む医薬組成物の治療有効量を被験者(例:ヒトなどの哺乳類)に投与することを含む、病気及び/又は疾患、若しくはその症状を治療する方法を提供する。従って、1つの実施形態は、細胞数の欠乏により特徴づけられる病気又は疾患若しくはその症状をかかえている又はこれらを起こしやすい被験者を治療する方法である。本方法は、病気又は疾患を治療する条件下で、病気又は疾患若しくはその症状を治療するのに十分な量の本発明の組成物の治療量を哺乳類に投与する工程を含む。
【0112】
他の実施形態では、本発明の治療用ポリペプチドは、感染及び安定した組込み並びに発現が特に高効率であるため、体細胞遺伝子治療に用いられるウイルス(例:レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)ベクターで形質導入した細胞で産生される(例:Cayouetteら、Human Gene Therapy 8:423−430,1997;Kidoら、Current Eye Research 15:833−844,1996;Bloomerら、Journal of Virology 71:6641−6649,1997;Naldiniら、Science 272:263−267,1996;及びMiyoshiら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:10319,1997を参照されたい)。例えば、本発明の治療用タンパク質をコードする核酸分子又はその一部はレトロウイルスベクターにクローン化でき、発現は、その内因性プロモーターから、レトロウイルス長末端反復から、又は対象となる標的細胞型に特異的なプロモーター(例:中枢神経系の細胞)から駆動できる。使用できる他のウイルスベクターとしては、例えば、ワクシニアウイルス、ウシパピローマウイルス、又はエプスタイン−バーウイルスなどのヘルペスウイルスが挙げられる(例えば、the vectors of Miller,Human Gene Therapy 15−14,1990;Friedman,Science 244:1275−1281,1989;Eglitisら、BioTechniques 6:608−614,1988;Tolstoshevら、Current Opinion in Biotechnology 1:55−61,1990;Sharp,The Lancet 337:1277−1278,1991;Cornettaら、Nucleic Acid Research and Molecular Biology 36:311−322,1987;Anderson,Science 226:401−409,1984;Moen,Blood Cells 17:407−416,1991;Millerら、Biotechnology 7:980−990,1989;Le Gal La Salleら、Science 259:988−990,1993;及びJohnson,Chest 107:77S−83S,1995も参照されたい)。レトロウイルスベクターは特に十分に開発されており、臨床設定に使用されている(Rosenbergら、N.Engl.J.Med 323:370,1990;Andersonら、米国特許第5,399,346号)。対象遺伝子に全身的に投与するため、或いは細胞の再プログラミング又は再生の増加を必要とする部位で細胞に投与するため、ウイルスベクターを用いるのが最も好ましい。
【0113】
本明細書に記載の方法は、そのような効果を生むため、本明細書に記載の融合ポリペプチド又は本明細書に記載の組成物の有効量を被験者(そのような治療を必要とすると見なされた被験者を含む)に投与することを含む。そのような治療を必要とする被験者の同定は、被験者又は医療専門家の判断であってよく、主観的(例:意見)又は客観的(例:試験又は診断法により測定可能)であってもよい。
【0114】
本発明の治療方法(予防的治療を含む)は、一般に、本明細書に記載の式の化合物などの本明細書に記載の化合物の治療有効量を、哺乳類、特にヒトを含む、それを必要とする被験者(例:動物、ヒト)に投与することを含む。そのような治療は、病気、疾患、又はその症状をかかえている、有している、起こしやすい、又はそれらのリスクがある被験者、特にヒトに適当に投与される。「リスクがある」これら被験者の決定は、診断試験又は被験者若しくは医療提供者の意見(例:遺伝子検査、酵素又はタンパク質マーカー、マーカー(本明細書で定義される)、家族歴等)による任意の客観的又は主観的判断であってよい。本明細書に記載の組成物は、細胞数の欠乏に関係があり得る任意の他の疾患の治療に使用してもよい。
【0115】
一実施形態では、本発明は、治療の進捗をモニタリングする方法を提供する。本方法は、細胞数の欠乏に伴う疾患又はその症状をかかえている又は起こしやすい被験者に、診断用マーカー(マーカー)(例:本明細書に記載の化合物により調節され本明細書で明確に記載した任意の標的、そのタンパク質若しくは指標等)のレベル、又は診断測定(例:スクリーニング、アッセイ)を決定する工程を含み、ここで、被験者には、病気又はその症状の治療に十分な本明細書に記載の化合物の治療量が投与されている。本方法で決定したマーカーレベルは、被験者の疾病状態を確立するため、健康な正常対照又は他の罹患患者の公知のマーカーレベルと比較できる。好適な実施形態では、被験者の第2マーカーレベルは、第1レベルの決定よりも後の時点で決定され、2つのレベルは、病気の経過、或いは治療の有効性をモニタリングするため比較される。特定の好適な実施形態では、被験者の治療前のマーカーレベルは、本発明による治療を開始する前に決定され;この治療前のマーカーレベルは、その後、治療の有効性を決定するため、治療開始後の被験者のマーカーレベルと比較することができる。
【0116】
(膵転写因子ポリヌクレオチド治療)
本発明はさらに、通常、そのようなタンパク質を発現しない細胞、組織、又は器官で膵転写因子を持続的に発現する方法を提供する。必要に応じて、ウイルスベクター(例:アデノ随伴ウイルスベクター)は、Pdx−1及び/又はNeuroDポリペプチド、或いは融合ポリペプチド(例:PTD−Pdx−1、PTD−NeuroD)を持続的に発現するために用いられる。そのようなウイルスベクターは、必要に応じて、本発明の融合ポリペプチドと組み合わせて投与してもよい。膵転写因子及びタンパク質導入ドメインを含む融合ポリペプチドは、細胞に一時的にしか存在しないのに対して、アデノ随伴ウイルスベクターで発現したポリペプチド又は融合ポリペプチドは、持続的に発現されるので有利である。Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、又はMafAタンパク質、変異体、又はそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド(例:AAV−2ベクターなどのAAV発現ベクター)を特徴とするポリヌクレオチド治療は、高血糖を治療する1つの治療手法である。そのような核酸分子は、高血糖(例:1型又は2型糖尿病に関連する高血糖)を有する被験者の細胞に送達できる。核酸分子は、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、又はPax6、若しくはそのフラグメントなどの膵転写因子を治療に有効なレベルで産生できるよう、被験者の細胞に取り込まれる形で被験者の細胞に送達されなければならない。膵島−1、Pdx1、neuroD、Nkx6.1、又はMafAポリペプチド(例:PTD融合ポリペプチド)の持続的発現は、1週間、2週間、3週間よりも長く、又は1、3、6、又は12ヵ月間よりも長く有効レベルで維持されるのが好ましい。必要に応じて、膵転写因子の持続的発現は、一時的に存在するNgn3及び/又はPax4ポリペプチド(例:PTD融合ポリペプチド)と組み合わせられる。
【0117】
形質導入ウイルス(例:レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)ベクターは、感染及び安定した組込み並びに発現が特に高効率であるため、体細胞遺伝子治療に用いることができる(例:Cayouetteら、Human Gene Therapy 8:423−430,1997;Kidoら、Current Eye Research 15:833−844,1996;Bloomerら、Journal of Virology 71:6641−6649,1997;Naldiniら、Science 272:263−267,1996;及びMiyoshiら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:10319,1997を参照されたい)。例えば、膵転写因子タンパク質、変異体、又はそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、レトロウイルスベクターにクローンすることができ、発現は、その内因性プロモーターから、レトロウイルス長末端反復から、又は対象の標的細胞型に特異的なプロモーターから駆動できる。使用できる他のウイルスベクターとしては、例えば、ワクシニアウイルス、ウシパピローマウイルス、又はエプスタイン−バーウイルスなどのヘルペスウイルスが挙げられる(例えば、the vectors of Miller,Human Gene Therapy 15−14,1990;Friedman,Science 244:1275−1281,1989;Eglitisら、BioTechniques 6:608−614,1988;Tolstoshevら、Current Opinion in Biotechnology 1:55−61,1990;Sharp,The Lancet 337:1277−1278,1991;Cornettaら、Nucleic Acid Research and Molecular Biology 36:311−322,1987;Anderson,Science 226:401−409,1984;Moen,Blood Cells 17:407−416,1991;Millerら、Biotechnology 7:980−990,1989;Le Gal La Salleら、Science 259:988−990,1993;及びJohnson,Chest 107:77S−83S,1995も参照されたい)。レトロウイルスベクターは特に十分に開発され、臨床設定に使用されている(Rosenbergら、N.Engl.J.Med 323:370,1990;Andersonら、米国特許第5,399,346号)。一実施形態では、肝臓又は肝葉にポリヌクレオチドを投与するため、アデノ随伴ウイルスベクター(例:血清2型)を使用する。
【0118】
高血糖の調節を必要とする患者の細胞への治療的導入に非ウイルス手法を使用することもできる。例えば、リポフェクションの存在下での核酸投与(Feignerら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.84:7413,1987;Onoら、Neuroscience Letters 17:259,1990;Brighamら、Am.J.Med.Sci.298:278,1989;Staubingerら、Methods in Enzymology 101:512,1983)、アシアロオロソムコイド−ポリリジン接合(Wuら、Journal of Biological Chemistry 263:14621,1988;Wuら、Journal of Biological Chemistry 264:16985,1989)、又は手術条件下でのミクロ注入(Wolffら、Science 247:1465,1990)により核酸分子を細胞に導入することができる。一実施形態では、核酸は、リポソーム及びプロタミンと組み合わせて投与される。
【0119】
遺伝子導入は、in vitroでの形質移入を伴う非ウイルス手段を用いて達成することもできる。そのような方法としては、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、エレクトロポレーション、及び原形質融合の使用が挙げられる。リポソームは、細胞へのDNA送達にも潜在的に有益であり得る。患者の罹患組織に正常遺伝子を移植することは、ex vivoで正常核酸を培養可能細胞型(例:自己又は異種の初代細胞、又はその子孫)に移動することでも達成でき、その後、その細胞(又はその子孫)を標的組織に注入する、或いはカニューレ経由で送達する。
【0120】
ポリヌクレオチド治療方法で使用されるcDNA発現は、任意の適当なプロモーター(例:ヒトサイトメガロウイルス(CMV)、シミアンウイルス40(SV40)、又はメタロチオネインプロモーター)から指令することができ、任意の適当な哺乳動物調節要素により調節できる。例えば、必要に応じて、特定の細胞型(例:肝細胞、肝幹細胞、又は他の肝由来細胞)で遺伝子発現を選択的に指令することが知られているエンハンサーを核酸の発現を指令するのに使用することができる。使用されるエンハンサーとしては、限定的ではないが、組織特異的又は細胞特異的エンハンサーとして特徴づけられるものが挙げられる。或いは、ゲノムクローンを治療構築として用いる場合、同族の調節配列により、或いは、必要に応じて、上述の任意のプロモーター又は調節要素を含む異種源由来の調節配列により、調節を媒介させることができる。
【0121】
本発明に含まれる別の治療手法は、潜在的に或いは実際に病気に罹患している組織の部位、ポリペプチドが治療効果をもつ器官に直接的、或いは全身的(任意の従来の組み換えタンパク質投与技術により)のいずれかで、組み換え膵転写因子タンパク質又は融合タンパク質、変異体、若しくはそのフラグメントなどの組み換え治療薬の投与を伴う。投与されるタンパク質の投与量は、個々の患者の大きさ及び健康を含む多くの要因による。任意の特定の被験者において、特定の投与計画は、個人のニーズ、及び組成物を投与する、又は組成物の投与を監督管理する者の専門的な判断に従って経時的に調整すべきである。
【0122】
(ポリペプチド及びポリヌクレオチド治療薬)
本発明は、細胞数又は生物活性の欠乏により特徴づけられる病気又は疾患を治療する治療薬として作用可能な組成物(膵転写因子、タンパク質導入ドメイン/融合ポリペプチド、そのフラグメント、そのようなタンパク質、ペプチド、小分子阻害剤、及び模倣剤などをコードする核酸分子を含む)を同定する簡素な手段を提供する。従って、細胞を別の細胞型に再プログラミングする、或いは再生を促進させることで薬理効果をもつことが判明した転写因子、又は他の薬剤などのポリペプチドは、本明細書に記載の方法を用いて識別される。そのようなポリペプチドは、治療薬として、或いは、例えば、合理的薬物設計によって既存のポリペプチドの構造的修飾に対する情報として有用である。そのような方法は、対象細胞型の欠乏により特徴づけられる種々の病気に効果がある薬剤のスクリーニングに有用である。
【0123】
治療上の使用において、本明細書に開示されている方法を用いて同定された融合ポリペプチドは、例えば、生理食塩水などの薬学的に許容される緩衝剤中に調合して、全身的に投与することができる。好適な投与経路としては、例えば、患者において継続的で持続的な薬物レベルをもたらす皮下、静脈、腹腔内、筋肉内、又は皮内注射が挙げられる。ヒト患者又は他の動物の治療は、生理学的に許容される担体中にポリペプチド又は核酸分子治療薬の治療有効量を用いて行われる。適当な担体及びそれらの製剤は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences by E.W.Martin.に記載されている。投与される治療薬の量は、投与方法、患者の年齢及び体重、並びに細胞の欠乏の臨床症状に応じて変わる。一般に、量は、他の病気の治療に用いられる他の治療用ポリペプチド又はタンパク療法薬剤に用いられる範囲である。一実施形態では、本発明の融合ポリペプチドは、当業者に公知の診断法によって、或いは標的遺伝子の発現など膵転写因子ポリペプチドの発現若しくは生物活性を測定する任意のアッセイを用いて判断された高血糖の臨床又は生理的症状を制御する量で投与される。一実施形態では、本発明の組成物は、少なくとも約1〜5mg/Kg体重若しくは少なくとも約5μg/g体重、0.1mg/20g体重、又は1mg/20gの有効量で投与される。他の実施形態では、少なくとも約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、又は20mg/kgの本発明のポリペプチド治療薬を投与する。
【0124】
(医薬組成物の製剤)
細胞数の欠乏により特徴づけられる病気、疾患、又は損傷を治療する本発明の組成物の投与は、他の成分と組み合わせて、病気の改善、軽減、又は安定化に有効な治療薬の濃度をもたらす任意の適当な手段によることができる。例えば、被験者の血糖値を低下させる又は正常化する量である。治療用のポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はそのような薬剤を含む細胞は、任意の適当な担体物質中に任意の適当な量で含まれていてもよく、一般に、組成物の総重量の1〜95重量%の量で存在する。組成物は、非経口(例:皮下内、静脈内、筋肉内、又は腹腔内)投与経路に適当な剤形で提供してもよい。医薬組成物は、従来の薬務に従って製剤化することができる(例:Remington:The Science and Practice of Pharmacy(20th ed.),ed.A.R.Gennaro,Lippincott Williams & Wilkins,2000 and Encyclopedia of Pharmaceutical Technology,eds.J.Swarbrick and J.C.Boylan,1988−1999,Marcel Dekker,New Yorkを参照されたい)。ポリペプチドの半減期を延長させる、吸収を増加させる、或いは持続放出をもたらすように、ポリペプチドを修飾又は製剤化できるのが望ましい
【0125】
本発明による医薬組成物は、実質的に投与後直ちに、又は投与後任意の所定時間若しくは期間で活性化合物を放出するように製剤化することができる。後者のタイプの組成物は、徐放製剤として一般的に知られており、(i)長時間にわたって体内の薬物濃度を実質的に一定にする製剤;(ii)所定の遅延時間後に長時間にわたって体内の薬物濃度を実質的に一定にする製剤;(iii)有効物質の血漿レベルの変動(鋸歯状の速動パターン)に伴う望ましくない副作用を付随的に最小限にしながら、体内で比較的一定の有効レベルを維持することで所定時間にわたって作用を持続する製剤;(iv)例えば、腹膜腔近傍に、又は腹膜腔内に、或いは組成物の分布が望まれる別の部位で徐放組成物を空間配置することで作用を局所化する製剤;(v)例えば、1、2日ごとに一回、又は1、2週間ごとに一回用量を投与するように便利な投薬が可能な製剤;及び(vi)病気、疾患、又は損傷をもつ被験者において機能が損傷されている特定の細胞型(例:肝細胞又は膵細胞)に治療薬を送達するよう、担体又は化学的誘導体を用いて病気、疾患、又は損傷を標的にする製剤が挙げられる。いくつかの用途では、徐放製剤により、血漿レベルを治療レベルに維持するため日中に頻回投与を行う必要性をなくす。
【0126】
放出率が当該化合物の代謝率を上回る徐放を得るために、任意の多くの戦略を遂行することができる。一例では、例えば、種々のタイプの徐放組成物及び剤皮を含む種々の製剤パラメータ及び成分の適切な選択により徐放が得られる。従って、治療薬は、投与時に治療薬を制御しながら放出する医薬組成物中に適切な賦形剤とともに製剤化される。例としては、単一ユニット又は複数ユニットの錠剤又はカプセル剤の組成物、油剤、懸濁剤、乳剤、マイクロカプセル剤、マイクロスフェア剤、分子錯体、ナノ粒子、パッチ、及びリポソームが挙げられる。
【0127】
必要に応じて、本発明の治療用組成物は、対象細胞の再生を高める、或いは、対象細胞の再プログラミングを高める他の薬剤とともに提供される。一実施形態では、薬剤は、可溶性増殖因子などの増殖因子である。例えば、治療用のポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はそのような薬剤を含む細胞は、PDGF、EGF、VEGF、bFGF、HGF、NGF、KGFなどの可溶性増殖因子とともに提供される、或いは、ニコチンアミド、エキセンジン4、GLP−1、ベータセルリン、膵島新生関連タンパク質(INGAP)、又はグレリンなどのβ細胞促進因子とともに提供される。
【0128】
(送達方法)
医薬組成物は、剤形で、製剤で、又は適当な送達装置経由で、或いは従来の非毒性の薬学的に許容される担体及びアジュバントを含む移植で、注射、注入、又は移植(皮下、静脈、筋肉内、腹腔内等)により投与することができる。一実施形態では、本発明の治療用組成物は、浸透圧ポンプ経由で提供される。そのような組成物の製剤及び調製物は、医薬製剤の当業者には公知である。製剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,上記、で見つけることができる。
【0129】
非経口用の組成物は、ユニット剤形(例:単回投与アンプル)で、或いは、数用量を含み、かつ、適当な保存料を添加してもよいバイアル(以下参照)で提供することができる。組成物は、溶液剤、懸濁剤、乳剤、注入装置、又は移植用の送達装置の形であってもよく、或いは、使用前に水又は別の適当な賦形剤で戻される乾燥粉末として提供してもよい。活性ポリペプチド治療薬(単数又は複数)とは別に、組成物は、適当な非経口的に許容できる担体及び/又は賦形剤を含んでもよい。活性ポリペプチド治療薬(単数又は複数)は、徐放用の浸透圧ポンプ、マイクロスフェア剤、マイクロカプセル剤、ナノ粒子、リポソーム等に組み込んでもよい。さらに、組成物は、懸濁化剤、可溶化剤、安定剤、pH調整剤、毒性調整剤、及び/又は分散剤を含んでもよい。
【0130】
前述のように、本発明による医薬組成物は、滅菌注射に適当な形であってもよい。そのような組成物を調製するため、適当な活性融合ポリペプチド治療薬(単数又は複数)を非経口的に許容できる液体賦形剤中に溶解若しくは懸濁させる。使用してもよい許容可能な賦形剤及び溶媒としては、水;塩酸、水酸化ナトリウム、又は適当な緩衝剤を適量加えることで適当なpHに調整した水;1,3−ブタンジオール;リンゲル液;及び等張食塩水;並びにデキストロース溶液がある。水性製剤は、1つ以上の保存料(例:p−ヒドロキシ安息香酸メチル、エチル、又はn−プロピル)を含んでもよい。化合物の1つが水に難溶性であるか又は僅かに可溶性である場合、溶解促進剤又は可溶化剤を添加することができ、或いは、溶媒には、10〜60%w/wのプロピレングリコール等を含んでもよい。
【0131】
一実施形態では、本発明の治療用組成物(例:ポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はそのような薬剤を含む細胞)は、カニューレ経由で局所的に提供する。例えば、肝由来細胞をインスリン産生細胞に再プログラミングするため、本発明の組成物を門脈経由で肝臓に提供する。肝葉の1つのみがインスリン産生細胞を含むように、門脈の3本の分枝の1本のみに組成物を提供すること(例:カニューレ経由)で、組成物を単一の肝葉に特異的に向けるのがより好ましい。他の実施形態では、本発明の組成物を浸透圧ポンプ経由で提供する。浸透圧ポンプは、1〜3日間、3〜5日間、5〜7日間、又は、2、3、4、又は5週間にわたって組成物の徐放をもたらすのが望ましい。
【0132】
(併用療法)
本発明の組成物は、必要に応じて、タンパク療法の有効性のモニタリングを助けるため検出可能に標識された融合タンパク質を含む本発明の任意の他のポリペプチド又はポリヌクレオチド治療薬と組み合わせて、或いは当該技術分野で公知の任意の従来の治療薬と組み合わせて送達することができる。一実施形態では、タンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子などの本発明の融合ポリペプチドは、糖尿病被験者の高血糖を低下させるのに使用する。この治療効果は、治療方法が患者のインスリン依存を完全に除かなくても望ましいものである。従って、本発明の融合ポリペプチドは、高血糖又はその症状若しくは合併症を緩和するためインスリンとともに投与してもよい。本発明の治療用融合ポリペプチドは、患者のインスリン依存を少なくとも約5、10、又は15%低下させるのが望ましく、少なくとも約20%、25%、或いは30%低下させるのがより望ましく、又は50%、75%、85%、或いはそれ以上低下させるのがさらにより望ましい。他の実施形態では、ポリペプチド治療薬は、本発明のポリヌクレオチド(例:膵転写因子又は融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド)と組み合わせる。他の実施形態では、本発明の組成物は、血糖値を低減及び/又は正常化するため、食事、減量、又は経口、注射用、経鼻、若しくは他のインスリン療法と組み合わせて使用する。本発明の組み合わせは、一緒に製剤化し、同時投与してもよく、或いは、互いに24時間以内、2、3、又は5日間以内、或いは、1、2、3、又は5週間以内に投与してもよい。
【0133】
(キット又は医薬システム)
本発明の組成物は、高血糖の改善に使用されるキット又は医薬システムに組み付けてもよい。本発明のこの態様によるキット又は医薬システムは、バイアル、チューブ、アンプル、ボトルなどの1つ以上の容器手段で密閉した箱、厚紙、チューブなどの運搬手段を含む。本発明のキット又は医薬システムには、本発明の薬剤を使用するための関連取扱説明書も含んでよい。
【0134】
本発明の実施には、特に指示がない限り、当業者の十分な範囲内である分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来技術を用いる。そのような技術は、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,second edition(Sambrook,1989);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait,1984);「Animal Cell Culture」(Freshney,1987);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir,1996);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller and Calos,1987);「Current Protocols in Molecular Biology」(Ausubel,1987);「PCR:The Polymerase Chain Reaction」,(Mullis,1994);「Current Protocols in Immunology」(Coligan,1991)などの文献に十分に説明されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの産生に適用が可能であり、従って、本発明を作成及び実施することが考えられる。特定の実施形態において特に有用な技術を以下のセクションで説明する。
【0135】
(実施例)
本明細書に記載の研究は、タンパク質導入ドメイン(PTD)膵転写因子(PTF)融合タンパク質を含むタンパク質導入ドメイン融合タンパク質の治療的使用及び/又は予防的使用を提供する。一実施形態では、PTD−PTF融合タンパク質は、肝細胞の膵内分泌前駆細胞又は他のインスリン産生細胞への再プログラミング又は分化転換を指令するのに用いる。本発明のPTD−PTFは、糖尿病被験者の高血糖を低下させるのに用いる。簡単に要約すれば、本発明は、11アミノ酸TATタンパク質導入ドメイン(PTD)の有無によらずPTF融合遺伝子(Pdx1、Pdx1−VP16、Ngn3、及びPax4)をコードする構築物を提供する。これらの構築物は、in vivoで生物活性があるPTD−Ngn3、Ngn3、及びPax4融合タンパク質の産生及び精製に使用されている。本発明は、細胞又は分子レベルで生じる分化転換事象の分析に使用する色分けされたレポーターPTF遺伝子を含む、分化転換プロセスをモニタリングする組成物及び方法を提供する。細胞移植後、機能膵β細胞様インスリン産生細胞にその後成熟し、尚且つ、糖尿病マウスを正常血糖に回復させる肝由来膵前駆体に肝細胞を再プログラミングする実現性は、糖尿病マウスで膵転写因子−トランス遺伝子発現のウイルス媒介発現によって支持されている。本発明のNgn3及びPax4融合タンパク質は、本明細書に記載の細胞に一時的にのみ存在するので有利である。この過渡的な存在は、肝由来グルコース調節の完全に機能的なインスリン産生細胞の生成に十分なものである。
【0136】
本明細書に記載の研究により、本発明が、Ngn3及びPax4の持続的発現を提供する方法を上回る特定の利点を提供することが示唆される。特に、持続的なレンチウイルス媒介のNgn3発現により、肝細胞の細胞周期停止とアポトーシスが引き起こされたのに対して、Pdx1−VP16−発現IPCにおける持続的なLV媒介のPax4発現は、深刻な低血糖をもたらし、移植マウスは死亡した。
【0137】
実施例1:タンパク質導入ドメイン含有Ngn3融合タンパク質(PTD−Ngn3)。
例示のタンパク質導入ドメイン(PTD)含有融合タンパク質の構造を図1Bに概略的に示す。種々のドメインの配向を1つの特定の構成で示しているが、これは一例として単に提供するものである。他の組み合わせ及び構成は、本発明の範囲内である。特に、PTDドメインは、カルボキシ又はアミノ末端位であってもよく、或いはポリペプチド内の任意の他の位置であってもよい。
【0138】
PTD−Ngn3−V5−His−tag又はNgn3−V5−His−tag融合タンパク質をpCR T7/CT−TOPO発現プラスミド(Invitrogen)を用いて生成した。抗His−tag抗体は多くのヒスチジンリッチタンパク質も認識するため、pCR T7/CT−TOPOプラスミドはV5エピトープもコードし、高品質な市販の抗V5抗体を用いて組み換えタンパク質の選択的検出という利点を提供する。簡単に要約すれば、PTD(YGRKKRRQRRR)配列を含むプライマーをもつPCR産物を生成するため、マウスNgn3の全読み取り枠をコードするcDNAを用いた(全てのPCR産物は、University of Florida DNA Core Facilityでの配列決定により確認された)。PTD−Ngn3及びNgn3 PCR産物を発現プラスミド、pCR T7/CT−TOPOプラスミド(Invitrogen)にクローンすることで、V5及びhis標識融合タンパク質の生成を可能にした。得られたベクターは、pCR−PTD−Ngn3−V5−His又はpCR−Ngn3−V5−His(PTD−マイナス対照)と称する。最終cDNAは、ペプチド配列を以下の順:PTD(11aa)−Ngn3(214aa)−V5エピトープ(14aa)−His−tag(6aa)にコードする。得られた融合タンパク質は、Ngn3の生物学的機能を保持していた。
【0139】
特定のタンパク質導入ドメイン(PTD)含有融合タンパク質を説明しているが、当業者であれば、本発明がさほど限定されないことが理解されるであろう。各ドメインの位置は、例えば、宿主細胞におけるタンパク質の生物活性、形質導入、溶解度、又は発現を向上させるように変更することができる。例えば、PTDドメインは、ポリペプチドのカルボキシ又はアミノ末端で存在してもよく、或いは、分子内のどこの位置に配置されてもよい。
【0140】
実施例2:PTD−Ngn3−V5−His融合タンパク質の産生及び精製。
所望の融合タンパク質を産生するため、プラスミドpCR−PTD−Ngn3−V5−His又はpCR−Ngn3−V5−Hisで形質転換した大腸菌BL21(DE3)細胞をアンピシリン(100μg/ml)含有LB培地中で37℃でOD6000.5(対数期の中間部)に増殖させた。4時間かけて0.5mMのイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を加えることで、融合タンパク質の発現を誘導した。誘導細胞を回収し、リシス緩衝液(Invitrogen)中で超音波処理により溶解させた。可溶性のPTD−Ngn3又はNgn3融合タンパク質をNi−NTAアガロースカラム(Invitrogen)を用いて精製した後、製造者取扱説明書に従ってPD10カラム(Amersham)で脱塩した。精製タンパク質をクマシーブルー染色により(図2A及び2C)視覚化し、抗V5抗体でウエスタンブロット分析により確認した(図2B)。タンパク質を10%グリセロールを含むPBS中でアリコートし、使用するまで−80℃で保存した。精製したPTD−Ngn3とNgn3融合タンパク質(図2C)には、分子量に僅かな差があることを示す(図2C)。
【0141】
実施例3:PTDドメイン含有むNgn3融合タンパク質の機能的特性。
PTD融合タンパク質が細胞に侵入する能力を評価するため、時間経過のPTD−Ngn3形質導入を実施した。ラット肝上皮幹様クローン細胞株であるWB細胞(Tsaoら、Exp.Cell Res.,154,38−52,1984)を精製PTD−Ngn3融合タンパク質(0.2μM)を含む培地で種々の期間インキュベートし、PBSで3回洗浄し、2×SDS試料緩衝液中で回収した。PTD−Ngn3−V5融合タンパク質を抗V5抗体でウエスタンブロット法により検出した(図3A)。この分析結果により、PTDドメインにより媒介されたタンパク質形質導入は2時間でピークに達したことが実証された。このプロセスを視覚化するため、製造者取扱説明書(Pierce)に従って精製PTD−Ngn3融合タンパク質をFITCで標識した。PTD−Ngn3−V5−*FITCを最終濃度0.2μMで2時間かけてWB細胞に加えた。PTDが欠如しているNgn3融合タンパク質は、細胞に侵入しなかった。図3Bは、>70%の細胞が細胞質及び核の両方にFITC標識融合タンパク質を含有したことを示す。細胞培養培地中のPTD−Ngn3融合タンパク質の安定性を判断するため、融合タンパク質(0.2μM)をWB細胞に加え、アリコートした培地を表示時間で取り除いた。融合タンパク質を抗V5抗体でウエスタンブロットにより検出した(図3C)。PTD−Ngn3タンパク質は24時間でまだ培養培地に存在しているが、タンパク質レベルの低下があった。図4A及び4Bは、精製された可溶性及び不溶性のPTD−Ngn3融合タンパク質の品質を示す。
【0142】
PTD−Ngn3が下流標的遺伝子であるNeuroD及びPax4を活性化できるか判断するため、ヒトHuh7細胞をLV−Ngn3(MOI=20)又はPTD−Ngn3(0.2μM、フレッシュなPTD−Ngn3を6時間毎に添加)で4日間処理した。RNAを採取し、RT−PCRを実施した。図3Dは、LV−Ngn3とPTD−Ngn3タンパク質処理間のNeuroD及びPax4(下流標的遺伝子)のNgn3活性化における等価効力を示す。これらの結果により、生物活性のあるPTD−Ngn3融合タンパク質が産生され、このタンパク質は抗V5抗体により検出可能であったことが示される。
【0143】
実施例4:PTD−Pdx1−VP16(PTD−PV)又はPTD−Pdx1−VP16/PTD−Ngn3腹腔内注射により糖尿病マウスの血糖値が回復した。
Pdx1は、膵「マスター」制御遺伝子として作用する。ストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスにhis−tag精製した可溶性PTD−Pdx1融合タンパク質、又はPTD−GFP融合タンパク質(100μg/マウス)のいずれかを10日間毎日注入し、尾静脈穿刺で血糖値を1日おきにモニタリングした。図5A及び図5Bは、これらの実験結果を示す。図5Aは、注射に用いた精製タンパク質を示し;図5Bは、可溶性Pdx1タンパク質を複数回腹腔内注射することにより高血糖がほぼ正常血糖に戻ったことを示す。PTD−GFP注射を受けた対照マウスにおいては血糖値に何の効果も観察されなかった。
【0144】
腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT)を正常マウス、PTD−GFP注入マウス、及びPTD−Pdx1融合タンパク質注入マウスで実施した(図6)。PTD−Pdx1融合タンパク質を注入したマウスは、正常マウス(ひし形)に対して実質的に正常なIPGTT曲線(四角)を示した。これに対し、PTD−GFPを受けたマウスは、過剰な投与量のグルコースを減少できなかった。これらの結果により、可溶性PTD Pdx1融合タンパク質の腹腔内注射が糖尿病マウスの血糖値を減少させ、尚且つ、これらの結果は統計的に有意であったことが示された。理論と結びつけようとしなくても、PTD Pdx1融合タンパク質が膵細胞に侵入し、膵β細胞の再生を促進させることが可能である;或いは、PTD Pdx1融合タンパク質は、タンパク質が腸間膜脈管系(毛細管、小静脈、及びリンパ管)に転座し、門脈送達系経由で肝細胞に侵入した後に、肝細胞のインスリン促進細胞への分化転換を促進していたと考えられる。
【0145】
膵β細胞の再生が正常血糖の回復に役割を果たしたかどうか判断するため、可溶性PTD Pdx1融合タンパク質注射を受けたマウスの膵切除を実施した。この手術により>90%の膵臓を摘出した。手術後に血糖値をモニタリングした。マウスには、100μgの投与量で5日間、インスリンの連日注射(PID)と可溶性Pdx1融合タンパク質の連日注射を実施した。血糖値をモニタリングした。図7Aは、高血糖からの急速なリバウンドがこのマウスに観察されることを示す。PTD Pdx1融合タンパク質の腹腔内注射を繰り返すことで正常血糖が達成された。膵切除による膵臓の90%除去は、通常、持続的な高血糖をもたらすことを考えれば、これらの結果は驚くべきことである。図7Bは、Pdx1又はPTD−Pdx1−VP16の腹腔内注射が膵島細胞の再生を促進させることを示すものである。クロマチン構造に関与したタンパク質であるヒストンH3は、有糸分裂におけるクロマチン凝縮中に(セリン10で)特異的にリン酸化される。細胞の有糸分裂活性を検出するため、ホスホ−ヒストンH3(pHH3)に対する抗体を、信頼性のある方法として用いた。
【0146】
別の実験では、PTD−PV又はPTD−PV/PTD−Ngn3の精製可溶性融合タンパク質(50μg/マウス)を、ストレプトゾトシン誘導糖尿病である2匹のマウスに5日間毎日、腹腔内に注入した。Pdx1−VP16は、Pdx1の活性体(Pdx1−VP16)である。マウスの血糖値を2日おきにモニタリングした。注射後27日目にマウスを屠殺した。
【0147】
図8及び9は、マウス血糖値の変化を示す。図8に示すように、可溶性PTD−Pdx1−VP16の腹腔内注射により、糖尿病マウスに注射後3週間以内で血糖値が〜400mg/dlから〜200mg/dlに減少した。さらに、PTD−PV/PTD−Ngn3の組み合わせにより、血糖値を2週間以内で〜385mg/dlから200mg/dlに減少させる相乗効果を示した(図9)。両マウスの体重は安定していた。
【0148】
実施例5:膵β細胞の再生。
観察された血糖値の減少を担う機構を検査するため、マウスを屠殺し、組織学的検査用に膵臓、肝臓、脾臓、腎臓、心臓、及び肺を10%ホルマリンで固定した。図10A及び図10Bは、PTD−Pdx1−VP16注入マウスの膵臓におけるインスリン免疫染色の結果を示す。これらの結果は、これらの注入マウスの膵臓で強健な膵β細胞再生があることを示すものである。同様の結果がPTD−PV/PTD−Ngn3注入マウスの膵臓で見られた。図10Aは、全膵島β細胞を含む膵臓の代表的な切片を示す。図10Bは、新たに再生された膵島が多くの小さな膵島を有し、大きさが異なることを示す。最も新しく再生された膵島は、膵管近傍又は膵管に隣接しており、β細胞新生の存在があることを示唆している。いくつかの単分散したインスリン陽性β細胞は、外分泌腺に隣接しており、外分泌細胞が内分泌β細胞に分化転換したことを示唆している。膵β細胞再生に対する1つの機構は、残存β細胞複製である。
【0149】
実施例6:インスリン産生細胞を含む膵内分泌細胞への肝細胞の分化転換の促進。
肝臓を切り取り、抗インスリン抗体で免疫染色した。図11A〜図11Dは、散在するインスリン陽性細胞がPTD−Pdx1−VP16可溶性タンパク質注射を受けたマウスの肝切片(図11B)で確認されたことを示す。PTD−GFP融合タンパク質を受けたマウスの肝切片(D)にはインスリン陽性細胞は検出されなかった。散在するインスリン陽性細胞は、PTD−Pdx1−VP16/PTD−Ngn3融合タンパク質の注入を受けたマウスの肝切片(図12)でも抗インスリン抗体によって検出された。これらの結果は、マウス血糖値の減少が、PTD−PTF(Pdx1−VP16、又はPdx1−VP16/Ngn3)によって媒介された、膵β細胞再生、及び肝細胞から内分泌膵臓への分化転換に起因していることを示すものである。
【0150】
これらの結果は、修飾された膵「マスター」制御遺伝子、可溶性PTD−Pdx1−VP16タンパク質、又は可溶性PTD−Pdx1−VP16とPTD−Ngn3タンパク質の組み合わせをストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスに複数回、腹腔内注射することにより、マウスの血糖値を減少させ、糖尿病を改善するという相乗効果があったことを示すものである。このマウス血糖値の減少は、内因性膵β細胞再生及び肝細胞分化転換の結果から生じるインスリン産生細胞数の増加によるものであった。これらの結果により、タンパク質導入ドメイン(PTD)経由による膵転写因子の送達をin vivoでうまく用いて、膵β細胞を誘導し、肝細胞をインスリン産生細胞に再プログラムできることが実証された。
【0151】
マウスの糖尿病の治療にこの手法の利用が成功したことは、PTD技術を用いて送達された膵転写因子(Pdx1−VP16、及びNgn3)の組み合わせがヒトにおける1型及び2型糖尿病両方の改善に有用であることを示すものである。内因性膵β細胞再生及び/又は肝細胞分化転換を促進するため、治療は、組み換えヒトPTD−Pdx1−VP16及びPTD−Ngn3タンパク質を腹腔又は門脈に注入することで実現することができ、これにより、糖尿病を治療し、持続的高血糖に伴う代謝合併症を予防するものである。
【0152】
実施例7:AAV−PTF(Pdx1−VP16、Ngn3、又は両方)の門脈注射による糖尿病マウスの血糖値減少。
主要な膵転写因子(即ち、Pdx1、Pdx1−VP16、Ngn3、及びPax4)に対する遺伝子を導入することによる肝幹細胞を機能的インスリン産生β細胞代用品にin vitroで再プログラミングを行う実現可能性は、本明細書で実証されている。さらに、本発明の結果は、再プログラミングで使用される有効な転写因子の組み合わせ(Pax4と組み合わせたPdx1−VP16及び/又はNgn3と組み合わせたPdx1−VP16)を示すものである。特定の実施形態では、本発明は、対象膵転写因子の持続的発現に使用することができる膵転写因子を発現するウイルスベクターを提供する。そのようなウイルスベクターは、細胞に一時的にのみ存在する膵転写因子を含む融合ポリペプチドと組み合わせて用いることができる。
【0153】
糖尿病マウスの3つの群に、1×108ウイルス粒子にてAAV−Pdx1−VP16、AAV−Ngn3、又はAAV−Pdx1−VP16/AAV−Ngn3を門脈経由で注入し、そのうちの1つのマウス群は、AAVウイルスの対照としてAAV−GFPを受けた。血糖値を2日おきにモニタリングし、ほぼ正常な血糖値のマウスでグルコース負荷試験を実施した。各群からマウスを1匹屠殺し、β細胞再生と、肝臓中の膵内分泌細胞の存在有無を肝臓と膵臓で検査した。図13Aは、AAV−血清2型の肝細胞導入の効率が全体でおよそ20%であることを示す。図13Bは、AAV−Pdx1−VP16をAAV−Ngn3と組み合わせることにより、糖尿病マウスの血糖値が効率的に減少し、尚且つ、高グルコース負荷に応答するマウスの能力が回復したことを示す。AAV−Ngn3のみでは、血糖減少に著しい効果を示していない。AAV−Pdx1−VP16は、血糖値の減少に中程度の効果を示している。
【0154】
実施例8:肝由来インスリン陽性細胞。
AAV−PV、AAV−Ngn3、又はAAV−PV/AAV−Ngn3ウイルスを受けたマウスの肝臓のパラフィン切片を抗インスリン及びグルカゴン抗体で免疫染色することにより検査した。図14(左側のパネル)は、AAV−PV門脈注射によりいくつかの肝細胞が強度のインスリン陽性細胞に転換されたことを示す。この結果は、これらの動物で確認された血糖値の減少(図13B)と一致している。
【0155】
門脈注射経由でAAV−PV/AAV−Ngn3を受けた動物の肝切片は、多くのインスリン陽性細胞を示す。これらの細胞のほとんどは、中心静脈のまわりに分散している(図15)。ほとんどのインスリン陽性細胞は、肝臓被膜下の周辺に位置していた。この発現に合わせ、門脈注射経由でAAV−PV/AAV−Ngn3を受けたマウスの血糖値は正常化された。インスリン陽性細胞の分布は領域により変化しているが、インスリン陽性細胞の全体的な割合は、肝細胞の総数の2〜3%であると推定される。AAV−Ngn3注射のみを受けたマウスでは血糖値の著しい減少は観察されなかった。散在するインスリン陽性肝細胞のみが、これらのマウスからの肝切片で確認された(図14、右側のパネル)。
【0156】
実施例9:肝由来グルカゴン陽性細胞。
肝細胞が膵転写因子(PTF)によって膵内分泌細胞に変換できるかどうか判断するため、AAV−PV、AAV−Ngn3、又はAAV−PV/AAV−Ngn3ウイルスを受けたマウスの肝臓のパラフィン切片を抗グルカゴン抗体で免疫染色した。これらの研究により肝臓のグルカゴン陽性肝細胞を確認した。ほどんどのグルカゴン陽性肝細胞は、中心静脈の隣に位置していた。図16は、門脈注射でAAV−PV/AAV−Ngn3を受けたマウスからのグルカゴン免疫染色した肝切片の結果を示す。
【0157】
Pdx1−VP16とNgn3をコードする組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)の組み合わせを、ストレプトゾトシン誘導糖尿病をもつマウスに門脈経由で投与した。この組み合わせを受けたマウスは、相乗的な血糖値の減少を示し、これらのマウスの糖尿病がPdx1−VP16とNgn3の発現により改善されたことを示すものである。この効果は、大部分は、インスリン産生細胞への肝細胞の分化転換によるものであり、一部は、内因性膵β細胞再生によるものであった。AAV−Pdx1−VP16のみの門脈注射は、血糖値を著しく減少させた。この効果は組織学的結果と一致し、肝切片にインスリン陽性細胞とグルカゴン陽性細胞が存在することを示した。これらの効果が幾分かは膵臓再生によるものであったかどうか判断するため、これらのマウスの膵臓をインスリン免疫染色によりアッセイした。腹腔内注射によってベクターを受けたマウスで観察されたものよりも、門脈注射経由でAAV−PTFを受けたマウスでより低いレベルの膵β細胞再生が確認された。AAV−Ngn3のみの門脈注射は、血糖値に著しい効果を示さなかった。散在するインスリン陽性細胞及びグルカゴン陽性細胞のみが、これらのマウスからの肝切片で同定された。
【0158】
肝臓の肝細胞をインスリン産生細胞にうまく分化形質転換させるようPdx1−VP16及びNgn3などの主要な膵遺伝子を門脈経由で送達できるとすれば、タンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子を門脈経由で肝臓に送達でき、尚且つ、in vivoで肝細胞を分化形質転換させるのみならずβ細胞再生を促進させるよう、これらの融合タンパク質を使用できる可能性が高い。そのような方法は、1型及び2型糖尿病の両方をもつ患者の治療、及び持続的高血糖に伴う合併症の予防に有用である。
【0159】
実施例10:膵転写因子融合タンパク療法の順次送達。
図17に示すように、β細胞分化中に順次発現される3つの膵転写因子を用いてin vivoの再生及び再プログラミングするためのタンパク療法を提供し、この図は、順序の概要と、特定のPTFの発現期間を提供する(Soria Differentiation 2001;68(4−5):205−219;Huiら、Eur J Endocrinol 2002;146(2):129−141)。例示の膵転写因子の配列を図18A〜図18Iに提供する。Pdx1は、二相式で発生中の膵臓で発現する。第1のピークは、胎生期(E)9.5〜E10(全膵前駆細胞で発現した)の間であり、発現は約2〜3日間継続する。その後、低レベルのPdx1発現が、5〜6日の間隔で起こる。この間、Ngn3発現は、E11で始まり、E15でピークとなり、2〜4日間継続する。Ngn3発現により、膵内分泌細胞運命に向け細胞分化を決定づける。Ngn3が消失してくるとPax4が現れ、〜l〜3日間継続する。Pax4は、発生中のβ細胞でのみ発現する。Pax4活性化に続いて、Pdx1が再び現れ、分化したβ細胞で永続的に発現され、β細胞機能を維持する。図17Bは、図17Aに示すPTF発現配列の自然経過を模倣するPTD−PTF融合タンパク質の投与を示す。膵転写因子融合ポリペプチドの送達方法は、発生中のそのような因子のin vivo発現を踏襲している。
【0160】
特に、PTD−GFP融合タンパク質の組織動態と組織分布をマウスでモニタリングする。100μg(〜5μg/g体重)のPTD−GFP融合タンパク質を3つの経路(門脈、静脈、及び腹腔内)経由でマウスに投与し、処理後1、2、5、10、及び24時間で組織を採取する。PTD−GFP又はPTD−PTFの平均半減期をウエスタンブロットで推定し、デンシトメトリーで定量化する(Caiら、Eur J Pharm Sci 2005;Kanetoら、Nat Med 2004;10(10):1128−1132)。種々の組織におけるPTD−PTFタンパク質の分布をPTD−GFPデータに基づいて検査する。Xiongら、Stem Cells Dev 2005;14(4):367−377に記載されている免疫組織化学染色;及び予備研究に記載されている抗V5抗体によるウエスタンブロット分析によって、種々の組織のPTD−PTFタンパク質を分析する。これらの研究結果に基づいて、腹腔内に送達したPTD−PTF融合タンパク質、或いはストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスへの門脈注射による送達方法は、発生中のこれらの因子の内因性発現パターンを踏襲するよう最適化する。その後、肝臓の再プログラミング又は膵臓の再生に対する効果を上述のようにモニタリングする。
【0161】
実施例11:レポーター遺伝子構築物の生成。
ラットインスリン−1プロモーターeGFP、NeuroD−eGFP、Nkx2.2−RFP、及びPax4−RFPを含む蛍光色分けしたタンパク質と結合したプロモーター遺伝子を含むプラスミドをレンチウイルスベクターで生成した。これらの蛍光色分けした遺伝子レポーターを分化転換ステージのモニタリングに用いる。全長ヒトPax4又はマウスNkx2.2プロモーターDNA配列を含むプラスミドをレポーター融合遺伝子の構築に用いた。マウスPax4プロモーター(−2153−+1)及びNkx2.2(−1840bp〜+21)を適当なプライマーでPCRにより、制限酵素であるXhol/Sal I(Pax4)とBamH I/Xho I(Nkx2.2)間でpCR2.1−TOPOクローニングベクターにクローン化した。得られたプラスミドとpDsRed−Express−N1プラスミドを同一の制限酵素で切断した。Pax4(又はNkx2.2)プロモーターのインサートを精製し、pDsRed−Express−N1プラスミドのMCS部位に連結した。Pax4又はNkx2.2インサートを含む陽性クローンのスクリーニング後、これらのクローンの完全性を制限消化及び配列分析により確認し、レポータープラスミドであるpDsRed−Pax4−RPPとpDsRed−Nkx2.2−RFPを伸張させ、それらの機能を試験するためin vitro形質移入に用いた。
【0162】
テンプレートとしてヒト肝臓からのゲノムDNAを用いて適切なプライマーとともにPfu DNAポリメラーゼ(Washiobio、China)でPCRすることにより、950bp(−940〜+10)のヒトNeuroD/Beta2プロモーター(Miyachiら、Brain Res Mol Brain Res 1999;69(2):223−231)を含むレポーター構築物を生成した。増幅PCR産物を電気泳動にかけ、ゲルを精製し、TAクローニングキット(Invitrogen)を用いてpCR2.1−TOPOベクター(Invitrogen)にクローンした。EcoR1及びBamH1で制限消化することによりプロモーターフラグメントをプラスミドから切断し、eGFP発現ベクター(pEGFP−1、Clontech)に挿入した。このクローン化の完全性を制限消化及び配列分析により確認した。
【0163】
実施例12:マウスrPdx1の生成及び特性。
Pdx1転写因子のアンテナペディア様ドメインが、組み込みPTDをもつことが最近になって判明し、このタンパク質は、細胞膜と結合し、細胞膜に浸透し(Noguchiら、Diabetes 52,1732−1737(2003))、転写機能を発揮できることが分かった。マウスPDX1又はPTD−GFP cDNAを含む発現プラスミドが最初に構築され、各々もまた、Ni2+ニトリロ三酢酸カラムを用いて短時間精製のためC末端でヘキサヒスチジンタグをコードする追加のヌクレオチド配列を含む。in vitro及びin vivoの動物試験用に十分な量のほぼ均一なタンパク質を得るため、増殖培地1リットル当たりで10mgのrPdx1又はPTD−GFPを生じるよう細菌発現条件を最初に最適化し、高収率及び高純度を確保するよう精製プロトコルを改善した。図19Aは、rPdx1及びPTD−GFPの組織構造(上段パネル)を示し、rPdx1及びPTD−GFP融合タンパク質の純度を表すクマシーブルー染色SDSゲルを示す(左側のパネル)。これらの組み換えタンパク質は、ゲルデンシトメトリーに基づいて少なくとも90〜95%の純度を一貫して有した。rPdx1とGFPタンパク質の同一性も、抗Pdx1又は抗GFP抗体でウエスタンブロット(右側のパネル)により確認された。
【0164】
rPdx1タンパク質が細胞浸透能力を有したか確認するため、rPdx1タンパク質(最終濃度0.2μM)とWB細胞を種々の時間でインキュベートし、その後、細胞をPBSで3回洗浄した。次いで、細胞溶解物をリシス緩衝液中で回収し、それらのタンパク質をSDS−PAGEにより分離し、抗Pdx1及び抗アクチン(対照)抗体でブロットした。細胞ブロットにおけるrPdx1の相対量を定量化し、デンシトメトリーによってアクチンで正常化した。図19Bに示すように、rPdx1タンパク質侵入は5分以内に開始した。Pdx1取り込みが進むにつれて、細胞のrPdx1タンパク質レベルが1〜2時間でピーク値に達し、6時間で降下し始めた。
【0165】
取り込まれたrPdx1タンパク質が生物学的に活性であったかどうか判断するため、rPdx1タンパク質の転写機能をアッセイした。Pdx1転写因子の直接下流標的遺伝子であるレンチウイルス含有pNeuroD−GFPレポーター遺伝子をWB細胞に最初に形質導入した。次いで、rPdx1タンパク質(1μM)の存在下又は非存在下で、細胞を72時間インキュベートした。フローサイトメトリー用にこれらの細胞を採取し、pNeuroD−GFPを発現しているWB細胞の割合を検出することでrPdx1媒介NeuroD遺伝子活性を評価した。外部から投与したrPdx1の効率を、細胞により作られたPdx1と比較するため、NeuroD−GFPプロモーター構築物を含むWB細胞にレンチウイルスPdx1ベクターを72時間かけて形質導入し、Pdx1レベルを記録した。pNeuroD−GFP発現WB細胞は、天然細胞Pdx1タンパク質の陽性対照として機能した。重要なのは、WB細胞によるLV形質導入効率が、報告されたLV−CMV−GFPベクターの発現(Tangら、Lab Invest 86,829−841(2006))により判定されたように、ほぼ100%に近づくことである。図19C(左側のパネル)は、サイトスピンスライド上で回収したNeuroD−GFP発現細胞の代表的な蛍光顕微鏡写真を示す。フローサイトメトリーにより、処理後72時間で、LV−Pdx1処理細胞(21%)及びrPdx1タンパク質処理細胞(19%)に対して同程度の転写有効性が判明した。両方の処理は、pNeuroD−GFPベクターのみを含む対照細胞(図19C、右側のパネル)と比較した場合に統計的に有意な差を示した。これらの結果により、rPdx1タンパク質が細胞に迅速に侵入し、その下流NeuroD遺伝子標的を有効に活性化できることが明確に実証された。これらの所見により、rPdx1タンパク質が、LV−Pdx1トランス遺伝子発現により細胞内で産生された天然Pdx1タンパク質と同一又は同程度の転写活性を有することが確認される。
【0166】
実施例13:In vivo動態及び組織分布。
アンテナペディア様PTDによりrPdx1タンパク質は細胞に侵入することができるが、rPdx1のin vivo組織分布に関しては比較的僅かなことしか分かっていない。従って、安全かつ臨床的に実現可能な糖尿病の治療を研究するため、rPdx1タンパク質のin vivo組織分布と薬物動態について検査した。マウス1匹当たり0.1mg又は1mgのrPdx1融合タンパク質をBalb/cマウスに腹腔内注入した。血液試料を15分、30分、1時間、2時間、6時間、及び24時間で採取し、抗Pdx1抗体を用いて免疫ブロットによりrPdx1タンパク質を血清で検出した。図20Aに示すように、血液中rPdx1タンパク質の出現は、注射後早ければ1時間で明らかとなり、2時間でピーク値に達し、6時間で顕著に減少した。24時間後の血液試料ではrPdx1タンパク質は検出されなかった。
【0167】
in vivo組織分布の研究において、肝臓、膵臓、及び腎臓を腹腔内注射後1時間又は24時間で採取し、10%ホルマリンで固定した。パラフィン切片を抗Pdx1抗体で免疫染色した。図19Bは、注射後1時間(上段2列)又は24時間(下段)で0.1mgのrPdx1タンパク質を受けた動物から選択された肝臓、膵臓、及び腎組織の代表的な画像を示す。Pdx1タンパク質は、肝細胞の核で濃縮されることが分かり、Pdx1陽性細胞は、中心静脈の最も近くで最も高い濃度であった。この分布パターンは、急速に取り込まれたPTD含有タンパク質、この場合、末端静脈又は毛細血管経由で門脈系に侵入するPdx1に対して予測された経路と一致した。実際上、最も高いPdx1取り込みは、中心静脈に最も近い細胞であると予想される。Pdx1タンパク質は、恐らく直接取り込みの結果として、膵臓の末梢外分泌細胞でも検出され、膵末端毛細血管に沿っても検出された。腎臓試料において、Pdx1タンパク質は、タンパク質濾過及び除去の解剖経路と一致して現れ:Pdx1タンパク質は、最初に、糸球体、被膜細胞、基端及び末端尿細管細胞で見つかり、最後に、導管細胞の回収時に蓄積されているのが見つかった。注射後24時間で、Pdx1タンパク質の微かな免疫染色のみが肝臓、膵臓、及び腎切片(下段)で観察された。さらに、恐らくは血液中における高レベルのPdx1により、明確なパターンがない低レベルのPdx1タンパク質も注射後1時間で脾臓、心臓、肺、及び脳の組織で検出され、注射後24時間で検出できなくなった。これらの所見及び文献(Matsuiら、Curr.Protein Pept.Sci.4,151−157(2003);Schwarzeら、Science 285,1569−1572(1999))におけるデータに基づいて、0.1mgのPdx1を初回投与量として選択し、糖尿病マウスにおけるrPdx1のin vivo効果を判断するための治療スケジュールとして24時間間隔とした。
【0168】
実施例14:糖尿病マウスの血糖値におけるrPdx1タンパク質のIn vivo効果。
スキーム1(図19C)は、Stz誘導糖尿病(空腹時グルコース値は〜300mg/dL)マウスに投与したrPdx1タンパク質のin vivo治療効果を評価するため用いた実験戦略を記載している(Caoら、Diabetes 53,3168−3178(2004);Tangら、Lab Invest 86,83−93(2006))。これらの動物に10日間連続して精製rPdx1又はPTD−GFPタンパク質(0.1mg又は〜5μg/g体重)を腹腔内注射した。それ自身は改変PTDをもつ非治療用タンパク質であるPTD含有緑色蛍光タンパク質は、陰性対照として機能した。空腹時血糖値を異なる時点でモニタリングした。図21A(下段の暗線)に示すように、rPdx1注射を受けたマウスは、初回注射後2週間以内にほぼ正常血糖を達成したが;PTD−GFPタンパク質を受けたマウス(図21Bの灰色線)では高血糖の改善は観察されなかった。第1日目のタンパク質注射後14日目にマウスを屠殺し、組織インスリン測定、遺伝子発現分析、及び/又は免疫組織化学研究用に種々の器官組織を回収した。
【0169】
注射後14日及び40日で、腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT)(図20B)により、rPdx1注射を受けたマウスが、正常マウス(黒線)で見られるように、2つの場合両方ともほぼ正常なIPGTT曲線(中段の灰色線)を示したことが示された。これに対し、PTD−GFPを受けたこれらのマウスは、グルコースのボーラス用量(上段の灰色線)を減少させる能力を全く示さなかった。rPdx1注射後14日ごろで血糖値がほぼ正常化された後、rPdx1処理糖尿病マウスにおけるグルコース刺激インスリン放出能力を評価するため、正常マウスと処理マウスに腹腔内ボーラスグルコース(1mg/g)注射により負荷し、インスリン測定用に注射後15分で血清を回収した。図20C及び図20Dは、正常マウス、実験マウス、及び対照マウスにおける血糖値(図20C)及び血清インスリン値(図20D)の結果を示す。使用したオリゴヌクレオチドプライマーの配列を表1(下記)に示す。
【0170】
表1:リアルタイムPCRpプライマー名、配列、サイズ、GenBank番号、及びPCR条件
【表1】
【0171】
図21C及び図21Dに示すように、rPdx1又はPTD−GFPタンパク質で処理したマウスの血清インスリン値を注射後14日及び40日で得られた試料の血糖値で確認した。IPGTTにおいて15分でPdx1処理マウスのグルコース刺激インスリン放出は、14日及び40日のGFP対照群よりも、それぞれ、6.9倍及び11.3倍であり、ボーラス用量のグルコース負荷に対応するようrPdx1処理マウスの能力が著しく改善されたことを示すものである。Pdx1処理マウスの40日目の血糖値は正常血糖に近づくが、グルコース刺激15分後に放出されたインスリン(2.6μg/L)は、正常の非糖尿病マウスのそれ(5.7μg/L)よりもまだはるかに低いものであり、新たに生成されたインスリン産生細胞が未熟であること、或いは、グルコース恒常性に対する膵臓又は非膵組織のβ細胞集団が最適レベル未満であることを示唆している。
【0172】
実施例15:内因性β細胞再生を促進するPdx1治療。
膵臓の再生膵島β細胞がrPdx1媒介正常血糖マウスにおいて役割を果たすかどうか判断するため、Pdx1媒介正常血糖マウス(n=4)の群には注射後30日ごろにほぼ全て(>90%)の膵切除を施し、除去した膵組織を形態分析及び/又は組織インスリン測定用に処理した。図20Aに示すように、ほぼ全ての膵切除の後に血糖値は急速に上昇し、これは、膵臓のインスリン産生膵島細胞がrPdx1注射後30日で正常血糖の実現及び維持に主要な役割を果たしていたことを示すものである。これらの結果により、rPdx1タンパク質のin vivo送達が内因性β細胞再生を促進させたことが示唆された。GFP処理マウスで血糖は高く上昇し、自発的なβ細胞再生の存在が最小であることを示していることに留意されたい。
【0173】
パラフィン包埋膵組織切片の組織構造及びインスリン発現の検査により、活発な膵島β細胞再生がより大きくなることが明らかとなり、かつ、大量の膵島がPdx1処理マウスの膵臓にみとめられたのに対して、GFP処理マウスには小さな膵島がわずかに観察された(図21A及び図21B)。使用したオリゴヌクレオチドプライマーの配列を表2(下記)に示す。
【0174】
表2:プライマー名、配列、サイズ、GenBank番号、及びPCR条件
【表2】
【0175】
さらに、膵外分泌細胞の外観をもつ個々に散在するインスリン陽性細胞もこれらの膵臓で見られる。そのような所見により、複数回投与でin vivo投与した場合、rPdx1タンパク質は、いまだ画定されていない分子及び細胞機構経由で内因性インスリン産生β細胞再生を促進させることが示された。
【0176】
再生膵島パターンをさらに検査するため、抗インスリン及び抗グルカゴン抗体を用いて二重免疫蛍光試験を実施した。β細胞/β細胞比率及び分布パターンに基づいて、マウスの膵島が:膵β細胞/β細胞比率がおよそ0.2である場合に大量の無秩序なグルカゴン陽性β細胞と比較的少数のβ細胞が散在するステージ1と;β細胞/β細胞比率が〜1である場合にグルカゴン陽性β細胞及びインスリン陽性β細胞がほぼ同数になるステージ2と;膵β細胞/β細胞比率が逆比を示す5の場合にインスリン産生β細胞が多数を占めるステージ3との3つのステージに任意に分割できる(図21B)ことは大変に興味深い。ステージ1からステージ3の膵島構築は、インスリン産生β細胞数も同時に増加することでより組織的になった。これらのパターンはGFP処理マウスでも確認されたので、3つの容易に識別可能な上述のパターンは、膵島細胞再生の進行の全体的な様子を表すようである。
【0177】
rPdx1媒介膵島β細胞再生の分子事象を判断するため、膵臓及びβ細胞再生に関連するものと知られているいくつかの遺伝子状態のみならず、正常β細胞の生理的機能についてアッセイした。膵臓の発現レベルを判断するためリアルタイムPCRを用いた。rPdx1で処理後14日及び40日で、マウスを屠殺し、全RNAを膵臓から抽出し、再生プロセス中の遺伝子発現プロファイルを評価した(Gagliardino J.Endocrinol.177,249−259(2003),Pittenger Pancreas 34,103−111(2007),Jonssonら、Nature 371,606−609(1994),Wuら、Mol.Cell Biol.17,6002−6013(1997),Stoffersら、Nat.Genet.15,106−110(1997),Hollandら、Diabetes 54,2586−2595(2005))。図21Cに示すように、糖尿病マウスをrPdx1処理することで、14日目で、インスリン(21.3倍)、内因性Pdx1(3.8倍)、INGAP(14.5倍)、Reg3d(8.1倍)、Reg3g(6.8倍)、及び膵炎関連タンパク質Pap(34.3倍)のレベルが、それらに対応する対照(GFP処理膵臓)値に対して著しい発現上昇をもたらした。上記の遺伝子の同様の発現上昇パターンが処理後40日で持続的であることが観察された。GFP処理マウスと比較した際に、Pap発現が発現上昇し続けたことは興味深い。14日のそれと比較した場合、処理後40日で著しく減少した。これらの効果に関与する機構(単数又は複数)(即ち、β細胞分化及び複製、導管細胞新生、又は外分泌細胞分化転換)に関係なく、rPdx1タンパク質には、膵臓再生遺伝子の発現上昇を介して新規β細胞の生成を誘導させる能力があることにより、高血糖症状を改善させる。
【0178】
実施例16:肝臓細胞のインスリン産生細胞への分化転換を促進させるPdx1治療。
いくつかのin vivo試験により、肝細胞のPdx1のウイルス媒介トランス遺伝子発現が、肝細胞のIPCへの分化転換をもたらし、糖尿病マウスの高血糖を戻すことが示されている(Ferber,Sら、Nat.Med.6,568−572(2000),Ber,Iら、J.Biol.Chem.278,31950−31957(2003))。しかしながら、rPdx1タンパク質をもつ糖尿病マウスの直接的なin vivo治療が肝細胞分化転換に同様の効果を有し得るかどうかは不明確である。投与したrPdx1の注射後14日で肝臓への効果を判断するため、Pdx1又はGFPのいずれかで処理したマウスの肝組織を得て、抗インスリン抗体で免疫組織化学的にIPCの存在に対してこれらの試料を検査した。可溶性Pdx1タンパク質の複数回の腹腔内注射により、高血糖をほぼ正常な血糖値に戻した。図22Aは、PTD−GFP(左欄)又はPdx1(右の二欄)で処理したマウスからの代表的な肝臓顕微鏡写真を示す。散在するインスリン染色陽性肝細胞のほとんどは、中心静脈端に沿って分散しており(顕微鏡写真でC.V.と表示)、傾向は肝臓におけるrPdx1組織分布と一致した(図22Bを参照)。小さな二核及び凝縮クロマチンをもつ散在した個々のインスリン陽性肝細胞(黒色矢印)が存在し、より成熟した細胞パターンを示唆している。これらの細胞学的特徴は、より大きな核と、より開かれたクロマチンパターン(矢印)とをもつ隣接のインスリン陰性及び活性肝細胞と明らかに異なっていた。対照GFP処理マウス肝臓にはインスリン産生細胞は観察されなかった。
【0179】
次に、Pdx1又はGFP処理した肝臓における膵遺伝子の発現プロファイルをタンパク質注射後14日及び40日での結果と比較して調査した(図22B)。Pdx1処理した肝臓では、14日目で、GFP処理した肝臓の遺伝子発現と比較して、内因性Pdx1、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、及びIAPPを含む多くの膵遺伝子を排他的に発現したのみならず、他の膵内分泌遺伝子(インスリンII、ソマトスタチン、NeuroD、及びIsl−1)及び膵外分泌遺伝子(p48及びアミラーゼ)が発現上昇した。Ngn3遺伝子発現は検出できなかった。興味深いことに、40日目で、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、及びIAPP遺伝子の発現は観察されなかったのに対して、他の上記の膵遺伝子発現は、レベルは減少しているものの存在し続けた。これらのデータは、rPdx1媒介肝細胞によって産生されたインスリンは、初期ステージにおいて、高血糖の減少に重要な役割を果たし、膵臓β細胞再生を促進させることを示す。
【0180】
実施例17:他の主要器官におけるrPdx1タンパク質の効果。
前述の所見により、in vivoで送達した場合、内因性膵島細胞の再生、及び肝細胞のIPCへの分化転換を促進することでrPdx1が糖尿病マウスに真の治療効果をもつことが実証された。rPdx1タンパク質には細胞に無差別に浸透する固有の能力があると考え、Pdx1、インスリンI、グルカゴン、及びアミラーゼを含む膵遺伝子の発現に対する種々の器官へのrPdx1効果の特異性についても検査した。rPdx1を受けたマウスから処理後14日で心臓、脳、腎臓、肺、腸、及び脾臓の組織を採取後、RT−PCRによって遺伝子発現研究用に全RNAを抽出した。この手法の背後にある論理的根拠は、腹腔内rPdx1治療により膵主要遺伝子の無作為的な活性化がもたらされるとすると、そのような所見は肝臓の膵遺伝子における上記の観察の重要性に疑問を生じさせるものであった(図22B)。図22Cに示すように、心臓、脳、腎臓、肺、腸、及び脾臓においてrPdx1処理による膵遺伝子の活性化はほとんど或いは全く見られなかった。これらの結果は、望ましくない全身毒性の検出可能な証拠はないが、肝細胞分化転換とβ細胞再生の促進を通じて、正常血糖の回復に関してPdx1治療プロトコルは有効であったことを示す。
【0181】
実施例18:組織インスリンレベルでの膵臓と肝臓間の補完関係。
膵及び肝組織由来のインスリンがrPdx1処理後に血糖値を改善させる相対的な寄与を判断するため、Pdx1注射後14日又は40日ごろに屠殺したStz処理マウスからの膵臓及び肝臓を酸性エタノール中で抽出し、得られたインスリン含量をマウスインスリン用の超高感度ELISAキットで測定した。図23Aは、Pdx1処理糖尿病マウスにおける膵インスリン含量は、注射後14日及び40日で、それぞれ、正常膵臓レベルのおよそ44%及び68%であり、GFP処理対照マウス(12.0ng/mg及び9.5ng/mg)と比較して、処理後14日目で6.7倍高いレベルに達し、処理後40日目で15.8倍高いレベルに達したことを示す。これらの所見は、in vivoのrPdx1処理が膵臓の膵島β細胞再生を促進させたことを示すものである。この膵インスリン産生の増加は、処理後14日及び40日の両方のGFP処理マウスと比較した場合に統計的に有意である。これらの結果は、ほぼ全ての膵切除後に高血糖が反跳する所見とも一致するものであった(図21A)。
【0182】
膵インスリン含量測定と同様に処理糖尿病マウスにおいて、注射後14日及び40日の肝組織インスリン含量を検査した。図23Bに示すように、実際上、GFP処理マウスよりもPdx1処理マウスにおいて処理後14日での肝組織インスリン含量に著しい増加(〜16倍)があり、正常肝臓よりもほぼ9倍の増加である。興味深いことに、Pdx1処理後40日で肝臓インスリン含量は急速に減少し、GFP処理マウスよりもなお7.3倍高く、正常肝臓よりもおよそ2倍高かった。この肝臓インスリン産生の増加は、正常マウス又はGFP処理マウスのインスリン値と比較した場合に統計的に有意である。
【0183】
rPdx1タンパク質の生成、精製、及び特性を図24A〜図24Cに示す。Pdx1組織分布を図25A及び25Bに示す。
【0184】
実施例19:健常マウスにおいて膵遺伝子発現を誘導しないPdx1処理。
正常マウスに多量のrPdx1タンパク質を2通りで注入した。1つは、マウスに多量(10mg)の精製rPdx1タンパク質を単回注入し、もう1つは、マウスに10日間連続して1mg/日を注入した。潜在的毒性をモニタリングするため、体重、健康、及び、血糖値、肝臓及び心筋酵素を含む他の指標についてマウスを観察した。Pdx1タンパク質を注入しなかった正常マウスと比較した場合、上記のパラメータにおいて目立った変化はなかった。全てのマウスを注射後14日で屠殺し、肝臓における主要な膵遺伝子発現を検査した。rPdx1を注入したマウスの肝臓が、14日目で、インスリン、グルカゴン、アミラーゼ、及び内因性Pdx1を含む膵遺伝子を強く発現したためである。これらの主要な膵遺伝子が多量のrPdx1注射を受けた正常血糖マウスで発現したかどうか判断するため、両群のマウスの肝臓から全RNAを採取し、図26に示すようにRT−PCRによって遺伝子発現を判断した。PTD−GFP注射を受けた対照マウスの血糖値には効果は観察されなかった。検査した肝臓の膵遺伝子には検出可能な発現はなかった。これは、正常な個々のマウスにrPdx1タンパク質をin vivo送達することに伴う毒性はないことを示すものである。この結果により、rPdx1タンパク療法は、糖尿病動物にのみ作用し、正常マウスには効果がないことが示される。
以下の材料及び方法を用いて上述の実験を実施する。
【0185】
(PTD融合タンパク質の腹腔内(i.p.)、及び門脈(p.v.)送達)
体重につき50μg/gで5日間、ストレプトゾトシン(Stz)を毎日腹腔内注射することでマウスを高血糖(>350mg/ML)に誘導した。次に、正常マウス又は糖尿病マウスに麻酔をかけ、PBS 500μl中で示した量(50〜200μg/マウス)のPTD−GFP又はPTD−PTF融合タンパク質を腹腔内注入した(Kayら、Hum Gene Ther 1992;3(6):641−647を参照されたい)。尾静脈穿刺経由で血糖値をモニタリングした。インスリン及びグルカゴン産生細胞の存在に対する免疫組織化学分析のため、その後、膵臓及び肝臓を含む種々の組織を採取した。
【0186】
PTD−PTF融合タンパク質の門脈送達において、5〜6週齢マウスにイソフルランで麻酔をかけ、実験動物の管理と使用に関する委員会プロトコルに従って外科的処理を実施した。動物の毛を剃り、門脈を露出するため上腹部を1〜2cm切開した。門脈の主枝の1つに特殊カテーテルを入れ、マウスの腹部皮下に埋め込まれるAlzet浸透圧ポンプ(Theeuwesら、Ann Biomed Eng 1976;4(4):343−353)に出口を連結する。種々の時間にわたって一定速度でPTD融合タンパク質をカテーテル経由で門脈に送達する。糖尿病マウスにおいて、血糖値をモニタリングし、Caoら、Diabetes 2004;53(12):3168−3178及びTangら、Lab Invest 2006;86:83−93に記載されているように血糖が正常化した後、IPGTTを行う。特定の時点で、マウスを屠殺し、肝臓、脾臓、腎臓、十二指腸、及び膵臓の組織のみならず、移植した再プログラム肝細胞を採取する。組織は、形態、免疫染色(パラフィン切片)、及び遺伝子発現の分析用、並びに、ELISAによってインスリン、グルカゴン、及びアミラーゼなどの組織膵ホルモン含量(凍結組織)の決定に使用する。
【0187】
(浸透圧ミニポンプの移植及びPTD−PTF送達)
PTD−PTF融合タンパク質の連続投与は、イソフルラン麻酔下で、門脈又は腹腔内腔にPTD−PTF融合タンパク質を継続注入できるように薬物注入ポンプの出口がカテーテルに取り付られたAlzet浸透圧ミニポンプ(Alza、Model番号2001−1週間、又は2002−2週間)(Theeuwesら、Ann Biomed Eng 1976;4(4):343−353;Heinrichsら、Proc Natl Acad Sci USA 1996;93(26):15475−15480)の皮下移植により達成する。Alzet浸透圧ポンプは、試験薬剤に対し24時間暴露を予測可能なレベルでもたらし;短い半減期タンパク質の継続投与を可能にし、実験動物に慢性投与する便利な方法であり;望ましくない実験変数を最小限にし、かつ、再現可能な、一貫性のある結果を確保し;夜間又は週末投与の必要を無くし;実験動物への取扱いやストレスを軽減し;マウス又は幼少ラットへ使用するのに十分小型であり;尚且つ、実質的に任意の組織に薬剤の標的送達を行うことができる。ポンプは、(PBS中に溶解させるか、或いは対照賦形剤としてPBSのみに溶解させた)PTD−PTF融合タンパク質をlμl/時間で1週間、或いは、0.5μl/時間で2週間注入するため、真皮下に埋め込む。10μg/g体重/日のPTD−PTF用量を達成するため、5〜10mg/mlの原液を体重20gのマウスに使用し、適宜調整する。PTD−PTF注入の開始及び経時率を標準化するため、37℃の水浴中で一晩インキュベーションによって移植前に浸透圧ポンプを作動させる。
【0188】
(ウエスタンブロット)
PTD−PTFポンプを1600時間で移植、ポンプ除去後に血糖値を24時間検査する。マウス組織を採取し、タンパク質をPBS均質化緩衝剤(1%TritonX、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル)で抽出する。組織溶解物を20,000rpmで30分間4℃で遠心分離する。Bio−Radタンパク質試薬を用いて実施した標準タンパク質アッセイで浮遊物のタンパク質濃度を求める。浮遊物を等容量の2×SDS試料緩衝液と混合し、95℃で5分間加熱する。次に、加熱した混合物を15,000rpmで5分間遠心分離し、不溶性材料を除去する。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて浮遊物を分析する。タンパク質をニトロセルロース膜に移動し、抗V5抗体(1:5000)又は抗GFP抗体でブロットし、その後、電気化学発光、Amersham ECL発光システム(Amersham Pharmacia Biotech,Buckinghamshire,UK)を用いて視覚化する。デンシトメータ走査機器を用いたデンシトメトリーにより融合タンパク質レベルを定量化する。
【0189】
(RT−PCR、組織学、免疫組織化学、及び蛍光顕微鏡)
これらの方法は、研究所にて十分に確立されており、詳細は、以下の文献:Caoら、Diabetes 2004;53(12):3168−3178;Tangら、Lab Invest 2006;86:83−93に記載されており、これらは参照により組み込んだものとする。組織切片におけるGFPタンパク質の視覚化において、マウス組織をホルマリンで一晩固定し、50%スクロースに12時間移した。組織を凍結切片として切断し、DAPI入り封入剤でスライドを回収した。GFP含有細胞を観察し、蛍光顕微鏡下で撮影した。
【0190】
(プラスミド及びプラスミド構築)
VP16の活性化ドメイン(80アミノ酸)を以下のようにマウスのPdx1のCOOH末端に融合させることでPdx1−VP16を構築した。ClaI部位、5’−TCG CAG TGG ATC GAT GCT GGA G−3’を含むT7プライマー及び3’プライマーを用いて全長Pdx1をIPF1−pcDNA3から単離した。産物をHindIII及びClaIで切断し、pCS2+(Diabetes.2004;53:3033−3345)中でVP16−Nにサブクローン化した。次に、Pdx1−VP16をpcDNA3のHindIII及びXbaI部位にサブクローン化した。PTD配列をこの配列に付加した。
【0191】
(アデノ随伴ウイルス血清2型(AAV2)ベクター)
マウスPdx1、Pdx1−VP16、Ngn3コード配列を含む全てのAAV2−PTFプラスミドを研究所にて構築した。これらのウイルスの品質及び力価は確認している。簡単に要約すると、Xba I部位で開始し、Hpa I部位で終わる、GFP及びPTF(マウスPdx1、mPdx1−VP16、及びmNgn3)のコード配列は、フォワード及びリバースプライマーの適当な対を用いてpfuによりこれらに対応するpCRT−cDNAプラスミドから増幅した。添加A反応後、これらのPCR産物をpCR2.1−TOPOベクターと連結させた。正確なインサート及びAAV骨格プラスミド(pUF11)を含む陽性コロニーをXba I及びHpa Iで消化した。6.2kb pUF11ベクター及びDNAインサート(mPdx1、mPdx1−VP16、及びmNGN3)の両方をゲル精製により回収し、その後、標準手順に従って連結した。選択した陽性コロニーからのコード配列及び正確な向きを制限酵素消化及び配列分析により確認した。AAV−PTFベクタープラスミドは、CMVエンハンサーをもつトリβアクチンプロモーターを有する。AAV2ベクターを293細胞のトリプルプラスミド形質移入により生成した。AAV2−PTFウイルスをCsCl勾配超遠心で精製し、リアルタイムPCRによって1ml当たりのゲノムコピーとしてウイルス粒子(VP)力価を決定した。銀染色SDS−PAGEによってベクターの純度を評価した。濃縮ベクターをアリコートし、in vivo試験用に−80℃で保存した。
【0192】
(rPdx1タンパク質の構築及び産生)
全長マウスPdx1 cDNAをPCRにより増幅し、pET28b(Novagen)のNde I及びXho I部位にサブクローン化した。発現プラスミドを含むBL21(DE3)細胞を37℃で増殖させ、吸光度O.D600を0.8にした。イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を加え、最終濃度を0.5mmol/Lにし、その後、細胞を18℃で18時間インキュベートした。5mMのイミダゾール及びプロテイナーゼ阻害剤を含む緩衝剤A(Roche Diagnostics)中でパルス超音波処理によりバクテリアを溶解した。遠心分離後に得られた細菌溶解物の浮遊物をNi−ニトリロ三酢酸(Ni−NTA)アガロース(Invitrogen)のカラムに適用し、洗浄緩衝液(25mMイミダゾールを含む緩衝剤A)で数回洗浄した。250mMのイミダゾールを含む溶出緩衝剤によってタンパク質を溶出した。PBSに対する透析後にSDS−PAGE/クマシーブルー染色によって溶出したタンパク質分画の純度を特徴づけた。
【0193】
(PTD−GFPタンパク質の構築及び産生)
GFPのN−末端にHIV−1 TATの11アミノ酸(YGRKKRRQRRR)をもつPTD−GFPプラスミドをPCR法により構築した。PCRフラグメントをpT7/CT−TOPO発現プラスミド(Invitrogen)に直接クローン化した。rPdx1タンパク質について大部分は説明したように、タンパク質産生及び精製を実施した。
【0194】
(pNeuroD−GFP及びマウスPDX1レンチウイルスベクターの調製)
マウスPdx1のcDNAコード配列を含むレンチウイルスベクター(LV)を前述のように構築した(Tangら、Lab Invest 86,83−93(2006))。ヒトNeuroD/Beta2プロモーターの950bpレポーター構築物(−940〜+10)(Miyachiら、Brain Res.Mol.Brain Res.69,223−231(1999))をPCRによりクローン化し、GFPに連結した。pNeuroD−GFP遺伝子をpTYFベクターカセットに挿入することでLVを構築した。レンチウイルスを産生し、力価を前述のように決定した(Tangら、Lab Invest 86,83−93(2006))。
【0195】
(細胞侵入及び免疫ブロット)
70%コンフルエンスのWB細胞(ラット肝上皮幹細胞)を精製rPdx1(0.2μm)で15分、30分、1時間、2時間、6時間、12時間、及び24時間処理した。細胞をPBSで3回洗浄し、プロテアーゼ阻害剤混合物(Roche Diagnostics)を含む細胞リシス緩衝液(150mM NaCl、50mMトリス−HC1、pH 7.5、500μM EDTA、1.0%TritonX−100、及び1%デオキシコール酸ナトリウム)中で採取した。ウサギ抗Pdx1血清(1:1000、精製マウスrPdx1で育てた)又は抗His抗体(1:2000、Invitrogen)で、前述1,3のようにウエスタンブロットによって、細胞侵入研究用の細胞溶解物(50μg/レーン)中のrPdx1を検出した。
【0196】
(細胞導入及びフローサイトメトリー分析)
70%コンフルエンスのWB細胞をまず最初に感染多重度20でLV−pNeuroD−GFPによって形質導入し、前述1のような手順を実施した。次に、形質導入したWB細胞を0.5μmのrPdx1タンパク質の存在下又は非存在下でインキュベートした。pNeuroD−GFP含有WB細胞をLV−Pdx1で形質導入し、これは、細胞によって作られたPdx1タンパク質に対する陽性対照として機能した。処理後72時間で細胞を採取し、1%ホルムアルデヒドで10分間固定した後、PBSプラス1%BSAで3回洗浄し、フローサイトメトリー分析用に再懸濁した。サイトスピンスライドを処理細胞により調製し、DAPIを含む封入剤で覆った。
【0197】
(動物試験)
5日間連続でBalb/cマウス(8〜10週齢)に50mg/kg体重(bw)の用量でストレプトゾトシン(Stz)(Sigma)を注入し、前述1,3のように糖尿病を誘導した。2回連続の読取りで空腹時血糖値がおよそ300mg/dLの動物がタンパク質治療を受けた。糖尿病マウスに10日間連続して精製rPdx1又はGFPタンパク質(0.1mg/日/マウス)のいずれかを腹腔内注射した。血糖測定器を用いて絶食後8時間が経過したマウスの空腹時血糖値を定期的に測定した。動物試験の実験の連続事象をスキーム1(図25C)にまとめる。
【0198】
(腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT))
IPGTTを行う前の8時間マウスを絶食させた。正常マウス、rPdx1処理マウス、又はGFP処理マウスにグルコース(1mg/g体重)を腹腔内注射し、注射後5、15、30、60、及び120分で血糖値を測定した。全身麻酔条件下で膵亜全切除(〜90%)を実施した。種々の時点でマウスを屠殺し、組織学、遺伝子発現、膵/肝組織含量、及び血清インスリン値試験用に器官組織及び血液を回収した。
【0199】
(Pdx1タンパク質のin vivo動態及び組織分布)
マウスに0.1mg又は1mgのrPdx1を腹腔内注射した。15分、30分、1時間、2時間、6時間、及び24時間で血液試料を採取した。正常マウス及びrPdx1処理マウスから器官組織切片を採取し、10%ホルマリンで固定し、抗Pdx1抗体(1:1000)でPdx1免疫染色するためにパラフィンに組み込んだ。血液試料から血清を分離し、30μl/レーンをSDS−PAGEゲルにロードして、血清タンパク質を分離し、その後、抗Pdx1抗体によるウエスタンブロットを上述のように実施した。
【0200】
(RT−PCR)
Trizol試薬を用いて膵臓及び肝臓のマウス組織から全RNAを調製し、ランダム六量体プライマーとスーパースクリプトIII逆転写酵素(Invitrogen、CA)を用いてcDNAを合成した。肝臓遺伝子発現を前述のようにRT−PCRによって決定した(Caoら、Diabetes 53,3168−3178(2004))。異なるエクソン(単数又は複数)に位置するように、フォワード及びリバースPCRプライマーを設計し、これらの配列を補足データ(表1)に記載する。全てのRT−PCRアッセイには、RT、陽性、及びブランク対照は含んでいなかった。結果は、少なくとも3つの独立した実験を表している。
【0201】
(定量的リアルタイムRT−PCR分析)
GFP処理対照マウス及びrPdx1処理マウスの膵組織からのcDNAに、各サイクル中のPCR産物量の分析器としてSYBR緑を用いて、サーモサイクラー配列検出システム(MJ research Inc.DNA engine opticon 2)で3つの独立したPCR反応をデュプリケート又はトリプリケートで実施した。リアルタイムPCR条件に従ってプライマーを設計し、配列を(表1)に記載する。リアルタイムPCRにおいて、酵素を活性化するため95℃の初期変性温度が15分間必要であり、全てのプライマー対に対して56℃の焼鈍温度を用いた。PCR増幅を38サイクル実施した。
【0202】
(免疫組織化学及び免疫蛍光)
種々の器官からの組織を10%ホルマリン中に24時間固定し、PBSに移して、パラフィンブロックを作った。抗ブタインスリン(1:1000、Dako)、抗Pdx1(1:5000、CV.Wrightの寄与)、抗グルカゴン(1:200、Dako)一次抗体で切片(5μm)をインキュベートした後、西洋ワサビペルオキシダーゼHRP(Dako)と接合した抗マウス又はウサギIgG(1:5,000)二次抗体でインキュベートした。前述3のようにDAB基質キット(Dako)を用いて特異的免疫染色を視覚化した。二重免疫蛍光において、パラフィン包埋切片(5μm)をモルモット抗ブタインスリン(1:200、Dako)及びヤギ抗グルカゴン(1:50、Santa Cruz)一次抗体により一晩4℃でインキュベートし、FITC(1:1000、RDI)−ロバ抗ヤギと接合したロバ抗モルモットIgGをAlexa Fluor 594フルオロクロム二次抗体(1:500、Invitrogen、分子プローブ)でインキュベートした。
【0203】
(ELISAによる組織及び血清インスリン測定)
膵臓及び肝臓の全器官を採取し、重さを量り、微修飾4による公開手順に従って対応する容量(1ml緩衝剤/0.1g肝臓又は0.05g膵臓)により氷上の酸性エタノール溶液(70%エタノール中に180mMのHCl)中に直ちに載置した。製造者取扱説明書に従って超高感度マウスインスリンELISAキット(ALPCO)を用いて組織インスリン値を測定した。BIO−RAD3550−UVマイクロプレートリーダーにより吸光度を直ちに測定した。最終結果をngインスリン/mg膵組織又はngインスリン/グラム肝組織に変換した。
【0204】
血清インスリンの測定において、正常マウス及び処理マウスの両方をまず最初に6時間絶食させ、グルコース(1mg/g体重)刺激後15分で血液試料を採取した。組織インスリンELISAで記載したように血清インスリンのレベルを決定した。
【0205】
(統計解析)
データが統計的に有意であると考えられるにはP値が0.05未満であることを必要とする独立試料t検定を用いて、実験所見についての統計的有意性を解析した。
【0206】
(他の実施形態)
以上の説明から、種々の使用及び条件に適合させるため本明細書に記載の本発明に変更及び修正を施せることが明らかであろう。そのような実施形態は、添付請求項の範囲内でもある。
本明細書に記載の変数の任意の定義における要素の一覧の記載内容は、一覧要素の任意の単一要素又は組み合わせ(若しくは部分的組み合わせ)としてその変数の定義を含むものである。本明細書に記載の実施形態の記載内容は、任意の単一実施形態、又は任意の他の実施形態又はその一部との組み合わせとしての実施形態を含むものである。
【0207】
本明細書に記載した全ての特許及び刊行物は、それぞれの特許及び刊行物が個々別々に参照によって引用されるのと同程度に、参照によって本明細書に引用されるものとする。特に、Caoら、Diabetes 2004;53(12):3168−3178;Tangら、Lab Invest 2006;86:83−93;及び国際公開第2005/083059号パンフレットについては、その開示内容全体を本明細書に引用したものとする。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2006年7月19日出願の米国仮特許出願第60/832,070号の利益を主張するものであり、その内容全体を文献引用によって本願明細書に組み込んだものとする。
(連邦政府後援の研究によってなされた発明に対する権利に関する申立て)
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所により与えられた補助金:認可番号DK064054及びDK071831の援助によりなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
1型糖尿病(T1D)を治療する現状の方法は長期にわたる合併症の予防には効果を持たないため、研究者らは、正常血糖値に回復するためインスリン産生細胞(IPC)の使用を含む代替療法を模索している。機能的β細胞の移植によりT1Dは治療できるが、ドナー膵島の不足により膵島移植は妨げられており、移植片拒絶のリスクを軽減するため生涯にわたる免疫抑制療法が求められている。
【0004】
1型糖尿病を治療するため、研究者らは、幹細胞を膵β細胞(IPC)用のインスリン産生代用品に向けた分化を達成するよう信頼性の高い方策を積極的に追及している。組み換えDNA技術による遺伝的修飾は、幹細胞分化を所望の系統に向けるため、とりわけ、肝幹細胞から膵内分泌細胞への分化転換に対して非常に有望な手法である。この手法は、in vitro及びin vivo実験の両方で、肝細胞及び肝幹細胞からIPCを生成するのに使用されている。1型糖尿病の治療における細胞療法に潜在的な自己ドナー細胞として肝臓を用いることがこれらの研究により非常に有望であるが、ヒト臨床治療における遺伝子操作の使用は議論となることが分かっている。従って、遺伝子治療に頼らないインスリン産生細胞を産生する組成物及び方法が早急に求められている。
【発明の概要】
【0005】
以下に説明するように、本発明は、対象細胞(例:膵細胞)の数又は生物活性の欠乏により特徴づけられる病気、疾患、又は損傷(例:糖尿病)を治療又は予防するための治療を特徴とする。
【0006】
一態様において、本発明は、一般的に、成熟細胞をタンパク質導入ドメインに融合した又はこれを含む転写因子ポリペプチド又はそのフラグメントと接触させる工程と;成熟細胞で少なくとも1つのポリペプチド(例:膵転写因子ポリペプチド)の発現量を変化させる工程とを含み、それにより細胞を再プログラミングする、細胞(例:成熟細胞又は胚幹細胞)の再プログラミング方法を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、細胞(例:成熟細胞又は胚幹細胞)をタンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子又はそのフラグメントと接触させる工程と;細胞のインスリンの発現を増加させる工程とを含み、それによりインスリン産生細胞を生成する、インスリン産生細胞の生成方法を提供する。
【0008】
さらに別の態様では、本発明は、膵細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程を含み、それにより膵細胞の再生を誘導する、インスリン産生細胞の再生の誘導方法を提供する。
【0009】
さらに別の態様では、本発明は、肝由来細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程を含み、それによりインスリン産生細胞を生成する、インスリン産生細胞の生成方法を提供する。一実施形態では、肝由来細胞をin vitro又はin vivoで接触させる。別の実施形態では、融合タンパク質が特定の肝葉に向けられるように、融合タンパク質を門脈経由又はその分枝経由で提供する。さらに別の実施形態では、インスリン産生細胞は肝由来細胞の分化転換により生成される。
【0010】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の成熟細胞をタンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子又はそのフラグメントと接触させる工程と;成熟細胞のインスリンの発現を増加させる工程とを含み、それによりインスリン産生細胞を生成する、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0011】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の成熟膵細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;成熟膵細胞の再生を誘導する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、肝由来細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;インスリン産生細胞を生成する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する、それを必要とする被験者(例:1型又は2型糖尿病を有するヒト又は動物患者)の高血糖を改善する方法を提供する。一実施形態では、肝由来細胞は、肝細胞又は肝由来幹細胞である。さらに別の実施形態では、細胞は、前記融合タンパク質と接触する前に検出可能な量のインスリンを発現しない。さらに別の実施形態では、本方法は、被験者の血糖値を低下させる。さらに別の実施形態では、本方法は、被験者の血糖値を正常化する。さらに別の実施形態では、本方法は、Ngn3ポリペプチド、タンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質の有効量を投与する工程をさらに含む。
【0013】
別の態様では、本発明は、初期又は後期膵転写因子(例:Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、及びPax6)に少なくとも85%、90%、95%、或いは100%のアミノ酸相同性を有するポリペプチドと;タンパク質導入ドメイン(例:HIV−1 TAT PTDドメイン、ポリアルギニン配列、VP22ドメイン、又はアンテナペディアタンパク質導入ドメイン)、類似体、又はそのフラグメントとを含むか又はこれらから基本的になる融合ポリペプチドを提供し、細胞内の融合ポリペプチドの発現は、対応する対照細胞に対して少なくとも1つのポリペプチドの発現を変化させる。一実施形態では、融合ポリペプチドは、単純疱疹ウイルスVP16活性化ドメイン又はそのフラグメント若しくは類似体、精製用配列タグ(例:ヘキサヒスチジンタグ)、又は抗体と特異的に結合する抗原ドメイン(例:V5ドメイン)をさらに含む。さらに別の実施形態では、融合ポリペプチドは、ヒトPdx−1ポリペプチド又はそのフラグメントと;単純疱疹ウイルスVP16活性化ドメインと;タンパク質導入ドメイン又はその生物活性フラグメントとを含むか又はこれらから基本的になる。
【0014】
さらに別の態様では、融合ポリペプチドは、膵転写因子プロモーターと、検出可能なドメインとを含む。種々の実施形態では、プロモーターは、Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Mkx2.2、Nkx6.1、Isl1、及びPax6の任意の1つ以上から選択され;他の実施形態では;検出可能なドメインは、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、及びβ−ガラクトシダーゼの任意の1つ以上から選択される。他の実施形態では、ポリペプチドは、ヘキサヒスチジンタグ又はGSTなどの、ポリペプチドの精製を容易化するアミノ酸配列タグをさらに含む。
【0015】
他の態様では、本発明は、任意の前述の態様のポリペプチドをコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供する。一実施形態では、ベクターは、核酸配列に操作可能にリンクしたプロモーターを含む。一実施形態では、プロモーターは、細菌性細胞又は哺乳類細胞内で発現するように配置される。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。一実施形態では、細胞は原核細胞又は真核細胞である。他の実施形態では、細胞は、細菌性細胞、哺乳類細胞、昆虫細胞、及び酵母細胞の任意の1つ以上から選択される。
【0017】
さらに別の態様では、宿主細胞(例:哺乳動物、ヒト)は、任意の前述の態様の融合ポリペプチドを含む。さらに別の実施形態では、細胞は、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞の任意の1つ以上から選択される。他の実施形態では、宿主細胞は、Ngn3、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合ポリペプチドなどの第2の融合ポリペプチドをさらに含む。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様の宿主細胞を含む組織を提供する。
【0019】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様の宿主細胞を含む器官を提供する。
【0020】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様の宿主細胞を含む基質を提供する。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、細胞内で発現するように配置された任意の前述の態様の単離された核酸分子で形質転換した細胞を提供する工程と;核酸分子を発現する条件下で細胞を培養する工程と;ポリペプチドを単離する工程とを含む、任意の前述の態様の組み換えポリペプチドの産生方法を提供する。
【0022】
さらに別の態様では、本発明は、薬学的に許容される賦形剤中に任意の前述の態様のポリペプチド又は前述の態様の宿主細胞の有効量を含む医薬組成物を提供する。他の実施形態では、組成物は、Ngn3アミノ酸配列、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合ポリペプチドの有効量をさらに含む。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様のポリペプチド又は任意の前述の態様の宿主細胞と;被験者の高血糖(例:1型又は2型糖尿病に関連する高血糖)を改善するためポリペプチド又は細胞を使用するための取扱説明書とを含む包装された医薬品を提供する。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前述の態様の融合ポリペプチド又は任意の前述の態様の宿主細胞の有効量と、それを使用するための取扱説明書とを含む高血糖(例:1型又は2型糖尿病に関連する高血糖)の治療用キットを提供する。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAの任意の1つ以上である膵転写因子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを提供し、ポリペプチドは、哺乳類細胞内で発現するように配置されたプロモーターに操作可能にリンクしている。
【0026】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の細胞を前述の態様のAAVベクターと接触させる工程と;インスリンを発現するよう細胞を誘導する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0027】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の肝由来細胞を前述の態様のAAVベクターと接触させる工程と;インスリンを発現するよう細胞を誘導する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する方法を含む、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0028】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の細胞を前述の態様のAAVベクターと接触させる工程と、インスリンを発現するよう細胞を誘導する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する方法を含む、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0029】
さらに別の態様では、本発明は、被験者の肝由来細胞を前述の態様のAAVベクターと接触させる工程と;インスリンを発現するよう細胞を誘導する工程とを含み、それにより被験者の高血糖を改善する方法を含む、それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法を提供する。
【0030】
さらに別の態様では、本発明は、前述の態様のAAVベクター又はポリペプチド(例:融合ポリペプチド)を含む宿主細胞(例:成熟細胞、胚幹細胞、肝細胞又は膵細胞)を提供する。一実施形態では、細胞は、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞の1つ以上である。
【0031】
さらに別の態様では、本発明は、薬学的に許容される賦形剤中にアデノウイルスベクターの有効量を含む医薬組成物を提供する。
【0032】
さらに別の態様では、本発明は、被験者を、被験者の組織内でPdx1、INGAP、Reg3d、Reg3g、及び膵炎関連タンパク質−Papの任意の1つ以上の遺伝子の発現を誘導するのに有効な量のPdx1ポリペプチドと接触させる工程を含み、それにより糖尿病を治療する、被験者の糖尿病を治療する方法を提供する。一実施形態では、発現の増加は、Pdx1が約3〜4倍に増加する、INGAP発現が約14〜15倍に増加する、Reg3d発現が約7〜8倍に増加する、Reg3gが約6〜7倍に増加する、及び膵炎関連タンパク質−Papが30〜35倍に増加する、の任意の1つ以上のものである。さらに別の実施形態では、本方法は、Pdx1、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、IAPP、インスリンII、ソマトスタチン、NeuroD、Isl−1、及び膵外分泌遺伝子p48並びにアミラーゼの任意の1つ以上の発現を増加させる。さらに別の実施形態では、少なくとも2つ、3つ、4つ、又は5つの遺伝子の発現が増加する。さらに別の実施形態では、遺伝子全ての発現が増加する。
【0033】
さらに別の態様では、本発明は、被験者にPdx1タンパク質の有効量を投与する工程と、膵島β細胞の再生を誘導する工程とを含む、それを必要とする被験者内の膵島β細胞の再生を誘導する方法を提供する。一実施形態では、少なくとも約1〜5mg/kg体重のPDX1を投与する。別の実施形態では、PDX1を静脈又は腹膜系経由で投与する。別の実施形態では、本方法は、インスリン値を少なくとも約1〜20倍に増加する。別の実施形態では、PDX1投与は、Pdx1、INGAP、Reg3d、Reg3g、膵炎関連タンパク質−Pap、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、IAPP、インスリンII、ソマトスタチン、NeuroD、Isl−1、及び膵外分泌遺伝子p48並びにアミラーゼの任意の1つ以上の発現を増加する。
【0034】
さらに別の態様では、本発明は、AAVベクターを含む宿主細胞(例:成熟細胞、胚幹細胞、肝細胞又は膵細胞)のみならず、薬学的に許容される賦形剤中にそのようなベクター又は細胞の有効量を含む医薬組成物を提供する。
【0035】
任意の前述の態様の種々の実施形態では、細胞は、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞の任意の1つ以上である成熟細胞(例:肝細胞又は肝由来幹細胞)である。さらに別の実施形態では、細胞をin vitro又はin vivoで接触させる。任意の前述の態様のさらに別の実施形態では、変化とは、対応する対照細胞で検出可能に発現されないポリペプチド量が増加すること(例:5%、10%、25%、50%、75%、85%、95%、又はそれ以上)である。さらに別の実施形態では、再プログラムされた細胞はインスリンを発現する。任意の前述の態様の種々の実施形態では、転写因子は、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAの任意の1つ以上である。さらに別の実施形態では、細胞は、in vitro又はin vivoで接触させる胚細胞又は成熟膵細胞である。任意の前述の態様のさらに別の実施形態では、接触によりインスリン産生細胞の数を増加させる。他の実施形態では、接触により複製又は新生による再生を増加させる。さらに別の実施形態では、本方法は、細胞をNgn3、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程をさらに含む。さらに別の実施形態では、本方法は、ポリペプチドを得る工程をさらに含む。任意の前述の態様のさらに別の実施形態では、投与方法は、細胞でPdx1タンパク質の有効量が少なくとも約0〜4(例:0、1、2、3、又は4)日間であるように投与すること;Ngn3の有効量が少なくとも約2〜6(例:2、3、4、5、又は6)日間存在するように次のNgn3を投与すること;Pax4の有効量が少なくとも約4〜8(例:4、5、6、7、8)日間存在するように次のPax4を投与すること;Pdx1の有効量が細胞内で維持され、Pdx1の投与は、Pax4が細胞内に存在する間に行われるようにPdx1を持続的に投与すること、の任意の1つ以上の投与を含む1つ以上の膵転写因子の順次投与を提供する。
【0036】
任意の前述の態様のさらに別の実施形態では、融合タンパク質は、初期因子又は後期因子(例:Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、MafA)である膵転写因子(例:ヒト又はマウス)を含むか又はこれらから基本的になる。さらに別の実施形態では、任意の前述の態様の融合ポリペプチドは、参照配列と少なくとも85%、90%、又は95%同一であり、配列比較は、ポリペプチド又はペプチドフラグメントの全長に及ぶ。
【0037】
特に、本発明は、1型及び2型糖尿病に対するタンパク療法を提供する。本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明及び請求項から明らかになるであろう。
【0038】
(定義)
「膵臓及び十二指腸ホメオボックス−1(Pdx−1)ポリペプチド」とは、GenBank登録番号NP_032840、AAI11593で提供された配列、又はNM008814でコードされた配列に少なくとも85%の相同性を有し、尚且つ、DNA結合又は転写制御活性を有するタンパク質又はそのフラグメントを意味する。
【0039】
「膵臓及び十二指腸ホメオボックス−1(Pdx−1)核酸配列」とは、PDX−1をコードする核酸配列を意味する。例示のpdx−1核酸配列としては、BC111592及びNM_008814が挙げられる。
【0040】
「NeuroD1ポリペプチド」とは、GenBank登録番号NP_002491又はNP_035024で提供された配列に少なくとも85%の相同性を有し、尚且つ、DNA結合又は転写制御活性を有する神経発生分化1タンパク質又はそのフラグメントを意味する。
【0041】
「NeuroD1核酸分子」とは、NeuroD1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はそのフラグメントを意味する。例示のNeuroD1核酸分子としては、NM_002500及びNM_010894が挙げられる。
【0042】
「ニューロゲニン3ポリペプチド」とは、GenBank登録番号AAK15022又はAAI04328で提供された配列に少なくとも85%の相同性を有し、尚且つ、DNA結合又は転写制御活性を有するタンパク質又はそのフラグメントを意味する。
【0043】
「ニューロゲニン3核酸分子」とは、ニューロゲニン3ポリペプチド又はそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド又はそのフラグメントを意味する。例示のニューロゲニン3核酸分子としては、AF234829及びBC104327が挙げられる。
【0044】
「Pax4ポリペプチド」とは、GenBank登録番号AAI07151又はNP_035168で提供された配列に少なくとも85%の相同性を有し、尚且つ、DNA結合又は転写制御活性を有するタンパク質又はそのフラグメントを意味する。
【0045】
「Pax4核酸分子」とは、Pax4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はそのフラグメントを意味する。例示のPax4ポリペプチドとしては、NM_011038及びBC107150が挙げられる。
【0046】
「成熟細胞」とは、胚細胞又は生殖細胞由来でない体細胞を意味する。
【0047】
「再生を誘導すること」とは、細胞、組織、又は器官の生成を誘導することを意味する。再生の方法としては、限定的ではないが、新生、複製、細胞増殖、分化転換、又は対象細胞に類似の追加の細胞産生を伴う任意の他の方法が挙げられる。
【0048】
「タンパク質導入ドメイン」とは、細胞又は細胞小器官へのタンパク質侵入を容易化するアミノ酸配列を意味する。例示のタンパク質導入ドメインとしては、限定的ではないが、最小ウンデカペプチドタンパク質導入ドメイン(YGRKKRRQRRRを含むHIV−1 TATの47〜57残基に対応する)、細胞に直接侵入するのに十分な数のアルギニン(例:3、4、5、6、7、8、又は9個のアルギニン)を含むポリアルギニン配列、VP22ドメイン(Zenderら、Cancer Gene Ther.2002 Jun;9(6):489−96)、及びアンテナペディアタンパク質導入ドメイン(Noguchiら、Diabetes 2003;52(7):1732−1737)が挙げられる。Nat Biotechnol.2001 Dec;19(12):1173−6も参照されたい。
【0049】
「再プログラミングすること」とは、再プログラミングする前の細胞内(又は対応する対照細胞内)で産生しない再プログラムされた細胞内で少なくとも1つのタンパク質生成物を産生するような細胞に変化させることを意味する。一般に、再プログラムされた細胞は、再プログラムされた細胞が、再プログラミングする前の細胞(又は対応する対照細胞)で発現しない一連のタンパク質を発現するように、変化した転写又は翻訳プロファイルを有する。
【0050】
「肝由来細胞」とは、肝臓由来の任意の細胞を意味する。そのような細胞としては、肝細胞、肝幹細胞、肝細胞の初代培養又は不死化培養、又は肝臓から得られた任意の他の細胞が挙げられる。
【0051】
「膵転写因子」とは、膵組織内で発現した任意の転写因子を意味する。例示の膵転写因子としては、限定的ではないが、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2(マウスNM_010919、NP_035049;ヒトC075092、AAH75092)、Nkx6.1(マウスNP_659204、AF357883;ヒトP78426、NM_006168)、Isl1(マウスNM_021459、NP_067434;ヒトNM_002202、NP_002193)、Pax6(マウスBC036957、AAH36957;ヒトNP_000271、BC011953)、及びMafA(v−maf筋腱膜性線維腫症癌遺伝子相同体A)、ヒトNP_963883、NM_201589;マウスNP_919331、NM_194350)が挙げられる。
【0052】
「分化転換」とは、分化形質転換した細胞が、細胞で一般に発現しない少なくとも1つの対象タンパク質を発現するような細胞の変化を意味する。例えば、インスリン産生細胞表現型に分化形質転換した肝細胞は、インスリン又はグルカゴンを発現する。
【0053】
「VP16活性化ドメイン」とは、対象配列に付加した際に転写を増加させる単純疱疹ウイルス由来のアミノ酸配列を意味する。例示のVP16活性化ドメインは、例えば、Sadowski,I.,Ma,J.,Triezenberg,S.and Ptashne,M.(1988).GAL4−VP16 is an unusually potent transcriptional activator.Nature 335,563−564;及びTriezenberg,S.J.,Kingsbury,R.C.and McKnight,S.L.(1988).Functional dissection of VP16,the trans−activator of herpes simplex virus immediate early gene expression.Genes Dev.2,718−729に記載されている。1つの例示のVP16活性化ドメインを図18Gに強調表示している。
【0054】
「変化」とは、前述のような当該技術分野で公知の標準的方法により検出される遺伝子又はポリペプチドの発現量の変化(増減)を意味する。本明細書で使用する「変化」としては、発現量の10%変化、好ましくは25%変化、より好ましくは40%変化、及び最も好ましくは50%、或いは発現量のそれ以上の変化が挙げられる。
【0055】
「類似体」とは、参照ポリペプチド又は核酸分子の機能を有する構造的に関連したポリペプチド又は核酸分子を意味する。
【0056】
「化合物」とは、任意の小分子化合物、抗体、核酸分子、又はポリペプチド、若しくはそのフラグメントを意味する。
【0057】
本開示では、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「を含有する(containing)」、及び「有する(having)」等は、米国特許法で定義された意味とすることができ、尚且つ、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」等を意味することができる。同様にして、「から基本的になる(consisting essentially of)」又は「基本的になる(consists essentially)」は、米国特許法で定義された意味とする。用語はオープンエンドであり、記載されている基本特徴又は新規特徴が、記載されている以上のことで変化しない限りにおいて、記載されている以上のことを認めるものであるが、従来技術の実施形態は除外する。
【0058】
「検出可能な標識」とは、対象分子に結合した際に分光的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、又は化学的手段を介して後者を検出可能にする組成物を意味する。例えば、有用な標識としては、放射性同位体、電磁ビーズ、金属ビーズ、コロイド粒子、蛍光色素、電子密度の高い試薬、酵素(例えば、ELISAで一般に用いられる)、ビオチン、ジゴキシゲニン、又はハプテンが挙げられる。
【0059】
「標識核酸又はポリペプチド」は、核酸又はプローブに結合した標識の存在を検出することで核酸又はプローブの存在が検出できるように、リンカー又は化学結合経由で共有結合的に、或いはイオン結合、ファンデルワールス力、静電気引力、疎水的相互作用、又は水素結合経由で非共有結合的に標識に結合しているものである。
【0060】
「有効量」とは、未治療患者に対する病気の症状の改善に要する薬剤の量を意味する。病気の治療的処理に対して本発明を実施するのに用いる活性化合物(単数又は複数)の有効量は、投与方法、被験者の年齢、体重、及び全般的な健康状態に応じて変わる。最終的に、担当医又は担当獣医が適量及び投与計画を決定する。そのような量を「有効な」量と称する。
【0061】
「フラグメント」とは、ポリペプチド又は核酸分子の一部を意味する。この一部には、参照核酸分子又はポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%を含むのが好ましい。フラグメントには、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100、200、300、400、500、600、700、800、900、又は1000個のヌクレオチド又はアミノ酸を含んでもよい。
【0062】
「融合タンパク質」とは、天然には隣接しない少なくとも2つのアミノ酸配列を結合するタンパク質を意味する。
【0063】
「同一性」とは、対象配列と参照配列間のアミノ酸又は核酸配列同一性を意味する。配列同一性は、通常、配列解析ソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group,University of Wisconsin Biotechnology Center,1710 University Avenue,Madison,Wis.53705,BLAST,BESTFIT,GAP、又はPILEUP/PRETTYBOX programs)を用いて測定する。そのようなソフトウェアは、相同性の度合いを種々の置換、欠損、及び/又は他の修飾に割り当てることで同一又は類似の配列に適合させる。保存的置換としては、通常、以下の群内の置換を含む:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;及びフェニルアラニン、チロシン。同一性の度合いを決定する例示的手法では、密接に関連する配列を示すe−3〜e−100の確率スコアと共にBLASTプログラムを使用してもよい。
【0064】
「ハイブリダイズする」とは、ストリンジェンシーの種々の条件下で、相補的ポリヌクレオチド配列(例:表1及び表2に記載されている遺伝子)間又はその部分間に二本鎖分子を形成する対を意味する。(例:Wahl,G.M.and S.L.Berger(1987)Methods Enzymol.152:399;Kimmel,A.R.(1987)Methods Enzymol.152:507を参照されたい)
【0065】
例えば、ストリンジェント塩濃度は、通常、約750mM NaClと75mMクエン酸三ナトリウム未満であり、約500mM NaClと50mMクエン酸三ナトリウム未満であるのが好ましく、約250mM NaClと25mMクエン酸三ナトリウム未満であるのが最も好ましい。有機溶媒、例えば、ホルムアミドの非存在下で低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションを得ることができるのに対して、少なくとも約35%ホルムアミド、最も好ましくは少なくとも約50%ホルムアミドの存在下で高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションを得ることができる。ストリンジェント温度条件としては、通常、少なくとも約30℃、より好ましくは少なくとも約37℃、最も好ましくは少なくとも約42℃の温度が挙げられる。ハイブリダイゼーション時間、洗浄剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度、及びキャリアDNAの包含又は排除などの付加パラメータを変化させることは、当業者に公知である。必要に応じて、これらの種々の条件を組み合わせることで種々のレベルのストリンジェンシーが達成される。好適な実施形態では、750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウム、及び1%SDS中で30℃にてハイブリダイゼーションが生じる。さらに好適な実施形態では、500mM NaCl、50mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、35%ホルムアミド、及び100μg/ml変性サケ精子DNA(ssDNA)中で37℃にてハイブリダイゼーションが生じる。最も好適な実施形態では、250mM NaCl、25mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、50%ホルムアミド、及び200μg/ml ssDNA中で42℃にてハイブリダイゼーションが生じる。これらの条件における有用な変化は、当業者であれば容易に明らかとなるであろう。
【0066】
ほとんどの用途において、ハイブリダイゼーション後の洗浄工程もストリンジェンシーを変化させる。洗浄ストリンジェンシー条件は、塩濃度及び温度で定義できる。前述のように、塩濃度を低下させるか或いは温度を上昇させることで洗浄ストリンジェンシーを増すことができる。例えば、洗浄工程用のストリンジェント塩濃度は、約30mM NaClと3mMクエン酸三ナトリウム未満であるのが好ましく、約15mM NaClと1.5mMクエン酸三ナトリウム未満であるのが最も好ましい。洗浄工程用のストリンジェント温度条件としては、通常、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約42℃、最も好ましくは少なくとも約68℃の温度が挙げられる。好適な実施形態では、洗浄工程は、30mM NaCl、3mMクエン酸三ナトリウム、及び0.1%SDS中で25℃にて生じる。さらに好適な実施形態では、洗浄工程は、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウム、及び0.1%SDS中で42℃にて生じる。最も好適な実施形態では、洗浄工程は、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウム、及び0.1%SDS中で68℃にて生じる。これらの条件におけるさらなる変化は、当業者であれば容易に明らかとなるであろう。ハイブリダイゼーション技術は、当業者に公知であり、例えば、Benton and Davis(Science 196:180,1977);Grunstein and Hogness(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 72:3961,1975);Ausubelら(Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience,New York,2001);Berger and Kimmel(Guide to Molecular Cloning Techniques,1987,Academic Press,New York);及びSambrook ら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New Yorkに記載されている。
【0067】
「増減する」とは、正又は負の変化を意味する。そのような変化は、参照値の5%、10%、25%、50%、75%、85%、90%、又は100%である。
【0068】
「単離された核酸分子」とは、本発明の核酸分子が由来する生物の天然由来のゲノムにおいて、遺伝子の側面にある遺伝子を含まない核酸(例:DNA)を意味する。従って、この語は、例えば、ベクター;自己複製プラスミド又はウイルス;或いは原核生物又は真核生物のゲノムDNAに組み込まれる組み換えDNA;或いは、他の配列に独立した別の分子(例えば、PCR又は制限エンドヌクレアーゼ消化により産生されたcDNA又はゲノム若しくはcDNAフラグメント)として存在する組み換えDNAを含む。さらに、この語は、DNA分子から転写されるRNA分子のみならず、付加的ポリペプチド配列をコードする雑種遺伝子の一部である組み換えDNAをも含む。
【0069】
「単離されたポリペプチド」とは、それが天然に伴う成分から分離されている本発明のポリペプチドを意味する。一般に、ポリペプチドは、タンパク質、及びそれが天然で会合している天然由来の有機分子を含まない少なくとも60重量%である場合に単離される。一実施形態では、製剤は、少なくとも75%、85%、90%、95%、又は少なくとも99重量%の本発明のポリペプチドである。単離された本発明のポリペプチドは、例えば、天然源から抽出、そのようなポリペプチドをコードする組み換え核酸の発現;或いはタンパク質の化学的合成により得ることができる。純度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、或いはHPLC分析により測定できる。
【0070】
「マーカー」とは、病気又は疾患に伴って発現量又は活性が変化する任意のタンパク質又はポリヌクレオチドを意味する。
【0071】
「基質」とは、1つ以上の細胞の生存、繁殖、又は増殖をもたらす培地を意味する。一実施形態では、基質は、生分解性培地を含む細胞足場である。
【0072】
「自然発生する」とは、生物の細胞内で内因性発現することを意味する。
【0073】
「ポリペプチドを得る」などの「を得る」とは、ポリペプチドを合成、購入、或いは獲得することを意味する。
【0074】
「操作可能にリンクしている」とは、適切な分子(例:転写活性化因子タンパク質)が第2ポリヌクレオチドに結合した際に第1ポリヌクレオチドの転写を指示する第2ポリヌクレオチドに第1ポリヌクレオチドが隣接して位置していることを意味する。
【0075】
「ポリペプチド」とは、長さ又は翻訳後修飾に関わらない任意のアミノ酸鎖を意味する。
【0076】
「発現するように配置されている」とは、本発明のポリヌクレオチド(例:DNA分子)が、配列の転写及び翻訳を指示する(即ち、例えば、本発明の組み換えポリペプチド、又はRNA分子の産生を容易化する)DNA配列に隣接して位置していることを意味する。
【0077】
「プロモーター」とは、転写を指示するのに十分なポリヌクレオチドを意味する。例示のプロモーターとしては、翻訳開始部位の上流(例:すぐ上流)である100、250、300、400、500、750、900、1000、1250、及び1500個のヌクレオチドの長さの核酸配列が挙げられる。
【0078】
「被験者」とは、限定的ではないが、ヒト哺乳類、又はウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、又はネコなどの非ヒト哺乳類を含む哺乳類を意味する。
【0079】
本明細書で使用する「治療する」、「治療している」、「治療」等の用語は、それに伴う疾患及び/又は症状が軽減又は改善することを言う。除外するわけではないが、疾患又は病気の治療においては、それに伴う疾患、病気、又は症状を完全に取り除くことが必須ではないことが理解されるであろう。「改善する」とは、病気の発生又は進行を軽減する、抑制する、弱める、縮小する、止める、或いは安定させることを意味する。
【0080】
本明細書で使用する「予防する」、「予防している」、「予防」、「予防的治療」等の用語は、罹患していないが、疾患又は病気のリスクがあるか或いは疾患又は病気を発生しやすい被験者において疾患又は病気が発生する確率を低減することを言う。
【0081】
「参照」とは、標準又は対照条件を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1A】図1Aは、発生中の膵臓の内分泌分化における膵島転写因子の役割に対する簡略化モデルの概略図を示す。各転写因子の提案位置は、発現のタイミングと主たる機能的役割のタイミング、或いは両方に基づいている。
【図1B】図1Bは、タンパク質導入ドメイン(PTD)融合タンパク質の構造の概略図を示す。
【図2】クマシーブルー染色(図2A)、抗V5抗体(1:5000)を用いたウエスタンブロット(図2B)、及びPTDドメインの有無によらずクマシーブルー染色によるPTD−Ngn3−V5融合タンパク質を示す。細菌溶解物はレーン1及び2に存在し;Ni−NTA精製PTD−Ngn3−V5融合タンパク質はレーン3に存在しており、それらの位置を矢印で示している。
【図3】PTD−Ngn3融合タンパク質の分析を示す。図3Aは、融合タンパク質の細胞導入を分析する経時変化を示すウエスタンブロットである。図3Bは、融合タンパク質を形質導入した培養中の細胞を示す2枚の顕微鏡写真である。左側は位相差を、右側は蛍光を用いて細胞を示している。蛍光像は、PTD−Ngn3融合タンパク質の細胞間局在を示す。図3Cは、培養培地中のPTD−Ngn3の安定性を示す。図3Dは、Ngn3融合タンパク質がその生物学的機能を保持し、尚且つ、NeuroD及びPax4標的遺伝子の発現を誘導できることを示すウエスタンブロットである。
【図4】可溶性及び不溶性PTD−Ngn3融合タンパク質の精製を示す、クマシーブルーで染色したSDS−PAGEゲルである。
【図5A】Pdx1及びPTD−PDX1融合タンパク質を示す、クマシーブルーで染色したSDS−PAGEゲルである。
【図5B】Pdx1及びPTD−PDX1融合タンパク質を示すグラフである。図5Bは、可溶性PTD−Pdx1融合タンパク質の腹腔内注射により、糖尿病マウスが正常血糖に回復することを示す。
【図6】PTD−Pdx−1融合タンパク質を、腹腔内注射を受けた糖尿病マウス、PTD−GFP融合タンパク質を受けた対照糖尿病マウス、又は正常マウスにおける血糖負荷試験の効果を示すグラフである。PTD−Pdx1融合タンパク質の腹腔内注射により、糖尿病マウスが血糖負荷(四角/線)に応答する能力を回復した。
【図7A】90%の膵切除を実施したマウスの血糖値におけるPTD−Pdx−1タンパク質の腹腔内注射の効果を示す。図7Aは、PTD−Pdx1注射を受けたマウスが注射を受けた数日内で血糖値の低下を示したことを示すグラフである。融合タンパク質の注射を止めると、この効果は最終的には消えた。
【図7B】90%の膵切除を実施したマウスの血糖値におけるPTD−Pdx−1タンパク質の腹腔内注射の効果を示す。図7Bは、腹腔内注射経由で糖尿病マウスに送達したPTD−Pdx1 VP16が膵β細胞の再生を促進することを示す2枚の顕微鏡写真である。PTD−GFP(図7B−a)或いはPTD−Pdx1−VP16(図7B−b)を受けたマウスから採取した膵切片を抗pHH3(リン酸化ヒストンH3タンパク質、赤色)及び抗インスリン(緑色)抗体で2重免疫染色した。Dapi染色により核は青色に強調表示された。図7B−a及び図7B−bは、PTD−Pdx1−VP16又はPdx1注射を受けたマウスの膵臓の膵島(矢印)内、及び膵島外に多くの陽性に染色された有糸分裂細胞が存在することを示す。これに対し、PTD−GFP注射を受けたマウスの膵島(図7B−a、矢印)には有糸分裂(染色)細胞は全く見られず、膵島外にも細胞はまれであった。
【図8】PTD−Pdx1 VP16融合タンパク質の腹腔内注射により、ストレプトゾトシン(Stz)誘導糖尿病マウスの高血糖が改善したことを示すグラフである。
【図9】PTD−Pdx1−VP16融合タンパク質とPTD−Ngn3融合タンパク質の両方の腹腔内注射により、ストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスの高血糖が回復したことを示すグラフである。
【図10】PTD−Pdx1−VP16タンパク質の腹腔内注射により強健な膵β細胞の再生が促進したことを示す顕微鏡写真である。図10Aは、完全な膵切片でインスリン免疫染色により強調表示したインスリン陽性膵β細胞を示す。図10Bは、種々の大きさ(小さなものから大きなものまで)の膵島におけるインスリン免疫染色の高倍率図を示す。いくつかは単一のインスリン+細胞のみを示す。
【図11】顕微鏡写真である。図11Aは、膵島β細胞のインスリン染色を示す。図11Bは、PTD−Pdx1−VP16融合タンパク質の腹腔内注射を受けたマウスの肝臓にインスリン陽性細胞が存在することを示す。図11Cは、二次抗体対照を示す切片であり、これは、染色が特異的であることを示す。図11Dは、PTD−GFP対照融合タンパク質の腹腔内注射を受けたマウスからの肝切片にインスリン染色は現れていないことを示す。
【図12】注射後27日目にPTD−Pdx1−VP16とPTD−Ngn3の腹腔内注射を受けたマウスの肝切片におけるインスリン産生細胞(IPC)の4枚の顕微鏡写真を示す。インスリンを産生する種々の肝細胞が、肝切片(全体の1〜2%)に存在している。
【図13】Stz誘導糖尿病マウスの血糖値に対するAAV−膵転写因子の効果を示す。図13Aは、AAV−GFP注射(1×108個のウイルス粒子)を受けたマウスの肝切片におけるGFPタンパク質発現を示す。〜20%の肝細胞がGFPタンパク質を発現したが、分布は均一ではなかった。図13Bは、AAV−Ngn3(三角の線)、AAV−Pdx−1−VP16(ひし形の線)、又はAAV−Pdx−1−VP16及びNgn3(四角の線)の門脈注射を受けたマウスの血糖値を示すグラフである。AAV−Pdx−1−VP16とNgn3の両方の注射を受けたマウスでは相乗効果が観察された。
【図14】AAV−Pdx1−VP16(左側のパネル)とAAV−Ngn3(右側のパネル)の門脈注射(それぞれ1×108個のウイルス粒子)を受けたマウスの肝切片のインスリン陽性細胞を示す。ほとんどのIPCは、肝臓被膜下に分布している。
【図15】AAV−PV/AAV−Ngn3門脈注射(それぞれ1×108個のウイルス粒子)を受けたマウスの肝切片にインスリン陽性細胞が存在することを示す。左上は、膵島陽性対照である。
【図16】AAV−PV/AAV−Ngn3門脈注射を受けたマウスからの肝切片のグルカゴン免疫染色を示す4枚の顕微鏡写真である。
【図17A】膵転写因子の連続的な発現を示す概略図である。
【図17B】膵転写因子の連続的な発現を示す概略図である。
【図18A】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18B】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18C】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18D】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18E】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18F】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18G】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18H】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図18I】膵転写因子のアミノ酸及び核酸配列である。
【図19A】腹腔内注射後のrPdx1のin vivo動態及び組織分布を示す。図19Aは、Pdx1の血液中濃度の動態を示すウエスタンブロットである。rPdx1タンパク質(100μg/マウス)を正常Balb/cマウスに腹腔内注射した。血液試料を表示時間で採取し、20μl血清/レーンをSPDS−PAGEゲルにロードした。抗Pdx1抗体によるウエスタンブロットでrPdx1タンパク質を検出した。
【図19B】腹腔内注射後のrPdx1のin vivo動態及び組織分布を示す。図19Bは、Pdx1のin vivo組織分布における免疫組織化学分析を示す12枚のパネルを示す。rPdx1(100μg/マウス)腹腔内注射後1時間又は24時間で肝組織、膵組織、及び腎組織を採取し、10%ホルマリンに固定した。パラフィン切片を抗Pdx1抗体(1:2000)で免疫染色した。処理後1時間(上側の2列)及び24時間(下側の3列目)で光学顕微鏡により、肝臓(1、4、及び7)、膵臓(2、5、及び8)、及び腎臓(3、6、及び9)器官におけるPdx1タンパク質の典型的な分布パターンを視覚化した。正常マウスからの肝組織、膵組織、及び腎組織切片のPdx1免疫染色は、下段(10〜12)である。図1B−2の矢印は、強度の核Pdx1免疫染色で膵臓の小膵島を示す。
【図19C】本明細書に記載の結果を生成するのに用いた実験のタイムラインを示す概略図である。ここに実験のタイムラインの概要を示す。正常マウスの血糖、グルコース負荷したインスリン放出(15分)、腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT)、及び肝組織と膵組織のインスリンのベースラインを最初の試験で評価した。次いで、低用量ストレプトゾトシンを5×腹腔内注射することにより糖尿病になるようマウスを誘導した。空腹時血糖値を定期的にモニタリングし、2連続の読取りを2回実施し、250mg/dLを超える血糖値は糖尿病(高血糖症)と定義した。グルコース負荷したインスリン放出を数匹の糖尿病マウスで測定し、これらの糖尿病マウスにおける残余の膵β細胞の能力を評価し、グルコース急上昇負荷を取り扱った。連続して10日間、精製Pdx1又はPTD−GFP融合タンパク質(100μg/マウス/注射)のいずれかを糖尿病マウスに毎日腹腔内注射し、血糖値を示した頻度でモニタリングした。タンパク質注射の初回投与後14日ごろ、IPGTT測定と、15分のIPGTTで血液試料を採取した後、両群から数匹のマウスを屠殺した。重要器官から組織を採取し、3つの部分に分割した:1つは、遺伝子発現を検査するためRT−PCR用にスナップ凍結し;1つは、免疫組織学的研究用に10%ホルマリンで固定し;1つは、組織インスリンの抽出用に酸性エタノールに浸漬した。融合タンパク質の初回注射後30〜35日以内に、ほぼ正常血糖のマウスのほぼ全ての膵切除を実施し、血糖値をモニタリングした。タンパク質処理後40〜50日の間に全ての実験用マウスを屠殺し、上述のように組織を採取した。同様の動物実験を独立して6回実施し、種々の試料を採取した。
【図20A】血糖値におけるPdx1タンパク質のin vivo効果を示す。図20Aは、5×低用量(50μg/g体重)Stz腹腔内注射により糖尿病(2回読取りで空腹時血糖値が250〜300mg/dL)になるよう誘導されたBalb/cマウスの血糖値を示すグラフである。糖尿病マウスを実験用rPdx1又は対照GFP群に無作為化し、10日間連続(赤い水平バー)で100μgのPdx1又はGFPタンパク質の腹腔内注射をそれぞれ受けた。尾静脈穿刺で血糖測定器により血糖値を定期的にモニタリングした。初回注射後14〜15日目と40日目に数匹のマウスを屠殺した。初回注射後14日及び40日ごろに正常マウス、GFP処理マウス、又はrPdx1処理マウスにおいてIPGTTを実施した。選択した対照マウスとrPdx1処理マウスのほぼ全ての膵切除を処理後30日ごろに実施した。
【図20B】血糖値におけるPdx1タンパク質のin vivo効果を示す。図20Bは、腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT)の結果を示す2つのグラフである。マウスをIPGTT前に少なくとも8時間絶食させた。ボーラス用量のグルコース(1mg/g体重)を腹腔内注射し、正常マウス(下段の黒線)、rPdx1処理マウス(中段の灰色線)、又はGFP処理マウス(上段の灰色線)の血糖を0分、15分、30分、60分、及び120分で測定した。
【図20C】血糖値におけるPdx1タンパク質のin vivo効果を示す。図20Cは、血糖値を示すグラフである。
【図20D】血糖値におけるPdx1タンパク質のin vivo効果を示す。図20Dは、処理後14日及び40日で15分のIPGTT後のインスリン値を示す。マウス血糖値を上述のようにモニタリングした。15分のボーラス用量のグルコース(1mg/g体重)の腹腔内注射により負荷した正常マウス及び処理マウスから血液試料を採取した。マウス超高感度インスリンELISAキットによりインスリン値をアッセイした。各群には少なくとも5匹のマウスを含む。
【図21A】Pdx1タンパク質が膵島細胞の再生を促進することを示す。図21Aは、インスリン免疫組織化学を示す4枚のパネルである。GFP(左側)又はrPdx1(右側)で処理したマウスからのパラフィン包埋膵組織切片を抗インスリン抗体(1:1000)で免疫染色した。10×(上段パネル)又は40×(下段パネル)倍率で代表的な画像を撮影した。
【図21B】Pdx1タンパク質が膵島細胞の再生を促進することを示す。図21Bは、膵組織のインスリン/グルカゴン二重免疫染色を示す。GFP処理マウス及びrPdx1処理マウスの膵組織からのパラフィン切片をウサギ抗グルカゴン/PE(赤色)及びモルモット抗インスリン/FITC(緑色)両方で免疫染色し、蛍光顕微鏡下で視覚化した。全ての画像は40×倍率で撮影した。
【図21C】Pdx1タンパク質が膵島細胞の再生を促進することを示す。図21Cは、定量的リアルタイムRT−PCR分析を示す2つのグラフである。rPdx1又はGFP処理(100μg/日を10日間)後14日及び40日で糖尿病マウスの膵組織から全RNAを採取し、インスリン、Pdx1、INGAPrP、Reg3γ、及びPAPを含む5つの標的遺伝子の発現をリアルタイムRT−PCRにより検査した。β−アクチン遺伝子の発現に対して発現量を補正し、正常化した。結果は、各群で少なくとも3匹の個々のマウスを表している。相対的遺伝子発現における倍差(Fold difference)をrPdx1処理した膵臓における標的遺伝子発現(標準アクチンcDNAと比較して)の平均値CT値とGFP処理した膵臓試料におけるこれらの標的遺伝子(標準アクチンcDNAと比較して)の平均値CT値の比として算出した。省略形は:INGAPrP=islet neogenesis−associated protein related protein(膵島新生関連タンパク質関連タンパク質);Reg3γ=regenerating islet−derived 3 gamma(再生島誘導3ガンマ);PAP=pancreatitis−associated protein(膵炎関連タンパク質)である。
【図21D】Pdx1タンパク質が膵島細胞の再生を促進することを示す。図21Dは、アガロースゲルにおけるリアルタイムPCRバンドを示すアガロースゲルである。リアルタイムPCR産物をアガロースゲル中で走行させ、処理後14日目及び40日目に試料の大きさ及び特異性(ゲル中のシングルバンド)を確認した。
【図22A】Pdx1タンパク質がインスリン産生細胞に肝細胞分化転換を促進することを示す。図22Aは、インスリン免疫組織化学染色を示す9枚のパネルである。肝臓からのパラフィン切片を抗インスリン抗体(1:250)で一晩4℃でインキュベートした。40×の対物レンズを用いて写真画像を撮影した。処理後14日でrPdx1処理マウスの肝切片のインスリン陽性細胞を観察した。省略形は:B.D.=bile duct(胆管)、H.T.V.=hepatic terminal vein(肝分界静脈)である。B;黒色矢印は、単一の二核インスリン発現肝細胞の凝縮核クロマチンの特徴を示す。
【図22B】Pdx1タンパク質がインスリン産生細胞に肝細胞分化転換を促進することを示す。図22Bは、肝臓における膵遺伝子の発現を示す。正常マウス、GFP処理マウス、又はrPdx1処理マウスの肝臓から抽出したRNAの逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)の増幅をアガロースゲル電気泳動により分析した。マウスの膵臓から単離したRNAを陽性対照として用いた。Ngn3 RT−PCR分析において、成熟膵臓はこの遺伝子を発現しないため、Ngn3 cDNAプラスミド(*)を陽性対照として用いた。省略形は:No RT=no reverse transcription(逆転写なし)、D14又はD40=day 14 or day 40 post−first−protein injection(タンパク質初回注射後14日目又は40日目)である。
【図22C】Pdx1タンパク質がインスリン産生細胞に肝細胞分化転換を促進することを示す。図22C及び図22Dは、他の器官における膵遺伝子の発現を示すアガロースゲルである。処理後14日目にrPdx1処理糖尿病マウスの他の器官組織から全RNAを採取し、4つの主要な膵遺伝子(PDX1、インスリン、グルカゴン、及びアミラーゼ)の発現をRT−PCRにより検査した。全てのRT−PCR結果は、各特定群における少なくとも3匹の個々のマウスを表わしており、結果は、独立して3回繰り返した。
【図23A】膵組織及び肝組織インスリン測定値を示すグラフである。図23Aは、膵組織インスリン測定を示す。正常マウス(n=4)又は10日間連続して腹腔内注射経由でGFP(n=4)又はrPdx1(n=5)処理糖尿病マウスの別々の群をこの試験で用いた。注射後14日目又は40日目にマウスを屠殺し、肝臓又は膵臓全体の重量を測り、サンプリング変動が減少するのを防ぐため組織インスリンの抽出用に採取した。酸性エタノールで組織インスリンを抽出し、マウス超高感度インスリンELISAキットでELISAにより測定した。膵臓の組織インスリン含量は、膵組織の湿重量1ミリグラム当たりのインスリン量(ng)として表した。**=(p<0.05)であり、***=(p<0.001)である。
【図23B】膵組織及び肝組織インスリン測定値を示すグラフである。図23Bは、肝組織インスリン測定を示す。上述と同一の方法を用いて肝組織インスリンを抽出した。肝臓の組織インスリン含量は、肝組織の湿重量1グラム当たりのインスリン量(ng)として表した。14日目の肝臓インスリン含量は、正常マウス(n=4)又はGFP処理マウス(n=5)の肝臓よりも、14日目のrPdx1処理マウス(n=6)で有意に高い。**=(p<0.05)。***=(p<0.001)。
【図24A】マウスPdx1及びPTD−GFP融合タンパク質のクローニング、発現、精製、及び特性を示す。図24Aは、融合タンパク質の生成を示す。上段パネルは、マウスPdx1及びPTD−GFPの融合タンパク質の概略構造を表す。灰色のボックスは、Pdx1タンパク質のアンテナペディア様タンパク質導入ドメインを表す。マウスPdx1又はPTD−GFPをコードするcDNAフラグメントを発現プラスミドにクローン化した。タンパク質を発現させ、Niカラムにより精製した。下段パネルには、10%SDS−PAGEゲル中の精製タンパク質を示し、クマシーブリリアントブルーR溶液(左側のパネル)で染色した。レーン1は分子量マーカーを;レーン2はPdx1を;レーン3はPTD−GFPを表す。右側のパネルは、抗Pdx1抗体(レーン1)及び抗his−tag抗体(レーン2)を用いたウエスタンブロットによる融合タンパク質の確認である。rPdx1及びPTD−GFP融合タンパク質は、矢じり若しくは矢印により、それぞれ示したように確認される。
【図24B】マウスPDX1及びPTD−GFP融合タンパク質のクローニング、発現、精製、及び特性を示す。図24Bは、Pdx1タンパク質の細胞侵入の時間経過を示す。Pdx1(1μM)でWB細胞を表示時間でインキュベートし、PBSで3回洗浄した。細胞溶解物を分離し、ウサギ抗Pdx1(1:1000)又は抗アクチン(1:5000)抗体でウエスタンブロットによりプローブした。(B)細胞Pdx1タンパク質の相対量をデンシトメトリーにより定量化した。それらの密度値を得るためバンドを走査し、それらの対応するハウスキーピングタンパク質アクチンで値を標準化した。ピーク読取り値を100%と定義し、細胞Pdx1タンパク質の相対量の比較を得るため残りの値を最も高い読取り値で除算している。
【図24C】マウスPDX1及びPTD−GFP融合タンパク質のクローニング、発現、精製、及び特性を示す。図24Cは、rPdx1タンパク質の機能分析を示す。LV−pNeuroD−GFPレポーター遺伝子によりWB細胞を形質導入した。pNeuroD−GFP発現レポーター遺伝子WB細胞を発現するWB細胞を視覚化し、蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリー分析によりPdx1タンパク質又はLV−Pdx1のいずれかで処理後72時間にて定量化した。左側のパネルは、サイトスピンスライド上のpNeuroD−GFP発現細胞の蛍光画像を示す。右側上段パネルは、フロードットプロットを示す。下段パネルは、GFP発現細胞の割合を示すヒストグラムである。結果は、代表的な3つの独立した実験を表している。
【図25A】Pdx1組織分布を示す。正常Balb/cマウスにrPdx1タンパク質(1mg)を腹腔内注射し、注射後1時間又は24時間で屠殺した。正常マウス又はrPdx1注入マウスからの組織切片を抗Pdx1抗体(1:1000、rPdx1タンパク質に対して当研究所で作成)で免疫染色した。図25Aは、対照マウスからの6つの組織切片を示す。脳組織にバックグラウンド核染色があり、膵島はPdx1タンパク質の陽性核染色を示す。
【図25B】Pdx1組織分布を示す。正常Balb/cマウスにrPdx1タンパク質(1mg)を腹腔内注射し、注射後1時間又は24時間で屠殺した。正常マウス又はrPdx1注入マウスからの組織切片を抗Pdx1抗体(1:1000、rPdx1タンパク質に対して当研究所で作成)で免疫染色した。図25Bは、注射後24時間のrPdx1処理マウスからの6つの組織切片を示す。注射後24時間で、肝切片、膵切片、及び腎切片で微量のrPdx1タンパク質を検出した。脳、心臓、及び脾臓からの切片は、rPdx1注射なしの正常組織と同様のバックグラウンド染色を示す。
【図25C】Pdx1組織分布を示す。正常Balb/cマウスにrPdx1タンパク質(1mg)を腹腔内注射し、注射後1時間又は24時間で屠殺した。正常マウス又はrPdx1注入マウスからの組織切片を抗Pdx1抗体(1:1000、rPdx1タンパク質に対して当研究所で作成)で免疫染色した。図25Cは、注射後1時間でrPdx1処理(1mg)マウスからの組織切片を示す9枚のパネルである。腎切片(1〜2)の被膜細胞及び近位尿細管細胞で、膵切片(3〜4、7〜9)の外分泌膵腺房細胞の核及び細胞質で、尚且つ、肝切片(5〜6)の肝細胞の核で、強度のPdx1免疫反応性が検出された。
【図25D】Pdx1組織分布を示す。正常Balb/cマウスにrPdx1タンパク質(1mg)を腹腔内注射し、注射後1時間又は24時間で屠殺した。正常マウス又はrPdx1注入マウスからの組織切片を抗Pdx1抗体(1:1000、rPdx1タンパク質に対して当研究所で作成)で免疫染色した。図25Dは、注射後14日目のPdx1処理糖尿病マウスの外分泌膵腺房細胞間のインスリン陽性細胞を示す3枚のパネルである。
【図26】正常マウス肝臓におけるインスリンI、グルカゴン、Pdx1、アミラーゼ、及び西洋ワサビペルオキシダーゼの発現を示すアガロースゲルである。
【発明を実施するための形態】
【0083】
本発明は、広義には、対象細胞の数又は生物活性の欠乏により特徴づけられる病気、疾患、又は損傷を治療する治療用組成物及び治療方法を提供する。一実施形態では、本方法は、再プログラムされた細胞(例:成熟細胞又は胚幹細胞)を生成するための、或いは対象の細胞、組織、又は器官の再生を増加させるためのタンパク質組成物(例:タンパク質導入ドメインを含む融合ポリペプチド)を提供する。必要に応じて、本発明の治療用ポリペプチドの持続的発現をもたらす治療用核酸分子と組み合わせてこれらの組成物を投与する。そのような方法は、特定の細胞型又はその細胞型により産生されたポリペプチドが欠乏している被験者の治療に有用である。本発明は、少なくとも一部において、肝細胞をタンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子と接触させることにより、成熟肝細胞をインスリン産生細胞に再プログラミングすることでインスリン産生細胞を生成できるという観察に基づいている。さらに、本発明は、膵細胞の再生を誘導させる組成物及び方法を提供する。従って、本発明は、1型及び2型糖尿病及び関連の合併症に伴う高血糖を改善又は予防する、予防的及び治療的方法及び組成物をも提供する。
【0084】
(膵転写因子)
胚発生中の内分泌膵島細胞の分化及び成熟は、遺伝子調節の独特なパターンにより制御される複雑なプロセスである(図1Aを参照)。多数の膵転写因子(PTF)は、膵臓内に見つかった異なる細胞型の特定に重要な役割を果たすことが知られている。これらの転写因子において、膵及び十二指腸のホメオボックス遺伝子−1(Pdx−1)は、肝臓と膵臓とを区別する主要タンパク質をコードする可能性が最も高い。胚形成中、外分泌及び内分泌膵臓に向かって分化する全ての前駆細胞で発現するPdx−1(Soria Differentiation 2001;68(4−5):205−219;Huiら、Eur J Endocrinol 2002;146(2):129−141)は、正常な膵臓発生に重要な役割を果たす。実際、Pdx−1ノックアウトマウスには膵組織は存在しない。ヒトにおける機能的Pdx−1タンパク質の欠如は、膵臓の形成不全をもたらす。成人の場合、Pdx−1発現はβ細胞及び約20%のδ細胞に制限され、これは、インスリン遺伝子発現に重要な役割を果たす(Soria Differentiation 2001;68(4−5):205−219;Huiら、Eur J Endocrinol 2002;146(2):129−141)。
【0085】
他のPTFは、発生中の膵臓における内分泌細胞で選択的に発現し、内分泌細胞の運命決定に役割を果たすことができる。これらの膵転写因子は、ホメオドメインを含み、ニューロゲニン3(Ngn3)、Nkx2.2、及びNkx6.1を含む初期因子に分割することができ、これらは、より成熟した細胞に見られる内分泌前駆細胞及び後期因子(Pax4、Pax6、及びIsl−1)で共発現する(Soria Differentiation 2001;68(4−5):205−219;Wilsonら、Mech Dev 2003;120(l):65−80)。塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス(bHLH)転写因子Ngn3は、膵臓発生中に内分泌前駆細胞で一時的に発現し、Beta2/NeuroDを直接調節する。Ngn3は、多能性膵内胚葉前駆細胞で内分泌細胞の運命決定を制御する(Gradwohlら、Proc Natl Acad Sci USA 2000;97(4):1607−1611;Guら、Development 2002;129(10):2447−2457;Schwitzgebelら、Development 2000;127(16):3533−3542)。Beta2/NeuroDは、Ngn3の直接下流標的遺伝子であるbHLHタンパク質Beta2/NeuroDである。Beta2/NeuroDは、膵内分泌細胞で発現し、インスリン遺伝子転写を活性化させる。Pax4及びPax6は、発生中の腸及び成熟膵臓の両方で発現した2つのホメオドメインタンパク質であり、異なる細胞型の特定において機能する。Pax4は、インスリン産生β細胞及びソマトスタチン産生δ細胞の後期分化における主要因子である(Sosa−Pinedaら、Nature 1997;386(6623):399−402)。Pax4は、β細胞の発生中に一時的に発現し、自己調節により停止する(Sosa−Pinedaら、Nature 1997;386(6623):399−402)。マウス胚幹細胞にPax4を形質移入することで、Pdx−1形質移入細胞と比べてIPCの著しい上昇につながる(Blyszczukら、Proc Natl Acad Sci USA 2003;100(3):998−1003)。これに対し、Pax6は、グルカゴン産生α細胞の生成に必要である(St Ongeら、Nature 1997;387(6631):406−409)。Nkx2.2及びNkx6.1は、膵β細胞の発生中に機能し、類似の遺伝子発現パターンを有する(Sanderら、Genes Dev 1997;11(13):1662−1673)。Isl−1ノックアウトマウスには内分泌細胞が存在しないため、Isl−1は、膵島細胞の分化に必要である(Ahlgrenら、Nature 1997;385(6613):257−260)。
【0086】
Pdx1及びNgn3などの膵転写因子は、幹細胞又は前駆細胞が膵内分泌細胞に分化するコミットメントにおける上流制御として働き(Ahlgrenら、Nature 1997;385(6613):257−260)、尚且つ、Pax4は、内分泌前駆細胞が膵β細胞に分化する第二波のコミットメントとして働くため、これらの膵転写因子は、細胞(例:成熟細胞又は胚幹細胞)の再プログラミングに有用である。一実施形態では、インスリンを発現しない成熟細胞はインスリン産生細胞に転換される。例えば、本明細書で報告したように、膵転写因子は、肝由来細胞又は肝幹細胞からインスリン産生細胞を生成するのに使用される。一般に転写因子は、ある細胞から他へと転座する能力を持たないサイトゾルタンパク質として考えられていた。より最近では、いくつかの転写因子はパラクリンシグナリング分子として作用することが、証拠により示唆されている。そのような転写因子としては、一般に、タンパク質導入ドメインが挙げられる。PDX−1タンパク質が、膵管及び膵島細胞に形質導入できるアンテナペディア様タンパク質導入ドメインを含むことが最近報告された(Noguchiら、Diabetes 2003;52(7):1732−1737)。タンパク質工学を用いて、1つ以上のタンパク質導入ドメインを含む他の転写因子を提供することができる。
【0087】
(タンパク質導入ドメイン)
タンパク質導入ドメインは、細胞及び核膜にわたってタンパク質を転座できる短ペプチド配列であり、非定型の分泌腺や内在化経路によりサイトゾルへの侵入につながる(Joliotら、Nat Cell Biol 2004;6(3):189−196)。1988年には、Green氏とLoewenstein氏が、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)TATタンパク質、86アミノ酸タンパク質が、細胞に急速に侵入でき、細胞核にも侵入できることを発見した(Green and Loewenstein PM.Cell 1988;55(6):1179−1188)。この観察に基づいて、最小のウンデカペプチドタンパク質導入ドメイン(HIV−1 TATの47〜57残基に対応)がDowdy氏及び同僚らにより開発された(Schwarzeら、Science 1999;285(5433):1569−1572)。マウスへの腹腔内注射経由でNH2−末端TAT−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質(120kDa)をマウス組織にうまく送達するため、このウンデカペプチド配列を用いた(Schwarzeら、Science 1999;285(5433):1569−1572)。TAT−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質は生物活性を維持した。この一般的方法は、種々のタンパク質の形質導入にうまく用いられている。PTD含有ペプチド又はタンパク質は、100nM程度まで低い濃度で5分以内に細胞に取り込まれ、蛍光による直接標識か或いは抗体を用いた間接免疫蛍光により評価した。この取り込みは、エンドサイトーシス機構、膜貫通タンパク質チャネル、及びタンパク質受容体結合とは無関係である。さらに、タンパク質導入ドメイン媒介の転座は低温で起こり、強い細胞特異性を示さないことがin vitro研究により実証されている。
【0088】
(組み換えポリペプチド発現)
本発明は、広義には、対象細胞の数又は生物活性の欠乏に伴う糖尿病及び他の病気、疾患、又は損傷の治療に有用なタンパク質ベースの治療を提供する。一般に、タンパク質ベースの治療には、タンパク質導入ドメインに操作可能にリンクした転写因子を含み、タンパク質導入ドメインは、生物活性転写因子の細胞に侵入できる「分子パスポート」として作用できる。転写因子は、細胞を再プログラムするよう作用する。再プログラムされた細胞は、転写及び/又は翻訳プロファイルが変更されている、即ち、未処理の対照細胞に対して発現したものとは異なる一連のmRNA及び/又はポリペプチドを発現する。
【0089】
以下でさらに詳細に説明するように、実質的に任意の対象転写因子をタンパク質導入ドメインに融合することができ、タンパク療法に使用できる。そのような融合タンパク質は、in vitro又はin vivoで細胞に送達できるのが有利である。一実施形態では、本発明の融合タンパク質は、細胞が融合タンパク質を取り込むようにin vitroで細胞との接触に用いられる。細胞はその後、治療目的のために被験者に送達される。或いは、本発明の融合タンパク質は、細胞、組織、又は器官が融合タンパク質を取り込み、治療目的を達成するようin situで細胞、組織、又は器官に投与される。1つの有用な実施形態では、本発明の融合タンパク質は、タンパク質導入ドメインに操作可能にリンクした膵転写因子である。この融合タンパク質が肝細胞、肝幹細胞、又は他の体細胞(例:膵前駆細胞、膵幹細胞、膵島細胞、内分泌細胞、又は外分泌細胞)と接触する際に、細胞を再プログラムして、インスリン及び/又はグルカゴンを産生する。別の実施形態では、タンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子は、膵細胞(例:膵前駆細胞、膵幹細胞、膵島細胞、内分泌細胞、又は外分泌細胞)の再生能を増加させる。この再生能の増加は、一般に、高血糖症の被験者を正常血糖に回復させるように、インスリン産生の増加をもたらす。インスリン産生は、参照量(例:治療前に産生した量、又は未治療対象で産生した量)に対して少なくとも約1、2、3、4、5倍、又は少なくとも約10、12、15、又は20倍に増加させるのが望ましい。
【0090】
本発明の組み換え融合ポリペプチドは、当業者に公知の実質的に任意の方法を用いて産生される。一般に、組み換えポリペプチドは、適当な発現ビークル中でポリペプチドの全てまたは一部をコードする核酸分子又はそのフラグメントとともに、適当な宿主細胞の形質転換により産生される。分子生物学の分野の当業者であれば、組み換えタンパク質を提供するため任意の広範囲の発現系を使用できることが理解されるであろう。使用した正確な宿主細胞は、本発明にとって重要ではない。本発明のポリペプチドは、原核宿主(例:大腸菌)又は真核宿主(例:サッカロマイセス・セレヴィシエ、昆虫細胞、例:Sf21細胞、又は哺乳類細胞、例:NIH3T3、HeLa、又は好ましくはCOS細胞)で産生することができる。そのような細胞は、広範囲の供給源(例:American Type Culture Collection,Rockland,Md.;又は、例:Ausubelら、Current Protocol in Molecular Biology,New York:John Wiley and Sons,1997を参照されたい)から入手可能である。形質転換又は形質移入の方法及び発現ビークルの選択は、選択した宿主系による。形質転換及び形質移入の方法は、例えば、Ausubelら(上記)に記載されており;発現ビークルは、例えば、Cloning Vectors:A Laboratory Manual(P.H.Pouwelsら、1985,Supp.1987)に提供されるものから選択される。
【0091】
本発明のポリペプチドを産生するため種々の発現系が存在する。そのようなポリペプチドの産生に有用な発現ベクターとしては、限定的ではないが、染色体、エピソーム、及びウイルス由来のベクター、例えば、細菌プラスミド由来、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来、酵母エピソーム由来、挿入因子由来、酵母染色体因子由来のベクター;バキュロウイルス、パポバウイルス、例、SV40、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、及びレトロウイルスなどのウイルス由来のベクター;及びその組み合わせ由来のベクターが挙げられる。
【0092】
ポリペプチド産生用の1つの特定の細菌発現系は、大腸菌pET発現系(例:pET−28)(Novagen,Inc.,Madison,Wis)である。この発現系によれば、ポリペプチドをコードするDNAは、発現可能に設計された配向でpETベクターに挿入される。そのようなポリペプチドをコードする遺伝子は、T7調節シグナルの制御下であるので、ポリペプチドの発現は、宿主細胞におけるT7RNAポリメラーゼの発現を誘導することで達成される。これは、通常、IPTG誘導に応じてT7RNAポリメラーゼを発現する宿主株を用いて達成される。産生されると、組み換えポリペプチドは、その後、当該技術分野で公知の標準的方法、例えば、本明細書に記載の方法に従って単離される。
【0093】
ポリペプチド産生用の別の細菌発現系は、pGEX発現系(Pharmacia)である。この系は、機能遺伝子産物の短時間精製と短時間回収による融合タンパク質として遺伝子又は遺伝子フラグメントを多量発現するよう設計されているGST遺伝子融合系を用いる。対象タンパク質は、日本住血吸虫からのグルタチオンS−トランスフェラーゼタンパク質のカルボキシル末端に融合し、グルタチオンセファロース4Bを用いてアフィニティクロマトグラフィーにより細菌溶解物から容易に精製される。融合タンパク質は、グルタチオンで溶出することで緩やかな条件下で回収できる。融合タンパク質からグルタチオンS−トランスフェラーゼドメインを切断することは、このドメイン上流の部位特異的プロテアーゼの認識部位の存在により容易化される。例えば、pGEX−2Tプラスミドで発現したタンパク質は、トロンビンで切断され;pGEX−3Xで発現したものは、因子Xaで切断される。
【0094】
或いは、本発明の組み換えポリペプチドは、ピキア・パストリス、メチロトローフ酵母で発現する。ピキアは、唯一の炭素源としてメタノールを代謝することができる。メタノール代謝の第1ステップは、酵素、アルコールオキシダーゼによるメタノールのホルムアルデヒドへの酸化である。この酵素の発現は、AOX1遺伝子によりコードされ、メタノールにより誘導される。AOX1プロモーターは、誘導性ポリペプチド発現に使用でき、又は、GAPプロモーターは、対象遺伝子の構成的発現に使用できる。
【0095】
本発明の組み換えポリペプチドが発現すると、例えば、アフィニティクロマトグラフィーを用いて単離する。一例では、本発明のポリペプチドに対して生成した抗体(例:本明細書に記載のように産生)をカラムに結合させ、組み換えポリペプチドの単離に使用してもよい。アフィニティクロマトグラフィー前のポリペプチド内包細胞の溶解及び分画は、標準的方法(例:Ausubelら、上記を参照)により行うことができる。或いは、ニッケルカラムに結合するヘキサヒスチジンタグなどの配列タグを用いてポリペプチドを単離する。
【0096】
単離されると、組み換えタンパク質は、必要に応じて、例えば、高速液体クロマトグラフィーによりさらに精製することができる(例:Fisher,Laboratory Techniques In Biochemistry and Molecular Biology,eds.,Work and Burdon,Elsevier,1980を参照)。本発明のポリペプチド、特に短いペプチドフラグメントは、化学合成(例:Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.,1984 The Pierce Chemical Co.,Rockford,Ill.に記載の方法)によって産生することもできる。ポリペプチド発現及び精製のこれらの一般的技術は、有用なペプチドフラグメント又は類似体(本明細書に記載)の産生及び単離にも使用できる。
【0097】
(転写因子/タンパク質導入ドメイン融合ポリペプチ及び類似体)
細胞を再プログラムする能力、又は再生を誘導する能力を高めるように変性される転写因子/タンパク質導入ドメイン融合ポリペプチド又はそのフラグメントも本発明に含まれる。他の実施形態では、配列の変化によりタンパク質の溶解度又は収率が増加する。例えば、本発明は、肝由来細胞をインスリン産生細胞に再プログラムする能力を高めた変性膵転写因子融合タンパク質を提供する。他の例では、変性膵転写因子融合タンパク質は、膵細胞の再生能を増加させる。或いは、変化は、タンパク質導入ドメイン内であり、変化したドメインは、操作可能にリンクしたタンパク質の、核などの細胞又は細胞内コンパートメントへの輸送を増加させる。他の実施形態では、タンパク質導入ドメインにおける変化により、操作可能にリンクしたポリペプチドの生物活性の干渉を低下させる。
【0098】
本発明は、配列に変化を加えることで転写因子、又はタンパク質導入ドメインアミノ酸配列、若しくは核酸配列を最適化する方法を提供する。そのような変化としては、特定の突然変異、欠損、挿入、又は翻訳後修飾が挙げられる。本発明は、本発明の任意の天然ポリペプチドの類似体もさらに含む。類似体は、アミノ酸配列の違い、翻訳後修飾、或いは両方により本発明の天然ポリペプチドと異なり得る。本発明の類似体は、一般的に、本発明の天然アミノ酸配列の全てまたは一部と少なくとも85%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%、或いは99%の同一性を示す。配列比較の長さは、少なくとも5、10、15、又は20個のアミノ酸残基、好ましくは少なくとも25、50、又は75個のアミノ酸残基、より好ましくは100を超えるアミノ酸残基である。ここでも、同一性の度合いを決定する例示的手法では、密接に関連する配列を示すe−3〜e−100間の確率スコアとともに、BLASTプログラムを用いてもよい。修飾としては、ポリペプチドのin vivo及びin vitro化学誘導体化、例えば、アセチル化、カルボキシル化、リン酸化、又はグリコシル化が挙げられ;そのような修飾は、ポリペプチド合成又はプロセシング、或いは単離された修飾酵素で処理した後に起こる場合がある。類似体は、一次配列の変化により本発明の天然由来のポリペプチドと異なっていてもよい。これらには、自然変異及び誘導変異の両方の遺伝的変異を含む(例えば、Sambrook,Fritsch and Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2d ed.),CSH Press,1989,又はAusubelら、上記、に記載されている硫酸エタンメチルへの照射又は暴露によるランダム突然変異、或いは、部位特異的突然変異により生じる)。L−アミノ酸、例えば、D−アミノ酸、又は非天然由来若しくは合成アミノ酸、例えば、ベータ或いはガンマアミノ酸以外の残基を含む環化ペプチド、分子、及び類似体も含まれる。
【0099】
全長ポリペプチドに加えて、本発明は、本発明のポリペプチド又はペプチドドメインのいずれか1つのフラグメントも提供する。本明細書で使用する「フラグメント」という語は、少なくとも5、10、13、或いは15個のアミノ酸を意味する。他の実施形態では、フラグメントは、少なくとも20個の隣接アミノ酸、少なくとも30個の隣接アミノ酸、又は少なくとも50個の隣接アミノ酸であり、他の実施形態では、少なくとも60〜80、100、200、300個、又はそれ以上の隣接アミノ酸である。本発明のフラグメントは、当業者に公知の方法により生成できるか、或いは正常タンパク質プロセシング(例:新生ポリペプチドから生物活性に必要でないアミノ酸を除去、或いは代替mRNAスプライシング又は代替タンパク質プロセシングイベントによるアミノ酸の除去)によってもたらすこともできる。
【0100】
非タンパク質転写因子/タンパク質導入ドメイン融合類似体は、融合タンパク質機能活性を模倣するよう設計された化学構造を有する。そのような類似体は、本発明の方法に従って投与される。融合タンパク質類似体は、元の融合ポリペプチドの生理活性を超えていてもよい。類似体の設計方法は、当該技術分野で公知であり、類似体の合成は、得られた類似体が参照転写因子/タンパク質導入ドメイン融合ポリペプチドの再プログラミング又は再生能を増加させるように化学構造を修飾することでそのような方法に従って行うことができる。これらの化学修飾としては、限定的ではないが、代替R基の置換、及び参照融合ポリペプチドの特定炭素原子における飽和度の変化が挙げられる。融合タンパク質類似体はin vivo分解に比較的耐性があり、投与時により長い治療効果をもたらすことが好ましい。機能活性を測定するアッセイとしては、限定的ではないが、以下の実施例に記載のものが挙げられる。
【0101】
(試験化合物及び抽出物)
一般に、再プログラミング活性又は再生誘導活性をもつ融合ポリペプチドは、当該技術分野で公知の方法に従って、天然産物又は合成(又は半合成)抽出物の大型ライブラリ、又は化学ライブラリ、或いはポリペプチド若しくは核酸ライブラリから同定される。それらをコードするそのような候補ポリペプチド又は核酸分子は、タンパク質導入ドメインを含むよう修飾してもよい。修飾ポリペプチドは、その後、所望の活性に対してスクリーニングされる。創薬及び薬剤開発分野の当業者であれば、試験抽出物又は化合物の正確な供給源が本発明のスクリーニング手順(単数又は複数)にとって重要ではないことが分かるであろう。スクリーニングに用いる薬剤は、公知の化合物(例えば、他の病気又は疾患に使用される公知のポリペプチド治療)を含んでもよい。或いは、実質的に任意の数の未知の化学抽出物又は化合物は、本明細書に記載の方法を用いてスクリーニングできる。そのような抽出物又は化合物の例としては、限定的ではないが、植物抽出物、真菌抽出物、原核抽出物、又は動物性抽出物、発酵もろみ液、及び合成化合物のみならず、既存ポリペプチドの修飾も挙げられる。
【0102】
細菌、真菌、植物、及び動物抽出物の形態の天然ポリペプチドのライブラリは、Biotics(Sussex,UK)、Xenova(Slough,UK)、Harbor Branch Oceangraphics Institute(Ft.Pierce,Fla.)、及びPharmaMar,U.S.A.(Cambridge,Mass.)を含む多くの供給源から市販されている。そのようなポリペプチドは、当該技術分野で公知の方法及び本明細書に記載の方法を用いてタンパク質導入ドメインを含むよう修飾することができる。さらに、天然及び合成的に産生したライブラリは、必要に応じて、当該技術分野で公知の方法に従って、例えば、標準的抽出及び分画方法により生成される。分子ライブラリの合成方法の例は、当該技術分野、例えば、DeWittら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909,1993;Erbら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11422,1994;Zuckermannら、J.Med.Chem.37:2678,1994;Choら、Science 261:1303,1993;Carrellら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059,1994;Carellら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061,1994;及びGallopら、J.Med.Chem.37:1233,1994に記載されている。さらに、必要に応じて、任意のライブラリ又は化合物は、標準的な化学的方法、物理的方法、又は生化学的方法を用いて容易に修飾される。
【0103】
任意の数のポリペプチド、限定的ではないが、サッカリド−、脂質−、ペプチド−、及び核酸−ベース化合物を含む化合物の無作為又は有向合成(例:半合成、又は全合成)を生成するための多数の方法も利用可能である。合成化合物ライブラリは、Brandon Associates(Merrimack,N.H.)及びAldrich Chemical(Milwaukee,Wis.)から市販されている。或いは、候補化合物として使用される化合物は、当業者に公知の標準的な合成技術及び方法論を用いて容易に入手可能な出発原料から合成できる。本明細書に記載の方法により同定された化合物の合成に有用な合成化学変換及び保護基方法論(保護及び脱保護)は、当該技術分野で公知であり、例えば、R.Larock,Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers(1989);T.W.Greene and P.G.M.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,2nd ed.,John Wiley and Sons(1991);L.Fieser and M.Fieser,Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1994);及びL.Paquette,ed.,Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1995)、並びにそれらのその後の版に記載のものが挙げられる。
【0104】
化合物のライブラリは、溶液中に(例:Houghten,Biotechniques 13:412−421,1992)、又はビーズ上に(Lam,Nature 354:82−84,1991)、チップ上に(Fodor,Nature 364:555−556,1993)、細菌上に(Ladner,米国特許第5,223,409号)、胞子上に(Ladner,米国特許第5,223,409号)、プラスミド上に(Cullら、Proc Natl Acad Sci USA 89:1865−1869,1992)、或いはファージ上に(Scott and Smith,Science 249:386−390,1990;Devlin,Science 249:404−406,1990;Cwirlaら、Proc.Natl.Acad.Sci.87:6378−6382,1990;Felici,J.Mol.Biol.222:301−310,1991;Ladner,上記)存在していてもよい。
【0105】
さらに、創薬及び薬剤開発の当業者であれば、活性がすでに公知の材料の複製物若しくは反復の脱複製(例:分類的脱複製、生物学的脱複製、及び化学的脱複製、又はその任意の組み合わせ)又は脱離する方法を可能であればいつでも使用すべきであることは容易に理解されるであろう。
【0106】
粗抽出物が再プログラミング又は再生誘導活性を有することが分かった場合、観測結果に関与する分子成分を単離するためポジティブリード抽出物のさらなる分画が必要である。従って、抽出、分画、及び精製プロセスの目標は、細胞(例:成熟細胞又は胚幹細胞)を再プログラムする、又は再生を高める粗抽出物の化学物質を注意深く特性化し、同定することである。そのような異種抽出物を分別及び精製する方法は、当該技術分野で公知である。必要に応じて、治療に有用であることを示す化合物は、当該技術分野で公知の方法に従って化学的に修飾される。
【0107】
(治療方法)
本発明は、細胞数の欠乏(例:膵細胞数の減少)又は細胞生物活性の不足(例:インスリン産生の欠乏)に伴う病気及び疾患の治療を提供する。例えば、本発明は、膵細胞を産生するインスリン数又はインスリン活性の低下により十分な量のインスリンが不足している糖尿病患者を治療する組成物を提供する。細胞数の欠乏に伴う多くの病気は、細胞死の増加により特徴づけられる。そのような病気としては、限定的ではないが、神経変性疾患、発作、心筋梗塞、又は虚血損傷が挙げられる。外傷に伴う損傷は、損傷を受けている領域で細胞数の欠乏をももたらし得る。本発明の方法は、欠乏を補完できる細胞(例:心筋細胞、神経細胞、インスリン発現細胞)を生成することでそのような病気、疾患、又は損傷を改善する。そのような細胞は、細胞を対象細胞型に再プログラミングすること(例:肝細胞をインスリン産生細胞に再プログラミング)、或いは細胞、組織、又は器官の再生を促進させることで生成される。一般に、本発明は、細胞(例:脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞)をタンパク質導入ドメインに融合したか或いはそれを含む転写因子ポリペプチド又はそのフラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;細胞における少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれ以上のポリペプチドの発現量を変化させる工程とを含み、それにより細胞を再プログラミングする、細胞の再プログラミング方法を提供する。
【0108】
一実施形態では、細胞数の欠乏を改善するため、タンパク質導入ドメインを含む融合ポリペプチド又はポリペプチドをin situで細胞、組織、又は器官に投与する。或いは、ポリペプチドをin vitroで細胞に投与し、次いで、ポリペプチドを含む細胞(又はそれらをコードする核酸分子)を病気、疾患、又は損傷を改善するよう患者に投与する。十分なレベルのタンパク質が病気又は疾患を改善するため形質導入されるように、細胞に取り込むことができる形でポリペプチドをこれらの細胞に送達する。一実施形態では、治療用のポリペプチド又は融合ポリペプチドは、再生の増加或いは細胞の再プログラミングが望まれる部位に局所送達される。投与は、十分なレベルの細胞導入をもたらすのに十分な任意の手段であってよい。特定の形質導入レベルは達成すべき治療目的に応じて変わるが、組織の細胞の少なくとも2、5、10、又は15%が形質導入されるのが望ましい。他の実施形態では、少なくとも25%、35%、又は50%の細胞が形質導入される。さらに別の実施形態では、少なくとも75%、85%、95%、又はそれ以上の細胞が形質導入される。ポリペプチドのレベルは、少なくとも約5%、10%、25%、50%、75%、又はそれ以上を変化させるのが好ましい。
【0109】
種々の実施形態では、融合ポリペプチドは、手術条件下で持続注入又はミクロ注入によって、病気又は損傷の部位に局所注射により投与される(Wolffら、Science247:1465,1990)。他の実施形態では、融合ポリペプチドは、細胞の再生又は再プログラミングにより改善できる、細胞数が欠乏している患者の組織又は器官に全身的に投与される。
【0110】
別の手法では、患者の罹患組織への細胞導入は、ex vivoで本発明の融合ポリペプチドを培養可能細胞型(例:自己又は異種初代細胞又はその子孫細胞)に移すことで達成され、その後、病気又は損傷部位標的組織に細胞(又はその子孫)を注入する。いくつかの実施形態では、細胞は、それらの生存、繁殖、又は生物活性を提供する細胞基質に存在する。本発明に含まれる別の治療手法は、組み換え治療用融合ポリペプチド、生物活性フラグメント、又はその変異体の投与を伴う。
【0111】
本発明は、本明細書に記載の式の化合物を含む医薬組成物の治療有効量を被験者(例:ヒトなどの哺乳類)に投与することを含む、病気及び/又は疾患、若しくはその症状を治療する方法を提供する。従って、1つの実施形態は、細胞数の欠乏により特徴づけられる病気又は疾患若しくはその症状をかかえている又はこれらを起こしやすい被験者を治療する方法である。本方法は、病気又は疾患を治療する条件下で、病気又は疾患若しくはその症状を治療するのに十分な量の本発明の組成物の治療量を哺乳類に投与する工程を含む。
【0112】
他の実施形態では、本発明の治療用ポリペプチドは、感染及び安定した組込み並びに発現が特に高効率であるため、体細胞遺伝子治療に用いられるウイルス(例:レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)ベクターで形質導入した細胞で産生される(例:Cayouetteら、Human Gene Therapy 8:423−430,1997;Kidoら、Current Eye Research 15:833−844,1996;Bloomerら、Journal of Virology 71:6641−6649,1997;Naldiniら、Science 272:263−267,1996;及びMiyoshiら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:10319,1997を参照されたい)。例えば、本発明の治療用タンパク質をコードする核酸分子又はその一部はレトロウイルスベクターにクローン化でき、発現は、その内因性プロモーターから、レトロウイルス長末端反復から、又は対象となる標的細胞型に特異的なプロモーター(例:中枢神経系の細胞)から駆動できる。使用できる他のウイルスベクターとしては、例えば、ワクシニアウイルス、ウシパピローマウイルス、又はエプスタイン−バーウイルスなどのヘルペスウイルスが挙げられる(例えば、the vectors of Miller,Human Gene Therapy 15−14,1990;Friedman,Science 244:1275−1281,1989;Eglitisら、BioTechniques 6:608−614,1988;Tolstoshevら、Current Opinion in Biotechnology 1:55−61,1990;Sharp,The Lancet 337:1277−1278,1991;Cornettaら、Nucleic Acid Research and Molecular Biology 36:311−322,1987;Anderson,Science 226:401−409,1984;Moen,Blood Cells 17:407−416,1991;Millerら、Biotechnology 7:980−990,1989;Le Gal La Salleら、Science 259:988−990,1993;及びJohnson,Chest 107:77S−83S,1995も参照されたい)。レトロウイルスベクターは特に十分に開発されており、臨床設定に使用されている(Rosenbergら、N.Engl.J.Med 323:370,1990;Andersonら、米国特許第5,399,346号)。対象遺伝子に全身的に投与するため、或いは細胞の再プログラミング又は再生の増加を必要とする部位で細胞に投与するため、ウイルスベクターを用いるのが最も好ましい。
【0113】
本明細書に記載の方法は、そのような効果を生むため、本明細書に記載の融合ポリペプチド又は本明細書に記載の組成物の有効量を被験者(そのような治療を必要とすると見なされた被験者を含む)に投与することを含む。そのような治療を必要とする被験者の同定は、被験者又は医療専門家の判断であってよく、主観的(例:意見)又は客観的(例:試験又は診断法により測定可能)であってもよい。
【0114】
本発明の治療方法(予防的治療を含む)は、一般に、本明細書に記載の式の化合物などの本明細書に記載の化合物の治療有効量を、哺乳類、特にヒトを含む、それを必要とする被験者(例:動物、ヒト)に投与することを含む。そのような治療は、病気、疾患、又はその症状をかかえている、有している、起こしやすい、又はそれらのリスクがある被験者、特にヒトに適当に投与される。「リスクがある」これら被験者の決定は、診断試験又は被験者若しくは医療提供者の意見(例:遺伝子検査、酵素又はタンパク質マーカー、マーカー(本明細書で定義される)、家族歴等)による任意の客観的又は主観的判断であってよい。本明細書に記載の組成物は、細胞数の欠乏に関係があり得る任意の他の疾患の治療に使用してもよい。
【0115】
一実施形態では、本発明は、治療の進捗をモニタリングする方法を提供する。本方法は、細胞数の欠乏に伴う疾患又はその症状をかかえている又は起こしやすい被験者に、診断用マーカー(マーカー)(例:本明細書に記載の化合物により調節され本明細書で明確に記載した任意の標的、そのタンパク質若しくは指標等)のレベル、又は診断測定(例:スクリーニング、アッセイ)を決定する工程を含み、ここで、被験者には、病気又はその症状の治療に十分な本明細書に記載の化合物の治療量が投与されている。本方法で決定したマーカーレベルは、被験者の疾病状態を確立するため、健康な正常対照又は他の罹患患者の公知のマーカーレベルと比較できる。好適な実施形態では、被験者の第2マーカーレベルは、第1レベルの決定よりも後の時点で決定され、2つのレベルは、病気の経過、或いは治療の有効性をモニタリングするため比較される。特定の好適な実施形態では、被験者の治療前のマーカーレベルは、本発明による治療を開始する前に決定され;この治療前のマーカーレベルは、その後、治療の有効性を決定するため、治療開始後の被験者のマーカーレベルと比較することができる。
【0116】
(膵転写因子ポリヌクレオチド治療)
本発明はさらに、通常、そのようなタンパク質を発現しない細胞、組織、又は器官で膵転写因子を持続的に発現する方法を提供する。必要に応じて、ウイルスベクター(例:アデノ随伴ウイルスベクター)は、Pdx−1及び/又はNeuroDポリペプチド、或いは融合ポリペプチド(例:PTD−Pdx−1、PTD−NeuroD)を持続的に発現するために用いられる。そのようなウイルスベクターは、必要に応じて、本発明の融合ポリペプチドと組み合わせて投与してもよい。膵転写因子及びタンパク質導入ドメインを含む融合ポリペプチドは、細胞に一時的にしか存在しないのに対して、アデノ随伴ウイルスベクターで発現したポリペプチド又は融合ポリペプチドは、持続的に発現されるので有利である。Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、又はMafAタンパク質、変異体、又はそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド(例:AAV−2ベクターなどのAAV発現ベクター)を特徴とするポリヌクレオチド治療は、高血糖を治療する1つの治療手法である。そのような核酸分子は、高血糖(例:1型又は2型糖尿病に関連する高血糖)を有する被験者の細胞に送達できる。核酸分子は、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、又はPax6、若しくはそのフラグメントなどの膵転写因子を治療に有効なレベルで産生できるよう、被験者の細胞に取り込まれる形で被験者の細胞に送達されなければならない。膵島−1、Pdx1、neuroD、Nkx6.1、又はMafAポリペプチド(例:PTD融合ポリペプチド)の持続的発現は、1週間、2週間、3週間よりも長く、又は1、3、6、又は12ヵ月間よりも長く有効レベルで維持されるのが好ましい。必要に応じて、膵転写因子の持続的発現は、一時的に存在するNgn3及び/又はPax4ポリペプチド(例:PTD融合ポリペプチド)と組み合わせられる。
【0117】
形質導入ウイルス(例:レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)ベクターは、感染及び安定した組込み並びに発現が特に高効率であるため、体細胞遺伝子治療に用いることができる(例:Cayouetteら、Human Gene Therapy 8:423−430,1997;Kidoら、Current Eye Research 15:833−844,1996;Bloomerら、Journal of Virology 71:6641−6649,1997;Naldiniら、Science 272:263−267,1996;及びMiyoshiら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:10319,1997を参照されたい)。例えば、膵転写因子タンパク質、変異体、又はそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、レトロウイルスベクターにクローンすることができ、発現は、その内因性プロモーターから、レトロウイルス長末端反復から、又は対象の標的細胞型に特異的なプロモーターから駆動できる。使用できる他のウイルスベクターとしては、例えば、ワクシニアウイルス、ウシパピローマウイルス、又はエプスタイン−バーウイルスなどのヘルペスウイルスが挙げられる(例えば、the vectors of Miller,Human Gene Therapy 15−14,1990;Friedman,Science 244:1275−1281,1989;Eglitisら、BioTechniques 6:608−614,1988;Tolstoshevら、Current Opinion in Biotechnology 1:55−61,1990;Sharp,The Lancet 337:1277−1278,1991;Cornettaら、Nucleic Acid Research and Molecular Biology 36:311−322,1987;Anderson,Science 226:401−409,1984;Moen,Blood Cells 17:407−416,1991;Millerら、Biotechnology 7:980−990,1989;Le Gal La Salleら、Science 259:988−990,1993;及びJohnson,Chest 107:77S−83S,1995も参照されたい)。レトロウイルスベクターは特に十分に開発され、臨床設定に使用されている(Rosenbergら、N.Engl.J.Med 323:370,1990;Andersonら、米国特許第5,399,346号)。一実施形態では、肝臓又は肝葉にポリヌクレオチドを投与するため、アデノ随伴ウイルスベクター(例:血清2型)を使用する。
【0118】
高血糖の調節を必要とする患者の細胞への治療的導入に非ウイルス手法を使用することもできる。例えば、リポフェクションの存在下での核酸投与(Feignerら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.84:7413,1987;Onoら、Neuroscience Letters 17:259,1990;Brighamら、Am.J.Med.Sci.298:278,1989;Staubingerら、Methods in Enzymology 101:512,1983)、アシアロオロソムコイド−ポリリジン接合(Wuら、Journal of Biological Chemistry 263:14621,1988;Wuら、Journal of Biological Chemistry 264:16985,1989)、又は手術条件下でのミクロ注入(Wolffら、Science 247:1465,1990)により核酸分子を細胞に導入することができる。一実施形態では、核酸は、リポソーム及びプロタミンと組み合わせて投与される。
【0119】
遺伝子導入は、in vitroでの形質移入を伴う非ウイルス手段を用いて達成することもできる。そのような方法としては、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、エレクトロポレーション、及び原形質融合の使用が挙げられる。リポソームは、細胞へのDNA送達にも潜在的に有益であり得る。患者の罹患組織に正常遺伝子を移植することは、ex vivoで正常核酸を培養可能細胞型(例:自己又は異種の初代細胞、又はその子孫)に移動することでも達成でき、その後、その細胞(又はその子孫)を標的組織に注入する、或いはカニューレ経由で送達する。
【0120】
ポリヌクレオチド治療方法で使用されるcDNA発現は、任意の適当なプロモーター(例:ヒトサイトメガロウイルス(CMV)、シミアンウイルス40(SV40)、又はメタロチオネインプロモーター)から指令することができ、任意の適当な哺乳動物調節要素により調節できる。例えば、必要に応じて、特定の細胞型(例:肝細胞、肝幹細胞、又は他の肝由来細胞)で遺伝子発現を選択的に指令することが知られているエンハンサーを核酸の発現を指令するのに使用することができる。使用されるエンハンサーとしては、限定的ではないが、組織特異的又は細胞特異的エンハンサーとして特徴づけられるものが挙げられる。或いは、ゲノムクローンを治療構築として用いる場合、同族の調節配列により、或いは、必要に応じて、上述の任意のプロモーター又は調節要素を含む異種源由来の調節配列により、調節を媒介させることができる。
【0121】
本発明に含まれる別の治療手法は、潜在的に或いは実際に病気に罹患している組織の部位、ポリペプチドが治療効果をもつ器官に直接的、或いは全身的(任意の従来の組み換えタンパク質投与技術により)のいずれかで、組み換え膵転写因子タンパク質又は融合タンパク質、変異体、若しくはそのフラグメントなどの組み換え治療薬の投与を伴う。投与されるタンパク質の投与量は、個々の患者の大きさ及び健康を含む多くの要因による。任意の特定の被験者において、特定の投与計画は、個人のニーズ、及び組成物を投与する、又は組成物の投与を監督管理する者の専門的な判断に従って経時的に調整すべきである。
【0122】
(ポリペプチド及びポリヌクレオチド治療薬)
本発明は、細胞数又は生物活性の欠乏により特徴づけられる病気又は疾患を治療する治療薬として作用可能な組成物(膵転写因子、タンパク質導入ドメイン/融合ポリペプチド、そのフラグメント、そのようなタンパク質、ペプチド、小分子阻害剤、及び模倣剤などをコードする核酸分子を含む)を同定する簡素な手段を提供する。従って、細胞を別の細胞型に再プログラミングする、或いは再生を促進させることで薬理効果をもつことが判明した転写因子、又は他の薬剤などのポリペプチドは、本明細書に記載の方法を用いて識別される。そのようなポリペプチドは、治療薬として、或いは、例えば、合理的薬物設計によって既存のポリペプチドの構造的修飾に対する情報として有用である。そのような方法は、対象細胞型の欠乏により特徴づけられる種々の病気に効果がある薬剤のスクリーニングに有用である。
【0123】
治療上の使用において、本明細書に開示されている方法を用いて同定された融合ポリペプチドは、例えば、生理食塩水などの薬学的に許容される緩衝剤中に調合して、全身的に投与することができる。好適な投与経路としては、例えば、患者において継続的で持続的な薬物レベルをもたらす皮下、静脈、腹腔内、筋肉内、又は皮内注射が挙げられる。ヒト患者又は他の動物の治療は、生理学的に許容される担体中にポリペプチド又は核酸分子治療薬の治療有効量を用いて行われる。適当な担体及びそれらの製剤は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences by E.W.Martin.に記載されている。投与される治療薬の量は、投与方法、患者の年齢及び体重、並びに細胞の欠乏の臨床症状に応じて変わる。一般に、量は、他の病気の治療に用いられる他の治療用ポリペプチド又はタンパク療法薬剤に用いられる範囲である。一実施形態では、本発明の融合ポリペプチドは、当業者に公知の診断法によって、或いは標的遺伝子の発現など膵転写因子ポリペプチドの発現若しくは生物活性を測定する任意のアッセイを用いて判断された高血糖の臨床又は生理的症状を制御する量で投与される。一実施形態では、本発明の組成物は、少なくとも約1〜5mg/Kg体重若しくは少なくとも約5μg/g体重、0.1mg/20g体重、又は1mg/20gの有効量で投与される。他の実施形態では、少なくとも約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、又は20mg/kgの本発明のポリペプチド治療薬を投与する。
【0124】
(医薬組成物の製剤)
細胞数の欠乏により特徴づけられる病気、疾患、又は損傷を治療する本発明の組成物の投与は、他の成分と組み合わせて、病気の改善、軽減、又は安定化に有効な治療薬の濃度をもたらす任意の適当な手段によることができる。例えば、被験者の血糖値を低下させる又は正常化する量である。治療用のポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はそのような薬剤を含む細胞は、任意の適当な担体物質中に任意の適当な量で含まれていてもよく、一般に、組成物の総重量の1〜95重量%の量で存在する。組成物は、非経口(例:皮下内、静脈内、筋肉内、又は腹腔内)投与経路に適当な剤形で提供してもよい。医薬組成物は、従来の薬務に従って製剤化することができる(例:Remington:The Science and Practice of Pharmacy(20th ed.),ed.A.R.Gennaro,Lippincott Williams & Wilkins,2000 and Encyclopedia of Pharmaceutical Technology,eds.J.Swarbrick and J.C.Boylan,1988−1999,Marcel Dekker,New Yorkを参照されたい)。ポリペプチドの半減期を延長させる、吸収を増加させる、或いは持続放出をもたらすように、ポリペプチドを修飾又は製剤化できるのが望ましい
【0125】
本発明による医薬組成物は、実質的に投与後直ちに、又は投与後任意の所定時間若しくは期間で活性化合物を放出するように製剤化することができる。後者のタイプの組成物は、徐放製剤として一般的に知られており、(i)長時間にわたって体内の薬物濃度を実質的に一定にする製剤;(ii)所定の遅延時間後に長時間にわたって体内の薬物濃度を実質的に一定にする製剤;(iii)有効物質の血漿レベルの変動(鋸歯状の速動パターン)に伴う望ましくない副作用を付随的に最小限にしながら、体内で比較的一定の有効レベルを維持することで所定時間にわたって作用を持続する製剤;(iv)例えば、腹膜腔近傍に、又は腹膜腔内に、或いは組成物の分布が望まれる別の部位で徐放組成物を空間配置することで作用を局所化する製剤;(v)例えば、1、2日ごとに一回、又は1、2週間ごとに一回用量を投与するように便利な投薬が可能な製剤;及び(vi)病気、疾患、又は損傷をもつ被験者において機能が損傷されている特定の細胞型(例:肝細胞又は膵細胞)に治療薬を送達するよう、担体又は化学的誘導体を用いて病気、疾患、又は損傷を標的にする製剤が挙げられる。いくつかの用途では、徐放製剤により、血漿レベルを治療レベルに維持するため日中に頻回投与を行う必要性をなくす。
【0126】
放出率が当該化合物の代謝率を上回る徐放を得るために、任意の多くの戦略を遂行することができる。一例では、例えば、種々のタイプの徐放組成物及び剤皮を含む種々の製剤パラメータ及び成分の適切な選択により徐放が得られる。従って、治療薬は、投与時に治療薬を制御しながら放出する医薬組成物中に適切な賦形剤とともに製剤化される。例としては、単一ユニット又は複数ユニットの錠剤又はカプセル剤の組成物、油剤、懸濁剤、乳剤、マイクロカプセル剤、マイクロスフェア剤、分子錯体、ナノ粒子、パッチ、及びリポソームが挙げられる。
【0127】
必要に応じて、本発明の治療用組成物は、対象細胞の再生を高める、或いは、対象細胞の再プログラミングを高める他の薬剤とともに提供される。一実施形態では、薬剤は、可溶性増殖因子などの増殖因子である。例えば、治療用のポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はそのような薬剤を含む細胞は、PDGF、EGF、VEGF、bFGF、HGF、NGF、KGFなどの可溶性増殖因子とともに提供される、或いは、ニコチンアミド、エキセンジン4、GLP−1、ベータセルリン、膵島新生関連タンパク質(INGAP)、又はグレリンなどのβ細胞促進因子とともに提供される。
【0128】
(送達方法)
医薬組成物は、剤形で、製剤で、又は適当な送達装置経由で、或いは従来の非毒性の薬学的に許容される担体及びアジュバントを含む移植で、注射、注入、又は移植(皮下、静脈、筋肉内、腹腔内等)により投与することができる。一実施形態では、本発明の治療用組成物は、浸透圧ポンプ経由で提供される。そのような組成物の製剤及び調製物は、医薬製剤の当業者には公知である。製剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,上記、で見つけることができる。
【0129】
非経口用の組成物は、ユニット剤形(例:単回投与アンプル)で、或いは、数用量を含み、かつ、適当な保存料を添加してもよいバイアル(以下参照)で提供することができる。組成物は、溶液剤、懸濁剤、乳剤、注入装置、又は移植用の送達装置の形であってもよく、或いは、使用前に水又は別の適当な賦形剤で戻される乾燥粉末として提供してもよい。活性ポリペプチド治療薬(単数又は複数)とは別に、組成物は、適当な非経口的に許容できる担体及び/又は賦形剤を含んでもよい。活性ポリペプチド治療薬(単数又は複数)は、徐放用の浸透圧ポンプ、マイクロスフェア剤、マイクロカプセル剤、ナノ粒子、リポソーム等に組み込んでもよい。さらに、組成物は、懸濁化剤、可溶化剤、安定剤、pH調整剤、毒性調整剤、及び/又は分散剤を含んでもよい。
【0130】
前述のように、本発明による医薬組成物は、滅菌注射に適当な形であってもよい。そのような組成物を調製するため、適当な活性融合ポリペプチド治療薬(単数又は複数)を非経口的に許容できる液体賦形剤中に溶解若しくは懸濁させる。使用してもよい許容可能な賦形剤及び溶媒としては、水;塩酸、水酸化ナトリウム、又は適当な緩衝剤を適量加えることで適当なpHに調整した水;1,3−ブタンジオール;リンゲル液;及び等張食塩水;並びにデキストロース溶液がある。水性製剤は、1つ以上の保存料(例:p−ヒドロキシ安息香酸メチル、エチル、又はn−プロピル)を含んでもよい。化合物の1つが水に難溶性であるか又は僅かに可溶性である場合、溶解促進剤又は可溶化剤を添加することができ、或いは、溶媒には、10〜60%w/wのプロピレングリコール等を含んでもよい。
【0131】
一実施形態では、本発明の治療用組成物(例:ポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はそのような薬剤を含む細胞)は、カニューレ経由で局所的に提供する。例えば、肝由来細胞をインスリン産生細胞に再プログラミングするため、本発明の組成物を門脈経由で肝臓に提供する。肝葉の1つのみがインスリン産生細胞を含むように、門脈の3本の分枝の1本のみに組成物を提供すること(例:カニューレ経由)で、組成物を単一の肝葉に特異的に向けるのがより好ましい。他の実施形態では、本発明の組成物を浸透圧ポンプ経由で提供する。浸透圧ポンプは、1〜3日間、3〜5日間、5〜7日間、又は、2、3、4、又は5週間にわたって組成物の徐放をもたらすのが望ましい。
【0132】
(併用療法)
本発明の組成物は、必要に応じて、タンパク療法の有効性のモニタリングを助けるため検出可能に標識された融合タンパク質を含む本発明の任意の他のポリペプチド又はポリヌクレオチド治療薬と組み合わせて、或いは当該技術分野で公知の任意の従来の治療薬と組み合わせて送達することができる。一実施形態では、タンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子などの本発明の融合ポリペプチドは、糖尿病被験者の高血糖を低下させるのに使用する。この治療効果は、治療方法が患者のインスリン依存を完全に除かなくても望ましいものである。従って、本発明の融合ポリペプチドは、高血糖又はその症状若しくは合併症を緩和するためインスリンとともに投与してもよい。本発明の治療用融合ポリペプチドは、患者のインスリン依存を少なくとも約5、10、又は15%低下させるのが望ましく、少なくとも約20%、25%、或いは30%低下させるのがより望ましく、又は50%、75%、85%、或いはそれ以上低下させるのがさらにより望ましい。他の実施形態では、ポリペプチド治療薬は、本発明のポリヌクレオチド(例:膵転写因子又は融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド)と組み合わせる。他の実施形態では、本発明の組成物は、血糖値を低減及び/又は正常化するため、食事、減量、又は経口、注射用、経鼻、若しくは他のインスリン療法と組み合わせて使用する。本発明の組み合わせは、一緒に製剤化し、同時投与してもよく、或いは、互いに24時間以内、2、3、又は5日間以内、或いは、1、2、3、又は5週間以内に投与してもよい。
【0133】
(キット又は医薬システム)
本発明の組成物は、高血糖の改善に使用されるキット又は医薬システムに組み付けてもよい。本発明のこの態様によるキット又は医薬システムは、バイアル、チューブ、アンプル、ボトルなどの1つ以上の容器手段で密閉した箱、厚紙、チューブなどの運搬手段を含む。本発明のキット又は医薬システムには、本発明の薬剤を使用するための関連取扱説明書も含んでよい。
【0134】
本発明の実施には、特に指示がない限り、当業者の十分な範囲内である分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来技術を用いる。そのような技術は、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,second edition(Sambrook,1989);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait,1984);「Animal Cell Culture」(Freshney,1987);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir,1996);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller and Calos,1987);「Current Protocols in Molecular Biology」(Ausubel,1987);「PCR:The Polymerase Chain Reaction」,(Mullis,1994);「Current Protocols in Immunology」(Coligan,1991)などの文献に十分に説明されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの産生に適用が可能であり、従って、本発明を作成及び実施することが考えられる。特定の実施形態において特に有用な技術を以下のセクションで説明する。
【0135】
(実施例)
本明細書に記載の研究は、タンパク質導入ドメイン(PTD)膵転写因子(PTF)融合タンパク質を含むタンパク質導入ドメイン融合タンパク質の治療的使用及び/又は予防的使用を提供する。一実施形態では、PTD−PTF融合タンパク質は、肝細胞の膵内分泌前駆細胞又は他のインスリン産生細胞への再プログラミング又は分化転換を指令するのに用いる。本発明のPTD−PTFは、糖尿病被験者の高血糖を低下させるのに用いる。簡単に要約すれば、本発明は、11アミノ酸TATタンパク質導入ドメイン(PTD)の有無によらずPTF融合遺伝子(Pdx1、Pdx1−VP16、Ngn3、及びPax4)をコードする構築物を提供する。これらの構築物は、in vivoで生物活性があるPTD−Ngn3、Ngn3、及びPax4融合タンパク質の産生及び精製に使用されている。本発明は、細胞又は分子レベルで生じる分化転換事象の分析に使用する色分けされたレポーターPTF遺伝子を含む、分化転換プロセスをモニタリングする組成物及び方法を提供する。細胞移植後、機能膵β細胞様インスリン産生細胞にその後成熟し、尚且つ、糖尿病マウスを正常血糖に回復させる肝由来膵前駆体に肝細胞を再プログラミングする実現性は、糖尿病マウスで膵転写因子−トランス遺伝子発現のウイルス媒介発現によって支持されている。本発明のNgn3及びPax4融合タンパク質は、本明細書に記載の細胞に一時的にのみ存在するので有利である。この過渡的な存在は、肝由来グルコース調節の完全に機能的なインスリン産生細胞の生成に十分なものである。
【0136】
本明細書に記載の研究により、本発明が、Ngn3及びPax4の持続的発現を提供する方法を上回る特定の利点を提供することが示唆される。特に、持続的なレンチウイルス媒介のNgn3発現により、肝細胞の細胞周期停止とアポトーシスが引き起こされたのに対して、Pdx1−VP16−発現IPCにおける持続的なLV媒介のPax4発現は、深刻な低血糖をもたらし、移植マウスは死亡した。
【0137】
実施例1:タンパク質導入ドメイン含有Ngn3融合タンパク質(PTD−Ngn3)。
例示のタンパク質導入ドメイン(PTD)含有融合タンパク質の構造を図1Bに概略的に示す。種々のドメインの配向を1つの特定の構成で示しているが、これは一例として単に提供するものである。他の組み合わせ及び構成は、本発明の範囲内である。特に、PTDドメインは、カルボキシ又はアミノ末端位であってもよく、或いはポリペプチド内の任意の他の位置であってもよい。
【0138】
PTD−Ngn3−V5−His−tag又はNgn3−V5−His−tag融合タンパク質をpCR T7/CT−TOPO発現プラスミド(Invitrogen)を用いて生成した。抗His−tag抗体は多くのヒスチジンリッチタンパク質も認識するため、pCR T7/CT−TOPOプラスミドはV5エピトープもコードし、高品質な市販の抗V5抗体を用いて組み換えタンパク質の選択的検出という利点を提供する。簡単に要約すれば、PTD(YGRKKRRQRRR)配列を含むプライマーをもつPCR産物を生成するため、マウスNgn3の全読み取り枠をコードするcDNAを用いた(全てのPCR産物は、University of Florida DNA Core Facilityでの配列決定により確認された)。PTD−Ngn3及びNgn3 PCR産物を発現プラスミド、pCR T7/CT−TOPOプラスミド(Invitrogen)にクローンすることで、V5及びhis標識融合タンパク質の生成を可能にした。得られたベクターは、pCR−PTD−Ngn3−V5−His又はpCR−Ngn3−V5−His(PTD−マイナス対照)と称する。最終cDNAは、ペプチド配列を以下の順:PTD(11aa)−Ngn3(214aa)−V5エピトープ(14aa)−His−tag(6aa)にコードする。得られた融合タンパク質は、Ngn3の生物学的機能を保持していた。
【0139】
特定のタンパク質導入ドメイン(PTD)含有融合タンパク質を説明しているが、当業者であれば、本発明がさほど限定されないことが理解されるであろう。各ドメインの位置は、例えば、宿主細胞におけるタンパク質の生物活性、形質導入、溶解度、又は発現を向上させるように変更することができる。例えば、PTDドメインは、ポリペプチドのカルボキシ又はアミノ末端で存在してもよく、或いは、分子内のどこの位置に配置されてもよい。
【0140】
実施例2:PTD−Ngn3−V5−His融合タンパク質の産生及び精製。
所望の融合タンパク質を産生するため、プラスミドpCR−PTD−Ngn3−V5−His又はpCR−Ngn3−V5−Hisで形質転換した大腸菌BL21(DE3)細胞をアンピシリン(100μg/ml)含有LB培地中で37℃でOD6000.5(対数期の中間部)に増殖させた。4時間かけて0.5mMのイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を加えることで、融合タンパク質の発現を誘導した。誘導細胞を回収し、リシス緩衝液(Invitrogen)中で超音波処理により溶解させた。可溶性のPTD−Ngn3又はNgn3融合タンパク質をNi−NTAアガロースカラム(Invitrogen)を用いて精製した後、製造者取扱説明書に従ってPD10カラム(Amersham)で脱塩した。精製タンパク質をクマシーブルー染色により(図2A及び2C)視覚化し、抗V5抗体でウエスタンブロット分析により確認した(図2B)。タンパク質を10%グリセロールを含むPBS中でアリコートし、使用するまで−80℃で保存した。精製したPTD−Ngn3とNgn3融合タンパク質(図2C)には、分子量に僅かな差があることを示す(図2C)。
【0141】
実施例3:PTDドメイン含有むNgn3融合タンパク質の機能的特性。
PTD融合タンパク質が細胞に侵入する能力を評価するため、時間経過のPTD−Ngn3形質導入を実施した。ラット肝上皮幹様クローン細胞株であるWB細胞(Tsaoら、Exp.Cell Res.,154,38−52,1984)を精製PTD−Ngn3融合タンパク質(0.2μM)を含む培地で種々の期間インキュベートし、PBSで3回洗浄し、2×SDS試料緩衝液中で回収した。PTD−Ngn3−V5融合タンパク質を抗V5抗体でウエスタンブロット法により検出した(図3A)。この分析結果により、PTDドメインにより媒介されたタンパク質形質導入は2時間でピークに達したことが実証された。このプロセスを視覚化するため、製造者取扱説明書(Pierce)に従って精製PTD−Ngn3融合タンパク質をFITCで標識した。PTD−Ngn3−V5−*FITCを最終濃度0.2μMで2時間かけてWB細胞に加えた。PTDが欠如しているNgn3融合タンパク質は、細胞に侵入しなかった。図3Bは、>70%の細胞が細胞質及び核の両方にFITC標識融合タンパク質を含有したことを示す。細胞培養培地中のPTD−Ngn3融合タンパク質の安定性を判断するため、融合タンパク質(0.2μM)をWB細胞に加え、アリコートした培地を表示時間で取り除いた。融合タンパク質を抗V5抗体でウエスタンブロットにより検出した(図3C)。PTD−Ngn3タンパク質は24時間でまだ培養培地に存在しているが、タンパク質レベルの低下があった。図4A及び4Bは、精製された可溶性及び不溶性のPTD−Ngn3融合タンパク質の品質を示す。
【0142】
PTD−Ngn3が下流標的遺伝子であるNeuroD及びPax4を活性化できるか判断するため、ヒトHuh7細胞をLV−Ngn3(MOI=20)又はPTD−Ngn3(0.2μM、フレッシュなPTD−Ngn3を6時間毎に添加)で4日間処理した。RNAを採取し、RT−PCRを実施した。図3Dは、LV−Ngn3とPTD−Ngn3タンパク質処理間のNeuroD及びPax4(下流標的遺伝子)のNgn3活性化における等価効力を示す。これらの結果により、生物活性のあるPTD−Ngn3融合タンパク質が産生され、このタンパク質は抗V5抗体により検出可能であったことが示される。
【0143】
実施例4:PTD−Pdx1−VP16(PTD−PV)又はPTD−Pdx1−VP16/PTD−Ngn3腹腔内注射により糖尿病マウスの血糖値が回復した。
Pdx1は、膵「マスター」制御遺伝子として作用する。ストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスにhis−tag精製した可溶性PTD−Pdx1融合タンパク質、又はPTD−GFP融合タンパク質(100μg/マウス)のいずれかを10日間毎日注入し、尾静脈穿刺で血糖値を1日おきにモニタリングした。図5A及び図5Bは、これらの実験結果を示す。図5Aは、注射に用いた精製タンパク質を示し;図5Bは、可溶性Pdx1タンパク質を複数回腹腔内注射することにより高血糖がほぼ正常血糖に戻ったことを示す。PTD−GFP注射を受けた対照マウスにおいては血糖値に何の効果も観察されなかった。
【0144】
腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT)を正常マウス、PTD−GFP注入マウス、及びPTD−Pdx1融合タンパク質注入マウスで実施した(図6)。PTD−Pdx1融合タンパク質を注入したマウスは、正常マウス(ひし形)に対して実質的に正常なIPGTT曲線(四角)を示した。これに対し、PTD−GFPを受けたマウスは、過剰な投与量のグルコースを減少できなかった。これらの結果により、可溶性PTD Pdx1融合タンパク質の腹腔内注射が糖尿病マウスの血糖値を減少させ、尚且つ、これらの結果は統計的に有意であったことが示された。理論と結びつけようとしなくても、PTD Pdx1融合タンパク質が膵細胞に侵入し、膵β細胞の再生を促進させることが可能である;或いは、PTD Pdx1融合タンパク質は、タンパク質が腸間膜脈管系(毛細管、小静脈、及びリンパ管)に転座し、門脈送達系経由で肝細胞に侵入した後に、肝細胞のインスリン促進細胞への分化転換を促進していたと考えられる。
【0145】
膵β細胞の再生が正常血糖の回復に役割を果たしたかどうか判断するため、可溶性PTD Pdx1融合タンパク質注射を受けたマウスの膵切除を実施した。この手術により>90%の膵臓を摘出した。手術後に血糖値をモニタリングした。マウスには、100μgの投与量で5日間、インスリンの連日注射(PID)と可溶性Pdx1融合タンパク質の連日注射を実施した。血糖値をモニタリングした。図7Aは、高血糖からの急速なリバウンドがこのマウスに観察されることを示す。PTD Pdx1融合タンパク質の腹腔内注射を繰り返すことで正常血糖が達成された。膵切除による膵臓の90%除去は、通常、持続的な高血糖をもたらすことを考えれば、これらの結果は驚くべきことである。図7Bは、Pdx1又はPTD−Pdx1−VP16の腹腔内注射が膵島細胞の再生を促進させることを示すものである。クロマチン構造に関与したタンパク質であるヒストンH3は、有糸分裂におけるクロマチン凝縮中に(セリン10で)特異的にリン酸化される。細胞の有糸分裂活性を検出するため、ホスホ−ヒストンH3(pHH3)に対する抗体を、信頼性のある方法として用いた。
【0146】
別の実験では、PTD−PV又はPTD−PV/PTD−Ngn3の精製可溶性融合タンパク質(50μg/マウス)を、ストレプトゾトシン誘導糖尿病である2匹のマウスに5日間毎日、腹腔内に注入した。Pdx1−VP16は、Pdx1の活性体(Pdx1−VP16)である。マウスの血糖値を2日おきにモニタリングした。注射後27日目にマウスを屠殺した。
【0147】
図8及び9は、マウス血糖値の変化を示す。図8に示すように、可溶性PTD−Pdx1−VP16の腹腔内注射により、糖尿病マウスに注射後3週間以内で血糖値が〜400mg/dlから〜200mg/dlに減少した。さらに、PTD−PV/PTD−Ngn3の組み合わせにより、血糖値を2週間以内で〜385mg/dlから200mg/dlに減少させる相乗効果を示した(図9)。両マウスの体重は安定していた。
【0148】
実施例5:膵β細胞の再生。
観察された血糖値の減少を担う機構を検査するため、マウスを屠殺し、組織学的検査用に膵臓、肝臓、脾臓、腎臓、心臓、及び肺を10%ホルマリンで固定した。図10A及び図10Bは、PTD−Pdx1−VP16注入マウスの膵臓におけるインスリン免疫染色の結果を示す。これらの結果は、これらの注入マウスの膵臓で強健な膵β細胞再生があることを示すものである。同様の結果がPTD−PV/PTD−Ngn3注入マウスの膵臓で見られた。図10Aは、全膵島β細胞を含む膵臓の代表的な切片を示す。図10Bは、新たに再生された膵島が多くの小さな膵島を有し、大きさが異なることを示す。最も新しく再生された膵島は、膵管近傍又は膵管に隣接しており、β細胞新生の存在があることを示唆している。いくつかの単分散したインスリン陽性β細胞は、外分泌腺に隣接しており、外分泌細胞が内分泌β細胞に分化転換したことを示唆している。膵β細胞再生に対する1つの機構は、残存β細胞複製である。
【0149】
実施例6:インスリン産生細胞を含む膵内分泌細胞への肝細胞の分化転換の促進。
肝臓を切り取り、抗インスリン抗体で免疫染色した。図11A〜図11Dは、散在するインスリン陽性細胞がPTD−Pdx1−VP16可溶性タンパク質注射を受けたマウスの肝切片(図11B)で確認されたことを示す。PTD−GFP融合タンパク質を受けたマウスの肝切片(D)にはインスリン陽性細胞は検出されなかった。散在するインスリン陽性細胞は、PTD−Pdx1−VP16/PTD−Ngn3融合タンパク質の注入を受けたマウスの肝切片(図12)でも抗インスリン抗体によって検出された。これらの結果は、マウス血糖値の減少が、PTD−PTF(Pdx1−VP16、又はPdx1−VP16/Ngn3)によって媒介された、膵β細胞再生、及び肝細胞から内分泌膵臓への分化転換に起因していることを示すものである。
【0150】
これらの結果は、修飾された膵「マスター」制御遺伝子、可溶性PTD−Pdx1−VP16タンパク質、又は可溶性PTD−Pdx1−VP16とPTD−Ngn3タンパク質の組み合わせをストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスに複数回、腹腔内注射することにより、マウスの血糖値を減少させ、糖尿病を改善するという相乗効果があったことを示すものである。このマウス血糖値の減少は、内因性膵β細胞再生及び肝細胞分化転換の結果から生じるインスリン産生細胞数の増加によるものであった。これらの結果により、タンパク質導入ドメイン(PTD)経由による膵転写因子の送達をin vivoでうまく用いて、膵β細胞を誘導し、肝細胞をインスリン産生細胞に再プログラムできることが実証された。
【0151】
マウスの糖尿病の治療にこの手法の利用が成功したことは、PTD技術を用いて送達された膵転写因子(Pdx1−VP16、及びNgn3)の組み合わせがヒトにおける1型及び2型糖尿病両方の改善に有用であることを示すものである。内因性膵β細胞再生及び/又は肝細胞分化転換を促進するため、治療は、組み換えヒトPTD−Pdx1−VP16及びPTD−Ngn3タンパク質を腹腔又は門脈に注入することで実現することができ、これにより、糖尿病を治療し、持続的高血糖に伴う代謝合併症を予防するものである。
【0152】
実施例7:AAV−PTF(Pdx1−VP16、Ngn3、又は両方)の門脈注射による糖尿病マウスの血糖値減少。
主要な膵転写因子(即ち、Pdx1、Pdx1−VP16、Ngn3、及びPax4)に対する遺伝子を導入することによる肝幹細胞を機能的インスリン産生β細胞代用品にin vitroで再プログラミングを行う実現可能性は、本明細書で実証されている。さらに、本発明の結果は、再プログラミングで使用される有効な転写因子の組み合わせ(Pax4と組み合わせたPdx1−VP16及び/又はNgn3と組み合わせたPdx1−VP16)を示すものである。特定の実施形態では、本発明は、対象膵転写因子の持続的発現に使用することができる膵転写因子を発現するウイルスベクターを提供する。そのようなウイルスベクターは、細胞に一時的にのみ存在する膵転写因子を含む融合ポリペプチドと組み合わせて用いることができる。
【0153】
糖尿病マウスの3つの群に、1×108ウイルス粒子にてAAV−Pdx1−VP16、AAV−Ngn3、又はAAV−Pdx1−VP16/AAV−Ngn3を門脈経由で注入し、そのうちの1つのマウス群は、AAVウイルスの対照としてAAV−GFPを受けた。血糖値を2日おきにモニタリングし、ほぼ正常な血糖値のマウスでグルコース負荷試験を実施した。各群からマウスを1匹屠殺し、β細胞再生と、肝臓中の膵内分泌細胞の存在有無を肝臓と膵臓で検査した。図13Aは、AAV−血清2型の肝細胞導入の効率が全体でおよそ20%であることを示す。図13Bは、AAV−Pdx1−VP16をAAV−Ngn3と組み合わせることにより、糖尿病マウスの血糖値が効率的に減少し、尚且つ、高グルコース負荷に応答するマウスの能力が回復したことを示す。AAV−Ngn3のみでは、血糖減少に著しい効果を示していない。AAV−Pdx1−VP16は、血糖値の減少に中程度の効果を示している。
【0154】
実施例8:肝由来インスリン陽性細胞。
AAV−PV、AAV−Ngn3、又はAAV−PV/AAV−Ngn3ウイルスを受けたマウスの肝臓のパラフィン切片を抗インスリン及びグルカゴン抗体で免疫染色することにより検査した。図14(左側のパネル)は、AAV−PV門脈注射によりいくつかの肝細胞が強度のインスリン陽性細胞に転換されたことを示す。この結果は、これらの動物で確認された血糖値の減少(図13B)と一致している。
【0155】
門脈注射経由でAAV−PV/AAV−Ngn3を受けた動物の肝切片は、多くのインスリン陽性細胞を示す。これらの細胞のほとんどは、中心静脈のまわりに分散している(図15)。ほとんどのインスリン陽性細胞は、肝臓被膜下の周辺に位置していた。この発現に合わせ、門脈注射経由でAAV−PV/AAV−Ngn3を受けたマウスの血糖値は正常化された。インスリン陽性細胞の分布は領域により変化しているが、インスリン陽性細胞の全体的な割合は、肝細胞の総数の2〜3%であると推定される。AAV−Ngn3注射のみを受けたマウスでは血糖値の著しい減少は観察されなかった。散在するインスリン陽性肝細胞のみが、これらのマウスからの肝切片で確認された(図14、右側のパネル)。
【0156】
実施例9:肝由来グルカゴン陽性細胞。
肝細胞が膵転写因子(PTF)によって膵内分泌細胞に変換できるかどうか判断するため、AAV−PV、AAV−Ngn3、又はAAV−PV/AAV−Ngn3ウイルスを受けたマウスの肝臓のパラフィン切片を抗グルカゴン抗体で免疫染色した。これらの研究により肝臓のグルカゴン陽性肝細胞を確認した。ほどんどのグルカゴン陽性肝細胞は、中心静脈の隣に位置していた。図16は、門脈注射でAAV−PV/AAV−Ngn3を受けたマウスからのグルカゴン免疫染色した肝切片の結果を示す。
【0157】
Pdx1−VP16とNgn3をコードする組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)の組み合わせを、ストレプトゾトシン誘導糖尿病をもつマウスに門脈経由で投与した。この組み合わせを受けたマウスは、相乗的な血糖値の減少を示し、これらのマウスの糖尿病がPdx1−VP16とNgn3の発現により改善されたことを示すものである。この効果は、大部分は、インスリン産生細胞への肝細胞の分化転換によるものであり、一部は、内因性膵β細胞再生によるものであった。AAV−Pdx1−VP16のみの門脈注射は、血糖値を著しく減少させた。この効果は組織学的結果と一致し、肝切片にインスリン陽性細胞とグルカゴン陽性細胞が存在することを示した。これらの効果が幾分かは膵臓再生によるものであったかどうか判断するため、これらのマウスの膵臓をインスリン免疫染色によりアッセイした。腹腔内注射によってベクターを受けたマウスで観察されたものよりも、門脈注射経由でAAV−PTFを受けたマウスでより低いレベルの膵β細胞再生が確認された。AAV−Ngn3のみの門脈注射は、血糖値に著しい効果を示さなかった。散在するインスリン陽性細胞及びグルカゴン陽性細胞のみが、これらのマウスからの肝切片で同定された。
【0158】
肝臓の肝細胞をインスリン産生細胞にうまく分化形質転換させるようPdx1−VP16及びNgn3などの主要な膵遺伝子を門脈経由で送達できるとすれば、タンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子を門脈経由で肝臓に送達でき、尚且つ、in vivoで肝細胞を分化形質転換させるのみならずβ細胞再生を促進させるよう、これらの融合タンパク質を使用できる可能性が高い。そのような方法は、1型及び2型糖尿病の両方をもつ患者の治療、及び持続的高血糖に伴う合併症の予防に有用である。
【0159】
実施例10:膵転写因子融合タンパク療法の順次送達。
図17に示すように、β細胞分化中に順次発現される3つの膵転写因子を用いてin vivoの再生及び再プログラミングするためのタンパク療法を提供し、この図は、順序の概要と、特定のPTFの発現期間を提供する(Soria Differentiation 2001;68(4−5):205−219;Huiら、Eur J Endocrinol 2002;146(2):129−141)。例示の膵転写因子の配列を図18A〜図18Iに提供する。Pdx1は、二相式で発生中の膵臓で発現する。第1のピークは、胎生期(E)9.5〜E10(全膵前駆細胞で発現した)の間であり、発現は約2〜3日間継続する。その後、低レベルのPdx1発現が、5〜6日の間隔で起こる。この間、Ngn3発現は、E11で始まり、E15でピークとなり、2〜4日間継続する。Ngn3発現により、膵内分泌細胞運命に向け細胞分化を決定づける。Ngn3が消失してくるとPax4が現れ、〜l〜3日間継続する。Pax4は、発生中のβ細胞でのみ発現する。Pax4活性化に続いて、Pdx1が再び現れ、分化したβ細胞で永続的に発現され、β細胞機能を維持する。図17Bは、図17Aに示すPTF発現配列の自然経過を模倣するPTD−PTF融合タンパク質の投与を示す。膵転写因子融合ポリペプチドの送達方法は、発生中のそのような因子のin vivo発現を踏襲している。
【0160】
特に、PTD−GFP融合タンパク質の組織動態と組織分布をマウスでモニタリングする。100μg(〜5μg/g体重)のPTD−GFP融合タンパク質を3つの経路(門脈、静脈、及び腹腔内)経由でマウスに投与し、処理後1、2、5、10、及び24時間で組織を採取する。PTD−GFP又はPTD−PTFの平均半減期をウエスタンブロットで推定し、デンシトメトリーで定量化する(Caiら、Eur J Pharm Sci 2005;Kanetoら、Nat Med 2004;10(10):1128−1132)。種々の組織におけるPTD−PTFタンパク質の分布をPTD−GFPデータに基づいて検査する。Xiongら、Stem Cells Dev 2005;14(4):367−377に記載されている免疫組織化学染色;及び予備研究に記載されている抗V5抗体によるウエスタンブロット分析によって、種々の組織のPTD−PTFタンパク質を分析する。これらの研究結果に基づいて、腹腔内に送達したPTD−PTF融合タンパク質、或いはストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスへの門脈注射による送達方法は、発生中のこれらの因子の内因性発現パターンを踏襲するよう最適化する。その後、肝臓の再プログラミング又は膵臓の再生に対する効果を上述のようにモニタリングする。
【0161】
実施例11:レポーター遺伝子構築物の生成。
ラットインスリン−1プロモーターeGFP、NeuroD−eGFP、Nkx2.2−RFP、及びPax4−RFPを含む蛍光色分けしたタンパク質と結合したプロモーター遺伝子を含むプラスミドをレンチウイルスベクターで生成した。これらの蛍光色分けした遺伝子レポーターを分化転換ステージのモニタリングに用いる。全長ヒトPax4又はマウスNkx2.2プロモーターDNA配列を含むプラスミドをレポーター融合遺伝子の構築に用いた。マウスPax4プロモーター(−2153−+1)及びNkx2.2(−1840bp〜+21)を適当なプライマーでPCRにより、制限酵素であるXhol/Sal I(Pax4)とBamH I/Xho I(Nkx2.2)間でpCR2.1−TOPOクローニングベクターにクローン化した。得られたプラスミドとpDsRed−Express−N1プラスミドを同一の制限酵素で切断した。Pax4(又はNkx2.2)プロモーターのインサートを精製し、pDsRed−Express−N1プラスミドのMCS部位に連結した。Pax4又はNkx2.2インサートを含む陽性クローンのスクリーニング後、これらのクローンの完全性を制限消化及び配列分析により確認し、レポータープラスミドであるpDsRed−Pax4−RPPとpDsRed−Nkx2.2−RFPを伸張させ、それらの機能を試験するためin vitro形質移入に用いた。
【0162】
テンプレートとしてヒト肝臓からのゲノムDNAを用いて適切なプライマーとともにPfu DNAポリメラーゼ(Washiobio、China)でPCRすることにより、950bp(−940〜+10)のヒトNeuroD/Beta2プロモーター(Miyachiら、Brain Res Mol Brain Res 1999;69(2):223−231)を含むレポーター構築物を生成した。増幅PCR産物を電気泳動にかけ、ゲルを精製し、TAクローニングキット(Invitrogen)を用いてpCR2.1−TOPOベクター(Invitrogen)にクローンした。EcoR1及びBamH1で制限消化することによりプロモーターフラグメントをプラスミドから切断し、eGFP発現ベクター(pEGFP−1、Clontech)に挿入した。このクローン化の完全性を制限消化及び配列分析により確認した。
【0163】
実施例12:マウスrPdx1の生成及び特性。
Pdx1転写因子のアンテナペディア様ドメインが、組み込みPTDをもつことが最近になって判明し、このタンパク質は、細胞膜と結合し、細胞膜に浸透し(Noguchiら、Diabetes 52,1732−1737(2003))、転写機能を発揮できることが分かった。マウスPDX1又はPTD−GFP cDNAを含む発現プラスミドが最初に構築され、各々もまた、Ni2+ニトリロ三酢酸カラムを用いて短時間精製のためC末端でヘキサヒスチジンタグをコードする追加のヌクレオチド配列を含む。in vitro及びin vivoの動物試験用に十分な量のほぼ均一なタンパク質を得るため、増殖培地1リットル当たりで10mgのrPdx1又はPTD−GFPを生じるよう細菌発現条件を最初に最適化し、高収率及び高純度を確保するよう精製プロトコルを改善した。図19Aは、rPdx1及びPTD−GFPの組織構造(上段パネル)を示し、rPdx1及びPTD−GFP融合タンパク質の純度を表すクマシーブルー染色SDSゲルを示す(左側のパネル)。これらの組み換えタンパク質は、ゲルデンシトメトリーに基づいて少なくとも90〜95%の純度を一貫して有した。rPdx1とGFPタンパク質の同一性も、抗Pdx1又は抗GFP抗体でウエスタンブロット(右側のパネル)により確認された。
【0164】
rPdx1タンパク質が細胞浸透能力を有したか確認するため、rPdx1タンパク質(最終濃度0.2μM)とWB細胞を種々の時間でインキュベートし、その後、細胞をPBSで3回洗浄した。次いで、細胞溶解物をリシス緩衝液中で回収し、それらのタンパク質をSDS−PAGEにより分離し、抗Pdx1及び抗アクチン(対照)抗体でブロットした。細胞ブロットにおけるrPdx1の相対量を定量化し、デンシトメトリーによってアクチンで正常化した。図19Bに示すように、rPdx1タンパク質侵入は5分以内に開始した。Pdx1取り込みが進むにつれて、細胞のrPdx1タンパク質レベルが1〜2時間でピーク値に達し、6時間で降下し始めた。
【0165】
取り込まれたrPdx1タンパク質が生物学的に活性であったかどうか判断するため、rPdx1タンパク質の転写機能をアッセイした。Pdx1転写因子の直接下流標的遺伝子であるレンチウイルス含有pNeuroD−GFPレポーター遺伝子をWB細胞に最初に形質導入した。次いで、rPdx1タンパク質(1μM)の存在下又は非存在下で、細胞を72時間インキュベートした。フローサイトメトリー用にこれらの細胞を採取し、pNeuroD−GFPを発現しているWB細胞の割合を検出することでrPdx1媒介NeuroD遺伝子活性を評価した。外部から投与したrPdx1の効率を、細胞により作られたPdx1と比較するため、NeuroD−GFPプロモーター構築物を含むWB細胞にレンチウイルスPdx1ベクターを72時間かけて形質導入し、Pdx1レベルを記録した。pNeuroD−GFP発現WB細胞は、天然細胞Pdx1タンパク質の陽性対照として機能した。重要なのは、WB細胞によるLV形質導入効率が、報告されたLV−CMV−GFPベクターの発現(Tangら、Lab Invest 86,829−841(2006))により判定されたように、ほぼ100%に近づくことである。図19C(左側のパネル)は、サイトスピンスライド上で回収したNeuroD−GFP発現細胞の代表的な蛍光顕微鏡写真を示す。フローサイトメトリーにより、処理後72時間で、LV−Pdx1処理細胞(21%)及びrPdx1タンパク質処理細胞(19%)に対して同程度の転写有効性が判明した。両方の処理は、pNeuroD−GFPベクターのみを含む対照細胞(図19C、右側のパネル)と比較した場合に統計的に有意な差を示した。これらの結果により、rPdx1タンパク質が細胞に迅速に侵入し、その下流NeuroD遺伝子標的を有効に活性化できることが明確に実証された。これらの所見により、rPdx1タンパク質が、LV−Pdx1トランス遺伝子発現により細胞内で産生された天然Pdx1タンパク質と同一又は同程度の転写活性を有することが確認される。
【0166】
実施例13:In vivo動態及び組織分布。
アンテナペディア様PTDによりrPdx1タンパク質は細胞に侵入することができるが、rPdx1のin vivo組織分布に関しては比較的僅かなことしか分かっていない。従って、安全かつ臨床的に実現可能な糖尿病の治療を研究するため、rPdx1タンパク質のin vivo組織分布と薬物動態について検査した。マウス1匹当たり0.1mg又は1mgのrPdx1融合タンパク質をBalb/cマウスに腹腔内注入した。血液試料を15分、30分、1時間、2時間、6時間、及び24時間で採取し、抗Pdx1抗体を用いて免疫ブロットによりrPdx1タンパク質を血清で検出した。図20Aに示すように、血液中rPdx1タンパク質の出現は、注射後早ければ1時間で明らかとなり、2時間でピーク値に達し、6時間で顕著に減少した。24時間後の血液試料ではrPdx1タンパク質は検出されなかった。
【0167】
in vivo組織分布の研究において、肝臓、膵臓、及び腎臓を腹腔内注射後1時間又は24時間で採取し、10%ホルマリンで固定した。パラフィン切片を抗Pdx1抗体で免疫染色した。図19Bは、注射後1時間(上段2列)又は24時間(下段)で0.1mgのrPdx1タンパク質を受けた動物から選択された肝臓、膵臓、及び腎組織の代表的な画像を示す。Pdx1タンパク質は、肝細胞の核で濃縮されることが分かり、Pdx1陽性細胞は、中心静脈の最も近くで最も高い濃度であった。この分布パターンは、急速に取り込まれたPTD含有タンパク質、この場合、末端静脈又は毛細血管経由で門脈系に侵入するPdx1に対して予測された経路と一致した。実際上、最も高いPdx1取り込みは、中心静脈に最も近い細胞であると予想される。Pdx1タンパク質は、恐らく直接取り込みの結果として、膵臓の末梢外分泌細胞でも検出され、膵末端毛細血管に沿っても検出された。腎臓試料において、Pdx1タンパク質は、タンパク質濾過及び除去の解剖経路と一致して現れ:Pdx1タンパク質は、最初に、糸球体、被膜細胞、基端及び末端尿細管細胞で見つかり、最後に、導管細胞の回収時に蓄積されているのが見つかった。注射後24時間で、Pdx1タンパク質の微かな免疫染色のみが肝臓、膵臓、及び腎切片(下段)で観察された。さらに、恐らくは血液中における高レベルのPdx1により、明確なパターンがない低レベルのPdx1タンパク質も注射後1時間で脾臓、心臓、肺、及び脳の組織で検出され、注射後24時間で検出できなくなった。これらの所見及び文献(Matsuiら、Curr.Protein Pept.Sci.4,151−157(2003);Schwarzeら、Science 285,1569−1572(1999))におけるデータに基づいて、0.1mgのPdx1を初回投与量として選択し、糖尿病マウスにおけるrPdx1のin vivo効果を判断するための治療スケジュールとして24時間間隔とした。
【0168】
実施例14:糖尿病マウスの血糖値におけるrPdx1タンパク質のIn vivo効果。
スキーム1(図19C)は、Stz誘導糖尿病(空腹時グルコース値は〜300mg/dL)マウスに投与したrPdx1タンパク質のin vivo治療効果を評価するため用いた実験戦略を記載している(Caoら、Diabetes 53,3168−3178(2004);Tangら、Lab Invest 86,83−93(2006))。これらの動物に10日間連続して精製rPdx1又はPTD−GFPタンパク質(0.1mg又は〜5μg/g体重)を腹腔内注射した。それ自身は改変PTDをもつ非治療用タンパク質であるPTD含有緑色蛍光タンパク質は、陰性対照として機能した。空腹時血糖値を異なる時点でモニタリングした。図21A(下段の暗線)に示すように、rPdx1注射を受けたマウスは、初回注射後2週間以内にほぼ正常血糖を達成したが;PTD−GFPタンパク質を受けたマウス(図21Bの灰色線)では高血糖の改善は観察されなかった。第1日目のタンパク質注射後14日目にマウスを屠殺し、組織インスリン測定、遺伝子発現分析、及び/又は免疫組織化学研究用に種々の器官組織を回収した。
【0169】
注射後14日及び40日で、腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT)(図20B)により、rPdx1注射を受けたマウスが、正常マウス(黒線)で見られるように、2つの場合両方ともほぼ正常なIPGTT曲線(中段の灰色線)を示したことが示された。これに対し、PTD−GFPを受けたこれらのマウスは、グルコースのボーラス用量(上段の灰色線)を減少させる能力を全く示さなかった。rPdx1注射後14日ごろで血糖値がほぼ正常化された後、rPdx1処理糖尿病マウスにおけるグルコース刺激インスリン放出能力を評価するため、正常マウスと処理マウスに腹腔内ボーラスグルコース(1mg/g)注射により負荷し、インスリン測定用に注射後15分で血清を回収した。図20C及び図20Dは、正常マウス、実験マウス、及び対照マウスにおける血糖値(図20C)及び血清インスリン値(図20D)の結果を示す。使用したオリゴヌクレオチドプライマーの配列を表1(下記)に示す。
【0170】
表1:リアルタイムPCRpプライマー名、配列、サイズ、GenBank番号、及びPCR条件
【表1】
【0171】
図21C及び図21Dに示すように、rPdx1又はPTD−GFPタンパク質で処理したマウスの血清インスリン値を注射後14日及び40日で得られた試料の血糖値で確認した。IPGTTにおいて15分でPdx1処理マウスのグルコース刺激インスリン放出は、14日及び40日のGFP対照群よりも、それぞれ、6.9倍及び11.3倍であり、ボーラス用量のグルコース負荷に対応するようrPdx1処理マウスの能力が著しく改善されたことを示すものである。Pdx1処理マウスの40日目の血糖値は正常血糖に近づくが、グルコース刺激15分後に放出されたインスリン(2.6μg/L)は、正常の非糖尿病マウスのそれ(5.7μg/L)よりもまだはるかに低いものであり、新たに生成されたインスリン産生細胞が未熟であること、或いは、グルコース恒常性に対する膵臓又は非膵組織のβ細胞集団が最適レベル未満であることを示唆している。
【0172】
実施例15:内因性β細胞再生を促進するPdx1治療。
膵臓の再生膵島β細胞がrPdx1媒介正常血糖マウスにおいて役割を果たすかどうか判断するため、Pdx1媒介正常血糖マウス(n=4)の群には注射後30日ごろにほぼ全て(>90%)の膵切除を施し、除去した膵組織を形態分析及び/又は組織インスリン測定用に処理した。図20Aに示すように、ほぼ全ての膵切除の後に血糖値は急速に上昇し、これは、膵臓のインスリン産生膵島細胞がrPdx1注射後30日で正常血糖の実現及び維持に主要な役割を果たしていたことを示すものである。これらの結果により、rPdx1タンパク質のin vivo送達が内因性β細胞再生を促進させたことが示唆された。GFP処理マウスで血糖は高く上昇し、自発的なβ細胞再生の存在が最小であることを示していることに留意されたい。
【0173】
パラフィン包埋膵組織切片の組織構造及びインスリン発現の検査により、活発な膵島β細胞再生がより大きくなることが明らかとなり、かつ、大量の膵島がPdx1処理マウスの膵臓にみとめられたのに対して、GFP処理マウスには小さな膵島がわずかに観察された(図21A及び図21B)。使用したオリゴヌクレオチドプライマーの配列を表2(下記)に示す。
【0174】
表2:プライマー名、配列、サイズ、GenBank番号、及びPCR条件
【表2】
【0175】
さらに、膵外分泌細胞の外観をもつ個々に散在するインスリン陽性細胞もこれらの膵臓で見られる。そのような所見により、複数回投与でin vivo投与した場合、rPdx1タンパク質は、いまだ画定されていない分子及び細胞機構経由で内因性インスリン産生β細胞再生を促進させることが示された。
【0176】
再生膵島パターンをさらに検査するため、抗インスリン及び抗グルカゴン抗体を用いて二重免疫蛍光試験を実施した。β細胞/β細胞比率及び分布パターンに基づいて、マウスの膵島が:膵β細胞/β細胞比率がおよそ0.2である場合に大量の無秩序なグルカゴン陽性β細胞と比較的少数のβ細胞が散在するステージ1と;β細胞/β細胞比率が〜1である場合にグルカゴン陽性β細胞及びインスリン陽性β細胞がほぼ同数になるステージ2と;膵β細胞/β細胞比率が逆比を示す5の場合にインスリン産生β細胞が多数を占めるステージ3との3つのステージに任意に分割できる(図21B)ことは大変に興味深い。ステージ1からステージ3の膵島構築は、インスリン産生β細胞数も同時に増加することでより組織的になった。これらのパターンはGFP処理マウスでも確認されたので、3つの容易に識別可能な上述のパターンは、膵島細胞再生の進行の全体的な様子を表すようである。
【0177】
rPdx1媒介膵島β細胞再生の分子事象を判断するため、膵臓及びβ細胞再生に関連するものと知られているいくつかの遺伝子状態のみならず、正常β細胞の生理的機能についてアッセイした。膵臓の発現レベルを判断するためリアルタイムPCRを用いた。rPdx1で処理後14日及び40日で、マウスを屠殺し、全RNAを膵臓から抽出し、再生プロセス中の遺伝子発現プロファイルを評価した(Gagliardino J.Endocrinol.177,249−259(2003),Pittenger Pancreas 34,103−111(2007),Jonssonら、Nature 371,606−609(1994),Wuら、Mol.Cell Biol.17,6002−6013(1997),Stoffersら、Nat.Genet.15,106−110(1997),Hollandら、Diabetes 54,2586−2595(2005))。図21Cに示すように、糖尿病マウスをrPdx1処理することで、14日目で、インスリン(21.3倍)、内因性Pdx1(3.8倍)、INGAP(14.5倍)、Reg3d(8.1倍)、Reg3g(6.8倍)、及び膵炎関連タンパク質Pap(34.3倍)のレベルが、それらに対応する対照(GFP処理膵臓)値に対して著しい発現上昇をもたらした。上記の遺伝子の同様の発現上昇パターンが処理後40日で持続的であることが観察された。GFP処理マウスと比較した際に、Pap発現が発現上昇し続けたことは興味深い。14日のそれと比較した場合、処理後40日で著しく減少した。これらの効果に関与する機構(単数又は複数)(即ち、β細胞分化及び複製、導管細胞新生、又は外分泌細胞分化転換)に関係なく、rPdx1タンパク質には、膵臓再生遺伝子の発現上昇を介して新規β細胞の生成を誘導させる能力があることにより、高血糖症状を改善させる。
【0178】
実施例16:肝臓細胞のインスリン産生細胞への分化転換を促進させるPdx1治療。
いくつかのin vivo試験により、肝細胞のPdx1のウイルス媒介トランス遺伝子発現が、肝細胞のIPCへの分化転換をもたらし、糖尿病マウスの高血糖を戻すことが示されている(Ferber,Sら、Nat.Med.6,568−572(2000),Ber,Iら、J.Biol.Chem.278,31950−31957(2003))。しかしながら、rPdx1タンパク質をもつ糖尿病マウスの直接的なin vivo治療が肝細胞分化転換に同様の効果を有し得るかどうかは不明確である。投与したrPdx1の注射後14日で肝臓への効果を判断するため、Pdx1又はGFPのいずれかで処理したマウスの肝組織を得て、抗インスリン抗体で免疫組織化学的にIPCの存在に対してこれらの試料を検査した。可溶性Pdx1タンパク質の複数回の腹腔内注射により、高血糖をほぼ正常な血糖値に戻した。図22Aは、PTD−GFP(左欄)又はPdx1(右の二欄)で処理したマウスからの代表的な肝臓顕微鏡写真を示す。散在するインスリン染色陽性肝細胞のほとんどは、中心静脈端に沿って分散しており(顕微鏡写真でC.V.と表示)、傾向は肝臓におけるrPdx1組織分布と一致した(図22Bを参照)。小さな二核及び凝縮クロマチンをもつ散在した個々のインスリン陽性肝細胞(黒色矢印)が存在し、より成熟した細胞パターンを示唆している。これらの細胞学的特徴は、より大きな核と、より開かれたクロマチンパターン(矢印)とをもつ隣接のインスリン陰性及び活性肝細胞と明らかに異なっていた。対照GFP処理マウス肝臓にはインスリン産生細胞は観察されなかった。
【0179】
次に、Pdx1又はGFP処理した肝臓における膵遺伝子の発現プロファイルをタンパク質注射後14日及び40日での結果と比較して調査した(図22B)。Pdx1処理した肝臓では、14日目で、GFP処理した肝臓の遺伝子発現と比較して、内因性Pdx1、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、及びIAPPを含む多くの膵遺伝子を排他的に発現したのみならず、他の膵内分泌遺伝子(インスリンII、ソマトスタチン、NeuroD、及びIsl−1)及び膵外分泌遺伝子(p48及びアミラーゼ)が発現上昇した。Ngn3遺伝子発現は検出できなかった。興味深いことに、40日目で、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、及びIAPP遺伝子の発現は観察されなかったのに対して、他の上記の膵遺伝子発現は、レベルは減少しているものの存在し続けた。これらのデータは、rPdx1媒介肝細胞によって産生されたインスリンは、初期ステージにおいて、高血糖の減少に重要な役割を果たし、膵臓β細胞再生を促進させることを示す。
【0180】
実施例17:他の主要器官におけるrPdx1タンパク質の効果。
前述の所見により、in vivoで送達した場合、内因性膵島細胞の再生、及び肝細胞のIPCへの分化転換を促進することでrPdx1が糖尿病マウスに真の治療効果をもつことが実証された。rPdx1タンパク質には細胞に無差別に浸透する固有の能力があると考え、Pdx1、インスリンI、グルカゴン、及びアミラーゼを含む膵遺伝子の発現に対する種々の器官へのrPdx1効果の特異性についても検査した。rPdx1を受けたマウスから処理後14日で心臓、脳、腎臓、肺、腸、及び脾臓の組織を採取後、RT−PCRによって遺伝子発現研究用に全RNAを抽出した。この手法の背後にある論理的根拠は、腹腔内rPdx1治療により膵主要遺伝子の無作為的な活性化がもたらされるとすると、そのような所見は肝臓の膵遺伝子における上記の観察の重要性に疑問を生じさせるものであった(図22B)。図22Cに示すように、心臓、脳、腎臓、肺、腸、及び脾臓においてrPdx1処理による膵遺伝子の活性化はほとんど或いは全く見られなかった。これらの結果は、望ましくない全身毒性の検出可能な証拠はないが、肝細胞分化転換とβ細胞再生の促進を通じて、正常血糖の回復に関してPdx1治療プロトコルは有効であったことを示す。
【0181】
実施例18:組織インスリンレベルでの膵臓と肝臓間の補完関係。
膵及び肝組織由来のインスリンがrPdx1処理後に血糖値を改善させる相対的な寄与を判断するため、Pdx1注射後14日又は40日ごろに屠殺したStz処理マウスからの膵臓及び肝臓を酸性エタノール中で抽出し、得られたインスリン含量をマウスインスリン用の超高感度ELISAキットで測定した。図23Aは、Pdx1処理糖尿病マウスにおける膵インスリン含量は、注射後14日及び40日で、それぞれ、正常膵臓レベルのおよそ44%及び68%であり、GFP処理対照マウス(12.0ng/mg及び9.5ng/mg)と比較して、処理後14日目で6.7倍高いレベルに達し、処理後40日目で15.8倍高いレベルに達したことを示す。これらの所見は、in vivoのrPdx1処理が膵臓の膵島β細胞再生を促進させたことを示すものである。この膵インスリン産生の増加は、処理後14日及び40日の両方のGFP処理マウスと比較した場合に統計的に有意である。これらの結果は、ほぼ全ての膵切除後に高血糖が反跳する所見とも一致するものであった(図21A)。
【0182】
膵インスリン含量測定と同様に処理糖尿病マウスにおいて、注射後14日及び40日の肝組織インスリン含量を検査した。図23Bに示すように、実際上、GFP処理マウスよりもPdx1処理マウスにおいて処理後14日での肝組織インスリン含量に著しい増加(〜16倍)があり、正常肝臓よりもほぼ9倍の増加である。興味深いことに、Pdx1処理後40日で肝臓インスリン含量は急速に減少し、GFP処理マウスよりもなお7.3倍高く、正常肝臓よりもおよそ2倍高かった。この肝臓インスリン産生の増加は、正常マウス又はGFP処理マウスのインスリン値と比較した場合に統計的に有意である。
【0183】
rPdx1タンパク質の生成、精製、及び特性を図24A〜図24Cに示す。Pdx1組織分布を図25A及び25Bに示す。
【0184】
実施例19:健常マウスにおいて膵遺伝子発現を誘導しないPdx1処理。
正常マウスに多量のrPdx1タンパク質を2通りで注入した。1つは、マウスに多量(10mg)の精製rPdx1タンパク質を単回注入し、もう1つは、マウスに10日間連続して1mg/日を注入した。潜在的毒性をモニタリングするため、体重、健康、及び、血糖値、肝臓及び心筋酵素を含む他の指標についてマウスを観察した。Pdx1タンパク質を注入しなかった正常マウスと比較した場合、上記のパラメータにおいて目立った変化はなかった。全てのマウスを注射後14日で屠殺し、肝臓における主要な膵遺伝子発現を検査した。rPdx1を注入したマウスの肝臓が、14日目で、インスリン、グルカゴン、アミラーゼ、及び内因性Pdx1を含む膵遺伝子を強く発現したためである。これらの主要な膵遺伝子が多量のrPdx1注射を受けた正常血糖マウスで発現したかどうか判断するため、両群のマウスの肝臓から全RNAを採取し、図26に示すようにRT−PCRによって遺伝子発現を判断した。PTD−GFP注射を受けた対照マウスの血糖値には効果は観察されなかった。検査した肝臓の膵遺伝子には検出可能な発現はなかった。これは、正常な個々のマウスにrPdx1タンパク質をin vivo送達することに伴う毒性はないことを示すものである。この結果により、rPdx1タンパク療法は、糖尿病動物にのみ作用し、正常マウスには効果がないことが示される。
以下の材料及び方法を用いて上述の実験を実施する。
【0185】
(PTD融合タンパク質の腹腔内(i.p.)、及び門脈(p.v.)送達)
体重につき50μg/gで5日間、ストレプトゾトシン(Stz)を毎日腹腔内注射することでマウスを高血糖(>350mg/ML)に誘導した。次に、正常マウス又は糖尿病マウスに麻酔をかけ、PBS 500μl中で示した量(50〜200μg/マウス)のPTD−GFP又はPTD−PTF融合タンパク質を腹腔内注入した(Kayら、Hum Gene Ther 1992;3(6):641−647を参照されたい)。尾静脈穿刺経由で血糖値をモニタリングした。インスリン及びグルカゴン産生細胞の存在に対する免疫組織化学分析のため、その後、膵臓及び肝臓を含む種々の組織を採取した。
【0186】
PTD−PTF融合タンパク質の門脈送達において、5〜6週齢マウスにイソフルランで麻酔をかけ、実験動物の管理と使用に関する委員会プロトコルに従って外科的処理を実施した。動物の毛を剃り、門脈を露出するため上腹部を1〜2cm切開した。門脈の主枝の1つに特殊カテーテルを入れ、マウスの腹部皮下に埋め込まれるAlzet浸透圧ポンプ(Theeuwesら、Ann Biomed Eng 1976;4(4):343−353)に出口を連結する。種々の時間にわたって一定速度でPTD融合タンパク質をカテーテル経由で門脈に送達する。糖尿病マウスにおいて、血糖値をモニタリングし、Caoら、Diabetes 2004;53(12):3168−3178及びTangら、Lab Invest 2006;86:83−93に記載されているように血糖が正常化した後、IPGTTを行う。特定の時点で、マウスを屠殺し、肝臓、脾臓、腎臓、十二指腸、及び膵臓の組織のみならず、移植した再プログラム肝細胞を採取する。組織は、形態、免疫染色(パラフィン切片)、及び遺伝子発現の分析用、並びに、ELISAによってインスリン、グルカゴン、及びアミラーゼなどの組織膵ホルモン含量(凍結組織)の決定に使用する。
【0187】
(浸透圧ミニポンプの移植及びPTD−PTF送達)
PTD−PTF融合タンパク質の連続投与は、イソフルラン麻酔下で、門脈又は腹腔内腔にPTD−PTF融合タンパク質を継続注入できるように薬物注入ポンプの出口がカテーテルに取り付られたAlzet浸透圧ミニポンプ(Alza、Model番号2001−1週間、又は2002−2週間)(Theeuwesら、Ann Biomed Eng 1976;4(4):343−353;Heinrichsら、Proc Natl Acad Sci USA 1996;93(26):15475−15480)の皮下移植により達成する。Alzet浸透圧ポンプは、試験薬剤に対し24時間暴露を予測可能なレベルでもたらし;短い半減期タンパク質の継続投与を可能にし、実験動物に慢性投与する便利な方法であり;望ましくない実験変数を最小限にし、かつ、再現可能な、一貫性のある結果を確保し;夜間又は週末投与の必要を無くし;実験動物への取扱いやストレスを軽減し;マウス又は幼少ラットへ使用するのに十分小型であり;尚且つ、実質的に任意の組織に薬剤の標的送達を行うことができる。ポンプは、(PBS中に溶解させるか、或いは対照賦形剤としてPBSのみに溶解させた)PTD−PTF融合タンパク質をlμl/時間で1週間、或いは、0.5μl/時間で2週間注入するため、真皮下に埋め込む。10μg/g体重/日のPTD−PTF用量を達成するため、5〜10mg/mlの原液を体重20gのマウスに使用し、適宜調整する。PTD−PTF注入の開始及び経時率を標準化するため、37℃の水浴中で一晩インキュベーションによって移植前に浸透圧ポンプを作動させる。
【0188】
(ウエスタンブロット)
PTD−PTFポンプを1600時間で移植、ポンプ除去後に血糖値を24時間検査する。マウス組織を採取し、タンパク質をPBS均質化緩衝剤(1%TritonX、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル)で抽出する。組織溶解物を20,000rpmで30分間4℃で遠心分離する。Bio−Radタンパク質試薬を用いて実施した標準タンパク質アッセイで浮遊物のタンパク質濃度を求める。浮遊物を等容量の2×SDS試料緩衝液と混合し、95℃で5分間加熱する。次に、加熱した混合物を15,000rpmで5分間遠心分離し、不溶性材料を除去する。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて浮遊物を分析する。タンパク質をニトロセルロース膜に移動し、抗V5抗体(1:5000)又は抗GFP抗体でブロットし、その後、電気化学発光、Amersham ECL発光システム(Amersham Pharmacia Biotech,Buckinghamshire,UK)を用いて視覚化する。デンシトメータ走査機器を用いたデンシトメトリーにより融合タンパク質レベルを定量化する。
【0189】
(RT−PCR、組織学、免疫組織化学、及び蛍光顕微鏡)
これらの方法は、研究所にて十分に確立されており、詳細は、以下の文献:Caoら、Diabetes 2004;53(12):3168−3178;Tangら、Lab Invest 2006;86:83−93に記載されており、これらは参照により組み込んだものとする。組織切片におけるGFPタンパク質の視覚化において、マウス組織をホルマリンで一晩固定し、50%スクロースに12時間移した。組織を凍結切片として切断し、DAPI入り封入剤でスライドを回収した。GFP含有細胞を観察し、蛍光顕微鏡下で撮影した。
【0190】
(プラスミド及びプラスミド構築)
VP16の活性化ドメイン(80アミノ酸)を以下のようにマウスのPdx1のCOOH末端に融合させることでPdx1−VP16を構築した。ClaI部位、5’−TCG CAG TGG ATC GAT GCT GGA G−3’を含むT7プライマー及び3’プライマーを用いて全長Pdx1をIPF1−pcDNA3から単離した。産物をHindIII及びClaIで切断し、pCS2+(Diabetes.2004;53:3033−3345)中でVP16−Nにサブクローン化した。次に、Pdx1−VP16をpcDNA3のHindIII及びXbaI部位にサブクローン化した。PTD配列をこの配列に付加した。
【0191】
(アデノ随伴ウイルス血清2型(AAV2)ベクター)
マウスPdx1、Pdx1−VP16、Ngn3コード配列を含む全てのAAV2−PTFプラスミドを研究所にて構築した。これらのウイルスの品質及び力価は確認している。簡単に要約すると、Xba I部位で開始し、Hpa I部位で終わる、GFP及びPTF(マウスPdx1、mPdx1−VP16、及びmNgn3)のコード配列は、フォワード及びリバースプライマーの適当な対を用いてpfuによりこれらに対応するpCRT−cDNAプラスミドから増幅した。添加A反応後、これらのPCR産物をpCR2.1−TOPOベクターと連結させた。正確なインサート及びAAV骨格プラスミド(pUF11)を含む陽性コロニーをXba I及びHpa Iで消化した。6.2kb pUF11ベクター及びDNAインサート(mPdx1、mPdx1−VP16、及びmNGN3)の両方をゲル精製により回収し、その後、標準手順に従って連結した。選択した陽性コロニーからのコード配列及び正確な向きを制限酵素消化及び配列分析により確認した。AAV−PTFベクタープラスミドは、CMVエンハンサーをもつトリβアクチンプロモーターを有する。AAV2ベクターを293細胞のトリプルプラスミド形質移入により生成した。AAV2−PTFウイルスをCsCl勾配超遠心で精製し、リアルタイムPCRによって1ml当たりのゲノムコピーとしてウイルス粒子(VP)力価を決定した。銀染色SDS−PAGEによってベクターの純度を評価した。濃縮ベクターをアリコートし、in vivo試験用に−80℃で保存した。
【0192】
(rPdx1タンパク質の構築及び産生)
全長マウスPdx1 cDNAをPCRにより増幅し、pET28b(Novagen)のNde I及びXho I部位にサブクローン化した。発現プラスミドを含むBL21(DE3)細胞を37℃で増殖させ、吸光度O.D600を0.8にした。イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を加え、最終濃度を0.5mmol/Lにし、その後、細胞を18℃で18時間インキュベートした。5mMのイミダゾール及びプロテイナーゼ阻害剤を含む緩衝剤A(Roche Diagnostics)中でパルス超音波処理によりバクテリアを溶解した。遠心分離後に得られた細菌溶解物の浮遊物をNi−ニトリロ三酢酸(Ni−NTA)アガロース(Invitrogen)のカラムに適用し、洗浄緩衝液(25mMイミダゾールを含む緩衝剤A)で数回洗浄した。250mMのイミダゾールを含む溶出緩衝剤によってタンパク質を溶出した。PBSに対する透析後にSDS−PAGE/クマシーブルー染色によって溶出したタンパク質分画の純度を特徴づけた。
【0193】
(PTD−GFPタンパク質の構築及び産生)
GFPのN−末端にHIV−1 TATの11アミノ酸(YGRKKRRQRRR)をもつPTD−GFPプラスミドをPCR法により構築した。PCRフラグメントをpT7/CT−TOPO発現プラスミド(Invitrogen)に直接クローン化した。rPdx1タンパク質について大部分は説明したように、タンパク質産生及び精製を実施した。
【0194】
(pNeuroD−GFP及びマウスPDX1レンチウイルスベクターの調製)
マウスPdx1のcDNAコード配列を含むレンチウイルスベクター(LV)を前述のように構築した(Tangら、Lab Invest 86,83−93(2006))。ヒトNeuroD/Beta2プロモーターの950bpレポーター構築物(−940〜+10)(Miyachiら、Brain Res.Mol.Brain Res.69,223−231(1999))をPCRによりクローン化し、GFPに連結した。pNeuroD−GFP遺伝子をpTYFベクターカセットに挿入することでLVを構築した。レンチウイルスを産生し、力価を前述のように決定した(Tangら、Lab Invest 86,83−93(2006))。
【0195】
(細胞侵入及び免疫ブロット)
70%コンフルエンスのWB細胞(ラット肝上皮幹細胞)を精製rPdx1(0.2μm)で15分、30分、1時間、2時間、6時間、12時間、及び24時間処理した。細胞をPBSで3回洗浄し、プロテアーゼ阻害剤混合物(Roche Diagnostics)を含む細胞リシス緩衝液(150mM NaCl、50mMトリス−HC1、pH 7.5、500μM EDTA、1.0%TritonX−100、及び1%デオキシコール酸ナトリウム)中で採取した。ウサギ抗Pdx1血清(1:1000、精製マウスrPdx1で育てた)又は抗His抗体(1:2000、Invitrogen)で、前述1,3のようにウエスタンブロットによって、細胞侵入研究用の細胞溶解物(50μg/レーン)中のrPdx1を検出した。
【0196】
(細胞導入及びフローサイトメトリー分析)
70%コンフルエンスのWB細胞をまず最初に感染多重度20でLV−pNeuroD−GFPによって形質導入し、前述1のような手順を実施した。次に、形質導入したWB細胞を0.5μmのrPdx1タンパク質の存在下又は非存在下でインキュベートした。pNeuroD−GFP含有WB細胞をLV−Pdx1で形質導入し、これは、細胞によって作られたPdx1タンパク質に対する陽性対照として機能した。処理後72時間で細胞を採取し、1%ホルムアルデヒドで10分間固定した後、PBSプラス1%BSAで3回洗浄し、フローサイトメトリー分析用に再懸濁した。サイトスピンスライドを処理細胞により調製し、DAPIを含む封入剤で覆った。
【0197】
(動物試験)
5日間連続でBalb/cマウス(8〜10週齢)に50mg/kg体重(bw)の用量でストレプトゾトシン(Stz)(Sigma)を注入し、前述1,3のように糖尿病を誘導した。2回連続の読取りで空腹時血糖値がおよそ300mg/dLの動物がタンパク質治療を受けた。糖尿病マウスに10日間連続して精製rPdx1又はGFPタンパク質(0.1mg/日/マウス)のいずれかを腹腔内注射した。血糖測定器を用いて絶食後8時間が経過したマウスの空腹時血糖値を定期的に測定した。動物試験の実験の連続事象をスキーム1(図25C)にまとめる。
【0198】
(腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT))
IPGTTを行う前の8時間マウスを絶食させた。正常マウス、rPdx1処理マウス、又はGFP処理マウスにグルコース(1mg/g体重)を腹腔内注射し、注射後5、15、30、60、及び120分で血糖値を測定した。全身麻酔条件下で膵亜全切除(〜90%)を実施した。種々の時点でマウスを屠殺し、組織学、遺伝子発現、膵/肝組織含量、及び血清インスリン値試験用に器官組織及び血液を回収した。
【0199】
(Pdx1タンパク質のin vivo動態及び組織分布)
マウスに0.1mg又は1mgのrPdx1を腹腔内注射した。15分、30分、1時間、2時間、6時間、及び24時間で血液試料を採取した。正常マウス及びrPdx1処理マウスから器官組織切片を採取し、10%ホルマリンで固定し、抗Pdx1抗体(1:1000)でPdx1免疫染色するためにパラフィンに組み込んだ。血液試料から血清を分離し、30μl/レーンをSDS−PAGEゲルにロードして、血清タンパク質を分離し、その後、抗Pdx1抗体によるウエスタンブロットを上述のように実施した。
【0200】
(RT−PCR)
Trizol試薬を用いて膵臓及び肝臓のマウス組織から全RNAを調製し、ランダム六量体プライマーとスーパースクリプトIII逆転写酵素(Invitrogen、CA)を用いてcDNAを合成した。肝臓遺伝子発現を前述のようにRT−PCRによって決定した(Caoら、Diabetes 53,3168−3178(2004))。異なるエクソン(単数又は複数)に位置するように、フォワード及びリバースPCRプライマーを設計し、これらの配列を補足データ(表1)に記載する。全てのRT−PCRアッセイには、RT、陽性、及びブランク対照は含んでいなかった。結果は、少なくとも3つの独立した実験を表している。
【0201】
(定量的リアルタイムRT−PCR分析)
GFP処理対照マウス及びrPdx1処理マウスの膵組織からのcDNAに、各サイクル中のPCR産物量の分析器としてSYBR緑を用いて、サーモサイクラー配列検出システム(MJ research Inc.DNA engine opticon 2)で3つの独立したPCR反応をデュプリケート又はトリプリケートで実施した。リアルタイムPCR条件に従ってプライマーを設計し、配列を(表1)に記載する。リアルタイムPCRにおいて、酵素を活性化するため95℃の初期変性温度が15分間必要であり、全てのプライマー対に対して56℃の焼鈍温度を用いた。PCR増幅を38サイクル実施した。
【0202】
(免疫組織化学及び免疫蛍光)
種々の器官からの組織を10%ホルマリン中に24時間固定し、PBSに移して、パラフィンブロックを作った。抗ブタインスリン(1:1000、Dako)、抗Pdx1(1:5000、CV.Wrightの寄与)、抗グルカゴン(1:200、Dako)一次抗体で切片(5μm)をインキュベートした後、西洋ワサビペルオキシダーゼHRP(Dako)と接合した抗マウス又はウサギIgG(1:5,000)二次抗体でインキュベートした。前述3のようにDAB基質キット(Dako)を用いて特異的免疫染色を視覚化した。二重免疫蛍光において、パラフィン包埋切片(5μm)をモルモット抗ブタインスリン(1:200、Dako)及びヤギ抗グルカゴン(1:50、Santa Cruz)一次抗体により一晩4℃でインキュベートし、FITC(1:1000、RDI)−ロバ抗ヤギと接合したロバ抗モルモットIgGをAlexa Fluor 594フルオロクロム二次抗体(1:500、Invitrogen、分子プローブ)でインキュベートした。
【0203】
(ELISAによる組織及び血清インスリン測定)
膵臓及び肝臓の全器官を採取し、重さを量り、微修飾4による公開手順に従って対応する容量(1ml緩衝剤/0.1g肝臓又は0.05g膵臓)により氷上の酸性エタノール溶液(70%エタノール中に180mMのHCl)中に直ちに載置した。製造者取扱説明書に従って超高感度マウスインスリンELISAキット(ALPCO)を用いて組織インスリン値を測定した。BIO−RAD3550−UVマイクロプレートリーダーにより吸光度を直ちに測定した。最終結果をngインスリン/mg膵組織又はngインスリン/グラム肝組織に変換した。
【0204】
血清インスリンの測定において、正常マウス及び処理マウスの両方をまず最初に6時間絶食させ、グルコース(1mg/g体重)刺激後15分で血液試料を採取した。組織インスリンELISAで記載したように血清インスリンのレベルを決定した。
【0205】
(統計解析)
データが統計的に有意であると考えられるにはP値が0.05未満であることを必要とする独立試料t検定を用いて、実験所見についての統計的有意性を解析した。
【0206】
(他の実施形態)
以上の説明から、種々の使用及び条件に適合させるため本明細書に記載の本発明に変更及び修正を施せることが明らかであろう。そのような実施形態は、添付請求項の範囲内でもある。
本明細書に記載の変数の任意の定義における要素の一覧の記載内容は、一覧要素の任意の単一要素又は組み合わせ(若しくは部分的組み合わせ)としてその変数の定義を含むものである。本明細書に記載の実施形態の記載内容は、任意の単一実施形態、又は任意の他の実施形態又はその一部との組み合わせとしての実施形態を含むものである。
【0207】
本明細書に記載した全ての特許及び刊行物は、それぞれの特許及び刊行物が個々別々に参照によって引用されるのと同程度に、参照によって本明細書に引用されるものとする。特に、Caoら、Diabetes 2004;53(12):3168−3178;Tangら、Lab Invest 2006;86:83−93;及び国際公開第2005/083059号パンフレットについては、その開示内容全体を本明細書に引用したものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の再プログラミング方法であって、
(a)前記細胞をタンパク質導入ドメインに融合した転写因子ポリペプチド又はそのフラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;
(b)前記細胞で少なくとも1つのポリペプチドの発現量を変化させる工程と、
を含み、それにより前記細胞を再プログラミングする方法。
【請求項2】
前記細胞が、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞をin vitro又はin vivoで接触させる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記変化により対応する対照細胞で検出可能に発現されないポリペプチドの量を増加させる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記再プログラムされた細胞がインスリンを発現する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
インスリン産生細胞の生成方法であって、
(a)タンパク質導入ドメインを含む膵転写因子又はそのフラグメントと細胞を接触させる工程と;
(b)細胞のインスリン発現を増加させる工程と、
を含み、それによりインスリン産生細胞を生成する方法。
【請求項7】
前記細胞が、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞からなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が、肝細胞又は肝由来幹細胞である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)の前記細胞が、前記融合タンパク質と接触する前に検出可能な量のインスリンを発現しない請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記転写因子が、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAからなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項11】
インスリン産生細胞の産生方法であって、
膵細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含むタンパク質と接触させることで、前記膵細胞の再生を誘導する工程を含む方法。
【請求項12】
前記膵細胞をin vitro又はin vivoで接触させる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記接触によりインスリン産生細胞の数を増加させる請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記再生が複製又は新生により起こる請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、前記細胞をNgn3、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含むタンパク質と接触させる工程をさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項16】
インスリン産生細胞の生成方法であって、
肝由来細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含むタンパク質と接触させる工程を含み、それによりインスリン産生細胞を生成する方法。
【請求項17】
前記肝由来細胞をin vitro又はin vivoで組み換え融合タンパク質と接触させる請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記融合タンパク質を門脈経由で被験者に送達することにより前記in vivo接触が起こる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記肝由来細胞の分化転換により前記インスリン産生細胞を生成する請求項16に記載の方法。
【請求項20】
それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法であって、
(a)前記被験者の細胞をタンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子又はそのフラグメントと接触させる工程と;
(b)前記細胞のインスリンの発現を増加させることで、インスリン産生細胞を生成する工程と、
を含む方法。
【請求項21】
前記体細胞が、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞からなる群から選択される請求項20又は請求項22に記載の方法。
【請求項22】
前記転写因子が、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAからなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項23】
それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法であって、
(a)前記被験者の成熟膵細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;
(b)前記成熟膵細胞の再生を誘導する工程と、
を含み、それにより前記被験者の高血糖を改善する方法。
【請求項24】
それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法であって、
(a)肝由来細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;
(b)インスリン産生細胞を生成する工程と、
を含み、それにより前記被験者の高血糖を改善する方法。
【請求項25】
前記成熟細胞が肝細胞又は肝由来幹細胞である請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記被験者が1型又は2型糖尿病を有する請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
工程(a)の前記細胞が、前記融合タンパク質と接触する前に検出可能な量のインスリンを発現しない請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記方法により前記被験者の血糖値を低下させる請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記方法により前記被験者の血糖値を正常化させる請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記方法が、Ngn3ポリペプチド、タンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質の有効量を投与する工程をさらに含む請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記方法が、前記ポリペプチドを得る工程をさらに含む請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、投与が発生中の内因性転写因子のタイミングを忠実に反映するように、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAの任意の1つ以上を投与する工程を含む請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記投与方法が、少なくとも約0〜4日間、細胞にPdx1タンパク質の有効量を提供する請求項32に記載の方法。
【請求項34】
Ngn3の有効量が少なくとも約2〜6日間存在するように、Ngn3を次に投与する工程をさらに含む請求項33に記載の方法。
【請求項35】
Pax4の有効量が少なくとも約4〜8日間存在するように、Pax4を次に投与する工程をさらに含む請求項34に記載の方法。
【請求項36】
Pdx1の有効量を前記細胞で維持し、尚且つ、Pax4が前記細胞に存在する間にPdx1の前記投与を行うように、Pdx1を投与する工程をさらに含む請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記被験者が家畜又はヒト患者である請求項1〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
(a)膵転写因子に少なくとも85%のアミノ酸相同性を有するポリペプチドと;
(b)タンパク質導入ドメイン、類似体、又はそのフラグメントと、
を含む融合ポリペプチドであって、
細胞における前記融合ポリペプチドの発現により、対応する対照細胞に対して少なくとも1つのポリペプチドの発現を変化させる融合ポリペプチド。
【請求項39】
前記膵転写因子が初期因子又は後期因子である請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項40】
前記膵転写因子が、Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAからなる群から選択される請求項39に記載の融合ポリペプチド。
【請求項41】
前記融合ポリペプチドがヒト膵転写因子を含む請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項42】
前記融合ポリペプチドが、単純疱疹ウイルスVP16活性化ドメイン、又はそのフラグメント若しくは類似体をさらに含む請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項43】
前記融合ポリペプチドが精製用配列タグをさらに含む請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項44】
前記配列タグがヘキサヒスチジンタグである請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項45】
前記融合ポリペプチドが、抗体と特異的に結合する抗原ドメインをさらに含む請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項46】
前記抗原ドメインがV5ドメインである請求項45に記載の融合ポリペプチド。
【請求項47】
前記融合ポリペプチドが、
(a)ヒトPdx−1ポリペプチド又はそのフラグメントと;
(b)単純疱疹ウイルスVP16活性化ドメインと;
(c)タンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントと、
を含むか又はこれらから基本的になる請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項48】
膵転写因子プロモーター及び検出可能なドメインとを含む融合ポリペプチド。
【請求項49】
前記プロモーターが、Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAからなる群から選択される請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項50】
前記検出可能なドメインが、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、及びβ−ガラクトシダーゼからなる群から選択される請求項49に記載の融合ポリペプチド。
【請求項51】
前記ポリペプチドが、前記ポリペプチドの精製を容易化するアミノ酸配列タグをさらに含む請求項38〜50のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項52】
前記配列タグがヘキサヒスチジンタグ又はGSTである請求項48に記載の融合ポリペプチド。
【請求項53】
配列比較が、前記ポリペプチド又はペプチドフラグメントの全長である請求項38〜52のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
前記ポリペプチドが、前記ポリペプチドの半減期を延長させる、吸収を増加させる、或いは持続放出をもたらす変化を含む請求項38〜52のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項54】
請求項37〜51のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含む発現ベクター。
【請求項55】
前記核酸配列に操作可能にリンクしたプロモーターをさらに含む請求項54に記載の発現ベクター。
【請求項56】
前記プロモーターが、細菌性細胞又は哺乳類細胞で発現するように配置される請求項54に記載の発現ベクター。
【請求項57】
請求項40〜41のいずれか1項に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項58】
前記細胞が原核細胞又は真核細胞である請求項57に記載の宿主細胞。
【請求項59】
前記細胞が、細菌性細胞、哺乳類細胞、昆虫細胞、及び酵母細胞からなる群から選択される請求項57に記載の宿主細胞。
【請求項60】
請求項38〜52のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドを含む宿主細胞。
【請求項61】
前記細胞が、ヒト又は動物の被験者由来の哺乳類細胞である請求項60に記載の宿主細胞。
【請求項62】
前記細胞が、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞からなる群から選択される請求項61に記載の宿主細胞。
【請求項63】
前記宿主細胞が、Ngn3、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合ポリペプチドをさらに含む請求項60に記載の宿主細胞。
【請求項64】
請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞を含む組織。
【請求項65】
請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞を含む器官。
【請求項66】
請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞を含む基質。
【請求項67】
請求項32〜40のいずれか1項に記載の組み換えポリペプチドの産生方法であって、
(a)細胞で発現するように配置された請求項38〜52のいずれか1項に記載の単離された核酸分子で形質転換した細胞を提供する工程と;
(b)前記核酸分子を発現する条件下で前記細胞を培養する工程と;
(c)前記ポリペプチドを単離する工程と、
を含む方法。
【請求項68】
薬学的に許容される賦形剤中に請求項38〜52のいずれか1項に記載のポリペプチド又は請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞の有効量を含む医薬組成物。
【請求項69】
Ngn3アミノ酸配列、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合ポリペプチドの有効量をさらに含む請求項68に記載の医薬組成物。
【請求項70】
a)請求項38〜52のいずれか1項に記載のポリペプチド又は請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞と;
b)被験者の高血糖を改善するため前記ポリペプチド又は細胞を使用するための取扱説明書と、
を含む包装された医薬品。
前記ポリペプチドの半減期を延長させる、吸収を増加させる、或いは持続放出をもたらすように前記ポリペプチドを製剤化する請求項70に記載の医薬品。
【請求項71】
請求項38〜52のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド又は請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞の有効量と、それを使用するための取扱説明書とを含む、高血糖治療用キット。
【請求項72】
前記高血糖が1型又は2型糖尿病に関連している請求項71に記載のキット。
【請求項73】
請求項38〜52のいずれか1項に記載のポリペプチドを含むウイルスベクター。
【請求項74】
Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAからなる群から選択される膵転写因子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、ポリペプチドは、哺乳類細胞で発現するように配置されたプロモーターに操作可能にリンクしているアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【請求項75】
それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法であって、
(a)前記被験者の細胞を請求項74のAAVベクターと接触させる工程と;
(b)インスリンを発現するよう前記細胞を誘導する工程と、
を含み、それにより前記被験者の高血糖を改善する方法。
【請求項76】
それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法であって、
(a)前記被験者の肝由来細胞を請求項74のAAVベクターと接触させる工程と;
(b)インスリンを発現するよう前記細胞を誘導する工程と、
を含み、それにより前記被験者の高血糖を改善する方法。
【請求項77】
請求項73のAAVベクターを含む宿主細胞。
【請求項78】
前記細胞が、成熟細胞、胚幹細胞、肝細胞又は膵細胞である請求項77に記載の宿主細胞。
【請求項79】
前記細胞が、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞からなる群から選択される請求項77に記載の宿主細胞。
【請求項80】
薬学的に許容される賦形剤中に請求項74に記載のアデノウイルスベクターの有効量を含む医薬組成物。
【請求項81】
被験者の組織でPdx1、INGAP、Reg3d、Reg3g、及び膵炎関連タンパク質−Papからなる群から選択される遺伝子の発現を誘導するのに有効な量のPdx1ポリペプチドを被験者に接触させることで、糖尿病を治療する工程を含む、被験者の糖尿病を治療する方法。
【請求項82】
発現の増加が、Pdx1が約3〜4倍に増加する、INGAP発現が約14〜15倍に増加する、Reg3d発現が約7〜8倍に増加する、Reg3gが約6〜7倍に増加する、及び膵炎関連タンパク質−Papが30〜35倍に増加するからなる群から選択される請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記方法が、Pdx1、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、IAPP、インスリンII、ソマトスタチン、NeuroD、Isl−1、及び膵外分泌遺伝子p48並びにアミラーゼからなる群から選択される遺伝子の発現を増加させる請求項81に記載の方法。
【請求項84】
少なくとも2つ、3つ、4つ、又は5つの遺伝子の発現が増加する請求項81に記載の方法。
【請求項85】
前記遺伝子全ての発現が増加する請求項81に記載の方法。
【請求項86】
それを必要とする被験者の膵島β細胞の再生を誘導する方法であって、
前記被験者にPdx1タンパク質の有効量を投与する工程と、
膵島β細胞の再生を誘導する工程と、
を含む方法。
【請求項87】
少なくとも約1〜5mg/kg体重の量のPDX1を投与する請求項86に記載の方法。
【請求項88】
PDX1を静脈注射又は腹膜注射経由で投与する請求項86に記載の方法。
【請求項89】
前記方法によりインスリン値を少なくとも約1〜20倍に増加させる請求項86に記載の方法。
【請求項90】
PDX1投与により、Pdx1、INGAP、Reg3d、Reg3g、膵炎関連タンパク質−Pap、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、IAPP、インスリンII、ソマトスタチン、NeuroD、Isl−1、及び膵外分泌遺伝子p48並びにアミラーゼからなる群から選択される遺伝子の発現を増加させる請求項86に記載の方法。
【請求項1】
細胞の再プログラミング方法であって、
(a)前記細胞をタンパク質導入ドメインに融合した転写因子ポリペプチド又はそのフラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;
(b)前記細胞で少なくとも1つのポリペプチドの発現量を変化させる工程と、
を含み、それにより前記細胞を再プログラミングする方法。
【請求項2】
前記細胞が、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞をin vitro又はin vivoで接触させる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記変化により対応する対照細胞で検出可能に発現されないポリペプチドの量を増加させる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記再プログラムされた細胞がインスリンを発現する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
インスリン産生細胞の生成方法であって、
(a)タンパク質導入ドメインを含む膵転写因子又はそのフラグメントと細胞を接触させる工程と;
(b)細胞のインスリン発現を増加させる工程と、
を含み、それによりインスリン産生細胞を生成する方法。
【請求項7】
前記細胞が、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞からなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が、肝細胞又は肝由来幹細胞である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)の前記細胞が、前記融合タンパク質と接触する前に検出可能な量のインスリンを発現しない請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記転写因子が、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAからなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項11】
インスリン産生細胞の産生方法であって、
膵細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含むタンパク質と接触させることで、前記膵細胞の再生を誘導する工程を含む方法。
【請求項12】
前記膵細胞をin vitro又はin vivoで接触させる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記接触によりインスリン産生細胞の数を増加させる請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記再生が複製又は新生により起こる請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、前記細胞をNgn3、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含むタンパク質と接触させる工程をさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項16】
インスリン産生細胞の生成方法であって、
肝由来細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含むタンパク質と接触させる工程を含み、それによりインスリン産生細胞を生成する方法。
【請求項17】
前記肝由来細胞をin vitro又はin vivoで組み換え融合タンパク質と接触させる請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記融合タンパク質を門脈経由で被験者に送達することにより前記in vivo接触が起こる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記肝由来細胞の分化転換により前記インスリン産生細胞を生成する請求項16に記載の方法。
【請求項20】
それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法であって、
(a)前記被験者の細胞をタンパク質導入ドメインに融合した膵転写因子又はそのフラグメントと接触させる工程と;
(b)前記細胞のインスリンの発現を増加させることで、インスリン産生細胞を生成する工程と、
を含む方法。
【請求項21】
前記体細胞が、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞からなる群から選択される請求項20又は請求項22に記載の方法。
【請求項22】
前記転写因子が、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAからなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項23】
それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法であって、
(a)前記被験者の成熟膵細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;
(b)前記成熟膵細胞の再生を誘導する工程と、
を含み、それにより前記被験者の高血糖を改善する方法。
【請求項24】
それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法であって、
(a)肝由来細胞をPdx−1ポリペプチド、VP16活性化ドメイン、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質と接触させる工程と;
(b)インスリン産生細胞を生成する工程と、
を含み、それにより前記被験者の高血糖を改善する方法。
【請求項25】
前記成熟細胞が肝細胞又は肝由来幹細胞である請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記被験者が1型又は2型糖尿病を有する請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
工程(a)の前記細胞が、前記融合タンパク質と接触する前に検出可能な量のインスリンを発現しない請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記方法により前記被験者の血糖値を低下させる請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記方法により前記被験者の血糖値を正常化させる請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記方法が、Ngn3ポリペプチド、タンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合タンパク質の有効量を投与する工程をさらに含む請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記方法が、前記ポリペプチドを得る工程をさらに含む請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、投与が発生中の内因性転写因子のタイミングを忠実に反映するように、Pdx−1、Pdx−1/VP16、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAの任意の1つ以上を投与する工程を含む請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記投与方法が、少なくとも約0〜4日間、細胞にPdx1タンパク質の有効量を提供する請求項32に記載の方法。
【請求項34】
Ngn3の有効量が少なくとも約2〜6日間存在するように、Ngn3を次に投与する工程をさらに含む請求項33に記載の方法。
【請求項35】
Pax4の有効量が少なくとも約4〜8日間存在するように、Pax4を次に投与する工程をさらに含む請求項34に記載の方法。
【請求項36】
Pdx1の有効量を前記細胞で維持し、尚且つ、Pax4が前記細胞に存在する間にPdx1の前記投与を行うように、Pdx1を投与する工程をさらに含む請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記被験者が家畜又はヒト患者である請求項1〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
(a)膵転写因子に少なくとも85%のアミノ酸相同性を有するポリペプチドと;
(b)タンパク質導入ドメイン、類似体、又はそのフラグメントと、
を含む融合ポリペプチドであって、
細胞における前記融合ポリペプチドの発現により、対応する対照細胞に対して少なくとも1つのポリペプチドの発現を変化させる融合ポリペプチド。
【請求項39】
前記膵転写因子が初期因子又は後期因子である請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項40】
前記膵転写因子が、Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAからなる群から選択される請求項39に記載の融合ポリペプチド。
【請求項41】
前記融合ポリペプチドがヒト膵転写因子を含む請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項42】
前記融合ポリペプチドが、単純疱疹ウイルスVP16活性化ドメイン、又はそのフラグメント若しくは類似体をさらに含む請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項43】
前記融合ポリペプチドが精製用配列タグをさらに含む請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項44】
前記配列タグがヘキサヒスチジンタグである請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項45】
前記融合ポリペプチドが、抗体と特異的に結合する抗原ドメインをさらに含む請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項46】
前記抗原ドメインがV5ドメインである請求項45に記載の融合ポリペプチド。
【請求項47】
前記融合ポリペプチドが、
(a)ヒトPdx−1ポリペプチド又はそのフラグメントと;
(b)単純疱疹ウイルスVP16活性化ドメインと;
(c)タンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントと、
を含むか又はこれらから基本的になる請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項48】
膵転写因子プロモーター及び検出可能なドメインとを含む融合ポリペプチド。
【請求項49】
前記プロモーターが、Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAからなる群から選択される請求項38に記載の融合ポリペプチド。
【請求項50】
前記検出可能なドメインが、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、及びβ−ガラクトシダーゼからなる群から選択される請求項49に記載の融合ポリペプチド。
【請求項51】
前記ポリペプチドが、前記ポリペプチドの精製を容易化するアミノ酸配列タグをさらに含む請求項38〜50のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項52】
前記配列タグがヘキサヒスチジンタグ又はGSTである請求項48に記載の融合ポリペプチド。
【請求項53】
配列比較が、前記ポリペプチド又はペプチドフラグメントの全長である請求項38〜52のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
前記ポリペプチドが、前記ポリペプチドの半減期を延長させる、吸収を増加させる、或いは持続放出をもたらす変化を含む請求項38〜52のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項54】
請求項37〜51のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含む発現ベクター。
【請求項55】
前記核酸配列に操作可能にリンクしたプロモーターをさらに含む請求項54に記載の発現ベクター。
【請求項56】
前記プロモーターが、細菌性細胞又は哺乳類細胞で発現するように配置される請求項54に記載の発現ベクター。
【請求項57】
請求項40〜41のいずれか1項に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項58】
前記細胞が原核細胞又は真核細胞である請求項57に記載の宿主細胞。
【請求項59】
前記細胞が、細菌性細胞、哺乳類細胞、昆虫細胞、及び酵母細胞からなる群から選択される請求項57に記載の宿主細胞。
【請求項60】
請求項38〜52のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドを含む宿主細胞。
【請求項61】
前記細胞が、ヒト又は動物の被験者由来の哺乳類細胞である請求項60に記載の宿主細胞。
【請求項62】
前記細胞が、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞からなる群から選択される請求項61に記載の宿主細胞。
【請求項63】
前記宿主細胞が、Ngn3、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合ポリペプチドをさらに含む請求項60に記載の宿主細胞。
【請求項64】
請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞を含む組織。
【請求項65】
請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞を含む器官。
【請求項66】
請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞を含む基質。
【請求項67】
請求項32〜40のいずれか1項に記載の組み換えポリペプチドの産生方法であって、
(a)細胞で発現するように配置された請求項38〜52のいずれか1項に記載の単離された核酸分子で形質転換した細胞を提供する工程と;
(b)前記核酸分子を発現する条件下で前記細胞を培養する工程と;
(c)前記ポリペプチドを単離する工程と、
を含む方法。
【請求項68】
薬学的に許容される賦形剤中に請求項38〜52のいずれか1項に記載のポリペプチド又は請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞の有効量を含む医薬組成物。
【請求項69】
Ngn3アミノ酸配列、及びタンパク質導入ドメイン、又はその生物活性フラグメントを含む融合ポリペプチドの有効量をさらに含む請求項68に記載の医薬組成物。
【請求項70】
a)請求項38〜52のいずれか1項に記載のポリペプチド又は請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞と;
b)被験者の高血糖を改善するため前記ポリペプチド又は細胞を使用するための取扱説明書と、
を含む包装された医薬品。
前記ポリペプチドの半減期を延長させる、吸収を増加させる、或いは持続放出をもたらすように前記ポリペプチドを製剤化する請求項70に記載の医薬品。
【請求項71】
請求項38〜52のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド又は請求項60〜63のいずれか1項に記載の宿主細胞の有効量と、それを使用するための取扱説明書とを含む、高血糖治療用キット。
【請求項72】
前記高血糖が1型又は2型糖尿病に関連している請求項71に記載のキット。
【請求項73】
請求項38〜52のいずれか1項に記載のポリペプチドを含むウイルスベクター。
【請求項74】
Pdx−1、Ngn3、Pax4、NeuroD1、Nkx2.2、Nkx6.1、Isl1、Pax6、及びMafAからなる群から選択される膵転写因子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、ポリペプチドは、哺乳類細胞で発現するように配置されたプロモーターに操作可能にリンクしているアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【請求項75】
それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法であって、
(a)前記被験者の細胞を請求項74のAAVベクターと接触させる工程と;
(b)インスリンを発現するよう前記細胞を誘導する工程と、
を含み、それにより前記被験者の高血糖を改善する方法。
【請求項76】
それを必要とする被験者の高血糖を改善する方法であって、
(a)前記被験者の肝由来細胞を請求項74のAAVベクターと接触させる工程と;
(b)インスリンを発現するよう前記細胞を誘導する工程と、
を含み、それにより前記被験者の高血糖を改善する方法。
【請求項77】
請求項73のAAVベクターを含む宿主細胞。
【請求項78】
前記細胞が、成熟細胞、胚幹細胞、肝細胞又は膵細胞である請求項77に記載の宿主細胞。
【請求項79】
前記細胞が、脂肪細胞、骨髄由来細胞、表皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、膵細胞、及びこれらの前駆細胞又は幹細胞からなる群から選択される請求項77に記載の宿主細胞。
【請求項80】
薬学的に許容される賦形剤中に請求項74に記載のアデノウイルスベクターの有効量を含む医薬組成物。
【請求項81】
被験者の組織でPdx1、INGAP、Reg3d、Reg3g、及び膵炎関連タンパク質−Papからなる群から選択される遺伝子の発現を誘導するのに有効な量のPdx1ポリペプチドを被験者に接触させることで、糖尿病を治療する工程を含む、被験者の糖尿病を治療する方法。
【請求項82】
発現の増加が、Pdx1が約3〜4倍に増加する、INGAP発現が約14〜15倍に増加する、Reg3d発現が約7〜8倍に増加する、Reg3gが約6〜7倍に増加する、及び膵炎関連タンパク質−Papが30〜35倍に増加するからなる群から選択される請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記方法が、Pdx1、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、IAPP、インスリンII、ソマトスタチン、NeuroD、Isl−1、及び膵外分泌遺伝子p48並びにアミラーゼからなる群から選択される遺伝子の発現を増加させる請求項81に記載の方法。
【請求項84】
少なくとも2つ、3つ、4つ、又は5つの遺伝子の発現が増加する請求項81に記載の方法。
【請求項85】
前記遺伝子全ての発現が増加する請求項81に記載の方法。
【請求項86】
それを必要とする被験者の膵島β細胞の再生を誘導する方法であって、
前記被験者にPdx1タンパク質の有効量を投与する工程と、
膵島β細胞の再生を誘導する工程と、
を含む方法。
【請求項87】
少なくとも約1〜5mg/kg体重の量のPDX1を投与する請求項86に記載の方法。
【請求項88】
PDX1を静脈注射又は腹膜注射経由で投与する請求項86に記載の方法。
【請求項89】
前記方法によりインスリン値を少なくとも約1〜20倍に増加させる請求項86に記載の方法。
【請求項90】
PDX1投与により、Pdx1、INGAP、Reg3d、Reg3g、膵炎関連タンパク質−Pap、インスリンI、グルカゴン、エラスターゼ、IAPP、インスリンII、ソマトスタチン、NeuroD、Isl−1、及び膵外分泌遺伝子p48並びにアミラーゼからなる群から選択される遺伝子の発現を増加させる請求項86に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図18E】
【図18F】
【図18G】
【図18H】
【図18I】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図20D】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図21D】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図23A】
【図23B】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図25A】
【図25B】
【図25C】
【図25D】
【図26】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図18E】
【図18F】
【図18G】
【図18H】
【図18I】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図20D】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図21D】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図23A】
【図23B】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図25A】
【図25B】
【図25C】
【図25D】
【図26】
【公表番号】特表2009−543580(P2009−543580A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520845(P2009−520845)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/016402
【国際公開番号】WO2008/013737
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(509017000)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファウンデーション,インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/016402
【国際公開番号】WO2008/013737
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(509017000)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファウンデーション,インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】
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