説明

細胞培養観察装置

【課題】観察の対象となる細胞に含まれる蛍光物質の劣化を抑制する。
【解決手段】インキュベータ部12の内部は、細胞の培養に適した培養環境に維持されており、透過光用LED47は、細胞を観察するための光の合焦位置を検出する合焦位置検出時、および、細胞を透過する光の位相差により細胞を観察する位相差観察時に、培養環境内の観察の対象となる細胞に対し、近赤外領域の波長の光を照射する。また、蛍光用LED48は、細胞に含まれる蛍光物質が励起した光により細胞を観察する蛍光観察時に、培養環境内の観察の対象となる細胞に対し、細胞に含まれる蛍光物質を励起させる波長の励起光を照射する。本発明は、例えば、細胞を培養するインキュベータに適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養観察装置に関し、特に、観察の対象となる細胞に含まれる蛍光物質の劣化を抑制することができるようにした細胞培養観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の培養過程を観察する細胞培養観察装置では、細胞の培養に適した環境に維持されている培養環境で細胞が培養され、その細胞の位相差観察または蛍光観察が行われる。
【0003】
位相差観察では、白色LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)やハロゲンランプなどが光源として用いられ、その光源からの光が観察の対象となる細胞に照射される。そして、画像の撮像に最適な焦点位置が検出され、その焦点位置にて、細胞を透過する光の位相差による画像が、CCD(Charge Coupled Devices:電荷結合素子)などの撮像素子により撮像される。
【0004】
蛍光観察では、水銀ランプや、水銀ランプに類する光を発光する照明が光源として用いられ、その光源からの励起光が観察の対象となる細胞に照射されることにより、細胞に含まれる蛍光物質が励起され、その蛍光物質が蛍光する光による画像が、撮像素子により撮像される。
【0005】
また、特許文献1には、光源である複数のLEDを、所定の外部トリガに基づいて駆動させ、それぞれのLEDからの励起光により細胞の蛍光観察を行う蛍光顕微鏡が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−173487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の細胞培養観察装置では、位相差観察に用いられている光源の波長域が広く、その波長域には、微弱ながらも蛍光物質を励起させる波長が含まれることがあり、焦点位置の検出時や位相差観察時に、励起光が蛍光物質に照射され続けることがあった。また、励起光を用いて焦点位置の検出を行う細胞培養観察装置においては、蛍光物質に励起光が照射され続けていた。
【0008】
このように、蛍光物質に励起光が照射され続けると、蛍光物質が劣化してしまい、蛍光観察時に、蛍光物質が観察に必要な光量の光を蛍光することができず、蛍光観察が困難になることがあった。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、観察の対象となる細胞に含まれる蛍光物質の劣化を抑制することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面の細胞培養観察装置は、細胞の培養過程を観察する細胞培養観察装置であって、前記細胞の培養に適した培養環境を維持する培養環境維持手段と、前記細胞を観察するための光の合焦位置を検出する合焦位置検出時、および、前記細胞を透過する光の位相差により前記細胞を観察する位相差観察時に、前記培養環境内の観察の対象となる細胞に対し、近赤外領域の波長の光を照射する第1の照明手段と、前記細胞に含まれる蛍光物質が励起した光により前記細胞を観察する蛍光観察時に、前記培養環境内の観察の対象となる細胞に対し、前記細胞に含まれる蛍光物質を励起させる波長の励起光を照射する第2の照明手段とを備える。
【0011】
本発明の一側面においては、細胞の培養に適した培養環境が維持され、細胞を観察するための光の合焦位置を検出する合焦位置検出時、および、細胞を透過する光の位相差により細胞を観察する位相差観察時に、培養環境内の観察の対象となる細胞に対し、近赤外領域の波長の光が照射される。また、細胞に含まれる蛍光物質が励起した光により細胞を観察する蛍光観察時に、培養環境内の観察の対象となる細胞に対し、細胞に含まれる蛍光物質を励起させる波長の励起光が照射される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によれば、観察の対象となる細胞に含まれる蛍光物質の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、本発明の構成要件と、明細書又は図面に記載の実施の形態との対応関係を例示すると、次のようになる。この記載は、本発明をサポートする実施の形態が、明細書又は図面に記載されていることを確認するためのものである。従って、明細書又は図面中には記載されているが、本発明の構成要件に対応する実施の形態として、ここには記載されていない実施の形態があったとしても、そのことは、その実施の形態が、その構成要件に対応するものではないことを意味するものではない。逆に、実施の形態が構成要件に対応するものとしてここに記載されていたとしても、そのことは、その実施の形態が、その構成要件以外の構成要件には対応しないものであることを意味するものでもない。
【0014】
本発明の一側面の細胞培養観察装置は、細胞の培養過程を観察する細胞培養観察装置であって、
前記細胞の培養に適した培養環境を維持する培養環境維持手段(例えば、図3のインキュベータ部12)と、
前記細胞を観察するための光の合焦位置を検出する合焦位置検出時、および、前記細胞を透過する光の位相差により前記細胞を観察する位相差観察時に、前記培養環境内の観察の対象となる細胞に対し、近赤外領域の波長の光を照射する第1の照明手段(例えば、図3の透過光用LED47)と、
前記細胞に含まれる蛍光物質が励起した光により前記細胞を観察する蛍光観察時に、前記培養環境内の観察の対象となる細胞に対し、前記細胞に含まれる蛍光物質を励起させる波長の励起光を照射する第2の照明手段(例えば、図3の蛍光用LED48)と
を備える。
【0015】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明を適用した細胞培養観察装置の一実施の形態の構成例を示す斜視図である。
【0017】
図1において、細胞培養観察装置11は、インキュベータ部12および架台部13から構成されており、架台部13の上部にインキュベータ部12が配置されている。
【0018】
インキュベータ部12は、インキュベータ筐体21およびインキュベータ扉22から構成される。インキュベータ部12では、インキュベータ筐体21とインキュベータ扉22とにより密閉された内部空間が、細胞を培養するのに適した環境を維持するように制御される。
【0019】
例えば、インキュベータ筐体21には、ペルチェ素子が用いられる温度調整装置、霧を噴出する噴霧装置、外部の二酸化炭素ボンベに接続されるガス導入部、内部空間の環境を検出する環境センサ(いずれも図示せず)などが設けらている。また、インキュベータ筐体21およびインキュベータ扉22は、内部に断熱材をそれぞれ有している。そして、例えば、インキュベータ筐体21の内部空間の環境は、温度37℃、湿度90%、二酸化炭素濃度5%などに維持される。
【0020】
インキュベータ扉22は、インキュベータ筐体21に対して開閉自在に取り付けられており、その表面には、細胞培養観察装置11の操作に用いられる操作パネル23が設けられている。
【0021】
操作パネル23は、例えば、ユーザにより操作されるタッチパネルであり、その表示部に、所定の間隔で細胞を撮像するスケジュールを設定するスケジュール設定画面や、撮像倍率や撮影ポイントなどの撮像条件を設定する撮像条件設定画面などのGUI(Graphical User Interface)を表示する。また、操作パネル23は、ユーザの操作に応じた操作信号を、後述する図3の制御装置44に供給する。
【0022】
架台部13は、筐体31と扉32Aおよび32Bとから構成されており、扉32Aおよび32Bは、筐体31に対して開閉自在に取り付けられている。また、架台部13の内部には、後述する図3の蛍光用LED48などが収納される。
【0023】
次に、図2は、図1の矢印A−A方向から見た細胞培養観察装置11の断面図である。
【0024】
図2に示すように、インキュベータ筐体21とインキュベータ扉22とによりインキュベータ部12の内部空間が密閉されており、この内部空間、即ち、細胞を培養するのに適した環境に維持されている空間を、以下、適宜、細胞培養環境と称する。
【0025】
次に、図3を参照して、図1の細胞培養観察装置11の構成について説明する。
【0026】
図3の右側には、インキュベータ扉22、並びに、架台部13の扉32Aおよび32Bを外した状態の細胞培養観察装置11の正面図が示されている。図3の左側には、正面図の矢印B−B方向から見た細胞培養観察装置11の断面図が示されている。
【0027】
図3において、細胞培養観察装置11は、ストッカ部41、搬送部42、観察ユニット43、および制御装置44から構成されている。
【0028】
ストッカ部41、および搬送部42は、インキュベータ部12の細胞培養環境内に収納されている。また、観察ユニット43の上部は、インキュベータ部12の細胞培養環境内に収納されており、観察ユニット43の下部は、架台部13の内部に収納されている。また、制御装置44は、架台部13の内部に収納されている。
【0029】
ストッカ部41は、培養される細胞が入れられる培養容器45を複数収納する。ストッカ部41には、図3に示すように、培養容器45を載置する棚が、縦方向に複数設けられており、各々の棚は、その奥行き方向に、培養容器45を複数載置することができる。
【0030】
搬送部42は、制御装置44の制御に従って、所定の培養容器45を、ストッカ部41から観察ユニット43に搬送する。
【0031】
観察ユニット43は、培養容器45で培養されている細胞を撮像する撮像部46や、培養容器45で培養されている細胞に光を照射する透過光用LED47および蛍光用LED48などを備えており、培養容器45で培養されている細胞の画像を撮像する。図3に示すように、透過光用LED47は、インキュベータ部12の細胞培養環境内に配置されており、撮像部46および蛍光用LED48は、インキュベータ部12の細胞培養環境外の架台部13の内部に配置されている。なお、観察ユニット43については、図5を参照して詳述する。
【0032】
制御装置44には、ユーザの操作に応じた操作信号が、図1の操作パネル23から供給され、制御装置44は、ユーザの操作に応じて、細胞培養観察装置11の各部を制御する。
【0033】
例えば、制御装置44は、搬送部42を制御して、ストッカ部41に収納されている所定の培養容器45を、観察ユニット43に搬送させる。また、制御装置44は、操作パネル23を制御して、スケジュール設定画面や撮影条件設定画面などのGUIを、操作パネル23の表示部に適宜表示させる。また、制御装置44は、インキュベータ筐体21に設けられた環境センサの出力に応じて、細胞培養環境が、一定の温度、湿度、または二酸化炭素濃度に維持されるように、インキュベータ筐体21に設けられた温度調整装置、噴霧装置、またはガス導入部をそれぞれ制御する。
【0034】
次に、図4は、培養される細胞が入れられる培養容器45の例を示す図である。
【0035】
培養容器45としては、例えば、ディッシュ45A、ウェルプレート45B、または、フラスコ45Cが用いられる。図4の1番上には、6個のディッシュ45Aが示されており、図4の上から2番目には、24箇所のウェルを有するウェルプレート45Bが示されており、図4の上から3番目(一番下)には、フラスコ45Cが示されている。
【0036】
ディッシュ45A、ウェルプレート45B、またはフラスコ45Cは、ホルダ51によりそれぞれ保持され、ホルダ51には、搬送部42による搬送において利用される支持片52が設けられている。また、ホルダ51には、それぞれの培養容器45(ディッシュ45A、ウェルプレート45B、またはフラスコ45C)を識別するための識別マーカ53が付されている。
【0037】
次に、図5を参照して、図3の観察ユニット43について説明する。
【0038】
図5の右側には、観察ユニット43の正面図が示されており、図5の左側には、観察ユニット43の側面図が示されている。
【0039】
図5に示すように、観察ユニット43は、透過光照明部61、試料台62、観察部63、および蛍光照明部64から構成される。
【0040】
透過光照明部61は、試料台62の側部から上方向に延びた後に、試料台62に載置される培養容器45の上部に延びるようなアーム状の金物で形成されており、このアーム状の金物により、透過光照明部61の内部と外部(即ち、細胞培養環境)とが仕切られている。また、透過光照明部61の内部には、透過光用LED47と透過光用光学系65が収納されている。
【0041】
透過光用LED47は、例えば、600〜660nmの波長域の光を発光し、透過光用LED47から出力される光は、透過光用光学系65を介して、試料台62に載置される培養容器45に照射される。
【0042】
試料台62は、透光性の材質により構成されており、透過光照明部61からの光や、蛍光照明部64からの光により励起した細胞に含まれる蛍光物質からの光が、観察部63に導入されるようになっている。
【0043】
また、試料台62には、観察部63に導入される光を集光する対物レンズ66、対物レンズ66を駆動してオートフォーカスを行うための駆動機構67、および試料の所定の箇所を撮像することができるように、垂直方向(Z方向)または水平方向(XおよびY方向)に、培養容器45を移動させるステージ68が設けられている。
【0044】
観察部63は、撮像部46およびミラー69から構成される。
【0045】
ミラー69は、透過光照明部61からの光や、蛍光照明部64の光により励起した細胞に含まれる蛍光物質からの蛍光を反射し、撮像部46に入射させる。
【0046】
撮像部46は、CCDなどの撮像素子46Aを有しており、透過光照明部61からの光による画像や、蛍光照明部64からの光により励起した細胞に含まれる蛍光物質からの光による画像を撮像する。また、撮像部46は、駆動機構67やステージ68を制御し、最適な焦点位置を検出するオートフォーカス制御部46Bを有している。
【0047】
オートフォーカス制御部46Bは、駆動機構67を制御して対物レンズ66を駆動させ、撮像素子46Aにより撮像された画像に基づいて、概略的な焦点位置を検出する。その後、オートフォーカス制御部46Bは、ステージ68を制御して培養容器45をZ方向に微小量ずつ移動させ、それぞれのZ方向の位置で撮像素子46Aにより撮像された画像に基づいて、最適な焦点位置を検出する。
【0048】
蛍光照明部64は、蛍光用LED48a乃至48c、および蛍光用光学系70から構成される。
【0049】
蛍光用LED48a乃至48cは、それぞれ異なる波長の光、即ち、培養容器45内の細胞(試料)の蛍光物質に応じた波長の光(励起光)を発光する。例えば、蛍光用LED48aは、440〜460nmの励起光を発光し、蛍光用LED48bは、460〜490nmの励起光を発光し、蛍光用LED48cは、520〜550nmの励起光を発光する。また、蛍光用LED48a乃至48cは、図3の制御装置44の制御に従って、撮像部46による撮像のタイミングに同期して、発光する。
【0050】
蛍光用光学系70は、ミラー71乃至74、およびダイクロイックミラー75乃至77から構成され、蛍光用LED48a乃至48cからの励起光を反射または透過して、培養容器45の細胞に照射させる。
【0051】
ダイクロイックミラー75乃至77は、特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過する。例えば、ダイクロイックミラー75は、蛍光用LED48bが発光する光を反射し、蛍光用LED48aが発光する光を透過する。ダイクロイックミラー76は、蛍光用LED48aおよび48bが発光する光を反射し、蛍光用LED48cが発光する光を透過する。ダイクロイックミラー77は、蛍光用LED48a乃至48cが発光する光を反射し、透過光照明部61の透過光用LED47が発光する光や、細胞に含まれる蛍光物質が蛍光することによる光を透過する。
【0052】
次に、図6は、蛍光用LEDが発光する励起光の波長域と、その波長域の光により励起される蛍光タンパクとの対応関係の例を示す図である。
【0053】
例えば、蛍光用LED(CFP)が発光する440〜460nmの励起光により、励起波長439nmおよび発光波長476nmの蛍光タンパクであるECFPが励起される。
【0054】
また、例えば、蛍光用LED(GFP)が発光する460〜490nmの励起光により、励起波長458nmおよび発光波長489nmの蛍光タンパクであるAmCyan1が励起され、励起波長493nmおよび発光波長505nmの蛍光タンパクであるZsGreen1が励起され、励起波長484nmおよび発光波長510nmの蛍光タンパクであるEGFPが励起される。
【0055】
また、例えば、蛍光用LED(RFP)が発光する520〜550nmの励起光により、励起波長529nmおよび発光波長539nmの蛍光タンパクであるZsYelloW1が励起され、励起波長557nmおよび発光波長579nmの蛍光タンパクであるDsRed-Expressが励起され、励起波長563nmおよび発光波長582nmの蛍光タンパクであるDsRed2が励起され、励起波長556nmおよび発光波長586nmの蛍光タンパクである単量体DsRedが励起される。
【0056】
また、図6に示されるように、位相差観察用のLEDとしては、600〜660nmの近赤外領域の光が用いられる。
【0057】
図1乃至図5で説明した細胞培養観察装置11(図3)では、ユーザにより設定されたスケジュールに従って、観察の対象となる細胞を培養している培養容器45が、ストッカ部41から観察ユニット43のステージ68上に搬送される。そして、透過光用LED47(図5)が発光し、透過光用LED47からの光が、透過光用光学系65を介して培養容器45に照射される。この光は、対物レンズ66により集光され、ダイクロイックミラー77を透過し、ミラー69に反射して、撮像部46に導入される。そして、撮像部46は、その光により画像を撮像する。
【0058】
また、オートフォーカス制御部46Bは、撮像素子46Aにより撮像された画像に基づいて、最適な焦点位置を検出し、最適な焦点位置が検出されると、撮像部46は、その焦点位置で、培養容器45内の細胞を透過する透過光による位相差画像を撮像する。その後、透過光用LED47は発光を停止し、蛍光用LED48a乃至48cが、撮像部46による蛍光画像の撮像に同期して順次発光する。
【0059】
蛍光用LED48aが発光する励起光は、ミラー71で反射され、ダイクロイックミラー75を透過し、ダイクロイックミラー76およびミラー72乃至74を経由して、ダイクロイックミラー77で反射され、対物レンズ66を介して培養容器45の細胞に照射される。また、蛍光用LED48bが発光する励起光は、ダイクロイックミラー75で反射され、ダイクロイックミラー76およびミラー72乃至74を経由して、ダイクロイックミラー77で反射され、対物レンズ66を介して培養容器45の細胞に照射される。また、蛍光用LED48cが発光する励起光は、ダイクロイックミラー76を透過し、ミラー72乃至74を経由して、ダイクロイックミラー77で反射され、対物レンズ66を介して培養容器45の細胞に照射される。
【0060】
そして、蛍光用LED48a乃至48cがそれぞれ発光する光の波長域に応じて、培養容器45内の細胞に含まれる蛍光物質が励起し、その蛍光物質からの光が対物レンズ66およびダイクロイックミラー77を介してミラー69で反射され、撮像素子46Aに入射することにより、撮像素子46Aで、蛍光画像が撮像される。
【0061】
このように、細胞培養観察装置11では、最適な焦点位置を検出するときに、透過光用LED47からの光、即ち、近赤外波長域の光が用いられるので、最適な焦点位置の検出時に、培養容器45内の細胞に含まれる蛍光物質が励起することを回避することができる。これにより、蛍光物質が励起され続けることによる劣化を抑制することができる。また、蛍光物質の劣化を抑制することにより、蛍光観察時に、蛍光物質が観察に必要な光量の光を蛍光することができなくなることを回避することができ、蛍光観察を確実に行うことができる。
【0062】
また、蛍光用LED48a乃至48cは、撮像部46による撮像(露光時間)に同期して発光するので、必要最小限の励起光のみが細胞に照射される。
【0063】
さらに、細胞培養観察装置11では、蛍光観察時に、蛍光用LED48a乃至48cが、それぞれ異なる波長の光を発光するので、細胞に含まれる蛍光物質に応じて最適な励起光を発光するように、蛍光用LED48a乃至48cをそれぞれ選択することができる。即ち、励起光の選択の自由度を向上させることができる。
【0064】
また、観察の対象となる細胞が変更され、蛍光物質が異なるときには、蛍光用LED48a乃至48cを、新たに観察の対象となる細胞に含まれる蛍光物質に応じた波長の光を発光するLEDに交換する必要がある。蛍光用LED48a乃至48cは、それぞれ交換可能に取り付けられており、上述したように、蛍光用LED48a乃至48cは、インキュベータ部12の細胞培養環境外の架台部13の内部に収納されているので、観察の対象となる細胞が変更されるときには、架台部13(図1)の扉32Aまたは32Bを開放して、蛍光用LED48a乃至48cを容易に交換することができる。
【0065】
例えば、蛍光用LED48a乃至48cが、インキュベータ部12の内部に収納されている場合には、蛍光用LED48a乃至48cを交換するには、インキュベータ部12のインキュベータ扉22を開放する必要がある。しかしながら、インキュベータ部12の内部は細胞培養環境に維持されており、インキュベータ扉22を開放することにより、細胞培養環境が汚染されるおそれがあり、蛍光用LED48a乃至48cを容易に交換することは困難である。これに対して、蛍光用LED48a乃至48cが、細胞培養環境外に配置されている場合には、蛍光用LED48a乃至48cを容易に交換することができる。
【0066】
また、例えば、蛍光用LED48a乃至48cが、インキュベータ部12の内部に収納されている場合には、蛍光用LED48a乃至48cが発光することによる発熱で、細胞培養環境の温度が変化するおそれがある。これに対し、蛍光用LED48a乃至48cを、細胞培養環境外に配置することで、蛍光用LED48a乃至48cからの発熱による細胞培養環境の温度変化を抑制することができる。
【0067】
なお、透過光用LED47は、透過光照明部61のアーム状の金物によって、細胞培養環境から仕切られており、これにより、透過光用LED47からの発熱による温度変化の影響も抑制することができる。
【0068】
また、本発明は、撮像部46により位相差画像または蛍光画像を撮像する細胞培養観察装置11の他、例えば、ユーザが肉眼により位相差画像または蛍光画像を観察するような細胞培養観察装置に適用することができる。
【0069】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明を適用した細胞培養観察装置の一実施の形態の構成例を示す斜視図である。
【図2】細胞培養観察装置11の断面図である。
【図3】細胞培養観察装置11の正面図および断面図である。
【図4】培養容器45の例を示す図である。
【図5】観察ユニット43の正面図および側面図である。
【図6】蛍光用LEDが発光する励起光の波長域と、蛍光タンパクとの対応関係の例を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
11 細胞培養観察装置, 12 インキュベータ部, 13 架台部, 23 操作パネル, 41 ストッカ部, 42 搬送部, 43 観察ユニット, 44 制御装置, 45 培養容器, 46 撮像部, 47 透過光用LED, 48 蛍光用LED, 61 透過光照明部, 62 試料台, 63 観察部, 64 蛍光照明部, 65 透過光用光学系, 70 蛍光用光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の培養過程を観察する細胞培養観察装置において、
前記細胞の培養に適した培養環境を維持する培養環境維持手段と、
前記細胞を観察するための光の合焦位置を検出する合焦位置検出時、および、前記細胞を透過する光の位相差により前記細胞を観察する位相差観察時に、前記培養環境内の観察の対象となる細胞に対し、近赤外領域の波長の光を照射する第1の照明手段と、
前記細胞に含まれる蛍光物質が励起した光により前記細胞を観察する蛍光観察時に、前記培養環境内の観察の対象となる細胞に対し、前記細胞に含まれる蛍光物質を励起させる波長の励起光を照射する第2の照明手段と
を備える細胞培養観察装置。
【請求項2】
前記第2の照明手段は、前記培養環境維持手段の外側に設けられており、前記培養環境維持手段の外側から前記培養環境内の細胞に励起光を照射する
請求項1に記載の細胞培養観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−3267(P2009−3267A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165270(P2007−165270)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】