細胞又は組織の培養方法
【課題】培養組織を人体等に適用させる場合において、種々の応力(特に曲げ応力)を受けている部位に対し、単純な圧力、圧縮、引っ張り、せん断等の刺激ファクタを与えるだけの培養では不十分であるので、細胞及び/又は組織を含む培養物の培養方法に関し、人等の体の部位に適正な培養方法を提供する。
【解決手段】培養ベッド上で培養している細胞及び/又は組織を含む培養物(細胞構成体2)に、曲げ運動を付与し、湾曲状態にするステップを含む、培養方法。
【解決手段】培養ベッド上で培養している細胞及び/又は組織を含む培養物(細胞構成体2)に、曲げ運動を付与し、湾曲状態にするステップを含む、培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療分野、ティッシュエンジニアリング(Tissue Engineering)の分野における細胞又は組織の培養に関し、三次元組織又は器官再生のための三次元組織培養方法、具体的には、細胞構成体(Cell construct)として、細胞、細胞担体(Scaffold)、細胞が産出する細胞外マトリクス(Extracellar Matrix:ECM)の何れかを含み、場合により、培養液や、その他の添加物や、グロスファクター或いは薬品等を添加して行う培養方法に関する。
【0002】
要するに、本発明の培養方法は、従来における静置培養と異なり、物理作用併用の三次元培養に関する方法であり、細胞構成体の細胞に積極的に刺激を与え、細胞構成体に変位を与え、増殖、細胞移動、物質移動を促して細胞の生存力を高めるとともに、分化の誘導あるいは脱分化の抑止により、目的とする再生組織の実現を企図するものである。
【背景技術】
【0003】
細胞や組織の培養には、培養しようとする細胞や組織に圧力や張力等の物理刺激を与える方法が検討され、各種のバイオリアクタ等が提案されている。二次元培養(平面培養)は、平底培養基材を用いる培養方法であり、一般的には、インキュベータ内での静置培養法である。浮遊培養は、非接着性の細胞を浮遊培養する方法である。これもインキュベータ内での静置培養法である。三次元培養は、細胞を播種した細胞担体をインキュベータ内で静置し、培養するのが一般的方法である。三次元培養(バイオリアクタ使用)は、細胞担体に細胞を接着又は包含させ、培養液の攪拌等の処理を行うのが一般的であるが、細胞担体の三次元培養で細胞に加圧、圧縮、張力、せん断等の物理的作用を付加する培養方法も考えられている。物理的作用を与えるための培養装置は、「バイオリアクタ」、「 ティッシュエンジニアリングプロセッサ」 等と称され、ティッシュエンジニアリングの培養実験や再生医療のための体外(in vitro)における細胞・組織培養装置として実用化されつつある。
【0004】
このような細胞や組織の培養、その培養に用いられる物理的な変位や応力、刺激を与える機能を有するバイオリアクタに関し、圧力、振動(超音波)を用いる例として、特許文献1には、細胞又は組織の培養方法及びその装置が開示され、圧力を用いる例として、特許文献2には、生体内、生体外及び試験管内での軟骨及びコラーゲンの修復及び再生並びに骨再形成方法が開示され、せん断力を用いる例として、特許文献3には、細胞・組織培養装置が開示され、引っ張り力を用いる例として、特許文献4には、細胞・組織培養装置が開示され、圧縮力を用いる例として、特許文献5には、圧縮力を用いる例として、細胞・組織培養装置が開示され、せん断力を用いる例として、特許文献6には、細胞培養装置が開示され、引っ張り力を用いる例として、特許文献7には、シリコンベルトを使った培養細胞用伸縮刺激負荷装置が開示され、引っ張りとせん断とを併用する例として、特許文献8には、組織、 合成又は天然血管移植片の滅菌、接種、培養、保存、輸送、並びに検査を行う装置及び方法が開示されている。また、特許文献9には、膜体状に保持された細胞に膜体によって歪みを生じさせる培養方法等が開示されている。また、特許文献10及び特許文献11には、培養に半透膜を利用することが開示されている。様々な物理的作用及び刺激の付与や、半透膜の利用による細胞等の培養についての試みがなされている。
【特許文献1】特開2001−238663号公報(要約等)
【特許文献2】特表2004−512031号公報(要約等)
【特許文献3】特開2002−315566号公報(要約等)
【特許文献4】特開2003−061642号公報(要約等)
【特許文献5】特開2003−180331号公報(要約等)
【特許文献6】特開平09−313166号公報(要約等)
【特許文献7】特開平10−155475号公報(要約等)
【特許文献8】特表平11−504216号公報(要約等)
【特許文献9】特開2005−143343号公報(要約等)
【特許文献10】WO2006/015304A2(要約等)
【特許文献11】特表2000−513214号公報(要約等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、人体には、種々の応力を受けている部位が存在し、これらの部位の修復に用いる組織はその部位毎に異なるものである。例えば、椎間板、半月板、骨、繊維軟骨、心臓の弁では体内で曲げ力を受けている。この曲げ応力は、単純な圧力、圧縮、引っ張り、せん断等とは異なるものである。斯かる曲げ力を受けている部位に対し、単純な圧力、圧縮、引っ張り、せん断等の刺激ファクタを以て培養された組織を適用させることは不十分である。
【0006】
本発明者は、培養する細胞や組織に付与する刺激又は負荷として、曲げが細胞や組織の増殖等に極めて有益であることに気づいた。本発明は、斯かる知見に基づくものであり、このような曲げに関し、特許文献1ないし特許文献11には開示されておらず、その示唆もない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、細胞及び/又は組織を含む培養物の培養方法に関し、人等の体の部位に適正な細胞及び/又は組織の培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、細胞及び/又は組織を含む培養物の培養方法に関し、細胞及び/又は組織を含む培養物に曲げ力を作用させて培養物を曲げることにより、具体的には、湾曲させることにより、その凹の部分から凸の部分の厚み方向に連続的な圧縮と伸長とを生じさせ、従前の加圧、せん断、引っ張りでは得られない物理的な刺激や変形を培養物に負荷することにより、曲げを伴う部位の組織の修復に適合する培養物を実現するものである。
【0009】
そこで、上記目的を達成するための本発明の第1の側面は、細胞及び/又は組織を含む培養物の培養方法であって、前記培養物に曲げ運動を負荷するステップを含む構成である。
【0010】
上記目的を達成するためには、上記培養方法において、好ましくは、前記曲げ運動は、前記培養物を湾曲状態にする処理を含む構成としてもよい。
【0011】
上記目的を達成するためには、上記培養方法において、好ましくは、湾曲可能なベッドに前記培養物を設置するステップを含み、前記曲げ運動は、前記ベッドを媒介にして行う構成としてもよい。
【0012】
上記目的を達成するためには、上記培養方法において、好ましくは、前記ベッドは、その両端を移動可能に支持し、中央部に荷重を負荷することにより、湾曲させる構成としてもよい。
【0013】
上記目的を達成するためには、上記培養方法において、好ましくは、前記培養物は、半透膜で密封されている構成としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、次の効果が得られる。
【0015】
(1) 培養中に培養物を曲げる等の変位(応力) を加えるので、培養物の培養を促進でき、例えば、椎間板等の体内で曲げ力を受ける組織の再生に使用することができる。
【0016】
(2) 幹細胞は分化を、組織細胞は脱分化を防ぐことが期待できる。
【0017】
(3) 組織構造等に方向性がある場合、その配列方向を一様にでき、体内の組織と同等のものが得られる。
【0018】
(4) 圧力等、他の物理作用を排除し、又は最小にして曲げ作用で必要な組織の培養ができる。
【0019】
(5) 細胞移動をし易くすることができる。
【0020】
(6) 栄養物、酸素を三次元細胞構成体の内部まで浸透させることができる。
【0021】
(7) 老廃物の排出がし易くなる。
【0022】
(8) 半透膜で細胞の存在部分と培養液の部分を分離すれば、培養液の流れによるせん断力が排除され、曲げや圧力に限定した作用で培養できる。
【0023】
(9) 半透膜で細胞の存在部分と培養液の部分を分離すれば、スキャフォールドが無くても、スフェロイド化し、三次元組織化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
〔第1の実施の形態〕
【0025】
本発明の第1の実施の形態に係る細胞又は組織の培養方法について説明する。
【0026】
この細胞又は組織の培養方法には、培養物の一例として細胞構成体2(図3)が用いられる。この細胞構成体2は、細胞、細胞担体(Scaffold)、前記細胞が産出する細胞外マトリクス(Extracellar Matrix)の何れかを含み、場合により、培養液や、その他の添加物や、グロスファクター或いは薬品等を添加してもよい。例えば、細胞を浮遊させた培養液、細胞が播種された三次元スキャフォールドとゲル状物質や他の担体を複合させたもの、また、これらを半透膜(Semi-permeable membrane )製の袋やチューブに封入した構成であってもよい。三次元スキャフォールド及びゲル状物質は、例えば、生体吸収性材料等で構成される。
【0027】
上記の細胞構成体2を封入する半透膜は、通過できる分子の大きさに応じて作られている。例えば、透過分子量が100〔Da〕(ダルトン)から1000〔kDa〕の半透膜の中から選択して使用される。即ち、培養液中の栄養分、必要な酸素等のガスや細胞が出した老廃物等の低分子の物質等は通過し、細胞や高分子の細胞外マトリクスを通過させないような半透膜を選択し、細胞を閉じ込めれば、細胞や細胞外マトリクスの流失を防ぎながら、栄養分と酸素の供給が可能となり、効率的な培養が実現する。
【0028】
この細胞構成体2の培養には、培養ベッド4が用いられる。図1は、この培養ベッドの構成例を示す図である。
【0029】
この培養ベッド4は、細胞構成体2を支持するとともに、細胞構成体2に対する運動の付与のための手段であって、保持した細胞構成体2に変位動作を伝達し、培養ベッド4が持つ弾性により、細胞構成体2を変位動作前の状態に戻す機能部を構成する。
【0030】
そこで、この培養ベッド4には、2つの細胞構成体2が平行に載置可能な載置部6が備えられ、この載置部6は、各細胞構成体2を平行に載置する面積及び形状を持ち、各細胞構成体2に曲げ運動を付与するために弾性材料で形成された板状部である。弾性材料として例えば、ばね用ステンレス鋼板やその他のばね性の高い材料が用いられる。この場合、培養ベッド4の全体を弾性材料で形成してもよく、曲げ運動を可能にする載置部6又はその一部を弾性材料で形成してもよい。載置部6は、フラットな板状部に限定されるものではなく、ネット状であってもよい。また、載置部6は、単一の細胞構成体2を載置する構成でもよく、3以上の細胞構成体2を載置可能な構成としてもよい。
【0031】
この載置部6は長方形状であって、その長手方向の端部には長方形状の立壁部8、10が形成され、各立壁部8、10は載置部6に対して直角をなすとともに、各細胞構成体2に対応する楕円形の透孔部12が形成されている。これらの透孔部12は、細胞構成体2の両端を固定する。また、各立壁部8、10は、各細胞構成体2の大きさに応じて所定の高さhに設定されている。
【0032】
各立壁部8、10の頂部には、載置部6と平行面して一定幅を持つ支持面部14、16が形成され、各支持面部14、16には、その一部を折り返して各立壁部8、10と平行に折返し部18が形成されている。各折返し部18により、各支持面部14、16及び各立壁部8、10が補強されている。即ち、薄い板状部からなる載置部6と同一の板材で各支持面部14、16及び各立壁部8、10を形成しても十分な強度が得られるとともに、培養ベッド4の軽量化が図られる。この実施の形態の培養ベッド4では、支持面部14側を固定するため、図示しない固定ピンに対応するU字形の切欠部20が形成されている。
【0033】
また、載置部6の中間縁部には、載置される細胞構成体2の側面部を支える支持壁部22、24が形成され、各支持壁部22、24の頂部には、細胞構成体2の上面部を覆う押え部26、28が形成されている。各支持壁部22、24は載置部6と直交する壁部であって、その高さは既述の立壁部8、10と同様である。また、各押え部26、28は載置部6と平行面を構成している。細胞構成体2は載置部6と各押え部26、28との間隔内に配置される。各押え部26、28の終端部は曲面部を構成し、両者間には細胞構成体2の着脱のための間隔30が設定されている。
【0034】
次に、細胞構成体2の培養方法について、図2、図3、図4及び図5を参照して説明する。図2は、培養の処理手順を示すフローチャート、図3は、培養処理される細胞構成体の形態を示す図、図4は、細胞構成体の培養ベッドへの設置を示す図、図5は、細胞構成体に対する曲げ運動の付与及びその解除を示す図である。
【0035】
図2に示すように、細胞構成体2の培養処理は、前処理(ステップS1)、培養処理(ステップS2)及び後処理(ステップS3)を含んでいる。前処理には、細胞構成体2の形成、半透膜への封入処理等が含まれる。培養処理には、曲げ運動処理を含み、湾曲処理(ステップS21)、湾曲解除(ステップS22)、湾曲処理(ステップS23)・・・湾曲解除(ステップS2N)の繰り返しが実行される。そして、後処理では、培養を終了した細胞構成体2の培養ベッド4からの取り出し等が含まれる。
【0036】
(1) 前処理(ステップS1)
【0037】
細胞構成体2の形成では、体内から組織や細胞を取り出し、また、取り出した組織を酵素等で分解し、必要とする細胞の選別を行う。また、選別した細胞数を増やす必要がある場合には、前処理の段階で単層培養等によって、細胞の数を増やす処理を行ってもよい。そして、得られた細胞について、培養液、ハイドロゲル、ゲル状スキャフォールドを組み合わせて細胞構成体2を作成する。その他、不定形構成体として、培養液やハイドロゲルに細胞を浮遊させたり、ゲル状担体に細胞を混ぜるようにしてもよい。また、定形構成体として、培養液に細胞を浮遊させ、これをコラーゲンスポンジ、キトサンスポンジ等の細胞担体に入れ、細胞を付着させたり、ゾルの状態で担体に細胞を混入させ、これをコラーゲンスポンジ、キトサンスポンジ等の細胞担体に入れ、細胞を付着させるとともに、ゲル化させるようにしてもよい。また、必要に応じて成長因子や薬剤等を添加してもよい。
【0038】
そして、図3に示すように、培養物である細胞構成体2を筒状の半透膜製のチューブ32に封入して培養を行う。半透膜製のチューブ32の一端に、例えば半透膜からなる封止栓34を設置し、他端から上記の細胞構成体2を入れ、同様に封止栓34で封止することにより、細胞構成体2を密封する。なお、細胞構成体2を封入するチューブ32の大きさについては、培養するものの目的、及び細胞構成体2の種類等に応じて変えるようにしてもよい。
【0039】
そして、図4のA及びBに示すように、チューブ32に密封された細胞構成体2を、培養ベッド4の載置部6に載置させる。培養ベッド4への載置処理は、細胞構成体2を封入したチューブ32を押え部26、28の間に設けた間隔30を通して、各立壁部8、10に設けた透孔部12にチューブ32の両端を通すとともに、チューブ32の中間部が載置部6と押え部26又は28の間に位置するように配置させる。この実施の形態においては、チューブ32を2本並べて載置するようにしているが、本数については、これに限定されるものではない。また、この実施の形態では、透孔部12にチューブ32の両端を挿通させて固定しているが、チューブの大きさに応じて、例えば、専用クリップ等で培養ベッド4に支持させるようにしてもよい。
【0040】
このように載置することで、後述する培養処理において、例えば、培養ベッド4の底部側に加える力による培養ベッド4の湾曲及びその解除に対し、各透孔部12及び押え部26、28によりチューブ32が支持されて、培養ベッド4とともに湾曲及び戻り動作をさせることができ、曲げ運動が可能となる。
【0041】
(2) 培養処理(ステップS2)
【0042】
培養処理では、図5のAに示すように、チューブ32に封入された細胞構成体2を、培養ベッド4とともに培養空間である培養チャンバ36に移送し、その培養チャンバ36内に培養液38の供給をする。培養チャンバ36にセットしたら、培養液38等が流出したり、外部からの雑菌混入を防止するため、例えば、カバー等により培養チャンバ36を密封状態にする。また、培養チャンバ36に設置された培養ベッド4は、その支持面14、16が支持部材40によって支持されている。これにより、後述する背面側からの力Fの付加によっても、培養ベッド4に上下のずれを生じさせず、培養ベッド4及びチューブ32を湾曲させることができる。なお、培養チャンバ36について、密封状態を維持しつつ、培養処理中に培養液38を循環供給させるような構成にしてもよい。この場合、培養液38は、培養チャンバ36に連続的に循環させてもよく、定期的に交換する構成であってもよい。
【0043】
培養ベッド4の背面側から、例えば、図示しないレバー等により、力Fを負荷させると、図5のBに示すように、培養ベッド4の載置部6が力Fによって上方に湾曲し、この湾曲により、載置部6上のチューブ32も湾曲する。即ち、細胞構成体2には曲げが生じる。この曲げ状態から力Fを解除すると、培養ベッド4の載置部6は弾性により、原形状に復帰し、平坦になるため、載置部6上の細胞構成体2も平坦状態に移行し、再び図5のAに示す状態となる。。この場合、チューブ32の上面部には、培養ベッド4の押え部26、28が存在しており、上方に凸に変形したチューブ32は、載置部6の復帰に応じて、チューブ32の両端を通過させている透孔部12や押え部26、28に押さえつけられ、載置部6の原状復帰に応じて平坦化する。以上のように、透孔部12及び押え部26、28によって、チューブ32に封入された細胞構成体2には、培養ベッド4の湾曲及び平坦化の変位量と同程度の変位量が与えられるため、付加する力Fによる移動量を制御することで、細胞構成体2に与える曲げ運動量も制御することが可能となる。
【0044】
そして、このような曲げ運動が繰り返され(ステップS21〜ステップS2N)、必要な培養時間の経過により、チューブ32内に細胞が増殖するとともに、細胞外マトリクス等が産出され、不定形な、あるいは定形な新生組織が再生される。なお、曲げ動作の周期や大きさ、動作スケジュール、培養チャンバ36内の温度設定等は、培養処理開始前に最適なパターン等により予め設定する他、細胞又は組織の培養状態に応じて、任意に設定するようにしてもよい。また、必要に応じて培養チャンバ36内に圧力をかけて培養する構成としてもよい。
【0045】
このように、培養に半透膜製のチューブ32を用いた場合、培養液と培養物との間に生じるせん断力の発生を防ぐとともに、細胞や細胞外マトリクスの流失を防ぎながら、栄養分と酸素の供給が可能となり、効率的な培養が実現するが、栄養物の通過の抵抗になるため、栄養物の供給に障害が生じるおそれがある。しかし、 上記のように、曲げ動作を付加することにより、内部の変位が能動的に上昇し、圧力の差が生じ、栄養分の移動がし易くなるとともに、細胞に物理的刺激が与えられる。これにより、血管のない段階の細胞構成体2や、血管のない組織においては、曲げ動作が血管や心臓の働きを代行して培養を行うことができる。
【0046】
(3) 後処理(ステップS3)
【0047】
培養を完了した細胞構成体2は、培養ベッド4とともに培養チャンバ36(図5)から取り出される。そして、培養ベッド4から細胞構成体2を封入したチューブ32を取り外し、その内部で増殖した細胞や、産出した細胞外マトリクス等の新生組織を取り出す。取り出された新生組織は品質検査等を行い、人体等の治療に用いられるまで保存される。
【0048】
培養された新生組織は、例えば、定形組織であれば、縫合等の手段により、そのまま人体に移植され、また、不定形組織であれば、欠損部に注入したり、組織の形状に合わせて塗布、又は成形して固定させる等の処理をすることにより、体内で周囲の組織と融合し、組織化させることが可能となる。
【0049】
次に、細胞構成体2の培養方法における、曲げ運動と培養について、図6を参照して説明する。図6は、曲げ状態において円柱状の細胞構成体が受ける力及び変位に関する解析に用いる図である。
【0050】
培養ベッド4は、上記したように、培養チャンバ36内で上下等にずれないように所定の位置で支持されており、また、細胞構成体2も培養ベッド4に固定されていることから、図5に示すように、培養ベッド4の背面側から力Fが付加されると、培養ベッド4の載置部6が上方に湾曲し、細胞構成体2も培養ベッド4に沿って一緒に変形する。
【0051】
物体を曲げようとすると、曲げ応力(Bending stress)が発生する。そして、物体が曲がることにより、曲げひずみ(Bending strain)が生ずる。曲げられた物体の内部では様々なひずみが生ずる。即ち、図6に示すように、曲げの外周側(図6のBの上側)では引っ張り力が作用して伸び、内周側(図6のBの下側)では逆に圧縮力が作用して縮む。物体内部の微小部分を考えてみると、微小部分同士が隣り合った位置では、伸びや縮みの変位に差異が生じ、そこには、せん断応力(Shearing stress )が生じており、それによって、ひずみ(Shearing strain )が生ずる。なお、図6のAに太線で示すように、物体の一部分に伸縮の変位が無い(0)面として、いわゆる中立面があるが、その中立面も含み、全ての位置でせん断ひずみが生じる。そして、それは一定の方向に生じる。
【0052】
また、曲げにより断面積が変化し、内部の圧力が変化する。断面形状が変化することにより、物体内部には、圧力の上昇する部分と低下する部分が生ずる。さらに、外周が引っ張り、内周が圧縮されるので、内周部分では、圧力が高く、外周付近では圧力が低くなっている。
【0053】
即ち、曲げには、内部で引っ張り、圧縮、せん断、圧力が様々に作用していることになる。細胞構成体2に曲げ運動を作用させると、引っ張り、圧縮、せん断、圧力により、細胞構成体2の内部は微妙に変形する。ここで、圧力による液体の収縮率は無視できるほど微量であることから、曲げ運動によるひずみは、細胞構成体2に繰り返し圧力をかける方法に比べて、はるかに大きなひずみを生じさせることができる。これにより、曲げの作用は、細胞や栄養、酸素、老廃物等の移動、供給というような効果を更に大きくすることが可能となるとともに、曲げる方向に対して、ある特定な方向で引張りや圧縮のせん断力が発生するので、形成される組織配列を一様にすることができる。
【0054】
従って、曲げ運動に適した細胞であれば、増殖が促進されるとともに、組織配列まで生体内の組織を模倣したものが培養できる。さらに、曲げと並行して、圧力の付加を併用することにより、効果を拡大できる。
【0055】
そこで、細胞構成体2のモデルとして、ゲル円柱を曲げた場合に生じる伸び等を、図6を参照して、解析する。
【0056】
図6のAに斜線で示すように、曲げる前の直径がdであるゲル円柱の長手方向の断面を示した図6のBについて考える。変形前の横の長さをLとし、また、ゲル円柱の中心線について、曲率半径がrとなるように曲げたとする。曲げる前のゲル円柱の高さはd(=直径)であり、そのdを曲げの内側から外側まで、m個に区切る。ゲル円柱の中心線を0とし、内側に向かって−n番、外側に向かって+n番の Sectionとする。なお、図6のBでは、一例として、ゲル円柱を10の Sectionに分割し、このゲル円柱を分割している各線とゲル円柱の側面との接点を変位の算定位置として、曲げの内側から外側に向かって1から11までの Section位置を示している。
【0057】
長さ方向への伸びをΔLn、厚み方向の変位をΔRn、トータルの変位をDnとする。曲げによる長さ方向(円周方向)の変位について解析を行う。長さLのゲルが曲げの内周では、収縮し、外周では伸びる。曲げる前の円柱の中心線を中立面とすると、圧縮応力と引張り応力が等しい。n番目の Sectionでの曲率半径rn は、
【0058】
【数1】
となり、n番目の Sectionの弦長は、
【0059】
【数2】
である。そこで、長さ方向への伸びΔLnは、
【0060】
【数3】
となる。式(1) を式(3) に代入すると、
【0061】
【数4】
となる。
【0062】
次に、厚み方向(曲率半径方向)の変位ΔRnについて解析を行う。曲げたときに最も内側になる部分からn個分の Sectionが曲げられると、変形前は長方形だったその部分が、面積を保ちながら扇形となる。ゲル円柱を曲げると、上記のように、長さ方向が変化するので、その分だけ厚みが変化する。この考え方から厚み方向の変位を算出する。曲げたとき、最も内側となる面までの中心からの距離rO は、
【0063】
【数5】
である。最内側からn番目の Sectionまでの長方形の面積Snsは、
【0064】
【数6】
であり、最内側からn番目の Sectionまでの扇形の面積Snは、
【0065】
【数7】
となる。SnsとSnは同面積(Sns=Sn)を維持すると、式 (6)、式(7) より、
【0066】
【数8】
となる。ここで、式(8) に式(5) を代入すると、
【0067】
【数9】
となる。
【0068】
曲げる前のn番目の Sectionについて、曲率中心からの距離rn は、
【0069】
【数10】
であり、これから曲げられたときの変位ΔRnは、
【0070】
【数11】
となる。従って、総合変位Dnは、
【0071】
【数12】
から求めることができる。
【0072】
以上の解析を利用して、ゲル円柱内部の変位を図7、図8、図9に示す。図7は、高さが10(=直径d、 Section数=10)の位置中央部におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図であり、図8は、高さが8( Section数=8)の位置(中央からずれた位置)におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図であり、図9は、高さが4( Section数=4)の位置(中央からさらにずれた位置)におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図である。
【0073】
詳細には、直径10(d=10)のゲル円柱を曲率半径50(r=50)で曲げた場合の変化を解析しており、円柱をタテ、ヨコ10の Sectionに区切り、長さの変位は10(L=10)に対する値とする。これを円柱の円形面側から見て、高さが10(円の中心を区切る Section、図7のA)の場合と、高さが8(図8のA)の場合と、高さが4(図9のA)の場合とに分けてグラフ化している。各図は、共に横軸に変位の算出位置を表すSection 位置を取り、縦軸に総変位(Dn)、厚み方向への変位(ΔRn)、長さ方向への伸び(ΔLn)を取り、高さに変位量を取っている。
【0074】
上記の解析結果から、円柱を曲げると、その円形断面上のある点と、隣接する点との間では、必ず変位の大きさや方向に差異が生ずることが判る。この差異によって、円柱のあらゆる部分にせん断応力が生ずる。但し、ある点の長さ方向の線上では、同等の変位と応力が生じている。
【0075】
〔第2の実施の形態〕
【0076】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る細胞又は組織の培養方法について、図10及び図11を参照して説明する。図10は、第2の実施の形態における細胞構成体2の形態を示す図であり、図11は、その細胞構成体2を培養ベッド4に載置した状態を示す図である。図10、図11、において、第1の実施の形態と同一部分及び同一構成には同一符号を付してある。
【0077】
この実施の形態では、第1の実施の形態に係る培養方法において、不定形な細胞構成体2を半透膜製のチューブ42に封入して培養を行う。例えば、培養液やハイドロゲルに細胞を浮遊させたり、もしくは、ゲル状担体に細胞を混ぜた不定形な細胞構成体2に対し、半透膜製のチューブ42が型枠とならないことにより、培養後においても不定形組織となり、生体組織間に注入する等の用途に応じた組織を培養することが可能となる。なお、上記のゲル状の物質は、例えば、生体吸収材料で構成される。
【0078】
このような細胞構成体2(図10)においても、既述の培養方法(図2)を用いて同様に培養することができるが、この場合、前処理では、柔軟性の高いチューブ42を用いるため、その開口断面形状が不定形であり、チューブ42の両端開口の封止には封止栓34(図3)に代え、チューブ42の持つ柔軟性を利用するとともに、専用のクリップ44で封止する。即ち、チューブ42から細胞構成体2が流出するのを防止するため、チューブ42の両端を折り返し、重なり部分をクリップ44で封止する等の処理を施す。また、曲げ運動によるチューブ42の破裂防止やチューブ42内での細胞構成体2の移動スペースを作る等により、チューブ42への細胞構成体2の封入は、満杯状態とならないような適当な量を封入する必要がある。培養する目的の量にもよるが、例えば半透膜製のチューブ42の断面が楕円形状となるように封入する。
【0079】
以上のようにチューブ42に封入された細胞構成体2は、図11に示すように、培養ベッド4に取り付けられる。培養ベッド4への載置処理については、第1の実施の形態と同様に、細胞構成体2を封入したチューブ42を押え部26、28の間に設けた間隔30を通して、各立壁部8、10に設けた透孔部12にチューブ42の両端を通すとともに、チューブ42の中間部が載置部6と押え部26又は28の間に位置するように配置させる。このように載置することで、既述の培養処理における曲げ運動により、培養ベッド4の載置部6の湾曲及びその解除に応じて、細胞構成体2への曲げ運動が可能となる。
【0080】
このような構成において、第1の実施の形態と同様に培養処理を施すことで、上記したように、不定形な細胞構成体2の培養が可能となる。
【0081】
なお、細胞構成体2と培養ベッド4の固定については、上記の他、例えば、クリップ44でチューブ42と培養ベッド4とを共に挟み込むようにする構成や、クリップ44に培養ベッド4との固定用のクリップを併設したような構成であってもよい。
【0082】
〔第3の実施の形態〕
【0083】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る細胞又は組織の培養方法について、図12を参照して説明する。図12は、第3の実施の形態に係る細胞構成体2の形態を示す図である。図12において、第1の実施の形態と同一部分及び同一構成には同一符号を付してある。
【0084】
この実施の形態では、第1の実施の形態に係る培養方法に対して、細胞を定形の細胞担体(三次元スキャフォールド)48に播種し、定形の細胞構成体2を作成し、半透膜製のチューブ32に封入して培養を行う構成である。具体的には、培養液やハイドロゲルに細胞を浮遊させたり、ゲル状担体に細胞を混ぜるようにしてもよい。また、定形構成体として、培養液に細胞を浮遊させ、これをコラーゲンスポンジ、キトサンスポンジ等の細胞担体に入れ、細胞を付着させたり、ゾルの状態で担体に細胞を混入させ、これをコラーゲンスポンジ、キトサンスポンジ等の細胞担体に入れ、細胞を付着させるとともに、ゲル化させるようにしてもよい。なお、三次元スキャフォールド及びゲル状物質は、例えば、生体吸収材料等で構成される。培養方法に関しては、上記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0085】
上記構成により、予め定形の細胞構成体2を用いることで、所望の形状、又は大きさの新生組織を培養することが可能となる。
【0086】
〔第4の実施の形態〕
【0087】
次に、本発明の第4の実施の形態に係る細胞又は組織の培養システムについて、図13を参照して説明する。図13は、細胞又は組織の培養システムを示す図である。図13において、第1の実施の形態と同一部分及び同一構成には同一符号を付し説明を省略する。
【0088】
この実施の形態では、第1の実施の形態から第3の実施の形態に係る細胞又は組織の培養方法において、培養液の循環や、随時、新鮮な培養液を供給させるとともに、培養室の温度や圧力、供給する混合ガスGの濃度等を制御して培養する培養システム50を構成している。
【0089】
培養システム50には、培養装置であるインキュベータ52が用いられる。このインキュベータ52の培養室53には、培養ユニット54、培養回路56、アクチュエータ58、温度調節器60、ガス濃度調節器62、加圧装置64が設置され、これらはインキュベータ52の外部にある制御装置66で制御される。
【0090】
培養ユニット54は細胞構成体2に圧力や前記のように力F等を付与して培養する培養手段であって、その内部には既述の培養空間である培養チャンバ36が形成されている。加圧装置64は、制御装置66で制御され、培養チャンバ36内の培養ベッド4の下面側に圧力Pを作用させる。
【0091】
培養回路56は、培養手段への培養液38等の供給及び循環する手段であって、培養液38を溜める培養液溜70と、培養液38や培養室53に混合ガスG(窒素、酸素、二酸化炭素等)を供給するガス交換部72と、ポンプ74と、逆止弁76と、培養ユニット54と、培養室53や培養チャンバ36内の圧力を調節する圧力調節弁78とを連結する循環チューブ80により構成されている。
【0092】
ポンプ74は、例えばピストン式ポンプ、シリンジポンプ、ペリスタルティックポンプが使用できる。ポンプ74の駆動、圧力調節弁78の開閉、その開度等が制御装置66によって調整される。アクチュエータ58は、培養ユニット54が細胞構成体2に力Fを付加するための駆動源である。温度調節器60は、培養室53及び培養チャンバ36内の温度を調節する。ガス濃度調節器62は、培養液溜70や培養液38に供給する混合ガスG(窒素、酸素、二酸化炭素等)の濃度調節を行う。そして、制御装置66は、これら各機能部の制御を行い、具体的には、温度調節やガス濃度の調節等をまとめて制御する他、培養液溜70の循環やポンプ74の動作、アクチュエータ58の動作等の制御を行う。
【0093】
このような培養システム50により既述の培養処理を行えば、曲げ運動を負荷した培養処理が行えるとともに、培養回路56による、培養チャンバ36への培養液38の供給及び老廃物等の排除が可能となる。また、加圧装置64により、培養ユニット54への加圧を連続的、断続的、又は、周期的等に制御でき、温度や圧力を所望の状態に保ちながら培養を行うことができる。この結果、効率的且つ信頼性の高い培養が行える。
【0094】
この培養システム50では、培養液溜70、アクチュエータ58、ポンプ74をインキュベータ52の内部に設置しているが、これに限定されるものではなく、これらの全部又は一部をインキュベータ52の外部に構成するようにしてもよい。また、アクチュエーター58の動作は、加圧装置64で培養チャンバ36への加圧と、培養液38を供給するポンプ74等の動作とを連動させるようにしてもよく、また、培養処理の途中で中断するようにして、曲げ運動を周期的又は断続的に負荷すれば、細胞に効果的な刺激を与えることができる。
【0095】
〔他の実施の形態〕
【0096】
上記実施の形態では、培養物である細胞構成体2に対し、培養ベッド4の背面側から力Fを付加し、培養ベッド4を上方に湾曲させることにより細胞構成体2を曲げているが、培養ベッド4もしくは、細胞構成体2自体に所定の曲げ変位を付与するようにしてもよい。また、この処理では、連続的又は断続的に付与したり、連続又は断続する張力を周期的に付与するようにしてもよい。このような構成においても、細胞構成体2に所定の曲げを施すことができる。
【0097】
〔実施の形態から抽出される特徴事項〕
【0098】
次に、以上述べた各実施の形態から抽出される特徴事項に関し、特許請求の範囲に記載した事項以外の特徴事項を以下に列挙する。列挙した特徴事項に本発明が限定されるものではない。
【0099】
(1) 上記培養方法において、
前記曲げ運動は、周期的又は断続的に行うことを特徴とする培養方法。
【0100】
(2) 上記培養方法において、
前記培養物には、細胞、細胞担体、前記細胞が産出する細胞外マトリクス、培養液の何れかを含むことを特徴とする培養方法。
【0101】
(3) 上記培養方法において、
前記培養物は、細胞が播種された三次元培養担体であることを特徴とする培養方法。
【0102】
(4) 上記培養方法において、
前記培養物は、ゲル状物質を含むことを特徴とする培養方法。
【0103】
(5) 上記培養方法において、
前記三次元培養担体は、生体吸収性材料であることを特徴とする培養方法。
【0104】
(6) 上記培養方法において、
前記ゲル状物質は、生体吸収性材料であることを特徴とする培養方法。
【0105】
(7) 上記培養方法において、
前記培養物に連続する張力を付与する処理、断続する張力を付与する処理、連続又は断続する張力を周期的に付与する処理の何れかを含むことを特徴とする培養方法。
【0106】
(8) 上記培養方法において、
前記培養物を加圧する処理を含み、前記加圧は、連続し、又は断続し、又は周期的に変化し、不規則に変化することを特徴とする培養方法。
【0107】
〔実験結果〕
【0108】
次に、本発明の培養方法を用いた実験結果について、図14ないし図18を参照して説明する。
【0109】
図14は、細胞構成体を示し、この細胞構成体は、培養液中に浮遊させた細胞を半透膜のチューブに入れて構成されている。図15に示すように、細胞構成体は培養ベッドに固定され、培養チャンバに収容される。この場合、駆動部は培養チャンバから分離されている。
【0110】
培養ユニットにはアクチュエータからの加圧が作用し、細胞構成体に曲げ動作が付加される。アクチュエータは、培養室の外に置かれ、ケーブルは培養室のドアを貫通させ、駆動部に接続されている。アクチュエータの動作状態は表示装置により確認できる。
【0111】
アクチュエータは、モータの回転運動をクランクで直線運動に変換しており、クランクアームの長さ選択により、ワイヤの進退幅が調節でき、これに応じて細胞構成体に付与される曲げの大きさが調節される。
【0112】
この実験では、加圧動作に関し、大気圧を維持し、曲げ動作だけに限定し、培養液循環を行った。圧力と、アクチュエータによる曲げ動作は個々に無関係に単独で付加した。この実験では、例えば、0.5〔MPa〕以上の加圧を付与することも考えられる。
【0113】
また、図16ないし図18は、脊椎器官の培養実験(Vertebrae organ culture of 2 days old mouse )を示している。実験は、生後2日のマウスから取り出した脊椎を培養ベッドに設置し(図16)、0.1〔Hz〕の周波数で曲げ動作を付加し、10日間の培養を実施した。この実験では加圧はしていない。
【0114】
比較例として、静置培養を行った。図17及び図18は、10日間の静置培養(Static 10 days)を示している。10日後に、器官の断面をトルイジンブルー染色し、細胞の生存状況を観測した。図中、着色部分は明示できないが、明度の低下している部分(染色部分)が生きた細胞の存在を表している。静置培養では、椎間板内部の細胞密度が上がらず、マトリクスの変性が見られた(図17のa)。
【0115】
これに対し、曲げ動作、Displacement(変位)を付加した脊椎には、椎間板内部の細胞の増生並びに新生マトリクスの蓄積が認められた(図18のb)。
【0116】
この実験結果から、曲げ動作を付与した培養は、静置培養と比較し、細胞の増生並びに新生マトリクスの堆積が見られることから、その曲げ動作が細胞構成体に刺激を与えるとともに、物質移動を促進させていることを推察することができる。
【0117】
以上の通り、本発明の最も好ましい実施の形態等について説明したが、本発明は、上記記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載され、又は明細書に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能であることは勿論であり、斯かる変形や変更が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、細胞又は組織の培養方法に関し、細胞構成体に曲げ運動による刺激を与えたり、血管のない新生組織内の物質移動を促すことで、細胞の増殖を促進する他、生体内の組織を模倣した状態の培養をすることができ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】第1の実施の形態に係る培養ベッドの構成例を示す図である。
【図2】培養の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】培養処理される細胞構成体の形態を示す図である。
【図4】細胞構成体を培養ベッドに載置した状態を示す図である。
【図5】細胞構成体に対する曲げ運動の付与及びその解除を示す図である。
【図6】曲げ状態における細胞構成体が受ける力及び変位に関する解析に関する図である。
【図7】高さ位置におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図である。
【図8】高さ位置におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図である。
【図9】高さ位置におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図である
【図10】第2の実施の形態に係る細胞構成体の形態を示す図である。
【図11】細胞構成体を培養ベッドに載置した状態を示す図である。
【図12】第3の実施の形態に係る細胞構成体の形態を示す図である。
【図13】第4の実施の形態に係る細胞又は組織の培養システムを示す図である。
【図14】実験例を示す図である。
【図15】実験例を示す図である。
【図16】実験例を示す図である。
【図17】実験例を示す図である。
【図18】実験例を示す図である。
【符号の説明】
【0120】
2 細胞構成体
4 培養ベッド
6 載置部
14、16 支持面
26、28 押え部
32 チューブ
36 培養チャンバ
38 培養液
40 支持部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療分野、ティッシュエンジニアリング(Tissue Engineering)の分野における細胞又は組織の培養に関し、三次元組織又は器官再生のための三次元組織培養方法、具体的には、細胞構成体(Cell construct)として、細胞、細胞担体(Scaffold)、細胞が産出する細胞外マトリクス(Extracellar Matrix:ECM)の何れかを含み、場合により、培養液や、その他の添加物や、グロスファクター或いは薬品等を添加して行う培養方法に関する。
【0002】
要するに、本発明の培養方法は、従来における静置培養と異なり、物理作用併用の三次元培養に関する方法であり、細胞構成体の細胞に積極的に刺激を与え、細胞構成体に変位を与え、増殖、細胞移動、物質移動を促して細胞の生存力を高めるとともに、分化の誘導あるいは脱分化の抑止により、目的とする再生組織の実現を企図するものである。
【背景技術】
【0003】
細胞や組織の培養には、培養しようとする細胞や組織に圧力や張力等の物理刺激を与える方法が検討され、各種のバイオリアクタ等が提案されている。二次元培養(平面培養)は、平底培養基材を用いる培養方法であり、一般的には、インキュベータ内での静置培養法である。浮遊培養は、非接着性の細胞を浮遊培養する方法である。これもインキュベータ内での静置培養法である。三次元培養は、細胞を播種した細胞担体をインキュベータ内で静置し、培養するのが一般的方法である。三次元培養(バイオリアクタ使用)は、細胞担体に細胞を接着又は包含させ、培養液の攪拌等の処理を行うのが一般的であるが、細胞担体の三次元培養で細胞に加圧、圧縮、張力、せん断等の物理的作用を付加する培養方法も考えられている。物理的作用を与えるための培養装置は、「バイオリアクタ」、「 ティッシュエンジニアリングプロセッサ」 等と称され、ティッシュエンジニアリングの培養実験や再生医療のための体外(in vitro)における細胞・組織培養装置として実用化されつつある。
【0004】
このような細胞や組織の培養、その培養に用いられる物理的な変位や応力、刺激を与える機能を有するバイオリアクタに関し、圧力、振動(超音波)を用いる例として、特許文献1には、細胞又は組織の培養方法及びその装置が開示され、圧力を用いる例として、特許文献2には、生体内、生体外及び試験管内での軟骨及びコラーゲンの修復及び再生並びに骨再形成方法が開示され、せん断力を用いる例として、特許文献3には、細胞・組織培養装置が開示され、引っ張り力を用いる例として、特許文献4には、細胞・組織培養装置が開示され、圧縮力を用いる例として、特許文献5には、圧縮力を用いる例として、細胞・組織培養装置が開示され、せん断力を用いる例として、特許文献6には、細胞培養装置が開示され、引っ張り力を用いる例として、特許文献7には、シリコンベルトを使った培養細胞用伸縮刺激負荷装置が開示され、引っ張りとせん断とを併用する例として、特許文献8には、組織、 合成又は天然血管移植片の滅菌、接種、培養、保存、輸送、並びに検査を行う装置及び方法が開示されている。また、特許文献9には、膜体状に保持された細胞に膜体によって歪みを生じさせる培養方法等が開示されている。また、特許文献10及び特許文献11には、培養に半透膜を利用することが開示されている。様々な物理的作用及び刺激の付与や、半透膜の利用による細胞等の培養についての試みがなされている。
【特許文献1】特開2001−238663号公報(要約等)
【特許文献2】特表2004−512031号公報(要約等)
【特許文献3】特開2002−315566号公報(要約等)
【特許文献4】特開2003−061642号公報(要約等)
【特許文献5】特開2003−180331号公報(要約等)
【特許文献6】特開平09−313166号公報(要約等)
【特許文献7】特開平10−155475号公報(要約等)
【特許文献8】特表平11−504216号公報(要約等)
【特許文献9】特開2005−143343号公報(要約等)
【特許文献10】WO2006/015304A2(要約等)
【特許文献11】特表2000−513214号公報(要約等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、人体には、種々の応力を受けている部位が存在し、これらの部位の修復に用いる組織はその部位毎に異なるものである。例えば、椎間板、半月板、骨、繊維軟骨、心臓の弁では体内で曲げ力を受けている。この曲げ応力は、単純な圧力、圧縮、引っ張り、せん断等とは異なるものである。斯かる曲げ力を受けている部位に対し、単純な圧力、圧縮、引っ張り、せん断等の刺激ファクタを以て培養された組織を適用させることは不十分である。
【0006】
本発明者は、培養する細胞や組織に付与する刺激又は負荷として、曲げが細胞や組織の増殖等に極めて有益であることに気づいた。本発明は、斯かる知見に基づくものであり、このような曲げに関し、特許文献1ないし特許文献11には開示されておらず、その示唆もない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、細胞及び/又は組織を含む培養物の培養方法に関し、人等の体の部位に適正な細胞及び/又は組織の培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、細胞及び/又は組織を含む培養物の培養方法に関し、細胞及び/又は組織を含む培養物に曲げ力を作用させて培養物を曲げることにより、具体的には、湾曲させることにより、その凹の部分から凸の部分の厚み方向に連続的な圧縮と伸長とを生じさせ、従前の加圧、せん断、引っ張りでは得られない物理的な刺激や変形を培養物に負荷することにより、曲げを伴う部位の組織の修復に適合する培養物を実現するものである。
【0009】
そこで、上記目的を達成するための本発明の第1の側面は、細胞及び/又は組織を含む培養物の培養方法であって、前記培養物に曲げ運動を負荷するステップを含む構成である。
【0010】
上記目的を達成するためには、上記培養方法において、好ましくは、前記曲げ運動は、前記培養物を湾曲状態にする処理を含む構成としてもよい。
【0011】
上記目的を達成するためには、上記培養方法において、好ましくは、湾曲可能なベッドに前記培養物を設置するステップを含み、前記曲げ運動は、前記ベッドを媒介にして行う構成としてもよい。
【0012】
上記目的を達成するためには、上記培養方法において、好ましくは、前記ベッドは、その両端を移動可能に支持し、中央部に荷重を負荷することにより、湾曲させる構成としてもよい。
【0013】
上記目的を達成するためには、上記培養方法において、好ましくは、前記培養物は、半透膜で密封されている構成としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、次の効果が得られる。
【0015】
(1) 培養中に培養物を曲げる等の変位(応力) を加えるので、培養物の培養を促進でき、例えば、椎間板等の体内で曲げ力を受ける組織の再生に使用することができる。
【0016】
(2) 幹細胞は分化を、組織細胞は脱分化を防ぐことが期待できる。
【0017】
(3) 組織構造等に方向性がある場合、その配列方向を一様にでき、体内の組織と同等のものが得られる。
【0018】
(4) 圧力等、他の物理作用を排除し、又は最小にして曲げ作用で必要な組織の培養ができる。
【0019】
(5) 細胞移動をし易くすることができる。
【0020】
(6) 栄養物、酸素を三次元細胞構成体の内部まで浸透させることができる。
【0021】
(7) 老廃物の排出がし易くなる。
【0022】
(8) 半透膜で細胞の存在部分と培養液の部分を分離すれば、培養液の流れによるせん断力が排除され、曲げや圧力に限定した作用で培養できる。
【0023】
(9) 半透膜で細胞の存在部分と培養液の部分を分離すれば、スキャフォールドが無くても、スフェロイド化し、三次元組織化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
〔第1の実施の形態〕
【0025】
本発明の第1の実施の形態に係る細胞又は組織の培養方法について説明する。
【0026】
この細胞又は組織の培養方法には、培養物の一例として細胞構成体2(図3)が用いられる。この細胞構成体2は、細胞、細胞担体(Scaffold)、前記細胞が産出する細胞外マトリクス(Extracellar Matrix)の何れかを含み、場合により、培養液や、その他の添加物や、グロスファクター或いは薬品等を添加してもよい。例えば、細胞を浮遊させた培養液、細胞が播種された三次元スキャフォールドとゲル状物質や他の担体を複合させたもの、また、これらを半透膜(Semi-permeable membrane )製の袋やチューブに封入した構成であってもよい。三次元スキャフォールド及びゲル状物質は、例えば、生体吸収性材料等で構成される。
【0027】
上記の細胞構成体2を封入する半透膜は、通過できる分子の大きさに応じて作られている。例えば、透過分子量が100〔Da〕(ダルトン)から1000〔kDa〕の半透膜の中から選択して使用される。即ち、培養液中の栄養分、必要な酸素等のガスや細胞が出した老廃物等の低分子の物質等は通過し、細胞や高分子の細胞外マトリクスを通過させないような半透膜を選択し、細胞を閉じ込めれば、細胞や細胞外マトリクスの流失を防ぎながら、栄養分と酸素の供給が可能となり、効率的な培養が実現する。
【0028】
この細胞構成体2の培養には、培養ベッド4が用いられる。図1は、この培養ベッドの構成例を示す図である。
【0029】
この培養ベッド4は、細胞構成体2を支持するとともに、細胞構成体2に対する運動の付与のための手段であって、保持した細胞構成体2に変位動作を伝達し、培養ベッド4が持つ弾性により、細胞構成体2を変位動作前の状態に戻す機能部を構成する。
【0030】
そこで、この培養ベッド4には、2つの細胞構成体2が平行に載置可能な載置部6が備えられ、この載置部6は、各細胞構成体2を平行に載置する面積及び形状を持ち、各細胞構成体2に曲げ運動を付与するために弾性材料で形成された板状部である。弾性材料として例えば、ばね用ステンレス鋼板やその他のばね性の高い材料が用いられる。この場合、培養ベッド4の全体を弾性材料で形成してもよく、曲げ運動を可能にする載置部6又はその一部を弾性材料で形成してもよい。載置部6は、フラットな板状部に限定されるものではなく、ネット状であってもよい。また、載置部6は、単一の細胞構成体2を載置する構成でもよく、3以上の細胞構成体2を載置可能な構成としてもよい。
【0031】
この載置部6は長方形状であって、その長手方向の端部には長方形状の立壁部8、10が形成され、各立壁部8、10は載置部6に対して直角をなすとともに、各細胞構成体2に対応する楕円形の透孔部12が形成されている。これらの透孔部12は、細胞構成体2の両端を固定する。また、各立壁部8、10は、各細胞構成体2の大きさに応じて所定の高さhに設定されている。
【0032】
各立壁部8、10の頂部には、載置部6と平行面して一定幅を持つ支持面部14、16が形成され、各支持面部14、16には、その一部を折り返して各立壁部8、10と平行に折返し部18が形成されている。各折返し部18により、各支持面部14、16及び各立壁部8、10が補強されている。即ち、薄い板状部からなる載置部6と同一の板材で各支持面部14、16及び各立壁部8、10を形成しても十分な強度が得られるとともに、培養ベッド4の軽量化が図られる。この実施の形態の培養ベッド4では、支持面部14側を固定するため、図示しない固定ピンに対応するU字形の切欠部20が形成されている。
【0033】
また、載置部6の中間縁部には、載置される細胞構成体2の側面部を支える支持壁部22、24が形成され、各支持壁部22、24の頂部には、細胞構成体2の上面部を覆う押え部26、28が形成されている。各支持壁部22、24は載置部6と直交する壁部であって、その高さは既述の立壁部8、10と同様である。また、各押え部26、28は載置部6と平行面を構成している。細胞構成体2は載置部6と各押え部26、28との間隔内に配置される。各押え部26、28の終端部は曲面部を構成し、両者間には細胞構成体2の着脱のための間隔30が設定されている。
【0034】
次に、細胞構成体2の培養方法について、図2、図3、図4及び図5を参照して説明する。図2は、培養の処理手順を示すフローチャート、図3は、培養処理される細胞構成体の形態を示す図、図4は、細胞構成体の培養ベッドへの設置を示す図、図5は、細胞構成体に対する曲げ運動の付与及びその解除を示す図である。
【0035】
図2に示すように、細胞構成体2の培養処理は、前処理(ステップS1)、培養処理(ステップS2)及び後処理(ステップS3)を含んでいる。前処理には、細胞構成体2の形成、半透膜への封入処理等が含まれる。培養処理には、曲げ運動処理を含み、湾曲処理(ステップS21)、湾曲解除(ステップS22)、湾曲処理(ステップS23)・・・湾曲解除(ステップS2N)の繰り返しが実行される。そして、後処理では、培養を終了した細胞構成体2の培養ベッド4からの取り出し等が含まれる。
【0036】
(1) 前処理(ステップS1)
【0037】
細胞構成体2の形成では、体内から組織や細胞を取り出し、また、取り出した組織を酵素等で分解し、必要とする細胞の選別を行う。また、選別した細胞数を増やす必要がある場合には、前処理の段階で単層培養等によって、細胞の数を増やす処理を行ってもよい。そして、得られた細胞について、培養液、ハイドロゲル、ゲル状スキャフォールドを組み合わせて細胞構成体2を作成する。その他、不定形構成体として、培養液やハイドロゲルに細胞を浮遊させたり、ゲル状担体に細胞を混ぜるようにしてもよい。また、定形構成体として、培養液に細胞を浮遊させ、これをコラーゲンスポンジ、キトサンスポンジ等の細胞担体に入れ、細胞を付着させたり、ゾルの状態で担体に細胞を混入させ、これをコラーゲンスポンジ、キトサンスポンジ等の細胞担体に入れ、細胞を付着させるとともに、ゲル化させるようにしてもよい。また、必要に応じて成長因子や薬剤等を添加してもよい。
【0038】
そして、図3に示すように、培養物である細胞構成体2を筒状の半透膜製のチューブ32に封入して培養を行う。半透膜製のチューブ32の一端に、例えば半透膜からなる封止栓34を設置し、他端から上記の細胞構成体2を入れ、同様に封止栓34で封止することにより、細胞構成体2を密封する。なお、細胞構成体2を封入するチューブ32の大きさについては、培養するものの目的、及び細胞構成体2の種類等に応じて変えるようにしてもよい。
【0039】
そして、図4のA及びBに示すように、チューブ32に密封された細胞構成体2を、培養ベッド4の載置部6に載置させる。培養ベッド4への載置処理は、細胞構成体2を封入したチューブ32を押え部26、28の間に設けた間隔30を通して、各立壁部8、10に設けた透孔部12にチューブ32の両端を通すとともに、チューブ32の中間部が載置部6と押え部26又は28の間に位置するように配置させる。この実施の形態においては、チューブ32を2本並べて載置するようにしているが、本数については、これに限定されるものではない。また、この実施の形態では、透孔部12にチューブ32の両端を挿通させて固定しているが、チューブの大きさに応じて、例えば、専用クリップ等で培養ベッド4に支持させるようにしてもよい。
【0040】
このように載置することで、後述する培養処理において、例えば、培養ベッド4の底部側に加える力による培養ベッド4の湾曲及びその解除に対し、各透孔部12及び押え部26、28によりチューブ32が支持されて、培養ベッド4とともに湾曲及び戻り動作をさせることができ、曲げ運動が可能となる。
【0041】
(2) 培養処理(ステップS2)
【0042】
培養処理では、図5のAに示すように、チューブ32に封入された細胞構成体2を、培養ベッド4とともに培養空間である培養チャンバ36に移送し、その培養チャンバ36内に培養液38の供給をする。培養チャンバ36にセットしたら、培養液38等が流出したり、外部からの雑菌混入を防止するため、例えば、カバー等により培養チャンバ36を密封状態にする。また、培養チャンバ36に設置された培養ベッド4は、その支持面14、16が支持部材40によって支持されている。これにより、後述する背面側からの力Fの付加によっても、培養ベッド4に上下のずれを生じさせず、培養ベッド4及びチューブ32を湾曲させることができる。なお、培養チャンバ36について、密封状態を維持しつつ、培養処理中に培養液38を循環供給させるような構成にしてもよい。この場合、培養液38は、培養チャンバ36に連続的に循環させてもよく、定期的に交換する構成であってもよい。
【0043】
培養ベッド4の背面側から、例えば、図示しないレバー等により、力Fを負荷させると、図5のBに示すように、培養ベッド4の載置部6が力Fによって上方に湾曲し、この湾曲により、載置部6上のチューブ32も湾曲する。即ち、細胞構成体2には曲げが生じる。この曲げ状態から力Fを解除すると、培養ベッド4の載置部6は弾性により、原形状に復帰し、平坦になるため、載置部6上の細胞構成体2も平坦状態に移行し、再び図5のAに示す状態となる。。この場合、チューブ32の上面部には、培養ベッド4の押え部26、28が存在しており、上方に凸に変形したチューブ32は、載置部6の復帰に応じて、チューブ32の両端を通過させている透孔部12や押え部26、28に押さえつけられ、載置部6の原状復帰に応じて平坦化する。以上のように、透孔部12及び押え部26、28によって、チューブ32に封入された細胞構成体2には、培養ベッド4の湾曲及び平坦化の変位量と同程度の変位量が与えられるため、付加する力Fによる移動量を制御することで、細胞構成体2に与える曲げ運動量も制御することが可能となる。
【0044】
そして、このような曲げ運動が繰り返され(ステップS21〜ステップS2N)、必要な培養時間の経過により、チューブ32内に細胞が増殖するとともに、細胞外マトリクス等が産出され、不定形な、あるいは定形な新生組織が再生される。なお、曲げ動作の周期や大きさ、動作スケジュール、培養チャンバ36内の温度設定等は、培養処理開始前に最適なパターン等により予め設定する他、細胞又は組織の培養状態に応じて、任意に設定するようにしてもよい。また、必要に応じて培養チャンバ36内に圧力をかけて培養する構成としてもよい。
【0045】
このように、培養に半透膜製のチューブ32を用いた場合、培養液と培養物との間に生じるせん断力の発生を防ぐとともに、細胞や細胞外マトリクスの流失を防ぎながら、栄養分と酸素の供給が可能となり、効率的な培養が実現するが、栄養物の通過の抵抗になるため、栄養物の供給に障害が生じるおそれがある。しかし、 上記のように、曲げ動作を付加することにより、内部の変位が能動的に上昇し、圧力の差が生じ、栄養分の移動がし易くなるとともに、細胞に物理的刺激が与えられる。これにより、血管のない段階の細胞構成体2や、血管のない組織においては、曲げ動作が血管や心臓の働きを代行して培養を行うことができる。
【0046】
(3) 後処理(ステップS3)
【0047】
培養を完了した細胞構成体2は、培養ベッド4とともに培養チャンバ36(図5)から取り出される。そして、培養ベッド4から細胞構成体2を封入したチューブ32を取り外し、その内部で増殖した細胞や、産出した細胞外マトリクス等の新生組織を取り出す。取り出された新生組織は品質検査等を行い、人体等の治療に用いられるまで保存される。
【0048】
培養された新生組織は、例えば、定形組織であれば、縫合等の手段により、そのまま人体に移植され、また、不定形組織であれば、欠損部に注入したり、組織の形状に合わせて塗布、又は成形して固定させる等の処理をすることにより、体内で周囲の組織と融合し、組織化させることが可能となる。
【0049】
次に、細胞構成体2の培養方法における、曲げ運動と培養について、図6を参照して説明する。図6は、曲げ状態において円柱状の細胞構成体が受ける力及び変位に関する解析に用いる図である。
【0050】
培養ベッド4は、上記したように、培養チャンバ36内で上下等にずれないように所定の位置で支持されており、また、細胞構成体2も培養ベッド4に固定されていることから、図5に示すように、培養ベッド4の背面側から力Fが付加されると、培養ベッド4の載置部6が上方に湾曲し、細胞構成体2も培養ベッド4に沿って一緒に変形する。
【0051】
物体を曲げようとすると、曲げ応力(Bending stress)が発生する。そして、物体が曲がることにより、曲げひずみ(Bending strain)が生ずる。曲げられた物体の内部では様々なひずみが生ずる。即ち、図6に示すように、曲げの外周側(図6のBの上側)では引っ張り力が作用して伸び、内周側(図6のBの下側)では逆に圧縮力が作用して縮む。物体内部の微小部分を考えてみると、微小部分同士が隣り合った位置では、伸びや縮みの変位に差異が生じ、そこには、せん断応力(Shearing stress )が生じており、それによって、ひずみ(Shearing strain )が生ずる。なお、図6のAに太線で示すように、物体の一部分に伸縮の変位が無い(0)面として、いわゆる中立面があるが、その中立面も含み、全ての位置でせん断ひずみが生じる。そして、それは一定の方向に生じる。
【0052】
また、曲げにより断面積が変化し、内部の圧力が変化する。断面形状が変化することにより、物体内部には、圧力の上昇する部分と低下する部分が生ずる。さらに、外周が引っ張り、内周が圧縮されるので、内周部分では、圧力が高く、外周付近では圧力が低くなっている。
【0053】
即ち、曲げには、内部で引っ張り、圧縮、せん断、圧力が様々に作用していることになる。細胞構成体2に曲げ運動を作用させると、引っ張り、圧縮、せん断、圧力により、細胞構成体2の内部は微妙に変形する。ここで、圧力による液体の収縮率は無視できるほど微量であることから、曲げ運動によるひずみは、細胞構成体2に繰り返し圧力をかける方法に比べて、はるかに大きなひずみを生じさせることができる。これにより、曲げの作用は、細胞や栄養、酸素、老廃物等の移動、供給というような効果を更に大きくすることが可能となるとともに、曲げる方向に対して、ある特定な方向で引張りや圧縮のせん断力が発生するので、形成される組織配列を一様にすることができる。
【0054】
従って、曲げ運動に適した細胞であれば、増殖が促進されるとともに、組織配列まで生体内の組織を模倣したものが培養できる。さらに、曲げと並行して、圧力の付加を併用することにより、効果を拡大できる。
【0055】
そこで、細胞構成体2のモデルとして、ゲル円柱を曲げた場合に生じる伸び等を、図6を参照して、解析する。
【0056】
図6のAに斜線で示すように、曲げる前の直径がdであるゲル円柱の長手方向の断面を示した図6のBについて考える。変形前の横の長さをLとし、また、ゲル円柱の中心線について、曲率半径がrとなるように曲げたとする。曲げる前のゲル円柱の高さはd(=直径)であり、そのdを曲げの内側から外側まで、m個に区切る。ゲル円柱の中心線を0とし、内側に向かって−n番、外側に向かって+n番の Sectionとする。なお、図6のBでは、一例として、ゲル円柱を10の Sectionに分割し、このゲル円柱を分割している各線とゲル円柱の側面との接点を変位の算定位置として、曲げの内側から外側に向かって1から11までの Section位置を示している。
【0057】
長さ方向への伸びをΔLn、厚み方向の変位をΔRn、トータルの変位をDnとする。曲げによる長さ方向(円周方向)の変位について解析を行う。長さLのゲルが曲げの内周では、収縮し、外周では伸びる。曲げる前の円柱の中心線を中立面とすると、圧縮応力と引張り応力が等しい。n番目の Sectionでの曲率半径rn は、
【0058】
【数1】
となり、n番目の Sectionの弦長は、
【0059】
【数2】
である。そこで、長さ方向への伸びΔLnは、
【0060】
【数3】
となる。式(1) を式(3) に代入すると、
【0061】
【数4】
となる。
【0062】
次に、厚み方向(曲率半径方向)の変位ΔRnについて解析を行う。曲げたときに最も内側になる部分からn個分の Sectionが曲げられると、変形前は長方形だったその部分が、面積を保ちながら扇形となる。ゲル円柱を曲げると、上記のように、長さ方向が変化するので、その分だけ厚みが変化する。この考え方から厚み方向の変位を算出する。曲げたとき、最も内側となる面までの中心からの距離rO は、
【0063】
【数5】
である。最内側からn番目の Sectionまでの長方形の面積Snsは、
【0064】
【数6】
であり、最内側からn番目の Sectionまでの扇形の面積Snは、
【0065】
【数7】
となる。SnsとSnは同面積(Sns=Sn)を維持すると、式 (6)、式(7) より、
【0066】
【数8】
となる。ここで、式(8) に式(5) を代入すると、
【0067】
【数9】
となる。
【0068】
曲げる前のn番目の Sectionについて、曲率中心からの距離rn は、
【0069】
【数10】
であり、これから曲げられたときの変位ΔRnは、
【0070】
【数11】
となる。従って、総合変位Dnは、
【0071】
【数12】
から求めることができる。
【0072】
以上の解析を利用して、ゲル円柱内部の変位を図7、図8、図9に示す。図7は、高さが10(=直径d、 Section数=10)の位置中央部におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図であり、図8は、高さが8( Section数=8)の位置(中央からずれた位置)におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図であり、図9は、高さが4( Section数=4)の位置(中央からさらにずれた位置)におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図である。
【0073】
詳細には、直径10(d=10)のゲル円柱を曲率半径50(r=50)で曲げた場合の変化を解析しており、円柱をタテ、ヨコ10の Sectionに区切り、長さの変位は10(L=10)に対する値とする。これを円柱の円形面側から見て、高さが10(円の中心を区切る Section、図7のA)の場合と、高さが8(図8のA)の場合と、高さが4(図9のA)の場合とに分けてグラフ化している。各図は、共に横軸に変位の算出位置を表すSection 位置を取り、縦軸に総変位(Dn)、厚み方向への変位(ΔRn)、長さ方向への伸び(ΔLn)を取り、高さに変位量を取っている。
【0074】
上記の解析結果から、円柱を曲げると、その円形断面上のある点と、隣接する点との間では、必ず変位の大きさや方向に差異が生ずることが判る。この差異によって、円柱のあらゆる部分にせん断応力が生ずる。但し、ある点の長さ方向の線上では、同等の変位と応力が生じている。
【0075】
〔第2の実施の形態〕
【0076】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る細胞又は組織の培養方法について、図10及び図11を参照して説明する。図10は、第2の実施の形態における細胞構成体2の形態を示す図であり、図11は、その細胞構成体2を培養ベッド4に載置した状態を示す図である。図10、図11、において、第1の実施の形態と同一部分及び同一構成には同一符号を付してある。
【0077】
この実施の形態では、第1の実施の形態に係る培養方法において、不定形な細胞構成体2を半透膜製のチューブ42に封入して培養を行う。例えば、培養液やハイドロゲルに細胞を浮遊させたり、もしくは、ゲル状担体に細胞を混ぜた不定形な細胞構成体2に対し、半透膜製のチューブ42が型枠とならないことにより、培養後においても不定形組織となり、生体組織間に注入する等の用途に応じた組織を培養することが可能となる。なお、上記のゲル状の物質は、例えば、生体吸収材料で構成される。
【0078】
このような細胞構成体2(図10)においても、既述の培養方法(図2)を用いて同様に培養することができるが、この場合、前処理では、柔軟性の高いチューブ42を用いるため、その開口断面形状が不定形であり、チューブ42の両端開口の封止には封止栓34(図3)に代え、チューブ42の持つ柔軟性を利用するとともに、専用のクリップ44で封止する。即ち、チューブ42から細胞構成体2が流出するのを防止するため、チューブ42の両端を折り返し、重なり部分をクリップ44で封止する等の処理を施す。また、曲げ運動によるチューブ42の破裂防止やチューブ42内での細胞構成体2の移動スペースを作る等により、チューブ42への細胞構成体2の封入は、満杯状態とならないような適当な量を封入する必要がある。培養する目的の量にもよるが、例えば半透膜製のチューブ42の断面が楕円形状となるように封入する。
【0079】
以上のようにチューブ42に封入された細胞構成体2は、図11に示すように、培養ベッド4に取り付けられる。培養ベッド4への載置処理については、第1の実施の形態と同様に、細胞構成体2を封入したチューブ42を押え部26、28の間に設けた間隔30を通して、各立壁部8、10に設けた透孔部12にチューブ42の両端を通すとともに、チューブ42の中間部が載置部6と押え部26又は28の間に位置するように配置させる。このように載置することで、既述の培養処理における曲げ運動により、培養ベッド4の載置部6の湾曲及びその解除に応じて、細胞構成体2への曲げ運動が可能となる。
【0080】
このような構成において、第1の実施の形態と同様に培養処理を施すことで、上記したように、不定形な細胞構成体2の培養が可能となる。
【0081】
なお、細胞構成体2と培養ベッド4の固定については、上記の他、例えば、クリップ44でチューブ42と培養ベッド4とを共に挟み込むようにする構成や、クリップ44に培養ベッド4との固定用のクリップを併設したような構成であってもよい。
【0082】
〔第3の実施の形態〕
【0083】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る細胞又は組織の培養方法について、図12を参照して説明する。図12は、第3の実施の形態に係る細胞構成体2の形態を示す図である。図12において、第1の実施の形態と同一部分及び同一構成には同一符号を付してある。
【0084】
この実施の形態では、第1の実施の形態に係る培養方法に対して、細胞を定形の細胞担体(三次元スキャフォールド)48に播種し、定形の細胞構成体2を作成し、半透膜製のチューブ32に封入して培養を行う構成である。具体的には、培養液やハイドロゲルに細胞を浮遊させたり、ゲル状担体に細胞を混ぜるようにしてもよい。また、定形構成体として、培養液に細胞を浮遊させ、これをコラーゲンスポンジ、キトサンスポンジ等の細胞担体に入れ、細胞を付着させたり、ゾルの状態で担体に細胞を混入させ、これをコラーゲンスポンジ、キトサンスポンジ等の細胞担体に入れ、細胞を付着させるとともに、ゲル化させるようにしてもよい。なお、三次元スキャフォールド及びゲル状物質は、例えば、生体吸収材料等で構成される。培養方法に関しては、上記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0085】
上記構成により、予め定形の細胞構成体2を用いることで、所望の形状、又は大きさの新生組織を培養することが可能となる。
【0086】
〔第4の実施の形態〕
【0087】
次に、本発明の第4の実施の形態に係る細胞又は組織の培養システムについて、図13を参照して説明する。図13は、細胞又は組織の培養システムを示す図である。図13において、第1の実施の形態と同一部分及び同一構成には同一符号を付し説明を省略する。
【0088】
この実施の形態では、第1の実施の形態から第3の実施の形態に係る細胞又は組織の培養方法において、培養液の循環や、随時、新鮮な培養液を供給させるとともに、培養室の温度や圧力、供給する混合ガスGの濃度等を制御して培養する培養システム50を構成している。
【0089】
培養システム50には、培養装置であるインキュベータ52が用いられる。このインキュベータ52の培養室53には、培養ユニット54、培養回路56、アクチュエータ58、温度調節器60、ガス濃度調節器62、加圧装置64が設置され、これらはインキュベータ52の外部にある制御装置66で制御される。
【0090】
培養ユニット54は細胞構成体2に圧力や前記のように力F等を付与して培養する培養手段であって、その内部には既述の培養空間である培養チャンバ36が形成されている。加圧装置64は、制御装置66で制御され、培養チャンバ36内の培養ベッド4の下面側に圧力Pを作用させる。
【0091】
培養回路56は、培養手段への培養液38等の供給及び循環する手段であって、培養液38を溜める培養液溜70と、培養液38や培養室53に混合ガスG(窒素、酸素、二酸化炭素等)を供給するガス交換部72と、ポンプ74と、逆止弁76と、培養ユニット54と、培養室53や培養チャンバ36内の圧力を調節する圧力調節弁78とを連結する循環チューブ80により構成されている。
【0092】
ポンプ74は、例えばピストン式ポンプ、シリンジポンプ、ペリスタルティックポンプが使用できる。ポンプ74の駆動、圧力調節弁78の開閉、その開度等が制御装置66によって調整される。アクチュエータ58は、培養ユニット54が細胞構成体2に力Fを付加するための駆動源である。温度調節器60は、培養室53及び培養チャンバ36内の温度を調節する。ガス濃度調節器62は、培養液溜70や培養液38に供給する混合ガスG(窒素、酸素、二酸化炭素等)の濃度調節を行う。そして、制御装置66は、これら各機能部の制御を行い、具体的には、温度調節やガス濃度の調節等をまとめて制御する他、培養液溜70の循環やポンプ74の動作、アクチュエータ58の動作等の制御を行う。
【0093】
このような培養システム50により既述の培養処理を行えば、曲げ運動を負荷した培養処理が行えるとともに、培養回路56による、培養チャンバ36への培養液38の供給及び老廃物等の排除が可能となる。また、加圧装置64により、培養ユニット54への加圧を連続的、断続的、又は、周期的等に制御でき、温度や圧力を所望の状態に保ちながら培養を行うことができる。この結果、効率的且つ信頼性の高い培養が行える。
【0094】
この培養システム50では、培養液溜70、アクチュエータ58、ポンプ74をインキュベータ52の内部に設置しているが、これに限定されるものではなく、これらの全部又は一部をインキュベータ52の外部に構成するようにしてもよい。また、アクチュエーター58の動作は、加圧装置64で培養チャンバ36への加圧と、培養液38を供給するポンプ74等の動作とを連動させるようにしてもよく、また、培養処理の途中で中断するようにして、曲げ運動を周期的又は断続的に負荷すれば、細胞に効果的な刺激を与えることができる。
【0095】
〔他の実施の形態〕
【0096】
上記実施の形態では、培養物である細胞構成体2に対し、培養ベッド4の背面側から力Fを付加し、培養ベッド4を上方に湾曲させることにより細胞構成体2を曲げているが、培養ベッド4もしくは、細胞構成体2自体に所定の曲げ変位を付与するようにしてもよい。また、この処理では、連続的又は断続的に付与したり、連続又は断続する張力を周期的に付与するようにしてもよい。このような構成においても、細胞構成体2に所定の曲げを施すことができる。
【0097】
〔実施の形態から抽出される特徴事項〕
【0098】
次に、以上述べた各実施の形態から抽出される特徴事項に関し、特許請求の範囲に記載した事項以外の特徴事項を以下に列挙する。列挙した特徴事項に本発明が限定されるものではない。
【0099】
(1) 上記培養方法において、
前記曲げ運動は、周期的又は断続的に行うことを特徴とする培養方法。
【0100】
(2) 上記培養方法において、
前記培養物には、細胞、細胞担体、前記細胞が産出する細胞外マトリクス、培養液の何れかを含むことを特徴とする培養方法。
【0101】
(3) 上記培養方法において、
前記培養物は、細胞が播種された三次元培養担体であることを特徴とする培養方法。
【0102】
(4) 上記培養方法において、
前記培養物は、ゲル状物質を含むことを特徴とする培養方法。
【0103】
(5) 上記培養方法において、
前記三次元培養担体は、生体吸収性材料であることを特徴とする培養方法。
【0104】
(6) 上記培養方法において、
前記ゲル状物質は、生体吸収性材料であることを特徴とする培養方法。
【0105】
(7) 上記培養方法において、
前記培養物に連続する張力を付与する処理、断続する張力を付与する処理、連続又は断続する張力を周期的に付与する処理の何れかを含むことを特徴とする培養方法。
【0106】
(8) 上記培養方法において、
前記培養物を加圧する処理を含み、前記加圧は、連続し、又は断続し、又は周期的に変化し、不規則に変化することを特徴とする培養方法。
【0107】
〔実験結果〕
【0108】
次に、本発明の培養方法を用いた実験結果について、図14ないし図18を参照して説明する。
【0109】
図14は、細胞構成体を示し、この細胞構成体は、培養液中に浮遊させた細胞を半透膜のチューブに入れて構成されている。図15に示すように、細胞構成体は培養ベッドに固定され、培養チャンバに収容される。この場合、駆動部は培養チャンバから分離されている。
【0110】
培養ユニットにはアクチュエータからの加圧が作用し、細胞構成体に曲げ動作が付加される。アクチュエータは、培養室の外に置かれ、ケーブルは培養室のドアを貫通させ、駆動部に接続されている。アクチュエータの動作状態は表示装置により確認できる。
【0111】
アクチュエータは、モータの回転運動をクランクで直線運動に変換しており、クランクアームの長さ選択により、ワイヤの進退幅が調節でき、これに応じて細胞構成体に付与される曲げの大きさが調節される。
【0112】
この実験では、加圧動作に関し、大気圧を維持し、曲げ動作だけに限定し、培養液循環を行った。圧力と、アクチュエータによる曲げ動作は個々に無関係に単独で付加した。この実験では、例えば、0.5〔MPa〕以上の加圧を付与することも考えられる。
【0113】
また、図16ないし図18は、脊椎器官の培養実験(Vertebrae organ culture of 2 days old mouse )を示している。実験は、生後2日のマウスから取り出した脊椎を培養ベッドに設置し(図16)、0.1〔Hz〕の周波数で曲げ動作を付加し、10日間の培養を実施した。この実験では加圧はしていない。
【0114】
比較例として、静置培養を行った。図17及び図18は、10日間の静置培養(Static 10 days)を示している。10日後に、器官の断面をトルイジンブルー染色し、細胞の生存状況を観測した。図中、着色部分は明示できないが、明度の低下している部分(染色部分)が生きた細胞の存在を表している。静置培養では、椎間板内部の細胞密度が上がらず、マトリクスの変性が見られた(図17のa)。
【0115】
これに対し、曲げ動作、Displacement(変位)を付加した脊椎には、椎間板内部の細胞の増生並びに新生マトリクスの蓄積が認められた(図18のb)。
【0116】
この実験結果から、曲げ動作を付与した培養は、静置培養と比較し、細胞の増生並びに新生マトリクスの堆積が見られることから、その曲げ動作が細胞構成体に刺激を与えるとともに、物質移動を促進させていることを推察することができる。
【0117】
以上の通り、本発明の最も好ましい実施の形態等について説明したが、本発明は、上記記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載され、又は明細書に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能であることは勿論であり、斯かる変形や変更が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、細胞又は組織の培養方法に関し、細胞構成体に曲げ運動による刺激を与えたり、血管のない新生組織内の物質移動を促すことで、細胞の増殖を促進する他、生体内の組織を模倣した状態の培養をすることができ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】第1の実施の形態に係る培養ベッドの構成例を示す図である。
【図2】培養の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】培養処理される細胞構成体の形態を示す図である。
【図4】細胞構成体を培養ベッドに載置した状態を示す図である。
【図5】細胞構成体に対する曲げ運動の付与及びその解除を示す図である。
【図6】曲げ状態における細胞構成体が受ける力及び変位に関する解析に関する図である。
【図7】高さ位置におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図である。
【図8】高さ位置におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図である。
【図9】高さ位置におけるゲル円柱内部の変位に関する解析図である
【図10】第2の実施の形態に係る細胞構成体の形態を示す図である。
【図11】細胞構成体を培養ベッドに載置した状態を示す図である。
【図12】第3の実施の形態に係る細胞構成体の形態を示す図である。
【図13】第4の実施の形態に係る細胞又は組織の培養システムを示す図である。
【図14】実験例を示す図である。
【図15】実験例を示す図である。
【図16】実験例を示す図である。
【図17】実験例を示す図である。
【図18】実験例を示す図である。
【符号の説明】
【0120】
2 細胞構成体
4 培養ベッド
6 載置部
14、16 支持面
26、28 押え部
32 チューブ
36 培養チャンバ
38 培養液
40 支持部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞及び/又は組織を含む培養物の培養方法であって、
前記培養物に曲げ運動を負荷するステップを含むことを特徴とする培養方法。
【請求項2】
請求項1記載の培養方法において、
前記曲げ運動は、前記培養物を湾曲状態にする処理を含むことを特徴とする培養方法。
【請求項3】
請求項1記載の培養方法において、
湾曲可能なベッドに前記培養物を設置するステップを含み、前記曲げ運動は、前記ベッドを媒介にして行うことを特徴とする培養方法。
【請求項4】
請求項3記載の培養方法において、
前記ベッドは、その両端を移動可能に支持し、中央部に荷重を負荷することにより、湾曲させることを特徴とする培養方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の培養方法であって、
前記培養物は、半透膜で密封されていることを特徴とする培養方法。
【請求項1】
細胞及び/又は組織を含む培養物の培養方法であって、
前記培養物に曲げ運動を負荷するステップを含むことを特徴とする培養方法。
【請求項2】
請求項1記載の培養方法において、
前記曲げ運動は、前記培養物を湾曲状態にする処理を含むことを特徴とする培養方法。
【請求項3】
請求項1記載の培養方法において、
湾曲可能なベッドに前記培養物を設置するステップを含み、前記曲げ運動は、前記ベッドを媒介にして行うことを特徴とする培養方法。
【請求項4】
請求項3記載の培養方法において、
前記ベッドは、その両端を移動可能に支持し、中央部に荷重を負荷することにより、湾曲させることを特徴とする培養方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の培養方法であって、
前記培養物は、半透膜で密封されていることを特徴とする培養方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−17716(P2008−17716A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189732(P2006−189732)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000170130)高木産業株式会社 (87)
【出願人】(592236717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000170130)高木産業株式会社 (87)
【出願人】(592236717)
【Fターム(参考)】
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