説明

細胞応答解析装置

【課題】試料に対する細胞の応答を測定するための解析装置を提供する。
【解決手段】細胞応答解析装置100は、試料60aに対する細胞14の応答を測定するために使用される。装置100は、細胞14が固定される流路12と、試料60a及び緩衝液40aを一時的に貯留して流路12に供給する貯留部20と、試料60aに対する細胞14の応答を測定する測定器30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に対する細胞の応答を測定するための細胞応答解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
味覚は、塩味、酸味、苦味、甘味、旨味(うまみ)に分類される。味覚は、味細胞が食品や飲料中の化学物質によって刺激を受けることによって生じる。
【特許文献1】特開2002−310858号公報
【特許文献2】特開2004−251630号公報
【非特許文献1】フルイドウェアテクノロジーズ株式会社製「マイクロ流体チップ用ポンプシステム」カタログ(2004年4月)http://www.fluidware-technologies.com/app/pump%20system/Miu_pump.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
飲料や食品の味覚試験は、熟練した試験者によってなされるが、試験者の体調によって試験結果がばらつきうる。また、多数の工場を有する企業においては、その全ての工場の製品を一人の試験者が毎日試験することは難しく、結果として、複数の試験者が試験を行わざるを得ない。これも、試験結果にばらつきを生じさせうる。
【0004】
また、飲料や食品の味覚試験を種々の工程で、種々の場所で、又は、種々の時刻に行おうとすると、試験者の負担が大きくなり過ぎる。
【0005】
また、試料に対する細胞の応答の測定は、味覚試験のみならず、種々の細胞の特性測定に有用である。
【0006】
本発明は、上記の課題認識を基礎としてなされたものであり、試料に対する細胞の応答を測定するための測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の細胞応答解析装置は、試料に対する細胞の応答を測定するための細胞応答解析装置として構成され、細胞が固定される流路と、試料及び緩衝液を一時的に貯留して前記流路に供給する貯留部と、試料に対する前記細胞の応答を測定する測定器とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の好適な実施形態によれば、前記細胞応答解析装置は、前記貯留部に緩衝液を供給する緩衝液供給部と、前記貯留部の液体が所定の液面レベルを超えないように液体を排出する排出部とを更に備えることが好ましい。
【0009】
本発明の好適な実施形態によれば、前記細胞応答解析装置は、前記貯留部に試料を供給する試料供給部と、前記緩衝液供給部による前記貯留部への緩衝液の供給及び前記試料供給部による前記貯留部への試料の供給を制御する制御部とを更に備え、前記制御部は、前記試料供給部による前記貯留部への試料の供給時に前記緩衝液供給部による前記貯留部への緩衝液の供給を停止させることが好ましい。
【0010】
本発明の好適な実施形態によれば、前記流路は、プレートに形成されていて、前記細胞応答解析装置は、前記プレートを取り外し可能に支持する支持部を更に備えることが好ましい。
【0011】
本発明の好適な実施形態によれば、前記貯留部は、供給口を有し、前記供給口を通して試料及び緩衝液を前記流路に供給するように構成され、前記流路は、前記貯留部の前記供給口を通して供給される試料及び緩衝液を受け入れる入口開口部を有し、前記入口開口部は、前記供給口の下方に位置決めされ、かつ、前記供給口よりも大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試料に対する細胞の応答を測定するための解析装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。
【0014】
図1〜図3は、本発明の好適な実施形態の細胞応答解析装置の構成を模式的に示す図である。本発明の好適な実施形態の細胞応答解析装置100は、細胞(細胞群)14が固定される流路12と、試料60a及び緩衝液40aを一時的に貯留して流路12に供給する貯留部20と、試料60aに対する細胞14の応答を測定する測定器30とを備える。貯留部20を設けることにより、試料60a及び緩衝液40aの供給の変動に影響を受けにくくなり、安定的に試料60a及び緩衝液40aを流路12に供給することができる。
【0015】
細胞14は、例えば、HEK293細胞を含みうる。HEK293細胞は、遺伝的改変を施すことにより、旨味に応答して一過的に細胞内カルシウムイオン濃度を変動させる擬似味細胞として調整されうる。
【0016】
HEK293細胞は、例えば、次のようにして流路12に固定されうる。まず、例えば、375μm幅の流路12を有するガラス/ポリジメチルシロキサン製のマイクロ流体チップ10を準備し、流路12の内部を10ng/mLのポリDリジンでコーティングする。次いで、10%ウシ血清を含むDMEM培地に10個/mLとなるよう懸濁させたHEK293細胞を導入して37℃、5%CO下で6時間静置・定着させる。次いで、流路12の内部に終濃度4μg/mLのカルシウムインジケーター(Fura2−AM(商品名))を導入し室温下で1時間静置する。
【0017】
細胞応答解析装置100は、貯留部20に緩衝液40aを供給する緩衝液供給部40と、貯留部20の液体が所定の液面レベルを超えないように液体を排出する排出部50とを備えうる。緩衝液40aとしては、例えば、Ca、Mgを含有するハンクス平衡塩溶液(商品名)を使用することが好ましい。
【0018】
緩衝液供給部40は、例えば、緩衝液40aを収容する緩衝液タンク42と、緩衝液タンク42から貯留部20に緩衝液40aを送る供給管46と、供給管46に設けられたペリスタポンプ44とを含んで構成されうる。
【0019】
排出部50は、例えば、貯留部20に貯留されている液体(緩衝液40a、試料60a)が所定の液面レベルを超えないように、その液体を排出管52、56を通して排出タンク80に排出する。このような構成において、緩衝液供給部40から貯留部20に対して流路12を流れる緩衝液よりも多くの緩衝液を供給しつつ貯留部20に貯留されている液体が所定の液面レベルを超えないように貯留部20から液体を排出することによって、流路12に途切れることなく緩衝液40aを供給することができる。
【0020】
排出部50は、例えば、貯留部20に貯留されている液体のうち所定の液面レベルを超える分を排出するためのポンプ54を含みうる。ここで、所定の液面レベルを超える液体の排出は、例えば、貯留部20及び排出部50をオーバーフロー槽構成とすることにより実現することもできる。
【0021】
細胞応答解析装置100は、流路12を通過した液体(緩衝液40a、試料60a)を排出タンク80に排出するための排出部70を備えうる。排出部70は、回収部72、排出管74、78及びポンプ76を備えうる。なお、ポンプ76を備えることなく、緩衝液タンク42、試料タンク62と排出タンク80との落差を利用して流路12内の液体を排出してもよい。
【0022】
細胞応答解析装置100は、貯留部20に試料60aを供給する試料供給部60を更に備えることが好ましい。試料供給部60は、例えば、試料60aを貯留する試料タンク62と、試料タンク62から貯留部20に試料60aを送る供給管66と、供給管66に設けられたペリスタポンプ64とを含んで構成されうる。
【0023】
細胞応答解析装置100は、緩衝液供給部40による貯留部20への緩衝液40aの供給、及び、試料供給部60による貯留部20への試料60aの供給を制御する制御部60を更に備えることが好ましい。制御部60は、更に、排出部50による貯留部20からの液体の排出、及び、排出部70による流路12を通った液体の排出をも制御しうる。
【0024】
制御部60は、図1に矢印Aで例示的に示すように、流路12に細胞14が固定されている状態において試料供給部60が貯留部20に試料60aを供給しないときは、緩衝液供給部40が貯留部20に緩衝液40aを供給するように、ペリスタポンプ44、64を制御することが好ましい。これにより、流路12への試料60aの供給の終了後(測定の終了後)における緩衝液40aによる試料60aの置換を速やかに行うことができ、連続的に試料の測定を行うことができる。
【0025】
制御部60はまた、図2に矢印Bで例示的に示すように、試料供給部60が貯留部20に試料60aを供給するときは、緩衝液供給部40が貯留部20に緩衝液40aを供給しないように、ペリスタポンプ44、64を制御することが好ましい。これにより、流路12に固定された細胞14に対して適正な濃度で試料60aを供給することが容易になる。
【0026】
流路12は、例えば、マイクロ流体チップを構成するプレート10に形成されうる。プレート10は、支持部90によって取り外し可能に支持されることが好ましい。すなわち、マイクロ流体チップを構成するプレート10は、細胞応答解析装置100から取り外し可能であることが好ましい。図3は、プレート10が取り外された細胞応答解析装置100の一例を模式的に示している。プレート10を交換する際には、回収部70は、不図示の機構によって退避させられうる。
【0027】
プレート10は、例えば、位置決め部90bに位置決めされた後に、固定機構92によって固定されうる。このように流路12を有するプレート10(マイクロ流体チップ)を着脱可能にすることにより、細胞14が固定された流路12の調整作業、取り扱い、保管が容易になる。
【0028】
貯留部20は、底部等の適所に供給口20aを有し、供給口20aを通して試料及び緩衝液を流路12に供給するように構成されている。流路12は、貯留部20の供給口20aを通して供給される試料及び緩衝液を受け入れる入口開口部12aを有する。入口開口部12aは、供給口20aの下方に位置決めされ、かつ、供給口20aよりも大きいことが好ましい。
【0029】
プレート10には、複数の流路12が並列に形成されうる。この場合、例えば、貯留部20や回収部72は、流路12の本数だけ設けられてもよいし、複数の流路12に対して共通に設けられてもよい。更に、試料供給部60、及び/又は、緩衝液供給部40も、流路12の本数だけ設けられてもよいし、複数の流路12に対して共通に設けられてもよい。
【0030】
細胞応答解析装置100は、流路12に固定された細胞14に試料供給部60によって試料が供給されている状態で測定する測定器30を備えている。支持部90は、流路12に固定された細胞14を測定器30が観察することができるように、測定器30の視野部分に開口部90aを有しうる。
【0031】
測定器30は、例えば、旨味に応答する味細胞であるHEK293細胞14の旨味応答を測定する場合には、340nm、380nmでそれぞれの波長における吸収強度を記録する。この際に、旨味物質存在下で一過的な細胞内カルシウムイオン濃度変動を生じるよう調製されたHEK293細胞14は、試料中の旨味物質および同増強物質による刺激に依存して、励起波長シフトを起こし、それが測定器30によって記録される。この場合、HEK293細胞14で励起波長シフトが起こることは、細胞内のカルシウムイオン濃度が変動したこと、すなわち、試料中に細胞のカルシウムシグナル経路を惹起するような旨味成分や同増強成分が含まれていることを意味する。また、HEK293細胞14における340nm、380nmの吸収強度比は、カルシウムイオンの相対量を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の好適な実施形態の細胞応答解析装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の好適な実施形態の細胞応答解析装置の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の好適な実施形態の細胞応答解析装置の構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0033】
10 プレート(マイクロ流体チップ)
12 流路
14 細胞(細胞群)
20 貯留部
20a 供給口
30 測定器
40 緩衝液供給部
40a 緩衝液
42 緩衝液タンク
44 ペリスタポンプ
46 供給管
50 排出部
52 排出管
54 ポンプ
56 排出管
60 試料供給部
62 試料タンク
64 ペリスタポンプ
66 供給管
70 排出部
72 回収部
74 排出管
76 ポンプ
78 排出管
80 排出タンク
90 支持部
90a 90a
90b 位置決め部
100 細胞応答解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対する細胞の応答を測定するための細胞応答解析装置であって、
細胞が固定される流路と、
試料及び緩衝液を一時的に貯留して前記流路に供給する貯留部と、
試料に対する前記細胞の応答を測定する測定器と、
を備えることを特徴とする細胞応答解析装置。
【請求項2】
前記貯留部に緩衝液を供給する緩衝液供給部と、
前記貯留部の液体が所定の液面レベルを超えないように液体を排出する排出部と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の細胞応答解析装置。
【請求項3】
前記貯留部に試料を供給する試料供給部と、
前記緩衝液供給部による前記貯留部への緩衝液の供給及び前記試料供給部による前記貯留部への試料の供給を制御する制御部と、
を更に備え、前記制御部は、前記試料供給部による前記貯留部への試料の供給時に前記緩衝液供給部による前記貯留部への緩衝液の供給を停止させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞応答解析装置。
【請求項4】
前記流路は、プレートに形成されていて、
前記細胞応答解析装置は、前記プレートを取り外し可能に支持する支持部を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞応答解析装置。
【請求項5】
前記貯留部は、供給口を有し、前記供給口を通して試料及び緩衝液を前記流路に供給するように構成され、
前記流路は、前記貯留部の前記供給口を通して供給される試料及び緩衝液を受け入れる入口開口部を有し、
前記入口開口部は、前記供給口の下方に位置決めされ、かつ、前記供給口よりも大きいことを特徴とする請求項4に記載の細胞応答解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−256203(P2007−256203A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83822(P2006−83822)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、農林水産省、委託プロジェクト研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】