説明

細胞活性測定方法及び装置

【課題】インピーダンス測定に基づいて簡便に細胞の増殖などの活性を測定することができると共に、インピーダンス変化と細胞の活性との相関についてのより詳細なデータを得ることを可能とする細胞活性測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】測定容器13内に収容された培地中に配置された複数の電極のうち少なくとも1つの電極2の表面において細胞を培養しながら、複数の電極間に所定の電圧を印加してインピーダンスに係る情報を連続的に検出し該インピーダンスに係る情報を培養における経過時間と関連付けて記憶すると共に、上記培養をしながら、少なくとも1つの電極2の表面の細胞の画像を連続的に撮影し該画像の情報を培養における経過時間と関連付けて記憶して、その後記憶した各情報に基づいて、インピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線と、培養中の特定の経過時間における画像と、を同時に表示する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞活性測定方法及び装置に関するものであり、より詳細には、例えば、抗がん剤感受性などの細胞の薬剤感受性を試験するのに用いることのできる、インピーダンス測定を利用した細胞活性測定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体由来の細胞を培養して、特定の条件における細胞の応答などから、生体内の現象の研究や、細胞に対する特定の薬剤の効果などを調べることが広く行われている。
【0003】
例えば、従来、がん細胞を培養して抗がん剤に対する感受性を試験する抗がん剤感受性試験が行われている。即ち、がんの治療薬として抗がん剤が使用されているが、現状では、殆どの場合、投与される抗がん剤の種類や量、又はその投与時間などの決定は、学術的な一般見解と担当医の経験によるところが大きい。しかし、抗がん剤の効果は個人差により大きく違うことがあり、一般的に使用されている抗がん剤が、特定の患者において効かない場合も多い。
【0004】
そこで、高度先進医療として、患者に抗がん剤を投与する前に「抗がん剤感受性試験」を行うケースがある。患者から摘出したがん細胞を培養しながら、様々な抗がん剤と反応させ、より効く抗がん剤を選択しようと考えられた方法である。
【0005】
従来の一般的な抗がん剤感受性試験方法としては、SDI(Succinic Dehydrogenase Inhibition:コハク酸脱水素酵素活性)法、HDRA(Histoculture Drug Response Assay:固形がん組織培養薬剤感受性試験)法、CD−DST(Collagen Gel Droplet Embedded Culture Drug Sensitivity Test:コラーゲンゲル包埋培養薬剤感受性試験)法などがある(例えば、特許文献1)。これらの抗がん剤感受性試験では、がん細胞(がん組織)と抗がん剤との反応を、エンドポイント(薬と細胞の反応後)で評価している。即ち、抗がん剤とがん細胞とを決められた時間反応させ、その間に死んだ細胞の割合で薬の効きを評価している。
【0006】
一方、従来、インピーダンス測定に基づいて細胞の増殖などの細胞の活性を測定する方法がある(特許文献2)。
【0007】
斯かるインピーダンス測定に基づく細胞活性測定方法によれば、簡便に細胞の活性を測定することができ、がん細胞の抗がん剤感受性試験などの細胞の薬剤感受性試験への応用が期待できる。
【特許文献1】特開2003−9853号公報
【特許文献2】特開2005−80522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、インピーダンス測定に基づいて細胞の増殖や形態変化を数値として計測するシステムでは、細胞が電極上を覆う変化をインピーダンスとして検出している。
【0009】
しかしながら、細胞が増殖する場合も、細胞が広がるだけの形態変化の場合も、どちらもインピーダンスの変化が起こり、両者の違いを見極めることが難しい。
【0010】
そのため、例えば、特定の薬剤について細胞の活性を抑制する効果の有無や、当該薬剤の効き方を評価するにあたり、細胞が増殖したのか、減少したのか、広がったのか、丸くなったのかなどの、より詳細なデータが得られるシステムが望まれる。
【0011】
従って、本発明の目的は、インピーダンス測定に基づいて簡便に細胞の増殖などの活性を測定することができると共に、インピーダンス変化と細胞の活性との相関についてのより詳細なデータを得ることを可能とする細胞活性測定方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は本発明に係る細胞活性測定方法及び装置にて達成される。要約すれば、本発明は、測定容器内に収容された培地中に配置された複数の電極のうち少なくとも1つの電極の表面において細胞を培養しながら、前記複数の電極間に所定の電圧を印加してインピーダンスに係る情報を連続的に検出し該インピーダンスに係る情報を前記培養における経過時間と関連付けて記憶すると共に、前記培養をしながら、前記少なくとも1つの電極の表面の細胞の画像を連続的に撮影し該画像の情報を前記培養における経過時間と関連付けて記憶して、その後記憶した前記各情報に基づいて、前記インピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線と、前記培養中の特定の経過時間における前記画像と、を同時に表示することを特徴とする細胞活性測定方法である。
【0013】
本発明の他の態様によると、複数の電極が配置された測定容器と;前記複数の電極間に電圧を印加してインピーダンスに係る情報を検出する検出器と;前記検出器の検出結果に基づいて前記インピーダンスに係る情報を記憶する第1の記憶手段と;前記少なくとも1つの電極の表面の細胞の画像を拡大して結像する光学系及び前記光学系により結像された前記少なくとも1つの電極の表面の細胞の画像を撮影する撮像素子を備えたデジタル顕微鏡と;前記デジタル顕微鏡によって撮影された画像の情報を記憶する第2の記憶手段と;前記測定容器内に収容された培地中に配置された前記複数の電極のうち少なくとも1つの電極の表面において細胞を培養しながら前記検出器によって連続的に検出されて前記培養における経過時間と関連付けて前記第1の記憶手段に記憶された前記インピーダンスに係る情報と、前記培養をしながら前記デジタル顕微鏡によって連続的に撮影されて前記培養における経過時間と関連付けて前記第2の記憶手段に記憶された前記画像の情報と、に基づいて、前記インピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線と、前記培養中の特定の経過時間における前記画像と、を同時に表示するための処理を実行する処理装置と;前記処理装置による処理結果を表示するための表示手段と;を有することを特徴とする細胞活性測定装置が提供される。本発明の一実施態様によると、前記デジタル顕微鏡は、前記測定容器が配置されるステージの下方から前記測定容器内の前記細胞を観察するように倒立式に配置される。又、本発明の他の実施態様によると、細胞活性測定装置は、前記測定容器が配置されるステージの上方から前記測定容器内の前記細胞に透過照明光を照射する照明装置を有し、前記照明装置の照明角度を変更する照射角度変更機構、前記照明装置の照明位置を変更する照明位置変更機構、又はこれら両方の機構が設けられている。
【0014】
上記各本発明の一実施態様によると、前記曲線上の前記特定の経過時間に対応する部分を指定する時間指定表示を表示して、その指定された前記特定の経過時間における前記画像を表示する。
【0015】
上記各本発明の他の実施態様によると、前記曲線上の前記時間指定表示が指定する部分が順次変わるのに同期して、前記時間指定表示が指定するそれぞれの経過時間における画像を順次に表示する。
【0016】
上記各本発明の典型的な一実施態様では、前記細胞は、がん細胞であり、又、前記培養の間に前記培地に対して抗がん剤が添加される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インピーダンス測定に基づいて簡便に細胞の増殖などの活性を測定することができると共に、インピーダンス変化と細胞の活性との相関についてのより詳細なデータを得ることを可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る細胞活性測定方法及び装置を図面に則して更に詳しく説明する。
【0019】
実施例1
(1)細胞活性測定方法
本発明によれば、概して、細胞を培養して、インピーダンス測定と同時に細胞の形態をデジタル顕微鏡で観察し、インピーダンスの変化が細胞の何に起因するものなのかを画像で確認できるようにする。これにより、インピーダンスが変化した場合に、細胞が増殖したのか、減少したのか、広がったのか、丸くなったのかなどを同時に画像で確認でき、より詳細なデータを得ることができる。
【0020】
つまり、本発明の細胞活性測定方法では、測定容器内に収容された培地中に配置された複数の電極のうち少なくとも1つの電極の表面において細胞を培養しながら、複数の電極間に所定の電圧を印加してインピーダンスに係る情報を連続的に検出する。そして、このインピーダンスに係る情報を上記培養における経過時間と関連付けて記憶する。又、上記インピーダンスに係る情報の測定に加えて、上記培養をしながら、上記少なくとも1つの電極の表面の細胞の画像を連続的に撮影する。そして、この画像の情報を上記培養における経過時間と関連付けて記憶する。その後、記憶したインピーダンスに係る情報及び画像の情報の各情報に基づいて、インピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線と、培養中の特定の経過時間における画像と、を同時に表示する。
【0021】
詳しくは後述するが、細胞の画像は、細胞の拡大像を結像する光学系と、結像された細胞の拡大像を検出して光電変換する撮像素子と、を備えたデジタル顕微鏡を使用して撮影することができる。
【0022】
典型的には、上記曲線と画像は、細胞活性測定装置に一体的に設けられているか又は細胞活性測定装置に通信可能に接続されているディスプレイ装置の表示画面(スクリーン)上に表示される。上記曲線と画像とを同時に表示するとは、常に同時に表示することに限定されるものではない。上記曲線上の特定の経過時間に対応する部分を指定した時だけ、その指定された特定の経過時間における画像を当該曲線と同時に表示するようにすることができる。又、上記曲線上の特定の経過時間に対応する部分を指定する表示の指定部分が自動的に変化(移動)するのに同期して、それぞれの指定された経過時間における画像を順次に表示することもできる。
【0023】
尚、上記曲線と画像とを表示することに加えて、プリンタにより印刷(プリンタ)することもできる。
【0024】
本発明の細胞活性測定方法は、細胞の薬剤感受性試験に利用することができ、好ましくは、がん細胞の抗がん剤感受性試験に用いることができる。
【0025】
測定に用いられる細胞は、典型的には、生体内(より詳細にはヒトを含む哺乳動物体内)で増殖した臓器、組織などの生体組織に由来する細胞であって、好ましくは、がん細胞である。しかし、測定に用いられる細胞は、正常組織に由来する細胞であってもよい。特に、本発明では、細胞を電極の表面に接着させて培養し、培養を行っている間にその電極を介して検出されるインピーダンスに係る情報の変化を連続的に測定することから、測定に用いられる細胞は、接着依存性増殖をするものである。
【0026】
がん細胞としては、臨床的にはヒトの細胞が用いられるが、薬剤スクリーニングなどの前臨床的目的でマウス、ラットなどの動物細胞を用いることもできる。がん細胞としては、限定されるものではないが、肝臓がん、肺がん、胃がん、大腸がん、卵巣がん、脳腫瘍、乳がん、前立腺がん、皮膚がん及び白血病細胞(血液がん)などのがん細胞が挙げられる。
【0027】
又、本発明の細胞活性測定方法を細胞の薬剤感受性試験に用いる場合、試験対象となる薬剤は、典型的には、試験に用いられる細胞の活性を抑制する効果が期待される薬剤であって、特に、試験に用いられる細胞ががん細胞である場合には、抗がん剤である。抗がん剤には、抗がん作用、即ち、がん細胞の増殖活性を抑制する(がん細胞を殺す)効果が期待される、既知の又は未知の薬剤が広く含まれる。抗がん剤としては、作用機序によって様々なものが知られているが、本発明はいずれのものにも適用することができる。
【0028】
尚、効果が期待される薬剤には、実際に同種の細胞に対して効果が得られた実績のある薬剤のみならず、当該効果の有無を確認するために試験される薬剤をも含まれる。
【0029】
測定に使用される細胞は、典型的には、生体から採取された臓器、組織などの生体組織の一部から取り出される。生体から採用した生体組織の一部は、必要に応じて、細かくして液体中に分散させる分散処理、目的の細胞以外の細胞や妨害物質を除去する分離処理などを施すことができる。目的の細胞は、これら分散処理や分離処理によって生体組織から分離される。試験に供される試料は、単離された細胞であることが好ましいが、試験の目的、精度などとの関係で許容し得る範囲において、生体組織に由来するその他の成分を含んでいてもよい。
【0030】
分散処理や分離処理は、通常の細胞培養において行われているものと同様の方法であってよい。分離処理としては、限定されるものではないが、ハサミ、ピンセット、カミソリなどを用いて、生体から摘出された生体組織の一部を細かく分割するなどの機械的処理を行うことができる。分散処理としては、限定されるものではないが、目的の細胞以外の細胞や細胞間質を除去する処理、試験の阻害要因となり得る物質を除去する処理を、酵素的分散処理などによって行うことができる。
【0031】
尚、目的の細胞を予め予備培養して増やしてから試験に用いることもできる。予備培養には、単層培養などの通常の培養方法を用いることができる。又、試験に用いられる細胞は、初代培養細胞だけでなく、継代培養細胞であってもよい。
【0032】
目的の細胞を含む試料の播種及び培養する方法としては、一般的な細胞培養法、特に、本発明では、細胞を電極の表面に接着させて培養し、培養を行っている間にその電極を介して検出されるインピーダンスに係る情報の変化を連続的に測定することから、一般的な単層培養と同様の方法を用いることができる。即ち、培地、より詳細には、目的の細胞の増殖に必要な栄養分を含んだ溶液(培養液)を測定容器(培養器)内に収容し、この培地中に目的の細胞を含む試料(通常、目的の細胞を所定の細胞数(播種濃度)で含む液体試料)を播く。培地は、目的の細胞に応じて、斯界における通常の方法に従って、適宜選択することができる。培地には、概して、細胞の増殖作用、生理活性維持作用、更には必要に応じて接着作用に必要な成分が含まれる。より詳細には、培地には、無機塩類、各種アミノ酸、糖類、ビタミン類、動物の血清(ホルモン、細胞増殖因子、細胞接着因子などを含む)などが含まれる。測定容器に試料と培地とを収容して、インキュベータ内で所定の環境条件(所定の温度、湿度、二酸化炭素濃度)に維持しておくことにより、目的の細胞が、測定容器の底部、より詳細には、そこに配置された少なくとも1つの電極の表面に接着し、伸展して、単層を形成する。
【0033】
そして、本発明によれば、目的の細胞の培養を行っている間に、インピーダンス測定及び細胞の画像の撮影に基づいて、細胞の増殖過程の変化を連続的に検出する。
【0034】
ここで、従来、細胞の挙動をインピーダンス測定に基づいて測定する測定装置には、同時に細胞の画像を撮影する機能はなかった。そのため、細胞の画像を撮影するには、概略、次のような手順が必要であった。
1.測定開始前に細胞画像を撮影する。
2.試料を測定装置にセットする(細胞の画像の確認が不可な状態)。
3.細胞の画像の撮影が必要な場合はインピーダンス測定を中断した後、測定装置から試料を取り出し顕微鏡にて撮影する。
4.細胞の画像を撮影した後、改めて試料を測定装置にセットし、インピーダンス測定を開始する。
【0035】
この場合、画像は撮影できるが、インピーダンス測定のデータは不連続となる。一方、電気測定を中断したくない場合は、インピーダンス測定の終了後に試料を測定装置から取り出し、細胞の画像を撮影する。この場合は、細胞の途中変化は撮影することができない。
【0036】
このように、従来は、測定前と測定後の細胞の画像のみを撮影してインピーダンス測定を連続して行うか、又は、一度インピーダンス測定を中断してインピーダンス測定の途中の細胞の画像を撮影していた。そのため、インピーダンス変化と細胞の挙動との相関についてのより詳しい情報、即ち、インピーダンス変化が細胞の増殖や形状の変化などの何に起因するものなのかなどの情報を得ることは困難であった。
【0037】
これに対して、本発明によれば、インピーダンス測定と同時に細胞の画像を取り込むことができ、インピーダンスの変化を示す曲線と同時に、その曲線上の特定の部分に対応する経過時間における細胞の画像を表示することができる。そのため、今まで不可能であった、インピーダンス測定値の変化が細胞の何に起因するものなのかを簡単に調べることができる。
【0038】
(2)具体例
以下、本発明の細胞活性測定方法をがん細胞の抗がん剤感受性試験に用いる場合のより具体的な例について説明する。
【0039】
(2−1)全体的処理工程
本実施例の抗がん剤感受性試験を行うための全体的な処理工程の一例の概略は、次に示す通りである。
1.患者からがん組織を採取する(採取工程)。
2.がん組織をばらばらにし細胞単位にする(分散工程・分離工程)。
3.測定容器に配置されている電極に細胞を播種する(播種工程)。
4.測定容器の電極を検出器にセットすると共に測定容器をデジタル顕微鏡により観察可能なように配置する。そして、細胞の培養を行いながら、細胞の増殖過程をインピーダンス変化として連続的に測定すると共に、電極上の細胞の画像をデジタル顕微鏡により連続的に撮影する(培養工程)。インピーダンス変化の測定、細胞の画像の撮影は、細胞の培養の初期から開始しても、細胞が電極に接着した後に開始してもよい。又、インピーダンス変化の測定、細胞の画像の撮影は、典型的には、少なくとも抗がん剤を添加しない場合と添加した場合について行う。必要に応じて、同様の測定を、例えば、抗がん剤の濃度、更には抗がん剤の種類を変化させて行う。
5.測定されたインピーダンス変化を曲線として表示すると共に、自動的に又は指定することによって、当該曲線上の特定の経過時間における画像を表示する。
【0040】
このようにして、インピーダンスの変化のみで細胞の挙動を把握するのではなく、インピーダンス変化を表す曲線上の任意の時点に関し、細胞が増殖したのか、減少したのか、広がったのか、丸くなったのかなど、インピーダンスの変化が細胞の何に起因するものなのかを容易に確認することができる。これにより、延いては、適正な抗がん剤を、適正な濃度で患者に使用することによる、副作用を抑えた、効果のある投与方法を予測することができる。
【0041】
(2−2)測定装置
図1は、上述のような抗がん剤感受性試験方法の実施のために使用することのできる、本発明に係る細胞活性測定装置(以下、単に「測定装置」という。)の一例の概略構成を示す。
【0042】
本実施例では、測定装置1には、インピーダンス測定のための電極を備えた測定容器13を載置するためのステージ6を設けると共に、そのステージ6の下方にデジタル顕微鏡15を倒立的に配置する。又、本実施例では、ステージ6上の測定容器13と共に、密閉容器17に入れられたデジタル顕微鏡15を、一定の温度、湿度、二酸化炭素濃度の条件に制御可能なインキュベータ(培養器)9内に配置する。測定容器13内の電極を介して検出器11によって検出されたインピーダンスに係る情報は、ケーブル16aを介してコンピュータ12にデジタルデータとして送られる。又、デジタル顕微鏡15で観察したステージ6上の測定容器13内の細胞の画像は、デジタル画像データとしてケーブル16bを介してコンピュータ12に送られる。そして、この細胞の画像は、インピーダンス変化を表す曲線と共に表示手段12dで表示される。以下、更に詳しく説明する。
【0043】
本実施例の測定装置1は、測定容器13を載置するためのステージ6を有する。ステージ6は、作用電極2、対電極4、参照電極5が設けられた基板(基材)3が配置された測定容器13を、デジタル顕微鏡15による観察が可能となる所定位置で支持する役割を有する。又、ステージ6には、ステージ6上の所定位置に配置された測定容器13を上方から照明する照明装置7を支持する支持部材としての支柱8が設けられている。ステージ6上に配置された測定容器13内の作用電極2、対電極4、参照電極5には、それぞれリード11b、11c、11aの一方の端部が接続されており、これらのリード11b、11c、11aの他方の端部は、検出器11に接続されている。
【0044】
作用電極、対電極、参照電極、及び引出電極の材料は、金属、高分子、炭素など導電性を持つ物質を少なくとも1種類用いていれば如何なるものであってもよい。典型的には、電気化学測定において用いられる一般的なものであってよく、例えば、金、銀、白金、炭素などが挙げられる。又、本実施例では、作用電極、対電極、参照電極は、測定容器13の底部に配置される基板3上に形成される。そのため、これらの電極は、基板3上に容易に形成できる材料が好ましい。又、透過式の顕微鏡で細胞を観察するためには、細胞がその上で培養される少なくとも1つの電極(本実施例では作用電極2)は透明であることが好ましい。従って、本実施例では、作用電極としてはITO(インジウム−酸化スズ)電極を用い、又、対電極、参照電極としては白金電極を用いた。各電極のサイズ及び形状は、目的の細胞が培養できる限り、任意のものを用いることができる。
【0045】
ここで、基板3の材料としては、本実施例ではガラスを用いたが、十分な物理的強度を有し、表面に電極が形成できるものであれば、プラスティック、石英、ガラスなど任意の材料を用いることができる。但し、透過式の顕微鏡で細胞を観察するためには、基板3は透明であることが好ましい。従って、本実施例では、基板3としてはガラスを用いた。本実施例では、基板3は、一例として、測定容器13の円形の底部と略等しい面積の円板形状とした。
【0046】
又、測定容器13は、ガラス、樹脂などの材料で形成することができる。但し、透過式の顕微鏡で細胞を観察するためには、基板3は透明であることが好ましい。本実施例では、測定容器13は、透明な樹脂製で、その底部に、作用電極2、対電極4、参照電極5が形成された基板3が配置される。
【0047】
測定容器13は、一例として、内径が1.0cm、高さが1.0cmのディッシュ状に形成されている。これにより、測定容器13は、一例として、底面積が3.14cm2、体積が3.14cm3の収容部を画成する。
【0048】
上述のように、作用電極2は、基板3の片面にITOが蒸着されて構成されている。本実施例では、作用電極2は、一例として、縦横の寸法が0.2cm×0.4cmの矩形形状とした。又、作用電極2のITO蒸着面にはリード11bが接続されている。
【0049】
又、対電極4は、基板3の片面(作用電極2が設けられている面と同じ面)に薄膜形成技術により設けられている。本実施例では、対極4は、一例として、縦横の寸法が0.2cm×0.4cmの矩形形状とした。又、対電極4には、リード11cが接続されている。
【0050】
又、参照電極5は、基板3の片面(作用電極2が設けられている面と同じ面)に薄膜形成技術により設けられている。本実施例では、参照電極5は、一例として、縦横の寸法が0.2cm×0.4cmの矩形形状とした。又、参照電極5には、リード11aが接続されている。
【0051】
ステージ6には、測定容器13内の細胞の透過照明観察のために用いられる照明装置7を支持するための支柱8が取り付けられている。照明装置7は、光源、集光レンズ等を有し、本実施例では、ステージ6上の所定位置に配置された測定容器13の上方に配置される。又、ステージ6上には、測定容器13を所定位置に位置決め及び/又は固定するための位置決め又は固定機構(図示せず)を設けることができる。本実施例では、ステージ6は、アルミニウム製の板にアルマイト処理を施して作製されている。そして、ステージ6の下方に配置されるデジタル顕微鏡15で測定容器13の底面から作用電極2上の細胞の観察が可能なように、ステージ6の一部には開口部6aが設けられている。尚、開口部6aを透明な(デジタル顕微鏡15でそれを通して観察可能な)ガラス、樹脂などの材料で作製された窓で封止することもできる。
【0052】
ステージ6、ステージ6上の測定容器13、測定容器13内の基板3及び電極2、4、5、照明装置7、並びに、照明装置7を支持する支柱8は、インキュベータ9内に収容される。
【0053】
又、本実施例では、測定装置1は、薬剤添加装置10を有する。薬剤添加装置10は、一例として、注入器10a、注入管10b及びチューブ10cを備えている。注入器10aはインキュベータ9の外部に配設され、インキュベータ9の内部に配設された注入管10bにチューブ10cを介して連結されている。これにより、薬剤添加装置10は、インキュベータ9の外部から所定濃度の薬剤を測定容器13内に添加可能に構成されている。
【0054】
尚、薬剤を測定容器13に添加するための薬剤添加装置10を測定装置1に設けることなく、ピペットやディスペンサーなどを用いて手動にて薬剤を測定容器13に添加することも当然可能である。
【0055】
検出器11は、インキュベータ9の外部に配設されると共に、リード11a、11b、11cを介して参照電極5、作用電極2、対電極4にそれぞれ接続されている。
【0056】
そして、本実施例では、検出器11は、作用電極2と参照電極5との間にリード11b、11aを介して任意の周波数の交流電圧(交流信号)Vを供給(印加)しつつ、対電極4と作用電極2との間を流れる交流電流Iをリード11c、11bを介して検出する。これにより、検出器11は、測定容器13の底面(作用電極2の表面)に接着した細胞14のインピーダンスZを3端子法によって測定可能なように構成されている。又、本実施例では、検出器11は、交流電流Iと交流電圧Vとの位相差θを測定する機能も備えている。検出器11は、検出結果をデジタル信号として、ケーブル16aを介してコンピュータ12の後述する処理装置12aに入力する。
【0057】
ステージ6の下方には、ステージ6上の測定容器13内の細胞14をステージ6の下側から拡大して観察するようにデジタル顕微鏡15が倒立式に配置されている。デジタル顕微鏡15は、概して、デジタルカメラ(デジタルビデオカメラ)と同様の構成を有しており、本実施例では、ステージ6上の測定容器13内の細胞の拡大された動画像情報を取得してコンピュータ12に入力する。デジタル顕微鏡15は、大別すると、撮影光学系15aと、撮像素子15bと、撮影制御部15cと、を有する。
【0058】
撮影光学系15aには、ステージ6上の測定容器13内の細胞の拡大像を結像するための光学系を構成する対物レンズ15a1、結像レンズ15a2、15a3などが設けられている。そして、撮影光学系15aは、照明装置7からの透過照明光で照明されたステージ6上の測定容器13内の細胞の画像を、対物レンズ15a1、結像レンズ15a2、15a3を介して、撮像素子としてのCCD等の固体撮像素子15bの撮影面上に結像させる。図中、結像レンズ15a2、15a3は模式的に表されているが、結像レンズ15a2、15a3は、通常、複数のレンズから構成される。そして、本実施例では、その結像レンズ15a2、15a3の複数のレンズのうち一部のレンズが、ピントの調節のためのフォーカスレンズとして用いられる。このフォーカスレンズは、それを駆動する駆動装置(図示せず)が撮影制御部15cからの駆動信号によって制御されることで、撮影される画像が常にピントが合うように駆動される。又、固体撮像素子15bは、複数(例えば3個)のCCDなど、複数の素子で構成されていてよい。
【0059】
撮影制御部15cは、固体撮像素子15bからのアナログ画像信号(ビデオ信号)を取り込みデジタル化するアナログデジタル変換部、アナログデジタル変換部により変換されたデジタル画像信号を一時的に記憶する記憶部、記憶部に記憶された画像データをケーブル16bを介してコンピュータ12に入力する通信部、及び、記憶部への画像データの書き込みや通信部による画像データのコンピュータ12への送信のタイミングなどを制御するコントローラなどを有している。そして、本実施例では、撮影制御部15cは、撮影光学系15a、撮像素子15bによって撮影されたステージ6上の測定容器13内の細胞の画像をデジタル信号化された動画像情報として、ケーブル16bを介してコンピュータ12の後述する処理装置12aに入力する。又、撮影制御部15cは、撮影光学系15aの結像レンズ15a2、15a3の一部によって構成されるフォーカスレンズを駆動する駆動装置(図示せず)に駆動信号を送り、撮影中は常に撮影された画像のピントが合うように調節する。ピントの調節は、通常、被写界のコントラストのピークが得られるようにフォーカスレンズを駆動することで行われる。
【0060】
そして、本実施例では、デジタル顕微鏡15は、密閉容器17に入れられて、ステージ6の下方においてインキュベータ9内に収容される。
【0061】
尚、本実施例では、密閉容器17に収容されたデジタル顕微鏡15を測定容器13などと共にインキュベータ9内に配置するが、これに限定されるものではない。例えば、上述のようにステージ6の開口部6aを透明ガラスなどで密封して、ステージ6の上方の空間とは気密的に区画されたステージ6の下方の空間に、密封容器に入れられていないデジタル顕微鏡15を配置するようにしてもよい。
【0062】
更に、本実施例の測定装置1は、コンピュータ12を有して構成されている。コンピュータ12は、検出器11の検出結果に基づいてインピーダンスに係る情報を記憶する第1の記憶手段12bと、デジタル顕微鏡15からの画像情報を記憶する第2の記憶手段12cと、第1の記憶手段12bに記憶されたインピーダンスに係る情報及び第2の記憶手段12cに記憶された画像情報から、インピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線と培養の間の特定の経過時間における細胞の画像とを同時に表示するための処理を行う処理装置12aと、処理装置12aの処理結果を表示するための表示手段12dと、を有する。
【0063】
第1の記憶手段12b、第2の記憶手段12cとしては、限定されるものではないが、ハードディスクや電子的なメモリを好適に用いることができる。処理装置12aとしては、制御部、演算部、記憶部を備えた一般的な演算制御回路を用いることができる。処理装置12aは、上述の如き表示をするための処理をはじめ、測定装置1の動作を統括的に制御する。又、表示手段12dとしては、処理結果を表示するLCDやCRTなどのディスプレイ装置を好適に用いることができる。更に、処理装置12aには、入力手段12eとしてキーボード及びマウスなどが接続されている。
【0064】
尚、処理結果を印刷(プリント)するプリンタを上記ディスプレイ装置12dに加えて用いてもよい。
【0065】
本実施例では、コンピュータ12の処理装置12aは、検出器11を制御してインピーダンスZ等の測定動作を実行させると共に、検出器11によって測定されたインピーダンスZと位相差θのデータが入力されて、これをインピーダンスに係る情報として第1の記憶手段12bに記憶させる。又、本実施例では、コンピュータ12の処理装置12aは、デジタル顕微鏡15の撮影制御部15cを制御して撮影を実行させると共に、デジタル顕微鏡15によって撮影された測定容器13内の細胞の画像データが入力されて、これを第2の記憶手段12bに記憶させる。特に、処理装置12aは、入力手段12eからの入力により測定開始が指示されると、その後測定終了が指示されるまで、経過時間毎に、即ち、測定容器13における細胞14の培養における経過時間と関連付けて、検出器11からの測定結果を第1の記憶手段12bに、又デジタル顕微鏡15からの画像データを第2の記憶手段12cに、記憶させる。
【0066】
尚、照明装置7は、透明な試料を観察するために、光を透過的に照射するようにして、且つ、角度をつけて光を当てる方向を変更したり、光を当てる位置を移動したりできるようにすることができる。これにより、より鮮明に細胞の形態を観察できるようになる。
【0067】
例えば、図7に示すように、ステージ6に、支柱8をステージ6に対して移動させる照射位置移動機構60を設けることができる。図示の例では、照射位置移動機構60は、支柱8が取り付けられて、ステージ6上を平行移動する台座61と、台座61を移動可能、且つ、任意の位置で固定可能なように保持して、台座61の移動方向を規制するレール62と、を有する。
【0068】
又、図7に示すように、台座61に取り付けられるか台座61と一体的に形成され、支柱8を回動可能、且つ、任意の位置で固定可能なように保持する照射角度変更機構70を設けることができる。図示の例では、照射角度変更機構70は、支柱8の軸線とステージ6の表面を含む平面との成す角度を変更するピボット軸71を有する。これら照射位置移動機構60、照射角度変更機構70は、手動で照射位置又は照射角度を変更するようにしてもよいし、別途駆動装置(図示せず)を設けて、コンピュータ12などからの指示により自動で照射位置又は照射角度を変更するようにしてもよい。測定装置1は、これら照射位置移動機構60、照射角度変更機構70の一方のみを有していてもよい。
【0069】
又、本実施例では、説明を容易とするために、測定装置1には、単独の測定容器13が設けられているものとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者には周知の複数のウェル(試料収容部,培養容器)を備えた細胞培養用の培養プレートのように複数の測定容器13を配列し、各測定容器13内に本実施例と同様に複数の電極を配置することができる。この場合、検出器11は、各測定容器13に配置された電極からの信号を、それぞれの測定容器13に関係付けて検出し、検出結果をそれぞれの測定容器13に関係付けて処理装置12aに入力する。そして、処理装置12aは、記憶手段12bへの情報の記憶、インピーダンスを示す情報の経時変化の差異を明示する処理を、それぞれの測定容器13に関係付けて行うようにする。一方、例えば、複数の測定容器13のうち特定の測定容器13(単一又は複数)内の細胞の画像をデジタル顕微鏡15で連続的に撮影するようにする。これにより、典型的には、同一種類の試験対象薬剤の複数の異なる濃度、複数種類の試験対象薬剤、又は複数種類の試験対象薬剤のそれぞれの複数の異なる濃度についての試験などを同時に行うことができると共に、代表的な試料の画像をインピーダンス測定の結果と共に表示することができる。
【0070】
又、デジタル顕微鏡11を、インキュベータ9に容易に着脱可能な構成とすることで、既に持っているインキュベータ9内で倒立式顕微鏡を使用できるようになるので、簡単にいつでも細胞の挙動をビデオ撮影できるようになる。
【0071】
(2−3)測定操作
次に、測定装置1を用いた測定操作について説明する。
【0072】
先ず、測定容器13の内部において細胞14を培養する。具体的には、目的の細胞に応じた適当な培地を収容した測定容器13の底面(作用電極2の表面)に、適当な播種濃度で細胞14を播種し、適当なCO2濃度、湿度、温度に制御されたインキュベータ9内で単層培養する。このとき、検出器11を作動させて、所定の測定周波数の交流電圧Vを細胞14に供給することにより、細胞14についてのインピーダンスZの測定を行う。又、これと同時に、照明装置7によって測定容器13に透過照明光を照射し、デジタル顕微鏡15によって測定容器13の底面から作用電極2上の細胞14の動画を撮影する。
【0073】
ここで、試験対象の抗がん剤を含む試験薬剤溶液(所定濃度の抗がん剤を含むか、コントロールとして抗がん剤を含まない緩衝溶液など)は、細胞の培養の初期から測定容器13に添加しておいてもよいが、細胞14の培養を開始した後インピーダンスの値が安定するまでなどの適当な時間経過してから測定容器13に添加してもよい。
【0074】
尚、上述のように、細胞14が作用電極2上に接着してからインピーダンスの測定、及び細胞の画像の撮影を開始してもよい。この場合、細胞14が作用電極2上に接着するまでは、必ずしも当該測定装置1にて細胞14を培養しなくてもよく、接着後に測定容器13を当該測定装置1にセットしてもよい。
【0075】
細胞14の培養中に、インピーダンスZの測定と、交流電流I及び交流電圧Vの位相差θについての測定とを、所定時間(測定間隔)毎に、所定の測定周波数の交流電圧Vを印加しつつ、予め決められた時間(測定時間)だけ実施する。上記測定間隔は、細胞の薬剤応答性により任意に決定するのが好ましい。例えば、心筋細胞の場合は、1分間に約60回拍動するので、測定間隔は0.01秒〜0.1秒が好ましい。又、血管細胞の場合は、30分程度で収縮反応が終わるので、測定間隔は10秒程度が好ましい。又、がん細胞の場合は、48時間〜72時間と長期反応のため、測定間隔は2分〜5分が好ましい。但し、薬剤の添加直後に大きな形態変化が予想される場合は、短いサンプリングが必要なことがある。本実施例では、測定間隔を2分とし、上記測定時間を72時間とした。この際に、コンピュータ12の処理装置12aは、検出器11によって測定されて処理装置12aに入力されたインピーダンスZと位相差θとを互いに対応させると共に、細胞14の培養における経過時間と関連付けて、第1の記憶手段12bに記憶させる。
【0076】
続いて、処理装置12aは、第1の記憶手段12bに記憶された上記測定間隔毎のインピーダンスZのリアクタンス成分X(t)を、インピーダンスZとそれに対応する位相差θとに基づいてすべて計算すると共に、インピーダンスに係る情報として第1の記憶手段12bに記憶させる。
【0077】
次いで、処理装置12aは、例えば、測定開始時や試験薬剤溶液の添加直後などの基準時のリアクタンス成分を基準として、上記測定間隔毎のリアクタンス成分を正規化する、即ち、基準時のリアクタンスに対するリアクタンス比を求める。そして、求めた上記測定間隔毎のリアクタンス比を、インピーダンスに係る情報として第1の記憶手段12bに記憶させる。
【0078】
即ち、本実施例では、インピーダンスを示す情報の経時変化として、基準時のインピーダンスのリアクタンス成分に対する、測定間隔毎のインピーダンスのリアクタンス成分の比(リアクタンス比)の経時変化を測定する。
【0079】
尚、本実施例では、各電極と検出器11との間に生じる接触抵抗や、添加した試験薬剤溶液の添加量(濃度)のばらつきなどの外部誤差要因をキャンセルして、微小なリアクタンス成分の時間的変化を感度よく測定するために、測定したリアクタンス成分を、基準時に測定したリアクタンス成分で正規化する。しかし、例えば、接触抵抗が極めて小さく、且つ、試験薬剤溶液をばらつきの少ない状態で添加できる場合などには、測定したリアクタンス成分を正規化することなく、そのリアクタンス成分の時間的変化をインピーダンスに係る情報の経時変化として利用することができる。
【0080】
一方、上述のようなインピーダンスを示す情報の測定を行うと同時に、細胞14の培養中に、コンピュータ12の処理装置12aは、デジタル顕微鏡15によって撮影された細胞14の動画像データを取得して、細胞14の培養における経過時間と関連付けて、第2の記憶手段12cに記憶させる。
【0081】
本実施例では、細胞14の画像は動画像として取得されて第2の記憶手段12cに記憶されるが、これに限定されるものではなく、上述のようなインピーダンスZ、交流電流及び交流電圧Vの位相差θの測定を行う測定間隔と同期して、連続的に複数の静止画像データを取得して、細胞14の培養における経過時間と関連付けて、第2の記憶手段12cに記憶させてもよい。
【0082】
例えば、抗がん剤感受性試験においては、上述のようなインピーダンスの測定及び細胞の画像の撮影を行う一連の工程を、少なくとも、試験薬剤溶液として抗がん剤を含有するものと、抗がん剤を含まないもの(コントロール)を添加した場合についてそれぞれ実施する。好ましくは、試験薬剤として抗がん剤を含有するものについては、抗がん剤の濃度が異なる複数の測定を実施する。更に、必要に応じて、異なる種類の抗がん剤を用いて、上記同様の測定を行う。
【0083】
尚、電極間に供給する交流電圧の最適な周波数は、特定の細胞、特定の試験対象薬剤に応じて、予め求めておくことができる。即ち、特定の細胞を培養しながら、周波数を所定の範囲(例えば100Hz〜1MHz)で変更しつつ交流電圧を電極間に供給してインピーダンス、位相差を測定する動作を、所定の測定間隔毎に所定の測定時間にわたって実施する。そして、例えば、特定の抗がん剤を添加した所定時間後のインピーダンスのリアクタンス成分の、その添加直後のリアクタンス成分に対する変化量が最大となる周波数を選択する。又、特定の細胞、特定の試験対象薬剤に対する交流電圧の最適な周波数を予め求めておかなくても、各測定間隔毎に交流電圧の周波数をスイープさせて、各周波数毎のインピーダンス、位相差を測定し、記憶しておくことで、例えば、測定時間の全体にわたって測定値が得られたときに、上記同様にして最適な周波数を選択すると共に、測定間隔毎に各周波数に対して得られた測定値のうち、選択した周波数に対する測定値をその後の処理に用いることができる。
【0084】
ここで、前述のように、インピーダンス測定に基づいて細胞の活性を測定する場合、細胞が電極上を覆う変化をインピーダンスとして検出するため、図2(a)、(b)に示すように細胞が広がるだけの形態変化の場合も(図2(a)は細胞14が電極2に接着していない状態、図2(b)は細胞14が電極2に接着して伸展した状態を模式的に示す。)、図3(a)、(b)に示すように細胞が増殖する場合も、どちらもインピーダンス変化が起こる。
【0085】
更に説明すると、図4は、実際に抗がん剤を添加してがん細胞の培養を行った場合と、抗がん剤を添加しないでがん細胞の培養を行った場合とで、インピーダンスの変化を比較した結果を示す。
【0086】
ここでは、がん細胞としては、肺由来のがん細胞であるA549を用いた。又、抗がん剤としては5−FU(5−フルオロウラシル)を用いた。そして、インピーダンスの測定結果は、培養開始時に対して正規化されたリアクタンス比の経時変化として示した。培養条件、測定条件、抗がん剤の添加条件は以下の通りである。
・培養条件
播種濃度:10万個/well(ウェル)
インキュベータ内環境:CO25%、湿度100%、温度37℃
培地:DMEM培地+10%FBS含有
・測定条件
測定周波数:100kHz
測定間隔:2分
測定時間:72時間
・抗がん剤添加条件
抗がん剤濃度:5−FU 5μg/ml
コントロール:培地を600μl
【0087】
図4から分かるように、抗がん剤を添加した場合も、添加しない場合も、どちらも培養開始から一定時間の間はリアクタンス比が増加しており、細胞が増殖しているように見える。
【0088】
一方、図5(A)、(B)、(C)は、図4に示すインピーダンス変化を示す曲線上のA、B、Cの各時点における細胞の画像を示す。図5(A)に示す画像からは、測定開始時には未だ細胞が接着していないことが分かる。図5(B)に示す画像からは、細胞が増殖していることが分かる。又、図5(C)に示す画像からは、細胞が広がっただけで増殖していないことが分かる。
【0089】
即ち、図4に示すリアクタンス比の変化からは、いずれの場合も細胞が増殖しているように見えるが、細胞の形態を画像で確認すると、抗がん剤を添加した場合は、ただ細胞が広がっているだけで、細胞が増殖しておらず、抗がん剤が効いていることが分かる(図5(C))。
【0090】
このように、インピーダンスの変化を示す曲線の違いからだけでは、細胞が増殖したのか、減少したのか、広がったのか、丸くなったのかなどの、インピーダンス変化と細胞の挙動との相関についてのより詳しい情報が分からない。
【0091】
そこで、本発明によれば、細胞を培養する過程でのインピーダンスの変化を測定すると同時に、細胞の画像を取り込むことで、インピーダンスの変化が何に起因するかを画像で確認することができるようにする。
【0092】
本実施例では、測定装置1のコンピュータ12の処理装置12aは、第1の記憶手段1bに記憶されたインピーダンスに係る情報としてリアクタンス比のデータと、第2の記憶手段12cに記憶された細胞の動画像データとから、ディスプレイ装置12dにおいて、図6に示すような表示を行うための処理を実行する。
【0093】
即ち、処理装置12aは、ディスプレイ装置12dの表示画面上に処理結果を表示する主表示領域50を表示させる。又、処理装置12aは、この主表示領域50内に、インピーダンスを示す情報(本実施例ではリアクタンス比)の変化を示す曲線を表示するインピーダンス測定結果表示領域(グラフ表示領域)51と、グラフ表示領域51に示された曲線上の特定の経過時間における細胞の画像を表示する細胞画像表示領域(イメージ表示領域)52と、を表示させる。又、処理装置12aは、ディスプレイ装置12dの表示画面上に、操作者が所定の処理操作の開始/停止や各種の設定の指示を処理装置12aに入力するための、それら各機能に対応した操作表示領域54を表示させることができる。
【0094】
当業者には容易に理解されるように、処理装置12aは、ディスプレイ装置12dの表示画面上のどこにどのような表示がされているのかを認識することができる。又、処理装置12aは、入力手段12eとしてのマウス(ポインティング装置)から入力される信号に従って、マウス12eの移動と連動するマウスカーソルをディスプレイ装置12dの表示画面上に表示させる。
【0095】
そして、典型的な一実施態様によれば、処理装置12aは、グラフ表示領域51内に表示している特定の曲線上の特定の経過時間に対応する部分に、時間指定表示としてのマウスカーソル53が移動させられると、その部分に対応する経過時間における細胞の画像を、イメージ表示領域52内に表示させる。この時、マウス12eに設けられたボタンが押されたこと、或いはそのボタンが押されていた状態から開放されたことなどによって示される切り替え信号を処理装置12aが認識した場合に、その時にマウスカーソル53が指定している部分に対応する特定の経過時間における細胞の画像をイメージ領域52内に表示するようにしてもよい。
【0096】
又、他の実施態様によれば、処理装置12aは、グラフ表示領域51内に表示されている特定の曲線について、マウスカーソル53、強調表示、その他の曲線上の特定の部分を明示する表示であってよい時間指定表示が指定する曲線上の部分が移動するのに同期して、イメージ表示領域52内の細胞の画像を順次切り替えて表示することができる。特に、細胞の画像が動画情報として取得されている場合には、処理装置12aは、イメージ表示領域52内で細胞の動画を再生させると共に、イメージ表示領域52に現在培養中のいつの時点の画像が表示されているのかを示すべく、グラフ表示領域51内でマウスカーソル53や強調表示などの時間指定表示の指定部分を順次変更させる。この場合、その時間指定表示の移動、即ち、細胞の画像の再生の開始・停止は、操作表示領域54に表示されている再生・停止ボタン表示などの操作ボタン表示にマウスカーソル53が移動されて、マウス12eのボタンが押されることで当該操作ボタン表示が視覚的に押されたことを処理装置12aが認識した時に行うことができる。
【0097】
尚、細胞の画像は、培養時間に沿って、即ち、図6に示す例ではグラフ表示領域51に示された曲線の左側から順次に表示させることが通常であるが、当然、その逆であってもよい。又、一般的な画像再生技術で採用されるように、早送り、巻き戻し、倍速(高速・低速)表示、一時停止などを可能とすることができる。これら各種の機能は、上記同様、操作表示領域54に表示された操作ボタン表示をマウス12eを用いて操作することで実行させることができる。
【0098】
処理装置12aは、上述のような各種の処理を、処理装置12aが内蔵するか又は処理装置12aに接続された記憶装置に記憶されたプログラム、データに従って実行する。
【0099】
以上説明したように、本実施例の測定装置1は、複数の電極2、4、5が配置された測定容器13と、複数の電極間に電圧を印加してインピーダンスに係る情報を検出する検出器11と、検出器11の検出結果に基づいて上記インピーダンスに係る情報を記憶する第1の記憶手段12bと、を有する。又、測定装置1は、上記少なくとも1つの電極の表面の細胞の画像を拡大して結像する光学系15a及びこの光学系15aにより結像された上記少なくとも1つの電極の表面の細胞の画像を撮影する撮像素子15bを備えたデジタル顕微鏡15と、デジタル顕微鏡15によって撮影された画像の情報を記憶する第2の記憶手段12cと、を有する。更に、測定装置1は、測定容器13内に収容された培地中に配置された複数の電極のうち少なくとも1つの電極である作用電極2の表面において細胞を培養しながら検出器11によって連続的に検出されて上記培養における経過時間と関連付けて第1の記憶手段12bに記憶された上記インピーダンスに係る情報と、上記培養をしながらデジタル顕微鏡15によって連続的に撮影されて上記培養における経過時間と関連付けて第2の記憶手段12cに記憶された画像の情報と、に基づいて、インピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線と、上記培養中の特定の経過時間における画像と、を同時に表示するための処理を実行する処理装置12aと、処理装置12aによる処理結果を表示するための表示手段12dと、を有する。
【0100】
そして、処理装置12aは、上記曲線上の特定の経過時間に対応する部分を指定する時間指定表示を表示して、その指定された特定の経過時間における画像を表示するための処理を実行することができる。又、処理装置12aは、曲線上の時間指定表示が指定する部分が順次変わるのに同期して、時間指定表示が指定するそれぞれの経過時間における画像を順次に表示するための処理を実行することができる。
【0101】
そして、本発明によれば、インピーダンス測定に基づいて簡便に細胞の増殖などの活性を測定することができると共に、インピーダンス変化と細胞の活性との相関についてのより詳細なデータを得ることを可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に係る細胞活性測定装置の一実施例の概略構成図である。
【図2】細胞の形態変化の一例を説明するための模式図である。
【図3】細胞の形態変化の一例を説明するための模式図である。
【図4】がん細胞の培養における抗がん剤の有無によるリアクタンス比の変化の違いの測定結果の一例を示すグラフ図である。
【図5】図4中のA、B、Cの各点における細胞の画像を示す図である。
【図6】インピーダンスに係る情報と細胞の画像とを同時に表示する方法の一例を示す模式図である。
【図7】透過照明光の照射角度、照射位置を変更するための構成の一例を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0103】
1 細胞活性測定装置
2 作用電極
4 対電極
5 参照電極
7 照明装置
8 支柱(支持部材)
11 検出器
12 コンピュータ
12a 処理装置
12b 第1の記憶手段
12c 第2の記憶手段
12d ディスプレイ装置(表示手段)
12e 入力手段
13 測定容器
15 デジタル顕微鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定容器内に収容された培地中に配置された複数の電極のうち少なくとも1つの電極の表面において細胞を培養しながら、前記複数の電極間に所定の電圧を印加してインピーダンスに係る情報を連続的に検出し該インピーダンスに係る情報を前記培養における経過時間と関連付けて記憶すると共に、前記培養をしながら、前記少なくとも1つの電極の表面の細胞の画像を連続的に撮影し該画像の情報を前記培養における経過時間と関連付けて記憶して、その後記憶した前記各情報に基づいて、前記インピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線と、前記培養中の特定の経過時間における前記画像と、を同時に表示することを特徴とする細胞活性測定方法。
【請求項2】
前記曲線上の前記特定の経過時間に対応する部分を指定する時間指定表示を表示して、その指定された前記特定の経過時間における前記画像を表示することを特徴とする請求項1に記載の細胞活性測定方法。
【請求項3】
前記曲線上の前記時間指定表示が指定する部分が順次変わるのに同期して、前記時間指定表示が指定するそれぞれの経過時間における画像を順次に表示することを特徴とする請求項2に記載の細胞活性測定方法。
【請求項4】
前記細胞は、がん細胞であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の細胞活性測定方法。
【請求項5】
前記培養の間に前記培地に対して抗がん剤が添加されることを特徴とする請求項4に記載の細胞活性測定方法。
【請求項6】
複数の電極が配置された測定容器と、
前記複数の電極間に電圧を印加してインピーダンスに係る情報を検出する検出器と、
前記検出器の検出結果に基づいて前記インピーダンスに係る情報を記憶する第1の記憶手段と、
前記少なくとも1つの電極の表面の細胞の画像を拡大して結像する光学系及び前記光学系により結像された前記少なくとも1つの電極の表面の細胞の画像を撮影する撮像素子を備えたデジタル顕微鏡と、
前記デジタル顕微鏡によって撮影された画像の情報を記憶する第2の記憶手段と、
前記測定容器内に収容された培地中に配置された前記複数の電極のうち少なくとも1つの電極の表面において細胞を培養しながら前記検出器によって連続的に検出されて前記培養における経過時間と関連付けて前記第1の記憶手段に記憶された前記インピーダンスに係る情報と、前記培養をしながら前記デジタル顕微鏡によって連続的に撮影されて前記培養における経過時間と関連付けて前記第2の記憶手段に記憶された前記画像の情報と、に基づいて、前記インピーダンスに係る情報の経時変化を示す曲線と、前記培養中の特定の経過時間における前記画像と、を同時に表示するための処理を実行する処理装置と、
前記処理装置による処理結果を表示するための表示手段と、
を有することを特徴とする細胞活性測定装置。
【請求項7】
前記処理装置は、前記曲線上の前記特定の経過時間に対応する部分を指定する時間指定表示を表示して、その指定された前記特定の経過時間における前記画像を表示するための処理を実行することを特徴とする請求項6に記載の細胞活性測定装置。
【請求項8】
前記処理装置は、前記曲線上の前記時間指定表示が指定する部分が順次変わるのに同期して、前記時間指定表示が指定するそれぞれの経過時間における画像を順次に表示するための処理を実行することを特徴とする請求項7に記載の細胞活性測定装置。
【請求項9】
前記細胞は、がん細胞であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかの項に記載の細胞活性測定装置。
【請求項10】
前記培養の間に前記培地に対して抗がん剤が添加されることを特徴とする請求項9に記載の細胞活性測定装置。
【請求項11】
前記デジタル顕微鏡は、前記測定容器が配置されるステージの下方から前記測定容器内の前記細胞を観察するように倒立式に配置されることを特徴とする請求項6〜10のいずれかの項に記載の細胞活性測定装置。
【請求項12】
前記測定容器が配置されるステージの上方から前記測定容器内の前記細胞に透過照明光を照射する照明装置を有し、前記照明装置の照明角度を変更する照射角度変更機構、前記照明装置の照明位置を変更する照明位置変更機構、又はこれら両方の機構が設けられていることを特徴とする請求項6〜11のいずれかの項に記載の細胞活性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−229308(P2009−229308A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76545(P2008−76545)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】