細胞培養系、細胞培養系を形成するための方法、および前臨床研究における細胞培養系の使用
【課題】従来技術から知られている研究モデルと比較して、人間および/または動物の身体における複雑な生理学的関係をより良く示すことを可能にし、特に、活性物質の臨床研究のためにその活性物質をより確実に特徴付けることを可能にする、活性物質の前臨床試験のためのインビトロの研究モデルを提供する。
【解決手段】第1の区画と第2の区画との間の分離層を介して互いに連通する第1の区画および第2の区画を備える、特に活性物質の前臨床試験のための細胞培養系が、分離層が細胞分泌物質に対して透過性であり、第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、第2の区画が、血球を有する培養を含む。さらに、本発明は、上記細胞培養系に関連する方法と、活性物質の前臨床試験のためのキットおよびその使用とに関する。
【解決手段】第1の区画と第2の区画との間の分離層を介して互いに連通する第1の区画および第2の区画を備える、特に活性物質の前臨床試験のための細胞培養系が、分離層が細胞分泌物質に対して透過性であり、第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、第2の区画が、血球を有する培養を含む。さらに、本発明は、上記細胞培養系に関連する方法と、活性物質の前臨床試験のためのキットおよびその使用とに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の区画と第2の区画との間の分離層を介して互いに連通する前記第1の区画および前記第2の区画を備える、特に活性物質の前臨床試験のための細胞培養系であって、前記分離層が細胞分泌物質に対して透過性であり、前記第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、前記第2の区画が、血球を有する培養を含む細胞培養系の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
活性物質の前臨床スクリーンまたは活性物質の前臨床試験は、この前臨床試験段階を首尾よく合格した後に人による臨床研究で物質が試験される前の物質の医療確認にとって特に重要である。さらに、試験すべき物質の主な医療効果を確立することに加えて、前臨床試験でさらに優先することは、臨床研究における活性物質のさらなる確認で生じる可能性があるような起こり得る副作用を推定することである。
【0003】
このようにして、例えば、望ましくない副作用を早く認識すれば、コストを節約することが可能になる。さらに、活性物質の高度な前臨床研究によって、臨床試験患者に対するリスクを明らかに低減できる。
【0004】
特に適切な前臨床研究モデルは実験動物である。動物実験は、研究すべき活性物質をインビボで特徴付けることができるという利点を有する。しかし、いくつかの場合において動物と人間との間には重大な差があるため、動物実験から得られた情報は、限定された範囲でのみ人に適用できる。
【0005】
さらに、細胞培養は、活性物質を試験する前臨床段階における研究モデルとして用いられる。細胞培養を用いる利点は、細胞培養を比較的容易に行うことができることである。その上、細胞培養により、高いサンプルスループット率と、非常に容易に制御可能な試験条件とが可能になる。さらに、細胞培養に関する倫理的問題も生じない。欠点は、インビトロの研究モデルにおいて、人体組織の細胞プロセスが実際に生じているので、細胞培養を不十分なままシミュレートしてしまうことである。
【0006】
いわゆる共同培養は、細胞培養の興味深いさらなる発展形態を意味する。このような共同培養は、互いに空間的に分離されるが、2つの細胞培養間で物質交換が可能である2つの細胞培養からなる。通常、1つの細胞培養は特定の組織型の細胞を含み、これに対して、他の細胞培養は特定の血球、特に末梢血単核細胞(PBMC)を含む。活性物質の前臨床試験について、細胞培養は、試験すべき活性物質の存在下で培養される。培養段階後、共同培養で生じている物質流動が研究されて評価される。例えば、このような共同培養は、(非特許文献1)(Microbiol.Immunol.のハラー・D(Haller D)、2002年;46:195−205)と、(非特許文献2)(Circulationのティンタット・Y(Tintut Y)、2002年、105:650−655)とに開示されている。ここで、この関連の欠点は、共同培養が、最終的には、特に免疫調節プロセスの範囲において、人間または動物の実際の状況を不十分なまま反映してしまうことである。したがって、このような共同培養を用いて得られた情報は、試験された活性物質の確実な評価または特徴付けに対して、ある疑念を常に持たれてしまう。また、他方では、起こり得る臨床リスクと、薬剤を開発するための一般的に連続して増加するコストとにより、活性物質の前臨床スクリーンの品質が満足すべき要件が連続して増大する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「共生バクテリアによる、IL−10を生成するCD14lowの単球阻害リンパ球に依存する腸上皮細胞の活性化」(IL−10 producing CD14low monocytes inhibit lymphocyte−dependent activation of intestinal epithelial cells by commensal bacteria)
【非特許文献2】「インビトロにおける血管石灰化の単球/マクロファージ調節」(Monocyte/Macrophage Regulation of Vascular Calcification In Vitro)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、従来技術から知られている研究モデルと比較して、人間および/または動物の身体における複雑な生理学的関係をより良く示すことを可能にし、特に、活性物質の臨床研究のためにその活性物質をより確実に特徴付けることを可能にする、活性物質の前臨床試験のためのインビトロの研究モデルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、第1の区画と第2の区画との間にある、細胞分泌(排泄)物質に対して透過性の分離層を介して互いに連通する第1の区画および第2の区画を備える、特に活性物質の前臨床試験のための細胞培養系であって、第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、第2の区画が、血球を有する培養(血球培養)を含む細胞培養系によって達成される。
【0010】
本発明による合成種培養は、一区画で少なくとも1つの組織細胞型と少なくとも1つの免疫系細胞型とを含む細胞培養を意味することが意図される。
【0011】
本発明では、全ての血液は、血球および血漿と、血中の因子、好ましくは生物学的活性因子、例えば、凝固因子、補体タンパク質等とを含む全ての血液成分を有する血液を意味することが意図される。
【0012】
本発明では、プライミングは、細胞の物質によって、特にメッセンジャーによって誘導される予備活性化を意味することが意図される。
【0013】
本発明は、組織細胞および免疫細胞を有する合成種培養と、血球を有する培養とを考慮しているため、細胞培養系の細胞の複雑性において、以前に開示された共同培養系とは明確に区別される細胞培養系を提供する。本発明の細胞培養系は特に合成種共同培養であると理解することができる。公知の共同培養系と比較して、本発明の細胞培養系は極めて複雑にすることが可能であり、特に細胞間伝達をより差別化することが可能である。細胞培養系の細胞間で生じる物質流動および調節メカニズムにより、人間および/または動物の身体で実際に生じる細胞プロセスのシミュレーションを明らかに改善することが可能になる。細胞排泄物質は、特に、細胞培養系の適切な標的細胞に反応でき、例えば再利用することができる。このようにして、特に有利には、本発明の細胞培養系の不自然な過剰濃度を回避することが可能である。さらに、標的細胞は、他の細胞により排泄されたメッセンジャーの効果を受けて標的細胞自体の信号生成物質を変化させる。これによって、本発明の細胞培養系全体の調節ネットワークが非常に生理的に変化される。本発明の細胞培養系は活性物質の前臨床確認に特に適切である。このため、試験すべき活性物質により後臨床段階で治療される種の細胞を用いることが好都合である。細胞培養系は、試験すべき活性物質と共に培養される。生じる物質流動および/または物質交換は、好ましくは培養段階後に検出され、特に、活性物質なしで培養される細胞培養系の物質流動および/または物質交換と比較することができる。その比較から得られたデータおよび情報は、研究した活性物質の確実な特徴付けに基づいて用いることができる。このようにして、特に次の臨床研究のために、活性物質の医療効果に関する、および起こり得るリスクに関する改善された情報を特に得ることが可能である。
【0014】
好ましい実施形態では、第1の区画の組織細胞は付着性である。組織細胞は分離層の表面に付着することが好ましい。適切な物質で分離層を予めコーティングできる。物質は例えばタンパク質、特に細胞外マトリックスタンパク質であり得る。例えばコラーゲン、ラミニン、テネイシン等で分離層をコーティングしてもよい。
【0015】
第1の区画の組織細胞は分離層の表面で好都合に予め培養される。本発明は、特に、分離層を少なくとも部分的に、好ましくは完全に覆うための組織細胞を提供する。組織細胞は、特に層状の、好ましくは単層としての分離層を覆うことができる。
【0016】
特に好ましい実施形態では、免疫細胞は食作用免疫細胞、特に単球および/またはマクロファージである。単球およびマクロファージは、免疫系内の免疫調節を変化させる中心を意味する。単球およびマクロファージは、特に、人間および/または動物の身体の炎症プロセスに関連する。第1の区画の合成種培養は、組織細胞と免疫細胞との合成種培養であることが好ましい。
【0017】
通常、免疫細胞は組織細胞に蓄積し、好ましくは分子間接着を形成する。特に、細胞表面に位置するレセプターに基づいて免疫細胞の蓄積が行われる。本発明の細胞培養系の免疫細胞を考慮することによって、人間および/または動物の身体で生じる炎症プロセスをより良く明らかにシミュレートすることが可能になる。したがって、活性物質の前臨床スクリーンの枠内で上記シミュレートから得られた結果により、本発明の細胞培養系を用いて試験された活性物質をより確実に特徴付けることが可能になる。
【0018】
本発明の組織細胞は、炎症性疾患を有する組織で、特に慢性炎症性疾患を有する組織で生じる細胞型を構成することが好ましい。組織は特に臓器を意味し得る。組織細胞は特に1つの組織型の細胞を意味し得る。別の実施形態では、合成種培養は複数の組織細胞型を含み得る。このことにより、本発明の細胞培養系の細胞間の伝達および調節の可能性が特定の範囲で大きくなる。このようにして、特に細胞レベルにおける人間および/または動物の身体の生理学的関係を特に効果的にシミュレートすることが可能である。
【0019】
好ましい実施形態では、組織細胞は上皮細胞および/または類上皮細胞である。組織細胞は表皮細胞、気管支上皮細胞および/または腸上皮細胞であることが特に好ましい。
【0020】
別の実施形態では、組織細胞は内皮細胞、好ましくは血管内皮細胞である。さらに、組織細胞は皮膚細胞、特にケラチノサイト、繊維芽細胞および/または滑膜細胞(シノビオサイトと呼ばれる)、および/または軟骨細胞であることが好ましい。別の適切な組織細胞は神経細胞および/または筋肉細胞、特に滑らかな筋肉細胞である。
【0021】
第1の区画は、筋肉細胞、特に滑らかな筋肉細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含むことが好ましく、筋肉細胞は分離層の上面に適用されることが好ましい。特に内皮細胞を分離層の下面に適用できる。このようにして、天然の血管の関係をシミュレートすることが可能である。
【0022】
別の実施形態では、本発明の細胞培養系の細胞、特に合成種培養の細胞(組織細胞および免疫細胞)は細胞株から由来する。細胞株は人由来のものであることが好ましい。
【0023】
別の実施形態では、本発明の細胞培養系の細胞は組織サンプルからおよび/または体液サンプルから由来する。特に、サンプルは一次アイソレート、すなわち、人間および/または動物の身体から採取されたサンプルであり得る。組織サンプルおよび/または体液サンプルは人由来のものであることが好ましい。特に、体液は血液または尿、好ましくは血液であり得る。
【0024】
第1の区画の合成種培養の細胞は例えば組織サンプルから由来することが可能であり、これに対して、第2の区画の細胞は通常体液から、好ましくは血液から由来する。
【0025】
さらに本発明によれば、細胞培養系が、細胞株からの細胞、ならびに組織サンプルからのおよび/または体液サンプルからの細胞の両方を含むように意図することが可能である。本発明の細胞培養系の区画の各々は、細胞株からの細胞、あるいは組織サンプルからのおよび/または体液サンプルからの細胞を好都合に含む。
【0026】
第2の区画の培養血球は1つの血球型の血球であり得る。血球は免疫系の細胞、特に末梢血の細胞であることが好ましい。血球は例えば末梢血単核細胞(PBMC)であってもよい。さらに、第2の区画の血球は、複数の血球型、特にリンパ球、単球、マクロファージ、血小板および/または赤血球を含み得る。第2の区画の培養は全ての血液の培養であることが好ましい(全血液培養と呼ばれる)。通常、天然の血液に存在する全ての血球が全血液培養の培養に存在する。
【0027】
別の実施形態では、全血液は人由来のものである。全血液は新鮮な血液であることが好ましい。特に好ましい実施形態では、本発明の細胞培養系は人由来の細胞のみを含む。このことにより、人体の生理学的関係のシミュレーションを改善することが可能になる。本発明の細胞培養系の細胞は、同じ生物から、特に同じ患者から由来することが好ましい。
【0028】
第2の区画の血球培養は上清と沈殿物とに分離されることが好ましい。通常、上清は血漿を含む。全血液培養の沈殿物は特に血球、例えば赤血球、血小板および白血球を含む。
【0029】
本発明の特に好ましい実施形態では、好ましくは炎症性変化によって組織細胞が活性化される。細胞培養系に存在する活性剤、特に副炎症活性剤により、組織細胞は特に活性化状態にある。適切な活性剤の例は抗原またはそれらの部分、特にエピトープである。活性剤は超抗原であることも可能である。活性剤は細菌由来、特にバクテリア由来のものであり得る。活性剤はバクテリア細胞壁成分であることが好ましい。活性剤は特にグリカン、好ましくはペプチドグリカン、例えばザイモサンであってもよい。リポ多糖類も適切な活性剤である。さらに、活性剤はトキシン、例えばエンドトキシンであってもよい。組織細胞の活性化によって、ビボプロセスの炎症シミュレーションが可能である。例えば、組織細胞の活性化によって、炎症過程に伴う疾患における細胞プロセスを十分にシミュレートできる。本発明の細胞培養系を用いてシミュレートできる疾患は特に変形性関節症、慢性関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎および炎症性肺疾患であり得る。
【0030】
組織細胞は、メッセンジャーによって、特に糖化タンパク質および/またはペプチドによって、好ましくはサイトカインによって活性化されることが好ましい。メッセンジャーは、副炎症メディエイター、例えばインターフェロン、インターロイキンおよび/または腫瘍壊死因子(TNF)であることが好ましい。このようにして、特に、インターフェロンγ、インターロイキン−1、インターロイキン−6および腫瘍壊死因子α(TNFα)を含む群の少なくとも1つのメッセンジャーによって、組織細胞を活性化できる。組織細胞の活性化によって、炎症性疾患を有する組織の、特に炎症性疾患を有する臓器の細胞プロセスを効果的にシミュレートできる。
【0031】
別の実施形態では、本発明の細胞培養系の細胞分泌物質は、一般に、いわゆる細胞活性の指標(指標化合物)、特にメッセンジャーである。細胞分泌物質はサイトカインであることが好ましい。細胞排泄物質は、それらに対して透過性の分離層を介して本発明の細胞培養系の両方の区画に拡散でき、特に、区画内に存在する細胞と反応できる。反応は、例えば、分泌物質と、それぞれの区画内に存在する細胞の表面レセプターとの相互作用に基づき得る。このことにより、本発明の細胞培養系の物質の不自然な濃度の、特に不自然な過剰濃度の発生が低減される。逆に、これに関連して、試験すべき試験物質の副作用を最初に視覚化することもできる。このことは、試験すべき活性物質の投与の効果の関係の研究にとって特に重要である。
【0032】
別の実施形態では、活性物質は天然活性物質および/または合成活性物質である。活性物質は代謝活性物質であることも可能である。例えば活性物質の細胞消化によって、特に肝細胞によって、代謝産物が生成される。細胞消化のために用いられる細胞、特に肝細胞も本発明の細胞培養系の成分であり得る。さらに、活性物質は、例えば薬学的に適切な担体と共に、適切な投与形態で存在することが可能である。活性物質は例えばクリームおよび/または軟膏の成分であってもよい。
【0033】
第1の区画と第2の区画との間にある、細胞分泌物質に対して透過性の分離層は、0.1〜5μm、特に0.2〜0.45μmの直径を有する開口部、特に細孔を好都合に有する。分離層は特に第1の区画のまたは第2の区画の構成であり得る。分離層は第1の区画のまたは第2の区画の基部であることが好ましい。分離層は、第1の区画または第2の区画と、特に第1の区画と一体的に形成することが可能である。本発明によれば、分離層が膜または隔壁として形成されることが特に好ましい。異なる材料から本発明の細胞培養系の区画を形成できる。適切かつ好ましい材料はプラスチック、特にポリスチレンまたはポリカーボネートである。本発明の細胞培養系の区画は容器として、特にカップ、チャンバーまたはウェルとして形成されることが好ましい。さらに、区画は、好ましくは複数の区画を有する支持体の部分であり得る。したがって、支持体は、例えば、ウェルを有するプレート、特に6ウェルプレート、12ウェルプレート、24ウェルプレートまたは96ウェルプレートであってもよい。支持体は、共同培養用の一般に商業的に入手可能なトランスウェルシステムであることも可能である。
【0034】
好ましい実施形態では、第1の区画は上部区画であり、第2の区画は細胞培養系の下部区画である。
【0035】
さらに、本発明は、第1の区画と第2の区画との間にある、細胞分泌(排泄)物質に対して透過性の分離層を介して互いに連通する第1の区画および第2の区画を有する細胞培養系を用いた活性物質の前臨床試験のための方法であって、第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、第2の区画が、血球を有する培養(血球培養)を含む方法であって、
−活性物質を細胞培養系に添加するステップと、
−添加された活性物質の存在下で細胞培養系を培養するステップと、
−細胞培養系で検出可能な細胞活性の指標を研究するステップと、
を含む方法に関する。
【0036】
好ましい実施形態では、活性物質は第1の区画の合成種培養に添加される。いくつかの場合において、活性物質が血液循環から、関連する組織に通過したときの組織に対する活性物質の効果を研究することを望み得る。これらの場合、本発明によれば、活性物質を第2の区画の血球培養に添加することが好ましい。このようにして、生理的な血液循環が第2の区画の血球培養によってシミュレートされ、関連する組織が第1の区画の合成種培養によってシミュレートされる。
【0037】
特に好ましい実施形態では、組織細胞および免疫細胞、特に食作用免疫細胞、好ましくは単球および/またはマクロファージの合成種培養が用いられる。
【0038】
別の実施形態では、細胞培養系、特に合成種培養は、培養前に、好ましくは活性物質を添加する前に、いわゆるプライミングを受ける。他の実施形態では、活性物質を添加した後にプライミングを行うこともできる。本発明によれば、第2の区画の血球培養がプライミングを受けることも可能である。別の方法は、合成種培養および血球培養の両方がプライミングを受けることである。特に、それぞれ異なる物質によって、合成種培養のおよび血球培養のプライミングを行うことができる。プライミング用の適切な物質は特にメディエイターまたは活性剤、とりわけ炎症活性剤である。上記説明では、本発明のさらなる詳細および特徴を説明した。
【0039】
特に、細胞培養系は1〜72時間、好ましくは2〜48時間の期間培養される。細胞培養系の培養は20℃〜40℃、特に35℃〜40℃の温度で、好ましくは約37℃の温度で好都合に行われる。適切な場合、細胞培養系の培養中に別の活性剤を添加することが可能である。
【0040】
本発明の方法の別の実施形態では、細胞培養系で検出可能な細胞活性の指標の研究は、分子生物学法によって、特に転写レベルおよび/または翻訳レベルで、好ましくは翻訳後レベルで行われる。
【0041】
別の実施形態では、細胞活性の指標を研究するために、第1の区画のおよび/または第2の区画の特に培養液状の培地が研究される。細胞培養系の細胞によって分泌された物質が研究されることが好ましい。特に細胞分泌物質の濃度を決定することによって、細胞分泌物質が研究される。このようにして、細胞分泌物質を研究するために、例えばELISA法(酵素結合免疫吸着検定)または電気泳動法を用いることができる。例えば、ゲル電気泳動、特に二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D PAGE)を行うことが可能である。別の方法は、アレイ技術、特に多重ビーズアレイを用いることである。原則として、当業者に周知の全ての生物学的試験が適切である。
【0042】
さらに、細胞培養系の細胞を研究するために、細胞活性の指標を研究することが好ましい。本発明によれば、好ましくは細胞培養系の培養後に、細胞を回収して研究を行うことが好都合である。
【0043】
細胞関連の活性化パラメータを研究することによって、細胞活性の指標が研究されることが好ましい。例えば、細胞培養系の細胞へのカルシウム流入を測定できる。さらに、細胞のcAMP/cGAMPレベル(サイクリックアデノシンモノホスフェート/サイクリックグアニジン−アデノシンモノホスフェートレベル)について、細胞を研究できる。
【0044】
さらに、適切かつ好ましい細胞関連の活性化パラメータは、細胞培養系の細胞中および/または上の信号トランスデューサーおよび/または信号レセプターの発現である。細胞中および/または上の信号トランスデューサーおよび/または信号レセプターの密度が決定されることが好ましい。適切な研究法は特に表面マーカー分析、例えば組織染色法または流動血球計算法である。
【0045】
細胞関連の活性化パラメータを研究するための別の方法は、細胞の遺伝子の変化、特に活性化または阻害、あるいは抑制について、細胞培養系の細胞を研究することである。ノーザンブロット分析および/またはウェスタンブロット分析は、例えば、活性化遺伝子のプロファイルを構成するのに適切である。平面アレイ技術、特に遺伝子チップにも適切である。遺伝子はそれらの遺伝子生成物に基づいて研究されることが好ましい。細胞培養系の細胞によって形成されるRNA(リボ核酸)、特にメッセンジャーRNA(mRNA)が研究されることが好ましい。RNAは細胞から好都合に単離され、特に精製される。例えば、抽出によりRNAを細胞から単離できる。さらなる研究のために、形成されたRNAは、好ましくは逆転写酵素(RT−PCR)によって、増幅、特にポリメラーゼ連鎖反応を受けることが好ましい。通常は、ノーザンブロット技術を用いてRNAの実際の検出が行われる。
【0046】
別の実施形態では、細胞活性の指標を研究するために、細胞培養系の細胞によって発現されたタンパク質が研究される。このようにして、例えば、タンパク質の発現パターンまたは発現プロファイルを構成できる。特に質量分光法を用いてタンパク質を研究することが可能である。タンパク質は特に信号トランスデューサーおよび/または信号レセプターであり得る。アレイ技術を用いることも可能である。関連する終了点として、本発明の細胞培養系のアポトーシスシグナリング経路およびプロセスを特徴付けることも可能である。上記段落に記載されている方法は当業者に十分に周知であるので、より詳細な説明ではこの点を省略する。
【0047】
本発明の方法の特に好ましい実施形態では、細胞活性の指標は、活性物質なしの細胞培養系、すなわち活性物質なしで培養された細胞培養系の細胞活性の指標に関連して研究される。その研究から得られたデータまたは情報により、研究した活性物質をより詳細に特徴付けることが可能になる。上記説明では、さらなる詳細および特徴を説明した。
【0048】
その上、本発明は、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含む少なくとも1つの区画を備える、活性物質の前臨床試験のためのキットに関する。免疫細胞は食作用免疫細胞、特に単球および/またはマクロファージであることが好ましい。合成種培養は組織細胞と免疫細胞との合成種培養であることが好ましい。本発明のキットは、培地を有する区画を備えることも可能であり、この場合、培地は好ましくは血球を培養するのに適切である。培地は特に培養液であり、例えば培養溶液である。適切な場合、本発明のキットは血液採取セットを備え得る。上記説明では、キットのさらなる詳細および特徴を説明した。
【0049】
さらに、本発明は、活性物質の前臨床試験のための、特に、活性物質の投与の効果の関係を研究するための細胞培養系の使用に関する。特に、本発明は、特に並行アプローチの形態で活性物質の前臨床確認のために用いられる複数の細胞培養系を提供する。このようにして、例えば、複数の活性物質を並行に、特に比較して試験することが可能である。さらに、各細胞培養系が、異なるプライミングを受けることが可能である。その上、本発明によれば、並行アプローチで用いられる細胞培養系が、異なる細胞活性の指標のために研究されるように意図することが可能である。このようにして、研究すべき活性物質に関するより大量の総合的なデータを生成することが可能になり、したがって、活性物質の特徴付けをさらに改善することが可能になる。上記説明では、さらなる詳細および特徴を説明した。
【0050】
最後に、本発明は、活性物質の前臨床試験のための、好ましくは、活性物質の投与の効果の関係を研究するための組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養の使用に関する。免疫細胞は食作用免疫細胞、特に単球および/またはマクロファージであることが好ましい。合成種培養は組織細胞と免疫細胞との合成種培養であることが好ましい。
【0051】
本発明のさらなる特徴および詳細は以下の図面の説明から明らかである。この場合、個々の特徴の各々がそれ自体でまたは互いに組み合わせた複数のもので実施されることが可能である。図面は、参照により発明の詳細な説明に明確に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】細胞培養系の図面である。
【図2】標準的な共同培養系および本発明の細胞培養系のメッセンジャーまたはメディエイターの合成図である。
【図3】標準的な共同培養系および本発明の細胞培養系のメッセンジャーまたはメディエイターの合成に対するジクロフェナクの効果図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1は、第1の区画として構成された上部容器2と、第2の区画として構成された下部容器3とからなる本発明の細胞培養系1を示している。上部容器2は、シノビオサイト4および単球またはマクロファージ5の合成種培養を含む。シノビオサイト4は、上部容器2の、分離層として構成される層状の基部6に付着してそれを覆う。単球またはマクロファージ5はシノビオサイト4に存在し、それと直接接触する。シノビオサイト4および単球またはマクロファージ5は人由来の細胞株から得られる。上部容器2の基部6は細胞分泌物質に対して透過性である。このようにして、上部容器2と下部容器3との間の物質交換を可能にする。下部容器3は、血球7と8を有する人由来の全血液培養を含む。血球は、特に、単球またはマクロファージ5、リンパ球7および赤血球8である。全血液培養は上清と沈殿物とに分離される。細胞培養系1に存在する細胞と、細胞間で生じる物質流動とにより、人体における対応する細胞プロセスのシミュレーションの改善が可能になる。したがって、活性物質の前臨床研究のために、細胞培養系1を特に適切に用いることができる。その前臨床研究から得られた、特に、主な医療効果、副作用および適切な投与量または活性物質に関するデータまたは情報は、活性物質の臨床研究に関する確実な判定基準を提供する。
【0054】
図2は、標準的な共同培養系および本発明の細胞培養系の両方におけるメッセンジャーまたはメディエイターの合成に関する種々の刺激剤の効果を示している。標準的な共同培養系は、それらの上部区画が、シノビオサイトを有する培養(「Syn」)、またはマクロファージ(「MPh」)を有する培養からなり、そして前記標準的な共同培養系の下部区画が全ての血液の培養(全血液培養)からなる培養系であった。本発明の細胞培養系の上部区画は、シノビオサイトおよびマクロファージ(「Syn+MPh」)の合成種培養からなっており、本発明の細胞培養系の下部区画は全ての血液の培養(全血液培養)からなっている。培養系は、3つの異なる刺激状態にさらされる。
【0055】
−刺激なし(「0」)
−リポ多糖類による刺激(「LPS」)
−ザイモサンによる刺激(「Zym」)
図2a〜図2dの縦座標は、研究した合成メッセンジャーの量(1ミリリットル当たりのピコグラム)[pg/ml]をそれぞれ示している。刺激状態は図2a〜図2dの横座標に詳細に示されている。
【0056】
図2a〜図2dは、刺激状態と、測定終了点(図2aにおけるMCP−1の合成、図2bにおけるIL−10の合成、図2cにおけるIL−8の合成、および図2dにおけるIL−6の合成)と、用いた培養系とに応じて、異なる量のメッセンジャーが合成されたことを示している。
【0057】
図3は、標準的な共同培養系および本発明の細胞培養系のメッセンジャーおよびメディエイターの合成に対するジクロフェナク(非ステロイド鎮痛剤)の効果を示している。標準的な共同培養系の、および本発明の細胞培養系の特性を参照して、図2の内容を説明する。MCP−1とIL−6との合成は終了点として測定された。リポ多糖類による細胞の活性化は刺激状態として選択された。図3の縦座標はいわゆる刺激指数を示している。測定終了点は図3の横座標に示されている。
【0058】
図2と図3に示されている結果は、Luminex(商標)技術を用いたいわゆるビーズアレイ試験に基づく多重分析により得られた。このため、特定の抗体を有するカラーコード化された液滴が、メッセンジャーを結合するために用いられた。蛍光標識された第2の抗体を用いて、メッセンジャー成分が測定された。
【符号の説明】
【0059】
1 細胞培養系
2 上部容器
3 下部容器
4 シノビオサイト
5 単球またはマクロファージ
6 基部
7 リンパ球
8 赤血球
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の区画と第2の区画との間の分離層を介して互いに連通する前記第1の区画および前記第2の区画を備える、特に活性物質の前臨床試験のための細胞培養系であって、前記分離層が細胞分泌物質に対して透過性であり、前記第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、前記第2の区画が、血球を有する培養を含む細胞培養系の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
活性物質の前臨床スクリーンまたは活性物質の前臨床試験は、この前臨床試験段階を首尾よく合格した後に人による臨床研究で物質が試験される前の物質の医療確認にとって特に重要である。さらに、試験すべき物質の主な医療効果を確立することに加えて、前臨床試験でさらに優先することは、臨床研究における活性物質のさらなる確認で生じる可能性があるような起こり得る副作用を推定することである。
【0003】
このようにして、例えば、望ましくない副作用を早く認識すれば、コストを節約することが可能になる。さらに、活性物質の高度な前臨床研究によって、臨床試験患者に対するリスクを明らかに低減できる。
【0004】
特に適切な前臨床研究モデルは実験動物である。動物実験は、研究すべき活性物質をインビボで特徴付けることができるという利点を有する。しかし、いくつかの場合において動物と人間との間には重大な差があるため、動物実験から得られた情報は、限定された範囲でのみ人に適用できる。
【0005】
さらに、細胞培養は、活性物質を試験する前臨床段階における研究モデルとして用いられる。細胞培養を用いる利点は、細胞培養を比較的容易に行うことができることである。その上、細胞培養により、高いサンプルスループット率と、非常に容易に制御可能な試験条件とが可能になる。さらに、細胞培養に関する倫理的問題も生じない。欠点は、インビトロの研究モデルにおいて、人体組織の細胞プロセスが実際に生じているので、細胞培養を不十分なままシミュレートしてしまうことである。
【0006】
いわゆる共同培養は、細胞培養の興味深いさらなる発展形態を意味する。このような共同培養は、互いに空間的に分離されるが、2つの細胞培養間で物質交換が可能である2つの細胞培養からなる。通常、1つの細胞培養は特定の組織型の細胞を含み、これに対して、他の細胞培養は特定の血球、特に末梢血単核細胞(PBMC)を含む。活性物質の前臨床試験について、細胞培養は、試験すべき活性物質の存在下で培養される。培養段階後、共同培養で生じている物質流動が研究されて評価される。例えば、このような共同培養は、(非特許文献1)(Microbiol.Immunol.のハラー・D(Haller D)、2002年;46:195−205)と、(非特許文献2)(Circulationのティンタット・Y(Tintut Y)、2002年、105:650−655)とに開示されている。ここで、この関連の欠点は、共同培養が、最終的には、特に免疫調節プロセスの範囲において、人間または動物の実際の状況を不十分なまま反映してしまうことである。したがって、このような共同培養を用いて得られた情報は、試験された活性物質の確実な評価または特徴付けに対して、ある疑念を常に持たれてしまう。また、他方では、起こり得る臨床リスクと、薬剤を開発するための一般的に連続して増加するコストとにより、活性物質の前臨床スクリーンの品質が満足すべき要件が連続して増大する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「共生バクテリアによる、IL−10を生成するCD14lowの単球阻害リンパ球に依存する腸上皮細胞の活性化」(IL−10 producing CD14low monocytes inhibit lymphocyte−dependent activation of intestinal epithelial cells by commensal bacteria)
【非特許文献2】「インビトロにおける血管石灰化の単球/マクロファージ調節」(Monocyte/Macrophage Regulation of Vascular Calcification In Vitro)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、従来技術から知られている研究モデルと比較して、人間および/または動物の身体における複雑な生理学的関係をより良く示すことを可能にし、特に、活性物質の臨床研究のためにその活性物質をより確実に特徴付けることを可能にする、活性物質の前臨床試験のためのインビトロの研究モデルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、第1の区画と第2の区画との間にある、細胞分泌(排泄)物質に対して透過性の分離層を介して互いに連通する第1の区画および第2の区画を備える、特に活性物質の前臨床試験のための細胞培養系であって、第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、第2の区画が、血球を有する培養(血球培養)を含む細胞培養系によって達成される。
【0010】
本発明による合成種培養は、一区画で少なくとも1つの組織細胞型と少なくとも1つの免疫系細胞型とを含む細胞培養を意味することが意図される。
【0011】
本発明では、全ての血液は、血球および血漿と、血中の因子、好ましくは生物学的活性因子、例えば、凝固因子、補体タンパク質等とを含む全ての血液成分を有する血液を意味することが意図される。
【0012】
本発明では、プライミングは、細胞の物質によって、特にメッセンジャーによって誘導される予備活性化を意味することが意図される。
【0013】
本発明は、組織細胞および免疫細胞を有する合成種培養と、血球を有する培養とを考慮しているため、細胞培養系の細胞の複雑性において、以前に開示された共同培養系とは明確に区別される細胞培養系を提供する。本発明の細胞培養系は特に合成種共同培養であると理解することができる。公知の共同培養系と比較して、本発明の細胞培養系は極めて複雑にすることが可能であり、特に細胞間伝達をより差別化することが可能である。細胞培養系の細胞間で生じる物質流動および調節メカニズムにより、人間および/または動物の身体で実際に生じる細胞プロセスのシミュレーションを明らかに改善することが可能になる。細胞排泄物質は、特に、細胞培養系の適切な標的細胞に反応でき、例えば再利用することができる。このようにして、特に有利には、本発明の細胞培養系の不自然な過剰濃度を回避することが可能である。さらに、標的細胞は、他の細胞により排泄されたメッセンジャーの効果を受けて標的細胞自体の信号生成物質を変化させる。これによって、本発明の細胞培養系全体の調節ネットワークが非常に生理的に変化される。本発明の細胞培養系は活性物質の前臨床確認に特に適切である。このため、試験すべき活性物質により後臨床段階で治療される種の細胞を用いることが好都合である。細胞培養系は、試験すべき活性物質と共に培養される。生じる物質流動および/または物質交換は、好ましくは培養段階後に検出され、特に、活性物質なしで培養される細胞培養系の物質流動および/または物質交換と比較することができる。その比較から得られたデータおよび情報は、研究した活性物質の確実な特徴付けに基づいて用いることができる。このようにして、特に次の臨床研究のために、活性物質の医療効果に関する、および起こり得るリスクに関する改善された情報を特に得ることが可能である。
【0014】
好ましい実施形態では、第1の区画の組織細胞は付着性である。組織細胞は分離層の表面に付着することが好ましい。適切な物質で分離層を予めコーティングできる。物質は例えばタンパク質、特に細胞外マトリックスタンパク質であり得る。例えばコラーゲン、ラミニン、テネイシン等で分離層をコーティングしてもよい。
【0015】
第1の区画の組織細胞は分離層の表面で好都合に予め培養される。本発明は、特に、分離層を少なくとも部分的に、好ましくは完全に覆うための組織細胞を提供する。組織細胞は、特に層状の、好ましくは単層としての分離層を覆うことができる。
【0016】
特に好ましい実施形態では、免疫細胞は食作用免疫細胞、特に単球および/またはマクロファージである。単球およびマクロファージは、免疫系内の免疫調節を変化させる中心を意味する。単球およびマクロファージは、特に、人間および/または動物の身体の炎症プロセスに関連する。第1の区画の合成種培養は、組織細胞と免疫細胞との合成種培養であることが好ましい。
【0017】
通常、免疫細胞は組織細胞に蓄積し、好ましくは分子間接着を形成する。特に、細胞表面に位置するレセプターに基づいて免疫細胞の蓄積が行われる。本発明の細胞培養系の免疫細胞を考慮することによって、人間および/または動物の身体で生じる炎症プロセスをより良く明らかにシミュレートすることが可能になる。したがって、活性物質の前臨床スクリーンの枠内で上記シミュレートから得られた結果により、本発明の細胞培養系を用いて試験された活性物質をより確実に特徴付けることが可能になる。
【0018】
本発明の組織細胞は、炎症性疾患を有する組織で、特に慢性炎症性疾患を有する組織で生じる細胞型を構成することが好ましい。組織は特に臓器を意味し得る。組織細胞は特に1つの組織型の細胞を意味し得る。別の実施形態では、合成種培養は複数の組織細胞型を含み得る。このことにより、本発明の細胞培養系の細胞間の伝達および調節の可能性が特定の範囲で大きくなる。このようにして、特に細胞レベルにおける人間および/または動物の身体の生理学的関係を特に効果的にシミュレートすることが可能である。
【0019】
好ましい実施形態では、組織細胞は上皮細胞および/または類上皮細胞である。組織細胞は表皮細胞、気管支上皮細胞および/または腸上皮細胞であることが特に好ましい。
【0020】
別の実施形態では、組織細胞は内皮細胞、好ましくは血管内皮細胞である。さらに、組織細胞は皮膚細胞、特にケラチノサイト、繊維芽細胞および/または滑膜細胞(シノビオサイトと呼ばれる)、および/または軟骨細胞であることが好ましい。別の適切な組織細胞は神経細胞および/または筋肉細胞、特に滑らかな筋肉細胞である。
【0021】
第1の区画は、筋肉細胞、特に滑らかな筋肉細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含むことが好ましく、筋肉細胞は分離層の上面に適用されることが好ましい。特に内皮細胞を分離層の下面に適用できる。このようにして、天然の血管の関係をシミュレートすることが可能である。
【0022】
別の実施形態では、本発明の細胞培養系の細胞、特に合成種培養の細胞(組織細胞および免疫細胞)は細胞株から由来する。細胞株は人由来のものであることが好ましい。
【0023】
別の実施形態では、本発明の細胞培養系の細胞は組織サンプルからおよび/または体液サンプルから由来する。特に、サンプルは一次アイソレート、すなわち、人間および/または動物の身体から採取されたサンプルであり得る。組織サンプルおよび/または体液サンプルは人由来のものであることが好ましい。特に、体液は血液または尿、好ましくは血液であり得る。
【0024】
第1の区画の合成種培養の細胞は例えば組織サンプルから由来することが可能であり、これに対して、第2の区画の細胞は通常体液から、好ましくは血液から由来する。
【0025】
さらに本発明によれば、細胞培養系が、細胞株からの細胞、ならびに組織サンプルからのおよび/または体液サンプルからの細胞の両方を含むように意図することが可能である。本発明の細胞培養系の区画の各々は、細胞株からの細胞、あるいは組織サンプルからのおよび/または体液サンプルからの細胞を好都合に含む。
【0026】
第2の区画の培養血球は1つの血球型の血球であり得る。血球は免疫系の細胞、特に末梢血の細胞であることが好ましい。血球は例えば末梢血単核細胞(PBMC)であってもよい。さらに、第2の区画の血球は、複数の血球型、特にリンパ球、単球、マクロファージ、血小板および/または赤血球を含み得る。第2の区画の培養は全ての血液の培養であることが好ましい(全血液培養と呼ばれる)。通常、天然の血液に存在する全ての血球が全血液培養の培養に存在する。
【0027】
別の実施形態では、全血液は人由来のものである。全血液は新鮮な血液であることが好ましい。特に好ましい実施形態では、本発明の細胞培養系は人由来の細胞のみを含む。このことにより、人体の生理学的関係のシミュレーションを改善することが可能になる。本発明の細胞培養系の細胞は、同じ生物から、特に同じ患者から由来することが好ましい。
【0028】
第2の区画の血球培養は上清と沈殿物とに分離されることが好ましい。通常、上清は血漿を含む。全血液培養の沈殿物は特に血球、例えば赤血球、血小板および白血球を含む。
【0029】
本発明の特に好ましい実施形態では、好ましくは炎症性変化によって組織細胞が活性化される。細胞培養系に存在する活性剤、特に副炎症活性剤により、組織細胞は特に活性化状態にある。適切な活性剤の例は抗原またはそれらの部分、特にエピトープである。活性剤は超抗原であることも可能である。活性剤は細菌由来、特にバクテリア由来のものであり得る。活性剤はバクテリア細胞壁成分であることが好ましい。活性剤は特にグリカン、好ましくはペプチドグリカン、例えばザイモサンであってもよい。リポ多糖類も適切な活性剤である。さらに、活性剤はトキシン、例えばエンドトキシンであってもよい。組織細胞の活性化によって、ビボプロセスの炎症シミュレーションが可能である。例えば、組織細胞の活性化によって、炎症過程に伴う疾患における細胞プロセスを十分にシミュレートできる。本発明の細胞培養系を用いてシミュレートできる疾患は特に変形性関節症、慢性関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎および炎症性肺疾患であり得る。
【0030】
組織細胞は、メッセンジャーによって、特に糖化タンパク質および/またはペプチドによって、好ましくはサイトカインによって活性化されることが好ましい。メッセンジャーは、副炎症メディエイター、例えばインターフェロン、インターロイキンおよび/または腫瘍壊死因子(TNF)であることが好ましい。このようにして、特に、インターフェロンγ、インターロイキン−1、インターロイキン−6および腫瘍壊死因子α(TNFα)を含む群の少なくとも1つのメッセンジャーによって、組織細胞を活性化できる。組織細胞の活性化によって、炎症性疾患を有する組織の、特に炎症性疾患を有する臓器の細胞プロセスを効果的にシミュレートできる。
【0031】
別の実施形態では、本発明の細胞培養系の細胞分泌物質は、一般に、いわゆる細胞活性の指標(指標化合物)、特にメッセンジャーである。細胞分泌物質はサイトカインであることが好ましい。細胞排泄物質は、それらに対して透過性の分離層を介して本発明の細胞培養系の両方の区画に拡散でき、特に、区画内に存在する細胞と反応できる。反応は、例えば、分泌物質と、それぞれの区画内に存在する細胞の表面レセプターとの相互作用に基づき得る。このことにより、本発明の細胞培養系の物質の不自然な濃度の、特に不自然な過剰濃度の発生が低減される。逆に、これに関連して、試験すべき試験物質の副作用を最初に視覚化することもできる。このことは、試験すべき活性物質の投与の効果の関係の研究にとって特に重要である。
【0032】
別の実施形態では、活性物質は天然活性物質および/または合成活性物質である。活性物質は代謝活性物質であることも可能である。例えば活性物質の細胞消化によって、特に肝細胞によって、代謝産物が生成される。細胞消化のために用いられる細胞、特に肝細胞も本発明の細胞培養系の成分であり得る。さらに、活性物質は、例えば薬学的に適切な担体と共に、適切な投与形態で存在することが可能である。活性物質は例えばクリームおよび/または軟膏の成分であってもよい。
【0033】
第1の区画と第2の区画との間にある、細胞分泌物質に対して透過性の分離層は、0.1〜5μm、特に0.2〜0.45μmの直径を有する開口部、特に細孔を好都合に有する。分離層は特に第1の区画のまたは第2の区画の構成であり得る。分離層は第1の区画のまたは第2の区画の基部であることが好ましい。分離層は、第1の区画または第2の区画と、特に第1の区画と一体的に形成することが可能である。本発明によれば、分離層が膜または隔壁として形成されることが特に好ましい。異なる材料から本発明の細胞培養系の区画を形成できる。適切かつ好ましい材料はプラスチック、特にポリスチレンまたはポリカーボネートである。本発明の細胞培養系の区画は容器として、特にカップ、チャンバーまたはウェルとして形成されることが好ましい。さらに、区画は、好ましくは複数の区画を有する支持体の部分であり得る。したがって、支持体は、例えば、ウェルを有するプレート、特に6ウェルプレート、12ウェルプレート、24ウェルプレートまたは96ウェルプレートであってもよい。支持体は、共同培養用の一般に商業的に入手可能なトランスウェルシステムであることも可能である。
【0034】
好ましい実施形態では、第1の区画は上部区画であり、第2の区画は細胞培養系の下部区画である。
【0035】
さらに、本発明は、第1の区画と第2の区画との間にある、細胞分泌(排泄)物質に対して透過性の分離層を介して互いに連通する第1の区画および第2の区画を有する細胞培養系を用いた活性物質の前臨床試験のための方法であって、第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、第2の区画が、血球を有する培養(血球培養)を含む方法であって、
−活性物質を細胞培養系に添加するステップと、
−添加された活性物質の存在下で細胞培養系を培養するステップと、
−細胞培養系で検出可能な細胞活性の指標を研究するステップと、
を含む方法に関する。
【0036】
好ましい実施形態では、活性物質は第1の区画の合成種培養に添加される。いくつかの場合において、活性物質が血液循環から、関連する組織に通過したときの組織に対する活性物質の効果を研究することを望み得る。これらの場合、本発明によれば、活性物質を第2の区画の血球培養に添加することが好ましい。このようにして、生理的な血液循環が第2の区画の血球培養によってシミュレートされ、関連する組織が第1の区画の合成種培養によってシミュレートされる。
【0037】
特に好ましい実施形態では、組織細胞および免疫細胞、特に食作用免疫細胞、好ましくは単球および/またはマクロファージの合成種培養が用いられる。
【0038】
別の実施形態では、細胞培養系、特に合成種培養は、培養前に、好ましくは活性物質を添加する前に、いわゆるプライミングを受ける。他の実施形態では、活性物質を添加した後にプライミングを行うこともできる。本発明によれば、第2の区画の血球培養がプライミングを受けることも可能である。別の方法は、合成種培養および血球培養の両方がプライミングを受けることである。特に、それぞれ異なる物質によって、合成種培養のおよび血球培養のプライミングを行うことができる。プライミング用の適切な物質は特にメディエイターまたは活性剤、とりわけ炎症活性剤である。上記説明では、本発明のさらなる詳細および特徴を説明した。
【0039】
特に、細胞培養系は1〜72時間、好ましくは2〜48時間の期間培養される。細胞培養系の培養は20℃〜40℃、特に35℃〜40℃の温度で、好ましくは約37℃の温度で好都合に行われる。適切な場合、細胞培養系の培養中に別の活性剤を添加することが可能である。
【0040】
本発明の方法の別の実施形態では、細胞培養系で検出可能な細胞活性の指標の研究は、分子生物学法によって、特に転写レベルおよび/または翻訳レベルで、好ましくは翻訳後レベルで行われる。
【0041】
別の実施形態では、細胞活性の指標を研究するために、第1の区画のおよび/または第2の区画の特に培養液状の培地が研究される。細胞培養系の細胞によって分泌された物質が研究されることが好ましい。特に細胞分泌物質の濃度を決定することによって、細胞分泌物質が研究される。このようにして、細胞分泌物質を研究するために、例えばELISA法(酵素結合免疫吸着検定)または電気泳動法を用いることができる。例えば、ゲル電気泳動、特に二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D PAGE)を行うことが可能である。別の方法は、アレイ技術、特に多重ビーズアレイを用いることである。原則として、当業者に周知の全ての生物学的試験が適切である。
【0042】
さらに、細胞培養系の細胞を研究するために、細胞活性の指標を研究することが好ましい。本発明によれば、好ましくは細胞培養系の培養後に、細胞を回収して研究を行うことが好都合である。
【0043】
細胞関連の活性化パラメータを研究することによって、細胞活性の指標が研究されることが好ましい。例えば、細胞培養系の細胞へのカルシウム流入を測定できる。さらに、細胞のcAMP/cGAMPレベル(サイクリックアデノシンモノホスフェート/サイクリックグアニジン−アデノシンモノホスフェートレベル)について、細胞を研究できる。
【0044】
さらに、適切かつ好ましい細胞関連の活性化パラメータは、細胞培養系の細胞中および/または上の信号トランスデューサーおよび/または信号レセプターの発現である。細胞中および/または上の信号トランスデューサーおよび/または信号レセプターの密度が決定されることが好ましい。適切な研究法は特に表面マーカー分析、例えば組織染色法または流動血球計算法である。
【0045】
細胞関連の活性化パラメータを研究するための別の方法は、細胞の遺伝子の変化、特に活性化または阻害、あるいは抑制について、細胞培養系の細胞を研究することである。ノーザンブロット分析および/またはウェスタンブロット分析は、例えば、活性化遺伝子のプロファイルを構成するのに適切である。平面アレイ技術、特に遺伝子チップにも適切である。遺伝子はそれらの遺伝子生成物に基づいて研究されることが好ましい。細胞培養系の細胞によって形成されるRNA(リボ核酸)、特にメッセンジャーRNA(mRNA)が研究されることが好ましい。RNAは細胞から好都合に単離され、特に精製される。例えば、抽出によりRNAを細胞から単離できる。さらなる研究のために、形成されたRNAは、好ましくは逆転写酵素(RT−PCR)によって、増幅、特にポリメラーゼ連鎖反応を受けることが好ましい。通常は、ノーザンブロット技術を用いてRNAの実際の検出が行われる。
【0046】
別の実施形態では、細胞活性の指標を研究するために、細胞培養系の細胞によって発現されたタンパク質が研究される。このようにして、例えば、タンパク質の発現パターンまたは発現プロファイルを構成できる。特に質量分光法を用いてタンパク質を研究することが可能である。タンパク質は特に信号トランスデューサーおよび/または信号レセプターであり得る。アレイ技術を用いることも可能である。関連する終了点として、本発明の細胞培養系のアポトーシスシグナリング経路およびプロセスを特徴付けることも可能である。上記段落に記載されている方法は当業者に十分に周知であるので、より詳細な説明ではこの点を省略する。
【0047】
本発明の方法の特に好ましい実施形態では、細胞活性の指標は、活性物質なしの細胞培養系、すなわち活性物質なしで培養された細胞培養系の細胞活性の指標に関連して研究される。その研究から得られたデータまたは情報により、研究した活性物質をより詳細に特徴付けることが可能になる。上記説明では、さらなる詳細および特徴を説明した。
【0048】
その上、本発明は、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含む少なくとも1つの区画を備える、活性物質の前臨床試験のためのキットに関する。免疫細胞は食作用免疫細胞、特に単球および/またはマクロファージであることが好ましい。合成種培養は組織細胞と免疫細胞との合成種培養であることが好ましい。本発明のキットは、培地を有する区画を備えることも可能であり、この場合、培地は好ましくは血球を培養するのに適切である。培地は特に培養液であり、例えば培養溶液である。適切な場合、本発明のキットは血液採取セットを備え得る。上記説明では、キットのさらなる詳細および特徴を説明した。
【0049】
さらに、本発明は、活性物質の前臨床試験のための、特に、活性物質の投与の効果の関係を研究するための細胞培養系の使用に関する。特に、本発明は、特に並行アプローチの形態で活性物質の前臨床確認のために用いられる複数の細胞培養系を提供する。このようにして、例えば、複数の活性物質を並行に、特に比較して試験することが可能である。さらに、各細胞培養系が、異なるプライミングを受けることが可能である。その上、本発明によれば、並行アプローチで用いられる細胞培養系が、異なる細胞活性の指標のために研究されるように意図することが可能である。このようにして、研究すべき活性物質に関するより大量の総合的なデータを生成することが可能になり、したがって、活性物質の特徴付けをさらに改善することが可能になる。上記説明では、さらなる詳細および特徴を説明した。
【0050】
最後に、本発明は、活性物質の前臨床試験のための、好ましくは、活性物質の投与の効果の関係を研究するための組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養の使用に関する。免疫細胞は食作用免疫細胞、特に単球および/またはマクロファージであることが好ましい。合成種培養は組織細胞と免疫細胞との合成種培養であることが好ましい。
【0051】
本発明のさらなる特徴および詳細は以下の図面の説明から明らかである。この場合、個々の特徴の各々がそれ自体でまたは互いに組み合わせた複数のもので実施されることが可能である。図面は、参照により発明の詳細な説明に明確に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】細胞培養系の図面である。
【図2】標準的な共同培養系および本発明の細胞培養系のメッセンジャーまたはメディエイターの合成図である。
【図3】標準的な共同培養系および本発明の細胞培養系のメッセンジャーまたはメディエイターの合成に対するジクロフェナクの効果図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1は、第1の区画として構成された上部容器2と、第2の区画として構成された下部容器3とからなる本発明の細胞培養系1を示している。上部容器2は、シノビオサイト4および単球またはマクロファージ5の合成種培養を含む。シノビオサイト4は、上部容器2の、分離層として構成される層状の基部6に付着してそれを覆う。単球またはマクロファージ5はシノビオサイト4に存在し、それと直接接触する。シノビオサイト4および単球またはマクロファージ5は人由来の細胞株から得られる。上部容器2の基部6は細胞分泌物質に対して透過性である。このようにして、上部容器2と下部容器3との間の物質交換を可能にする。下部容器3は、血球7と8を有する人由来の全血液培養を含む。血球は、特に、単球またはマクロファージ5、リンパ球7および赤血球8である。全血液培養は上清と沈殿物とに分離される。細胞培養系1に存在する細胞と、細胞間で生じる物質流動とにより、人体における対応する細胞プロセスのシミュレーションの改善が可能になる。したがって、活性物質の前臨床研究のために、細胞培養系1を特に適切に用いることができる。その前臨床研究から得られた、特に、主な医療効果、副作用および適切な投与量または活性物質に関するデータまたは情報は、活性物質の臨床研究に関する確実な判定基準を提供する。
【0054】
図2は、標準的な共同培養系および本発明の細胞培養系の両方におけるメッセンジャーまたはメディエイターの合成に関する種々の刺激剤の効果を示している。標準的な共同培養系は、それらの上部区画が、シノビオサイトを有する培養(「Syn」)、またはマクロファージ(「MPh」)を有する培養からなり、そして前記標準的な共同培養系の下部区画が全ての血液の培養(全血液培養)からなる培養系であった。本発明の細胞培養系の上部区画は、シノビオサイトおよびマクロファージ(「Syn+MPh」)の合成種培養からなっており、本発明の細胞培養系の下部区画は全ての血液の培養(全血液培養)からなっている。培養系は、3つの異なる刺激状態にさらされる。
【0055】
−刺激なし(「0」)
−リポ多糖類による刺激(「LPS」)
−ザイモサンによる刺激(「Zym」)
図2a〜図2dの縦座標は、研究した合成メッセンジャーの量(1ミリリットル当たりのピコグラム)[pg/ml]をそれぞれ示している。刺激状態は図2a〜図2dの横座標に詳細に示されている。
【0056】
図2a〜図2dは、刺激状態と、測定終了点(図2aにおけるMCP−1の合成、図2bにおけるIL−10の合成、図2cにおけるIL−8の合成、および図2dにおけるIL−6の合成)と、用いた培養系とに応じて、異なる量のメッセンジャーが合成されたことを示している。
【0057】
図3は、標準的な共同培養系および本発明の細胞培養系のメッセンジャーおよびメディエイターの合成に対するジクロフェナク(非ステロイド鎮痛剤)の効果を示している。標準的な共同培養系の、および本発明の細胞培養系の特性を参照して、図2の内容を説明する。MCP−1とIL−6との合成は終了点として測定された。リポ多糖類による細胞の活性化は刺激状態として選択された。図3の縦座標はいわゆる刺激指数を示している。測定終了点は図3の横座標に示されている。
【0058】
図2と図3に示されている結果は、Luminex(商標)技術を用いたいわゆるビーズアレイ試験に基づく多重分析により得られた。このため、特定の抗体を有するカラーコード化された液滴が、メッセンジャーを結合するために用いられた。蛍光標識された第2の抗体を用いて、メッセンジャー成分が測定された。
【符号の説明】
【0059】
1 細胞培養系
2 上部容器
3 下部容器
4 シノビオサイト
5 単球またはマクロファージ
6 基部
7 リンパ球
8 赤血球
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の区画と第2の区画との間の分離層を介して互いに連通する前記第1の区画および前記第2の区画を備える、特に活性物質の前臨床試験のための細胞培養系であって、前記分離層が細胞分泌物質に対して透過性であり、前記第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、前記第2の区画が、血球を有する培養を含む細胞培養系。
【請求項2】
前記免疫細胞が食作用免疫細胞、特に単球および/またはマクロファージであることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項3】
前記組織細胞が、炎症性疾患を有する組織で生じる細胞であることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞培養系。
【請求項4】
前記組織細胞が上皮細胞および/または類上皮細胞であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項5】
前記組織細胞が気管支上皮細胞および/または腸上皮細胞であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項6】
前記組織細胞が内皮細胞、好ましくは血管内皮細胞であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項7】
前記組織細胞が皮膚細胞、特に、滑膜細胞(シノビオサイト)および/または軟骨細胞であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項8】
前記細胞培養系の前記細胞が、好ましくは人由来の細胞株から得られることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項9】
前記細胞培養系の前記細胞が組織サンプルからおよび/または体液サンプルから由来することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項10】
前記第2の区画の前記培養が全ての血液の培養(全血液培養)であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項11】
前記全ての血液が、好ましくは人由来の新鮮な血液であることを特徴とする請求項10に記載の細胞培養系。
【請求項12】
前記組織細胞が活性化され、特に炎症性変化を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項13】
前記細胞分泌物質が、細胞活性、特にメッセンジャー、好ましくはサイトカインの指標であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項14】
試験すべき前記活性物質が生物学的活性物質および/または合成活性物質であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項15】
前記分離層が、0.1〜5μm、特に0.2〜0.45μmの直径を有する開口部、特に細孔を有することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項16】
前記細胞培養系の前記区画が容器として、特にカップ、チャンバーまたはウェルとして形成されることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項17】
第1の区画と第2の区画との間の分離層を介して互いに連通する前記第1の区画および前記第2の区画を有する、特に請求項1〜16のいずれか1項に記載の細胞培養系による活性物質の前臨床試験のための方法であって、前記分離層が細胞分泌物質に対して透過性であり、前記第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、前記第2の区画が、血球を有する培養を含む方法において、
−前記活性物質を細胞培養系に添加するステップと、
−前記添加された活性物質の存在下で前記細胞培養系を培養するステップと、
−前記細胞培養系で検出可能な細胞活性の指標を研究するステップと、
を含む方法。
【請求項18】
前記細胞培養系、特に前記合成種培養が、培養前に、好ましくは前記活性物質を添加する前にプライミングを受けることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
メディエイターまたは活性剤、特に炎症活性剤が、前記細胞培養系をプライミングするために用いられることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞活性の指標の前記研究が、分子生物学法によって、特に転写レベルおよび/または翻訳レベルで、好ましくは翻訳後レベルで行われることを特徴とする請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞活性の指標を研究するために、前記細胞培養系の前記細胞によって分泌された物質が研究されることを特徴とする請求項17〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞活性の指標を研究するために、前記細胞培養系の前記細胞が研究されることを特徴とする請求項17〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記研究を行うために、前記細胞培養系の前記細胞が回収されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞活性の指標を研究するために、細胞関連の活性化パラメータ、特に、前記細胞培養系の前記細胞中および/または上の信号トランスデューサーおよび/または信号レセプターの発現が研究されることを特徴とする請求項17〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞活性の指標が、活性物質なしの細胞培養系の前記細胞活性の指標に関連して研究されることを特徴とする請求項17〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
活性物質の前臨床試験のためのキットであって、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養、特に請求項1〜16のいずれか1項に記載の合成種培養を含む区画を少なくとも備えるキット。
【請求項27】
前記キットが、血球用の培地を有する区画を備えることを特徴とする請求項26に記載のキット。
【請求項28】
活性物質の前臨床試験のための、特に、前記活性物質の投与の効果の関係を研究するための請求項1〜16のいずれか1項に記載の細胞培養系の使用。
【請求項29】
活性物質の前臨床試験のための、特に、前記活性物質の投与の効果の関係を研究するための請求項1〜16のいずれか1項に記載の合成種培養の使用。
【請求項1】
第1の区画と第2の区画との間の分離層を介して互いに連通する前記第1の区画および前記第2の区画を備える、特に活性物質の前臨床試験のための細胞培養系であって、前記分離層が細胞分泌物質に対して透過性であり、前記第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、前記第2の区画が、血球を有する培養を含む細胞培養系。
【請求項2】
前記免疫細胞が食作用免疫細胞、特に単球および/またはマクロファージであることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項3】
前記組織細胞が、炎症性疾患を有する組織で生じる細胞であることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞培養系。
【請求項4】
前記組織細胞が上皮細胞および/または類上皮細胞であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項5】
前記組織細胞が気管支上皮細胞および/または腸上皮細胞であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項6】
前記組織細胞が内皮細胞、好ましくは血管内皮細胞であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項7】
前記組織細胞が皮膚細胞、特に、滑膜細胞(シノビオサイト)および/または軟骨細胞であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項8】
前記細胞培養系の前記細胞が、好ましくは人由来の細胞株から得られることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項9】
前記細胞培養系の前記細胞が組織サンプルからおよび/または体液サンプルから由来することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項10】
前記第2の区画の前記培養が全ての血液の培養(全血液培養)であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項11】
前記全ての血液が、好ましくは人由来の新鮮な血液であることを特徴とする請求項10に記載の細胞培養系。
【請求項12】
前記組織細胞が活性化され、特に炎症性変化を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項13】
前記細胞分泌物質が、細胞活性、特にメッセンジャー、好ましくはサイトカインの指標であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項14】
試験すべき前記活性物質が生物学的活性物質および/または合成活性物質であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項15】
前記分離層が、0.1〜5μm、特に0.2〜0.45μmの直径を有する開口部、特に細孔を有することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項16】
前記細胞培養系の前記区画が容器として、特にカップ、チャンバーまたはウェルとして形成されることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項17】
第1の区画と第2の区画との間の分離層を介して互いに連通する前記第1の区画および前記第2の区画を有する、特に請求項1〜16のいずれか1項に記載の細胞培養系による活性物質の前臨床試験のための方法であって、前記分離層が細胞分泌物質に対して透過性であり、前記第1の区画が、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養を含み、前記第2の区画が、血球を有する培養を含む方法において、
−前記活性物質を細胞培養系に添加するステップと、
−前記添加された活性物質の存在下で前記細胞培養系を培養するステップと、
−前記細胞培養系で検出可能な細胞活性の指標を研究するステップと、
を含む方法。
【請求項18】
前記細胞培養系、特に前記合成種培養が、培養前に、好ましくは前記活性物質を添加する前にプライミングを受けることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
メディエイターまたは活性剤、特に炎症活性剤が、前記細胞培養系をプライミングするために用いられることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞活性の指標の前記研究が、分子生物学法によって、特に転写レベルおよび/または翻訳レベルで、好ましくは翻訳後レベルで行われることを特徴とする請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞活性の指標を研究するために、前記細胞培養系の前記細胞によって分泌された物質が研究されることを特徴とする請求項17〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞活性の指標を研究するために、前記細胞培養系の前記細胞が研究されることを特徴とする請求項17〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記研究を行うために、前記細胞培養系の前記細胞が回収されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞活性の指標を研究するために、細胞関連の活性化パラメータ、特に、前記細胞培養系の前記細胞中および/または上の信号トランスデューサーおよび/または信号レセプターの発現が研究されることを特徴とする請求項17〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞活性の指標が、活性物質なしの細胞培養系の前記細胞活性の指標に関連して研究されることを特徴とする請求項17〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
活性物質の前臨床試験のためのキットであって、組織細胞と免疫細胞とを有する合成種培養、特に請求項1〜16のいずれか1項に記載の合成種培養を含む区画を少なくとも備えるキット。
【請求項27】
前記キットが、血球用の培地を有する区画を備えることを特徴とする請求項26に記載のキット。
【請求項28】
活性物質の前臨床試験のための、特に、前記活性物質の投与の効果の関係を研究するための請求項1〜16のいずれか1項に記載の細胞培養系の使用。
【請求項29】
活性物質の前臨床試験のための、特に、前記活性物質の投与の効果の関係を研究するための請求項1〜16のいずれか1項に記載の合成種培養の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公表番号】特表2010−507378(P2010−507378A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533730(P2009−533730)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/009243
【国際公開番号】WO2008/049607
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(509114088)エーデーイー(エキスペリメンテル ウント ダイアノスティッシェ イムノロギー)ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/009243
【国際公開番号】WO2008/049607
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(509114088)エーデーイー(エキスペリメンテル ウント ダイアノスティッシェ イムノロギー)ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】
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