説明

細胞の評価方法、これを用いたる測定成分のがん化評価方法、がん診断キットおよびコンピュータ可読媒体

【課題】評価する幹細胞または幹細胞を含む細胞群のがん化状態を、正常細胞、前がん細胞またはがん化細胞のいずれかを判定する方法、前がん細胞の場合にはがん化の進行度合いを評価する方法の提供。
【解決手段】判定する細胞にOct3/4と、p75NTRを同時または個別に適用し、Oct3/4と、p75NTRの発現及び発現しない状態を判定基準とし、前記未分化状態と相関する転写因子が発現せず、なおかつp75NTRが発現しない場合には、評価する細胞は正常細胞であると判定し、前記未分化状態と相関する転写因子が発現せず、なおかつニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白が発現した場合には取得した細胞が前がん状態であると判定し、前記未分化状態と相関する転写因子が発現し、なおかつp75NTRが発現しない場合には、評価する細胞は進行がん細胞であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の評価方法、この方法を用いたる測定成分のがん化評価方法、がん診断キットおよびコンピュータ可読媒体に関する。より詳しくは幹細胞、または幹細胞を含む細胞群からなる群より選択された細胞が、正常細胞、前がん細胞またはがん細胞のいずれかであることを判定する細胞の評価方法、この方法を用いたる測定成分のがん化評価方法、がん診断キットおよびコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCTやNMRなどの機器の進歩により微少初期がんの発見が可能になり、がんの早期発見率は向上している。がんが顕在化するまでには長期の潜伏期間(通常15〜20年)が存在し、この間のがん化危険度の上昇した細胞(前がん細胞)を特定し、その悪性化の指標を同定できればがんを阻止または予防する手段が提供されることとなるであろう。
がん細胞の検出方法としては、抗体によるがん関連抗原の検出方法等がすでに利用されている。しかし、これらの方法は、がんに対する感度および特異性が必ずしも高くないという問題がある。例えば、がん胎児性抗原(CEA)やα−フェトプロテイン(AFP)などががんのマーカーとして知られているが、いずれも限定されたがんで6割程度の疾患感度しかなく、がん以外の疾患でも非特異的に陽性を呈する等の問題がある。また疾患関連性遺伝子においても限られた症例で検出されるだけで普遍的ながんを検出するマーカーには至っていない。
【0003】
一方、幹細胞は発生過程における形態形成や成体における各組織、臓器の恒常性、生殖細胞の維持に働く一群の細胞であり、長年にわたる多くの科学者の研究により、成体哺乳類動物の造血系、皮膚、腸管系等に存在し、血液、皮膚、腸管粘膜の再生に寄与していることが知られている。この幹細胞は、複数の違った種類の細胞に分化する多分化能および対称的あるいは非対称的な分裂を行い新たな幹細胞を生み出す自己再生能を持ち合わせており、通常は組織の特定の場所に位置し、ごくゆっくり増殖しているかあるいは細胞分裂体止状態にあるが、組織の再生維持に関与する特異的な増殖刺激や創傷、炎症などによる物理科学的刺激などの特定条件下では素早く増殖を誘導することができる。
本発明者らはこのような幹細胞を含む長期生存細胞には、発がんの起源細胞を含むことを提唱し、さらに長期生存細胞は低親和性神経成長因子受容体(以下、これを「NGFRp75]、インテグリンβ4あるいはbcl−2の発現を指標として同定できることを開示している(特許文献1:特開2000−4900号公報)。
【0004】
しかし、これらの上皮幹細胞マーカーを発現する細胞は、通常の上皮組織にも存在し、またその全てががん化するものではないため、組織中にこの細胞が存在することにより該組織ががん化の危険度が高いと判断することはできなかった。
ある組織のがん化の危険度を同定する方法は、発がんに関連する遺伝子の発現レベルで同定する方法(特許文献2:特表2000−510330号公報)、あるいは発がんに関連する染色体DNAの変異の有無で個体レベルで予測する方法(特許文献3:特開2002−095484号公報)等が提案されている。しかし、これらの方法によっても、発がんの時期や危険度の予測は不可能であった。
【特許文献1】 特開2000−4900号公報
【特許文献2】 特表2000−510330号公報
【特許文献3】 特開2002−095484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、取得した幹細胞または幹細胞を含む細胞群のがん化状態を、正常細胞、前がん細胞またはがん化細胞のいずれかを判定する方法、特に前がん細胞の場合にはがん化の進行度合いを評価する方法を提供することである。
本発明の別の課題は、食品、サプリメント、薬剤、およびこれらの薬効成分の細胞に及ぼす影響、すなわちこれらががん化を促進するのか抑制するのかを判定することが可能な方法を提供することである。
本発明のさらに別の課題は、取得した細胞ががん化状態を、正常細胞、前がん細胞またはがん化細胞のいずれかを判定できる標準となる細胞株を基準とするがん診断キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は、幹細胞、または幹細胞を含む細胞群からなる群より選択された細胞が、正常細胞、前がん細胞またはがん細胞のいずれかであることを判定する細胞の評価方法であって、
判定する細胞に未分化状態及び未分化状態の維持と相関する転写因子(好ましくは、Oct3又はOct4、あるいはOct3/4、特に好ましくはOct3/4)と、ニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白(以下、単に、p75NTRという)を同時または個別に適用し、前記転写因子と、p75NTRの発現及び発現しない状態を判定基準とし、前記未分化状態と相関する転写因子が発現せず、なおかつp75NTRが発現しない場合には、判定する細胞は正常細胞であると判定し、前記未分化状態と相関する転写因子が発現し、なおかつニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白が発現した場合には取得した細胞が前がん状態であると判定し、前記未分化状態と相関する転写因子が発現し、なおかつp75NTRが発現しない場合には、判定する細胞は進行がん細胞であると判定することを含む。
【0007】
本発明の細胞の評価方法の一実施形態において、判定する細胞が所定条件で培養された幹細胞または幹細胞を含む細胞群であって、培養前後の、未分化状態と相関する転写因子の発現パターンおよびニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現パターンにより、前記所定の条件で培養された細胞が、正常細胞を維持する培養条件、正常細胞から前がん細胞へ誘導する培養条件、前がん細胞から正常細胞へ誘導する培養条件、前がん細胞を維持する培養条件、前がん細胞からがん細胞へ誘導する培養条件を判定する。この一実施形態を用いて、薬効成分・薬剤、サプリメント、食品等の単一成分または混合成分のがん化抑制またはがん化促進を判定する測定成分のがん化評価方法が提供される。
【0008】
本発明は、さらに未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子産物反応素材、p75NTR発現遺伝子産物反応素材、又は両反応素材を有し、前記未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子産物反応素材、p75発現遺伝子産物反応素材、又は両者と体液及び細胞抽出液とを反応させて免疫染色して、反応素材における免疫染色の状態によって細胞のがん化状態又は前がん状態を判定する簡易判定キットに関する。
【0009】
本発明は、さらに体液から採取した細胞のがん化状態を判定する細胞の判定方法であって未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子、p75発現遺伝子、又は両者と検体である体液及び細胞抽出液とを反応させて免疫染色し、反応領域における免疫染色の状態を観察し、観察した結果に基づいて正常状態、前がん状態又はがん化状態を判定することを特徴とする、検体中に含まれる細胞ががん化状態又は前がん状態のいずれかであると判定することを特徴する細胞の判定方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、取得した幹細胞または幹細胞を含む細胞群のがん化状態を、正常細胞、前がん細胞またはがん化細胞のいずれかを判定することが可能であり、また前がん細胞の場合にはがん化の進行度合いを判定することが可能である。
したがって、これらの細胞及び細胞株を培養するための培養環境の指標を提供するとともに、食品、サプリメント、薬剤、およびこれらの薬効成分の細胞に及ぼす影響、すなわちこれらががん化を促進するのか抑制するのかを判定することが可能となる。
さらに、この評価方法に基づいてがん診断キットを提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明は、細胞に転写因子として、未分化状態及び未分化状態の維持と相関する転写因子と、p75NTRを同時または個別に適用した際に、正常細胞、前がん状態の細胞、進行がんの細胞の各細胞の状態における未分化状態及び未分化状態の維持と相関する転写因子の発現パターンと、p75NTRの発現パターンが、異なるという知見に基づくものである。
すなわち、本発明者等は、転写因子の発現パターンと、p75NTRの発現パターンを判断基準にして、細胞の状態を評価可能であることを見出した。
一般に、未分化状態及び未分化状態の維持と相関する転写因子は、正常細胞に対して発現せず(±:全体の細胞の5%以下)、前がん状態の細胞および進行がんの細胞に対して発現し(+)、一方、p75NTRは、正常細胞に対しては発現せず(±)、前がん状態の際に発現し(+++から+)、がんの進行に従って発現強度が減少していき進行がん細胞に対しては発現が消失する(−)。
【0012】
そのため、判定するある細胞集団(組織片等)が、未分化状態と相関する転写因子が発現せず(あるいは検出限界以下で)、なおかつニューロトロフィン受容体蛋白p75NTR又はmRNAが発現しない、あるいは検出限界以下である場合には、この細胞集団には、正常細胞が優位に存在し、慢性的炎症下あるいは何らかの癌化初期に特徴的な異常を持つ細胞の存在は発生していない可能性が非常に高い。
すなわち、医学生物学における測定の問題(常に不確定要素)を含むという条件で、この場合には正常細胞であると判定される。
換言すると、医学生物学的な不確定要素がほとんど含まない環境下(例えば、純化した細胞を評価対象の細胞とした場合)、あるいは他の判定と本発明の評価方法とを組合せて総合的に判定することにより、判定の精度が増加するものと考えられる(以下、同様)。
【0013】
一方、判定するある細胞集団(組織片等)が、前記未分化状態と相関する転写因子が発現せず、なおかつp75NTRが発現した場合には取得した細胞が前癌状態と相関することは極めて低いと判定できる。
すなわち、医学生物学における測定の問題(不確定要素)を含むという条件で、この場合には前がん状態の細胞を含むと判定できる。
また、前記未分化状態と相関する転写因子が発現し、なおかつp75NTRが発現しない場合には、取得した細胞は進行癌細胞である可能性が極めて高い(医学生物学における測定の問題(不確定要素)を含むという条件で、この場合には前がん状態の細胞を含む)と判定できる。
【0014】
なお、本発明で使用する用語は、下記の意義を有している。
幹細胞、または幹細胞を含む細胞群からなる群より選択された細胞とは、ヒト、哺乳類由来の幹細胞そのものあるいはこれらを含む細胞群のいずれであってもよく、単離されたものであっても、純化されていないもの、これらを含む組織片であってもよい。特に上皮細胞が好ましい。上皮組織は、上皮組織に限定されず、上皮細胞を含むサンプルであれば何れのものでもよい。具体的には、例えば、未だがん細胞は見出されていないが発がんの可能性のあるヒト個体または腫瘍摘出予後のヒト個体等から取り出された上皮組織や、痰、血液、血漿、血清、脳脊髄液、胸膜液、膵液、尿等が好ましく用いられる。上皮組織としては、がん化の可能性のある上皮組織であって、生検が行えるものであれば如何なるものであってもよいが、例えば、肺、食道、胃、乳管、子宮内膜、子宮頸部、大腸、結腸、腎臓あるいは膀胱等の上皮組織が挙げられる。
上皮組織は、通常生検に用いられる方法により生体から取り出され、また上皮細胞を含むサンプルもそれぞれに適した既知の方法により取得される。取得された生物学的サンプルからは適当な方法により上皮細胞を取得して下述する老化度の解析を行う。上皮細胞の取得方法として具体的には、例えば、サンプルが上皮組織である場合には、特開2000−4900号公報に記載の方法等が挙げられる。
【0015】
正常細胞とは、正常に細胞増殖制御機能及び分化機能や細胞死(アポトーシス)が誘発される正常な成体を構成する機能等を保持し、且つ分裂老化する細胞であり、
前がん細胞とは、がん細胞の特性の内、無制限増殖能を獲得している場合が多くテロメア短縮を回避する機能を獲得しており分裂老化しない細胞として特徴付けられ、上記正常細胞の特性の一部または多くを保持しているがその程度は様々である。細胞の増勢能力はあるがヒト及びマウスなどの実験動物にがん腫を形成しないかその能力はきわめて低く、
がん細胞(進行がん)とは、多くの細胞特性が記載されるが、最も特徴的には、細胞増殖制御機能を失っているか極めて厳弱し、高い頻度(80%以上)で無限増殖能力を獲得しており、その多くは浸潤転移能力も備えている事が多い。その結果ヒトを死に至らしめる悪性新生物と位置付けられる細胞であることを意味する。
転写因子の転写パターンとは、転写パターンの発現が判別できれば特に限定されるものではなく。当該技術分野に周知の方法、例えば免疫染色法またはPCRにより測定された転写パターンを用いることができる。
【0016】
未分化状態または未分化状態と相関する転写因子とは、細胞が正常状態の場合には、すなわち正常細胞では発現が検出され難く、細胞が前がん状態および完全にがん化された状態では発現が顕著に検出される転写因子を意味するものである。
代表的な転写因子としては、このような作用を示す転写因子であれば特に限定されるものではないが、Oct3又はOct4、あるいはOct3/4と表現されるものが挙げられるが、このように表現されるものはすべて同一の転写因子であることを意味している。本発明においては、特にOct3/4が好んで使用される。
【0017】
p75NTR(ニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白)とは、神経細胞の膜表面に存在するニューロトロフィン低親和型受容体であるが神経細胞以外の細胞にも発現するものであり、本発明者等のうちの一人が、膵臓がんのマーカとして先に特許出願したものである(特開2004−248575膵癌検出用マーカー森村さんとの共同出願でよろしいですね)。しかし、この出願では、p75NTRが細胞のがん化が進行することにより、発現が消失するという知見はなく、このことは本発明によって初めて明らかにされた。
【0018】
(第一実施形態)
まず、図1から図4に基づいて本発明で用いるp75NTR(図中、P75N+)を用いてがんの発生過程を示す。図1は、がん発生過程を示す模式図であり、図2は発生したがん組織(食道がんで例示)でのP75NTRの発現を示す図面であり、図3は細胞のがん化過程における幹細胞指標分子(転写因子Oct4mRNA)の発現パターンを示す図面であり、そして図4は不死化ケラチノサイトで細胞数が増幅したp75NTR発現幹細胞を示す図面である。
【0019】
図1に示す通り、がん細胞の大半は再生能力を有する組織に存在する幹細胞の分裂老化の過程で発生することを示す模式図であるが、これは特開2000−60542号公報、特開2004−267167号公報、非特許文献(Okumuraら、Oncogene,2003),及び本発明の成果によって成立するがん細胞の発生起源とその発生経路を示す。これらの文献は参考として本明細書に組み込まれる。
【0020】
図2に示す通り、成長したがん組織中でp75NTRを発現しているがん細胞の分布をp75NTR受容体蛋白の抗体を用いた免疫染色(DAB法)の結果である。P75NTR蛋白を発現する細胞はがん腫と正常上皮細胞領域との接点で混在しており、p75NTRを発現するがん細胞はp75NTRを発現する正常上皮組織領域を分断するように割り込んで成長していることを示す。その領域のがん細胞にもp75NTRを発現していることがDAB染色法によって明示されている。その反対領域(図面では下方に広がる浸潤したがん細胞ではp75NTRの発現が検出されなくなっている事も明示されている。このことを模式図で表現したものが右図であり、この図はがんの発生がp75NTR発現上皮幹細胞から発生し発がん初期のp75NTR発現がん細胞の増幅が伴っており、さらにがんの悪性化が進行しながら浸潤と広がりが伴うに従いp75NTRの発現が消長していることを意味する。
【0021】
このように、p75NTRは、上皮組織に存在するわずかの幹細胞に限局して発現しているため組織のどの領域でも検出される指標ではないが、慢性的炎症や持続的な刺激によって誘発される前がん状態及び無制限増殖能力(不死化)を伴う発がん初期で発現し容易に検出される頻度が高くなり、浸潤、転移などをともなって悪性化の度合い(単にがん化の度合い)が進行するのに従って、p75NTRの発現強度は小さくなる(消失する)ことを見出した。
【0022】
さらに、図3に示す通りp75NTRは、不死化を獲得するがん化初期において強い強度で発現し、そしてがん化が進行して悪性化したがん種より分離して樹立されたがん細胞株ではp75NTRの発現は検出できなくなる。
したがって、前がん状態であると判定された細胞は、そのp75NTRの発現強度により、がん化過程での進行状況を把握することが可能になる。
したがって、発現の程度を標準化することによって、取得した細胞(すなわち、判定する細胞)のがんの進行度合いを数値評価することが可能である。
以下に、数値評価する一例をDAB免疫染色を例示して説明する。
【0023】
図4に示す通り、がん化初期に相当である本発明で例示された不死化細胞株でのp75NTR発現強度の増強がp75NTR発現幹細胞の増幅によってもたらされる証拠がフローサイトメトリによって明示される
【0024】
この方法は、まず当該技術分野に公知の方法により取得した細胞を免疫染色し、染色した細胞の顕微鏡画像をコンピュータ可読画像データ(RGBデータ)に変換する。
得られた画像データ(RGBデータ)をソフトウェア例えばAdobe Photoshop(登録商標名)によりCMYKイメージ変換する。DAB免疫染色法により染色した箇所(本実施形態ではOct3/4またはp75NTR(本実施形態ではまとめて転写因子という)を免疫染色した箇所、すなわち、転写因子発現細胞は)、通常褐色で表されているので、この画像から青色を減色すると、画像中転写因子発現細胞だけが黒色要素(K)を含んでいることとなる。
【0025】
このようにして変換した画像は、免疫染色された箇所が黒色要素(K)として数値評価することが可能となる。例えば、全体の細胞群における免疫染色された箇所が面積比として数値評価可能となる。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、このようにしてK値で示された染色細胞(転写因子発現細胞)の染色の程度を、K値の分布として示すことが可能となる。図示しないが、K値(すなわち、染色濃度)の濃度分布を分布曲線として示すことも可能であるが、例えば転写因子発現の強度を、K値の所定の区画、無し(n)「1000未満」、弱(m)「1000以上、5000未満」、中(m)「5000以上9000未満」、強(s)「9000以上」の四段階評価で示すことができる。本実施形態におけるK値の所定の区画、無し(n)「1000未満」、弱(m)「1000以上、5000未満」、中(m)「5000以上9000未満」、強(s)「9000以上」はあくまでも恣意的に決定したものであるので任意に変更することも可能であり、また3段階評価、5段階評価等の区画数も任意である。
【0027】
このように構成することによって従来数値評価することが不可能であり、特に発現程度とその分布を調べることが困難であった転写因子発現細胞を評価することが可能となる。
【0028】
より具体的には、DAB(3,3’−diaminobennzidine)反応よって得られた転写因子発現箇所の褐色の画像ファイルを画像処理ソフト、例えばPhotpshopによって開き、“イメージ”メニューから“モード”の“CMYKカラー”を選択する。CMYKはシアン(C)、マジェンタ(M)、黄色(Y).黒色(K)の色成分で表現される。
【0029】
次いで、画像処理ソフトのスポイトツールを選択してDAB陽性褐色部分(この場合は細胞核内で機能する転写因子であるため、褐色の染色を示す細胞核)を選択する。
次に、描画色のパレットをクリックしカラーピッカーのウインドウを開きCMYKのK値(黒色%値)を確認し、さらにDAB陰性細胞核(細胞質及び細胞膜に存在するDABの非特異的発色含む青色が優勢な部分)を選択しカラーピッカーで同様にK値を測定する。
前者が後者よりK値(%)が十分高い%値であることを確認しカラーピッカーのウインドウを閉じる。この時の前者と後者のK値(%)が大きくない場合は非特異的DAB発色の占める割合が高いと判定されるため、より信頼できるK値を得るためには非特異的染色が少ない良質の免疫染色標本を再度得ることが好ましい。
【0030】
例えばある標本のK値は前者が58〜60%、後者が22〜24%となる。“ウインドヴ”メニューから「ブラック」のチャンネルを選択クリックし画面を白黒で表現する。“選択範囲”メニューから画像全てを選択し“編集”から“コピー”機能によってクリップボードにコピーする。
【0031】
“ファイル”メニューから「新規」を選択し、モードをグレースケールとする。OKをクリックする。“編集”メニューから“ペースト”機能によって新規ファイルにDAB発色の画像を移す。“ウインドウ”メニューから“レイヤー”を表示し、背景レイヤーとペースト画像の二つが確認されたら、プルダウンメニューから“画像の統合”選択し画像を統合する。
【0032】
“ファイル”メニューから保存を選択し、ファイルタイプを、例えばTIFF(拡張子.tif)とし保存する。例えば、画像解析ソフトClontechImageQuant(TM)でのOct4染色値を測定する場合,「色調補正」から「階調の反転」を選択し白黒画像を反転しておく。本解析で例示されるClontechImageQuant(TM)で与えられた個々の細胞核の黒色濃度の測定値はほぼ300〜20000までの任意の値を記録した。この実際の測定値(Value)は異なった標本(組織、培養細胞)におけ転写因子のDAB発色による免疫染色標本ごとでほぼ一定の域値を得ることが出来ることから、再現性が認められる。
【0033】
このように本発明の評価方法は、取得した画像をコンピュータにより一連の処理を行うことが可能である。
このようにして解析した結果、例えば、前記の転写因子発現細胞を含む細胞群の場合には、細胞全体における染色された細胞の割合、無し(n)、弱(w)、中(m)、強(s)の各々の割合をプリントアウトして、サンプリングした細胞群を保存する容器に貼ることによってその細胞の様子を後段の研究、適用に用いることが可能となる。
このような転写因子の発現パターンをOct3/4等の未分化状態と相関する転写因子であるOct3/4とp75NTRとの評価を別個に行うことによって、各々数値評価または段階評価できる。
【0034】
なお、K値の所定の区画、無し(n)「1000未満」、弱(m)「1000以上、5000未満」、中(m)「5000以上9000未満」、強(s)「9000以上」の四段階評価で示すことができる。本実施形態におけるK値の所定の区画、無し(n)「1000未満」、弱(m)「1000以上、5000未満」、中(m)「5000以上9000未満」、強(s)「9000以上」は説明するための例示であり、各々の細胞の種類毎に適切に設定されることは容易に理解できる。
【0035】
このような、細胞のがん化状態を評価することは、がんの診断に応用できるだけでなく、最近注目されているがん幹細胞の評価にも応用可能である。すなわち、がん化状態を特定した細胞をバンキングに供することが本発明によって初めて可能となる。
【0036】
(第2実施形態: 培養液への応用)
以上説明した通り、本発明では、転写因子であるOct3/4とp75NTRの発現パターンにより細胞の状態を評価することが可能であるが、このことを応用して、例えば幹細胞の培養を行う際の培養の条件付けに本発明を応用することが可能である。
【0037】
この実施形態では、所定条件で培養された幹細胞または幹細胞を含む比較用細胞群(コントロール培養した細胞群)に対して培養液、培養条件等のパラメータを変化させて(条件付けされて)培養された細胞群を判定する細胞(サンプル細胞)として用いる。
すなわち、コントロール培養前後の比較用細胞群のOct3/4の発現パターンおよびp75NTRの発現パターンと、条件付けされた培養された細胞群の培養後のOct3/4の発現パターンおよびp75NTRの発現パターンとを比較することによって、培養条件の変化に応じて、判定する細胞の正常細胞を維持する培養条件、正常細胞から前がん細胞へ誘導する培養条件、前がん細胞から正常細胞へ誘導する培養条件、前がん細胞を維持する培養条件、前がん細胞から進行がん細胞へ誘導する培養条件を判定する方法を提供する。
なお、Oct3/4の発現パターンおよびp75NTRの発現パターンと比較方法は、培養前後の発現パターンの差、標準の発現パターンを予め設定してその発現パターンとの比、あるいは、所定の細胞系列に対して予め発現パターンとがんの進行度の関係を標準化し(例えばグラフ化し)、これと比較することによって行うことなどが挙げられる。
【0038】
例えば、代表的なサンプル細胞例として上皮細胞に適した培養液として、容量比1:4で混合したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)とハムMCDB153培地に、ヒドロコルチゾン(0.2・M)、上皮増殖因子(EGF)(10ng/ml)、エタノールアミン(5μM)、o−ホスホエタノールアミン(5μM)、トランスフェリン(10μM)、インシュリン(5μg/ml)、bFGF(5−10ng/ml)牛脳下垂体抽出液(150μg/mlタンパク量)を補充したものが挙げられるが、このような培地を例えば標準培地として、標準の培養法により培養したものの培養前後の両転写因子の発現パターンを標準とし、添加物(例えば、発がんプロモータ、PMA(ホルボールミリステートアセテート)などのPhorbol esterの添加、ある成分の添加量の変化をおこなって培養液を変化させることによる、サンプル細胞の培養液に依存するがん化の促進または抑制を評価することが可能となる。
【0039】
また、サンプル細胞として初期がん状態の幹細胞を含む細胞を用いて、紫外線等の光照射、ラジカル添加等を行うことによるがん化の促進または抑制を評価することが可能となる。同様に正常細胞からなる細胞群をサンプル細胞として用いがん化促進条件を設定することも可能である。
【0040】
例えばラジカルは、ラジカル種、その量に応じてがん化を促進する場合もあり、また培養に好影響を与えることもあるので、連続的に量を変化させて評価することによって、例えばラジカル量の最適化を測ることが可能となる。
同様に、正常細胞(正常細胞の維持、正常細胞からがん化方向の評価)または初期がん細胞(初期がん状態の維持、初期がん状態から正常細胞への変化(アポトーシス誘導))、初期がん状態からがん化への進展の評価)を用いて、温度条件、培養時間など培養パラメータを変化(好ましくは連続的に変化)させることによって、細胞の維持条件、変化条件を評価することが可能となる。
【0041】
なお、ある細胞についての標準培養条件およびその培養前後の比較用細胞群のOct3/4の発現パターンおよびp75NTRの発現パターンとが十分に確立されている場合には、確立された比較用細胞群のOct3/4の発現パターンおよびp75NTRの発現パターンを用いて、コントロール培養およびコントロール培養前後の発現パターンを省略して、その細胞を条件付けした培養した後のOct3/4の発現パターンおよびp75NTRの発現パターンを、確立されている標準培養前後のOct3/4の発現パターンおよびp75NTRの発現パターンと比較することにより、培養条件の設定を行うことも可能である。
【0042】
(第3実施形態: 単一成分/混合成分のがん化促進・抑制効果の評価)
前述した未分化状態と相関する転写因子とp75NTRを用いた培養系およびその培養条件(例えば、正常細胞の維持、正常細胞からがん化方向の評価付けされた培養系、初期がん状態の維持、初期がん状態から正常細胞への変化(アポトーシス誘導))、初期がん状態からがん化への進展の評価付けされた培養系およびこれらの培養条件)を標準として、これらに評価すべき添加物を添加して、添加物のがん化挙動を評価することも可能である。
【0043】
すなわち、本発明は、前述の培養条件を判定する細胞の評価方法を用いた測定成分のがん化抑制またはがん化促進を判定する測定成分のがん化評価方法にも関する。
この際に、第2実施形態において培養する細胞が前がん細胞であって、コントロール培養培養条件が、前記前がん細胞が前がん状態を維持する条件、前がん細胞から末期がん細胞へ誘導する培養条件または前がん細胞から正常細胞へ誘導する既知の培養条件を標準とする。
【0044】
このようなコントロール培養条件に、評価する成分(単一成分または混合物、例えば、薬効成分、発がん性が疑われている成分、サプリメント、食品等)を加えて培養する。またこれらの評価する成分の量を変化させることによって、コントロール条件における未分化状態と相関する転写因子とp75NTR発現パターンと比較して、評価する成分の細胞に与える影響(前癌状態の維持、前癌状態から正常細胞への変化、前がん状態から進行がんへの進行)の量的依存性を評価することが可能である。
【0045】
さらに、コントロール条件に所定の成分を添加した培地を用いて、この成分に対する他の成分の細胞のがん化に対する相乗作用、拮抗作用を評価することも可能である。
【0046】
この際に、前がん状態の細胞ががん化方向へ進行する培養条件として、例えば紫外線照射、発ガンプロモータの添加、ラジカル付加(量的問題)、牛、人などの血清(1%から20%程度)。前がん状態から正常細胞へと変化する培養条件として、既知の所定量の抗がん剤、所定量のラジカル消去剤等が挙げられる。
【0047】
さらに、これらの既知の薬剤等の添加物を培養液に添加することにより、これらの添加物と測定すべきサンプルとの正常細胞維持、がん化促進、抑制に対する相乗作用・拮抗作用を測定できるものと予測される。そして、これにより添加物の添加量の臨界点(上限・下限とも)、がん化促進方向、アポトーシス誘導方向を評価できるものと推測される。
【0048】
なお、前述したある成分の添加による十分に確立された培養系における細胞のがん挙動の評価だけでなく、ラジカル種の負荷、光(紫外線、ガンマ線等)の照射による細胞のがん挙動の評価も同様に本発明により行うことができる。
【0049】
(変更態様:がん化状態簡易検定キット)
本発明は、例えば、Oct3/4発現遺伝子産物反応素材、p75NTR発現遺伝子産物反応素材、又は両反応素材を有し、例えば基材上に抗Oct3/4抗体分子、抗p75NTR抗体分子を吸着させたものから構成された細胞のがん化状態又は前がん状態を判定する簡易判定キットも提供される。この場合Oct3/4およびp75NTRを特異的に認識する基材の種類を問わない。この簡易判定キットは、キット中に含まれる転写因子とp75NTRを特異的に検出可能な基材を体液、組織等のサンプルを接触させ、転写因子とp75NTRの発現パターンからサンプル中の細胞のがん化状態を簡易判定するものである。
【0050】
例えば、底層と前記底層に設けられたOct3/4発現遺伝子を含む反応領域と、この反応領域の上に設けられた体液透過性の表面層とから構成することもでき、内部に吸水性樹脂層を有する生理用ナプキン又は澱もの吸収シートであり、前記吸水性樹脂層内にOct3/4認識基材を混入させて反応領域を構成したこともできる。
また反応領域は、p75NTR認識基材と接合された繊維状物から構成してもよい。
また、本発明のがん診断キットは、同一基材中にOct3/4発現遺伝子反応領域とp75発現遺伝子反応領域の両方を有していることもできる。
また、本発明のがん診断キットは、Oct3/4発現遺伝子反応領域を有する第1のがん診断キットと、p75発現遺伝子反応領域を有する第2の診断キットから構成されていてもよい。
【0051】
本発明の簡易キットを用いて、体液(例えば、膣からの体液)から採取した細胞のがん化状態(例えば、子宮がん)を以下の通りに判定する。
体液と判定キットの各反応領域とを接触させる。
接触後の判定キットを従来公知の方法により前処理し(例えば、ホルムアルデヒド、またはパラホルムアルデヒドによる固定化)検出することも可能であるが、前処理不要の検出方法を排除するものではない。例えばOct3/4蛋白が特異的に認識して結合する塩基配列Oct3/4boxを利用した検出基材も可能である。このようにOct3/4及びp75NTRを特異的に認識するいかなる基材も利用する事を制限するものではないが、簡便には未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子、p75発現遺伝子、又は両者と検体である体液とを反応させて免疫染色し、反応領域における免疫染色の状態を観察し、観察した結果に基づいて正常状態、前がん状態又はがん化状態を判定することを特徴とする、検体中に含まれる細胞ががん化状態又は前がん状態のいずれかであると判定することを特徴する細胞の判定方法である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
がんの発生過程におけるP75NTRの発現変動を示す図面の実施例。
がん細胞の大半は再生能力を有する組織に存在する幹細胞の分裂老化の過程で発生することを示す模式図であるが、これは特許文献(ニプロの長期生存細胞の取得方法)、(老化幹細胞の分離方法)、および非特許文献(Okumuraら、Oncogene,2003),及び本発明の成果によって成立するがん細胞の発生起源とその発生経路を示す。
【0053】
(実施例2)
本実施例は、細胞のがん化過程における幹細胞指標分子(転写因子)の発現パターンを示す図面の実施例である(図2)。成長したがん組織中でp75NTRを発現しているがん細胞の分布をp75NTR受容体蛋白の抗体を用いた免疫染色(DAB法)の結果である。P75NTR蛋白を発現する細胞はがん腫と正常上皮細胞領域との接点で混在しており、p75NTRを発現するがん細胞はp75NTRを発現する正常上皮組織領域を分断するように割り込んで成長していることを示す。その領域のがん細胞にもp75NTRを発現していることがDAB染色法によって明示されている。その反対領域(図面では下方に広がる浸潤したがん細胞ではp75NTRの発現が検出されなくなっている事も明示されている。このことを模式図で表現したものが右図であり、この図はがんの発生がp75NTR発現上皮幹細胞から発生し発がん初期のp75NTR発現がん細胞の増幅が伴っており、さらにがんの悪性化が進行しながら浸潤と広がりが伴うに従いp75NTRの発現が消長していることを意味する。上皮組織に存在するわずかの幹細胞に限局して発現しているため組織のどの領域でも検出される指標ではないが、慢性的炎症や持続的な刺激によって誘発される前がん状態及び無制限増殖能力(不死化)を伴う発がん初期で発現し容易に検出される頻度が高くなり、浸潤、転移などをともなって悪性化の度合い(単にがん化の度合い)が進行するのに従って、p75NTRの発現強度は小さくなる(消失する)ことを見出した。
【0054】
(実施例3)
本実施例は、細胞のがん化過程における幹細胞指標分子(転写因子)の発現パターンをRT−PCR法によってmRNA量を推定することによって示す図面の実施例である。実施例1で示した正常細胞から各々の発がんの段階、即ち、ヒトパピローマウイルス16型の癌誘発遺伝子(各々E6,E7)の導入によって進行した分裂老化の過程にあるヒト上皮細胞、テロメラーゼの活性化が伴った不死化過程に導かれた4種類の細胞株(内一種類Nsv21はより癌化程度が進行した不死化細胞を作る能力が高いSV40の導入されたもの)、及び癌化がさらに進んだ、即ち悪性化がんと判定されるがん組織由来細胞株から全RNAを任意のRNA抽出法、例えば全RNA抽出キット(Promega社、Madison WI)によって抽出し、アガロース電気泳動法によってRNAの品質を検査し、2マイクログラムRNAから相補的DNA(cDNA)をoligo(dT)をプライマーとして1マイクロリットルのSuperScript−RT(invitrogen社)によって42度Cで1時間増幅した。得られたcDNAを任意の濃度に希釈し(例えば1:10希釈)し、一部(例えば1−4マイクリットル)を用いてPCR法によってcDNAを増幅した。PCRの設定は例えば、94℃で5分1サイクル、続いて94℃で20秒、50−60℃で30秒、72℃で60秒の条件で実施した。増幅されたcDNAはアガロースゲル電気泳動によって評価した。ヒトp75NTRは、不死化を獲得するがん化初期において強い強度で発現し、そしてがん化が進行して悪性化したがん種より分離して樹立されたがん細胞株ではp75NTRの発現は検出できなくなる。
したがって、前がん状態であると判定された細胞は、そのp75NTRの発現強度により、がん化過程での進行状況を把握することが可能になる。
なお、PCR−primers塩基配列は以下の通りである。
p75NTR−F:5’−TgAgTgCTgCAAAgCCTgCAA−3’
p75NTR−R:5’−TCTCATCCTggTAgTAgCCgT−3’
HuOCT3/4−F:5’−gAAgCTggAgAAggAgAAgCTg−3’
HuOCT3/4−R:5’−CCAgggCCgCAgCTTACACACATgTTC−3’
HuIntegrinβ1−F:5’−gTgTggCCCAAgACAgTTCT−3’
HuIntegrinβ1−R:5’−ggTTACCCCACCCTCTgACT−3’
【0055】
(実施例4)
本実施例は、不死化ケラチノサイトで増幅したp75NTR発現幹細胞を示す図面(図4)の実施例である
培養皿に接着している培養細胞を例えばトリプシンなどのタンパク分解酵素で処理し、培養皿から脱着した細胞2x105を0.02%のNaN3(アジ化ナトリウム)と0.5%BSAを含むリン酸緩衝液(染色用緩衝液)50mlに懸濁する。細胞をp75NTR抗体を1マイクロリットル/mlの濃度で加え室温(約25℃)5分間反応させ細胞を染色用緩衝液で洗浄し、細胞を50マイクロリットルに再度懸濁し1マイクロリットル/mlの濃度でFITCが結合した二次抗体で5分間室温で反応させ、表面膜にp75NTRを発現している幹細胞数をフローサイトメーターで測定した。
がん化初期に相当である本発明で例示された不死化細胞株でのp75NTR発現強度の増強がp75NTR発現幹細胞の増幅によってもたらされる証拠がフローサイトメトリによって明示される
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】がん発生過程を示す模式図。
【図2】がんの発生過程におけるP75NTRの発現変動を示す図面。
【図3】細胞のがん化過程における幹細胞指標分子(転写因子)の発現パターンを示す図面。不死化ケラチノサイトで増幅したp75NTR発現幹細胞を示す図面。
【図4】不死化ケラチノサイトで細胞数が増幅したp75NTR発現幹細胞を示す図面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞、または幹細胞を含む細胞群からなる群より選択された細胞が、正常細胞、前がん細胞またはがん細胞のいずれかであることを判定する細胞の評価方法であって、
判定する細胞に未分化状態及び未分化状態の維持と相関するOct3/4で例示する転写因子と、ニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白を同時または個別に適用し、前記転写因子と、ニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現及び発現しない状態を判定基準とし、
前記未分化状態と相関する転写因子が発現せず(+/−)、なおかつニューロトロフィン受容体蛋白p75NTR又はmRNAが発現しない(+/−)場合には、判定する細胞は正常細胞であると判定し、
前記未分化状態と相関する転写因子が発現し、なおかつニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白が発現した場合には取得した細胞が前がん状態であると判定し、
前記未分化状態と相関する転写因子が発現し、なおかつp75NTRが発現しない場合には、判定する細胞は進行がん細胞であると判定する
ことを含むことを特徴とする細胞の評価方法。
【請求項2】
前記未分化状態と相関する転写因子がOct3又はOct4、あるいはOct3/4であることを特徴とする請求項1に記載の細胞の評価方法。
【請求項3】
前記判定する細胞を前がん細胞と判定した場合、当該細胞のがん化の進行度を、発現強度が減するに従ってがん化が進行するニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現強度に基づいて、判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞の評価方法。
【請求項4】
前記発現パターンは、DAB染色による発現パターンであり、
(a) 前記DAB染色した未分化状態と相関する転写因子を発現する細胞の染色の強弱を光学的読み取り手段によりコンピュータ可読画像データに変換し、
(b) 得られた画像データをソフトウェアによりCMYKイメージ変換し、CMYK変換した画像から青色を減色し、
(c) 全体の画像中から黒要素測定値であるK値の割合を求め、
(d) 前記DAB染色したニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白発現細胞を光学的読み取り手段によりコンピュータ可読画像データに変換し、
(e) 得られた画像データをソフトウェアによりCMYKイメージ変換し、CMYK変換した画像から青色を減色し、
(f) 全体の画像中から黒要素測定値であるKp75NTR値の割合を求め、
(g) 得られたK値とKp75NTR値とから判定する細胞のがん化状態を判定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の細胞の評価方法。
【請求項5】
判定する細胞がセルバンキングに供せられる細胞であること特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
判定する細胞が所定条件で培養された幹細胞または幹細胞を含む細胞群であって、培養前後の、未分化状態と相関する転写因子の発現パターンおよびニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現パターンにより、前記所定の条件で培養された細胞が、正常細胞を維持する培養条件、正常細胞から前がん細胞へ誘導する培養条件、前がん細胞から正常細胞へ誘導する培養条件、前がん細胞を維持する培養条件、前がん細胞からがん細胞へ誘導する培養条件を判定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の細胞の評価方法。
【請求項7】
前記判定する細胞がヒト由来の細胞であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の細胞の評価方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の細胞評価方法を用いた測定成分のがん化抑制またはがん化促進を判定する測定成分のがん化評価方法であって、
前記培養する細胞が前がん細胞であって、前記所定の培養条件が、前記前がん細胞が前がん状態を維持する条件、前がん細胞から進行がん細胞へ誘導する培養条件または前がん細胞から正常細胞へ誘導する培養条件のいずれか一つの既知の培養条件をコントロールとして培養し、
前記コントロールに所定量の測定成分を加える以外前記コントロールと同一条件で培養し、
前記コントロールとして培養した際に得られた分化状態と相関する転写因子の発現パターンおよびニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現パターンを標準として、前記コントロールに所定量の測定成分を加える以外前記コントロールと同一条件で培養して得られた未分化状態と相関する転写因子の発現パターンおよびニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現パターンにより測定成分のがん化抑制またはがん化促進を判定する
工程を含むことを特徴とする測定成分のがん化評価方法。
【請求項9】
請求項6または請求項7に記載の細胞評価方法を用いた測定成分のがん化抑制またはがん化促進を判定する測定成分のがん化評価方法であって、
前記培養する細胞が前がん細胞であって、前記所定の培養条件が、前記前がん細胞が前がん状態を維持する条件、前がん細胞から進行がん細胞へ誘導する培養条件または前がん細胞から正常細胞へ誘導する培養条件のいずれか一つの既知の培養条件をコントロールとして培養し、
前記コントロールに所定量の測定成分を加える以外前記コントロールと同一条件で培養し、
前記コントロールとして培養した際に得られた分化状態と相関する転写因子の発現パターンおよびニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現パターンの発現パターンを標準として、前記コントロールに所定量の測定成分を加える以外前記コントロールと同一条件で培養して得られた未分化状態と相関する転写因子の発現パターンおよびニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現パターンを前記標準と比較することにより測定成分のがん化抑制またはがん化促進を判定する
工程を含むことを特徴とする測定成分のがん化評価方法。
【請求項10】
請求項6又は請求項7に記載の細胞評価方法を用いた測定成分のがん化抑制またはがん化促進を判定する測定成分のがん化評価方法であって、
前記培養する細胞が前がん細胞であって、前記所定の培養条件が、前記前がん細胞が前がん状態を維持する条件、前がん細胞から進行がん細胞へ誘導する培養条件または前がん細胞から正常細胞へ誘導する培養条件のいずれか一つの既知の培養条件をコントロールとして培養した際に、得られた分化状態と相関する転写因子の発現パターンおよびニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現パターンの発現パターンを標準として、
前記コントロールに所定量の測定成分を加える以外前記コントロールと同一条件で培養し、前記コントロールに所定量の測定成分を加える以外前記コントロールと同一条件で培養して得られた未分化状態と相関する転写因子の発現パターンおよびニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現パターンを前記標準と比較することにより測定成分のがん化抑制またはがん化促進を判定する
工程を含むことを特徴とする測定成分のがん化評価方法。
【請求項11】
がん細胞の進行度を判定するがん細胞の評価方法であって、判定するがん細胞にニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白を適用し、
発現強度が減じるのに従ってがん化が進行するニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白の発現強度に基づいて、前記判定する細胞のがんの進行度を判定する段階を含むことを特徴とするがん細胞の評価方法。
【請求項12】
未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子産物反応素材、ニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白由来のp75NTR発現遺伝子産物反応素材、又は両反応素材を有し、前記未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子産物反応素材、p75発現遺伝子産物反応素材、又は両者と体液及び細胞抽出液とを反応させて免疫染色して、反応素材における免疫染色の状態によって細胞のがん化状態又は前がん状態を判定する簡易判定キット。
【請求項13】
底層と前記底層に設けられた未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子を含む反応領域と、前記反応領域の上に設けられた体液透過性の表面層とから構成されていることを特徴とする請求項12に記載のがん診断キット。
【請求項14】
前記がん診断キットは内部に吸水性樹脂層を有する生理用ナプキン又は澱もの吸収シートであり、前記吸水性樹脂層内に未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子を混入させて反応領域を構成したことを特徴とする請求項12または請求項13に記載のがん診断キット。
【請求項15】
前記反応領域は、ニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白と接合された繊維状物から構成されていることを特徴とする請求項12または請求項13に記載のがん診断キット。
【請求項16】
前記がん診断キットは、同一基材中に未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子反応領域とニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白反応領域の両方を有していることを特徴とする請求項10または請求項11に記載のがん診断キット。
【請求項17】
前記がん診断キットは、未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子反応領域を有する第1のがん診断キットと、ニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白反応領域を有する第2の診断キットから構成されていることを特徴とする請求項10に記載のがん診断キット。
【請求項18】
体液及び細胞抽出液から採取した検体試料により当該生体組織中の細胞のがん化状態を判定する細胞の判定方法であって
未分化状態と相関する転写因子発現遺伝子、ニューロトロフィン受容体p75NTR mRNAまたは蛋白、又は両者と検体である体液とを反応させて免疫染色し、
反応領域における免疫染色の状態を観察し、
観察した結果に基づいて正常状態、前がん状態又はがん化状態を判定する
段階を含むことを特徴とする、検体中に含まれる細胞ががん化状態又は前がん状態のいずれかであると判定することを特徴する細胞の判定方法。
【請求項19】
請求項3を実行するためのプログラムが格納されたコンピュータ可読媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−195533(P2007−195533A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45964(P2006−45964)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(505016388)
【出願人】(503067878)
【出願人】(501052889)
【Fターム(参考)】