説明

細胞検体の異物排出活性検出方法、及びその利用

【課題】直接的な細胞検体の異物排出活性検出、及び異物排出活性検出時間の短縮を実現する。
【解決手段】異物として、細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す蛍光標識化合物を用いるとともに、複数の細胞検体2が載置されたガラス基板3に、少なくとも1つの窪み部を有するチャンバー1を貼りあわせ、チャンバー1の窪み部とガラス基板3とにより形成された空間部に細胞検体2を封入し、空間部内に封入された細胞検体2から排出される蛍光標識化合物の蛍光を観察することで、直接的な細胞検体の異物排出活性検出、及び異物排出活性検出時間の短縮が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞検体の異物排出活性検出方法、及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細菌の全ゲノム配列が次々と決定されている現在、遺伝子配列から推定される異物排出タンパク質候補遺伝子の発現クローニング及びその機能解析が盛んに行われている。しかしながら、これまでのところ、異物排出活性を簡便かつ迅速に検出する手法は確立されていない。従って、既知の異物排出遺伝子と殆ど相同性を有しない新規な異物排出遺伝子を網羅的にスクリーニングし、遺伝子解析により同定することは困難な状況である。
【0003】
また、癌治療の現場においても、抗癌剤に対して耐性を示す癌細胞の出現が問題になっている。例えば、ヒトの癌細胞においては、MDR1遺伝子やMRP1遺伝子といった、異物排出タンパク質をコードする遺伝子が、抗癌剤耐性の原因になっていることが報告されている。従って、細菌からヒトに至るまで、異物排出タンパク質をコードする新規遺伝子を網羅的に解析・同定することは重要である。さらに、異物排出タンパク質に対する大規模なスクリーニングは、創薬分野において特に重要である。
【0004】
従来、このような異物排出遺伝子の同定や異物排出タンパク質の阻害剤のスクリーニングは、細胞検体が異物(薬剤)存在下で生育可能か否かを調べることにより行われてきた。すなわち、細菌や真菌など培養可能な微生物については、検査する薬剤を一定の濃度になるよう加えた培地でその微生物が生育可能かどうかの検査(生育阻止試験)が行われる。それぞれ完全に生育阻止または殺菌が可能であった最低の濃度を、最小発育阻止濃度(minimal inhibitory concentration, MIC)として、その微生物に対する薬剤の効果の指標とする。MICが小さいほど、薬剤の効果が高い、あるいはその微生物の感受性が高いことを表し、指標値よりもMICが大きければ、微生物のその薬剤に対する感受性が低い、すなわち薬剤耐性であることになる。
【0005】
図11は、細胞検体として大腸菌を用いた場合における、異物(薬剤)排出活性検出方法を示した画像である。図11に示される異物排出活性検出方法では、異物(薬剤)を染み込ませた担体を、大腸菌をスプレッドした寒天培地上に載置し、大腸菌を生育させる。こうすると、図11に示されるように、異物を染み込ませた担体の周辺に、大腸菌が生育できない生育阻止円が形成される。そして、担体に染み込ませる異物の濃度に系列をとる(担体に染み込ませた異物濃度を高い濃度から低い濃度に系列をとる)と、図11に示されるように、大腸菌の生育阻止円は、異物濃度か高ければ高いほど、その直径が大きくなる。異物排出活性は、この生育阻止円の直径の比較により行われる。
【0006】
また、特許文献1には、一分子酵素活性検出に用いられるマイクロチャンバと1000fL以下の液滴を調製する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3727026号(登録日 平成17(2005)年10月 7日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、薬剤存在下における細胞検体の生育を指標にした、従来の異物(薬物)排出活性検出方法には、以下の問題点が生じる。
【0008】
すなわち、従来の異物排出活性検出方法は、細胞検体の生育に依存した方法であるため、異物排出に欠陥が生じているか否かを判断するのに時間がかかってしまう。例えば、細胞検体として大腸菌を用いた場合には、異物排出を検出するのに少なくとも15時間かかってしまう。
【0009】
また、従来の異物排出活性検出方法は、細胞検体の生育を指標にした方法であるので、スクリーニングに際し、異物排出以外の要因で異物(薬剤)耐性を示す細胞検体が取得される可能性がある。
【0010】
図12は、細胞検体が細菌である場合における、多剤耐性の要因について示した模式図である。図12に示されるように、細菌が多剤耐性を示す要因として、以下の4つの要因が考えられる。ずなわち、(1)細胞内への異物(薬剤)取り込み能力の低下、(2)細胞内へ取り込まれた異物(薬剤)を不活性化する薬剤不活性化酵素の産生、(3)異物(薬剤)を標的とする標的タンパク質の変異、(4)細胞外へ異物(薬剤)を排出する異物排出タンパク質の排出活性の増加が考えられる。
【0011】
異物排出タンパク質をスクリーニング・同定するに際し、従来の異物排出検出方法では、細胞検体の生育という間接的な指標を用いているため、上記(4)の要因以外に、(1)〜(3)の要因により異物(薬剤)耐性を示す細胞検体が取得されてしまう。すなわち、従来の細胞検体の生育を指標にした方法は、異物排出遺伝子・異物排出タンパク質の阻害剤をターゲットしたスクリーンニングに適さない。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、直接的に細胞検体の異物排出活性を検出でき、かつ異物排出活性検出時間を短縮することが可能な細胞検体の異物排出検出方法及びその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法は、上記の課題を解決するために、細胞検体内に取り込まれた異物を細胞検体外へ排出する際の異物排出活性を検出する細胞検体の異物排出活性検出方法であって、上記異物として、細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す蛍光標識化合物を用いるとともに、複数の細胞検体が載置された支持部材に、少なくとも1つの窪み部を有するチャンバーを貼りあわせ、該チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された空間部に細胞検体を封入し、空間部内に封入された細胞検体から排出される蛍光標識化合物の蛍光を観察することを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法は、複数の細胞検体を蛍光標識化合物を含む媒質に懸濁し、細胞試料液を調製する調製工程と、細胞試料液を支持部材上に載置する載置工程と、細胞試料液が載置された支持部材に、少なくとも1つの窪み部を有するチャンバーを貼り合わせる貼り合せ工程と、チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された空間部内に封入された細胞検体から排出される蛍光標識化合物を観察する観察工程とを含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法は、上記空間部全域に蛍光標識化合物の蛍光が観察された場合には、細胞検体の異物排出活性が正常であると判定する判定工程を含むことが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法は、上記チャンバーは、複数の窪み部を有するとともに、上記判定工程では、複数の窪み部と上記支持部材とにより形成された複数の空間部について、全域に蛍光標識化合物の蛍光が観察された空間部の数が、野生型の細胞検体と比較して少なくなっている場合に、細胞検体の異物排出活性が異常であると判定することが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法は、さらに、封入された細胞検体内に蛍光標識化合物の蛍光が蓄積している空間部の数が、野生型の細胞検体と比較して、多くなっている場合に、細胞検体の異物排出活性が異常であると判定することが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法は、上記蛍光標識化合物は、細胞検体内に取り込まれることで、その細胞検体が死滅しない特性を有することが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法では、上記蛍光標識化合物は、細胞検体内の酵素との反応により負電荷になる特性を有することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法では、上記蛍光標識化合物は、細胞検体内のβ−ガラクトシターゼとの反応により蛍光性を示す化合物であることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法では、上記上記蛍光標識化合物は、Fluorescein-di-β-D-galactopyranoside(FDG)であることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法は、上記細胞検体として大腸菌を用いるとともに、チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された上記空間部の体積が、100fL(フェムトリッター)以下になっていることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る細胞の異物排出遺伝子のスクリーニング方法は、上記の課題を解決するために、上述の細胞検体の異物排出活性検出方法を用いて、異物排出タンパク質をコードする遺伝子をスクリーニングすることを特徴としている。
【0024】
さらに、本発明に係る細胞の異物排出遺伝子のスクリーニング方法は、上記の課題を解決するために、細胞検体として、異物排出遺伝子の変異により異物排出活性が異常になった変異大腸菌を用い、上記変異大腸菌に、大腸菌と異種の細胞のゲノムから構成されるゲノムライブラリーを形質転換する形質転換工程と、ゲノムライブラリーが形質転換された、各大腸菌形質転換体について、上述の細胞検体の異物排出活性検出方法を用いて異物排出活性を検出する検出工程と、異物排出活性を検出した結果、異物排出活性異常が正常に戻った大腸菌形質転換体を取得する取得工程とを含むことを特徴としている。
【0025】
また、本発明に係る細胞の異物排出阻害剤のスクリーニング方法は、上記の課題を解決するために、上述の細胞検体の異物排出活性検出方法を用いて、異物排出タンパク質の異物排出活性を阻害する異物排出阻害剤をスクリーニングすることを特徴としている。
【0026】
また、本発明に係る異物排出活性検出キットは、上記の課題を解決するために、細胞検体内に取り込まれた異物を細胞検体外へ排出する際の異物排出活性を検出するための異物排出活性検出キットであって、細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す蛍光標識化合物を含有する蛍光標識溶液と、複数の細胞検体が載置された支持部材に貼りあわせ、細胞検体を封入するための空間部を形成するための、窪み部を有するチャンバーとを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法は、以上のように、異物として、細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す蛍光標識化合物を用いるとともに、複数の細胞検体が載置された支持部材に、少なくとも1つの窪み部を有するチャンバーを貼りあわせ、該チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された空間部に細胞検体を封入し、空間部内に封入された細胞検体から排出される蛍光標識化合物の蛍光を観察することを特徴としている。
【0028】
また、本発明に係る細胞の異物排出遺伝子のスクリーニング方法は、以上のように、上述の細胞検体の異物排出活性検出方法を用いて、異物排出タンパク質をコードする遺伝子をスクリーニングすることを特徴としている。
【0029】
また、本発明に係る細胞の異物排出阻害剤のスクリーニング方法は、以上のように、上述の細胞検体の異物排出活性検出方法を用いて、異物排出タンパク質の異物排出活性を阻害する異物排出阻害剤をスクリーニングすることを特徴としている。
【0030】
さらに、本発明に係る異物排出活性検出キットは、以上のように、細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す蛍光標識化合物を含有する蛍光標識溶液と、複数の細胞検体が載置された支持部材に貼りあわせ、細胞検体を封入するための空間部を形成するための、窪み部を有するチャンバーとを含む構成になっている。
【0031】
これにより、細胞検体における異物排出活性(異物排出の挙動)を直接的に検出するとともに、異物排出活性検出時間を短縮することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明についてより具体的に説明すれば、以下の通りである。なお言うまでもないが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0033】
本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法(以下、本異物排出活性検出方法と記す)では、細胞検体内に取り込まれた異物を細胞検体外へ排出する際の異物排出活性を検出するために、異物として、細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す蛍光標識化合物を用いる。そして、複数の細胞検体が載置された支持部材(例えば、スライドガラスといったガラス基板)に、少なくとも1つの窪み部を有するチャンバーを貼りあわせ、該チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された空間部に細胞検体を封入する。そして、この空間内に封入された細胞検体から排出される蛍光標識化合物の蛍光を、蛍光顕微鏡で観察したり、顕微鏡に取り付けられたCCDカメラで撮影したりすることによって、細胞検体における異物排出活性(異物排出の挙動)を直接的に検出することができる。
【0034】
また、チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された空間部という閉じ込められた空間内で蛍光標識化合物の蛍光を観察するので、高感度に異物排出活性を検出することができる。この結果、異物排出活性検出時間を短縮することが可能になる。
【0035】
また、本異物排出活性検出方法は、少なくとも1つの窪み部を有するチャンバーを貼りあわせ、該チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された空間部に細胞検体を封入し、細胞検体を観察するのみでよいので、異物排出活性の検出に、特殊な技能を必要としない。
【0036】
本異物排出活性検出方法、本発明に係る細胞の異物排出遺伝子のスクリーニング方法、本発明に係る細胞の異物排出阻害剤のスクリーニング方法、および、本発明に係る異物排出活性検出キットについて、以下にそれぞれ説明する。
【0037】
(1)本発明に係る細胞検体の異物排出活性検出方法
本異物排出活性方法について、図1(a)〜(d)に基づいて説明する。図1(a)〜(d)は、本異物排出活性方法を示すものであり、図1(a)は、本異物排出活性検出方法を示す模式図であり、図1(b)は、空間部に封入された100nm径のプラスチックビーズを示す画像であり、図1(c)は、空間部に封入された10nm径の無機微粒子を示す画像画像であり、図1(d)は、空間部に封入された細菌(バクテリア)を示す画像である。
【0038】
図1(a)に示されるように、本異物排出活性検出方法は、複数の細胞検体を蛍光標識化合物を含む媒質に懸濁し、細胞試料液2を調製する調製工程と、細胞試料液2をガラス基板3(支持部材)上に載置する載置工程と、細胞試料液2が載置されたガラス基板3に、少なくとも1つの窪み部を有するチャンバー1を貼り合わせることで、観察用細胞サンプル4を作成する貼り合せ工程と、観察用細胞サンプル4に関し、チャンバー1の窪み部とガラス基板3とにより形成された空間部内に封入された細胞検体から排出される蛍光標識化合物を観察する観察工程と、を含むものである。また、本異物排出活性検出方法は、好ましくは、上記空間部全域に蛍光標識化合物の蛍光が観察された場合には、細胞検体の異物排出活性が正常であると判定する判定工程を含む。
【0039】
本異物排出活性検出方法は、チャンバー1の窪み部とガラス基板3とにより形成された空間部という閉じ込められた空間内において、細胞検体から排出される蛍光標識化合物を検出するというものである。具体的には、例えば細胞検体として大腸菌を用いる場合、まず、LB寒天培地にて異物排出活性を検出するべき大腸菌の検体を培養し、コロニーを形成させる。その後、この大腸菌1コロニーを蛍光標識化合物を含む媒質(例えばM9培地)に懸濁し、細胞試料液2としての大腸菌懸濁液を調製する。そして、この大腸菌懸濁液をカバーバラス上に載置し、その上からチャンバー1を押し付けることで、大腸菌を空間部に閉じ込め、観察用細胞サンプルを作成する。そして、この観察用細胞サンプルを蛍光顕微鏡下で観察することで、大腸菌の異物排出活性を検出することができる。
【0040】
本異物排出活性検出方法によれば、チャンバー1は、空間部の外部あるいは空間部内に封入された細胞試料液2の間において、実質的に細胞試料液2中の細胞検体及び媒質の出入りがないようになっている。それゆえ、細胞検体外に排出された蛍光標識化合物は、空間部内に蓄積することになり、細胞検体の異物排出による蛍光標識化合物の濃度変化がより顕著に観察される。その結果、細胞検体における異物排出活性(異物排出の挙動)を直接的に検出することが可能になる。なお、ここでいう「実質的に」細胞試料液2中の細胞検体及び媒質の出入りがないとは、空間部内で検出される異物排出活性結果に影響を及ぼさない程度で細胞検体及び媒質の出入りがないことと理解されるべきである。
【0041】
また、上記調製工程にて、細胞試料液2を調製する際には、チャンバー1の窪み部とガラス基板3とにより形成された空間部の体積あたり細胞検体1個もしくは数個存在するように調製することが好ましい。空間部の体積当たりの細胞検体の数が多くなると、空間部内に多くの細胞検体が封入されることになり、観察工程にて、細胞検体から排出される蛍光標識化合物を蛍光顕微鏡下で観察する際に、蛍光が強すぎてしまうためである。
【0042】
また、本異物排出活性検出方法においては、細胞検体外に排出された蛍光標識化合物は、空間部内に蓄積することになるので、判定工程にて、空間部全域に蛍光標識化合物の蛍光が観察された場合には、細胞検体の異物排出活性が正常であると判定することが可能になる。
【0043】
特に、チャンバー1に窪み部が複数形成されている場合、細胞検体が封入される空間部も複数形成されることになる。このような場合、1種類の細胞試料液2に対し多数の細胞検体を同時に検出でき、異物排出活性検出の信頼性を向上させることができる。
【0044】
また、異物排出活性が正常である野生型の細胞検体について、本異物排出活性検出方法を行い、この異物排出活性検出結果を指標として、細胞検体の異物排出活性が異常であるか否かを判定することが可能である。すなわち、判定工程で、チャンバー3における複数の窪み部とガラス基板3とにより形成された複数の空間部について、全域に蛍光標識化合物の蛍光が観察された空間部の数が、野生型の細胞検体と比較して少なくなっている場合に、細胞検体の異物排出活性が異常であると判定する。
【0045】
さらに、封入された細胞検体内に蛍光標識化合物の蛍光が蓄積している空間部の数が、野生型の細胞検体と比較して、多くなっている場合に、細胞検体の異物排出活性が異常であると判定することで、より確実に細胞検体の異物排出活性が異常であるか否かを判定することが可能になる。
【0046】
本発明に適用可能な「支持部材」は、細胞検体を載置可能な部材であれば、特に限定されない。細胞検体の種類に応じて、当業者にとって公知な載置可能な部材を適用することができる。例えば、支持部材としては、市販の光学顕微鏡のプレパラート用のスライドガラスであってもよく、あるいは、チャンバー1と同様の材料からなるものであってもよい。
【0047】
なお、図1(b)〜図1(d)に示された画像から、本異物検出方法におけるチャンバー1の窪み部が、細菌を初めとする細胞検体を封入することが可能であることがわかる。
【0048】
(2)本発明に適用可能なチャンバーについて
本発明に適用可能なチャンバー1は、少なくとも1つの窪み部を有するものである。この窪み部により形成される空間部の体積は、細胞検体1個の体積よりも大きく、かつ、細胞検体外に排出された蛍光標識化合物を蛍光顕微鏡下で観察することが許容される観察許容体積よりも小さいことが好ましい。
【0049】
すなわち、空間部の体積は、細胞検体1個の体積、及び、異物としての蛍光標識化合物を細胞検体外へ排出する異物排出タンパク質の異物排出活性に依存する。つまり、空間部の体積は、細胞検体内の酵素と蛍光標識化合物との酵素反応の速度に依存するものではなく、異物排出タンパク質の異物排出活性に依存する。つまり、細胞検体内の酵素と蛍光標識化合物との酵素反応速度に基づいて設定された空間部の体積(例えば特許文献1に記載のマイクロチャンバの窪みの体積)であっても、細胞検体の異物排出タンパク質の異物排出活性(異物排出速度)が遅いと、細胞検体外に排出される蛍光標識化合物を観察しにくくなるおそれがある。その結果、異物排出活性が正常である野生型の細胞検体であっても、細胞検体内に蛍光標識化合物を蓄積するものが多くなり、異物排出活性が正常であるか否かを正確に判定することが困難になる。それゆえ、本異物排出活性検出方法においては、空間部の体積は、異物排出タンパク質の異物排出活性に依存するものである。
【0050】
上記の理由から、細胞検体として大腸菌等の細菌を使用する場合、チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された上記空間部の体積が、100fL(フェムトリッター)以下になっていることが好ましい。
【0051】
また、本異物排出活性検出方法に適用可能な「細胞検体」は、後述するような、異物(薬剤)排出活性が明らかになっており、かつ、実験室レベルを含めて培養が可能な公知の細胞であればよい。具体的には、細胞検体としては、大腸菌等の微生物、ヒト癌細胞等が挙げられる。
【0052】
特に、細胞検体としてヒト癌細胞を適用した場合、ヒト癌細胞は、体積が1000fLになっていることから、空間部の体積は、5000fL〜10000fLになっていることが好ましい。すなわち、本異物排出検出方法では、空間部における細胞検体の体積の割合を考慮すると、上記空間部の体積は、細胞検体1個の体積の5倍〜10倍になっていることが好ましい。
【0053】
以下、図2を参照して、本発明に適用可能なチャンバーの製造方法の一例について、説明する。図2(a)〜(e)は、チャンバー1の製造工程を示し、図2(a)は、チャンバー1を製造するための鋳型を製造する工程を示す断面図であり、図2(b)は、鋳型の構造を拡大した画像であり、図2(c)は、鋳型を用いてチャンバー1を製造する工程を示す断面図であり、図2(d)及び図2(e)は、製造されたチャンバー1の構造を拡大した画像である。
【0054】
図2(a)に示されるように、チャンバーの製造においては、まず、通常のリソグラフフィ法を用いて、鋳型を製造する。より詳細には、二酸化シリコン(SiO)からなる二酸化シリコン層5がシリコン(Si)からなるシリコン層6により狭持された基板を用意する。そして、この基板の上にアルミニウム(Al)からなるアルミニウム膜7を蒸着し、このアルミニウム膜7上にフォトレジスト5をコーティングした後、フォトレジスト5をパターニングする。次いで、紫外線を照射し、フォトレジスト5を除去する。その結果、フォトレジスト5のパターンに基づき、基板における二酸化シリコン層5表面に、シリコン層6、アルミニウム膜7がこの順で積層された突起部が形成されることになる。そして、この突起部におけるアルミニウム膜7を除去することで、二酸化シリコン層5表面にシリコン(Si)からなる突起部が形成された鋳型が完成する。図2(b)に示されるように、鋳型の突起部のサイズを非常に小さくすることが可能である。なお、図2(a)から分かるように、上記の突起部(パターニングの結果フォトレジスト5が残留する部分)が、チャンバー1の窪み部に対応する鋳型部分である。それゆえ、突起部の寸法は、形成されるべき窪み部と実質的に同一の寸法にする。
【0055】
次いで、図2(c)に示されるように、ポリジメチルシロキサン(PDMS)と硬化剤とを10:1で混合させた液状PDMS(チャンバー1の材料)を調製し、この液状PDMSを、図2(a)にて製造した鋳型に塗布する。その状態で、液状PDMSを硬化させた後、鋳型を剥がすことで、PDMSからなるチャンバー1が完成する。このチャンバー1は、図2(e)に示されるように、窪み部の体積を1fLにすることが可能である。あるいは、図2(d)に示されるように、窪み部の体積を1fL以上にすることが可能である(図2(d)・(e)に示された画像のスケールを示す線「1μm」から容易に読み取れる)。
【0056】
なお、上記の例では、チャンバー1の材料として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いているが、この材料に限定されるものではない。チャンバー1を形成可能な材料であれば、他の高分子樹脂であってもよく、当業者にとって公知な任意の材料であってもよい。
【0057】
また、このように製造されたチャンバー1の窪み部とガラス基板3とに形成された空間部に細胞検体を封入することで、細胞検体外へ排出される蛍光標識化合物の蛍光強度を強くすることが可能になり、検出感度を向上させることができる。図3は、空間部における検出感度の向上を説明するための説明図である。
【0058】
例えば、封入される1つの細胞検体が1分間に600分子の蛍光標識化合物(図3では「反応性生物」と記している)を排出する異物排出活性を有する場合について考察する。図3に示されるように、1μL(1mm)中で、細胞検体外へ排出される蛍光標識化合物を検出する場合、異物排出により、蛍光標識化合物の濃度は1分間に1fM増加することになる。このような環境下では、排出される蛍光標識化合物の濃度変化が小さすぎて、蛍光顕微鏡下で異物排出活性を検出することは不可能である。一方、本異物排出活性検出法のように、チャンバー1の窪み部とガラス基板3とに形成された空間部に細胞検体を封入した場合、空間部の体積を1fLレベルにまで小さくすることが可能なる。空間部の体積が1fLである場合、蛍光標識化合物の濃度は1分間に1μM増加することになり、十分蛍光顕微鏡下で異物排出活性を検出することが可能になる。本異物排出活性検出方法は、このように微小な体積を有する空間部に細胞検体を封入することで、高感度の異物排出活性検出を実現している。
【0059】
(3)本発明における「異物」及び本発明に適用可能な蛍光標識化合物について
本発明における「異物」とは、細胞検体が取り込んだ結果「異物」として認識し、細胞検体外へ排出する化合物のことをいう。特に病院等の臨床現場においては、抗生物質に対し耐性を示す多剤耐性菌の患者への感染が問題になっている。例えば、大腸菌では、下記表1に示される抗生物質に対する多剤耐性が報告されている。
【0060】
【表1】

【0061】
また、各種薬剤に対する多剤耐性を引き起こす遺伝子(例えば、acrAB)遺伝子が同定されている。これまでに同定された多剤耐性遺伝子のいくつかは、薬剤を細胞外へ排出する異物排出タンパク質をコードする異物排出遺伝子である。
【0062】
さらには、このように同定された異物排出遺伝子の中には、ヒト細胞の遺伝子と相同性を示すものも同定され、表2に示すように、ヒト細胞のMDR1遺伝子が異物排出に関連していることが明らかになっている。また、MDR1タンパク質等のヒト細胞の異物排出タンパク質が、ヒト癌細胞の抗癌剤耐性の原因になっていることが報告されている(Ozben.FEBS Lett. 2006, 580. 2903-2909)
【0063】
【表2】

【0064】
本異物排出活性検出方法では、このような異物排出タンパク質による異物排出を直接的に蛍光顕微鏡下で検出することが可能である。
【0065】
蛍光標識化合物は、細胞検体内に取り込まれることで、その細胞検体が死滅しない特性を有することが好ましい。これにより、細胞検体の異物排出活性をより正確に検出することが可能になる。つまり、蛍光標識化合物が細胞検体内に取り込まれ、その細胞検体が死滅する場合、死滅する細胞検体がノイズとなり、正確に細胞検体の異物排出活性を検出できない。
【0066】
さらには、蛍光標識化合物は、細胞検体内の酵素との反応により負電荷になる特性を有することが好ましい。細胞検体内の酵素との反応により負電荷になった蛍光標識化合物は、細胞膜を透過することができず、異物排出タンパク質による能動輸送によってのみ細胞検体外へ排出されるので、細胞検体の異物排出活性をより正確に検出することが可能になる。
【0067】
さらには、蛍光標識化合物は、細胞検体内のβ−ガラクトシターゼとの反応により蛍光性を示す化合物であることが好ましい。特に、細胞検体として大腸菌等の細菌を用いる場合、大腸菌は、その細胞内に常にβ−ガラクトシターゼを発現しており、細胞検体の酵素としてβ−ガラクトシターゼを適用することが可能になる。
【0068】
特に、Fluorescein-di-β-D-galactopyranoside(FDG)は、図4(a)に示される化学構造を有し、細胞検体内のβ−ガラクトシターゼとの反応により蛍光性を示すフルオレセインになる。このフルオレセインは、負電荷であり、かつ細胞検体を死滅しない機能を有する。それゆえ、蛍光標識化合物は、Fluorescein-di-β-D-galactopyranoside(FDG)であることがさらに好ましい。なお、図4(b)は、チャンバー1を用い、FDGと低濃度のβ−ガラクトシターゼとを混合し、蛍光強度の増加で酵素反応をモニターした結果を示す画像である。tは酵素反応後の時間を示す。β−ガラクトシターゼが1分子でも入っている空間部内では、すぐに(酵素反応後60秒で)蛍光強度が増加していることが分かる。
【0069】
なお、本異物活性検出方法においては、酵素1分子を空間部に封入した「1分子測定」と比較して、検出結果の判定時間が長いことは言うまでもない。すなわち、上記「1分子測定」と比較して、本異物排出活性検出方法では、蛍光標識化合物の酵素反応に加え、異物排出タンパク質による異物排出を考慮する必要がある。このような異物排出タンパク質による異物排出を考慮に入れた判定時間は、細胞検体の種類、異物排出タンパク質の異物排出活性等により、適宜設定できる。また、該判定時間は、空間部に封入後の細胞検体外への蛍光標識化合物の排出をリアルタイムに観察することで容易に設定することができる。例えば、細胞検体として大腸菌を使用した場合、空間部に封入後、10分程度で異物排出活性を検出することが可能である。
【0070】
また、蛍光標識化合物は、上記に例示したFDGに限定されず、細胞検体内に取り込み、細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す化合物であればよい。
【0071】
図5に本異物排出活性検出法に適用可能な蛍光標識化合物を例示している(Lorincz M, Roeder M, Diwu Z, Herzenberg LA, Nolan GP. Cytometry.1996. 24:321-9,Hollo Z, Homolya L, Hegedus T, Sarkadi B. FEBS Lett. 1996 383:99-104,Homolya L, Hollo Z, Germann UA, Pastan I, Gottesman MM, Sarkadi B. J Biol Chem.1993. 268:21493-6.)。なお、図5における(I)の項に示された化合物が、蛍光標識化合物であり、その化学構造も併せて示されている。そして、(II)の項に示された化合物が、細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す化合物であり、その化学構造も併せて示されている。なお、(I)と(II)との間の矢印の下に付記した酵素は、(I)の項に示した各蛍光標識化合物と反応する細胞内の酵素を示している。
【0072】
図5に示すように、β−ガラクトシターゼを発現していない細胞検体に対しても、本異物排出活性検出方法を適用することが可能である。例えば、β-glucronidaseを発現している細胞検体に対しては、Fluorescein-di-β-D-glucronideを蛍光標識化合物として用いることができる。また、エステラーゼ(esterase)を発現している細胞検体に対しては、Calein-acetoxymetykester(CAM)やFluorescein-di-acetate(FDA)(不図示)を蛍光標識化合物として使用することができる。
【0073】
なお、図5や上記に例示した蛍光標識化合物は、異物排出タンパク質により細胞検体外へ排出されることが知られている。また、蛍光標識化合物の一種であるエチジウムやローダミン6G等は、本発明における「異物排出タンパク質」のターゲットとして知られており、その関連性が報告されている(日本細菌学雑誌 58(4):581−593,2003、Journal of Bacteriology,184, 8, 2319-2323、Journal of Bacteriology,183, 20, 5803-5812)。また、上記の表1に示されるように、異物排出タンパク質が細胞検体外へ排出する化合物(抗生物質)に化学構造上の共通点は見られない。
【0074】
それゆえ、現在知られている多剤耐性に関わる抗生物質(異物)の代わりに、例示した蛍光標識化合物を用いることで、異物排出タンパク質による異物排出活性を検出することができる。
【0075】
さらに、多剤耐性に関わる抗生物質そのものに対する異物排出活性を検出する場合(蛍光標識化合物の異物排出活性を抗生物質の排出活性の代替として適用しない場合)、表1で例示した抗生物質と、蛍光標識化合物とを共存させた状態で、本異物排出活性検出方法を適用してもよい。この場合、蛍光標識化合物と共存させる抗生物質との競争的な細胞検体外への排出をモニターすることにより、抗生物質そのものに対する異物排出活性を検出することができる。
【0076】
(4)本異物排出活性検出方法の原理について
以下、本異物排出活性検出方法の原理について、図6に基づいて説明する。図6は、本発明に係る異物排出活性検出方法の原理を示した模式図である。なお、図6は、蛍光標識化合物としてFluorescein-di-β-D-galactopyranoside(FDG)を用いた場合を示している。
【0077】
図6に示されるように、空間部に存在するFDGは、拡散による受動輸送により、細胞検体内に取り込まれる。そして、細胞検体内に取り込まれたFDGは、細胞内のβ−ガラクトシターゼにより蛍光性を有するフルオレセインへと分解する。そして、このフルオレセインが異物排出タンパク質により能動輸送され、細胞検体外へ排出される。排出されたフルオレセインは、空間部内に蓄積され、蛍光顕微鏡下で蛍光として観察される。
【0078】
図7は、本異物排出活性検出方法により、フルオレセインの蛍光として観察された結果を示す画像である。なお、この画像は、1万個の空間部の一部を示している。また、この画像は、空間部に細胞検体を封入後10分の状態を示している。
【0079】
図7(a)から分かるように、黒丸で囲んだ空間部に細胞検体が封入されていることが確認される(透過像)。また図7(b)から分かるように、黒丸で囲んだ空間部において強い蛍光が観察されている(蛍光像)。また、白丸で囲んだ空間部では、細胞検体の存在が確認されているにも関わらず、蛍光が観察されなかった。これは、空間部に封入された細胞検体が死滅したことによると考えられる。
【0080】
(5)本発明に係る細胞の異物排出遺伝子のスクリーニング方法、及び本発明に係る細胞の異物排出阻害剤のスクリーニング方法
本発明に係る細胞の異物排出遺伝子のスクリーニング方法、及び本発明に係る細胞の異物排出阻害剤のスクリーニング方法は、上述の本異物排出活性検出方法を適用するものである。
【0081】
従来の従来の異物排出活性検出方法は、細胞検体の生育を指標にした方法であるので、スクリーニングに際し、異物排出以外の要因で異物(薬剤)耐性を示す細胞検体が取得される可能性がある。これに対し、本異物排出活性検出方法は、上述のように、異物排出活性を、蛍光顕微鏡下で直接的に、かつ迅速に検出することが可能であるので、異物排出タンパク質にターゲットに絞ったスクリーニングに適用することができる。例えば、上述の本異物排出活性検出方法を適用した異物排出阻害剤のスクリーニング方法では、細胞検体の生育に影響せず、異物排出タンパク質の異物排出活性特異的に阻害する阻害剤のスクリーングが期待される。
【0082】
さらに、本発明に係る細胞の異物排出遺伝子のスクリーニング方法は、上述の本異物排出活性検出方法を適用するものであれば特に限定されないが、例えば、以下のスクリーニング方法が挙げられる。
【0083】
すなわち、細胞検体として、異物排出遺伝子の変異により異物排出活性が異常になった変異大腸菌を用い、上記変異大腸菌に、大腸菌と異種の細胞のゲノムから構成されるゲノムライブラリーを形質転換する形質転換工程と、ゲノムライブラリーが形質転換された、各大腸菌形質転換体について、上述の細胞検体の異物排出活性検出方法を用いて異物排出活性を検出する検出工程と、異物排出活性を検出した結果、異物排出活性異常が正常に戻った大腸菌形質転換体を取得する取得工程と、を含む細胞の異物排出遺伝子のスクリーニング方法である。
【0084】
このスクリーニング方法では、大腸菌と異種の細胞のゲノムから構成されるゲノムライブラリーが形質転換された、各大腸菌形質転換体について、上述の異物排出活性を検出し、異物排出活性のリカバリーから、異物排出遺伝子を取得している。これにより、大腸菌と異種の細胞のゲノムから、異物排出遺伝子にターゲットに絞ったクローニングを迅速に行うことができる。
【0085】
(6)本発明に係る異物排出活性検出キット
本発明に係る異物排出活性検出キットは、細胞検体内に取り込まれた異物を細胞検体外へ排出する際の異物排出活性を検出するための異物排出活性検出キットであり、細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す蛍光標識化合物を含有する蛍光標識溶液と、複数の細胞検体が載置された支持部材に貼りあわせ、細胞検体を封入するための空間部を形成するための、窪み部を有するチャンバーとを含むものであればよい。
【0086】
これ以外の具体的なキットの構成については特に限定されるものではなく、必要な試薬や器具等を適宜選択してキットの構成とすればよい。例えば、洗浄用緩衝液、基質溶液、反応用チューブ、フィルターなどを挙げることができる。
【0087】
本明細書中において用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは当該材料を使用するための使用説明書を備える。使用説明書は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。
【0088】
本発明に係るキットは、上述の本発明に係る方法に準じて使用することができる。
【0089】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0090】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0091】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0092】
〔実施例1〕
細胞検体として大腸菌を使用し、本異物排出活性検出方法を適用して、野生型の大腸菌と異物排出活性に欠陥が生じた異物排出欠陥大腸菌とについて、異物排出活性の比較を行った。
【0093】
なお、本実施例では、野生型の大腸菌としてMG1655株を用い、異物排出欠陥大腸菌としてAcrB欠損株を用いた。AcrBタンパク質は、図8に示すように、グラム陰性細菌の内膜を貫通するタンパク質であり、グラム陰性細菌外膜を貫通するTolCタンパク質と相互作用していることが知られている。そして、AcrBタンパク質及びTolCタンパク質は、共に大腸菌やサルモネラ菌の薬剤排出を担うことが報告されている。(Koronakit et al.Nature 2000,Murakami et al. Nature 2002, Murakami et al. Nature 2006)。
【0094】
本実施例の異物排出活性検出方法を具体的に説明すると、まず、LB培地上にて野生型の大腸菌、及び異物排出欠陥大腸菌を培養し、コロニーを形成させる。次いで、野生型の大腸菌及び異物排出欠陥大腸菌の各大腸菌について、1コロニーをFDG500μMを含んだM9培地に懸濁する。この懸濁液をガラス基板上に載置し、その上からチャンバーを押し付けて、空間部に細胞を封入する。この封入した細胞を蛍光顕微鏡下で観察する。
【0095】
図9に本実施例の異物排出活性検出方法により細胞検体を観察した結果を示す。図9に示されるように、野生型の大腸菌については、空間部全域に蛍光標識化合物の蛍光が観察された。一方、異物排出欠陥大腸菌については、封入された細胞検体内に蛍光標識化合物の蛍光が蓄積している空間部が多く観察された。
【0096】
〔実施例2〕
細胞検体として大腸菌を使用し、本異物排出活性検出方法を適用して、異物排出活性に欠陥が生じた異物排出欠陥大腸菌、及び異物排出阻害剤存在下の野生型大腸菌について、異物排出活性の影響を調べた。なお、具体的な異物排出活性検出方法は、実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0097】
本実施例では、野生型の大腸菌としてMG1655株を用い、異物排出欠陥大腸菌としてAcrB欠損株、TolC欠損株を用いた。そして、異物排出阻害剤存在下で野生型大腸菌を空間部に封入した時の異物排出活性も同時に調べた。
【0098】
そして、複数の空間部について、空間部全域に蛍光標識化合物の蛍光が観察された空間部S、封入された細胞検体内に蛍光標識化合物の蛍光が蓄積している空間部T、及び蛍光を示さない空間部Uそれぞれの数を計測し、統計的に異物排出活性の検出を行った。その結果の図10に示す。
【0099】
図10に示されるように、野生型大腸菌における空間部Sの数は全体の55%を占めている。一方、AcrB欠損株における空間部Sの数は全体の8%を占め、TolC欠損株における空間部Sの数は全体の4%を占めていた。また、異物排出阻害剤存在下で野生型大腸菌を空間部に封入した場合には、空間部Sの数は全体の5%を占めていた。これらのことより、異物排出欠陥大腸菌、あるいは異物排出阻害剤により異物排出が阻害された場合には、空間部Sの数の割合が劇的に少なくなっていることが明らかになった。
【0100】
また、野生型大腸菌における空間部Tの数は全体の8%を占めている。一方、AcrB欠損株における空間部Tの数は全体の54%を占め、TolC欠損株における空間部Tの数は全体の48%を占めていた。また、異物排出阻害剤存在下で野生型大腸菌を空間部に封入した場合には、空間部Tの数は全体の45%を占めていた。これらのことより、異物排出欠陥大腸菌、あるいは異物排出阻害剤により異物排出が阻害された場合には、空間部Tの数の割合が劇的に多くなっていることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、細胞検体における異物排出活性(異物排出の挙動)を直接的に検出するとともに、異物排出活性検出時間を短縮することが可能になる。そのため、異物排出遺伝子の同定や異物排出タンパク質の機能解析に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に係る異物排出活性方法を示すものであり、(a)は、本異物排出活性検出方法を示す模式図であり、(b)は、空間部に封入された100nm径のプラスチックビーズを示す画像であり、(c)は、空間部に封入された10nm径の無機微粒子を示す画像画像であり、(d)は、空間部に封入された細菌(バクテリア)を示す画像である。
【図2】チャンバーの製造工程を示し、(a)は、チャンバーを製造するための鋳型を製造する工程を示す断面図であり、(b)は、鋳型の構造を拡大した画像であり、(c)は、鋳型を用いてチャンバーを製造する工程を示す断面図であり、(d)及び(e)は、製造されたチャンバーの構造を拡大した画像である。
【図3】チャンバーの窪み部と支持部材とに形成された空間部における検出感度向上を説明するための説明図である。
【図4】(a)は、蛍光標識化合物としてのFluorescein-di-β-D-galactopyranoside(FDG)の酵素反応を示す図であり、(b)は、チャンバーを用い、FDGと低濃度のβ−ガラクトシターゼとを混合し、蛍光強度の増加で酵素反応をモニターした結果を示す画像である。
【図5】本発明に係る異物排出活性検出法に適用可能な蛍光標識化合物の化学構造を示した図である。
【図6】本発明に係る異物排出活性検出方法の原理を示した模式図である。
【図7】本異物排出活性検出方法により、フルオレセインの蛍光として観察された結果を示す画像である。
【図8】AcrBタンパク質及びTolCタンパク質の構造を示す図である。
【図9】実施例1の異物排出活性検出方法により細胞検体を観察した結果を示す画像である。
【図10】実施例2の異物排出活性検出方法により細胞検体を観察した結果を表により示した説明図である。
【図11】細胞検体として大腸菌を用いた場合における、異物(薬剤)排出活性検出方法を示した写真である。
【図12】細胞検体が細菌である場合における、多剤耐性の要因について示した模式図である。
【符号の説明】
【0103】
1 チャンバー
2 細胞試料液
3 ガラス基板(支持部材)
4 観察用細胞サンプル
5 フォトレジスト
6 シリコン層
7 アルミニウム膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞検体内に取り込まれた異物を細胞検体外へ排出する際の異物排出活性を検出する細胞検体の異物排出活性検出方法であって、
上記異物として、細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す蛍光標識化合物を用いるとともに、
複数の細胞検体が載置された支持部材に、少なくとも1つの窪み部を有するチャンバーを貼りあわせ、該チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された空間部に細胞検体を封入し、
空間部内に封入された細胞検体から排出される蛍光標識化合物の蛍光を観察することを特徴とする細胞検体の異物排出活性検出方法。
【請求項2】
複数の細胞検体を蛍光標識化合物を含む媒質に懸濁し、細胞試料液を調製する調製工程と、
細胞試料液を支持部材上に載置する載置工程と、
細胞試料液が載置された支持部材に、少なくとも1つの窪み部を有するチャンバーを貼り合わせる貼り合せ工程と、
チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された空間部内に封入された細胞検体から排出される蛍光標識化合物を観察する観察工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法。
【請求項3】
上記空間部全域に蛍光標識化合物の蛍光が観察された場合には、細胞検体の異物排出活性が正常であると判定する判定工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法。
【請求項4】
上記チャンバーは、複数の窪み部を有するとともに、
上記判定工程では、複数の窪み部と上記支持部材とにより形成された複数の空間部について、全域に蛍光標識化合物の蛍光が観察された空間部の数が、野生型の細胞検体と比較して少なくなっている場合に、細胞検体の異物排出活性が異常であると判定することを特徴とする請求項3に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法。
【請求項5】
さらに、封入された細胞検体内に蛍光標識化合物の蛍光が蓄積している空間部の数が、野生型の細胞検体と比較して、多くなっている場合に、細胞検体の異物排出活性が異常であると判定することを特徴とする請求項4に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法。
【請求項6】
上記蛍光標識化合物は、細胞検体内に取り込まれることで、その細胞検体が死滅しない特性を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法。
【請求項7】
上記蛍光標識化合物は、細胞検体内の酵素との反応により負電荷になる特性を有することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法。
【請求項8】
上記蛍光標識化合物は、細胞検体内のβ−ガラクトシターゼとの反応により蛍光性を示す化合物であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法。
【請求項9】
上記蛍光標識化合物は、Fluorescein-di-β-D-galactopyranoside(FDG)であることと特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法。
【請求項10】
上記細胞検体として大腸菌を用いるとともに、
チャンバーの窪み部と支持部材とにより形成された上記空間部の体積が、100fL(フェムトリッター)以下になっていることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法を用いて、異物排出タンパク質をコードする遺伝子をスクリーニングすることを特徴とする細胞の異物排出遺伝子のスクリーニング方法。
【請求項12】
細胞検体として、異物排出遺伝子の変異により異物排出活性が異常になった変異大腸菌を用い、
上記変異大腸菌に、大腸菌と異種の細胞のゲノムから構成されるゲノムライブラリーを形質転換する形質転換工程と、
ゲノムライブラリーが形質転換された、各大腸菌形質転換体について、請求項1〜10の何れか1項に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法を用いて異物排出活性を検出する検出工程と、
異物排出活性を検出した結果、異物排出活性異常が正常に戻った大腸菌形質転換体を取得する取得工程とを含むことを特徴とする細胞の異物排出遺伝子のスクリーニング方法。
【請求項13】
請求項1〜10の何れか1項に記載の細胞検体の異物排出活性検出方法を用いて、異物排出タンパク質の異物排出活性を阻害する異物排出阻害剤をスクリーニングすることを特徴とする細胞の異物排出阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
細胞検体内に取り込まれた異物を細胞検体外へ排出する際の異物排出活性を検出するための異物排出活性検出キットであって、
細胞検体内の酵素との反応により蛍光性を示す蛍光標識化合物を含有する蛍光標識溶液と、
複数の細胞検体が載置された支持部材に貼りあわせ、細胞検体を封入するための空間部を形成するための、窪み部を有するチャンバーとを含むことを特徴とする異物排出活性検出キット。

【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−109883(P2008−109883A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294558(P2006−294558)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】