説明

細胞外電極

【課題】神経細胞を容易に電気的に刺激することができ、かつ、インピーダンス−周波数特性が神経細胞の細胞外電位を計測するために十分な特性を有する細胞外電極を提供する。
【解決手段】絶縁基材11と、絶縁基材11の一面11aに設けられた導電回路12と、絶縁基材11の一面11a側に、導電回路12の少なくとも接続部12aに重なるように設けられた電極13と、導電回路12の電極13が重なっていない領域を覆うように設けられた絶縁層14とを備えた細胞外電極10において、電極13をエチレンジオキシチオフェンと、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレン・スルフォン酸)とから構成される導電性多孔質高分子を主とするものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞の電気的活動の記録、および、神経細胞に対して電気的刺激あるいは薬理学的刺激を加えるために、電気生理学および医療分野にて有効な細胞外電極に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の神経系は、神経細胞から構成される信号伝達経路を有している。この神経細胞は、情報を伝達する際に活動電位と呼ばれる信号を発する。この活動電位の発生は、神経細胞の細胞膜におけるイオン透過性の変化に伴う電位の変化に起因する。このような活動電位の発生に伴って生じる神経細胞近傍の電位、すなわち、細胞外電位を、神経細胞の電気的活動として測定するために、細胞外電極が用いられている。
【0003】
細胞外電極としては、例えば、導電性物質からなる複数の微小電極と、配線を形成する多点電極とからなるものが挙げられる(例えば、非特許文献1参照。)。多点電極は、電極上に神経細胞あるいは組織を培養することにより、長時間安定した状態で細胞外電位を記録したり、神経細胞に対して電気的刺激を加えることができる。
【0004】
また、細胞外電極のインピーダンス−周波数特性を向上させるために、細胞外電極の表面に白金黒めっき処理を施したり(例えば、特許文献1参照。)、細胞外電極の表面を無機化合物からなる多孔質導電材料により被覆したりすることが行われている。このような細胞外電極を、図6に例示する。
図6に示す細胞外電極100は、絶縁基材101と、その一面101aに設けられた導電回路102と、この導電回路102と電気的に接続され、導電回路102上に設けられた電極103と、導電回路102を覆うように設けられた絶縁層104とから構成されている。
この細胞外電極100において、電極103は、導電回路102が設けられた絶縁基材101の一面101aに白金黒の多孔性めっき処理を施すことにより形成される。そして、この電極103は、細胞外電極100のインピーダンスを50kΩ以下に抑制する役割を果たす。
また、電極103をなす材料としては、白金黒の代わりに、金、窒化チタン、酸化銀、タングステンなどの無機物からなる導電性多孔質材料も用いられる。
【0005】
また、神経細胞同士は、グルタミン酸やγ―アミノ酪酸などの神経細胞が分泌する化学物質を伝達物質として、情報の伝達を行っている。これらの化学物質は、神経細胞の細胞膜を構成するタンパク質の化学構造を変化させる。このタンパク質の化学構造の変化によって、神経細胞内外のイオンの細胞膜に対する透過性が変化する。このタンパク質の化学構造の変化を制御するには、アゴニストあるいはアンタゴニストと呼ばれる有機化合物または無機化合物が用いられている。
アゴニストは、神経細胞の細胞膜を構成するタンパク質の受容体と相互作用して、イオン透過性を上昇させる。一方、アンタゴニストは、アゴニストと拮抗的に作用して、イオン透過性を減少させる。電気生理学に関する研究分野では、これらの物質は、通常ガラス微小電極や培養液の灌流装置を介して、神経細胞に投与される。
【0006】
上記のように、白金黒の多孔性めっきや、無機物質の導電性多孔質材料からなる電極を形成することにより、細胞外電極のインピーダンスが低下し、細胞外電極は電気的な外部雑音に対するS/N比が向上する。その結果、この細胞外電極を用いることにより、神経細胞に対して、より微小な細胞外電位を計測することが可能となる。
【非特許文献1】Jimbo,Y.and Kawana,A.,Electrical stimulation of cultured neural cells by planar electrode array,Anuual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Tokyo,(1990),pp.1741−1742(Fig.1).
【特許文献1】特許第3193471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、神経細胞の細胞外電位は、通常、数kHzから数十kHz程度のサンプリング周波数で記録されるが、この範囲におけるインピーダンス−周波数特性は、非線形的である。そのため、従来、細胞外電位の波形を正確に記録するのは困難であった。
また、このような細胞外電極を用いて神経細胞の細胞外電位を計測しながら、神経細胞に薬物を投与する場合、ガラス微小電極を用いて神経細胞の外部から内部へ薬物を投与したり、灌流装置により神経細胞の周囲全体の溶液を交換して、神経細胞の内部へ薬物を投与する必要があった。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、インピーダンス−周波数特性が、神経細胞を容易に電気的に刺激することができ、電気的信号の記録を行うのに十分な特性を有し、溶液中で帯電する有機化合物または無機化合物を電極に含有可能な導電性多孔質高分子を主とする細胞外電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の細胞外電極は、絶縁基材と、該絶縁基材の一面に設けられた導電回路と、前記絶縁基材の一面側に、前記導電回路の少なくとも接続部に重なるように設けられた電極と、前記導電回路の前記電極が重なっていない領域を覆うように設けられた絶縁層とを備えた細胞外電極であって、前記電極はエチレンジオキシチオフェンと、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレン・スルフォン酸)とから構成される導電性多孔質高分子を主とすることを特徴とする。
【0010】
前記電極は、溶液中にて帯電する有機化合物または無機化合物を含有することもできる。
【0011】
本発明の細胞外電極は、絶縁基材と、該絶縁基材の一面に設けられた導電回路と、前記絶縁基材の一面側に、前記導電回路の少なくとも接続部に重なるように設けられた複数の電極と、前記導電回路の前記複数の電極が重なっていない領域を覆うように設けられた絶縁層とを備えた細胞外電極であって、前記複数の電極はエチレンジオキシチオフェンと、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレン・スルフォン酸)とから構成される導電性多孔質高分子を主とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞外電極は、絶縁基材と、該絶縁基材の一面に設けられた導電回路と、前記絶縁基材の一面側に、前記導電回路の少なくとも接続部に重なるように設けられた電極と、前記導電回路の前記電極が重なっていない領域を覆うように設けられた絶縁層とを備えた細胞外電極であって、前記電極はエチレンジオキシチオフェンと、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレン・スルフォン酸)とから構成される導電性多孔質高分子を主とするので、神経細胞に接触させることにより、神経細胞の電気的活動を計測することができるとともに、神経細胞に対して電気的刺激として電圧を印加することができる。
また、本発明の細胞外電極を構成する電極が、溶液中にて帯電する有機化合物または無機化合物を含有すれば、これらの有機化合物または無機化合物を、細胞外電極に通電することにより、有機化合物または無機化合物の溶液中への溶出を制御できる。したがって、本発明の細胞外電極は、細胞外電極に接触あるいは近接した神経細胞に薬物の投与を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施した細胞外電極について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る細胞外電極の一実施形態を示す概略断面図である。
この実施形態の細胞外電極10は、絶縁基材11と、絶縁基材11の一面11aに設けられた導電回路12と、絶縁基材11の一面11a側に、導電回路12の接続部12aに重なるように設けられた電極13と、導電回路12の電極13が重なっていない領域を覆うように設けられた絶縁層14とから概略構成されている。また、この細胞外電極10では、電極13が導電回路12と電気的に接続されている。
そして、電極12は、エチレンジオキシチオフェン(Ethylenedioxythiophene、以下、「EDOT」と略記する。)と、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(poly(3,4−Ethylenedioxythiophene)、以下、「PEDOT」と略記する。)−ポリ(スチレン・スルフォン酸)(poly(styrenesulfonate)、以下、「PSS」と略記する。)からなる混合物から構成される導電性多孔質高分子を主とするものである。
EDOTの化学式を下記の式(1)に、PEDOTの化学式を下記の式(2)に、PSSの化学式を下記の式(3)にそれぞれ示す。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
また、電極13は、溶液中にて帯電する有機化合物または無機化合物を含有させることもできる。
この実施形態において、溶液としては、例えば、一般的な細胞培養液などが挙げられる。
【0019】
また、上記の溶液中にて帯電する有機化合物としては、神経細胞の神経伝達物質であるアミノ酸などが挙げられ、具体的にはグルタミン酸やガンマアミノ酪酸、グリシンなどが挙げられる。
【0020】
また、上記の溶液中にて帯電する無機化合物としては、無機化合物としては、塩などが挙げられ、具体的にはナトリウムやカリウムなどの塩化物が挙げられる。
【0021】
絶縁基材11としては、細胞外電極10を神経細胞に接触させた状態で、この神経細胞を観察する必要があるため透明な材質のものが好ましく用いられ、例えば、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラスなどのガラス、もしくは石英などの無機物質、または、ポリメタクリル酸メチルまたはその共重合体、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、尿素樹脂、メラミン樹脂などの透明性の有機物質などが挙げられる。機械的強度と透明性に優れることから、無機物質が好ましい。
【0022】
導電回路12をなす材料としては、例えば、スズ添加酸化インジウム(Indium Tin Oxide、以下「ITO」と略記する。)、酸化スズ、クロム(Cr)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)などが用いられる。これらの中でも、導電回路12が透明なものとなり、神経細胞を観察するために好適である点から、ITOまたは酸化スズが好ましく用いられ、導電性が高い点からITOがより好ましく用いられる。
【0023】
また、導電回路12の厚みは、特に限定されるものではなく、電極13の厚みや形状などに応じて適宜設定される。
【0024】
電極13の形状および配置は、特に限定されるものではなく、対象となる神経細胞の大きさや数などに応じて適宜設定される。
【0025】
絶縁層14をなす絶縁材料としては、細胞外電極10を、神経細胞を培養下で観察する必要があるため透明な樹脂が用いられ、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0026】
次に、図1および図2を参照して、この実施形態の細胞外電極10の製造方法を説明する。
まず、その一面11aに、導電回路12が設けられた絶縁基材11を用意する。
次いで、導電回路12を覆い、所定の厚みおよび形状をなすように、上記の透明な樹脂からなる絶縁層14を設ける。この際、導電回路12の絶縁層14と接する側の面12b(以下、導電回路12の「一面12b」と言う。)における所定の領域、すなわち、電極13と電気的に接続する領域が露出するように絶縁層14を設ける。これにより、絶縁層14には、図2に示すように、電極13を設けるための開口部14aが形成される。
【0027】
次いで、空気プラズマなどのプラズマ処理により、絶縁層14の開口部14a内に露出している導電回路12の一面12b(接続部12a)を洗浄する。
次いで、EDOTとPEDOT−PSSに、導電回路12および絶縁層14が設けられた絶縁基材11を浸漬する。
【0028】
次いで、上記の絶縁基材11を混合溶液に浸漬した状態で、所定の電圧および電流にて、この混合溶液に通電すると、図2に示すように、開口部14a内の導電回路12の一面12b上に、EDOTの分子15とPEDOT−PSSの分子16とが次第に堆積して、導電性多孔質高分子17が形成される。
そして、この導電性多孔質高分子17が所定の厚みとなったところで通電を終了すると、図1に示すように、導電性多孔質高分子17を主とする電極13が設けられた細胞外電極10を得る。
なお、電極13の厚みを、混合溶液への通電時間によって、適宜制御することができる。
【0029】
この実施形態の細胞外電極10は、絶縁基材11と、絶縁基材11の一面11aに設けられた導電回路12と、絶縁基材11の一面11a側に、導電回路12に重なるように設けられた電極13と、導電回路12を覆うように設けられた絶縁層14とから概略構成され、電極13が、EDOTと、PEDOT−PSSとから構成される導電性多孔質高分子を主とするものであるから、周波数が100Hzから100kHzの範囲において、インピーダンスがほとんど変化せず、また、位相のずれも小さいから、ITO電極などとよりもインピーダンスが小さく、かつ、インピーダンス−周波数特性が優れている。
【0030】
また、この細胞外電極10を用いて神経細胞の電気的活動(細胞外電位)を測定すると、同じ電圧の電気信号を神経細胞に印加した場合、ITO電極を用いたときよりも、数多くの神経細胞の電気的活動を励起することができる。さらに、同じ電圧の電気信号を神経細胞に印加した場合、ITO電極を用いたときよりも、細胞外電極10には、より大きな電流が流れる。これは、細胞外電極10に接続された神経細胞において、広範な領域の細胞が励起されるからであると考えられる。
【0031】
また、EDOTとPEDOT−PSSを溶解した混合溶液に、上記の溶液中にて帯電する有機化合物または無機化合物を混合してもよい。このようにすれば、上記の溶液への通電によって形成された導電性多孔質高分子17を主とする電極13は、溶液中にて帯電する有機化合物または無機化合物を含有したものとなる。
【0032】
これにより、電極13に、溶液中にて帯電する有機化合物または無機化合物を含有させれば、電極13に印加する電圧に応じて、この有機化合物または無機化合物が電極13から溶出し、細胞外電極10に接続された神経細胞の電気的活動を活性化あるいは抑制することができる。例えば、溶液中にて負に帯電する有機化合物または無機化合物を電極13に含有させて、溶液中にて電極13が陰極となるように、細胞外電極10に電圧を印加することにより、電極13に接している神経細胞および電極13の近傍の神経細胞に対して、有機化合物または無機化合物の投与、すなわち、薬理学的刺激の印加を行うことができる。
【0033】
また、この実施形態では、絶縁基材11の一面11aに1つの電極13が設けられてなる細胞外電極10を例示したが、本発明の細胞外電極はこれに限定されない。本発明の細胞外電極は、絶縁基材の一面に、所定の配置かつ所定の形状で、EDOTと、PEDOT−PSSとから構成される導電性多孔質高分子を主とする複数(2個以上)の電極が設けられたものであってもよい。
このように複数の電極を備えた細胞外電極は、同時に、より多数の神経細胞の電気的活動を励起することができる。
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
図1に示すような、一面11aにITOからなる導電回路12が設けられた絶縁基材11(50μm×50μm)を用意した。
次いで、導電回路12を覆い、所定の厚みをなし、かつ、所定の位置に開口部14aが形成された、透明な樹脂からなる絶縁層14を設けた。
次いで、空気プラズマ処理により、絶縁層14の開口部14a内に露出している導電回路12の一面12aを洗浄した。
次いで、EDOTとPEDOT−PSSを、塩化ナトリウム水溶液に溶解して調製した混合溶液に、導電回路12および絶縁層14が設けられた絶縁基材11を浸漬した。
次いで、上記の絶縁基材11を混合溶液に浸漬した状態で、所定の電圧および電流にて、この混合溶液に通電し、EDOTと、PEDOT−PSSとから構成される導電性多孔質高分子を主とする電極13を形成し、細胞外電極10を得た。
【0036】
(細胞外電極の電気的特性)
以下に示す条件にて、実施例1で得られた細胞外電極10の電気的特性を測定した。
細胞外電極10を0.15Mの塩化ナトリウム溶液中に浸漬し、この状態で細胞外電極10に|0.1|V〜|0.5|Vの双極パルス電圧(パルス幅100μs)を印加し、1Hzから100kHzまでの周波数における細胞外電極10のインピーダンスと位相の応答を測定した。この測定を10回繰り返し、図3に、この10回の測定値の平均値をボード線図として示す。なお、図3において、(a)はITO電極のインピーダンス、(b)はITO電極の位相差、(c)は細胞外電極10のインピーダンス、(d)は細胞外電極10の位相差をそれぞれ表す。また、図3において、右側の縦軸は位相、左側の縦軸はゲイン、横軸は周波数をそれぞれ表す。
図3の結果から、周波数が100Hzから100kHzの範囲において、細胞外電極10のインピーダンスはほとんど変化せず、また、位相のずれも小さくなっていることが確認された。したがって、細胞外電極10は、ITO電極と比較して、インピーダンス−電気的特性が向上していることが分かった。
【0037】
(細胞外電位の測定1)
以下に示す条件にて、実施例1で得られた細胞外電極10を用いて、神経細胞の細胞外電位を測定した。
ラット(胎齢8日)の大脳皮質から単離した神経細胞を、細胞外電極10上、前記細胞培養液中で培養した。また、比較のために、同じラット由来の大脳皮質から単離した神経細胞を、ITO電極上で培養した。
次に、神経細胞の自発的な細胞外電位を測定した。その結果を図4(a)に示す。
なお、図4(a)、(b)において、縦軸は電位、横軸は時間をそれぞれ表す。
図4(a)、(b)の結果から、細胞外電極10は、ITO電極と同様に、神経細胞の細胞外電位を測定できることが確認された。
【0038】
(細胞外電位の測定2)
上述の細胞外電位の測定1で用いた神経細胞を培養した細胞外電極10に対して、|0.5|Vの双極パルス(パルス幅200μs)を印加して、細胞外電位の数を測定した。
また、同様にして、上述の細胞外電位の測定1で用いたITO電極に対して、|0.5|Vの双極パルス(パルス幅200μs)を印加して、細胞外電位の数を測定した。
細胞外電位の数は、刺激後10msから315msで観測された細胞外電位において、個々の細胞外電位の振幅と時間幅の分布が一定の範囲内にあるときは、同一細胞由来の信号であるとするクラスター・カッティング法を用いて計測した。
その結果を図5に示す。
図5の結果から、細胞外電極10は、同じ電圧の電気信号を印加した場合、ITO電極よりも数多くの神経細胞の電気的活動を励起していることが分かった。これは、 同じ大きさの電圧を印加した場合、細胞外電極10には、より大きな電流が流れ、広範囲な領域に存在する神経細胞を励起することができるためであると考えられる。
【0039】
(実施例2)
EDOTとPEDOT−PSS混合溶液に、導電回路12および絶縁層14が設けられた絶縁基材11を浸漬して、上記の絶縁基材11を混合溶液に浸漬した状態で、所定の電圧および電流にて、この混合溶液に通電し、EDOTと、PEDOT−PSSとから構成され、グルタミン酸を含有する導電性多孔質高分子を主とする電極13を形成した以外は実施例1と同様にして、細胞外電極10を得た。
【0040】
(神経細胞への有機化合物の投与)
以下に示す条件にて、実施例2で得られた細胞外電極10を用いて、電極13に直接、接している神経細胞、および、電極13の近傍の神経細胞に、グルタミン酸を投与した。
ラット(胎齢8日)の大脳皮質から単離した神経細胞を、細胞外電極10上で培養した。
次に、細胞外電極10上に培養された神経細胞の自発的活動を測定した。
その結果、上述の神経細胞の細胞外電位を測定できることが確認された。
次に、神経細胞と接触させた細胞外電極10に対して、神経細胞の電気的活動が励起されない程度の負のパルス電圧(パルス幅500ms)を1秒おきに10回印加した前後1分間において、神経細胞の自発的な電気的活動の変化を、細胞外電位の数として測定した。
その結果、パルス電圧を印加した後に、神経細胞の細胞外電位の数に変化が見られなかった。したがって、電極13に含有させたグルタミン酸が塩化ナトリウム水溶液中に溶出し、神経細胞の電気的活動を励起したものと考えられる。
【0041】
以上の結果から、本実施例の細胞外電極によれば、低いインピーダンスで、同じ電圧を印加した場合、ITO電極を用いた場合よりも、より多くの神経細胞の電気的活動を励起することができることが確認された。
また、本実施例の細胞外電極によれば、神経細胞と接触させた細胞外電極を溶液中に浸漬し、この細胞外電極に対して電圧を印加することにより、電極に直接、接している神経細胞、および、電極の近傍の神経細胞に対して、特別な器具を用いずに、局所的に薬物の投与をすることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の細胞外電極は、医療分野における薬物投与にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る細胞外電極の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る細胞外電極の製造方法を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施例において、細胞外電極のインピーダンスと位相の応答を測定した結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例において、神経細胞の細胞外電位を測定したを示すグラフである。
【図5】本発明の実施例において、細胞外電位の数を測定した結果を示すグラフである。
【図6】従来の細胞外電極を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0044】
10・・・細胞外電極、11・・・絶縁基材、12・・・導電回路、13・・・電極、14・・・絶縁層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基材と、該絶縁基材の一面に設けられた導電回路と、前記絶縁基材の一面側に、前記導電回路の少なくとも接続部に重なるように設けられた電極と、前記導電回路の前記電極が重なっていない領域を覆うように設けられた絶縁層とを備えた細胞外電極であって、
前記電極はエチレンジオキシチオフェンと、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレン・スルフォン酸)とから構成される導電性多孔質高分子を主とすることを特徴とする細胞外電極。
【請求項2】
前記電極は、溶液中にて帯電する有機化合物または無機化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の細胞外電極。
【請求項3】
絶縁基材と、該絶縁基材の一面に設けられた導電回路と、前記絶縁基材の一面側に、前記導電回路の少なくとも接続部に重なるように設けられた複数の電極と、前記導電回路の前記複数の電極が重なっていない領域を覆うように設けられた絶縁層とを備えた細胞外電極であって、
前記複数の電極はエチレンジオキシチオフェンと、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレン・スルフォン酸)とから構成される導電性多孔質高分子を主とすることを特徴とする細胞外電極。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−205756(P2007−205756A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22328(P2006−22328)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】