説明

細胞シグナル伝達経路のサイトメトリー解析のための全血製剤

【課題】細胞内タンパク質エピトープの保存とエピトープの一過性の活性状態を捕らえる能力に基づくシグナル伝達経路の検出を可能にするタンパク質エピトープ計測用の生物学的サンプルの調製方法の提供。
【解決手段】本発明は、シグナル伝達分子のエピトープと他の細胞内タンパク質エピトープを活性な状態で保存するのを保証するために、赤血球を含めた生物学的サンプルの迅速な固定を可能にする。本発明は赤血球の溶解を可能にし、生物学的サンプル、例えば全血、骨髄吸引物、腹水、その他の赤血球を含むサンプルのサイトメトリー解析に有用な方法になる。本発明は、サンプルを固定するのに必要な架橋固定剤が接近できないようにした細胞内抗原上のエピトープを回復するか、「アンマスク」する方法も提供する。本発明は、疾患に特異的な特徴を究明するために患者から直接採取された生物学的サンプル中のリン酸-エピトープ・レベルの保存及び分析を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、幅広くサイトメトリーのためのサンプル調製の分野、そしてより詳しく述
べると、フローサイトメトリー及びイメージ・サイトメトリーによるシグナル伝達計測の
ための生物学的サンプル調製が可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フローサイトメトリーは、細胞の混成集団の中のサブセットを識別する能力によって臨
床的及び基礎的な免疫学的研究において必須のツールとなった。現在、可能な同時解析パ
ラメーターの数が13個以上にまで広がって、フローサイトメトリーの計装及び用途の両方
で重要な躍進があった。より多くのパラメーターが利用可能なため、研究者は、表面エピ
トープ染色に基づいてさらに多くの十分に規定され、且つ、生物学的に注目のリンパ球サ
ンプルのサブセットを同定し始めた。
【0003】
フローサイトメトリーは、表面表現型に基づく細胞集団の識別のために日常的に使用さ
れ、そして、例えば、特に細胞毒性、生存率、及びアポトーシスといった細胞ベースのア
ッセイにも使用される。フローサイトメトリーは、例えば末梢血液といった混成集団で存
在する細胞サブセットの不均一性を評価する能力を提供することは十分に理解されている
。表面染色は細胞を特徴づけるのに効果的な手段であるかもしれないが、細胞内事象に対
する即座の反射によるものである、刺激に対するそれらの細胞の機能的応答に関する情報
を提供しない。使用されるマーカーがサイトカイン受容体又は受容体チロシンキナーゼで
ある場合でさえ、抗原レベルが特定のリガンドに対する細胞応答と常に相関するわけでは
ない。それにより、細胞内エピトープ:サイトカイン、DNA、mRNA、酵素、ホルモン受容
体、細胞周期タンパク質、及びリン酸化シグナル伝達分子のレベルを計測することによっ
て細胞を特徴づける方法が開発された。その結果、フローサイトメトリーの調査用途は、
細胞突起を調整する細胞内タンパク質の測定にますます適用され、そして新規抗癌剤のた
めに重要な治療標的を示す。
【0004】
例えば、タンパク質の翻訳後修飾の2次元SDS-PAGE及び質量分析法といった現在のプロ
テオミクスのアプローチは、非常に有力であり、且つ、多くの細胞内活性化過程への貴重
な洞察を提供した。しかしながら、細胞が溶解されているので、これらの実験の読み取り
は細胞集団全体のタンパク質活性化状況の平均であることは明らかである。集団内の個々
の細胞におけるタンパク質活性化の分布に対する情報の収集についての定めが全くなく、
そして、検出可能なレベルの活性タンパク質に対応する細胞集団を遡及して同定する能力
がないので、顕著な生物学的事象はそのような平均化で覆い隠される可能性がある。それ
により、規定された細胞集団、そして異なる細胞サブタイプ全体の両方に存在する免疫細
胞集団のばらつきに関する有効な情報は検出されず、タンパク質分析のために細胞溶解を
必要とする方法論によって対処されることができない。結局、タンパク質活性化シグナル
伝達カスケードは、適切な、且つ、人為的な影響のないそれらの生物学的状況の中で計測
されなければならない。
【0005】
特に興味深いのは、リン酸化状況に特異的な抗体の使用に基づいたシグナル伝達経路の
分析のための最近の技術開発である。多パラメーター・フローサイトメトリー解析は、細
胞表面マーカーを使用することで識別される−異なった細胞サブセット、分化又は活性化
状況を示す−小さい亜集団を可能にする。シグナル伝達事象を特徴づけるための単一細胞
技術の使用は、それ自体、規定された白血球集団内の特定の分子のはっきりと識別できる
シグナル伝達の連結を同定するための、そして単一細胞レベルにおいてシグナル伝達カス
ケードに同時に関与するいくつかの活性なキナーゼを相関させることによってシグナル伝
達ネットワークの範囲に関する全体的な理解を得るための多様性実験を実施する能力を提
供する。更に、従来の臨床的なフローサイトメトリー・プロトコールへのこれらの方法の
組み込みは、非常に特異的な分子的癌治療のため、及び患者における薬物効果を観察する
ための患者の選別を含めた血液学的悪性度の分類のための広範囲の用途がある。
【0006】
フローサイトメトリーによるシグナル伝達経路の分析は、日常的な臨床適用においてこ
れまで遭遇しなかった技術的問題を提示する。個々のシグナル伝達因子のリン酸化状態は
、特定のキナーゼ及びホスファターゼに対応して急激に修飾され、そのため、サンプル保
存及び調製の間の人為的変化に晒される。活性化又は阻害的入力に対する細胞応答は、リ
ン酸化状態の定常状態測定に比べてより有益である可能性が高い。多くの抗癌剤がそれら
の分子標的への可逆的結合を示している。その結果、薬力学的観察は、単離された白血球
よりも全血サンプルの計測をしなければならない。結局、免疫系の発達とシグナル伝達の
特徴づけ、抗原特異的T細胞の応答、薬物スクリーニング、及び疾患の表現型のタイピン
グを含めた臨床現場へのリン酸-特異的(phospho-specific)フローサイトメトリーの存
在及び潜在的適用は、リン酸化がシグナル伝達タンパク質の活性状態の指標となる一過性
の、可逆的な事象であることを考慮に入れなければならない。
【0007】
よって、一般的な臨床適用に強く、且つ、好適な、そしてシグナル伝達タンパク質の活
性状態を示すリン酸化事象を捕らえることができるフローサイトメトリーによるシグナル
伝達計測のための生物学的サンプル調製ができる方法を開発する必要性が存在している。
本発明は、この必要性を満たし、その上、関連する利点も提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の概要)
本願発明は、細胞内タンパク質エピトープの保存、及びエピトープの一過性の活性状態
を捕らえる能力に基づくシグナル伝達経路の検出を可能にするタンパク質エピトープ計測
用の生物学的サンプルの調製方法に向けられる。本発明によって提供される方法は、シグ
ナル伝達分子のエピトープと他の細胞内タンパク質エピトープを活性な状態で保存するの
を保証するために、赤血球を含めた生物学的サンプルの迅速な固定を可能にする。更に、
本発明の方法は赤血球の溶解を可能にし、それにより、当該方法を、生物学的サンプル、
例えば全血、骨髄吸引物、腹水、及びその他の赤血球を含むサンプルのサイトメトリー解
析に有用な方法にする。本発明は、サンプルを固定するのに必要な架橋固定剤が接近でき
ないようにした細胞内抗原上のエピトープを回復するか、又は「アンマスク」する方法も
また提供する。重要なことには、本発明の方法は、疾患に特異的な特徴を究明するために
患者から直接採取された生物学的サンプル中のリン酸-エピトープ・レベルの保存及び分
析を可能にする。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
検出のための細胞内タンパク質エピトープの維持を可能にする、タンパク質エピトープ計測用の赤血球含有生物学的サンプルの調製方法であって、以下のステップ:
(a)上記サンプルを固定剤と接触させることを含む固定ステップであって、当該固定剤を、タンパク質、脂質、及び核酸分子の架橋に十分な終濃度を達成するような量で加える上記ステップ;
(b)上記サンプルへのディタージェントの添加を含むディタージェントステップであって、当該ディタージェントを、上記赤血球細胞の溶解、及び白血球細胞の透過化に十分な終濃度を達成するような量で加える上記ステップ;及び
(c)標識ステップであって、上記サンプルを1つ以上のエピトープに特異的な検出可能な結合因子と接触させる上記ステップ、
を含む前記調製方法。
(項目2)
細胞表面エピトープの反応性を低下させることなく前記細胞内エピトープをアンマスクするのに十分な終濃度を達成するような量のアルコールと前記サンプルとを接触させることを含むアルコール・ステップを更に含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記アルコール濃度が約25%〜約75%である、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記アルコール濃度が約40%〜約60%である、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記アルコールが、エタノール及びメタノールから成る群から選択される、項目2に記載の方法。
(項目6)
前記アルコールがメタノールである、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記ステップ(a)及び(b)が室温で実施される、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記ステップ(a)及び(b)が37℃で実施される、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記サンプルを、前記細胞内エピトープの接近可能性を低下させることなく氷点下の温度で保存できる、項目2に記載の方法。
(項目10)
前記の温度が約−20℃である、項目9に記載の方法。
(項目11)
T-リンパ球の酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)活性化から成る初期ステップを更に含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記細胞内エピトープがリン酸化エピトープを含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記細胞内タンパク質がシグナル伝達経路に関与する、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記検出がサイトメトリーによって達成される、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記サイトメトリーがフローサイトメトリーである、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記サイトメトリーがレーザー走査サイトメトリーである、項目14に記載の方法。
(項目17)
前記サイトメトリーがイメージ・サイトメトリーである、項目14に記載の方法。
(項目18)
ステップ(a)に続いてステップ(b)の前に前記サンプルのインキュベーションを含む第1インキュベーション・ステップを更に含む、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記第1インキュベーション・ステップが、約30秒〜約1時間にわたる時間である、請項18に記載の方法。
(項目20)
ステップ(b)に続いてステップ(c)の前に前記サンプルのインキュベーションを含む第2インキュベーション・ステップを更に含む、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記第2インキュベーション・ステップが、約30秒〜約1時間にわたる時間である、請項1に記載の方法。
(項目22)
前記時間が約10分である、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記固定剤濃度が、約0.1%〜約20%である、項目1に記載の方法。
(項目24)
前記固定剤濃度が、約2%〜約4%である、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記固定剤がホルムアルデヒドである、項目1に記載の方法。
(項目26)
前記ディタージェント濃度が、約0.1%〜約8%である、項目1に記載の方法。
(項目27)
前記ディタージェント濃度が、約0.1%〜約1%である、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記ディタージェントがイオン性ディタージェントである、項目1に記載の方法。
(項目29)
前記イオン性ディタージェントが、Triton X-100、Nonidet P-40(NP-40)、及びBrij-58から成る群から選択される、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記ディタージェントがTriton X-100である、項目29に記載の方法。
(項目31)
ステップ(b)に続いてステップ(c)の前に前記サンプルの遠心分離を含む第1遠心分離ステップを更に含む、項目1に記載の方法。
(項目32)
ステップ(e)に続いて前記サンプルの遠心分離を含む追加的な遠心分離ステップを更に含む、項目1に記載の方法。
(項目33)
前記生物学的サンプルが、血液、骨髄吸引物、及び腹水から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
(項目34)
前記生物学的サンプルが未希釈の末梢血液を含む、項目33に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】フローサイトメトリーによって計測された全血サンプルからの光散乱測定を使用したWBC集団についてのフィッシャー・ディスタンスを計算するのに使用される技術に関する説明図を提供する。
【図2】全血活性化直後の固定なし(上のパネル)、又はあり(下のパネル)での低浸透圧性溶解の影響を示している。修正法A(下のパネル)において、サンプルは、RBCsの低浸透圧性溶解直後に固定された。両方の方法とも、リン酸-ERKに関して類似したシグナル対ノイズ(S/N)を示している。即時型の固定方法は、一般に、光散乱集団のより良好な分解能を提供するが、しかし低率のCD3陽性のT細胞しか提供しない。
【図3】全血の光散乱計測に対する異なるディタージェントの影響を示している。データを示したTritonX-100で処理された全血サンプルは、他の2つのディタージェントを代表するものである。
【図4】方法A(低浸透圧性溶解技術)(上のパネル)と対比して、2%のホルムアルデヒド固定とそれに続く0.1%のTriton X-100(下のパネル)を使用して調製した全血サンプルの結果の比較を示す。ここに示された典型的な結果は、光散乱によるWBC集団の不十分な分解能、CD3染色の低い強度、ところが方法Aから見て高いP-ERKに関するS/Nを実証した。両方法の類似した抗チューブリン染色強度は、両方法についての細胞内区画への類似した接近可能性を示している。
【図5】光散乱計測、CD3発現、及びP-ERK染色強度に対する異なった変性剤(列)、及び異なったディタージェント(TX-100、右のパネル;Brij-58、中央のパネル;NP-40、左のパネル)の効果を示している。
【図6】光散乱計測、CD3発現、及びP-ERK染色強度に対する様々な濃度のホルムアルデヒド固定剤、及びインキュベーション温度の影響を示している。
【図7】光散乱計測、CD3発現、及びP-ERK染色強度に対する様々な濃度のTriton X-100(0.1%〜1.0%、上のパネルから下のパネルへ)の影響を示している。
【図8】光散乱計測、及びCD3発現に対する、「アンマスキング」のために使用した様々なアルコール濃度(メタノール又はエタノール)の効果を示している。対を成すサンプルは、CD3染色前に各アルコール濃度にて15分間インキューベート、又は4℃で一晩保持した。
【図9】光散乱計測、CD3発現、及びP-ERKレベルに対する全血溶解(上の列)、方法B(中央の列)、又は方法B’(下の列)の影響を示す、様々な細胞調製法の効果の比較を示している。
【図10−1】3種類の異なる技術(Q-Prep(商標)、方法B、又は方法B’)によって調製した全血サンプルのフローサイトメトリーによる光散乱計測によって測定される様々なWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)の総バイアス・プロットを示している。3種類の異なる技術についての値は、各サンプルにおいてLH-750(商標)を使用することで得られる白血球分画(differentialcounts)と比較した。
【図10−2】3種類の異なる技術(Q-Prep(商標)、方法B、又は方法B’)によって調製した全血サンプルのフローサイトメトリーによる光散乱計測によって測定される様々なWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)の総バイアス・プロットを示している。3種類の異なる技術についての値は、各サンプルにおいてLH-750(商標)を使用することで得られる白血球分画(differentialcounts)と比較した。
【図11−1】3つの異なる技術(Q-prep、方法B(「省略」)、又は方法B’(「完全」))で調製した全血サンプルの異なるWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)についてのMFI(蛍光強度を意味する)の計測に基づく総バイアスの推定値を示している。概算の許容限界が、使用した6つの異なるCDマーカーの各々に関してWBC集団を数えるための2つの方法の間の平均値に対してプロットされている。
【図11−2】3つの異なる技術(Q-prep、方法B(「省略」)、又は方法B’(「完全」))で調製した全血サンプルの異なるWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)についてのMFI(蛍光強度を意味する)の計測に基づく総バイアスの推定値を示している。概算の許容限界が、使用した6つの異なるCDマーカーの各々に関してWBC集団を数えるための2つの方法の間の平均値に対してプロットされている。
【図11−3】3つの異なる技術(Q-prep、方法B(「省略」)、又は方法B’(「完全」))で調製した全血サンプルの異なるWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)についてのMFI(蛍光強度を意味する)の計測に基づく総バイアスの推定値を示している。概算の許容限界が、使用した6つの異なるCDマーカーの各々に関してWBC集団を数えるための2つの方法の間の平均値に対してプロットされている。
【図11−4】3つの異なる技術(Q-prep、方法B(「省略」)、又は方法B’(「完全」))で調製した全血サンプルの異なるWBC集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)についてのMFI(蛍光強度を意味する)の計測に基づく総バイアスの推定値を示している。概算の許容限界が、使用した6つの異なるCDマーカーの各々に関してWBC集団を数えるための2つの方法の間の平均値に対してプロットされている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
本願発明は、細胞内タンパク質エピトープの保存、及びエピトープの一過性の活性状態
を捕らえる能力に基づくシグナル伝達経路の検出を可能にするタンパク質エピトープ計測
用の生物学的サンプルの調製方法に向けられる。本発明によって提供される方法は、シグ
ナル伝達分子のエピトープと他の細胞内タンパク質エピトープを活性な状態で保存するの
を保証するために、赤血球を含めた生物学的サンプルの迅速な固定を可能にする。更に、
本発明の方法は赤血球の溶解を可能にし、それにより、当該方法を、生物学的サンプル、
例えば全血、骨髄吸引物、腹水、及びその他の赤血球を含むサンプルのサイトメトリー解
析に有用な方法にする。本発明は、サンプルを固定するのに必要な架橋固定剤が接近でき
ないようにした細胞内抗原上のエピトープを回復するか、又は「アンマスク」する方法も
また提供する。重要なことには、本発明の方法は、疾患に特異的な特徴を究明するために
患者から直接採取された生物学的サンプル中のリン酸-エピトープ・レベルの保存及び分
析を可能にする。
【0011】
本発明によって提供される方法は、1つには、サイトメトリー解析を使用したシグナル
伝達経路の研究への全血サンプルの使用が赤血球をその後の溶解の影響を受けなくするこ
となしに細胞エピトープの活性な状態の保存を実現する初期固定ステップによって達成さ
れ得るという発見に基づいている。この発見は、固定前に密度勾配分離又は溶解によって
サンプルから赤血球を取り除くため固定を遅らせる処理時間のためシグナル伝達エピトー
プの脱リン酸化を引き起こすことがある従来の方法において直面する問題を克服する。対
照的に、本発明の方法は、固定を遅らせる時間がかかる分離又は溶解ステップの排除を可
能にする、赤血球を含む生物学的サンプルの迅速な固定方法を提供することによって、使
用者が活性状態でタンパク質エピトープを捕え、そして計測することを可能にする。
【0012】
特定の態様において、本発明は、初期段階として迅速に細胞を固定し、光散乱計測を持
続し、特定の血液学的細胞集団を同定するのに使用される主要な細胞表面エピトープを維
持し、且つ、最適のリン酸-エピトープ計測を提供する、全血固定方法、透過処理方法、
及び赤血球溶解方法を提供する。
【0013】
本発明の方法は、サイトメトリーによる細胞エピトープ測定用の生物学的サンプルを調
製することを目的とする。サイトメトリーの利点は、例えばT細胞についてはCD3、B細胞
についてはCD19といったそれらの表面染色特性に基づく細胞型を識別する能力である。本
発明の方法が検出のための細胞内エピトープの保存を可能にする一方で、細胞型の識別に
必要な表面エピトープ認識を維持するという重要な目標もまた本発明の方法を通じて達成
できる。よって、本明細書中に記載の方法は、使用者がサイトメトリーによる検出のため
の表面及び細胞内エピトープの両方の物理的な保全を可能にする。
【0014】
本発明によって提供される方法は、更に部分的に、特定の標的エピトープ、例えばp-ER
K、p-STAT1、p-STAT5を含めたリン酸-特異的エピトープの検出がアルコール・ステップに
より最適化されることができるという発見に基づいている。
【0015】
1つの態様において、本発明は、その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを
維持する、タンパク質エピトープの測定のための赤血球含有生物学的サンプルを調製する
方法を提供する。その方法は、サンプルを、タンパク質、脂質、及び核酸分子を架橋する
のに十分な終濃度を達成する量の固定剤と接触させることを含めた固定ステップ;赤血球
を溶解し、且つ、白血球を透過化するのに十分な終濃度を達成する量でのディタージェン
トの生物学的サンプルへの添加を含めたディタージェントステップ;そしてサンプルを1
つ以上のエピトープに特異的な検出可能な結合因子と接触させる標識ステップを含む。
【0016】
1つの態様において、本発明は、その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを
維持する、タンパク質エピトープの測定のための赤血球含有生物学的サンプルを調製する
方法を提供する。その方法は、サンプルを、タンパク質、脂質、及び核酸分子を架橋する
のに十分な終濃度を達成する量の固定剤と接触させることを含めた固定ステップを含む。
固定剤の濃度は、約0.1%〜約20%、約0.5%〜約15%;約1%〜約10%、約1%〜約8%、約1%〜約4
%、約1%〜約2%であることができる。固定剤を、所望の濃度を達成するために濃縮溶液、
又は希釈された形態のいずれかで加えることができる。例えば、固定剤は、使用者によっ
て所望されるあらゆる適切な作用物質、例えばホルムアルデヒド若しくはパラホルム、又
はホルマリンであるかもしれない。
【0017】
その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持する、タンパク質エピトープ
の測定のための赤血球含有生物学的サンプルを調製する本発明の方法は、ディタージェン
トが、赤血球細胞を溶解し、且つ、白血球細胞を透過化するのに十分な終濃度を達成する
ための量で添加されるディタージェントステップを更に含む。ディタージェントの濃度は
、様々な条件に基づいて使用者によって選択されることができ、そして約0.1%〜約8%;約
0.1%〜約7%;約0.1%〜約6%;約0.1%〜約5%;約0.1%〜約4%;約0.1%〜約3%;約0.1%〜約2%
;約0.1%〜約1%の範囲におよぶかもしれない。
【0018】
ディタージェントは、様々な要因に基づいて選択でき、そしてイオン性又は非イオン性
ディタージェントであるかもしれない。ディタージェントは、好ましくは、非イオン性デ
ィタージェントの中から選択される。1つの、現在のところ好ましいディタージェントは
、エトキシル化オクチルフェノールであり、商品名のTriton X-100(Sigma T9284)で呼
ばれる。好ましい態様において、前記方法はTriton X-100を用いて実施される。本発明の
方法に好適なディタージェントは、細胞を透過性にし、且つ、表面エピトープを保持する
ことができる。Brij-58、本発明において有用なイオン性ディタージェントは、Igepal(
登録商標)CA-630(SigmaN-6507)又はNonidet P-40(NP-40)(Sigma)として市販のオ
クチルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール、及びPlurafac(登録商標)A-38(
BASF Corp)又はPlurafac(登録商標)A-39(BASFCorp)として市販の直鎖アルコール・
アルコキシラートを更に含む。
【0019】
混成細胞集団、例えば、未希釈の末梢血液、骨髄吸引物、及び腹水において、表面マー
カーによって細胞サブセットを識別し、そしてある手順で染色した細胞内リン酸-エピト
ープを検出することは、有用であるかもしれない。その後の検出のために細胞内タンパク
質エピトープを維持する、タンパク質エピトープの測定のための赤血球含有生物学的サン
プルを調製するための本発明によって提供される方法は、細胞内エピトープの検出を細胞
表面エピトープの検出と組み合わせるのに使用されやすい。本発明によって提供される方
法において、細胞内エピトープ及び細胞外エピトープの両方が、サイトメトリー解析によ
るその後の測定を可能にするような元の状態を維持することができる。例えば、CD4、CD3
、CD62L、及びCD8を含めた典型的なT細胞マーカーの表面検出を、細胞内エピトープ検出
と組み合わせることができる。
【0020】
更なる態様において、本発明の方法は、生物学的サンプルを、固定ステップ中の架橋に
より失われた細胞エピトープをアンマスキングするのに十分な終濃度を達成する量のアル
コールと接触させることを含めた更なるアルコール・ステップを含む。本明細書中に説明
したように、アルコール・ステップは、細胞外エピトープの大部分を維持でき、そして維
持すべきエピトープに依存してインキュベーションの長さ、温度、及び濃度が使用者によ
って調整されてもよい。
【0021】
多パラメーター・サイトメトリー解析にかかわる臨床的適用に関して、例えば、CD3、C
D35、HLA DR、CD4、HLADP、HLA DQ、CD5、CD10、CD11a、CD29、CD32、CD36、CD38、CD40
、CD45、CD49、CD54、CD55、CD56、CD58、CD59、CD71、CD83、CD85i(ILT2)、CD85j(IL
T3)、CD85f(ILT-4)、CD86、CD87、CD99、CD103、CD116、CD126、CD135、CD206、CD208
(DC-LAMP)、b2-ミクログロブリン、cBcl2、CCR5、CXCR4、HLAABC、L25、MPO、CD3、CD
79、及び表面CD2、CD4、CD8、CD11b、CD13、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD21、CD23
、CD24、CD25、CD28、CD33、CD34、CD35、CD41、CD42b、CD61、CD62L、CD64、CD65、CD66
b、CD69、CD72、CD94、CD106、CD122、CD138、CD154、CD158a、CD161、NKbI、並びに使用
者の目的に基づいて選択される可能性のある当該技術分野で知られている他のものを含む
かもしれない特定の生物学的マーカーに関連する細胞外エピトープのサブセットの検出の
ために、アンマスクし、そして維持することが望ましいことは、当該技術分野で理解され
る。
【0022】
当業者は、例えばインキュベーション時間、温度、及びアンマスキング及び計測の標的
となる特定のエピトープを含めた他の変数に基づく最終的なアルコール濃度を選択できる
。最終的なアルコール濃度は、約25%〜約75%、約30%〜約70%、約35%〜約65%、約40%〜約6
0%、約45%〜約55%であるかもしれない。アルコールは、エタノール及びメタノールから成
る群から更に選択され得る。所望であれば、アセトンが、アルコール・ステップにおける
アルコールと置き換わってもよい。サンプルを、例えば、約−30℃、約−20℃、約−10℃
、約−5℃、約0℃、約4℃、約6℃、約8℃の温度、あるいは細胞表面エピトープの反応性
を下げることなく細胞内エピトープのアンマスキングを容易にするいずれか他の温度にて
アルコール又はアセトンと接触させることができる。
【0023】
所望であれば、本発明の方法によって調製された生物学的サンプルは、アルコール・ス
テップの後に氷点下にて、例えば約−40℃、約−30℃、約−20℃、約−10℃、約−5℃の
温度にて保存され、そして最長で2カ月間、接近可能性を低下させず、又は細胞内エピト
ープの活性な状態を変化させずに、細胞外エピトープの光散乱特性と完全性を維持できる
。シグナルの損失率が、例えば残留する水分及び標的エピトープの割合を含めた様々な要
因に関連することが理解されている。好ましい態様において、サンプルは、約−20℃にて
2日間以上、3日間以上、5日間以上、10日間以上、12日間以上、14日間以上、16日間以上
、20日間以上、30日間以上、40日間以上、50日間以上、60日間以上の保存されることがで
きる。アルコール中のリン酸-エピトープの安定性は、当該技術分野で知られている様々
な要因、例えばサンプル中に残留する水及び標的エピトープの割合に基づいて変化する可
能性がある。よって、本発明の方法は、アルコール中のリン酸-エピトープの安定性を提
供し、そして分析前に最長で2〜3週間以上までの数日間、生物学的サンプルの長期保存を
可能にする。
【0024】
本発明の様々な態様において、赤血球含有生物学的サンプルは、例えばウイルス粒子、
免疫グロブリン、エストロゲン受容体、サイトカイン、及び特定の細胞内タンパク質を含
むことができるエピトープの測定のために調製される。長期実験において静的タンパク質
分子の染色が刺激に対する細胞応答への洞察を提供できることが理解される。本発明の方
法は、細胞内シグナル伝達事象又は互いのシグナル伝達事象に伴う細胞外マーカーの相関
が、1つの細胞において同時に事象を観察することなく気付くことが不可能な免疫細胞の
役割及びシグナル伝達の複雑さへの洞察を形成できるという効果がある。
【0025】
細胞内のリン酸-エピトープに関して本明細書中に例示されているが、本発明の方法は
、例えばユビキチン化、グリコシル化、メチル化、アセチル化、パルミトイル化、又はタ
ンパク質−タンパク質相互作用を含めた他の翻訳後修飾を計測することを目的とした生物
学的サンプルの調製についても同様に適用できる。よって、本発明は細胞の中の様々なタ
ンパク質の非リン酸-エピトープの検出を可能にし、当該方法の有用性を更に広げる。標
識された結合因子は、研究される特定の細胞事象に基づいて使用者によって選択されるこ
とができる。本発明によって提供される方法は、これまで利用できなかった詳細な経時変
化及び経路特異的な様式における経路の試験を可能にする。フローサイトメトリー解析の
ために多様な細胞内エピトープを選択できるが、使用者は、例えば局在性、立体構造/構
造、抗体による接近可能性、及びエピトープの安定性を含めた要素を考慮に入れることに
よって問題の特定のエピトープのために本明細書中に提供されている方法を最適化し、そ
して調整できることが理解される。本明細書中に提供された方法は、一般に、多色、多パ
ラメーターのサイトメトリーによる分析に適切である。
【0026】
リン酸化はシグナル伝達タンパク質の活性な状態を示す一過性の、可逆的な事象である
。そのため、フローサイトメトリーによるタンパク質のリン酸化の状態を計測することに
よって、当業者は、特定の刺激、例えばサイトカイン又は成長因子、シグナル伝達の動態
学、及び転写される下流の標的に対する応答にシグナル伝達カスケードが使用されること
を断定できる。更に、患部細胞を健康なサンプルと比較すると、異常なシグナル伝達事象
、癌の表現型タイピングに有用な特性、及び免疫異常を容易に同定できる。よって、診断
の場において、本発明の方法は、例えばリン酸-タンパク質状態に基づく病理学的ヒト・
サンプルの診断的フローサイトメトリー・アッセイのための生物学的サンプルを調製する
のに使用できる。さらなる適用において、本発明の方法は、キナーゼ・シグナル伝達カス
ケードの新規阻害剤及びアクチベーターを発見するための分子ライブラリに対する初代細
胞集団のスクリーニングのための生物学的サンプルを調製するのに使用できる。
【0027】
その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持すると同時に、タンパク質エ
ピトープ測定用の赤血球含有生物学的サンプルを調製するための本発明の方法は、例えば
、発達するT、B、又は他の系統特異的細胞のリン酸-サイン(phospho-signatures)を観
察して、細胞内活性を細胞分化の段階と相関させることによる免疫細胞の発達;急性又は
慢性の感染下の応答についてリンパ球サブセットを観察する可能性をもったウイルス性及
び/又は細菌感染症において抗原特異的T細胞を研究するために細胞内シグナル伝達の評
価と四量体染色を組み合わせることを含めた免疫系疾患病態の特性分析;疾患徴候とリン
酸-サインとの関連付けるためのマウス疾患モデル又は患者におけるリンパ球集団、例え
ば血液感染性白血病、又は自己免疫疾患、例えば関節リウマチの観察;従来の生化学的技
術によって分析できない樹枝状細胞、未処置細胞、及びメモリー・エフェクター細胞、幹
細胞を含めた希少な細胞集団の生化学的サイン;細胞機能を理解するための細胞のシグナ
ル伝達ネットワークの多次元的評価;異種シグナル伝達カスケードの間のシグナル伝達の
閾値と連絡の検証;変性した機能及び細胞内シグナル伝達に関するウイルス感染細胞の観
察;並びにサイトカイン及び細胞外刺激に対する免疫細胞応答パターンの特徴づけを含む
免疫系の特徴づけを対象とした適用に更に有用である。
【0028】
その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持すると同時に、タンパク質エ
ピトープ測定用の赤血球含有生物学的サンプルを調製するための本発明の方法は、例えば
、標的キナーゼの特異的な阻害剤/モジュレーターの迅速な同定のための細胞内キナーゼ
のスクリーン;サブセットに特異的な有効性と副作用を測定するための初代細胞における
薬物スクリーニング;同時に多数の細胞内経路を分析することによる化合物特異性の標的
バリデーション;着目の細胞集団に対する薬物処置中のそれらの効果について特定の化合
物を観察することによる臨床試験;追加の臨床的パラメーターと細胞内の生化学的相違を
相関させることによる疾病の進行に関する診断指標としてのキナーゼのリン酸-エピトー
プの同定;並びに細胞レベルで有効性を観察するためのワクチン接種プロトコール中のリ
ン酸-エピトープ分析を含む薬力学的観察及び薬物スクリーニングを対象とした適用にお
いて更に有用である。
【0029】
先に説明したように、本発明の方法は、薬力学的特性分析ための生物学的サンプルを調
製するのに有用性がある。例えば、リン酸に特異的なフローサイトメトリーを、それらの
シグナル伝達状態及び特定の化合物に対する応答を介した病態の特性分析に使用できる。
疾患の進行に対するリン酸-エピトープ・サインの相関を、疾患の初期又は末期にある個
々の患者に合わせた療法の開発に使用できる。例えば、FIt-3、PDGF-R、EGF-R、及びHER2
を含めた様々なチロシンキナーゼ受容体は、白血病及び乳癌の疾病の重症度及び予後に相
関しているので、薬物療法の標的である(Drevsら、Curr Drug Targets 4:113-21ページ
、2003年;Fjallskogら、ClinCancer Res 9:1469-73ページ、2003年)。いくつかの細
胞内の分子、例えばTashiroら、CancerRes 63:424-31ページ、2003年、及びKmetら、Ca
ncer 97:389-404ページ、2003年によって説明されたp53及びサイクリン・タンパク質は
、活発に分裂する癌の指標であることも当該技術分野で知られている。cDNAマイクロアレ
イ及びタンパク質アレイが多数の分子に関する情報を提供する一方で、これらのアッセイ
は活性状態に関する情報を提供しない。低濃度で存在するタンパク質は、それらが構成的
に活性である、リン酸に特異的な分析によってのみ特徴づけされ得る特性である場合、疾
病の進行において大きな役割を担っている可能性がある。よって、検出のための細胞内タ
ンパク質エピトープを保つ赤血球含有生物学的サンプルの調製のために本発明によって提
供される方法は、特定の病態におけるタンパク質のレベルとそれらの活性を相関させる能
力を使用者に与える。
【0030】
本明細書中に説明したように、本発明によって提供される方法は、例えば、腫瘤の検出
、生検、及びサイトメトリー解析のために赤血球含有生物学的サンプルを調製する能力に
基づいた組織由来のサンプルの分析を含めた様々な臨床現場における有用性を有する。使
用者が異常なシグナル伝達の特性分析、それに続いて臨床試験前と臨床試験中に療法の有
効性及び特異性を分析するのを可能にすることによって、その方法は癌及び免疫系疾患の
研究及び療法における有用性を拡大する。発症されていて、より多くのリン酸-エピトー
プ特異的抗体が発生され、そしてフローサイトメトリーのための正当性を立証される場合
、生物学的サンプルは、医薬品開発のための可能性のあるリード物質を見つけるためにス
クリーニングされ、そして特定の疾患の原因を更に調査されるかもしれない。希釈されて
いない末梢血液を含む赤血含有生物学的サンプルに対するそれらの適用性に基づいて、本
発明の方法は、疾患特異的な特徴を決定するために患者から直接採取した生物学的サンプ
ル中のリン酸-エピトープ・レベルの維持と分析を可能にする。
【0031】
本発明によって提供される方法は、例えば、慢性骨髄性白血病(CML)における分子標
的療法に対する個々の患者の応答性の観察;臨床的に明らかになる前にCML患者で一般的
に見られる薬効の損失を予測するための、薬物のインビトロでの活性のマーカーとして全
血又は骨髄にサンプル中のSTAT5のリン酸化を抑制するGleevec(商標)の能力の観察;ST
AT、MAPK、及びPKB/AKTを含めた下流経路の観察による、AML(急性骨髄性白血病)におけ
るFlt-3阻害剤の観察;MARK、PI3K、STAT、及びWnt経路の観察による、多発性骨髄腫(MM
)における新規に開発された分子標的阻害剤の観察を含む臨床現場においてもまた有用性
を有する。
【0032】
本発明によって提供される方法は、特定のタイプの腫瘍に対する多剤併用療法の効果を
観察する際にも有用性を有する。例えば、ほとんどのCML患者が結局Gleevec(商標)を用
いた単剤療法に失敗することが知られているので、ほとんどの施設が複合療法を必要とし
ている。本明細書中に提供された方法は、インビボにおける潜在的有効性を持つ組み合わ
せを選択するのに役立つように、下流のシグナル伝達経路、例えばMAPK、STATs、アポト
ーシスの観察によって他の作用物質、例えばフラボピリドール又はシタラビンと組み合わ
せたGleevec(商標)のインビトロにおける効果を観察するために使用できる。本明細書
中に提供された方法は、AML及びMMの患者のそれぞれのシグナル伝達経路を研究するのに
使用できる。この態様において、血液又は骨髄サンプルを、特定の経路の刺激、及び/又
は阻害剤、例えばAMLに関してはFlt-3リガンド、PMA、及びSteele因子+/-UO-126(MAPK阻
害剤)、ラパマイシン(mTOR阻害剤)で処理して、その後、細胞表面マーカーと共に複数
の経路でのリン酸化(活性化)された重要タンパク質のベースライン、誘導レベル、及び
生息可能レベルを計測することができる。
【0033】
本明細書中に説明したとおり、好ましい態様において、本発明の方法は、例えばERK、p
38、JNK、並びにシグナルトランスデューサー及び転写活性化因子3(STAT3)、STAT1、ST
AT5、STAT6、AKT/PKB、mTOR、S6キナーゼ、ヒストン・タンパク質(例えば、ヒストンH3
)、ATM、NFκB、GSK3などを含む検出のための細胞内のリン酸-エピトープの維持を可能
にするような、タンパク質エピトープ測定用の赤血球含有生物学的サンプルを調製するの
に使用できる。よって、本発明によって提供される方法は、シグナル伝達経路に関与する
細胞内リン酸-エピトープの維持を可能にする。赤血球含有生物学的サンプルを調製する
ための本発明によって提供される方法は、1つには、タンパク質のリン酸化状態を効果的
に「止める」急速な細胞固定ステップを通じて検出のための細胞内リン酸-エピトープの
維持を達成する。更に、溶解及び透過処理ステップは、単独のステップで組み合わされる
か、又は別々に実施されることができるものであって、検出可能な結合因子に関してそれ
らの同族エピトープへの接触を提供するが、上記エピトープは適切な変性されていない又
は変性された高次構造において浸透化された標的細胞内で維持されなければならない。シ
グナル伝達カスケードが、多くの場合、役割を実行するようにエフェクターを活性化する
下流エフェクター上のタンパク質のリン酸化によって駆動されることは、当該技術分野で
理解されている。よって、リン酸特異的な標識結合因子、例えば抗体は、活性タンパク質
を認識すること、及びシグナル発生事象の「オン-オフ」状態を識別するのに有用である
かもしれない。
【0034】
下流エフェクターを活性化する手段としてリン酸化を利用するカスケードが、当該技術
分野で周知である。多重シグナル伝達カスケードは、リガンド又は阻害剤の特異性を測定
するために、例えば異なったフルオロフォア標識の使用を通じて同時に測定されることが
でき、そして、例えば態様、マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ・カスケー
ド、ヤヌス・キナーゼ-シグナルトランスデューサー、及び転写(Jak-Stat)経路のアク
チベーターに含まれることができる。MAPキナーゼ、細胞外調節キナーゼ(ERK)、c-Jun
N末端キナーゼ(JNK)、及びp38は、(Thr及びTyr残基の)二重リン酸化され、次に、様
々な転写因子をリン酸化するために核内に移行する。STATタンパク質は、成長因子及びサ
イトカイン、例えばIFN-γ、IL-4、及びGM-CSKによって活性化される。Jaksによるリン酸
化によって、STATタンパク質は二量化し、そして核内に入り、そこで直接DNAに結合して
、転写を調節する。よって、その後の検出のために細胞内タンパク質エピトープを維持す
ると同時に、タンパク質エピトープの測定用の赤血球細胞含有生物学的サンプルを調製す
るための本発明の方法は、細胞刺激又は細胞ストレスの後に急速に起こる動的なシグナル
伝達事象を計測することを対象にした適用において有用である。
【0035】
マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ・カスケードにおいて、シグナル伝達
は、細胞表面で始まって、MAPキナーゼ・キナーゼ・キナーゼ(MEKK)からMAPキナーゼ・
キナーゼ(MAPK)へ、MAPキナーゼへ、そして最終的に転写因子に伝えられる。このカス
ケードの各メンバーは、上流のメンバーによるリン酸化によって活性化される。転写因子
のリン酸化は、多くの場合、DNA結合親和力を高めるか、又は二量体化及びDNA結合を引き
起こすようにそれらの高次構造を変更する。JAK-Statカスケードにおいて、サイトカイン
受容体の二量体化は、結局、二量化STATsが核内に入り、そして転写を活性化することと
なる、その次に二量体化ドメインにおいてSTATsをリン酸化するJAKsの活性化をもたらす
。リン酸化は、例えば受容体チロシンキナーゼによるチロシン・モチーフのリン酸化のよ
うに、結合して特定の細胞内位置に局在するように他のタンパク質の結合部位を提供する
こともできる。リン酸化事象は、通常、「陽性」の活性をもたらす一方で、リン酸化が酵
素活性を抑制するT細胞タンパク質Lckのように陰性の結果をもたらすこともあり、そして
それはLckのシグナル伝達を引き起こすホスファターゼによる脱リン酸化事象である。
【0036】
唯一リン酸化事象のみを計測するために、タンパク質のリン酸化形態に特異的な標識結
合パートナーが調達されるかもしれない。これは、通常、担体タンパク質と結合された乏
しいリン酸化ペプチド免疫原を使用することによって行われる。よって、同じシグナル伝
達タンパク質内の異なったリン酸残基に特異的な検出可能な結合因子が、本発明によって
提供される方法において利用される可能性があり、それに続く測定は特定のシグナル発生
事象に重要な残基に関する洞察を提供する。リン酸特異性は、静止細胞対刺激細胞を比較
し、分析前のホスファターゼでサンプルを処理し、リン酸化ペプチドに対して非リン酸化
ペプチドを競合させ、そして合計タンパク量に対してリン酸-タンパク質レベルを標準化
することによって確認できる。
【0037】
本発明によって提供される方法は、生物学的サンプルを1つ以上のエピトープに特異的
な検出可能な結合因子と接触させる標識ステップを含む。サイトメトリーによって生物学
的サンプル中に1つ以上のエピトープの存在を計測するために、結合因子は、1つ以上の標
的エピトープ、並びに抗体断片、例えば酵素的に作製された1価(fab)又は二価(F(ab'
2)の抗原結合フラグメントに特異的な抗体の状態に吸収、及び/又は親和精製されたか
、あるいは他の方法で濃縮されたモノクローナル抗体、ポリクローナル抗血清であるかも
しれない。加えて、結合因子は、抗体のような分子又は模倣物であってもよい。
【0038】
当該技術分野で一般的に染色ステップとも呼ばれる標識ステップにおいて、サンプルを
、飽和量の、エピトープを発現する細胞に結合する標識結合因子、好ましくはフルオロフ
ォア結合抗体と接触させる。その次に、エピトープを発現する細胞は、適切な波長のレー
ザー光によって励起された時にフルオロフォアによって発せられたサイン蛍光シグナルに
よって同定される。好ましいフルオロフォアは、フィコビリタンパク質B-フィコエリトリ
ン(B-PE)、R-フィコエリトリン(R-PE)、及びアロフィコシアニン(APC)を含み、そ
れらは、高感度又は同時の多色検出のいずれかを必要とする適用に好適である。所望であ
れば、2つの標識を含むタンデム型コンジュゲート、例えば、緑色蛍光検出試薬と組み合
わせたフィコエリトリン標識結合試薬が、計器レーザーのスペクトル線による同時励起を
使用して2つの異なるシグナルを検出するために使用できる。所望であれば、ホスファタ
ーゼ特異的捕捉デバイスとして、例えばα-ブロモベンジルホスホナート、並びにKumarら
、Prod.Natl. Acad. USA 101:7943-48ページ、(2004年)によって説明される可視化及
び精製のためのビオチン・タグを有する捕捉デバイスを接続するリンカーから成る活性基
準の標識が設計され、そして合成されるかもしれない。
【0039】
リン酸特異抗体は、本発明によって提供される方法を実施するのに好適な検出可能な結
合因子である1次標識抗体を作製するためにフルオロフォアに結合させてもよい。結合の
ためのフルオロフォア標識を選ぶ時、フルオロフォア標識の吸光度スペクトルは、血球計
算器で使用されるレーザー線に一致しなければならず、そして、その放出は検出フィルタ
・セットの範囲内に収まらなければならない。更に、標識は、細胞構造を通じて結合因子
、例えば、抗体の結合特性又は透過性に干渉することができない。PE又はAPCのような巨
大タンパク質フルオロフォアは、細胞内への抗体の移行を遅くし、そしてその結合特徴に
影響することが理解されている。小分子標識、例えば、FITC、Alexa488、及びAlexa647と
いったフルオロフォアは、フルオロフォア-対-タンパク質の比の適切な管理を提供した最
良の染色特徴を提供できる。フローサイトメトリーでのフルオロフォアの使用及び適用に
関する幅広い議論は、Petitら、Biol. Cell 78:1-13ページ、1993年;Mullins, Methods
MoI Biol34:107-16ページ(1994年);及びShapiro, Methods Cell Biol 63:107-29
ページ、2001年の中に見ることができる。
【0040】
フローサイトメトリー・デバイス及びプロトコールは、当該技術分野で周知であり、非
常に多くの刊行物に十分に記載されている。例えば、Flow Cytometry and Sorting、第2
版(1990年)M.R. Melamedら編、Wiley-Liss;Flow Cytometry and Cell Sorting、第2
版(2000年)A.Radbruch, Springer-Verlag;及びIn Living Color:Protocols in Flow
Cytometryand Cell Sorting(2000年)Diamond and Demaggio編、Springer-Verlagを参
照のこと。フローサイトメトリー方法は米国特許番号第5,968,738号及び同第5,804,387号
の中にも説明されており;上記文献の開示を本明細書中に援用する。
【0041】
よって、本発明は、サイトメトリー、例えば、フローサイトメトリー又はレーザー走査
サイトメトリーのために細胞内タンパク質エピトープの維持を可能にするタンパク質エピ
トープ測定用の赤血球含有生物学的サンプルを調製するための方法を提供する。サイトメ
トリーは、リン酸特異的、及びその他の非リン酸エピトープを分析するための非常に強力
な多重パラメーター方法であり、例えばウェスタンブロット法又はELISAといった方法に
よる分析を上回る様々な利点を持っている。精度及び半定量的結果を維持するために、サ
イトメトリーによる検出は、例えばウェスタンブロット法及びELISAsといった従来の方法
との比較によって妥当性を検証することができる。
【0042】
サイトメトリーは、あらゆる事前の細胞選別又は喪失なしに、T細胞対B細胞、罹患/癌
細胞対正常細胞、発生のある段階の細胞対別の段階の細胞の分析を可能にする。検出のた
めの細胞内エピトープを維持する様式での生物学的サンプルの調製を可能にすることによ
って、本発明の方法は細胞型間の迅速な比較を可能にする。いくつかのシグナル伝達カス
ケード又は1つの特定のカスケードのメンバーを、選ばれた検出可能な作用物質に基づい
て同時に分析できることが理解されている。多重エピトープの検出が目的とされる態様に
おいて、例えば2、4、6、8、又はそれ以上の異なる色の多色分析が可能であるフローサイ
トメーターを使用することができる。よって、前記方法は、それらのシグナル伝達の状態
に基づいて、又は刺激に対するそれらの反応を正常で健康な細胞と比較することによって
疾患の特性分析を可能にする。この点で、腫瘍性障害は、しばしば、過剰に発現されたか
、又は構成的に活性なシグナル伝達分子を特徴とする。本発明の方法は、フローサイトメ
トリーによる細胞ベースの薬物スクリーニングのための生物学的サンプルの調製のための
更なる適用可能性を持ち、薬物特異性を測定するためにいくつかのシグナル伝達カスケー
ドの同時観察を取り込むことができる。
【0043】
サイトメトリーによる検出は、使用者が混成集団内の細胞の希少なサブセットを分析す
ることを可能にする。異種集団中の希少な細胞サブセットの分析を可能にすることによっ
て、フローサイトメトリーは、特に多くの細胞型の存在下、インビトロにおけるそれらを
最もよくシミュレートする環境内のシグナル伝達事象を観察するために使用できる。本明
細書中に説明したように、本発明の方法は、その後の染色のためにほぼどの時点であって
もシグナル伝達事象を止める赤血球細胞含有生物学的サンプルの調製を可能にする。
【0044】
本発明の方法が、細胞内シグナル伝達事象を迅速に計測するために、例えば96ウェル・
プレートの様式で、多くのサンプルを用いて並行して実施されることは理解されている。
様々な態様において、生物学的サンプル、例えば未希釈の末梢血液、骨髄吸引物、又は腹
水を、様々なサイトカインで刺激し、そしていくつかの異なる細胞型、例えばT細胞、B細
胞、及びNK細胞におけるMAPキナーゼ、例えばERK、p38、及びJNKのリン酸化、又はSTAT転
写因子について計測することができる。よって、リン酸特異的なフローサイトメトリー法
によって、たった1つの特定のリンパ球サブセット、例えば、B細胞又はT細胞のみを、他
の亜集団によって示されなかった刺激に対する応答に基づいて標的化することができる。
サンプル内に存在する細胞亜集団を見分けて、そして細胞型を検出する能力は、集団全体
の状況で見られる場合に、小さく見え、且つ、検出されないかもしれない変化を個別には
っきりさせることができる。
【0045】
本発明によって提供される方法は、例えば、固定ステップとディタージェントステップ
の間、並びにディタージェントステップとそれに続く標識ステップの間に1以上のインキ
ュベーション・ステップを組み込んでもよい。生物学的サンプルと固定剤との接触に続く
約30秒間〜約1時間におよぶ時間のインキュベーション・ステップが想定される。第2イン
キュベーション・ステップが、サンプルとディタージェントの接触に続き、且つ、標識ス
テップに先行し、そして約30秒間〜約1時間におよぶ時間続く。現在の好ましい態様にお
いて、第2インキュベーション・ステップの時間は約10分である。
【0046】
本発明の方法は、1以上の遠心分離ステップを更に組み込むことができる。本明細書中
に例示されるように、ディタージェントの除去を目的とした最初の遠心分離ステップは、
標識ステップの前に実施されるかもしれない。更に、更なる遠心分離ステップが、アルコ
ールを取り除くためにアルコール・ステップの後に実施されるかもしれない。洗浄ステッ
プ、及び適切なバッファー、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中への再懸濁が、使
用者によって望まれる様々なステップにて実施できることは理解されている。
【0047】
本明細書中に説明したように、本発明は、赤血球の除去(溶解)及び標的白血球細胞の
透過処理の前に固定剤の添加を含む方法を提供する。その結果、本発明によって提供され
る方法は、標識された結合因子、例えば抗体、その断片、又は抗体様分子による細胞内又
は核内区画への接近を可能にする。更に、本発明は、固定によって接近できないようにな
ったタンパク質エピトープを「アンマスク」する手段を提供する本明細書中に説明したア
ルコール・ステップであって、重要なシグナル伝達タンパク質、例えばERK1、2のリン酸
化の検出に必要であることが示されたステップを含む方法の態様を提供する。
【0048】
値域が提供される場合には、それぞれの介在値、別段の明確に指示する文脈がない限り
下限値の10分の1の単位まで、その範囲の上限値と下限値の間、及び規定された範囲内の
いずれか他の規定値又は介在値が、本発明の範囲内に含まれることは理解されている。こ
れらのより細かい範囲の上限値及び下限値は、独立に、より細かい範囲内に含まれること
ができ、且つ、規定された範囲内のあらゆる特定の排除限度を前提として、本発明の範囲
内に含まれる。規定された範囲が一方又は両方の限度を含む場合には、限度に含まれたそ
れらのいずれか又は両方を除く範囲が同様に本発明に含まれる。
【0049】
別段の規定のない限り、本明細書中に使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発
明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中
では、別段の明確に指示する文脈がない限り、単数形「a」、「and」、及び「the」は複
数の指示対象を含む。
【0050】
本願発明の様々な態様の活性に実質的に影響しない修飾もまた本明細書中に提供された
発明の規定の範囲内に含まれることは理解される。従って、以下の実施例は、本発明を例
証することを目的としているが、制限することはない。
【実施例】
【0051】
実施例I
(全血サンプルの赤血球溶解、固定、及び透過処理)
この実施例は、低浸透圧性溶解とそれに続く固定と、固定後のディタージェント溶解に
よる全血サンプルの調製を説明し、そして比較する。
【0052】
つまり、酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA、Sigma Chemical Corp., St. Louis, MO)
を、100%の無水エタノール中、40Mの使用溶液として調製し、そして、400nMの終濃度にて
全血に使用した。実施例で使用されるTriton X-100及び他のディタージェントを、Pierce
Biotechnology(Rockford,IL)からSurfact-Pak(商標)ディタージェント詰め合わせ
キットとして購入した。前記詰め合わせキットは、7種類の異なる非イオン性ディタージ
ェント(Tween-20、Tween-80、TritonX-100、Triton X-114、Nonidet P-40、Brij-35、
及びBrij-58、全て水中に10%溶液として提供した)、並びに3種類の粉剤(非イオン性オ
クチル-B-グルコシド、オクチル-B-チオグルコピラノシド、及び両性イオン性CHAPS)を
含む。粉状ディタージェントを、PBS(Ca++及びmg++不含)中に溶解させて、10%の溶液を
作製した。全てのディタージェントを、PBS中に使用直前に希釈した。
【0053】
リン酸特異的エピトープの細胞内染色について、(メタノール処理の有無にかかわらず
)固定及び浸透化された細胞を、冷たい洗浄バッファーで1回洗浄し、そして遠心分離し
た。その細胞ペレットに、洗浄バッファーで希釈した抗体(単独又は複数の抗体)を、10
0μl中の所定の終量まで加え、そして40℃で15〜30分間インキューベートした。リン酸-E
RK1/2(Thr 202/Tyr204、クローンE10)に対するモノクローナル抗体を使用し(Cell Si
gnalingTechnologies, Beverly, MA)、製造業者の指示に従ってAlexa Fluor(商標)48
8(MolecularProbes, Eugene, OR)と結合させた。複合リン酸-ERK1/2は、4.3〜6.3のタ
ンパク質対色素比を有し、そして事前の抗体力価実験によって決定した最適の抗体濃度(
100μl中、106細胞あたり0.2μgの複合リン酸-ERK1/2)にて使用した。抗チューブリン(
FITCコンジュゲート、クローンTB1A337.7)をBeckmanCoulter, Inc.から調達し、100μl
中、106細胞あたり0.5μgの濃度にて使用した。抗体染色後に、サンプルを、2mlの洗浄バ
ッファー中に再懸濁し、35μmのナイロンメッシュ(小部品、PA某所)を通して濾過し、
遠心分離し、そして150〜300μlの洗浄バッファー中に再懸濁した後にBeckmanCoulter E
pics(登録商標)Elite(商標)フローサイトメーターを使用して分析した。
【0054】
細胞表面及び細胞内染色のために、全血サンプル(100μl)を、50%の冷メタノール処
理を伴う又は伴わない、製造業者指示に従ったQ-Prep(商標)処理(Beckman Coulter, I
nc., Miami, FL)、あるいは方法Bの後に選択したモノクローナル抗体で染色するための
加工をした。(方法B又はB'を使った細胞サンプル調製後に加えた)モノクローナル抗CD
抗体は、CD45(クローンJ.33)、CD3(クローンUCHT-1)、CD19(クローンJ4.119)、CD1
3(クローンSJZD1)、CD14(クローンRMD52)、及びCD33(クローンD3HL60.251)を含む
。全ての抗CD抗体を、BeckmanCoulter, Inc.(Miami, FL)から入手し、そして製造業者
によって推薦された抗体濃度にてPEコンジュゲートコンジュゲートとして使用した。室温
での30分間の抗体インキュベーションの後に、試験管を遠心分離(645×Gで4分間)にか
け、1mlの洗浄バッファー中に再懸濁し、そしてFC-500(商標)又はEpicsXL(商標)フ
ローサイトメーター(Beckman Coulter, Inc., Miami, FL)のいずれかを使用してすぐに
分析した。
【0055】
リン酸特異的エピトープの変化を計測する実験のために、フローサイトメトリーによる
計測を、20mW、488nmの照射を使用する空冷アルゴン・レーザーを備えたEpicsElite(商
標)フローサイトメーター(Beckman Coulter, Inc.)を使用して実施した。FITC又はAle
xa fluor(商標)488蛍光を、525+/-10nmの帯域通過フィルターを通して採取し、そしてP
Eを、PEチャンネル内のFITC又はAlexaFluor(商標)488シグナルを排除するために使用
される最小限の補償を伴って、575+/-10nmの帯域通過フィルターを通して採取した。2000
〜10000の陽性事象(一般にCD3陽性)を得、そしてリスト方式のファイルに保存した。デ
ータ分析を、EpicsElite(商標)ソフトウェアを使用し、平均蛍光強度(MFI)及び陽性
事象の割合を計算して実施した。
【0056】
FALS及び側方散乱光の計測を使用したリンパ球、単球、及び顆粒球の相対分解能を比較
する実験、及び3種類の異なる技術(Q-Prep(商標)、ホルムアルデヒド/Triton(アルコ
ールなし)[方法B]、又はアルコールを伴うホルムアルデヒド/Triton[方法B’])を
使用して調製した全血サンプル中の選択した表面マーカーの相対蛍光強度を計測する実験
において、FC-500(商標)又はEpicsXL(商標)フローサイトメーター(Beckman Coulte
r, Inc.)のいずれかを、製造業者によって提供された標準的な構成で使用した。照射を
、488nm(のみ)を使って行い、そしてPEチャンネル(575+/-10nm)に関する機器の設定
を同一の値で維持して、各計測について合計45,000個の細胞をカウントした。血小板の大
部分及び小さな残骸を排除するように設定したFALS識別器を使用した。
【0057】
Q-Prep(商標)、方法B、又は方法Bと50%のMeOH処理(方法B’と表示される)に続く光
散乱集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)の回復の際の定量的差異を、集団を測定したフ
ローサイトメトリー・ベースの光散乱によるCBC分析の結果を比較することによって測定
した。光散乱に基づく集団の検定を、Lokenら、Cytometry 11:453-459ページ、1990年に
記載のとおり、CD45(FITC)対側方散乱光の同時計測を使用して実施した。
【0058】
図2に示されるとおり、低浸透圧性溶解技術(方法A)は、ごく通常に、非刺激全血と刺
激したPMAとを比較して、リン酸-ERK1/2に関して20〜25倍増加したシグナルを与えた。CD
3陽性末梢血リンパ球上のリン酸特異的ERKのレベルを、Chowら、Cytometry46:72-78ペ
ージ、2001年による記載のとおりリンパ球が計測の対照となるように計測する。これは、
1つには、低浸透圧性溶解技術に続く光散乱による白血球細胞集団の不十分な分解能が原
因で行われた(図2、左のパネル)。PBC溶解直後にホルマリン固定を用いた修飾した低浸
透圧性溶解技術(図2、下のパネル)と比較して、方法A(図2、上のパネル)を使用した
リン酸-ERKシグナル(刺激したPMA対非刺激サンプルの比)における有意差は観測されな
かった。これらの結果は、全血サンプルの固定の遅延がリン酸-ERKの計測レベルに有意な
影響をもたらさないことを実証する。
【0059】
低浸透圧性赤血球溶解技術に関連する技術的困難を踏まえて、ディタージェント溶解と
それに続く固定を行った。架橋固定剤の濃度増大、インキュベーションの時間、又は高温
は、赤血球細胞をディタージェント溶解に対してより耐久力のあるものとする要因である
。一連の実験を、架橋固定の後に赤血球細胞を溶解するそれらの能力を評価して様々なデ
ィタージェントを選別するために行った。これらの実験について、100ulの全血を、35ul
の10%ホルムアルデヒド(終濃度2%)によって室温で10分間、固定した。固定した全血サ
ンプルを、次に、(固定剤の除去なしに)それぞれのディタージェントの3種類の異なる
濃度(0.001、0.01、及び0.1%)のうちの1つで室温にて処理し、そして最長で2時間、赤
血球の溶解を検出するために視覚的に観察した。
【0060】
ディタージェントで処理したサンプルを、白血球細胞集団の相対完全性及び分離を測定
するために前方角散乱光(FALS)対側方散乱光(SS)を使用して分析した。図3に示され
るように、0.1%のTritonX-100による固定全血の処理は、リンパ球、単球、及び顆粒球の
はっきりと識別できる集団を示した(左のパネル)。対照的に、0.001%の終濃度のTriton
X-100による処理は、はっきりと識別できるWBC集団を示さなかった(右のパネル)。0.0
1%のTriton X-100による固定サンプルの処理は、光散乱による同様に不足なWBC集団の分
離を示した(結果未掲載)。同様の結果は、顕著な赤血球溶解を実証した3種類のディタ
ージェント(TritonX-100、NP-40、及びBrij58)に関して見られ、3種類のディタージェ
ントの全てがディタージェントの終濃度に依存する赤血球溶解及びWBC集団分離に関する
類似パターンを示した(ここで、ディタージェントの特定の終濃度だけがWBC集団の明確
な分離を実証し、同じディタージェントの他の濃度は、はっきりと識別できる分離を示さ
なかった)。
【0061】
RBC溶解を実証した3種類のディタージェント(TritonX-100、NP-40、及びBrij58)に
ついて、(試験した3つの濃度の中の)0.1%のディタージェント終濃度が、光散乱によるW
BC集団の分離を示した。これらの3種類のディタージェントについて、0.01%にて、RBC溶
解は見かけ上は見られず、そして、0.001%のディタージェントで処理したサンプルに関し
て、一部だけの溶解が見かけ上は見られた。
【0062】
ホルムアルデヒド固定(2%、室温で10分間)及び0.1%のディタージェント処理の使用に
よって、低浸透圧性溶解法(方法A)を使用して調製した全血サンプルにおける20倍以上
のレベルと比べた場合に、PMA刺激した全血におけるリン酸-ERKレベルは、非刺激対照を2
.5〜3.5倍上回っただけである(図4を参照のこと)。
【0063】
図4で実証されたとおり、2つの異なる方法(方法A対ホルムアルデヒド/Triton(方法B
))で調製し、そして抗チューブリン-FITCでインキューベートした細胞は、同じ割合の
陽性細胞(CD3陽性細胞の本質的には100%)、及び抗チューブリン染色に関して類似したM
FIを示し(図4、右のパネル)、いずれかの方法を使用して調製された細胞内の細胞内抗
原への同等な接近を示し、且つ、ホルムアルデヒド/ディタージェント法は、細胞内部へ
の抗体の接近を可能にするのに十分な細胞浸透性を提供しない可能性を排除する。
【0064】
抗チューブリンではなく、リン酸-ERKの染色における主要な相違点は、チューブリンで
はなく、リン酸-ERKエピトープが、架橋固定に続いてアンマスキング又は変性を必要とす
ることを示唆し、過程は低浸透圧性溶解(方法A)技術においてアルコール処理によって
提供された。しかしながら、図2及び4に示されるように、ホルムアルデヒド固定に続くア
ルコール処理は、光散乱特徴を維持せず、且つ、全ての白血球集団の識別を可能にしなか
った。ホルムアルデヒド/ディタージェント技術は、光散乱を維持する一方で、リン酸-E
RKをアンマスクしなかった。
【0065】
その結果、変性条件としての高塩濃度、低pH、及び熱の使用が、リン酸-ERK発現を潜在
的にアンマスクできるかどうかを調査した。
(高塩濃度、低pH、又は温度を使用した抗原のアンマスク)
【0066】
4%のホルムアルデヒド(室温で10分間)中の全血サンプルの固定、そして0.1%のディタ
ージェントでの室温で30分間の処理(Triton X-100、NP-40、又はBrij58)に続いて、サ
ンプルを、可視的なRBC溶解後にディタージェント溶液への濃厚原液(5Mストック)の直
接添加によってNaCl又は尿素中、1M又は2Mの濃度にした。低pHに晒すサンプルに関しては
、(30分間のインキュベーション後に)遠心分離によってディタージェントを取り除き、
そして、細胞をpH5に調整したPBS中に再懸濁した。全てのサンプルを、室温で30分間、高
塩濃度又は酸に晒し、遠心分離し、そして洗浄バッファー中に再懸濁した。
【0067】
変性要因としての高温に晒されるサンプルについて、固定した全血サンプル(4%のホル
ムアルデヒドに室温で10分間)を、室温で30分間、0.1%のTriton X-100で処理し、次に、
70℃の水浴中で10分間インキューベートし、遠心分離し、そして洗浄バッファー中に再懸
濁した。全ての条件について、サンプルを、CD3-PE及びリン酸-ERK-Alexa 488で染色し、
洗浄し、そしてEpicsElite(商標)を使用して分析した。
【0068】
図5に示され、そして表1にまとめられた結果は、低浸透圧性溶解技術によって調製され
た全血サンプルが(最上列、図5)、非刺激サンプルと刺激したサンプルを比較して、CD3
陽性リンパ球におけるリン酸-ERK発現の26〜34倍の差異を示すことを実証する。1若しく
は2NのNaCl又は1若しくは2Mの尿素のいずれかで処理したサンプルは、ディタージェント
のみで処理したサンプルと比べて、リン酸-ERK発現の小さいが、わずかな増加を実証し、
更に、pH5への暴露は、7倍の差異を示し、そして70℃処理は6倍の差異を示した(PMA刺激
対非刺激)。いずれかのディタージェントで処理された、NaCl、尿素、又は低pHに晒され
た全血サンプルの散乱パターン(FALS対SS)は、白血球細胞集団の不十分な分解能を示し
た(図5、各ディタージェント処理に関する最初の列)。示された結果は、3つの異なる全
血サンプルに対して実施された同一の実験を代表する。
【表1】

【0069】
これらの結果は、変性条件がホルムアルデヒド/ディタージェントで処理した細胞にお
けるp-ERK発現を改善した一方で、発現のレベルは、低浸透圧性赤血球溶解、固定、そし
てアルコール処理によって処理された全血サンプル(方法A)で見られたものよりはるか
に低かった。
実施例II
(白血球細胞の光散乱に対する固定剤及びディタージェント濃度の影響)
【0070】
この実施例は、白血球の分解能及び回復に対する固定剤及びディタージェントの両方の
濃度とインキュベーション時間の影響を実証する。
【0071】
高濃度の架橋固定剤が、白血球細胞集団の光散乱の特性分析と分解能を維持するのを助
けることを示唆した先の研究に基づいて、異なる固定剤濃度の影響を調査した。 全血
サンプルを、室温又は37℃で10分間、濃度を高めたホルムアルデヒド(1%〜10%の終濃度
)中で固定し、次に、(室温にて)1mlの0.1%TX-100と一緒に直ちにインキューベートし
た。図6に示されるように、(室温インキュベーションに関して)2%〜4%の高いホルムア
ルデヒド濃度は、白血球細胞集団の分解能を顕著に改善した(左のパネル)。同様に、37
℃でのホルムアルデヒドによる全血サンプルの処理は、CD3発現に対する重大な影響なし
に光散乱を使用したWBC集団の改善された分離をもたらした(両方の処理温度に関して類
似したMFFs、図6、中央のパネル)。しかしながら、(4%を上回る)より高い濃度のホル
ムアルデヒドは、RBCsの不完全な溶解、及び白血球細胞集団の分解の失敗をもたらした(
データ未掲載)。図6(右のパネル)に示されるように、37℃での処理は、リン酸-ERK発
現に関して改善されたS/N比をももたらした(室温で2.5〜37℃の処理で5.2)。
【0072】
WBC回復、光散乱ベースの分離、及びp-ERK発現に対するディタージェント濃度の影響を
測定するために、全血アリコート(100ul)を、室温で又は37℃で10分間の4%のホルムア
ルデヒド(終濃度)を使用して固定し、次に、0.1〜1.0%のディタージェント濃度を使用
した1mlのTX-100と一緒にインキューベートした。これらの実験について、ディタージェ
ントを遠心分離、及び洗浄(洗浄バッファーで3回)によって取り除き、そして細胞を抗C
D3-PEで染色した。
【0073】
図7に示されているように、0.1%を超える高いディタージェント濃度は、残骸量の増加
を伴うWBC集団の不十分な分解能、及び光散乱を使用したリンパ球からの単球の分解能の
顕著な損失をもたらした(図7の左のパネルを参照のこと)。更に、高いディタージェン
ト濃度の使用によって、CD3対側方散乱ヒストグラム(図7の中央のパネル)は、リンパ球
で見られるより顕著に高い側方散乱特性を伴った高い割合のCD3陽性事象を示した。図7に
示されるように、室温での固定は、ディタージェントの全ての濃度によるRBC溶解をもた
らす一方で、37℃で固定したサンプルは、全てのディタージェント濃度で細胞凝集、及び
不完全な赤血球溶解を実証した。
【0074】
これらの結果は、高いディタージェント濃度によって、CD3陽性リンパ球が単球又は顆
粒球に結合するか、あるいは溶解されたCD3陽性リンパ球が単球及び顆粒球に結合する膜
断片であるかのいずれかであることを示唆する(後者はSS特性とより合致する、図7の中
央のパネルを参照のこと)。固定剤の力価に関するデータと共に、これらのデータは、最
適の赤血球溶解とWBC回復が4%のホルムアルデヒド及び0.1%のTX-100処理を使用すること
で得られることを示唆する。しかしながら、先に議論した一連のホルムアルデヒド及びTX
-100で処理した細胞のp-ERK染色を用いた研究は、非刺激対照サンプル(元々説明した低
浸透圧性溶解処理の-28倍と比較した)に比べて7.4倍を超えて上回るp-ERKシグナル(PMA
刺激した全血サンプルに関する)を提供できなかった。
【0075】
固定剤を伴う全血サンプルのインキュベーション時間の効果を、4%のホルムアルデヒド
(10〜30分間)を使用して、次に調査した。更に、(先に説明したように)固定剤の存在
下、又は固定剤の除去後のいずれかで、ディタージェントと一緒に(固定剤の添加後の)
サンプルをインキューベートする効果を調査した。10分間を超える時間、固定剤中でイン
キューベートしたサンプルは、不完全なRBC溶解と細胞凝集を示した(結果未掲載)。固
定剤の存在下、ディタージェントで処理したサンプルは、固定剤と一緒に10分間インキュ
ーベートし、洗浄し、そして、ディタージェントで処理した(10〜30分間の時間)サンプ
ルに比べて、より完全な赤血球溶解と白血球細胞集団のより良好な分解能を示した(結果
未掲載)。この時点で、全血サンプルは、良好なRBC溶解、並びにリンパ球、単球、及び
顆粒球の良好な分解能を示したが、リン酸-ERK1/2に関するシグナル対ノイズの比は依然
として5〜8のままであり、この細胞内抗原エピトープのかなりのマスキングがまだ存在し
ていることを示唆している。
実施例III
(アルコール・アンマスキング剤のP-ERKに対する影響、及びCD3発現に対する影響)
【0076】
この実施例は、リンパ球回復と表面エピトープのアンマスキングに対するアルコールの
影響を実証する。
【0077】
架橋固定剤を用いた固定に続いて、不活性化されたリン酸-タンパク質(など)のエピ
トープを「アンマスク」するために、一連の実験を、ディタージェント処理に続くアルコ
ール処理の影響を評価するために行った。ディタージェントへの30分間の暴露に続いて、
固定した全血サンプルを、冷たい(4℃)バッファー(PBS w/o Ca++又はMg++)で洗浄し
、そして4℃の、一連の異なる濃度のメタノール又はエタノール中に再懸濁した。それぞ
れのサンプルの1つのアリコートを、4℃で一晩保持して、アルコール溶液中への保存の影
響を調査した。これまでのように、(遠心分離によるアルコールの除去、そしてPBSでの
洗浄に続いて)サンプルを、(T-リンパ球の回復と染色を評価するための)CD3-PEに対す
る抗体、及び(エピトープのアンマスキングを評価するための)リン酸-ERKに対する抗体
で染色した。
【0078】
図8に示した結果に示されるように、メタノール処理(40〜60%の終濃度)は、WBC光散
乱特性を維持する一方で、良好なCD3染色を維持している。エタノール処置は、より高い
割合の残骸(図8、左下のパネル)、並びに単球の損失をもたらした。多くの研究室が日
常的にサンプルを4℃にて様々な時間、アルコール中で保持しているので、これらの研究
の一環として、我々は、2連のサンプルを分析前にアルコール溶液中に一晩保持した。図8
(右のパネル)に示されるとおり、結果は、メタノール中に一晩保持した溶液中の残骸の
割合のいくらかの増大があった一方で、メタノールで処理したサンプルにおける光散乱又
はCD3発現のいずれにも顕著な悪化がなかったことを実証した。対照的に、エタノール中
に一晩保持したサンプル(図8、右下のパネル)は、顕著な残骸、光散乱の悪化、及びCD3
染色の喪失を示した。
実施例IV
(白血球細胞集団に対するアルコール処理の影響)
【0079】
この実施例は、リンパ球集団の散乱分離に対するアルコール処理の影響について説明す
る。
【0080】
先の実施例I〜IIIは、フローサイトメトリーのために細胞内抗原を染色するための全血
サンプルの固定、RBCsの溶解、及び細胞の透過化の2つの方法を説明している。固定/デ
ィタージェント溶解技術と呼ばれる基本的な方法の1つの態様において、全血サンプルを
室温で10分間、4%のホルムアルデヒドを使用し、それに続いて固定剤を除去することなく
室温で1mlの0.1%のTritonX-100を添加して固定化することができる(方法B)。冷たい(
4℃)(蒸留水又はバッファー中の)50%メタノールでの更なる処理を、変性ステップを必
要とするタンパク質エピトープをアンマスクするために利用することができる(方法B’
)。
【0081】
図9に示されるように、方法Bによる全血サンプルの処理は、WBC集団の良好な光散乱分
離、T-リンパ球での高レベルのCD3発現をもたらしたが、しかし、我々の独自の低浸透圧
性溶解技術で処理した全血(方法A、図9、一番上のパネル・セット)と比較して低レベル
のp-ERK発現(図9の2番目のパネル・セット)をもたらした。ディタージェント処理後に5
0%のメタノールで処理した全血サンプル(方法B'、図9の3番目のパネル・セット)は、WB
C光散乱特性、CD3発現、及び比較的高いレベルのp-ERKを維持した(ここで、方法B’に関
してS/N=19.1、方法Bに関してS/N=8.1、そして方法Aに関してS/N=29)。
【0082】
白血球細胞集団の分解能に対する2つの技術(方法BとB’)の影響を測定するために、
一連の実験を実施し、Q-Prep(商標)システム(Beckman Coulter, Inc.)、固定/ディ
タージェント溶解技術(方法B)、又は固定/ディタージェント溶解とそれに続く50%の冷
メタノール(方法B’)を使用して処理した全血サンプルを比較した。
【0083】
個々の健常な提供者からのサンプルを、これらの3つの異なる技術を使用して処理し、
そして(FALS対SSを使用する)フローサイトメトリーによって計測して、Riley、Statist
ical analysis andoptimal classification of blood cell populations using Gaussia
n distributions、Ph,D. dissertation:Florida International University;(2003年
)によって説明されるとおり、光散乱集団間のフィッシャー・ディスタンス(Fisher Dis
tances)の計測値を使用してリンパ球、単球、及び顆粒球の相対的分離を測定した。
【0084】
手短に言うと、主要な白血球細胞集団(リンパ球、単球、及び顆粒球)の回復と識別に
対する異なる全血調製技術の相対的効果を測定するために、実験を実施し、Riley、上記
、2003年に説明されているとおりフィッシャー・ディスタンスの計測を使用して前方対90
度の光散乱パラメーター(共に線形)によってこれらの3つの集団の分離を比較した。
【0085】
図1に図解されるように、この技術は、2つの長軸(XとY)に従ってそれぞれの光散乱ベ
ースの集団の質量中心を計測し、そして、直角三角形の斜辺を算出する、ここで、
【数1】


である。リンパ球(A)と単球(B)に間のフィッシャー・ディスタンスは、
【数2】


であり、ここで、SD=標準偏差である。それぞれの集団を、Xと共にY軸に従って各集団の
SDを足し算し、そして2で割ることによって計算した。この計算は正確な集団SDを提供し
ないがその一方で、容易に計算できる有効、且つ、有用な近似値を提供する。フィッシャ
ー・ディスタンスを計算するために、先に述べたとおり、3つの技術のそれぞれによって
調製したサンプルを、唯一FC-500(商標)フローサイトメーターを用いて分析し、合計45
,000の事象をカウントした。アルコールなしのQ-Prep(商標)又は方法Bを使用して調製
されたサンプルについては、増幅率及び高電圧に関して同一の設定を、FALS及び側方散乱
の検出装置の両方に使用した。アルコール処理を使用して調製したサンプル(方法B’)
については、3つの集団の分解を可能にするために、より高い電圧を両方の散乱検出装置
に使用した(両方の電圧については3.3倍高い)。
【0086】
リンパ球、単球、及び顆粒球の計数を、FALS及び側方散乱を使用して得、個々のサンプ
ルについて構成比を計算した。全血液検査(LH-750(商標)から得られた)CBCを使用し
てその提供者に対して得られたWBCを、個々の値(%)に乗じた。試験精度(再現性)を評
価するために、平均、標準偏差、及び変動係数を、それぞれの一連の反復について計算し
た(CD45、3、19、13、14、及び33で染色した試験管)。
【0087】
サンプル調製方法を、フィッシャー・ディスタンス、CBCパラメーター、及び表面マー
カーのMFFsについて比較した。分散分析及びTukey-Kramer試験を、フィッシャー・ディス
タンスの比較方法に使用した。方法を、Bland and Altman、Lancet 1:307-31ページ(19
86年)に記載のとおり、MFIを使用して個々のCDに関して、及び差異プロットを使用してC
BCパラメーターに関して、差異と総バイアスに関して比較した。各血液標本について2つ
の方法の間の差異は、以下の通り統計的にモデル化できる。
D=TB+E
ここで、Dが差異であり、TBが総バイアス、及びEが偶然誤差である。Eが不正確性に主
に関連するので、その標準偏差の値もまたアッセイの不正確性を推定する。TBの推定に関
する詳細は、Magari、Journalof Biopharmaceutical Statistics、2004年(印刷中)の
中に見ることができる。95%信頼及び99%範囲の許容限界を、標準誤差の推定に基づいて計
算した。SAS(SASInstitute Inc., Carry, NC)を、全ての統計的分析に使用した。
【0088】
3つの技術の全てを比較した24人の健常な提供者の計測の結果を表2にまとめる。リンパ
球と単球の間のフィッシャー・ディスタンスは、Q-Prep(商標)を使用して調製したサン
プルについて最大であり(フィッシャー・ディスタンス=2.19)、この技術が、試験した
3つの技術に関してリンパ球からの(そして顆粒球からの単球の分離に関して)単球の最
良の分離をもたらすことを示唆した。分析は、Q-Prep(商標)及び方法Bを使用して調製
したサンプルのフィッシャー・ディスタンスを比較して有意差を実証した。しかしながら
、方法B対方法B’に関してリンパ球から単球へのフィッシャー・ディスタンスを比較した
有意差は、存在しなかった。各サンプルを6つの異なるCDマーカーで染色したので、我々
はサンプル内、並びに技術間のサンプル変動性も分析した。この分析は、同じ技術によっ
て調製されたサンプル間の変動性と比べた場合に大きなアッセイ間の変動性を実証した。
【0089】
単球と顆粒球の間のフィッシャー・ディスタンスを比較する際に(表2)、3つの技術の
全てが有意に異なる結果を与え、Q-Prep(商標)によって、最良の分離が実証され、方法
Bがそれに続いた。我々の総合的な分析は、使用法B及びB’が、Q-Prep(商標)によって
提供されたものほど良くないWBC集団の分離を提供し、方法B及びB'を使用して調製された
全血サンプルの散乱計測(FALS対SS)が、WBC集団を明確に分離するのに十分な分解能を
提供し、一般に、我々独自の低浸透圧性溶解技術によって提供されるものに比べて顕著に
良好な分解能を提供することを示唆した(上のパネル、図9を参照のこと)。
【表2】

【0090】
3つの技術の全てで調製した全血サンプルのアリコートを、LH-750(商標)(BeckmanC
oulter, Inc.)アナライザーを使用して計測して、いずれの血球細胞集団がサンプル調製
の結果として減少(喪失)したかどうかを測定するために、リンパ球、単球、及び顆粒球
のカウント(CBC)を得た(低い固定濃度を使用した先の実験、と共にディタージェント
及びアルコール処理は、単球の顕著、且つ、選択的な喪失を示した)。バイアス・プロッ
ト(図10)を使用して分析を実施して、様々なWBC集団の回復に有意差があったかどうか
測定した。リンパ球集団(図10、上のパネル)は、3つの全血技術を比較した場合にリン
パ球測定において有意差のないCBC測定と比較した場合に、3つの全血調製技術の全てにつ
いて一貫して過剰に推定された。3つのフローサイトメトリーによるリンパ球測定とCBCの
間のこの差異は、リンパ球ゲート内の低散乱を伴う事象(残骸、血小板)を含めた結果と
して説明できる。単球(図10、中央のパネル)及び顆粒球(図10、下のパネル)の回復の
比較は、単球に関していずれの全血技術についても顕著な変化を示さず、そしてCBCと比
較した3つの全血技術の全てについて顆粒球の回復の小さいが、しかしわずかな減少を示
した。
実施例V
(代表的なCDマーカーの発現に対する全血固定技術の影響)
【0091】
この実施例は、代表的な一連の細胞表面マーカーに対する50%の冷メタノールの添加の
あり又はなしでの種々固定、RBC溶解、及び透過処理技術の影響を実証する。
【0092】
最後の一連の実験は、リンパ球(CD3、19)、単球(CD13、14)、及び顆粒球(CD13、3
3)の細胞表面マーカーに対する(50%の冷メタノールの添加のあるなしにかかわらず)固
定、RBC溶解、及び透過処理技術の影響を調査した。先に説明したとおり、全血サンプル
を、アルコールのあるなしにかかわらずQ-Prep(商標)又は固定/ディタージェント溶解
を使用して調製した。洗浄後に、サンプルを、(全てPEコンジュゲートとして)単一抗体
と一緒にインキューベートし、そしてフローサイトメトリーによって分析して、陽性細胞
の割合、及び平均蛍光強度(MFI)を測定した。
【0093】
24人の個々の提供者のCDマーカー測定の結果を表3及び図11に示す。表3に示されるよう
に、3つの異なる全血調製技術を比較すると、いずれのマーカーについてもMFIにおいて多
少の変化があったがその一方で、染色強度の唯一の顕著な減少が、50%のメタノールで処
理した全血サンプル中のCD19に関して見られた(方法B’)。
【0094】
CD19発現のバイアス・プロット(図11、3番目のパネル)に示されるとおり、方法B又は
B’を使用して調製したサンプル中のこのマーカーの発現について相当な変動性があり、
個々の血液提供者におけるホルムアルデヒド/Triton(そして、メタノール)処理に対す
るこのエピトープの感受性差を示唆した。使用される全血調製技術にかかわらず全ての提
供者においてCD19陽性細胞を容易に検出できた。他のマーカーが別の方法を比較すると染
色強度(MFI)のいくらかの増大又は減少を示す一方で、全ての場合で、これらの6つの代
表的CDマーカーに関して陽性対陰性細胞集団を容易に同定するのに十分な染色強度があっ
た。
【表3】

【0095】
当該出願全体を通じて、様々な刊行物が括弧内に参照された。本願発明が関係する技術
分野の状況をより完全に説明するために、これらの刊行物の開示の全体を当該出願中に援
用する。
【0096】
本発明は開示された態様に関して説明されるが、当業者は、先に説明された特定の実施
例及び研究が本発明を例証するだけであることを容易に理解する。本発明の本質から逸脱
することなく様々な修飾を加えることができることが理解されるべきである。従って、本
発明は以下の請求項によってのみ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図11−4】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−22007(P2012−22007A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−229883(P2011−229883)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【分割の表示】特願2007−529916(P2007−529916)の分割
【原出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【出願人】(500501546)ユニバーシティー ヘルス ネットワーク (3)
【Fターム(参考)】