細胞融合装置及びそれを用いた細胞融合方法
【課題】
電気的細胞融合において、2細胞一対での細胞融合をより効率的により確実に実施できる新規な細胞融合装置と、それらを用いた細胞融合方法を提供する。
【解決の手段】
細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、絶縁体が、電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、かつ微細孔の直径が、融合させる細胞の直径より小さ細胞融合容器と、一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置と、それらを用いた細胞融合方法を用いる。
電気的細胞融合において、2細胞一対での細胞融合をより効率的により確実に実施できる新規な細胞融合装置と、それらを用いた細胞融合方法を提供する。
【解決の手段】
細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、絶縁体が、電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、かつ微細孔の直径が、融合させる細胞の直径より小さ細胞融合容器と、一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置と、それらを用いた細胞融合方法を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞融合を効率的に行うための細胞融合装置とそれを用いた細胞融合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異なる細胞同士を融合させ1つの交雑細胞とする細胞融合技術として、主にポリエチレングリコール(PEG)を用いる化学的融合法が用いられているが、この方法では(i)PEGは細胞に対して強い毒性を持っている、(ii)融合するにあたりPEGの重合度、添加量などの最適な諸条件を見出すのに手間がかかる、(iii)融合に際して高度な技術が要求され、特定の技術に習熟した人にしか使えない、(iv)2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の制御が困難なため細胞融合確率が極めて低い、等の解決すべき課題があった。
【0003】
これに対して、電気的細胞融合法は、高度な技術が不要で、簡単に効率よく融合させることができ、細胞に与える毒性がほとんどなく、高活性をもったままの状態で細胞を融合させることができるという利点がある。電気的細胞融合法は、1981年西ドイツのZimmermannが確立したものであり、その原理は次の通りである。すなわち、平行電極間に交流電圧を印加し、そこに細胞を導入すると、細胞は電流密度の高い方へ引き寄せられ数珠状にならぶ。なお、細胞が数珠状にならんだ状態を一般にパールチェーンと呼ぶ。この状態で数μsec〜数十μsec単位の直流パルス電圧を電極間に印加することにより細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層により構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われ、その結果細胞融合が起こるものである。
【0004】
上記の電気的融合法には、主に微小電極法と平行電極法が用いられている。このうち微小電極法は、2細胞一対の融合を顕微鏡で観察しながらマイクロマニュピレーターで細胞を拾い集めては直流パルス電圧を印加する方法であり、極めて確実であり、微小電極法に用いる電極の例も報告されている(例えば、特許文献1参照)が、手間のかかる方法であり、その操作は熟練を要す上、大量の細胞を扱う上では実用的とはいえなかった。また平行電極法は、誘電泳動により複数の細胞を数珠状に配列形成させた後、直流パルス電圧を印加することによって融合させる方法であり、その取り扱いは簡単であるが、数珠状になった複数の細胞が融合するため化学的融合法と同様に2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の確実な制御が難しいという課題があった。
【0005】
上記平行電極法の課題を解決するために、細胞融合用チャンバーの細胞融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、且つ前記一対の電極方向に貫通した微細孔を有する絶縁体とよりなる細胞融合用チャンバーの例が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
図1は上記例の細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。図1において、例えば樹脂材からなる細胞融合用チャンバーの細胞融合領域(1)の両側には、導電部材からなる電極(2)が配置され、これら電極は導電線(3)を介して外部に設けられた電源(4)と接続されている。外部に設けられた電源は電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHz程度の高周波交流電圧を出力する交流電源(5)と、約7kV/cm、パルス幅50μsec程度の直流パルス電圧を出力する直流パルス電源(6)と、電極と交流電源又は直流パルス電源の電気的接続を切り換える為の切換機構を有する切換スイッチ(7)とから構成されている。
【0007】
ここで、交流電源から出力する交流電圧の波形は、特に断りがない限りは一般に正弦波の波形を用いる。細胞融合用チャンバーは、電気的に絶縁な材料、例えばシリコーン樹脂からなる隔壁(35)により2つの空間に区分けされている。ここで、絶縁体には最小口径が1μm〜数十μmの微細孔(9)が設けられている。また、細胞A(10)及び細胞B(11)はそれぞれ細胞融合用チャンバーの細胞融合領域内の細胞懸濁液内におかれている。
【0008】
上記例の動作を図2〜図4を用いて説明する。最初に、電源(4)の切換スイッチ(7)を電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHzの高周波電圧を出力する交流電源(5)に接続させる。この状態において電気力線(12)は、図2に示すように微細孔(9)に集中する。細胞A(10)および細胞B(11)は、ここに集中する電気力線(12)のため誘電泳動力を受け、図3に示すように微細孔(9)の中心付近に固定される。ここで細胞A(10)と細胞B(11)は出会い接触する。次に、電源(4)の切換スイッチ(7)を直流パルス電源(6)に切り換える。図3に示した状態におかれた細胞A(10)及び細胞B(11)は、直流パルス電圧により細胞A(10)および細胞B(11)の接触点で細胞膜の可逆的破壊が起こり、図4に示すように融合が生ずる。このようにすることで、微細孔において細胞Aと細胞Bを2細胞一対で細胞融合させることができる。
【0009】
しかしながら、前記特許文献2に記載された細胞融合用チャンバーを用いて細胞融合を行う方法は、微細孔の直径が細胞Aの直径より大きくかつ細胞Bの直径より大きい場合、それぞれの細胞が微細孔にトラップされ接触する際に、図29に示すように、電気力線の向きと同一方向に細胞Aと細胞Bが接触する確率が減るため、細胞融合の確率が低くなるという課題があった。また、逆に微細孔の直径が細胞Aの直径より小さくかつ細胞Bの直径より小さい場合、両方の細胞は微細孔にトラップされ接触し融合されるが、融合後、図30に示すように微細孔から細胞が外れなくなり、微細孔から細胞を取り出すことができなくなる上、無理に取り出そうとすると、融合した細胞が壊れてしまうという課題があった。
【0010】
さらに、前記特許文献2に記載された細胞融合用チャンバーを用いて細胞融合を行う方法は、前記微細孔において2細胞一対を同時に固定することが難しいという課題があった。例えば、細胞Aを微細孔に入れた後、さらに細胞Bを微細孔に入れるために細胞融合用チャンバー内に細胞Bを含有する細胞懸濁液を導入すると、導入する際の送液により、あらかじめ微細孔に固定しておいた細胞Aが微細孔から脱離してしまう。また、細胞Aと細胞Bを同時に微細孔に固定するには細胞懸濁液の送液に熟練を要し非常に困難であった。さらに、前記特許文献2に記載された方法により複数の細胞を同時に細胞融合させる場合、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に、2細胞を一対ずつ固定する必要がある。
【0011】
ここでアレイ状とは、複数の微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。しかしながら、交流電源を接続して細胞を微細孔に固定する際に、複数の細胞が集中して固定される微細孔や、細胞が全く固定されない微細孔があり、複数のアレイ状に形成された微細孔で目的とする2細胞一対の細胞融合を行うことが非常に難しいという課題があった。
【0012】
一方、アレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ細胞を固定する方法の例が報告されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3記載の方法は、微細孔(特許文献3では、マイクロウエルと記載されている)の内径と深さがそれぞれ細胞(特許文献3では、被検体リンパ球と記載されている)の直径の1〜2倍の大きさの複数の微細孔に、複数の細胞を含む液を微細孔を覆うように加え、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と、微細孔外の細胞を洗い流す洗浄の過程を繰り返し行うことで1つの微細孔に1つの細胞を固定している。
【0013】
しかしながら、前記特許文献3に記載された方法により1つの微細孔に1つの細胞を固定する方法は、重力により細胞が沈むのを待つ時間が5分程度と長いこと、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と微細孔外の細胞を洗い流す洗浄過程を繰り返す必要があり操作が煩雑な上さらに時間を要すること、微細孔に入らなかった細胞を洗い流す過程で細胞が失われる可能性があるため、細胞すべてを有効に使用することが難しいという課題があった。一般に、細胞融合を行う場合は、細胞の活性を維持するためにその処理時間はできる限り短いことが好ましく、また、細胞1つ1つが持つ特異性を見出すためには、できる限り細胞の喪失がないことが好ましい。
【0014】
【特許文献1】特公平7−40914号公報
【特許文献2】特公平7−4218号公報
【特許文献3】特許第3723882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、電気的細胞融合において、2細胞一対での細胞融合をより効率的により確実に実施できる新規な細胞融合用チャンバーまたは細胞融合装置と、それらを用いた細胞融合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記課題を解決する手段として、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、前記絶縁体が、前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、かつ前記微細孔の直径が、融合させる細胞の直径より小さいことを特徴とする細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記交流電圧の波形が前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形であり、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、前記波形を有する交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記波形を有する交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、前記直流パルス電圧を印加して細胞融合する細胞融合方法を用いることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の細胞融合装置は、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が、前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、かつ前記微細孔の直径が、融合させる細胞の直径より小さいことを特徴とする細胞融合装置である。
【0018】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源が、前記一対の電極に交流電圧を印加するための交流電源及び直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、前記交流電源と前記直流パルス電源とを切り換える切換機構を有することを特徴とする細胞融合装置である。
【0019】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体に形成される微細孔が、1つの微細孔につき1つの細胞を固定できる形状であることを特徴とする細胞融合装置である。
【0020】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源により、1つの微細孔につき1つの細胞を微細孔に固定する波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする細胞融合装置である。
【0021】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする細胞融合装置である。
【0022】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であることを特徴とする細胞融合装置である。
【0023】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であることを特徴とする細胞融合装置である。
【0024】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上であることを特徴とする細胞融合装置である。
【0025】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体に形成される微細孔の中心位置が、前記絶縁体の水平面において、隣り合ういずれの微細孔の中心位置からも、微細孔の中心位置が同じ位置に形成されていることを特徴とする細胞融合装置である。
【0026】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることを特徴とする細胞融合装置である。
【0027】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍以下であることを特徴とする細胞融合装置である。
【0028】
また本発明の細胞融合装置は、前記スペーサーが、細胞融合領域を形成する貫通孔を有することを特徴とする細胞融合装置である。
【0029】
また本発明の細胞融合装置は、前記スペーサーが、細胞を導入する導入流路および排出する排出流路を有することを特徴とする細胞融合装置である。
【0030】
本発明の細胞融合装置を用いた細胞融合方法は、上記記載の細胞融合装置を用いた細胞融合方法であって、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加して細胞融合することを特徴とする細胞融合方法である。
【0031】
また本発明の細胞融合装置を用いた細胞融合方法は、前記交流電圧の波形が上記記載の波形を有する交流電圧であることを特徴とする上記記載の細胞融合方法である。
【0032】
また本発明の細胞融合装置を用いた細胞融合方法は、前記第1の細胞と前記第2の細胞が微細孔表面の近傍で細胞融合する上記記載の細胞融合方法である。
【0033】
また本発明の細胞融合装置を用いた細胞融合方法は、前記第1の細胞の直径が、前記第2の細胞の直径よりも小さいことを特徴とする上記記載の細胞融合方法である。
【0034】
以下では、図を用いて本発明の細胞融合装置及び、それを用いた細胞融合方法をさらに詳細に説明する。
【0035】
本発明の細胞融合装置は、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が、前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、かつ前記微細孔の直径が、融合させる細胞の直径より小さいことを特徴とする細胞融合装置である。さらに、本発明の細胞融合装置に備える電源が、一対の電極に交流電圧を印加するための交流電源及び直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、交流電源と直流パルス電源とを切り換える切換機構を有する細胞融合装置である。
【0036】
図5に本発明の細胞融合装置の概念図を示す。本発明の細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。
【0037】
細胞融合容器は、図5に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、微細孔(9)を形成した絶縁体(8)を下部電極の細胞融合領域側に配置した構造を有する。上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であればとくに制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板などでもよいが、細胞融合を観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0038】
上部電極と下部電極の面積等の寸法には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。
【0039】
スペーサーは、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ細胞融合容器に細胞懸濁液を入れておくスペースを確保するための細胞融合領域を形成する貫通孔を有しているものであり、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等がある。またスペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路とそれに連通する導入口(19)と、細胞を排出する排出流路とそれに連通する排出口(20)が設けられていてもよい。スペーサーのサイズは上部電極と下部電極が接触しなければ特に制限はないが、前記電極に合わせたサイズが好ましい。例えば、電極サイズが縦70mm×横40mm程度であれば、スペーサーのサイズは例えば縦40mm×横40mm程度が好ましい。細胞融合領域(1)を形成するスペーサーの内側の空間と厚みも特に制限はないが、細胞懸濁液を例えば数μL〜数mL程度入れる容量があればよく、例えば、スペーサーのサイズが縦40mm×横40mm程度の場合、スペーサーの内側の空間は、縦20mm×横20mm程度であればよく、スペーサーの厚みは0.5〜2.0mm程度であればよい。
【0040】
絶縁体(8)には微細孔(9)が形成されている。絶縁体(8)の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔を形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体にUV硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。絶縁体に複数の微細孔を形成する場合は、絶縁体にUV硬化性樹脂を用いて、一般的なフォトリソグラフィーとエッチングによる方法で微細孔を形成することが好ましい。
【0041】
なお図6は、図5の細胞融合容器のAA’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(16)、絶縁体(8)、下部電極(15)を図6のように張り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で張り合わせたり、加圧した状態で過熱して融着させる方法や、スペーサーを表面粘着性のあるPDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような樹脂を用いて作製することで圧着することにより張り合わせる方法など、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図6に示した細胞融合領域(1)を形成することができる。
【0042】
細胞容器の上部電極と下部電極には導電線(3)を介して電源(4)が接続されている。電源(4)は交流電圧の波形を上部電極(14)と下部電極(15)の電極間に印加する交流電源と、細胞融合させるための直流パルス電圧を上部電極と下部電極の電極間に印加する直流パルス電源から構成されており、交流電源と直流パルス電源は、切換スイッチ(7)等の切換機構により適宜切り換えて使用することができる。
【0043】
また本発明の細胞融合装置は、前記した絶縁体に形成される複数の微細孔の中心位置が、前記絶縁体の水平面において、隣り合ういずれの微細孔の中心位置からも、微細孔の中心位置が同じ位置に形成されていること、例えば絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることが好ましい。
【0044】
図7には、絶縁体(8)に複数の微細孔(9)をアレイ状に形成した場合の本発明の細胞融合装置の概略図を示す。なお図8は、図7の細胞融合容器のBB’断面図を示した概略図である。
【0045】
ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じる。また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当となることがある。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。従ってより具体的には、微細孔の隣り合う間隔が、微細孔に入れ固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1〜2倍程度であることがより好ましい。ここで意味する細胞の直径とは、融合させる細胞の大きさが異なる場合は、小さい細胞の直径を意味する。
【0046】
以下では、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するための交流電圧の波形と微細孔の形状に関して説明する。
【0047】
本発明の細胞融合装置は、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するため、前記交流電源により前記電極間に印加する交流電圧の波形が、電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形である細胞融合装置であって、好ましくは、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形であり、例えば、前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形である波形であり、さらに好ましくは、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である波形の交流電圧を印加する電源からなる細胞融合装置である。
【0048】
また、本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の直径が融合させる細胞の直径より小さい細胞融合装置あり、さらに前記微細孔の隣り合う間隔が、固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲である細胞融合装置である。
【0049】
上記のような交流電圧の波形を用い、微細孔の形状とすることで、1つの微細孔につき1つの細胞を固定することができ、固定した細胞のさらに上からもう1つの細胞を固定し、2細胞一対を複数の微細孔で接触させることで、一度に複数の微細孔において、2細胞一対での細胞融合を行うことができる。
【0050】
本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返すことが可能であれば特に制限はなく、図9にこの態様の交流電圧の波形の一例を示す。図9の交流電圧の波形の半周期であるT/2ごとに前記細胞の充電と放電が繰り返される。なお図9の場合、半周期ごとに電圧の極性の正と負が反転するため、半周期ごとに前記細胞が充電されたときに電荷の極性が正と負に反転する。
【0051】
なお、本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、直流成分を有しないことが好ましい。これは、直流成分により発生した静電気力により細胞が特定の方向に偏った力を受けて移動するため誘電泳動力により細胞を微細孔に固定することが困難になること、また細胞を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となるためである。
【0052】
またより具体的には、本発明の細胞融合装置に用いる前記交流電圧の波形は、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形である。図9におけるS[s]は電圧が所定時間変化しない時間である。本発明では、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間S[s]が細胞の静電容量C[F]と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]以上であることが好ましいことから、S≧τ(=C×R)の関係であることが好ましい。
【0053】
なお、本発明における交流電圧の波形は図9に示す波形のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。例えば、交流電圧の波形が、矩形波(図10)、台形波(図11)、またはこれらを組み合わせた波形(図12)であってもよい。また、印加する電圧値や周波数は、細胞融合容器の電極間距離や、融合対象となる細胞の種類や大きさ、細胞を含有する細胞懸濁液の種類によって適切な値を設定すればよい。例えば、細胞融合容器の面積が2cm×2cm程度、電極間距離が1mm程度、融合対象の細胞が直径10μm程度の細胞、懸濁腋の成分が300mMのマンニトール水溶液の場合、直径10μm程度の細胞の静電容量は一般に1pF程度、面積2cm×2cm程度、電極間距離1mm程度の細胞融合容器に300mMのマンニトール水溶液を入れたときの抵抗値が5kΩ程度であることから、細胞の静電容量C[F]と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]は5nsとなる。従って電極間に印加する交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が少なくとも5nsだけ変化しない時間を半周期内に1以上有する交流電圧波形であることが好ましい。例えば、図10に示した矩形波交流電圧波形を用いた場合、Sの時間が5nsより長くなる、すなわち、周波数が100MHz(=1/(2×5ns))未満であることが好ましく、さらには電気的な取り扱いのしやすさや市販の信号発生器で容易に扱うことができることを考慮すると、周波数は1〜3MHz程度の矩形波交流電圧波形が好ましい。またこの場合の矩形波交流電圧波形の電圧は、微細孔に細胞を引き寄せるのに十分な誘電泳動力を発生させるため、10〜20Vpp程度であることが好ましい。なお、この例の条件の場合、微細孔に細胞が引き寄せられる時間は1〜5秒程度であり、瞬時に細胞を微細孔に固定することができる。
【0054】
次に、上記態様の交流電圧の波形と上記態様の微細孔を用いた場合に、1つの微細孔につき1つの細胞が固定される理由を図13〜図23を用いて説明する。
【0055】
図13〜図15には本発明の細胞融合装置において、微細孔に細胞が入る過程の概念図を示した。絶縁体(8)の厚みは細胞A′(44)及び細胞A′′(45)の直径より小さく、微細孔の内径も細胞A′及び細胞A′′の直径よりも小さい。また、図14に示すように微細孔A′(17)に細胞A′が入った後、図15に示すように微細孔A′′(21)に細胞A′′が入る場合を想定している。図16〜図18には、それぞれ図13〜図15を電気的な等価回路で表現した図を示した。細胞を含有する細胞懸濁液は抵抗(抵抗値:5kΩ)、細胞はコンデンサー(容量:1pF)で表現することができる。
【0056】
図19に示す、周波数f[Hz]の矩形波形の交流電圧を印加すると、図2〜図3に示した場合と同様に微細孔において電気力線の集中が生じることで細胞に対して誘電泳動力が発生し、細胞が微細孔に引き寄せられ、微微細孔A′に細胞A′が固定され細胞A′が微細孔A′を塞ぐ。なお細胞は誘電泳動力以外にも重力及び電極からの静電気力によっても微細孔に誘導される。細胞A′で塞がれた微細孔A′の部分は、図17に示すようにコンデンサーA(29)と電気的に等価となる。図19に示す電圧波形を印加した場合、図17のコンデンサーAにおける電圧波形を図20、電流波形を図21に示す。図20のようにコンデンサーAは細胞A′の容量C[F]と細胞を含む細胞懸濁液の抵抗値R[Ω]の積で求められる時定数τ[s](=C×R)の時間を要して充電される。
【0057】
なお、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上が好ましいことから、τ<1/2fを満たす周波数の矩形波交流電圧を用いる事が好ましい。コンデンサーAが充電されると電流は流れなくなるため、図21に示すように、コンデンサーAに流れる電流は、時定数τの時間だけパルス状に電流が流れるものの、その後は電流が流れなくなり絶縁体と電気的に等価になる。このため細胞A′の入った微細孔A′では、電気力線の集中が生じなくなり、微細孔A′が新たに細胞を引き寄せる確率は低くなる。一方、微細孔A′′には電気力線の集中が生じているため、細胞A′′が誘電泳動力により引き寄せられ微細孔A′′に細胞A′′が固定され細胞A′′が微細孔A′′を塞ぐ。これを繰り返すことにより、空の微細孔につぎつぎと細胞が入っていくことで、1つの微細孔に1つの細胞を固定することができる。
【0058】
微細孔の直径は細胞の直径より小さいことがより好ましい態様であるが、微細孔の直径が細胞の直径の1倍以上2倍未満であっても同等の効果は得られる。しかしながら、微細孔の直径が細胞の直径の2倍以上大きいと、細胞は微細孔を十分塞ぐことができず、電気力線の集中が発生し細胞が誘電泳動力により引き寄せられるため、1つの微細孔に2以上の細胞が入る確率が高くなる。従って、2以上の細胞を微細孔に固定した状態で細胞融合を行う場合は、微細孔の直径が微細孔に固定する細胞の直径よりも大きくてもよいが、1つの微細孔に1つの細胞を固定した状態で細胞融合を行う場合は、微細孔の平面形状の直径が細胞の直径より小さいことがより好ましい。ここで、融合させる2つの細胞の直径が異なる場合は、微細孔の平面形状の直径が細胞の直径より小さいとは、微細孔の直径が、小さい細胞の直径よりも小さいことを意味する。また、微細孔の最小径は、微細孔が前記絶縁体を貫通していれば特に制限はない。また、微細孔の深さにも特に制限はない。
【0059】
また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当である。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。従って具体的には、微細孔の間隔は、固定する細胞の直径の0.5倍から6倍程度の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1〜2倍程度であることがより好ましい。ここで意味する細胞の直径とは、融合させる細胞の大きさが異なる場合は、小さい細胞の直径を意味する。
【0060】
なお、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以下である場合、図17におけるコンデンサーAが十分充電されないため、コンデンサーAに電流が流れ続け、細胞A′が入った微細孔A′において引き続き電流が流れ電気力線の集中が生じる。よって、細胞A′′は細胞A′の入った微細孔A′に引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の細胞が固定される確率が高くなる。
【0061】
次に、図22に示す周波数f[Hz]の正弦波形の交流電圧を印加すると、図2〜図3に示した場合と同様に微細孔において電気力線の集中が生じることで細胞に対して誘電泳動力が発生し、細胞が誘電泳動力により微細孔に引き寄せられ、細胞A′が微細孔A′を塞ぐ。細胞A′が塞いだ微細孔A′の部分は、図17に示すようにコンデンサーAと等価となる。図22に示す電圧波形を印加した場合、コンデンサーAにおける電圧波形と電流波形を図23に示す。図23に示すように印加する交流電圧の波形が正弦波の場合は、正弦波の位相が90度すすむだけで、正弦波の波形は変化しないため、細胞A′が入った微細孔A′において引き続き電流が流れ、電気力線の集中が生じる。このため、細胞A′′は細胞A′の入った微細孔A′に引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の細胞が固定される確率が高くなる。従って、正弦波や三角波のように常に電圧が連続的に変化する交流電圧の波形では、複数の細胞が集中して固定される微細孔と、細胞が全く固定されない微細孔があり、1つの微細孔につき1つの細胞を固定することが難しい。なお、印加する電圧が直流の場合は、細胞を含有する細胞懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となる。
【0062】
以上の理由から、本発明の細胞融合装置は、前記交流電源により前記電極間に印加する交流電圧の波形が、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形であり、またより具体意的には、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形であり、例えば矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であって、さらに好ましくは、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である細胞融合装置であって、あって、絶縁体を貫通する微細孔の平面形状の直径は、微細孔に固定する細胞の直径より小さく、さらに複数の微細孔の隣り合う間隔が、固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲であることで、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔につき1つの細胞を固定することが可能となる。
【0063】
ところで、本発明の細胞融合方法では、1つの微細孔に第1の細胞を固定した後、固定した第1の細胞のさらに上から第2の細胞を固定する。第2の細胞には誘電泳動力、重力、及び第1の細胞の静電気力が作用し第1の細胞と接触する。しかしながら、前述した理由により、微細孔を第1の細胞が塞いでしまうため電流が流れにくくなることで電気力線の発生が抑制され、第2の細胞に作用する誘電泳動力が弱くなる。従って、第2の細胞を、微細孔に固定した第1の細胞に1つずつ接触させる確率が低下する。しかしながら、第2の細胞の濃度を第1の細胞の濃度よりも高くし、細胞融合領域に過剰に導入することで、第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げることが可能である。
【0064】
次に、図を用いて本発明における細胞融合方法に関してさらに詳細に説明する。
【0065】
本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合装置を用いた細胞融合方法であって、細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで微細孔内に第1の細胞を固定した後、細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加して細胞融合する細胞融合方法である。なお、前記交流電圧の波形は、上記記載の波形を有する交流電圧であることがより好ましい。
【0066】
ここで、本発明の細胞融合方法の概略図を図24に示す。図24には、いずれも第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さい例を示している。本発明の細胞融合方法は、第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さいことが好ましく、さらには、微細孔の直径が、細胞融合させる直径の異なる2細胞のうち、直径の小さい細胞の直径より小さいことが好ましい。このようにすることで、微細孔に細胞をより確実に固定することが可能となり、その後、第2の細胞を導入することで、2細胞一対での接触および細胞融合を効率的に行うことが可能となる。しかしながら、本質的には第1の細胞の直径が第2の細胞の直径と等しいか大きくてもよい。
【0067】
以下に本発明の細胞融合方法が好ましい理由を説明する。まず、第1の細胞(18)として、直径の小さい細胞を細胞懸濁液(34)とともに細胞融合領域(1)に導入し、前述した波形を有する交流電圧を印加して1つの微細孔(9)につき第1の細胞1つを固定する。この場合、第1の細胞は主に誘電泳動力、重力、電極からの静電気力によって微細孔に誘導され第1の細胞が微細孔に固定される。第1の細胞の数に特に制限はないが、第1の細胞を有効に使用することを考慮すると、微細孔の数と同等であることが好ましい。
【0068】
次に、第2の細胞(22)として、直径の大きい細胞を細胞懸濁液(34)とともに細胞融合領域(1)に導入する。このとき、第1の細胞(18)は誘電泳動力により微細孔に固定されているため、第2の細胞を送液することにより第1の細胞が微細孔から離脱することはほとんどない。導入された第2の細胞は、前述した波形を有する交流電圧(34)を印加することにより、微細孔に固定された第1の細胞の上から接触し固定される。この場合、第2の細胞には、微細孔での誘電泳動力も作用するが、主に重力、第1の細胞からの静電気力によって微細孔に固定された第1の細胞に誘導される。第2の細胞の数に特に制限はないが、第2の細胞を有効に使用することを考慮すると、微細孔の数と同等であることが好ましいが、微細孔の数よりも過剰に導入することで、第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げることが可能である。
【0069】
次に、電源を直流パルス電源(6)に切り換え、細胞融合を行うための直流パルス電圧を印加することで、微細孔において接触した第1の細胞と第2の細胞を2細胞一対で細胞融合させ、融合細胞(32)を得ることができ、効率的な2細胞一対での細胞融合が可能となる。
【0070】
ところで、微細孔では電気力線の集中が生じるため、微細孔付近の電界強度は、図25に示すように微細孔内の電極面の電界強度が最も高く、絶縁膜面からもう一方の電極に向けて次第に電界強度が弱くなる。図25は、一方の電極に任意の膜厚の絶縁膜に任意の直径と深さを有する微細孔を1個配置し、電極間に任意の電圧を印加した場合の電界強度を有限要素法を用いて計算した。縦軸が電界強度を最大の電界強度で正規化した値であり、横軸は電極間の位置である。横軸の原点に絶縁膜を配置した電極が存在している。絶縁膜面は図中の点線で示した位置に相当し、横軸の原点から点線までの範囲が絶縁膜厚に相当する。今回行った計算では、絶縁膜の材質や厚み、微細孔の大きさや深さにあまり大きく依存せず、図25に示すように微細孔表面の電界強度は、微細孔表面から離れるに従って小さくなる結果となった。
【0071】
一般に電気的細胞融合法は、前述したように、細胞融合させるための直流パルス電圧を印加することで細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層から構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われることで細胞融合させる。一般に細胞の直径が小さいほど細胞膜の可逆的乱れを生じさせる直流パルス電圧は高くなる。従って、直径の小さい細胞を第1の細胞として微細孔に入れ、直径の大きい細胞を第2の細胞として微細孔に固定された第1の細胞の上から固定すれば、印加する直流パルス電圧は同じでも、図25に示すように、電界強度は微細孔の表面から次第に小さくなるために、微細孔表面に固定された直径の小さい第1の細胞にはより高い電圧が印加され、第1の細胞の上に固定された直径の大きい第2の細胞には第1の細胞に印加される電圧よりも低い電圧が印加される。このようにすることで、直径の異なる細胞を細胞融合させる場合の細胞膜の可逆的乱れを生じさせる電圧の違いをある程度キャンセルすることが可能となる。
【0072】
また、前述したように微細孔に固定した第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げるため、第2の細胞の濃度を第1の細胞の濃度より高くし、細胞融合領域に過剰に導入した場合でも、図25に示すように、電界強度は微細孔近傍で最も高く、微細孔から離れるに従って小さくなっていくため、直流パルス電圧を適切に調整することで、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみの細胞膜が可逆的乱れを生じ細胞融合する。従って、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみを選択的に細胞融合させることが可能となる。
【発明の効果】
【0073】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の細胞融合装置は、微細孔を形成した絶縁体を細胞融合領域側のどちらか一方の電極面上に配置することで、微細孔に細胞を確実に固定し、微細孔近傍にある2細胞一対を選択的に細胞融合させることができ、2細胞一対での細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
(3)本発明の細胞融合装置は、微細孔の平面形状の直径が、微細孔に固定する細胞の直径より小さく、このようにすることで、微細孔に確実に細胞を固定することができる。
(4)本発明の細胞融合装置は、微細孔が絶縁体上に複数個、アレイ状に形成されており、このようにすることで、複数の微細孔に固定した2細胞一対の細胞を同時に細胞融合させることが可能となり、2細胞一対での細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
(5)本発明の細胞融合装置においては、微細孔の隣り合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲であり、このようにすることで、1つの微細孔に1つの細胞を固定する確率を高めることができ、微細孔において2細胞を一対で接触させる確率を上げることが可能になる。
(6)本発明の細胞融合装置においては、交流電源により電極間に印加する交流電圧の波形を制御することで、1つの微細孔に1つの細胞を固定することが可能となる。
(7)本発明の細胞融合方法においては、上記記載の細胞融合装置を用いた細胞融合方法であって、細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加して細胞融合する細胞融合方法であり、前記交流電圧は、前述した波形を有する交流電圧であることが好ましく、また、第1の細胞と第2の細胞が微細孔表面の近傍で細胞融合するものであり、このようにすることで、微細孔近傍にある2細胞一対を選択的に細胞融合させることができ、2細胞一対での細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
(8)本発明の細胞融合方法においては、第1の細胞の直径が、第2の細胞の直径よりも小さいものを用いるものであり、このようにすることで、直径の異なる細胞を細胞融合させる場合の細胞膜の可逆的乱れを生じさせる電圧の違いをある程度キャンセルすることが可能となる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
(実施例1)
図7に実施例1に用いた細胞融合装置の概念図を示す。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。細胞融合容器は、図7に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお、実施例2では、後述するように一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより、下部電極(15)と複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体を一体形成した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を用いた。
【0075】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、図7に示すように、細胞が含有した細胞懸濁液を導入、排出するための導入口(19)と排出口(20)を設けた。複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、図26に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0076】
まずはじめに、ITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を2.5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、45分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(80℃、15分)を行った。レジストにはキシレン系のネガタイプレジストを用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ4.5μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい2.5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行いレジストを固めた。このようにして作製した上部電極(14)、スペーサー(16)、微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を図8のように積層し圧着した。図8は、図7に示した細胞融合容器のBB’断面図である。シリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、細胞を含有した細胞懸濁液を漏れなく細胞融合容器の中に入れることができた。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。また、電極間に電圧を印加する電源は、交流電源として信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)、直流パルス電源として細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を導電線(3)を介して接続し、交流電源と直流パルス電源は切換スイッチにより電極への接続を切り換えられるようにした。
【0077】
細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞を300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mMの塩化カルシウム、0.1mMの塩化マグネシウムを添加した。
【0078】
まずはじめに、上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ、1つのマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1つのマウス抗体産生細胞が入る確率は45%であった。
【0079】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ、1つのマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1つのマウスミエローマ細胞が入る確率は55%であった。マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確立は、約25%(=45%×55%)であると推定される。
【0080】
次に、電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切り換えて、電極間に電圧60V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、40個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して1.6/10000の融合確率を得られた。これは、比較例1に示した通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の8倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での細胞融合を確認することができた。
【0081】
(比較例1)
比較例1として、通常の電気的細胞融合を行った。電気的細胞融合を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0082】
細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を4:1で混合し、両方の細胞を300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、1.7×107個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mMの塩化カルシウム、0.1mMの塩化マグネシウムを添加した。
【0083】
上記細胞懸濁液40μL(マウス抗体産生細胞数:約60万個、マウスミエローマ細胞数:15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、電圧20Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し細胞パールチェーンの形成を確認後、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、12個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.2/10000の融合確率を得られた。
【0084】
(比較例2)
図27に比較例2に用いた細胞融合装置の概念図を示す。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。細胞融合容器は、図27に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を2枚配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)を2枚のスペーサー間に挟んだ構造を有する。上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、図27に示すように、細胞が含有した細胞懸濁液を導入、排出するための導入口(19)と排出口(20)を設けた。複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、縦40mm×横40mm×膜厚25μmのポリイミドフィルムに、フォトリソグラフィーとエッチングによる方法により、中央の縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が50μmで、縦300個×横300個のアレイ状に並べた直径φ20μmの微細孔を形成し製作した。
【0085】
このようにして作製した上部電極(14)、スペーサー(16)、複数の微細孔を形成した絶縁体(8)、下部電極(15)を図27のように積層し圧着した。図29は、図27に示した細胞融合容器のCC’断面図である。シリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、細胞を含有した細胞懸濁液を漏れなく細胞融合容器の中に入れることができた。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約4万個である。また、電極間に電圧を印加する電源は、交流電源として信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)、直流パルス電源として細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を導電線(3)を介して接続し、交流電源と直流パルス電源は切換スイッチにより電極への接続を切り換えられるようにした。
【0086】
細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞を300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mMの塩化カルシウム、0.1mMの塩化マグネシウムを添加した。
【0087】
まずはじめに、上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、信号発生器により電圧15Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した微細孔にマウス抗体産生細胞を固定することがでた。ただし、1つの微細孔に複数のマウス抗体産生細胞が固定されている微細孔や、マウス抗体産生細胞が全く固定されていない微細孔があり、複数の微細孔1つずつに1つのマウス抗体産生細胞が固定されている微細孔はほとんど確認できなかった。
【0088】
続いて、交流電源により電圧15Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入したところ、先に微細孔に固定されていたマウス抗体産生細胞が微細孔からほとんど脱離してしまい、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を微細孔において細胞融合させることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。
【図2】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第1の図である。
【図3】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第2の図である。
【図4】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第3の図である。
【図5】本発明の細胞融合装置の一例を示す概念図である。
【図6】図5に示した細胞融合容器のAA’断面図である。
【図7】本発明の細胞融合装置の一例及び、実施例2で用いた細胞融合装置の概念図である。
【図8】図7に示した細胞融合容器のBB’断面図である。
【図9】本発明に用いる交流電圧の波形の一例である。
【図10】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波を示した図である。
【図11】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、台形波を示した図である。
【図12】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波と台形波を組み合わせた波形を示した図である。
【図13】本発明の細胞操作方法を説明する第1の図である。
【図14】本発明の細胞操作方法を説明する第2の図である。
【図15】本発明の細胞操作方法を説明する第3の図である。
【図16】図13を電気的な等価回路で表した図である。
【図17】図14を電気的な等価回路で表した図である。
【図18】図15を電気的な等価回路で表した図である。
【図19】周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を示す図である。
【図20】図19に示した周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図17のコンデンサーAにおける電圧波形を示す図である。
【図21】図19に示した周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図17のコンデンサーAにおける電流波形を示す図である。
【図22】周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を示す図である。
【図23】図22に示した周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図17のコンデンサーAにおける電圧波形または電流波形を示す図である。
【図24】本発明の細胞融合方法の例を示す図である。
【図25】微細孔近傍の電界強度を示した図である。
【図26】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法の概略図である。
【図27】本発明の比較例2で用いた細胞融合装置の概念図である。
【図28】図27に示した細胞融合容器のCC’断面図である。
【図29】微細孔の直径が2つの細胞よりの直径よりも大きい場合の例を示す概念図である。
【図30】微細孔の直径が2つの細胞よりの直径よりも小さい場合の例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0090】
1:細胞融合領域
2:電極
3:導電線
4:電源
5:交流電源
6:直流パルス電源
7:切換スイッチ
8:絶縁体
9:微細孔
10:細胞A
11:細胞B
12:電気力線
13:細胞融合容器
14:上部電極
15:下部電極
16:スペーサー
17:微細孔A′
18:第1の細胞
19:導入口
20:排出口
21:微細孔A′′
22:第2の細胞
23:ITO
24:パイレックス(登録商標)ガラス
25:レジスト
26:露光用フォトマスク
27:露光
28:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
29:コンデンサーA
30:コンデンサーB
31:抵抗
32:融合細胞
33:現像液
34:細胞懸濁液
35:隔壁
36:導電線
37:電源
38:絶縁体
39:微細孔
40:細胞融合容器
41:上部電極
42:下部電極
43:スペーサー
44:細胞A′
45:細胞A′′
46:導入口
47:排出口
48:細胞融合領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞融合を効率的に行うための細胞融合装置とそれを用いた細胞融合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異なる細胞同士を融合させ1つの交雑細胞とする細胞融合技術として、主にポリエチレングリコール(PEG)を用いる化学的融合法が用いられているが、この方法では(i)PEGは細胞に対して強い毒性を持っている、(ii)融合するにあたりPEGの重合度、添加量などの最適な諸条件を見出すのに手間がかかる、(iii)融合に際して高度な技術が要求され、特定の技術に習熟した人にしか使えない、(iv)2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の制御が困難なため細胞融合確率が極めて低い、等の解決すべき課題があった。
【0003】
これに対して、電気的細胞融合法は、高度な技術が不要で、簡単に効率よく融合させることができ、細胞に与える毒性がほとんどなく、高活性をもったままの状態で細胞を融合させることができるという利点がある。電気的細胞融合法は、1981年西ドイツのZimmermannが確立したものであり、その原理は次の通りである。すなわち、平行電極間に交流電圧を印加し、そこに細胞を導入すると、細胞は電流密度の高い方へ引き寄せられ数珠状にならぶ。なお、細胞が数珠状にならんだ状態を一般にパールチェーンと呼ぶ。この状態で数μsec〜数十μsec単位の直流パルス電圧を電極間に印加することにより細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層により構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われ、その結果細胞融合が起こるものである。
【0004】
上記の電気的融合法には、主に微小電極法と平行電極法が用いられている。このうち微小電極法は、2細胞一対の融合を顕微鏡で観察しながらマイクロマニュピレーターで細胞を拾い集めては直流パルス電圧を印加する方法であり、極めて確実であり、微小電極法に用いる電極の例も報告されている(例えば、特許文献1参照)が、手間のかかる方法であり、その操作は熟練を要す上、大量の細胞を扱う上では実用的とはいえなかった。また平行電極法は、誘電泳動により複数の細胞を数珠状に配列形成させた後、直流パルス電圧を印加することによって融合させる方法であり、その取り扱いは簡単であるが、数珠状になった複数の細胞が融合するため化学的融合法と同様に2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の確実な制御が難しいという課題があった。
【0005】
上記平行電極法の課題を解決するために、細胞融合用チャンバーの細胞融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、且つ前記一対の電極方向に貫通した微細孔を有する絶縁体とよりなる細胞融合用チャンバーの例が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
図1は上記例の細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。図1において、例えば樹脂材からなる細胞融合用チャンバーの細胞融合領域(1)の両側には、導電部材からなる電極(2)が配置され、これら電極は導電線(3)を介して外部に設けられた電源(4)と接続されている。外部に設けられた電源は電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHz程度の高周波交流電圧を出力する交流電源(5)と、約7kV/cm、パルス幅50μsec程度の直流パルス電圧を出力する直流パルス電源(6)と、電極と交流電源又は直流パルス電源の電気的接続を切り換える為の切換機構を有する切換スイッチ(7)とから構成されている。
【0007】
ここで、交流電源から出力する交流電圧の波形は、特に断りがない限りは一般に正弦波の波形を用いる。細胞融合用チャンバーは、電気的に絶縁な材料、例えばシリコーン樹脂からなる隔壁(35)により2つの空間に区分けされている。ここで、絶縁体には最小口径が1μm〜数十μmの微細孔(9)が設けられている。また、細胞A(10)及び細胞B(11)はそれぞれ細胞融合用チャンバーの細胞融合領域内の細胞懸濁液内におかれている。
【0008】
上記例の動作を図2〜図4を用いて説明する。最初に、電源(4)の切換スイッチ(7)を電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHzの高周波電圧を出力する交流電源(5)に接続させる。この状態において電気力線(12)は、図2に示すように微細孔(9)に集中する。細胞A(10)および細胞B(11)は、ここに集中する電気力線(12)のため誘電泳動力を受け、図3に示すように微細孔(9)の中心付近に固定される。ここで細胞A(10)と細胞B(11)は出会い接触する。次に、電源(4)の切換スイッチ(7)を直流パルス電源(6)に切り換える。図3に示した状態におかれた細胞A(10)及び細胞B(11)は、直流パルス電圧により細胞A(10)および細胞B(11)の接触点で細胞膜の可逆的破壊が起こり、図4に示すように融合が生ずる。このようにすることで、微細孔において細胞Aと細胞Bを2細胞一対で細胞融合させることができる。
【0009】
しかしながら、前記特許文献2に記載された細胞融合用チャンバーを用いて細胞融合を行う方法は、微細孔の直径が細胞Aの直径より大きくかつ細胞Bの直径より大きい場合、それぞれの細胞が微細孔にトラップされ接触する際に、図29に示すように、電気力線の向きと同一方向に細胞Aと細胞Bが接触する確率が減るため、細胞融合の確率が低くなるという課題があった。また、逆に微細孔の直径が細胞Aの直径より小さくかつ細胞Bの直径より小さい場合、両方の細胞は微細孔にトラップされ接触し融合されるが、融合後、図30に示すように微細孔から細胞が外れなくなり、微細孔から細胞を取り出すことができなくなる上、無理に取り出そうとすると、融合した細胞が壊れてしまうという課題があった。
【0010】
さらに、前記特許文献2に記載された細胞融合用チャンバーを用いて細胞融合を行う方法は、前記微細孔において2細胞一対を同時に固定することが難しいという課題があった。例えば、細胞Aを微細孔に入れた後、さらに細胞Bを微細孔に入れるために細胞融合用チャンバー内に細胞Bを含有する細胞懸濁液を導入すると、導入する際の送液により、あらかじめ微細孔に固定しておいた細胞Aが微細孔から脱離してしまう。また、細胞Aと細胞Bを同時に微細孔に固定するには細胞懸濁液の送液に熟練を要し非常に困難であった。さらに、前記特許文献2に記載された方法により複数の細胞を同時に細胞融合させる場合、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に、2細胞を一対ずつ固定する必要がある。
【0011】
ここでアレイ状とは、複数の微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。しかしながら、交流電源を接続して細胞を微細孔に固定する際に、複数の細胞が集中して固定される微細孔や、細胞が全く固定されない微細孔があり、複数のアレイ状に形成された微細孔で目的とする2細胞一対の細胞融合を行うことが非常に難しいという課題があった。
【0012】
一方、アレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ細胞を固定する方法の例が報告されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3記載の方法は、微細孔(特許文献3では、マイクロウエルと記載されている)の内径と深さがそれぞれ細胞(特許文献3では、被検体リンパ球と記載されている)の直径の1〜2倍の大きさの複数の微細孔に、複数の細胞を含む液を微細孔を覆うように加え、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と、微細孔外の細胞を洗い流す洗浄の過程を繰り返し行うことで1つの微細孔に1つの細胞を固定している。
【0013】
しかしながら、前記特許文献3に記載された方法により1つの微細孔に1つの細胞を固定する方法は、重力により細胞が沈むのを待つ時間が5分程度と長いこと、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と微細孔外の細胞を洗い流す洗浄過程を繰り返す必要があり操作が煩雑な上さらに時間を要すること、微細孔に入らなかった細胞を洗い流す過程で細胞が失われる可能性があるため、細胞すべてを有効に使用することが難しいという課題があった。一般に、細胞融合を行う場合は、細胞の活性を維持するためにその処理時間はできる限り短いことが好ましく、また、細胞1つ1つが持つ特異性を見出すためには、できる限り細胞の喪失がないことが好ましい。
【0014】
【特許文献1】特公平7−40914号公報
【特許文献2】特公平7−4218号公報
【特許文献3】特許第3723882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、電気的細胞融合において、2細胞一対での細胞融合をより効率的により確実に実施できる新規な細胞融合用チャンバーまたは細胞融合装置と、それらを用いた細胞融合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記課題を解決する手段として、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、前記絶縁体が、前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、かつ前記微細孔の直径が、融合させる細胞の直径より小さいことを特徴とする細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記交流電圧の波形が前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形であり、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、前記波形を有する交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記波形を有する交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、前記直流パルス電圧を印加して細胞融合する細胞融合方法を用いることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の細胞融合装置は、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が、前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、かつ前記微細孔の直径が、融合させる細胞の直径より小さいことを特徴とする細胞融合装置である。
【0018】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源が、前記一対の電極に交流電圧を印加するための交流電源及び直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、前記交流電源と前記直流パルス電源とを切り換える切換機構を有することを特徴とする細胞融合装置である。
【0019】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体に形成される微細孔が、1つの微細孔につき1つの細胞を固定できる形状であることを特徴とする細胞融合装置である。
【0020】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源により、1つの微細孔につき1つの細胞を微細孔に固定する波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする細胞融合装置である。
【0021】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする細胞融合装置である。
【0022】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であることを特徴とする細胞融合装置である。
【0023】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であることを特徴とする細胞融合装置である。
【0024】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上であることを特徴とする細胞融合装置である。
【0025】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体に形成される微細孔の中心位置が、前記絶縁体の水平面において、隣り合ういずれの微細孔の中心位置からも、微細孔の中心位置が同じ位置に形成されていることを特徴とする細胞融合装置である。
【0026】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることを特徴とする細胞融合装置である。
【0027】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍以下であることを特徴とする細胞融合装置である。
【0028】
また本発明の細胞融合装置は、前記スペーサーが、細胞融合領域を形成する貫通孔を有することを特徴とする細胞融合装置である。
【0029】
また本発明の細胞融合装置は、前記スペーサーが、細胞を導入する導入流路および排出する排出流路を有することを特徴とする細胞融合装置である。
【0030】
本発明の細胞融合装置を用いた細胞融合方法は、上記記載の細胞融合装置を用いた細胞融合方法であって、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加して細胞融合することを特徴とする細胞融合方法である。
【0031】
また本発明の細胞融合装置を用いた細胞融合方法は、前記交流電圧の波形が上記記載の波形を有する交流電圧であることを特徴とする上記記載の細胞融合方法である。
【0032】
また本発明の細胞融合装置を用いた細胞融合方法は、前記第1の細胞と前記第2の細胞が微細孔表面の近傍で細胞融合する上記記載の細胞融合方法である。
【0033】
また本発明の細胞融合装置を用いた細胞融合方法は、前記第1の細胞の直径が、前記第2の細胞の直径よりも小さいことを特徴とする上記記載の細胞融合方法である。
【0034】
以下では、図を用いて本発明の細胞融合装置及び、それを用いた細胞融合方法をさらに詳細に説明する。
【0035】
本発明の細胞融合装置は、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が、前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、かつ前記微細孔の直径が、融合させる細胞の直径より小さいことを特徴とする細胞融合装置である。さらに、本発明の細胞融合装置に備える電源が、一対の電極に交流電圧を印加するための交流電源及び直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、交流電源と直流パルス電源とを切り換える切換機構を有する細胞融合装置である。
【0036】
図5に本発明の細胞融合装置の概念図を示す。本発明の細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。
【0037】
細胞融合容器は、図5に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、微細孔(9)を形成した絶縁体(8)を下部電極の細胞融合領域側に配置した構造を有する。上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であればとくに制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板などでもよいが、細胞融合を観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0038】
上部電極と下部電極の面積等の寸法には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。
【0039】
スペーサーは、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ細胞融合容器に細胞懸濁液を入れておくスペースを確保するための細胞融合領域を形成する貫通孔を有しているものであり、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等がある。またスペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路とそれに連通する導入口(19)と、細胞を排出する排出流路とそれに連通する排出口(20)が設けられていてもよい。スペーサーのサイズは上部電極と下部電極が接触しなければ特に制限はないが、前記電極に合わせたサイズが好ましい。例えば、電極サイズが縦70mm×横40mm程度であれば、スペーサーのサイズは例えば縦40mm×横40mm程度が好ましい。細胞融合領域(1)を形成するスペーサーの内側の空間と厚みも特に制限はないが、細胞懸濁液を例えば数μL〜数mL程度入れる容量があればよく、例えば、スペーサーのサイズが縦40mm×横40mm程度の場合、スペーサーの内側の空間は、縦20mm×横20mm程度であればよく、スペーサーの厚みは0.5〜2.0mm程度であればよい。
【0040】
絶縁体(8)には微細孔(9)が形成されている。絶縁体(8)の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔を形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体にUV硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。絶縁体に複数の微細孔を形成する場合は、絶縁体にUV硬化性樹脂を用いて、一般的なフォトリソグラフィーとエッチングによる方法で微細孔を形成することが好ましい。
【0041】
なお図6は、図5の細胞融合容器のAA’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(16)、絶縁体(8)、下部電極(15)を図6のように張り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で張り合わせたり、加圧した状態で過熱して融着させる方法や、スペーサーを表面粘着性のあるPDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような樹脂を用いて作製することで圧着することにより張り合わせる方法など、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図6に示した細胞融合領域(1)を形成することができる。
【0042】
細胞容器の上部電極と下部電極には導電線(3)を介して電源(4)が接続されている。電源(4)は交流電圧の波形を上部電極(14)と下部電極(15)の電極間に印加する交流電源と、細胞融合させるための直流パルス電圧を上部電極と下部電極の電極間に印加する直流パルス電源から構成されており、交流電源と直流パルス電源は、切換スイッチ(7)等の切換機構により適宜切り換えて使用することができる。
【0043】
また本発明の細胞融合装置は、前記した絶縁体に形成される複数の微細孔の中心位置が、前記絶縁体の水平面において、隣り合ういずれの微細孔の中心位置からも、微細孔の中心位置が同じ位置に形成されていること、例えば絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることが好ましい。
【0044】
図7には、絶縁体(8)に複数の微細孔(9)をアレイ状に形成した場合の本発明の細胞融合装置の概略図を示す。なお図8は、図7の細胞融合容器のBB’断面図を示した概略図である。
【0045】
ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じる。また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当となることがある。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。従ってより具体的には、微細孔の隣り合う間隔が、微細孔に入れ固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1〜2倍程度であることがより好ましい。ここで意味する細胞の直径とは、融合させる細胞の大きさが異なる場合は、小さい細胞の直径を意味する。
【0046】
以下では、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するための交流電圧の波形と微細孔の形状に関して説明する。
【0047】
本発明の細胞融合装置は、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するため、前記交流電源により前記電極間に印加する交流電圧の波形が、電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形である細胞融合装置であって、好ましくは、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形であり、例えば、前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形である波形であり、さらに好ましくは、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である波形の交流電圧を印加する電源からなる細胞融合装置である。
【0048】
また、本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の直径が融合させる細胞の直径より小さい細胞融合装置あり、さらに前記微細孔の隣り合う間隔が、固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲である細胞融合装置である。
【0049】
上記のような交流電圧の波形を用い、微細孔の形状とすることで、1つの微細孔につき1つの細胞を固定することができ、固定した細胞のさらに上からもう1つの細胞を固定し、2細胞一対を複数の微細孔で接触させることで、一度に複数の微細孔において、2細胞一対での細胞融合を行うことができる。
【0050】
本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返すことが可能であれば特に制限はなく、図9にこの態様の交流電圧の波形の一例を示す。図9の交流電圧の波形の半周期であるT/2ごとに前記細胞の充電と放電が繰り返される。なお図9の場合、半周期ごとに電圧の極性の正と負が反転するため、半周期ごとに前記細胞が充電されたときに電荷の極性が正と負に反転する。
【0051】
なお、本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、直流成分を有しないことが好ましい。これは、直流成分により発生した静電気力により細胞が特定の方向に偏った力を受けて移動するため誘電泳動力により細胞を微細孔に固定することが困難になること、また細胞を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となるためである。
【0052】
またより具体的には、本発明の細胞融合装置に用いる前記交流電圧の波形は、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形である。図9におけるS[s]は電圧が所定時間変化しない時間である。本発明では、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間S[s]が細胞の静電容量C[F]と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]以上であることが好ましいことから、S≧τ(=C×R)の関係であることが好ましい。
【0053】
なお、本発明における交流電圧の波形は図9に示す波形のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。例えば、交流電圧の波形が、矩形波(図10)、台形波(図11)、またはこれらを組み合わせた波形(図12)であってもよい。また、印加する電圧値や周波数は、細胞融合容器の電極間距離や、融合対象となる細胞の種類や大きさ、細胞を含有する細胞懸濁液の種類によって適切な値を設定すればよい。例えば、細胞融合容器の面積が2cm×2cm程度、電極間距離が1mm程度、融合対象の細胞が直径10μm程度の細胞、懸濁腋の成分が300mMのマンニトール水溶液の場合、直径10μm程度の細胞の静電容量は一般に1pF程度、面積2cm×2cm程度、電極間距離1mm程度の細胞融合容器に300mMのマンニトール水溶液を入れたときの抵抗値が5kΩ程度であることから、細胞の静電容量C[F]と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]は5nsとなる。従って電極間に印加する交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が少なくとも5nsだけ変化しない時間を半周期内に1以上有する交流電圧波形であることが好ましい。例えば、図10に示した矩形波交流電圧波形を用いた場合、Sの時間が5nsより長くなる、すなわち、周波数が100MHz(=1/(2×5ns))未満であることが好ましく、さらには電気的な取り扱いのしやすさや市販の信号発生器で容易に扱うことができることを考慮すると、周波数は1〜3MHz程度の矩形波交流電圧波形が好ましい。またこの場合の矩形波交流電圧波形の電圧は、微細孔に細胞を引き寄せるのに十分な誘電泳動力を発生させるため、10〜20Vpp程度であることが好ましい。なお、この例の条件の場合、微細孔に細胞が引き寄せられる時間は1〜5秒程度であり、瞬時に細胞を微細孔に固定することができる。
【0054】
次に、上記態様の交流電圧の波形と上記態様の微細孔を用いた場合に、1つの微細孔につき1つの細胞が固定される理由を図13〜図23を用いて説明する。
【0055】
図13〜図15には本発明の細胞融合装置において、微細孔に細胞が入る過程の概念図を示した。絶縁体(8)の厚みは細胞A′(44)及び細胞A′′(45)の直径より小さく、微細孔の内径も細胞A′及び細胞A′′の直径よりも小さい。また、図14に示すように微細孔A′(17)に細胞A′が入った後、図15に示すように微細孔A′′(21)に細胞A′′が入る場合を想定している。図16〜図18には、それぞれ図13〜図15を電気的な等価回路で表現した図を示した。細胞を含有する細胞懸濁液は抵抗(抵抗値:5kΩ)、細胞はコンデンサー(容量:1pF)で表現することができる。
【0056】
図19に示す、周波数f[Hz]の矩形波形の交流電圧を印加すると、図2〜図3に示した場合と同様に微細孔において電気力線の集中が生じることで細胞に対して誘電泳動力が発生し、細胞が微細孔に引き寄せられ、微微細孔A′に細胞A′が固定され細胞A′が微細孔A′を塞ぐ。なお細胞は誘電泳動力以外にも重力及び電極からの静電気力によっても微細孔に誘導される。細胞A′で塞がれた微細孔A′の部分は、図17に示すようにコンデンサーA(29)と電気的に等価となる。図19に示す電圧波形を印加した場合、図17のコンデンサーAにおける電圧波形を図20、電流波形を図21に示す。図20のようにコンデンサーAは細胞A′の容量C[F]と細胞を含む細胞懸濁液の抵抗値R[Ω]の積で求められる時定数τ[s](=C×R)の時間を要して充電される。
【0057】
なお、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上が好ましいことから、τ<1/2fを満たす周波数の矩形波交流電圧を用いる事が好ましい。コンデンサーAが充電されると電流は流れなくなるため、図21に示すように、コンデンサーAに流れる電流は、時定数τの時間だけパルス状に電流が流れるものの、その後は電流が流れなくなり絶縁体と電気的に等価になる。このため細胞A′の入った微細孔A′では、電気力線の集中が生じなくなり、微細孔A′が新たに細胞を引き寄せる確率は低くなる。一方、微細孔A′′には電気力線の集中が生じているため、細胞A′′が誘電泳動力により引き寄せられ微細孔A′′に細胞A′′が固定され細胞A′′が微細孔A′′を塞ぐ。これを繰り返すことにより、空の微細孔につぎつぎと細胞が入っていくことで、1つの微細孔に1つの細胞を固定することができる。
【0058】
微細孔の直径は細胞の直径より小さいことがより好ましい態様であるが、微細孔の直径が細胞の直径の1倍以上2倍未満であっても同等の効果は得られる。しかしながら、微細孔の直径が細胞の直径の2倍以上大きいと、細胞は微細孔を十分塞ぐことができず、電気力線の集中が発生し細胞が誘電泳動力により引き寄せられるため、1つの微細孔に2以上の細胞が入る確率が高くなる。従って、2以上の細胞を微細孔に固定した状態で細胞融合を行う場合は、微細孔の直径が微細孔に固定する細胞の直径よりも大きくてもよいが、1つの微細孔に1つの細胞を固定した状態で細胞融合を行う場合は、微細孔の平面形状の直径が細胞の直径より小さいことがより好ましい。ここで、融合させる2つの細胞の直径が異なる場合は、微細孔の平面形状の直径が細胞の直径より小さいとは、微細孔の直径が、小さい細胞の直径よりも小さいことを意味する。また、微細孔の最小径は、微細孔が前記絶縁体を貫通していれば特に制限はない。また、微細孔の深さにも特に制限はない。
【0059】
また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当である。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。従って具体的には、微細孔の間隔は、固定する細胞の直径の0.5倍から6倍程度の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1〜2倍程度であることがより好ましい。ここで意味する細胞の直径とは、融合させる細胞の大きさが異なる場合は、小さい細胞の直径を意味する。
【0060】
なお、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以下である場合、図17におけるコンデンサーAが十分充電されないため、コンデンサーAに電流が流れ続け、細胞A′が入った微細孔A′において引き続き電流が流れ電気力線の集中が生じる。よって、細胞A′′は細胞A′の入った微細孔A′に引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の細胞が固定される確率が高くなる。
【0061】
次に、図22に示す周波数f[Hz]の正弦波形の交流電圧を印加すると、図2〜図3に示した場合と同様に微細孔において電気力線の集中が生じることで細胞に対して誘電泳動力が発生し、細胞が誘電泳動力により微細孔に引き寄せられ、細胞A′が微細孔A′を塞ぐ。細胞A′が塞いだ微細孔A′の部分は、図17に示すようにコンデンサーAと等価となる。図22に示す電圧波形を印加した場合、コンデンサーAにおける電圧波形と電流波形を図23に示す。図23に示すように印加する交流電圧の波形が正弦波の場合は、正弦波の位相が90度すすむだけで、正弦波の波形は変化しないため、細胞A′が入った微細孔A′において引き続き電流が流れ、電気力線の集中が生じる。このため、細胞A′′は細胞A′の入った微細孔A′に引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の細胞が固定される確率が高くなる。従って、正弦波や三角波のように常に電圧が連続的に変化する交流電圧の波形では、複数の細胞が集中して固定される微細孔と、細胞が全く固定されない微細孔があり、1つの微細孔につき1つの細胞を固定することが難しい。なお、印加する電圧が直流の場合は、細胞を含有する細胞懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となる。
【0062】
以上の理由から、本発明の細胞融合装置は、前記交流電源により前記電極間に印加する交流電圧の波形が、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形であり、またより具体意的には、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形であり、例えば矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であって、さらに好ましくは、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である細胞融合装置であって、あって、絶縁体を貫通する微細孔の平面形状の直径は、微細孔に固定する細胞の直径より小さく、さらに複数の微細孔の隣り合う間隔が、固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲であることで、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔につき1つの細胞を固定することが可能となる。
【0063】
ところで、本発明の細胞融合方法では、1つの微細孔に第1の細胞を固定した後、固定した第1の細胞のさらに上から第2の細胞を固定する。第2の細胞には誘電泳動力、重力、及び第1の細胞の静電気力が作用し第1の細胞と接触する。しかしながら、前述した理由により、微細孔を第1の細胞が塞いでしまうため電流が流れにくくなることで電気力線の発生が抑制され、第2の細胞に作用する誘電泳動力が弱くなる。従って、第2の細胞を、微細孔に固定した第1の細胞に1つずつ接触させる確率が低下する。しかしながら、第2の細胞の濃度を第1の細胞の濃度よりも高くし、細胞融合領域に過剰に導入することで、第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げることが可能である。
【0064】
次に、図を用いて本発明における細胞融合方法に関してさらに詳細に説明する。
【0065】
本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合装置を用いた細胞融合方法であって、細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで微細孔内に第1の細胞を固定した後、細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加して細胞融合する細胞融合方法である。なお、前記交流電圧の波形は、上記記載の波形を有する交流電圧であることがより好ましい。
【0066】
ここで、本発明の細胞融合方法の概略図を図24に示す。図24には、いずれも第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さい例を示している。本発明の細胞融合方法は、第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さいことが好ましく、さらには、微細孔の直径が、細胞融合させる直径の異なる2細胞のうち、直径の小さい細胞の直径より小さいことが好ましい。このようにすることで、微細孔に細胞をより確実に固定することが可能となり、その後、第2の細胞を導入することで、2細胞一対での接触および細胞融合を効率的に行うことが可能となる。しかしながら、本質的には第1の細胞の直径が第2の細胞の直径と等しいか大きくてもよい。
【0067】
以下に本発明の細胞融合方法が好ましい理由を説明する。まず、第1の細胞(18)として、直径の小さい細胞を細胞懸濁液(34)とともに細胞融合領域(1)に導入し、前述した波形を有する交流電圧を印加して1つの微細孔(9)につき第1の細胞1つを固定する。この場合、第1の細胞は主に誘電泳動力、重力、電極からの静電気力によって微細孔に誘導され第1の細胞が微細孔に固定される。第1の細胞の数に特に制限はないが、第1の細胞を有効に使用することを考慮すると、微細孔の数と同等であることが好ましい。
【0068】
次に、第2の細胞(22)として、直径の大きい細胞を細胞懸濁液(34)とともに細胞融合領域(1)に導入する。このとき、第1の細胞(18)は誘電泳動力により微細孔に固定されているため、第2の細胞を送液することにより第1の細胞が微細孔から離脱することはほとんどない。導入された第2の細胞は、前述した波形を有する交流電圧(34)を印加することにより、微細孔に固定された第1の細胞の上から接触し固定される。この場合、第2の細胞には、微細孔での誘電泳動力も作用するが、主に重力、第1の細胞からの静電気力によって微細孔に固定された第1の細胞に誘導される。第2の細胞の数に特に制限はないが、第2の細胞を有効に使用することを考慮すると、微細孔の数と同等であることが好ましいが、微細孔の数よりも過剰に導入することで、第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げることが可能である。
【0069】
次に、電源を直流パルス電源(6)に切り換え、細胞融合を行うための直流パルス電圧を印加することで、微細孔において接触した第1の細胞と第2の細胞を2細胞一対で細胞融合させ、融合細胞(32)を得ることができ、効率的な2細胞一対での細胞融合が可能となる。
【0070】
ところで、微細孔では電気力線の集中が生じるため、微細孔付近の電界強度は、図25に示すように微細孔内の電極面の電界強度が最も高く、絶縁膜面からもう一方の電極に向けて次第に電界強度が弱くなる。図25は、一方の電極に任意の膜厚の絶縁膜に任意の直径と深さを有する微細孔を1個配置し、電極間に任意の電圧を印加した場合の電界強度を有限要素法を用いて計算した。縦軸が電界強度を最大の電界強度で正規化した値であり、横軸は電極間の位置である。横軸の原点に絶縁膜を配置した電極が存在している。絶縁膜面は図中の点線で示した位置に相当し、横軸の原点から点線までの範囲が絶縁膜厚に相当する。今回行った計算では、絶縁膜の材質や厚み、微細孔の大きさや深さにあまり大きく依存せず、図25に示すように微細孔表面の電界強度は、微細孔表面から離れるに従って小さくなる結果となった。
【0071】
一般に電気的細胞融合法は、前述したように、細胞融合させるための直流パルス電圧を印加することで細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層から構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われることで細胞融合させる。一般に細胞の直径が小さいほど細胞膜の可逆的乱れを生じさせる直流パルス電圧は高くなる。従って、直径の小さい細胞を第1の細胞として微細孔に入れ、直径の大きい細胞を第2の細胞として微細孔に固定された第1の細胞の上から固定すれば、印加する直流パルス電圧は同じでも、図25に示すように、電界強度は微細孔の表面から次第に小さくなるために、微細孔表面に固定された直径の小さい第1の細胞にはより高い電圧が印加され、第1の細胞の上に固定された直径の大きい第2の細胞には第1の細胞に印加される電圧よりも低い電圧が印加される。このようにすることで、直径の異なる細胞を細胞融合させる場合の細胞膜の可逆的乱れを生じさせる電圧の違いをある程度キャンセルすることが可能となる。
【0072】
また、前述したように微細孔に固定した第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げるため、第2の細胞の濃度を第1の細胞の濃度より高くし、細胞融合領域に過剰に導入した場合でも、図25に示すように、電界強度は微細孔近傍で最も高く、微細孔から離れるに従って小さくなっていくため、直流パルス電圧を適切に調整することで、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみの細胞膜が可逆的乱れを生じ細胞融合する。従って、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみを選択的に細胞融合させることが可能となる。
【発明の効果】
【0073】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の細胞融合装置は、微細孔を形成した絶縁体を細胞融合領域側のどちらか一方の電極面上に配置することで、微細孔に細胞を確実に固定し、微細孔近傍にある2細胞一対を選択的に細胞融合させることができ、2細胞一対での細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
(3)本発明の細胞融合装置は、微細孔の平面形状の直径が、微細孔に固定する細胞の直径より小さく、このようにすることで、微細孔に確実に細胞を固定することができる。
(4)本発明の細胞融合装置は、微細孔が絶縁体上に複数個、アレイ状に形成されており、このようにすることで、複数の微細孔に固定した2細胞一対の細胞を同時に細胞融合させることが可能となり、2細胞一対での細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
(5)本発明の細胞融合装置においては、微細孔の隣り合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲であり、このようにすることで、1つの微細孔に1つの細胞を固定する確率を高めることができ、微細孔において2細胞を一対で接触させる確率を上げることが可能になる。
(6)本発明の細胞融合装置においては、交流電源により電極間に印加する交流電圧の波形を制御することで、1つの微細孔に1つの細胞を固定することが可能となる。
(7)本発明の細胞融合方法においては、上記記載の細胞融合装置を用いた細胞融合方法であって、細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加して細胞融合する細胞融合方法であり、前記交流電圧は、前述した波形を有する交流電圧であることが好ましく、また、第1の細胞と第2の細胞が微細孔表面の近傍で細胞融合するものであり、このようにすることで、微細孔近傍にある2細胞一対を選択的に細胞融合させることができ、2細胞一対での細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
(8)本発明の細胞融合方法においては、第1の細胞の直径が、第2の細胞の直径よりも小さいものを用いるものであり、このようにすることで、直径の異なる細胞を細胞融合させる場合の細胞膜の可逆的乱れを生じさせる電圧の違いをある程度キャンセルすることが可能となる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
(実施例1)
図7に実施例1に用いた細胞融合装置の概念図を示す。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。細胞融合容器は、図7に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお、実施例2では、後述するように一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより、下部電極(15)と複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体を一体形成した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を用いた。
【0075】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、図7に示すように、細胞が含有した細胞懸濁液を導入、排出するための導入口(19)と排出口(20)を設けた。複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、図26に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0076】
まずはじめに、ITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を2.5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、45分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(80℃、15分)を行った。レジストにはキシレン系のネガタイプレジストを用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ4.5μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい2.5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行いレジストを固めた。このようにして作製した上部電極(14)、スペーサー(16)、微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を図8のように積層し圧着した。図8は、図7に示した細胞融合容器のBB’断面図である。シリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、細胞を含有した細胞懸濁液を漏れなく細胞融合容器の中に入れることができた。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。また、電極間に電圧を印加する電源は、交流電源として信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)、直流パルス電源として細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を導電線(3)を介して接続し、交流電源と直流パルス電源は切換スイッチにより電極への接続を切り換えられるようにした。
【0077】
細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞を300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mMの塩化カルシウム、0.1mMの塩化マグネシウムを添加した。
【0078】
まずはじめに、上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ、1つのマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1つのマウス抗体産生細胞が入る確率は45%であった。
【0079】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ、1つのマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1つのマウスミエローマ細胞が入る確率は55%であった。マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確立は、約25%(=45%×55%)であると推定される。
【0080】
次に、電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切り換えて、電極間に電圧60V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、40個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して1.6/10000の融合確率を得られた。これは、比較例1に示した通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の8倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での細胞融合を確認することができた。
【0081】
(比較例1)
比較例1として、通常の電気的細胞融合を行った。電気的細胞融合を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0082】
細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を4:1で混合し、両方の細胞を300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、1.7×107個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mMの塩化カルシウム、0.1mMの塩化マグネシウムを添加した。
【0083】
上記細胞懸濁液40μL(マウス抗体産生細胞数:約60万個、マウスミエローマ細胞数:15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、電圧20Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し細胞パールチェーンの形成を確認後、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、12個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.2/10000の融合確率を得られた。
【0084】
(比較例2)
図27に比較例2に用いた細胞融合装置の概念図を示す。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。細胞融合容器は、図27に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を2枚配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)を2枚のスペーサー間に挟んだ構造を有する。上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、図27に示すように、細胞が含有した細胞懸濁液を導入、排出するための導入口(19)と排出口(20)を設けた。複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、縦40mm×横40mm×膜厚25μmのポリイミドフィルムに、フォトリソグラフィーとエッチングによる方法により、中央の縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が50μmで、縦300個×横300個のアレイ状に並べた直径φ20μmの微細孔を形成し製作した。
【0085】
このようにして作製した上部電極(14)、スペーサー(16)、複数の微細孔を形成した絶縁体(8)、下部電極(15)を図27のように積層し圧着した。図29は、図27に示した細胞融合容器のCC’断面図である。シリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、細胞を含有した細胞懸濁液を漏れなく細胞融合容器の中に入れることができた。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約4万個である。また、電極間に電圧を印加する電源は、交流電源として信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)、直流パルス電源として細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を導電線(3)を介して接続し、交流電源と直流パルス電源は切換スイッチにより電極への接続を切り換えられるようにした。
【0086】
細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞を300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mMの塩化カルシウム、0.1mMの塩化マグネシウムを添加した。
【0087】
まずはじめに、上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、信号発生器により電圧15Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した微細孔にマウス抗体産生細胞を固定することがでた。ただし、1つの微細孔に複数のマウス抗体産生細胞が固定されている微細孔や、マウス抗体産生細胞が全く固定されていない微細孔があり、複数の微細孔1つずつに1つのマウス抗体産生細胞が固定されている微細孔はほとんど確認できなかった。
【0088】
続いて、交流電源により電圧15Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入したところ、先に微細孔に固定されていたマウス抗体産生細胞が微細孔からほとんど脱離してしまい、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を微細孔において細胞融合させることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。
【図2】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第1の図である。
【図3】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第2の図である。
【図4】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第3の図である。
【図5】本発明の細胞融合装置の一例を示す概念図である。
【図6】図5に示した細胞融合容器のAA’断面図である。
【図7】本発明の細胞融合装置の一例及び、実施例2で用いた細胞融合装置の概念図である。
【図8】図7に示した細胞融合容器のBB’断面図である。
【図9】本発明に用いる交流電圧の波形の一例である。
【図10】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波を示した図である。
【図11】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、台形波を示した図である。
【図12】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波と台形波を組み合わせた波形を示した図である。
【図13】本発明の細胞操作方法を説明する第1の図である。
【図14】本発明の細胞操作方法を説明する第2の図である。
【図15】本発明の細胞操作方法を説明する第3の図である。
【図16】図13を電気的な等価回路で表した図である。
【図17】図14を電気的な等価回路で表した図である。
【図18】図15を電気的な等価回路で表した図である。
【図19】周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を示す図である。
【図20】図19に示した周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図17のコンデンサーAにおける電圧波形を示す図である。
【図21】図19に示した周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図17のコンデンサーAにおける電流波形を示す図である。
【図22】周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を示す図である。
【図23】図22に示した周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図17のコンデンサーAにおける電圧波形または電流波形を示す図である。
【図24】本発明の細胞融合方法の例を示す図である。
【図25】微細孔近傍の電界強度を示した図である。
【図26】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法の概略図である。
【図27】本発明の比較例2で用いた細胞融合装置の概念図である。
【図28】図27に示した細胞融合容器のCC’断面図である。
【図29】微細孔の直径が2つの細胞よりの直径よりも大きい場合の例を示す概念図である。
【図30】微細孔の直径が2つの細胞よりの直径よりも小さい場合の例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0090】
1:細胞融合領域
2:電極
3:導電線
4:電源
5:交流電源
6:直流パルス電源
7:切換スイッチ
8:絶縁体
9:微細孔
10:細胞A
11:細胞B
12:電気力線
13:細胞融合容器
14:上部電極
15:下部電極
16:スペーサー
17:微細孔A′
18:第1の細胞
19:導入口
20:排出口
21:微細孔A′′
22:第2の細胞
23:ITO
24:パイレックス(登録商標)ガラス
25:レジスト
26:露光用フォトマスク
27:露光
28:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
29:コンデンサーA
30:コンデンサーB
31:抵抗
32:融合細胞
33:現像液
34:細胞懸濁液
35:隔壁
36:導電線
37:電源
38:絶縁体
39:微細孔
40:細胞融合容器
41:上部電極
42:下部電極
43:スペーサー
44:細胞A′
45:細胞A′′
46:導入口
47:排出口
48:細胞融合領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が、前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、かつ前記微細孔の直径が、融合させる細胞の直径より小さいことを特徴とする細胞融合装置。
【請求項2】
前記電源が、前記一対の電極に交流電圧を印加するための交流電源及び直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、前記交流電源と前記直流パルス電源とを切り換える切換機構を有することを特徴とする請求項1記載の細胞融合装置。
【請求項3】
前記絶縁体に形成される微細孔が、1つの微細孔につき1つの細胞を固定できる形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞融合装置。
【請求項4】
前記電源により、1つの微細孔につき1つの細胞を微細孔に固定する波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項5】
前記電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項6】
前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項7】
前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項8】
前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項9】
前記絶縁体に形成される微細孔の中心位置が、前記絶縁体の水平面において、隣り合ういずれの微細孔の中心位置からも、微細孔の中心位置が同じ位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項10】
前記絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項11】
前記微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項12】
前記スペーサーが、細胞融合領域を形成する貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項13】
前記スペーサーが、細胞を導入する導入流路および排出する排出流路を有することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の細胞融合装置を用いた細胞融合方法であって、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加して細胞融合することを特徴とする細胞融合方法。
【請求項15】
請求項14記載の交流電圧が、請求項4〜8のいずれかに記載の波形を有する交流電圧であることを特徴とする請求項14記載の細胞融合方法。
【請求項16】
前記第1の細胞と前記第2の細胞が微細孔表面の近傍で細胞融合することを特徴とする請求項14または請求項15に記載の細胞融合方法。
【請求項17】
前記第1の細胞の直径が、前記第2の細胞の直径よりも小さいことを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の細胞融合方法。
【請求項1】
細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が、前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、かつ前記微細孔の直径が、融合させる細胞の直径より小さいことを特徴とする細胞融合装置。
【請求項2】
前記電源が、前記一対の電極に交流電圧を印加するための交流電源及び直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、前記交流電源と前記直流パルス電源とを切り換える切換機構を有することを特徴とする請求項1記載の細胞融合装置。
【請求項3】
前記絶縁体に形成される微細孔が、1つの微細孔につき1つの細胞を固定できる形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞融合装置。
【請求項4】
前記電源により、1つの微細孔につき1つの細胞を微細孔に固定する波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項5】
前記電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項6】
前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項7】
前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項8】
前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が所定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項9】
前記絶縁体に形成される微細孔の中心位置が、前記絶縁体の水平面において、隣り合ういずれの微細孔の中心位置からも、微細孔の中心位置が同じ位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項10】
前記絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項11】
前記微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項12】
前記スペーサーが、細胞融合領域を形成する貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項13】
前記スペーサーが、細胞を導入する導入流路および排出する排出流路を有することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の細胞融合装置を用いた細胞融合方法であって、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加して細胞融合することを特徴とする細胞融合方法。
【請求項15】
請求項14記載の交流電圧が、請求項4〜8のいずれかに記載の波形を有する交流電圧であることを特徴とする請求項14記載の細胞融合方法。
【請求項16】
前記第1の細胞と前記第2の細胞が微細孔表面の近傍で細胞融合することを特徴とする請求項14または請求項15に記載の細胞融合方法。
【請求項17】
前記第1の細胞の直径が、前記第2の細胞の直径よりも小さいことを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の細胞融合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2008−54630(P2008−54630A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237841(P2006−237841)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]