説明

細胞由来細胞外マトリックス支持体の製造方法

本発明は、細胞由来細胞外マトリックス(ECM)支持体の製造方法に関するものであって、さらに詳しくは、動物の軟骨由来軟骨細胞から軟骨細胞/細胞外マトリックス(ECM)膜を収得した後、収得された軟骨細胞/ECM膜を培養し、支持体のないペレット(pellet)−タイプ構造物を収得し、前記収得されたペレット(pellet)−タイプ構造物を冷凍乾燥することを特徴とする細胞由来細胞外マトリックス(ECM)支持体(scaffold)の製造方法に関するものである。
本発明による細胞由来細胞外マトリックス支持体は体外でスキャフォールドフリーシステムによって培養された軟骨細胞から組織工学的に製造された多孔性支持体として、組織培養中にその大きさが減らないため、軟骨再生に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞由来細胞外マトリックス(ECM)支持体の製造方法に関するものであって、さらに詳しくは、動物の軟骨由来軟骨細胞から軟骨細胞/細胞外マトリックス(ECM)膜を収得した後、収得された軟骨細胞/ECM膜を遠心分離した上、培養して支持体のないペレット(pellet)−タイプ構造物を収得し、該収得されたペレット(pellet)−タイプ構造物を冷凍乾燥することを特徴とする、細胞由来細胞外マトリックス(ECM)支持体(scaffold)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節軟骨細胞は、軟骨のみで発見される特化された間葉系由来細胞である。軟骨は、軟骨細胞によって生成された細胞外マトリックスに依存する物理的性質を有する無血管性組織であって、軟骨内の骨が発生する間、軟骨細胞は成熟し、第10型コラーゲンの発現の開始により特徴化される細胞肥大症を招く(非特許文献1)。
【0003】
損傷した軟骨を治療するために利用される自己軟骨細胞移植(autologous chondrocytes implantation, ACI)方法は、軟骨損傷部位において、硝子(hyaline)軟骨組織を再生するために臨床的に承認された細胞移植治療方法であるが(非特許文献2)、現在は、軟骨細胞や間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,MSCs)に対する研究の発展とともに様々な支持体(scaffold)を利用した細胞移植と、体外(in vitro)で組織工学的軟骨を製造する進歩した方法等が開発されている(非特許文献3、4)。
【0004】
3次元(3D)培養環境を提供する支持体は、接種細胞の増殖と分化のみならず組織工学的に製造された軟骨組織の究極的な品質に影響を与える。現在は、合成または天然材料から由来した多様な物質が適切な支持体として用いられている。このような支持体等はスポンジ、ゲル、繊維および微細ビーズ(microbead)等の色々な形態で用いられているが(非特許文献5〜8)、そのうち最もよく用いられているのが、細胞生着率を向上させることができ、体積に対する高率の表面張力を維持することができる多孔性構造である。しかしながら、生体内(in vivo)および体外(in vitro)において、いくつかの応用性が成功的に報告されているにも拘わらず、高品質の組織工学的軟骨を製造することができず、臨床的に応用できないという問題点があった。
したがって、該問題点を解決すべく、支持体を構造的、機能的側面において改善する必要性があった。
【0005】
これに、本発明者等は、構造的に複雑であるものの、多様な天然蛋白質が3次元構造にうまい具合に組織された混合物である細胞外マトリックス(ECM)を支持体として用いることにより、結局のところ、硝子軟骨組織の製造に対する研究を発展させることができるものと判断した。
【0006】
従来には、同種(allogenic)または異種(xenogenic)の細胞外マトリックス(ECM)が、生体組織から直接採取され、脱細胞化(acellularized)して膜形態の支持体として用いられた。現在まで小腸の粘膜下層(SIS)、膀胱(UBS)、人間羊膜(HAM)等がECM支持体の主要な原料(source)である。一例としてHAMは角膜の再生に有用であり、SISは尿路(urinary tract)、硬膜(dura mater)および血管再建(vascular reconstruction)に利用されている。また、第1型、第3型コラーゲン二重膜を利用した軟骨再生に対する研究も行われている。
【0007】
軟骨細胞から由来した細胞外マトリックス(ECM)支持体は、基本的に軟骨組織の細胞外マトリックス(ECM)の主成分であるグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)(GAG)およびコラーゲンで構成されており、軟骨細胞物質代謝に重要な微量元素を含んでいる。細胞外マトリックス(ECM)支持体は、軟骨細胞の細胞分化のための天然構造物を提供するため、このような細胞外マトリックス(ECM)支持体は、高品質な支持体として組織工学分野に応用されることができる。
【0008】
最近、注入可能な軟骨細胞インプラント(特許文献1)、生分解性グリコライド/ε−カプロラクトン共重合体(Glycolide/ε−Caprolactone copolymer)より製造された組織工学用多孔性支持体(特許文献2)、創傷被覆材および組織工学構造体用中和キトサンスポンジ製造方法およびこれによって製造された中和キトサンスポンジ(特許文献3)、自然に分泌される細胞外マトリックス組成物およびその方法(特許文献4)に対する報告があったが、生体組織由来の支持体は、洗滌溶液(detergent solution)で脱細胞化(decellularization)しなければならないため、製造過程が複雑であって、硬度が高すぎ、かつ多孔性が低くいため、細胞生着率が低くく、細胞が接種された支持体および生体内(in vivo)移植組織が収縮し、組織損傷部位に不適当な移植組織を作ったり、さらには移植組織の弛緩を誘発し、宿主組織から分離されたりもする問題点があった。
【0009】
これに本発明者等は、体外(in vitro)で製造することができ、適切な硬度と高多孔性を有し、かつ組織移植時に異常反応がなく、移植後、軟骨組織の収縮を起こさず、さらに臨床に適用可能な細胞外マトリックス(ECM)支持体を開発すべく鋭意努力した結果、体外で軟骨細胞を利用して組織工学的軟骨を製造した上、脱細胞化し、凍結乾燥する方法で多孔性細胞外マトリックス(ECM)支持体を製造し、該細胞外マトリックス(ECM)支持体が移植後にも組織収縮を起こさず、細胞分化を長期間維持させることができるということを確認し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】大韓民国特許出願10−2004−7017580
【特許文献2】大韓民国登録特許10−0408458B
【特許文献3】大韓民国特許出願10−2003−0023929
【特許文献4】大韓民国特許出願10−1997−708695
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Stephens,M,et al, J.Cell Sci., 103:1111, 1993
【非特許文献2】Brittberg,M.,et al., New Eng. J. Med., 331:889, 1994
【非特許文献3】Lee,C.R., et al., Tissue Eng., 6:555, 2000
【非特許文献4】Li,W.J.,et al., Biomaterials, 26:599, 2005
【非特許文献5】Honda,M.J.,et al., J. Oral Maxillofac Surg., 62:1510, 2004
【非特許文献6】Griogolo,B.,et al., Biomaterials, 22:2417, 2001
【非特許文献7】Chen,G.,etal., J.Biomed.Mater.Res.A, 67:1170, 2003
【非特許文献8】Kang,S.W.,et al., Tissue Eng. ,11:438, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
結局のところ本発明の目的は、体外(in vitro)でスキャフォールドフリー(scaffold−free)システムにおいて、組織工学的に細胞外マトリックス(ECM)支持体を製造する方法を提供するところにある。
【0013】
本発明のもう一つの目的は、多孔性を有し、かつ細胞分化を長期間維持させることができ、臨床および軟骨組織工学分野に適用可能な多孔性細胞外マトリックス(ECM)支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するため、本発明は、(a)動物の軟骨から軟骨細胞を分離した後、培養する段階と、(b)前記培養された軟骨細胞から軟骨細胞/細胞外マトリックス(ECM)膜を収得する段階と、(c)前記収得された軟骨細胞/ECM膜を培養し、支持体がないペレット(pellet)−タイプ構造物を収得する段階と、および(d)前記収得されたペレット(pellet)−タイプ構造物を冷凍乾燥し、細胞外マトリックス支持体を収得する段階と、を含む細胞由来細胞外マトリックス支持体(ECM scaffold)の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は(a)動物の軟骨から軟骨細胞を分離した後、培養する段階と、(b)前記培養された軟骨細胞から軟骨細胞/細胞外マトリックス(ECM)膜を収得する段階と、および(c)前記収得された軟骨細胞/ECM膜を折り畳み、或いはいくつか重畳させて細胞外マトリックス支持体を収得する段階と、を含む細胞由来細胞外マトリックス支持体(ECM scaffold)の製造方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、前述した製造方法により製造された組織を培養している間、大きさが縮小されずに10〜1000μm直径の気孔(pore)を有する細胞由来多孔性細胞外マトリックス支持体を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記細胞外マトリックス支持体に軟骨構成成分を添加および混合することを特徴とする擬似自然化した、或いは機械的強度に優れた細胞外マトリックス支持体の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記細胞外マトリックス支持体に生分解性高分子が生着した細胞外マトリックス複合支持体の製造方法を提供する。
本発明のもう一つの特徴および実施例等は、後述する詳細な説明および添付の請求の範囲によりさらに明らかに説明する。
【0018】
一つの実施態様において、本発明は、体外(in vitro)でスキャフォールドフリー(scaffold-free)システムにおいて組織工学的に細胞由来の細胞外マトリックス(ECM)支持体を製造する方法に関するものである。
【0019】
本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体の製造方法の第1実施態様は、(a)動物の軟骨から軟骨細胞を分離した後、培養する段階と、(b)前記培養された軟骨細胞から軟骨細胞/細胞外マトリックス(ECM)膜を収得する段階と、(c)前記収得された軟骨細胞/ECM膜を培養し、支持体がないペレット(pellet)−タイプ構造物を収得する段階と、および、(d)前記収得されたペレット(pellet)−タイプ構造物を冷凍乾燥し、細胞外マトリックス支持体を収得する段階と、を含む。
【0020】
本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体の製造方法の第2実施態様は、(a)動物の軟骨から軟骨細胞を分離した後、培養する段階と、(b)前記培養された軟骨細胞から軟骨細胞/細胞外マトリックス(ECM)膜を収得する段階と、および(c)前記収得された軟骨細胞/ECM膜を折り畳み、或いはいくつか重畳させて細胞外マトリックス支持体を収得する段階と、を含む。
【0021】
本発明において、前記動物とはブタであることが好ましく、前記培養の段階において細胞外マトリックス支持体の強度を高め、支持体の構成成分および構造を、天然軟骨と類似にするため、成長因子をさらに添加するのが好ましい。前記成長因子としてはIGF(insulin−like growth factor)、FGF(fibroblast growth factor)、TGF(transforming growth factor)、BMP(骨形成蛋白質)、NGF(神経成長因子)およびTNF−αで構成された群から選択されるものを用いることができるが、この限りでない。また、前記培養の段階において、軟骨細胞の増殖およびECMの分泌を促進させるため、培養液を超音波で処理したり、培養液に物理的圧力を加えたりするのが好ましい。
【0022】
本発明において、製造されるECM支持体のサイズを大きくするため、2つ以上の試験管で培養された細胞から軟骨細胞/細胞外マトリックス膜を得た後に、これらを各々混合して遠心分離した後、大きい培養皿(例:150mm培養皿)で培養することもできる。このように製造される大きいサイズのECM支持体は、臨床適用への可能性を高めることになる。
【0023】
本発明の第1実施態様において、前記(c)段階は、軟骨細胞/ECM膜を分けて集めた後、培養して行われるのが好ましく、前記(d)段階は、前記ペレット(pellet)−タイプ構造物を-15℃〜-25℃で凍結融解を3〜5回繰り返した上、冷凍乾燥して行われるのが好ましく、前記収得された細胞外マトリックス支持体(ECM scaffold)を加工してディスク状の細胞外マトリックス支持体を収得する(e)段階と、をさらに含むことが好ましい。
【0024】
もう一つの実施態様において、本発明は前記方法により製造された、組織の培養中にその大きさが減少することなく10〜1000μmの直径の気孔を有する細胞由来多孔性細胞外マトリックス支持体およびその応用に関するものである。
【0025】
例えば、前記細胞外マトリックス支持体に軟骨構成成分を添加および混合した場合、自然状態に類似する、或いは機械的強度に優れた細胞外マトリックス支持体が製造され得る。
【0026】
したがって、もう一つの実施態様において、本発明は、前記細胞外マトリックス支持体に軟骨構成成分が添加および混合された自然状態に類似する、或いは機械的強度に優れた細胞外マトリックス支持体の製造方法、かつ前記細胞外マトリックス支持体に生分解性高分子が生着した細胞外マトリックス複合支持体の製造方法に関するものである。
本発明において、前記軟骨構成成分はコラーゲンまたは蛋白糖であるのが好ましいが、この限りではない。
【0027】
また、前記細胞外マトリックス支持体に生分解性高分子が生着した場合、軟骨再生ばかりでなく骨再生あるいは骨/軟骨の複合体の再生のための細胞外マトリックス複合支持体が製造され得る。
【0028】
前記生分解性高分子はコラーゲン、PLGA(poly-lactic-co-glycolic acid)、PLA(polylactate)およびPHA(polyhydroxyalkanoate)で構成された群から選択されるが、この限りでない。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、軟骨細胞が高品質の軟骨組織に成長および発展できる最適の3次元(3D)環境を提供することによって、軟骨細胞と軟骨細胞から自己生成された細胞外マトリックス(ECM)で構成された支持体を製造する方法および前記方法によって製造された細胞由来細胞外マトリックス(ECM)支持体を提供する効果を奏する。
【0030】
本発明による細胞由来細胞外マトリックス(ECM)支持体は、多孔性、かつ細胞接種後、組織の培養中にその大きさが減少しないため、軟骨損傷および欠損の治療のための軟骨移植用に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による最終形態の細胞外マトリックス(ECM)支持体(extracellular matrix scaffold)の写真であって、スケール バー(scale bar)は、1mm単位を示す。
【図2】本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体の周辺(A)と中央部位(B)の電子顕微鏡(SEM)イメージ(×30倍)の写真であって、矢印は過密集部位を示す。
【図3】本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体に生着した細胞数と細胞生着率に対する初期(initial)細胞接種濃度の影響を示すものであって、星印(*)は統計学的意味を示すものである。
【図4】本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体に接種後0時間(A、C)および12時間(B、D)後、軟骨細胞の形態を各々×200倍および×1000倍に拡大したSEM写真である。ここで、白色矢印は培養時間による細胞形態学的変化を示す。
【図5】本発明による体外(invitro)培養された軟骨細胞を接種した細胞外マトリックス(ECM)支持体で形成された新しい軟骨組織(neocartilage)を肉眼で観察した写真であって、スケール バーは1mm単位を示し、かつWは週(week)を示す。
【図6】各々1、2および4週間体外で培養し、組織工学的に製造された軟骨組織の組織学的検査結果を各々×20倍および×200倍で観察した写真である。ここで、黒色矢印は培養時間による支持体壁厚さの変化を示す。
【図7】各々1、2および4週間体外で培養し、組織工学的に製造された軟骨組織の免疫組織化学的検査結果を×20倍および×200倍で観察した写真である。ここでGは1次抗体を処理しなかった陰性対照群、Hは1次抗体および2次抗体をいずれも処理した陽性対照群を×200倍で観察した写真である。
【図8】第1型コラーゲン、第2型コラーゲンに対してウェスタンブロット(Western blot)を行った電気泳動写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明においては、軟骨細胞が高品質の軟骨組織に成長して発展することができるよう最適の3次元(3D)環境を提供し得る、軟骨細胞と軟骨細胞より自己生成された細胞外マトリックス(ECM)で構成された細胞由来細胞外マトリックス(ECM)支持体を製造した。
【0033】
本発明によるECM支持体を製造するため、ブタの軟骨を分離し、高密度に3〜4日単層培養した後、収得した軟骨細胞膜を遠心分離し、スキャフォールドフリー(scaffold-free)ペレット−タイプ軟骨構造物(cartilage construct)を収得し、これを3週間体外(in vitro)で培養した。前記培養された構造物を冷凍乾燥した後、軟骨−特異的細胞外マトリックス(ECM)を含有している支持体がディスク状になるよう生検パンチ(biopsy punch)で最大限に加工して、新規な細胞外マトリックス(ECM)支持体を製造した。
【0034】
前記製造した細胞外マトリックス(ECM)支持体の表面構造をSEMで観察した結果、天然軟骨組織の支持体に比して本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体の粗密度が低く、多孔性と気孔の大きさを測定した結果、各々平均(n=6)90±10.4%および113±26μmであって、多孔率は89.1±8.3%であり、引張強度は0.34±0.09MPaであった。
【0035】
本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体のコラーゲンタイプを、SDS-PAGEによりウェスタン・ブロッティング(Western blotting)で分析し、GAG含有量を測定し、天然軟骨組織と比較したところ、コラーゲンタイプはタイプIIで確認され、全体GAG含有量およびコラーゲン含有量は各々108.1±19.1μg/mgおよび53.8±6.7μg/mg(乾燥重量当たり)で天然軟骨組織の1/3程度であった。
【0036】
本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体に、表現型が維持されたウサギ軟骨細胞(P1、rabbit chondrocytes)を動的に(dynamic)接種してSEMと組織学的イメージを分析した結果、接種した軟骨細胞が支持体壁にきれいに生着している様子を観察することができ、細胞生着率は58±6%であった。軟骨細胞を接種した細胞外マトリックス(ECM)支持体を体外(in vitro)で4週間培養しながら、各々1、2、4週の時に形成された組織の外観の観察、体積の変化および組織学的観察を行い、軟骨組織の形成程度を観察したところ、体外(in vitro)で培養時間の経過につれ、だんだん表面がなめらかになった白色軟骨状の組織を観察することができ、強度は強くなるのに対し、体積の変化は観察されず、初期の組織の大きさに対する有意的な収縮は起きないことを確認した。
【0037】
また、サフラニンO(Safranin O)およびアルシアンブルー(Alcian blue)染色法を利用した組織学的分析の結果、硫酸化されたプロテオグリカン(proteoglycan)(GAG)は絶えず蓄積され、支持体の内部の気孔を充填したことを確認し、免疫組織化学的分析を通して気孔領域にある細胞周囲領域に形成された第2型(typeII)コラーゲンを検出した。新たな軟骨組織から全体の蛋白質を抽出した後、イムノブロット(immunoblotting)を行ったところ、主要細胞外マトリックス(ECM)構成成分は、組織にある第2型コラーゲンであることが確認された。これは軟骨細胞の表現型が長期間維持および累積されていることを示し、本発明の細胞外マトリックス(ECM)支持体環境において、細胞分化が長期間維持される可能性があることが確認された。
【0038】
前記結果より、本発明による新規の細胞外マトリックス(ECM)支持体は、体外(in vitro)で天然の3次元的(3D)環境を提供し、軟骨組織形成に優れていることを確認することができ、臨床に応用が可能であるばかりでなく軟骨組織工学にも応用が可能であるということを確認することができた。
【0039】
(実施例)
以下では実施例を通し、本発明をより一層詳しく説明する。
これらの実施例は、本発明を例示するだけのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例により制限されるものと解釈しないのは、当業界にて通常の知識を有する者において自明であるといえる。
【0040】
下記の実施例においては、本発明による方法であって、ブタの関節軟骨を利用してECM支持体を製造する方法についてのみ記述しているが、他の動物の軟骨を利用してECM支持体を製造することは、当業界において通常の知識を有する者には自明であるといえる。
【0041】
また、下記の実施例においては、本発明の第1の実施態様によるECM支持体の製造方法について例示しているが、第1の実施態様により収得された軟骨細胞/ECM膜を折り畳み(folding)、或いはいくつか重畳させてECM支持体を製造することは、当業者に自明であるといえる。
【0042】
前記折り畳み(folding)は、軟骨細胞/ECM膜を折り畳んで一定の模様を有するよう成形する過程を意味する。前記折り畳み(folding)或いは重畳によって、ペレット(pellet)−タイプ軟骨細胞/ECM膜により、より立体的な構造の支持体を製造することができる。
【0043】
また、下記の実施例においては、その具体的な例示がないものの、本発明による細胞外マトリックス支持体にコラーゲン、蛋白糖のような軟骨構成成分を添加および混合し、自然状態と類似または機械的強度に優れた細胞外マトリックス支持体を製造することもやはり当業界において通常の知識を有する者には自明である。
【0044】
合わせて、本発明による細胞外マトリックス支持体にコラーゲンまたは生分解性高分子を生着させ、細胞外マトリックス複合支持体を製造することもやはり当業界において通常の知識を有する者には自明であるといえる。
【0045】
(実施例1:軟骨細胞(chondrocytes)の分離)
関節軟骨は、2〜3週齢の子ブタの膝関節から分離した。軟骨片を他の組織から注意深く分離した後、PBS(phosphated buffered saline)で洗滌した後、37℃で1時間30分間0.05%(w/v)プロナーゼ(Pronase)(Boehringer Mannheim、ドイツ)で処理した。これをPBSバッファーで二回洗滌した後、0.2%(w/v)コラーゲナーゼ(collagenase)(Worthington Biochemical Corp.,Lakewood,NJ)を新生の小ウシの血清(NCS,Hyclone,Utah,USA) 5%が添加されたDMEM (Dulbecco's Modified Eagle Medium,Gibco,Grand Island,NY)で12時間培養した。軟骨組織が完全に消化され、放出された軟骨細胞を600×gで10分間遠心分離した上、沈澱した軟骨細胞を二回洗滌後、組織培養皿(100mm(dia.)×20mm(h))に培養皿当たり1.9×105細胞の密度で接種した。
【0046】
(実施例2:軟骨組織構造物と体外(in vitro)培養の準備)
実施例1において、 分離した軟骨細胞(chondrocytes)を10% NCS(new-born calf serum)、50units/mLペニシリン、50μg/mLストレプトマイシン(streptomycin)、50μg/mL L-アスコルビン酸(L-ascorbic acid)が添加されたDMEMを利用し、単層(monolayer)で3〜4日間培養した。培養後、培地を取り除き、培養皿から軟骨細胞/ECM膜を得るために0.05%トリプシン-EDTA(Gibco)を添加した。収得した膜をワイドボア(widebore)ピペットを用いて注意深く分離した後、5%NCSが添加された、30mMDMEMが満たされた50mLコニカルチューブ(conical tube)に各々移した後、各チューブをペレット(pellet)−タイプ構造物を作るため、600×gで20分間遠心分離した後、37℃で12時間培養した。
前記培養された構造物(constructs)を6-well培養皿に移し、3週間2次培養した。
【0047】
前記培養過程において、5mL培地を1週間に三回ずつ変えて行った。その結果、前記構造物は新たな軟骨組織(neocartilage tissue)に成長した。
【0048】
(実施例3:細胞外マトリックス(ECM)支持体の準備)
前記実施例2において、3週培養して収得した新たな軟骨組織構造物を、PBSで洗滌した後、3日間-20℃で凍らせて融かすを3回繰り返した後、-56℃, 5m Torrで48時間冷凍乾燥した。
【0049】
生検パンチ(biopsy punch, 6mmの直径)で冷凍−乾燥試料をディスク状の中心とリング状の周囲の二部分に分けた。コア領域における次元の均一性(dimensional consistency)により、ディスク状の部分を細胞外マトリックス(ECM)支持体のプリフォーム(preform)として選択した。
前記プリフォームされた物質をさらに加工し、表面層を1mmよりも薄くならし、最終形態の細胞外マトリックス(ECM)支持体を製造した(図1)。
【0050】
3週培養した新たな軟骨(neocartilage)構造物を冷凍−乾燥させると、好適な硬度を有するスポンジ状に変わるが、これは冷凍乾燥された試料(直径:〜 8mm)が不規則な模様でなく、6mm 生検パンチ(biopsy punch)を用いて周辺部から中央部位を分離したためだが、結果的にディスク状のプリフォーム細胞外マトリックス(ECM)支持体が生成される。
【0051】
図2は、細胞外マトリックス(ECM)支持体において、周辺(A)と中央部位(B)のSEMイメージ写真であって、冷凍乾燥された軟骨構造物の周辺層は、細胞接種のための多孔性を持たない不適切な外形を有することが確認された。SEMによって分析されたプリフォーム支持体の周辺層は、図2Aにて矢印で示すように、過密して接種された軟骨細胞が内部領域へ通過することができなかった。したがって、多孔性ECM支持体を製作するため、周辺層を最小限度に取り除き、全領域に亙って高い多孔性微細構造を露出させなければならなかった(図2B)。
【0052】
(実施例4:総グリコサミノグリカン(GAG)およびコラーゲン含有量の生化学的分析)
前記実施例3において、製造した細胞外マトリックス(ECM)支持体のGAG含有量とコラーゲン含有量を測定するため、前記細胞外マトリックス(ECM)支持体をパパイン(papain)溶液(5mM L-システィン(L-cysteine)、100mM Na2HPO4、5mM EDTA、パパインタイプIII125 μg/mL、pH 7.5)にて、60℃で24時間分解した後、12,000×g, 10分間遠心分離した。
【0053】
遠心分離した上澄み液のGAG含有量を測定するため、DMB(dimethylmethylene blue)比色分析法(colorimetric assay, Heide,T.R.and Gernot,J.,Histochem. Cell Biol.,112:271,1999)を行い、全体のコラーゲン含有量はHeide
tullberg-reinert方法(Schmidt,C.E.and Baier,J.M.,Biomaterials,22:2215, 2000)を用いて測定した。
【0054】
分解された前記試料を、96-ウェルプレート(96-well plate)にて37℃で乾燥した後、攪拌器において、1時間の間、ピクリン酸−飽和溶液(picric acid saturation solution)(1.3%, Sigma,MO,USA)で溶かした1mg/mLシリウス・レッド(Sirius red)コラーゲン-染色溶液(pH3.5)と反応させた。
【0055】
各ウェルにある染色-試料複合体を0.01N HClで5回洗滌し、0.1N NaOHで溶解させた後、ELISA READER
(BIO-TEK,Instruments,INC.,米国)を用いて550nm波長で吸光度を測定した。
【0056】
その結果、生化学的に分析された全GAGおよびコラーゲンの含有量は、各々108.1±19.1μg/mgおよび53.8±6.7μg/mg(乾燥重量)(n=6)であって、天然軟骨組織の1/3程度であった。
【0057】
(実施例5:機械的特性測定)
Universal Testing Machine (Model H5K-T, H.T.E, 英国)を用いて前記実施例3にて製造した細胞外マトリックス(ECM)支持体の機械的引張強度を測定した。
測定する前、試料(n=6)を均一の長方形に切り取り、試料の両端をグリップで掴み、1mm/min速度で引っ張った。
【0058】
ピーク負荷はブレーキ(break)において負荷−変位曲線から得た後、それぞれの引張強度を算出した。対照群としては商業的不織メッシュ(non-woven mesh) PGA支持体(albany International、NY)を用いた(表1)。
【0059】
【表1】

【0060】
表1は、本発明によるECM支持体の機械的特性を確認した結果であって、試料を単軸に引っ張って測定した最大引張強度は、平均的に0.34±0.09MPa (n=6)であった。
【0061】
たとえ本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体は、引張強度が商業化されたPGA支持体より低かったものの、持続的な硬度を有するため、全体にわたる製造工程の間、損傷されない状態で残っていたことが確認された。交差結合を利用した天然支持体の改善された硬度を得る方法(Pieper, J.S., et al., Biomaterials 21:581, 2000)を利用した場合、本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体の引張強度を増加させることができる。
また、本発明によるECM支持体にコラーゲン、蛋白糖などの軟骨構成成分を添加して混合し、機械的強度を増加させることもできる。
【0062】
(実施例6:適正接種細胞密度および細胞生着率の決定)
前記実施例3にて製造した細胞外マトリックス(ECM)支持体を、滅菌した70%エタノールに1時間漬けた後PBSで洗滌し、これを細胞接種に先立ち12時間DMEMに浸沈しておいた。表現型が維持されたウサギ軟骨細胞(P1)を、回転子(rotator)を用いて、1時間30分間動的に細胞外マトリックス(ECM)支持体(n=5)に接種するための最適な接種濃度を決定するため、1、2、3および4×106 cells/mLの4つの異なる細胞密度を使って、培地とプレート壁にある放出された細胞を集計した。
【0063】
接種後1時間の時点で、生着した細胞数および細胞生着率を確認して決定した上、適切な細胞密度で接種した細胞外マトリックス(ECM)支持体を1、2および4週間培養した。
前記実施例2にて言及したものと同じ培地を用い、1週間に培地を3回取り替えた。
【0064】
図3は、細胞外マトリックス(ECM)支持体に生着した細胞数と細胞生着率に対する初期(initial)の細胞接種濃度の影響を示すものであって、表現型が維持されたウサギ軟骨細胞(P1)を動的に細胞外マトリックス(ECM)支持体(n=5)に1、2、3および4×106 cells/mLの四種類の異なる細胞接種密度で接種した上、一時間内に生着した細胞数を測定した結果、生着した細胞数は接種密度により増加し、各々0.7±0.2×106 、1.4±0.3×106 、1.7±0.2×106 および1.7±0.3×106 cells/mLまで到達した(図3A)。
接種濃度1×106 cells/mLの細胞密度を除いては、測定された対照群間において統計学的に有意的な差がなかった。
【0065】
また、細胞生着率の算出は2つの要因である非生着性細胞数および全体の接種された細胞数に基づいて算出した。その結果、図3Bに示すように、細胞接種密度が増加する時、平均細胞生着率(%)は各々69±19%、70±14%、58±6%および43±8%と接種密度に反比例した。
【0066】
前記結果により細胞生着率は、細胞数の最適範囲および初期接種密度と一致しないことが確認された。細胞接種密度と細胞生着率間の相互関連性はないものと判断された。したがって、できるだけ多くの細胞が支持体に接種されるのが有利であると判断され、かつたとえ平均細胞接着率は最も高くはなかったものの、3×106 cells/mLの細胞接種密度を本発明において使用した。
【0067】
(実施例7::細胞外マトリックス(ECM)支持体の多孔性と気孔の大きさ)
水銀圧入式ポロシメータ測定機(mercury intrusion porosimeter、Micromeritics Co.,Model AutoPoreII9220,米国)を用いて、細胞外マトリックス(ECM)支持体の多孔性と気孔の大きさを測定した。支持体を容器(chamber)に入れ、密封処理して真空を施した後、水銀を満たし入れ、容器内の圧力を0.5から500 psiにプログラム化されたレベルまで増加させた。
【0068】
圧力が加えられると水銀が気孔内に圧入され、容器の水銀の高さが減少するが、この減少を圧力の関数として測定し、気孔に圧入された水銀の体積を知ることができる。
【0069】
その結果、最終形状細胞外マトリックス(ECM)支持体の平均気孔径および多孔性(porosity)は、各々113±26μm(77〜147μm範囲)および90±10.4%(78〜106%)(n=6)であることが確認された。
【0070】
支持体の高い多孔性は、細胞接着に対してより大きい表面積を提供するため、極めて重要な特性(O'Brien F.J., et al., Biomaterials, 26:433, 2005)であって、前記結果により本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体は、平均約90%以上の多孔性を保有することによって組織工学的応用に有用であることを確認することができた。
【0071】
(実施例8:走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope、SEM)分析)
細胞外マトリックス(ECM)支持体切断部の微細構造を分析するため、二重−スティック炭素テープ(double-stick
carbon tape)を有するアルミニウムスタブ(aluminum stub)の上に試料を載せた上、これをスパッタリング装置(sputtering system, Sanyu Denshi, Tokyo, Japan)に移した後、試料各々を60%金と40%パラジウムで2分間20nm厚さでコーティングした。
【0072】
また、実施例6において、支持体に接種された軟骨細胞を観察するため、前記軟骨細胞を0.1M PBSバッファー内の2.5%グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)で4℃にて2時間の間固定させた。時間による形態学的変化を比較するために、対照群は接種後12時間以内で後ほど固定させた。前記固定された細胞を70〜100%の一連のアルコール濃度で脱水した上、PBSで2回洗滌した後、安全カミソリ(razor blade)を用いて、前記試料を半分に切って、横断面は2分間イオンコーティング機であるスパッターコーター(sputter coater)でコーティングしてSEM(JSM-6400Fs;JEOL, Tokyo, Japan) 分析を行った。
【0073】
図4は、細胞外マトリックス(ECM)支持体に接種後0時間(A、C)および12時間(B、D)における軟骨細胞を、各々×200倍および×1000倍でSEM観察した写真であって、軟骨細胞が0時間および12時間において支持体の表面に生着していることが確認された。
【0074】
接種初期の時(0時間)の細胞の形態は、図4Cにおいて白色矢印で示すように、円形であったが、12時間後には、図4Dに示すように、楕円形に変わった。前記結果より、接種後12時間立った軟骨細胞は、平たい形状として表面により安定するよう生着していることを確認することができた。
【0075】
(実施例9:組織学的分析)
本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体を用いて、培養した新たな軟骨組織を体外(in vitro)で最低24時間4%ホルマリンで固定させた後、パラフィンに包埋し、4μm厚さで切断した後、蓄積された硫酸化されたプロテオグリカン検出のために横断面をサフラニンO(Safranin O)とアルシアンブルー(Alcian blue)で染めた。
【0076】
図5は、体外(in vitro)培養された細胞外マトリックス(ECM)支持体を基盤に形成された新しい軟骨組織の写真であって、軟骨細胞が接種された細胞外マトリックス(ECM)支持体を0(initial)、1、2および4週(W)間、体外(in vitro)で培養したが、全体にわたる培養期間の間、留意すべき新しい軟骨組織の実質的な大きさ(size)の減少はなかった(図5)。
肉眼的に検査をしたところ、組織の成熟は、時間が立つにつれ改善され、4週間培養したときは、なめらかで、ツヤのある表面を確認することができた。
【0077】
図6は図5に示すように1、2および4週間培養された組織工学的軟骨組織の組織学的特徴を確認するため、各々×20倍および×200倍で観察した写真であって、図6A-FはサフラニンO(Safranin O)、図6G-Lはアルシアンブルー(Alcian blue)で染め、示した写真である。
【0078】
黒い矢印で示すように、細胞外マトリックス(ECM)支持体壁の厚さは時間が立つにつれだんだん薄くなるが、これは主に支持体の生分解に起因するものと判断される(図6B、DおよびF)。
【0079】
前記結果より、培養中に細胞外マトリックス(ECM)支持体において軟骨組織の細胞外マトリックスがうまく形成され、累積するということを確認することができた。
【0080】
(実施例10:免疫組織化学的分析)
第2型(type-II)コラーゲンの免疫組織化学的分析のため、前記実施例9にて準備した切断部位をPBSバッファーで洗滌し、3% H2O2で5分間処理した後、組織透過性を高めるために0.15% Triton X-100と反応させた。
【0081】
前記準備した試料を1% BSA(bovine serum albumin)で非特異的結合を遮断し、1:200に希釈したマウス抗-ウサギ(mouse anti-rabbit)第2型コラーゲン単一クローン抗体(monoclonal antibody, Chemicon, Temecula, CA)で1時間処理した後、1:200に希釈されたビオチンが結合した2次抗体(biotinylated secondary antibody, DAKO LSAB system, Carpinteria, CA)で1時間処理した後、これをPBSで洗滌した上、前記切断試料が載置されたスライドを30分間常温でペルオキシダーゼ−融合したストレプトアビジン(peroxidase-conjugated streptavidin)溶液(DAKO LSAB System)で処理した。
【0082】
前記処理されたスライドをMayer'sヘマトキシリン(hematoxylin, Sigma, St Louis,MO)で対照染色した後、顕微鏡観察(Nikon E600, Japan)のため、マウント溶液でマウントした。
【0083】
前記細胞外マトリックス(ECM)支持体のコラーゲンと、本発明で用いた抗体間の相互作用を観察するため、1次抗体を処理していない陰性対照群と1次抗体および2次抗体をいずれも処理した陽性対照群と同じように、免疫染色(immunostaing)を細胞由来細胞外マトリックス(ECM)支持体だけのために行った。
図7は1、2および4週の間、培養した新たな軟骨組織を免疫組織化学的に分析して×20倍および×200倍で観察した写真である。
ここでGは1次抗体を処理していない陰性対照群、Hは1次抗体および2次抗体をいずれも処理した陽性対照群を×200倍で観察した写真である。
【0084】
また、1次抗体を処理しなかった陰性対照群(図7G)と、1次抗体および2次抗体をいずれも処理した陽性対照群(図7H)の間に有意的な差がなく、細胞由来細胞外マトリックス(ECM)支持体から抽出された蛋白質と本発明にて用いた抗体蛋白質間に相互作用があることが確認された。
【0085】
(実施例11:ウェスタンブロット(Western blot)分析)
軟骨細胞を接種した細胞外マトリックス(ECM)支持体を培養する間、前記新しい軟骨組織の表現型安全性(phenotypic stability)を確認するのにウェスタンブロットを用い、新しく形成された軟骨組織にある第2型コラーゲンの形成を確認した。
【0086】
全体の蛋白質は、120mM NaCl、0.5% Nonidet p-40(NP-40)、2μg/mLアプロチニン(aprotinin)、2μg/mLペステチン(pestetin)、2μg/mLロイペチンは(leupetin)および100μg/mLフッ化フェニルメチルスルホニル(phenylmethylsulfonyl fluoride,PMSF)を含む40mM Tris-HCl(pH 8.0)の細胞溶解バッファーを用い、組織から抽出した。
【0087】
BCA(bicinchoninic acid)方法(Shihabi,Z.K.and Dyer R.D.,Ann.Clin.Lab.Sci.,18(3):235,1988)により測定された蛋白質の同一の量を8% SDS-PAGE (sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis)にローディングして分離した。
【0088】
前記分離した蛋白質をニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane, Millipore, Bedford, MA)に移した後、1:1000に希釈したマウス坑-ウサギ第2型コラーゲン単一クローン抗体(Chemicon,Temecula,CA,USA)で先に処理した後、0.5% Tween 20を含むTBS (Tris-buffered saline)で3回洗滌した後、ペルオキシダーゼが標識された(peroxidase-labeled)羊(sheep)坑-マウスIgG(Lockland,Gilbertsville,PA,USA)を2次抗体で処理した。
【0089】
前記処理された膜は、ECLキット(Amersham, NJ, USA)を用いて視角化した上、第2型コラーゲン単一クローン抗体の相互反応を評価するため、全体の蛋白質を細胞外マトリックス(ECM)支持体から抽出し、イムノブロット(immunoblotting)分析を行った。
【0090】
全体の蛋白質をSDS-PAGEから分離した後、新しい軟骨組織の軟骨細胞表現型(chondrocytic phenotype)を、第1型コラーゲンおよび第2型コラーゲンに対して各々特異的な単一クローン抗体でウェスタンブロット(Western blot)を行い、検出した(図8)。
その結果、図8に示すように、第2型コラーゲンは測定した毎時間に明らかに検出されたが、第1型コラーゲンはほとんど検出されなかった。
【0091】
しかし、新たに形成された軟骨組織から由来した全体の蛋白質は、以前に存在した蛋白質と新しく合成された蛋白質との混合物であったため、マウス坑-ウサギ第2型コラーゲン単一クローン抗体の相互反応は結果と一致した。
【0092】
前記結果は第2型コラーゲンが新しく合成されたが、体外(in vitro)培養の間、接種されたウサギ軟骨細胞によって、大部分生産され、完全に検出されることができなかったことを示すものである。
【0093】
したがって、前記ウェスタンブロットの結果より、細胞外マトリックス(ECM)支持体で表現型が維持された軟骨細胞(P1)は、翻訳後水準(post-translational level)にてP1の表現型安全性(phenotypic stability)を維持することができることを確認することができた。
【0094】
本発明において、前記実験データに対する統計学的分析は、ペアワイズ(pairwise)比較を行うため、多重比較およびスチューデントt検定(two-tail)のための1元配置の分散分析(one-way analysis of variance、ANOVA)を用いて行った。
前記統計的な意味は*p<0.05として割り当てられた。
【0095】
前記実施例より、本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体が4週間体外(in
vitro)培養を通し、軟骨細胞の表現型を安定的に維持することができ、軟骨細胞代謝に肯定的に影響を及ぼす可能性があることが確認された。
【0096】
また、本発明による細胞外マトリックス(ECM)支持体は、軟骨−特異的な細胞外マトリックス(ECMs)および軟骨細胞自体によって作られた特有な構造的構造物の特徴を保有しており、軟骨組織工学で新しい支持体として有用であるということを確認することができた。
【0097】
以上、本発明の内容における特定部分を詳細に記述したところ、当業界の通常の知識を有する者において、このような具体的技術は単なる好ましい実施様態に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されるものではないことは明らかである。
したがって、本発明の実質的な範囲は添付の請求項およびそれらの等価物によって定義されるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)動物の軟骨から軟骨細胞を分離した後、培養する段階と、
(b)前記培養された軟骨細胞から軟骨細胞/細胞外マトリックス(ECM)膜を収得する段階と、
(c)前記収得された軟骨細胞/ECM膜を培養し、支持体がないペレット(pellet)−タイプ構造物を収得する段階と、
(d)前記収得されたペレット(pellet)−タイプ構造物を冷凍乾燥し、細胞外マトリックス支持体(ECM scaffold)を収得する段階と、
を含む細胞由来細胞外マトリックス支持体の製造方法。
【請求項2】
(a)動物の軟骨から軟骨細胞を分離した後、培養する段階と、
(b)前記培養された軟骨細胞から軟骨細胞/細胞外マトリックス(ECM)膜を収得する段階と、
(c)前記収得された軟骨細胞/ECM膜を折り畳み、或いはいくつか重畳させて、細胞外マトリックス支持体(ECM scaffold)を収得する段階と、
を含む細胞由来細胞外マトリックス支持体の製造方法。
【請求項3】
前記動物はブタであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記培養段階において、成長因子をさらに添加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記成長因子はIGF(insulin-like growth factor)、FGF(fibroblast growth factor)、TGF(transforming growth factor)、BMP(骨形成蛋白質)、NGF(神経成長因子)およびTNF-αで構成された群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記培養段階において培養液を超音波で処理したり、培養液に物理的圧力を加えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記(c)段階は、軟骨細胞/ECM膜を分けて集めた後、培養することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記(d)段階は、前記ペレット(pellet)−タイプ構造物を-15℃〜-25℃で凍らせて融かすを3〜5回繰り返した後、冷凍乾燥することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記収得された細胞外マトリックス支持体(ECM scaffold)を加工し、ディスク状の細胞外マトリックス支持体を収得する(e)段階を、さらに含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1または請求項2の方法によって製作された、10〜1000μm直径の気孔(pore)を有する細胞由来多孔性細胞外マトリックス支持体。
【請求項11】
請求項10の細胞外マトリックス支持体に軟骨構成成分を添加および混合することを特徴とする自然状態と類似する、または機械的強度に優れた細胞外マトリックス支持体の製造方法。
【請求項12】
前記軟骨構成成分は、コラーゲン(collagen)または蛋白糖(proteoglycan)であることを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項10の細胞外マトリックス支持体に生分解性高分子を生着させることを特徴とする細胞外マトリックス複合支持体の製造方法。
【請求項14】
前記生分解性高分子は、コラーゲン、PLGA(poly-lactic-co-glycolic acid)、PLA(polylactate)およびPHA(polyhydroxyalkanoate)で構成された群から選択されることを特徴とする請求項13に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−524458(P2010−524458A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503950(P2010−503950)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【国際出願番号】PCT/KR2007/001873
【国際公開番号】WO2008/126952
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(509288312)
【Fターム(参考)】